彼方「彼方誕編集」
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9、遥
0、侑
>>2 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>4 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 果林「ねぇ彼方……今度、お洋服階に行かない?」
彼方「ん〜?」
果林ちゃんは手に持っていたファッション系の雑誌を閉じると、
おもむろにそんなことを言い出した。
彼方「どしたの急に〜」
果林「彼方って、あんまり洋服に関して興味なさげというか」
果林「着こなしがちょっとずぼらに見えるのよ」
彼方「え〜……?」
果林「いつもいつも、はだけてるじゃない」
彼方「あぁ……」
言われてみなくても、確かに
あれはファッションの一つだよ。と言ったら果林ちゃんはきっと顔をしかめるだろう。
もちろん、肩を見せたりなんだりっていうのはあるけれど、
私のは別にそんな高尚な考えのあるものでもないし……
彼方「あれ、お母さんのおさがりだから。ちょっと大きいんだよねぇ……」 全部が全部そう言うわけじゃないし、
本当のことを言うと、普段着ているのは別におさがりでも何でもなくて
彼方ちゃん的に、体をきつく締められるような洋服が苦手というか。
果林「だったらなおさらよ」
果林「高校生……ううん、もう大学生にもなるっていう年ごろなのに」
果林「そんなにも無頓着でどうするの?」
彼方「えっと……」
果林「はぁ……もう、今日の放課後空いてる?」
溜息をつく果林ちゃん
ファッションの雑誌は近くのテーブルに放られて
空いた手が、横になってる私の頭を撫でてくれる 彼方「今度じゃなかったの〜?」
果林「そんな調子なら早い方が良いじゃない」
彼方「えぇ〜……」
彼方「おさがりっていうのは嘘――」
果林「良いから。予定あるの? ないの?」
彼方「寝る予――」
果林「無いのね」
彼方「ん〜……今日はバイトもないから大丈夫だけど」
果林「なら、行きましょ?」
珍しく……もないかもしれないけど、
やや強引な果林ちゃんは私が渋々頷くのを見ると、「決まりね」とちょっぴり嬉しそうに笑う
普段はしっかり者のお姉さんのようなポジションにいる果林ちゃんだけど
笑顔はやっぱり、可愛らしいもの……なんて。
口にしたら怒られる
彼方「良いよ〜」
彼方「デートしてあげる〜」
だから、強引なお誘いには冗談半分で答えておく 果林「で、デートって……」
果林「やだ……何言ってるのよ」
果林「別にそういうつもりじゃないのに……」
別に誰かとお付き合いしたことがない人だって、デートという言葉くらい知ってる。
それはもちろん果林ちゃんもそうで、
急激に頬を赤らめていく様は、とっても可愛らしい
可愛らしいから、ついついもう少し。なんて思ってしまう
彼方「え〜?」
彼方「彼方ちゃんは、デートだって思ったのになぁ?」
果林「もぅ……何言ってるのよ……」
手でパタパタと仰いで自分に風を送る果林ちゃん
耳まで真っ赤な凛々しい子
彼方「かわいいよ〜? 果林ちゃ〜ん」
果林「ふざけたことを言うのはこの口かしらねぇ?」 彼方「ひゃひんひゃ……」
頬を抓まれて、声が歪になっていく。
それでも果林ちゃんには分かっているようで、
怒ったように見せかけているだけの笑顔を浮かべながら、私の頬を弄ぶ
果林「あんまり余計なこと言うと、このまま持ち上げていっちゃうわよ?」
彼方「ん〜っ!」
果林「まったくもう……かわいいなんて……」
ぺちぺちと降参の合図を摘まむ手に送ると、
果林ちゃんはすんなりと解放してくれて……背けざまに呟く
からかっているだなんだって言いつつ、
ほんのちょっと嬉しそうに口元が綻ぶのが見えてるよ。
……なんて。
ちょっと言ってみたくなる
果林「私は読者モデルもやってるのよ?」
果林「どちらかと言えば綺麗でしょう?」
彼方「別に、綺麗と可愛いが混在してても良いんじゃないかなぁ?」 果林「そう……?」
果林「かわいい……かしら……」
彼方「かわいいよ〜?」
果林「そう……」
私を見ることもない果林ちゃんは、
今度は否定もせずに、気恥ずかしそうにしながら……小さく笑う
可愛いよりも綺麗と言われたいなんて言いながら、
可愛いって言ってあげると嬉しそうにする
そんなところが、可愛いんだよ?
って、ついついついげきしたくなって……飲み込む
これ以上は、膝から突き落とされそうだし。
果林「彼方だって、可愛いわよ?」
果林「でも、ふとした時……私には彼方が大人びて見えるわ」
果林「私にはない美しさを彼方は持っているのよ」
果林「だからこそ……」
彼方「ねぇ、彼方」
果林「どんなに綺麗な宝石だって、曇らせたままじゃもったいないって思わない?」 さっきまでのほんわかとした空気感を払拭するような真面目な果林ちゃんの声
だからこそ……。と、途中まで言いかけたのは何だったのだろう。
彼方「ん〜……そうだねぇ」
彼方「果林ちゃんにとって、彼方ちゃんは宝石なのかな〜?」
果林「……っ」
驚いた顔を見せる果林ちゃんだけど
今の話の流れでそう思わないほど、私は鈍感でもない。
果林ちゃんにとって、私が宝石ほどに価値があるのだとしたら……
それはとっても……。
彼方「勿体ないよね〜……曇ったままは」
果林「だから、洋服を買いに行きましょ」
果林「読者モデルとしてのメンツをかけて、最高の服を選んであげる」
彼方「うん」
彼方「よろしくね〜」
宝石
私は果林ちゃんにとって、どんな宝石なんだろうか。
ちょっぴり、気になる。 ノレcイ´=ω=)可愛い果林ちゃんはもっと広めるべきだぜ〜 ――――――
―――
同好会での練習を終えて、果林ちゃんと一緒に寄り道をする。
どこかに行くのかなんて訝し気なみんなには、内緒のお買い物
いや、デート
少しばかり機嫌がよく感じるのは、気のせいじゃない
彼方「秘密にしなくても良かったんじゃないかな〜?」
果林「ふふっ。いつもと違う彼方の姿を見せたときのみんなの反応、気になるでしょ?」
彼方「確かに〜」
彼方「綺麗なのか、可愛いのか」
彼方「いつもとあんまり変わらないのか〜」
果林「絶対に変わって見えるに決まってるわ」
果林「綺麗か、可愛いかは……そうね」
果林「彼方がどっちを目指したいかなんだけど……」 果林ちゃんは考え込むようにそう言って、
私は……と、私が言いたいことを言うよりも前に切り出した。
果林「やっぱり、彼方には綺麗になって貰いたいわ」
果林「彼方は普段の仕草は可愛らしい所があるし」
果林「美人な彼方がちょっと抜けてるところがあるって、ギャップがあっていいじゃない?」
彼方「ん〜?」
果林「……何よ」
彼方「べつにぃ?」
果林ちゃんだって、普段は美人さんなのに抜けてるところがある
そんなギャップがあるって分かっているのかいないのか。
彼方「……あ、待って」
果林「なに?」
彼方「道違うよ〜こっち」
果林「え……あっ……」
彼方「んふふ〜」
果林「わ、笑わないでよっ」
果林「無駄に広いのがいけないんだからっ」 彼方「果林ちゃんのそういうところが、ギャップなんだよねぇ〜」
彼方「かわい〜」
果林「もう……からかわないでって言ってるでしょう?」
彼方「本当にかわいいって、思ってるんだけどなぁ」
そう言って、果林ちゃんの手を握る
恋人とか、そう言うのじゃなく
ただただ、友人としての手の繋ぎ方
果林「ちょ、ちょっと!」
彼方「果林ちゃんが迷子にならないように、彼方ちゃんが手を握っておいてあげる〜」
果林「馬鹿にしてるでしょ……」
彼方「してないよ〜」
普段は凛々しい果林ちゃん
でも、実は方向音痴な一面もあったりして。
彼方「手を繋ぐ理由になるなら、良いんじゃないかな〜?」
果林「子供っぽくて、ちょっと……あれだけれど」
そう言う果林ちゃんは、でも……手を離さなかった。 果林「えぇっと……」
いくつかの専門店が入っているショッピングモール
番号で振り分けられている案内図を二人で覗き込む
果林ちゃんはどれにするべきかと悩まし気で。
真剣なその横顔は……
大丈夫、果林ちゃんだって大人っぽいよ〜……って、思わされる。
それが私のためだっていうのは
ちょっぴり。
ううん、とっても……気分が良い
彼方「ここは〜?」
果林「そこ、確かメンズのお店よ?」
果林「ボーイッシュが良いって言うなら、まぁ……別に良いけど」
彼方「えー……」
果林「冗談よ。ボーイッシュって言ったって別にメンズじゃ……まぁ、それは良いんだけど」
彼方「……ボーイッシュ彼方ちゃん爆誕する?」
果林「しないわよ」
即断だった。 とりあえず、
適当なお店を見に行こうっていう話になって、ウインドウショッピングを楽しむことにした私達。
普段は立ち寄りもしないような少しブランド力のある洋服店に入ってみる
彼方「うぇっ……」
果林「まぁ、見るだけでもいいでしょう?」
彼方「うん」
果林「心配しなくても、私だって……」
こんなお店のは易々と買えないわよ。と、
お店の人には聞こえないように果林ちゃんは言う。
私がいつも行くようなお店の人とは違って、
若干、品定めされているように感じるのは、気のせいだろうか。
彼方「ひぇぇ……」
トップス一着で十時間くらいの給料が飛んでいきそうな値段の物もある。
これは、怖い。 果林「これなんて、彼方に似合うんじゃないかしら?」
彼方「ほんとにぃ〜?」
ラメ糸で編まれたピカピカのシャツ
明らかに派手で、
私には似合っていないように感じるそれを合わせるように胸の前に持って行ってみると、
果林ちゃんは、似合ってるとも似合わないとも言わずに、笑った
果林「ふっ……ふふふっ……ごめんなさいっ……」
彼方「か〜り〜ん〜ちゃ〜ん〜?」
果林「だ、だって……ふふふっ……」
きらきらと輝くメタリックシャツ
胸元のブランドロゴは違う色の輝きを放っている
彼方「果林ちゃんが買ってくれるなら、着てあげても良いよ〜?」
果林「えっ、無理よ。無理!」
彼方「じゃぁ果林ちゃんも合わせてみてよ〜」
果林「え〜……」 果林「うわぁ……」
彼方「あはははっ」
果林ちゃんがライブで着ていたのもきらきらしていて綺麗だったけど
今合わせているのは、キッラキラで
読者モデルとして活動している果林ちゃんにとっては
顔をしかめるくらいに、最悪なものらしい
でも、私からしてみると
果林ちゃんが絶対にしないような格好は、面白い
彼方「似合ってるよ〜?」
果林「冗談やめてよね」
果林「あぁでも……彼方が買ってくれるなら、着ても良いわよ?」
彼方「………」
果林「待って待って無言でお財布を検めないで!」
果林「ネタに生活費かけるのは駄目よ!?」 別に貧乏でお金が待ったくないわけでもないから、
買おうと思えば買えるんだけど……
でも、確かに冗談に命懸けるのはちょっと問題かもしれない。
彼方「冗談だよ〜」
彼方「でも、先にからかってきたのは果林ちゃんだよねぇ〜?」
果林「……悪かったわよ」
果林「………」
果林「ほら、場所変えましょ」
果林ちゃんはお店の人の目を気にして、
洋服をさっと元に戻すと、私の手をちょっとだけ強引に引っ張っていく
彼方「ふふっ」
果林「何笑ってるのよ」
彼方「べっつに〜?」
本当にデートみたい
とか
ウインドウショッピングって、やっぱり楽しいとか
色々だよ〜。なんて笑ってみると
果林ちゃんは困ったように笑った 果林「やっぱり、こういうお店の方が選びやすいわよね」
彼方「そうだねぇ……」
ブランドとしては少し落ちるけれど、
でも、決して悪くはないお洋服のお店
トップスとスカートを選んだって、さっきのギラギラしたシャツ一枚分のお金でお釣りが返ってくる
果林「彼方って私服だとロングスカートが多いけど……ミニは履かないの?」
彼方「制服が似たようなものだしねぇ」
果林「ジーンズとかも履かないわよね……」
彼方「こう……ぎゅーって締め付けられる感じが好きじゃないんだよね〜」
果林「そう……」
洋服は、どちらかと言えば遊びがあるサイズの方が好ましい
その方がゆったり着られるし、拘束感がないから
果林「なら、こういうのはどうかしら」
彼方「ほうほう……」
そう言って果林ちゃんが持ち出してきたのはシャツワンピース
ボタンタイプで、腰のあたりでベルトを巻いたりするのが一般的らしい
彼方「似合うかなぁ?」
果林「試着してみたら?」
彼方「ん〜してみよっかな〜」 試着室を借りて、着てみる。
鏡の前で自分でチェックしてみると、なんだかちょっと違う感じがしなくもなくて
彼方「どうかな〜?」
果林「ん〜……」
果林ちゃんはとっても真剣に私を見て、
服の裾の辺りを摘まんだりして、
悩んで悩んで……私の体を見定めて。
彼方「か、果林ちゃん?」
ちょっぴり恥ずかしくなって名前を呼ぶと、
果林ちゃんははっとしたように顔を上げた
果林「ここ、もう少し余裕持たせた方が良いわ」
果林「ぴっちりしてると……ほら、彼方の胸が強調され過ぎる」
彼方「………」
彼方「やだも〜果林ちゃんのえっち〜」
果林「はっ!? なっ……何言ってるのよっ……」 果林「バカなこと言ってないで、ほら……」
果林ちゃんに調整して貰ってから見て見ると……なるほど。と思う。
さっきよりもベルトは少し上に引き上げられて、
ベルトの上に多少の遊びを持たせた分、裾は上がっちゃってるけれど、
ウエストが細く見える感じになる
ベルトから首にかけての余裕もあるから、
ぴっちりと胸の形が出るようなこともない
彼方「おぉ〜さっきよりましになった〜」
果林「でしょう? 」
彼方「どうどう〜? 似合う?」
果林「似合ってるっていうか……やっぱり……」
彼方「やっぱり?」
果林「……かわいいわね」
果林ちゃんのほんのりと赤い、はにかんだ笑みが目に焼き付く
可愛いとは誰のことを言ってるのか
そんなの、果林ちゃんのことなんじゃないかって……言いたくなる。
言いたくなるだけで、言えない。
彼方「……果林ちゃんのお洋服も、選ぼうよっ」
いつもと違った ” あの子 ” が見られるお洋服選び。
それに舞い上がっちゃってる私達は、多分きっと。
本当に――デートをしているんだろう。
彼方「……なんて」
もう少しこのままを楽しみたくて、私は心の内にしまい込んだのだった。 case.1:果林と服選び 終了
※途中から名前欄入れ忘れました
※次のcaseは明日安価します。 高級らっかせいさん、マジで毎回神SSをありがとう
…これ、まさか全員分やってくれる感じ? やってくれそうな感じね
そうじゃなくても彼方誕生日SS少なかったから嬉しいわ 1、璃奈
2、しずく
3、かすみ
4、歩夢
5、愛
6、せつ菜(または、菜々)
7、エマ
9、遥
0、侑
>>40 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>42 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 最近、璃奈ちゃんのクラスメイトで、
私達同好会のファンでもある、焼き菓子同好会の子達がよくよくお菓子を持ってきてくれるようになった。
殆ど毎日持ってきてくれるお菓子は、
いつもいつも違った見た目、違った味、違った種類と……とても趣向を凝らされていて
同好会のみんなも大喜び。
そんなある日のこと
お昼休みにいつも使っている外のベンチに行くと、先客がいた。
彼方「璃奈ちゃん、珍しいね〜」
璃奈「彼方さん……待ってた」
彼方「私を?」
璃奈「そう……えっと……美味しいお菓子の作り方を教えて欲しい」
単刀直入
けれどちょっぴり怖気づいたような切り出し方をしてきた璃奈ちゃんは
困った顔をしている。ように見えた。 彼方「お菓子か〜」
璃奈「ダメ?」
彼方「ううん、ダメじゃないけど、お菓子なら歩夢ちゃんの方が得意な気がするけど……」
璃奈「そう、だけど」
璃奈「でも……なんていうか……」
璃奈ちゃんと歩夢ちゃんは仲が悪いとかそう言うのはないはずなので、
頼みにくいとかいうわけではないのだろう。
普通科と情報処理学科で距離はあるけど、多分それも関係はなくて
彼方「少し、変わったお菓子が作りたいのかな〜?」
ありふれたお菓子ではなく、
こう、もう少し趣向を凝らした感じの。
そう言ったのを作りたいって言うなら、
確かに、歩夢ちゃんよりも私向きかもしれない
なんて。
璃奈「うん……」
璃奈「ちょっと、面白いのが作ってみたい」 一概に面白いお菓子と言われてもちょっぴり困ってしまう。
面白いお菓子なんて物は世の中にたっくさん出回っているので
そのレパートリーに困るわけではないけれど
ある程度こういうのが作りたいっていうものが欲しかったり。
彼方「どんなものが作ってみたい〜?」
璃奈「同好会……えっと、焼き菓子同好会の人たちが普段作らないようなやつ」
璃奈「ユニークなのがいい」
彼方「ん〜……」
焼き菓子同好会の子達は、
クッキーなどの焼き菓子をかなり作り慣れている感じがしたし
マドレーヌとか、ウエハースなんかも作ってきていた。
だとすると、焼き菓子は避けるべき
それでいてユニークなもの、かつ、そこまで難しくないものと言えば。
いや……一人では難しいかもしれないけど。
彼方「ケーキ、作ってみる?」
璃奈「ケーキ……作れるの?」
彼方「クリスマスとか、遥ちゃんの誕生日とか。お祝いの時は彼方ちゃんの手作りだよ〜」 璃奈「なら作る……作ってみたい」
彼方「そしたらどんなものを作るか考えよっか〜」
ユニークなものってなると、
一見ではケーキには見えないものだったり
ケーキだって分かるけれど面白い見た目……切り株とか本とか。
そう言うのがあると思う。
けれど、あんまりにも難しいものにすると作れないかもしれないから……
璃奈「ケーキ……」
璃奈「丸いのは普通だから、三角形とか」
彼方「丸、三角、四角とか、形は多分どれもありふれてるんだよねぇ」
彼方「丸か四角の方が、飾りつけを綺麗にしやすいよ〜」
璃奈「なら……」
考え込む璃奈ちゃんは、悩みに悩んで解決しないのか、
ふと息を吐くと、傍に置いてあったボードを持ち出して。
璃奈「璃奈ちゃんボード[ ̄へ ̄]」
彼方「あっ」
璃奈「悩まし――」
彼方「それだ〜っ!」 璃奈「え? えっ?」
彼方「璃奈ちゃんボードだよ〜」
彼方「璃奈ちゃんボードを模したケーキを作るの」
彼方「大きく一つの顔にするか」
彼方「四角いケーキの上にチョコとかで枠をいっぱい作って、たくさん作るとか」
彼方「そういうのはまた別として」
彼方「璃奈ちゃんボードケーキ……どうかな〜?」
焼き菓子同好会の子達は、璃奈ちゃんのこと気に入っているし、
ライブ中のあのボードとかだって好きだったはず。
なら、璃奈ちゃんボードはきっとウケがいいはず。
璃奈「璃奈ちゃんボード……」
自分のボードを見つめる璃奈ちゃんは
ちょっぴり考え込んで……軽く頷いた
璃奈「……良いと思う」
璃奈「彼方さん、凄い」
彼方「全然凄くないよ〜璃奈ちゃんがボードを出さなかったら考えつかなかったからねぇ」
彼方「じゃぁ、璃奈ちゃんボードケーキで決定で良い?」
璃奈「うん……宜しくお願いします」 >>32
ここで彼方ちゃんが来てた形の服好きなんだよね
そういう絵出してくれないかなって思ってる 璃奈「璃奈ちゃんボードケーキ」
璃奈「いろんな顔の物を作ってみたい……」
璃奈「バリエーションが豊富の方が、見せた時に良い反応が貰えそう」
彼方「おぉ〜いいねぇ」
それを食べて貰う相手のことを考えるっていうのが、一番大事なんだけど
璃奈ちゃんはもう、そんなことは分かり切ってるみたい。
表情はあんまり変わっていないように見えても、
ワクワクしてるっていうのが、伝わってくる。
彼方「それなら、出すときはカットケーキみたいに、小さくカットした状態で選べるっていうのが良いかも〜」
璃奈「なるほど……」
璃奈「カットしてから顔を書けば、崩れちゃったりもしにくい」
彼方「そうそう」
彼方「それに、顔だけじゃなくてフルーツのせたりとかも出来るよ〜」 璃奈「それなら果物も選ばないと……」
璃奈ちゃんはそう言うと、
私の方をちらっと見て……何かを言おうとしたのか、
小さな手がきゅっとボードの端を握る
璃奈「あの、彼方さん」
彼方「ん〜?」
璃奈「その……」
言いたいことは、分かる。
先んじて良いよ。って言ってあげることもできる
それは多分、璃奈ちゃんが望んでいることだけど
でもきっと、望んでもいないことだろうから……待ってみる。
璃奈「い………」
璃奈「……一緒に、買い物して欲しい」
璃奈「私だけじゃ、上手く買い物出来ないと思うから……」 璃奈ちゃんだって買い物くらいはできるだろうけど、
どれがいいか、どれが必要なのか、何を買えばいいのか。
初めて作るものだろうから、不安があるのかもしれない
彼方「いいよ〜」
彼方「いつにする〜?」
璃奈「じゃぁ……今日時間あったら」
璃奈「家で練習して」
璃奈「早ければ明日、学校の調理場借りて作ろうと思う」
彼方「そうだねぇ……クリームとか使うと日持ちしないから……」
彼方「でも、本番は来週とかにして、今週は練習でもいいんじゃないかな〜?」
璃奈「なら、土曜日……彼方さんの時間が欲しい」
璃奈「私と一緒に買い物して……作り方教えて欲しい」 彼方「土曜日ねぇ……」
彼方「うん、大丈夫だと思うよ〜」
璃奈「本当? 無理してない?」
彼方「大丈夫だよ〜」
いつまでに作れるようにならないとダメとかいうのはなさそうだけど、
難しいようなら、作って日持ちさせれるものにして
気長に出来るもの2するというのも悪くはない
彼方「もしあれなら、やっぱりクリームとかフルーツは使わずに――」
璃奈「ううん、やってみたい」
璃奈「大丈夫、彼方さんを太らせたりしない」
彼方「何を言ってるのかな〜?」
それはもう、意気込みを露わにするかのような表情……に見える璃奈ちゃんの頬をむにっと抓む
まぁ、気にしてはいるけど。
でも、それはそれこれはこれ。
彼方「なら、練習は小さめに作ってみる〜?」
璃奈「うん、そうする」
彼方「ほかにも考えることはあるし」
彼方「作るケーキの構想を立てよ〜」 >>1の女子力が高くてビビる
なんで服とかお菓子の話をこんなに広げられるんだ…… ああいうのが良いかな、こういうのが良いかな
そんな話をしていると、時間が過ぎていることを忘れちゃう。
表情は大きく変わらなくても
楽しんでるって分かる璃奈ちゃんはとっても可愛らしく見える
それはまるで、妹のように。
璃奈「……こんなもので良い?」
彼方「ふむふむ〜」
彼方「綺麗にまとめたねぇ……」
璃奈ちゃんは授業でもないのに、
話した内容を綺麗にノートに纏めてるなんて……凄いなぁ
もしかしたら、璃奈ちゃんにとってはこれも授業なのかもしれない。
彼方「これで大丈夫だよ〜」
彼方「これだけしっかり纏められるなら」
彼方「すぐに作れるようになりそう」
璃奈「ディスカッション……ううん、ただ、彼方さんのと話すのが楽しかっただけ」 璃奈「彼方さんが優しく教えてくれるから」
彼方「そんなに煽てたって、ケーキのレシピくらいしか出ないよ〜?」
璃奈「十分……」
璃奈ちゃんはそう言うと、
思い出したようにメモを脇に置いて私を見る
璃奈「普段はここで寝てることがあるって、せつ菜さんに聞いた」
彼方「あぁ、だからか〜」
彼方「ここで璃奈ちゃんに会ったことなかったよね〜」
璃奈「そう。だから……」
璃奈ちゃんは自分の膝を叩く
エマちゃんがやるようなその仕草は……そう、膝枕の合図
璃奈「使って?」 彼方「い、いやいやいや!」
彼方「ダメだよ〜」
璃奈「脂肪が足りない?」
彼方「彼方ちゃんと璃奈ちゃんでは差があるからねぇ」
彼方「足を痛めちゃうよ〜」
璃奈「そっか……」
璃奈「ごめんなさい」
彼方「ううん、大丈夫」
彼方「璃奈ちゃんが美味しいお菓子を作ってくれるだけで」
彼方「彼方ちゃんは嬉しいよ〜」
璃奈ちゃんの膝枕は魅力的だけど
それはもうちょっと大きくなってからじゃないと難しい
だから残念だけど、気持ちだけ。
彼方「美味しいケーキ、作ろうね〜」
璃奈「うん……頑張る」 ――――――
―――
[土曜日]
そうしてやって来た土曜日
いつもよりも少し早い時間に起きて、家事を片付けてから家を出る。
本当はゆっくりしようと考えていた土曜日だけど、
璃奈「彼方さんっ」
彼方「おぉ〜う〜」
でも、こういうのも悪くはないなぁ……って、思う。
土曜日のお昼に約束をして、
待ち合わせをして……気付いたほうが声をかける
彼方「かわいい服だねぇ」
璃奈「彼方さんも、いつもより大人っぽく見える」
彼方「そう〜?」
くるって回ると、
璃奈ちゃんはそうしてると可愛く見える。と、無表情の中で笑った 璃奈「今日はお願いします」
彼方「お姉ちゃんに任せなさ〜い」
お休みの日に璃奈ちゃんと二人きりで出かけるというのは初めてだったけれど
でも、悪くない気分だった。
いつもは、隣にいる遥ちゃん
それが、今日だけは璃奈ちゃん
目線も、歩く速さも、かけてくる声も言葉も違う。
璃奈「……彼方さんと私」
璃奈「ほかの人からはしまいに思われてるのかな?」
彼方「ん〜……どうだろう」
背丈はともかく、髪質も色も瞳も違う。
姉妹というよりは友達だと思われるきがするけど……多分、璃奈ちゃんが求めてるのは違う
彼方「どちらかというと親戚じゃないかな〜」
彼方「遊びに来た従妹とお姉ちゃん」
璃奈「従妹……でも、良いな……」 ぼそりと呟かれた璃奈ちゃんの声
聞いて欲しかったのか、
ただ、零れ置落ちてしまっただけなのか。
考える間に、璃奈ちゃんは先に進めて……
璃奈「私、一人っ子で……親戚もあんまり……」
璃奈「だから、彼方さんが従姉だったらなって……少し思う」
璃奈「ううん」
璃奈「本当にお姉さんだったなら、すっごく良かったんじゃないかって、思う」
彼方「璃奈ちゃんが妹だと、それはそれで得面白そうだね〜」
彼方「遥ちゃんとも仲良くできそうだし〜」
あんまりゲームの話とかはしないけど、
遥ちゃんは、璃奈ちゃんが興味を持ってるようなことにも興味を持ってくれる子だから。
きっと、仲の良い姉妹になったんだろうなぁ……
璃奈「……お姉ちゃん」
彼方「えっ……」
璃奈「今日だけ……お姉ちゃんって、呼んでみても良い?」 かすみちゃんなら悪ふざけ、しずくちゃんなら演技の練習か何か。
そんな話を真剣に切り出した璃奈ちゃんだったけれど、
すぐに自分の言葉を恥ずかしがってか、
璃奈ちゃんボードの代わりとでもいうかのように鞄で顔を隠す
璃奈「ごめんなさい……言ってみただけ」
彼方「………」
彼方「良いよ〜?」
彼方「私のこと、お姉ちゃんって呼んでも良いよ?」
彼方「別に減るものじゃないし、嫌な事でもない」
彼方「むしろ、嬉しいよ〜」
遥ちゃんが聞いたら、ちょっぴりむくれそうな気がするけど
でも、可愛い妹は何人いたって困らない
なんて――それこそ遥ちゃんがむっとしちゃう
けれど、
一人っ子の璃奈ちゃんが姉妹を経験してみたいなら、
その相手に私を選んでくれたなら、
それは、とってもありがたいことだと思う。
だから……受け止める
彼方「お姉ちゃんでも、お姉さんでも、姉さんでも、姉貴でも、姉御でも」
彼方「好きに呼んで〜」 璃奈「お姉ちゃん……って、呼んでいい?」
彼方「うん」
璃奈「じゃぁ……お姉ちゃん……」
表情はあんまり変わらない
けれど、その言葉を噛みしめているかのような声は、
笑みを浮かべているにも等しい緩みが感じられる
私をお姉ちゃんと呼ぶこと
それで璃奈ちゃんが喜んでくれると、私まで嬉しく感じられる
彼方「なに〜?」
璃奈「……っ……」
璃奈ちゃんは鞄の中に入っていたボードを引っ張り出すと、
それで顔を覆う
璃奈「璃奈ちゃんボード[^-^]」
璃奈「返事をされると……少しドキドキする」 私は遥ちゃんに言われ慣れてるけれど、
他の人……璃奈ちゃんに言われ慣れてるわけもなくて、ちょっぴりむず痒い
璃奈ちゃんも似たようなものらしくて
照れくささを感じるその声は、私には向けられることもなくどこかに消えていく
彼方「………」
少し、考える。
これは軽率な事なんじゃないかって
でも、別に姉妹では普通のことで
友達同士だって普通のことで
だからそう……今日限りの姉妹なら別に悪いことじゃないと、考えて。
璃奈「あっ……」
彼方「行こっ?」
璃奈ちゃんの手を握る。
遥ちゃんとしているように、当たり前に。
璃奈ちゃんは数歩だけ躓くように遅れたけれど
すぐに隣に並んでくれた
ちらちらと向けられる視線……そして、手を握り返される感触
それを感じて
璃奈ちゃんが喜んでくれていたらいいなと考えながら、顔を見ることはなかった ――――――
―――
彼方「お邪魔しま~す」
璃奈「私達しかいないから、気にせず上がって」
彼方「は〜い」
予め買うものは決まっていたこともあって、
さっと買い物を済ませて、璃奈ちゃんのおうちへと移動
以前来た時にも思ったけれど……やっぱり、立派に広いおうちだ
彼方「そしたら、イチゴはとりあえず冷蔵庫入れておこうか」
璃奈「うん」
璃奈ちゃんはメロンやパイナップルなども使ってみたいと言っていたけれど、
スーパーに缶詰が売っていなかったメロンだけは準備の手間を考えると、難しい
予めカットされていたものを使うのなら良いけれど、
カットされているものもコンビニでは売ってないから……当日は厳しい
そうして選ばれたのが、
パイナップル、みかん、桃、イチゴの四種類の果物
イチゴ以外は缶詰を利用して、イチゴだけはそのまま売ってる方を使うということにした。
彼方「よぉし〜やっていくよ〜?」
璃奈「うん」 璃奈「……お姉ちゃん、まず何をしたらいいの?」
璃奈「クリーム? クレープ生地? それとも、スポンジ?」
彼方「そうだねぇ」
彼方「先に言っちゃうと、クレープ生地を先に作るよ〜」
彼方「スポンジ部分は寝かせずに作ってそのまま焼きの工程に入るけど」
彼方「今回作るスポンジ部分は、さらに広く薄くだから過熱する時間が短いから比較的早く終わっちゃうからね〜」
璃奈「分かった……」
璃奈「えっと……」
璃奈ちゃんは自分で書いていたメモを取り出して、
必要な材料を袋から出していく
一つ一つ確かめながら取り出す姿には真剣さが感じられて、
元々手を抜く気はなかったけれど……もっと、しゃっきりしようと思わされた。
彼方「バターは冷蔵庫入れずに出しておいていいよ〜」
彼方「必要な分を切り取ったら冷蔵庫に入れよう」
璃奈「常温で少し柔らかくする……?」
彼方「そう。そのあと湯煎でもう少し溶かすけど、冷蔵庫から出した直後よりは楽になるからねぇ」 基本的に私は横から指示を出すだけで、
作るのは璃奈ちゃんというのが今回のやり方。
流れとしては
1、クレープ生地作成
2、スポンジ作成
3、クリームを作成
4、クレープ生地を焼く
5、スポンジとクリーム、クレープ生地を合わせて完成
という予定。
クリームはチョコクリームを作ったりとか色々あるけど……。
彼方「そしたら、璃奈ちゃん」
彼方「まずは薄力粉をカップに入れよう」
彼方「容量は……小さめだから80くらいで」
璃奈「薄力粉……」
中サイズの薄力粉の袋を取り出して、袋を開ける
料理用の測りの上に置いたカップに入れて量ってから
それをさらに粉ふるいへと移し替えてボウルに振るっていく 彼方「良いよ〜ゆっくり、丁寧にやればいいからね〜?」
璃奈「うん……」
薄力粉がはかりの周囲に零れたり、
少なからず粉が舞って咳き込んだりと……
ちょっとした事故もありながらも、順調に進んでいく
彼方「薄力粉を振るったボウルに砂糖と、卵は2つ」
璃奈「……砂糖と、卵……」
璃奈「砂糖入れてから混ぜる前に卵?」
彼方「そうだねぇ……卵を入れてから混ぜる方で良いかな」
璃奈「わかった……」
メモを確認しながら材料を用意していたように、
都度都度聞きながら、璃奈ちゃんは段階を踏む。
凄く丁寧で、真剣な姿は可愛らしくも……かっこよく見える
これは多分……私だけが知ることの出来た璃奈ちゃんだ >>80
最近Twitterで聞いたんだが、即興で書き上げるタイプもまあまあ居るみたいやで 彼方「そしたら牛乳をとぽとぽとぽ〜って」
璃奈「うん」
洗い物がどんどん増えていくのも気にせずに、
正確に作る為と新しい計量カップを用意して、牛乳を注いでいく
彼方「100くらいで良いよ〜」
璃奈「100……そしたら……生地もどきに入れて混ぜる」
彼方「うんうん。良い感じだねぇ」
璃奈「んっ……んっ……」
だんだんと弾力の出始めてくる生地を、
小さな手で一生懸命に璃奈ちゃんは押し込んでいく
彼方「手伝おうか〜?」
璃奈「だい、じょうぶ……っ」
少しつま先立ちになって、
押し込みながら前傾姿勢になって、また戻って……
彼方「無理しないようにね〜」
璃奈「あ……」
汗を浮かべ始める璃奈ちゃんの額を、ハンカチで拭う
彼方「ここまでは順調に来てるから、大丈夫だよ〜」 粉が残ったり、だまにならない様にしっかりと混ぜ合わせて……生地は完成
ラップをかけて、それを冷蔵庫へと入れて少し寝かせる
璃奈「ふぅ……」
彼方「お疲れ様〜」
璃奈「あっ……洗い物っ」
彼方「良いよ良いよ〜何もしてないのもむずむずしちゃうから〜」
璃奈ちゃんが生地を作っている間に、洗い物を片付けていく
また使うことにはなると思うけど、
これをさらにため込んでいった後の大変さは、身に染みてるから。
璃奈「あり、がとう……」
彼方「どういたしまして〜」
彼方「でも、今はお姉ちゃんだから気にしなくて大丈夫だよ〜?」
璃奈「お姉ちゃん……」
璃奈「……うんっ……お姉ちゃん……」
最近は遥ちゃんと二人で料理することもあるから……思う。
こういうのも、楽しいって。 彼方「そうしたら、次は土台……」
璃奈「スポンジ部分……」
彼方「そう。これがしっかりしているかどうかでケーキが直立するか崩れ落ちるかが決まるよ〜!」
彼方「形が歪だったりすると、盛り付けに偏りが出ちゃったりもするから」
彼方「でも、ちゃんと丁寧にやってる璃奈ちゃんなら、大丈夫〜」
彼方「型に、オーブン用のシートを敷いて〜」
璃奈「このくらい?」
彼方「ううん、型からはみ出るくらいがいいかな〜」
璃奈「………こう?」
彼方「うん、そのくらい」
彼方「そしたらまた、薄力粉の出番だよ〜」
クレープ生地を作るときに一緒にやっておいても良いけれど
今は教える時だから、一つ一つ丁寧に お菓子作り詳しすぎワロタ
ケーキ丸々なんて作ったことないわ すげえ人だマジで 彼方「振るい終わったら、バターとかを湯煎するためにお湯を沸かそう」
璃奈「うん……」
スポンジを作る分の薄力粉を量って、粉ふるいで軽く振るって用意しておく
そうしたら、次に常温で溶かしておいたバターをさらに湯煎するためのお湯を沸かせる
彼方「お湯が沸くまでに、卵と砂糖を混ぜるよ〜」
璃奈「手の方が良い?」
彼方「ううん、ここはハンドミキサーで大丈夫」
ボウルに卵と砂糖を加えて、ミキサーで混ぜていく
彼方「その調子その調子」
璃奈「ミキサーの振動で骨が震える……」
彼方「ずっと握ってると疲れちゃうんだよねぇ……」
彼方「ん〜……そうしたら、そのボウルのまま湯煎しつつもう一回混ぜて〜」 璃奈「この速度で平気?」
彼方「一番早いの〜」
璃奈「わかった……ん……」
璃奈「……ん゛ん゛ん゛ん゛……」
ハンドミキサ―を高速に切り替えた途端、
璃奈ちゃんの口から飛び出てくる濁音の連続
表情と動きは真面目な分、それはとっても――
彼方「あはははははっ、璃奈ちゃっ……だめっ……それは……!」
彼方「あはははっ!」
璃奈「……楽しい……」
嬉しそうに零した璃奈ちゃんは、
最初ほど緊張もしていないようで……少しだけ余裕が感じられる
うん、良い感じ
料理は楽しくやらないとね〜……でも、
今のは狡いよ〜っ! 彼方「あるい程度温かくなったら、湯煎を止めていいよ」
璃奈「……このくらい?」
彼方「うん、そう。もう外して平気」
璃奈「そしたらバターを湯煎する?」
彼方「そうだねぇ。バターを湯煎しつつ、もう一回生地を軽く混ぜよっか」
バターを湯煎して溶かしながら、
人肌程度に温まった生地のもとをもう少しだけ混ぜていく
そうしたら、振るった薄力粉の出番
彼方「薄力粉を生地の上にまんべんなく広げちゃおう」
璃奈「まんべんなく……」
彼方「緊張しなくても、混ぜるから少し重なってたりしても大丈夫」
璃奈「わかった」
そのあとは、ハンドミキサーからゴムベラに切り替えて、少しだけ混ぜる 璃奈「ミキサーじゃダメ?」
彼方「遊ぶからだ〜め」
璃奈「ごめんなさい」
彼方「あははっ、本当はミキサーだと混ぜ過ぎちゃうからダメなだけだよ」
彼方「ゴムベラでゆっくり、本当に軽く混ぜるだけで良いの」
璃奈「そうなんだ……」
彼方「本当に、数十回混ぜる程度で良いよ〜」
それが終わったら、
生地の内、ほんの少し……計量カップの半分ほどを溶かしたバターと混ぜ合わせる
璃奈「バターの良い匂いがする……」
彼方「バターだけなら舐めても大丈夫だよ?」
璃奈「ううん、平気」
彼方「なら、今混ぜたものと、混ぜてない生地を合わせて……」
彼方「また、さっきと同じくらい軽くかき混ぜて」 彼方「そして、ここで型に流し込む〜」
璃奈「型に流し込む〜」
少しとろとろしているまだ液体の生地が、
長方形の型の中に流れ込んでいく。
生地のほんのりと甘さを感じる匂いは美味しそうだけれど、
人によってはお腹を壊すので、推奨は出来ない
彼方「今回は、璃奈ちゃんが私の指示通りに計量してやってくれたから大丈夫だけど」
彼方「普通のお料理とか、味見しないと大変な事になっちゃうからね〜」
璃奈「うん……知ってる……」
一度地獄を見た。とでもいうかのような璃奈ちゃんは、
ゴムベラを使って型の中に全部流し込む
璃奈「これで、オーブンで焼く」
彼方「その前に空気を抜かないと」
彼方「こう、少し上から2回3回くらい落とすんだよ〜」
璃奈「なるほど……」 彼方「それじゃ、オーブンにゴ〜っ」
彼方「余熱で温まってるから、火傷に気を付けて」
璃奈「うん……わっ……」
空気を抜き終わったら、
あらかじめ180℃で余熱しておいたオーブンに入れて160℃で20分ほど、焼く
彼方「その間にクリームを作ろう」
璃奈「チョコレートは湯煎しないの?」
彼方「するよ〜少し残しておいて、砕いたのを粉末として振りかけるのもやってみる?」
璃奈「やってみるっ」
チョコレートを湯煎するのは、バターと違って都度都度混ぜたりすることが多いので、後回し。
先に普通のクリームを作る
もちろん、既製品の生クリームを使う。 彼方「生クリームに、砂糖とバニラエッセンスを加えて」
璃奈「……このくらい?」
彼方「砂糖はお好みかな〜? 今回の量からして、大さじ半分くらいがちょうどいいと思うよ」
璃奈「ならそうする……」
彼方「チョコレートは甘さ控えめで良いの〜?」
璃奈「うん。甘いのと、そんなに甘くないのを作りたい」
彼方「おっけ〜……なら、それで混ぜちゃおうか」
彼方「残した生クリームはチョコレートの方に使おう」
普通の生クリームの方は、そのくらいで十分
あとはチョコレートの方
もう一度お湯を沸かした鍋に、細かく刻んだチョコレートを入れたボウルを浮かせる
彼方「ゴムベラでゆっくり、混ぜつつね〜」
璃奈「わかった……」
彼方「良い感じに液体になったら教えて」
彼方「洗い物しちゃうから」
璃奈「うん……お姉ちゃんお願い」
彼方「まかせなさ〜い」 そうして、溶かしたチョコレートに、
残しておいた生クリームを少しずつ混ぜ合わせていけば……チョコクリームの出来上がり。
彼方「ちょっと味見してごらん」
璃奈「ん……美味しい」
璃奈「お姉ちゃんも……」
彼方「ぁ〜ん……」
璃奈ちゃんから差し出されたチョコクリームを乗せたスプーンに口をつける。
甘さ控えめなビターなチョコの味わいが残っているクリームは
ほろ苦くて、美味しい
彼方「うん、じょうでき〜」
璃奈「やった……」
璃奈「あとは、クレープ生地を焼く?」
彼方「うん、冷蔵庫から生地を取り出して〜」
璃奈「……クッキ―生地みたいになると思ってたのに……」
彼方「クレープのは液体だよ〜」
彼方「もちろん、ちょっぴりぷにぷにした感じにはなってるけどねぇ」
彼方「手でやったのは、その方が良いからだから」 彼方「フライパンを温めて、キッチンペーパに油を染み込ませて塗ろう」
璃奈「かけるのじゃだめなの?」
彼方「薄く油を塗りたいから、ペーパーでやった方が良い感じなるんだよ〜」
璃奈「なるほど……」
彼方「そしたら、おたまの……半分くらいだね」
彼方「それをフライパンに広げるように垂らして……そうそう」
中火でゆっくりとクレープの生地を焼き上げていく
ミルクレープだったら、一番上は全体を覆えるようにとか……だけど。
今回は長方形だから、サイズを大きく変えたりする必要がないのもポイント
彼方「次の焼く前に、もう一度油を塗った方が良いよ〜」
璃奈「うんっ」
そうして、2枚分くらいのクレープ生地を焼き上げるころに、スポンジケーキが焼き上がる。
彼方「クレープ中断して、スポンジを出そう」 璃奈「綺麗な色……」
彼方「うんっ、良い感じ」
彼方「熱いからその手袋は絶対に外したりしたらだめだよ?」
璃奈「うん……これをどうするの?」
彼方「もう一度、数十センチ上から落として空気を抜くんだよ〜」
彼方「重いし熱いからゆっくり」
そうして、型ごと二回ほど落して空気を抜いたら、
型とオーブン用のシートを外して、網の上で少しだけ冷ます
彼方「そしたらまた、クレープ生地焼いちゃおう」
璃奈「忙しい……」
彼方「大丈夫、慌てなくて平気だよ〜」
璃奈ちゃんに落ち着いてもらって、
そこからまた少し時間をかけてクレープ生地を焼き上げて……
彼方「はい、デコレーション前までかんせ〜い!」
璃奈「やっと……」
璃奈「疲れた……」 成し遂げたというようなため息をつく璃奈ちゃん
確かに、慣れないことをやっていくのは凄く疲れただろう。
璃奈「これに、本当は洗い物もやらなきゃいけなかった……」
璃奈「ありがとう、お姉ちゃん……」
彼方「どういたしまして〜」
彼方「あとはクリームとクレープをスポンジの上に重ねて」
彼方「カットしてから、フルーツを乗せたり、クリームで顔を書いたりするんだよ〜」
フルーツを乗せたりしてからでもいいけれど、
それだとカットが難しくなるから、先に生地とクリームを重ねるだけにする。
璃奈「あと少し……頑張る」
彼方「その調子〜」
彼方「デコレ―ションは彼方ちゃんも手伝うね〜?」
璃奈「うん……」
そうして……
初の璃奈ちゃんボード&フルーツ載せのチョコとバニラ風味のケーキが完成した 璃奈「完成……!」
彼方「おめでと〜」
璃奈「ありがと……美味しいケーキが出来たと思う」
彼方「じゃぁ、さっそく食べてみよっか〜」
璃奈「あっ……待って」
彼方「ん?」
璃奈「……あ〜ん……」
璃奈ちゃんは私が取るのを阻止した璃奈ちゃんから差し出されるケーキ
一口で食べられる程度の大きさだから……
そのまま、美味しくいただく
彼方「ぁ〜む……」
璃奈「どう……かな?」
彼方「んっ……ん〜っ、良いよ。すっごく美味しい」
彼方「璃奈ちゃんも、あ〜ん……」
璃奈「ぁ……ぁ〜んっ……」
璃奈「美味しい……っ」 彼方「良かった〜」
璃奈「自分で作ったとは思えない……」
彼方「作ったんだよ? 璃奈ちゃんが」
彼方「レシピを見て、自分で頑張ったのと似たようなものだよ〜」
璃奈「ううん、違う」
璃奈「一人じゃなかった」
璃奈「お姉ちゃんが……彼方さんがいてくれた」
璃奈「ずっと話しかけてきてくれて」
璃奈「ちょっぴりふざけてみたら楽しそうに笑ってくれて……」
彼方「璃奈ちゃん……」
畳みかけるように紡がれた言葉は不意に途切れて
璃奈ちゃんは袖で目元を拭う。
璃奈ちゃんだって、料理をすることができる。
でも、きっと。
それは一人やっていたことで
自分のためにしかやってこなかったことで……だから
私が一緒にいるというのが、嬉しいのだろう。
璃奈「……ありがと……楽しかった……」 彼方「……また」
彼方「またお料理教えてあげるよ〜」
彼方「お菓子でも、そうじゃなくても」
璃奈ちゃんの頭を撫でる。
頑張ったから
よくやってくれたから
それと……大丈夫だって、安心させてあげたいから。
彼方「また今度」
彼方「今度は、歩夢ちゃん達も誘って……ね?」
璃奈「……うん……そうする……」
璃奈「彼方さん……お姉ちゃん……」
璃奈「また、宜しくお願いします」
彼方「良いよ〜お姉ちゃんに、任せなさ〜い」
そして、週明けに許可をもらって学校で作ったケーキは、
焼き菓子同好会のみんな
そして、私たちのスクールアイドル同好会でも、大好評だった。 case.2:璃奈とお菓子作り 終了
ヒストリ
case1.果林(服選び 5-32)
case2.璃奈(お菓子作り 45-102) まだ8回の短編を残してると思うと夜しかすやぴ出来ない 素晴らしすぎるよ 一人一人が濃い
自分の推しカプでも自分で立てたテーマでもないのにこんなしっかり書けるなんて天才 今年の節分はとびきりの高級らっかせい買います
数日前に生チョコケーキ作った自分にタイムリーな話題で嬉しい
メレンゲの混ぜ方とか慣れてないとなかなか難しいからなあれ 2、しずく
3、かすみ
4、歩夢
5、愛
6、せつ菜(または、菜々)
7、エマ
9、遥
0、侑
>>115 キャラクターセレクト(上の2〜0からのみ)
>>117 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ ある日、部室に行くと歩夢ちゃんが一人きりで椅子に座っているが見えた。
その手には、余り見慣れないものが握られていて。
私はついつい、声をかけてしまった
彼方「何してるの〜?」
歩夢「ふぇっ!? ぁっ……か、彼方さんっ」
彼方「なに隠したのかな〜?」
歩夢「あ、その……これは何でもなくてっ」
さっと後ろに何かを隠した歩夢ちゃん
どこかに何かが引っかかったのか、
唐突に聞き馴染みのない音が大音量で聞こえてきた
歩夢「あっ……」
彼方「ん〜?」
歩夢「……うぅ……」 音が聞こえて隠せないと悟ってか、
歩夢ちゃんは隠していた機械を私の前に晒して、音量を消す。
ちらっと見たときは見慣れなかったものの、
はっきりと見れば、ゲーム機だと分かる。
虹ヶ咲学園には数多くの同好会が存在しており、その中にはゲームに関するものもある。
部費で購入することは許されていないものの、
放課後、かつ、部室であればゲームをしても良いという許可は出ている。
でもそれは……
彼方「いけないんだ〜」
歩夢「す、少しだけ進めたくなっちゃって……」
彼方「面白いの?」
歩夢「………」
歩夢ちゃんは少し黙ると、
目を背けがちに「そうですね」と呟く
本当に面白い……のだろうか? 彼方「なんだか不安になるなぁ」
歩夢「そ、そんなことないですよ!」
歩夢「えっと……そうだ。彼方さんもやってみますか?」
