しずく 「願いよ叶え、1つでいいから」 彼方 「叶うよ、きっと」
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気がつくと、病室のベッドに横たわっていた。
どうやら酸素マスクをさせられているらしい。
一定のリズムを刻んで鳴る電子音と、窓を叩く風の音。ただ天井を見つめ、静寂の中に響くそれらの音に耳を澄ます。
彼方 (どうして……こんなところに)
体を起こそうにも、全身に痛みが走って思うように体を動かせない。辛うじて顔だけは動かせたので、辺りを見回してみる。私以外誰もいない。
そうこうしていると、突然病室の静寂を撃ち破るかのような激しい音を立てて、扉が開かれる。
エマ 「彼方ちゃんっ!!!」
果林 「彼方……っ!!!」 部屋に駆け込んできた2人は、全身汗でびっしょりだった。心配そうな目で、私を見ている。
エマ 「彼方ちゃんっ……大丈夫なの!?」
彼方 「うん……っ…なんと…か……」
ベッドの背もたれに背中を添わせながら、全身に走る痛みを必死に堪えて徐々に座り姿勢へ移る。
果林 「無理しちゃダメよ…。あんな事故に遭ったんだから」
彼方 「…………事故?」
エマ 「もしかして、よく覚えてない?」
思い出そうとするが……ダメだ。あと少し、というところまで行くと、頭痛がする。
まるで、誰かにブレーキをかけられたように。 果林 「やっぱりまだ痛むんでしょ? ほら、涙が」
彼方 「涙……」
つぅーっと、頬に伝うものを感じた。
エマ 「彼方ちゃん、思い詰めちゃダメだよ?」
果林 「そうよ。彼方のせいじゃないんだから」
彼方 「まって……、さっきから、なんのことか…」
果林 「しずくちゃんの自殺を止められなかったのは、私たちだって後悔してるの」
彼方 「……………………えっ……」 自殺? しずくちゃんが?
どうして? 何で?
疑問符ばかりが脳内に浮かぶ。
果林 「卒業してから中々連絡する時間もなくて、でもまさか、こんなことに……」
彼方 「こんなこと…って………?」
エマ 「彼方ちゃん、道路に飛び出したしずくちゃんを助けようとしたんだよ。それで……」
彼方 「…………あ………ぁ…っ……」
果林 「しずくちゃんのことは本当に残念だった。けど彼方、あなただけでも無事でよかったわ」
彼方 「あ………ああ……………っ…あ…」 エマ 「彼方ちゃん…?」
二人の言葉を聞いて、失っていた記憶が徐々に復元されていく。
パチリ、パチリ、と、パズルのピースが一つずつゆっくりと埋められていくように。
やがて完成し突き付けられたのは、非情な現実。
彼方 「あぁ…っ…あぁぁ…!!! あぁぁぁ!!!」
その途端、頭痛は堪えきれないほどの酷さになる。両手で頭を抑え、激しく悶える。
エマ 「彼方ちゃんっ、どうしたの!?」
彼方 「あぁあぁぁあっ!! 嫌っ…あぁっ!!!」 果林 「ナースコール…! ボタンは……!!」
果林ちゃんが私の手元付近からボタンを探り出し、私の名前を呼びながら何度も何度も押す。
頭痛に襲われた私の耳は、その声すら徐々に聞こえなくなり、視界も狭まっていく。
ーーーーそうだ、私は
充電のなくなったロボットのように、プツンと意識が途切れる。
頭を抑えていた両手が力を失って、ボトリとベッドの上に音を立てて落ちた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 『願いが叶う』
それは私にとって、最も縁遠い言葉だった。
しずく 「…………はぁ」
雨の降る中、歩道の真ん中で傘もささずに立ち尽くす。安物だが耐水性のあるジャケットは雨水をある程度弾いてくれるが、手に持たれた台本はそうはいかない。
みるみる水分を含み、ずっしりと重くなる。
しずく 「私がやりたいのは、こんな役なんかじゃ」
傍らにゴミ捨て場があった。
そこをめがけて台本を持つ手を振りかぶり…… 振りかぶり……
しずく 「…………。」
そのまま、すっ…と、手を下ろす。
しずく 「……帰って台本読み、しよ」
びしょ濡れの台本をジャケットの内側にしまい、小走りで家路につく。
玄関扉の内側にジャケットを掛け、部屋が濡れないようにある程度衣服をその場で脱いで部屋に上がる。 東京某所にある、家賃8万円のアパート。
声優とアルバイトで日銭を稼ぐ私にとっては、これが限界だ。まぁ特に不便はしてない。お風呂もあれば、最低限の家具を置くスペースもある。
シャワーを浴びる前に、雨に濡れた台本を冷凍庫にしまう。こうすると元に近い状態に戻ると、どこかで聞いたことがあった。
暖かいシャワーを浴びながら、今日あったことを振り返る。久しぶりに掴んだ声優としての仕事は、私の理想とはかけ離れたものだった。
しずく (何を迷ってるの。今の私に、役を選ぶ資格なんて)
厳しい世界だとは、知っていた。
分かっていたつもりだった。だがこの世界に身を投じて、改めて実感する。 思い描いていたようなサクセスストーリーなど、限られた人間にしか訪れないのだ。
しずく 「分かってる……。けど…っ!」
浴槽の中で地団駄を踏む。
ある程度感情を発散した私は、体をよく乾かしてから、冷凍庫にしまっていた台本を取り出す。
しずく (まだ生乾きだけど、この調子なら明日には直ってそう)
台本読みをするため、机の上に今日渡された、とあるゲームの台本を広げた。
意を決して最初のページを開く。
しずく (うぅ……っ……やっぱり、無理…)
私の担当キャラのセリフは、1ページ目からある。
夢にまで見た、メインヒロインだ。
だが……。 しずく (こんな恥ずかしいセリフ…)
そこに書かれているのは、思わず顔を覆ってしまいたくなるようなセリフたち。
今まで何かを演じた時も、それこそ現実でも言ったことも零したこともない、声、言葉。
しずく 『……だめ…っ…です、…ぁ…っ……んっ』
お隣に聞こえないよう、小さな声で。台本とにらめっこしながら、セリフを読んでいく。
全身が火照る。
きっとシャワー上がりだからだ、そうに違いない。恥ずかしがってなんていられない、せっかく得た仕事なんだから。 しずく 『…くだ…さぃ…あなた…の、お…ぉち…』
しずく 『…ゎた…し、の……おく…に…っ…』
肝心なワードが言えない。
躊躇うな、桜坂しずく。ここで立ち止まったら、それこそこの先の可能性が潰えてしまう。
しずく 『…っ…はぁ…っ……あ…ぁっ…んっ…!』
徐々に声が震えを増す。
台本をなぞる指も、小刻みに震えていた。
しずく 『いやっ……ぁ…いっ……ぃく…っ…』
しずく 『あぁ……っ…ぁ……ぁっ…ぁっ…あぁぁ』
しずく 「あぁぁぁぁぁっ!!!!!」
耐えきれず、台本を再び冷凍庫に放り込んで布団に潜り込む。 隣の部屋から、壁を叩く音が聞こえる。突然大声を出したからだろう。
しかしそんなこと、私の耳には入っていない。
せっかく頂いた仕事。出会えたキャラクター。
こういうキャラを演じることを、想像すらしていなかった。でも向き合わなきゃいけない。
しずく 「私、どうしたら……」
そんな葛藤はやがて睡魔へと変わっていき、シャンプーの良い香りに包まれたのもあって、すぐに私は深い眠りに落ちていった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 「硬いね、声が」
しずく 「す、すいません…」
アフレコをする私に、コントロールルームににいるディレクターからダメ出しが入る。
やれやれ、と言いたげな表情で、肩を大きく上げてため息をつく。一旦マイクの電源が切られたので、その声は収録ブースにいる私には聞こえないが、気持ちは十分伝わってくる。
まだ冒頭のシーンだというのに、既に7回目の録り直しだ。私自身でも、自分の出来なさ加減に焦りと苛立ちが出てきた。ディレクターの身ともなれば、それもひとしおだろう。
「ヤったことないの?」
しずく 「えっ!? ……その、それはつまり…」 「セックスだよ、セックス! 経験ないの?」
しずく 「はっ…はい…、その、まだ…で…」
セクハラ気質のあるディレクターだとは、マネージャーから事前に聞かされていたが、まさかここまで直接的とは。
「はぁ…。だから自然な出し方とかが分からないんだ。そこのマネージャーとでも経験したらどうだ」
こんなことまで言い出す始末。
相当苛立っているのだろう。私はというと、羞恥心や怒りよりも、罪悪感が強くなってきた。
「申し訳ありません、少しお時間いただけますか」
そう切り出したのはマネージャーだった。 ペコペコと頭を下げ、私にアイコンタクトを送る。一回落ち着こう、とでも言いたげだ。
収録ブースを出て、自販機が2つ置かれている、ちょっとした休憩スペースに腰かける。
「…はい、コーヒー」
しずく 「ごめんなさい、今日はブラックの気分で」
「じゃあ俺の分飲みなよ、ほら」
しずく 「……すいません」
マネージャーが飲むはずだったブラックの缶コーヒーを受けとり、ゆっくりと啜る。
マネージャーは微糖のコーヒーを「あっっまぁ…」と愚痴を零しながらチビチビと飲んでいた。 「やっぱり、やめとこうか」
しずく 「ブラック、買い直します?」
「コーヒーじゃないって、役の話」
しずく 「ふふっ、分かってます。冗談ですよ」
「…ディレクターも本気であんなこと言ってるわけじゃないんだ、分かってくれ」
しずく 「承知してます。悪いのは私ですから」
「降板、するか?」
しずく 「それは…なんだか逃げてるみたいで」 「逃げじゃない。時にはそういう判断だって必要だ」
しずく 「時には、ですか。マネージャー、私がまともな役を貰えたの、何ヶ月ぶりですか」
「……ほぼ半年」
しずく 「そうです。時にはも何も、私は取捨選択できる立場ではないんです」
「そこは俺のマネジメント不足だ。すまん」
しずく 「いえ…」
しばらく、2人のコーヒーを啜る音だけが休憩スペースに虚しく響く。空になった缶を捨てるためゴミ箱へと歩きながら、マネージャーが呟く。 「……誰にだってなれる」
しずく 「え?」
「俺がしずくの担当になったときに言ったことだ」
『しずくさんは、誰にだってなれる!』
しずく 「あぁ…。あの時はまだ“さん”付けでしたね」
「そこはいいだろ別に……」
しずく 「…誰にでもなれる、ですか。私もそう思ってました」
「俺は今でも思ってるぞ。そういう可能性を感じたからこそ、事務所もしずくを選んだんだから」
しずく 「ご期待に添えず…」
「まだ何も始まってないだろ」 戻ってきたマネージャーが、座っている私に目線を合わせるため屈む。こう改めて見ると、真っ直ぐな眼をしている。
「しずくは誰よりも頑張ってる。それは他の誰よりも、俺と、しずく自身が一番知ってる」
しずく 「…一番が2人いますけど」
「それくらい担当のことを理解してなきゃ、マネージャー失格って話だ」
しずく 「確かに、マネージャーは誰よりも私のことを想ってくれています。だからこそ、その期待に応えられない自分が悔しくて…惨めで…」
「いいんだよ、それで」 しずく 「いい……って?」
「そういう気持ちが、役者にとって一番のバネになる。今は溜めてるんだよ」
「溜めて、溜めて。今しずくのバネは、ギッチギチに押さえ付けられている」
しずく 「私のバネ、ですか」
「あとは解放するだけだ。そうすれば、誰よりも高く飛び上がるさ」
「憧れのアイドル声優への道だって、楽勝だ」
しずく 「アイドル声優……」
アイドル声優、それは私の夢。一番の願い。 高校生の頃、せつ菜さんが瞳を輝かせながら見せてくれた一本の動画。
とある、アイドル声優グループのライブ。
舞台や、アイドルのライブを色々と見てきた私でも、声優のライブというのはそれが初見だった。
それはまさしく衝撃。脳天からかかとまで、一直線に稲妻に打たれたような。
気がつけばせつ菜さんから携帯を奪い取って、食い入るように見ていた。
ステージに立つ彼女たちのシルエットは、もはや画面に映し出されたキャラクター達そのもの。皆、自分が演じているキャラクターを表現しようと、全身を使って艶やかに踊っている。
だが、ただそのキャラクターを模しているだけではない。基盤はキャラクターにありながらも、それぞれの持ち味を活かして、立派な演者として舞台に立っていた。 溢れんばかりの歓声、熱気。携帯の画面越しでも伝わってくる、彼女達の情熱、愛情。
せつ菜 「ちょっと、私にも見せてくださいーっ!」
しずく 「…………! ……っ……!!」
瞬きの一瞬すら惜しい。
片時も目を離したくない。
曲がサビに入ると、リーダーであろう声優がアップになる。今でも私の憧れである、現在では声優界のトップに君臨する彼女を、初めて認識した瞬間だった。
彼女がカメラに向けて放ったウィンクが、私の心臓を骨ごと撃ち抜いた。 しずく (ここだ…! ここにあった……!)
しずく (私の理想……追い求めていた役者像!)
しずく 「せつ菜さん!!」
せつ菜 「わわっ!?」
気付けば、せつ菜さんの両手をスマホごと強く握っていた。私の豹変ぶりに、せつ菜さんは目を丸くして驚き固まっている。
しずく 「私、声優になります!!」
せつ菜 「ええっ!?!!?」
しずく 「これなんです! これが私の探し続けていた、役者像! こんな世界があるなんて……!」 せつ菜 「えっ、えっと……お役に立てて、よかったです……?」
しずく 「あぁぁ、こうしてはいられません! やはり、養成所とかあるのでしょうか? 色々教えて頂けませんか!?」
せつ菜 「わ、私もそこまで詳しくは…」
しずく 「大丈夫です、私は全くの無知ですから! さぁ、行きますよ!!」
せつ菜 「えぇっ! ちょっと、練習はーー!!?」
それから、あのせつ菜さんを振り回す人が現れたと、同好会内でちょっとしたニュースになった。 今思えば、あの日々はなんとキラキラしていただろう。目に見えるもの全てが新鮮で、煌びやかで、夢に満ち溢れていて。
それに比べて今の私はどうだ。
どこまで続くのか分からない霧の中。
どこに向かえばいいのか分からず、ただがむしゃらに進んで。だが唯一現れた光を、私は怯えて掴もうともしない。
こんな状態では、掴める夢も掴めない。
叶えられる願いも叶えられない。
しずく 「私は…………私は…………」
「…しずく?」
しずく 「っ!」
ハッ、と我に返る。
いけない、また昔の事を思い出していた。 「これは大きなチャンスだ。しずくの力を見せつけて、一気に名前が売れれば」
しずく 「…願いが、叶う?」
「そうだ。アイドル声優になるには、やっぱり知名度は必要だ。ここがしずくにとっての登竜門だ」
しずく 「…ふふっ、そうかもしれませんね」
残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
ゴミ箱へと狙いを定めて、ダーツを投げるように空き缶を放つ。
真っ直ぐと綺麗な線を描いて飛んでいく空き缶。
ボスッ、と穴に綺麗に収まる。マネージャーが指で押し込むことで、缶は底の方へと落ちていく。 「…どんな時でも背中を押す。任せろ、そのために俺がいる」
しずく 「…はいっ。戻りましょう、マネージャー」
その日の収録は、大成功と言っても過言ではなかった。戻ってからはほぼ全てのセリフが一発でOKが出て、ディレクターの口角もみるみる緩くなっていった。
収録後は飲みに誘われ、役者陣とスタッフ揃っての打ち上げとなった。その場でディレクターが「次も起用させてもらう」と言ってくれたことに気を良くして、ついついお酒もすすんだ。
マネージャーに家まで送ってもらい、溶けるように眠りにつく。 その日の布団は、やけに温かかった。
まるで登竜門を登りきった私を、労うかのように。優しい温もりだった。
ここからだ。ここから私の夢の道は始まるんだ。
――そう信じていた。
信じてやまなかった。
その時は。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 本日はここまでとさせていただきます
これから毎日更新していきますので、何卒よろしくお願いします 現代でエロゲ声優からドル声優になった前例は無いのでは……?
桐谷さんはドル売りしてないし 都内でも月8万する狭いアパートって立地が贅沢なの…?
実は割と売れっ子なのでは…? 申し訳ありません。毎日更新と言ったのですが、日曜日の更新が難しくなってしまったので、本日まとめて完結まで投下します
突然の予定変更、すいません しずく 「あいたたた………」
結局目が覚めたのは、昼の2時過ぎだった。
服装は昨日のまま。シャワーはおろか、着替えもせずに眠りについてしまったようだ。
寝るのに適した服装ではなかったのと、寝相が悪かったせいか、起き上がろうとした時に関節痛のような痛みが走る。
何故か主に下半身が痛い。傍にあった棚に手をつきながら、よろよろと洗面所に向かう。
しずく 「メイクも落としてないし……ぅ…ぉぇ…」
次に来たのは頭痛だ。
無重力空間にいるかのように、ふわふわとして焦点も定まらない。 トイレに駆け込んで、痛みや気持ち悪さを全て形にしてぶちまける。
一時的に少し楽にはなったが、このままでは一日ベッドの上で過ごすことになりそうだ。
しずく (酔い止め…なんて持ってないしなぁ)
今月も財政面はギリギリだが、仕方ない。シャワーも取り敢えずは後で。まずは薬局に行こう。
髪だけは軽く整えてから玄関扉を開けると、ちょうどインターホンを押そうとしていた人物と目が合った。
「おわぁっ……!?」 しずく 「ま、マネージャー?」
「奇遇だな…。いや、昨日相当辛そうだったから、大丈夫かなぁと」
しずく 「いぇ…ダメそうで。今、薬を買いに行こうと思ってたところです」
「ならちょうど良かった。二日酔い用の薬持ってきたんだ、あがってもいいかな」
しずく 「…! 助かります、どうぞ」
助かった。薬の値段って馬鹿に出来ないから。
「お邪魔します…っと。ほらコレ、薬」
しずく 「すいません…。いいんですか? こんなに沢山」 渡された薬は、1枚のシートに30錠ほど入っているものだった。取り敢えず今日の分があれば何とかなるので、こんなに頂くのは申し訳ない。
「二日酔い用の薬と言っても、特殊なやつだ。毎日欠かさず飲めば、ある程度酔いに耐性がつくよ」
しずく 「へぇ…」
「まぁ、これからああいう機会も多くなるだろうしさ。ある程度酒に強くなるに越したことはない」
しずく 「そうですね、では遠慮なく」
一粒取りだしてコップに注いだ水と一緒に流し込む。薬を飲んだという事実だけで、取り敢えず気分が楽になる。プラシーボ効果なのだろうが、それでも十分だった。 しずく 「でも、本当にすいません。ご心配をおかけして、その上わざわざ来ていただいてしまって」
「あー、それなんだけどね。要件は薬だけじゃないんだ」
しずく 「と、言いますと?」
口笛を吹きながら、マネージャーはカバンから一冊の台本を取り出した。
「いい知らせだ。次の仕事が決まったぞ」
しずく 「…っ! 本当ですか!?」
「それにまたメインヒロインだ。大抜擢だぞ」
ウキウキしながら、マネージャーから台本を受け取る しかし、1ページ、また1ページと捲る毎に、私の表情は曇っていった。
しずく 「…また、こういう役ですか」
「今度はプロデューサー直々のご指名だ。断るわけにはいかない」
しずく 「指名…、私をですか?」
「そうだ。昨日の収録を見てピンと来たんだろ。ずっとcvを誰にするか迷っていたらしいが、オーディションもすっ飛ばしていきなり採用だ」
しずく 「…気持ちは嬉しいのですが、どうしてもまだ乗り気にはなれなくて」
「おいおい、こんな機会滅多にないぞ?」 だらりと垂らしていた手を、マネージャーさんの大きな手のひらで握られる。
男性に突然触れられたことに少し戸惑ってしまったが、相手が信頼出来るマネージャーだからか、嫌な気分にはならなかった。
「それにこれは大きなコネになる。いずれもっと大きな役を決める時に、有利になれるかもしれないんだ」
しずく 「コネ、ですか。私はやっぱり、ちゃんとした実力で役を掴み取りたいです…」
「確かにそれが一番だが、そうは簡単にいかないのがこの世界だ。しずくだって分かるだろ?」
しずく 「それは…っ」 実際マネージャーの言う通りだ。
どんなに実力があっても、見つけて貰えなかったら意味が無い。それが現実だ。
しずく 「…これも願いを叶えるため、ですもんね。分かりました。やりますっ、私!」
「よしっ! その意気だ。…………っと、失礼」
マネージャーの携帯が鳴る。
電話の相手は、例のプロデューサーだった。先日の収録の時のように、ペコペコと頭を下げながら通話していた。
相手がお偉いさんとなると途端に態度がガラッと変わるのも、どこか可愛げがある。
「えぇ、えぇ…ちょうど今確認をとったところでして。是非引き受けさせて頂こうと…!」 「はいっ…、はい! ありがとうございます、よろしくお願いします」
電話を切り、振り返って私と目を合わせる。
「収録は来週の金曜からだ。初日は休憩も挟みながら一日通してやるみたいだから、空けといてくれ」
しずく 「はい、分かりました」
「んじゃ、俺は事務所に戻るから。取り敢えず今日は、ゆっくり体を休めておけ」
しずく 「はい。お薬とか色々、ありがとうございました」
軽く笑みを返して、マネージャーは私の家をあとにした。
言われた通り布団に潜ってじっくり休もうとした時、あることに気がついた。 しずく (……なにこれ、タバコの匂い?)
マネージャーの香り? いや違う、マネージャーは喫煙者ではなかったはずだ。
布団にタバコの匂いが、ほのかに染み付いている。私自身、あまり煙草の匂いは得意でない方なので、この環境で眠るのはなかなか厳しい。
しずく (服のまま寝たせいかな…きっと。居酒屋で結構プロデューサーに隣で吸われたし)
消臭スプレーを5、6回吹きかける。気休め程度だが、十分だろう。お給料が入ったら、クリーニングにでも出すか、買い換えるかしよう。
応急処置を施した布団に包まった瞬間、今度は携帯の通知音に邪魔された。
寝て起きてから確認する手もあるが、性格上こういうのは気になって仕方がない。 しずく (…愛さんからだ)
通知があったのは、同好会のグループLINEだった。卒業してからしばらくたった今でも、たまに連絡を取りあっている。
愛 < みんなー! 愛さんそろそろみんなに会いたすぎて寂しくなってきちゃった!
歩夢 < 私も! またみんなで飲みに行こ〜
果林 < じゃあ予定合わせて行きましょ
こうやりとりしていると、高校時代に戻った気分だ。他愛もない冗談を時折言い合ったりしながら、みんなが集まれそうな日を探す。
…最終的に決まったのは、来週の金曜日だった。
収録と同じ日。 エマ < やっぱり、また今度にしよっか?
しずく < いえ! 私の事は気にしないでください
かすみ < 社会人になると、なかなか10人全員とはいきませんね
今回は仕方ない。またの機会にみんなに会いに行こう。別に今しか会えない訳じゃない。
果林 < それにしても収録だなんて
せつ菜 < もう立派な声優さんですね! ちなみに、どんな役に決まったんですか!?
しずく 「……っ」
せつ菜さんにそう聞かれ、言葉が詰まる。
守秘義務があるのはもちろんだが、それ以上に… しずく < ごめんなさい、そこは守秘義務が…
せつ菜 < あっ、そうですよね! ごめんなさい
彼方 < アニメかな? 放送されたら絶対見るね〜
しずく < はい、ありがとうございます
しずく 「……はぁ」
携帯を枕元に軽く放り投げる。
…このままでいいのだろうか、本当に。
自信を持って 「私はこの役を担当しました!」 と言えないなんて。それは声優、役者として失格ではないか? キャラクターは私自身なのだ。私が彼女のことを受け入れなければ、誰が受け入れるというのか。
役を愛してこそ、役者と言えるのではないのか。
しずく (今の私は……本当に)
しずく (本当にこの役を好きでやってるの?)
…深く考えるのは辞めよう。
しずく (マネージャーも言ってたでしょ。今は下積みが必要な時期、役を選んでる場合じゃない) しずく (今できること、与えられた仕事を全力でやろう。そうすれば、いつか私の願いも…)
しずく (きっと、きっと……!)
叶う。絶対に。
願いとは、信じる者のみが叶えられるものだ。
自分に強く言い聞かせ、祈るように瞳を閉じる。
気がつけば、深い眠りに落ちていた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 収録日当日。
予定よりも結構早くスタジオに到着してしまった。マネージャーもまだ来ていないらしい。
しずく (少しくつろいで待ってよう。確か休憩スペースがこっちの方に…)
「…しずくって娘の話、聞いた?」
しずく 「…っ?」
「今日一緒に収録する娘でしょ? それが?」
「アイドル声優になりたいって言ってるらしいよ」
しずく (あの2人はたしか…) 打ち合わせの時に名前を聞いて、調べた人にそっくりだ。さっきの会話から察するに、今日一緒に収録する人達とみて間違いないだろう。
まるで内緒話をするかのように、ヒソヒソと私のことを話している。何かやましいことがある、そう言いたげな雰囲気で。
「それ本当!? いやいや、無理でしょさすがに」
「だよね? こういう役受け持っておいて、夢見がちというか」
しずく 「あ、あのっ!」
「あなた…しずくちゃん、だよね?」 しずく 「どういうことでしょうか…その、アイドル声優になれない、って」
「…聞かれてたか」
「いやいや。現実の話よ、現実の」
しずく 「現実…?」
「アイドル声優ってのはさ、経歴も大事なわけよ。どんだけ実力があっても、ソイツの過去次第で不採用ってことも有り得るの」
しずく 「そ、それと私に何の関係が…」
「前回も今回も、エロゲの担当したでしょ? アイドル声優にとって、この経歴は痛すぎるの」
しずく 「で、でも…! アイドル声優になるには、知名度も必要だって!」 「方法ってもんがあるでしょ。正直、諦めた方がいいかもね」
「まぁ、このご時世だから。仕事があるだけでも御の字だよ」
しずく 「そんな…っ、そんなの…嘘…です…」
私の唯一の願い、それが音を立てて崩れていく。
それがあったから、しがみつけた。この仕事を続けることが出来た。どんなに仕事が貰えなくても、どんなに不服な役でも。 「それにアンタ、噂になってるよ。あのセクハラプロデューサーと……」
「……ってあれ、いない…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー しずく 「はぁっ……はぁっ……」
自然とスタジオから走り去っていた。
この後収録がある? 逃げてもどうにもならない?
わかっている、そんなこと。
でもあれ以上、あの場所に居られなかった。
しずく (…先輩は教えてくれたんだ。親切に)
しずく (叶わない願いを追い続けさせるほど、残酷なことは無いっ…だからこそ)
しずく (私が傷つくことを承知で言ってくれたんだ。それなのに…それなのに…っ!) しずく 「……ぅぁ……あぁあ……ぅぁぁ……っ…!」
「……しずく?」
しずく 「…っ、マネージャー」
「どうしたんだこんなところで、取り敢えずほら」
渡されたハンカチで涙を拭く。
マネージャーは何があったのか分からない、といった様子でアタフタしていた。
そんな微笑ましい姿を見て、何故か少しだけ元気が出た。
しずく 「…ぷふっ、慌てすぎですよマネージャー」 「無理もないだろ、こんなスタジオから離れた公園で一人泣いてるのを見かけたら…」
しずく 「…ごめんなさい」
「何があったんだ、聞かせてくれないか?」
しずく 「…それが」
〜〜〜
しずく 「ということがあって」
「…そうだったか」
しずく 「私、もうなれないのでしょうか…。アイドル声優には」 「そんなことない」
しずく 「でもっ、先輩方が言ってました! 経歴も大事だって。一度こういう役を担当したら、もう二度と…」
「大丈夫だ、その辺の対策はしてある」
しずく 「対策…?」
「今回は芸名で登録してある。いざアイドル声優になれるチャンスが来たら、本名なり、別の芸名で挑戦すればいい。だろ?」
しずく 「芸名…そうでした」
「しずくのレベルなら、声の使い分けだって自由自在だ。きっとうまくやれる」
しずく 「……信じて、いいんですよね?」 「…当たり前だ。一番信頼出来る人間にならなきゃ、マネージャーは務まらない」
しずく 「…そう、ですよね。ごめんなさい」
「いいんだ。さ、戻ろう」
…やっぱり、マネージャーが一番私のことを想ってくれている。私の願いを叶えるため、一緒になって色々考えてくれて。
この人だけだ。この人だけが、私が心から信頼して、ついていける存在。 この人に出会えて、本当によかった。
この人について行けば、きっと大丈夫。
何もかも――。
しずく (あっ、そういえば…)
この間貰った薬、今朝飲み忘れていた。
あとでちゃんと飲んでおこう…。
ーーーーーー
ーーーー
ーー 続きから完結までは、本日の夜にまた投下します
よろしくお願いします 胸糞ストーリー感を察知した
マネージャーに薬盛られてプロデューサーにヤられてたってオチ
苦手な人は待避推奨 >何故か主に下半身が痛い
すでにヤられてるじゃん
解散 エロゲ出て顔出ししてる子が売れっ子になる●RECは漫画とはいえ凄い違和感あったな 昏睡レイプさせるためだけに男出したのか
それってラブライブ!キャラ使う必要ある?
気分悪いわ 多分俺が想像してる作者でまちがいないとおもうんだけど
これがこの人の作風だからね、仕方ない
好きな人が楽しめばいい しずくと彼方の話かと思って期待してたんだが違う感じか しずく 「……んっ………ふ…っ……んぅ…っ…」
体が小刻みに揺さぶられる。
脳内はずっとふわふわしていて、視界もぼやけて自分が今どこにいるのかも中々理解できない。
しずく (たしか収録が終わって、打ち上げを…)
私の体を、何者かが強く抱きしめる。
介抱してくれている? 酔っ払った私を?
しずく 「ま、……まねー……じゃ…ー……?」
そっと腕に触れてみる。
男性らしい、ゴツゴツとした感触。表面は汗でベタついて、彼が動く度に、ふわっとタバコの香りが漂う。 しずく (……たば…こ?)
……違う、マネージャーはこんなにガッシリとした体格ではない。それにタバコも吸わない。
そう思った瞬間、私の意識は覚醒した。
しずく 「…っ、誰っ!!?」
サッと男から離れる。
…一つ一つ、状況を整理する。 男は裸だった。そして、私も。
私の家の、私の布団の上で、二人きり。
……そこにいたのは、プロデューサーだった。
しずく 「ひっ…! ど、どうして…っ!!」
「あららぁ、目覚めちゃったか」
しずく 「なんでこんなこと…! 人を呼びますよ!」
「なぁに言ってるの。これが初めてなわけじゃあるまいし」
しずく 「初めてじゃない…? 何言って…」 そう言いかけた時、またタバコの匂いが漂ってくる。プロデューサーの体に染み付いた香り。
その香りには、身に覚えがあった。
しずく (……あの日、布団に染み付いてた…)
しずく 「まさか…っ」
「そうだよ、前も酔いつぶれたしずくちゃんをここまで運んで、一夜を共にしたじゃないか」
しずく 「……っ!!!」
震える手で、カバンから携帯を取り出してマネージャーに電話をかける。その様子を、プロデューサーはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら見ていた。 しずく 「マネージャー…っ……出て、お願い…!」
『…しずく? どうした、こんな夜遅くに』
しずく 「…! マネージャー、助けてください! 私の家にプロデューサーがいて、私っ、私っ!」
『なぁんだ、お楽しみ中だったか』
しずく 「………………は…?」
『そうだ、しずくにお礼を言わなきゃいけないんだ。うちの事務所の新人のことなんだが』 しずく 「まって、さっきから……なにを…」
『晴れてアイドル声優としてデビューが決まったよ。そこにいらっしゃるプロデューサーのご指名でね』
しずく 「マネージャー…?」
『しずくがプロデューサーの相手をしてくれたおかげだよ。前にも言ったろ? この業界、コネも必要だって』
『うちの新人、顔も声も申し分なかったんだが、なかなか芽が出なくてね』
『そんな時だ。プロデューサーがしずくのことを気に入ってね。俺に取引を持ちかけてきたんだ』
しずく 「取引……?」 『しずくを好きにしていい代わりに、うちの新人をデビューさせてくれる、ってね』
しずく 「…………は…………ははっ……」
『ま、そういうことだ。大丈夫、しずくの仕事の保証もするさ。食っていける分は稼げるよ』
『じゃ』とだけ言って、電話は切れた。
その時の私は、どんな顔をしていただろう。
泣いていただろうか。怒っていただろうか。
……でも。
しずく 「……は…っ……あは……っ…あはは…」 声は笑っていた。
無理やり自我を保たせるように。
「話は終わったかい? さ、続きをしようか」
ゆっくりと、プロデューサーが近付いてくる。
自分でも薄気味悪くなる笑みを浮かべながら、最後の抵抗と言わんばかりに玄関に向かってよろよろと逃げる。
「おいおい、こんなもの飲んでおいて、今更拒否するのかい?」
しずく 「……?」 プロデューサーが手に持っていたのは、私がマネージャーに言われ毎日飲んでいた “酔い止め”。
「アフターピルだろ、これ」
しずく 「……ぴ、る…」
「準備万端じゃないか、えぇ?」
……あぁ、そうだったんだ。
本当に、マネージャーは私を売ったんだ。 最初から、そのつもりで。
『しずくさんは、誰にだってなれる!』
…ねぇ、マネージャー。
私は、あなたにとっての何だったんですか?
ーーーーーー
ーーーー
ーー 『次のニュースです。東京都内で発生している、無差別殺人事件、その続報をお伝えします』
「…最近は物騒だなぁ、しずくちゃんも気をつけないとだよ?」
しずく 「………………。」
プロデューサーは一通り行為を終えたあと、私の部屋でタバコを吸いながらテレビを見ていた。
私は布団の上で裸のまま、何をする訳でもなく、何を考えるわけでもなく項垂れていた。
『犯人は依然捕まっておらず、警察は情報提供を呼びかけています』
しずく (……どうせなら、私を殺してくれればよかったのに) しずく (そしたら生まれ変わって、もっといい人生を…)
未来ある人々が犠牲になるくらいなら、私のような、もう何もかも絶たれた者が被害に遭う方が何倍もいい。
犯人もそれで満足するし、人の為になる。
…いや、それさえも馬鹿馬鹿しい。
私を殺したせいで罪に問われるなんて。
生きる価値のない人間を殺して罪に問われるなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことがあるだろうか。
しずく (……もう、いい)
「…? どうしたんだ、しずくちゃん」 しずく 「ちょっと出てきます。帰るなら、玄関は開けっ放しでいいですから」
「ふぅん…じゃ、行ってらっしゃい」
ぶらぶらと外を歩く。特に目的もなく、彷徨う。
風が冷たいとか、天気がいいとか、そんな周りの環境のことでさえ頭に入ってこない。
まるで幽霊にでもなったかのように。
しずく (……最後に、みんなに会いたい)
虹ヶ咲のグループに、メッセージを送ってみる。 しずく < 今日、みんなで集まれませんか?
かすみ < ごめんなさい、厳しいです(>_<;)
果林 < 私もこの間ので有給使っちゃったから、しばらくは難しいわね。ごめんなさい
歩夢 < 私も、この時期忙しくて
次々と、断りのメッセージが届く。
私の存在を否定するかのように、次々と、次々と、次々と。
しずく (…もう必要とされてない。誰からも)
しずく (結局、願いは1つも叶わなかった)
しずく (…お父さん、お母さん、ごめんね) ふと車道を見ると、何台もの車が明らかに制限速度をオーバーした速さで走り抜けていく。
住宅街からも離れ、ほぼ一直線なこの道路では、皆スピードを飛ばしがちになる。
しずく 「…………っ」
彼方 「しずくちゃん?」
一歩踏み出そうとした時、私を呼び止める人が現れた。
彼方 「やっぱり、しずくちゃんだ。久しぶり〜」
しずく 「彼方さん…」 彼方 「ダメだよ、ちゃんと横断歩道のところで渡らないと。危ないよ?」
しずく 「…はい」
彼方 「なにか悩んでる、でしょ」
しずく 「いえ、そんなこと」
彼方 「あ〜、誤魔化そうとした。ダメなんだぞ、彼方ちゃんの前で嘘をつくなんて」
しずく 「嘘、ですか」
彼方 「しずくちゃんの気持ちはお見通しだよ。なんてったって、彼方ちゃんはみんなのお姉ちゃんだからね」 しずく 「お見通し……本当に、分かりますか?」
彼方 「詳しい事情までは分からないけど、困ってるのは分かるよ。彼方ちゃんでよければ、お話聞くよ?」
しずく 「…いえ、いいんです。こんな話したって、彼方さんを困らせるだけですらから」
そうだ、何をしている。
彼方さんや虹ヶ咲のみんなに迷惑をかけてまで、生きる必要なんて私にはないんだ。
早く、早く……名残惜しくなる前に。
しずく 「…もう、決めたことなんです」 彼方 「決めた…? しずくちゃん、一体」
しずく 「最後に、彼方さんとお話出来てよかったです」
彼方 「最後、って。彼方ちゃんはしずくちゃんがそんな顔してる限り、ずぅっと付きまとうよ〜」
しずく 「……ふふっ」
…ありがとう。
私のことを本当に想ってくれたのは、マネージャーなんかじゃなかった。 私は、ついていく人を間違えた。
取り返しのつかない過ちを犯した。
…もし、もっと早くこのことに気づけていたら。
しずく 「もっといい人生になってたかな」
彼方 「しずくちゃ………」
飲み終わった空き缶を捨てるように、自分の体を投げ捨てた。車道へと放られた体に、轟音を立てながら車が突っ込んでくる。
しずく (…生まれ変わったら、もっといい人生でありますように) 彼方 「しずくちゃんっ!!!」
しずく 「っ!?」
彼方さんまで車道に飛び出す。
一体何を? 何をしているの。
放っておいて、私のことなんて。私のために命をなげうつなんて、馬鹿馬鹿しすぎる。
……私の願いも虚しく、車は彼方さんごと私の体を突き飛ばした。
宙へ舞う私と彼方さんの体。薄れゆく意識の中、必死に彼方さんに手を伸ばす。
しずく (…どうか、どうかこの人だけは助けてください) しずく (私の願い。ただの1回も叶うことのなかった、私の願い)
しずく (1つでいいんです。たったの1つで)
しずく (この願いさえ叶えば、私は満足です。私のためなんかに命を落とすなんて、あんまりだ)
しずく 「……彼方さんを、助けて…」
ーーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー 果林 「彼方っ!!」
エマ 「彼方ちゃんっ!!!」
失っていた意識が元に戻った。
ナースコールで呼ばれた看護師さんと、果林さんとエマさんが、名前を呼び続けていた。
果林 「よかった…! 意識が戻った…!」
エマ 「彼方ちゃん、大丈夫なの…っ?」
…………違う、違う。
全て思い出したんです、私。 激しい頭痛に襲われ、意識を失ったあいだに流れ込んできたのは、私たちが病院に運ばれたあとの記憶。
『…ダメだ、彼女はもう助からないっ!』
『そんな、先生っ!』
『脳へのダメージが大きすぎる。問題はもう1人だ。脳へのダメージはほとんどないが、体の傷が酷すぎる。とても蘇生できるものでは…』
『…2人とも、助からないんですか?』
『方法はある。“脳の移植”だ』 『っ!? しかし先生!』
『わかっている、前例のないことだ。しかしやるしかない、一人だけでも救うんだ! 全責任はわたしがとる!!』
『……しずくさんの脳を、彼方さんの体へ!』
しずく 「……うぅっ……あぁぁ……っ……!」
果林 「彼方…」
エマ 「彼方ちゃん…っ!」
1つでいい。たった1つでいいから、願いを叶えて欲しい。そう祈った。
散々な人生だった。だから、せめて最後くらい叶えてくれてもいいじゃないか。 どうして、どうしてよりによって……。
しずく 『生まれ変わったら、もっといい人生を』
こんな願いばかり、叶ってしまうのか。
しかも、考えうる限り最悪の形で。
しずく 「どうしてっ…! どうしてどうしてっっ!」
果林 「彼方、落ち着いて…!」
しずく 「違うッ!!!!!」
エマ 「彼方ちゃん……?」
しずく 「違うんです…っ、私は、私は…!」 …待て、言っていいのか? 本当に。
真実はあまりに残酷だ。
勝手に自殺しようとした私を庇って、結果、関係の無い彼方さんだけが……。
しずく 「……私は…」
遥 「お姉ちゃんっ!!」
果林さんやエマさんのように、病室に駆け込んできたのは、彼方さんの妹の遥さんだった。
遥 「よかった…! お姉ちゃんが無事で。お姉ちゃんに何かあったら、私っ、私……!」 しずく (……あぁ、そうか。答えは決まってた)
彼方さんは、みんなに必要とされている。
こんな私と違って。
しずく (…………なら、演じよう)
なにせこれが、私の唯一の取り柄だから。
ーー彼方さん。私が、演じきってみせます。 これにて完結です
お付き合い頂きありがとうございました ええー、ここからじゃないのか……
最初に彼方として呼びかけに応じてたし、彼方の意識もどこかで生きてるんじゃないかってワクワクしたんだが 今やってるしずく系と同じような話だと思ってたけど撤回するわ
2度と書くな これかなしずの意味ある??
ラスト誰とでも成立するよね?特に仲良かった伏線も描写も無いし 最初の目が覚めた患者の病室に人が来て自殺した人のことベラベラ話すって時点で違和感すごい
キャラを酷い目に遭わせたいだけじゃないの 夢破れたしずくとかは見てみたいけどここまで来るとちょっと 誰からも褒めてもらえないから>>119,123と自演で乙レスしてるのが泣ける ラブライブキャラである必要性が全くない糞ss
チラシの裏にでも書いてろ なんだろう、「こういうの」が書ける自分に酔ってるのかな?単純に下手 胸糞だししゃーない
彼方ちゃん登場から終わりまでの雰囲気はもしろかった スクスタのメインストーリーを称賛してないものだけがこのスレを叩きなさい 胸糞にすらなっていよ薄味すぎて
これだけ定番の鬱ネタ詰め込んどいてオチにも何の衝撃もないのは才能 騒げば騒ぐ程、1の作風にインパクトがあるって言ってるようなもの >>135
ねーよ
さんざ使い古しのネタをまだフレッシュな虹キャラでやってこの程度な失望だよ
冒頭で鬱期待したのに調理下手すぎんよ 簡潔に言えば今回のSSはしずくさんの絶望感が平行線のままオチた感じです!
ぶっちゃけ微妙でした!
胸糞SSじゃなくてクソSSです!
ごめんなさい!
もう少ししずくさんの苦しさを描いて
Pへの依存しそうな心の乱れるしずくさんを描いて
頑張ろう!そう張り切ったしずくさんにレイプが発覚する
彼の喜びは自分を見ていなくてそれどころか嘲笑のようなもので…
絶望に浸るしずくさんをやはりマネージャーは嬉々として抱くんです
そして…
このくらいは中間に入れるべきでしたね!
次回も胸糞SSを書くなら少しはましになっていることを期待してます! それにしてもブラックジャックにこんな話なかったっけ? 悪くないけど良くもないんだよなぁ
なんかもったいないSSだったけど乙でした これから彼方の身体での狸寝入り生活が待ってるんだな >>142
何それ?
記憶よりキモ過ぎる
ググれば顛末分かる?
まぁそんな事より俺の脳味噌を果林に移植してほしいぞ ラブライブである必要もかなしずである必要もないかもしれないが、桜坂しずくである必要はあるから、僕は面白いと思った。 俺が読み落としただけかもしれないけど、
しずくの年齢がいくつくらいなのか早い段階でわかるようにしてほしい
説明がないと高一だと思うから、飲酒や現場のデリカシーのなさに怒るよりも戸惑わされる >>145
最初のほうの果林の「卒業してから」ってセリフで数年後の話なのがわかる
一人暮らし・声優・バイトで卒業後の話かなって予想できる
回想時に高校生の頃って言ってるから今は高校生じゃないってわかる
これでも足りんか? >>143
確か雪崩って話俺が思い出したのかその話であって他にも脳を移植する話はある ナダレの話はシカの脳をシカの腹に移して成長させたらヤバくなったって話で、別の者に移植した話じゃない
人間の脳の移植は身体が全部ダメになった人の脳を脳死した人の身体に移したって話で、乗っ取りみたいな感じではない ググって見つかったのは脳死した馬好きの少年の身体にその愛馬の脳を移植した話だった
後、今の外科技術だと脳が他の器官より著しくダメになるのが早いから、維持に必要な血管、神経を繋げるまで持たないらしいな このスレを読んで以来、しずくと彼方の顔を見る度に胸がキュッと締めつけられる感じがするw ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています