彼方「快晴」
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・かなかり(彼方×果林)
・地の文
・梅雨
よろしければ お昼休みも残り半分、といったころ。
中庭の隅っこ、色とりどりの大きな花壇を隣合って眺めて、果林ちゃんと二人きり。
大事な話があります……なんて、何をするのかバレてしまいそうなお呼び出しをさせていただきました。
果林ちゃんはちょっぴり鈍感さんだけど、告白はいっぱいされてるだろうし流石に気付かれてるかな。
ちらりとお顔を盗み見てみたら、何やら考え込んでるみたいで表情は読めなかった。 「ふー……」
告白。
夢の中からずっとイメージはしてたけど、それでも緊張しちゃうな……。
目を閉じて深呼吸をしていると、しばらくの無言にしびれを切らしたのか、声をかけられた。
「彼方。ここ……壁際には屋根もあるけど小さいし、降りださないうちに早く戻りましょ」
「……うん」 不安そうに空を見上げながら、話を急かされる。
まぶたを開けて視線を上げると、なんと、お昼時とは思えないほどの暗ーい雲。
これはいつ、ざあっと来てもおかしくなさそう。
急に雨が降ったときのプランも考えてはいるけど、それでも濡れないに越したことはないよね。
よし、と心の中で呟く。
うるさい心臓の音が、また一段と速まった気がした。 「果林ちゃん」
「?」
できるだけさりげなく、自然に自然に呼び掛けると。
特に答えるともなく、空と花壇を行ったり来たりしていた目がこっちを捉えた。
ざり、と靴と地面とが擦れる音を立てながら体を90度右へ向け、一歩距離を詰めて。
ぎゅ。
果林ちゃんの左手を両手でつかまえる。
彼方ちゃんのてのひらよりも少しひんやりとしたそれを、優しく包み込んで熱を伝える。
どうか、届いて。 「かっ、あの、彼方?手、いきなりはちょっと恥ずかしいんだけど……?あとこの握り方もなんか──」
「好きです。だいすき」
「──って、え……?」
照れて、いつもよりも早口に捲し立てるところに、想いをぶつけた。
顔が熱い。
果林ちゃんのほうは……口をぽかんとあけて、分かりやすく戸惑って固まってる。
たぶん、そういう「好き」だと、伝わってくれたからかな。 それを確認したら、覚悟はしてたはずなのに、こっちもいっぱいいっぱいになりそう。
……恥ずかしい。握った手を額に当てて、祈るように続ける。
「気付いたのは昨日なんだ。あの公園で、覚えてる?果林ちゃんが、恋人みたいねって言ってくれて。それがすごく、本当にすっごく嬉しくて……」
この後を続けるのがこわくて、泣きそうになるのをこらえる。
果林ちゃんに認めて欲しいなら、これぐらい、自信を持って堂々と伝えないと。 頑張れ、彼方ちゃん。
手を額から外して顔の前から下ろす。目が合う。
いつの間にか、半開きだった口は閉じられて、真剣な顔になっていた。
少し頬に色がついていたように見えたのは、彼方ちゃんの願望かな?
「これから、梅雨が明けて夏が来ても、晴れの日も雨の日も曇りの日も。昨日みたいな、昨日よりも心に残るような、二人きりの想い出が欲しい。果林ちゃんが、欲しいです」 「か、なた……」
……よかった、言えた。
握ったままの手にぎゅうと力が入る。
気遣うように握り返されて、それにもどきりとしてしまう。
「ふうっ……。えへへ、急にごめんね、こんなこと言って。……ねえ、果林ちゃんは、どう?」
「どう、って」
未だ戸惑いの中にいる果林ちゃんに、返事の催促をする。
夢の中、相談に乗ってくれた人の質問を思い返す。
たしか、彼方ちゃんもこうやって気持ちを確認したんだっけ。 「好きって言われて、どう思ってる?嬉しい?恥ずかしい?……それとも、イヤだった?冗談を本気にしちゃってて、きもちわる──」
「そんなわけないじゃない!」
怒った顔で強く否定する。
少しびっくりすると同時に、思い出す。
そういえば彼方ちゃんも紫陽花の……そうだ。
夢の中で、紫陽花の彼方ちゃんに、こうやって答えていったんだったなあ。 「……ご、ごめんなさい……大声出して」
謝ると同時に、目を伏せ、繋がった手に視線を落とす。
「……わから、ないの」
声のトーンも落とす。
「昨日のデート、すごく楽しかったし、もっと一緒にいたいって気持ちもある。たぶん、す、好き……なんだと思うわ、私も」
「……うん」
一度息を切った果林ちゃんに合わせて、相づちをうつ。 ……うそだ。
好き、と言われて、飛んでいってしまいそうなほど嬉しいのを押し殺すために、彼方ちゃんも深呼吸をする必要があった。
「彼方の気持ちも……本当に嬉しく思ってる。それで、その……でもね?それって、何か今と変わらなきゃダメなの?って思っちゃうの」
「……」
「私には、それがわからなくて……ううん。変わってしまうのが、こわいのよ」
そう言って彼方ちゃんの顔を見ると、弱々しく笑った。 今にも泣き出しそうだ、と思った途端。
ぽつ、と手に冷たい感触。
二人していきなりのそれに驚いて間が空く。
一拍置いて、さああ……という音と一緒に頭、顔、肩にも感触がつづく。
「……いけない。降ってきちゃったわ!途中だけど、早く戻りましょう」
「う、うん」
屋根を求めて、水溜まりを踏まないように気をつけつつ早足で進む。
果林ちゃんに、右手を引かれながら。
昨日のデートみたいだなあ、とぼんやりと思いながら、果林ちゃんのさっきの言葉を考える。 『でもね?それって、何か今と変わらなきゃダメなの?って思っちゃうの』
『私には、それがわからなくて……ううん。変わってしまうのが、こわいのよ』
……確かに、そうだ。
デートも、好きだと伝えるのも、手を繋ぐのも抱きつくのも一緒に笑い合うのも、別に今のままでもできる。
現に今、できてしまっている。
そういうささやかな楽しみが、幸せが、恋人という関係になったら、何か変わってしまうんじゃないか。
それは、果林ちゃんの言うように、こわいかもしれない。 でも……。
でも!
すう、と息を吸って、思考を切り替える。
「果林ちゃん待って!」
「あら?私また道間違え……って、え!?」
ぎゅうと手を強く握って、ブレーキをかける。
そのまま切り返して、雨のなかを逆走する。
果林ちゃんを道連れにして。
「ちょちょ、ちょっと彼方!?」 「果林ちゃん!屋根の下を目指してたんだから、道間違えるとかはないよ!」
「あっ、そうよね……じゃなくって!」
じゃあ今はどこに向かってるのよ!という後ろからの叫びをあえてスルー。
こっちも声を大きくする。
顔に雨が当たるのが、少し鬱陶しい。
「果林ちゃん!彼方ちゃんも、何かが変わっちゃうの、こわいと思う!」
「う、うん……?」
「でも、彼方ちゃんは……果林ちゃんと一緒なら、こわいのも、ぜったい楽しめる!」
足元に注意しつつ、振り返る。
不安そうな果林ちゃんの顔が目に入って、思う。
……デートのときとは逆だね。
彼方ちゃんが笑ってて、わけわかんない状態の果林ちゃんを引っ張ってさ。 走って走って、いつか見た紫陽花を通り過ぎたとき、頑張ってって声が聞こえた気がした。
「大丈夫だよ。そもそも、そんなに良くない方にばっかり変わらないし、もしそうなっちゃってもさ……」
目的地……タオルと着替えが常備されている部室……のドアの前に着いた。
息を整えて、笑いかける。
「手を握ったとき。雨が降ったとき。夢を見たときに。一回一回思いだそうよ」
「……」 右手は手を繋いだまま、左手で果林ちゃんの頬に触れる。
汗か雨水か、もしかしたら涙か。
垂れていたそれを拭って。
くすぐったそうに目を細めるのが、いとおしいと思う。
「ねえ、果林ちゃんはどう?彼方ちゃんは……ふたりでなら、できそうな気がするよ」
「私、は……」
「だから、もしよかったら。彼方ちゃんと、恋人になってくれませんか?」
もう一度、手をぎゅうっと握ってお願いする。
どう、かな……? 「……」
果林ちゃんは、目線をしばらくうろうろとさまよわせたあとに、彼方ちゃんの顔をとらえた。
それからまた下を向いてひとつ深呼吸をしてから、目を合わせて言った。
……言ってくれた。
「中に入りましょう、彼方。……彼女に風邪なんて、ひかせられないわ」
「果林ちゃん……!」 「〜〜っ。ほ、ほら!もういいでしょ、早くしないとお昼休みも終わっちゃうから」
ぐいぐいと強引に引っぱられながら、部室についていく。
そんなふうに顔を背けても、耳まで真っ赤にしちゃってるから、照れ隠しにもなってないんだけど。
でもそれは、きっと彼方ちゃんも同じだろうから、心の中に押し留めておくことにする。でも……。
「えへへぇ……」
「ちょっと!わ、笑わないでよっ」
ごめんね、違うの。
変わっても思いだそう、なんて言ったけどさ、こんなこと。
こんなに素敵な、大切な気持ちなんだもん。
「忘れること自体……できなさそうだからっ」
「きゃあっ!?」
こみ上げる嬉しさを抑えられなくなって、果林ちゃんに飛び付いた。
ほとんど倒れこむみたいな勢いだったせいか、びっくりした果林ちゃんの可愛い悲鳴が、雨音で染まる部室に響いた。 待ってました、彼方ちゃんの心情がとても伝わってきて良き…… 7月。
まだ朝の10時になろうかってくらいなのに、気温はすでにぐんぐん上がって、何もしなくても汗がにじむ。
湿気もあって、嫌になってくる。
もう夏本番くらいの気分だけど、これでまだ蝉も鳴きはじめていない梅雨だっていうんだから恐ろしい。
暑゛い……!
「うへえ……館内はクーラーきいてますように……」
「こら彼方、しゃきっとしなさい。だらしないわよ」
「あうっ」
前のめりになる彼方ちゃんの頭を、帽子の上から軽くたたく。 今日は、いつぞやのデートで彼方ちゃんが行きそびれた(行ったんだけど、記憶があいまいな)プラネタリウムにもう一度来ています。
今度の天体観測の予習として、もう一度行っておきたいと言った果林ちゃんに同行する形で。
そして、ちょっとしたブームになっているらしいプラネタリウム館がオープンする10時を、そこそこの行列に紛れて待っているのが今。
人の多さを再認識すると、また体感温度が上がったように思えて、泣き言がこぼれる。
「でも、暑いんだからしょうがないよぉ……」
「もう。……それにしても、私たちって天気には嫌われてるわね?」
「溶けそう……うん?お天気?」 疑問に思って聞き返すと、ちょっと困ったように笑いながら答える。
「だってそうじゃない?梅雨の時期で天気が安定してないとはいえ、晴れた日が来なくてデートまで時間がかかったでしょ」
「うん」
「それに、彼方とつ、付き合……ことになったときも……に、にやにやしないでっ!」
ごめんなさい。
あのときのことを思い出したらいっつも照れちゃう果林ちゃんが、かわいくてかわいくて。
「んんっ……。まあ、そのときも急に雨に降られちゃったし、それに……」 言葉を切ると上を向いて、真っ青な空と眩しい太陽に一度、目を細める。
「ふう。今日は屋内にしか用事がないんだから、曇りなり小雨なり、こんなに綺麗に晴れる必要もなかったのに、ってこと」
「うーん……たしかに」
改めて言われてみると、お天気に振り回されてる気がしないでもないなあ。
「ひょっとしたら、天体観測も雨がぶつかったりして……」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」
「なーんて、冗談冗談。……きっと大丈夫だよ」
汗を拭って、果林ちゃんに向き直る。
「泣いてたって晴れるし、笑ってたって雨は降る。でも思い通りじゃないことのほうが、より強く思い出に残ったりするんじゃないかな?」
彼方ちゃんの言葉を受けて考え込んでいるすきに、するりと手を握る。
暑いんじゃなかったの?と目が言っているので、これは譲れません、と目で返す。 「それにこうやって一緒にいられたら、それでいいかなって」
「そ──」
果林ちゃんが何かをいいかけたとき、開館です、というアナウンスが響いた。
順々に動き出す前の人にならって歩き出──ぐんっ。
……進めなくて、振り返る。
「……果林ちゃん?じっとしてないで、いこ」
「……も」
「うん、なぁに?」
果林ちゃんがぼそっと落としたセリフを、拾い上げようと聞き返す。
ゆるりとかぶりを振ってから、わざわざ耳元に口を寄せて、答えた。 「──ひ・み・つ」
「……っ。も、もう〜!」
おまけにリップ音を残していくんだから、たちがわるい。
心臓がとまりそう……いや、動きすぎて破裂しそうだ。
「ど、どうせ、私もよって言ったんじゃないの!?」
やけっぱちぎみに当てずっぽうの言葉をぶつける。
「あら、バレちゃったかしら」
「ば、バレちゃってますー……え、本当に?」
「……ふふふ。さ、いきましょ」
「都合悪いとすぐ誤魔化すんだから……」 歩き出す。
快晴の空の下、手を繋いだまま、笑顔で先を行く果林ちゃんを追いかける。
膨れていたはずの彼方ちゃんも、自然に笑顔になる。
今はその理由も、はっきりわかってるよ。
さあ、先取りした夏を、これから二人で確かめに行こう。
忘れないように、何度でも思い出せるように。
梅雨が明けるまで、もう少し。 これにて終わりです。長らく保守させてすみませんでした
約2週間のお付き合いありがとうございました
感想、質問、誤字脱字の指摘など、何かありましたら気軽にどうぞ
またお返事します 読んでて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました! よかったわ雰囲気すっごい好き
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