彼方「快晴」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
・かなかり(彼方×果林)
・地の文
・梅雨
よろしければ かなかりいいよね
彼方ちゃんが果林ちゃんに対して保護者ぶりつつもふとした瞬間に見せる凛々しさに魅せられちゃう感じがグッと来る 二人ともライフデザイン課だし普段からもっと絡みあってもおかしくないよね
支援 >>5
>外側のしずくが重力に従うのに合わせて、ついと指をすべらせた。
ひらがなでしずくって書いてるおかげで、しずくちゃんが雨の中なにをやってるんだと思ったよ 放課後。
教室には何人かがお喋りする声が聞こえてくるけど、雨の音はしない。
今日はなんと、何日かぶりの晴れ模様。
「彼方ー。起きてる?練習のじ、かん……だ、大丈夫?」
「あー……果林ちゃん……」 机に(正確には机の上の枕に)突っ伏した体勢のまま、声がした方向へ首を動かす。
もし効果音がつくなら、ず……ずず……、って感じのスローさとやる気のなさで。
わざわざお迎えに来てくれた果林ちゃんには悪いけど、ただいま彼方ちゃんは元気がないのです……。
「しんどい……。保健室と教室でお昼寝するの、もう飽〜き〜たぁ〜!」 「あぁ……」
見下ろす顔から心配が消えて呆れが浮かぶ。
そう。
梅雨本番の6月、虹ヶ咲にやって来てから彼方ちゃんが発見してきた数多くのお昼寝スポットは、このところ雨のため利用できなくなってしまっているのだ。無念……。
「中庭のベンチも、芝のある木陰も、もちろん屋上も……全部ぜーんぶダメになっちゃってるんだよぉ」 「……お気の毒に。さ、だいぶ重症みたいだけど、早く行きましょ」
「あ〜、彼方ちゃんのかばん、勝手に持ってかないで〜」
駄々をこねる彼方ちゃんの様子を見て、やれやれって風に苦笑い。
しかし全く容赦はなく、あっさり人質?を取られてしまった。
枕を手に、ひとつ伸びをしてから立ち上がって追いかける。 「来た。ほら、これ──」
「あ、自分で持ったんだから、部室までは果林ちゃんが持ってって?」
「……。ちゃっかりしてるんだから。じゃ、枕入れるから渡しなさい」
よし。彼方ちゃんは、ただでは転ばない……いや、ただでは起きないのだ。
念のため、よだれ垂らしちゃってないかを軽く確認してから枕を渡す。 ジッパーを開けて枕を押し込む果林ちゃんを眺めながら廊下を歩く。
大事に扱ってくれたまえよ。
「ん、入った。……そういえば、彼方。珍しくお天気だから今日は保健室以外ですやぴするぞ〜、って言ってなかった?結局やめにしたの?」
「それが……今日は良くても昨日が雨だったからか、屋外は全部しずくちゃんにNGもらっちゃいまして……」
ああ。喋ってたらあの無慈悲なメッセージがよみがえる。しくしく。 「なるほどね、しずくちゃんが」
「そうだよぉ。おかげで彼方ちゃん、今日はいつもにもましてがっかりなの」
「ふふふ。災難だったわね」
せっかく晴れたのに、といじけてみせたらくすくす笑いをこぼす果林ちゃん。
「もー。彼方ちゃんにとっては笑い事じゃないんだぞぉ」
「ごめんごめん。……でもそうよね、楽しみにしてたことができなくなるのって辛いものね」 そう言うとかばんを背負い直して、垂らした髪を触って考えを巡らせる。
今度触らせてもらおうかなぁ。
……なんて、彼方ちゃんがぼーっとしているうちに何かを思い付いたのか、そうだ、と口を開く。
「うん。次に晴れたらデートしましょうか」
「で、……え?」
いきなりの言葉に頭の回転がついてこない。……はい?何? 「梅雨のこの時期、せっかくの貴重な晴れの日を楽しめないなんてもったいないでしょう?そ・こ・で……」
胸に右手を当てて、重心をやや左に寄せる。
そして、自信にあふれた、どこか挑発的な表情でウインクをひとつ。
出た。果林ちゃんがよくやる、かっこつけポーズだ。
「この私とデートできるってなったら、ブルーな気持ちも晴れるんじゃないかしら!」
……実際、本当にかっこいいのが、なんていうか、ずるいなあ。 「……うわ、すごいナルシストさんだぁ」
「あら。自分に自信を持つのはモデルでもアイドルでも大切なことだと思うけど?」
「む……」
照れ隠しのなけなしの抵抗も、あっさりカウンターされてしまう。
……もう、違うのに。
彼方ちゃんのふわふわの言葉に振る舞いに、果林ちゃんが振り回される、それが私たちの基本型のはずなのになあ。 「……別に、わざわざ気を遣ってくれなくてもいいんだけど」
悔しさ?のような感情のせいか、かすみちゃんみたいな強がりを口の中でもごもごやっていると、果林ちゃんはまたちょっと考え込んでから、表情を柔らかくした。
「まあ気を遣ってないわけじゃないけど……。じゃあ、こういうのはどうかしら。私もね、雨続きだから最近お出かけ欲が溜まってるの」
だから。
「私の助けになると思って、つきあってくれない?」
眉を下げて、彼方お願い、と今度は下手に出てきた。 うーん……彼方ちゃん、普段みんなに甘えてるせいか、頼られるとちょっと弱いんだよね。
こう、お姉さんの部分が刺激されちゃうと言いますか。
「……彼方?」
「あ、ごめん。ほかのこと考えてた。……じゃあ、ちゃんとエスコートしてね?」
「やった!ありがとう。腕が鳴るわね……!」
ぱあっと明るい笑顔を浮かべたあと、真剣に何かをぶつぶつ言いながらデートプランを立てはじめる。 そんな果林ちゃんに聞こえるか聞こえないかくらいの音量で呟く。
こちらこそ。
「元気づけてくれて、ありがとね」
「でもランチはやっぱり──え?何か言った?」
「ううん。早く晴れたらいいなーって」
「ん、そうね。てるてる坊主でも作っちゃいましょうか?」
「あぁそれ、いいねえ。みんなで作ろうよ〜」
二人で笑いあう。
また今度、ちゃんとお礼を言わせてね。 もしかして彼方と果林さんのバレンタインのSS書いてた方ですか?あれめちゃくちゃ好きだったけど今回のこれもめちゃくちゃすきです... 「はあっはぁ……!果林ちゃん、はやいよお……!?」
右手を引かれてその勢いのままに走る。走る。
現在、午後2時30分を過ぎたころ。
絶え絶えになりそうな息の合間に漏らした泣き言に対して、果林ちゃんは左肩越しに振り向いて答えた。
「ふっ……ふっ……。ごめん彼方!なんか……なんか楽しくなってきちゃった!」
「ええ!?な、なにそれえ……ああぁ、落ち着こうってばあ〜〜!」 「さあ、とりあえずあそこの角までいくわよ!」
「ああ、ちょっと……!ていうかぁ、今どこなのかくらい確認しようよ〜!」
彼方ちゃんの叫びもむなしく、またスピードが上がる。
合わせて、気温も湿度も上がった気がして、汗がさらに吹き出す。
暑さとしんどさと、色んなマイナスが積み重なって、引っ張られていく体とは別に、思考は現実逃避を始める。
なんで彼方ちゃんたち、こんなに走ってるんだっけ……。 ─────
───
─
次に晴れたらデート、そんな約束をしてから、10日くらい経ったのかな。
雨とどんよりした曇りの日が続きに続いて、なかなか気持ちよく晴れた日は来ない。
これじゃあデートする前に梅雨が明けちゃうかもなあ、とちょっとへこみながら雨を眺めていた昨日、果林ちゃんからお誘いが来た。
『明日、予報では曇りだけど……このままずるずるいって流れちゃうのは嫌だから、よかったらどう?』 それで、果林ちゃんも似たようなこと考えてたっていうのがわかって嬉しくて。
お返事もしないでにやにやしてたら(一応言っておくと、彼方ちゃんのは可愛いにやにやです)、遥ちゃんに笑われちゃった。
……いや、それはいいんです。
行けるよってお返事したら、靴はヒール以外でって言われて……あれ。じゃあ、まさか……?
─
───
───── 「ふへえ……ひぃ……!果林ちゃ、もしかして、はじめから彼方ちゃんを走らせるつもりで……!?」
「はっ……はあ……ううん。ヒールじゃないのはっ、迷ったりしたら、ふっ、いっぱい歩かせちゃうと思って!」
そもそも私もこんなに走るとは予定外よ!と元気な否定が帰ってきた。
「じゃあ歩こうよ!?」
彼方ちゃんの必死の正論には、笑い声だけが帰ってきた。
ああ、もうっ! ……でも。なんでかな。
運動も嫌いじゃないから?
果林ちゃんと一緒だから?
それとも単純につられて?
いや、なんだっけ、頑張って走り続けてるとそのうちに楽になるっていう、ランナーズハイのせい?
理由はわかんないし、認めたくもないけど……。
たぶん今、彼方ちゃんも、果林ちゃんみたいに笑顔なんだろうな。
……それはそれとして、現実逃避は続けさせていただきます。
彼方ちゃんは夢を見るのが大好きなので……。
ていうか、いまちょっとほんとにしんどいので……。 ─────
───
─
そんなこんなで、楽しみにしていた今日のデート。
果林ちゃんは、モデルさんよろしくまず彼方ちゃんのコーデをチェックしてから、それに合うアクセサリーを選んでくれるらしい。
そのためにショッピングモールに向かう途中で、こんなことを言った。
「夏を先取りするデート。今日はね、私なりにこれをテーマに予定を組んでみたのよ」 だからって、ブレスレットを選んだあと、すぐさま水着を見に行くことはないと思ったけど。
案の定まだ売られてすらなかったし。
まあ、ちょっとがっかりしてる果林ちゃんが可愛かったから、いっか。
そのあとは、帽子とかワンピースとか、もう一回アクセに戻ってイヤリングとかネックレスとか。
時間潰しのウインドウショッピングをしばらく続けて。
共通科目は……うん……だけど、選択科目は頑張ってる果林ちゃんだったから、ファッションについて色々聞けて面白かった。 ……ここだけの話、本当に彼方ちゃんの好みに合わせたものを選んでくれるから、お財布の紐が緩むのを我慢するのが大変でした。
12時を過ぎたくらいで、果林ちゃんイチオシのカフェでランチ。
栄養バランスの良さと美味しさを高いレベルで両立していて、果林ちゃんが気に入るのもわかる気がする。
こんな風なお料理が、私も作れるようになりたい。
あのサラダパスタとコンソメスープ、いつか再現したいなあ。 ……問題はここから。
お料理のお話。
美容健康のお話。
ファッションのお話。
スクールアイドルに家族に友達に転校前の学校に中学校に……。
いままでも話したことがある話題も多かったけど、とにかくお話に花が咲いて。
とっても長くお店にいちゃったせいで、そのあとの予定が狂っちゃったんだよね。 それまで余裕たっぷりだった果林ちゃんが時計を確認するなり急に慌てだして。
道を間違えては戻って。
歩いて。迷って……。
カフェまで戻って……。
歩いて。
走って。
走って、走って……。
─
───
───── 「ぜえ……はぁ……!絶対、ぜったい、彼方ちゃんがマップ見て案内するほうがよかった……!」
「あ、はは……ほんと、そうね……!」
ベンチに並んで二人、肩で息をする。
現時刻、午後3時。
大通りを走っていたはずがいつのまにやら路地に。
平坦なルートのはずだったのにいくつも坂を越えた。 そしてたどり着いたのは、小綺麗ではあるけど、ブランコとベンチがあるだけの小さな公園。
路地裏にぽつんとある公園なのに、周りにひとけがなくて、なんか現実感がない。
一人でここに来てたらちょっと怖かったかもしれないなあ。
走っていたときとは違う、じっとりとした汗をかきそう……。
もう引っ張られてはいないけど、まだ繋いだままの果林ちゃんの左手を、ちょっとだけ力をこめて握った。
……手、いつまで繋いでてもいいのかな。 「ふーっ……。あの、彼方。走らせちゃったのに、結局間に合わなくて、ごめんなさい……ていうかここ、どこ……?」
果林ちゃんのほうは、手のことは特に気にしてないみたい。
映画楽しみにしてたのに、とこぼしながら謝られる。
途中、道わかんないけどいいや!ってなっちゃって果林ちゃんと走るのを楽しんだ彼方ちゃんも相当よくないので、許すしかない。
「ううん、気にしな、はぁ……気にしないで。まあ、かなり疲れちゃったけど、これはこれで……」 「そういえば、彼方もいつからかノリノリだったわね」
「そ、それは……ごほん。えっと、果林ちゃん、このあとどうするの?」
無性に恥ずかしさがこみ上げてくる感じがして、ぱたぱたと左手で顔に風を送る。
「……そうねえ。予定では、映画見て、感想会やって、最後にプラネタリウムにと思ってたんだけど」
「おお、プラネタリウム!」
「あら、好感触みたいで嬉しい。時間的にはかなり早いし、そ、そもそも今どこにいるのかもわからないけど……もうちょっと休んだら行きましょうか?」 「りょうかーい。今度こそ、案内は彼方ちゃんがするから大丈夫だよ」
「え、ええ。かっこつかないけど、それはもう今さらね。お願いするわ」
はにかんでそう言うと、右手に、きゅっと握られる感触が続く。
……もう少しの間、繋いでてもいいんだ。
上がりそうになる口角と体温を誤魔化すために口を動かす。 「梅雨が明けて夏が来て、そうしたらまた……」
「え?」
「そしたらまた、今度は映画と、ほんとの星空を観に行こう?」
朝にプレゼントしてもらった青のブレスレットが、曇り空に一瞬射した太陽の光を受けて、きれいな輝きを放つ。
果林ちゃんは一拍置いて、くすり、と小さな笑顔を浮かべた。
「……あら。まだ今日のデートも終わってないのに、もう次のお誘いかしら?ふふ、なんだか──」
恋人みたいね、私たち。 おはようございます
たくさんレスと保守をありがとうございます。完結させたらちょっとだけ返事します
あと今回以降誤字脱字チェックが甘くなるので、なにかありましたらご容赦ください
ではまた あれから。
楽しかったデートから帰ってきて、それと同じくらいから雨が降りだした。
遥ちゃんが、デートどうだった!?ってすごく息巻いて聞いてきたけど、半分だけ笑顔を浮かべた生返事しか返せなかった。ごめんよ。
あれだけわくわくしていたプラネタリウムもぼんやりとしか覚えてない。
それに、今日は結局なんて言ってお別れしたんだっけ。
もう雨が降るから?
また明日学校で?
次は彼方ちゃんがエスコートするよ?
「……だめだあ」
魔法でもかけられたみたいに、ずうっと浮わついた気持ちで、なんだか記憶が曖昧だ。 魔法でもかけられたみたいに、ずうっと浮わついた気持ちで、なんだか記憶が曖昧だ。
理由は、わかってる。
だって、あそこまでははっきり覚えてるんだから。
──恋人みたいね、私たち。
お昼過ぎ、あの公園で果林ちゃんにかけられた言葉が、彼方ちゃんのなかをこだまする。
こだまっていうか、頭を、体を、心を、一直線に貫いて、また反射して何度も通り抜けてる。 「……はぁ」
ふかふかのベッドの上、もこもこの枕に頭を乗せて、ふわふわのぬいぐるみを抱き締める。
……わかってる。
さすがに、こんなに揺さぶられて、果林ちゃんのことばっかり考えてて……これが、たぶん、恋。
そうだってことはわかってるんだ。でも……。
「じゃあ、どうしたらいいんだろう……?」
そのまま、ごろんと寝返りをうつ。 あんまり動き回るのは上で寝てる遥ちゃんに悪いから、普段は気を付けてるんだけど、どうか許してほしい。
胸の真ん中にあったかい、まんまるいものが浮かんで、それが風船みたいに彼方ちゃんの体をひっぱり上げる感覚。
ごろん。
頭では飛んでいかないことくらいわかっているんだけど、この浮遊感に抗うようにベッドに体をうずめる。
ごろ、ごろり。 何度めかの寝返りで、ふとブレスレットが視界に入った。
昼間みたいに右手に着けてみる。
数グラムの重さだけど、錨に、お守りになってくれるといいな。
「……よりにもよって彼方ちゃんの睡眠を妨害するだなんて、果林ちゃん、ひどいぞ」
ベッドに戻ったら、右手首のきらきらに恨み言をぶつける。 左手でそれを握りしめて、目を閉じる。
雨が窓をぱたぱたと叩く音。
自分の心臓の鼓動。
腕の中のぬいぐるみの柔らかい感触と、反対に硬いブレスレットの感触に集中する。
反響していた果林ちゃんの声が、少しずつ、雨の音に混ざって、入り込んで、それで……。
─────
───
─ 気がつくと、ベッドじゃなくて、ふかふかの地面の上で寝転がっていた。
まだ覚醒しきってない頭の中に、はてなマークが浮かぶけど、とりあえず地面を触ってみる。
うん……「ふかふか」以外に感触があんまりわからないな。
たぶんここは。
「夢の中……」 彼方ちゃん、睡眠のプロですからわかっちゃうんです。
体を起こしながらそう呟くと、ひとつ瞬きをする間に世界が姿を変える。
鎖の錆びたブランコに、見覚えのある木やその陰にあるベンチ。
昨日の公園……かな?昨日とは違って雨が降ってるけど。
そう認識したせいなのか、服もパジャマじゃなくて昨日のデートで着ていた服に変わっていた。 公園全体をぐるっと見渡してみる。
やっぱり、ひとけがなくって不気味だ。
夢の中、何が起こったってなんともないってわかっているつもりでも、それでもどこか不安な気持ちがよぎる。
そして、昨日にはなかったものがベンチから木を挟んで反対側にあった。
それは、つい最近もどこかで見たような、鮮やかな紫の、6月の花。 「紫陽花……?なんで」
こんなところに、と呟きかけて息を止める。
降っている雨(そのまま体をすり抜けていくから、やっぱり夢だ)の音も聞こえないのに、耳が何か音を拾ったから。
なんだろ……?
『……して、……の?』
……うん、聞き間違いじゃない。
目を閉じて聴覚に集中する。 『……どうして、あんな反応をしちゃったの?』
音……いや、声の発信源は、さっき違和感があった紫の紫陽花だった。
しかも、声だと思って聴いてみたら……。
『ねーえ、彼方ちゃん。彼方ちゃんは、果林ちゃんにあんなこと言われてさ、どう思ったの?』
「わ、私の声と、おんなじ……?」
思わず、ごくりとつばを飲み込む。
こ、こんな奇妙な夢、睡眠マイスターの彼方ちゃんでも見たことないぞ……!? そんな風に戸惑うこっちをよそに、紫陽花の彼方ちゃん(?)はお話……質問を繰り返す。
口らしい口はないけど、どうやって声を出してるんでしょうか。
『この公園で、手をぎゅーっと握って恋人みたいねーって言われてさ。嬉しかったんじゃないの?それとも恥ずかしかった?』
「そ、そんなこと……」
『あ、やっとお返事してくれたー。ちなみに、しっかり自分の気持ちを固めなきゃ、この夢から覚めないからね』
「なんですとぉ……!?」
いつでもリラックス、マイペース系スクールアイドルの彼方ちゃんも、さすがにたじろいでしまう。
い、いよいよ前代未聞の夢だ……どこかで不思議な夢コンテストの懸賞とか応募してないかな……。 『あー……ごめん。夢が覚めない、っていうのは言いすぎちゃった。……でもね、彼方ちゃんが悩んでる限り、ずうっと同じ夢を見続けると思うよ』
「な、なるほど……?」
だから、そういう意味では夢から覚めないってことにもなるかな。
紫陽花の彼方ちゃんは、どこか無機質にそう語った。
夢のルールのことは一応わかったけど、悩み……?
『あ、この期に及んでとぼけるつもりか〜?さんざん寝るのに苦労してたでしょ。果林ちゃんとのことだってば』
「う……」
紫陽花の彼方ちゃんには、どうやら隠し事はできないみたいです。 『ほらほら。彼方ちゃんの質問に答えていくうちに、きっと気持ちの整理がつくよ』
どうする?と問いかけてくる。
どう、したらいいんだろう。
そもそも、どうしたいんだろう。
不確かなそれを明らかにするために……頼ってみても、いいのかな。
『大丈夫だよ。びっくりしてるかもしれないけど、ここは彼方ちゃんが大好きな、幸せな夢の中だよ』
……そっか。そうだ。
夢は、彼方ちゃんの味方だ。
「うん。お願い、します」
そうして夢の雨のなか、彼方ちゃんと、紫陽花の彼方ちゃんの、自問自答が幕を開けたのです。 ─
───
─────
思いの丈を言い終わって、大きく息を吐く。
「……うん。もう、大丈夫」
『そっか〜。……いやあ、まさか一晩で解決しちゃうなんて。同じ夢を見続けるとか、変なこと言う必要もなかったかなぁ』
「そんなこと……」
驚くのは彼方ちゃんのほうだ。
紫陽花の彼方ちゃんは毎回的確に質問を変えて、少しずつ彼方ちゃんの本音を引き出してくれた。 『おまけに、あまった時間で告白の練習台までさせられちゃうとは。彼方ちゃん、ちゃっかりさんだね』
「協力してくれるって言ったのは、紫陽花の彼方ちゃんだもん」
にっこりと、紫陽花の彼方ちゃんに微笑みかけながら言う。
表情なんてわからないけど、あっちも笑い返してくれた気がした。 「えへへ……あ、あれ……?」
ふいに、くらりと目眩がしてたたらを踏む。
な、なんで急に……?うろたえる彼方ちゃんに、下のほうから声が掛かる。
『ああー……。これは、そろそろ、夢の終わりみたいだね』
「夢の、終わり……?」
『迷ってる間は夢から覚めないって話、したでしょ?今起こってるのは、たぶんその逆。もう彼方ちゃんに悩みはないから、この夢はもう見る必要がないんじゃないってことじゃないかなぁ』
「あ、そっか……」 それは、まるで紫陽花の彼方ちゃんの言葉に答え合わせをするように。
いきなり、公園のブランコが消え去る。
瞬間瞬間に、彼方ちゃんの回りからものがどんどん消えていく。
もとあった場所には、ただぽっかりとした白色だけが残る。 『……彼方ちゃん、本番もちゃんとやらないと、紫陽花の彼方ちゃんは見てるんだからね?』
「うん。……でもなんだか寂しいかも」
『……。えへへ、そう言ってもらえると、とっても嬉しいなぁ』
話しているうちに、紫陽花の彼方ちゃんも、真っ白い世界に飲み込まれ始めた。
『夢の中のことなんて、起きたらきっと完璧には覚えてないと思うけど……ひとつだけ、約束』 「うん、なあに?」
ついに、彼方ちゃん自身も足から消えていく。
重なるように、「外」からスマホの電子音が鳴っているのが聴こえてきた。
……ばいばい、紫陽花の──
─
───
───── ピロピロピロ……と鳴り響くアラームをなるべく素早く停止する。
これに時間をかけると、遥ちゃんまで起こしちゃうからね。
少し耳を澄ませると、二段ベッドの上からは安らかな寝息が聴こえてきた。
よし、間に合った。
のそのそとベッドから起き上がる。
右手首に、かちゃり、と妙な感触と音がして、ぼんやりした思考のまま顔を向ける。
ブレスレット……着けたまま寝ちゃったんだっけ……? 「……ううん」
胸の中心にあるふわふわが、飛んでいきそうな不安定なものじゃなくて、そこから体全体に熱を送り出すみたいな、力強いものになっていた。
確か彼方ちゃん、夢の中で誰かに相談して……うーん……。
相手は思い出せなかったけど、その人と最後にした約束だけは、はっきりと刻みついていた。
『今度来たときは、あまあまなのろけ話を聞かせてね』
「うん。また、夢の中でね、紫陽花の……?」
あじさい?自分で言っておきながら、首を傾げる。
……まあ、いっか。
さあ、昨日の今日でびっくりするだろうけど……果林ちゃんに、伝えよう。 果林誕生日おめでとう!今回は出番ないけど
このSS内でお誕生日を祝うのはもう少しだけ先になりそうです
それではおやすみなさい 乙
寝付けない原因が恋心っていうのがとても良かった クオリティの割に感想レスが少なすぎる
投下時間が悪いのかあんま読んでる人いないんじゃないかこれ >>110
地の文だから
地の文はどれだけ良くてもほぼ読まれない 僕はこの地の文すきです!!!!!
どうか今後も頑張ってください.... 更新楽しみに待ってますよ
かなかり成分補給できて幸せ 5chでは地の文SSはスルーされがちなのはわかってるだろし良さがわかる人が読んでればいいんじゃない?
更新楽しみにしてます >>110
この的外れな発狂具合
お前埋めに茸だろ 手つないで走ってたら楽しくなちゃった二人かわいいですね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています