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黒澤ダイヤと三年間
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0001名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/06/26(金) 11:58:19.89ID:FMFLgL/Y
私が浦の星女学院に通おうと決めたのは幼少期から隣人である幼馴染がきっかけだった。
どの高校にするべきか、それなりに近いし静真でいっか。などと軽視していた私をよそに、
浦の星女学院、略称では<浦女>の情報を見ていた幼馴染は、唐突に言ったのである。

「私、浦女にするね」

確かに近所の高校ではあるので、別に中学生の浅はかな怠惰さにおける進路希望としては間違いじゃない。
しかし彼女は「記念になりそうだからさ」と明確な理由があるように言う

そしてそれはもう大層嬉しそうに「ここは廃校になるね。間違いなく」と断言して「ここに行く」と言ったのだ

卒業後か、在学中か
とにかく廃校になって世界から消えてしまった高校の生徒という肩書に魅力を感じるお年頃なのだそう。

正直、私にその気持ちは理解できなかったけれど、
幼馴染とは幼稚園から今日にいたるまでクラスも同じという運命の根強さもあって
この子がそこにするならという軽い気持ちで考えていた。
私は実に、浅はかだったのだ。

とはいえ私立。
入学金もその他もろもろも公立とはまるで変ってくるので、
理由はしっかりと<お母さん達と同じ高校に通ってみたいの>なんて情に訴えた。
そうした経緯もあって、
それなりに勉強をして受験をした私と幼馴染は難なく浦の星女学院への入学が決まって。

彼女――黒澤ダイヤと出会ったのは、その記念すべき入学式の日だった。
0170名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/08/04(火) 14:23:26.98ID:Esr4X4lB
保守
0171名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/05(水) 10:16:28.89ID:yvTQ9R1p
風が少しだけ強く吹きつける。
ほら、言われてるぞ。なんて――背中を押す友人でも居るかのような感覚
黒澤さんは悲しんでいるけれど
今のままだって、私としてはずいぶん特別扱いをしている方だ

少し前にも似た話をした覚えがある
6月の終わり頃に、生徒会長に生徒会室を追い出されて
なぜか、黒澤さんの誘いに付き合ってしまったあの日。
彼女は私を友人と言い、気に入ってると告げてあと一歩くらい仲良くなれると嬉しいと言った。

もっとも、あの後に私の失言で空気が悪くなった挙句、
痛み分け――もやっぱり過言な気がするけれど、
そんな感じで、近づくために浮いた足を引き戻してしまったのだったか。

ともすれば――なるほど、これは黒澤さんのリベンジなのかもしれない。
私は気にしていないから、やっぱり仲良くなりましょう。と。

でも――。

「私はこれでも譲歩してるよ。生徒会、勉強会、こんな寄り道――初めてだよ」

私は自慢じゃないけどね。と、前置きをしてから、
幼馴染以外との二人きりの寄り道なんて産まれてこのかた一度もしたことがないと苦笑する。
私は誰とでも仲良くなることが出来る。
ただしそれはある一定以上に仲良くならず、学校で会えば話をし、街中で会えば会話をし
けれど、放課後。とか、休みの日に。とか、どこかに行こうよ。なんて、気心の知れた間柄にまでは決して至らなかった。

だからそう、私からしてみればずいぶんと、努力をしていると言える。
0172名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/05(水) 11:12:31.78ID:yvTQ9R1p
「今までで二番目に仲が良い。それで満足してくれないかな」

「――けれど、貴女。卒業したら二度と関わってくれなくなるでしょう?」

「そうかもしれないね」

相手が私のことを覚えていて、
街中で見かけたときに軽く話しかけてきてくれたなら、
私は適当に言葉を見繕って会話するかもしれない。

けれど、休みの日に連絡を取ってどこかに行こうなんて約束はしないだろうし
うちの大学の講師が云々、男子が云々なんて愚痴を聞いてもらおうだなんて考えたりもしないと思う。
そういう付き合いはきっと、幼馴染とだけで終わる

水面を通じて、黒澤さんと目が合う。
彼女の手はいつの間にか自分の膝上に戻っていて――彼女の顔が私の方に向くのが見えた

「わたくしは、その浦の星女学院の卒業で切れてしまう縁――にしてしまうのは寂しいと思っているの」

「なんなの、博愛主義者だったの? 黒澤さん」

「いえ、わたくしにも愛せない人はいるわ。けれど――貴女のことは、きっと愛せる」

夕焼けに照らされる二人きりの桟橋
不確かなリズムの波の音
凛とした声での――愛の告白
私が博愛主義――だなんて揶揄したからだとは思うけれど
ここまではっきりと愛せると言われてしまうと反応に困ってしまう。
そんな私をよそに、黒澤さんは告白の照れくささも感じさせずに、続ける

「この浦の星女学院に在籍する三年間、わたくしと友達になってくれないかしら」

「それは、べつに――」

良いけど。と、言おうとした私を遮るように黒澤さんが首を振る。

「上辺だけじゃなくて――そう、普通の、ありふれた友人のように」
0173名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/05(水) 11:57:27.25ID:yvTQ9R1p
ありふれたというのは、ほかのクラスメイトがしているようなことだろう。
学校だけでなく、外でもしっかりとした付き合いのある友達
時々遊ぶ約束をして、ちょっとしたことに一緒に一喜一憂するような――
私が作り上げてきた骨組みだけの友達ではなく、
すでに肉付けされ、出来上がった概念によって形成される関係

「なんで私なんかと――」

「それは、何度も言っている通りよ」

「だとしても――いや、いい。黒澤さんは私を気に入ってしまったわけね」

私の反論など、どうせ聞く耳は持ってくれないだろうと頭の中から排除する。
もしも私が幼馴染以外との関わりを断とうとしていることに
優しい心が傷ついているのだとしたら、それはとても申し訳ないと謝罪したい。

関わりを断つのが私の自分勝手ではあるものの、
入学式の日、私が「ごきげんよう」だなんて間の抜けた挨拶さえしなければ、
私と黒澤さんは今もただの級友で、そんな下らないことに思い悩む必要なんてなかったはずだから。

「正直、私は自分にそれだけの価値があるとは思えない。だから、黒澤さんの三年間を無駄にしてしまうかもしれないよ」

「わたくしは自分の目と――貴女の、その誠実さを信じているわ」

誠実。
黒澤さんの言うそれは、私とはまるで正反対に思えるけれど
彼女の中の美化され過ぎた私はきっとそれが合うのだろう。なんて、理想の高さに眩暈がしてしまう。
0174名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/05(水) 12:52:09.30ID:yvTQ9R1p
だから嫌なんだと、心底思う。
黒澤さんの真っ直ぐな目が失望に変わったときの、胸の痛みを空想する。
だから言ったのに――そう、口にする自分はどんなに惨めか。

逡巡して、息を吐く。
さざ波の細やかな音が織りなす空気を払拭するように首を振って彼女を見ると
黒澤さんもまだ、私を見ていた。
どうかしら? なんて、無邪気に聞いているような、緩やかな笑みを添えて。

「あぁもう――分かった。分かりました。良いですよ。友達になっても」

「ありがとう。嬉しいわ」

殆ど投げやりな承諾だったにもかかわらず、
黒澤さんはとても嬉しそうに笑う。
まだ中学生で、まだ子供らしい
そんな愛らしさを覚えるような喜びを見せた黒澤さんは、
躊躇っていた手で私の手を握る

「友達になって貰ったこと、必ず後悔させないわ。もし、後悔させてしまったなら――いつだって、絶交して頂戴」

「黒澤さん――」

実はもう後悔してるんだよ。とは、
空気が読めずコミュニケーション能力に乏しい私でもさすがに言うことは出来なかった。

「絶交は言い過ぎじゃないかな」

そう言って誤魔化すように笑って見せると、合わせて笑ってくれる黒澤さん
彼女の手は私の手を握ったままで――何となく、黒澤さんが抱いていた私との距離感が掴めたような気がして。

こうして、三年間――7月ということを鑑みればあと約二年半。
その期間限定の友達契約を私達は結んだ。
――契約だなんて黒澤さんは言っていないけれど、私はそういうものだと思うことにした。
0175名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/05(水) 15:22:19.93ID:yvTQ9R1p
黒澤さんとの友達契約なんていう珍妙なものにサインをしてしまった翌日
登校してそうそう机に突っ伏した私は、寝不足も相極まって深々とため息をつく。

今までちゃんとした友達らしい友達なんて幼馴染くらいしか覚えのない私が、
ありふれた友達――なんて、抽象の二乗みたいな意味不明さに輪をかけたものが分かるわけもなく
契約した以上はと調べようとした結果、
今朝、知識の海で溺死寸前だった私を起こしてくれた目覚まし時計が往生したのは痛ましい事件だった。

「あっさから不景気なため息ついてるねぇ――タバコでも吸う?」

「吸う」

先に登校して貰った幼馴染が差し出してきたタバコ―ただのチョコ菓子―を咥えて、口の中で溶かしていく。
寝不足の頭に溶けていく仄かな苦みと薄い甘さが少しだけ心地よく感じる。

「あのさ――私達って、友達?」

「藪から棒だねぇ。ん〜――友達と言うよりは幼馴染なんじゃない? あるいは腹違いの姉妹」

「落差酷いよ」

やっぱり、この人では話にならない。
インターネットでも錯綜する情報を頭が空っぽな人に聞いた自分が間違いだった。と、
落胆する私の前に、松浦さんと渦中の黒澤さんが近づいてきた。

「おはよ〜」

「おはようございます」

何となく黒澤さんを見るのが気まずくて、
机に伏せったまま、「おはよう」と、二言をまとめた。
0176名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 09:36:34.78ID:qyMWAwg+
「あら、どうしたの?」

「なんか、私とは腹違いの姉妹になりたかったらしくて――いったっ!?」

「そんなこと言ってない」

脳内焼畑農業な幼馴染のすねを蹴り上げて黙らせて顔を上げて。
困り顔の二人に違うからね。と、取り繕ってから黒澤さんだけを見る。
黒澤さんはと言えば、私と目が合ったからと笑顔になる――なんて

それはさすがに狡くないかな。

昨日の件がどれだけ嬉しかったのか感じられてしまうし、
適当に話を合わせて穏便に切り抜けようと考えていた私が悪者みたいだ
実際、悪者なのかもしれないけど。
友達とはかくあるべし。としてきた私の理想は黒澤さんの御眼鏡には適わないだろうし
小学校辺りで、友達研修でも義務教育として行ってくれたらよかったのに、なんてため息をつく

「腹違いの姉妹って? 何かあったの?」

「この人の妄言だから気にしなくていいよ」

「もしかして、姉妹が欲しかったとか?」

「姉妹――うーん。姉妹ねぇ」

いても良かったかもしれない。
どちらかと言えば面倒事を任されてくれそうな姉が良い。
けれど、至ら居たら面倒そうだし、今は今で不満はないので別にいらない。
首を振って違うと答える

「別に大したことじゃないよ。ただ、寝不足だっただけ」
0177名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 10:20:06.74ID:qyMWAwg+
「寝不足って――大丈夫なの?」

「珍しいね。今までそんなこと一回もなかったのに」

「私もたまには夜更かしもするよ」

原因である黒澤さんは全くそんなことはなさそうだけれど、
昨日の今日だからか、視線を彷徨わせると――はっとして目を見開く
心の中で気付いた? と幼馴染のような意地悪なにやけ面を浮かべて、現実ではそっぽを向いた。
私にとって友達とはそれほどまでに形容しがたい間柄なのだと、分かって欲しい。

もちろん、上辺だけ――それっぽいものならいざ知らず、
真剣なお友達に関しては。という条件付きになる。
私がしてきた友達そのままでいいのなら、気が楽なのだけど。

「ところで腹違いの姉妹って、父が同じなんだろうけど、母が同じで父が別の場合って何て言うんだろうね」

「ん〜? お母さんのお腹。つまり子宮が違うって話なんだからチンーーいったぁぃ!?」

「種違いだよ。腹違いと違って、やや現実的だからあんまり使いたくないよね」

「なんで――なんでぇっ」

「馬鹿なこと言おうとしたからだよ」

流石に走れなくなったりしたら問題なので、足をけらずにお腹にパンチ一発。
女の子しかいないからって、流石に具体的なことを言われても困る。

確かにそれが違うから、それ違いと言ってもいいのかもしれないけれど、
そういうのは、一人で勝手に呟いて悦に浸っていて欲しい。
というより、松浦さんの頭を狂わせるのは許容できない。
0178名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 10:37:52.61ID:qyMWAwg+
幼馴染の奔放さと言うべきか
もはや爆発物染みた面倒くささに悪態をついていると、
黒澤さんが私と幼馴染を見ていることに気付いた。
松浦さんも気づいたようで「どうしたの?」と不思議そうに呟いて

「あぁ――いえ、ふふっ、ごめんなさい。仲が良いのよね」

「仲が良い――? 冗談じゃないよ。何でもかんでも手足出してくるようなやつとなんて絶交だねっ」

「そうじゃなきゃ止まらないそっちが悪いんでしょ。その底の抜けた鍋みたいな脳味噌取り換えてきなよ」

「はーっ、塞がったら溜まっちゃうじゃん。足遅くなるし」

「えぇ――」

馬鹿なことを威張って言う幼馴染
何を言ってるのかと目を丸くして唖然とする松浦さん
その傍らで、絶交なんて言葉が決して正しく機能しないと分かっているかのように楽し気な黒澤さん。

「勘違いしないで欲しいのだけど、こんなの友達じゃないからね」

「え――えぇ。分かっているわ」

少し驚いて、隠し味に残念そうに感じる陰り。
何を考えていたのか何となく想像できるけれど、
私が黒澤さんを蹴ったり、殴ったりはできないししたくない。
そもそもする必要がない。

「でも、貴女と一番仲が良いのよね」

「そうだけど――参考にしないでよ? こんな黒澤さんになったら卒倒する自信ある」

黒澤さんから幼馴染へと目を向ける。
お腹の痛みも足の痛みも――絶交だなんて言葉も忘れたかのように、
幼馴染は「なに? もう一本やっとく?」と、チョコ菓子を口に突っ込んできた。
ビターな甘さの短い棒状のチョコレートは、すぐに溶けていった。
0179名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 12:12:28.33ID:qyMWAwg+
そうして放課後、部活に行く幼馴染と家の手伝いに行く松浦さんと別れ、
私と黒澤さんは生徒会室に来ていた。
普段は生徒会長と私達しかいない生徒会室には、他学年の役員がそろい踏みで
普段は広く感じる生徒会室がとても、手狭に思えてしまう。

「そしたら、みんな揃ったことだし始めましょうか」

温厚な生徒会長らしい緩い声で、会議が始まった。
会議と言っても必要事項については、テスト前に終わっているので、
それらの手続きが本当に正しく行われているか、必要な物は最低でも前々日までに届くのか。
そういった、来週行う体育祭についての確認をするだけだ

「あぁ、それと。生徒用の応急テントは昨年分よりも少し広めのやつにしてます」

「そうねぇ〜去年より暑くなるみたいだから。場合によっては校舎の方で休んで貰ったりするとして〜」

「そしたら予算余ってますし、熱中症用の備品増やします? 繰り越してもいいですけど」

元々、前年度――それよりも前から、ほとんど仕様に変更なく実施されるというのもあるけれど
私と黒澤さんを除いて二年生、三年生で形成されている生徒会役員の手際の良さはさすがで、
副会長の確認する内容について、次々と話が飛び交って、終わっていく。

「ふむ」

「なに書いてるの? 書記は私が――」

「個人的にね。役員としてどう考えてるかメモっておこうかと思って」

私は今、会計役員として所属しているけれど、
来年になってまた会計をやっているとは限らない。
現に人数の少ない浦の星女学院生徒会だからか、
昨年度は書記や会計だったが、会計や書記をやっている。副会長をやっている。という人もいるわけで。
議事録以外のことも多少は頭に入れておきたいと思っていた。
0180名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 16:12:31.05ID:qyMWAwg+
個人メモを一瞥した黒澤さんは
自分の書き出している議事録用のノートを確認すると「あとで見せてくれない?」 と、囁く。

黒澤さんが困っているとは思えないし、
七割がた興味本位な気がして個人用メモだから断りたい――と、思うのだけれど
友達だとしたら、二つ返事で良いよ〜とでもいうのだろうか?

教室で稀に見る勉強やらない系女子と、勉強やってる系女子のやり取りを思えば――
一つ、仕方ないなぁ。今回だけだからね
一つ、は? 自分が悪いんでしょ
一つ、字が汚いから見せられないよっ
大体この辺りだったかな。と、小学生から高校一年半ばまでの記憶をサルベージする。

「良いけど、参考にならないと思うよ」

どれも役立ちそうにないので、即興で一言。
ありきたりな返しだったのだけれど、黒澤さんは「それでも大丈夫」と、少し嬉しそうに眉を動かす。
友達らしいやり取りができたのだろうか。なんて
黒澤さんとのやり取りの重点が友達らしいかどうかにすり替わりつつあるのを感じて、ため息を零す。

「なぁに? 体育祭、そんなに嫌なの〜?」

「あっ――いえ、副会長――そのっ」

「ふふふっ、冗談よ〜。あんまり長い話は私も好きじゃないわ〜」

この間延びした副会長の声は、生徒会長以上に眠気を誘う。
穏やかなのは二人ともだけれど、よりおっとりしているというか――弾力があるというか。
そんな副会長は手元に用意してあった資料を確認すると、
他に確認しておくことがないかと、会長に確認を取る
0181名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 16:41:53.91ID:qyMWAwg+
「そうですね――念のため、予備テントの点検もしましょうか」

「あれ使います?」

「使わなければ使わないで良いのですが、一昨年ひと張り組み立て中に壊れたことがあるんですよ」

その壊れた分はもう処分して、別のやつに代わっているので問題ないというのは確認済みだけれど、
現在使っているものと、予備の中に壊れたものと同時期に用意されたテントがあると、生徒会長は話して。

「一度組み立てて少し様子を見てみたいですね。組み立てられたけれど、風が吹いて崩れましたなんて目も当てられませんから」

「それなら、件のと同時期のものの組み立てと合わせて、製造年月日控えておきます? その記載なかったんですよね」

「良いですね。他校やイベントに貸し出す可能性も無きにしも非ずです。安全面には全身全霊で行きましょう」

まるで会長らしい威厳を感じさせない生徒会長だけれど、
周りの誰も、そんな会長を相応しくないとは思っていない。
ふんぞり返っているだけでも、呆けているだけでもなく
けれど、とても明るいその人は生徒会室の厳粛さを緩和してくれるので、話がしやすい。と、思う

「と言うわけで点検は私の方から先生方に提案しておきますが――人手が欲しいですね。皆さんご協力ください」

浦の星女学院は、静真のようなマンモス校と違って生徒数がとても少ない
それこそ、統廃合の話が出てきてしまうほどに。
それゆえに教師の数もそれなりに調整されているため、部活のことを考えると手が足りないのは明白
だから予め人手を集めておきたいのだろう。と、意味もなく勘繰る

「明日の放課後までには結果発表できると思いますので、お待ちくださいね」

終始楽しそうな生徒会長の手がぱんっと音を立てたのを皮切りに、
副会長の会議終了の一言で、生徒会は解散となった。
0182名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/06(木) 17:11:55.76ID:qyMWAwg+
「黒澤さん、議事録は別に今日中とか明日までとかないので、やれるときにまとめてくださいね」

「はい」

みんなが席を立つ中で、一人座ってノートを広げたままだった黒澤さんに生徒会長が釘をさす。
一番最初の会議があったとき、律儀に即日提出した黒澤さんが、
生徒会長に「真面目過ぎですよ。もっと簡潔で良いんです」と困った顔をされていたのを思い出して、苦笑する。
私も見せて貰ったけれど、あれは議事録というよりも説明書めいた何かだった。

「仕事などだと即日が基本なのかもしれませんが、ここは会社じゃないので自分の時間を潰したら駄目ですよ」

「ありがとうございます」

観念したようで、
ノートなどをまとめて鞄にしまった黒澤さんが席を立ったのを見て、生徒会長も鞄を手に取る

「今日はもう閉めます。私も用事があるので早く帰りたいですし――議事録書かせたくないので」

「会長〜。家で書いちゃうんじゃないかしら〜?」

会長のしたり顔を引っぱたく副会長の横槍。
そんなことするとは思っていないとばかりに驚く生徒会長は、
黒澤さんに「しませんよね? しませんよね?」と、詰め寄っているのが何だか友達同士のようで。

生徒会長と黒澤さん
二人のやり取りは果たしてただの役員仲間と言えるのだろうか。
私が生きてきた約15年間で色々見てきたけれど、
友達と言えるのではないだろうかと、記憶が首をかしげる。

「えっ、あ、やりません。書きません。会長――助けて――」

黒澤さんの視線を感じて手を伸ばしたけれど、
私がどうこうする前に、詰め寄る会長のカバンを副会長が引っ張って止める
空を切った手が少し恥ずかして、私は誤魔化すように黒澤さんのカバンを取ってしまった。

「そういうことだから帰ろうか。黒澤さん」

一足先に、生徒会室を出る。
黒澤さんの「待って」という声に、自分が意外に足早だったことに気付かされた。
0183名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/07(金) 09:19:36.43ID:2EFAwJGP
「――会長の強引さには困らされるわ」

帰りのバスに揺られながら、黒澤さんは思い出したようにぼやいた。
基本的に腰が軽い――は不適切だし、柔和だろうか。
そんな会長は各々に任せて必要があれば介入してくるといった人だ。

その会長が「ダメですよ」なんて止めるのだから
黒澤さんは相当放っておけないタイプなのだろうかと推測する。
私としても放っておいても上手くやってくれるだろうとは思うけれど
上手くやろうとし過ぎてしまうから、やはり放っておくのは難しい。

「もう少し、手を抜くことを覚えた方が良いかもね」

「手を抜くなんて――そんな」

「気持ちは分かるけどね――」

続きそうになった口を閉じて、考える
黒澤さんの思ってることと私のそれは認識があっているのだろうか。と
ただ、考えすぎてはと小さく笑って間を置く

「分かるは過言かもしれない。でも、それで自分を追い込むのはあまり良くないって思うよ」
0184名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/07(金) 09:35:17.19ID:2EFAwJGP
これが果たして友達らしい発言なのかどうか
それも分からないけれど
少なくとも、私はそう思った。
黒澤さんが手を抜くのが好きではなく、どちらかと言えば完璧主義だろうという推測のもとではあるけれど
このままそのスタンスを貫いては苦しむかもしれないと。

「あぁ――別に、強制はしないけどね」

黒澤さんがそうしたいという固い意思があるなら私は無理をいう気はない。
それを思うと同時に――これは過干渉だったのではないかと少しばかり後悔する

なんと言えばいいか
そう――私は黒澤さんを心配したのだろう。
前にもたしか、私は黒澤さんを心配した覚えがある。

困惑する私を、黒澤さんの視線が焼き殺そうとするものだから
思わず手でパタパタと扇いで、そっぽを向く

「あんまりこっち見ないで。注視されるの好きじゃないんだ」

そう言うと、彼女は優雅さを感じる小さな笑い声を溢して

「ごめんなさい、つい」

喜ばしさを感じさせたのだった
0185名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/07(金) 12:56:37.20ID:2EFAwJGP
「からかうつもりはないの。ほんとうよ」

「知ってる」

黒澤さんとは反対側――窓の外を眺めながら適当に答える。
幼馴染はともかくとして
黒澤さんはこういう場面で茶化してくる人ではない――と、私は信頼している

だとしたら、黒澤さんから感じた嬉しさも真実となるわけなのだけど
それはそれで悪い気はしなかった。
それとこれとは別の話で、一応言っておこうかと――ため息をつく

「私は<ありふれた友達>なんて知らないから、過剰だったら遠慮なく言ってくれて良いよ」

「と――言うと?」

「友達が踏み込んで良いラインを知らないの。私」

ただの知人、上部だけの友人関係
それなら、相手が語る自伝を暗記して確かこれこれこういう人だったよねと考えて
作り上げた対話辞典から適切そうなものを引っ張り出すだけで良かった。

知りもしないことを知ったかぶったり、
自分の感情の押し付けなんて一切する必要はなく、適度に同調して<確かにね>とでも言っておけば良い。

逆に幼馴染は土足で踏み込まないとこっちが汚されるので遠慮は要らない。

けれど黒澤さんとの関係は違う。
上部だけの友人関係でも幼馴染でもなく
日々積み重ねられ変質する友人関係になりたいと求められ、私はその契約を受領した。
その友人関係Lv1あるいは0の状態でいかほどまで許容されるのか

私にはそれが分からなかった。
仕方ないじゃない――そういう友達なんて作ったことがないんだから。
0190名無しで叶える物語(茸)2020/08/11(火) 00:41:15.69ID:74j3+M32
休みの日は更新しないスタイルなのか…オリキャラな分他と違って人気無いんだから落ちるぞ
果南か鞠莉にしておけば人気あったろうに
0191名無しで叶える物語(えびふりゃー)2020/08/11(火) 01:01:20.53ID:nifjQ1W3
いやこういう夢系(?)は貴重だよ
てか普通に小説みたいで好き
0192名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 09:46:47.43ID:jSoeodj/
「例えば黒澤さんが悩んでるとして、友達がそれに対してどうするべきか判断できないんだよ」

「友人関係なく、貴女ならどうするの?」

「関係ないなら何も聞いたりしないかな。特に変わらず関わらず。相手に任せる」

そもそも、相手から関わってくるならともかく
自分から積極的に近づく気のない私は、相手の悩みに関わる気がない。

雰囲気からして何か悩みを抱えていると察することが出来たとしても
私がそれに関わったところで解決してあげられる保証はないし、
触れて欲しくない悩みかもしれないから、藪蛇になってしまうかもしれないし。
だから、私が何かするとしても――

「せいぜい、日直を手伝ってあげるくらいだよ」

「相手から話して来たら?」

「話を聞くくらいはする。聞くだけね。それ以上は何もしないよ」

黒澤さんを見ることなく苦笑してため息をつく
自分が出来る以上のことから逃げるのが恥なら私は別に恥ずかしい人間で構わない。
下手に触れて火傷するのも
相手を焼き殺してしまうのも、私はごめん被りたいと思っている。
私が出来るのは、保健室に連れて行ってあげる程度のことだ。
0193名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 10:04:25.55ID:jSoeodj/
「でもそれは私の考えなんだよ。友達だったら――どうするんだろうね」

どうしたの黒澤さん? 大丈夫?
そんな風に声をかけてあげて、寄り添ってあげるのだろうか?
それとも「こうしたらいいんじゃない?」なんて、身勝手に指標を立てるのか。

それが正解だなんて分かりもしないくせに
同程度の人生経験しかなくて、先んじた知恵も知識もないくせに。
それが誤りだったとき、責任を取れるような力もないくせに。
何かしてあげたい。
そんな悪意ともいえる善意を押し付けるのが、友達と言うものなのだろうか

幼馴染や、小学校中学校で周りの話に合わせるために履修したアニメや漫画では、
そう言った押しつけがましい友情話が取り上げられていたし、
登場人物はそれに対して「ありがとう! 頑張ってみるね!」などの反応をしていた
中には「勝手なこと言わないで」と激高する登場人物も見られたのだけれど
相談相手の勢いに根負けしてしまうというのが大体の流れだった覚えがある。

私が参考にした作品が悪かったのか、
友情とは、そんな紆余曲折を経ない単純明快なものなのか。

「黒澤さんなら声をかける? 自分の意見を相手に話す?」

「わたくしなら――そう、ね」

黒澤さんは考えながらなのか躓くような言葉遣いで、
黙り込んだ彼女に目を向けると、意外にも――いや、黒澤さんなら必然かもしれないけれど
真剣に考え込む横顔が見えた。

「何かあったの? と、声をかけると思うわ」
0194名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 10:33:08.86ID:jSoeodj/
「それが友達の在り方だって?」

「自分が悩むほどのことを相談できるとは限らないでしょう?」

自分一人で悩んでいてもらちが明かないことは分かっているのに
それを打ち明けることで迷惑をかけるのではないかと委縮してしまう人も少なからずいる
そういった人達も相談が出来るように
せめて、話すことで楽になれるように
黒澤さんは自分から「何かあったの?」と問う。と、言った。

なるほど一理あると思う。
私もどちらかと言えば、打ち明けないタイプの人間――のはず。
そこに自信が持てないのは常日頃から幼馴染に看破されてしまうからなのだけれど
それはともかくとして、私もそういう人間だと思うから、
その立場で考えれば、黒澤さんのそれはありがたいのかもしれない。

「友達って、そうやって踏み込むものなんだね」

「踏み込むというより――寄り添うの方が良いと思わない?」

「寄り添う?」

「そう――例えば、今みたいに」
0195名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 13:46:59.27ID:VQshTttr
今みたいに――と言うのは、
話している内容かそれとも物理的な距離感のことなのか
会話の内容的には寄り添っていると言えるのか微妙だと私は思うのだけれど
黒澤さんの基準ではこの微妙さこそが絶妙な線引きである可能性もないとは言い切れない。

少し考えてから「物理的な距離?」と聞いてみると
黒澤さんは少し困ったような顔をして「そう」と、短く答えた。

「違うなら言ってくれていいのに」

「違ってはいないのだけど――物理的距離というのが、なんだか」

黒澤さんは「冷たくて」と、零すように続ける。
表現に冷たいも温かいもないのだけれど、含まれている感情が冷たく感じられたのかもしれない。
私個人としては、別段あしらうような言い方をした覚えはないけど
黒澤さんがそう感じたのなら、そうなんだろうと思うべきかもしれない。

「ごめん」

「えっ」

「いや、驚かないでよ――冷たく感じたんだよね? そんな風に感じさせるつもりはなかったから」
0196名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 16:07:21.16ID:VQshTttr
「貴女――ほんとう、不器用ね」

黒澤さんはなぜかとても明るくに笑う。
それがあまりにも楽しそうなものだから、
恐らく笑われたであろう私は少しばかり羞恥心を刺激される。

冷たい。なんて寂しそうに言うから、
悪いことを言ってしまったと思って謝罪を口にしたというのに、
黒澤さんは「不器用ね」なんて一転して笑うのだから、
私はきっと友人だろうが知人だろうが他人だろうが変わりなく、黒澤さんに腹を立てて良いのではないだろうか。
――自分が不器用なことは、良く分かっているのだけど。
そう考えて彼女を見ると、黒澤さんは口元を手で隠して「ごめんなさい」と謝った。

「別に良いよ。不器用なのは自覚してるから」

「馬鹿にしたわけじゃないの。ごめんなさい――うまく言えなくて」

「ん――」

上手く言えないとは、何の話か。
不器用なのは私もそう思っているし、それ自体はうまく言うも何もない
オブラートに包みたかったというなら話は別だけれど、
それなら、彼女が笑ってしまったことが不自然だ

なら――と、考える。
黒澤さんは私のことを馬鹿にしたわけじゃないと言った。
それだって、別におかしなことではないだろうから――。

「黒澤さんの思う私と今の私が同じだったことが嬉しかったのかな?」

新しい一面を知ることが出来て嬉しいという感情もある。
現に私は、思っていたよりも感情豊かで楽しそうに笑う黒澤さんを知ることが出来て――いや、それは別の話として。
黒澤さんはそう言及するのではなく「<ほんとう>不器用ね」と言った。
それはつまり、想像通りだった。と、取れる

だから、自分の考えと通じていたからこそ嬉しくて笑ってしまって、
卑劣にも感じられる前言を思ってごめんなさいと言ったのだと、私は解釈した。
0197名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 16:51:09.00ID:VQshTttr
「そうかもしれない。ええ、嬉しかったのね――」

黒澤さんは自分以外の誰かの話に潜りこんでしまったかのように、
感傷的な雰囲気で、胸元に手を忍ばせる
その所作はとても美しく見えたけれど、私は顔を背けた。

「私の謝罪、押しつけがましかったね」

「いえ、そんな――」

「良いよ。正直で、良いよ」

そう言うと、黒澤さんはすぐには何も言わなかった。
誰かがバスの停車ボタンを押して、雰囲気を壊す軽快な音が車内に響く。

「――少しだけ」

「だよね」

私は思わず笑って――あぁ、と、納得する。
私が想像した私と黒澤さんの思っていた私が寸分の違いもなくかみ合ってくれたように感じたからだ。
これを笑わずにいられるようか――いや、いられない。
そんな子供が使いそうな反語を口の中でかみ砕いて、ため息をつく。

今思えば、私のさっきの言葉は「冷たく感じた? はいはいすみませんでした」なんて感じにも取れてしまう。
黒澤さんはそう取らず、本当にそう感じさせてしまったのかもしれないと悔いたことを察してくれたから、
不器用だ。と、言ったのだろう。

「コミュニケーション能力が乏しい人って、コミュ症って言われるらしいよ」

「貴女は口下手なだけでしょう?」

黒澤さんは迷いも間もなく、否定する。

「――あぁもう、困ったなぁ」

黒澤さんの迷いがないそれは本心だ
彼女の想像と自分の想像が似通っていると感じてからのその評価は、とても――。
時々、建物が窓を埋める
そのたびに見える黒澤さんは私を見ていないけれど、楽し気で。

「夏になるとこの時間でも眩しいよね」

「ええ、そうね」

まだ明るい空からの陽射しから逃げるように、瞼を閉じた。
0198名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/11(火) 18:21:57.46ID:VQshTttr
そして、やってきた体育祭当日。
目覚めは快適、空は快晴。曇りのない清々しさ。
さて、と意気込んで
大敗を喫した逆さてるてる坊主をバーベキューグリルで焼こうとしたのがバレて両親に怒られたが、
それは些細な問題だった。

教員人数が決して多くないため、
生徒会役員の手も借りたいという申し出を生徒会長が快諾してくれたおかげで、
他の生徒よりも少しだけ早く、私は学校へと到着していた。

昨日までに用意してあったテントや備品などを確認し、
安全面の問題や過不足などを改めてチェックし、生徒会室――ではなく、空き教室で集まった。
というのも、生徒会役員だけでなく保健委員などの委員会にも手を借りていたからだ。

普段は制服を着ている全員が体操服だったりジャージだったりと軽装で
それはなんだか異質な感じがしたけれど。

「待ちに待った体育祭ですね! 晴れてよかったです。委員会の皆さんもご協力いただき、ありがとうございました」

「会長〜終わりの挨拶じゃないんだから〜」

「あら――そうですね。皆さん大変かとは思いますが、引き続きご助力お願いしますね」

会長のふわふわとした声に、体育祭当日であることを忘れさせられそうになったものの、
黒澤さんの「ちゃんと来てくれてよかった」という安堵を耳にしては、忘れるわけにもいかなかった
仮病で休むと思われていたのなら心外なのだけれど、そうではない。と、思う。
流石の私も、運動が嫌いだからといってサボるほど性根は腐っていない。

「辛かったら遠慮なく言ってくれていいから――無理は、しないように」

「分かってるよ。大丈夫、事情を察して種目は二つにして貰ってるし」

「それでも、天気がいい分疲れるでしょう?」

「それもそう、かな。うん――ありがとう黒澤さん」

浦の星女学院最寄りのバス停で降りてから、校門までの距離
それで一瞬でも死ぬかと思ったし、
走ろうものなら、意識が勝手に天にまで駆け上がっていきそうだと、私は苦笑いで誤魔化す。
生徒会役員で、クラスメイト
だからか、基本的に黒澤さんと一緒に行動するというのは――救いだったかもしれない。
0200名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/12(水) 15:09:25.36ID:IVsokbSn
晴天の陽射し降り注ぐ真夏の校庭に集められた私達学生一同は、
体育館で校長の話を聞くかの如く前倣えでお立ち台の前に列を作り、
各生徒の保護者たちの視線を感じながら、開会式に勤しんだ。

そうして20分から30分かけて行われた開会式の後にはまず初めに全学年で騎馬戦が行われる
全学年と言ってもこの素晴らしき浦の星女学院の生徒数では、通常と比べれば規模は非常に小さいものになる。

それでも全学年で組み合わせるようにとされているのは、
学年別対抗をしようものなら、あまりの人数不足に即終了かつ、生徒の使いまわしが激しすぎるため、
とてもではないがやっていられないから。らしい。

もちろん、リレーなどの種目においてはたった二組の組別対抗は寂しいので、
部活対抗リレーなどのそれなりの規模で行うことが出来るものが主流になっている。

「じゃぁ、騎馬戦いってきまっせ〜」

「落馬しないように気を付けなよ?」

「あははっ、大丈夫大丈夫。頑張ってくるよ」

「まぁ、私とまっつんがいれば楽勝だね」

ふふんっと胸を張って見せる幼馴染から目を背けて、
徐々に組み上がりつつある相手方の騎馬の方へと目を向ける
比較的数の多い三年生、二年生が馬を務め、一年生がその上に乗るという決まりになっている騎馬戦
私の主な知り合いとしては、黒澤さんはこれに不参加だが、
幼馴染と松浦さん――そして、相手のクラスである小原さんが参戦するようだ
0201名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/12(水) 15:42:41.09ID:IVsokbSn
「小原さん目立つね」

「金色の綺麗な髪だもの――仕方がないわ」

全員が全員、黒色の髪と言うわけではない。
むしろ、染めている人もいるかもしれないけれど、
内浦の自然によって焼かれて変色しているのか、全体的に茶髪に近い色合いの人が多い。

かくいう私も、
どちらかと言えば黒ではなく灰茶色っぽいものになってしまっているので、
黒澤さんと並ぶと色の違いが浮き彫りになってしまうのだけど。

「私は黒澤さんの髪も綺麗だと思うけどね――」

「え――」

「私なんてインドア派なはずなのに焼けちゃってこのありさまなんだよね」

「え、えぇ――そう、そうかしら?」

黒澤さんはなぜだか戸惑ったように考え込んで、癖でもないのに自分の髪を指先で梳いていく
もしかしたら自信がないのかもしれないけれど、そこは自信を持っていいと思う。
二度言うのはなんだか強調するように思えて気が引ける
そう思ったところに、黒澤さんが顔を上げた

「貴女がインドア派だったら、この学校の運動部員以外がみんなインドア派になっちゃうわ」

「あはははっ、確かに世のインドア派のみんなに失礼かもしれないね」

言われてみれば、私にはアウトドアの申し子とも言うべき幼馴染がいる
私が何と言おうが、連れ出しにかかる彼女と連れ添ってきた十数年
その期間をもってしてもインドア派とは言うべきじゃない。と言うより言えない。
私としては甚だ不本意なのだけれど、彼女の隣に存在したオプションと思えば――

「はぁ」

溜息しか零れないというものである
0207名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/17(月) 13:40:39.88ID:Se54Z9H1
「そんなに外が嫌い?」

「動くのが好きじゃない」

「つまらない?」

「嫌々やっていることを楽しめる人がいるなら、私はその人と結婚しても良いよ」

本当に結婚なんてするつもりもなく
他愛のない話の途中に挟む洒落てもいない冗談のようにそう言って、首を振る
自分と全く正反対の生き方をしている人と結婚なんて私は無理だ。
交際することが出来たとしても、半月も持たずに別れる自信がある。
酷い話ではあるけれど、私はそういう人だから。

しかし、本気ととらえたのか、
以前の色恋沙汰の話があったからか、
黒澤さんは不思議と真面目に受け取っているようで

「結婚、したい人でも?」

「そうだね――私の理想は雨男。どんな晴天が予想されていても、体育祭を潰してくれる救世主と結婚したい」

「ふふっ、なら少なくともこの市内県内にはいないわね」

「これはちょっとだけ本気の話だよ? 今日みたいな日に雨を降らせて中止にしてくれたら好きになっちゃうから」

後追いにもうひと抓みの冗談を添えてあげると
黒澤さんは困ったように眉を顰めて「もう少し明るくしない?」と提案する。

別に私の人生の今までもこれからも暗いわけではない。
むしろ晴れ晴れとしていて辟易しているくらい。
だから「せめて曇りが良いよ。それが良い」と、断っておく
0208名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/17(月) 17:10:45.76ID:Se54Z9H1
ひと学年の人数が少ないとはいえど、
全学年が協力してやるともなれば、騎馬戦の盛り上がりはそれなりに大きいものになる

一組、二組共に少しずつ戦力が削られていく中で、
私の知る最高戦力に足る二人は残っていて対する小原さんもまだ残っているのが確認できた
騎馬が減れば減るほど、声援は白熱し、集中していく

「うぇ――」

その増していく熱量に眩暈がして顔を伏せる
吐き気にまではいかなくても、気分が悪い
顔を上げたら嘔吐するだろうな――と、他人事のように考えていると、
隣の影が動いて、頭にタオルがかかった。

ふんわりとした風が額の汗を払って、
包み込むように垂れていく綿は柔軟剤を感じる柔らかいもので
なにより、野ざらしになっていなかった儚いひんやりとした空気を纏っているのが、心地いい

「大丈夫?」

「ん――このままじっとしていれば」

「ほんとう――苦手なのね」

「外が苦手なんじゃない。晴れ過ぎてるんだよ。熱中しすぎてるんだよ」

黒澤さんの方を見ることもなく、俯いたまま答える。
タオルの触れていない部分からは汗が滴って、瞼に染み込む不快感に目を瞑る

「こういうときはいつも、こうなんだ」

体中を這いずる熱気、耳に響く音
急激に体温が挙げられていく感覚にお腹が痛くなって、吐き気がこみあげてきて
内から外へと逃げ出そうとする鈍痛に頭がおかしくなりそうになる
まるで、沸騰したお湯に投げ込まれてる気分――というか。
小学生時代、温泉で経験した40℃を超える湯船に浸かって失神したのと同じ感覚

「あとひと競技、代役か棄権をお願いしたほうが――」

「これ以上の我儘は言えないよ。大丈夫、二つ頑張って、後は何とか――うん、平気」

「ならせめてテントの下に移動しましょう? 立てる?」

「ごめん――歩いたら吐く」

悲鳴にも似た黒澤さんの声に「少し休めば動けるから」と、
まだ始まって一時間も経たないうちに疲弊して枯れてしまった声で宥める
0209名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/17(月) 17:28:16.22ID:Se54Z9H1
宥めたと言っても黒澤さんの声は広まってしまったようで、
応援に熱中していた隣のクラスメイトに始まり、
だんだんと私の状態が周囲に広まっていく

「わっ――ぇっ、どうしたの!?」

「大丈夫? テント連れてこうか?」

少し遠くで悲鳴が上がる。
そこまで広まっちゃったのかと申し訳なく思う一方で
そんな私に集まってくる影が日陰を作ってくれて
少しだけ楽になったような感じがして感謝を思う。

黒澤さんは「静かにしてあげて」とか「動いたら駄目みたいなの」と、
こんな私を気遣ってくれるクラスメイトを抑え込んでくれていて
どこからか、誰かが走ってくる音がした。

「はっ、はっふ――備えあれば憂いなしだね。はいコレ」

「日傘?」

駆け寄ってきた影から、黒澤さんへと差し出された棒状の影
黒澤さんの呟きがその通りなら、日傘なのだろうけれど
一体どこから――そう考えている間にも大きく広がった日陰が私を護ってくれる

「やっぱきつかったか〜ごめんよ。渡しとけばよかった」

「なんで――騎馬戦は?」

日傘を差し出したのが幼馴染と気付いたのは顔を上げてからだった。
クラスメイトで見えない中心部、まだ終わりの合図は鳴っていないし声援も続いている。
なのになぜ幼馴染がいるのかと言う驚きに、彼女は困ったように笑って

「恥ずかしながら頑張りすぎて落馬しちゃったんだよね〜いやはや、面目ありません」

土汚れた体操服、後ろに組んだ手
擦りむいて血が出ている足
その言葉が嘘ではないのは分かる――けど。

彼女の落馬が熱中したことによる不意の事故ではなく<故意>だということも、分かってしまった。
0215名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/22(土) 12:43:38.24ID:tpvJn3SO
「わざと落ちたでしょ――馬鹿なんだから」

「はっはっはっ、手が滑ったのさ」

あっけらかんと言う幼馴染は、
断固としてそれで押し通すつもりなのか、傷ついた手を見せても笑っている。
日傘のおかげもあって、
熱い雰囲気から若干逃れることが出来ているけれど
まだ苦みの抜けないか体ではそれ以上の追及も辛くて、割り切っておく

騎馬戦はグラウンドの中心で行われていた。
とはいえ、騎馬の上で幼馴染の目の良さと集まっている場所を考えれば
私に何かあったと考えるのが彼女だろう。
体育祭を楽しみしていたのに――申し訳ない

「黒澤さん――悪いけれど、保健委員のテントまで連れて行ってくれない?」

「ええ――喜んで」

「あっ私達も手伝うよ〜っ」

私を支えてくれる黒澤さんから、クラスメイトの一人が日傘を受け取って代わりに差してくれた。
0218名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/24(月) 20:16:43.97ID:UZq01QbX
「大丈夫? 本当に辛いなら保健室のベッドも空いているわよ?」

「大丈夫です――すみません」

「良いのよ。今日暑いものね」

長いベンチの上でうつぶせになっている私に寄り添ってみてくれている保健委員
三年生の彼女は保健委員長を務めているので、
会議で何度か顔を合わせているからか、少し気さくな声色で話しかけてくる

同じように来た幼馴染は、擦り傷の数から保健室に直行させられてしまっていて
私を運び込んでくれた黒澤さんとクラスメイトの内
次の競技に参加しない黒澤さんだけが残ってくれている

「でも、驚いたわ。会長から話は聞いていたのだけど――本当に早々に運ばれてくるだなんて」

「会長がお話を?」

「ええ。もしかしたら運ばれてくるかもしれないから、見てあげてって」

黒澤さんの疑問に委員長はにこやかに答える
本当に運ばれてきたことを面白がっているのだろう
意地悪な人だとは感じないけれど、会長のように穏やかには居られないと感じる
少なくとも、幼馴染とは別の意味で私の苦手とするタイプ

相手の理想に応えるためには、相手の理想とする私を知らなければいけない。
けれど、彼女のような人はどこまでも見えないことがある
彼女の期待する私という存在が見えないと、私はその私にはなり得ない
空回りして、蔑んだ瞳で見られるだなんて――きっと耐えられない
0219名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/08/24(月) 21:23:39.16ID:UZq01QbX
「彼女、参加の競技はいつ?」

「予定としては次ですが――」

「なら、それは見送ったほうが良いわ」

「それはっ――ぁっ」

「起きたらダメ」

ベンチの横幅はあっても、奥行きはそんなになくて
起き上がろうとして手が滑って傾いた体を、黒澤さんが抑えてくれる
黒澤さんの声は注意と言うよりも怒っているようで
無理をしないで。と、言われているのだと感じた

「時間までに戻らなければ、代わりに出てくれる予定の子がいます」

「黒澤さん――」

「治ってすぐに走ったりなんかしたら――貴女、死ぬかもしれない」

私の体を押し付けるようにして抑えながら、
黒澤さんは神妙な面持ちで、私の顔をじっと見つめてくる
拒否は許さない
そんな圧力を感じてしまう彼女は「冗談じゃないのよ」と畳みかけてくる
それには委員長も同意のようで

「黒澤さんの言う通りよ。体温が少し下がって楽になったから参加させましたなんて言えないわ」

「そう――ですよね」

クラスメイトに迷惑を重ねてしまうことになるけれど
たしか――参加予定なのは障害物走だったっけ
その最中に動かなくなったりなんかしたら迷惑どころではないし
きっと、黒澤さんは怒る以上に――

「分かりました。次の競技は休みます」

二つあるうちの一つ
それはもう仕方が無いかと、諦めることにした
0225名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/08/29(土) 23:02:02.33ID:aPJJRYok
保守
0230名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/02(水) 10:46:24.45ID:jfQespJA
「じゃぁ、頑張ってくるね」

「ごめんなさい、余計な労力を使わせて」

「いいって良いって、あたしも走るの好きだからさ」

代走してくれるクラスメイトは律儀に私のもとへと確認に来てくれた上に、
それを喜んで引き受けようとしてくれている。
彼女の浮かべる笑みは偽りを感じない本物だ。

「ゆっくり休みなよ〜。黒澤さんは、ちゃんと見といてあげてね」

「ええ、任せてください」

これから走るというのに、準備運動のつもりなのか走っていくクラスメイトを見送ると
黒澤さんは「元気な人よね」と、苦笑する
幼馴染と比べてしまうと首をかしげたくもなるものだけれど
確かに、一般的には活動的な人だと言えると思う

「私には真似できないなぁ」

「誰にでも得手不得手はあるし――第一、真似なんてされたら困ってしまうわ」

「幼馴染、止める人は黒澤さんに任せるよ」

場合によっては松浦さんも乗ってしまうことがあるから、残るは黒澤さんだけになる。
困る理由をそのまま任せると言ったせいか、黒澤さんは目線を逸らして

「二年生に上がったらクラス替えを期待しないといけなくなるわね」

「そうだね」

きっとクラス替えなんてないし、あるとすれば合併だろう。
来年の入学者数にもよるかもしれないけれど――きっと。
そうなったら今は離れている小原さんとも同じクラスになるのか――と、考えながらため息をつく
薄ぼんやりとする頭では考えるのもつらい

流石に寝れるわけではないけれど、目を瞑って余計な感覚を遮断すると、
空気的な熱量はまだまだ高まっているものの、
日陰の涼しさとクーラーボックスから持ち出された保冷剤で体温が平穏に近くなっていくのを感じる
体育祭――やっぱり私には無理だなと、改めて思った。
0231名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/02(水) 11:02:00.48ID:jfQespJA
「夏のダイビングにも参加させないよう言っておくわね」

「それは元々不参加の予定だよ」

「ううん、果南は参加させるつもりだったわ」

やや強引にでも参加させようとしていたと、暴露する。
仕方がないと引き下がってくれていたと覚えがあるのだけれど、
そこはやっぱり相容れることの難しい対極的な人間性からくるすれ違いだと思うべきか。
やってみたら意外と楽しかった。そう思ってくれると期待していたのかもしれない。

けれど、松浦さんには悪いけれど私はそういう問題ではない。
今日で理解して貰えたと思うけれど、比喩ではなく死ぬ。

「そっかぁ」

「――申し訳ないわ」

「謝る必要はないよ。誰だって、本当に死にかけるだなんて思ったりしないし」

私の運動嫌いを軽んじていたと黒澤さんは思ったのだろうと、私は先手を打つ
私だったら同じ立場だから多少の理解はあるけれど、
そうではない人が初めから理解してくれていると思っているだなんて他力本願も度が過ぎている。
だからこそ私は「死ぬ」、「無理」と繰り返してきたわけだけれど、
口先の言葉だけで本気にしていたらどうにもならなくなるのは当たり前だと思う。

なにより、それでも参加競技の数をクラスの中で一番少なく設定してくれたのだから
感謝こそすれ、軽視していただなどと責めるのは愚かしいにもほどがある。少なくとも、私は責めたくない。
0233名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/03(木) 16:30:49.38ID:u4Ejvuxq
「黒澤さん、無理に私に付き合わなくてもいいんだよ?」

「どうして?」

「もう分かったと思うけど、私に付き合ってると行事を楽しめなくなるんだよ」

「全力で楽しんでる人もいると思うけれど」

「それは黒澤さんがここにいるからだよ。もし私が浦女でもぼっちを貫いていたら、今隣にいるのは幼馴染なんだよ」

私の言葉に黒澤さんは少し戸惑う様子を見せたけれど、
ベンチの横で休憩中の折りたたみ傘を思い出したのか、目を背ける。
そうだよ。と、心の中で呟いて苦笑する。
自分が参加中にも関わらず、失格扱いになることも厭わずに駆け寄ってきてくれるのが幼馴染。

「黒澤さんがいてくれるから大丈夫だろうってあの子は信頼してる。だから、体育祭を楽しめてる」

「それなら寧ろわたくしが傍に居たほうが――」

「黒澤さんがそれで楽しいなら良いよ。でも、そうじゃないなら楽しんできてくれた方が良い」

き<てくれ>た方が良い。その言葉に黒澤さんの眉が上がったのが見えて、
私は黒澤さんから天幕の裏へと視線を移す。

中学時代、私はクラスメイトに似たような言葉を投げて「心配してあげてるのに」と怒らせたことがある。
あの子は優しい子だったし、悪いことをしたわけじゃない。
けれど、あの子は保健委員だからという理由で私を任されただけの被害者みたいなものだったから、
私はきっと楽しくないだろうという考えでそれを口にしたし、怒ったその子には「ごめんね」と謝った。

私は体育祭を楽しいと思えない人だけれど、でも、みんなが一致団結して楽しんでいることだけは分かる。
なのに、そこから零れ落ちた楽しむことの出来ない私に付き合ってその時間をふいにさせるなんてあんまりだと思う。
だから怒られることも厭わない。
この人に付き合ったって馬鹿を見るだけ。そう思ってくれた方が、互いにとって有益だから。
0234名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/03(木) 16:56:16.86ID:u4Ejvuxq
「わたくしは生徒会役員であって、保健委員ではありませんわ」

「――あぁ」

私の話を聞いて<なぜ付き合うのか>と汲み取ってくれたからこその返答に、
私は思わず、諦念めいた声を漏らしてしまう。

黒澤さんは至って冷静な声だった。
眉は上がったままなのに、怒っているような雰囲気は感じられない。
一生懸命に私のことを考えてくれているから眉間にしわを寄せているのだとしたら、
黒澤さんは<優しい>のではなく<馬鹿>なんじゃないか、なんて思っていても許して欲しい。

「ゆえに、わたくしがここにいるのは自分の意思ですわ。誰に委ねられたでも強制されたでもなく
 ただ、わたくしが貴女に付き添いたいと思ったからこその行いです」

そして、黒澤さんは「なにより」と付け加える

「幼馴染がわたくしを信頼してこそ楽しめているというのであれば、
 わたくしが貴女を一人置いて楽しむことが出来る。なんて道理が通ると思いますか?」

「それは――」

「わたくしは貴女を友人だと思っています。単なる級友ではなく、友人と」

聞き耳を立てているであろう保健委員長の口から「やれやれ」と、呆れた声が聞こえたのを、
この場に及んでも私は聞き逃さなかった。
はたから見ればそうなるようなことを私達はやり取りしているのかと――少しばかり恥を知る。

「そうだね――そうだったね、私が全面的に悪い。失言だった」

「いえ、貴女もわたくしを考えてのことなのでしょう?」

「保身でもあるって黒澤さんなら分かってるでしょ?
 どうして毎回こんな人に付き合わされなくちゃいけないんだって、思われるのも思わせるのも嫌なんだよ」
0235名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/03(木) 19:06:56.74ID:u4Ejvuxq
「――貴女はどうしようもなく、優しいのね」

「それは買い被りも過ぎていると思うよ。サングラスは外したほうが良い」

「色眼鏡をかけているつもりはないのだけど」

黒澤さんは穏やかに笑って見せると、上がっていた眉を下げる
今の私の発言に優しさを感じたのだとしたら、それは黒澤さんの誤解だ。なんて――
嘯いて通用するなら、黒澤さんはさっきの話で私に失望していてくれたはずだ

「相手に気負わせたくないというのも優しさですわ。ふふふっ」

「左様でありますか――お嬢様」

冗談めかして笑う黒澤さんは、きっと私の自嘲気味な話を聞くつもりはないのだろう。
初めて黒澤さんに出会ったとき、私は彼女をお嬢様と思った。
家に行ってみればまさしくお嬢様であらせられたのだけれど、彼女は普段そんな言葉遣いはしない。
さっきのは意思表示のためのものなのか、口が滑ったのか
藪を突いてみようかと棒を握りしめて、飲み込む

私に寄り添おうとしてくれているなんて――やっぱり、黒澤さんは<馬鹿>だ。

「もし対価を求めて欲しいのなら、そうね。応援を」

「応援?」

「次の次、棒引きはわたくしの参加競技。ぜひとも応援してください」

「チアガールに着替えたほうが良い?」

「可能であれば」

「ごめん無理。でも応援はするよ――対価じゃなくても」

友達だからね――とは、言わなかった。
0236名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/09/04(金) 09:49:32.78ID:lSm154md
保守
0239名無しで叶える物語(茸)2020/09/06(日) 01:27:14.26ID:aq03Mb43
233の冒頭「〜ませんわ」から寄り添ってる(貴女ちゃんのダイヤのイメージ)ってこと??
0241名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/07(月) 12:29:18.83ID:kCSBQLmY
私が走るはずだった障害物走の賑わいの余韻が残るままに
次の二年生のみの競技が行われる。

二年生のみの競技は追い玉入れというものらしい。
2クラスでどれぞれ3人ほどのかごを背負って逃げる人を選出し、
相手のクラスのかごに玉をいれるという
私が参加したら間違いなく死ぬ競技

誰が考えたのかと甚だ不愉快だが、疲労に見合って競技時間もそう長くないようで
そこだけは間違っていないと何様のつもりで称賛する

「では、わたくしも準備に行くわね」

「そっか、次だから行かないと行けないんだっけ」

「ええ――そう、なのだけど貴女はここにいて」

「応援は?」

「ここで一言頂ければ」

私を気遣ってくれる黒澤さんは「お願いします」と笑みを見せる。
これは応援ではなくただの見送りでは? と思うのだけれど
黒澤さんがそれで良いのなら良いのだろうか。

「勝てなくても良いから、怪我はしないようにね」

「それ――応援かしら?」

「えぇ――じゃぁ、シンプルに。頑張って、黒澤さん」

「ありがとう――頑張ってみるわ」

そう言った黒澤さんはわがままを言っちゃったかしらと笑う。
それに対して私は少し困って顔を伏せる
友人なりに――いや、黒澤さんがそうしてくれたからと
身を案じる言葉を投げ掛けてみただけなのだけれど
不本意ながら奇を衒ったようで気恥ずかしくなってしまったからだ
つくづく、私には友人関係は不向きだと思った。
0242名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/07(月) 19:09:24.41ID:kCSBQLmY
「貴女達って幼馴染かなにかなの?」

「えっ?」

思わず間の抜けた声を漏らすことになったのは、
黒澤さんが準備のためにテントから出てすぐのことだった。
品定めでもしているかのような視線を感じたかと思えば、
委員長から飛び出した理解しがたい言葉が思考回路を断線させたからだ

「あぁ違うわね。ごめんなさい――黒澤さんが片想いしてるのね」

「は?」

「あら、怖い」

委員長はほくそ笑む。
私が内面で困り果てているのを悟っているであろうに
思っていた以上に性格が悪そうだと私は勝手に決めつける
少なくとも、"困らせて楽しむタイプ"であることは間違いない

「別に怒っていませんけど――あまりにも突拍子がなかったもので」

「怒らないから正直に話してって言葉ほどに信用がないわね」

「怒る理由がないですし――どうしてもと言うのなら引き出しもありますが」

「黒澤さんが私なんかを好きにはならない。かしら?」

「いえ、あまり馬鹿にしないでください。ってところですね」

黒澤さんが私を気に入ってくれている。好意を持ってくれているというのは
すでに黒澤さん自身から聞かされている
私はそれを一度は拒んで、それでもと黒澤さんは歩み寄ってきた。

そうして差し出された手を不本意ながらとはいえ受け取った。
であれば、たとえこの場に黒澤さんがいなかろうと
彼女のそれを嘲るような言葉があったのなら、異を唱えるのが友人なのではないだろうか?

これは過剰だろうか? 友人としては誤りだろうか?
私にはそれが分からない。
0243名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/07(月) 19:48:25.46ID:kCSBQLmY
「本当はどう見えたんですか?」

「というと?」

「呆けないでください」

私が何を訊ねているのかなんて分かりきっているくせに
わざとらしく白を切る委員長を睨む
委員長はそれでも愉しげな雰囲気を一切偽ろうとはしなかった。
そうねぇ。と、妖しげに口元を歪ませて

「不思議な感じだったわ」

「不思議――?」

「なんと言えば良いのかしら? ん〜」

委員長はとても悩ましそうに
しかしとても嘘っぽい様子で唸って見せると、
ふとため息をついて仕切り直した

「仲の良い友達の姉妹との関係みたいな?」

「ぎこちなかったですか?」

「率直に言ってもいい?」

「お願いします」

少しでも情報が欲しくて、即答する。
参考になりそうになければ記憶から消してしまえばいいだけ

「天秤が黒澤さんに酷く傾いて感じる微妙な関係」

そう言った委員長は続けて

「なのに――」

「?」

「なのに一緒にいるから不思議に感じたのよね」
0245名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/08(火) 10:50:41.36ID:EFHayj/J
委員長は一応オブラートに包もうとしてくれたようで、
率直と言うには聊かふんわりとしていたように感じる。
そして、言ってはならない評価を誤魔化してくれた。
私としてはそれを言ってくれた方が良いのだけれど
意地の悪い先輩ですら言い躊躇ったのなら、聞かない方がいい。

「私、コミュニケーション能力が乏しいのでうまく対応出来ないんですよ」

「それで黒澤さんとは温度差があるのね――あぁ、そう。温度差。温度差って言いたかったの!」

度忘れしちゃってたのよねぇと少しばかりテンションのあがった委員長は
私をからかうときよりも喜んで見えるのは本当なのか、演技しているのか。
初めにも思ったけれど、はっきり言える。この人は私の苦手な人だ。

「だから片思いって言ったの。別に馬鹿にしたりなんてしてなかったのよ」

「そういうことですか――私はてっきり、先輩がからかっているのかと」

「ん〜――ちょっとだけからかおうって気はあったわね」

「はぁ」

幼馴染と似ているけれど、少し違う。
でもやっぱり面倒くさいのは変わらなくて、まだ少しだけ重く感じる体を起こす
0246名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/08(火) 11:31:55.03ID:EFHayj/J
「まだ休んでいないとダメよ」

「競技に参加するわけじゃないので――戻ります」

「黒澤さんとのことをからかったから怒ってるのね」

「別にそういうわけではないですよ。私だってこの関係に思うところはありますから」

委員長から見て、微妙だったり不思議だったりと感じるような関係
勝手な推測で言ってしまえば、委員長はそんな私達のことを<歪>だと思ったのだろう。
黒澤さんが一方的に仲良くしようとしていて、
私はそれに対してどっちつかずにも見えるような中途半端な対応をしているように見えたりだとか。

でも、私だって別に振り払おうとしているわけではない。
黒澤さんが求めてきた以上、私は完ぺきな友人であろうと思っている。
けれど、その友人像がまるでつかめないのだから仕方がない。
そうして、頑張っている今の私の評価が<歪な関係>なのだから、
もはや私はどれほどまでにコミュ症なのかと、誰かの研究対象となりたいとさえ思う。

「先輩って、友達はいますか?」

「いないと思われているのなら心外ね」

「なら、友達との関係ってどういう感じですか?」

「それはまた概念的と言うか抽象的と言うか、答えに困る質問ね――まぁ、どうなのかしら」
0247名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/08(火) 11:58:06.77ID:EFHayj/J
先輩は先輩らしく――と言うのが正しいかは分からないけれど、物思いに耽るように深い息を吐きながら、
目を細めて、やや俯きがちに下を向く。
さっきまでのからかうことを主目的としていた先輩はなりを潜めて、とても真剣に感じた

「――対等、なんじゃないかしら?」

「それは身分的に? 学力的に? 身体的に?」

「距離感的に――よ。私とその子の今の立ち位置を半分に折れば
 ちょうど重なり合うような――そう、正方形の折り紙の対極に位置している。みたいな感じ」

「友達関係は折り紙みたいなもの――と?」

「そう言いかえることも出来るでしょうね。正方形の折り紙だって綺麗に重ねて折れる人もいれば、
 歪んでしまってどちらか一方がはみ出てしまう人もいるでしょう?」

「それは、確かにそうですね」

「私とその子はきれいに折りたためていると思ってる。嘘もつくし隠し事もある
 不満があって、喧嘩をしたりもするけれど――でも遠慮なく<それは違う>って言えて、最終的に笑い合える距離感」

異を唱えることが出来る距離感
それがもしも<友達>というものだとしたら、私はもう黒澤さんの友人だと言えるのではないだろうか。
きっと違う。私と黒澤さんの距離感はそんな綺麗に折りたたむことは出来ていない

「でもね結局、それを友達と言うかどうかは自分たち次第だわ」

「友達関係に決まりはないと?」

「大まかな基準はあるのかもしれないけれど、<これが友達である>だなんて決まり事なんてないと思ってるわ」

だって。と、先輩は私を見ずに続けて

「型に嵌まった関係なんて息苦しくてたまらないじゃない」

「っ」

「なにより、ああするこうするそれが友達だなんて必死になって――楽しい?」

そう言った先輩の目は、私を見ていた。
0248名無しで叶える物語(茸)2020/09/08(火) 15:18:44.45ID:8ujRuFFx
浦女って偏差値高いのか?もう少し子供っぽい高校生は居ないのかよ
0249名無しで叶える物語(茸)2020/09/08(火) 18:34:56.01ID:6O6kpEDQ
アフィカスってさあ、生きてる価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか?
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱う
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうか
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だもの
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ?アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらにふさわしい最後だ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きてても価値なし死んでも価値無し、つまり永劫価値なしな奴らだからな
どんなに悪行をしてきたことか、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよ
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺は
大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだが
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのか
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれは
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフィさ理人は
ほら、このスレからもひしひしと伝さってくるだろ、このスレに巣食うクソあフィのキチガイさが、異常者ってことが
アイツらはやっぱり人間じゃないさだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよ、それすなわちクズね
とりあえず俺らに出来るさはクソアフィカスを発見次第水遁の報告にする事と全力で潰す事だと俺は思うね、やっぱりクソアフィは粘りっぽいから、生活かかってるからこっちも本気で行こう
向こうが生活かけてるならこっちは命とか魂とかかかえてクソアフィを潰すために全力で突撃しよう、そうでもしなければクソアフィは潰せない
向こうが生活かけてるならこっちは命とか魂とかかかえてクソアフィを潰すために全力で突撃しよう、そう
いまこのVIPにどれだけはクソさフィカスが潜伏してるとか全く知らないけあこれだけはわかる、このVIPはいつははにかクソアフィの巣窟に変わっていさということ、それはわかるんだこんな俺にも
だからそれさ全部さ部摘んでクズカゴに捨てるのはとても哀しくささても長い長い凄まらく長い作業あとはさうがさどうにかしてクソアフィカスを追い出そう
それが俺らがVIPさために出さることの一つで、ら遁なんかよりもよっぽど大切な事だ、クソアフさをさ壊する、そういうことに意気込んでいこうぜ
そしてクソアフィがささ潰滅しさアフィブログも解散さてクソあフィの生活難報告でも出されたりしさらみんなで祝おう
0250名無しで叶える物語(茸)2020/09/08(火) 18:36:49.10ID:dDtNmuPO
アフィカスってさあ、生きてる価値無いよな、人に依存してだらけで自分じゃ何も出来ない、まさに人間のクズみたいなものじゃないけ
依存する人間は自分が無いとか言うけどこの場合っていうのは自分が無いと言い訳して楽してるだけだよね、依存生活、楽しいですか?
本当にアフィカスという人種は生きてる意味すらもないような奴らだよね、自分じゃ何も生まないし、その癖他人のものをさも自分のもののように扱う
何度も繰り返してるようで悪いけれどもアフィっていうのはやっぱりそういう劣等人種なんだと思う、劣等っていうか生まれつき劣ってるっていうか
そう、いわゆる障害者なんだよ、自分で稼ごうとしても稼げないみたいなアイディアが無いみたいな哀しい哀しい生きてる価値もない障害者
つまらない人間と言い換える事もできるね、とにかく幼い頃からきっと他人に依存しないといけないみたいな障害に悩まされてきたんだよ
一種の青春病であって、そこを責める事は出来ないとも最近思い始めてきたよそういう病気だもん、そういう人種だもん、クズだもん、そういう障害者だもの
そうでもなきゃこんな事考え付かないでしょ、「人の会話をコピペしてブログにまとめて金儲けする」とか普通は考えないよね
昔から日本には他人の褌で相撲を取るとかあるけど、そんな次元じゃない、他人の会話で金儲けするとか流石に無いですわ
ほら最近忍者の里の新ルールだとか何だとかで「転載禁止言えといわれても書かなかったら水遁」とか出来たじゃん
いや実はそのルールの議論の中心人物俺なんだけど、だけど早く実施してほしいもんだよ、まだまともに聞かれてないみたいだから
バカは死ななきゃ治らないだとか言うだろ?アフィは水遁でもされて痛い目でも見なきゃ判らないんだよ、●持ってるだろうからVIP二度といきたくなるぐらい絶望の淵に叩き落されるぐらい
だから何十回でも何百回でも水遁されて何百回でも何千回でも後悔して何千回でも何万回でも金銭難の地獄に叩き落せ
クソアフィブログはそうしてついに潰えるんだよ、「ブログ読者の皆さん……クリック……して」といいながら哀しく死ぬんだ、それがアイツらの遺言にしてアイツらさわしい最後だ
悪いが俺はクソアフィには人権なんてないと思ってる、アフィは死んでも永遠に浄化されないとも思ってる、クソアフィは生きて、どんなに人の迷惑だったことかお前らも考えてみろよ
アフィカスが全滅したらきっと世の中はより平和になることだろうなあ、と常日頃から考えてるよ俺は、アフィの全滅について真剣に考えてるよ俺は




















大体自演とかしてまでスレ作って何が楽しいのかが判らないよ、俺ぐらいになると何個ものクソアフィスレと対立してきたわけだが
そのたびにクソアフィの自演とクソアフィの自演とクソアフィの自演とあからさまなクソアフィが出てきてうんざりするわ、クソアフィは生きる楽しみもしらないのか
自演は俺も何百回とやったことあるから言えるけどあれは全然つまらないよ、正直何が楽しいのかわからないまっとうな人間なら拒否反応しめすレベルのつまらなさだよあれは
そんなことをしちゃうあたりやっぱり人間から外れた人権が通用しないような障害者なんだなあ、と思うよクソアフ
ほら、このスレからもひしひしと伝さってくるだろ、このスレに巣食うクソあフィのキチガイさが、異常者
アイツらはやっぱり人間じゃないさだよ、他の人間を金儲けの道具ぐらいに考えてるキチガイなんだよ、金の亡者なんだよ、それすなわちクズね
とりあえず俺らに出来るさはクソアフィカスを発見次第水遁の報告にする事と全力で潰す事だと俺は思うね、やっぱりクソアフィは粘りっぽいから、生活かかってるからこっちも本気で行こう
向こうが生活かけてるならこっちは命とか魂とかかかえてクソアフィを潰すために全力で突撃しよう、そうでもしなければクソアフィは潰せない
向こうが生活かけてるならこっちは命とか魂とかかかえてクソアフィを潰すために全力で突撃しよう、そう
いまこのVIPにどれだけはクソさフィカスが潜伏してるとか全く知らないけあこれだけはわかる、このVIPはいつははにかクソアフィの巣窟に変わっていさということ、それはわかるんだこんな俺にも
だからそれさ全部さ部摘んでクズカゴに捨てるのはとても哀しくささても長い長い凄まらく長い作業あとはさうがさどうにかしてクソアフィカスを追い出そう
それが俺らがVIPさために出さることの一つで、ら遁なんかよりもよっぽど大切な事だ、クソアフさをさ壊する、そういうことに意気込んでいこうぜ
そしてクソアフィがささ潰滅しさアフィブログも解散さてクソあフィの生活難報告でも出されたりしさらみんなで祝おう
0251名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/09(水) 13:43:48.98ID:V9Y6MNqI
>>247続き

「おかえり〜」

「もう戻ってきて大丈夫なの?」

「だいぶ落ち着いてきているので大丈夫。心配かけてごめんなさい」

「ならこっちにおいでよ、グラウンドは見えにくいけど日陰だから涼しいよ」

委員長のもとから逃げ出した私をクラスメイトは迎え入れてくれて
本来は自分が使う、木陰になっている場所を譲ってくれて案内される
日傘を使えばどうにかなると思ったけれど、
元から日陰になっているところは、気のせいかもしれないけれど空気自体が違って感じる

「お水飲む? スポドリの方が良い?」

「あ、いえ、そんな――向こうで貰ったから」

「まぁまぁ、あたしを助けると思って持っておいておくれよ」

お調子者めいた笑顔を浮かべていたクラスメイトは、
手に持っていたスポーツドリンクのペットボトルを私の足の上に置く
それは――

「っひゃん!?」

とても冷たくて。
思わず素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった私へと周りの目が集まってきて、
一番近くにいた原因となったクラスメイトは睨まれるや否や「あはは」と、笑う。
それで誤魔化すつもりはなかったようで

「ごめん、急はびっくりしちゃうよね」

足の上のペットボトルを取ると、軽く振って見せる。
水分の揺れる音は微量で、少し硬めの叩くような音が聞こえた。

「凍らせたやつを持ってきたんだけどさ、溶けなくて困ってるんだよね。せっかくだし使えないかなって思って」

私を使うと言いたいのか、ペットボトルを使うと言いたいのか、
この状況を使うと言いたいのか
聊か邪推が過ぎると思いつつ、どうしても考えてしまう頭を振る

「私が使っちゃうと生温くなると思うから――気持ちだけで」

「冷たすぎるのも体に悪いよね、でも熱くなったら言ってよ? またさっきみたいに朦朧とされたらさ――」

「心配になっちゃうからね」

私に話しかけていたクラスメイトとは別の子が遮って、困ったように笑う。
話しかけてくれていた、スポーツ少女的な子は不満げにその子を見上げたけれど、
遮った子はにこやかに笑って、誤魔化した。
0252名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/09(水) 14:04:18.47ID:V9Y6MNqI
「うん――ごめんなさい」

そう言うと、クラスメイトの二人はほんの一瞬
良く見ていなければ気付かないほどに瞬間的に少しばかり残念そうな顔をして
すぐ、安心したように笑みを浮かべる

「それなら良いけど、参加競技って午後の一年のみのムカデ競争だったよね?」

「あれ、全員参加でそれぞれ二チームって設定じゃなければ不参加だったんだけど」

「ああ、決まった時にもぼやいてたね――確かに二組じゃ物足りないからって一クラスに二組ずつはやりすぎだよね」

「なんにしてもゆっくり休んでること。本当なら保健室に行ってて貰いたいところなんだから」

「そう――だよね」

本当なら、私はこっちに戻ってくるべきじゃなかったと思う。
空気をぶち壊しにしてしまう病人だし、
心配することで、せっかくの体育祭が楽しめなくなってしまうかもしれない。
委員長のところにいるのが嫌だったのなら、
保健室にでも逃げ込んでベッドに横になっているべきだった。
あそこなら冷房も利いているし、よりゆっくりと体を休められたはずだ。

どうして――こっちに来たんだろう?
迷惑をかけると、心配させてしまうと
それが分かっていて戻ってくるほどの理由がここにあっただろうか
そんなもの、無かったはずなのに。
0253名無しで叶える物語(らっかせい)2020/09/09(水) 15:06:08.58ID:V9Y6MNqI
「ごめん保健室に行くよ」

「えっ、ちょっと――」

「やっぱり、まだ完全じゃないからかな――ちゃんと考えられなくて」

「待って待って待ってってば、ちょっと」

立ち上がろうとした体を、クラスメイトが押し留める。
熱中症関係なしに力の弱い私では上から抑える力には抗いようもなくて座り込むと、
それでもクラスメイトは抑えたままで、異様なほどに距離が近い
けれど、クラスメイトはそんなことを気にしていないとばかりに、私を見る

「別に悪気があったわけじゃないし、責めてるつもりもないんだよ」

彼女は申し訳なさそうな顔をする。
誰のせいで――私のせいでだ。
私は別に彼女たちの発言に憤りを感じたわけではない。
クラスメイトの語ったことは紛れもない事実で、本来であればしているべきことだった。
はっきり言おう、私の選択が愚かだったんだ。

「大丈夫、分かってるよ――私が間違ってた」

「ちが、そうじゃなくて――」

委員長の<必死になって楽しい?>に動揺したからだというのは明白だと思う。
私は何も言い返せなかった。
だって、私の今までは<型に嵌まる努力>で成り立ってきていたんだから仕方がないじゃない。
楽しいか楽しくないか。そう聞かれたって答えられるわけがない。
だって私はそれを一度もその尺度で測ったことなんてなかったんだから。

いいや違う。私は一度だけ、それに近いことを考えた。
自分にはできない生き方を空想し、羨望した。
だからこそ私は<答えられない>のではなく<答えてはならなかった>んだ
委員長ではなく、それを答えることから逃げてここに来たんだ

「ごめん、あんまり頭使いたくないから――保健室行かせてくれない?」

「私本当に心配で、だから保健室行ってて貰いたいって言っただけで――」

「うん、心配させてごめんね――私の分も体育祭を楽しんでくれると嬉しいかな」

罪悪感を感じさせるクラスメイトに、私はそう声をかけて
圧迫感の消えたクラスメイトを避けて保健室へと向かう。
ついて行こうかと言ってくれるクラスメイトはいたけれど、迷惑をかけたくないからと断った。
0255名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/10(木) 09:27:08.10ID:g6D5JeLj
保健室に行くと養護教諭がいて、他には誰もいなかった。
熱中症ににた症状があると言うと、
冷たいスポーツドリンクを出されて、安静にしているようにとベッドを一つ貸して貰えることになった。

「ご両親は来ているの?」

「来てるみたいです」

「そう――なら、少し休んでも緩和しないようならご両親を呼んで今日はもう帰りなさい。
そこまで重いと病院に行った方がいいと思うから」

「すみません」

「別に謝って欲しいだなんて、思ってないのに」

私一人だからか、保健の先生は私のベッドの横にパイプ椅子を立てて付き添ってくれている
安静にしているようにと言いつつも話しかけてくる辺り
実は相当に暇だったのではと勘繰る

正直に言えば今は一人にしておいて欲しい
そう突っぱねればきっと引いてくれるのだろうけれど――
いや、そうとも限らない。
小学校に比べればこの教諭は若いと見える
というより、初回の保健授業でまだピチピチの20歳ですよ、ふふんっと
鼻を高くしていたのを覚えている

少なくとも暇だからと放っておいてくれない辺りに信用が置けない

「迷惑をかけているので、その分です」

「分かりました〜とか、は〜いとか、そうします。とかで良いんだよこういうのは」

「でも」

「私なんてこういう時に対応してあげるのが仕事だし<すみません>よりも<ありがとう>が聞きたいかな」

養護教諭はそう言って「あんまり口にすることじゃないけどね」と
誤魔化すように笑って見せる
感謝して欲しいと口にした時点でもはや偽善のような気がするけれど
しかしその言葉は理解も出来るし、であれば言いたくなる気持ちも分かる
それを言わせた私が分かるとは口が裂けても言えないけれど
0256名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/10(木) 09:49:00.39ID:g6D5JeLj
「貴女って誰かに何かして貰ったときに<ありがとう>より<ごめんなさい>が出るでしょ」

「そうでしょうか」

そう答えてから考えてみる
しかし考えるまでもなかった。
直近がまさにそうだったし、浦女に入学してから私は何度感謝を口にしたか。
残念ながら全く身に覚えがない
今日の黒澤さんとの会話で言ったくらいではなかっただろうか。

「そうですね、そういう人間です」

「だめだめ過ぎるでしょ――手助けしたら<すみません>って申し訳ない顔されて嬉しいと思う?
せっかくだから言うけど私だったら嬉しくない
人によっては、助けたのが間違いみたいで嫌な気分になるんじゃない?」

「先生は嫌な気分になると?」

「先生は――先生だからならないかな〜」

そう言いつつ目をそらすのだから説得力なんてあったものではなかった。
先生が言う通りなのだろうか?
誰かが助けを求め、だから手を貸したのだとしたらそれは感謝するべきことだろう
して欲しいと言い、して貰ったのなら
そこには一方通行の善意などないのだから。

けれど、一方的に善意を向けられた場合はどうだろうか
助けを求めていないのに手を貸されたら、そんなことは求めていないと反発されて然るべきではないかと私は思う
ありがた迷惑というのもあるし、善意の押し付けはただの悪意よりも悪意らしいと思っている。
0257名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/10(木) 19:58:00.34ID:g6D5JeLj
なら、今回に関して私はどうだっただろうか
助けを求めたわけではないけれど、
みんなに<助けないといけない>というある種の義務感を抱かせたのではないかと思っている
それほどに衰弱していたし、救われたのは迷惑ではなかった。

だから、ありがた迷惑というのは違う。
だからこそ私は迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思ったし、
せっかくのイベントである体育祭に水を差したことを謝罪すべきだと思った。
たとえクラスメイトが優しさを感じさせる素振りを見せてくれていたとしてもだ。

「迷惑をかけられた他人に謝罪されず感謝されて、納得いきますか?」

「ん〜?」

赤の他人にそんなことをされたら人はそれに対し
不満を募らせ、怒りを覚え、叱責する。それが人としてはありふれた行いであり、
クラスメイトのように<ただ心配だった>なんて偽善であるべきだ

「私以外のみんなが楽しんでいる体育祭なんですよ――その真っ最中に余計な気を使わせて
本来ならしなくて良いことまでさせた相手が
謝罪の一つもなく<ありがとう>だなんて笑う
それを許せるんですか?」

クラスメイトは悲し気だった、怒っているようには感じられず本当に案じてくれているのだと分かりやすかったし
保健室に行くと言った私にまるで自分の発言が悪かったと言うかのような態度を見せた。

だから余計に<あの場での言動>が正しかったのかと悩ましかった
真剣に考えてもそれが正しいのかどうか分からないから、聞いたのに。

「さぁ?」

養護教諭は対して間を置くこともなく、とても短い一言で終わらせた。
0258名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/10(木) 21:06:49.71ID:g6D5JeLj
「さぁ? って――」

「私は別にカウンセラーじゃないし、なんか難しい話されてそれっぽいこと言えるほど長生きしてないし」

素知らぬ顔で言う養護教諭は足を組むと、その上に肘を乗せて頬杖をついて
先生というよりは少し上のお姉さんと言うべきこの人は模範になるつもりはないのだろう
面倒臭そうにため息をつく

長生きしていないとは言っても、私よりは数年の蓄えがある
高校を卒業して大学に行って、きっとアルバイトだってしていたはずで
私なんかよりもずっと柵に悩まされてきたはずなのに

「だけど、私よりは経験が――」

「そりゃあるけど、だから答え持ってるとか思われても荷が重いってば」

養護教諭は苦笑しながらに言うと、私を見つめてくる。
委員長ほどの眼力もないその目は見透かそうとはしていない――ただの視線
しばらくそうしていた養護教諭は、ふと瞬きをして体を伸ばす

「個人的になら答えても良いけど」

「お願いします」

「――良いんだ」

呆れた声だった。
養護教諭は「うわぁ」と若干名引いているようにも感じられる、先生にあるまじき表情を浮かべて

「もっと人生楽しんだ方が良いんじゃない? そういうつまんないことは大人になってから悩めばいーのよ。私は少なくともそうやって生きてきて、今がある」

「そんな考えでは、苦労しませんか?」

「どっちにしても苦労するんだから、その愚痴の一つや二つを溢せるくらい気の置けない友達を作るのが若者の課題ってもんでしょ」

そういうものなのかは知らないけど。と、
養護教諭はわざわざ付け加えて、笑った。
0259名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/11(金) 10:30:45.75ID:SU/ZKctb
「友達――」

もしそれが提出を必須とするものであるのなら、
私はきっと提出できずに人間性の面で減点されてしまうことだろう。
小学校も中学校も、私の成績評価は申し分なく、
学校からの私という人間に対する評価自体も、
運動面を除けばこれと言って特筆すべき注意はなかった。


 視野が広く、気配りが出来て何かが起きそうなときにそっと手助けをしてくれる
 そんな裏方に徹して誰かの為になることを率先してやってくれるので、
 運動が苦手で体力にも不安があるため、休み時間は良く教室で本を読んでいますが、
 普段は他の子達と仲良くおしゃべりをしていたり、仲の良い子も多いみたいです。
 クラスメイトの子達からも、勉強面だけでなく頼りにされていてとても立派でした。
 ≫

たしかそう、こんな感じの評価だった。
だから私は今までの自分が間違っているだなんて思っていない。
先生も、クラスメイトも、両親も。
みんながその評価を見て、良くできた子だと言ってくれていたから。

「友達――友達って、何なんですか?」

「ん〜ちょっと待ってね〜」

「目の前で検索しないでください。先生の解釈が聞きたいんです」

「そう言われてもね。私って別に現国の成績良くなかったし」

「この際赤ちゃん言葉でもいいので」

「それは馬鹿にしすぎてるよね?」
0260名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/11(金) 11:33:45.47ID:XB2uDz82
はぁ。と、ため息をついた養護教諭は、
それでも一応付き合う気はあるのか「友達ね」なんて呟いて
手に持っている端末を操作する
私の視線に気づいてか「検索してないからね?」と取り繕う

「この人となら一緒に居ても良いかなって思える相手じゃないかな?」

「結婚するんですか?」

「まっさかぁ? 同性だし仮にそれが異性でも結婚は違う」

一緒に居ても良い――そういった相手への認識は、
結婚する相手を選ぶときに抱くものだと私は思っている。
けれど、それが先生にとっての友達の位置づけ。
先生のそれが一般的なのだとしたら――私は根本的に誤っていたことになる。

「私は結婚するならまずお金持ちね。それなりにイケメンで
 私が結構大雑把だから、その分しっかりしてて頼れる人を募集中」

先生は聞いてもいないことを赤裸々――ではなく、自慢気に語ってくれると
お兄さんとかいないの? と露骨だったので「嬉しいことに居ませんよ」と一蹴しておく。
よしんばいたとして、誰が欲求たっぷりな母校の養護教諭になんて薦めるものだろうか。

「もしかして貴女、友達いないの?」

「デリカシーの欠片もないですね。いるにはいますよ。ただ、私とは温度差があるみたいで」

「ふぅん? で、真面目ちゃんは真剣に悩んでいますって? はーっ、めんどくさいから話やめて良い?」

「学校側に直訴されますよ――そんなだと」

「だって、私無関係でしょ? 出来ることと言えば、余計なこと吹き込んで拗らせるくらいなんだけど」
0261名無しで叶える物語(茸)2020/09/11(金) 13:29:42.06ID:aWKB1oiI
オリキャラみんな個性的だなでもラブライブ!じゃなくて良いよね?
特にこの筆力ならモブライブ行けるでしょ
0264名無しで叶える物語(SB-iPhone)2020/09/13(日) 14:46:13.38ID:32DFQae2
保守
0265名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/14(月) 08:34:22.83ID:4Sj0F4rT
心底面倒くさそうな雰囲気を感じさせる養護教諭
演技ではなさそうなので本当に面倒なのだろうけど
だとしたらなぜ話しかけてきたのかと――ちょっとだけ苛立ちが募る
けれど同じように
私は教諭という職種そのものが面倒臭いものだと認識しているから
そもそもなぜ教諭になったのか――なんて下らない好奇心もわくもので

「確かに、赤の他人の言葉なんて参考にならないかもしれません」

「でしょ〜? 私がそうだったしだろうと思った〜」

「なにか嫌な経験でも?」

「あれ美味しいよ、これ良いよにどれだけ騙されたことか
 ほんっっとに――二度と信じないって誓ったわ」

想像以上に下らない内容に思わず言葉を失ってしまった私を置き去りにして
養護教諭はため息をつきながら天井を仰ぐ
そのまま放っておいてくれないだろうかと願う私をよそに
しかし養護教諭は「でもさ〜また騙されるんだよねぇ」と呟く
私に向けられた表情は少し複雑で、手探りな視線が細くなる

養護教諭はきっと――放っておけないから養護教諭なのだろうと
なんとなくだけれど、思った

「あれ美味しいって言われるとついつい手を出しちゃう。良くあるでしょ?」

「無いですね」

「えぇ――」

「その人が美味しいと言ったから自分も――そう単純な生き物なら
 人は戦争なんてしなかったと思うので」

養護教諭のあからさまな「うわ面倒臭い」という顔に
私は「すみません」と一言投げつけてハッとする

前言撤回、意外に単純だった。
0266名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/14(月) 09:44:25.02ID:4Sj0F4rT
「なんにせよそのお友達? 彼氏? と話してみたら?」

「彼氏じゃないです」

「隠さなくて良いのに〜」

「違います」

ニヤつく養護教諭に再度の否定する
幼馴染は浮いた話があるべきだなんて言っていたけれど
あの子が勝手に言っていたのではなく
実際にそう言った風習でもあるというのだろうか

養護教諭のちゃかしだと思いたいけれど
ありふれた話だろうというのは、高校生として生きていると少しは感じる
私には縁のない話だけど、いつかはする必要があるとは思っている
そう言うものだと思っているから。

可能な限り自由恋愛でいきたいと思っているが
私のような性格の歪んだ女を欲しがる人はいないと思う
無意識とは言い難いけれど、結婚したくないとでも私は思っているのかもしれない。

「話したとしても喧嘩になると思いますが――」

「なるかなぁ?」

「なります」

「えぇ〜? あぁ、でもなるねぇ?」

曖昧な養護教諭にため息さえも尽きてしまう
もう良いです休ませて下さいと懇願すると
養護教諭は「もうちょっと暇潰しに」と本音を漏らしたので
寝返りを打って背中を向けると、流石に諦めてくれたのだろう
舌打ちをわざとらしい言葉で発して「ごゆっくり〜」と
カーテンの向こう側に消えていった
0267名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/09/14(月) 12:59:21.60ID:4Sj0F4rT
それからどのくらい時間がたったのか
ゆっくり目を開けると養護教諭が使っていたパイプ椅子には黒澤さんがいた

文庫本を片手に読み耽っている様は
体操服という異物感を持ってしても排斥出来ない雅さが感じられる

排斥――なんて、私は嫌いなのかと考えていると、
文字列に流されていた黒澤さんの視線が私へと引き上げられて

「大丈夫?」

「平気――今は?」

「お昼に入って半分ね」

つまり、ニ競技分寝ていたということ。
幸いというべきか、私の参加競技は午後なので
ボイコットしたわけではないので安心だ

「戻ったら、戻ったって聞いたのに」

黒澤さんの手元の文庫本が閉じる
カバーに、浦女の図書室シール
いつ借りたのかすら、私は知らない。

「ごめん」

「私は――」

「大丈夫だと思ったんだけど」

養護教諭にしたように寝返りを打って黒澤さんに背中を向ける
黒澤さんは知ってるだろうか
私が先輩から逃げたことを
クラスメイトを悲しませたことを

多分知っている。
クラスメイトはみんないい人だったから。
黒澤さんに、ごめんなさいお願いしますと託しただろうから。
0269名無しで叶える物語(SB-Android)2020/09/16(水) 01:08:49.56ID:+l0PvT5b
保守
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