彼方「え〜? 良いの〜?」
歩夢「は、はいっ」
歩夢ちゃんからゲームを受け取って、ソファに腰かける
歩夢ちゃんも私の隣に移動して、
操作の仕方を教えてくれる
彼方「……画面暗くない?」
歩夢「これでも最大限明るくしてるんですよ」
歩夢「スマホとかに慣れてると、えーってなりますけどね」 彼方「えっと……これ、初めから出来ないの?」
歩夢「できませんよ」
歩夢「あ、いえ……初めから出来るには出来るんですけど」
歩夢「途中からは出来ないっていうか……」
歩夢「オートセーブなので」
歩夢「次のオートセーブまで進まないと、前回までのデータがすべて消えて初めからできます」
彼方「ん〜?」
私はゲームに詳しいわけじゃない。
詳しいわけじゃないから絶対とは言えないけれど
オートセーブは一度ロードしたら終わりなのだろうか……
いや、そんなはずがない
歩夢「全部じゃないらしいんですけど、数十本に一本……ロードしたらデータが消えるのがあるらしくて」
歩夢「それが手に入ったんですっ」
歩夢「あぁでも、このゲームは別にそれだけじゃないんですよ?」
彼方「彼方ちゃんの勘違いじゃなければ」
彼方「歩夢ちゃんが自分でこの……バグ? のあるゲームを買ったって聞こえるんだけど……」
歩夢「えへへ……安かったので」 彼方「そっかぁ……」
安いから買ったというより、
元々そう言うゲームが好きだったって感じに聞こえる歩夢ちゃんの話
とりあえずゲームを進めてみようと画面とにらめっこ
ちょっと潰れた感じに見えるメニュー画面を開いて、閉じて。
彼方「……これって、何?」
歩夢「何っていうと?」
彼方「RPGとか、アクションとか、シミュレーションとか……」
歩夢「えっと……RPGだったと思います」
彼方「装備が何もないんだけど」
歩夢「死ぬと装備消えちゃうので……」
彼方「そっかぁ……」
彼方「どこかの村とか街とかで買うことできないの?」
歩夢「それ私も考えたんですけど……その……」
歩夢「無装備って、所謂全裸らしくて……そのまま入ると、村とか街の人に殺されたり、牢屋エンドです」
彼方「ん〜……ん〜?」
歩夢「なので、外で適当な魔物を倒して生成したり、旅人を襲撃して追いはぎしないと……」
彼方「おやぁ?」
物騒な単語が聞こえた気がするけど……気のせい気のせい 彼方「わっ……何か出てきた!」
暫く森のような場所を歩いていると、狼のような生き物がどこからともなく飛び出してくる
一匹だけだけど、敵視しているというか、
完全に威嚇されているように見えるけど……白くてちょっぴりかわい――
歩夢「彼方さん操作操作!」
彼方「えっ?」
白い狼は一瞬で距離を詰めてきて、画面には真っ赤な血しぶきが飛び散る
激しく揺さぶられるような映像が流れ……そして
血で染まった画面はそのまま暗転する
彼方「え? えっ?」
歩夢「死にました」
彼方「えぇ〜っ!?」
彼方「今の戦闘だったの!?」
彼方「戦闘に入ったみたいなモーション何もなかったのに〜!?」
歩夢「そういうゲームなので……」
彼方「えぇ……」 歩夢「基本的に、出てきた生き物はすべて敵だと思った方が良いです」
歩夢「そうしないと、あっという間に殺されちゃうので……」
彼方「そんなぁ……逃げるとか戦うとか選択肢はないの〜?」
歩夢「ない……ですね」
歩夢「敵が出てきたら一目散に十字キーを操作して動かして……逃げ切るか」
歩夢「隠れてやり過ごせれば……って感じですね」
困ったような話す歩夢ちゃんは
けれど、それが面白いとでもいうかのように笑う。
私には、このゲームの面白さはちょっとわからないけれど
でも、歩夢ちゃんの楽しそうな顔を引き出せるゲームは、悪くない
彼方「そう言えば……オートセーブにたどり着けなかったらデータ消えるんだよね?」
歩夢「そうですね」
彼方「今……たどり着けなかったよね?」
歩夢「えっと……はい」
彼方「っていうことは……はじめから?」
歩夢「そうなります……」
彼方「わ〜っ! ごめ〜んっ!」 彼方「せっかく歩夢ちゃんが頑張ってたのに!」
歩夢「大丈夫ですよ、今のは最序盤の……まだ初めの村を出たばっかりなので」
彼方「最序盤で全裸だったの……?」
歩夢「村を出たときにオートセーブしたので、その先で死んで全裸スタートしたばっかりだったんです」
歩夢「このゲームのクリア方法は、とにかくゲームをやり続けること」
歩夢「中断せずに続ければ、一回だけオートセーブでやり直しできるので……」
彼方「えげつない……」
しかもこのゲーム機は充電式ではなく、電池式ときている
電池が切れたら終わるので、つけっぱなしになんてしていられない
だから、歩夢ちゃんも学校にまで持ち込んでやっていたんだろう
彼方「初めからやってみてもいい〜?」
歩夢「良いですよ」
歩夢「もうかれこれ数十回死んでるので……気を付けてください」
彼方「難易度選択とかできないのかなぁ?」
歩夢「クリア後に周回特典で出来るみたいですよ。最大5つ」
彼方「5つも下げられるなら、元々――」
歩夢「いえ、5つ上げられるだけです」
彼方「なんで〜っ!?」 本当に村と言うようなほとんど何もないような場所からのスタート
農夫の服(上)、農夫の服(下)、鍬
これが初期装備である。
村では薬草とかは買えるものの、武器は買えない
しかもこれ……
彼方「チュートリアル終わったと思ったら村が壊滅したんだけど〜……?」
歩夢「チュートリアルで道具を買っておかないと、後々困るんですよね〜」
彼方「教えてよ〜」
歩夢「ごめんなさい……あんまり口出ししない方が良いかなって思って」
彼方「良いよ良いよ〜」
彼方「気にせずバンバン言って〜」
そして私にゲームクリアさせて〜
これ、私一人だと何百回死んでもクリアできないよ……
うん、絶対に。 歩夢「ここで道が分かれてるんですけど……案内図がここにあるんです」
彼方「あっ、本当だ……左が安全で右が危ない……?」
彼方「左にいけばいいの〜?」
歩夢「いえ、左に行くと賊に襲われて殺されます」
彼方「えぇ……?」
歩夢ちゃんは、最初看板に気付かなくて右に進んだらしいけれど
その先で死んだために、今度は左に行ったのだという
そうしたら襲われた挙句、
看板が云々という " 無意味 " な話を聞かされながら殺されたのだそうだ
歩夢「この看板、賊が罠として書き換えたらしいです」
彼方「それを殺されたときに聞かされると……」
歩夢「でも、看板は壊れて落ちてるので……探して見つけないといけないんです」
彼方「意味ないね〜……」
歩夢「無いんですよ……ほんと、見つけても、何にも」 彼方「……じゃぁ、右に行く〜」
歩夢「右側はさっきの狼が出てくる場所なので気を付けてください」
歩夢「ちなみに、三回攻撃したら、鍬は壊れます」
彼方「え……っと?」
彼方「攻撃ってどうするの?」
歩夢「この丸ボタンです」
歩夢「△ボタンで防御出来ますけど……」
歩夢「運が悪ければ一回で鍬が壊れます」
彼方「酷いなぁ……」
誤って防御した挙句、
運が悪く鍬が壊れて武器なしのままの逃走劇
木に登っても逃げきれずに喰い殺されること5回
歩夢「あ、そこは蛇の棲家なので隠れたら死にます」
彼方「にゃぁっ!?」
歩夢「×ボタン連打してください!」
そうして
歩夢ちゃんにヒントをもらいながら、ゲームを進めて十数分
画面が光に包まれて、左上の方でくるくると輪っかが回る
歩夢「やったーっ!」
歩夢「彼方さん、新しい場所ですよ!」
歩夢「オートセーブしました!」
彼方「え……」
彼方「や……」
彼方「やった〜っ!」 彼方「なんだか彼方ちゃん涙が出てきた……」
歩夢「私、昨日一日中やってもここまで行かなくて……」
彼方「歩夢ちゃん……っ」
今にも泣きだしそうな歩夢ちゃんを抱きしめる
このゲームは、一人でやっていたら間違いなく心が折れる
好きとか嫌いとかそういう問題じゃぁない……
これは、やっている間にストレスが溜まってきて、一回叫びたくなるくらいに非常識
いいや、理不尽に包まれてた。
歩夢「でも、私こういうゲーム好きなんです」
歩夢「理不尽で、意味不明で、世間ではクソゲーとか言われてますけど」
歩夢「でも、なんていうか……やりたいことを詰め込んだって感じがするから……」
彼方「なるほどねぇ」
彼方「うん、その気持ちは分かるよ〜」
このゲームの面白さはまるで分らないけどね〜…… 歩夢「彼方さん、続きやりましょう続き!」
彼方「あ、そうだね……私がやっちゃっていいの〜?」
歩夢「クリアしたのは彼方さんですから、続きもどうぞ」
彼方「じゃぁ、死んじゃったら交代で良い〜?」
彼方「難易度上がるけど〜」
死んだら装備全損
まぁ、今はもう服を着てるだけなんだけどねぇ……
歩夢「大丈夫ですよ」
歩夢「ここに来るまでの方法は……ほら」
歩夢「全力でノートに書いたので!」
彼方「おぉ〜……」
ノートのページを埋め尽くすような文字の羅列
消しゴムで消す手間も惜しんだのか、
二重線でいくつも消されていて、少し汚く見えちゃうけど……
私と歩夢ちゃんのやり取りがたくさん書かれていた 歩夢「彼方さんと相談しながらだから、ここまですんなり行けたんですよ」
彼方「すんなり……?」
昨日一日中かけてクリアできなかったというのを考えると、
確かに、十数分でステージの一つ? ダンジョン? を、クリアできたのはすんなりかもしれない。
けど、私的にはすんなりとはいけていない。
でも、私と相談しながらって
嬉しそうに言ってくれる歩夢ちゃんが見れたのは……嬉しい
歩夢ちゃんは笑わないなんてことはないけど、
でも。
やっぱり歩夢ちゃんには笑顔が似合う。
彼方「じゃぁさっそく――」
先に進めていこう。
そう言おうとした矢先に、部室の扉がガタガタと揺れる
せつ菜「すみません! 遅くなりましたー!」
愛「歩夢〜、カナちゃ〜ん! おっまたせ〜!」
慌ててゲームを隠す。
歩夢「ここまで……ですね」
彼方「そうだね〜……」 ゲームはあれだったけど
歩夢ちゃんとゲームをするのは楽しかった。
理不尽で、意味不明で
でも、だからこそ二人であれだこれだって話し合いながら
数十分かけて、ようやく一つのものをクリアする……それは、とても。
歩夢「あの……彼方さん」
彼方「ん〜?」
歩夢「良かったら部活の後、私の家に来ませんか?」
彼方「一緒にこれの続きやろうって?」
歩夢「彼方さんさえ、良ければですけど……」
歩夢ちゃんと知り合ってから、まだ一年経っていないけれど、
それでも同じ同好会のメンバーとして密接な時間を過ごしてきたと思う
だけどこんな風にお誘いされることはなかった。
だから。
彼方「うんっ、続き……彼方ちゃんも気になる〜」
私は歩夢ちゃんの家に行くことにした ――――――
―――
歩夢「どうぞ、上がっちゃってください」
彼方「お邪魔しま~す……」
彼方「おぉ〜……歩夢ちゃんの匂いがする〜」
歩夢「なっ、何言ってるんですかっ」
歩夢「もぅ……やめてくださいっ」
放課後の部活を終えたあと、
約束のゲームの続きをするために歩夢ちゃんの部屋に来ていた。
ピンク色のクッションやカーテン
水玉模様の掛布団
歩夢ちゃんらしい、可愛い部屋
彼方「ほかにもいろいろゲームあるんだねぇ」
彼方「ほかのも、似たようなものなの〜?」
歩夢「今回ほどの傑作は中々ないですよ」
彼方「傑作……?」
歩夢ちゃんの基準が分からない…… 歩夢「スポーツドリンクしかなかったので、すみません」
彼方「いいよ〜大丈夫」
彼方「スクールアイドルで頑張るようになってからは」
彼方「スポーツドリンクもより一層美味しいしね〜」
彼方「それより、続きやろ〜?」
歩夢「そうですねっ」
鞄の中からゲーム機を取り出した歩夢ちゃんから、受け取る
スリープモードみたいなのもないので、
ずっと電源が入ったままだったゲームは、
最後に見たときよりもちょっとだけ画面が動いていた。
歩夢「あっ……その、座る場所がないのでベッドに座っちゃってください」
彼方「え〜途中で寝ちゃわないかなぁ?」
歩夢「途中で寝ちゃっても大丈夫ですよ」
二人分の重さでベッドが軋む
敷かれている布団が沈んで
普通に隣り合うよりも、少しばかり距離が近い
彼方「……なんだか、近いねぇ」
歩夢「あっ、すみません……」 離れようとした歩夢ちゃんの手を掴んで、引っ張る。
歩夢「きゃぁっ」
ぼすっと私の肩に歩夢ちゃんの体がぶつかって
少しだけ歩夢ちゃんに甘い匂いが強くなる
歩夢ちゃんだって意識的に距離を詰めたわけじゃない
それに、私は別に嫌だから指摘したわけじゃないから……
彼方「近くていいんだよ〜」
彼方「今までこんなに近くにいたことがないからね〜」
彼方「……少し、嬉しい」
歩夢「彼方さん……」
嫌われてるとは思ってなかった
でも、そこまで好かれてもいないんじゃないかって
ちょっとだけ思ってた
もちろん、そんなこと歩夢ちゃんには言えないけれど。 彼方「ぁ〜……ゲーム! ゲームやろう!」
歩夢「そ、そうですねっ!」
学校では音を出せなかった分、
歩夢ちゃんの部屋では気にせずに音を出す。
ポップというか、ジャズというか、ロックというか。
なんだかよく分からないけれど、敵が出てきた時だけ激しさを増す謎のBGM
彼方「これって調べたら攻略情報出てきたりしないの〜?」
歩夢「無いですね……調べると攻略する暇あるならこのゲーム! って別のゲーム薦められます」
彼方「そっかぁ」
森を抜けた後は、平原のようなフィールドに出る。
見渡せるので、敵がいるようには見えないけれど……
歩夢「……あっ、彼方さん敵が来ます!」
彼方「えぇっ!?」
歩夢ちゃんが叫んだかと思えば、
画面が大きく縦にブレて、地面が急激に迫ってくる
とっさに四角ボタンと十字キーの上を押して、受身を取る
彼方「画面に血が……ぁっ……音変わった」 歩夢「あの変なBGMが一瞬途切れたように聞こえたので」
歩夢「敵が来るかと思ったんですけど……やっぱり……」
大きな鳥の形をした敵
画面下のテキストには、鳥のくちばしに頭が貫かれた。とあるので、
奇襲を受けてダメージを負ったということだろう
森の中で蛇にかまれたときの毒状態に似たような状況なのか、
どんどんHPが減っていく
彼方「戦うしかない」
歩夢「状態異常で下手に動くと死にますからね……でも、武器が」
彼方「無いんだよねぇ……」
そして案の定
飛ぶ鳥落すための何もないので
継続ダメージでじりじりと画面が暗くなっていき……やがて、息絶える
彼方「あ〜っ!?」
歩夢「再開して即死……」
彼方「む〜っ!」
歩夢「次、私がやってみます……」 私では即死して、オートセーブした森の出口から再スタート
装備品は全損したけど、
元々特に何も持っていなかったので、問題はない
彼方「どうする〜?」
歩夢「まず……戻ります」
歩夢「森の中に戻って、その中で木の棒とかそういうアイテムを手に入れるんですよ」
歩夢「鍬が無くなったので生成は出来ないですけど」
歩夢「石ころ一つでも、投擲武器になるのがこのゲームですから」
歩夢「彼方さんの仇だけでも取ってから死にます」
彼方「死ぬのは確定なんだねぇ……」
歩夢ちゃん曰く死にゲーというものらしい
死んで、死んで、死んで……一つ一つ解明していく。
なのに、セーブが正常動作しないなんて。
歩夢「木の枝発見!」 結局、その時点では道具をかき集めても足りず、
急襲してきた鳥に見事殺された。
そうしてまた、村からのスタート
歩夢「買えるだけ買う!」
売ろうと思えば持ち家さえ売れるこのゲーム
真っ先に持ち家を売りさばき、
アイテムを買えるだけ買って
村長の寝込みを襲って殺害し、剣を奪う
彼方「ひど〜い……」
歩夢「これも生き残る為なんですっ」
ロープと購入した鎌を組み合わせて、鎖鎌もどきを生成する
これで、あの鳥も切り落とせるだろうけど……
彼方「村人5人も……」
歩夢「どうせ、滅びますから」
彼方「わぁぉ……」 歩夢「えっとここは……」
彼方「さっきのところにあった茂みって調べたっけ〜?」
歩夢「あっ、戻って調べてみます」
因縁の鶏肉を焼いて食べるのを見守りながら、
歩夢ちゃんの攻略ノートに色々と書き込んでいく
まだオートセーブには辿り着けておらず
予断を許さない状態。
ちなみに、一回焼かずに鶏肉を食べて腹痛で死んでいるので
村からの再スタートは二回目だったりする。
……誤操作のせいで。
彼方「歩夢ちゃんっ、影……影が動いた!」
歩夢「火の影じゃ……」
歩夢「ない、ですね……」
元々暗い画面の中、
さらに黒くなっている部分から、変な骸骨が近づいてきた
彼方「骸骨……?」
歩夢「RPGではよくあることですよ」
歩夢「こういうのは、蹴り飛ばして逃げます!」
そして、逃げた先で囲まれて殺され……リスタート。
武器なし全裸で全力疾走
移動距離だけを稼いで……衰弱死で村に戻った。 そうやって数十回死に続けて……
ノート1冊を使い切るくらいにあれだこれだと攻略方法を書きだし、
話し合って。
歩夢「あっ、ダメ! そっちじゃないよ!」
彼方「えぇっ!?」
歩夢「逃げないと殺されちゃうっ」
彼方「うりやぁぁぁぁぁぁっ!」
コマンド連打で逃走劇
逃げ切れたら飛び跳ねるように喜び
殺されたら悪態をついてスポーツドリンクを飲み下す
緊張感と苛立ちと
まぁいろんなものが入り混じった暑さに、汗が浮かぶほど。
彼方「や〜ら〜れ〜た〜っ!」
歩夢「あぁ……」
百回目近い逃走劇は敗北し、画面にはゲームオーバーの文字
それを横目にベッドに倒れこむ
歩夢「もう、ダメですね……」 歩夢ちゃんも疲れたようで、
溜息をつきながら私の横に倒れこむ
頑張ったけれど、森の先から次のオートセーブまで進めない。
これはキツイ
でも、まだまだ何とかなる
彼方「まだだよ……歩夢ちゃん」
彼方「彼方ちゃんが、何とかして見せようじゃないか〜」
歩夢「彼方さん……」
彼方「途中までの道は分かってる」
彼方「どこで死ぬかも分かってる」
彼方「何が必要かも分かってる」
彼方「大丈夫……私と歩夢ちゃんなら、いける!」 彼方「村人は……とりあえず殺す、家は売る、手に入るものは全部手に入れるでしょ〜?」
彼方「素早そうな敵は逃げずに倒して〜……」
彼方「足の遅い敵からは逃げる」
彼方「とにかく辺りを探索して……進む」
歩夢「凄い……」
彼方「彼方ちゃん、勉強は得意だからねぇ〜」
彼方「復習ができれば、余裕だよ〜」
歩夢ちゃんと一緒に纏めた攻略ノート
それを指先で軽く突いて、笑って見せる。
驚く歩夢ちゃんも……少し、笑って。
彼方「このゲームはめちゃくちゃで意味不明で、理不尽で……」
彼方「言い方悪いけど……クソゲーってやつなんだと思うよ〜」
彼方「でも……だけど、面白い」
誰かと一生懸命に考えながら攻略していく
それがこのゲームの醍醐味であるというのなら、
なるほど……一人でやっていくのならクソゲーで、
でも、誰かと一緒なら、楽しめなくもない。
彼方「歩夢ちゃんとこんな風に距離が近づけたのは……間違いなくこれのおかげ」
彼方「そのお礼に……踏破してみせるよ〜」 理不尽さに怒って、怒鳴って、
二人でコンビニにフライドチキン買いに行って食べてやろうかとか
憂さ晴らし的なことを考えたりするのも楽しかった
歩夢「彼方さんっ、ここまで来たことないよ!」
彼方「そうだねぇ……」
彼方「でも……もう大丈夫〜」
制作者のやりたいこと詰め合わせセット
理不尽平原を乗り越えた先に待ち構えている洞窟
作ったたいまつに火をつけて洞窟の中に放り込むと、
何かが蠢く音が聞こえてくる
彼方「……よし、これだ〜」
歩夢「採集した毒草……?」
一度肌に触れて死んだ毒草
それを丸めたものをたいまつに括りつけて火をつけてから洞窟に放り込む
離れて様子を見ると……洞窟の中から変な生き物がわんさか逃げ出してきて……もがき苦しみながら息絶える
彼方「生成したマスクを装備して〜……突入〜!」 歩夢「あっ……」
画面が切り替わって、左上に出てくるオートセーブマーク
それはつまり……二つ目のステージをクリアした証明
彼方「はぁ〜……」
歩夢「やった〜っ!」
彼方「わぁ……っ」
飛びついてきた歩夢ちゃんに押し倒されるようにして……ベッドへと倒れこむ
ゲーム機を叩きつけないようにそうっと手放して
歩夢ちゃんの体を抱きしめる
彼方「やったねぇ……ようやくだよ〜」
彼方「つかれたぁ……」
かれこれ3時間くらいはたった1ステージに費やしただろう
しかも、踏破成功の時にかかったのはほんの十数分
彼方「おつかれ〜……」 歩夢ちゃんさえもクソゲーというほどの意味不明なゲーム
まだ全部をクリアしたわけでもないけれど
でも、悪くない。
歩夢ちゃんと出会ってから、今まで
そのどれにも比較にならないくらいに歩夢ちゃんと話すことが出来たと思う。
時々、敬語が消えて
侑ちゃんと話すときのような口調になったりもしていて
距離が縮まったような気がした
彼方「……歩夢ちゃん」
歩夢「はい?」
彼方「また今度、ゲーム一緒にやろ〜」
歩夢「それなら、このゲーム一緒にクリアしませんか?」
彼方「そうだねぇ」
彼方「あ、クリアしておいてくれてもいいんだよ〜?」
歩夢「ダメですよ……彼方さんと一緒にクリアしたいです」
彼方「だよねぇ……」 歩夢ちゃんと距離を近づけてくれたのは嬉しいけれど、
ことごとくぶち壊しにしてくれるゲーム
彼方「乗り掛かった船だもんねぇ……」
彼方「じゃぁ、一緒にクリアしよ?」
歩夢「はいっ」
出来ればこんなゲーム二度とやりたくないって思うけれど
でも、歩夢ちゃんとなら……もう少しやっても良いかなって思う
歩夢「……そうだ、彼方さんゲーム持って帰ります?」
歩夢「ほかにもいろいろあるんですよ!」
歩夢「侑ちゃんはどうせクソゲーだよねっていうんですけど」
歩夢「でも、これとか。あと、これとか!」
歩夢「面白いんですよ!」
彼方「わぁ……」
そして、
歩夢ちゃんとやり始めた理不尽なゲームは、
完全クリアまでに半月もの時間を要したけれど……私達の距離はだいぶ、縮まった
たまには、クソゲーと呼ばれるものをやるのも悪くないかな〜……
もちろん、誰かと一緒になら。だけど case.3:歩夢とクソゲー 終了
ヒストリ
case1.果林(服選び 5-32)
case2.璃奈(お菓子作り 45-102)
case3.歩夢(クソゲー 118-151) 歩夢まじでこんな趣味持ってんの?
シュールすぎるww ぽむかなはガチのマジででめちゃくちゃ貴重
すごい新鮮だった ぽむの趣味のことじゃなくてゲーム内容の元ネタがあるのかって話じゃない? 何も言わずに書いてくれたけど選択肢に侑が居るからアニメ設定基準だろ
アニメ歩夢も好きなのか?ちょぼみとかいう二次創作レベルのやつの設定じゃなくて? 歩夢のベッドにゲームカセットのぬいぐるみがあるんじゃなかったっけ?
サスケぬいぐるみみたいなファンサービスだろうけど可能性がない訳ではない 2、しずく
3、かすみ
5、愛
6、せつ菜(または、菜々)
7、エマ
9、遥
0、侑
>>169 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>171 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 菜々「彼方さ……」
菜々「近江先輩!」
彼方「えっ?」
不意に飛んできた馴染み深い声での、馴染みのない言葉
振り返ると、
今は、中川菜々としてのせつ菜ちゃんが
駆け足で近づいてくるのが見えた
菜々「ま、待って……ください……」
彼方「せつ……」
彼方「生徒会長〜? どうしたの〜?」
せつ菜ちゃんと菜々ちゃんは別々の人
そう公言しているわけではないけれど
でも、せつ菜ちゃんがばらしていないからと……隠しておく 菜々「……折り入ってご相談がありまして」
菜々「良ければ、ご一緒させて頂ければと」
彼方「相談……? 私に〜?」
せつ菜ちゃんの姿であれば、
スクールアイドルについてのご相談だって察しが付く
でも、今は生徒会長の中川菜々としての相談
スクールアイドルのことではなさそうだし……
彼方「人生相談とか〜?」
彼方「悪いけど、私には難しいよ〜?」
菜々「いえ、それは大丈夫……とは、言い難いかもしれませんが」
菜々「それについては問題はありません」 せつ菜ちゃんじゃないせつ菜ちゃん
生徒会長と二人で並んで歩くという異様さを感じながら、
少しだけ、静かな時間が流れる
快活さのある優木せつ菜はすっかりなりを潜めていて
本当に、同一人物とは思わせないような静けさがある
彼方「……それで〜?」
菜々「学業、スクールアイドル、自宅のこと、アルバイト」
菜々「全てをこなしている近江先輩には恥ずかしい話ですが……」
菜々「前回の成績に比べて、今回の成績が良くなかったんです」
彼方「ん〜?」
詳しく聞いた話ではないけど
赤点を取ったわけではなかっただろうし、平均点は越えていて
普通科の中で上位に入っている。と、
同じ普通科の侑ちゃん達から聞いた覚えがある
彼方「上位50人に入れなかったとか?」
菜々「いえ、10人から外れました……」
菜々「悔しいですが、学科別で12位です」
十分じゃないかな〜?
とは、きっと、菜々ちゃんには言えないんだろう 菜々「前回までは、トップ5には入れていたんですが……」
菜々「スクールアイドル活動に熱中するあまり、勉強を疎かにしてしまって」
菜々「いえ、もちろん……時期も時期ですので生徒会としての仕事も増えてはいたのですが」
菜々「……なんて、言い訳ですね」
菜々「そこで、ライフデザイン学科で上位に入っている近江彼方先輩にお勉強を教えて頂ければ。と」
彼方「……成績、教えたっけ〜?」
菜々「生徒会長たるもの、成績優秀者くらいは把握していて当然です」
菜々「今回なんて1位だったんですよね?」
菜々「前回は5位でしたし……」
彼方「まぁ……そうだねぇ〜……」
遥ちゃんが家事を手伝ってくれるようになって、
手伝わせてるんだから今までと同じような成績じゃおかしいよね?
なんて、自分で勝手に自分を追い立てた結果、
そんな成績になった。というだけなんだけど…… 菜々「それで、いかがでしょうか?」
彼方「いいよ〜」
彼方「私に教えられることにも限りはあるけど」
彼方「頼ってきてくれた可愛い後輩を、無碍には出来ないからねぇ」
そう言って、菜々ちゃんへと笑いかける
本当は、頭に触れてみたかったけれど
それは多分、菜々ちゃんが困っちゃうよねぇ
彼方「でも、それなら学園に戻ったほうが良かったんじゃないかな〜?」
彼方「それとも今日はしない?」
菜々「いえ……明日やろう。は、一度使ってしまえば、明日の自分も使ってしまいます」
菜々「彼方さんさえ問題が無ければ、今日からお願いしたいので……」
菜々「ここ、寄って行きませんか?」 菜々ちゃんが足を止めたそのすぐ隣にあるのは、一軒のファミレス
菜々「ファミレスでお勉強……してみたくて」
瞳をキラキラと輝かせている様は、せつ菜ちゃんそのもので、
ああ、やっぱり同一人物なんだなぁ……と、再認識させてくれる
菜々「勉強を教えて頂くお礼に奢らせてください」
菜々「そういうのも……ちょっと、やってみたいと思っていたんです」
菜々ちゃんは眉を顰めながら笑う
本当にそれをしたいと思っていたのか
私のことを気遣ってくれたのか。
……お礼って言うなら、甘んじて受けておいた方が
菜々ちゃんのためにもなるかな……
いや……
彼方「ありがと……」
彼方「でも、割り勘ね?」
彼方「その代わり、菜々ちゃんは成績上げること〜」
彼方「約束だよ〜?」
菜々「………」
菜々「……はいっ」 ――――――
―――
ファミレスはまだ人もまばらで、空席が目立っている
どこの席でもいいというので、端っこの角の席を選ぶ
ドリンクバーを含めて、軽食類を注文して……
菜々「彼方さんはお飲み物何に致しますか?」
彼方「アイスティーかな〜」
彼方「あ、混ぜちゃだめだよ〜?」
菜々「しませんよ」
菜々「今は、生徒会長ですから」
生徒会長じゃなかったらするのかな?
なんて。
そんなことは突っ込まずに菜々ちゃんが戻ってくるのを待つ
ファミレスでの勉強会
菜々ちゃんは何で憧れたんだろう?
やっぱり……漫画とか、なのかな? 菜々ちゃんが戻ってきて、
アイスティーをストレートのまま口に含む
氷に冷やされたほのかな甘さが喉を通っていくのが、心地いい
彼方「それで、菜々ちゃんが教えて欲しい教科って?」
菜々「えぇっと……日本史です」
彼方「日本史……?」
彼方「二年生の今頃っていうと、近世中盤かな〜?」
菜々「さすがですね……元禄文化に入ったあたりです」
彼方「私も数か月前までは二年生だったからねぇ」
菜々「彼方さんはどこまで?」
彼方「2年終わりで開国のところだったよ〜」
彼方「普通科の授業スピードは分からないけど」
彼方「授業量を考えると菜々ちゃん達はもう少し先に進みそうだねぇ」
彼方「明治辺りまで進むのかな?」 彼方「でも、日本史って暗記するだけだよ〜?」
菜々「極論、全教科暗記するだけですよ?」
菜々「問題はそれをどう記憶するか。ではなく」
菜々「それをどう思いだすか。だと思います」
菜々「……聞いた話、子供のころから整理整頓が得意な子は覚えるのが得意らしいです」
彼方「へぇ〜……」
菜々「これはここに、あれはあそこに、それはあっちに」
菜々「小さい頃から、頭の中に箪笥に似た引き出しが形作られて」
菜々「そこに記憶を保存する。らしいです」
菜々「なので、頭の中のどこに何があるのか……記憶。つまり」
菜々「想起力が極めて高くなるらしいですよ」
菜々「残念ながら、私にはよくわかりませんが……」 彼方「でも、研究者とかって、片付けが出来ない人もいるって聞いたよ〜?」
菜々「その人にとっては、整理されている。のかもしれません」
菜々「少なくとも、ただ片付けが出来ない人とは違うと思います」
彼方「そっかぁ〜」
ちょっとした雑談を交えながら、日本史の勉強を始める。
私は私で宿題を進めていく
菜々「この前の試験で、先生が悪戯で問題を出題して来たんです」
彼方「ん〜?」
菜々「織田信長の目に留まって土佐藩主となった人はって……」
彼方「えぇっと……」
信長の時代で土佐藩主
特に重要な内容でもない気はするけれど……悪戯問題としてはありなのかなぁ?
彼方「山内一豊……だったっけ〜?」
菜々「当たってます……明智光秀の娘は、わかります?」
彼方「え〜……なにその問題……」
彼方「忠興の妻ではなく、娘ってことなら明智珠子かな?」
彼方「それとも細川姓のガラシャが正解?」
菜々「ガラシャで三角でした」
彼方「わぁ……」 悪戯というか、意地悪というか
ちょっとした小ネタの問題としては、少し意地悪かもしれないなぁ……
菜々「とはいえ、一応授業中にお話しされたことだったんです」
菜々「補足……と言いますか」
菜々「余談をお話してくれるのですが、そこから出された問題だったのでみんなが正解を知っていたはずなんです」
普通科の日本史の先生は、ライフデザイン学科の私たちとは担当教諭が異なるらしい
それはそうだろうと思う。
普通の高校に比べて学科もいくつかあって、生徒数も多くて
専門はともかく、必修科目については各教科一人ではとても対応しきれない
で、その普通科の教諭は、授業のたびに1つか2つの余談を話してくれるそう。
なるほど、授業をしっかりと聞いていれば正解できる
悪戯というよりは、確認テストの意味合いもあったのだろうか?
彼方「私のところは、そういうのはなかったかなぁ」
菜々「でも、彼方さん知ってましたよね?」
彼方「勉強、したからねぇ……」 彼方「引っ掛け問題というか」
彼方「意地悪な問題として三味線の古い呼び方は出されなかったの〜?」
彼方「私のところは確か、それが出たんだよねぇ」
菜々「いえ、三味線がどこから伝わったのか……というのは出ましたが」
菜々「それについては出ませんでした」
彼方「そっかぁ……」
彼方「……あ、それ違うよ菜々ちゃん」
彼方「永徳は師の方で、門人は山楽だよ」
菜々「えっ、あっ……」
菜々「すみません、ありがとうございます」
彼方「松鷹牡丹の山楽しい……で覚えたんだよ〜」
彼方「松鷹図、牡丹図を描いた人は? みたいなので出てくるから」 菜々「ふふっ、なんだかリズミカルな覚え方ですね」
彼方「大体そんなものだよ」
何気なく聞いていた曲も
気付けば口ずさめてしまうくらいに覚えていることもある
だから、
何かを覚えるときはそういう風に、形作った方が良いみたいなのもある。なんて、
何の教科の先生だったかは覚えてないけど
言ってた気がする。
英語……だったかな?
菜々「では松鷹ではなく、松林の方は分かりますか?」
彼方「智積院襖絵の長谷川等伯でしょ〜」
菜々「……なるほど」
菜々ちゃんは教科書を一瞥すると
あってます。と、小さく笑いながら言う
菜々「まさかそんな、すんなり答えられるとは思いませんでした」
彼方「凄いでしょ〜」
菜々「ええ、ほんと……尊敬します」 菜々「彼方さんなら、生徒会長になることも出来たのでは?」
彼方「誰だって生徒会長になることは出来ると思うよ〜?」
彼方「もちろん、ある程度良識がないといけないけど……でも、基本的にはなれると思う」
彼方「でも、成し遂げられるかは……また別の話だよ」
生徒会長としての役割は
特別多いわけではないって、菜々ちゃんは言うけれど
生徒の代表としての自覚を持って〜的なある種のプレッシャーは感じることになると思う。
私は多分そう言った拘束感は苦手だ
彼方「だから、私は無理〜」
菜々「生徒会長の机で突っ伏して眠る生徒会長」
菜々「それを補佐する副会長……なんていうのも、面白くありませんか?」
菜々ちゃんは楽し気に笑っていた
私が生徒会長で、菜々ちゃんが副会長?
しっかり者の副会長に、やや不真面目な生徒会長
つまり……アニメか漫画にそんな生徒会があるのかな 彼方「そうだねぇ……ちょっと面白いかも」
菜々「会長! もう、起きてくださいっ……」
菜々「生徒の代表としての威厳を持ってくださいっ」
彼方「いわれそ〜」
菜々「ふふっ。でも、成績は副会長よりも上なんですよ」
菜々「常にトップ3に入っていて、副会長は尊敬してるんです」
アニメの設定なのか
それとも、そんなことは関係なしに菜々ちゃんがそうなのか。
菜々ちゃんは尊敬しますと言ってくれたから……。
彼方「体を揺さぶられて、ちょっとだけ顔を上げて……」
彼方「あぁ……菜々ちゃん。おやすみぃ……ってなるんだよねぇ〜」
菜々「そうですそうですっ」
菜々「それに悪態をつきながらも……あと少しだけですからね? って、許しちゃうんですよ」 菜々ちゃんはせつ菜ちゃんを混ぜ込んだ明るさを感じさせる会話を続けながら、
それでも、手はしっかりと問題を解いている。
もちろん、私もちゃんと課題をすすめて……無事終了
菜々「人掃令ってどう覚えました?」
菜々「普通に、以後悔い残す。ですか?」
彼方「獄中人掃い令だったかな〜……」
彼方「ほら、1591って、1に囲まれて檻の中みたいでしょ〜?」
彼方「だから、59中……獄中」
菜々「なんて覚え方を……」
彼方「一目見て、檻の中だ〜って思っちゃって……」
菜々「……まさかとは思いますが、文禄の役は、ごく潰しの文禄ですか?」
彼方「おぉ〜……正解〜」
菜々「先生、異国に攻め入るって言いませんでした?」
彼方「それはそれ、これはこれ〜」
菜々「ふっ……ふふふっ、ほんとう、彼方さんは面白いです……」 菜々「優木せつ菜になってしまいます……」
彼方「学校の外だから、いいんじゃないの〜?」
菜々「いえ、あくまで私は中川菜々ですから」
菜々ちゃんは料理が運ばれてきたのを確認すると
いったん休憩に。と言って、ノートなどを全部鞄に引っ込めていく
私もしまい終えるころに
丁度、店員さんが料理をテーブルに並べてくれた
サラダと
あとはちょっとしたサイドメニュー
私は遥ちゃんと夕食もあるから本当に軽く。
二人で分けるように頼んだので、量はそれほど多くはない
取り皿を持ってきてもらって……いただきます 菜々「こうして寄り道をするのは、同好会を発足させてからもあまりなかったですね」
彼方「カフェでテイクアウトとかはしてたけど」
彼方「ファミレス寄ったりはしてなかったよねぇ」
菜々「ええ……校則で決められていませんが」
菜々「何となく、気後れしてしまうと言いますか……」
彼方「でも、勉強するためだから良いんだよ〜」
彼方「これは大丈夫〜」
頼んでみたスープをひとすくい
零れないように気を付けて
彼方「はい、あ〜ん」
菜々「えっ、えぇっ……」
彼方「ん」
菜々「ぁ……ぁ〜ん……」
照れくさそうに頬を染めて、
周りを気にしながら、差し出したスプーンを咥える菜々ちゃん
菜々「ぁ、美味しい……」 彼方「でしょ〜」
彼方「……ゴクッ」
菜々「ぁっ……」
彼方「ん?」
菜々「い、いえ……」
スープを口に含んだ私から顔を背けた菜々ちゃんは、
いそいそとフォークを握って、サラダを小皿に取り分ける
私の分と、自分の分
何も言わずにやってくれるのは、菜々ちゃんの優しさかな
彼方「みんな、言うほど私達のことを見てないよ〜」
彼方「この付近にある学校の、いち生徒ってくらいにしか思われてないと思う」
だからっていうわけじゃない。
菜々ちゃんがせつ菜ちゃんであり
せつ菜ちゃんが菜々ちゃんである本当の理由は知らないから、
変なことは言えない
彼方「菜々ちゃんが生徒会長だなんて、ここの人達は知らないから」
彼方「少しくらいはしゃいじゃっても、大丈夫だよ」
菜々「彼方さん……」
菜々「確かに、そうかもしれませんね」
菜々「ですが、これでも普段の中川菜々としては、十分はしゃいじゃってるんですよ?」
菜々「……お友達とファミレスで勉強会。憧れていたので」 彼方「え〜?」
彼方「彼方ちゃんは、菜々ちゃんのお友達なの〜?」
菜々「えっ……」
彼方「先輩って、呼んで〜?」
菜々「せん、ぱい……?」
菜々「近江先輩」
校門のところでも呼んでくれた近江先輩
でも、ちょっと違う。
彼方「名前の方でも、呼んで〜」
菜々「えっと……」
菜々「彼方先輩……?」
菜々「か、彼方先輩……」
近江先輩と呼べるのに
彼方さんとも呼べるのに
馴染みのない彼方先輩と呼ぶのは……菜々ちゃんにはちょっぴり恥ずかしかったのか
頬が赤くなっていくのが見えた
……かわいい
彼方「先輩って呼ばれるのも悪くないねぇ」
菜々「あ、あんまりからかわないでくださいっ」
彼方「ごめんごめん」
彼方「菜々ちゃんと私は、ちゃんとお友達だよ〜」 少し前までは、菜々ちゃんとこんな風に一緒になるなんて想像もつかなかったし
ましてや、勉強を教える側になるだなんてありえない話だった。
でも、そうなってる。
それはきっと、スクールアイドルとしての繋がりがあったから。
彼方「スクールアイドルって……たった一つの結びつきで」
彼方「私と菜々ちゃんは繋がれたんだねぇ」
菜々「……そうですね」
菜々「こうして、二人でおしゃべりする間柄になるとは思ってもみませんでした」
菜々「当初の優木せつ菜とは、険悪……のようなものでもありましたし」
彼方「そうだったね〜」
侑ちゃん達の尽力で再結成する前、
かすみちゃんとせつ菜ちゃんの理想のぶつかり合い
理想を追い求めるせつ菜ちゃんにとって
私の姿勢はあんまりよくないものだったから……怒られたりもしてて。
菜々「あの頃は、理由を知らなかったとはいえ……酷い態度を」
彼方「良いよ良いよ〜もう、過ぎた話だから」 今は仲良くやれているんだもん。
昔のことを掘り起こして、
無駄に関係を悪くする必要なんてないと思うから。
彼方「今は仲良しだからねぇ」
菜々「……ありがとうございます」
彼方「良いって、良いって」
彼方「さっ、それよりも早く食べちゃって勉強の続きしようよ」
菜々「そうですね……宜しくお願いします」
彼方「菜々ちゃんは元々頭がいいから」
彼方「あんまり役に立ててないけどねぇ」
菜々「そんなことないですよ」
菜々「歴史に関する語呂合わせとか……面白かったです」
彼方「面白い〜?」
楽しそうな菜々ちゃんの笑顔
それはやっぱり、せつ菜ちゃんらしい明るい笑顔 日本史の勉強はひとまず終了して、
次はもう少しだけ時間があるからと英語に移る
私は英語が得意なわけじゃないけどねぇ……
せつ菜「……主語を抜き出してって、問題で間違えたんですよ」
彼方「主語?」
せつ菜「はい。この文章のこの部分から、主語を抜き出してっていう問いがありまして」
せつ菜「the houseを書いたら違うと……」
彼方「あぁ……なるほど」
せつ菜ちゃんの英語の点数は凄く高い
殆ど正解しているし、
間違っているのだって勘違いし易かったりと
そう言うものばっかりだ
彼方「これ、the houseの前に前置詞がついてるからだよ」
彼方「少し前に、似たような文章で主語をこれとして書いてあったから引っかかりやすいけど」
彼方「前置詞のInがついて、In the houseってなってるから主語は動詞の後ろ」
彼方「こっちだね〜」 彼方「先生から言われてない?」
彼方「前置詞のついた名詞は主語には出来ないよ〜って」
菜々「えっと……」
菜々「あぁっ……言ってました」
菜々「ノートにも……」
自分の英語の授業ノートのページを捲り捲った菜々ちゃんは、
その頃のページを見つけたのか、
目を見開いて、肩を落としてしまう
菜々「書いてあったのに……」
彼方「あははっ、うっかりさんだ〜」
菜々「いえ、これは勉強不足ですよ」
菜々「……ちゃんとしていれば、こんなミスなんてしなかったはずですから」 彼方「それを考えると、この先のミスも答えがちょっと見えてくるかな〜?」
彼方「この和文を、以下の単語を使って英文に書き換えるなら」
彼方「自動車が出来たばかりの頃……だから」
彼方「In the early days of the automobile……になるはず」
彼方「で、ここ」
彼方「thinking very highly ofってあるけど、did notがあるから、あまり重視しなかったって意味になる」
菜々「……そんなミスを」
彼方「こういうテストって、一つ勘違いしたりすると」
彼方「連鎖的に間違えちゃうのが怖いんだよね〜」
わかるわかる〜
と、落ち込む菜々ちゃんに優しく声をかけてみる
実際、私もやらかすことはあるから……
彼方「ちょっと、飲み物取ってくるよ〜」
彼方「菜々ちゃんどうする?」
菜々「あっ、すみません……では、ウーロン茶で」
彼方「おっけ〜」 菜々ちゃんの分のウーロン茶と
自分の分のアイスティーを持って席へと戻る
私がいない間も熱心に自分のノートや教材を見ている菜々ちゃんは、
本当に、真面目ないい子だ
彼方「お待たせ〜」
菜々「ありがとうございます」
菜々「本当なら、私が行くべきなのに」
彼方「気にしない気にしない」
彼方「生徒会長は生徒をこき使っていいんだよ〜」
菜々「いいわけありませんよっ」
飲み物を一口飲んで、ため息一つ
一先ず落ち着く時間を少しだけ。
そうすると、
だんだんと人が増えてきているのを示すような騒がしさに満ち始めているのを感じた
見回してみれば、
最初は空席が目立っていた店内は埋まりつつある 彼方「そろそろお開きかな〜」
菜々「あっ……そう、ですね……」
菜々「………」
菜々「デザートっ」
菜々「デザートとか……食べてみたくありませんか?」
彼方「そうだねぇ」
荷物をまとめる私の一方で、
メニューを取り出した菜々ちゃんはデザート欄を開いて、私の方に向ける
ケーキとかパフェとか……プリンとかアイスとか
いろんなデザートがある
菜々「せめてものお礼に」
彼方「ん……じゃぁ」
彼方「お言葉に甘えて」 それぞれケーキとプリンを頼んで、もう少しだけ二人だけの時間
賑やかになった店内で、
時折、走り回る小さい子供がドリンクバーの近くに見えた
彼方「角を選んでおいて良かったねぇ」
菜々「そうですね……」
菜々「………」
菜々「あの」
彼方「なぁに〜?」
菜々「今日は、ありがとうございました」
彼方「そんな沢山は教えてあげられなくてごめんね」
菜々「いえ、日本史と英語に関しては」
菜々「試験で間違えたところの復習と確認が出来ましたし……」
菜々「課題だって、彼方さんのおかげで出来ちゃいましたから」 彼方「そっか、良かった」
菜々「………」
菜々「……なんというか、不思議な感じです」
彼方「どして?」
菜々「学年も、学科も違うのに」
菜々「ただスクールアイドルというだけでこんな風にお付き合いできる関係になれたからです」
菜々「……スクールアイドルを」
菜々「自分の気持ちを捨てなくて本当に良かったなって、思います」
菜々ちゃんは凄く嬉しそうに笑う。
それはそうだよね〜……
だって、自分のやりたいことをやって、
そのうえで……楽しいことが出来て、嬉しいことがあって、幸せになれたんだから
彼方「ほんとほんと〜」
彼方「菜々ちゃんが、それを捨てずにいたから」
彼方「愛ちゃん達も加入してくれたわけだしね〜」 菜々「………」
菜々「あの……わた――」
菜々ちゃんが何かを言いかけたところで、
お待たせしました。と、デザートが運ばれてくる
それを見た菜々ちゃんは、
嬉しいような悲しいようなちょっぴり複雑な笑顔を浮かべると、
小さなため息をついて。
菜々「私と……またこうして付き合って頂けませんか?」
菜々「優木せつ菜と中川菜々」
菜々「その両方と」
彼方「良いよ〜」
注文したケーキを一口食べる
甘さが口いっぱいに広がってくる中に、
イチゴの微かな酸味が混じるのが美味しいショートケーキ
フォークで一口分を切り取って……
彼方「はい、ぁ〜ん」
菜々「えっ……」
彼方「ほら、落ちちゃうよ〜?」
菜々「……ぁ〜ん‥…」 菜々「モグモグ……」
彼方「また今度……そうだねぇ」
彼方「勉強とか関係なくても、寄り道したいね〜」
菜々「……いいんですか?」
彼方「用事がなければになっちゃうけどね〜」
まだまだ知らない、中川菜々としてのせつ菜ちゃん
二人は一緒だけど、
でも、それぞれが少しずつ違っていて
その境界線がなくなる瞬間が、本当の " 姿 " だと思うから。
もうちょっと、もう少し。
後1年もないけれど。
知っていけたらいいなって……思ってたり。
菜々「では……その……」
赤面する菜々ちゃんは、自分のスプーンでプリンをすくって私に向ける
菜々「ぁ、あ〜ん……してください」
私のからかいへのお返し。
彼方「ぁ〜むっ」
彼方「ゴクンッ……ん……美味しいっ」
遥ちゃんとやり慣れてる私には効かないよ〜? 菜々「……別に普通のこと。ですか」
彼方「そうだねぇ」
少し残念そうな菜々ちゃんは、
スプーンを一瞥すると、また普通にプリンを食べていく
菜々「……彼方さんといっぱい話せてよかったです」
菜々「また今度、一緒に遊びましょう」
彼方「うん、また今度」
せつ菜ちゃんではなく、菜々ちゃんとなのか
菜々ちゃんではなく、せつ菜ちゃんとなのか
それは、遊ぶことが決まってからのお楽しみ……かな?
菜々「今度、お弁当つく――」
彼方「あーっ、そう。そうだ!」
彼方「お料理のお勉強しよ〜?」
菜々「いいですね……ぜひっ」
菜々「ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします」
彼方「先輩に〜まっかせなさ〜い」
うん。
その方が良さそうだ……なんて、本人には言えないけどね case.4:菜々とファミレス勉強会 終了
ヒストリ
case1.果林(洋服選び 5-32)
case2.璃奈(菓子作り 45-102)
case3.歩夢(クソゲー 118-151)
case4.菜々(お勉強会 172-206) 乙
次のcaseも待ってる
こっちが休憩に入るとはるかなSSの方期待しちゃうわ 2、しずく
3、かすみ
5、愛
7、エマ
9、遥
0、侑
>>211 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>212 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 吐く息も白くなる12月下旬
同好会での練習も終えて、途中までは一緒だからと……侑ちゃんと一緒に並んで歩く
彼方「今年は雪、降るかなぁ?」
侑「どうかな……ここ数年、積もるほどじゃないのも含めれば」
侑「東京でも雪は降ってるって言えるだろうから」
彼方「そうだねぇ……」
空を見上げてみれば、雲一つない夜空が見える。
放課後、部活の練習を終えた後はもうすっかり暗い。
侑「……クリスマス、雪降って欲しいですか?」
彼方「その質問は狡いよ〜」
彼方「侑ちゃんはどうなの〜? 降って欲しい? 欲しくない〜?」
侑「そうだなぁ……私は、降って欲しいかな」
侑「だってその方が、素敵なクリスマスになりそうじゃないですかっ!」 侑ちゃんは私の隣から躍り出て、くるりと回る
左右に結ばれた小さな尻尾が揺れるように髪が靡いて、
子供っぽい、可愛い笑顔が輝く
侑「雪が降っても、降らなくても……思い出にはなる」
侑「さらにそこに " 偶然 " が重なったら嬉しい」
侑「私と彼方さんではどうにもならない天から、小さな雪が降るホワイトクリスマス」
侑「それってなんだか、神様から祝福されているようで……すっごく、ときめかない?」
彼方「神様からの祝福かぁ……」
彼方「そうだねぇ……ドキドキするよ〜」
侑「だから、私は雪が降って欲しいかなっ」
彼方「うん〜……彼方ちゃんも、雪が降ったらいいな〜……」 侑「……はぁーっ……」
侑「寒い……」
侑「彼方さん、手……繋ごうよっ」
息を吹きかけて、
すりすりと合わせた侑ちゃんのほんのりと赤らんだ小さな手
伸ばされたそれを、受け取って。
侑「彼方さんの手、あったかい……」
彼方「手袋してるからねぇ〜」
侑「……えいっ」
彼方「ひゃぁっ!?」
手袋の袖口から強引に入り込んでくる冷え込んだ侑ちゃんの手
小さいから、どうにかこうにか入り込んできたそれは、
外の空気に当てられていて。
彼方「侑ちゃんの手、冷た〜い」
侑「すぐあったかくなるよ〜……」
一つの手袋の中で手と手を触れ合わせて……握る
その分距離が縮まって、
肩を触れさせながら……ゆっくり、夜道を歩く 侑「……クリスマス、楽しみだなぁ」
彼方「そうだねぇ〜」
もう明後日に迫ったクリスマス
何日も前から、こうしよう、ああしよう
そんなことを一緒に考えて、
一人でこっそり、こんなことしようと考えたクリスマス
侑ちゃんは、想いを馳せて……目を輝かせてる
そんなところが……かわいい
彼方「……去年までは、歩夢ちゃんとだったんだよね?」
侑「歩夢とっていうか、家族で……かな」
侑「二人で出かけることもあったけど……」
侑「……歩夢には、ちょっと悪いことをしちゃったかな」 去年の侑ちゃんはまだ私を知らなくて
普通に、来年……今年もまた歩夢ちゃんとクリスマスを過ごす予定だったらしい。
でも、私と一緒になって、二人で過ごしたいってなって。
その、去年の約束を破るようになったことが、少し申し訳ないと侑ちゃんは小さく笑う
侑「……こんなこと、彼方さんに言うのも申し訳ないけど」
彼方「ううん、侑ちゃんは頑張ってくれたよ」
同好会の中で、歩夢ちゃんにだけはしっかりとお話をした。
驚いて、悲しんで……でも、侑ちゃんが選んだならって
祝福してくれた歩夢ちゃん。
本当なら侑ちゃんと過ごすはずだった時間を、奪っちゃった私。
彼方「……ちゃんと、しないといけないことだから」
侑「遥ちゃん、喜んでくれてたよね」
彼方「うん……少しずつ姉離れ妹離れできるように頑張ろうねって言ってた」
出来るかは……不安だけど。
そこは誠心誠意努力中ということで。 侑「……予定はあれで良いんだよね?」
侑「お昼食べてから集合、ジョイポリスで軽く遊んで……ウインドウショッピング」
侑「そのあとご飯食べて……観覧車」
彼方「割としっかり決めちゃったよねぇ」
彼方「もうちょっと、遊びがあっても良かったかな〜?」
侑「ん〜……予約にさえ間に合えば大丈夫だと思う」
ディナーの予約……ちょっと割高だけど
せっかくだからと奮発して。
大観覧車は乗れたら乗るけど……多分難しい
外から見るだけでもきれいだから、それでもいい。
彼方「じゃぁ、当日歩きながらまた決めよ〜?」
侑「うんっ」
もう少しで別々の道に行く
それが互いに分かってるから……少しだけ、繋ぐ手に力が籠る
歩幅が小さく、ゆっくりになっていくのは……気のせいじゃない ――――――
―――
クリスマス当日
日に日に街中に増え始めたように感じる二人組が、
より一層距離を近く……数を増したように感じられる今日
予定よりも1時間くらい早く集合場所にたどり着く
彼方「………」
家にある少ない私服のレパートリーの中から
めいいっぱいにおしゃれな服を選んだつもりだけど
かわいいか、綺麗か
自分では迷いに迷って分からない
遥ちゃんは可愛いというよりも綺麗な感じだと言ってくれたけど。
まだ何も始まっていないのに、早鐘を打つ心臓を抑えるために深呼吸
小さめのトートバッグの中、小包みを覗く
侑ちゃんの為に、頑張って……喜んでくれるか、不安がいっぱい 彼方「はぁ……」
何度深呼吸をしても心が落ち着かない
ドキドキして、ざわざわして……
溜息をついてみても、それはやっぱり変わらない。
右手首につけた、小さな腕時計
チェーンベルトで、
ブレスレットのようにも見える腕時計はデジタル表記のない文字盤のみ。
時間を確認して顔を上げると……陽の光を遮る影がかかった
彼方「えっ、あっ……あのっ……」
ここに来てからかれこれ十数分
待ちぼうけを喰らってるとでも思われたのか……お誘いしてくる男の人
大学生だと思われたのはちょっぴり嬉しいけれど……
彼方「すみませんっ、私……約束があって……」 迷う必要も何もないので、お断り。
でも、ずっと待ってるよね? という引き留めの言葉
彼方「早く着た私が悪いだけなので……」
本当に、そう。
一人で舞い上がって、いつもよりずっと早く起きて
家のことをやっても時間を余らせた挙句……1時間早い到着。
だから侑ちゃんは何も悪くない
けど……
相手とテンションの差があると辛いよ? と言う囁きにはドキッとさせられる
侑ちゃんはそれほどじゃなくて、自分だけがそうなんじゃないかって。
彼方「わ――」
侑「彼方さ〜ん!」
彼方「あっ……」
一目散に駆け寄ってくる、侑ちゃん
冬なのに、汗をかいてる侑ちゃんは慌ただしく息を切らして……
侑「も〜早すぎですよ……待ちきれなくて家に行ったらもうだいぶ前に家を出たって……」
侑「これでも集合30分前なのに……」 侑「予定より早いけど、揃っちゃったし行っちゃお〜」
彼方「わっ……ととっ……」
侑ちゃんに手を取られて……引っ張られる。
侑ちゃんがこんなに早く来てくれたこととか
家にまで行ってくれていたこととか、
私に話しかけてきていた人が、女の子二人なら――って声かけてきてるのを無視する侑ちゃんとか
色々と。
戸惑う私が躓きそうになると、侑ちゃんは体を寄せてきて……助けてくれる。
侑「ダメだよ……早く来たなら早く来ちゃったって連絡くれないと」
侑「私なんて、早すぎたら驚かせちゃうかなって20分前くらいにしようかなって抑えてたのに」
彼方「……それでも我慢できなくて、家に行ったの〜?」
侑「だって……少しでも長く楽しみたいから」
それなのに、家に言ったらもう家を出たって言われるし……なんて、
侑ちゃんはさっきと同じような言葉を繰り返して。
侑「ほんと、ダメだよ……? 彼方さん、今すっごい綺麗な格好してるんだから」
侑「一人で立ってたらナンパされちゃうよ?」
彼方「……うん、ごめんねぇ……」 侑「でも良かったっ」
彼方「え〜?」
侑「私だけ先走ってたらどうしようって不安だったんだ……」
侑「彼方さんも同じくらい楽しみにしててくれたみたいで、嬉しいっ」
侑ちゃんは、私が不安になったことをそのままかき消してしまうような笑顔を浮かべる。
同じようにドキドキしてて
同じように不安になって
でも、それが同じだったからと安堵して喜ぶ侑ちゃんの小さな手は……大きく感じる
彼方「私も……嬉しい」
侑「………」
手を握る力が強くなって、
腕はだんだんと伸びなくなって、侑ちゃんが隣に並んで身体を寄せてくる
侑「彼方さん、今日はすっごくきれいだね……」
侑「大人みたいで……かっこいい」
侑「……私、釣り合ってないかも」 彼方「そんなことないよ〜」
彼方「普段よりもかわいい恰好で、似合ってるし」
彼方「私が釣り合ってないんじゃないか〜って感じだよ〜」
侑「えへへ〜そうかな〜?」
侑ちゃんの声は、ちょっぴり高くなってて……可愛らしい
嬉しさが滲む体は温かくて、ちょっぴり紅い
侑「……普段はボーイッシュファッションがメインだから、全然違って見えるでしょ?」
彼方「うん」
侑「どっちの方が良かった?」
侑「かっこいい系と可愛い系」
どっちでも侑ちゃんは可愛いっていうのは、
たぶん今は求められてなさそう。
彼方「そうだなぁ……」
彼方「普段と違った侑ちゃんが見られるから、今回のも良いよ〜」
彼方「私だって……気合い入れちゃって……普段とは変わっちゃったからねぇ〜」
侑「彼方さんは、普段も可愛いし綺麗だよ?」
侑「まぁ、今日は一際美人だから……確かに気合を感じるけどねっ」 彼方「も〜美人って言い過ぎだよ〜」
侑「だって美人なんだもん」
彼方「侑ちゃんだって可愛いよ〜?」
侑「え〜?」
彼方「かわいいよ〜」
侑「えへへ〜っ」
寒さを言い訳に互いの距離を詰めて、体を密着させる
からかう言葉への反抗をするかのように、
互いに体を圧し合って……ぽかぽかしていくのが、心地いい
侑「彼方さん……さっきナンパされてたよね」
彼方「えっ?」
今更? なんて、
驚く私の手を握る力が、強くなる
侑「今日はもう、手も目も離さないよっ」
彼方「侑ちゃんだって……一人にしたら連れていかれちゃいそうだから」
彼方「離さないからね〜」
握り返して……笑い合う。
アウターがいらなくなりそうなくらいの熱を感じながら、
吐息が白む町の中を、二人で歩く。
今日は……クリスマスデートの日 ――――――
―――
私たちのように……というわけではないけれど
二人組や、それ以上のグループで来てる人も多く……人で賑わうジョイポリス
人ごみに紛れて消えてしまわないようにと
より一層握り合わせる手に力を籠める
侑「……思ってた以上に混んでる」
彼方「そうだねぇ……」
愛ちゃん達とくるときにいつもやってるというVRゲームは、
当然ながら当日券があるわけはなく
2人ということで予約もしてなかったので……今日はパス
彼方「侑ちゃん、こっちこっち〜」
ジョイポリスに行くならと
予め個人的に決めていたアトラクションの方に、侑ちゃんの手を引っ張る
階段を上がって2階
私のやりたいトラクション……
彼方「これこれ〜」
侑「わぁぁ……」 絶叫轟くアトラクションは、
激しく回転する、スピード感のあるアトラクション
私もやるのは初めてだからどんなものかは分からないけど……
でも、こういうの好きなんだよねぇ
彼方「侑ちゃん乗り物酔いとか平気?」
侑「えぇっと……多分」
彼方「じゃぁやってみよ〜」
侑「彼方さんって、こういう絶叫系が好きなんですか?」
彼方「絶叫というか、こういう早そうなの好きなんだ〜」
侑「なるほど……」
侑「彼方さん、車の免許ってとる予定ありますか?」
彼方「ん〜……取れたらいいなとは思うけど」
彼方「今のところ、その予定はないよ〜」
侑「そっか〜」
侑ちゃんはなぜか安堵したように胸をなでおろした 普段よりも多くの人たちが集まってきているということもあって、
ちょっぴり長い待ち時間の後、
軽い注意事項などの説明を受けてから、いざ乗り込む
彼方「……侑ちゃん大丈夫そう〜?」
侑「だ、大丈夫。大丈夫」
私達の番になるまで、たくさんの人を叫ばせた乗り物
見ているだけでもそれなりに激しく動いているように見えたそれは、
乗り込むと……少しだけ不安定さを感じさせる
もちろん、大丈夫なのは分かってるけど。
侑「彼方さん……これ終わったら、少し休――」
スタートの合図が出て……一斉に動き出す。
侑「ぉ……ぁっ……わっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
あいさつ程度の一回転、そこからすぐに二回転
後ろから聞こえてくる侑ちゃんの悲鳴は、かわいいけれど……
二周目は無しかな……と、考えながら、もうひと回転
侑ちゃんの叫び声は、終わるまで続く 侑「彼方さんわざと回転させる動きを……」
彼方「あはははっ、ごめんねぇ……ついつい」
2階に休憩スペースが見当たらなくて、
1階に下りてから休憩スペースを探して腰かける
自販機で適当な飲み物を買って、ひと呼吸
一応レースゲームだったあのアトラクションは、
私の度重なる誤操作……で、びりにはならなかったものの、
1位にもなれなかった。
彼方「回転するのが面白くてね〜」
彼方「侑ちゃん、吐きそう?」
侑「それは大丈夫だけど……くらくらする」
彼方「ごめんね」
侑「ううん、彼方さんが楽しめたならよかった」
侑「普段の彼方さんとは全然違う、すっごくはしゃいでる感じがして……私も嬉しかった」
侑「でも、もうちょっと休憩したい」 ゆっくり休憩した後、
すぐそばにあった探検型のアトラクションに参加して、
出てくる暗号などを、侑ちゃんと一緒に解いて……
ちょっぴり難しいような悩ましい問題を解けたら手を取り合って大はしゃぎしたりしながら、
探し当てたアイテムは偽物で……でも、
小さな冒険のような思い出は幸せで……侑ちゃんと次は正解を引き当てようって約束したり。
アトラクションのコーナーに隣接するプリントシールを撮って
侑ちゃんは私を、私は侑ちゃんを、
唇や目……顔を大幅に持ったりして
その完成図で笑ったり。
ちゃんとした1枚は、スマホで撮影して……普段は使わない二枚目の壁紙に設定したり。
暫く、ジョイポリスを楽しんだ レス無いが見てるから安心して続けてくれ
彼方でも希少なのにあゆかな、ななかな、ゆうかなとかヤバすぎる ――――――
―――
侑「ほわぁ……」
彼方「あはははっほわぁって何〜?」
侑「寒い外からあったかい所に来たら声も出ちゃうよっ」
ちょっぴり恥じらって赤くなっている侑ちゃんの言い訳
でも、その気持ちは分かる
ジョイポリスは熱気に包まれていて暖かかったけれど、
外はその分、とても寒く感じる
中から外、そしてまた中
アクアシティは広々としているけれど
外の寒さを忘れられるくらいには暖かくて……
それは多分、湯船に浸かった気分になれるんだと思う。
彼方「あはは――ひゃぁっ!?」 ずっと繋いでいてあったかい手のひらと、
繋いでいなかった冷たい手のひらが私の両頬を挟み込んで……思わず悲鳴が漏れる
侑「笑うならこうだーっ!」
彼方「侑ひゃ……ゆ……ひゅっ……」
挟まれて、押し揉まれて
言葉はまともに発することも出来なくて……
侑ちゃんはそれを笑いながら、続ける
彼方「〜っ!」
その手を掴んで。
彼方「っは……見られてる……見られてるからぁ……っ」
近くのお店の店員さん、歩いているお客さん。
じーっと見つめてるわけじゃないけど、
ちらちらと感じる視線に侑ちゃんもようやく気付いて……今度は耳までたっぷり紅化粧
……かわいいけど。
私も同じことになってそう……うぅぅ…… 注目を浴びた1階から逃げるようにエスカレーターを上がって、
ファッション系の店舗が立ち並ぶ階に紛れ込む
彼方「侑ちゃん侑ちゃん、眼鏡かけてみて〜」
侑「え〜?」
せつ菜ちゃんはかけてるけど……
あれは菜々ちゃんの時だからカウントしない。
そうなると同好会の中では眼鏡をかけている子はいないし……。
だから、ちょっとだけ。
彼方「マネージャーって、眼鏡かけてるイメージあるんだよねぇ」
特にないけど。
でも、侑ちゃんがかけたら……かわいいはず。
彼方「侑ちゃん、眼鏡似合いそう〜」
侑「そうかな〜?」 侑ちゃんは展示されてるサンプルの一つを手に取って、
鏡を使ってかけてみる。
細めなものの、丸く一周した縁の眼鏡は侑ちゃんの元々小さな顔にはちょっぴり大きい
侑「どう〜?」
侑「なんか、眼鏡が無駄に大きく見えないかな?」
彼方「ん〜……」
彼方「こっちの底縁の方かけてみて」
侑「良いよ〜……」
侑「どう?」
全体的に縁がある眼鏡だと、
侑ちゃんの顔には少し、合わないように見える 私の好み……かな?
彼方「あ〜いいかも」
彼方「縁が太いのよりは、細い方が良いかもねぇ」
侑「あっ……この三角形のは?」
彼方「え〜?」
侑「似合うザマス?」
彼方「ふっ……ふふふふっ……」
三角形の眼鏡はフレームまでワインレッド
レンズも濃いめのサングラスのような色合いで……
それをかけて小首をかしげて見せる侑ちゃんは……かわいくて
でも、その不釣り合いなのに似合っているようにも感じられる絶妙さが面白くて
どうにか堪えても……笑えてくる
彼方「似合うっ……似合ってるよ……っ」
侑「近江さん? 何がおかしいザマスか?」
彼方「あっはっ……はっ……ゆ、侑ちゃん……っ!」
彼方「だめっ……それ以上変な声出さないでっ」
侑ちゃんの追撃に零れ落ちる笑いを飲み込みながら、眼鏡を奪う
いつもよりも2段階ほど高い声が妙に合ってたのがお腹に痛かった。 侑「彼方さんも眼鏡かけてみてよ」
侑「例えば……ん〜……」
侑「これとか」
楕円形で細めのメタルフレーム
光沢感は控えめで、薄紫色なのがほんのりオシャレな感じがする
彼方「……どう?」
侑「なんか、いつにもまして大人しそうな感じがする」
彼方「地味?」
侑「……あははっ、えぇっと、この半フレのはどうかな」
侑「上半フレだから……あ〜……」
侑「下フレの方が良いかも……」
彼方「両方かけてみるね〜」 3つ、4つと
いくつもの眼鏡をかけ替えて、侑ちゃんと見せ合いっこ
私も侑ちゃんも普段から眼鏡をしていないせいか、
どんな眼鏡をかけても違和感があって、
でも、似合いそうなものもあったりして。
侑「伊達眼鏡とか、つけて慣らしたら……不自然じゃなくなるかな?」
彼方「そうだねぇ……でも、普通に似合いそうなのもあったよ〜?」
侑「えへへ〜そうですか〜?」
侑「彼方さんも、高校卒業したら眼鏡……」
侑「……やっぱり、ダメ」
侑「彼方さんはかけない方が可愛いよ」
侑ちゃんは一瞬悩んだかと思えば、
私の手の中にあった眼鏡を奪い取って棚に戻すと……手を引っ張る
彼方「侑ちゃん……?」 彼方「侑ちゃん……どうかした?」
侑「………」
追いつけないほどではないけど
さっきまでよりは早歩きな侑ちゃんの手を引っ張る
2、3歩進んでから止まった侑ちゃんは私の手を握る力を少し強めて
侑「……どうもしてないよ」
侑「ただ、自滅しちゃっただけ……」
侑「分かってたし、覚悟もしてる」
侑「でもさ……彼方さんが卒業しちゃうって、あんまり。ね?」
侑「……それに、それから眼鏡かけ始めたら」
侑「大人な彼方さんを一番見られるのは私じゃないから……」
侑「……えへへへっ」
困ったものだよね。なんて。
自嘲を込めたような笑顔を浮かべて見せた侑ちゃんは
照れくさそうに頬を指で掻く
侑「……嫉妬しちゃった」
……かわいい。 なんだろうなー、早く次のcaseも見たいのにこのcaseが終わらないでほしい
9つ全て永遠にやってほしい 彼方「嫉妬しちゃったか〜……」
侑「うん……無理に引っ張っちゃってごめん」
彼方「ううん、それは大丈夫だよ〜」
そんなに、力強くなかったから。
なんて……言っちゃうと侑ちゃんはむっとするけど。
彼方「それはそれとして、侑ちゃんは分かってないな〜」
侑「分かってない……?」
侑「何が分かってないの?」
彼方「侑ちゃんが私に会えないってことは」
彼方「私も侑ちゃんに会えないってこと……」
彼方「寂しくなるのは、侑ちゃんだけじゃないんだよ〜?」
侑「あっ……」
施設内の暖房以上に、顔が熱くなっちゃうけど
でも、言っておくべきだと思って、
知っておいてほしくて
……抱きしめるわけにもいかないから、握り合う手の力を強くする
そして……おまけのように嫌味を添えてみたり。
彼方「もぅ……鈍いんだから〜」 侑「彼方さん……っ」
嬉しいような
恥ずかしいような
混ざり合った可愛らしい表情を見せてくれる侑ちゃんは
口元をもごもごとさせて……小さく笑った
侑「そう、だよねっ」
侑「ごめんなさい……」
彼方「良いよ〜許してあげる〜」
侑「ありがと〜……」
手を引き合って、
身体を寄せ合って
彼方「彼方ちゃんも嫉妬しようかな〜」
侑「ん〜嫉妬させられるかな……」
彼方「じゃぁじゃぁ、もうほかの子と話しちゃダメ〜」
侑「えーっ」
彼方「あははっ」
喧嘩にすらなっていなかった、話を終わらせる お洋服とか、財布や鞄。
今でも十分手の届くものから、今はまだ絶対に手を出せないようなアクセサリー
クリスマスの賑やかさに紛れて、
いろんなものを見て回る
これが可愛い、これがおしゃれ、これが綺麗
――いつか、こんなものを身に着けてみたい。
そんな想いを抱いてみたりしちゃって。
それらよりも高いブランド物があるって話に、あ然として。
数年、十数年
それくらいあれば手を出せるようになるかも。なんて夢を見て見る。
侑「……凄かったね」
彼方「うん〜……きらきらしてたねぇ」
彼方「侑ちゃんも、やっぱりああいうのが贈られたい?」
侑「いつか贈られたいって思うけど……いつかでいいかなぁ?」
侑「まずは、そういうのが似合う女になりたいね」 もし、その時が来たら何を贈ればいいんだろう
指輪も、ネックレスも、イヤリングとかだって
侑ちゃんはどれも喜んで受け取ってくれる気がする……
侑「そろそろ予約の時間かな?」
彼方「あぁ、そうだねぇ〜」
彼方「行こっか、侑ちゃん」
それは、これから考えていけばいい
そう思って侑ちゃんの手を引くと
小さな体は応えて……引かれてくれる
侑「お酒は飲めないけど……今夜だけは、ちょっとだけ大人の仲間入りだね」
彼方「うん〜、大人らしく……堂々としてようね〜」
侑「ライブとどっちが緊張する?」
彼方「ん〜……こっち。かな〜」
大人が入っていく、ちょっぴりいいレストラン
まだ高校生の私達には不釣り合いにも思えるけれど、堂々と。
彼方「あの……予約した近江です」
ドキドキして、震える声
侑ちゃんと手を繋いで誤魔化して。
門前払いされないことに……二人でそっと胸をなでおろす 店内は、床も壁も天井も……テーブルも。
クリスマスのための煌びやかさがあるのかと思えば、控えめで
けれど、季節を感じさせる穏やかなおしゃれさに包まれている。
案内された座席は窓際で、
比較的高い位置にあるこのレストランから見える夜景は、それこそ……煌びやかだった。
侑「わぁ……きれい……」
彼方「そうだね〜……侑ちゃんの方が綺麗だよ〜?」
彼方「な〜んて」
侑「えへへっ、冗談じゃなくすにはもうちょっと時間が必要かな?」
心から喜んでくれている侑ちゃんの笑顔は……まだ、かわいい
これがいつか、綺麗になるのか。
可愛くも綺麗な笑顔になっていくのか。
……楽しみになってきちゃう
侑「でも、彼方さんはきれいだよ」
侑「すっごく……本当に大人っぽくて素敵」 羨望を感じる侑ちゃんの視線
嬉しいけど、恥ずかしい
顔が熱くなって……思わず目を逸らしちゃう
侑「……照れて赤くなっていく彼方さんは、可愛いよ」
彼方「侑ちゃんってば〜……も〜……」
侑「ほんとに、かわいいんだけどな〜」
からかっているようにも聞こえるのに、
本心だって分かる侑ちゃんの声は、私の心にまで届く
だから……嬉しくて、ポカポカして感じる
――あぁ、好き
彼方「侑ちゃんだって可愛いんだよ〜?」
侑「彼方さんには負けちゃうかな〜」
彼方「そんなことないよ〜」
侑「あるよ〜」
彼方「ないよ〜」
侑「あ〜る〜」
彼方「な〜い〜」 立派なお店で子供みたいな言い合い。
ううん、褒め合い。
お店の人が食事を運んでくるのが見えて……休戦
侑「……わぁ……」
彼方「盛り付けもおしゃれだね〜」
お店のロゴが入っている綺麗な白いお皿に盛られたクリームパスタ
艶々と瑞々しさを感じさせるクリームは、
ほんのりと甘いような匂いがあって……食欲をそそらせる
侑「写真……とりたいけど、ちょっとあれかな?」
彼方「えへへ〜そうだね〜」
お店の風情には合わないかなと、二人で記念撮影は断念する
でも、十分いい思い出にはなってくれそう
侑「……いただきます」
彼方「いただきます」
小さく、控えめにいただきます。
音を立てないようにフォークとスプーンを手に取る スプーンの中に納まる程度の量をフォークに絡めて、
スプーンで受けるように巻き込んでいく
彼方「……んっ」
深みのある濃厚なミルクの味わい
溶け込んだスパイスのちょっとした刺激
彼方「美味しい……」
侑「こっちも、美味しいよっ」
侑「ぁ〜……っと……はしたないか……」
自分のフォークで巻き取って私の方に差し出そうとしてくれた侑ちゃんは、
照れくさそうにはにかむと、その一口は自分の口に入れる。
彼方「……お皿、一瞬だけ交換しよ〜?」
侑「うんっ」
周りの人や、
店員さんにはバレないように。
そんな、無駄な警戒をしながら……お皿をこっそり交換し合う。
学校でのお昼
何気なくやってるひと口だけの交換も、ここでは大人っぽく? スマートに。
なんて。 お店と料理のように、食事もオシャレに優雅に
そんな気分で、侑ちゃんと食事をしながら、
時々、綺麗な夜景を眺めて……非日常な時間を楽しむ
侑「……こんな気分でお酒を飲めたらもっと幸せな気分になれるのかな?」
彼方「どうだろうねぇ〜」
お店の人にお願いして、シャンパングラスにソフトドリンクな私達
はたから見れば、ワインかシャンパンでも嗜んでいるように見えるのかな。なんて、ドキドキする
侑ちゃんの頬が赤いのは、酔ってるからではなくて。
私と、二人……見つめ合ってるから。
そんなことを考えて……私まで赤くなってしまう。
彼方「……侑ちゃん、今はすっごくきれいに見えるよ」
侑「お酒を飲むのが、綺麗に見える近道?」
彼方「まっさか〜……」
彼方「雰囲気だよ。雰囲気……そう、そういう気分なのかも」
午前零時に解けてしまうシンデレラの魔法
でもこれは、
この想いが続く限り永遠に解けることのない……脆くて強い、心の魔法
侑「……彼方さん、これ。貰ってくれる?」
浸る私を引き戻す侑ちゃんの声
テーブルの上に差し出された小さな手の上には……気品を感じる箱が一つ置かれていた 彼方「えっ……ゆ、侑ちゃん……?」
侑「……開けてみて」
送り合うことを約束したわけでもない中でのプレゼント
どうしようもなく震えてしまう手で受け取って、言われた通りに開けてみる
中に入っていたのは、指輪だった。
宝石こそついてはいないけれど
ホワイトゴールドの……とっても綺麗な……
彼方「これ……っ……」
侑「私の我儘だよ……ほら、言ったよね?」
侑「彼方さんが卒業したら、会える時間が減っちゃうって……一番一緒にいられるのは私じゃなくなるって」
侑「そう考えて、悩んじゃって……どうしよ〜って……それで思ったんだ」
侑「この人はもう相手がいるんだって、手を出すなーって、周りに思って貰えばいいんだって」
侑「えへへ……独占欲ってやつなのかな?」
侑「迷惑だったらまた今度、ちゃんとした時に改めて贈らせて貰うけど……」
侑「もし、良かったら……受け取って貰えないかな?」 彼方「ゆ、指輪だよ……?」
彼方「これ……だって……」
少なくとも、数千円の指輪には見えない
そもそもロゴが入っているから違うと分かるけれど
箱だけ買ったわけではないのなら、私でも聞き覚えのある立派なブランドの指輪
それに……それだけじゃなくて。
指輪の贈り物なんて、それは……
侑「……色々あるのは分かってる」
侑「でも、これが私の気持ちなんだ」
侑「好きだよ……彼方さん」
彼方「侑……ちゃん……っ……」
侑「ん……ハンカチ、ちゃんと持ってきてるんだよね〜」
侑ちゃんの匂いがする、柔らかいハンカチが私の目元を拭う
優しい感触が、数回触れて。
侑「指に、嵌めてもいいかな」
彼方「侑ちゃん……っ」
侑「も〜……名前呼ばれるだけじゃ、分からないよ?」
困ったように笑う、侑ちゃん
拭ってくれていた侑ちゃんの手が指輪を取って……私の左手に嵌めてくれた 互いに大変な事があるって分かっているのに、
それでも侑ちゃんは指輪を送ってくれて……私はそれを受け取った
左手の薬指に感じる、ちょうどいい指輪の感触
今までつけていなかったから、違和感はあるけれど……でも。
彼方「……えへへっ」
早く慣れたいって、思う感覚。
思わず綻んじゃう私を、侑ちゃんは幸せそうに見つめてくる
だから、はっとする。
彼方「あっ……ごめんねぇ……」
彼方「私……こんな立派なお返しできないや……」
侑「彼方さんが喜んでくれたなら……正直、それ以上の物はないんだけど……」
侑「でも……彼方さんがくれるものなら私、なんでも嬉しいよ」
彼方「……あ、後ででいいかなっ?」
こんなもの……って、言っちゃうとあれかもしれないけど
私のプレゼントは、こんな場所で出せるほどの物じゃない
侑「うん……今度、お弁当作ってくれるって約束でも良いよ?」
彼方「ふふっ……それは、いつでもやってあげるよ〜」
侑「やった〜」
嬉しそうな侑ちゃん
その顔が落胆に変わらないようにってお願いしながら、
もうしばらくレストランで心を落ち着けて……覚悟を決めて……大観覧車のイルミネーションを見に行く 侑「はぁー……っ……」
侑「もう、すっかり冷えてきたね……」
侑ちゃんは白い吐息を手のひらにぶつけながら、呟く
ジョイポリス……アクアシティでのウィンドウショッピング
そして……背伸びした大人っぽいディナー
いつの間にか暗くなっていた外は、空気もひんやり感を増していて……
手を繋ぐ
侑「ん……あったかい」
彼方「……そうだねぇ」
どちらからともなく距離を詰めて、肩が触れる
小さく笑って、寒いからと……腕を組む
侑「合法合法……彼方さんあったか〜い……」
彼方「侑ちゃんもあったかいよ〜」
寄り添い合いながら、二人で歩く
私達と似た関係の人がだんだん多くなっていく道を……堂々と。 侑「……彼方さん彼方さん!」
侑「ここからでも見えるよ!」
彼方「わぁお……」
カラフルなライトアップが施されている大観覧車
まだ少しばかり遠いけれど、
はっきりと見えて……視線の高さ的にはちょうどいい
すぐ隣で、きらきらと瞳を輝かせる侑ちゃん
でも、少しだけ迷って……バッグの中から小包みを取り出す
彼方「侑ちゃん、これ」
侑「……彼方さんからの、お返し……?」
彼方「うん……」
お店の物じゃない、ラッピング
侑ちゃんはリボンを解いて……袋を開けて
侑「手袋……」
彼方「えへへ……私が編んだんだよ〜……?」
彼方「だから……えぇっと……釣り合わなくてごめんね……」
下手に安いものを用意するよりも、
無理して高いものを用意するよりも、
ずっと……喜んでもらえると思った手編みの手袋
けれど、侑ちゃんのプレゼントと比べたら、些細なもので。
侑「ううん……嬉しい」
侑「嬉しいよ……ありがとっ、彼方さん」
でも侑ちゃんは、やっぱり喜んでくれた 侑「して良い?」
彼方「うんっ」
侑「わぁ……いい感じのサイズ……」
さっそく手袋した侑ちゃんは、嬉しそうに手袋に包まれた手を光にかざす。
お店で売っているものと比べられると、質素な手袋
なのに侑ちゃんは嬉しそうで。
私まで……嬉しくなる
彼方「いっつも手を握ってたから……サイズは簡単に分かっちゃったんだ〜」
侑「そうだよね……あっ……」
彼方「ん?」
侑「でも、手袋してたら、彼方さんと手を繋ぎにくくなっちゃう」
彼方「じゃぁ……片方だけ外しちゃえばいいよ」
彼方「……一人の時は、両方して」
彼方「一緒の時は、片方だけ」
彼方「どうかな〜?」
侑「……うんっ、それがいい」 侑ちゃんは左側の手袋を外すと、私の手を握る
腕を絡ませるような、普通とはちょっと違う親密な手の握り方。
肩を寄せて……近づいて。
侑「……彼方さん」
彼方「なぁに〜?」
侑「来年もまた、クリスマスを一緒に過ごしたいね」
彼方「過ごせるよ〜……きっと」
阻むものがあったとしても、
私たちの心が変わらなければ、大丈夫
夜道の暗さ、
明かりの少ない影になっているところへと……ちょっぴり入って。
彼方「……今は、これが限界だけど」
侑「んっ……」
唇と唇を触れ合わせるだけの……本当に、まだ始まったばかりだと示すキス。
彼方「……一緒に居よう?」
侑「うん……一緒にいたい」
ほんの少し涙ぐんでいる侑ちゃん
背伸びして……もう一度だけ、軽いキスをする。
来年も、再来年も
これからもずっと一緒に居たいって気持ちを……触れ合わせた case.5:侑とクリスマスデート 終了
ヒストリ
case1.果林(洋服選び 5-32)
case2.璃奈(菓子作り 45-102)
case3.歩夢(クソゲー 118-151)
case4.菜々(お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマスデート 213-264) 残り(しずく、かすみ、愛、エマ、遥)
次のcaseはまた後ほど あなたは最高です…!
ゆうかなってこんなに良いのか 2、しずく
3、かすみ
5、愛
7、エマ
9、遥
>>272 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>274 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ しずく「彼方さん……私と、死んでくれませんか?」
同好会での練習を終えた私を呼び出したしずくちゃんが口にしたのは、
そんな……縁起でもなく、唐突で、不可解な願いだった。
呆然とする私の一方で、しずくちゃんは酷く真面目な表情をしている。
眉を顰めて、口元を固く縛って……
無理を承知で望んでいるからか、やや前傾姿勢なしずくちゃん
胸元で固くなっていく小さな拳
ふと……目を背けて。
彼方「ど、どうして……急に?」
しずく「……もう、それ以外に道はないと思ったからです」
彼方「えっと……いや」
彼方「待って……待ってよしずくちゃん……そんな、だって……えぇっと……」
彼方「………」
落ち着くための、深呼吸
切り替えて、しずくちゃんを見据える
彼方「そんなこと、絶対に許さないよ」
しずく「………」
しずく「あ、えっと……すみません」
しずく「本気でするつもりはないですよ?」
彼方「へっ?」
しずく「演技です。演技……今度の演劇で必要な役で……練習のお手伝いを――」
彼方「……しずくちゃん」
しずく「はい……はっ……ぁっ……」
彼方「言われること、分かってるよね?」
しずく「す、すみません……っ!」 彼方「すみませんで許されることじゃないよ?」
彼方「本気じゃない、演技ですって……安心したよ……でも、あのね……」
彼方「急に一緒に死んでって、言われた私の気持ちがわかる?」
しずく「うっ……で、でもですね――」
彼方「しずくちゃん……」
しずく「は、はいっ……」
彼方「突然そんなことを言われた人の自然な反応が見たかった。なんて言ったら、私は本気で怒るよ?」
しずく「も、申し訳ありませんでした……っ!」
普通に頭を下げるだけでなく、
床に額をつけて、土下座して謝罪するしずくちゃんを見下ろしながら
内心に煮えたぎる怒りと安堵の両方を少しずつ溶け合わせていく。
もうちょっとで怒鳴り散らしていたかもしれない。
そんなことを思いながら、演技で良かった。と……ちょっぴり不安を覚えて。
彼方「本当に演劇の話なんだよね?」
しずく「はい……」
彼方「演劇部の部長さんに確認するよ? いいよね?」
しずく「だ、大丈夫です……すみません……」
念のため、
本当にそんなものをやるのかどうかを演劇部の部長さんに確認。
万が一にでも、実は本当でした。なんてあったら私はもう……耐えられないから。 彼方「ふぅ……」
しずく「本当に、申し訳ありません……」
彼方「良くないけど、良いよ」
彼方「本当に舞台みたいだから……」
演劇部の部長さんに確認を取ったところ、
本当に、そんな演出のものを今度やるとの話を聞かされた。
部長さんまでも嘘をついていたら……というのはあるけれど
そこまで疑っていたらきりがない。
彼方「でも、本当にやめてね?」
彼方「次にこんな酷いことを……たとえ、演技の練習だったとしても」
彼方「突然振ってきたら……私、怒るからね?」
彼方「いい? しずくちゃん」
しずく「すみませんでした……次から、ちゃんと事前にお話しします……」
彼方「もぅ……はぁ……」
彼方「しずくちゃん顔上げて良いよ……いつまでもそんな、土下座してなくていいから」
しずく「すみません……」 心中して死ぬしずくちゃんは、主人公の友人という立場だそうだ
主人公と仲良くしていたしずくちゃんは、
主人公からの視点では、何の脈絡もなく……別の友人と一緒に心中してしまう。
それが、主人公の心に大きな影響を与えて。
というものらしい。
それは主役ではないけれど、
その演目上では最重要な役割となっていることから、しずくちゃんは焦ってしまったとか。
だからと言って、
急に一緒に死んでほしい。というのは聊か困る。
しずく「私……いえ、彼女は幸せの絶頂期なんです」
しずく「ですが……それなのに、心中を選ぶんです」
しずく「私には、どうしてもその心がわからなくて」
彼方「ん〜……」
表紙はまだ新品な演劇の台本
なのに、しずくちゃんが演じるその部分は
もうすでに……真っ黒に汚れているのが見える
彼方「なるほどねぇ……」 彼方「さっきもうそれ以外に道はないって言ってたけど……」
しずく「でも、それ以外にも全然道はあるんです……」
しずく「だって……幸せなんですよ?」
しずく「なのに死ぬ以外に道はないなんて、そんな……」
確かに、普通なら考えられないことだと思う。
幸せで
これからも幸せが続くと分かっているのに
死ぬしかないなんて。
彼方「しずくちゃんは、今幸せ?」
しずく「そうですね……」
しずく「演劇もスクールアイドルもうまくいっていて」
しずく「幸せか。と言われれば幸せだと言えるくらいには……」
ちょっぴり悩んだけど、
幸せですと答えたしずくちゃんは、嬉しそうな顔を見せてくれる
……ちょっと、攻めてみようかな〜?
彼方「その幸せを一緒に終わらせる相手って……私で良いの〜?」
しずく「それは……その……」
しずく「彼方さんが適任って言うと語弊があるかもしれませんが、そう……思ったんです」 ちょっぴり照れくさそうなしずくちゃん
私を一瞥すると……俯いちゃって、顔が見えなくなる。
たった一センチの違い……いや、
私の背が高くても見えないし……しずくちゃん以下は、沽券にかかわるかなぁ……
彼方「そっか……私と一緒に死にたいんだねぇ」
しずく「ほ、本当にじゃありませんよっ?」
しずく「あくまで……演劇の話で」
しずく「だから……でも、だけど、分かりません……」
しずく「どうして、彼女は死にたいだなんて思ったのか……」
焦るしずくちゃんは申し訳なさそうで
これ以上詰めるのは可哀想かなと、立ち止まる
一緒に死にたい
それはとても想ってくれてるからこその望みだとしたら
嬉しいことではあるけれど……。
彼方「じゃぁ、彼女じゃなくてしずくちゃんで考えてみよっか」
彼方「ではでは〜、しずくちゃんが私と死にたいって思う理由を上げてみよ〜?」
しずく「えぇっ……」 しずく「彼方さん、やっぱり怒ってますよね……?」
彼方「怒ってないよ〜ほら、話してみよう?」
しずく「………」
しずくちゃんは黙り込んで、私から目を逸らす。
一点を見つめるように目が細められて……閉じて。
数秒経って開かれた瞳は私を見てはくれなかった。
しずく「……この演劇の練習をしようと思った時」
しずく「自分にとって彼女と同じように心中したい相手はいるかと考えたんです」
しずく「そこで真っ先に思い浮かんだのが彼方さん達同好会の皆さんでした」
しずく「でも、その中の誰でも良いっていうわけではなくて」
しずく「同学年のかすみさんは?璃奈さんは? そうやって考えてみても……死ぬほどには思えなくて」
しずく「でも、彼方さんとなら……なんというか。死ぬのも悪くないなって思えたんです」
しずくちゃんは長々と語って
そうして、困ったように微笑んだ
しずく「穏やかに死ぬことが出来そうだから……でしょうか?」
彼方「私に聞き返されても困るかな〜……」 彼方「エマちゃん達じゃダメだったんだよね?」
しずく「そう、ですね……」
しずく「心から死ねるかと思った時、躊躇う感じがしたので……」
その心境が私にはよくわからないけど。
でも、そっか……私だからこそなんだねぇ……
彼方「過労死?」
しずく「ち、違います!」
彼方「……急性し――」
しずく「違いますっ!」
しずく「本当に、そういうアレではなくて……」
しずく「もしかしたら、眠るように死にたいって思ったからかもしれません」
しずく「眠っている間なら、私達は何が起きたかなんて知らずに死ぬことになるので」
しずく「苦しみや痛みが伴わないという意味での幸せを追求したのかもしれません」
しずく「たぶん……ですけど」
しずく「少なくとも、死を連想させる情報として彼方さんがいたわけではありませんよっ!」 焦って、一生懸命にいいわけするしずくちゃん
その勢いはなんだかせつ菜ちゃんにも似ているように感じたけれど
目の前にいるのは、紛れもなくしずくちゃんで。
狼狽えているのが分かる、頬の汗が流れるのが見えた。
しずく「………」
彼方「あははははっ」
彼方「ごめんね〜分かってるよ〜」
彼方「しずくちゃんがそんな考えを持ってないって」
彼方「……でも、そっか」
彼方「心中する演技、だったよね?」
小さく笑って、息を吐く
彼方「まず、台本を見た限りだと……彼女は幸せだった」
彼方「幸せだったけどその誰かと心中をした」
彼方「その誰かも……幸せそうに」
彼方「って言うことは、少なくとも無理心中ではないってことだよね〜」 しずく「はい……」
彼方「幸せだし、それが続くと分かってた」
彼方「それでも二人は心中をした……」
彼方「ねぇ、しずくちゃん」
しずく「なんでしょうか」
彼方「この、二人はずっと幸せに生きていけたはず。っていうのは誰の視点なんだろう?」
しずく「主人公……だったかと」
主人公側がメインで描かれている台本
心中する二人についてのことがほとんど書かれていないのは、
その場限りの出演だからか、それとも。
なんて、私が台本を語れるわけがないんだけど。
彼方「……だったら、二人が幸せになれなかったって考えてみたらどうかな」
しずく「幸せになれなかった……?」
彼方「そう。例えば、その二人が死ななければ一緒になることはできなかった。とか」
彼方「所謂、三人称視点による幸福論」
彼方「一人称視点……つまり、彼女達からしてみれば不幸せだったけれど」
彼方「他人から見れば、彼女たちは幸せになれたはずだった。という話」
心中については良く分からないので、スマホで検索。
とりあえず一番の情報量がありそうなものを開いて。
彼方「この情死っていうのが、それっぽいと思わない?」 親しい間柄の人達が合意の上で、命を断つこと
それが情死とも呼ばれる心中らしい。
しずく「相愛の男女が……」
彼方「……男女とも限らないみたいだよ〜」
しずく「……ぁっ……ち、違いますよ!」
しずく「ほんとうに……えっと……違います……」
サイトに載っている、
親密な同性のカップルが云々という文章を見たしずくちゃんは
またしてもやや大げさに否定する
つまりは本当なんじゃないか。なんて意地悪も言えるけれど
違うなら、違うんだって思っておく。
彼方「でも、これが一番あるのかもしれないよ」
彼方「この主人公なんだけど」
彼方「台本を読んでいくと " 私は他人のことなんて全く考えられていなかった " って吐き捨てる場面がある」
彼方「この " 他人 " が、元を辿れば彼女に行きつくかもしれない」
彼方「というより、多分そうだと思う」
しずく「……なるほど」
彼方「部長さんから、こういう風にしてっていう指示はなかったの?」 しずく「そこまで大きな指示はありませんでした」
しずく「ただ、感情を乗せて欲しい。と」
彼方「そっか〜……」
演技指導とか、そう言うのは私が分かるわけもない
部長さんがそのくらいしか指示しなかったのは、
それ以上は必要ないからかもしれないし
それだけでしずくちゃんなら、完璧に演じてくれるって信頼があったからかもしれない。
それは、部長さんにしか分からないことだし
もし、信じているのなら、
聞けば答えが貰えると思う。
でも……それは、
信頼を裏切ることになるからって……あんまりしたくないかな?
彼方「じゃぁ……私のこと、考えてみて〜」
しずく「彼方さんをですか?」
彼方「そう、愛して、愛して……愛し尽くしてる恋人みたいな感じで」
彼方「まずは、心中したい相手って本気で思ってみよう」
彼方「もちろん、私以外に適役がいるならその人でも良いけど……できそうかな〜?」
しずく「同好会の仲間として、友人として、先輩として……私は彼方さんが好きです」
しずく「それを、恋愛という形に昇華してみる……というものでしたら、おそらく……」
彼方「さっすが〜」
しずく「い、いえ……そんな、女優としては出来て当然のことだと思いますし……出来るとは限らないので」
しずく「一日、時間をください」
彼方「うん、大丈夫だよ〜」
とりあえず、今日は解散 ――――――
―――
しずく「彼方さ〜ん!」
お昼休みになって、私のいる教室へとやって来たしずくちゃん。
学科も学年も違うから、それなりに距離は離れているはずなのに
お昼休みになってからまだ数分しか経っていない。
しずく「あのっ、お時間頂けますか?」
お弁当が入っているだろう包みを持ちあげて見せるのは、
お昼を一緒に食べましょう。って誘いのつもりなのかな……
彼方「良いよ〜」
断る理由もなく、
自分の分のお弁当を持って、しずくちゃんについて行く
彼方「どこに行くの〜?」
しずく「いつもの、ベンチです」
彼方「彼方ちゃんが寝てるところ?」
しずく「はいっ、そこで一緒に食べましょう」
弾むような声色で話すしずくちゃんは、私の手を握って……引っ張っていく
これはもしかするともしかするかもしれない ベンチは幸いにも誰もいなくて、二人で並んで座る
しずくちゃんはいつもよりも距離が近い
しずく「……やっぱり」
彼方「ん〜?」
しずく「昨日、一晩中彼方さんのことを考えてみたのですが」
しずく「心的には、愛せそうというか……愛してもいいと言いますか」
彼方「おぉぅ……?」
しずく「身体的接触はどうなのかと思って……」
しずくちゃんの手が、私の足に触れる
撫でるような柔らかい手つきはこそばゆい
思わず身震いしちゃうと、しずくちゃんは小さく笑って私の手を掴んで
そのまま、私の手を自分の足に触れさせる
しずく「……触ってください」
彼方「え……ここ外だよ〜?」
しずく「人はいないので大丈夫です」 彼方「じゃぁ、触るよ〜?」
しずく「どうぞ……」
別にいかがわしいことをするわけじゃなくて
ただ、しずくちゃんの足を撫でるだけ。
スカートからすらりと伸びる、白さのある肌
触れているだけでも感じる温もりは
心なしか、温かみが増していくような感じがする
しずく「っ……ん……」
彼方「大丈夫?」
しずく「大丈夫です……続けてください」
彼方「続ける……?」
しずく「もっと、煽情的にお願いします」
彼方「煽情って……しずくちゃん言ってる意味――」
しずく「分かってます。でも、異性恋愛のような対象としてイメージできるかは」
しずく「この身体の接触において性的欲求が高められるかが重要だと思うんです」
しずく「これによって違和感を覚えた場合、同性恋愛は難しくなりますから」
彼方「そういうものなのかなぁ……?」
心は私を愛せるかもしれないって話なら、
身体の関係云々は気にしなくてもいい気はするけれど。
一緒に死にたいほどという、ある意味究極の愛を求めるなら必要なのかもしれない。 彼方「……」
太ももを軽く撫でる
頭を撫でるのと同じ程度の、力加減
スカートの裾部分から、膝のあたりまで。
その隙間を何度も往復するように撫でていくと、しずくちゃんの口から小さな声が漏れる
しずく「んっ……っ……」
彼方「大丈夫?」
しずく「平気です、続けてください」
彼方「続けて大丈夫?」
しずく「お願いします」
彼方「じゃぁ……」
しずく「……っ……んっ……」
擦っていくと、しずくちゃんの身体が小さく震える
手を離したのに、しずくちゃんはその手を掴んで抑えて……
ちょっぴり、顔赤くなってるのに……
しずく「もう少しお願いします」
彼方「これ以上はちょっと……」 しずく「あと少しだけですから」
彼方「……少しだけだからね〜?」
懇願にも似たしずくちゃんの要求
応えて太ももを擦ってみると、やっぱり……ちょっぴり高い声を漏らす
何かを堪えるような、細やかな声。
身悶えるような体の震え
私まで、いけないことをしているんじゃないかというドキドキを感じちゃう……
いや、うん。
間違いなく学校でして良いことじゃないとは思うけど……。
しずく「っぁ……んっ……」
彼方「もう駄目っ、終わり〜っ!」
しずく「っ……はぁ……」
しずくちゃんの声が明らかに色づいて、艶がかって
これは駄目だと手を飛び跳ねさせる
誰かに見られたら、大変な事になるよねぇ…… 彼方「大丈夫……?」
しずく「大丈夫です……」
彼方「なんだか、ダメそ〜な声出てたけど……」
しずく「彼方さんの触り方が、優しくて……その、こそばゆかったというか」
照れくさそうに笑うしずくちゃん
本当にこそばゆかっただけなのかって思うけど
それは多分藪蛇で。
でも……私が聞くまでもなかった。
しずく「……なんというか、その……悪くなかったです」
彼方「えぇ……」
しずく「あっ、えぇっと……も、もちろん!」
しずく「もちろん、卑猥な妄想してプラスアルファしていたとかいうのもあるからですよっ?」
しずく「この後、キスしたりとか、そういう……性的な行為を行うんだ……って、心構えをしていたからであって」
しずく「本当に、ただ素の状態からだったら無理です」
それは誰でも無理じゃないかなぁ? 彼方「えぇっと〜……つまり、私と恋できる?」
しずく「……できそうです」
彼方「そっか……」
しずくちゃんも女の子オッケーなのか
ただただ、私相手ならオッケーなのかっていうのはあるけれど
そこは別に、追及する必要はないよね?
あくまで、心中しちゃう " 彼女 " とその友人? 恋人という舞台が出来上がればいいんだから。
しずく「それで、その……キス、してもいいですか?」
彼方「えっ!?」
恥ずかしそうに切り出したしずくちゃんは、
背けそうな顔を上げると、潤みのある瞳の中にはっきりと私を映して。
しずく「……本当の感触を、知りたいんです」
彼方「ぅ……い、いや……それはっ……」
彼方「それはっ! 止めよう……っ?」 キスまでしちゃうのは、流石にまずい
さっきまでしていた太ももを撫でるのも
よく考えなくてもNG行為だった気がするけれど、
キスまでしちゃうのは……流石に、ダメな気がする。
彼方「後戻り、出来なくなっちゃうよ?」
何の気なしに間接キスしてしまうとか、
そういうのだったら、私も笑って済ませられると思う。
けれど、恋人の様な関係を意識した上でというのは、
ちょっとどころじゃなく、無理がある
彼方「す、少し落ち着こう? ね〜?」
しずく「……はい」 しずくちゃんは頷いてくれたけれど、しょんぼりとして
胸元に手を当てながら、やや乗り出し気味だった姿勢を正して……溜息をつく。
これ見よがしに……なんて、思っちゃう。
しずく「すみません、焦りました」
彼方「う、ううん……良いけど……」
しずく「でも、そうなんですよね?」
しずく「私たちって、普通はそういう風になるものなんですよね?」
彼方「ん〜……そうだねぇ」
世界的にはだんだんと許されるような場所も出始めているけれど、
こっちでは別にそんなこともないし、
世界や国がどうこう言っていたって、
自分の周囲が認めるかどうかはまた別の話だ。
しずく「……だからこそ " 彼女 " は命を断った」
しずく「そう考えると、順風満帆に見えたのに死んでしまった。というのも分かる気がします」 虐められているとか、
表立って何か大きな問題に直面しているとかでもなく、
ごく普通に幸せそうにしていて
これからも何の問題も無く幸せになれそうに見えた彼女が、
不意に……仲の良かった友人と心中する。
その裏には……彼女達にしか分からない苦悩があったとしたら……。
そう、たとえば
世間的には許される事ではない何かを、していた。したかった。
そうなのだとしたら?
しずくちゃんはそこに行きついたのか、
少し、苦しそうな顔をする。
しずく「彼方さんを好きになって、愛していて」
しずく「今ここでキスをするような間柄だったとして」
しずく「私達にとってはただのスキンシップ。心の伝達」
しずく「でも、他人に見られたら大変な事になってしまう……そんな、心的負荷を抱え込んでいたのなら……」
しずくちゃんは小さく息を吐くと
ゆっくりと私を見つめながら……私の手に、手を重ね合わせてくる
しずく「……好きです、彼方さん」 彼方「し、しずくちゃん……」
演技か、本心か。
しずくちゃんの瞳は、真に迫っているように見える
さっきまでの空気もあるからなのか……私も必要以上にドキドキしちゃってる……
演技、だよね?
そう聞きたいけれど……本心だったら?
そんな疑念が、言葉を奪い去っていく。
だって、もししずくちゃんが本心で言っていたら
私のそれは、酷く傷つけることになっちゃう……。
彼方「っ……」
しずく「すみません、そんな顔……させるつもりでは」 しずくちゃんは薄く、
切な気な笑みを浮かべながら……私の頬に触れる
小さな手は優しくて、温かい。
しずく「……今の心的には、本気で告白しました」
彼方「しずくちゃん……」
しずく「でも、良いんです」
しずく「私も。とか、付き合おうとか……」
しずく「そう言われちゃったら……どうしたらいいか、分かりませんし……」
おどけた笑みを形作っていくしずくちゃんの表情
本当に、本気で言ってくれたと信じさせるその想い
応えてあげられなかったのが……少し申し訳なくて
胸が痛い……けど、でも、だって……。
彼方「ぁ……」
――あぁ、これが " 彼女達の心 " なのかと、思う。
彼方「……ごめんね」
しずく「いえっ、そんな……役の心を理解したい。ただそれだけの話ですから」
しずく「本気で恋愛をするなんて……流石に、ちょっとどうかしちゃってますよ」 彼方「そうだねぇ……どうかしちゃってるかも」
しずく「……だから、答えて貰えなくて良かったです」
しずく「すみません……変な空気にしちゃって」
しずくちゃんは申し訳なさそうに言うと、
脇に避けていた自分の弁当箱を取って、膝の上に置く
お昼休みになってからそれなりに時間が経っていて、
もう、そんなに残っていない気がする……
食べきることは、出来るかな?
しずく「……でも、そうですね」
しずく「彼女はいつも、こんな気持ちだったのかもしれません」
しずく「こんなにも近くにいて、触れ合うこともできるのに」
しずく「それが過ちだとされているだけで……果てしなく遠く感じる」
しずく「これじゃ……彼女は幸せになんてなれるはずがありません」 しずく「……ならせめて、いずれ別つ死によって繋がろうと」
しずく「心中を選んでしまう……その気持ちが……」
しずくちゃんは、膝の上のお弁当の包みを解くような素振りさえなく
小さな独り言のように呟き続ける。
それはとても普通とは言い難くて
何か……危ない気がして
彼方「しずくちゃんっ」
しずく「っ」
彼方「しずくちゃん。止めた方が良いよ」
彼方「それ以上役にのめり込んだら……本当に心中したくなっちゃうよ……?」
声をかけながら体を揺さぶって、私に意識を向けさせる。
しずくちゃんは本気で取り組もうとしてる
女優なら出来て当たり前の事だって言ってたけれど
没入してしまうのは……違う気がする。
しずく「……止める、なんて……出来ません……」 でも、しずくちゃんは首を振る。
拒否して……辛そうに笑って見せて……はっとして
そうしてまた、ごめんなさいって口にする。
しずく「えぇっと……演劇ですよ?」
しずく「演劇を止めたくないのであって、その……彼方さんとの恋は……」
彼方「そうじゃなくてっ、いやそれもそうなんだけど〜」
彼方「彼女にのめり込んじゃダメだって言ってるんだよ〜……」
彼方「しずくちゃん、真面目だから……少し、危ない感じがする」
遠回しに言ったってしょうがない
だから、率直に言う
彼方「あくまでしずくちゃんはしずくちゃんで、彼女は彼女なんだから」
彼方「……間違っちゃ、ダメだよ〜?」 しずく「頭では分かってます」
しずく「でも、もう一歩踏み込まないといけない……そんな気がしてならないんです」
彼方「ダメだよ」
しずく「あと少し……だって、今このままだと」
しずく「私は彼方さんと心中なんて出来ない……」
彼方「出来ちゃダメなんだってっ!」
鬼気迫る感じのしずくちゃんを前にして
流石に、声を張り上げちゃったけれど……
しずくちゃんは驚く様子も見せずに、ただただ……悲しそうな顔を見せた
しずく「でもそれでは、中途半端になってしまいます……」
彼方「う〜……」
彼方「それは妥協って言うんだよ〜」
必要な事だから。なんて言ってみたけれど
しずくちゃんは頷かない
しずく「やっぱり、キスしてください」
彼方「えぇっ?」
しずく「させてくれてもいいです……それで、今回の件は妥協しますから」 彼方「妥協ねぇ……」
なんだか、しずくちゃんに弄ばれているような気がする
でも、心中云々は本当に演技のことだったし、
今のしずくちゃんの状態だって、おふざけで言ってるわけじゃなくて
本気で、そうなっちゃってるのかもしれない。
うぅ〜ん……それはそれで不味いような気もするけど
もしそうなら、私のこと考えてみて。なんて言った私の責任だし……。
しずくちゃんをこのままにするよりは、
責任とって、一回キスしちゃうべきかもしれない。
でも、それが決定打になって
しずくちゃんをダメな子にしちゃうかもしれない。
彼方「本当に、キス一回で大丈夫になれる?」
しずく「……なれると、思います」 彼方「ん〜……」
彼方「んん〜……っ」
生か死かなんて極論を言うわけじゃないけれど
でも、このたった一回が及ぼす影響はきっと大きい
彼方「本気になっちゃったりしない?」
しずく「……もう、本気です」
彼方「………」
しずく「本気じゃなければ、二回もキスしたいなんて言えません」
しずくちゃんは笑いながら言うけれど、冗談じゃない
一回目なら、冗談で終わる
でも、これはしずくちゃんが言うように二回目だから。
胸に手を当てているしずくちゃんの求めるような表情
ドキドキしちゃいけないのに……しちゃいそうになる 彼方「ダメだよ……しずくちゃん……」
しずく「でも……ドキドキしちゃって……」
彼方「………」
時間がどんどん、流れていく。
昼休み特有の校内外から聞こえて来る虹ヶ咲生徒の活気
けれど、
私達の空気は穏やかじゃない
キスをしたら、後戻りは出来ないって言ったのに。
なのにしずくちゃんはキスがしたいって言う
ダメだって分かってるのに……私は。
彼方「足を触るのとはわけが違うんだよ〜?」
しずく「分かってます」
彼方「ダメな事なんだよ?」
しずく「分かってます」
彼方「………」
彼方「……一回だけ。だからね?」
しずく「はい」 しちゃだめだけど……
したらいろんなことが変わっていっちゃうことだって分かってるけれど
でも、だけど。
しずく「彼方さんからで、いいですか?」
彼方「うん、大丈夫」
そういう気持ちを込めたキスなんて、未経験
それでも私が先輩でしずくちゃんが後輩だから。
キスは、私からする。
なんて――ただの見栄っ張り
ううん、わがまま。
彼方「見られたら……大変な事になっちゃうよ?」
しずく「そうですね……」
このどきどきは、それが理由かもしれない。
だとしても……関係はなくて。
ゆっくりと、しずくちゃんと唇を重ねた。 しずく「ん……っ……」
彼方「っ」
ほんの数秒程度のキス
運よく、誰も通ることはなくて……見られなかったけれど
でも、胸の奥の高鳴りは止まってくれない
彼方「ふ……」
しずく「……温かい、ですね」
彼方「ん……」
名残を惜しむ声で呟いたしずくちゃんは
指先で自分の唇をなぞって、小さな笑みを浮かべる
なんだか、ちょっぴり煽情的に見えちゃうのは……キスのせいだよね? しずく「……彼方さん、好きです」
彼方「っ……だ、ダメだってば……」
しずく「……周りがなんて言おうと関係ないです」
しずく「今みたいに、こっそり付き合っていけばいいじゃないですか」 彼方「こっそりって……」
確かに、今日みたいに隠れてこっそり付き合っていけば
同性が云々なんて問題は気にしなくていいのかもしれない
でも、それは結局
自分たちが悪いことをしていると言っているようなもので、
言葉にはしなくても
互いを想い合うことを良くないと認識していかなければならないということになる
そんなのは……やっぱり、辛い。
彼方「ダメだよ……」
しずく「……」
しずく「そう、ですよね……」
しずくちゃんは笑う
凄く、悲しそうに笑う
やめて……やめてよ……
しずくちゃん……っ……
しずく「わた――」
彼方「そういうの、狡いよっ」 彼方「そんな、自分だけが傷ついてますみたいな……」
彼方「自分が我慢したらいいみたいな……笑い方……」
彼方「狡いよ……しずくちゃん」
しずく「そんなつもりはっ!」
彼方「ない? 無いなら、どうしてそんな顔するの?」
彼方「……私だって……こんな……」
何を言ってるのか分からない
ううん、何言ってるのかは分かってる。
けれど、どうしてだろう……変な感じがする。
ダメだと分かっていても……言ってしまえって……
彼方「ダメだったんだよ……キスなんて……」
しずく「っ……」
恋を出来るかどうかなんて考えながら、私達はキスをした。
したらいけなかったのに、してしまった。
私達は――彼女達になってしまった。 しずく「……こんな、気持ちだったんでしょうか」
しずく「したいのに、しちゃダメだって」
しずく「彼女も、その友人も」
しずく「ずっと……こんな気持ちでいたから、心中しちゃったんんでしょうか?」
彼方「だったら、私達も心中したくなるんじゃないのかな……」
彼方「……今結ばれることがないなら、せめて次は……せめて死後の世界では」
彼方「そんなことを彼女達が考えたなら……私達も」
その可能性はあるし、
もしもそうなら、私達はいずれ心中することになる。
……いやいや、ない。よね?
しずく「大丈夫ですよ。彼方さんには遥さんがいるじゃないですか」
しずく「彼女には友人しかいなかった」
しずく「だから、心中を躊躇う必要がなかったんです」
しずく「私も彼方さんも私達だけじゃない以上、そう陥ることは万に一つあり得ませんよ」 お昼終了数分前を知らせる鐘がなる
お弁当を一口も食べていないのに、
不思議と空腹を感じることはなくて……
しずく「心中……したくなる気持ちは分かったので、大丈夫です」
彼方「大丈夫って」
大丈夫って、何が?
その気持ちが分かったから……なに?
私のその疑問が解消されないまま、
しずくちゃんはお弁当が食べられなかったことを申し訳なさそうにして。
しずく「戻りましょう……」
彼方「……そう、だね……」
授業をさぼるわけにもいかなくて……私達は別れた ――――――
―――
その日以降、
しずくちゃんが「心中しませんか?」なんて言ってくることはなくなった
それどころか、私に近づいてくるような事も無くなって
私から距離を詰めようとすると……思い出したように離れていく。
かすみちゃん達も、
流石に何かがあったと察して関わってくるようになったけれど
しずくちゃんは何も答えてはくれないらしくて。
――だから、捕まえることにした。
彼方「しずくちゃん!」
しずく「ぁっ……」
しずくちゃんが確実にいる時間を狙って……
しずくちゃんの教室で、声を張り上げる
彼方「付き合って……くれるよね〜?」
お弁当箱の入った包みを掲げて見せると
しずくちゃんは凄く躊躇う様子を見せて……
そうして諦めたのか、小さく頷いてくれた しずく「あの……彼方さん……」
彼方「ダメ」
しずく「に、逃げたりしませんから……」
彼方「絶対ダメ」
しずく「でも……」
彼方「別に普通のことだよ〜」
しずくちゃんの手を握って、強引に引っ張って連れていく
横切る人達が見てくるけれど、関係ない
手を繋ぐなんて別に普通
連れていくのだって別におかしなことじゃない
彼方「……約2週間」
彼方「しずくちゃんが、私を避け続けた」
彼方「だから絶対に放さないよ〜」
しずく「……彼方さん……」 最後に私達が変な関係を紡いでしまった場所
そのベンチに隣あって座ると、しずくちゃんは露骨に距離を取る
彼方「……膝枕してくれるのかな〜?」
しずく「ダメです」
しずくちゃんは即答すると、
自分の膝の上にお弁当箱を乗せる。
私の頭を置く場所なんてないとでもいうかのような素振りに
ちょっぴりむっとしちゃう……。
しずく「……避けてすみません」
しずくちゃんは弁当箱を開けることなく、切り出す。
しずく「でも……ダメだと思って……」
彼方「ダメ?」
しずく「あれから……忘れられないんです」
しずく「彼方さんとしてしまったキスの感触が」
しずく「……ペットボトルに口をつけても、お箸に口をつけても」
しずく「あの時の感覚が浮かんできちゃって……ドキドキして」
しずく「夢にまで見ちゃうこともあって……」
しずくちゃんはとめどなくあふれ出す心を打ち明けるように並べ立てて
そうして……俯いてしまう
しずく「……本気に……なりたいって、思ってしまって……」 しずくちゃんは絞り出して、黙り込む
彼方「しずくちゃん……」
今にも泣いてしまいそうなしずくちゃんの雰囲気
演技ならいいけれど……でも、
2週間もの時間が演技なわけはなくて。
しずく「……彼方さんは、私のこと好きですか?」
彼方「好きだけど……」
しずく「だけど……そういうのじゃない。ですか?」
彼方「………」
私もしずくちゃんのように一歩踏み込んでしまった
キスの感触を思いださなったと言えば嘘になるし
あれを忘れられたなんて、口が裂けたって言えることじゃない
彼方「ダメ、だよ……ダメなんだよ。しずくちゃん」 しずく「っ……だったら、だったら、本当に……っ」
彼方「それは出来ないよ……」
しずく「……一緒に、死ぬことはできませんか?」
二度は言わずに、首を横に振る。
私には遥ちゃんがいる。
しずくちゃんじゃなくても、
誰とだって……心中する事なんて出来ない
しずくちゃんもそれが分かっているからだろう
そうですよね。と、小さく笑う
しずく「……なら、みんなには秘密にして交際して貰うことは出来ませんか?」
しずく「私……もう、忘れられないんです……」 彼方「しずくちゃん、ダメだってば……っ」
しずくちゃんが止まれないなんてもう分かり切っている
俯いて見えない顔がどうなっているかなんて……分かっちゃってる
でも、言わなければいけないと思った。
何かの契約における
同意するかしないかの読ませる気を感じない長々と書かれた利用規約のような……
そんな、義務感めいたものだから。
しずく「ごめんなさい……でも、好きです」
しずく「好きになっちゃったんです……性的に」
身体と、唇の接触
あの日の軽はずみな行為が……作り出した関係
ううん、あれが完全なものとしてしまった想い
無垢なしずくちゃんを歪ませてしまったこと。
――だから。
彼方「………」
彼方「……絶対に、外には出さないって約束できる?」
しずく「……この苦しさをどうにかできるなら、何だって!」
しずくちゃんは自分の胸に手を当てて、顔をあげる
辛さと苦しさの入り混じった表情
瞳には涙が浮かんでいた
彼方「じゃぁ……こっそり、付き合おっか」
彼方「誰かに知られちゃったら……大変な事になっちゃうから、秘密だよ〜?」
心中出来るようになるかどうかって話しだったはずなのに
心中に隠しておけるかなんて話しになるなんて。
しずく「……大丈夫ですっ」 しずくちゃんは嬉しそうに言うと、
自分の弁当を抱えるようにして、脇へと除ける
しずく「……私、彼女が無理心中したんじゃないかって思うんです」
どうして? なんて言わなくても良い
聞かなくたって、分かる
しずくちゃんは……
彼方「私と無理心中することを考えたんだよねぇ?」
しずく「……すみません」
しずく「少しだけ、考えました」
しずく「……彼女も、彼女の友人も、主人公さえも」
しずく「この演劇の中の登場人物は、みんなが幸せではなかった。って、聞きました」
しずく「でも、もういいんです」
しずく「……いいんですよね? 心中を、考えなくても」 これはきっと間違ってる
やってはいけないことをやってしまったと思う
でも、今更止まることはできなくて
私としずくちゃんは関係を紡いでしまった。
とても、歪なものを。
彼方「大丈夫、必要ないよ〜」
しずく「……良かったです」
そう言うしずくちゃんには
何か、触れてはいけない危うさが感じられる。
しずく「……彼方さん、好きです」
しずく「一緒に死んでもいいくらいに……」
しずくちゃんは笑顔で言う。
彼方「しずくちゃん……」
心中して死ぬ少女の役
もしかしたら、それに没入してしまったのかもしれない。
彼方「……うん。ありがと」
その想いが嬉しいと感じられる……私のように。 case.6:しずくと心中(演劇) 終了
ヒストリ
case1.果林 (洋服選び 5-32)
case2.璃奈 (菓子作り 45-102)
case3.歩夢 (クソゲー 118-151)
case4.菜々 (お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマスデート 213-264)
case6.しずく(心中演技 275-341) このままだと二人が本当に心中する内容になりかねないので終了。
次のcaseは明日 乙乙
めっちゃ良かった
やっぱりかなしずが好きだなぁ なんだこの…良い…
でもイチャラブがやっぱり見たい… 乙乙良かった
かなしずって二人とも文系でなおかつ頭良いから文学的なssも書きやすいよね 3、かすみ
5、愛
7、エマ
9、遥
>>355 キャラクターセレクト(上の1〜0からのみ)
>>357 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 年始年末にこのご時世で帰国できなくなったエマちゃんが彼方ちゃん宅へお泊まりに行く(少なくとも2泊3日以上で) 当たり前のように出来ていたことが、出来なくなった時代
これからというスクールアイドル同好会の活動も自粛しなければいけなくなって
東雲や藤黄が9人グループのために控えなければいけない中
ソロでやっていたことが功を奏して……とはあまり言いたくはないけれど
そのおかげで、私達は細々と活動を続けることが出来ていた1年
それも終わりを迎えようとしていた頃に……その問題が起こった。
侑「えっ……果林さん地元帰るの!?」
果林「ええ……私は大丈夫って言ったのだけど」
果林「都内の何が大丈夫なのって……戻ってくるように言われちゃって」
果林ちゃんは困ったように言って、新幹線のチケットを見せる
すでに予約購入されたらしいそれは、両親が送って来たものかな
果林「そういうわけで……年末年始は一緒には居られないわ」
エマ「そう、だよね」
エマ「大丈夫だよ〜……一人でも」 私達は元々家から通っているから問題はないけれど、
果林ちゃんとエマちゃんの二人は寮暮らし。
生活する場所があるから、
問題があるかないかで言えば無いんだけど……でも。
エマちゃんは私と同じ高校三年生
実家であるスイスに戻ることが出来ないのを含まなくても
独りぼっちで寮生活というのは寂しいと思う。
彼方「それなら、エマちゃん年末年始だけウチに来る?」
エマ「えっ……悪いよ〜」
彼方「でも、私のところも遥ちゃんと二人だけになりそうなんだよね……」
私のお母さんは仕事の都合上、家に帰ってくることが出来ない。
というのも、
感染リスクの軽減のためにと会社が用意した社宅があり、
お母さんの同僚含めて殆どの人がそこで生活するようにしていて……
お母さんも、そこで過ごす予定らしい。
実家に戻れないわけではないけれど、
戻る場合は、
休み明けに感染していないことの確認取れるまで、仕事に復帰させて貰えないとのことなので
仕方がない。って言ってた
彼方「部屋は余るから、どうかなって……」
エマ「でも……迷惑にならないかな……」
彼方「二人分のおせちじゃ寂しいから3人分作らせてほしいな〜」
彼方「遥ちゃんも、二人だと寂しいねって言ってたから」
彼方「エマちゃんが一緒に年越ししてくれると嬉しいかなぁ……」 これは楽しみ
(中々に取り扱いにくそうなシチューにしてしまって申し訳ない…) 甘えるような声と、ちらちらアピール。
何か世話の大変な子供ならともかく、
エマちゃんだったら絶対にそんなことはないから、
迷惑なんてとんでもない。
エマ「ん〜……ほんとに?」
彼方「ほんとほんと〜」
かすみ「もしあれなら、かすみんが――」
果林「かすみちゃんは過ごす家族がいるでしょう?」
かすみちゃんの頬を摘まんで黙らせる果林ちゃん
二人を見て笑うエマちゃんはちょっぴり申し訳なさそう
エマ「じゃぁ……遥ちゃんが良いって言ってくれたら。お邪魔させて貰おうかな〜」
彼方「じゃぁ、確認してみよっか〜」
手っ取り早く、お電話で。
遥『えっ!? ほんと! 私は全然いいよっ!』
大興奮の二つ返事
この勢いにはエマちゃんも「ありがとう」と笑顔だった エマ「……あ、彼方ちゃん」
彼方「ん〜?」
ソファでゆったり膝枕をして貰う私に振ってくる声
エマちゃんの手にある雑誌にはおせち特集なるものがあって
それを見ているに違いないと、勝手に思う。
彼方「なぁに〜?」 エマ「おせちって、彼方ちゃんが作るの?」
彼方「そうだよ〜いつも手作りしてる」
エマ「……そっか」
ちょっぴり曇るエマちゃん。
作らせてって言ったから、
エマちゃんも分かってたはずだけど……心配があるのかな?
……気にしなくても、良いのに。
彼方「大丈夫だよ〜」
エマ「ううん、私も食べてみたいのがあって……」
エマ「だから、お買い物一緒に行かせて貰えないかなって……」
彼方「なるほど……」
エマちゃんはきっと、
お金のことを考えてくれてるんだと思う。
本当に気にしなくていいけれど
でも、エマちゃんの罪悪感を大きくさせちゃうよりはいいかな……
彼方「分かった。じゃぁ今度買いに行こうよ」
彼方「ギリギリに行くと混むから」
彼方「少し早いけど……明後日とか」
エマ「うんっ」 おせち料理は自分で作らない方が安く済むのもあるにはあるけど
でも、せっかくだから作りたい彼方ちゃん心
そのために、一年間おせち貯金してたりするし。
普通の貯金に加えて、おせち貯金、お遊び貯金とかとかとか。
用途別に貯金してるから、大丈夫。
エマ「このローストビーフって」
彼方「作れるよ〜」
エマ「海老のは?」
彼方「作れま〜す」
エマ「黒豆も?」
彼方「任せて〜」
エマ「……年越しそばも〜?」
彼方「麺は打たないかなぁ……」
エマ「えへへ〜だよね〜」 エマ「彼方ちゃんなら、作れそうな気がしちゃったよ〜」
彼方「えへへ〜」
作れるか作れないかで言えば、作ることは出来る
もちろん、麺から。
でも、流石におせちと年越しそばの両方はちょっぴり難しいから、
おせちを作って、おそばは出来てる麺を使う。
お汁は変わらず作るけど。
でも……
彼方「エマちゃんが作って欲しいなら、彼方ちゃんが頑張っちゃうよ〜?」
エマ「大変じゃない?」
彼方「ん〜それなりかなぁ?」
彼方「……そうだ。一緒に作ってみる〜?」
彼方「せっかくだから、三人で」 エマ「私と、彼方ちゃんと遥ちゃんで?」
彼方「うん……そう」
彼方「エマちゃんも私も高校最後の年末でしょ〜?」
彼方「なのに……こんなことになっちゃって」
誰が悪いなんて言うつもりはないけれど
でも、もっといろんな事が出来たはずの学生生活が潰れてしまったのは事実で
だから、せめて。
彼方「せっかくだから……思い出、作ろ〜?」
エマ「彼方ちゃん……」
彼方「えへへ〜」
地方から来ている果林ちゃんさえ、
日本国内にいるから会いたければ……会おうと思えば会える
でもエマちゃんはそう簡単じゃないから。
彼方「一緒に年越しそば作って、食べて、初詣行って……」
彼方「あぁ、初日の出も見ようよ〜」
エマ「彼方ちゃん起きられる〜?」
彼方「起きるよ〜」
いっつも、遥ちゃんに寝ちゃってたね。って、
笑われちゃうんだけどねぇ。 エマ「でも、初詣……行けるのかな」
彼方「そうだねぇ」
大きな神社に関しては、開門……って言ったらいいのかな?
参拝に行ける場所が普通にあるけれど、
通行規制や人数制限があったり、
今までのように簡単にすることは出来なかったりする訳で。
出来る限り……三箇日は避けてってサイトにも出ていたりするし。
彼方「場所によってはね〜公式のサイトで参道とかの映像が見れるみたいなんだよね〜」
彼方「それで確認して……人が少なそうだったら行くって言うのもありかも」
エマ「へ〜そう言うのもあるんだね〜」
彼方「あるんだよ〜」
私も、遥ちゃんとの話で知ったんだけどね 初詣はどうしようか。
ここはどうだろうとか、
こんな風になってるんだよとか。
少し距離のある大きな神社や、
比較的近くにある神社とか。
部室にあるパソコンを使って、
初詣とかの事を調べて……エマちゃんと盛り上がる。
調べるだけでも、誰かとしていると……楽しい
エマ「見て見て彼方ちゃん、この神社〜」
彼方「おぉ〜ヴァーチャル参拝……?」
エマ「おみくじ引けるみたいだよ〜」
彼方「今日引いちゃうの〜?」
エマ「引いてみようよ〜」
彼方「え〜」
彼方「凶引いちゃうかもしれないよ〜? 今日だけに〜」
エマ「ん〜……せめて吉が良いな〜」
彼方「そうだね〜」
侑ちゃんか愛ちゃんなら、反応してくれたかな?
まぁ、エマちゃんが楽しそうなら別にいいけどねぇ
そんな気持ちで引いたおみくじ
彼方「あっ……大吉」
エマ「ほんとだ〜凄いね〜」
彼方「……我儘になったりすると運気を追い出しちゃうって」
エマ「でも、願い事は叶うって書いてあるよ〜?」
エマ「他人のことばに迷わされてはいけません。だって〜」
神様を他人って言っちゃっていいのかなぁ?
でも、エマちゃんが言うなら、良いのかな? エマ「あっ、でも私の言葉も他人だね〜」
彼方「じゃぁ今だけ、私の家族〜」
おふざけで言いながら身体を寄せると、
エマちゃんも私の方に身体を寄せてくる
私よりも大きな……立派な体。
簡単に押し倒されちゃいそうな……力強さを感じる
彼方「ヴェルデ彼方だよ〜」
エマ「えへへ〜じゃぁ〜……」
エマ「近江エマだよ〜」
仕返しとでも言うかのように、エマちゃんはいい返してくる
笑み交じりの柔らかい声
エマちゃんらしい、楽しそうな声。
彼方「このえま〜」
エマ「このえま〜」
冗談で言うと、エマちゃんも乗ってきて。
なんだかちょっぴり語呂が良い。
なんていうか、舌触り?
語感が良いなぁなんて……二人でハモってみたり。
彼方「このえまヴェルデ彼方〜」
エマ「ふふっ、なんかもうすごいね〜」
約束の日まで、まだ数日。
でも、その日のための時間から……とっても楽しかった。 ――――――
―――
そうして、30日
エマちゃんが私たちの家にやってきた。
というか……連れてきた。
彼方「じゃじゃ〜ん、エマちゃんで〜す」
エマ「遥ちゃん、久しぶりだね〜」
遥「お久しぶりです……エマさん」
遥「いつもお姉ちゃんがお世話になってます」
エマ「ううん、私もいつもお姉さんにお世話になってます」
エマ「あっ、これ」
エマ「マカロン作ってきたから食べて食べて〜」
遥「わぁ〜……ありがとうございますっ」
お母さんがいない分、エマちゃんが来た近江家
いつもよりも賑やかで
遥ちゃんもすっごく楽しそう
彼方「まぁまぁ、まずは上がって上がって〜」 案内するほどでもない、私たちの生活する家の間取り。
それでも楽しそうに案内する遥ちゃんと、
それでも嬉しそうにしてくれるエマちゃん。
微笑ましい二人のやり取りを見つめる私は、
ちょっぴりお母さんな感じ。
なんて。
娘を持つってこういうことなのかな
娘が彼氏とか連れてきたら……いや、それは全然違うよねぇ
遥「……お姉ちゃんお姉ちゃん」
彼方「ん〜?」
遥「私の彼氏、紹介するねっ」
彼方「んん゛っ!?」
遥「エマくんだよ」
エマ「どーも〜彼氏やってま〜す」
彼方「………」
彼方「無理があるかなぁ……」 エマちゃんが来てることを知らなければもうちょっと驚いたかもしれないけど
でも、知ってるから大丈夫。うん……
お茶が肺に流れた気がするけど……うん。
遥「そっか〜……残念」
エマ「やっぱり無茶だったね〜」
遥「でも、ちょっとビックリしたでしょ?」
彼方「ん……ん゛ん゛……ちょっとね。ちょっと」
遥「お姉ちゃん、なんか笑ってたから……驚かせようと思って」
遥「えへへ〜」
エマ「えへへ〜」
彼方「ん……ゴクッ」
お茶を一口飲んで、息をつく
いぇーい。なんて、ハイタッチする二人
全く、やってくれるなぁなんて思いつつ、
本当に遥ちゃんに彼氏が出来たらどうなっちゃうんだろう。って不安になっちゃう。
彼方「……今度、私の彼氏も紹介してあげるからね〜」
遥「え〜? 止めてよ〜」
容姿的に……果林ちゃんとか。
エマ「果林ちゃんかな〜?」
彼方「ち、違うよ〜」
かすみちゃんにしようかな。うん……
背が低い系男子もありだと思う。 遥「お姉ちゃんに本当に彼氏が出来てたら、私ショックで倒れちゃうかも」
彼方「彼方ちゃんだって血を吐くかもしれないから」
彼方「事前に教えてね〜」
遥「え〜?」
エマ「でも、確かに妹や弟に恋人が出来たーってなるのは」
エマ「ちょっと不安になったりするよね〜」
彼方「ね〜」
遥「そうなんだ……私は妹じゃなくてお姉ちゃんだからなぁ」
遥「でも、それでも不安になるんだから」
遥「見つけるなら、いい人にしてね」
今はまだいないこと前提な遥ちゃんのお言葉。
遥「エマさんも……いい人見つけてくださいね」
エマ「じゃぁ〜……私のお付き合いしてる彼方ちゃんだよ〜」
彼方「わわっ……」
身体を引っ張られて、寄せられて
抱かれるような形になっちゃう
私の抵抗力なんて、エマちゃんの前では役に立たないみたい
遥「エマお姉ちゃん。ですねっ」
彼方「ありなの〜?」
遥「エマさんだったら……うん、いいと思うよ?」
女の子同士だけどね〜
なんて、野暮なことは言わないでおいた。 エマ「ねぇ彼方ちゃん、今日のうちにやっておくこととかってある〜?」
彼方「そうだねぇ……食材とかはもう用意してあるし」
彼方「大掃除だって、もう済ませちゃったからなぁ……」
遥「おせち作りは?」
彼方「明日かな……仕込みはやるけど」
エマ「おそば作りは?」
彼方「それも明日かな〜」
彼方「………」
彼方「でも、練習で作ってみる〜?」
明日ぶっつけ本番っていうのも思い出にはなるだろうけれど
せっかくなら、完璧とはいかなくても成功させたいよね。
そう思って聞いてみると、
二人は顔を見合わせて、頷いた
遥「やってみたい」
エマ「うんっ、私も〜」
彼方「いいねぇ。じゃぁ、やってみよっか〜」 彼方ちゃんに彼氏、遥ちゃんに彼氏
どっちにしろ再起不能になるダメージ受けるわ… 追いついてしまった
心中caseめっちゃよかった……おせちも期待 彼方「そば粉、中力粉、水」
彼方「材料は以上だよ〜」
エマ「それだけなんだ……」
彼方「うん。中力粉じゃなくて強力粉でもいいらしいけどね」
彼方「エマちゃんどうしたい?」
彼方「弾力が欲しければ、強がいいけど」
作る難しさは、さほど変わりがない
もちろん、ちょっと力が必要になったりはするけれど
エマちゃんなら誤差でいいだろうし。
エマ「遥ちゃんは?」
遥「私はお姉ちゃんの指示に従っておきます……自信がないので」
エマ「私も自信ないけど……」
エマ「遥ちゃんがそっちなら、変えてみてもいいかな?」
エマ「食べ比べしてみたい」
彼方「良いよ良いよ〜やってみよう〜」 物凄く簡単に言っちゃえば
お蕎麦は混ぜて、こねて、切るってだけの調理
もちろん、
その一つ一つがまた細かくて……大変で
だから簡単に言えるけど簡単じゃない。
彼方「まずはそば粉と小麦粉をふるって」
彼方「混ぜながら……水を全部入れちゃっていいよ〜」
遥「全部入れちゃっていいの?」
彼方「いいよ〜」
元々、必要な量の半分しか用意してなかったり。
後で追加する分は、その時に用意したらいいからね。
エマ「粉だね〜」
遥「……お姉ちゃん、これどのくらい混ぜてればいいの?」
彼方「いい感じに混ざるまでかな〜」
まだまだそんなに力は必要ない
一生懸命に手を動かすエマちゃんと遥ちゃんの二人の状況を見ながら、
私も合わせて作っておく
私は遥ちゃんと同じ中力粉……で、二八の予定。 いい感じに混ざってきたら、また水を入れる
入れすぎないように、水の準備は私がしておく
遥「んっ……んっ……」
彼方「大丈夫〜?」
遥「うん……」
エマ「ずっと手を動かしてると、痛くなってくるね〜」
彼方「そうだねぇ……」
これを何度もできる職人さんは、本当にすごい
遥「はぁ……左手でやる〜」
彼方「頑張れ〜」 一生懸命に頑張る遥ちゃんを差し置いて、
エマちゃんの方は次の段階に進めそうな感じにまでなってきてる
遥ちゃんに比べて、
エマちゃんの方が力強くて手が早いからかなぁ?
エマ「彼方ちゃん、どう〜?」
彼方「いい感じだね〜そのままやっていこ〜」
遥「……うぅ」
エマ「私の方が力があるからね〜、頑張って〜」
遥「が、頑張ります……」
エマちゃんに追い抜かれていく事に落胆する遥ちゃん
宥めるエマちゃんはそれでもしっかりと手を動かしていって
粉だったものが次第に小さな塊になっていく
彼方「ん……」
私の方もあと少し
遥ちゃんも、あとちょっとかな 粉っぽさがなくなってきたら次の工程
押し込むように練りこんでいく
ここから、また少し力が必要になっていくんだけど……
エマちゃんは余裕そうだね
遥ちゃんは、ちょっと辛いかな?
エマ「んっ……と」
遥「……んんんっ」
一生懸命に、練り込んでいく二人
上から下へと力をかけてるエマちゃん
やや斜めにねじ込む形になってる遥ちゃん
お菓子を作れるかどうかの差もあるかな〜?
彼方「遥ちゃん、この台つかおっか」
遥「ん……うん」
エマ「……んっ……しょっ」
エマ「んっしょ……」
エマちゃん、楽しそう そんな風に少しずつお蕎麦を作り上げていく
こね終わりが近づくと、
生地は滑らかになってペタペタな感じになる
クッキーとはまた全然違う生地感に、
遥ちゃんもエマちゃんも物珍しそうに手で触る……
彼方「少し休憩だよ〜」
彼方「ビニール袋に入れて少し寝かせようか」
遥「やったぁ〜……」
エマ「どのくらい? 1時間?」
彼方「長くて10分かな〜」
遥「ふぅ……」
お疲れ様、遥ちゃん
まだ終わりじゃないけどねぇ〜 それからまた時間をかけて
打ち粉……今回はそのままそば粉を使って
延ばしたり、折ったり、畳んだり
そうしてまた延ばしたりと……繰り返して。
ようやく、切る作業。
遥「私が切っていいの?」
彼方「大丈夫だよ〜見てるからねぇ〜」
エマ「彼方ちゃん私も見て〜」
彼方「エマちゃん、おでこに粉がついてるよ〜」
エマ「えぇっ!?」
三人で、お蕎麦作り体験
遥ちゃんも、料理がまだ苦手な中で上手にできてるようには見える
板を使っても斜めになってたりするのは、ご愛嬌〜
そのくらいなら、全然平気〜 乙
近江家泊まりだから仕方がないけどエマより遥が目立っちゃってるな
謎の最低2泊3日のせいで長くなりそう エマ「おそば作るのって大変なんだね〜」
彼方「そうだねぇ……」
鍋でお蕎麦をゆでながら……一息
ここまで来たら、あとはもう簡単
エマ「でも、彼方ちゃんは作れるんだよね〜?」
彼方「一通りの物は作れるようになったってだけだよ〜」
彼方「やっぱり……遥ちゃんが食べたいって言ったものを作ってあげたいから」
別にお蕎麦を作れるようになる必要は無かったとは思うけれど
そういうものも作れるようになっていたほうが、便利……
便利……?
便利とは言えないかもしれないけど、いいかなって。
エマ「彼方ちゃんはほんと、遥ちゃんが大好きだね〜」
彼方「エマちゃんだって、妹たちが大事でしょ〜?」
エマ「そうだね〜」 ほんわかとしたエマちゃんの声は、ちょっぴり眠くなる
でも、調理中だからと我慢して……小さくあくび
エマ「彼方ちゃん、眠い〜?」
彼方「眠くなってきちゃうかも〜」
エマ「食べ終わって洗い物とか終わったら、膝枕する〜?」
彼方「遥ちゃんがいるからねぇ……」
エマ「そっかぁ……」
少し残念そうなエマちゃん
膝枕はエマちゃんも喜んでしてくれてるし
したいのかもしれないけど……
遥ちゃんがいるし……。
でも、知られちゃってるから。
彼方「じゃぁ、お願いしようかな〜」
エマ「えへへ〜お泊りさせてくれるお礼だよ〜」
彼方「わ〜い」 遥ちゃんが傍にいないのを良いことに、ちょっぴり甘え声
部屋から戻ってきそうな気配を感じて軽く咳払い
彼方「そろそろいいかな〜」
蕎麦を鍋からあげて、用意しておいた冷水に晒す
彼方「今日は、ざるそばにしてみよっか〜」
エマ「いいねぇ〜」
彼方「自分たちで作った、お蕎麦の味が良く分かるよ〜」
残念ながら、かなりいいそば粉だとかではないから
ありふれた味になっちゃってるかもしれないけれど。
彼方「遥ちゃん、エマちゃん、私」
彼方「食べ比べしてみよ〜」
エマ「ん〜……見た目的に、彼方ちゃんのかなぁ?」
少しざらっとしちゃってるように見えるエマちゃんのお蕎麦
ざらざらしているようには見えないけれど
ゆでる前から若干ひび割れの多かった遥ちゃんのお蕎麦
それと……まぁ、普通な私のお蕎麦。
彼方「市販のお蕎麦もゆでてみる〜? あるよ〜?」
エマ「ん〜ん。大丈夫〜」 エマ「いただきま〜す」
普段は二人で向かいあっているだけのダイニングテーブル
今日は、私の隣にエマちゃんがいる
その少し嬉しい違和感に、思わず口元が緩んじゃう
遥「エマさんのお蕎麦弾力があって美味しいですっ」
エマ「遥ちゃんのは、お蕎麦〜って感じだね〜」
遥「えへへ〜そうですか?」
遥ちゃんもエマちゃんもすっかり仲がいい感じで
話すことにも躊躇いがなくなってたり。
元々、
連れてくることに大賛成だったから心配はしてなかったけれど、
仲良く出来てるようで、ひと安心。
遥「でも……お姉ちゃんのには勝てないですよね」
エマ「彼方ちゃんのは見た目市販だって言われても気付かないよね〜」
遥「市販のものよりも美味しいですし」
エマ「だね〜」
遥「お姉ちゃんのお料理は全部美味しいんですよっ」
遥「たまに外食した時なんて」
遥「私が美味しいって言うとですね」
遥「私の方が美味しく作れるもんって言って」
遥「次の日に本当に作ってくれたりもするんですよ〜」
彼方「遥ちゃんっ!?」
エマ「愛だね〜」
遥「はいっ」
仲良く……し過ぎかな〜 彼方「別に普通のことだよ〜」
エマ「え〜?」
エマ「私にも大切な妹たちが居るけど……」
エマ「流石に、お店のお料理を真似したりは出来ないかな〜」
彼方「彼方ちゃんはフードデザイン専攻だから、当然なんだよ〜」
本当は、遥ちゃんに美味しいっていって貰えてるお料理に嫉妬してるだけ。
だったりするんだけど……
うぅ……顔が熱いかも……
エマ「ふふっ、彼方ちゃん顔赤いよ〜?」
彼方「も〜言わなくていいのに〜」
エマ「………」
エマ「彼方お姉ちゃん」
彼方「エマお姉ちゃんじゃないかな〜?」
誕生日的に。
エマ「えへへ〜そうかな〜」
エマ「お料理上手だし、彼方ちゃんがお姉さんでもいいかも〜」
彼方「妹に膝枕して貰うのはちょっと〜」
エマ「それもそうだね〜」 お蕎麦作りは問題無くできそうかな〜
難しそうなところは私がやって……
エマちゃん達にも手伝って貰って……
エマ「明日はおせち作り手伝うよ〜」
彼方「ありがと〜」
遥「お姉ちゃんっ、私も手伝いたいっ」
彼方「ありがとねぇ」
いつも一人でやってたこと
でも、今年は三人で。
世界的にも
学校的にも……すっごく大変な一年だったけれど
今年は……今までで一番楽しい年越しになりそう。なんて。 ――――――
―――
夜になって、
みんなでお風呂……なんて出来たらいいのだろうけど
そんなことは出来ないから、諦める
だからせめて布団を持って、お母さんの部屋に集まる
私たちの部屋はベッドに二人分の机や箪笥があるから、
三人並んだりは出来ないから。
遥「お母さんの部屋で寝るなんて、いつ以来だろう?」
遥「……なかったかな」
彼方「そうだねぇ」
遥ちゃんが小さい頃は私と一緒に寝てて、
お母さんとは無かったような気がする。
エマ「気を使って貰っちゃって……ありがとね〜」
彼方「ううん、遥ちゃんも私も」
彼方「エマちゃんと一緒に寝たいな〜って思ってたから」
彼方「気にしなくていいよ〜」
むしろ、私たちこそありがとうかなぁ……
エマちゃんのおかげで、
賑やかで楽しい年末になりそうだし。 エマ「……なんだか不思議な感じがするね」
彼方「そうだねぇ」
エマ「いつも、私一人だから……」
いつもと違う空気
いつもと違う天井、いつもと違う布団
いつもと違って……私達がいる。
それを嬉しそうに話すエマちゃん
エマ「ありがと〜」
彼方「エマちゃんに喜んでもらえたなら良かったよ〜」
彼方「おもてなし……成功してるかな〜?」
エマ「うん……してるよ」
すぐ隣で布の擦れる音がする
目を向けてみれば、エマちゃんがこっちを見ていた
エマ「……今の私って、彼方ちゃんの匂いなんだよね〜」
彼方「そうだねぇ」
エマ「膝枕してるときに感じる匂いと同じ」
エマ「……私ね、彼方ちゃんの匂い好きなんだ〜」
彼方「えへへ〜ありがと〜」 彼方「私も普段のエマちゃんの甘い匂い好きだよ〜?」
エマ「そう〜?」
エマ「お菓子の匂いかな〜」
彼方「ううん、普通の匂いだよ〜」
彼方「ボディミルクとか?」
私たち以上にちゃんとしたケアしてそうというか
海外の高いやつ使ってそうなイメージがあったりして。
彼方「……普通にスクールアイドル活動できるような状況だったら」
彼方「合宿とか……出来てたのかなぁ?」
エマ「……そうだね」
エマ「出来てたら……」
エマ「同好会のみんなと、今日みたいに賑やかに楽しめたのかな?」 きっとできてた
出来てたけれど……出来なくなっちゃった。
彼方「……その分、楽しんでいってね〜」
エマちゃんも私も三年生
だから、もう来年の虹ヶ咲合宿なんて言葉は存在しない
エマちゃんは来年には向こうに帰っちゃうから
もしかしたら、これが最後になるかもしれない
彼方「合宿も、ライブも」
彼方「もっともっと……やりたかったねぇ」
エマ「うん……でも、バラバラになったままじゃなくて良かった」
彼方「そうだねぇ」 エマちゃんの親友で、私と同じ学科だった果林ちゃんや、
この大変な時期に元気づけるためにとライブをしたせつ菜ちゃんに魅せられた侑ちゃん達。
当初の5人から10人にまで膨れ上がってきたりして……
不幸中の幸いって言っていいのか
ソロだからこそ、観客のいないライブが出来て、
それを、ネットで配信したりもして……
でも、それだけでなく色々やってみたかった
そんな名残を惜しむ1年間だった。
彼方「明日はおせち作りに年越しそば、除夜の鐘を聞いたり……」
彼方「まだまだあるから。楽しもうね〜」
だから、その分も楽しもう。
そう声をかけると、エマちゃんは元気よく頷く。
エマ「ありがとね〜……彼方ちゃん」
彼方「ううん、良いよ〜……良いんだよ」
彼方「……これは、膝枕のお礼だから」
なんて。適当な理由をつけて……笑った テーマがテーマだけにほんわかゆったりとしたやり取りの中に混じる切なさが年末の空気に似てていいね… ――――――
―――
翌朝、
まだエマちゃんも遥ちゃんも寝ている時間に、目が醒める
部室とかで寝ていることがある私だけど
朝は早かったりして……
彼方「ふふっ……」
いつもはエマちゃんに寝顔を見られる側
でも、今日はエマちゃんの寝顔を見る側
エマちゃんと反対側には遥ちゃんが寝ていて
すやすやと眠る可愛い寝顔を写真に収めたくなってきちゃうけど、我慢
彼方「エマちゃんの寝顔もかわいいよ〜」
そんな可愛い二人に挟まれる形の私
年始にもこれが見られると思うと……ドキドキだねぇ エマちゃんも遥ちゃんも寝相は悪くないみたいで
昨日眠ったときから、殆ど布団が崩れていない
仰向けから横向きに変わっているから
寝返りはうっているみたいだけど。
もうちょっと崩れてくれてもいいのになぁ。
……頬突いてみたくなっちゃう
エマちゃん達が触ってくるのはだからかな〜?
彼方「ふふふっ……」
起きてから色々やることはあるけど
でも、もうちょっとだけ。
そんな気持ちで、エマちゃんと遥ちゃんの寝顔を観察する
かわいい寝顔
触ってみたくなっちゃう……柔らかそうな頬。
今は三人同じようなシャンプーとかの匂いがして
まるで三姉妹のようだなぁ。なんて……思ったり。
年齢的には、
エマお姉ちゃん、私、遥ちゃん
もしもそうだったら、また違う私になってたかもしれない。
彼方「……どうなってたかな?」
エマちゃんの寝顔に聞いてみる
もちろん答えは無かったけれど。 エマ「も〜起こしてくれたらよかったのに〜」
彼方「えへへ〜」
エマ「恥ずかしいなぁ〜……」
エマ「変な顔じゃなかった〜? 変な寝言言ってなかった〜?」
エマ「も〜彼方ちゃん〜っ」
彼方「大丈夫だったよ〜」
かわいい寝顔だったよ〜なんて言ったら、顔を赤くしたエマちゃん
かわいい怒り方みたいな
ほんと、かわいい反応を見せながら、
変じゃなかったかと心配していて……そんなことはなかったと答えるけれど
笑ってるからか、ほんとに〜?
なんて、ちょっぴり心配は続く。
彼方「ほほえま〜だったよ〜?」
彼方「あっ、このえま〜だったよ」
エマ「も〜」
ぽかぽかと痛くない叩き方
近江エマであり、好ましいエマであり。
なんとも意外に使い勝手が良い。
彼方「えへへ〜」
エマ「……かすみちゃんが撮った彼方ちゃんの寝顔を遥ちゃんに見せてくるね〜」
彼方「わーっ! だめぇーっ!」
いつもとは違う甘えた寝顔
それは遥ちゃんには見せられない エマ「お餅も手作り?」
彼方「ん〜……作れなくはないけど、そこは出来てるものにするかなぁ」
彼方「機械があれば楽なんだけど……無いからねぇ」
エマ「そっか〜」
前は近所で、それに似た催しが年始にあったりしたけれど
今年はもちろん、そんなことができるはずもなくて。
その分、年越しそばもおせちも手作り。
彼方「遥ちゃん。栗きんとん作ってみる〜?」
遥「う、うんっ」
彼方「エマちゃんは伊達巻作って〜」
エマ「は〜い」 フードプロセッサーがあればいいけれど、
ウチにはそんなものはないので、
ビニール袋に入れて上から泡だて器で潰し、
そのあとに手で揉む
ある程度柔らかく混ざったら、
塩や砂糖等の調味料を適量入れて……
ビニール袋の中でまた揉み混ぜていく
彼方「良いよ〜その感じ〜」
エマ「ビニールがひんやりするね〜」
彼方「破れないように気を付けてね〜」
エマちゃんはかなり手馴れていて
そんな心配は要らないけれど、一応言っておく。
エマ「唐揚げとかも、こうやってるの〜?」
彼方「うん。手が汚れないから手もみするときはこうしてるんだよねぇ」 料理描写が細かくて好き
安価でここまでポンポン書けるの凄いね そうしたら、溶き卵。
こんこんっと叩いて……おぉぅ
エマちゃん、片手でやってる……
彼方「エマちゃん、片手で卵割れるんだね〜」
エマ「えへへ〜日本ではこれが必須だって、ネットで見たんだ〜」
遥「必須……」
にこやかなエマちゃんの隣で自分の手を見て絶望する遥ちゃん
ヒビを入れるどころか、
叩く段階でぐしゃりと潰した前科のある遥ちゃんも
今では両手でやればちゃんと割れるから、大丈夫
彼方「出来たら便利だよね〜」
エマ「両手で一個ずつも出来るよ〜」
遥「………」
彼方「遥ちゃんも練習したら出来るようになるよ〜」
頭をなでなで。
落ち込む遥ちゃんを慰めた。 さてさて。
溶き卵とはんぺんに調味料を合わせて揉みつぶしたものを混ぜ合わせてから
さらに良く揉みこんで、潰し込んで……混ぜ合わせて。
滑らかな感じになるまで繰り返す
彼方「キッチンペーパーに油を染み込ませて、フライパンに油を塗ろう」
エマ「私もやるやる〜」
エマ「油が無駄になったりしないし、塗りやすいよね〜」
彼方「うん、便利なんだよね〜」
牛脂を塗りたくるようなイメージ出フライパンに油を塗って
弱火でフライパンを温める
遥「私には分からない話ばっかりだよ……」
エマ「私も最初は全然分からないことばかりだったけど」
エマ「やっていくうちにね、分かってくるから大丈夫だよ〜」
遥「が、頑張りますっ」
温めたフライパンの様子を見て、
塗った油が小さな音を立てるようになったら、オッケー
生伊達巻……巻いてないから生伊達をフライパンに流し込んで
弱火のまま、程よく焼けるまで蓋をして待つ
遥「こうしてみると、ホットケーキみたい」
彼方「そうだねぇ」 ウチの弱い火力では、大体13分くらい
普通なら10分くらいでも良いかな?
いい感じに焼き色がついたら、ひっくり返す
遥「手首のスナップが重要らしいですよっ」
ぐっと握り拳を作る応援団長の遥ちゃん。
この前作ったホットケーキを真っ二つにした不安を感じる頬の冷や汗
でも、エマちゃんはなんのその。
エマ「いくよ〜」
遥「………」
エマ「それ〜っ」
遥「お、お箸で……!」
菜箸でいとも簡単にひっくりかえして見せたエマちゃんに、
遥ちゃんは感激の拍手
エマ「ありがと〜」
彼方ちゃんも出来るよ?
彼方ちゃんも出来るよっ? そうして、遥ちゃんには黒豆やくりきんとんなど
比較的簡単なものを作って貰って
エマちゃんには、ちょっぴり難しいのを一緒に手伝ってもらう
少しずつ、少しずつ準備をして。
お昼は、ご飯を炊いて簡単に。
彼方「このまま、おせちの準備で大丈夫〜?」
彼方「あと少しやったら、今度はお蕎麦作りになっちゃうけど……」
エマ「うん、やっちゃおう」
遥「出かけられないもんね……」
遥「お姉ちゃんのお手伝いしたいし」
エマ「一緒に作ろ〜」 せっかくの年末
どこかに出かけるなんてこともなく
みんなでお料理をする時間だけで過ぎていく。
でも、遥ちゃんもエマちゃんも楽しそうで
エマ「みんなでこうやってお料理するのも楽しいよ〜」
遥「うんっ、楽しいよ」
お母さんの部屋で敷いた布団のように
私を間に挟む遥ちゃんとエマちゃんは距離を詰めてくる
エマ「普段はお菓子ばっかりだから……色々作れるし」
エマ「彼方ちゃん、ちゃんと教えてくれるから」
エマ「まるでお料理教室みたいだよ〜」
彼方「そうかなぁ〜……」
当たり前のことをしているだけ、だけど。
でも、二人が喜んでくれているなら良いかなって、思わず笑みが零れちゃう エマ「………」
エマ「彼方先生〜味見して下さ〜い」
彼方「えっ?」
遥「あっ、こっちもお願いしますお姉……」
遥「彼方先生っ」
彼方「遥ちゃんまで……」
手皿と共に差し出される一口分
二人同時に来られると、ちょっぴり困る
二人はそれが分かっててやってそう……なんて邪推して。
遥「先生っ」
エマ「先生〜」
彼方「も〜っ!」
どっちを先にしたらいいんだろう
悩んで、悩んで。
先に零れ落ちそうなエマちゃんの方を選んだ エマ「先生、どうかな〜?」
彼方「ちゃんと美味しいよ〜」
遥「エマさんばっかり狡い……」
遥「私のも食べてっ」
グイッと押し付けるようにしてくる遥ちゃん
彼方「ぁ〜ん……」
大人気な先生の気分と共に、遥ちゃんの分も一口貰う。
下味は私がつけているから、
味が染み込んでいるのはそうなんだけれど。
でも、仕上げは遥ちゃんにやって貰ったから。
彼方「美味しいよ〜」
遥「えへへ〜よかった〜」 エマ「……せんせ〜遥ちゃんの方が好きなのかな〜?」
遥「そうだよね〜?」
彼方「えっ、あっ……えぇ……」
大人気な先生のお料理教室は、
包丁が意図しない使われ方しそうな雰囲気に包まれる。
もちろん、冗談だからそうはならないけれど。
エマ「将来は、お料理教室開いたりするの〜?」
彼方「ん〜どうかなぁ?」
エマ「彼方ちゃんなら、人気者になりそうだね〜」
遥「……刺されないようにしてね?」
彼方「遥ちゃん、お昼のドラマ見るの禁止」 冗談を交えながら、三人で年末に向けての準備をしていく
お蕎麦作りも、
昨日の練習のかいもあって難なくクリアすることが出来て……
エマちゃんはもちろん、
遥ちゃんにも多少の余裕はあったみたい。
緊張するよりも、普通の笑顔が見られた
彼方「……いい感じだねぇ」
冷蔵庫に入れるものは入れて、出しておけるものは出しておく
エマちゃんのご厚意で用意されたズワイガニも
冷蔵庫ギリギリに何とか入って一安心
彼方「お夕飯はどうする〜?」
彼方「お蕎麦以外に食べたい物ある〜?」
エマ「彼方ちゃん達はいつもどうしてるの〜?」
遥「ウチはいつも、お蕎麦だけにしちゃってますね」
エマ「なら、お蕎麦が良いな〜」
彼方「エマちゃん、お蕎麦だけで足りる〜?」
エマ「大丈夫だよ〜、具だくさんのお汁……早く食べてみたい」 彼方ちゃん特製の、しょうゆベースのお蕎麦用のお汁
昨日とは違って、季節に合わせた温かいお蕎麦だったりする。
もちろん、温かくない方も用意はしてあるから大丈夫
彼方「お変わりはあるから、沢山食べて良いからね〜」
遥「お姉ちゃんの作ってくれるお蕎麦のお汁、すっごく美味しいんですよ〜」
エマ「だろうね〜」
エマ「授業で作ったお料理とか、部室によく持ってきてくれてね〜」
遥「わ〜いいなぁ……」
彼方「………」
キッチンにいる私に聞こえてくる、
テーブルのところにいる二人の話声
私のことを褒めてくれてるのは嬉しいけれど……照れくさい
というか、聞こえてるの知ってるよね
遥「一度食べたら、お姉ちゃんとしか年越しできなくなっちゃいますよ〜」
エマ「わー大変だね〜」
エマ「来年も、ここに来ようかな〜」
遥「来られそうなら、是非また来てくださいねっ」
エマちゃんが向こうに帰っちゃうのを知ってるから
だから、ちょっぴり寂しそうに言う遥ちゃんを、
エマちゃんは優しく撫でる
エマ「うん〜何とかしてみるね〜」 ――――――
―――
エマ「ふぅ……」
彼方「終わったねぇ」
お蕎麦を食べ終えて、
入浴も終えて……後は、一年の終わり
あるいは、一年の始まりを迎えるだけ。
遥ちゃんがお風呂から上がってくるまでの……二人きりの時間
エマ「……あっという間だね〜」
彼方「そうだね〜」
エマちゃんが来てからもう1日たっちゃってる
1年間が思いのほか早く過ぎていっちゃうから
たった1日2日くらい、ほんと一瞬のことなのかもしれないけれど
ちょっぴり、寂しい
彼方「エマちゃん、来年も日本に来られるの?」
エマ「ん〜……行こうと思えば、1年に1回くらいは大丈夫だと思う」
彼方「その貴重な1回を使ってくれるの?」 エマ「うん……それが良いかな〜って」
エマ「遥ちゃんに会いたいし」
エマ「果林ちゃんは難しいかもしれないけど」
エマ「他のみんなにも会いたいし……」
エマ「……彼方ちゃんの美味しいご飯で1年を終えるのも良いかな〜って」
エマちゃんはほんわかとした口調で言うけれど
本気で言っていると分かるのは……短い関係でも深い繋がりを持てたってことかな……?
彼方「えへへ〜美味しかった〜?」
エマ「うん美味しかった〜」
彼方「良かった〜」
エマ「毎日こんなに美味しいお料理を食べられてる遥ちゃんが羨ましいくらいだよ〜」 エマ「私、こっちに来てから美味しいご飯が食べられるのが嬉しくて」
エマ「ちょっと太っちゃったかな〜って思ったりもしてたし」
エマ「栄養大丈夫かな? って不安になったりもしてたから分かるけど」
エマ「そういう面をちゃんと考えて」
エマ「管理してくれる人がいるって……幸せな事なんだよね〜」
彼方「……そうだねぇ」
自分でやるようになってから分かる、その大変さ
自分一人なら大雑把になっていたかもしれないという不安
遥ちゃんの喜ぶ顔が見たくて
遥ちゃんの元気な姿が見たくて……頑張ってる私。
それを労ってくれるエマちゃんは、
私がいることが羨ましいと言って。
エマ「もう少し、一緒に居たかったな〜……」
エマ「一年生の頃から、留学出来てたら良かったのに……」
残念そうに、寂しそうに。呟く 彼方「エマちゃん……」
エマ「色々大きくなってきてるから……年明けの学校も良くなさそうだし……」
彼方「………」
冬休み前の連絡でもあったけれど
状況によっては学科ごとに登校日をわけての授業になる可能性もあるし
もっと大きくなればこのまま卒業までオンラインでの授業へと切り替わって
卒業式だって……もしかしたら。
エマ「だから……私、彼方ちゃんがお泊りに誘ってくれてすっごく嬉しかった」
エマ「一人で寮にいなくちゃいけないんだって思ってたから」
エマ「本当はあの時、寂しくて……誰か一緒にいて欲しいって思ってて」
エマ「……だから、ありがとね〜……彼方ちゃん」
エマちゃんはちょっぴり泣きそうな顔で笑う。
エマ「こうして彼方ちゃんと一緒にいられると……」
エマ「平和だ〜日常だ〜って感じがして……ぽかぽかするんだ〜」
彼方「彼方ちゃんも、エマちゃんと一緒に居られて幸せだよ〜」
遥ちゃんだってそう。
お母さんのいない、二人きりから……エマちゃんもいる3人の年越し
思い出作りも出来て……凄く、嬉しそうだった。
彼方「ありがと〜」
エマ「こちらこそだよ〜」
彼方「このえま〜」
エマ「ほほえま〜」
彼方「えへへ……」
遥ちゃんが戻ってくるまでの時間
寄り添って、肩を触れさせる
膝枕は……本当に寝ちゃうから、諦めた 遥「……あとちょっとだね」
年明けまであと数分にまで差し迫って、
テレビには毎年見るお寺での映像が流れる。
彼方「これが始まると」
彼方「あぁもうそんな時間か〜って感じがするんだよねぇ」
エマ「なんだか、面白いね〜」
彼方「でしょでしょ〜?」
エマ「……よいお年を〜」
彼方「お蕎麦食べる前にも言ったけどね〜」
彼方「よいお年を〜」
遥「よいお年を〜」
ほんとあと数分
もう少ししたら、今度はあけましておめでとうになって
今年もよろしくお願いします。になる
そして――1月1日
彼方「あけましておめでとうございます」
あけましておめでとうございます。
三人で、一斉に……は、ちょっとズレちゃったけれど。
エマ「今年もよろしくお願いします」
今年もよろしくお願いします。は、みんなで一斉に言い合った。 ――――――
―――
彼方「ぁふ……」
彼方「ん……」
年が明けて、すぐに眠って数時間
日が出る前に起こしてくれるようにセットした目覚まし時計のけたたまし音を止める
遥「ん……」
エマ「んぅ……」
もぞもぞと動くだけの遥ちゃんと、ゆっくりと頭を上げるエマちゃん
寝ぼけ眼なエマちゃんはすぐ隣の私を見ると
一旦頭を伏せて……またあげる
エマ「おはょぅ……」
彼方「おはよ〜……大丈夫〜?」
エマ「ん〜……」
寝て起きるにはまだまだ早すぎたからか、
エマちゃんはまだまだ本調子じゃない様子。
そんなレアなエマちゃんを見られたのは、私だけ。なんてね。
短い睡眠時間に慣れててよかった……って言うと、遥ちゃんに怒られちゃうかな エマ「……ん」
彼方「初日の出、見られる?」
エマ「………」
エマ「うん……大丈夫〜」
いつもほんわかしているけれど
寝起きのエマちゃんはもっとゆったり。
いつにもまして可愛らしいな。なんて思いつつ
まだお寝んねな遥ちゃんの体を揺さぶってみる
遥「んぅ……」
彼方「遥ちゃ〜ん。日の出見に行く〜?」
遥「いくぅ……」
彼方「……もうちょっと寝る〜?」
遥「ねるぅ……」
彼方「ふふっ、起きろ〜」
5分くらいかけて遥ちゃんとエマちゃんを起こしてから
特別に許可をもらった屋上へと、上がっていく 厳かな雰囲気だったり、風流がどうだとか
そういった特別感が感じられるかと言えば……そうは言えないかもしれない
けれど、年が明けて初めての日の出はそれだけで特別な感じがする。
仮に雲が出ていて見れなかったとすれば、それは幸先が悪いって感じがするし、
普通に日の出が見られるというだけで
それはいい年になりそうだなって感じがする
彼方「そろそろかな〜」
東京は7時前が日の出の時間だって話
……あともう少し。
彼方「見終わったら、また寝ても良いからね〜」
遥「大丈夫だよ。うん」
エマ「なんだか不思議な感じがする……」
彼方「エマちゃん、早寝早起きしてそうだしねぇ」
昨日みたいなことはなさそうなエマちゃんは、ちょっと眠そう そうして――
彼方「わっ……」
エマ「すごいね〜……」
山々から見える御来光ではないけれど
東京のマンションなどの窓がきらきらと光を反射している様は、
それはそれで、とても煌びやかで。
遥「……今年も良いことありますように」
彼方「ふふっ、ありますように〜」
エマ「……いいことありますように」
三人で、お願い事を口にしてみる
今年こそは、
コロナが治まってくれるように
今年こそは、みんなが、幸せになれる年でありますように
それを願いながら、
日の出の輝きを……見つめる
エマ「んっ……ちょっと寒いね〜」
彼方「そうだねぇ」
遥「もう少し見て、戻りましょうか」
エマ「そうだね〜」
彼方「そうしよっか〜」 彼方「初詣は、ちょっと難しいよねぇ」
エマ「うん……」
遥「ウチは行かないようにってお願いがあったから、どっちにしてもダメだよ」
初詣は諦めて、テレビをつける
いつもはやっている初詣関連の生中継みたいなものもなく、
粛々とした感じのあるテレビ内容で。
遥「お散歩にでも行く?」
彼方「ん〜ん。やめとこ〜」
エマ「っと……」
答えながら、エマちゃんの膝に頭を落とす
今年はもう、ゆっくりとするしかない。
せっかくの元日だからなんて言って余計なことをしてもどうにもならないし。
特に私はコロナでなくても風邪を引いたりするわけにはいかないから。
遥「足つぼマッサージしてあげようか〜?」
彼方「やめて、泣いちゃう」
エマ「ふふっ……ゆっくりしようよ〜」 派手な何かもない、元日
それはそれでちょっぴり寂しいけれど、でも。
彼方「二人とも食べられそう?」
エマ「お腹空いた〜」
遥「おせちとお雑煮出す?」
彼方「そだねぇ」
みんなで作ったおせちがあって、
私が作った特製のお雑煮があって。
彼方「……出かけられない分、今年は豪華だよ〜」
遥「えへへ〜知ってる〜」
エマ「三人で作ったからね〜」
エマ「楽しかったよ〜」
ありがと〜と、
繰り返して言うエマちゃんに、遥ちゃんと一緒にこちらこそ。なんて返す
ほんとうに、エマちゃんが来てくれてよかった。 お餅はとりあえず、一個ずつ
おせちを食べても食べられそうならまた追加ってことで。
遥「私お皿とか用意しちゃうね」
彼方「そしたらエマちゃんとおせち用意しちゃって」
彼方「お雑煮用意しておくから」
遥「は〜い」
エマ「任せて〜」
みんなで作ったおせちを、みんなで準備
いつもは二人で使うテーブルが豪華になっていくのを見ながら、
お餅を三つ、お椀を三つ……用意して。
彼方「……ふぅ」
仲良く準備する二人を見る
本当に姉妹のように会話を弾ませる二人
もう、今年にはお別れしなければいけないエマちゃん
それを考えて、
湧き上がってくる思いを感じて……グッと息を飲む
まだ、あと少しあるから。 さて。
おせちもお雑煮も
しっかりと準備をして……椅子に座る
お母さんはいないけれど、エマちゃんがいる。
おとといから始まったこの光景もすっかり馴染んだ。
彼方「遥ちゃん、エマちゃん。もう大丈夫かな〜?」
遥「うんっ」
エマ「いいよ〜」
二人の準備が整ったところで、切り替える
彼方「改めて……今年もよろしくね〜」
エマ「よろしく〜」
遥「よろしくねっ」
彼方「まだまだ大変な時期だけれど……健康に気を付けて」
彼方「無事、また集まれるようにしよ〜」
遥「お姉ちゃんとはずっと一緒だから……エマさん、またよろしくお願いしますね」
エマ「うん。きっとまた一緒に」 遥「黒豆美味しい……」
彼方「栗きんとんも、ローストビーフも美味しいねぇ」
黒豆や栗きんとんは必須というわけでもないけれど、
個人的には大好きだから、必須
遥ちゃんも喜んでくれてるから、良し〜。
エマ「自分で作るって大切だね〜」
エマ「でも、自分だと中々作れないな〜……」
彼方「えへへ〜」
遥「だから、お姉ちゃんは凄いんですよ」
遥「大抵のものは作ってくれて……」
遥「誕生日ケーキとかも手作りしてくれて……」
エマ「遥ちゃんはほんと、彼方ちゃんが好きだね〜」
遥「えへへ……」
彼方「彼方ちゃんも、遥ちゃん好きだよ〜」 エマ「私は〜?」
彼方「好き〜」
遥「好きですよ〜」
エマ「私も好きだよ〜」
のほほんとした告白
別に恋愛的な意味もない友人的な好意を伝え合う
今日を含めれば三日間
本当に楽しかった
お蕎麦やおせち作りをして
一緒に並んで寝て、日の出を見て……
エマ「実はね〜初夢はね〜」
エマ「彼方ちゃん達と姉妹になるってやつだったんだ〜」
彼方「疑似体験してるからかなぁ?」
エマ「そうかもしれないね〜」 もう何回も言ってるけど。
エマちゃんはそう前置きをして、お箸を置く
エマ「本当にありがとね〜」
エマ「すっごく楽しかった〜」
遥「いえ、そんな」
遥「こちらこそ本当にありがとうございました」
遥「……いつもと違って、楽しい年末年始で」
遥「昨年はあんなだったからなおさら……嬉しかったです……」
ちょっぴり泣きそうな遥ちゃん
それを宥めるエマちゃんは、とっても優しいお姉ちゃん
私も優しいけどね〜
彼方「ありがとね。エマちゃん」
彼方「まだ2,3ヶ月あるから……ライブとか、やれたらやろうね〜」
エマ「そうだね〜」
エマ「やりたいね〜……」 彼方「進路もダメにならないようにしなきゃ」
エマ「卒業ライブ、やってみたいな〜」
彼方「おぉ〜いいねぇ」
彼方「思い立ったが吉日、年明けの挨拶含めて侑ちゃん達に電話しよ〜」
また来年
ううん、今年もまた
もしかたら、大々的な活動とかは出来ないかもしれないけれど、
せつ菜ちゃんから始まったソロ活動
それを活かして、みんなに元気を届けられたらいいな
エマちゃんと一緒に、
遥ちゃんと一緒に、
同好会のみんなと一緒に。
活動できるのはもう残り少ないけれど……精一杯
彼方「もしもし〜彼方ちゃんだよ〜」
彼方「あっ、エマちゃんもいるよ〜!」
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、今年もまだまだ頑張りま〜す!
どうぞよろしくねぇ〜 case.7:エマと年末年始 終了
ヒストリ
case1.果林 (洋服選び 5-32)
case2.璃奈 (菓子作り 45-102)
case3.歩夢 (クソゲー 118-151)
case4.菜々 (お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマスデート 213-264)
case6.しずく(心中演技 275-341)
case7.エマ (年末年始 358-443) のんびりと100レス超えるので、2泊3日(朝)で終了。
次のcaseは明日 本当に料理作ってそうな描写が良かったわ
このえまは流行るべき 乙でした
本当にもうすぐエマちゃんとお別れする感じが寂しかったけどお泊まり楽しそうで泣けた コロナ自粛で2泊3日以上とかいうマンネリ不可避な鬼畜設定でよく頑張ったな 乙乙
こういうSSでも今年の高3生の辛さを感じてしまうわね 乙
エマちゃんが実際に近江家で暮らしてたらこんな感じなんだろうな 3、かすみ
5、愛
9、遥
>> キャラクターセレクト(上の3,5,9からのみ)
>> 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ >>455 キャラクターセレクト(上の3,5,9からのみ)
>>457 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ バレンタインで2人がお互いに本命チョコを贈ろうとする話 歩夢「ん〜……」
彼方「どうしたの〜?」
歩夢「あぁ、彼方さん……」
部室にいくと、歩夢ちゃんが悩ましそうに本を読んでいて
半分閉じたその表紙には特別なバレンタインに。と、
ちょっぴりポップな字体で大きく書かれていて……察しがついた
彼方「バレンタイン?」
歩夢「分かっちゃいますよね……ふふっ……」
歩夢「去年よりも少し変えようと思ったんですけど、なかなかいいのが思いつかなくて」
彼方「そっかぁ……」
大きく賑わうところもあれば、控えめになったりもする特別な日
女の子にとっても、
男の子にとっても、ある意味勝負をするバレンタインデー
まぁ、虹ヶ咲は女の子しかいないんだけどねぇ。 彼方「歩夢ちゃんの本命は、侑ちゃんかな〜?」
歩夢「……まぁ、そう、ですね……」
歩夢「彼方さんは、やっぱり遥ちゃんですか?」
彼方「私は……」
遥ちゃんにあげるのは例年通り。
それが本命であることも、やっぱり今まで通りではあるけれど。
でも……
彼方「えへへ〜どうかなぁ?」
歩夢「その顔は遥ちゃん以外にもいるんですね、本命」
彼方「え〜いないよ〜」
歩夢「ふふふっ、そうですか」
彼方「いないからね〜?」
歩夢「そういうことにしておきますね」 彼方「いない……なぁんて……」
嘘。
歩夢ちゃんには渡したい人がいないなんて言ったけれど
ほんとうは、渡したい人がいる。
もう、2月
あと2ヶ月もなく私達三年生は卒業していなくなる
だから、渡したいって思っちゃったり。
彼方「はぁ……」
かすみ「……先輩?」
彼方「わぁっ!?」
かすみ「ひぃっ!?」
不意に聞こえた後ろからの声に、
思わず叫んじゃった私から飛びのくようにして離れたかすみちゃん。
悪戯顔ではなく、本当に驚いた表情のかすみちゃんは、
ふと、心配そうな顔つきに変わって。
かすみ「彼方先輩、大丈夫ですか?」
彼方「あはは……ごめんねぇ。考え事してて〜」
私が、本命を渡したい相手だから。
なんて、言えるわけもない かすみ「何もないなら良いんですけど……本当に大丈夫ですか?」
かすみ「………」
かすみ「そうだ……ちょっと、こっち来てください」
彼方「えっ、えっ……」
かすみちゃんはあたりをきょろきょろと見渡すと、
私の手を取って……歩き出す。
ちょっとだけ強引な小さな手は、
去年よりも少し大きくなったようにも感じられて……
かすみ「ここなら、良いかな……」
かすみ「さっ、彼方先輩、どうぞ」
彼方「どうぞって……」
人気のない茂みに腰を下ろしたかすみちゃん。
自分の膝をぽんぽんっと叩くと、私を見上げてくる
かすみ「大丈夫ですよ、かすみんの膝にはぶーぶクッションも爆発物もロケットも何も搭載されてませんから」
彼方「そんな心配はしてないよ〜」
というより……何を見てたらそんな発想になるんだろうなぁ……
彼方「良いの〜?」
かすみ「良いですよ。全然……なにも減るものなんて……いえ、減るものはありますけど、だからこそ」
はっとして悲しそうな顔をしたかすみちゃんは
それでも、早く。と、急かしてきた 彼方「じゃぁ、せっかくだから……」
かすみ「どうぞどうぞ」
かすみちゃんの積極的な姿勢……座ってるけど
それに負けてお膝を借りることにして、横になる
エマちゃんやしずくちゃん達にして貰うことはあったけれど、
かすみちゃんは初めてで、なんだか不思議な感じがする
かすみ「んふふ〜どうですかぁ?」
かすみ「エマ先輩にも負けず劣らずの良い膝枕ですよねぇ?」
彼方「ん〜……そうだねぇ」
かすみ「も〜……良くないって反応ですよぉ?」
ぷんぷん。なんて、
わざとらしい愛らしさを演出するような効果音を口に出したかすみちゃんは、
私の頭をどかしたりすることはなくて、
ただ、エマちゃん達がするように私の髪を優しく撫でてくれる
かすみ「……まぁ、初めてですし? 仕方がないかもしれないですけど」 彼方「……っていうことは、また。こういう風にしてくれるってこと〜?」
かすみ「えっ?」
かすみ「あっ……」
かすみ「………」
目を瞑っていると、かすみちゃんの声と吐息だけが情報源で
押し黙って顕著に感じられる体の揺れが、なんだか妙にこそばゆい
かすみ「まぁ……そういうことに、なっちゃうんですかね……」
彼方「そっかぁ……」
かすみ「なんですか……?」
彼方「ううん、ありがと〜」
かすみ「別に、良いですよぉ……」
かすみ「かすみんが……いえ、私がしたくてしてることですし」
彼方「かすみちゃん、緊張してる〜?」
かすみ「こんなとこ、人に見られたら何言われるか分かったもんじゃないですから……」
彼方「え〜? 上級生に膝枕させられてる下級生的な〜?」
かすみ「そう言うんじゃ、無いですけど……」 かすみ「……彼方先輩、もうすぐ卒業じゃないですか」
彼方「うん」
かすみ「だからっていうか……なんていうか」
かすみ「………」
何度目かの、沈黙
そのあとに何か続けるって分かってるから、何も言わない
顔の右半分に感じるかすみちゃんの感触が揺れる
かすみ「えっと……なんでしょう」
かすみ「あははっ……」
かすみ「………」
かすみ「ま、まぁ……っ! アレですよ! アレ!」
かすみ「そういうあれだから、見られたら誤解されるかもしれないじゃないですか」
そういうアレってどんなアレなんだろう
それを聞くべきなのかって迷いはなくて
何も聞かずに、ただ、いつもの調子を装って
彼方「そうだねぇ……」
かすみ「そういうものですよ〜ぅ」
彼方「えへへ〜」
かすみ「えへへ……」 かすみ「あっ、そう言えばなんですけど……」
彼方「ん〜?」
かすみ「えぇっと、ほら。もうすぐ……バレンタインじゃないですか」
彼方「あ〜……」
かすみ「彼方先輩は、遥ちゃんが本命ですよね?」
歩夢ちゃんと似ているけれど、全く違う、本命の問い方。
私には遥ちゃん以外には縁がないみたいな……
まぁ、そりゃぁ、ウチは女子高だけど。
バレンタインっていうのは、バイト先でもそわそわする男の子がいたりするもんなんだよ〜なんて。
彼方「そういうかすみちゃんは〜? 侑ちゃんかな〜?」
かすみ「しず子かもしれませんよぉ〜?」
彼方「いやいや、果林ちゃんだったりして〜」
かすみ「果林先輩はどうせ食べてくれませんし〜」
彼方「そんなことないよ〜」
かすみ「りな子かもしれませんけどね〜」
彼方「そうだね〜」
はぐらかして
はぐらかされて
互いに突き詰めることはなくて。
かすみ「本命はいますけど……言ったらからかわれそうって言うか」
かすみ「その、彼方先輩は大丈夫だと思いますけど……一応、すみません」
彼方「良いよ〜別に〜」
――聞きたくないから。
かすみ「そう、ですか……そうですよねぇ……」
静かに消え入るかすみちゃんの声
それはちょっぴり切なさを感じたけれど
それはきっと、もうすぐ卒業だから。なんて。 かすみ「……彼方先輩」
彼方「なぁに?」
かすみ「……グループ、作っていいですか?」
彼方「スクールアイドルの?」
かすみ「そんなわけないじゃないですか……連絡用のですよっ」
彼方「あぁ……そっちかぁ」
彼方「グループって二人の?」
かすみ「そうです」
彼方「……別に良いよ〜」
グループを作るとかそういうのでもない気がするけれど
でも、かすみちゃんがそうしたいなら……ううん。
そうしても良いって言うなら、しようかなって……便乗する。
ずるい先輩
かすみ「……膝枕、雨が降ってなければここでしてあげますから」
かすみ「連絡、するので」
彼方「ありがと〜」
かすみ「……いえ、こちらこそ」
かすみちゃんはちょっぴり元気になって
私の頭をポンポンって叩く
かすみ「そろそろ時間じゃないですか?」
彼方「そうだねぇ……」
みんなには教えていない、私達二人の秘密。
今更って思うけれど、でも……本当に、今更だ ――――――
―――
それから、
私とかすみちゃんは晴れた日だけじゃなく、曇ってる日にもこっそりと二人で会うようになった。
誰にも見られていないよね、なんて
明らかに挙動不審に。
なぜだか自分でも分からない駆け足。
茂みに飛び込んで、かすみちゃんがいたらお待たせって笑って
かすみちゃんがいなかったら、まだかな……なんて、もやもやとして。
彼方「あ〜あ……」
どうしよう
どうしちゃったら良いんだろう
自分の胸に手を当ててみると、攻めることしか考えていないような激しい心音が感じられて。
あと1年じゃなくて、あと1ヶ月しかない
ううん、もう1ヶ月もない。
なのに、
こんなものを押し付けられて、かすみちゃんは迷惑じゃないかななんて……不安になる。
明日はバレンタイン
男の子も女の子も緊張する、勝負の日
高校三年生がうつつを抜かすべきじゃない日
でも、だけど。
こんな気持ちは現実めいたものじゃないから……ノーカンだよね。
かすみ「……お待たせしました〜」
彼方「ぁ……うん。待ってないよ〜」 彼方ちゃんだけでなくかすみんのドキドキが伝わってくるような描写が… 直は汚れちゃうからと用意してくれたレジャーシートを広げて
かすみちゃんは、当たり前のように私に寄り添う距離感で座り込む
かすみ「いよいよですね……明日」
かすみ「しず子は演劇部と同好会のみんなに配る予定だって言ってました」
彼方「そっかぁ」
かすみ「遥ちゃんはどうですか?」
彼方「部のみんなと、私〜」
かすみ「え〜? 本当ですかねぇ……」
彼方「怖いこと言わないで〜」
遥ちゃんに本命がいて
私にも秘密にしている可能性は十分にある
だって、私もずっと秘密にしているんだから。
良い人なら、良いかもしれない
でも、悪い人だったらって思うと……怖い
かすみ「まぁ、遥ちゃんは1に彼方先輩、2にスクールアイドルって感じでしたからねぇ」
かすみ「きっと大丈夫ですよ」
からかうように笑うかすみちゃん
でもちょっぴり、元気がないように聞こえる かすみ「それで? 彼方先輩はバイト先に良い男の人とかいないんですか〜?」
彼方「え〜?」
かすみ「うちは女子高ですけど、バイトにはそんなの関係ないじゃないですか」
かすみ「……いるんじゃないですか?」
少し前は、遥ちゃんしかいないみたいな断言をしていたのに
今日に限っては、誰かいるんじゃないかって探りを入れてくる
彼方「いた方が良い?」
かすみ「なんて答えて欲しいですか?」
いつにもまして真剣な声色
それを口にしたかすみちゃんを見ると、その視線さえも正されていて。
少し、
ううん、とても、胸が弾む。
かすみ「………」
かすみ「なんて」
かすみ「そうですねぇ……」
かすみ「かすみん的に、彼方先輩はダメ男に尽くしちゃいそうな雰囲気があるので、いない方が良いです」
彼方「え〜そんなことないよ〜」
かすみ「それこそ、え〜? ですよぉ」
かすみ「だから、どちらかと言えば居ない方が良いです」
彼方「そんなことないって〜」 かすみ「ありますよ〜」
彼方「な〜い」
かすみ「ある」
彼方「ないよ〜」
かすみ「ダメ男作りそうな感じ有りますし」
彼方「も〜……そんな……」
彼方「………」
そんな。
そんな " ことない " ?
そんな " に言うなら " ?
そんなに言うなら――かすみちゃんが……
かすみちゃんが?
彼方「……そんな相手いないよ」
彼方「だって、そんな暇あるわけない」
かすみ「あっ……」
彼方「家事して、部活して、バイトして、勉強して」
彼方「平日も休日も……したいことじゃなくて、するべきことがあって」
彼方「なのに、誰かに恋してる暇なんて……あるわけないよ」
かすみ「……ごめんなさい」
彼方「ううん、私こそ……ごめんね」
ただの八つ当たり
胸の中を埋め尽くすようなもやもやしたものに対しての苛立ち 少しだけ悪くなった空気
でも、かすみちゃんは膝枕を止めることはなくて……
かすみ「あと、半月くらいなんですよね」
彼方「そうだねぇ」
かすみ「……男の子じゃなくて、良かったです」
彼方「どうして?」
かすみ「だって、そうしたら返すべき時にはもう、先輩は卒業しちゃってるじゃないですか」
彼方「あぁ……確かに〜」
彼方「でも、男の子だったら虹ヶ咲には通えないから……赤の他人だったよ〜?」
かすみ「でも、この近くに私と彼方先輩はいるわけですし」
かすみ「もしかしたら、同じバイトをしてたかもしれないじゃないですか」
彼方「パン屋さん?」
かすみ「コンビニとか」
彼方「スーパーは?」
かすみ「パンの陳列と発注専任ですね」
彼方「裏でパン太郎って呼ばれるやつだね〜」
かすみ「女の子はパン子ですか」
彼方「ふふっ……そういう感じかもねぇ……」 かすみ「彼方先輩にパン太郎くんってからかわれるんですよ」
彼方「え〜?」
かすみ「だからかすみ君も、何か言い返したりして」
かすみ「意識してない振りして、でも、夜は一緒に帰ろうとしたり……」
かすみ「どうでもいい確認するために声をかけたりして」
かすみ「……彼方先輩のこと、出来るだけ近くで見たりして」
かすみ「甘い匂いと、小さくて大きな体にドキドキして」
かすみ「……それで、卒業が近づいてきて、不安になるんですよ」
かすみ「彼方先輩、大学行ってもここ続けるんですか? なんて」
かすみ「あからさま過ぎて笑いたくなっちゃうような態度でかすみ君は聞くんですよ」
かすみちゃんは楽しげに語る
それはあり得るはずもない空想
バレンタインなんてどこかに消えた、恋のお話。
彼方「へぇ……」
かすみ「なんですか?」
彼方「かすみ君は、彼方先輩が好きになっちゃったんだねぇ」
かすみ「……男の子なら、彼方先輩に恋の1つや2つはあるじゃないですか」
彼方「かすみちゃんは?」
かすみ「かすみちゃんは、女の子ですし」
彼方「じゃぁ嫌い?」
かすみ「……好き。ですけど」 彼方「えへへ、そっかぁ」
かすみ「も〜なににやけてるんですかぁ〜」
彼方「別にぃ〜?」
かすみ「かすみんのこと嫌いなんですか?」
彼方「好き好き〜」
かすみ「適当過ぎません……?」
彼方「そんなことないよ〜」
冗談だったら、何度だって好きっているのに
顔を見て、顔を見ずに
どちらでだって口にしてしまえるのに。
なのに。
かすみ「も〜……」
だから。
彼方「好きだよ〜好き好き」
――泣きそうになる。
かすみ「適当じゃないですかぁ……」
その残念そうに聞こえる声が
本当にその通りだったらいいな……なんて、思ってしまう かすみ「そんな彼方先輩はもう膝枕してあげません」
彼方「え〜……」
かすみ「冗談ですよぅ……えいえいっ」
彼方「むっ……」
頬を指で突いて来るかすみちゃん
小さくて細い、爪をしっかりと整えられた指先
爪先から指の腹へと、触れる部分が変わっていくのを……気付かないふりをする
かすみ「………」
彼方「………」
なにも話さない
吐息さえも聞こえないような静けさに満ちていく中で
膝上から、かすみちゃんの顔を見上げる かすみ「……ん」
かすみ「なんですか……」
かすみ「私のこと、やっぱり好きなんですか?」
茶化すような声色でも、表情でもなく
かすみんではなく、私と言うかすみちゃん
彼方「そうだねぇ……」
彼方「好きだよ」
かすみ「………」
かすみ「ですよねぇ〜」
一瞬の驚きと、喜び
本当に、本気で
今のその言葉を投げ渡しても、かすみちゃんは同じ顔をしてくれる?
彼方「……そうだよ〜」
ドキドキする。
明日は――……バレンタインデーだ ――――――
―――
活気づいた14日。
通学路までもがピンク色……あるいは赤色。
もしくは灰色……とか。
まぁとにもかくにも煌びやかな1日
女子しかいない虹ヶ咲学園もその例外ではなく、
授業中を除けば、特別禁止されていないこの学校は朝からその賑やかさに満ちてる。
彼方「わぁお……」
おはよ〜。と、
クラスメイトに肩を叩かれて、
はいコレ友チョコ! なんて、次から次へと鞄の中にチョコが詰め込まれていく
その分、私が用意していた分のチョコが消えていくから、それほど変化はないけれど。
彼方「………」
かすみちゃんと二人きりのグループ
会う約束を取り付けるためだったはずのその中身には、
おはようと、おやすみ
それ以外の雑談まで割り込んでいて
昨日の夜のおやすみのスタンプで……終わっていた。
果林「彼方」
彼方「おぉ……果林ちゃん。紙袋かぁ……」
果林「ええ。モデルやスクールアイドルのファンだからって言うのだけど……」
果林「ここまで来ると、なんていうか……蹴落としに来てる感じもするわよね」
彼方「それ、みんなの前で言ったらダメだよ〜?」
果林「分かってるわよ」 紙袋いっぱいのチョコレートを携えた果林ちゃん
モデルもやっている果林ちゃんには、この糖分量は聊かにつらいものはあると思うけれど
断らずに貰ってくれる辺りが、果林ちゃんの優しさだったりもして。
彼方「チョコ、もう1個増やしていいかな〜?」
果林「最低、9個は増えそうなんだけど……」
彼方「確かに」
果林「……で」
彼方「ん?」
果林「本命、渡すつもりはあるの?」
彼方「え〜?」
果林「悩んでるの、バレバレよ」
彼方「そんな悩んでたかな……」
果林「今日じゃなくて、結構前から」
並んで歩く果林ちゃんは、
分かってるわ。なんてしたり顔をする。
でも、正解
そっか……私は分かりやすいかぁ……
果林「彼方の本命なら、貰ってあげても良いわよ?」
彼方「だめ〜」
果林「この紙袋と交換するのは?」
彼方「それ、くれた人たちに聞かれちゃだめだよ〜」
果林「ふふっ、冗談よ」
果林「さすがに失礼だもの」 果林「だから……」
果林「………」
果林「……はい」
彼方「なに?」
果林「友チョコ。交換しましょ」
果林ちゃんの鞄の中から出てきた市販品のチョコレート
コンビニに売っているのよりは何段か豪華そうなそのひと箱を受け取って
代わりに、個包装したチョコレートの包みを果林ちゃんにお返し
果林「本命?」
彼方「友チョコ」
果林「あら、そう……」 彼方「なに〜? 彼方ちゃんの本命が良かった〜?」
果林「彼方の料理美味しいから、本命はまた格別だと思って」
果林「それなら、多少太るのも厭わず食べたいじゃない」
彼方「責任持ってその紙袋を空にしてからもう一度言って〜」
果林「卒業式には間に合わせるわ……」
意気込む果林ちゃんへと、かかる声
頬を染めた1学年下の2人組
その手の中に、小さな手には大きい包み
彼方「じゃね〜」
果林「ええ、行ってらっしゃい」
彼方「………」
彼方「なぁに……行ってらっしゃいって」
チョコレートを渡されるカッコいい同級生を置いて、一人で教室へと向かう。
なに……行ってらっしゃいって。
まだ、踏み出せてないって言いたのかな……もう……
彼方「……スタンプ、押しちゃおうかな」
あとでね。
そんな一言の入ったスタンプ
とても簡単なそれは
でも、なんだか違うと思う面倒くさい心 否応なく過ぎていく時間
かすみちゃんからの連絡もなく、
私からも連絡を出来ないまま……ただただ、時間を浪費していくだけで。
彼方「……だって」
だって、
こんな日に呼び出したら、本命だって言ってるようで
なんだか、もやもやしちゃうから……なんて。
彼方「はぁ……」
せっかく作って貰ったのに、
これじゃ、このグループの意味が……
ううん。
元々、そんな意味なんてなかった。
ただ、あそこで会うためだけの秘密の連絡網
彼方「かすみちゃん、本命渡したのかなぁ……」
友チョコを渡すだけなら、
私達は別に部室に集まってからで問題ない。
果林ちゃんは、あの場の流れっていうだけ。
でも、
みんなと違うこの1個は、みんなの前では渡せないから 連絡もせずに、いつもの茂みに飛び込む
かすみちゃんがいるわけもないのに、いたらいいななんて。
彼方「いるわけ、無いんだけどねぇ……」
それがあたりまえだった。
一人でこういう場所に来て、横になって
それが当然で、私の日常で
そうだったはずなのに。
彼方「………」
最近は、かすみちゃんと一緒だった。
それが好きで
それが心地よくて
それが嬉しくて
それに甘んじていた 彼方「どうしようかなぁ……」
持ち出した、本命用に包んだちょっぴり豪華な箱
渡したい
でも、渡せそうもない。
行ってらっしゃいと背中を押されても
私の足は、玄関の扉で踏みとどまったまま
……あと一歩
彼方「………」
スマホを取り出して、スタンプ一つ
たったそれだけで十分なのに
それが重い
彼方「もぅ……」
かすみ「なにがもぅ。何ですかぁ?」
彼方「ひっ!?」
かすみ「……そんな驚かなくたっていいじゃないですか」
かすみ「まぁ、連絡してませんから……気持ちはわかりますけど」 シート持ってきてますよ〜なんて。
いつもと変わらない様子でシートを広げるかすみちゃん。
動かない私をよそに、かすみちゃんは一人で座って
私がいつも頭を乗せさせて貰ってる膝を整えて……
かすみ「……スクールアイドルの影響ですかねぇ」
かすみ「みんなから、たくさん友チョコ貰っちゃって」
彼方「へぇ……」
彼方「彼方ちゃんだって、それくらい貰ったよ〜?」
かすみ「……本命、貰いました?」
彼方「貰ってないよ〜」
かすみ「本命、渡しました?」
彼方「渡してないよ〜」
彼方「………」
彼方「そう言う、かすみちゃんは?」 かすみ「まぁ、残念ながら」
彼方「そっかぁ」
かすみ「なんで喜んでるんですかぁ?」
彼方「え〜? そう見える〜?」
かすみ「そう見たいですね。本音を言えば」
彼方「え?」
かすみ「そういうわけで……どうぞ。チョコクリームコッペパンです」
かすみちゃんはいつもに比べれば少し上擦った声で、袋に包まれたコッペパンを差し出す。
どういうわけなんだろう
なんて。
戸惑う私を残して、かすみちゃんはそのコッペパンを引き戻して。
かすみ「それとも……こっちで良いですか?」
コッペパンじゃない、でも、市販でもない
丁寧な包装
普段のかすみちゃんと比べたら……特別なのは――
かすみ「こっちじゃ、だめですか?」 かすみ「……困るって、分かってます」
かすみ「でも、だけど……」
かすみ「やっぱり」
かすみ「やっぱり……私……」
かすみ「私……本命は、彼方先輩に受け取って欲しくて……」
かすみちゃんは首を振る
そうじゃないって、自分で自分の言葉を否定して。
かすみ「彼方先輩に……渡したかった」
かすみ「でも、彼方先輩……本命がいるのかどうかわからないし」
かすみ「全然、私に気がないような感じだったし」
かすみ「けど……」
かすみ「3年生だし、あと半月もなくいなくなっちゃうし」
かすみ「だから……やっぱり。悔いは残したくないって言うか……」
かすみ「えっと」
かすみ「その……」
かすみ「……」
かすみ「……好きって言ったら、もうここで会えなくなっちゃいますか?」 彼方「……えっと」
いじらしいというか
いつもらしくないというか
元気の有り余っているようなかすみちゃんとは違う、しおらしさ
見上げてくる瞳は潤んでいて
頬は赤みがかっていて
それは……きっと。
彼方「……ん」
後ろ手に隠した、心
後輩に先手を打たれた、みっともなさ
でも、だけど。
その手は間違いなく、足踏みするだけだった私の手を引いてくれた
彼方「なら……交換、しよ〜?」
かすみ「彼方、先輩?」
彼方「渡すかどうか、凄く迷ってたんだよね〜……」 彼方「私、もうすぐ卒業だから」
彼方「置いて行っちゃうのに……こんな今更」
彼方「本命だよ……なんてかすみちゃん困らせるだけでしょ……?」
彼方「だから、やめておこうと思ってたんだよねぇ……」
断られたら怖いし
迷惑かけたくなかったし
あと半月もせずに離れ離れになっちゃうのに
彼方「急にさ、本命だよ〜なんて……言ったら重いかなって」
彼方「だから、連絡することも出来ないままここに逃げて」
彼方「なのに、かすみちゃんはここに来てくれて」
ドキドキする。
かすみちゃんが本命を渡してくれたのに
もう、この気持ちを伝えたって、良いはずなのに。
彼方「えへへ……」
彼方「………」
彼方「運命、感じちゃったよ〜……」
彼方「なんて言ったら、もうここに来てくれなくなっちゃう?」 かすみ「なんですかそれ……」
かすみ「そわそわしてたのが、彼方先輩一人だとか、思ってます?」
彼方「ううん、思ってない」
私が連絡しなかったように
かすみちゃんも連絡をしなかった。
もしかしたら。
そんなことを考えながら、本命のチョコレートを持って……ここに来た。
一緒だよ。
かすみちゃんも、私も。
彼方「だから……交換しよ?」
かすみ「も〜……」
かすみ「でも、交換します」
気持ちの交換
受け取らなければ、拒否と受け取れるそれを……互いにしっかりと受け取って。
かすみ「……えへへ」
彼方「……なぁに〜? そのふやけた顔は」
かすみ「彼方先輩も、その顔は分かりやすくて可愛いですよ?」
かすみ「……かすみんよりも」
彼方「そうかな……」
彼方「彼方ちゃん敵に、かすみちゃんも可愛いと思うけどな〜」
かすみ「そうですかぁ〜?」
かすみ「そう、ですよねぇ……」 >>495 修正 下から3行目
かすみ「なんですかそれ……」
かすみ「そわそわしてたのが、彼方先輩一人だとか、思ってます?」
彼方「ううん、思ってない」
私が連絡しなかったように
かすみちゃんも連絡をしなかった。
もしかしたら。
そんなことを考えながら、本命のチョコレートを持って……ここに来た。
一緒だよ。
かすみちゃんも、私も。
彼方「だから……交換しよ?」
かすみ「も〜……」
かすみ「でも、交換します」
気持ちの交換
受け取らなければ、拒否と受け取れるそれを……互いにしっかりと受け取って。
かすみ「……えへへ」
彼方「……なぁに〜? そのふやけた顔は」
かすみ「彼方先輩も、その顔は分かりやすくて可愛いですよ?」
かすみ「……かすみんよりも」
彼方「そうかな……」
彼方「彼方ちゃん的に、かすみちゃんも可愛いと思うけどな〜」
かすみ「そうですかぁ〜?」
かすみ「そう、ですよねぇ……」 二人で、肩を並べて座る
包みを開けて、
それぞれが思いを込めて作ったチョコレートの一つを……
彼方「かすみちゃんさ〜」
かすみ「なんですかぁ?」
彼方「大きいハート1枚って、割っていいのかな?」
かすみ「え〜……」
かすみ「食いついてくださいよぅ……」
彼方「ふふっ、分かってるよ〜」
かすみちゃんの作ったハートマーク
齧りつきやすそうな部分を探して、そうっと……咥える
彼方「かふみひゃん、かふみひゃん」
かすみ「なんですか?」
彼方「かすみちゃんの気持ちで釣れちゃった〜」
かすみ「………」
かすみ「……も」
かすみ「……もぉ〜っ!」
かすみ「なんなんですかそれ〜っ!」
顔を真っ赤にして声を張り上げたかすみちゃん
ぽかぽかとまったく痛くもない力で叩かれながら……ハートを齧る
彼方「あまぁい……」
お別れまで、あと半月もないけれど。
かすみ「も〜っ!」
彼方「えへへ〜」
でも……その日がきてもこの心の距離感だけはそのままだったらいいなって、思う。 case.8:かすみとバレンタイン 終了
ヒストリ
case1.果林 (洋服選び 5-32)
case2.璃奈 (菓子作り 45-102)
case3.歩夢 (クソゲー 118-151)
case4.菜々 (お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマス 213-264)
case6.しずく(心中演技 275-341)
case7.エマ (年末年始 358-443)
case8.かすみ(バレンタイン 457-498) かなかす、すげえ良かった
初々しい感じでニヤニヤした 5、愛
9、遥
>>507 キャラクターセレクト(上の3,5,9からのみ)
>>509 内容選択(自由)
※注意事項
全て彼方との組み合わせ 彼方「はぁ……」
数日前、店舗で利用していた機器の故障によって
掛け持ちしていたバイトの一つが、急遽出来なくなった。
他のバイトのシフトに急遽入るなんてことは出来ないし
そうでなくても、ほかのバイトで入れないから掛け持ちしていたのだから……無理
そのうえ、
故障した機器が機器と言うこともあって、結構な期間バイトすることはできないって話で……
彼方「どうしよ……」
バイトが一つなくなるだけで、当然給与は減っていく
しかも、週3日は入れていたバイトが無くなると、
それはもう……激減する。
彼方「うぅぅ……」
愛「あっれー? カナちゃん、どうしたの?」
彼方「愛ちゃん……」
愛「誰かに振られた?」
彼方「ある意味振られた……」
愛「えっ……」
愛「カナちゃん振るとか……えっ、既婚者?」
彼方「ち〜が〜う〜……」
彼方「バイト……一つ出来なくなっちゃった……」 理由を説明すると、
愛ちゃんはひとしきり笑った後に、笑い事じゃないよね。なんて。
もう時すでに遅い取り繕う文句を呟く
愛「そっかー……失恋じゃなくて良かったよ……」
愛「けど、バイト先が一つ改装でダメになったって言うのは辛いね……」
愛「休みを喜べないんでしょ?」
彼方「無理……」
愛「ん〜……」
愛「ほかにバイトは?」
彼方「探してるけど、短期で入れるようなところって限られてるでしょ〜?」
彼方「そのうえで、時間も限られてるってなると……」
彼方「……日雇い選んだけど、追い払われちゃって」
愛「あぁ……」
日雇いだからって誰でも良いってわけじゃないんだよ。
役に立たないやつを雇う暇はないんだよ
あのさぁ……仕事舐めてる?
そうやって……鼻で笑われたり。
彼方「………」
愛「………」
愛「カナちゃんって、知り合いがいるとやり辛いとかってあったりする?」 彼方「え……?」
愛「カナちゃんさえよければだけど、ウチでバイトしてみないかなって」
愛「最近、雇ってたバイトが2人くらい止めちゃってさ……」
元々その予定だったから問題はないんだけどさ。と
愛ちゃんは明らかに困った様子で笑う
愛ちゃんはここ数日、部活をせずに早く帰ってることがある
家の用事だって言っていたけれど
たぶん……お手伝いをしているんだろうなぁ……
愛「だから、カナちゃんさえよければだけど……ウチで雇われない?」
愛「飲食店でのバイト経験ある?」
彼方「ない」
愛「そっか……でも、もんじゃは余裕だよね?」
彼方「うん……たぶん」
愛「カナちゃんはメニュー覚えたりオーダー取ったりは余裕だと思うし……」
愛「まぁ、主に洗い場担当して貰うと思うけど……」
愛「難しい仕事はお願いしないからさ、どうかな?」 彼方「愛ちゃんの方はむしろ良いの〜?」
彼方「勝手にスカウトしちゃって」
私としては、
バイトとして雇って貰えるなら、すっごくありがたい
知り合いがいるだけじゃなくて
知り合いのお店と言うのは……ちょっと気になっちゃうけど
でも、そんな我儘は言っていられないし、
愛ちゃんだって信頼してくれてのことだから。
けれど、お店側は……
愛「あー平気平気」
愛「実はさ〜……募集出してもなかなか来てくれないから」
愛「バイト探してる子いたら連れてきてってお願いされてるんだよね〜」
愛「カナちゃんなら看板娘にだってなれそうだし、絶対優秀だし」
愛「ぜひ来てよ!」 屈託のない愛ちゃんの笑顔
向けられる信頼
応えられるかなって不安はあるけれど……
彼方「看板娘にはなれないよ〜」
愛「え〜? カナちゃんならどの店の看板娘にだって敵うでしょ!」
愛「 " かな " だけにね!」
愛「あっはっはっはっは」
彼方「そっかぁ……」
敵うかなぁ……
いやぁ……無理だよね〜
でも、このまま月給の半分以上を失ったままと言うのは地獄が待ってるし。
彼方「とりあえず、試用期間……設けて貰えるかな〜?」
愛「当然」
愛「……って言うことは、受けて貰える!?」
彼方「うん。宜しくお願いします」
愛「いやいやいや!」
愛「こっちこそ、宜しくお願いします」
愛「ほんと、実は裏と表で手が足りない時もあって……裏に入ってくれるだけで超助かるよー!」
大喜びで抱き着いて来る愛ちゃん
初めてだからうまく出来るか分からないけど……うん、とにかく、頑張ってみよう かなかす最高だった
あんまレスしないけど読んでるから安心して続けておくれやす〜 天才かよ
かすかな好き好き 推し2人の最高のssありがとう ――――――
―――
放課後になって、
今日あるはずだったバイトもなく暇を持て余していた私
それならと……愛ちゃんはさっそく、実家でもあるもんじゃ焼き屋さんに連れていってくれた
……けど。
忙しそうにしている中
手伝いに飛び込んでいった愛ちゃんに置き去りにされちゃって。
彼方「えぇぇぇ……」
愛ちゃんがスクールアイドルとしての活動を始めて
それがどんどん人気が出て、比例してこのお店にもお客さんが増えてきたとか。
奔走するという言葉が適切な感じの店内
ぽつねんな私はとりあえず……バックヤードで待機
彼方「……うぅ」
みんなが忙しなく働いているのに
裏で座っているだけというのが、なんだか不快感。
こういうのも、職業病って言うのかな? 愛「あー……ごめんねカナちゃん!」
愛「もうちょっと待ってて!」
彼方「あ、うん……」
ちらっと顔をのぞかせた愛ちゃんは、
本当にそれだけでまた戻っていく
飲食店だから着の身着のままではなく、ちゃんと仕事用に着替えた愛ちゃん
普段よりもしっかりと纏められた髪型も似合っていて
一層しっかりとしているように見える
彼方「……頑張ってるなぁ」
部活も、おうちの手伝いも、同好会も
すっごく頑張っている愛ちゃんは、かっこいい こっそりと覗いてみる。
怒られないように……ちょっとだけ。
彼方「………」
オーダーを伝えに来て、
用意された分を持って行って、
オーダーを持って帰ってきて……また用意出来た分を持って行く
その繰り返し
それが愛ちゃんと、もう一人
そして、用意するのが愛ちゃんともう二人
洗い場は……手が空いたとき
オーダーが一気に来た時は、本当に洗い物は水につけたりして置いたままみたいで。
彼方「……そわそわしちゃう……」
洗い物が溜まってるというのが、気になっちゃう
独り蚊帳の外なのが申し訳なくなっちゃう
彼方「手伝っちゃダメかなぁ……」
愛ちゃんには、ダメって言われちゃった。 お店が落ち着いた辺りで、いよいよお話。
愛ちゃんの紹介ということもあって、
愛ちゃんも同席しての面接と言うか、顔合わせはちょっぴり不思議な気分。
愛「大丈夫! カナちゃ……えぇっと」
愛「彼方先輩は、ほんと、すっごいしっかりしてるから」
愛「料理も掃除も完璧だし」
愛「ほら見てこのプロポーション!」
彼方「変な紹介はやめて〜」
全力で看板娘へと推し出していく愛ちゃん
おばあちゃんはそれを笑って流してくれたけれど
でも、良ければやってもいいんだよ。なんて言ってくれちゃって。
愛「とにかく、カナちゃんは絶対いけるよ!」
健康に問題が無いかだけしっかりと確認されたけど
でも、無事に採用して貰えることになった バイトするのは明日から。
せっかくだからと送ってくれる愛ちゃんへと、一言お礼
彼方「ありがとねぇ……愛ちゃんのおかげですんなり採用して貰えちゃった」
愛「その信頼を得たのはカナちゃんだし……」
愛「お礼すべきなのはこっちだよー」
愛「見ててうずうずしてたでしょ」
彼方「えへへ〜……職業病かな」
愛「あはははっ、だとしたら生粋の仕事人だね〜」
愛「でも、飲食店未経験なら職業病って言うより」
愛「主婦的な思考なんじゃない?」
愛「油汚れとかそういうの」
彼方「あ〜……」
彼方「それあるかも……」
家ではいっつもすぐに洗ってるから、
洗い物が溜まってるのが気になるのは、多分ある。
愛「………」
愛「……そっかぁ」
愛「カナちゃん……彼方先輩は、将来良いお嫁さんになれそうだね〜」
彼方「そうかな〜?」
愛「そうだって、絶対」
愛「選ばれた男の子は幸せになるねぇ」 彼方「愛ちゃんに選ばれても幸せになれるんじゃないかな〜?」
彼方「趣味とか、普通に付き合ってくれるし」
彼方「賑やかを好む人は、愛ちゃんに没頭しそうだよ〜」
愛「えへへ〜そっかな〜」
ちょっぴり驚いて
照れくささを感じる笑顔を見せる愛ちゃん
バイト中の格好良さは薄れて
歳相応の可愛らしさが感じられる……なんて。
言ったら愛ちゃん、耳まで赤くなりそう
彼方「愛ちゃんって」
彼方「普段は快活でぐいぐい来るのに〜」
彼方「ここぞというときには恥じらうなんてギャップってやつだね〜」 愛「な、何言ってんの〜? も〜カナちゃんってば、冗談きついって〜」
愛「このこの〜!」
愛「近江だけに〜」
彼方「変化球だねぇ……」
愛「先にブーメラン投げたのはカナちゃんだけどね」
彼方「ん〜?」
愛「いや、何でもない」
愛「それじゃ……明日から宜しくね!」
彼方「うん、またね〜」
年齢的には彼方先輩だけど、バイト的には愛先輩
明日はそう呼んでみようかな〜なんて、
去っていく愛ちゃんの後ろ姿を見ながら考えてみたり。
彼方「愛先輩」
彼方「宮下先輩」
彼方「愛せんぱ〜い」
彼方「……かすみちゃんかな?」
……やめとこう。 その組み合わせ特有の空気を演出するのがほんとお上手でいくらでも読めちゃう ――――――
―――
愛「と言うことで、連絡した急遽新規で入ってくれることになった近江彼方さんだよ〜」
彼方「宜しくお願いします」
愛「基本的に洗い場担当して貰う予定だから、準備とかで頼っちゃだめだよ?」
一つの仕事専任
それはよくあることだけど、洗い場のみというのは聊か特殊な感じがする
一緒に働く先輩たちもそう感じたようで、
愛ちゃんが言った準備を手伝わせては駄目なのかと、戸惑ってるのが感じられた
でも、愛ちゃんは駄目だって言う
私は別に一緒にやっても良いのに……
大変な仕事だって分かってるからか、手伝わせたくないみたい。
愛「近江さんが洗い場の仕事で物足りなさそうだったら回しても良いけど」
愛「手一杯な感じだったら、無理強いしないでよ〜?」
彼方「精一杯頑張りますので、宜しくお願いします」
まだ見学一回の私に言えるのは、意気込みを語ることだけ。
いつまで手伝えるかは分からないけれど
でも、出来る限り力になりたいから……頑張るぞ〜! ……なんて
意気込んだはいいけど。
近江さん、これ追加!
近江さん、こっちもよろしく!
カナちゃん、もう3追加だよ〜!
ひっきりなしに洗い物が追加されていって、
あっという間に山が出来上がりそうになる
彼方「これは……凄いなぁ……」
限りなく丁寧に洗い物をしながら
限りなく手早く済ませないといけない
もちろん、私の手が少し遅れたって食器類や、調理器具が足りなくなるなんてことはないけど
でも、それは……
彼方「許せない――」
「近江さん追加!」
彼方「あっ、はいっすみません!」
集中集中! 一つ一つを丁寧に
そして、少しずつスピードを上げていく
放課後からの勤務
夕方以降のピークが気付かないうちにやってきて、
愛ちゃん達表に出ている子の行き来が激しくなり、
材料とかを用意するバックの子の動きが忙しなくなる。
それでも私に回ってくる仕事は変わらない
「はい! 次どれ!」
「こっち――」
「あっ、違うそっち!」
「も〜!」
「ねぇちょっと! これオーダー違う!」
すぐそばで足早に動き回る先輩たちがいる中で
私だけがただひたすらに洗い物をしていて
修羅場と言うか、本当に大変なのは見てるだけで伝わってくるし
愛ちゃんがそこまで手伝わせるのはって気を使ってくれてるのは分かる
でも……実力不足な感じがして、申し訳ない 彼方「こんなじゃ、全然手伝いになれてない……」
愛「いや〜……十分じゃないかな?」
彼方「愛ちゃん……」
愛「これ、追加ね〜」
愛ちゃんが持ってきた器とかを水につけて、
今ある分を洗いながら……一息つく
愛ちゃんはすぐに表に戻っていくことはなく、
背筋をぐっと伸ばしながら、手で顔を仰いでいた
彼方「そうかなぁ……」
彼方「何にも手伝えなかったよ〜……」 愛「そんなことないって」
愛「落ち着いてから手を付けてた洗い物が、今追加した分と少ししかないって時点で奇跡だから……」
「そうそう、近江さんはよくやってくれたよ」
彼方「あ、ありがとうございます」
「あんがとね〜、かなえっち」
彼方「か、かなえっち……?」
「近江彼方だから、かなえっち。いやならこのえっちにするけど」
彼方「えぇっと……お好きな感じで大丈夫です」
愛ちゃんだけじゃなくて
裏で一緒に働いていたみんなまで、喜んでくれて。
嬉しいけれど、ちょっぴり複雑
明日は用意も手伝えるくらいになれたらいいな。なんて、意気込みだけは十分
愛「手荒れ大丈夫?」
「あとでクリーム貸したげるよ」
彼方「え、そんな」
「良いから良いから、新人ちゃんお疲れ〜」
私よりも背の高い
果林ちゃんと同じかそれより上くらいの女の子
労ってくれるその子は、私よりも年下だった 彼方「……クリーム良いの借りちゃったなぁ」
愛「良かったじゃん!」
愛「カナちゃん、そこらへん結構甘いし」
彼方「甘い、かな〜?」
一応、ハンドクリームを使ってるし
荒れたままにならないように気を使ってはいる。
でも、愛ちゃん達みたいにしっかりしてるかって言われると……ちょっと迷う
見比べられると、
ちょっぴり年季が入ってしまっているかのように感じられちゃったり。
彼方「愛ちゃん的には、物足りない?」
バイト仲間となってる女の子が貸してくれたちょっと高そうなハンドクリーム
べたついたりしないし、
ほんのりとした石鹸の香りが優しくて。
そんな今の私の手は、それでもやっぱり愛ちゃんとは比べられない
愛「ん〜……正直に言っちゃっていいなら物足りないよね」
愛「もちろん、忙しいからって言うのは分かるけど……やっぱりもったいないよ」 愛ちゃんは私の手を軽く握って、揉む。
指で包むようにしながらの感覚は優しい感じ。
でもちょっと、こそばゆい
愛「まだ若いのに、ほら……こんなに皺っぽい」
彼方「んっ……」
愛「尿素系の含まれてるハンドクリームにした方が良いよ〜」
愛「普通の、ただの保湿効果だけとかだとどうにもならないだろうし」
愛「美容にはお金を使っても良いんじゃない?」
彼方「遥ちゃんには、良いのを使って貰ってるんだけどねぇ……」
それを言っちゃうと遥ちゃんに遠慮されちゃうから、
絶対に言わないけど。
スクールアイドルをすっごく楽しんでて、活躍もしている遥ちゃん
どちらに重きを置くかなんて、考えるまでもないよね
愛「愛さん的には、カナちゃんにも良いのを使って欲しいんだけどなー」
彼方「え〜?」
愛「料理してて思わない?」
愛「良い食材は、よりよく扱いたいってさ」 彼方「彼方ちゃん、良い食材なの〜?」
愛「そりゃもう、最高級じゃない?」
彼方「そっかぁ……」
彼方「………」
バイトの後の、暗くなりつつある帰り道
人気があったりなかったり
二人きりで歩いている夜
家までではないけれど、送ってくれる愛ちゃん
ふむ……
彼方「送り狼?」
愛「あはははっ、何それ!」
愛「愛さんが狼だって〜?」
愛「カナずきんちゃん、食べちゃうぞ〜?」
彼方「わ〜っ! 待って、待って!」 飛びついて来る愛ちゃんを避けられなくて、捕まっちゃう。
ぎゅっと抱きしめてくるその体は温かくて
私よりも大きくて。
彼方「危ないよ〜」
抱きしめ返しても抱き着いてるようにしか見えない気がして
腕を引っ込める
愛「っと……ごめんごめん」
彼方「別に良いけどねぇ」
彼方「そうそう」
彼方「次は、明日別のバイト入ってるから明後日かな〜」
愛「カナちゃんがいなくなったら困るなぁ……」
彼方「まだ一日だけだよ〜?」
愛「山積みの洗い物がない幸福感……カナちゃんならわかるでしょ?」
彼方「ん〜……」
彼方「そう言われると分かるかも〜」 1から100まで全部やっていた家のこと
でも、少し前から遥ちゃんにも手伝って貰うようになって
お料理で使った器具やお皿とかが他のことをやっている間に片付けられていたり
お洗濯の一部をやって貰えていたり……なんだり。
そんなちょっとしたことで、かなり救われていたりもして。
そう考えれば
洗い場に食器類が溜まっていないというだけであんなにも喜んで貰えたのもわかっちゃう。
愛「やっぱり、ピークが終わった後に洗い物が溜まってるとさ」
愛「どうしても溜息が零れちゃう子もいるみたいなんだよねー」
愛「それが今日は片付いてたから余裕も出来て」
愛「すぐに休憩入れたりして……ほんとよかったよ」
それが普通なんだけどね。と、困ったように言う愛ちゃん
人手が十分だったころは問題なかったのだろうけど
足りなくなっちゃったから、余計に苦しいのかも。
愛「時間帯ずらして貰ったりしてある程度調整してるけど……」
彼方「しわ寄せ来ちゃうよね〜」
急遽休みになった人がいたり、
突然辞めちゃう人がいないこともない今までのバイト
私も、しわ寄せの経験は身に覚えがある 愛「そうそう!」
愛「だから、みんなありがとってね」
愛「カナちゃん的には楽な仕事かもしれないけどさ」
愛「アタシ達からしてみれば洗い場専任もきつい仕事だから」
愛「あんまり無理、しないでいいからね?」
彼方「大丈夫〜」
心配してくれる愛ちゃん
あのハンドクリームを貸してくれた子達だって、
私のことを評価してくれて
そのうえでありがたいと思ってくれているからこそのもの。
だからこそもっと役立てるように頑張ろうって思っちゃうけど。
彼方「無理なんてしてないよ〜」
愛「ほんと〜?」
愛「あやっしいなぁ?」
彼方「ほんとだよ〜」
わざわざ下から覗き込む愛ちゃん
でもほんとに無理してないよ。
――愛ちゃん、よりは。
彼方「愛ちゃんこそ、無理してないかな〜?」
愛「愛さんは問題ないよ〜!」
愛「実家だよ? 実家!」
愛「大丈夫だって〜」
愛ちゃんは押し付けるように言い放って、歩いていっちゃう
ほんとかな……? ――――――
―――
彼方「えっホールスタッフ?」
愛「いやいやいや、ダメだって!」
愛ちゃんはスクールアイドルだってみんな知っていたけれど、
自分から周知してなかった私は普通の一般人……だったのに。
一緒にバイトしていた子が私のことを友達に話した結果、
私のライブを見ていたその子から流れて。
愛ちゃんと一緒にホール側をやってみないかって話が出てきちゃった。
名前が知られてきてるっていうのは、良いこと……かな〜?
ダブルスクールアイドルのもんじゃ焼き店
それって良さげじゃない? って賑わうほかの子達と、反対する愛ちゃん
愛「カナちゃんだよ? 邪まなお客さんが増えちゃうよ!」
彼方「邪ま……?」
「あー……」
彼方「なんで納得しちゃうかなぁ……」
そもそも、愛ちゃんが看板娘推してたのに
他の子からの推薦だとダメって言うのは、どうなんだろう?
彼方「そうだねぇ……邪まなお客さんは増えないと思うけど」
彼方「私、まだ全然仕事覚えられてないよ〜?」
なんて。
当たり前のことを言っただけなのに。
仕事覚えてない新人バイトからのドジっ子属性がつくんじゃないかって議論に発展しちゃった。 愛「ごめんねー……できれば裏だけで済ませてあげたかったんだけど」
彼方「ん〜ん。良いよ〜」
彼方「洗い場だけでしか働かないっていうのも、気になっちゃってたからね〜」
愛「その方が、カナちゃんには良いと思ってさー」
散々看板娘を推してきたのに? なんて
ちょっぴり意地悪を言ってみると
愛ちゃんは照れくさそうに笑って、誤魔化す
愛「人によってはさ、もんじゃとかのにおいがつくのが嫌だって人もいるんだよね」
愛「カナちゃんがそうだとは思ってないけど」
愛「そんなにおいついたら、遥ちゃんから引かれちゃうかもしれないし」
彼方「遥ちゃんは大丈夫だよ〜……」
彼方「それとも」
彼方「愛ちゃんは今の私のにおいの方が好きなのかな〜?」
愛「カナちゃんの匂いは良い匂いだから好きかなー……」
愛「彼方だけに!」
愛「なんて……あはははっ」
愛「……カナちゃんの長い髪が痛んじゃうよ?」 彼方「それを気にしてくれてたんだねぇ……」
彼方「でも、愛ちゃんもそれなりの長さじゃないかなぁ?」
愛「アタシは長いって言ってもせいぜいこの程度」
愛「でもカナちゃんはここまでくるでしょ?」
愛「纏めれば良いって言っても限度ってものがあるから」
どうにかできないこともないけど
それはそれで。なんていう愛ちゃん
手で私の髪をまとめながら、それっぽい形にして見せてくれる
少し唸って、
やっぱり……困ったように笑う
愛「カナちゃん、ゆるふわなくせっ毛でしょ?」
愛「それをまっすぐ下に下ろしてるだけだからさ」
愛「それをこんな風に纏めちゃうと……ほら」
彼方「ほら?」
愛「それなりに煽情的になる!」
彼方「えぇ……」
愛「えーなにその反応」
愛「カナちゃん、さては自分が異性の目を惹くって本気で思ってないな〜?」
愛「言っておくけど……カナちゃん、結構人気なんだからね?」 彼方「えへへ〜そうかなぁ?」
愛「だからホールには出したくないんだよー」
愛「カナちゃん、ここのっていうか……」
愛「飲食店の制服似合いすぎ」
愛「雰囲気も相極まって、堪らない人もいるって絶対!」
愛「ファンに目を付けられるね、間違いない」
愛ちゃん大絶賛な今の私
ホールスタッフ用の服に着替えて、鏡の前
愛ちゃんが言うほどかなぁ? なんて思うけれど
客観的には愛ちゃんが言うような感じなのかもしれないって思う。
愛「唾つけちゃうべきかなー?」
彼方「え〜? ダメだよ〜」 愛「女同士でもいけるって!」
彼方「こらこら〜」
愛「あはははっ、冗談冗談!」
愛ちゃんは高らかに笑いながら
私の左手を持ち上げて、手ごろなリングを薬指に嵌めた
愛「おぉ……これでちょっとトレン……トレイ持ってみて」
彼方「こう?」
愛「指輪見える感じで」
彼方「ん〜……こんな感じ?」
愛「………」
愛「……奥さん、パート大変っすね」
彼方「怒っちゃうぞ〜?」 愛「大人っぽいって意味なのにー」
彼方「そう感じられなかったのでだめで〜す」
愛「きっびし〜!」
愛「……」
愛「でも、カナちゃん大人の蠱惑感があるって言うか」
愛「えっちだよねぇ……かなえっちだけに!」
彼方「いやらしいなぁ……」
愛「あっはっはっは」
愛「ははっ」
愛「………」
愛「なんか変なのに目覚めそうだから、その目やめて欲しいかなー!」
愛「目、だけにー!」
笑ってごまかす愛ちゃん
別に睨んだりしてないし
普通にしてたはずなんだけどなぁ
見ちゃだめなら……なんて。
耳に口を近づけて……
彼方「愛ちゃんのえっち〜」
愛「っ!?」
愛「ず、っ……る!」
愛「カナちゃん……」
彼方「なぁに?」
愛「えっち、はれんち、このえっちは〜? かなえっちー!」
愛「次のライブのコール&レスポンスはこれに決定ってゆうゆに言っておくから」
彼方「それはだめ〜っ!」 ホールでの仕事は、思っていた以上に大変だった
来店してきたお客さんを座席へ案内したり
オーダー対応して、頼まれたものを運んで行ったり。
場合によっては、作ってあげたり。
レジの対応とか、お客さんが帰った後の清掃とか。
金額とかを覚えていないからレジ打ちまではさすがに出来ないけれど……
でも、それ以外だけでも十分にボリュームがあって。
彼方「はぁ……ふぅ……」
愛「カナちゃんお疲れさま〜」
愛「でも、あともうちょい頑張って!」
ぺしんっと肩を叩かれて顔を上げる
たった1日でへとへとになっちゃうホールスタッフの運動量
これが普通なのかな、それともここが特別なのかな
彼方「頑張るよ〜……」
愛「もうちょっとテンション上げて〜!」
彼方「ん〜……おぉ……」
崩れ落ちそうなのを責任感で塗り固めて、大きく胸を張って
彼方「いらっしゃいませ〜!」 彼方「ありがとうございました〜!」
最後のお客さん……ではないけど。
客入りも落ち着いてきて、ようやく一息。
愛「カナちゃんお疲れ様〜」
愛「休憩いこ、休憩」
彼方「そうだねぇ……」
愛ちゃん達と休憩に入って、他の人達と入れかわり
椅子に座って……そのまま休憩室の机に突っ伏す。
足も腰もなにも……限界ギリギリ。
彼方「はぅぅ……」
愛「あっはっはっは!」
愛「カナちゃん大丈夫〜?」
愛「今日、ウチ泊まってく?」
彼方「ううん、遥ちゃんが待ってるからねぇ……」
愛「そっかー残念……」 愛「ほんと、お疲れ様」
愛「初めての人は普通あそこまで動けないんだよー?」
愛「愛さんビックリしちゃったよ」
愛「同じくらい動こうとしてるんだもん」
ついつい頑張っちゃったって零す愛ちゃん
それにもついて来ようとするんだから。なんて……
愛ちゃんは私に向かって厚めの紙で風を送ってくれる
彼方「すずしぃ〜」
愛「研修期間なんだから、補佐程度でも良かったのに」
愛「………」
愛「カナちゃん、結構真面目だよね」 愛「……良ければ、だけどさ」
愛「いっそ、休業中のバイト辞めちゃってさ」
愛「こっちで、ずっとバイトしようよ……」
愛「あっ、いや……ごめん」
愛「それじゃ、真面目なカナちゃんは断固拒否るよね」
間違えた間違えた
そう繰り返す愛ちゃんを見ると、ちょっぴり寂しそうな表情
私はもうしばらくここでバイトさせて貰うけれど
でも、改装が終われば向こうに戻るつもりだから……かな?
学校でなら、会おうと思えば会えるのに。
愛「慣れれば、カナちゃんはあたしにも負けない戦力になってくれそうだし」
愛「お給料だって、その分弾んで貰えるだろうし」
愛「知り合いだからって忖度も何もなし、カナちゃんならここで上手くやってけるよ!」
彼方「ん〜……体力的な問題もあるからねぇ」
愛「……もんじゃとかのにおいがついちゃうけど」
彼方「あははっ」
彼方「この匂い、私は好きだよ?」
彼方「だって、ここが愛ちゃんの家なら」
彼方「それはつまり、これこそが愛ちゃんの匂いってことでしょ〜?」
愛「……そういうとこだよ……まったく」 彼方「ん〜?」
愛「そのとぼけた顔、演技だったら愛さん怒っちゃうぞ〜」
彼方「え〜?」
愛「……それで、どう?」
愛「このままここでバイトしてくれない?」
愛「正直、調理師とか栄養士の資格を取れるフードデザイン専攻のカナちゃんは」
愛「親友……って言っていい?」
彼方「言わせて〜」
愛「あははっ……ありがと」
愛「まぁ、親友の贔屓目を抜きにしてでも欲しい」
愛「栄養士や、調理師の資格持ってる調理スタッフがいるってさ」
愛「ウチみたいな飲食店では……ほら、やっぱ、信頼とか安心感とか」
愛「そういうのでめっちゃ強みになるんだよねぇ」
愛「なんでそんな資格持ってもんじゃ屋!? とかなるだろうけど……でもさ」
愛「お客様に満足して貰う上で、それ系の資格持ってる人って……かなり重要なんだよね」 彼方「なるほどね〜」
彼方「実はさ、スーパーでも似たようなこと言われたんだよねぇ」
彼方「総菜売り場ってあるでしょ?」
彼方「あれってお店の中で作ってるのもあって」
彼方「フードデザイン専攻なら、そっちに移らないかって」
愛「え……それで?」
彼方「ううん。断っちゃった」
彼方「そっちでやるには、時間が全然合わなくなっちゃうから」
落胆されちゃったけど
でも、時間が合わなくなっちゃったらバイト自体が出来なくなっちゃうから、仕方がない。
愛「それで、どう?」
愛「ウチのフードデザイン学科って一応、栄養学学んでれば栄養士資格が卒業でとれるでしょ?」
愛「それに飲食店実務を加えれば管理栄養士の資格まで取れるんだよね?」
彼方「ちょっと違うけどねぇ……」
彼方「栄養士としてバイトする必要があるから」
愛「そっか……じゃぁ厳しいかな?」
愛「ここで栄養士採用なら、大丈夫?」
彼方「ん〜……実はそこまで詳しく調べてないんだよねぇ」 愛「じゃぁさじゃぁさ!」
愛「ウチで栄養士採用できて」
愛「それで実務経験OKなら、考えてよ!」
彼方「そこまでしてくれなくてもいいんだよ〜?」
愛「いやいや!」
愛「ウチの店がが欲しいんだって!」
愛「いや……アタシが欲しいんだって!」
愛「今後、いつまでもこのお店を続けていくには」
愛「今のままじゃダメだと思ってる」
愛「古き良き。それも大事だけどさ」
愛「やっぱり改革は必要で……」
愛「でもアタシには栄養士とか向いてなかったし、もっと別のことを手につけなくちゃいけなくて」
愛「だから情報処理学科を選んじゃったんだけど……」
愛「だからこそ、ちゃんとした資格を持つことのできるカナちゃんが……」
愛「彼方先輩が欲しい!」 本当に真剣で
勢いだけじゃない思いがあって
だから……とても力強い
彼方「そっかぁ……」
彼方「うん……」
彼方「彼方先輩か〜……」
彼方「えへへ……」
いつもはカナちゃん呼びの、愛ちゃんからの本気の声
それはすっごく嬉しくて
私を信じてくれていて
私を頼ってくれていて
彼方「でも」
彼方「……本当に私で良いの?」
彼方「愛ちゃんが育ってきたこの場所が、無くなっちゃう可能性だってあるんだよ?」
愛「何もせずに失うよりも、抗いたいってあたしは思う」
愛「おばあちゃんだって……言いたくはないけど、いつまでもはいてくれない」
愛「安心させたいんだ。アタシにはこの人がいるって、一緒にこのお店を守ってくれる人がいるって」
愛「それが……カナちゃんだったとしたら、アタシは嬉しい」 彼方「………」
彼方「ふふふっ」
愛「何か変なこと言ったかなー?」
彼方「ううん、言ってない」
彼方「ただ、ただね……」
笑っちゃうのは失礼だけど
でも、これは別におかしくて笑ったわけじゃない
愛ちゃんの将来を委ねられるような
そんな大役を任せようとしてくれているからこそ……照れくさい
言っていいかな
言っちゃダメかな
そう思いながら、口は動いちゃって。
彼方「なんだか、プロポーズみたいだな〜って」
愛「えっ、あっ……あぁっ!?」
愛「ち、ちがっ……」
愛「いや、違わないけど違うって言うか!」
愛「アタシは別に……けど……あぁ……もう……」
愛「そうだよ!」
愛「そう……そう受け取って貰ったってかまわない」
愛「恋愛的な意味ではないけど……そう。出来たらあたしと……添い遂げて欲しい」 愛ちゃんはすっごく照れくさそう
でも、真剣さは変わらない
恋愛的な意味がないのはもちろんだけど
でも、大切なこの場所を一緒に守って欲しいって
彼方「そっかぁ……」
彼方「そこまで言われちゃうとね……えへへっ」
愛ちゃんが最初に左手の薬指に嵌めてくれたリング
ずっと外していたそれを、
意味ありげに、持ち上げてみせる
彼方「婚約指輪……受け取っちゃったし」
愛「渡した覚えないよ!?」
彼方「ご家族への挨拶もしちゃったし」
愛「してな……したけど!」
彼方「いいよ〜?」
彼方「愛ちゃんと、添い遂げても」
愛「え……ほんと?」 彼方「え〜」
彼方「こんな大事なことで嘘なんてつかないよ〜」
彼方「もちろん、考えるべきことはあるから……卒業してからになっちゃうけど」
彼方「ちゃんと考えて……力になれるように頑張るよ」
愛「カナちゃん……」
愛「ありがとー!」
愛ちゃんはすっごく嬉しそうに、抱き着いて来る
とっても重要な役割だから、
安易なことは言えないし
勉強だってもっと頑張らなきゃいけない
だから、まずはちゃんと学校を卒業してから
彼方「でも、それは私の気持ち」
彼方「周りを説得したり、ちゃんと……説得力のある実力をつけるのが先だからね?」
愛「ううん、それでもいい」
愛「……ありがと」
愛「アタシもこれから、もっともっと頑張るよ」
彼方「頑張りすぎて、倒れちゃだめだよ〜?」 カナちゃんにそれ言われちゃうか〜なんて
困り顔の愛ちゃん
でも、私は凄く近くで見てるから分かる
そんな時があったからこそ、分かる
彼方「おいで〜」
愛「え……?」
席を立って、
良さげな場所に座り込んで……膝を叩く
彼方「彼方ちゃんの膝、貸してあげるから」
彼方「ゆっくり休みなよ〜」
愛「……」
愛「ん……ありがと」
強がりを言わずに、愛ちゃんは私の膝を枕にして横になる 彼方「一緒に頑張ろうねぇ〜」
愛「そうだねー……」
愛「あ〜あ……どっちかが男の子だったら、結婚も出来たのになぁ」
彼方「そうだねぇ……」
彼方「私、寿退職を予定してるから、気を付けてね〜」
愛「え〜……」
彼方「嫌なら……私を惚れさせてみせてよね〜愛ちゃん」
愛「愛さんが惚れるんじゃ、ダメかな」
彼方「だ〜めっ」
冗談めかして、かわいい愛ちゃんの横髪を撫でてあげる
もうしばらくは、臨時のアルバイト
まずはそれを精一杯頑張ろう
それで――いつか。
なんて、ね
彼方「……彼方ちゃんも、ちょっとだけおやすみしよ〜っと」
まず、体力つけよう。
……なんて思いながら、目を瞑った case.9:愛とバイト 終了
ヒストリ
case1.果林 (洋服選び 5-32)
case2.璃奈 (菓子作り 45-102)
case3.歩夢 (クソゲー 118-151)
case4.菜々 (お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマス 213-264)
case6.しずく(心中演技 275-341)
case7.エマ (年末年始 358-443)
case8.かすみ(バレンタイン 457-498)
case9.愛 (一緒にバイト 510-575) 次caseは後日
残りは遥だけなので、内容安価のみ 愛さんイケメンすぎて彼方ちゃんも惚れるわこんなん
あなたは最高です! もんじゃみやしたのこれからを2人で。素晴らしすぎる…
遥まで終わったら2周目突入してくれ 貴重すぎるかなあいありがとうございます……
好きな二人だけど全然絡みあるSSなかったので嬉しい 貴重すぎるかなあいありがとうございます……
好きな二人だけど全然絡みあるSSなかったので嬉しい これが天才なんだなあ
負担になるかもしれないけど、できれば全キャラの誕生日で全カプ描いて欲しい 少ないけどそのためにお金出したいくらい 俺の推しカプss描いてほしいわ >>589
んな無理言うな…こういうのは本人が書きたいものを書くから素晴らしいものになる
お前の推しカプはお前が書くんだぞ 短編集って銘打ってるからあれだが実質彼方カプ10作分だぞ
頼まれて書くもんじゃないもんじゃ やっと追いついたぜ
「私のジャンルに神がいます」って漫画あるけど、まさに俺らの心境そのものだと思うわ
特級らっかせい氏には感謝、尊敬、信頼の念を抱かずにはいられない かなあいめちゃくちゃ良かった
俺も彼方の発言を見る前から愛さんプロポーズかな?と思いながら読んでた
愛さんが彼方を大切に想う発言も多かったし、すごくエモかった キャラクターセレクトは遥固定
>>597 内容選択(自由)
※注意事項
彼方との組み合わせ 今までのcaseを夢で追体験して脳破壊され独占欲に目覚める遥ちゃん 彼方「遥ちゃん、何してるの〜?」
遥「あっ……えっと……」
初めは、
家に帰って来た時、遥ちゃんは私のクローゼットを漁っている程度の……
ほんの些細な事だったと思う
私と遥ちゃんのクローゼットは向かい合っているから
間違えることはないはずだけど
でも、ちょっとした勘違いとか
下着が入れ替わってるとか
そういうことがあっただけだって。
遥「何でもないよ……なんでも」
遥「………」
遥「お姉ちゃん、なんか。こう……」
彼方「ん〜?」
遥「こういうお洋服、持ってなかったっけ?」
私がとても買わないようなお洋服を着たモデルさんを見せてきたり
困った顔で、そうだよね……って、呟いたり。
――片鱗はあったと思う 突拍子もない行動はそれだけでなくて
璃奈ちゃんの家はどうだとか
ゲームはどうだとか
良く分からないことまで言うようになって
遥「お姉ちゃん待って」
彼方「遥ちゃ――」
学校に行こうとした私の腕を掴んで、左手を検める
彼方「は、遥ちゃんどうしたの〜?」
彼方「なんだか、怖いよ〜……?」
遥「………」
遥「指輪は?」
彼方「指輪って?」
遥「してたよね?」
彼方「え?」
遥「侑さんから貰った、指輪」
遥「お姉ちゃん……凄く大切にしてたから、知ってるんだよ?」
彼方「え? えっ?」
彼方「な、何言ってるのか分からないよ……?」 遥「え………」
遥「あれ……?」
遥「侑さんと、付き合ってるんじゃなかったっけ……」
彼方「侑ちゃんと私が?」
付き合う?
女の子同士なのに?
いや、それを差し引いたってそんな
何の脈絡もない……
彼方「付き合ってないよ〜」
遥「そう、だったっけ……」
彼方「……遥ちゃん大丈夫?」
彼方「今日、学校休む?」
遥「ううん。だい、じょうぶ……」
遥「ごめんねっ」
遥「最近……変な夢ばっかり見ちゃって……」
カラ元気な遥ちゃん
やっぱり休んだ方が良い
そう言った私を振り切って、遥ちゃんは学校に行って。
そうして。
その日の夜――小さな家の中に悲鳴が響き渡った 遥「お姉ちゃんっお姉ちゃんっ……お姉ちゃん……っ!」
彼方「よしよし……」
夜中に悲鳴を上げて飛び起きた遥ちゃんは
驚いて目を覚ましちゃった私に飛びついてきて
生きてるよね、死んでないよね。
なんて……なんだか怖いことを言いながら泣き出しちゃって。
彼方「大丈夫だよ〜……大丈夫……」
頭を撫でながら、優しく声をかけてあげて
寝付くまで一緒にいてあげる
彼方「今日は一緒に寝ようね〜」
遥「うん……」
遥「うんっ……お姉ちゃんと一緒にいる……」
抱き着いて来るお姉ちゃんは可愛いけど
でも、ちょっぴり。
嫌な予感がした >>601 最後から三行目修正
遥「お姉ちゃんっお姉ちゃんっ……お姉ちゃん……っ!」
彼方「よしよし……」
夜中に悲鳴を上げて飛び起きた遥ちゃんは
驚いて目を覚ましちゃった私に飛びついてきて
生きてるよね、死んでないよね。
なんて……なんだか怖いことを言いながら泣き出しちゃって。
彼方「大丈夫だよ〜……大丈夫……」
頭を撫でながら、優しく声をかけてあげて
寝付くまで一緒にいてあげる
彼方「今日は一緒に寝ようね〜」
遥「うん……」
遥「うんっ……お姉ちゃんと一緒にいる……」
抱き着いて来る遥ちゃんは可愛いけど
でも、ちょっぴり。
嫌な予感がした ――――――
―――
お昼休みになると、
スマホの振動が途切れては震え、途切れては震える
電話の相手はいわずもがなって言っちゃうとあれだけど……遥ちゃん
彼方「おぉぅ……」
家を出るときは手を握るどころか腕を組んできて
ギリギリまで私と一緒の道を歩いて……別れてからは、電話
授業の合間合間を狙い撃ちしたかのように連絡を送ってきて
お昼休みには、また電話
彼方「……もしもし?」
遥『よかった! も〜心配させないでよ!』
遥『あと少しでも遅かったら、そっち行こうと思ってたんだからね?』
彼方「遥ちゃん……ほんと」
彼方「彼方ちゃんは全然、平気だから」
彼方「夢占いだって、吉――」
遥『そんなの信じられないよ……』
遥『信じられない……無理……』
遥『やだ……お姉ちゃんがいなくなっちゃうなんて……嫌だよ……』 ラストとして最高のネタだな
遥ちゃんがこんなん見せられたらそりゃ脳が破壊されますね 彼方「遥ちゃん……」
遥ちゃんは、私が死ぬ夢を見た
ううん、ただ死ぬ夢ならよかったって言えるくらいに酷い夢だった
私と、しずくちゃんが一緒に
そう、心中してしまう夢を見たらしい。
だから気が気じゃない
遥『もしかして近くにしずくさんがいるの?』
彼方「いないよ〜」
遥『……ほんと?』
彼方「ほんとだよ〜」
遥『………』
遥『じゃぁ、スピーカーにして』
彼方「ここで……?」
教室だから、別に聞かれたら困るようなことは何もない。
電話相手がちょっと鬼気迫ってるというのが周りに知られかねないのを除けばだけど
遥『出来ない? させて貰えない?』
遥『なら、今すぐそっちに行くから』
彼方「分かった! 分かったからっ!」 仕方がなくスピーカーモードに切り替えると
あっという間に周囲の声が流れ込んでいく……と思う。
昼休み特有の雑談ばかりの音を、遥ちゃんはどう思ってるんだろう?
彼方「しずくちゃんはいないよ〜?」
遥『黙ってるだけかもしれない』
彼方「え〜?」
遥『……本当にいないよね?』
彼方「いないよ。大丈夫」
遥『そっか……』
信じていいんだよね?
遥ちゃんの口から零れる不安に
私は「大丈夫」としか返してあげられない
遥『信じる、からね』
遥『お姉ちゃんはいなくならないって』 遥ちゃんは明らかに普通じゃない
今までも、くっついてきてくれることは当たり前だったけど
ここまで……なんていうんだろう
ここまで強いのはおかしいもんね……
変な夢を見ちゃったのが原因だって言うのは、分かってるけど。
遥『……お姉ちゃん、私とずっと一緒にいてくれるよね?』
彼方「うん、もちろんだよ〜」
遥『先にいなくなっちゃったり』
遥『私の知らない、どこかに行っちゃったり』
遥『そんなこと……しないよね?』
彼方「う、うん……」
遥『……お姉ちゃんが一番好きなのは私だよね?』
遥『だから、一人にしたりしないよね?』
彼方「当然だよ〜……置いていけないよ」
今の遥ちゃんを一人にするなんて
見て見ぬふりするなんて……そんなこと、絶対に出来ないよ 彼方「電話切るよ〜?」
遥『どうして? しずくさんと約束があるの?』
遥『それとも侑さん?』
彼方「違うよ〜」
遥『……やっぱり、心配』
遥『そっち行こうかな』
彼方「学校があるんだからダメだってば〜」
遥『転校する』
彼方「こらこら……」
遥『じゃぁ、お姉ちゃんがこっちに来て』
遥ちゃんの声は、震えているようにも感じられて
強く突き放すなんて当然だけど出来るわけもない
彼方「今は電話で我慢しようよ」
電話料金……上がっちゃうのに……
なんとか、出来ないかなぁ ――――――
―――
遥「お姉ちゃん、帰るの?」
彼方「えっ」
同好会には休む連絡を入れて、
早く遥ちゃんのところに行こうと思った矢先
校門の前に立ち尽くしていた遥ちゃんに見つかっちゃって……
彼方「遥ちゃんのところに行こうと思って」
遥「……ほんとうに?」
遥「私、何も聞いてない」
遥「今日はバイトもないし、同好会の練習をする予定……だったよね?」
遥「なのに同好会を休んでどこかに行くの?」
遥「本当に、私のところにきてくれようとしたの?」
雰囲気が怖い遥ちゃん
私が何を言っても無駄そうな感じで、でも……私は胸を張って答えておく
だって、嘘じゃないから。
彼方「そうだよ。遥ちゃんのところに行こうとした」 遥「………」
遥「お姉ちゃんがそう言うなら……」
遥ちゃんは訝し気な表情を見せたけれど
すぐに笑って、雰囲気をがらりと切り替える
いつもの可愛い遥ちゃん
遥「……私、スクールアイドル辞めた」
彼方「そっか……」
彼方「……ん」
彼方「えっ!?」
遥「本当は学校もやめようと思ったけど……それはさすがに行き過ぎてるかなって思って」
とんでもないことを口走りながら
でも、いつも通りの愛らしさで
遥ちゃんにとってはとるに足らないことのように、笑っていて。
彼方「な、ななななな何言ってるのかな!?」
遥「何って……学校もやめて良かった?」
彼方「違うよっ!」
彼方「スクールアイドル……なんで……」
遥「だって……その分お姉ちゃんから離れることになっちゃうから……」
遥「その隙に何かあったら……私、耐えられないもん」 彼方「ただの」
彼方「ただの夢だよ……っ」
遥「お姉ちゃんは知らないから!」
彼方「っ……」
遥「あんなの、夢じゃないよ……」
遥「はっきり、覚えてるんだよ?」
遥「お姉ちゃんが侑さんと付き合って、私よりもそっちを優先していくようになっちゃったり」
遥「お姉ちゃんがだんだんと様子がおかしくなって」
遥「しずくちゃんには私がいなきゃダメなの。なんて言いながら……どんどん、壊れていって」
遥「それで、それで……最後には虹ヶ咲の校舎内で二人で自殺しちゃうの」
遥「冷たくなったお姉ちゃんの手、固くなったお姉ちゃんの身体」
遥「二度と開かない目と口」
遥「全部はっきり覚えてる! 今も、この手に感じるの……」
遥「怖い」
遥「怖いよ……嫌だよ……お姉ちゃん……っ……」
遥「私を置いていかないでよっ!」
遥「お願い……」
遥「お願いだから……」
遥「私を一人にしないで……」 エマ編は遥ちゃんも癒される内容だからなんとかそこまで耐えてくれ 放課後の校門前
この時間の校内では最も人の目がある場所で、号泣する遥ちゃん
縋りつかれる、私。
彼方「遥ちゃん……」
人目なんて気にしていない
遥ちゃんはそんな余裕なんてない
だって、一度は止めようとして
でも、私と一緒に続けていくと決めたスクールアイドルをこんなにもあっさり辞めちゃうんだから
遥「やだ……」
彼方「大丈夫だから」
彼方「遥ちゃんを置いてどこかに行くなんて絶対にありえないよ〜」
彼方「信じて?」
彼方「ね?」
遥ちゃんを抱きしめて、頭を撫でてあげる
周りの人たちが「修羅場」とか「禁断」とか
何か色々言ってるけれど……気にしてられない。
そんなことで恥じらって遥ちゃんを突き離したりしたら……本当に終わっちゃう気がして。 遥「約束だからね……」
彼方「うん」
遥「腕組んでていい?」
彼方「仕方がないなぁ……」
遥「今日一緒に寝てくれる?」
彼方「いいよ〜」
遥「明日も、明後日も……ずっと一緒にいてくれる?」
彼方「う〜ん……バイトがあるんだけど……」
遥「なら私も一緒にバイトする!」
遥「それが駄目なら、ずっと見てる」
遥ちゃんは全部本気
私が駄目だって言わないとバイトをするだろうし
それならそれでどこかから私を見つめてる 怖いけど、でも、本気
今日の夜また違う夢を見たら、この態度は変わるのかな
きっと……悪化しちゃう
彼方「……見てて良いよ」
スクールアイドル、やめた方が良いかな……
それで、バイトの時間早くして
遥ちゃんが遅くならないように……でも……
遥「お姉ちゃんとずっと一緒にいる」
彼方「も〜甘えん坊だなぁ」
遥「……嫌?」
彼方「そんなことないよ〜」
彼方「彼方ちゃんだって、遥ちゃんがいつか離れていっちゃうんじゃないかってドキドキだったからねぇ」
恋人が出来たり、
進学したり
結婚したり
何かがあっていつかは別れていくものだから
でもまさか、こんなことになるなんて思わなかった 遥「どこにもいかないよ」
遥「私、お姉ちゃんとずっと一緒にいる」
遥「……お姉ちゃんも、東雲に来てくれたらよかったのに」
遥「そうしたら、こんな不安になることもなかったのに」
違うかな
そう零した遥ちゃんはもっと強く私の腕にしがみ付いて来る
絶対に離さない
絶対に離れない
そんな意思を感じる遥ちゃんの力
遥「私がもっと勉強頑張って、虹ヶ咲に入学したらよかったんだよね」
遥「奨学金貰えるくらい」
彼方「そんなこと気にしなくていいのに〜」
遥「ううん。私が一緒に居たいの……居たかったの」
遥「だって……」
遥「今日一日……連絡が遅いだけで、電話に出てくれないだけで」
遥「死にそうなくらい、不安になって怖くて……気が気じゃなかった」
遥「転入はもう遅いから……私、就職も進学も。お姉ちゃんと一緒の場所にするね」
遥「二度と……間違えたりしないよ」 心中のときといい、壊れかけの人間の書き方がすごいすき
更新楽しみです 彼方「間違えてないよ……」
彼方「真剣に悩んで、相談して、考えて……それで決めたことなのに」
彼方「間違えたなんて、言っちゃだめだよ……」
遥「ううん、それだけ悩んでも間違えることだってあるんだよ」
遥「……お姉ちゃんのことが大事なら、死ぬ気で勉強してでも虹ヶ咲学園を選ぶべきだった」
遥「私は、逃げちゃったんだ」
過去を悔やみ、自分を憎み、
恨み言のように遥ちゃんは言葉を噛みしめる
そんな必要なんてないのに
そんなはずがないのに……なのに。
彼方「遥ちゃんのことを悪く言うのは、遥ちゃん自身だとしても許さないよ〜」
遥「………」
遥「じゃぁ……お姉ちゃんは私が傍に居ない方が良かったんだ」
遥「その方が嬉しいんだ……」
彼方「ち、ちがっ」
遥「やっぱり……私を置いていくつもりなんだ」
彼方「違うよっ……違うから」
彼方「ね……? 本当に、違うから……」 遥「だったらどうして、悪く言うのは許さないなんて言うの?」
遥「どっちの方が一緒にいられるのか考えたら」
遥「前の私が間違ってたのは明白だよね……」
遥「なのに、それを咎めちゃいけないって言うってことは」
遥「お姉ちゃんは一緒に居たい私が間違ってて、一緒にいられなくなった私が正しいって思ってるってことだよね?」
彼方「痛っ……」
遥ちゃんの腕を組む力が強くなって
組み敷かれているかのような感覚に、痛みが走る
足は止まって、俯きがちな遥ちゃんの見えない口から聞こえる声
怖い……
この遥ちゃんは、怖い
彼方「痛い……痛いよ、遥ちゃん……」
遥「私は、もっと痛かったよ」
遥「お姉ちゃんと会えない時間、話せない時間」
遥「連絡を返してくれるまでの時間、電話に出てくれるまでの時間」
彼方「痛っ……痛いってば……」
遥「ずっと……死にそうなくらい辛かったって、言ったよね?」
遥「その痛さは、腕を掴まれる程度じゃすまなかったよ……?」 遥「それなのに……お姉ちゃんは」
遥「痛いって……振り払うの?」
彼方「っ……」
彼方「振り払うわけ……ないよ〜……」
遥「なら、前の私は間違ってたよね?」
遥「今の私が正しいよね?」
遥「ねぇ……そうだよね?」
下から覗く遥ちゃんの瞳
心の奥底まで見ぬことしているそれは恐ろしくて
どうしても口が震えちゃって……声が出ない
すぐに答えなきゃいけないのに
はっきりしておかないといけないのに
あんなに悩んで、考えて
自分から東雲学院にすると言った遥ちゃんの笑顔を……否定したくないのに
否定しなければいけない逼迫感に湧きたつ心が、
タイムリミットのように細められる遥ちゃんの目を直視させてくれない
彼方「う……うん……」
遥「………」
遥「えへへっ、そうだよね」 遥ちゃんは怖い笑顔を浮かべながら、
握りつぶそうとしているみたいな力を緩めていって
そうして――
遥「しずくさんと一緒にいなかったっていうのは、嘘じゃないよね?」
彼方「え?」
遥「………」
遥「バイト先に、男の人いないよね?」
彼方「普通に居るけど……大丈夫」
彼方「誰にもそんな気ないよ〜」
遥「そうだと良いね」
遥ちゃんは少し冷たく言い返してくる
なんだか、変な感じ
距離は遠くなっていないのに
ちょっぴり離れちゃったかのような……
彼方「わた――」
遥「絶対に、離さないからね」
その笑顔は……目を閉じてもずっと、私を見てる感じがした 遥「あ、そうだ……」
遥「お姉ちゃん、スマホ出して」
彼方「えっと……何するの?」
遥「しずくさん達と何かやり取りしてないか確認しておきたくて」
彼方「してないよ!?」
彼方「練習の件でやり取りはしてるけど、でも、そんな……」
遥「なら、出してくれるよね?」
それなら大丈夫なんて遥ちゃんは言わない
ただ、それがあたりまえだと思っているかのように笑顔で、私に手を出してくる
スマホを出してって
今すぐ、渡してって
彼方「……信じてよ」
遥「えー?」
遥「信じてるから、お姉ちゃんが学校に行くのを止めてないんだよ?」
遥「疑ってたら、お姉ちゃんを学校とかバイトに行かせるわけないよ」
遥「も〜何言ってるんだか〜」 彼方「遥ちゃん、それは……」
遥ちゃんは、笑顔
それがどれだけのことかなんて、まるで思ってない
冗談のような口ぶりで、本気
内包している狂気が……今にも爆発しそうな感じがする
彼方「私を、家に閉じ込めるってこと?」
遥「閉じ込めるんじゃないよ」
遥「守るんだよ」
遥「だって、車が走ってて、人が歩いてて、どこかでは工事が行われてて」
遥「お姉ちゃんがいなくなっちゃう可能性が無限にある」
遥「そんな場所にお姉ちゃんを出しておくことが怖くて不安」
遥「だから……守っておこうかなって考えもあるんだ」
照れくさそうに笑う遥ちゃん
でも、その言葉は……
遥「けど、お姉ちゃんは外に出たい理由があって出るべき理由があって」
遥「だから、出ててもいいかなって思ってる」
遥「……なのに、お姉ちゃんが隠し事するなら」
遥「私に嘘をつくなら」
遥「もう……ずっと家にいて貰わなくちゃいけなくなっちゃう」
遥「それは、私もお姉ちゃんも幸せになれない。よね?」 彼方「………」
私を監禁しなくて済むようにしたいから……なんて、想いの込められた悲しそうな笑顔
おかしい
遥ちゃんが言っていることは普通じゃない
だけど、それを指摘したらダメな気がする
間違いなく幸せになれない
私を監禁して、それで守れるかもしれないけれど
でも首輪のついた私は、きっと遥ちゃんの好きな私じゃない
だから、遥ちゃんでさえも幸せにならない
彼方「そうだねぇ……幸せになんて、なれないと思う」
遥「だから、スマホ出して」
彼方「………」
彼方「……分かった。良いよ〜好きなだけ見て」
ポケットから出して、そのまま遥ちゃんに渡す
暗証番号は言うまでもなく解除されちゃったのは……もう言っても仕方がない 遥ちゃんは一通り操作をして、
普通のメールや、アプリのメッセージ、電話の履歴
何もかもを全部漁る遥ちゃん
そのまま自分の鞄の中に私のスマホをしまい込む
彼方「あっ……えぇっと……返しては、くれないの〜?」
遥「私が傍にいるのに、必要なの?」
彼方「あ〜……うん、要らないかもね〜」
彼方「充電して貰えれば、うん……」
遥「だよね」
遥「……学校も学年も違うから、無いとダメだけど」
遥「双子だったら、こんなの要らなかったのかな?」
彼方「どうかな〜……」
遥「以心伝心、第六感で感じ取れちゃったりするのかなぁ」
遥「えへへっ、私とお姉ちゃんも感覚共有みたいなの。出来たらよかったのにねっ」
彼方「そ、そうだねぇ……」
楽しそうに話す遥ちゃんは今までのようで……数秒前の不気味さとの違いに悪寒が走る ――――――
―――
彼方「えっと、遥ちゃん……どういうつもりなのかな……」
その夜、
もうそろそろ寝ようかと言うときに、遥ちゃんはとんでもないものを取り出してきて
私は思わず……不満を口にしちゃって。
遥「だって、何があるか分からないから」
彼方「家の中だよ?」
遥「うん」
彼方「安全、だよね?」
遥「寝てる間に電話したりメールしたりメッセージ送ったりするかもしれないから」
彼方「……そっか」
遥「お姉ちゃんからしないって信じてるけど……向こうから来たら優しいお姉ちゃんは反応しちゃうだろうから」
遥「そのための保険だよ」
遥ちゃんは凄く可愛い笑顔を浮かべながら、
私と遥ちゃんの右足と左足をそれぞれ一つの玩具……だと思いたい手錠で繋いで
それを右手と左手にも同じようにつける
トイレはどうするのかなんて言っても……一緒に行けばいいというだけで。
遥「起こしていいからね? もし万が一漏らしちゃっても……お姉ちゃんのなら別に濡れてもいいから気にしないよ」
彼方「それは気にして……」
遥「海水浴だって、ある意味海洋生物の糞尿に塗れてるものだし」
遥「お姉ちゃんを殺される不快感に比べたら、なんでもないよ」 彼方「そっかぁ……」
彼方「わかった」
彼方「……じゃぁ、遥ちゃんのこと抱きしめて寝て良い?」
遥「良いよっ」
遥「息苦しくない程度なら、ぎゅーってして良いからね〜」
彼方「えへへ〜やったぁ〜」
嬉しそうな遥ちゃんの頭を撫でて
そうっと……優しく抱きしめてあげる
二段ベッドの下
一人分の小さなスペースに二人の身体
多少の窮屈さはあるけど、抱きしめてればそれもだいぶ緩和されて
遥「お姉ちゃんの匂いがする」
彼方「彼方ちゃんのベッドだからねぇ」
遥「良い夢見れそうな気がする……」
彼方「うん……見られるようにお姉ちゃんが包み込んでいてあげるよ〜」
本当に。
本当にお願いだから……いい夢を見させてあげてください。
そう、祈りながら遥ちゃんをもうちょっとだけ強く抱きしめる
私ならいくらでも悪夢を見させてくれてもいいから……だから、遥ちゃんはいい夢が見られますように
どうか、お願いします…… 暫くして、遥ちゃんの寝息が聞こえるようになってきて……一息
ゆっくりと力を抜いて、息苦しさを出来るだけ軽減していく
今のところはうなされてる様子もなくて、すやすや。
手と足に感じる拘束感がなければ普通なのに……
彼方「……そのまま、言い夢見てね」
それで遥ちゃんが戻ってくれるとは思えない
眠ってから起きるまでのほんの数時間
それが、遥ちゃんにとっての何日間だったのかまでは分からないけれど
世界が分からなくなるくらいには強烈で、リアリティがあったんだと思う。
今いる世界が " もしも心中する世界だったら " 遥ちゃんの怖い思考回路の原因はそれ一つ
いや、私が侑ちゃん達にうつつを抜かしちゃうかもしれないって言うのもあるみたいだけど
大半はそれに限られてる
このままいけば……私は。
彼方「スクールアイドル、やめるべきか相談しようと思ったのになぁ……」
取られちゃったスマホ
充電してるよ〜という光は遠くに見える
彼方「明日、かな……」
遥ちゃんのためなら、スクールアイドルを止めてもいい
それで遥ちゃんが安心できるなら
これ以上、壊れずにいてくれるのなら……楽しいことの一つや二つ。私は止められる
彼方「だから大丈夫だよ〜……心配なんて、しなくていいからねぇ……」
だって私は、遥ちゃんが宇宙一……大好きなんだから だから、遥ちゃんが信じてくれていないことが辛い
遥ちゃんは信じてるからこそなんて言うけれど
もっと信じて欲しい
侑ちゃん達に靡いたりなんてしないって
しずくちゃんと心中なんてしないって
遥ちゃんを悲しませるようないなくなり方なんて絶対にしないって
私にとっての一番は遥ちゃんなんだって
彼方「……っ」
手枷足枷、スマホのチェックと没収
ひっきりなしの連絡
そこまでしなくていいって……
でも、
遥ちゃんがそうしないとダメなんだって言うなら、受け入れよう
今日みたいな反応は駄目だよね
怖がったり迷ったり躊躇ったり
その一つ一つが遥ちゃんを不安にさせちゃうんだよね
彼方「………」
私が我慢していれば
私が頑張っていれば……それで、良いんだよね?
大丈夫、遥ちゃんのためなら頑張れるっ
だから……泣いちゃだめだよ。
彼方ちゃん。 ――――――
―――
幸いにも、お漏らしをするなんて悲劇もなく目を覚ました私
遥ちゃんも大丈夫だったみたいで
抱き合うようにしていた体の密着感から生まれた暑さに滲んだ汗の細やかな不快感だけが感じられる
遥「……あれ」
辺りを見渡す遥ちゃん
何かを探して……手錠をしてるのを忘れちゃってたのか
そのまま力強く引っ張られて――
彼方「わぁっ!?」
遥「あっ……」
遥ちゃんを押し倒しちゃった私を遥ちゃんは見つめて、はっとする
二人の手を繋ぐ手錠、足を繋ぐ手錠
私の後ろに見える、二段目の裏側
寝ぼけ眼ははっきりとして……悲しそうにしぼむ
遥「そっか……また夢だったんだ」
彼方「今度はどんな夢を見たの?」
遥「年末に、エマさんが泊まりに来るの」
遥「ほんの数日だけど……一緒に暮らして」
遥「本当の姉妹みたいに楽しくて……それで……」
遥「それからエマさんと仲良くなって……それで……それでね……」
遥「エマさんは向こうに帰っても……年末には会いに来てくれる……そんな、ありふれた夢」 年末には、エマちゃんが会いに来てくれると言った
年末に数日暮らした後の年末
つまりは少なくとも一年後
彼方「遥ちゃん……それ、その夢……」
彼方「何年間、その夢を見てたの?」
遥「えっと……どう、だろ」
遥「5年……くらいだったかな……」
遥「えへへ……お姉ちゃんは死なないし、どこにもいかないし」
遥「幸せ……だったのになぁ……」
遥ちゃんは突然、涙をためて、流して
遥「戻りたいよ……」
彼方「……いい夢だったんだねぇ」
戻りたい、帰りたい
寝なければよかった
そう零す遥ちゃんは……本当に、辛そうで
遥「もうやだ……」
遥「お姉ちゃんがいなくなっちゃうかもしれない世界なんて……やだよぉ……」
手錠で繋がっているせいで離れてあげることも出来なくて
ただ、傍にいてあげることしか出来ない 彼方「行かないよ……」
彼方「どこにも行ったりなんてしないよ」
彼方「大丈夫……私の一番は、遥ちゃんだから」
遥ちゃんに負担がないように気を付けながら
ゆっくりと体を降ろして、小さく震える体を抱きしめてあげる
私がいつか死ぬのなんて、
世界的には些細なことだし、それこそ当たり前のことだけど
でも、それは " きっと大丈夫 " なんていう
ある意味、現実逃避的なものによって私たちの頭の中から外れている
それが、遥ちゃんにはない
私としずくちゃんが心中する夢を見て、それを体感して
身に染みたリアリティに……均衡を崩されちゃったから
だから、無事に卒業してなおも平穏無事に数年を生きられた夢は
遥ちゃんにとってはこれ以上ないほどに幸せな夢だったと思う。 彼方「大丈夫、大丈夫だからね〜……」
遥「うぅ……」
彼方「遥ちゃん……」
口でなんて言ったって、遥ちゃんは信じ切れない
私達なら無視することもできるような
もしかしたら。
そんな細やかな可能性が恐ろしくて……どうにもならない
遥「お姉ちゃん……」
遥「どこにもいかないで」
遥「このままずっと、一緒にいて……」
彼方「うん、いるよ……」
遥「学校にも行かないで」
彼方「それは……」
欠席や成績の低迷は奨学金に響く
だから……
彼方「奨学金、ダメになるわけにはいかないよ……」
遥「……じゃぁ、鍵は渡さない」
彼方「これから大変になっちゃうよ?」
遥「お姉ちゃんが傍にいてくれるなら……海に沈められたって良いよ」
彼方「怖いこと言うなぁ……」 彼方「なら、せめて欠席の連絡させて……ね?」
彼方「色々問題はあるけど」
彼方「ちゃんと連絡したら……まだ、取り返しはつくから」
彼方「それくらいなら、良いでしょ〜?」
奨学金のことを言っても
遥ちゃんが私を放してくれないのなら……もう駄目。
遥ちゃんは放っておけない
ここで置いていったら……ダメになっちゃう
だから……仕方がない
遥「学校の連絡だけだからね?」
彼方「同好会に連絡しちゃダメかな〜?」
彼方「みんなにも連絡しないと、心配してきちゃうよ〜?」
遥「……」
遥「……連絡は、私がする」
彼方「はいはい」
彼方「じゃぁ、これ外して〜」
遥「ダメ……このまま」
彼方「お風呂に入ったりしたいんだけどなぁ」
遥「今度から、裸で寝ないとだね」
彼方「そういうことじゃないかな〜……」
結局、手錠はお風呂に入るときだけしか外して貰えなかった なんだかんだずっと幸せなお話が続いてただけにつらいな…
先が気になる 幸せな9本の後、最後に重いお話は少し辛いけど面白い 彼方「遥ちゃん、やっぱり足のくらい外さない?」
遥「だめ」
彼方「お料理だって作りにくいし、トイレだって……」
手だけならともかく
足も手錠で繋がっているせいで、その時だけ部屋の外にいてなんて言えない
一人がしている間、
もう一人は目の前で立って見下ろしてるなんて酷い光景
遥ちゃんは別にそんなこと気にしないって言うけど
私は気にするんだよねぇ……
彼方「……お母さんに見つかったら大変な事になっちゃうよ〜?」
遥「お母さんに見られないようにしたらいいだけだよ」
それはそうなんだけどね〜……
もしも万が一、急遽忘れ物とかで帰ってきたりしたら
見られることを避けることはできない
それ、ちゃんと分ってるのかなぁ? 彼方「お見舞いに行って良いですか? だって〜」
遥「ダメだよ」
彼方「……だよねぇ」
朝の欠席連絡への侑ちゃんからの返事
誰か一人でもお見舞いに……なんてグループのメッセージに載っていて
すでに私を含めてみんなが確認したマークがついていた
欠席理由は体調不良
学校を休む理由つまりは、同好会を休む理由だから。
風邪か、熱か、それともまた別の何かか。
遥「風邪うつしたら悪いから、来ないでって」
彼方「……それでも来ちゃったら、追い返す?」
遥「うん、もちろん……」
遥「あ、でも……」
遥「エマさんなら、別に良いよ」
彼方「そう連絡していい?」
遥「ダメ」 今の時点でこれってかすみと愛さんの見たらもう死んじゃうんだぜ >>658
二人ともこれからも一緒って感じだし、ほの甘いからこそダメージはでかいかもしれん エマちゃんとの夢は幸せだった
だから、エマちゃんなら私と一緒にいても良いって思ってる
エマちゃんと私が一緒にいた夢でなら私は死ぬことなく、遥ちゃんの傍を離れなかったから
それと同じような流れにしようとしてる
でも、それを故意に発生させても運命的な流れとはいえない
偶然じゃないといけない
でも
彼方「エマちゃんは私が連れてきたんだよね?」
彼方「だったら、私が連絡してもいいんじゃないかな〜?」
遥「ううん、今のお姉ちゃんは駄目」
遥「お姉ちゃんは、事情を知ってるから」
遥「ダメ」
彼方「そっか」
彼方「難しいねぇ……」 彼方「………」
彼方「……そうだ」
彼方「もう一つ、みんなに連絡したいことがあるんだけど、良いかなぁ?」
遥「なに?」
彼方「スクールアイドル、やめようかなって」
本当は遥ちゃんに聞かせないようにしようと思ってたけれど
こんな状態じゃ相談もままならないし
遥ちゃんは、私がいきなり何かをすると疑いだしちゃう傾向にあるから
遥「なんで?」
遥「お姉ちゃん……スクールアイドルやりたいんじゃなかったの?」
意外にも、遥ちゃんは即断せずに困った顔
辞めて欲しいって思ってると思ってたのに
彼方「遥ちゃん、すっごく心配してるから〜」
彼方「どうせ、もう半年もなく卒業するし……やめてもいいかなぁ〜って」
遥「……ごめんね」
彼方「遥ちゃんが謝ることじゃないよ〜」
遥「ううん」
遥「お姉ちゃんが辞めてくれるのが嬉しいって思っちゃってるから……ごめんねって……」 彼方「……良いよ」
辛くて苦しい
けれど、遥ちゃん自身にもどうにもならない不安
私が死んじゃうこと
私が傍からいなくなっちゃうこと
その恐怖
遥「ごめんね……」
それを払拭できるのなら
私が楽しめていたことの一つを奪うことになってもいい。
そう考える遥ちゃんと、
それは駄目だと考える遥ちゃんのぶつかり合いで今にも泣きだしそう。
彼方「良いよ〜」
彼方「私にとっての一番は、遥ちゃんだもん……」
本当はやめたくないよ
もっと続けていたいし、ライブだってやりたいよ
でも、私のその我儘が遥ちゃんを苦しめるのだとしたら
そんなことはできない
彼方「学校もバイトも辞められることじゃない」
彼方「けど、部活は……同好会なら……私の人生で必須科目じゃないから。なくてもいい」
彼方「だから、良いんだよ〜……そんな、悲しそうな顔しなくても」 遥「ごめんねお姉ちゃん」
遥「ありがと……」
泣き出しちゃった遥ちゃんの目元を拭ってあげる
隣り合って、肩をくっつけて
腕を絡めながら、手まで握っちゃって
彼方「遥ちゃん、分かってる〜?」
彼方「彼方ちゃんと遥ちゃんは、女の子だし姉妹」
彼方「いつか別々の人と結婚して、別の家に住むようになるんだよ〜?」
結婚できるかどうかは別の話として
いつかそうなるのが、普通
遥「させないから……そんなこと」
彼方「ん……」
肌がびりびりするような遥ちゃんの雰囲気
目を向けると、涙はすっかり引っ込んでいて……瞳の光は影って見える
遥「お姉ちゃんはずっと私のお姉ちゃんだから」
遥「ずっと……私のだから……」
遥「……入れ墨、入れる?」
彼方「え〜……遥ちゃんと温泉行けなくなっちゃうから、ダメ」
遥「そっか、そうだよね……」
遥「えへへっ」 彼方「……遥ちゃんも、スクールアイドル辞めちゃったんでしょ?」
遥「昨日からずっと、考え直してって連絡たくさん来てるけどね」
彼方「考え直してもいいんだよ〜?」
遥「お姉ちゃんより大切な事じゃないから」
遥ちゃんはスクールアイドルになれるのを凄く楽しみにしてた
スクールアイドルとして頑張って、いきなりセンターに選ばれたりだってしてた
それを、
私よりも大切じゃないって理由だけであっさりと切り捨てる
遥「お姉ちゃんがずっと傍にいてくれるって安心できるまでは……必要ないことはやめる」
彼方「安心していいよ〜」
遥「だめ」
遥「最低限、お姉ちゃんが高校卒業するまでは安心できない」
彼方「先は長いなぁ……」
彼方「じゃぁ、まずはその第一歩」
同好会みんなが見るメッセージに、
退部? 退会の連絡を簡潔に書き込んで……
遥「……本当に良いの?」
彼方「いいよ〜……もう、決めたことだから」
ちょっぴり躊躇いながら――送信 ――――――
―――
私の退会連絡に驚いたみんなからの電話、メール、メッセージ
不在着信は瞬く間にたまっていくけれど
風邪という言い訳もあって出るわけにもいかないから、メッセージで返す
正式な届は後日出すこと
ちゃんと考えて決めたことだってこと
理由は……これからのことを考えて
勉強や部活に時間を割く必要があるなんて、それなりの理由
遥「……凄い、引き留めてくるね」
彼方「それはまぁ……」
遥「ねぇ」
彼方「ん?」
遥「どうして……グループじゃなくて個別で送ってくる人がいるのかな?」
彼方「それを聞かれても……」
遥「……個別の方、返さなくていいからね?」
彼方「う、うん……」 勉強や部活に時間を割く必要、って部活はもう辞めるのでは? >>665修正 上から7行目
――――――
―――
私の退会連絡に驚いたみんなからの電話、メール、メッセージ
不在着信は瞬く間にたまっていくけれど
風邪という言い訳もあって出るわけにもいかないから、メッセージで返す
正式な届は後日出すこと
ちゃんと考えて決めたことだってこと
理由は……これからのことを考えて
勉強やバイトに時間を割く必要があるなんて、それなりの理由
遥「……凄い、引き留めてくるね」
彼方「それはまぁ……」
遥「ねぇ」
彼方「ん?」
遥「どうして……グループじゃなくて個別で送ってくる人がいるのかな?」
彼方「それを聞かれても……」
遥「……個別の方、返さなくていいからね?」
彼方「う、うん……」 遥「同好会辞めるなら、もう連絡用のグループ入ってる必要ないよね?」
彼方「ま、待って待って」
彼方「まだみんな混乱してるから連絡たくさんしてくると思う」
彼方「それなのに、私が一方的にこの連絡グループから抜けたり削除したりしたら余計困っちゃうよ〜?」
そうなったら、みんなは何が何でも連絡を取ろうとしてくる
電話も、メールもしてくる
家にだって押しかけてくるかもしれない
そのすべてを突っ撥ねるのなんて、今までの私にはありえないことだ
それでも遥ちゃんは接点を絶たせようとするだろうけど
それが違和感を産んで……余計に拗らせる
彼方「ここはしばらく残しておいて……」
彼方「ほとぼりが冷めてから、削除するって形にしよう……」
彼方「ね?」 遥ちゃんに匹敵しないとしても、
私にとって、同好会のみんなは大切仲間で友達だった
そのみんなと絶交するなんて……正直に言えば、嫌だ
だけど遥ちゃんはそれを望んでいる
望んでいるから、受け入れる
今の遥ちゃんの心は酷く脆い
風が吹けば崩れ去りそうなほどに。
だから。
私の繋がりが遥ちゃんただ一人じゃなければ不安で怖くて、死にそうだという遥ちゃんの為に
私は、断ち切らないといけない
バカみたいだって思われるかもしれないけど
でも、光の消えた遥ちゃんの目なんて見たくない
何をしでかすか分からないほどに歪んだ遥ちゃんなんて、嫌だから。
遥「……分かった」
彼方「ありがと〜」
遥「ううん、ごめんなさい」 自分がおかしいことを言ってるってことも
意味の分からないことを求めてしまっているということも
全部、遥ちゃんは分かっている
分かっているけれど、止められずにいる
だからこその ” ごめんなさい " は、すぐには消えない
彼方「も〜……仕方がないよ」
遥ちゃんは突然、夢を見た
それに脅かされて、魘されて
飛び起きることも、泣き叫ぶこともあった
これは多分、病気だ
精神的な病気
だから、遥ちゃんは悪くない
そして私は
そんな遥ちゃんの傷ついた心が砕けてしまわないように
お願いを受け入れて、叶えて、尽くしてあげる
彼方「二人の時間が増えるんだよ〜?」
彼方「喜んで欲しいな〜」
遥「ありがと……お姉ちゃん……」
彼方「………」
どうしてそんな夢を見るようになっちゃったんだろう
どうして私が奪われる夢ばかりを見るんだろう
もしかして……卒業が近づいてきてるから、なのかな? 自分が固定厨なのが再確認される気がするスレ
一度触れた世界は読み終わったからといって消えるものじゃないんだよな 私が体調不良だって嘘をついたからなのか、
向こうはちゃんと学校に通っているからなのか、
不在着信が溜まることはなくなって、その分のメッセージが蓄積されていく
スマホの画面の上部には何度もポップアップが表示されては上書きされていき
アプリのグループ一覧には、未読何件の数字がカウントされる
彼方「……ほらぁ、凄いことになってる〜」
遥「通知オフにして、サイレントにしちゃおうよ」
彼方「連絡つかなくなったら大変だよ〜?」
遥「お姉ちゃんは体調不良で寝込むから大丈夫」
彼方「便利だねぇ……」
スマホが私の手から遥ちゃんの手へと渡って
少し弄られて、枕元に放置
通知も振動もオフにされたスマホは眠ったように静かだ
彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんのためならここまでできる」
彼方「遥ちゃんのためなら、もっと先までできる」
彼方「それでも、怖い?」
遥「怖いよ!」 遥「お姉ちゃんが死ぬかもしれないんだよ?」
遥「侑さん達に恋して、私のことなんてだんだん置いて行っちゃうかもしれないんだよ?」
それは、当たり前のことだよ。
数秒後には急病で死ぬことがある
数日後には恋をしてしまうことがある
それは普通の人にとっては笑い話程度のこと。
そんなことはあり得ないよ。なんて、一蹴できてしまう程度に数ある可能性の一つ
遥「嫌だよ! そんなの……お姉ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるって言ったのにっ!」
なんて――言っても無駄だ。
遥ちゃんは私の余命宣告を受けたようなものなんだから。
たとえそれの出どころが夢であっても、その鮮明さがリアリティを持たせてしまっている
って……私の頭も、堂々巡りな感じ
彼方「言ったよ〜……覚えてる」
小さい頃から、私と二人きりのことが多かった遥ちゃん
一緒にいてねって、何度も何度も繰り返し確認してくるたびに、私は一緒にいるよ。って答えてた
ずっと一緒、絶対に一緒、何があっても一緒だよって
彼方「大丈夫、覚えてるから……」
彼方「忘れてないからね〜? 一緒にいるなんて……当たり前だよ〜」 遥ちゃんを抱きしめてあげる
抱いてあげると、体の震えが少しだけ収まって……ごめんなさい。って、また謝ってくる
彼方「大丈夫だよ〜」
責めたりしないから
悪い子だなんて思ってないから
それだけ私のことを大切に思ってくれてるんだって……思ってるから。
遥「どうしたら、私と一緒にいてくれる?」
彼方「健やかに育って、幸せに生きてくれたらそれだけで十分だよ〜」
遥「それだけじゃいなくなっちゃう……」
遥「一緒にいて欲しいのっ、ずっと……ずっと一緒が良いのっ」
遥「お姉ちゃんの子供を産めばいい? そうしたら一緒にいてくれる?」
彼方「む、無理かなぁ……」
遥「え……」
彼方「あ、えっと、もちろん。遥ちゃんが無理なんじゃないよ?」
彼方「女の子同士じゃ子供は作れないから、無理なんだよ〜?」
遥「そっか……そうだよね……」
遥「……ファーストキスくらいじゃ、だめだよね?」
遥「私のしょ――」
彼方「えぇっと……一旦落ち着こう? ね?」
子供産めばいい? の時点で結構危ない発言だけど、
これ以上になったら何を言い出すか分かったものじゃない
彼方「そんな契約みたいなことしなくても私はちゃんとここにいるから」 この世界では女の子同士では子供はできないのか、なるほど 遥「今はいてくれるのは分かってる」
遥「でも……ずっととは限らないよね?」
彼方「それはそうなんだけど〜……えっと……う〜ん……」
遥「私はずっと一緒が良いの……いてくれないと嫌なの……」
遥「ねぇ、どうしたらいいの?」
彼方「お、落ち着いてってば〜……」
闇を抱えているというか、
闇に包まれているような瞳の遥ちゃん
私をどうにかするんじゃなくて
周りをどうにかしようなんて考えにはならないようにしたい。
みんなに怪我や、怪我以上のことをされたら本当にお別れしなくちゃいけないし。
彼方「………」
彼方「えっと……」
彼方「じゃぁ、指輪……指輪頂戴?」
彼方「彼方ちゃんが遥ちゃんのものだよ〜って、証明になる指輪を左手の薬指に嵌める」
彼方「そうすれば、少なくとも彼方ちゃんはほかの人に言い寄られることが無くなるよね〜?」
遥「それで問題ないなら、不倫なんて起こらないと思う」
彼方「あはは……」 だから遥ちゃんは最も効果的に思える入れ墨を真っ先に提案してきたのかな
身体にそういう刺青があったら普通の人は避けるだろうし
身体目的の人だとしても気分が萎えるだろうから。
でも、うん
入れ墨はさすがに避けたい
彼方「逆に、遥ちゃんは私がどうだったら安心できるのかな〜?」
彼方「入れ墨とか、監禁以外で」
遥「………」
遥ちゃんはしばらく呆然とする
その目は私を見ているのにまるで視線を感じられない
遥「子供がダメ、入れ墨も保護もダメ……」
遥「それなら」
考えを纏める独り言
小さな口はだんだんと歪さを増していき――
遥「あ、そうだ……」
それは小さな気づきを得て笑う。
遥「……手足が無ければいいんだ」
彼方「え……」
遥「私がいないと何もできなくなっちゃえばいいんだ」
彼方「は、遥ちゃん……?」
遥「お姉ちゃん、切断しよ?」
彼方「む、無理無理無理! それは、それはあり得ないよっ!」 遥ちゃんに依存しないと何もできなくなれば、確かに私は離れない
それは最も安心できることなのかもしれない
でも、だけど……そんなの。
恐ろしい
ううん、悍ましい
あり得ないよ……遥ちゃん……
彼方「一緒にお出かけ出来なくなっちゃう……お料理だってしてあげられなくなっちゃう」
彼方「そんなの、生きてる意味ないよっ!」
遥「っ」
彼方「ぁ……」
つい、怒鳴っちゃった私を見つめる目が揺れる
逃げるように動いた遥ちゃんの手は、手錠のせいで引き合って逃げられない
遥「あ……そ……そう、そう、そうだよ、ね」
遥「何言ってるんだろ、私」
遥「えへへ……ごめん、ごめんなさい……」
遥「お姉ちゃんの手足が無くなっちゃえばいいなんて……」
遥「意味わからないよ……」
彼方「遥ちゃん、少し寝よう?」
彼方「寝れば、少しは頭の中も整理できるはずだよ〜」
遥「……怖い夢見そうだから、寝たくない」
彼方「……なら何も考えないだけでもいいから。少しだけ」
遥「うん……」
彼方「……よしよし」
彼方「怒鳴っちゃってごめんね……」
抱きしめてあげる
少し強く……絶対に離れないよって分かって貰えるように。 ――――――
―――
放課後の時間になって、
また不在着信が溜まっていくのを横目に寝息を立てる遥ちゃんの頭を優しく撫でてあげる
電話も一人からではなく、
同好会のみんなからかかってきてる
誰か特定の一人では、出てくれないだけかもしれないって思ってるのかな
違うよ。
違うんだよ……ごめんね。
彼方「……既読も、つけてないもんね」
連絡用のスマホアプリは通知を切っちゃったから、届いていても気づかない
気付いてるからって返事は出来ない
アプリを起動してみると、未読の件数は驚くほどにたっぷり。
無料スタンプの為に友達登録した企業の未読の方が多いけど。
彼方「見て良い?」
彼方「………」
彼方「やめとくね?」
勝手に見ると、遥ちゃんは怒るかもしれない
どうして、なんで? ってすっごく取り乱す
だから……既読もつけてあげられない
ごめんね、みんな。
心配してるよね……不安だよね
体調不良なのに、退会の連絡をしてから音信不通
何かあったんじゃないかって……
彼方「……心中、かぁ」 遥ちゃんは私としずくちゃんが心中する夢が一番怖かったみたい
それはそうだよね
誰かと恋をして、結婚して
ただ住む場所が違っちゃっただけなのとは全然違う
二度と会えない
顔も見られず、声も聞けず、
何もして貰えないし、何もしてあげられなくなっちゃう
――でも。
でも、もし。
それがしずくちゃんと私じゃなくて。
遥ちゃんと私だったら?
それだったら……遥ちゃんは喜んで受け入れてくれるのかな
女の子同士
血の繋がった姉妹
どうにもならないその強力な縁を無視して深く繋がり合えるかもしれない " 死 " という選択
遥ちゃんが誰かを傷つけることがなく
私がこれ以上何かを犠牲にすることない結末
お母さんやみんなには酷いことをしちゃうかもしれないけれど
遥ちゃんがそれ以上のことをしちゃう前に、いっそ――
彼方「あ……」
それは駄目だって言うかのように、呼び鈴が鳴った 一回、二回
呼び鈴が部屋の中に鳴り響いて、ドアを開けようとするかのような音
侑『彼方さん! 彼方さんっ……いますか!?』
しずく『やっぱり、寝込んでしまっているのでは?』
かすみ『何言ってんのしず子! 電話はともかく、メッセも一切既読つかないんだよ!?』
エマ『彼方ちゃんっ、彼方ちゃん……聞こえる!?』
ドアが開かないからと、叩く音
ドアと扉と壁と……
色んなものを挟んで聞こえてくるみんなの声
誰か一人は来るかと思ってたけれど
まさかの、全員な感じ
心配、させ過ぎちゃったかな……
彼方「遥ちゃん、遥ちゃん」
遥「っ……ゃ……」
彼方「………」
とりあえず揺さぶって、声をかける
出来れば起こしたくないけど
手錠のせいで起きてくれないと困るから……
彼方「起きて、遥ちゃ――」
遥「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
彼方「痛っ!?」 跳び起きた遥ちゃんの手に手錠ごと腕が引っ張られて
足の手錠による不自由さに挟まれて、体が嫌な音を立てる
遥「はっ……はっ……はっ……」
遥「はぁ……」
遥「ぁ……お、お姉ちゃん……」
彼方「骨……折れ……折れるっ」
遥「ご、ごめんねっ……お姉ちゃんっ」
遥ちゃんは慌てて手錠を外してくれたけれど
変に捻った部分は変色こそしてないけれど、ズキズキとした痛みは継続中
遥「また、嫌な夢見ちゃって……」
彼方「あ、あははは……だ、大丈夫……じゃない、かも」
熱を帯びて、腫れてきたようにも感じる
色も……ちょっぴり
遥「あっ、あぁ……氷っ、冷やすやつっ!」
慌ててベッドから飛び降りる遥ちゃん
玄関のドアを叩き壊しそうなほど強く叩いて、叫ぶ同好会のみんな
遥ちゃんが泣きながらリビングに飛び出すのと同時に、
愛「カナちゃん!!」
遥「え……」
玄関のドアが開けられて、一目散になだれ込む私の友達。
せつ菜「あ、あれ……? 遥さん?」
歩夢「彼方さんは大丈夫なの!?」 遥「なん……」
遥「………」
果林「今の悲鳴は……遥ちゃんなの?」
遥「………」
私から見える遥ちゃんの背中
怖い空気を感じる
ダメな、感覚
彼方「わ、私は大丈夫だよ〜」
璃奈「彼方さん?」
遥ちゃんの体の横からひょっこりと顔を覗かせる璃奈ちゃん
目が合って、笑って見せると安堵したように胸を撫で下ろす
どうしよう。
長居は、させちゃだめだ
彼方「実は、体調悪くて……ふらついたときに足と手をやっちゃったんだよねぇ」
ちょっぴりおぞましさを増す私の片手足
それを見せてあげると、かすみちゃんの口から息を引く音がして。
彼方「だから、連絡できなかったんだ〜ごめんね〜」
侑「じゃぁ、悲鳴は……」
彼方「こんな状態で氷を取りに行こうとしたから……」
しずく「なにを、しているんですか……」
そんなの私でも絶叫しますよ。なんて困り顔のしずくちゃん
あぁだめだ……遥ちゃんが、ダメだ エマ「それなら私達も手伝――」
彼方「大丈夫!」
せつ菜「え?」
彼方「大丈夫だから……帰って」
かすみ「何言って――」
彼方「うつすと悪いから……ほんと、近寄らないで欲しいんだ〜」
布団に隠れる、外れた手錠
これを見られたら終わる
今の私には自然に隠す動作が出来るほどの余裕もない
彼方「……お願い」
遥ちゃんが、壊れちゃう前に
我慢できなくなって怒鳴っちゃう前に
お願いだから……
果林「………」
果林「そう、じゃぁ、プリンだけ置いていくわね」
果林「……はい。遥ちゃん」
遥「………」
歩夢「遥ちゃ――」
遥「あ、はいっ」
遥「ありがとうございます」
遥「でもどうやって、鍵を開けたんですか?」 侑「あ、ごめんね」
侑「不安だったから管理人さんに連絡して、マスターキー頼んで開けて貰っちゃったんだ」
侑「渋られたけど、音信不通なのを話したら開けてくれて……」
すぐそこに管理人さんもいたようで
私の様子を見るや、早とちりで良かったよ。と優しく言ってくれる
ちゃんと連絡を返してあげるように、って。注意も含めて。
遥「……なるほど」
遥「ご心配おかけしてすみません」
遥「でも大丈夫ですから」
遥「お姉ちゃんも言ってたようにうつすと申し訳ないので、今日はお引き取りください」
遥「お姉ちゃんの為に、ありがとうございました」
しずく「う、うん……こっちこそ押しかけちゃってごめんなさい」
エマ「彼方ちゃん、退会の話……」
彼方「ごめんねエマちゃん。もう決めたことなんだ〜」
ありがとう
そして、ごめんなさい
でも、そうしないと遥ちゃんが駄目だから。
彼方「ありがとね〜」
せっかく来てくれたみんなを、追い返した 気軽に生えて気軽に孕ませられるこの板の常識って幸せだな この遥ちゃんヤンデレすぎてハッピーエンドは無理だろ… 遥ちゃんはみんなが出ていくと、
すぐに鍵をかけた上で、チェーンも重ね掛けする
普段はお母さんのことも考えて開けていたけれど……
そのせいで、突入されちゃったから。
遥「……お姉ちゃん、プリンだって」
彼方「買ってきてくれたんだね〜」
彼方「なのに追い返しちゃったのは……悪いことしちゃったかなぁ」
遥「………」
遥「お姉ちゃんは私以外にもいて欲しいの?」
彼方「え、えっ……そんなことないよ〜」
目が怖い
瞬きもしないで、睨みつけてるわけでもない
ただただじっと見つめてくるその目は危険な雰囲気がある
プリンをくれたのに、追い返しちゃった罪悪感
それを持つことさえ、遥ちゃんは駄目だっていうのかな……
彼方「恩を仇で……返すっていうか〜」
言葉を選ばないと
少しも好意的な意味がないって言い方じゃないと
遥ちゃんは……。
彼方「プリンのお礼に、お茶くらい出しても良かったかもしれないな〜って」
遥「……じゃぁ、これ捨てればいい?」 彼方「食べ物は粗末にして欲しくないなぁ……」
遥「………」
遥「……でも、プリンをくれた果林さんのこと、少し好きになっちゃうよね?」
遥「美味しかったら、何かお礼しなきゃって考えて会う機会が出来ちゃうよね?」
遥「そしたらまた距離が縮まって、仲良くなっちゃうよね?」
遥「二人で遊ぶ回数が増えるかも」
遥「私を置いて……どこか行っちゃうかも」
なにか、まずい
遥ちゃん、また夢を見てた
きっと、エマちゃんとの夢のような良い物じゃなかったんだ。
そうじゃなかったら、叫ばない
でも、どんな夢を――
彼方「遥ちゃ――」
遥「やめてッ!」
彼方「っ……」
遥「ただのお礼だからなんて嘘つかないでよ……」
遥「お姉ちゃん、そう言ってかすみさんにお弁当まで作るようになった!」
遥「私の為に作ってくれてたのに、侑さんの分が増えた!」
遥「自分がいないとダメだからって、しずくさんを家に連れてきたりもしてたよね……っ!」
遥「このプリンを言い訳にして、果林さんと繋がるつもりなんでしょッ!」 知らない
身に覚えがない
でも、遥ちゃんはそんな私を見てきてしまった。
彼方「そんなことしないよ〜」
彼方「大丈夫……私はずっと遥ちゃんと一緒だから」
他の私が遥ちゃん以外の誰かと一緒になっちゃったんだとしても
今ここにいる私は、遥ちゃんと一緒にいる
彼方「そんな、怖がらなくても平気だよ〜」
彼方「痛っ……」
手錠に繋がれていた部分の一部は痣の色に変わっていて
足が痛くて、うまく立ち上がれない
無事な方にほぼ全部の体重を
なんて……手首も痛めたせいで、使えるのは半身しかないのが辛い。
彼方「………」
彼方「手足痛めちゃったから……遥ちゃんがいてくれないと立ち上がることもできないんだよ〜?」
彼方「だから〜……大丈夫」
遥「……ほんと?」
彼方「ほんと、ほんと……嘘つかないよ〜」
彼方「というより……ついてる、余裕がないかなぁ」
これは多分、病院行かないといけないやつだ
彼方「遥ちゃんには悪いけど、病院いかせて……」
遥「……わかった」
遥「ごめんね。私のせいで」 少し戻った遥ちゃんは、
とても申し訳なさそうに言ってから119にお電話。
私がほぼ半身……右手右足をやっちゃったこと、
大人がいないこと、病院まで行けそうもないから……救急車
整形外科のお医者さん曰く、軽傷
軽傷とはいえ、比較的軽いというだけで
「右手と右足をよく器用に捩じったね」と、最低でも1週間は要安静。
彼方「えっと……入院ですか?」
入院はしなくてもいいけれど、その場合は車椅子があった方が良いというお話。
松葉杖でもいいが、可能なら車椅子と言うのは私の怪我が両手足だから。
しかも……利きの方。
彼方「バイトは……あ、はい……無理ですよね」
遥「………」
ご両親を呼んだ方が良いとも言われて、
断りたかったけれど……自力で帰れそうもないから泣く泣く呼び出し。
お仕事を中抜けしてきてくれたお母さんに怒られつつ
より酷い状態じゃなくて良かった。と安心されて。
松葉杖で良かったのに……
色々と手続きとかして、ちゃんと車椅子をレンタルすることになった。 ――――――
―――
私についていたいっていうお母さんは、
けれど、どうしても戻らなくちゃいけなくて……遥ちゃんと二人きり
遥「……おトイレとか、必要になったら言ってね?」
彼方「松葉杖さえあればなぁ……」
遥「大丈夫、私がいるから」
右手足はギプス固定
一応、取り外しも可能なもので、
お母さん、遥ちゃん、私
みんながそのつけ方と外し方を知ってるから、どうにかなる
けど。
部屋から出歩くのはさすがにどうにもならない
松葉杖があればって言ってみても
実際、利き足利き手が扱えないのは不自由で
バランスだって取りにくい
遥「……学校は、行くんだよね?」
彼方「うん……途中まで送ってくれれば、あとはどうにかするから」
遥「どうしても行かないとダメ?」
彼方「特待生……取り消しになると大変なんだよねぇ……」 遥「……ごめんね」
遥「私が寝ちゃったから……」
彼方「仕方がないよ〜」
彼方「悪夢を見ちゃうのは、遥ちゃんのせいじゃないから」
手錠をさせたのは遥ちゃんだ
それがなければ
そんなことにさえなっていなければ……
彼方「………」
彼方「……仕方が、ないよ」
遥ちゃんを責めても仕方がない
だって、遥ちゃんだって苦しんでるんだから
どうしようもない悪夢に苛まれてるんだから。
彼方「でも、これで……遥ちゃんがいないとダメになっちゃったねぇ」
彼方「……お世話になりま〜す」
遥「もぅ……お姉ちゃんってば」
困りつつも嬉しそうな遥ちゃん。
そこに罪悪感は、ない。 彼方「それで、今度はどんな悪夢だったの?」
遥「かすみさんと一緒になっていく夢」
遥ちゃん曰く
私は卒業の近づく来年の二月
バレンタインデーの日にかすみちゃんに本命のチョコレートを送るらしい
その結果、
相思相愛で付き合い始めて……そして。
やがて遥ちゃんを置いて行ってしまう。らしい。
私がそんなことするはずがないのに。
――ほんとうに、そうかな?
遥「大丈夫だよね?」
遥「お姉ちゃん、いなくなったりしないよね?」
彼方「当然だよ〜」
もしも。
もしも今、誰かに " 大丈夫? " って声をかけられてしまったら
私は駄目な部分を隠し通せないと思う
そうなったら、もう……ダメ。
今の遥ちゃんは怖いって思っちゃってるから。 でも、それでも私にとって遥ちゃんは大切な妹
なにものにも代えられない、世界でただ一人の大切な人
彼方「………」
彼方「ねぇ、遥ちゃん」
遥「なぁに? おトイレ?」
彼方「あはははっ、違うよ〜」
彼方「………コホンッ」
彼方「遥ちゃん、私のこと好き?」
遥「えっ!?」
ビックリする遥ちゃん
顔はすぐに赤くなって、じっと私を見る目はとても愛らしい
普段とは違うけれど
怖くない……純真さのある空気
遥「それは……」
顔を逸らした遥ちゃんの口元が動き、
くっと唇を固く結ぶのが見えて。
遥「………」
遥「好きだよ……大好き」
遥「お姉ちゃんとして、人として、女の子として」
遥「あらゆる意味で、好き」
遥「だから……誰にも渡したくない」 遥「なのに、お姉ちゃん侑さん達と付き合っちゃうんだもん……」
遥「私に向けてくれてた分を、ほかの人に向けちゃうんだもんっ」
遥「私を置いて……しずくさんなんかと死んじゃうんだもんッ!」
遥「……嫌だよ」
遥「どうして?」
遥「妹だから?」
遥「女の子だから?」
遥「それ以外に何かダメなところがあるなら言って?」
遥「治すから」
遥「お姉ちゃん好みになって見せるから」
遥「だから……ほかの人になんて、気を向けないでよっ!」
遥ちゃんはだんだんと昂った感情に涙を零して、
頭を振るたびに、雫が飛ぶ。
二つ結びの髪が乱れる
遥「お姉ちゃん、女の子でも大丈夫だよね?」
遥「だって、かすみさん達と一緒になるんだもん」
遥「じゃぁ、妹を止めたらいい?」
遥「縁切りしてどこかの人の養子になってからなら、私と一緒になってくれる?」
彼方「そんなことしなくたって……大丈夫」
遥「大丈夫じゃ、無いから言ってるのに……」 彼方「そんなに不安?」
遥「怖いよっ」
彼方「信じられない?」
遥「信じてる……けど、でも。胸騒ぎがするの……」
遥「お姉ちゃんが他の誰かと付き合ったりしないとしても」
遥「死んじゃうんじゃないかって、怖いの」
遥ちゃんは体を震わせる
遥ちゃんの手が掴む遥ちゃん自身の腕の部分には、強い皺が寄っていて
見開かれた瞳が、その異常さを強める
本当に怖いんだねぇ
恐ろしくて、不安で……
それ以上に、私のことを想ってくれているんだよね〜?
遥ちゃん。
……遥ちゃん。
彼方「だったら……心中する?」
彼方「遥ちゃんがどうしようもなくて」
彼方「これ以上苦しみたくなくて、信じ切ることができないなら」
こんな遥ちゃんを残しては、いけない
だから
彼方「いっそ……私達で、心中しちゃうっていう手もあるんだよ〜?」 遥「お姉ちゃん……」
彼方「ごめんね」
彼方「遥ちゃんを抱いてあげたいけど、この体じゃ上手く抱いてあげられない」
彼方「一緒に寝てあげられない」
彼方「……今日の夜、また悪夢を見ても」
彼方「私には何もしてあげられない」
話を聞いて、
そんなことはないよって " 嘘をつく " くらいしかできない
それは何もできないのと同じ。
その嘘さえもつけなくなってしまう前に。
彼方「夢の中の彼方ちゃんがどうだろうと、この私はまだ遥ちゃんと一緒にいる」
彼方「遥ちゃんとなら、どこにだって行っても良いって思ってる」
彼方「……この体じゃ、連れていってもらう必要があるけどね〜」
遥「本当に良いの?」
彼方「……いいよ〜」
遥「………」
遥「……っ」 遥「もう少しだけ、頑張ってみる」
遥「もしかしたら、エマさんの時みたいないい夢があるかもしれないから」
遥「だから……あと一日」
遥「それが悪い夢だったら……私、もうきっと我慢できないけど」
彼方「じゃぁ……」
遥「?」
手招きする
出来るのなら自分から近づいてあげたいけど
今の私には出来ないから、遥ちゃんに来てもらう。
そして――おでこに、キス
遥「お、おね……お姉ちゃん!?」
彼方「良い夢を見られるように、おまじない」
彼方「一緒に寝てあげられないから」
彼方「特別だよ〜?」
遥「も〜……」
遥「えへへ……ありがと……」
遥「きっと、お姉ちゃんと一緒の夢が見られると思う」
すっごく嬉しそうな、紅い顔の遥ちゃん。
でも、どれだけかわいい顔をしていても
世界はちっとも、遥ちゃんに優しくしてくれることはなかった 今まで幸せにしてきた分が不幸になって跳ね返ってくるの辛いな楽しみにしてるわ乙 乙です
ついに全部終わりかあ
寂しいけど毎日楽しみで幸せでした 一番脳破壊されてるの>>1だろうな…最後まで頼む(ハッピーエンドで) ――――――
―――
遥「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
彼方「っ」
朝になって、部屋の中には悲鳴が轟く
すぐそばに隣接していた壁を力強く叩く音が聞こえたかと思えば
相手側からは「叩くな!」という怒号が飛んできて
上のベッドが軋み、遥ちゃんの嗚咽が聞こえる
彼方「遥ちゃん」
彼方「……遥ちゃん、彼方ちゃんならここにいるよ〜」
彼方「下におりてごらん? 大丈夫だから〜」
顔を見せてあげられたら良いけど、今は難しい
せめて……と、声だけでも聴かせて傍にいることをアピールしてみる
遥ちゃんがゆっくり動く布擦れの音
視界の片隅に見える梯子に右足が降りてきて
徐々に遥ちゃんの姿が見えてくる
遥「お姉ちゃん……っ」
彼方「ね〜? 彼方ちゃん、ちゃんとここにいるでしょ〜?」 遥ちゃんは、私が愛ちゃんのお店のアルバイトを始める夢を見たらしい
アルバイトに始まり、愛ちゃんからの熱烈なオファーを受けた私は、
自分の資格や、力が活かせるならと……愛ちゃんのもんじゃ焼き屋さん専属の調理師となって、
そして。
別に付き合ったりはしなかった
付き合ってないのだから結婚だってしてなかった
だけど、その関係はただの友人ではなくて
でも、家族でもなくて。
遥ちゃんにとっては……自分以上にも強い繋がりに見えちゃって……。
遥「お姉ちゃん、私なんてどうでもよくなっちゃったんだって……」
彼方「え〜……私、そんなこと絶対に言わないと思うんだけどなぁ……」
この私にはその自信があっても
しずくちゃんと心中したり、ほかの子達と付き合っていく私がいたというのなら
絶対だなんて確証を持たせてあげることは出来ない。
それこそ、私のこの手足が無くならない限り。 彼方「でも、そっか〜」
彼方「また嫌な夢を見ちゃったんだね〜……」
おでこにキスしてあげたのに。
遥ちゃんの気持ちはあんなにも高ぶって……幸せそうだったのに。
その精神的に幸福な状態でも
夢で悪いものを見ちゃったというのなら、
これはもう、いよいよ遥ちゃんどうこうの問題じゃない
彼方「辛い?」
彼方「苦しい?」
遥「うん……」
彼方「じゃぁ……一緒に、死んでみる?」
死が二人を別つまで。
結婚に関係するものとして、そんな言葉をよくよく耳にする
ということは……世間一般的に、死は別れなんだと思う。
でも、もしその別れの時である死さえも共にしたなら
限りある生涯の垣根さえも超えて、永久的に二人一緒にいられるんじゃないかな。
だから……。
彼方「どうする?」 遥「……っ」
彼方「いいよ」
遥ちゃんの細い指が首にかかる
苦しいのは嫌だけど
でも、それが遥ちゃんの味わった苦しみだというのなら我慢もできる
彼方「ぅ……」
指の一本一本に力が込められていくと
大事な血管を押さえられてるからか、強い違和感と不快感を感じてしまう
彼方「ぁ……」
遥「っ……無理……」
彼方「っ、はっ……けほっ……」
首を絞めたという部類にまで届かない程度で離れた遥ちゃんは、
首を締めようとした手を押さえて……引き下がっていく
彼方「遥ちゃん……」
泣きそうな顔
辛くて、苦しくて、崩れてしまいそうな……
遥「やだ……殺したくない……」
彼方「屋上から飛び降りるっていう手もあるんだよ〜?」
遥「お姉ちゃんを突き落とすなんて、出来るわけないよ!」
彼方「ぎりぎりまで連れていってくれたら、あとは自分で――」
遥「やだっ!」
遥「やだよ……そんなこと……やだ……っ!」 遥「お姉ちゃんと一緒に居たい」
遥「このまま、私とお姉ちゃんで……一緒に居たいのっ」
遥「死んじゃったら終わっちゃう」
遥「終わっちゃうよ……」
遥ちゃんは泣き出しちゃって
死なせたくないって……首を横に振る
遥ちゃんにとっても、死んじゃうのは終わりと同じ。
でも、このままだと辛くて苦しい夢のせいで
いつか不眠症になっちゃうだろうし、早死にすると思う
彼方「……心中はしたくないんだよね?」
遥「したくない……」
彼方「でも、私がみんなと一緒にいたりするのは嫌なんだよね?」
遥「やだ……」
彼方「……一緒にいるのが駄目ってなると、彼方ちゃん何もできなくなっちゃうから」
彼方「譲歩して欲しいな〜」
遥「譲歩?」
彼方「うん」
彼方「例えば〜……スマホ。やり取りは必ず遥ちゃんに見せる」
彼方「GPSをONにして、常にどこにいるか分かるようにしておく」
彼方「定時連絡を必ずする……みたいな」
彼方「その合間の時間で、私が他の誰かに身体を許すかもしれないって思うなら」
彼方「貞操帯……だったかな……それをつけておく。とか」 彼方「生きていくうえで必要最低限な時間はほかの人のために使う」
彼方「でも、それ以外の全ては遥ちゃんに使う」
彼方「お友達なんて作らない」
彼方「遊びに行かないし食事もしない」
彼方「どこかに泊まるなんてもってのほか」
彼方「学校やお仕事以外は必ず遥ちゃんの傍にいるようにする」
彼方「一緒にいるときはスマホは遥ちゃんに預けておく」
彼方「それでも心配なら、バレないように、手だけはまた手錠でつないでくれてもいい」
彼方「……だからその代わり、私が誰かとお話してても怒らないで」
彼方「危ないこととか悪いことをしようとしないで」
彼方「なに話してたのかとか、全部ちゃんと報告するから……最低限の人付き合いは、許してくれないかな……」
遥「………」
遥ちゃんに契約みたいなことは必要ないって言ったのに
私から、契約するかのようなお願い
でも、
こんな壊れかけだったとしても遥ちゃんは遥ちゃんだから。
私が尽くし続けることで遥ちゃんが楽になれるなら、その方法を選ぶ 遥「ほんとうに、そうしてくれる……?」
遥「連絡したらちゃんと返してくれる?」
遥「電話したらすぐに出てくれる?」
遥「一日の予定とか、全部教えてくれる?」
遥「何もない時は、ずっと一緒にいてくれる?」
彼方「うん、約束する」
彼方「……友達のことが不安なら、まずは私のスマホのデータを遥ちゃんが消してくれてもいいよ」
遥ちゃんがあとから不安がらないように
ちゃんと考えて、穴を埋めて、すべてを晒していく
遥「……同好会と、バイトの人以外は全部消すね?」
彼方「うん、良いよ」
遥「………」
遥ちゃんが分からないバイト先関係者
それだけはちゃんと選び取って、削除する
もちろん、連絡用のアプリからも。
遥「信じるからね?」
遥「今日から、ちゃんと守ってくれるんだよね?」
彼方「うん、絶対」
貞操帯は、後日だけど。
でも、それ以外のことなら……
遥「じゃぁ、いいよ」
遥「……ちょっとだけなら、許しても」
それでも遥ちゃんは不安そうだったけど、でも、頷いてくれた。
そして――休むわけにもいかない学校に、連れていってもらう ――――――
―――
流石に、遥ちゃんに授業全てを手伝って貰うことはできないから、
校門前で果林ちゃんと待ち合わせ。
私を見るや否や、果林ちゃんは唖然として。
果林「……大丈夫なの?」
彼方「なんとか、左手で書いてみるよ〜」
彼方「ダメそうだったら、あとでノートを借りてもいいかな?」
遥「………」
遥ちゃんに目を向けると
遥ちゃんは何も言わなかったけれど、頷く
これは多分、良いよってことだろう
果林「……」
果林「そう……」
果林「無理は、しないで欲しいのだけど……本当に授業受けるの?」
彼方「そうしないと、特待生取り消されちゃうからねぇ……」 果林「まったくもう……」
果林「じゃぁ、遥ちゃん……彼方のことは預かるわね?」
遥「はい。宜しくお願いします」
礼儀正しく頭を下げる遥ちゃん
でもその空気は、普段の遥ちゃんらしくなく、嫌悪感が滲んでる
預けたくない、任せたくない
そんなものが……溢れてる。
彼方「じゃぁね〜……後で連絡するから」
遥「うんっ」
遥「じゃぁ、気を付けてのちゅー」
遥ちゃんはそう言って、
果林ちゃんにも見えるように、唇を重ねてきた。
果林「ちょっ……」
柔らかくて、小さくて
味わうことなんて出来ない、潤いを感じるキス
すぐに離れた遥ちゃんは、満足げ。
遥「またあとでね」
彼方「またね〜」
戸惑う果林ちゃんを促して、車椅子を動かして貰う 遥ちゃんがだいぶ見えなくなるころ、
果林ちゃんは急に「彼方」と、呟いて。
果林「……なに、してるのよ」
彼方「ん〜?」
果林「あんな場所で、しかも……妹となんて」
彼方「普通じゃない? おかしい?」
彼方「………」
彼方「だから、果林ちゃんはどうしろっていうのかな〜?」
果林「………」
果林「やめた方が良いわ」
果林ちゃんはいつにもまして深刻そうに零す。
下手に身体を動かせないから、
果林ちゃんがどんな顔をしてるのかまでは、見てられない
今、どんな顔してるんだろう。 果林「昨日、お見舞いに行ったときからもう何か危なそうな感じがしたけど」
果林「今日は――」
彼方「それ以上言われても、彼方ちゃんは首を横に振るだけだよ」
果林「彼方……」
彼方「ダメなんだよ。遥ちゃん」
彼方「彼方ちゃんが一緒にいてあげないと壊れちゃうんだよねぇ……」
彼方「だから、同好会もやめて、最低限の連絡先以外を消して――」
彼方「………あ、ごめんね。電話」
果林「出なくていい」
彼方「ううん、出なきゃダメ」
止めようとしてきた果林ちゃんの手を払い除けて、
遥ちゃんからの電話を受ける
遥『三コールだった……』
彼方「ごめんね。まだ、左手で出るの慣れなくて……」
遥『コールが2回終わる前にって、言ったよね?』
彼方「うん、ごめん……」
彼方「次からは、絶対に出られるようにするから」
遥『果林さんとお話してるのもいいけど、約束は守ってくれなきゃ……やだよ』
彼方「ごめんね」
遥『……次は駄目だからね』
彼方「わかった。約束する」 少しだけ話して、電話を切る
果林ちゃんは立ち止まっていたようで……まるで景色が変わってなかった
彼方「遅れちゃうよ〜?」
果林「何今の……」
果林「どういうこと、約束って」
彼方「私がみんなに会える条件」
彼方「詳しく言えないけど……2コール以内に電話に出るって約束があるんだよね〜」
彼方「だから、二度と邪魔しないでね?」
果林「っ……」
彼方「遥ちゃん、約束破ったら怖いんだから……」
果林「彼方は、本当にそれで――」 彼方「いいよ」
彼方「私から持ち掛けた条件なんだから……いいに決まってる」
果林ちゃんはおかしいって言う
狂ってるって、私に言ったわけじゃないだろうけど……呟く
でも、そうしないとダメなんだから仕方がないよね
そうしないと、遥ちゃんと一緒にいられないんだから
そうじゃないと……遥ちゃんは壊れていっちゃうんだから。
果林「彼方……」
彼方「なぁに?」
果林「………」
果林「……っ……」
果林「……ごめんなさい」
彼方「良いよ別に……邪魔さえしなければ、それでいいから」
果林ちゃんは何かを言いかけたけど、言わなかった
うん。
それでいいんだよ……言ったって、無駄なんだから。
歯ぎしりみたいなのが聞こえたけど、気のせいだってことにしておく。 彼方「あ、また電話――」
果林「ん」
果林ちゃんは私が出るよりもはやく電話を取って、耳に当ててくれる
遥『良かった、出てくれた』
彼方「………」
果林ちゃんが出てくれただけだけど。
それを隠すかどうか迷って
隠さないと決めたからと……ちゃんと話す。
彼方「あ、でも……今のは果林ちゃんが取ってくれただけだよ〜」
彼方「実は、一番手伝ってもらうことになるからちょっとだけ事情話しておこうと思って」
遥『そっか』
遥『……よかったぁ』
すごく、安堵した遥ちゃんの声
それに続いて「東雲の子がどうしてここにいるの?」と、雑音が聞こえた
果林「っ……あ……」
果林ちゃんの口から洩れる呆然とした言葉
車椅子がゆっくり動いて、私には見えなかった景色の中……
見慣れた髪型で、東雲学院の制服を着た女の子が手を振ってるのが見えた
遥『本当のこと言ってくれてよかった』
遥『さっき、電話に出てくれなかったから心配で戻ってきちゃったんだよね……えへへ』
遥『でも次、果林さんにスマホ持たせたら怒るからね』
彼方「ごめん……」
遥『お姉ちゃんは、私だけのお姉ちゃんでいてくれなきゃ……嫌だからね』
彼方「うん、私は遥ちゃんだけのために生きていくよ〜」
遥『絶対だからね』
大丈夫。
だって、そうしなければならないんだから――と、心に言い聞かせた case.0:遥と 終了
ヒストリ
case1.果林 (洋服選び 5-32)
case2.璃奈 (菓子作り 45-102)
case3.歩夢 (クソゲー 118-151)
case4.菜々 (お勉強会 172-206)
case5.侑 (クリスマス 213-264)
case6.しずく(心中演技 275-341)
case7.エマ (年末年始 358-443)
case8.かすみ(バレンタイン 457-498)
case9.愛 (一緒にバイト 510-575)
case0.遥 ( 598-730) 全10case終了のため、以上で終了となります。
予想より長くなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。 乙
良かった…最後ハッピーエンドにして欲しかったけど
個人的にこの10caseの中だと最推しはcase2かな
でもcase9の愛は盲点だったわ
すごく良かった 乙でした!彼方推しの自分全カプが見られて超大満足です
また書きたくなったらぜひお願いします! どれも素晴らしかった
お疲れ様
ただ最後の重すぎたw 1ヶ月弱お疲れ様!まじでどれも素晴らしかった!また来年の彼方誕も頼む 乙
この遥は間違いなくヤンデレだけど好き他のSSはおね好き遺伝子だけ? 約1ヶ月毎日いろんな彼方ちゃんが見れて楽しかった乙
どの話も心情描写とお料理が丁寧で有難かったけど特にかすみ編の二人のヤキモキ感が好きだわ
エマ編でリアルタイムに年越せたのも臨場感あって良かった 夜這いするやつは間違いなくここのらっかせい作でしょうな >彼方「……zzz」 遥「……」コソコソ
>果林「彼方ったら、またこんなところで寝て……」
>しずく「彼方さん、1週間だけ私のお姉ちゃんになって頂けませんか?」 彼方「ん〜?」
上の3つは同じ人が書いてると思ってたが、かなりなの名作もあんたが書いていたとは
そしてエグいのもいけるのね、彼方ちゃんのこと心から愛してそうだけど可哀想な彼方ちゃんも書けるんだ
スクスタの奴とかも合わせて全部同じ人が書いてるとはね すげえや 過去作も良作揃いで納得だわ
つーか視点分けて2スレ連動の彼方SS書いてた人か りなりーのやつ好き
グロもエロもシリアスもいちゃラブもハードも真面目なのも何でもいける上にカプ拘り無しとか万能過ぎでは? 最後どうなるかと思ったけど上手いことまとめたな
洋服選びとバレンタインが特に好きだわ 遺伝子的に〜のやつもだと思ってたけど、違う人だったのか >>755
多分過去作しか載せてないだけかと
あっちは終わってないし >>755
そっちのスレで15日のらっかせいのIDを確認してみろ
同じ人だぞ ニジガクしかのせて無いけど監視委員と変わらない日常と同じやり方の
ダイヤ「ここは……?」ってSSもこの人では? これせっかくだからキャラ別で渋にあげ直して欲しい
もうひとつの方で作った渋アカでやってくれないかな >>760
《遺伝子的に〜》の>>359に探し方載ってるけどユーザー名は《虹ヶ咲_SSオマケ》
遺伝子スレのオマケ(ガチ)しか載せて無いから勿体ない ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています