【再掲】 SS 麻薬取締官 黒澤ダイヤ
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私達は猟犬。
国家に繋がれ泥にまみれながら、どこまでも徹底して獲物を追い込む猟犬だ。
私達には昼も夜も存在しない。
世界を隔てる表と裏のその中間で、延々と獲物を追い求め続ける。
確かに存在する世界のその二面性を知ってしまえば、知る前にはもう2度と戻れない。
そこで、生きるだけだ。 ダイヤ「出てくれるかしら…」
ダイヤはこの後、音大の大学院に通っている梨子と就活お疲れ様ティータイムの予定を組んでいた。
昼からの予定だったが、いますぐ誰かの側にいないと挫けそうだった。
ダイヤは震える指で梨子に電話をかけた。
梨子「ダイヤさん!?面接終わったのね!お疲れ様!」
ダイヤ「梨子さん…お昼からの予定ですが、今すぐ会えませんか…辛くて壊れそうなのです…」 梨子「ダイヤさん…?すぐ行きます!飯田橋で良かったですよね!?」
ダイヤ「ありがと…」
私の6年間はこんな形で終わってしまうのかしら……たった10分の会話で…
ダイヤ「お父様…お母様…ルビィ…」
ダイヤはグルグル回る思考のまま飯田橋に向かった。 〜同日 10時20分飯田橋〜
梨子「はぁ…はぁ…だ、ダイヤさんお待たせ…」
ダイヤ「梨子さん…ごめんなさいね急かして…」
梨子「良いんですよ!じゃあお店入りましょう」
そうして梨子に案内され、梨子がお勧めするカフェに向かった。 梨子「ここ、素敵じゃないですか?バンドのメンバーに教えてもらったんです」
ダイヤ「…素敵ですわ…」
どうやら水上カフェレストランのようだ。
都心に、このようなカフェがあることにダイヤは驚いた。
梨子「で、何かありました?私で良ければなんでも話してください」
ダイヤ「別に…ただあまり…面接うまくいかなくて…」 梨子「落ちたかもって、ことですか」
ダイヤ「そう…」
梨子「でも、ダイヤさんは自分でやれるだけのことはやったんですよね?」
ダイヤ「それは…もちろん…」 梨子「私もそう思います。それに、オーディションとかもそうですけど。
できた!絶対私がナンバーワン!って中々ならないですよ。
むしろたくさん準備してきたからこそ、周りから見たら上手くいってても、自分では粗が気になるんです」
ダイヤ「そういうものでしょうか…」 梨子「そうだ…!」
そう呟いて梨子はスマートフォンを操作しだした。
作業は数秒で終わったようで、すぐに携帯を伏せておいた。
梨子「すいません一緒にいるのに携帯いじって。この後少し連れて行きたいところがあるんですけど、大丈夫ですか」
ダイヤ「うん…」 こんなにしょげているダイヤはなんだか新鮮で、梨子は不謹慎にも少し可愛いいと想ってしまった。
元々急にハイになるところがあるとは思っていたが、下にも振り切れるとは思っていなかった。
それだけこの面接にかけていたのだろう。
そうして少し早めのランチを食べ終わり、二人は外に出た。
出るとそこにはタクシーが止まっていた。 運転手「予約の桜内さんね。目的地は予約の内容から変更なしでいいですか?」
梨子「はい!よろしくお願いします。ほら、ダイヤさんも乗って乗って」
ダイヤ「は、はい…いつ呼んだの梨子さん?」
梨子「さっき携帯で。アプリがあるんです。便利ですよ。マトリになったら使いそうですし、教えますね」
ダイヤ「なれたら…ですけど…」 梨子「…もう!そんなことばかり言って!」
ダイヤ「だって…」
運転手「着きますよ〜」
梨子「あ、はーい!」
ダイヤ「ここは…」
アキバドームだった。かつて私たちが目指してたどり着いた場所。 梨子「ダイヤさんは…『取締官になること』が目標ですか?」
ダイヤ「え…?」
梨子「大切な人を守りたい。愛情を注いでくれた人たちにお返しがしたい。
その目的の手段として、取締官があるんじゃないですか?」
ダイヤ「それは…そう…ですわね」 梨子「確かに、面接に通って取締官になれたら、それは完璧ですよね。
でも、もしなれなかったからと言って今までのダイヤさんの積み重ねって無駄になるでしょうか?」
ダイヤ「どうでしょう…」
梨子「私はならないと思います。
誰よりも学んで得た知識も、続けていた格闘技も、運動で身につけた体力も、ダイヤさんの目標に必要ないもの、ありますか?」 ダイヤ「……」
梨子「ダイヤさんは、目的と手段が気づかないうちに入れ替わって考えてしまっているんですよ。
廃校を阻止するという目的があって、その手段としてスクールアイドルがあったのと同じです。
ダイヤさんに関しては、それよりも手段として選ぶものの幅が広いと思いますよ、私は」
ダイヤ「梨子さん…」
梨子「取締官になっても、ならなくても、ダイヤさんは自分の目的のために黒澤ダイヤを貫くだけ、ですよね?」 ダイヤ「そうですわね…その通りです…梨子さん、ありがとう」
梨子「良いんですよ。辛い時はお互い様です。
私のバンドの初ライブ、結局ガラガラだったけどダイヤさんが一番乗りで来てくれた時、本当に嬉しかったんです。
少しはお返しできたかな。」
そうだった。
ダイヤの目的そのものは、麻薬取締官でなくても色々な形で叶えようと思えば叶えられるのだ。
なってもならなくても、それは変わらない。 ダイヤ「少し、吹っ切れました。ごめんなさいね梨子さん。せっかく会ったのに、ずっと失礼な態度で私…」
梨子「本当ですよもう!!だから、今日は夜まで遊んでくださいね!」
ダイヤ「私で良ければいくらでもお付き合いしますわ」
梨子「私で良ければじゃなくて、ダイヤさんが良いんです!夜ご飯のお店は任せますよ!」
ダイヤ「はい!美味しいお肉料理の店があるの」
梨子「楽しみです!」 ダイヤ「まずはカラオケに行きましょう!今日は生エリーチカに初遭遇しましたので、私のBiBIメドレーに磨きがかかりますわよ!」
梨子「ダイヤさんの一人μ’s芸久しぶりですね。早く行きいましょう!」
ダイヤ「フリータイムで行きますわよ〜!!」 〜2週間後 18時40分〜
面接から2週間。気持ちの整理がついたダイヤは地元沼津の方に展開している中小薬局チェーンを受けようかとエントリーシートの準備をしていた。
ダイヤ「まさか新歓の時の嘘が本当になりそうとはね…」
その時ダイヤの携帯電話に着信が入った。
ダイヤ「登録されてない番号…03…東京の局番ですわね。はい、黒澤です」 中年女性取締官「もしもし。黒澤ダイヤさんですね。カントウシンエツコウセイキョク麻薬取締部です。今お時間よろしいですか」
ダイヤ「はい…」
中年女性取締官「春から貴方に麻薬取締部で働いていただきたいと思います。正式な内定通知は10月1日に公布されますので、それまでお待ちください」
ダイヤ「…え?私が?」
中年女性取締官「はい。お受けしていただけますか?」 通った…面接に通ったのだ。
ダイヤは電話をしながら小躍りした。
ダイヤ「もちろんです!!!!よろしくお願いします!!」
中年女性取締官「黒澤さんは新卒薬剤師見込みですので、採用は5月1日になります。
国家試験、落ちないようにしてくださいね。
落ちたら内定取り消しですので」
ダイヤ「はい!頑張ります!!」
中年女性取締官「では、失礼します」
ダイヤ「と、通った…私…」 ダイヤは急いで考えられるだけの人に内定の報告をした。
直ぐに真姫が連絡をくれた。
真姫「おめでとう。絵里のラッキーパワーかしら。そういうのは希の役だと思ってたけど。
なんてね。ダイヤがずっと頑張ってきたんだもの。当然の結果よ。
明日の夜空いてる?お店予約するから、お祝いしましょう」
もちろん空いていたので、約束を取り付けた。
詳しい話はそこで聞くわ、と真姫からの電話は切れた。 それから、両親、ルビィ、日本にいるAqoursのメンバーから次々とお祝いの電話やメールが届いた。
共通していたのは、みんながダイヤは受かるだろうと心配していなかったことだった。
ダイヤ「嬉しいけど少し複雑ですわね…受からなかったらどうなってたのかしら」
ともあれ肩の荷が降りた。
ダイヤ「今日はよく眠れそう」 〜翌日 某都内ホテル最上階のレストランにて〜
ダイヤ「スーツで大丈夫でしたかここ…」
真姫「気にしすぎきよ。てっきりダイヤもお嬢様だから、こういう場所は慣れてるかと思ったわ」
ダイヤ「むしろ料亭とかの方が落ち着くくらいで…
料亭なら実家も経営していますし…」
真姫「私はむしろそっちの方が経験少ないわ。
ねえダイヤ。私たちって似たもの同士のようで、足りないところを補い合える、良いパートナーだと思わない?」 ダイヤ「そ、そんな!!恐れ多いことを!!!」
真姫「ねえ、私しばらく実家の病院で働いたら独立して診療所を開こうと思うの。その門前に薬局を構える気はない?
私、貴方と仕事がしたいわ」
ダイヤ「それは…」
嬉しい申し出ではある。
ダイヤという個人を評価して誘ってくれているのだろう。
光栄だ。でも… ダイヤ「嬉しいですが、お断りさせてください…
私は、自分の軸をブレさせないと決めましたので」
真姫「そう言うと思った。そんなダイヤだから、私はダイヤが好きなのよ」
ダイヤ「た、試しましたわね!?」
真姫「違うわよ。誘いに乗ってくれても喜んだわ。
あなたと仕事がしたいのも本心よ」 ダイヤ「人が悪いですわ…もう…」
真姫「大変な仕事なんでしょ。
辛くなったら、いつでも来なさい。心療内科開いて待ってるから」
ダイヤ「不吉…!」
真姫「さぁ、食べて飲みましょ。ダイヤ、おめでとう」
ダイヤ「ありがとうございます…!」 〜5月1日 黒澤ダイヤ24歳 トウカイホクリク厚生局麻薬取締部 部長室〜
部長「黒澤ダイヤを本日付で構成労働技官
トウカイホクリクコウセイキョク麻薬取締部 特別捜査課に採用する。
俸給は行政職俸給表(一)1級34号を給する。
久しぶりだね。私は君が高校生の頃は星空の上司で調査総務課長だったんだよ。
まさか君がここに来るとはね。
もう定年退職されたが、前関東部長が期待していた。
君がどんな取締官になるのか見届けることができないのが心残りだと言っていたよ」
ダイヤ「恐縮です。全身全霊で国家の公衆衛生向上及び違法薬物の取締りに従事します」 初日は辞令交付と入省関係書類の記入に追われ、あとは職場案内と近隣の警察署や検察庁への挨拶回りだ。
ルビィは来年からはA庁検事だろうから、東京・大阪・名古屋のどこかに配属されるだろう。
名古屋だったら嬉しいな、とダイヤは思った。
そうして、初日は定時で上がらせてもらえた。
ダイヤ「明日からは忙しくなりそうね!」
星空「ダイヤちゃーーーん!!!」 合同庁舎を出ると、そこにはダイヤがこの世界に踏み込むきっかけをくれた星空が立っていた。
ダイヤ「星空さん、今横浜では…!?」
星空「午後有給使って明日も有給使ったわ!
嬉しくて嬉しくて…さぁ!ご飯いきましょう!予約はしてあるの!」
ダイヤ「あわわ…ま、待ってください!」
そうして、ダイヤのマトリ人生が始まったのだ。 〜9月某日 月曜日 11時45分〜
ダイヤ「と言うわけです」
若手取締官「…長いわ!もう昼だよ!」
ダイヤ「まあまあ、いいではないですかたまには」
若手取締官「黒澤はあれだね、真面目な皮を被って結構バグってるね」
ダイヤ「失敬な!」 若手取締官「でもさ、話してくれてありがとうな。さあ、昼飯行こうぜ」
ダイヤ「ご一緒していいんですか?」
若手取締官「無理にとは言わないけど、そのつもりだぜ」
ダイヤ「是非ご一緒させてください。何を食べにいきましょう」 若手取締官「最近美味しいハンバーガー屋さん見つけたんだけど、どうよ。
黒澤ハンバーガー食わなそうだけど」
ダイヤ「そんなんことありませんわよ。ただハンバーグが苦手で…」
若手取締官「大丈夫。そこフィレオフィッシュがうまいから」 ダイヤ「私魚の味にはうるさいですわよ。
お土産の干物からもわかるように黒澤家のルーツは漁師にあります。
魚に関しては幼少の頃より英才教育を受けてきたと自負しております。その私をなっと…」
若手取締官「おま、黒澤お前面倒くせえなぁ!!!行くぞ!!!」
ダイヤ「ああ!!おいて行かないでください先輩!」
若手取締官「ふん!!」 ダイヤ「あ、すいませんテレグラムにメッセージが。Aqoursの仲間からですわ」
若手取締官「黒澤友達とのやりとりにテレグラム使ってるの!?悪いことしてないよね!?
歩きスマフォ危ないから止まるぞー」
ダイヤ「ありがとうございます。…あらあらまぁまぁ」
若手取締官「どうした。急ににやけて」 ダイヤ「Aqoursの大切な仲間が二人も結婚式を挙げるそうで…二人ともずっと一緒に住んではいましたけど、ようやく」
若手取締官「めでたいじゃん。こりゃまた、なかなか仕事辞められなくなるな。黒澤」
ダイヤ「ええ。守るものが多くて大変ですわ!」
若手取締官「俺も一緒に守るよ。がんばろうや」
ダイヤ「先輩…」 若手取締官「この仕事つらくてさ、挫けそうになるけど、そうやって誰かの幸せを守ることにつながるって思えば、頑張れる。
改めて気づかせてくれて、ありがとうな、黒澤」
ダイヤ「どういたしまして。お礼にお昼ご馳走してくださいね」
若手取締官「お前…そう言うタイプか…」
ダイヤ「曜さん、善子さん、お幸せに」 若手取締官「ん?何か言った?」
ダイヤ「はい、言いました。独り言です」
若手取締官「普通そういう時『いいえ』って言わない…?」
ダイヤ「私は嘘をつかないと決めているんです!
さあ先輩!お腹空きました急ぎましょう!!」 高3の時、麻薬取締官になりたいと思った時よりも、守りたいものや守らなければいけないもの、その重さは随分増えてしまったように思う。
でもそれで構わない。
みんな遠慮しないでどんどん幸せになれば良いのだ。 その幸せが私の灯台になる。踏み外さずに進んでいくための。
そうして歩む日々ひとつひとつが私、黒澤ダイヤの存在証明だ。
でも今は少しだけ仕事のことは忘れて、先輩とハンバーガーでも食べながら、曜さんと善子さんの船出を祝いましょう。
SS 麻薬取締官 黒澤ダイヤ
episode0 sailing day
完 以上でAqoursとクスリ関係の一連の流れは一区切りです。
長々とした作品になりましたが、付き合ってくださった方々には心から感謝申し上げます。 作中に出てきた曜と善子についての詳細は、先日あげたこちらのSSで詳細に書きました。
見てくださると嬉しいです。純愛です。
SS 曜「ミスド寄って行かない?」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1592047359/l50 また、スレの途中にも書きましたが、この世界線での黒澤家についてはこちらのSSで
詳細を記しました。合わせてご覧ください。
果南「ぶっちゃけ黒澤家ってヤク… ダイヤ「はぁぁぁ……」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1591533871/l50 面白かった!あとスレタイのイメージより平和な内容でほっとした
過去作読めばもっと世界観わかる感じなのかな >>234
長い文章にも関わらず読んでくださりありがとうございます。
過去作合わせるとそこそこの文量にはなってしまいますが、読んでいただけた方がより世界観の繋がりがわかっていただけるかと思います。 >>235
おぉありがとうございます
もっと知りたくなったので読んできます ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています