しずく「我は汝、汝は我」
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[放課後・教室]
かすみ「もしかしたらっ、しず子のこと好きじゃないって言う人がいるかもしれないけど!」
しずく「………っ」
かすみ「私はしず子のこと…」
「あ〜、お話し中に悪いね。中須さん…だっけ?」
かすみ「ふえっ…?」
私たち以外、誰もいなかったはずの教室に第三者の声が響く。
かすみさん越しにそちらを見やると、扉に手をかけて佇む演劇部部長の先輩がいた。
突然のことに、私たちは唖然として固まってしまう。 部長「あのさ、部活のミーティングがあるからしずく借りていってもいい?」
しずく「先輩っ…!あの今は」
部長「ん?しずく今の聞いてなかった?」
かすみ「すみません!私がしず子と話してたんですけどっ」
部長「うん。見てたらわかるよ」
かすみ「わかるって、だったら…!」
部長「演劇部にとって大切なミーティングは、しずくにとっても最優先されることだよ。もちろん中須さんのお話も大切なことかもしれないけどさ、」
しずく「そ、そんな言い方…」
かすみ「……ふぅん。そうですか。ならどーぞ!」
しずく「あっ…」
かすみ「失礼しますっ」 口を真一文字に結んだかすみさんは、怒ったように出ていってしまう。
会話をぶった切ったことに先輩はきまりが悪そうな顔をしてはいるが、悪びれてはいない様子だった。
部長「中須さん気を悪くしたかな?謝っておかなくちゃな、邪魔してごめんって伝えておいてくれる?」
しずく「…大丈夫です。それよりミーティング、ですよね?」
部長「うん。そこで、この前に伝えた『しずくを一度主役から下ろして再オーディションする』って話をしようと思ってたんだけど」
部長「全員をオーディションにすると時間もかかるし、大変でしょ?だからこっちが決めた数人だけに、受けてもらおうと思って」
しずく「えっ?」
部長「しずくはスクールアイドル忙しそうだし、次の演目は諦めた方がいいんじゃないかなって思ってね」
しずく「ま、待ってください…!私はオーディションを受けることもできないんですか!?」 部長「うーん少しニュアンスが違うかな。私はしずくのために言ってるんだよ」
しずく「私はお芝居も、スクールアイドルもやりたいんです。主役を下ろされるのはまだ理解できますけど、チャンスすら与えられないのは…」
部長「主役はその演劇の座長でもあるわけだし、皆から認められ尊敬される人でないといけない。もちろんわかってるよね?」
しずく「それは……」
部長「遠回しに言っても仕方ないか…。部長として話すね。これは皆の意見を考慮してのことなんだ。主役にはなれなくても役はたくさんあるでしょ?だから」
しずく「えっ…。皆さんの意見、って」
部長「とりあえずミーティング始めようと思うから、今から部室に…」
しずく「…すみません」
部長「なに?」
しずく「私、体調が悪いので今日は帰ります」
部長「……しずく」
しずく「ごめんなさいっ。失礼します!」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[翌日・国際交流学科 教室]
しずく(学校休もうと思ってたのに…来ちゃったな)
自分の机に座り頬杖をつく。
すると、聞き馴染みのある声が扉の開閉音と共に聞こえた。
かすみ「しず子〜っ!いる〜!?」
しずく「かすみさん?おはよう」
かすみ「なんだ学校来てるんじゃん。昨日なんでLINE返さなかったの!」
しずく「あっ。そうなんだ、ごめんね。昨日は早く寝ちゃって」
かすみ「…なに?しず子、なんで元気ないの?」
しずく「えっ?そ、そんなことないよ!私は元気だよ?」
かすみ「まさか、あの部長からまた何か言われたとか?」 しずく「ううん、なにもないよ。…そういえば先輩がね、『昨日は邪魔してごめん』ってかすみさんに伝えておいてって言ってた」
かすみ「ふん!かすみん、あの先輩とあんまり仲良くする気ないからっ」
しずく「あはは……」
かすみ「まっ、何もないならいいけど。これからちゃんと返事してよね!」
しずく「うん。…そういえば昨日教室で話してた先、私になんて言おうとしたの?」
かすみ「うぇっ!?べ、別に大したことじゃないし…」
しずく「気になるんだけどなぁ」
かすみ「じゃあかすみんは教室戻るから!また放課後〜!」
しずく「もうっ。調子いいんだから…」 しずく(昨日先輩から言われたことが何度も頭の中を巡る…)
しずく(またかすみさんに相談……ううん、できないよね。主役を下ろされた時だって散々心配させちゃったのに)
しずく(それに今回は演劇部全体のことだし、私自身の問題だから言ったって困らせるだけ…)
しずく(もうすぐ同好会のライブも控えてる、だから先輩が言ってることは正しいのかもしれない。でも次は私のやりたかった演目なのになぁ…)
モブ子a「ねぇねえコレ知ってる?最近起こってる事件!」
モブ子b「知らなーい。なにそれ?」
ふと、後ろの席からクラスメイト同士の会話が耳に入る。
彼女たちは楽しげにひとつのスマホを覗き込んでいた。 モブ子a「サラリーマンが急に奇声をあげて暴れたり、橋の上から主婦が子ども抱いたまま落ちようとしたり…他にも色々あるよ」
モブ子b「マジ?でもさ、まぁありえる話じゃない?ストレスでそうなっちゃう人いるし」
モブ子a「そうなんだけど、それって予兆があるもんじゃん?最近のは突然なんだって。まるで人格が入れ替わったみたいに、人が変わっちゃうんだって」
モブ子b「へ〜まあうちらは大丈夫だろうけど
怖いね〜」
しずく「…あの。その話って、」
モブ子a「うわっ、やばチャイムなった!次って移動教室じゃん!」
モブ子b「ほらしずくもいくよ!」
しずく「あっ、うん!」
しずく(人格が入れ替わる…そんなホラー小説みたいなこと、本当にあるの?) ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[放課後・スクールアイドル同好会部室]
侑「じゃあ次のステージのコンセプトや演出は、各自で考えてきてね。それを見た上で大道具とか揃えるし!」
歩夢「ありがとう、侑ちゃん」
せつ菜「この前のライブは凄い盛り上がりでしたからね!次も絶対に成功させましょう!」
エマ「次は学校の中だけでやってみても面白いかも!親近感がわくんじゃないかな?」
彼方「確かに、他所でするよりも見慣れた光景があると安心するよね〜」
愛「じゃあ屋上とかは!?ほら、普段は入れないしなんかワクワクするじゃん!」
璃奈「…おもしろそう。でも、流石に生徒会が許してくれないと思う」 せつ菜「ゴホンっ。そ、そうですね……。生徒会は校則違反を絶対に許さないスタンスなので難しいかもしれません」
果林「あら、そこをなんとかするのが中川生徒会長なんじゃない?」
かすみ「そうですよ!こっちには強い味方、もといスパイがいるんですからねっ」
歩夢「うーん、その感じだとむしろ同好会での活動の方がスパイっぽいけど…」
せつ菜「むむ無理ですっ!ただでさえ最近は副会長が私のファンになってしまって、色々とギリギリなんですから…!」
侑「あはは…皆せつ菜ちゃんを困らせちゃダメだよ。屋上は面白い案だけど、実現できそうな構想を考えてきてね!」
『は〜い!!』 ペルソナは好きだから楽しみ
お願いだからエタらないで しずく(構想かぁ…。どうしよう。何も思いつきません)
侑「えーと、しずくちゃん?聞いてる?」
しずく「ひゃ、はい!聞いてます!」
彼方「しずくちゃんもおネムなのかな〜?彼方ちゃんと一緒にお昼寝しよっか〜…ぐぅ……」
しずく「だ、ダメですよ彼方先輩!起きてください〜!」
彼方「すやぁ〜……」
エマ「ふふっ、彼方ちゃんがしずくちゃんにもたれかかって寝ちゃったね」
果林「昨日は遅くまでバイトしてたって言ってたわね…。少し寝かせてあげましょ」
かすみ「……変なの」
歩夢「かすみちゃん?」
かすみ「あ、いえ。なんでもないですっ」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[数時間後・同好会部室]
愛「つかれた〜!今日はすっごく筋トレしたね!筋トレが最近のトレンド!なんつって!」
果林「愛は本当に元気ね…」
璃奈「璃奈ちゃんボード[クタクタ]」
彼方「早く帰って遥ちゃんの晩ご飯食べないと〜」
歩夢「侑ちゃん、帰りに寄りたいところあるんだけどいいかな?」
侑「うん、もちろんいいよ!」
せつ菜「私は少し生徒会の仕事を片付けてから帰りますね。皆さんお疲れ様でした!」
侑「せつ菜ちゃんお疲れ様。程々にして、早めに帰ってね!」
しずく「それでは私も、少し演劇部に顔を出しますね。お疲れ様でした」 エマ「しずくちゃんもお疲れ様〜。今からなんて大変だね」
しずく「いえ、平気です。それでは失礼します」
軽く一礼し、部室を後にする。
部長と二人きりで話したあの日から、演劇部の練習には参加していない。
本心をいえば行きたくないが、演劇を辞めたいわけではなかった。
それに籍を置いているのに、一年生が連日休みをもらうのは不真面目すぎる。
まだ練習が終わっていませんように、と逸る気持ちを抑えて早足で演劇部へと向かう。
かすみ「しず子!!」
道中で背後から呼び止められ、足を止めた。
こちらが応答しないからか、その声の主はズカズカと歩みを進め、私の肩を掴み振り向かせる。 どの作品準処なんだろう
楽しみだからエタらないでほしい 性格が変わるのはトリニティソウルしか思い出せないけど、そもそも作品によってバラバラだしね かすみ「かすみんに隠してることあるでしょっ!」
しずく「…ないよ、何も」
かすみ「嘘!いつものしず子はあんなにボーッとしてないもん!」
しずく「ちょっと疲れてるだけだよ。最近、勉強とか忙しくて」
かすみ「主役下ろされて、またオーディションするのが不安ってこと?」
しずく「そんなのじゃないよ。本当に、何も無いから」
かすみ「………あっそ、言ってくれないんだ。かすみんとしず子の仲なのに」
しずく「っ、何も無いって言ってるでしょ!もう私のことなんて放っておいてよ!」
かすみ「はぁ?しず子のバカ…!もう知らない!」
しずく「かすみさんは自分のことだけやってなよ!」
かすみ「そんな言い方っ…」
頭に血が上っているからなのか、顔が火照っていた。
涙が流れそうになるのは辛うじて耐えたが、このままこの場所に居続ければ何を言ってしまうのかわからない。
私は演劇部の部室へと駆け出した。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[演劇部 部室前]
しずく「はぁっ……はぁ…」
動悸を抑え、呼吸を整える。
扉の向こう側からは、部員たちが発声練習をする音が聞こえていた。
しずく(なんて言って、入ろうかな…)
しずく(もしかしたら今更何しに来たの、なんて言われるかもしれないけど)
しずく(…でも私は演劇が好き。こんな所で負けちゃいけない、よね)
意を決してドアノブに手をかける。
その時、ピコンという電子音が自身のカバンから鳴った。
しずく「……っ!?」
瞬間、視界がグニャリと曲がる。
重力がおかしくなったのか、それとも私がおかしくなったのか、それすらもわからない。
周囲の雑音が遠のいていく…。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[?????]
しずく「ここは……」
辺りをぐるりと見渡すと、そこは演劇部の部室ではなく、見知らぬ部屋だった。
姿見や衣装が並べられていて、まるで舞台の控え室のようだ。
しずく「えっ。なに、どういうこと…?部室は、皆さんは…」
「あいててて……」
しずく「だ、誰っ…!?」
かすみ「誰って…かすみんですけど?ふんっ!」
しずく「かすみさん!?どうしてここに」
かすみ「それはこっちのセリフ!しず子がいきなり走っていくから、追いかけたらいきなり目の前がぐにゃぐにゃになって…」 しずく「それって、私を心配して追いかけてきてくれたってこと?」
かすみ「うぐ…!えっと、違うもん…!しず子が泣いてたら次に出会った人がびっくりするでしょ!」
しずく「わ、私は泣いてないよ…!」
かすみ「泣いてたじゃん!目うるうるしてたじゃん!」
しずく「……かすみさんごめんね。自分のことだけやってて、なんて言って。私のことを想ってくれてたのに」
かすみ「っ、その……私もバカとか言って………ごめん」
しずく「仲直りだね。それはそうと、ここがどこだかわかる?」
かすみ「学校…じゃないよね。よくわかんないけど、異世界みたいな場所に飛ばされたってこと?」
しず子「うん、私もそう思うよ。確かに私は部室のドアを開けたもん。時空の歪みとかでそうなったのかな?…信じられないけど」 かすみ「はぁ、いきなり展開すぎて頭おかしくなる…。こんなの、アニメとか漫画の世界じゃん!せつ菜先輩を連れてきてあげたら喜びそ〜…」
しずく「うーん…とりあえず元の世界に戻る方法を見つけないと、だけど」
かすみ「あ、そうだ!こういうのって大抵は世界と世界を繋ぐトンネル的なヤツがあるじゃん?それを探せば帰れるかも!」
しずく「…なるほど。ならこの部屋から出て、探索してみよっか?」
部屋を出ると、赤いカーペットの敷かれた廊下が続いていた。
私たちは横並びになって、お互いの手を握りながら先へと進む。
かすみ「ねーしず子…この廊下、いつまで続くと思う?」 〈 . ’ ’、 ′ ’ . ・
ああああぁぁぁぁ! >>1の家が!!! .〈 、′・. ’ ; ’、 ’、′‘ .・”
〈 ’、′・ ’、.・”; ” ’、
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY´ ’、′ ’、 (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;
、′・ ( (´;^`⌒)∴⌒`.・ ” ;
:::::::::::::::::::::: ____,;' ,;- i 、 ’、 ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;ノ、"'人
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:::::::: i; `'-----j | | ==== .| | ===== .| | | しずく「わからない……。進むしかないけど、先が見えないってこんなにも不安なんだね」
かすみ「かすみん達、元の世界に帰れるのかな…」
しずく「…絶対帰らないとね。かすみさん、次のステージすっごくいいアイデア思い付いたって言ってたし」
かすみ「……うん。そうだよね」
そんな他愛もない会話をしながら、先の見えない道を進み続ける。
そして、しばらく経った時だった。
??「ガ…ガガッ」
かすみ「しず子っ。あれ、なに…?」
私より先に"それ"を発見したかすみさんが震え声で言った。 "それ"は漆黒のマントを身にまとった人型のなにかで、奇妙な音を出しながら広間を徘徊している。
見た目は普通の男性で礼服を着ているが、顔や手足が原型をとどめていない。
この世のものとは思えないほどに、おぞましく、不気味だった。
しずく「気づかれる前にここから離れなきゃ…!」
かすみ「離れるって、引き返すってこと…?」
しずく「だってそれしか方法は……」
シャドウ「みつけたァ」
ヒソヒソと話していた私たちの背後から、低い囁き声がする。
気配すら感じさせず、いつの間にか先ほど目の前にいた"それ"が移動していたのだった。 しずく「ひっ…!」
かすみ「き、きもちわるっ!」
シャドウ「オマエら、どうやってここに侵入した!?許されないなァ!あのお方の庭を荒らすヤツらは!」
しずく「あのお方…?」
シャドウ「知らないのか?我らが演劇部の部長サマだよ!!!」
しずく「え…??」
シャドウ「ちょろちょろと嗅ぎ回りやがって、目障りだ!」
しずく「待ってください…!この世界には、私達の演劇部の部長…先輩がいるんですか!?」 シャドウ「黙れ侵入者め!ここで終わりだ!!」
かすみ「しず子!危ないっ…!」
唸り声をあげながら、"それ"がねじ曲がった腕を勢いよく叩きつけてくる。
その攻撃に反応できずにいた私は、かすみさんに突き飛ばされ、地面を転がった。
かすみ「ぁ、ぐぅ…っ……!」
シャドウ「ほう?友情ごっことは面白い!」
顔をあげると、シャドウはこちらに見せつけるようにかすみさんの細い首を締め上げ、宙に浮かせていた。
彼女は両手に力を込めて抵抗しているが、足をバタバタさせるのが精一杯のようだった。 しずく「やめて!!やめっ…やめてくださいっ!!」
シャドウ「フハハハ!!弱い者は淘汰されて当然なのだ!」
かすみ「しず……っ、逃げ、て…!」
シャドウ「今から死ぬというのにお友達の心配とは…いいだろう!お前の勇気に免じて、少しばかり時間をかけて殺してやろう」
しずく「お願いします!!かすみさんを離してくださいっ…!」
シャドウ「お前は馬鹿なのか?こいつの時間稼ぎを無駄にしてやるなよ!」
かすみ「…ん、ぅ……ぁ… 」
ギリギリと首を締めあげられているかすみさんの口端から、唾液がこぼれ落ちる。
それでも彼女は助けを懇願することも無く、ただ"それ"を睨みつけていた。
こんな私を助けようと、苦しさに耐えながら、戦っている。 ──ふつふつと、私の体が燃えたぎるような熱に包まれていく。
しずく「こんなところで…死なせない……!」
シャドウ「お前に何ができる!?こいつと共に、この場所で永遠の時を彷徨うといい!」
しずく「私はかすみさんとずっと一緒にいたい…!あなたに、奪わせはしない!!」
『そう。ならば、受け入れなさい』
しずく「…っ!?」
頭の中に響いたのは紛れもない、私の声。
"私"は続けて語りかけてくる。
『ようやくです。ようやく、貴女の心からの叫びを聞けました』 『力が欲しいなら私を受け入れなさい。弱くて惨めな私を!本当の自分を!』
しずく「…っ、受け入れます!!確かに私は弱い人間で、人から嫌われるのが怖くて、いつも怯えてる!」
しずく「だけど、そんな私でも…大切な人くらい、自分で守りたいっ!」
『ふふっ。契約ですね♡』
しずく「え?…ぁぐ……っっっ!?」
心臓を握り潰されたような痛み。
呼吸が止まった苦しさに、膝から崩れ落ちる。
そんな私を見下ろすように、水色に光り輝くなにかが、目の前に立っていた。 うおおおおお!!
こういうコラボssめっちゃすき家 『そう、かりそめの私とは決別するんですね。虚像の仮面を纏い続けてきた貴女が、自らを曝け出す覚悟を決めるなんて…♡』
『我は汝、汝は我。さあ、共に参りましょう?貴女が求める理想の未来へと』
しずく「はっ……、あぁぁぁっっ!!!」
目元にある仮面を、力任せに引き剥がす。
鮮血が宙を舞い、私の頬をつたう。
この痛みは、今まで私を偽り続けていた心の痛み。
ならばこれは苦痛にさえなり得ない。
その瞬間、眩い水色の光が弾け、"それ"がかすみさんを掴んでいる腕がザクりと切り落とされた。
シャドウ「アガッッ!なんだ!?何が起こってる!?」
かすみ「げほっ、うぅ……。しず、子……?」
しずく「ごめんね、かすみさん。私がうじうじしてたせいで辛い思いをさせて。でも、もう大丈夫だから」
かすみ「何、言って……早く逃げてってば!」 シャドウ「クソッ!一体どうなって…!?」
しずく「力を貸して。オードリー!!」
『………!!!』
私自身から剥がしとった仮面が、"もう一人の私"へと姿を変える。
姿かたちは似つかなくても、彼女は紛れもなく自分なのだと理解していた。
予想だにしない反撃に狼狽えるしかない"それ"は、私が一歩ずつ歩みを進めるごとに、後ずさりする。
しずく「もう、何も怖くない。…あなたと一緒だから」
シャドウ「オレが悪かったァ!!やめろッ、やめてくれッッ!!」
しずく「お覚悟っ……ペルソナ!!」 轟音と共に、目が眩むほどの熱エネルギーが暴発する。
悲鳴すらあげさせることなく、シャドウは一瞬にして塵となって消えた。
かすみ「うそ……しず子、今のって…」
しずく「良かった………良かったよぉ、かすみさんっ…!!」
かすみ「わふっ!?」
放心状態にあったかすみさんの身体をギュッと抱きしめる。
彼女を失うところだったと思うと、怖くて恐ろしくて、涙がとめどなく溢れてきた。
そっと頭に手を置かれ、耳元で「仕方ないなぁ」という優しい声がする。
かすみさんは微笑みながら涙をそっと拭ってくれた。 かすみ「うぅんと…全然よくわかんないけどさ、助けてくれてありがと。しず子カッコよかったよ」
しずく「…うん。かすみさんも、だけどね」
かすみ「いや、かすみんは何もしてないし…」
しずく「私のこと庇ってくれたでしょ」
かすみ「そ、それは…!咄嗟に体が動いちゃっただけだもん」
しずく「かすみさん。首、平気?痕とか残ってない?」
かすみ「…ん、ちょっと赤いけど大丈夫。それよりしず子の方こそ平気なの?すっごく顔色悪いけど」
しずく「へ?……あっ」
意識した途端、目眩に襲われてかすみさんに支えられる。
先程の能力で思った以上に体力を使ってしまっていたようだった。
疲労感で瞼が重たく感じる………。 >>38
しずく「かすみさん。首、平気?痕とか残ってない?」
なんかエロい 予習したいからおすすめのナンバリング教えてください。 文章うまいからめっちゃ期待してる
でもペルソナSS完走してるの見たことねぇんだよな ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………ずこ、しず子!」
しずく「んっ……」
かすみ「良かった…。心配したんだからね!」
目を開けると今にも泣き出しそうなかすみさんの顔があった。
どうやら、私はいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
意識が徐々に覚醒していくも、未だに残る頭痛に顔をしかめる。
しずく「ここ、学校…?」
かすみ「保健室だよ。あれから大変だったんだから!しず子いきなり寝ちゃうし、またあの変なのが襲ってくるし…」
しずく「えっ?それからどうなったの!?」 かすみ「かすみんもよくわかんない…。しず子をおんぶして逃げた先で、ほわわ〜んって光に包まれて目が覚めたら学校にいたんだよね」
しずく「そう…とにかく戻ってこれて良かった……」
かすみ「ねぇそれよりさ!あの仮面は何だったの??」
しずく「うーん、もう一人の私…みたいなものかな。でもあの時は無我夢中だったから、私もあんまりよくわかってないの」
かすみ「ビューンって光が飛んでさ、こう、ジュワってなったよね!変身ヒーローみたいだったよしず子!」
しずく「変身ヒーローか…その反動なのかもしれないけど、すっごく体が疲れてて…」
かすみ「今日はもう帰ろ?また倒れられたら困るし、一応送っていくから」
しずく「かすみさん、いつもそうだけど今日は特に優しいね。ありがとう♡」
かすみ「だ、だから〜!!違うってばぁ!」 その日は部活に行くことも無く、真っ直ぐ帰宅した。
そして今日の出来事を整理したかった私は、食事と風呂を手早く済ませてベッドへと潜り込む。
あの世界は何を示していて、なぜ迷い込んでしまったのか?
自分たちを侵入者だと言い、襲ってきた者の正体は?
私が目覚めた能力は、あの仮面に宿るもう一人の私の存在は一体?
頭を悩ませる事柄は多いが、何よりも心に引っかかっているのは、演劇部の部長である先輩があの世界に存在するかもしれないということだった。
しずく(うぅ、また頭痛がしてきた…もう寝ちゃおう。あ、でもメッセージだけチェックしてから……)
かすみさんからLINEを返すようにと怒られてしまったことを思い出し、アプリを起動する。
するとタイミングよくニュース速報が通知され、私はそのタイトルに釘付けになった。 しずく「人気俳優の○○氏がマネージャーに暴行をしたとして、逮捕された…品行方正という言葉を体現したような彼に何があった……」
しずく(…そういえば、クラスメイトの子も言ってたな)
しずく(人が変わったようになる。優しかった人が、いきなり暴力的になる…。もしかしてあの世界と関係が?)
しずく(でも先輩は……ううん、そんなわけない…。私が演劇にもっと向き合わないといけないのは本当だし…)
もう何もする気になれず、スマホの電源を落とそうとした時だった。
しずく「なに、これ…?」
見覚えのないアプリのアイコンがホーム画面に並んでいる。
不審に思いつつも好奇心からそれをタップすると、画面が切り替わり近辺の地図が表示された。
虹ヶ咲学園のある場所には、赤いピンが経っていて、その上には文字が書かれている。 しずく「……マスカレードパレス?」
再度それをタップしようと指を運ぶが、妙に嫌な予感がして、躊躇う。
しずく(そういえば、あの変な世界に飛ばされる前…私のスマホからピロンって音がしたような)
しずく(それに、そもそも私はこんなアプリ入れた覚えはない。……この二つから推測すると)
しずく(もしかして、このアプリは異世界と関係あるってこと?それなら……あっ!)
いよいよ覚悟を決めたところで、自動的にアプリが終了してしまう。
慌てて再度タップするも反応はない。
しずく(よくわからないなぁ…。でも、やっぱりそうだよね)
しずく(先輩があの世界にいることは気がかりだけど、人格が入れ替わってる様子はない。となれば直接話を聞くしかないかぁ……) ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、私は授業が終わると一直線に部室に向かった。
部室といっても演劇部ではなく、スクールアイドル同好会の方だ。
すぐにでも部長と話がしたかったが、今日はミーティング兼練習のある同好会の方へ参加しなければいけなかった。
侑「あ、しずくちゃん今いいかな?今度のライブの事なんだけど」
しずく「はい?」
侑「どんなライブにしたいか、構想は練ってある?他の皆は大体決まってるみたいなんだけど…」
しずく「えっとその…すみません、まだなんです」
侑「そっか、うーん…」 彼方「仕方ないよ〜。しずくちゃんはもうすぐ舞台があるから、忙しいんだよね」
愛「そういえば新聞に載ってた!しずくは主役なんだっけ?」
しずく「あ、いえ私は…」
果林「主役は再オーディションになったって聞いたけれど?」
しずく「実はそうなんです。希望者が多かったみたいで……」
歩夢「そうなんだ。でもしずくちゃんなら、きっとまた合格できると思うなぁ」
璃奈「私も、そう思う」
エマ「しずくちゃん毎日頑張ってるもんね、きっと大丈夫だよ!」
しずく「…えぇと、どうでしょうか。他の皆さんも実力派が多いので」 かすみ「しず子は主役のオーディション受かりますよ!絶対!!」
愛「おっ、かすかすどしたん?急に立ち上がって」
かすみ「もー!何度言ったらわかるんですか、かすかすじゃなくてかすみんですっ!」
しずく(ごめん、かすみさん……)
侑「うん、私もそう思うよ。もちろん応援もするし…!」
しずく「あ、ありがとうございます…」
侑「でも次のライブは来週なんだよね…うーん困ったなぁ」
歩夢「しずくちゃん、そっちが大変だったら無理しなくてもいいよ?」
彼方「そうだね〜。彼方ちゃんもそれがいいと思うなぁ」
果林「確かに忙しいかもしれないけど、演劇部の方ばかりに力を入れてちゃダメよ。しずくはスクールアイドル同好会の一員でもあるんだから」
かすみ「そうですよ…!演劇部の方ばっかりは良くないです!」
エマ「それはそうだけど…しずくちゃん大丈夫?疲れてたりしない?」 しずく「…はい、私は大丈夫です!ステージも明後日までには構想を考えてきます、迷惑をかけてしまってすみません」
侑「そこは大丈夫だから気にしないで。でも無理しないでね、せつ菜ちゃんみたいに倒れちゃわないように」
しずく「倒れたって…せつ菜さん、大丈夫なんですか!?」
璃奈「倒れたといっても、寝不足からくる貧血みたいなもの。今は保健室でおやすみ中。璃奈ちゃんボード[スヤァ]」
しずく「良かった…せつ菜先輩も生徒会との二足のわらじですもんね…」
果林「さっきはああ言ったけど…しずくちゃん、しっかり休息はとるのよ?その上で頑張りなさい」
璃奈「頭と体を休ませるには、睡眠が大事」
侑「じゃあそういう事でミーティングは終わり!練習始めるよ、準備できた人から外に移動してね」
『はーいっ!』 しずく(演劇部の主役オーディションは明日。ステージの構想は明後日まで…。練習が終わった後、絶対に先輩と話さなきゃ)
とにかく今は同好会の練習をそつ無く終わらせることに集中しなければ、と気を引き締める。
そしてタオルと水筒を手にし、他メンバーの後に続いて廊下へ出ようとした時、背後から肩をつつかれた。
かすみ「ね、しず子。ちょっといい?小声で話すから」
しずく「…どうしたの?」
かすみ「昨日のこと、皆に話さない?信じてもらえないかもしれないけど…」
しずく「それはダメ」
かすみ「はぁ??なんで?」 しずく「かすみさんが迷い込んだみたいに、他の皆さんも巻き込んでしまうかもしれないから」
かすみ「だからって…!こんな大きな問題一人じゃ太刀打ちできっこないじゃん!」
しずく「うん、そうかもしれない。でも少し心当たりがあるの。私はあの力があれば戦えるし」
かすみ「…でもっ」
しずく「かすみさんが私を気にかけてくれるのは嬉しいよ、ありがとう。でもこれは私の問題だと思う」
かすみ「………」
しずく「全て終わったら、ちゃんと報告するから。それまで少しだけ待ってて欲しいの」
侑「お〜い!しずくちゃん、かすみちゃーん??」
しずく「はい!今行きます!」
かすみさんの悲しみに沈んだ顔を見ていられなくて、適当に返事をしながら外へと向かう。
もう二度と、大切な人に危ない思いはさせたくなかった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しずく「あの、先輩…!」
部長「ん…?しずく?」
しずく「少しお話したいことがあって」
同好会の練習終わり、人気のない校舎の片隅で、私はやっと先輩の居場所を突き止めることができた。
何かを察したらしい先輩は、頷いた後、すぐ近くにある空き教室へと中へ入っていった。
私もその行動に習い、後を追う。
部長「それで話って?」
しずく「…再オーディションのことです」
部長「あれ?それは前に話したよね」 しずく「私、やっぱり納得できません」
部長「そっか…。そういえばしずくは頑固だったもんね」
しずく「私は女優になるのが夢なんです。演劇部に入ったのも、自分を磨くためと、お芝居の在り方を学ぶため」
部長「………」
しずく「私が皆さんから認められていないのは、努力が足りないからだと思います。だから…認めていただけるように頑張りたいんです。私にチャンスをくださいっ!」
深く、頭を下げる。
先輩は少しの沈黙のあと、微笑を浮かべたまま言った。
部長「しずくはさ、やっぱり凄いと思うよ。これだけ言われても進路を塞がれても、乗り越えようとしてくるんだもん。これは参ったなぁ」
しずく「…すみません。でも、わかってくださったんですね」 部長「うん、よくわかったよ。もっと徹底的にやらないといけなかったんだって」
しずく「…え?」
部長「しずく。私が聞きたいのはさ、そんな安っぽい言葉じゃないんだよ!」
しずく「きゃっ…!!」
突然、肩をグッと掴まれ、教室の壁へ押さえつけられる。
華奢な先輩のどこにこんな力があったのか、腕を掴んでもビクともしなかった。
部長「暴れても無駄だよ。この時間帯は人来ないし」
しずく「いやっ、やめてください…!」
部長「大人しく従っておけば良かったのに。私はね、しずくが女優になる夢を応援したいんだよ?それなのに…スクールアイドルなんて始めちゃってさ」 しずく「スクールアイドル、って……演劇部とは関係ないじゃないですか…」
部長「最初にしずくから兼部の話を持ちかけられた時はさ『どうせすぐ辞めるだろう』って思ってたんだよね。でもどんどん向こうに熱中していくのが耐えられなかったんだ」
部長「しずくは演劇部の宝だよ。才能もあるし、それに驕らず努力家でもある。だからスクールアイドルなんてやってる暇ないんだよ」
部長「それを理解しようとしなかったから、主役を下ろしてあげたのにさ。はぁ…報われないよね」
しずく「そんなのっ、横暴です…!」
部長「私はしずくのためを想って言ってるんだよ。ねぇどうすればわかってくれる?あっ、そうだ。今ここで決めようか」
しずく「決めるって…何をですか」
部長「スクールアイドル同好会を辞める。そうすれば、再オーディションなんて中止にして主役に選んであげるし、これからの活動もしずくを中心にするつもりだよ」
しずく「…!!」
部長「ほら…しずく。答えは?」 先輩が私の頬を愛おしそうに撫でる。
気持ち悪いほど、先輩は恍惚とした顔をしていた。
まるで別人のようだった。
私が知っているこの人は、演劇に熱心で、時折厳しい演技指導をすることもあったけれど、何よりも部の仲間たちを大切にしていた。
人が変わる…それも人格が入れ替わったように。
クラスメイトたちの会話が頭を過ぎる。
疑心が今、確信に変わっていく。
しずく「……ません」
部長「ん。なに?」
しずく「私、スクールアイドル辞めません」
部長「しずく…?何言ってるのかわかってんの…?」
しずく「はい。私は先輩に何を言われようと、諦めませんから」 部長「……ふざけないで!!!」
頬に触れられていた手が離れ、先輩はポケットから何かを取り出した。
外からの光に反射して、それの切っ先が光った。
背筋が一気に凍りつく。
しずく(カッターナイフ…!?)
部長「その可愛い顔に傷がつけば、スクールアイドルなんて出来なくなるよね?あははっ…しずくが悪いんだよ…!」
しずく「先輩!!目を覚ましてくださいっ!」
部長「いいから大人しくしろよ!!」
しずく「私がっ…助けますから!絶対に!」
部長「なんで、なんでわかってくれないの!?」 先輩がカッターナイフを振り下ろした隙をつき、必死に身を捩って拘束から逃れる。
それから素早くスマホの電源を入れ、あの奇妙なアプリを起動した。
先輩は、"もう一人の自分"に取り憑かれている。
これはきっと、私にしかできない事だ。
しずく「……大丈夫、私ならやれる…」
虹ヶ咲学園、マスカレードパレス。
それをタップした瞬間、以前と同じように目の前が歪んでいく。
しかし今回は、先程まで息を荒らげていた先輩も、自分と同じくこの空間に飲み込まれていた。
彼女は意識を失っているのか、その場で倒れている。
やがて、暗闇に包まれていた周囲が一気に明るくなった。 シャドウ部長?「あ、来たんだ…桜坂しずく」
しずく「あなたですね。先輩をこんな風にしているのは」
シャドウ部長?「何言ってんの?よくわからないなぁ〜」
先輩の姿をした黒い影が、先輩の声で、笑う。
ここは、私が小さい頃に親に連れられてきた舞台の会場にそっくりだった。
広いステージに無数にある客席、役者を志す者なら誰もが憧れる舞台。
きっと先輩もここに来たことがあるのだ。
しずく(…私が終わらせなきゃ)
私の背後では、一緒にここへ移動してきた先輩が、床に横たわっていた。
彼女が起きてしまったら、きっとパニックになるだろう。 ──だから、それまでに決着をつける。
しずく「いきます…!ペルソナ!!」
仮面に手をかけ、声を張り上げる。
オードリーが右腕を振りあげると、核熱のエネルギーが跳ねる兎のように前方へと弾けていった。
シャドウ部長?「うわっ!?」
それを見た先輩の影は、慌てた様子で光の壁を作り出し、守りの体制をとる。
その壁にぶつかった核熱は、着弾時に勢いを失って、蒸発するように消えていった。
シャドウ部長?「ふ、はは!こんなもんか」
しずく「…今のは、小手調べです」 オードリーが放ったのは、"フレイ"という初期段階の技だ。
かすみさんを襲った影はこれで呆気なく消滅してしまったが、流石に今回は通用しないらしい。
それでも、先程のあの慌てようから推測すると、歯が立たないほどの強さではない。
しずく「これならいける…。次で、決めます!」
オードリー「……!!」
先程よりも強く、オードリーが腕を振るう。
生み出された核熱のエネルギーは、私がその熱を肌で感じるほどに大きい。
"フレイ"の上位互換である"フレイラ"だ。
光の壁が、輝く蒼い炎に包まれる。
シャドウ部長?「くそっ、こんなもの!!」
先輩の影が、苛立ちを抑えきれない様子で悪態をつく。
やがて、衝突時には攻撃を耐え忍んでいた壁に、熱によって段々と亀裂が生じていく。 しずく「終わりです!」
シャドウ部長?「しずく…!!しずくぅぅ!!」
先輩の悲壮に満ちた声だけが、広い会場に反響する。
その直後、核熱の蒼い炎が光の壁を破壊し、勢いよく影を飲み込んだ。
部長の影は形もなく、消滅した。
しずく「…これで、良かったんですよね」
返事があるかもしれないと思い、ただ心の声を口に出す。
しかし"もう一人の私"は何かを発するわけもなく、私が仮面をつけると消えてしまった。
部長「うぅ…」
しずく「先輩…!?目が覚めたんですねっ」 いつの間にか意識を取り戻していた先輩が、上半身だけを起こしていた。
私は彼女の無事に安堵し、駆け寄って手を握る。
部長「しずく…?」
しずく「良かった…。元の先輩に戻ったんですね」
部長「私、しずくに何かしたような気がするんだけど……」
しずく「大丈夫です、気のせいですよ」
部長「そっか。…しずくはこの場所のこと、知ってるの?」
しずく「え?えぇと…少しだけ。帰り方はかすみさんに聞いただけなので、あやふやですけど…」
部長「ここってさ、舞台になってるんだね。まるでしずくの将来立つステージみたいだ」
しずく「ふふっ、そうですね。私が夢を叶えたら、先輩は見に来てくださいますか?」
部長「当たり前でしょ?」 そう微笑みながら先輩は私をギュッと抱きしめた。
現実世界での強引なものとは違う、優しい抱擁。
あぁ、先輩は以前の彼女に戻ってくれたのだと理解した。
張り詰めていた緊張の糸が解けた私は、目を閉じて先輩に体を預ける。
部長「なんたってしずくは私の、理想の女優だからね。何を差し置いても守りたいと思うよ」
しずく「せんぱい…?」
部長「でもさ…しずくはずるいよね。二兎追うものは一兎も得ずって言葉があるのに、両方成功させようとしちゃうんだから」
しずく「私なんてまだまだで……え、あれ…?」
ふいに、右腹部に違和感を感じる。
その原因を確かめたくて、身を離そうとするも、先輩は私を強い力で引き寄せた。
部長「ダメだよしずく、私と一緒にいてよ」 しずく「なに言って……ぁ、ごふっ」
喉からせり上がってくるものを吐いてしまう。
先輩の白いカッターシャツが、私のもので赤く染まっていく。
頭がこの状況を把握できていなかった。
そして、遅れてやってきた鋭い痛みに、私は苦痛に顔を歪める。
部長「辛い?苦しい?その痛みはさ、しずくへの罰だよ」
しずく「な、んで……」
部長「私を倒したのにって?あはは…残念でした。あれはそこら辺にいるただの雑魚だよ、私の真似をさせてただけ。本当の影はこの私なんだよ」
部長「それなのに安心しちゃってさあ、可愛いね。まだ高校一年生だもんね…騙されちゃっても仕方ないか」 自身の右腹部に視線だけをやると、そこには鋭利なナイフが突き刺さっていた。
体の力が抜けそうになるのを堪え、なんとか拘束から抜け出そうと試みる。
部長「こらこら逃げちゃダメだよ。これからおしおきしないといけないんだから」
しずく「くっ……ペルソナ…!」
部長「少しおいたが過ぎるなぁ。…"ブフ"」
私が仮面を取るより早く、先輩が魔法を唱える。
急激に周囲の気温が下がっていくのを肌で感じるのと同時に、私の両手首が凍りついた。
しずく「……っ!?」
部長「これでもうペルソナは使えない。さ、始めようか」 先輩はにこりと笑い、指を鳴らす。
反撃の手段を奪われた私は為す術もなく、先輩の生み出した黒い触手のようなものに両腕を掴まれる。
そのままステージの壁に押し付けられ、磔(はりつけ)の状態にされた。
部長「あは、キリストがかけられた十字架刑みたいだね。それにここは舞台の上。最高の演技ができそうじゃない?」
しずく「…もう…こんなこと、やめてください……」
部長「傷のことを気にしてるなら大丈夫だよ。ここはパレス、異世界なんだし。現実のしずくは傷ひとつなく眠ってるよ」
部長「あ、それとも気になるのは私のことかな?わかってるかもしれないけど、私は現実世界の"私"とは違う"もう一人の私"だよ」
しずく「あなたは何が目的で…、なんで、私なんかに執着するんですか……」 部長「さっき話したよね。しずくの才能が羨ましいって。それがリアルな私だよ。しずくに憧れて、しずくに嫉妬して、しずくを妬んでいるのが私なんだよ」
部長「演劇部もスクールアイドル同好会もやりたいだなんて、強欲が過ぎると思わない?この世の中にはやりたい事もできない人間が星の数もいるのにさ」
部長「私だってその一人だよ。演劇がやりたくて、努力して、部長にもなったけど、評価されたのは入部して一年にも満たないしずくだった」
部長「だからさ、思ったんだよ。この子は恵まれてるんだって。神様から与えられた才能や風貌が恵まれてるから、私が勝てるはずもないんだって」
しずく「っ、あの人を、先輩を知ったようなこと……言わないでくださいっ!」
部長「……は?」
しずく「先輩は凄い人なんです…!色々な人がいる部をたった一人でまとめあげて、導いて…」
部長「うるさいっっ!!!」 しずく「あぐっっ…!」
左肩に走る、炎に焼かれるような感覚。
氷で形成されたアイスピックのようなものが、そこに突き刺さっていた。
右腹部にくわえて、今まで経験したことのない激痛に、目に涙が浮かぶ。
部長「私は私自身だって言ってるだろ!!次、生意気なこと言ったら…わかってるよね」
しずく「………っ…」
部長「はぁ、はぁ…。少し興奮しすぎたな、落ち着かないと。あまり時間もないし」
部長「しずく、もう一度チャンスをあげる。スクールアイドル同好会を辞めて、演劇部に専念しなよ」
部長「この私が見込んだ逸材なんだ。しずくの才能を枯らしたくない。だから無駄なことはせずに、芝居だけをするべきなんだよ」 部長「スクールアイドルとしてステージに立つしずくには何も魅力を感じない。つまらない曲を歌って、量産型の衣装を着て、数人の拍手を浴びて…それの何が面白いの?」
部長「それに比べて、舞台で演技をするしずくは最高に輝いてるよ。完璧に役になりきって、まるでその人物がそこにいるみたいだ。このまま練習を続ければ、劇団から声がかかるのも時間の問題だよ」
そう早口でまくし立てる先輩は、普段よりも生き生きとしているように見えた。
抑圧された自分からの解放。
それが、今の先輩を動かしているのだ。
スクールアイドルと演劇の両立に悩んでいる私が敵うはずも無かった。
そんな自分が情けなくて、惨めで、負の感情が溢れだしてくる。
しずく「ぐす……ぅぅっ……」
部長「泣かないで、弱いしずくは好きじゃない。…でも、私の前ならその弱みを見せて欲しい」 しずく「…わた、しは……」
部長「さ、答えて?この世界での自分は、本当の自分。ここでの感情の変化は現実世界の自分へと還元される」
部長「ただ言えばいい、スクールアイドルを辞めるって。そうしたらまた優しく抱きしめてあげるよ。一人で悩まなくたっていいんだよ、しずく」
しずく「………スクールアイドル…」
言えば、楽になれるのだろうか。
この忙しい毎日から、解放されるのだろうか。
考えれば考えるほど、気持ちが傾いていく。
──逃げるのは恥じゃない。
──素直になった方がいい。
──抱え込むくらいなら、やめるべき。 "もう一人の私"が甘く囁く。
寒くて、辛くて、頭がぼんやりとする。
もうわけがわからなくなってきた。
そんな時、先輩が歩み寄ってきて、私の頭を撫でた。
部長「……さ、言ってごらん?」
しずく「せんぱい……わたし…」
「桜坂しずく!!!自分に、そんなヤツに負けるなーっ!!」
一番欲しかった声が、一番聞きたかった声が、この広い舞台に響き渡った。
部長「あぁもう…!またコイツか!!」
しずく「…なんで……かすみさんっ…」
かすみ「そんなの、しず子を助けに来たに決まってんじゃん!!」 とりあえずここまでで。2日後くらいにまた更新します 女の子が特殊能力で戦うの大好物です
続き待ってるうう 読みながら場面ごとに頭の中でP5のBGMが流れてるわ 俺もサンシャインで設定書きためてるけど、別でエタった過去があるので世には出さない
出したおまえは頑張って欲しい
個人的にしずくは月 右手で握り拳を作り、前に突き出す彼女。
いつも可愛くセットされている前髪は汗でぐちゃぐちゃになっていて、制服も着こなしが乱れている。
あれだけ冷たく突き放したというのに、かすみさんは私をずっと探してくれていた。
その事実に胸が熱くなって、さらに涙が止まらなくなる。
部長「あのさ…今自分が何をしてるのか理解してる?」
かすみ「その言葉、そっくりそのまま返してやりますよ!そっちこそわかってるんですか?しず子を追い詰めて、泣かせてるんだって!」
部長「しずくは自分の夢を選ぼうとしてる、そこに中須さんの入る余地なんて無いんだよ。君たちはただ、スクールアイドルとかいうものを好きにやっていればいいのに…なんで邪魔するかな」 かすみ「しず子はかすみん達の大切な仲間でライバルなんだから、そう簡単には渡しませんよ…!他の誰にも、しず子のやりたい事を決める権利なんてない!」
部長「はぁ、よく吠える犬みたいだね……虫唾が走るよ。前から思ってたけどさ、中須さんって私のこと嫌いだよね?私がしずくを呼ぶたびに、むっとした顔するもんね」
かすみ「…そんなことないですよ〜?先輩が上級生だから仕方なく気を使ってあげてただけですもん。それと嫌いじゃなくてすごく嫌い、ですから間違えないでくださいね!」
馬鹿にしたような態度が癪に障ったのか、今まで余裕そうに笑っていた先輩が、かすみさんに冷ややかな目を向けた。
それでも、かすみさんは臆することなく先輩を睨みつけている。
しかし次の一言によって、彼女の顔がこわばった。
部長「自分よがりで他の人間のことなんて踏み台にしか思ってない君が、他人を助けたいだなんて…笑わせるね」
かすみ「なっ……て、適当なこと言わないでください!」 部長「ここは私の世界、全てお見通しだよ。君の心の奥底は真っ黒だ。自分が可愛くて可愛くて仕方ない。だから自分には甘い。自分は特別な人間だって、そう思ってる」
かすみ「ちがっ……私は…」
しずく「かすみさん…!聞いちゃダメっ!!」
部長「しずく、また痛い目に合いたいの?今度のはもっと苦しいよ」
先輩は見せつけるように指の間からつらら状の氷塊を覗かせ、それを私の喉へと軽く押し付けた。
しずく「……っ…く……」
部長「…静かにできるよね?」
牽制のつもりだとわかっていても、その効果は覿面(てきめん)だった。
頭は彼女を救えと警鐘を鳴らすのに、身体は生物としての生存本能を優先していた。
植え付けられた恐怖に支配され、私は息を呑むことしかできなくなる。 部長「よしよし、いい子だね。しずくは物わかりがよくて好きだよ」
自身の言葉で私が黙り込んだのを見て、先輩は満足げに目を細めた。
そして改めてかすみさんに向き直り、わざとらしく咳払いをした後、切り出した。
部長「少し聞いていいかな。無力な君に一体何ができるの?今この瞬間、私を倒してしずくを救うつもり?」
かすみ「それはっ…」
部長「…え、いやまさか、ノコノコ殺されに来たわけじゃないよね?」
かすみ「………確かにかすみんは、何も出来ないし、強くなんてない…でも、でもっ」
部長「あははっ、本当に策もなく飛び込んできたわけだ。それなのに正義のヒーロー気取りなんてさ、古くさい映画にありそうな展開だね!」
かすみ「でも…!だからって、親友を見捨てるなんてこと…できない……!」
部長「……そう、あくまでも抗うんだ。なら中須さんにはたくさん苦しんでもらおうかな。一瞬で殺しちゃうのはつまらない…いや、もったいないし」 そう呟いた先輩が指を鳴らすと、即座に辺り一面が黒い霧に覆われ、その中でひとつの影が生成される。
やがて、それは顔つきや胴体をゆっくりと変貌させていき"中須かすみ"と瓜二つの姿となった。
かすみ「うぇ…?わ、私……?」
その影は先輩がもう一人の自分を演じさせていた時と、同じものに見えた。
自分と対面するというありえない出来事に、かすみさんは動揺を隠しきれていない。
部長「この子はね、この世界での中須さんだよ。私がここにいるように、もう一人の君もここに存在してるんだ」
かすみ「もうひとりの……私…?」
部長「ねぇ、中須かすみさん。夢を追いかけるしずくにとって君の存在は重い足枷でしかない。彼女のためにも、錆びた鎖は断ち切った方がいいんだ。わかってくれるよね?」 かすみ「……あしかせ…?くさり…?ちがう、私は、しず子を…」
部長「他人に身勝手な願望を押し付けるのはエゴってやつだ。実際さ、しずくは中須さんに何の相談もせず、自分からここに来てるんだよ?」
かすみ「っ……」
部長「ふふ、さっきまでの威勢はどこにいったのかな。…弱気になったらもう終わりだよ。隙を見せたその瞬間には、影につけ込まれるんだから」
中須かすみの姿をした影が、呆然と立ち尽くす彼女の背後へと回り込み、その距離を徐々に詰めていく。
しかし、かすみさんは俯いたままで迫る影に気づく素振りすら見せない。
私は血が流れるくらいに強く唇を噛んだ。
痛みを与えて意識をはっきりさせることで、自分自身を鼓舞する。 こうなってはもう、ただ恐怖に屈しているわけにはいかない。
しずく「かすみさん…!はやく元の世界に戻ってっ!!」
部長「…もう遅いよ、しずく。手筈は整ってしまった。あとは影にじわじわと精神を侵食されて廃人になるしかない」
部長「やがて、中身のない本体は影に還る。現実世界に自分は一人しかいないように、異世界にも同じ人間は存在できないからね」
部長「以後、中須かすみという人物は影が演じ続けることになる。それが現実にも反映されて、人格が入れ替わったように見えるって仕組みなんだ」
しずく「お願いしますっ、かすみさんに手は出さないで…!私が何でもしますから、先輩の言うこと聞きますから…!!」
部長「最期までしっかり見てるんだよ。しずくの心を繋ぎ止めるものを今ここで無くしてあげる。そうしたら本当の意味で、完璧になれるよ」
しずく「……んなさい…ごめんなさい、ごめんなさい…!私のせいだ…うぅぅっ…」
影は音もなく、かすみさんに絡みつく。
小さな体はあっという間に黒い霧に飲み込まれ、見えなくなった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──とても嫌な夢を見ていた。
同好会の部室で、みんなが机を囲んで楽しそうに雑談している。
輪の中心には桜坂しずくがいて、他のメンバーは不自然なくらいに彼女を褒めちぎっていた。
私が声をかけても全員が知らん顔で話を続けていた。
だからドッキリでもしてるのかと思って、今度はしず子を名指しして呼び掛けた。
『あぁ……かすみさん、まだ同好会にいたんだ』
『え?』
『私はね、今は女優として上手くやっていけてるよ。かすみさんは?』
『かすみんは…?』
『スクールアイドル続けて、何になれたの?』 不快な音と、感触に、そっと目を開く。
すると目の前には、紛れもない"私自身"がいた。
シャドウかすみ「かすみん、おはようございまーす!」
かすみ「…は?」
シャドウかすみ「こ、こわ…。ダメですよっ!スクールアイドルはいつも笑顔じゃないと♡」
そこにはステージ衣装を着て、髪の毛も可愛くセットし、満面の笑顔を見せる、スクールアイドルとしての中須かすみがいた。
彼女から視線を逸らし周囲を見渡すも、暗闇が広がっているせいで何の情報も得られなかった。
かすみ「頭いたい…。ここどこ…?」
シャドウかすみ「ほぉ無視ですか…まぁいいですけど。ここはかすみんだけの空間、不可侵領域です!」
かすみ「ややこしいんですけど。大体かすみんは私一人だけで…」 シャドウかすみ「何言ってるんですか、私がかすみんですよ」
かすみ「はぁ!?」
シャドウかすみ「あなたが偽物ですよ?かすみんはもっと自信に満ちあふれてるし、そんな風に泣かないですもん」
指摘されたままに頬へ手を伸ばすと、私は小さな子どもみたいに大粒の涙をこぼしていた。
慌てて、制服の袖でゴシゴシと拭き取る。
かすみ「な、なにこれ…」
シャドウかすみ「さあ?涙は弱さの象徴ですからね〜勝負事に負けたんじゃないですか?」
かすみ「負けた……?あっ、」
シャドウかすみ「あはっ♡ごめんなさぁい、思い出しちゃいました?」
かすみ「しず子…!助けなきゃ…っ」
シャドウかすみ「もう無駄ですよ。桜坂しずくは、一人で夢を追いかける事にしたみたいですから」 かすみ「えっ……?」
シャドウかすみ「スクールアイドル辞めたんですよ。これからは演劇だけに専念したいからって」
辞めた。スクールアイドルを辞めた。
その言葉だけが頭の中で反響して、何度も繰り返される。
シャドウかすみ「まあ当たり前ですよね。演劇部で辛い稽古をしてるあの子からすれば、同好会なんてお遊戯会みたいなものだろうし、時間の無駄だって思ってても不思議じゃないですよね」
かすみ「しず子は、そんなこと思ってない…!」
シャドウかすみ「え〜根拠でもあるんですか?今回のことだって、なーんにも相談してもらえなかったのにぃ?親友ってそんなものなんだ〜」
かすみ「ぁう……」 シャドウかすみ「ぷぷ、それなのによく知ったようなこと言えますねっ♡そもそも、しず子を同好会に縛りつけること自体がお節介だったんじゃないですか?」
シャドウかすみ「しず子がスクールアイドルをやってるのは芝居の勉強だって言ってますけど、そんなのは建前ですよ。私がしつこいから仕方なく入ってるに決まってます!」
シャドウかすみ「かすみんは自分が友達だって思ってても、向こうはそう考えてなかったらどうします?バカみたいに信じちゃってる私は健気でカワイイな〜ってなります?」
シャドウかすみ「…ならないですよね!?」
シャドウかすみ「あぁ…かすみんって可哀想。こーんなに尽くして、応援してあげてるのに報われないなんて……」
かすみ(ちがう…違う)
かすみ(はやく……否定、しなきゃ)
かすみ(そんなわけない!って、怒らなきゃ)
かすみ(あれ……?なんでだろ。自信…なくなってきた) シャドウかすみ「かすみんってえ、強がってるだけで…ほんとは小心者ですよね」
シャドウかすみ「いつも周囲からどう思われてるか気になるし、自分は何番なんだろうって不安になるから、周りを貶めて自分を安心させるんですよね」
シャドウかすみ「努力しても追いつけないのに、私にだってできるはず…!なんて考えてるから理想とのギャップに苦しむんですよ」
シャドウかすみ「上手くいかないことばかりだけど、自分のせいにすると悲しいから、言い訳を無理やり作っちゃえばいいって…。そうやって、いつも逃げてる」
シャドウかすみ「でもね、そんな卑怯な私こそ、本当のかすみんなんだって…気づいてます?」
シャドウかすみ「でも、それでいいんですよ!それでこそ私!それでこそかすみん!もっとも〜っと自分本位に生きていきましょ!」
かすみ(…そうだ、それが私)
かすみ(ん……?でも、そんな私が…なんでスクールアイドルなんてやってたんだろ)
かすみ(なんで、今まで続けられてたんだろ…) シャドウかすみ(くくくっ♡その顔っ、たまらないです♡♡いい感じに闇堕ちしてきましたね)
シャドウかすみ(ほんとはもっといじめてあげたいけど、あまり長引かせると怒られそうだし)
シャドウかすみ「さーて、もうそろそろですかねっ。私と入れ替わる準備を…」
かすみ「………あ。そっか」
人間って、モヤモヤが続いた後に核心的なことが解ると、思ってたよりも呑気な声が出るんだなって今知った。
私がいきなり立ち上がったからか、私の顔をした気持ち悪い人形は慌てた様子で問いかけてくる。
シャドウかすみ「ふへ?あ、あの、急にどうしたんですか?」
かすみ「かすみんはソロでスクールアイドルやってるけど、ひとりぼっちじゃなかった。私はスクールアイドルが大好きだから、私自身が大好きなんだ」
シャドウかすみ「………は??」 かすみ「あとしず子は元々抱え込むタイプだし、隠し事も嘘つくのも下手。多分かすみんに迷惑かけるとか思ってたんだろうけど…後でじっくり問い詰めてやる!」
シャドウかすみ「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!それでもしず子が、かすみんを疎ましく思ってる事には変わりな…」
かすみ「そもそもしず子の夢を一番応援してるのはかすみんだし、それが足枷だとかはしず子が決めることであって、誰かに文句言われる筋合いなんてないもん!」
シャドウかすみ「そ、そんな風にいくら思ったって、かすみんは弱いんだから…!何もできないんだから!ここにずっといた方がいいです…!」
シャドウかすみ「ほら、この世界には怖いものなんてないですよ!あるのは永遠の時だけ。もう悩まなくていいですし傷つくこともない…」
かすみ「かすみんにも力があれば、しず子の助けになれる。一緒に戦える」
シャドウかすみ「ひぃっ!?いやいやいやいや…!!そんなの、理屈になってな…」 かすみ「だから、いい加減に協力してよね!"もう一人の私"ってやつ!!」
???『やっと呼んでくれたんだ〜。もう待ちくたびれちゃったよぉ』
シャドウかすみ「え、えぇぇぇぇ!?聞いてた話と違いますよ…!」
???『契約、でいーんだよね?』
かすみ「もちろん!」
???『りょーかいっ。我は汝、汝は我…』
シャドウかすみ(ぐぐ、どうなってやがるんですか?まさかペルソナ使いがもう一人いるなんて…!!)
シャドウかすみ(でもまだコイツは覚醒し切れてない、今ならまだ間に合うッ!)
シャドウかすみ(契約が成立する前にこいつの精神を揺るがせれば、まだ勝機はある!) シャドウかすみ「かすみん!惑わされないでください!本当のもう一人の私はこっちですよ!?」
かすみ「…?」
シャドウかすみ「もうお友達なんて放っておきましょ!ここは理想の空間を作り出せる場所、だから私はどんなスクールアイドルよりも可愛いかすみんでいられますよっ!?」
かすみ「…特別に、かすみんがあなたを自分だと思えなかった理由をひとつだけ教えてあげる」
シャドウかすみ「え…??」
かすみ「かすみんは現実世界でも、誰よりも可愛くて誰よりも輝いてるスクールアイドルだから!本当に私なら、そこは絶対に間違えないし!」
シャドウかすみ(な、なにコイツ…!?普通の人間は自分が最も優れてるなんて思わないもんなのに!)
シャドウかすみ(頭イカれてるじゃん!もう意味がわからないよ…!!)
シャドウかすみ(あぁ不味い!もう間に合わない…!!) ???『とびっきりキュートに笑って、みんなの視線ひとり占めしちゃおう?私があなたを一番に信じてあげる。だからあなたも私をもっと好きになってね…♡』
シャドウ?(あぁぁぁ…!あいつのペルソナに影響されて、形を保てない…!!)
シャドウ?(あの方に怒られるのはイヤだ…!ならば、その前に決着をつけるしかないッ)
中須かすみの姿だったはずの影は、今や無残にもその面影すら残っていなかった。
それでも最期の力を振り絞り、こちらを目掛けて飛びかかってくる。
シャドウ?「ここで終わりだッ…!!」
頸が狙われているとわかるくらいには、時間の流れがゆっくりに感じた。
右足を一歩だけ後ろに引き、半身になる。
鋭い爪は虚しく宙を切り、相手の体勢が崩れた。
かすみ「…おつかれ。偽物の、弱い私っ!」
ガラ空きの胴体へ拳を叩き込んでやる。
轟音と共に、霹靂がその体を貫いた。
影は勢いよく吹き飛んだ後、黒い塵となって消え去った。
かすみ「いくよ、ビリーバー。今度こそカッコいいとこ見せなくちゃね」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部長「…盤面は全て整えてあげた。あとはしずくが自分を受け入れるだけだ」
部長「大丈夫、しずくの影もすぐに作ってあげる。もう現実世界に戻らなくていいよ。ここで永遠の時を彷徨うのも悪くないでしょ」
しずく「………先輩は、可哀想な人ですね」
部長「…なに?」
しずく「色々と抱えてたものに耐えられなくなって、影に取り込まれてしまったんですね」
しずく「もっと早く私が気づいてあげられれば良かった…。先輩を苦しめるものを少しでも共有できれば良かった」
しずく「そうしていたら、こんな結末にはならなかったかもしれない。……ごめんなさい」
部長「ふざけないでよ、そんな憐れみなんていらない!!結果論を語ったって今の状況が変わるわけない!」
しずく「…そうですね、あなたの行いは許されることじゃありません。でも、力でねじ伏せても散らない花があるということを理解した方がいい」 部長「戯言を……何が言いたい!?」
私は不敵な笑みを浮かべて、返答をもったいぶる。
日頃から鍛えている演技力が、こんなところで役に立つなんて思わなかった。
"その感覚"はすぐ側まで近づいていた。
オードリーが反応を示したのは数分前のことだった。
『自分ではない、他のペルソナが接近している』
その意味を私は瞬時に理解した。
だから、こうして時間稼ぎへと転じることができた。
部長「聞いてるだろ…!答えろ!」
かすみ「あんたの負けってことですよ!!」
突然の襲来に反応しきれなかった先輩は、為す術もなくステージの壁に激突した。
あまりの衝撃に壁が崩れ、先輩は瓦礫に埋もれて見えなくなる。 かすみ「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
そう言ってかすみさんが仮面を付け直すと、彼女の周囲に停滞していた雷が静まった。
力の源が魔力を保てなくなったからなのか、私を拘束していた黒い触手が消滅する。
氷で封じられていた両手も、使えるようになっていた。
かすみさんが私の脇腹に腕を回して、肩を貸してくれる。
そこから数秒は、お互いに目を合わせて微笑みあった。
しずく「かすみさん。私を助けてくれて…自分に負けないでくれて、ありがとう」
かすみ「かすみんが負けるわけないじゃん!しず子も、その…諦めないでくれてありがとね」
しずく「信じてたから…かすみさんのこと」
かすみ「…かすみんも、もうダメかもってなった時、しず子の顔が浮かんだ。お互い様だね」
しずく「ふふっ。そうだね」 かすみ「でも、かすみんに相談してくれなかったことは恨むから!それで色々大変だったんだからね!」
しずく「それは…ごめん。元の世界に帰ったらちゃんと話すね。だから、早く終わらせなくちゃ」
部長「なにを……終わらせる、って!?」
怒声と共に、瓦礫の中から傷だらけの先輩が這い出てきた。
予想はしていたが、あれだけの攻撃を食らってもなお立ち上がるとは。
私は身を固く引き締めた。
出血で意識は朦朧とするし、体の節々は痛いし、喉も乾いているけど、私はまだオードリーと共に戦える。
優しかった先輩を取り戻したい。
このまま放っておくことなんて、できない。
かすみ「しず子、かすみんの援護よろしく。ほんとは一人で倒してやりたいけど…多分そう上手くいかないと思う」
私の意志を汲み取って、かすみさんはそう囁いた。
無言で頷くと、彼女は一歩前に出て、構えた。
先輩はただ、私たちを憎悪に満ちた目で睨みつけている。
かすみ「……いくよ!」
かすみさんがペルソナを召喚し、彼女と共に先輩の元へと駆け出していく。
いま、全てを終わらせる戦いの火蓋が切られた。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──何もかもが不愉快だった。
特に、中須かすみという人間が。
少し前までは絶望の淵に叩き落とされたような暗い顔をしていたのに、一体何が起きているというのか。
確実に、終わらせたはずだった。
しかし、何故かコイツは影の空間をぶち壊し、再度舞い戻ってきた。
あの空間を破壊するなど、もはや異常者といっても過言ではない。
そんな頭の狂った人間に、反逆の意志に満ちた瞳を向けられ、私の中で憎しみの灯火が燃えあがる。
部長(もう少しで、しずくを私のものにできたのに)
部長(現実世界だけじゃ飽き足らず、最後まで私の邪魔をするってことか……)
部長(あぁ……胸くそ悪い。吐き気がする!!)
どうしようも無い程の嫌悪感に苛まれる。
徹底的に潰しているといるのに、何故コイツは何度も立ち上がってくるのか。
理由なんてわからないが、知りたくもなかった。 かすみ「どりゃぁぁっ!ジオンガ!!」
号令の元、黄金色に輝くペルソナから稲妻が放たれる。
私は機転を利かせて地面から氷の防壁を出現させ、衝撃から身を守ろうとした。
しかし、先程よりも勢いを増した雷光は、それすらもバラバラに砕け散らせる。
かすみ「よし、いけるっ!」
部長「…このくらいで調子に乗るなよ!!」
単調な攻撃が貫通したくらいで、何が、どういけるというのか。
はらわたが煮えくり返りそうだった。
一刻も早く、痛めつけて、その闘志を折ってやりたい。
部長(待っていろ…!今すぐにでも、地に伏せさせてやる!!) 私は宙を舞う氷壁の破片に身を隠しながら、その距離を縮めた。
相手からすれば、私が視覚外から突如として現れたように見えるだろう。
かすみ「ぅ、やばっ…」
読みどおり、中須かすみは反撃に備えきれていなかった。
抗う能力を手に入れたとはいえ、所詮は二本足で立つことのできた赤ん坊のようなものだ。
まるで、ペルソナを扱いきれていない。
部長(とった…!!)
私の右手には、氷で生成された刀身の透き通る剣が握られている。
その切っ先は、確実に首筋を、波打つ頸動脈を捉えていた。 鮮やかな血飛沫が、花火のように宙を舞う。
部長「…はははっ!!ざまぁみろ!」
これで私としずくの間を引き裂こうとする異物は排除した。
私は口元を歪めて笑い、そう確信した。
しかし、ふと思いとどまる。
私の得物に、あるべきはずの感触がなかった。
部長「は…?」
蒼白く煌めいた炎が、私と中須かすみの間を遮断していた。
宙を舞った鮮血は相手のものでは無かった。
いつの間にか、私の右手は剣を握ったまま、地面に転がっていた。
かすみ「っ、あっぶな…!」
部長「なんだ…?お前今なにを……」 私は魔法が放たれた右方向に視線を飛ばす。
そこにはしずくがいて、彼女はペルソナ能力の反動で乱れた呼吸を整えていた。
部長「なに、して……」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
中須かすみのペルソナは電撃属性のジオ系、核熱属性のフレイ系は出せないはずだ。
つまりは、あれほど可愛がっていたしずくが、なんの躊躇もなく私に刃を向けたのだ。
部長「……しずくぅぅっ!!!」
もはや、地獄に突き落とされた方がマシなくらいに思えた。
こんなにも想い、尽くしてあげたのに。
全てを捨て、全てを破壊してでも、女優という夢へ導いてあげようとしたのに。 私が求めていたのは、こんなつまらない展開じゃない。
彼女からこんな仕打ちを受けるなんて、有り得ない。
何故しずくは私ではなく、中須かすみの味方をするのか。
あぁ、忌々しい…。
部長「私を捨てるなんて、許さない!!!」
かすみ「しずくはあんたのものじゃない!」
自暴自棄になった私が繰り出した攻撃は、またしても届かなかった。
私はしずくに接近することさえできず、中須かすみによって顔を打ち抜かれる。
部長「っ…クソが…!!」
額がぱっくりと裂けて出血し、衝撃の重さに脳が揺さぶられる。
私は吹き飛びそうになる意識を、必死につなぎ止めた。 この私が、こんな弱いヤツらに押されている。
その事実が私を焦燥感に駆らせていた。
部長「あぁぁぁ!!!終わらせてやる…全てを!!」
しかし、それから幾度となく攻撃を放っても、二人に傷ひとつ与えることさえ敵わなかった。
片方が隙を作れば、もう片方がそれを補助する。
まだペルソナを扱いきれていないからこそ、お互いが相手の足りない箇所をカバーし合っていた。
部長(なんで、なんで、なんで……)
──衝突を繰り返すごとに、ジリジリと体力の限界が近づいている。 足が震え、視界が霞んできた。
魔力も底を尽きかけている。
何遍も交わされた攻撃の応酬に、相手側も息を乱しているが、それ以上に私は疲弊していた。
部長「……この私が、負けるはずないんだ!」
部長「ここは私の世界なんだよ…!?私が全てで、私の思い通りのはずなのに」
部長「楽園が壊される…私の心が、こんなヤツらに、踏み荒らされてる…!」
部長「あぁぁ……嫌だ嫌だ嫌だ…!!認めない…認めてたまるか…!!」
しずく「…もうやめませんか」
しずくが、諭すようにそう言った。
彼女は怒っているのではなく、私を憐れんでいるかのようだった。 部長「は……?」
しずく「私は先輩を、これ以上傷つけたくありません」
部長「……バカにするな!!!」
頭に血が上って、思いの外、大きな声が出た。
私にあれだけ酷いことをされたというのに、ここまできて情けをかけるというのか。
桜坂しずくという人間は、憎しみという感情が欠落しているとしか思えなかった。
しずく「…私には、先輩の気持ちを全て理解することはできないでしょう」
しずく「でも、寄り添うことならできます。私にはかすみさんが居てくれたように、先輩には私がいます」
しずく「だから、帰りましょう。私たちの日常に」
部長「……むりだ」
私の心は、悲鳴をあげていた。
今までしてきた行いに対する罪悪感と、本当にこれで良かったのかという後悔が、私を苦しめていた。 しずく「先輩……私を信じてください」
部長「ダメだ…!!私はもう、ここまで来てしまった…今さら引き返すことなんて…」
かすみ「まだ、間に合いますよ」
部長「っ!?なに……言って…」
かすみ「かすみんも、あと少しで"もう一人の弱い自分"に取り込まれそうになりました」
かすみ「誰にでも弱さはあって、もう一人の自分が心の中にいる。そして、現実から逃げたくなった時、その甘い声に負けそうになるんです」
かすみ「だから、道を踏み外すのは悪いことだけど、絶対に許されないわけじゃない。弱い自分を悔いて、ゼロからまた始めればいいんですよ!」
この状況下で、中須かすみは笑顔でそう言った。 彼女も私になにをされたのか、わかっていないらしい。
あの影につけ込まれてもう一人の自分を受け入れてしまえば、無事では済まなかったというのに。
もはやここまでくると、変な笑いが込み上げてくる。
部長「はは…君たちってさ……バカみたいに素直で、真っ直ぐで、お人好しだよね」
かすみ「それって褒めてますか?」
部長「…さぁね。でも君たちのおかげで、もういいかなって思えたよ」
大きく息を吐いて、私は目を閉じたままその場に倒れ込んだ。
二つの足音が慌ただしく近づいてくる。
柔らかい手が、硬い地面に横たわっていた私の頭を持ち上げた。
部長「……ずっと、憧れてたんだ」 瞼を開くと、心配そうに眉を落としたしずくと目が合った。
私の頭は彼女の太腿に乗せられていたようだった。
その横では、かすみが同じような顔をして事の成り行きを見守っていた。
部長「…言ったでしょ?私は桜坂しずくという人間に魅入られて、尊敬の念を抱いた。でもそれは、時間が経つ事に変わっていった」
部長「自分より歳下なのに、才能も未来もある。そんなしずくが羨ましかった。そんな時、もう一人の私が言ったんだ」
部長「弱い者は強い者にしがみつくしかない。適性のない私は、しずくの将来の可能性を枯らしてはいけないって」
部長「最初はただ、しずくを守ろうとしてただけだった。でもある時、気持ちに歯止めが効かなくなって…尊敬の念は妬みに変わった」
身動ぎせず私の話に耳を傾けるしずく。
彼女の顔は土煙に汚れていて、傷だらけだった。 私は左手を伸ばし、彼女の頬にそっと触れる。
部長「……ごめんね。しずくのこと、たくさん傷つけちゃったね。もう元の関係には…戻れないよね」
しずく「私はずっと先輩の背中を追いかけてきました。その優しい人柄に、演劇への情熱に、惹かれていました」
しずく「そして、その想いはこれからも変わることはありません。…先輩はずっと私の憧れの人なんですよ」
部長「っ……そっか…。はは…」
彼女の優しい微笑みは、まるで聖母のようだった。
私の心を苦しめていた邪(よこしま)なものが、浄化されていく。
温かい涙が溢れ出し、頬をつたった。
部長「ありがとう……ありがとう。私を救ってくれて」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
かすみ「…先輩、消えちゃったけど死んじゃったわけじゃないよね?」
しずく「きっと平気だよ。影みたいに消滅したわけじゃないから、元の世界に帰ったんだと思う」
かすみ「そっか。ふわぁ……うう、つかれたぁ」
大きく伸びをして、かすみさんが後ろに倒れ込む。
私も息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
相変わらず負傷した箇所はズキズキと痛むが、歩けない程ではない。
しずく「…かすみさん、大丈夫なの?」
かすみ「へ?」
しずく「私がオードリーと契約したときは、凄く体力を消耗したから」 かすみ「あ〜…うん。頭痛いし体はダルいし、魔法もいっぱい使ったから余計に疲れたけど、しず子を守らなきゃって必死だったから」
しずく「……かすみさん、大好き」
かすみ「うぇっ!?な、なに…急に変なこと言わないでよ!」
しずく「ふふっ♡なに照れてるの?」
かすみ「照れてないってば!あーもうっ!寝る!!」
ぷいっと顔を背け、かすみさんはそのまま目を閉じてしまった。
拗ねてしまったのかと思ったが、彼女の耳は赤くなっていて、私は小さく笑みをこぼす。
改めて周囲を見渡すと、ステージの床や会場の壁は損傷が激しく、先ほどの衝突が熾烈な戦いであったことを表していた。
戦いは終始こちらが優先だったものの、正直ギリギリだった。
私はあと一回ペルソナを出せるかどうかだったし、かすみさんも限界が近かった。
勝利の要因は、先輩が先に諦めてくれたおかげと言ってもいい。 全てが終わった今、すぐにでも現実世界へと帰ってもよかったが、まずはかすみさんの体力を回復させてあげたかった。
それに帰る方法もいまいち見当がついていない。
この世界のことを知るために、少し探検してもいいだろう。
しずく「かすみさんは私を探してくれてたんだよね。ここにどうやってきたの?」
かすみ「んー…たまたまあの教室の扉を開けたら、しず子と部長が折り重なるように倒れてたの。ほんと、すっごく焦ったんだからね」
しずく「現実世界の私は寝てるんだろうし、そう見えるよね」
かすみ「でもしず子のスマホが光ってて、変なアプリも起動してたから、もしかして異世界に行ってるんじゃないかと思った。同じのがかすみんのスマホにも入ってたし!」
しずく「なるほど…それを使って、ここまで来てくれたんだ。じゃあアプリが移動手段みたいな役割を果たしてるってことに…」
かすみ「ね、難しいことはまた帰ったら考えよ?ほら〜しず子も休みなよ」 そう促され、私はかすみさんの横に腰掛ける。
戦いが終わってからまだ数分しか経っていないし、もう少し私の話に付き合ってもらってもいいだろう。
私は意を決して、ずっと伝えたかったことを言うために、口を開いた。
しずく「…私ね、次の舞台で主役やりたいの」
かすみ「またオーディションするんでしょ?」
しずく「先輩にね、オーディションすら受けさせて貰えなかったんだけど…戻ったら、もう一回頼んでみる」
かすみ「そんなこと言ってたんだあの人…。それを真に受けて、しず子は私に相談しなかったわけ?あーあー悲しいなー」
しずく「これ以上かすみさんを心配させたくなかったの!それに、さっき謝ったでしょ。もう許してよ」
かすみ「え〜どうしようかな〜。…原宿に新しくできた、クレープ一緒に食べに来てくれたら許す」
しずく「え、そんなことでいいの?わかった」
かすみ「ただし!これからは、もっとかすみんのこと頼ってよね。私もしず子を頼るから…」
しずく「…うんっ。ありがとう」 かすみ「それじゃ、もうそろそろ行こっか。ずっとここにいるのも嫌だし」
しずく「そうだね。かすみさん、立てる?」
彼女の手を引き、互いに体を預けあう。
それから、揃ってゆっくりと足を踏み出した。
その、刹那。
『ギャァァァァァァァァ!!!!!』
鼓膜が破れそうになるほどの、耳をつんざくような叫び声。
同時に大きく地面が揺れ、前につんのめりそうになる。
かすみ「うわわわっ…!」
しずく「なんで…!もう、終わったはずなのにっ」
ここは、先輩が作り上げた異世界だ。
だからこの場に存在する影は、創造主が消えたことにより同時に消滅するはず。
私たちには、状況が全く理解できなかった。 しずく「と、とにかく…!早く元の世界に帰らなきゃ」
身体のあちこちからあがる悲鳴を無視して、私は無理にでも駆け出そうとする。
しかし、かすみさんが動かないせいで、私は一歩しか前に進むことができなかった。
しずく「かすみさん…!何してるのっ、早く」
もう休んでる暇なんてないのに、と半ば苛立ちながら彼女の顔を伺う。
かすみさんは蒼白い顔をして、ある一点をただ見つめていた。
歯をガチガチと鳴らし、可哀想なほどに怯えきっている。
私は息を呑み、彼女の見つめる先を凝視する。
しずく「ひっ……」
そこには、宙を不気味に漂う黒いモヤがあった。
ただそれだけなら何も思わなかったかもしれない。
しかし、その物体から放たれる強烈なプレッシャーによって、私は呼吸をすることさえ忘れそうになっていた。 おそらく何の力も持たない人間なら、ここまで影響されることは無かったように思えた。
それが強大な力であると認識してるのは、自身のペルソナであるオードリーだからだ。
彼女が感じている恐怖が私に伝染しているのだと、ようやく理解した。
かすみ「むりだよ…。もう、戦えない……」
かすみさんが弱々しい声で呟く。
確証はないがその黒いモヤはペルソナではなく、影と同等の存在だ。
つまりは私たちの敵ということになる。
しずく「それでも…諦めるなんて、私たちらしくないよ」
かすみ「……っ、わかった」
とはいっても、私やかすみさんは先輩との争いで満身創痍だった。
倒す必要は無い、隙をついて逃げられればそれでいい。
そうオードリーに言い聞かせ、協力をこぎつける。
かすみさんと共に戦闘態勢に移行した、その時だった。 ──黒いモヤが突如、実体化する。
それはまさしく人だった。
背丈の高さからして男性のように思うが、肉づきは細身の女性のようにも思えた。
黒の外套と仮面を身につけたその人からは、邪悪なオーラが漂っていた。
???「…先に摘み取らせてもらおうか」
無機質な声色だった。
ボイスチェンジャーで偽装された声のせいで、気味の悪さがさらに増す。
???「いでよ、我が化身よ」
突如、また地鳴りに襲われた。
身震いするほどの冷気が辺りを包み込む。
気がつけば、その人間は大きな物体に遮られて姿が見えなくなっていた。
かすみ「しず子、気をつけて…!」 その注意喚起すら届かないほど、私は圧倒されていた。
私の五倍ほどの大きさはある白い物体が、こちらの退路を断つように立ち塞がっていたのだから。
しずく「…影?でも、こんなに大きいの……見たことない」
白い物体は置物ではなく、生きていた。
頭に王冠をかぶって、手には杖を持っている。
まんまるとした目と大きく開けられた口は、愛くるしいマスコットのような印象を与えた。
かすみ「…なんかのアニメに出てくる王様キャラみたい」
しずく「うん、確かに」
かすみ「って、そんなこと言ってる場合じゃなかった!いくよしず子っ」
かすみさんが、いの一番に飛び出す。
私も仮面を外し、オードリーを出現させた。 しずく(チャンスは一度だけ…!かすみさんが敵の目を引いた瞬間、フレイラを唱えて逃げる隙をつくる!)
???「キングフロスト、"マハブフダイン"」
その人が小さく呟けば、目と鼻の先が一瞬にして銀世界へと変貌した。
これは先輩が使っていた氷系の魔法だ。
しかし、その威力は桁違いだった。
たまらずかすみさんが足を止めるも、そこへ畳み掛けるように技が放たれる。
???「"メガトンレイド"」
しずく「かすみさん!避けてっ!!」
かすみ「だめ、足が…!!」
かすみさんの右足は、先程の吹雪によって地面と共に凍りついていた。
彼女は身を捩ってなんとか抜け出そうともがいているが、とても間に合いそうにない。
しずく「いやっ……」
すぐ頭上に迫る、影の大きな拳。
最悪の事態を想定した、その直後。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」 またしても、第三者の声が響いた。
突如として現れた小柄な人物は、かすみさんの前に仁王立ちになり、影に向けて自身の拳を突き出す。
キングフロスト「キュゥゥウ!?」
拳と拳がぶつかり合って互いの力が拮抗した結果、キングフロストと呼ばれた影が後ずさった。
体格差すら感じさせないその威力に、私は息を呑む。
???「さぁ!ショータイムといきましょうか!!」
その人は仮面を指で押さえつつ、もう片方の人差し指をビシッと突き出した。
もしかしてあれは決めポーズのつもりなのかと勘ぐってしまう。
そして彼女は私たちを振り返り、場にそぐわない程の大声で呼びかけてきた。
???「間に合って良かった、お二人ともご無事でなりよりです!ここからは全て私に任せてください!」 しずく「あの……!助けてくださってありがとうございます。あなたは一体…?」
???「フッ。名乗るほどではありません!私はただの通りすがりの、剣聖ジャッカル・コスモスですよ!!」
かすみ「いや、普通に名乗ってるんですが」
しずく「なぜ私たちを助けてくださるんですか…?」
???「私は正義のヒーローだからです!悪をくじき、正義を助ける!それが流儀なので!」
かすみ「剣聖の設定はどこいったんですか…剣聖なのかヒーローなのかハッキリしてくださいよ」
仮面をつけているのからして、少女は私たちと同じくペルソナ使いなのだろうか。
少女は西洋の騎士が着ていそうな赤いコートを身にまとい、その背中には二本の細身の剣がバツ印に鞘へと収められていた。
まるで、漫画のキャラクターがそのまま現実にいるかのようだ。
彼女はかすみさんの冷静なツッコミにも、何処吹く風といった感じだった。
随分と癖のある乱入者に、私は困惑を隠しきれない。
…というか、どこかで聞いたことのある声音に、ある可能性が私の頭に浮かぶ。 ???「いざ尋常に、参らん!」
黒仮面「…面倒だ。"コンセントレイト"」
キングフロストが大きく息を吸い込んだ。
少女はそれを見て、背中に手を回し、両手で銀色の刀身を抜いた。
二刀流といった型だろうか。
先程の攻撃を止めたとはいえ、非力そうに見える少女にそれほどの戦闘能力があると思えず、不安に駆られる。
???「コンセントレイト…次の魔法攻撃が倍の威力になる!ということは今からブフダインを放つつもりですね!?」
かすみ「それ言っちゃうんですか!?」
???「ペ〜ル〜ソ〜ナ〜ッ!!」
独特の掛け声と共に、彼女のペルソナが姿を現した。
ペルソナの燃え盛る火炎が周囲の氷を溶かしていく。
自由になったかすみさんはどうしていいかわからない様子だったが、すぐに私の傍に走りよってきた。 黒仮面「…"ブフダイン"」
???「させませんよ!"マカラカーン"です!!」
猛吹雪に取り込まれそうになった時、私たちの前に透明な壁が出現した。
氷魔法はその壁にぶつかると、その勢いを殺すことなく、技を放ったキングフロストへと逆戻りする。
それはまるで、太陽の光が鏡に当たった時のようだった。
かすみ「うわ…すごっ」
しずく「これがペルソナの力…」
???「さて!次はこちらからいきますよ、メロディ!」
あの炎のペルソナの名は、メロディというらしい。
彼女は主の呼びかけに応答するように、巨大な火の玉をキングフロストへとぶつけた。
キングフロスト「キュゥゥ!!!」
その効果は絶大だったようで、キングフロストは目を回してしまった。
そこへすかさず、少女が走り込む。 ???「くらいなさい!"十文字斬り"」
右の剣で横薙ぎに斬撃を繰り出した後、左の剣が頭から胴体を真一文字に斬り裂いた。
その攻撃をまともに受け、白い巨大な胴体が塵となって消えていく。
黒仮面「…相性が悪すぎたか」
???「さぁ、追い詰めましたよ!今度こそお縄についてもらいます!!」
黒仮面「……また会おう」
???「あっ、待ちなさい!!」
人だったものがまた黒いモヤへと変化し、忽然と消え去った。
さきほどの喧騒が嘘のように、静寂が訪れる。
???「くっ。また逃がしてしまいました…」
しずく「あの…せつ菜さん。助けてくださってありがとうございました」
せつ菜「いえいえ!このぐらい………うっ!?私は断じて、優木せつ菜ではありません!」 かすみ「流石にわかりやすすぎですよ…。というかフルネーム言っちゃってますし」
せつ菜「あぅ……。これは、その…好奇心というか、興味本位で…している格好であって」
かすみ「せつ菜先輩ってこういうの好きですもんね。結構ノリノリでしたし」
せつ菜「み、みなさんには内緒にしてくださいよ…!」
しずく「でも、驚きました。せつ菜さんもペルソナ使いだったんですね」
せつ菜「え……はい、まあ…色々あって」
しずく「教えてください!あの人は誰なんですか?」
せつ菜「あの黒い仮面は、近頃ニュースを騒がせている事件の根源ではないかと…私は見ています」
かすみ「ふぇ!?アイツのせいで人がおかしくなってるってことですか?」 せつ菜「そうですが…正確には違います。黒仮面に、直接的に人を変える力は無いのだと思います」
しずく「直接的に人を変える力がない、というのは?」
せつ菜「言葉の通りです。あれは悩みを抱えている人の心にシャドウを侵入させ、暴れさせることで、間接的に人を狂わせているんです」
かすみ「…シャドウ、ってあの影のことですか?」
せつ菜「はい!影と書いてシャドウと読みます!」
しずく「つまり先輩は、心の隙を狙われたということですね…」
せつ菜「そうなります。学園にパレスができているのはわかってましたが、私は拒絶されていたので、中々入ることができなくて困っていたんです」
かすみ「せつ菜先輩は拒絶されてたのに、しず子やかすみんは入れた…?」
せつ菜「演劇部の彼女にとって、しずくさんはむしろ歓迎する存在ですからね。かすみさんはおそらく、しずくさんがパレス内にいたので運良く侵入できたんでしょう!」 かすみ「え、まさか…せつ菜先輩が倒れたのって、事件の捜査をしてたせいで疲れが溜まったから…?」
せつ菜「はい、そうです!」
かすみ「なーんだ……同好会と生徒会の両立が忙しくて、とかだと思ってましたよ!心配して損しましたっ」
せつ菜「…ん?かすみさん、私の心配をしてくださっていたんですね!ありがとうございます!」
かすみ「そうじゃなくて…あぁもういいです!」
しずく「あの…せつ菜さん!もっと聞きたいことが……」
さらに言葉を続けようとした時、天井から砂埃が落ちてきた。
同時に、どこか遠くで何かが崩れていく音も聞こえる。
かすみさんも異変に気がついたようで、緊張した様子で辺りを警戒しだした。
せつ菜「おっと、いけません!ここから早く脱出しなくては!」
しずく「え…?どういう意味ですか?」 せつ菜「パレスは創造主が消えると消滅するんです。本来は部長さんがいなくなった時に消えるはずだったのが、黒仮面の影響で長引いたんでしょうね」
かすみ「うぇぇぇ!?そういうことは早く言ってくださいよ!」
せつ菜「あ、すみません…。怪我がひどいのでしずくさんは背負いますね。かすみさんはついてきてください!」
しずく「えっ、え…??」
せつ菜さんはかすみさんの返事を待たず、私を軽々と背中に乗せて駆け出した。
かすみ「ちょっとぉ!かすみんだって、ひどいケガなんですけど〜!!」
せつ菜「早く来てください!死にますよ!」
かすみ「びぇぇぇぇん!」
満面の笑顔で、物騒なことを言う彼女。
かすみさんは半べそをかきながら慌てて後を追ってくる。
せつ菜「頑張ってください!もうすぐ出口です!」
暖かい光に、包まれる。
時空の歪みに差し掛かったようだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しずく「ぁう……」
体を起こすと、そこはよく見慣れた虹ヶ咲学園の教室だった。
私は胸を撫で下ろして安堵の息をつく。
どうやら無事に戻ってこれたようだ。
かすみ「ゔぅ゙ぅ゙…」
しずく「かすみさん、すごい声出てるけど」
かすみ「ヤバい、今までで一番辛いかも。しず子ぉ〜……」
私の隣で目覚めていたかすみさんは、体を起こすなりこちらに体を預けてくる。
ペルソナを覚醒させた直後にあれだけの激闘があったのだから、無理もない。
だから今は、彼女の頭を撫でて甘やかせてあげることにした。
せつ菜「うーん……はっ!」
しずく「あ、おはようございます」 少し離れた場所でせつ菜さんが勢いよく起き上がった。
これで三人目だ。
誰も欠けることなく帰還できたのだと安心するが、ふと忘れていた記憶が蘇る。
しずく「先輩は、どこですか…!?」
かすみ「…え?」
教室の中に、部長の姿は無かった。
嫌な胸騒ぎがする。
私たちのやり方は間違っていて、先輩は未だあの世界に囚われているのだろうか。
それとも、もう……。
最悪の可能性が次々に思い浮かぶ。
すると、慌てふためく私を見かねて、せつ菜さんが口を開いた。
せつ菜「部長さんはお二人よりも先に戻っていたと思いますよ、だから…」
部長「ここです!!先生、早くこの子たちを助けてください!」
かすみ「どひゃぁぁあ!?」 教室の扉が勢いよく開かれる。
そこには、先輩と保健室の先生が血相を変えて立っていた。
部長「この子たち、いくら起こしてもずっと寝たままで…!早く診てあげて欲しいんです!」
先生「ちょっと大丈夫なの!?随分とうなされてたらしいけど、何があったの!?」
かすみ「えっと、あの、大丈夫ですぅ…!」
先生「大丈夫なわけないでしょ!どこ?どこが悪いの!?」
かすみ「ぐぇぇっっ!なんでかすみんだけぇ!!」
明らかに興奮しすぎている先生が、かすみさんの肩をガクガクと揺さぶる。
養護教諭としてその対応はどうかと思いつつも、巻き込まれては困るので口には出さず、彼女に同情だけしておくことにした。
せつ菜「その…私たちは少し寝不足だったので、お昼寝会をしていただけなんです!ご心配をおかけしてすみません!」
しずく「せつ菜先輩、もっといい言い訳ありますよね…?」 先生「あら、そうだったの?でも教室の床で寝ることないわよ。これからは保健室に来なさいね」
しずく「……いえ、まさかの正解ルートでした」
かすみ「ふぇぇ…助かったあ……」
先生「でも、念の為に検温とボディチェックはさせてもらうわ!」
かすみ「うひゃぁ!?くすぐったい〜〜!!」
しずく(ん…?先輩?)
かすみさんが先生に蹂躙されているのをただ眺めていた私だったが、ふと、教室の扉に立ち尽くす先輩に目をやる。
先輩は普段と変わらない様子だったが、私は彼女が今回のことを覚えているのではないか心配だった。
部長「しずく。少し、いいかな?」
しずく「…え?なんでしょう」
部長「ここじゃなんだし…廊下で話したいんだ」
神妙な顔つきの先輩は、私をすぐそこの廊下へと促した。
私は黙ってそれに従う。
確かに教室内は先生とかすみさんたちの攻防が未だ繰り広げられているのもあり、賑やかすぎた。 部長「静かなとこで話したくてさ。私ね…しずくに、謝りたいんだ」
しずく「えっ…?」
部長「決まっていた主役を取りあげた上に、再オーディションの機会まで奪ってしまった。それも部長という立場を利用して」
部長「最低だよね。私、どうかしてたよ…。本当にごめんなさい」
そう深く、頭を下げられた。
先輩の変わりように驚きつつも、本当に異世界の出来事が現実に影響を与えているのだとわかり、私は胸を撫で下ろす。
しずく「頭をあげてください。私、そんなに気にしていませんから」
部長「いや、でも…!」
しずく「ただ私は欲深いので、やっぱり主役として舞台に立ちたいんです。ですので、再オーディションは受けさせてもらえませんか?」
部長「そんなの申し訳ないよ!オーディションなんてしなくても、皆に説明してしずくを主役に戻せば済む話で…」 しずく「いえ、それはやめましょう。きっと他の皆さんも主役のオーディションを受ける気でいると思いますので」
部長「え…?何もせずとも主役になれるんだよ?」
しずく「正々堂々、私は戦いたいんです!ですから…これからもよろしくお願いしますね!」
部長「しずく……」
しずく「私の夢は大女優ですから、これぐらいの小さな壁は乗り越えてみせます。お気遣いは必要ありません」
部長「わかった…。ありがとう」
しずく「…それはいいとして、先輩はあの教室であった出来事を覚えていたりしますか?」
部長「あぁ、それがね…頭を打ったからなのか何も覚えてなくて。みんな倒れてるのを見た時は、流石に焦ったよ」
しずく「そうですか…やはり記憶には残らないんですね」
部長「ごめん。私何かしちゃったのかな…?」
しずく「いえ、何でもありません。先輩がご無事で本当に良かったです!」
部長「ただ、変な夢は見たよ。黒い影に追いかけられてすごく怖かった。でも仮面をつけた女の子二人が助けてくれてね」
しずく「……!」
部長「あの子たち、誰だったんだろう。それにしても不思議な夢だったな…。夢占いでもやってみようかな?」
しずく「それはきっと、先輩を慕っている人ですよ。正義のヒーローなんて大それたものではないですが」
私がにこりと微笑むと、先輩も優しい笑顔を返してくれる。
その笑顔を見て、私は取り戻した日常の尊さを噛み締めた。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[三日後・スクールアイドル同好会 部室]
かすみ「聞いたよー!しず子、オーディション合格おめでと!」
しずく「かすみさんが次のステージ構成を手伝ってくれたおかげで、お芝居の練習がたくさんできたからだよ。本当にありがとう」
かすみ「うん!これからもかすみんが手伝ってあげるから、色々困ってたらいいなよ?」
しずく「ふふっ、頼もしいな。いっぱい頼っちゃうね」
せつ菜「お二人とも、ここにいましたか!!」
かすみ「びゃぁぁぁっ!?」
しずく「わ…びっくりした…!」
いきなり扉が開いたものだから、かすみさんは椅子から飛び上がるほど驚いていた。
せつ菜さんは辺りをキョロキョロと見渡し、何かを警戒するような動きする。
そして、素早く私たちのいる場所へと近寄ってきた。 せつ菜「改めて、お二人にお話があります」
しずく「は…はい?なんでしょうか」
せつ菜「"影祓い"として私に協力してもらいたいんです!」
しずく「いや、唐突すぎませんか…!?」
かすみ「かげばらい…?なんですかそれ」
せつ菜「"影祓い"とはその名のとおり、シャドウを祓う人々のことです。ペルソナに目覚めたお二人には、その資格があります!」
かすみ「はぁぁぁぁ!?」
しずく「待ってください…!私たちはもう、先輩の影を倒しましたよ?」
せつ菜「影はいたるところに存在します。闇を抱えた人間が増えるほど、影もまた増殖している。ですから多くの"影祓い"が求められているんです」
しずく「その言い方だと…まるで各地にそういう方々がいるみたいですが」
せつ菜「数は少ないですが、"影祓い"は全国でその活動を行っています。私も色々あって、そのうちの一人なんです」
かすみ「なんとなくわかりましたけど〜…その、"影祓い"って人達に協力して、かすみんたちに良いことあるんですかっ?」 しずく「かすみさん、そんな言い方…」
かすみ「だってそうじゃん!あの世界で戦うのはいいけどケガしたら痛いし、もし負けたらどうなるかもわかんないのに」
しずく「それは…そうだけど」
せつ菜「あなたたちも見たはずです。黒い仮面の"ペルソナ使い"を」
私の脳裏にあの時の光景が浮かぶ。
会話の流れからして、どうやらせつ菜さんはその人を追っているようだった。
かすみ「だから、その黒仮面とかすみんたちには何の関係もないじゃないですか!」
せつ菜「私が予想するに、あの人はこの虹ヶ咲学園の関係者です」
かすみ「へー、それが……え゙っ!?」
せつ菜「行動パターンや活動範囲からして、分析しました。今回の件もその一例ですから」
しずく「今回の件って、先輩のことですか?」
せつ菜「はい。演劇部の部長である彼女の悩みを知ったうえで接触した人間…それが黒仮面の正体です!」 かすみ「マジ……」
せつ菜「私は生徒会長として学園の風紀を乱すものは絶対に許せません!そして同好会の仲間であるお二人だからこそ、お願いしているんです!」
しずく「えっと、随分と大きな話になってきましたね…」
かすみ「しず子…どうする?」
しずく「うーん……。不安だけど…私、やってみようかな」
かすみ「…うん、そう言うと思った」
しずく「先輩みたいに苦しんでいる人がいて、私が手を差し伸べられるなら、助けてあげたいよ」
せつ菜「しずくさん…!ありがとうございますっ!かすみさんはどうですか?」
かすみ「まあ、あんなの見ちゃったらそうなるよね…。かすみんは正直、厄介事に巻き込まれるのはごめんって感じなんですけど…」
かすみ「でも困ってる人を助けたいって気持ちは同じだから、かすみんも協力してあげます!それにしず子、目を離すと無茶しそうだし」 しずく「かすみさん…ありがとう」
せつ菜「わぁ、これで百人力ですね!」
かすみ「まあ"影祓い"って組織があるなら、他にも何人かいるだろうし〜?かすみんの出番があるかどうかもわかりませんね!」
せつ菜「ふふっ、嬉しいです!これでメンバーが三人になりました!」
かすみ「ゔぇ!?」
しずく「さ、三人って……もしかして、ここにいる私たちだけですか…?」
せつ菜「はい!そうですよ!!」
かすみ「…やっぱやめる!!」
せつ菜「え!?ダメですよ、"影祓い"に二言はありません!」
かすみ「もうやだぁ!しず子ぉ〜!!」
しずく「あはは……」
半泣きのかすみさんは私の胸に頭をぐりぐりと押しつけてくる。
するとせつ菜さんが勢いよく立ち上がり、そんな彼女を慰めるように明るくエールを送った。
せつ菜「大丈夫です!ペルソナの扱いについては、私が全身全霊で特訓してあげますから!」 しずく「せつ菜さんの特訓……大丈夫かな」
かすみ「そんなの、生きて帰れるかすら怪しいじゃん…!」
私たちは身を寄せ合い、せつ菜さんに聞こえないようにヒソヒソと話し合った。
そんな時、唐突に部室のドアが開いた。
私たち三人は肩をビクッと振るわせる。
璃奈「………こんにちは」
しずく「こんにちは…!」
かすみ「やっほー、りな子っ」
せつ菜「り、璃奈さん…!早かったですね!」
璃奈「……?なんか、変」
しずく「えぇ…?変かな??」
かすみ「そうそう、いつもと変わらないカワイイかすみんですよ〜っ?」
璃奈「………」
不自然すぎる私たちを交互に見比べ、璃奈さんは押し黙ってしまった。
それを見て、せつ菜さんが私とかすみさんを後ろに振り向かせ、小声で作戦会議を決行してくる。 せつ菜「ま、まさか…絶対にバレてはいけない"影祓い"のことを疑っているのでは…!?」
しずく「えっ、バレちゃいけないって…?」
せつ菜「危険に晒してしまいますから、ペルソナ能力のことは絶対に秘密なんです」
かすみ「ちょっとぉ、 そういうことは最初に言ってくださいよ…!」
璃奈「……なに?」
せつ菜「い、いえ!なんでもありませんよ!決してやましいことなどありません!」
かすみ「そうそう!今のりな子には関係ない話だよ!」
しずく「あーーー!!!もうこんな時間ですね!他の方が来る前に着替えましょう!」
璃奈「……うん」
こんなことで璃奈さんを誤魔化せるとも思えなかったが、大声を出して強引に話題を逸らすと、意外にすんなり引き下がってくれた。 璃奈「…あっ。私、忘れもの。取ってくるね」
しずく「あ、はい!気をつけてくださいね」
璃奈さんが部室を出て行くと、張り詰めていた緊張感が一気に解ける。
私たちは再び顔を寄せあって、作戦会議を再開した。
せつ菜「ふう、 …危なかったですね、流石はしずくさんです。うちのチームの参謀に拝命しましょう!」
しずく「いえ、結構です……」
かすみ「しず子はその難しいナントカだとして…かすみんはムードメーカーとかいいですよね?♡」
せつ菜「かすみさんは目立ちますし、タンク役に向いていると思います!敵のヘイトを稼いでくだされば、アタッカーの私がしとめますよ!」
かすみ「そんなの全然可愛くないじゃないですか!もっとかすみんらしいのがいいですー!」
せつ菜「そうですか…なら、後列で私にバフをかけてください!可愛く応援とかできますし、どうでしょう?」
かすみ「うぅむ…それはそれでつまんなそうですね…」
しずく(このチーム、大丈夫かな…) ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
愛「おっ、りなりーいたー!」
璃奈「愛さん」
愛「今日は同好会いかないん?反対方向だよ?」
璃奈「…教室に、忘れもの。それを取ってから部室にもどる」
愛「そうかそうか!じゃあ愛さんもついて行ってあげよう!」
璃奈「わかった。璃奈ちゃんボード[ウレシイ]」
愛「いーよ、どういたしまして!じゃあ行こっか?」
璃奈「……あのね」
愛「ん?」
璃奈「さっき同好会の部室で…せつ菜さんと、かすみちゃんと、しずくちゃんがコソコソ何かしてた」
愛「おっ、それは気になる特ダネじゃん!でもかすかすはわかるけど、せっつーとしずくがいるなら悪巧みではないんじゃない?」
璃奈「うん。私もそう思った」
愛「だよね〜。あのふたりマジで真面目だし!…あ、マジでマジメって面白くない?」
璃奈「……ねぇ、愛さん」
璃奈「ペルソナってなにかわかる?」 これで一旦終わりです。
また気が向けば第二章として続きます。
ありがとうございました。
本編では触れないのでアルカナの設定だけ後書きします。
しずく→月
かすみ→魔術師
せつ菜→戦車 乙
ボスキャラの口調は英玲奈くらいしか心あたりなかったけど虹関係者なのか
気になる まさかの続き物
普通に部長までのお話かと思ったら広がったでござる 丁寧な描写乙です、続きも来たら読みます
後、しずかすのやり取りも大変良かったです 面白かったです!!!!!
第二章も楽しみにしてますね!!!!! ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています