真姫「いい天気ね」
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このssはSCP財団とのクロスssとなっています。
また、一部死ネタが含まれているため苦手な方はご注意ください。 SCP財団。
Secure(確保)、Contain(収容)、Protect(保護)の名を冠するこの組織は、世界中に存在する異常性を有したあらゆる存在の確保、収容、保護を目的とし活動している。
この異常性を有した存在は非常に数多く存在しており、人間の科学力や常識では到底説明できない性質を持つものばかりである。 ──あらゆる生命体を憎む不死身の爬虫類
──現実そのものを歪め生き続ける死人
──全ての病気を癒すことができる薬
──座った人をアメリカのある地点へと射出する椅子
──目を離した瞬間恐るべき速度で対象を殺害する彫刻 このような社会にあってはならない異常な存在を隔離し、封じ込めるのが我ら財団の職務であり、義務である。
───────────────────────────────────────── 西木野総合病院。
都内某所に存在するこの病院は、地元では有名な大病院…ということになっている。
しかしその実態は、異常存在を収容・研究する財団日本支部のサイト-81■■である。
このサイトの管理者の娘である西木野真姫もまた、財団の研究員の一人として働いていた。 ─────────────────────────────────────────
(T-90)■■/12/05
真姫「ふぅ…この報告書もこれでおしまいね。次の報告書はっと…」
この日はいつも通り自身が書いた報告書の整理をしていた。もうすぐ年末、書類整理は早めにしてないと後々面倒なことになる。
花陽「お疲れ様、真姫ちゃん。お茶淹れてきたよ」
真姫「ありがと、花陽」 真姫の友人である小泉花陽と、今はこの場にはいないが星空凛も、真姫と同じくこのサイトで働いている。
真姫の実家の真実を知られてしまったきっかけは、自宅にあったある報告書を見られてしまったからなのだが…まさか一緒に働きたいと言い出すとは思わなかった。
一人でこんな危険な仕事をさせてくなかったらしい。……正直に言うと結構嬉しかった。
花陽はともかく凛が合格できるほど財団の採用試験は甘くはないのだが、真姫の父親のコネもあり無事花陽は研究員として、凛はエージェントとしてこのサイトに就職することができた。 真姫はミーム汚染(簡単に言うと一種の洗脳のようなもの)に関わる研究を、花陽はオブジェクトの異常性を利用する研究…特にいかにおいしいお米を作るかという研究を主にしている。
…地味に花陽の研究が着々と成果を上げているのが恐るべきことだと思わなくもないのだが。 真姫「それにしても…このご時世になってまで報告書を紙で纏める必要性はあるのかしら?」
一息つきながら机の上に広げられた紙束に目を向ける。これが全部パソコンで処理できていればどれだけ楽になったか。
花陽「日本じゃまだ紙の書類は現役だからしょうがないよね…本部の方だとほとんどデータ化されてるみたいだけど」
真姫「面倒ね…」
指を髪に絡めながらため息をつく。自分がサイト管理者を引き継いだら紙の書類の使用を禁止してやろうか、などと考えていたら、 ──ドタドタドタ
廊下から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。凛かな?と思いながら入口の方を向くと、
凛「真姫ちゃん真姫ちゃんまきちゃーーん!!」
やっぱり凛だった。何年たってもあの元気さは相変わらずだ。 真姫「どうしたの凛、なにかあった?」
凛「えっとね、真姫ちゃん宛てに書類が届いてたからもってきたにゃ!たぶん機動部隊の人達からだと思うけど」
真姫「本当?ありがとう」
凛から封筒を受け取る。差出人は真姫が管轄している機動部隊の隊長だった。さっそく中身を確認してみると… ──────────────────────────────────────
報告書
関東地方でのメディア定期監視にて、千葉県船橋市から発信されているAMラジオ放送”フィフティ・デイズ”から、以下の内容の情報が発信されたことを検知しました。
我々はこれが新たなミーム感染の原因になりえるのではないかと懸念したため、西木野博士による調査を要請します。
「世界は来年の3月5日に滅びを迎える。この滅びを迎える前に自ら命を絶った方が安らかな死が得られるだろう」
────────────────────────────────────── 凛「これって…」
真姫「…ありきたりな終末論ね。放っておきましょ」
花陽「いいの真姫ちゃん?。この”フィフティ・デイズ”って番組たしか第五協会と関わってるって聞いたことあるけど…」 第五協会……財団が指定する要注意団体の一つであり、いくつかのSCPオブジェクトの生成にも関わっている。
「5」という数字を神聖視しているらしいが、実態の多くは謎に包まれたままだ。
この放送も、第五協会が生み出したオブジェクトが絡んでいるのではないかと花陽は危惧しているみたいだが… 真姫「本気でその第五協会の連中が世界崩壊を目論んでるなら、なんでわざわざ日本の一都市に過ぎないあの町でしか放送しなかったのよ。日本中に流すのならともかく。それに肝心の内容もなんか回りくどいし」
凛「てことは本当にただの終末論っぽいなにかってことでいいのかな?」
真姫「でしょうね。大方どこぞの新興宗教のプロパガンダか何かでしょう」
花陽「本当にそうならいいんだけど…」 この件についての話はここで終わりとなった。……この日は。
────────────────────────────────────── 今日はここまでです
続きは早ければ明日の夕方ごろ書きます
ちなみに地名が船橋なのは特に深い意味はありません すいません完全に保守するの忘れてましたありがとうございます (T-70)■■/12/25
―今朝のニュースをお送りします。昨日夕方5時頃、千葉県船橋市の民家で男女合わせて17人の遺体が発け―ピッ
―遺体の状態から死因は自殺と判断され―ピッ
―が発見された部屋には複数の宗教的な道具や儀式の跡―ピッ
―専門家は何らかの儀式が行われていた可能せーピッ
ー非常に痛ましい事け―ピッ
────────────────────────────────────── おかしい。
明らかに何かがおかしい。
凛「どうしたの真姫ちゃん?さっきからしかめっ面しながらテレビのチャンネル変えてるけど…」
時刻は朝7時。
サイト内の食堂で3人で朝食を食べていたのだが、さっきから真姫がテレビのチャンネルを変えまくっている。
真姫「どのチャンネルにしても同じニュースしか流れてないのよ。変だと思わない?」
花陽「集団自殺のことだよね…あれだけ大勢の人が亡くなったら色んなところでニュースになると思うけど…」
凛「そうにゃそうにゃー」
真姫「確かに私もそう思うけど…」
真姫がチャンネルを変える
真姫「日本のメディアだけならともかく、海外メディアまで取り上げてるのはいくらなんでもおかしいと思わない?」 どういう仕組みかよくわからないがサイト内にあるテレビは海外のテレビ番組も受信できる。
真姫がチャンネルを変え映し出した海外の報道番組でも、先ほどの事件が大きく取り上げられていた。
この番組だけではない。他にも多くの国際的なメディアがこの事件について報道している。
真姫「こういう風に言いたくはないけれど…日本の民家で17人自殺しただけなのよ?こんな世界的大事件みたいな感じに報道されるのは変よ」
おかしい点はもう1つある、と真姫は付け加える。
真姫「今回自殺した人達、明らかに何かの宗教儀式してた感じだったじゃない。そんな怪しい人達の集団自殺なんてこんな大々的に報道すると思う?」
凛「言われてみれば確かにちょっと変にゃ」
花陽「普通あんまり報道しないよね、そういう事件って」
真姫「でしょ?ほら、やっぱり変なのよ」
花陽「でもどうしてだろう?何か理由でもあるのかな…」
真姫「そこまでは流石にまだ分からないわ。ただ…」
真姫には1つの懸念があった。 彼らの死因。自殺。
数週間前、凛から受け取った報告書の内容は何であったか。
真姫「…ただの偶然ならいいんだけど」
凛「?」
────────────────────────────────────── T-67)■■/12/28
おかしい。
いや、はっきり言ってこれは異常だ。
世界中のメディアがあの事件を”クリスマス・イブの惨事”と掲げて大々的に報道している。
たかだか数十人自殺しただけのあの事件を、だ。
いったい今、世界で何が起こっている?
────────────────────────────────────── 三人は真姫のオフィスであの事件について話し合っていた。
といっても情報が少なすぎるためあまり進展はしていなかったが。
真姫「…ねぇ凛、この前の報告書を送ってきた機動部隊に連絡してもらえるかしら」
凛「にゃ?この前ってことはよくわからなかった終末論の?何で今更…」
花陽「もしかして、この事件と関係してるの…?」
真姫「まだ分からないわ。ただ、可能性が少しでもあるなら潰していくべきよ」
例の放送とこの事件の共通点は自殺と船橋市で起こった点のみだ。
正直この二つが関係してるとは考えにくい。
だがもし、もしも本当にあの終末論が元凶でその影響が世界中に広まりつつあるというのなら…
世界はどうなってしまうのだろうか。
────────────────────────────────────── 短いですが今日はここまでです
続きは明日、早ければ深夜に上がるかもしれません 果てさて
X DAYに向けて彼女らはどう動くのか…… 今日の分更新していこうと思います
酒飲みながら徹夜で書いた文なんで変なところあるかもしれませんが許して (T-66)■■/12/29
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アンダーソン・クーパー: それで、その予言というのはどの程度信用できるものなんです?
ケリーアン・コンウェイ: ホワイトハウスとしては、これは非常に信頼性のあるものと考えています。信用できる情報源が複数、世界が3月5日に終わりを迎えるかもしれないと語っています。
ニール・ドグラース・タイソン: 全く以て馬鹿げていますな。人々が自殺に走ったのは悲しむべきことですが、何も起きてはいないのです。空には何もなく、地球上にも気候変動や核戦争から生き残らねばならないという我々自身の脅威以上の物は存在しません。
3月5日はそれこそ他の日と同じように進んでいくでしょう。これは2012年のいわゆるマヤの黙示録、或いは90年代に起こったヘヴンズ・ゲートの信者たちによる集団自殺のような事件でしかないのです。 カレラ大司教: 我々は最近、アステカ司祭の秘密結社が現代社会においてマヤの予言に取り組み続けていたという証拠を明らかにしました。
それらの予言は、終末を来年の3月5日に再計算したという事でした。我々はこれが聖ヨハネの予言と一致しているのではないかと感じているのです。
コンウェイ: そうです、教会も我々の情報ソースの一つでした。テノチティトラン亡命政府の特使も同様でして、貴方も今朝のTwitterでご覧になったように、大統領と連絡を取り合っています。
タイソン: “テノチティトラン亡命政府”などというものはありません、都市伝説です。
カレラ: タイソン博士、貴方はもっとこれらの物事に心を開かれるべきです。
クーパー: さて、お時間はここまでとなりましたが、私個人としては恐ろしいのを認めるのに吝かでないですな。
―ピッ
────────────────────────────────────── CNNでの放送を皮切りに、世界中のメディアで終末論が囁かれるようになった。
3月5日に世界が滅びる、という終末論が。
ここまで来たらもう確信するしかなかった。
この騒動にあの放送が関わっているのは間違いない。
────────────────────────────────────── 真姫「この騒動とあの時の放送は関係がある、これはもう間違いないわ。あの放送に異常なミームがあったと考えるべきね」
花陽「予言の日まで同じだったから、もう疑いようがないよね」
真姫「今のところ広まってるのは終末論のところだけみたいだけど、自殺した方がいいって部分も広まる可能性が高いわ」
花陽「もう広まってるかもしれないけどね…」
例の放送が今起こっている異常の原因と考えるならば、広まると考えられるミームは2つある。
3月5日に世界が滅びるということと、その前に自殺した方がいい、ということだ。
前者は既に拡散されているが、後者がどうなっているのかはまだ分からない。
もし全世界に拡散されているとしたら大惨事になることは簡単に理解できる。
真姫「ただ、そう考えるといくつか疑問があるのよね」
凛「…どうやってミームが広まったか、だよね」 ミームの汚染経路にはいくつか種類がある。
ミーム汚染の原因となる物品に接触する、ミーム汚染の影響を受けた人と接触する、などだ。
例の放送があの日あの地域でしかされていなかったことは機動部隊によって確認済みだ。
しかし、遠く離れた海外にまでミームの影響が広まっている。
その上、インターネット上にある終末論に関わる情報が、このミームに関係ありそうなものがここ数週間で一気に増加してるのが確認できた。
以上のことを考えると、このミームの感染経路は… 真姫「…この終末論ついてメディアや口伝えで聞いたりするだけで感染するしうるって考えるべきね」
花陽「ッ!それって…」
凛「凛たちも感染してるかもってこと!?」
真姫「…そうなるわね」
これがその手のミーム汚染の厄介な点である。
対策を打つために情報を集めただけでミーム汚染の影響を受けてしまう。
ミーム汚染による影響は基本的に自覚症状が現れないため、気づかないまま取り返しがつかないことに…なんてことは財団ではよくある話だ。
凛「てことは凛…自殺しちゃうの…?うそ…そんなの…」
花陽「だ、大丈夫だよ凛ちゃん!凛ちゃんは自殺なんかしないよ!」
花陽は一瞬で青ざめてしまった凛を何とかなだめようとする。
凛がこうなってしまうのも無理もない。自分がいきなり自殺する洗脳にかかってると聞かされたらショックを受けるのが普通だ。 真姫「落ち着いて2人とも。私達みたいな財団職員はみんな抗ミーム剤をを処方してるからそう簡単にミームの影響は受けないわ。自殺したくないって思ってるのがいい証拠でしょ?」
凛「そ、それなら安心…かにゃ…?」
真姫「それに、もしミームの情報を受け取っただけで100%感染するなら今頃世界中で自殺者があふれかえってるわよ。感染率は100%じゃないか、ある程度潜伏期間があると考えるべきね」
それよりも、と強引に話題を変える。この話を続けるのは精神的に良くはなさそうだ。
真姫「もう1つの疑問は、どうしてあの集団自殺の事件をいろんなメディアが報道したのかってことよ」
一連の異常性を知るきっかけになったのは例の集団自殺の報道だ。
しかし、内容そのものは自殺事件を悲観的に報道しているだけであり、終末論について、ましてや自殺した方がいいなんて内容は含まれていなかった。
被害者達がミームの影響を受けていた可能性はある。というより受けていたと考えた方が自然だ。
とすると、世界中のメディアがミーム汚染を受けた被害者を大々的に報道していたことになる。 花陽「…ミームの影響で自殺した人の情報を積極的に広めようとするミームも存在している…?」
真姫「おそらくそう。多分終末論の内容をより強固にするためにね」
指を髪に絡めながら、少しイラついた口調で真姫は続ける。
真姫「多くの人が自殺した、という情報が悲観的に伝わればそれだけ終末感が強くなる。そうなればミームの影響による自殺者が増える。そしてそのことがまた報道される…。こんな感じに負のスパイラルが完成する」
凛「ッ!それって、放っておくだけでどんどんミームが強くなって拡散してくってこと!?」
花陽「そう、それがこのミームの恐ろしいところだよ。これが人為的に作られたものなら、作った人はかなり頭が切れる人だね…」
真姫「性格が悪いともいえるわね」
ミームの内容を聞いただけで影響を受けるほどの高い感染力に、放っておくだけで勝手にミームの効果が強くなっていく一連のシステム。
はっきり言って今まで見てきたミーム汚染の中でも最悪だ。
元凶となった放送が船橋からしか流されなかった理由が今となっては理解できる。
ある程度の数の人間に感染させさえすれば、あとは勝手に既存のメディアが拡散してくれるからだ。 もっと早く気付くべきだったか。それとも大きな被害が出る前に気付けたととらえるべきか。
少なくとも報告書を受け取った時点で気付いていれば今のような事態にはなっていなかっただろう。
しかし、現実ではそうはならなかった。そんなifの話を考えてる暇があったら早急に対策を練るべきだ。
真姫「パパに頼んで対策チームを立ち上げるわ。凛、使えそうな機動部隊に声をかけてもらえるかしら。出来るだけ多く、ね」
凛「分かったにゃ!色んな人に頼んでみるね」
真姫「花陽は…財団のデータベースにあるあらゆる情報を使って3月5日にKクラスシナリオが起きる可能性…世界が崩壊する可能性を計算しといてもらえるかしら」
花陽「分かったよ、真姫ちゃん。でもどうして…?」
真姫「…念のためよ」
────────────────────────────────────── (T-65)■■/12/30
―本日のニュースをお送りします。
―インドのカリャンコットで、大規模な集団自殺が発生しました。
―被害者の規模は300人以上にのぼると見られています。
―集団自殺が発生した場所には「われらに救いを」「滅びよりも安らかな死を」といったメッセージが大量に残されていました。
―世界中で広まっている終末論の影響を受けていたのではないかと専門家は推察しています。
────────────────────────────────────── (T-62)■■/01/02
対策チームの設立を急いでいたら、いつの間にか年をまたいでいた。
こういった研究職に身を置いているとどうしてもこういうのに疎くなってしまうのが困り者だ。
真姫は発足した対策チームの主任研究員に任命された。今回の異常性の第一発見者であり、発生元である場所に一番近いサイトに勤務しているからだそうだ。
…実のところ真姫の父親の力によるものが大きいのだが、真姫はその事実を知らない。
真姫「確保できた機動部隊は3つね」
凛「ごめんね真姫ちゃん…ほんとはもっと呼べたらよかったんだけど…」
真姫「いいえ、これだけいれば十分だわ。ありがとう、凛」
凛の頭をやさしく撫でる。
凛「ほんと?えへへ…」
少し照れ臭そうに凛は微笑む。こういうところは本当に可愛らしい。 花陽「それで…その機動部隊はどんな任務に就かせるの?」
真姫「1つはミームに感染した人達の特定、残りの部隊はその人達の確保ってところかしらね」
真姫達が対策チームを発足している間に、また大規模な集団自殺が発生してしまった。
最初はインドで、300人以上が。
その後も17カ国で2600人以上の自殺者が発生している。
このまま放っておけば取り返しのつかないところまで行ってしまうだろう。そのためにも、感染した人達の隔離は必要なことだ。
凛「その確保された人達ってどうなるの?」
真姫「記憶処理によってミームが取り除ければそのまま開放するつもりよ」
あえてそうでなかった場合のことを言わなかった。世界には知らなくていいことがたくさんある。
財団は残酷ではないが冷酷なのだ。 真姫「ところで花陽、例の計算、結果はもう出たかしら?」
花陽「あ、この前のKクラスシナリオのやつだよね。ちょっと待ってて…」
花陽は自分のカバンから書類の束を取り出す。
花陽「途中の計算は量が多いから結果だけ言っちゃうと…0.015%だったよ」
完全に0%でないあたり財団が管理しているオブジェクトの危険性を再確認する。
だが、巷で騒ぎになっているような終末が来ることは有り得ないといっていいだろう。
よってすべきことは1つ。
これ以上のミームの拡散を食い止める。
真姫「このまま何事もなく収束すればいいんだけれど…」
────────────────────────────────────── (T-61)■■/01/03
この日、このミーム汚染に関わる報告書が完成した。
────────────────────────────────────── 報告書
アイテム番号:SCP-3519
オブジェクトクラス:Keter
特別収容プロトコル:
機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519に感染した人口の特定任務が割り当てられます。
特定された人口は機動部隊イータ-10(“シー・ノー・イーヴル”)および機動部隊イータ-11(“獰猛な獣たち”)によって確保されます。
前記3つの機動部隊の全てにSCP-3519媒介メディアの確保・抑制任務が割り当てられます。 説明:
SCP-3519は印刷物・視覚メディア・聴覚メディアにおける複数の媒介物によって拡散するミーム感染です。
このミーム感染は、2019年3月5日に世界の終わりが来るということ、そしてその事象が発生する前に自殺するのが望ましいということへの強い確信から成っています。
SCP-3519は、差し迫った終末に関する信念を報じているのであれば、メディアと口伝えのどちらによっても伝達されます。
感染は、証拠が欠如しているにも拘らず、当該ミームが積極的に受け入れられることを特徴としています。
予測される出来事の具体的詳細は幅広く分かれており、宗教における救世主的な人物の出現、破壊的結果を及ぼす天文学的事象、自然環境の壊滅、技術的特異点、現実不全イベントなどの発生に対する信念が挙げられています。 特筆すべきことに、これらの出来事はどれ一つとして問題の日時に予想されるKクラスシナリオと関連しておらず、当日のKクラス発生可能性についての財団の評価はSCP-3519の報告後も0.015%という僅かな数値です。
初期感染に続き、影響者たちは恍惚として天啓を受けたと主張する、千年王国説を信じ始める、自殺念慮を見せるといった傾向を示し始めます。
影響者が感染した様々なSCP-3519信念の文脈上では、超越のための前提条件、もしくは終末事象を乗り切るために好ましい手段として自己安楽死が合理化されます。
────────────────────────────────────── 真姫「取り敢えずこれで一区切りついたってとこかしらね」
対策チームの設立から報告書の作成までぶっ続けで仕事してきた。
収容プロトコルさえ確立してしまえばあとは機動部隊が何とかしてくれる…はずだ。
元凶となった放送をした団体の特定や、ミームそのものへの対抗策の考案など、やらねばいけないことはまだたくさんあるが、ひとまずは小休止といったところか。
花陽「…みんな大丈夫かな…」
μ’sのみんなとは音ノ木坂を卒業しても定期的に連絡を取り合っていた。
ここ数週間は仕事で忙しかったため花陽と凛以外とは誰とも話してなかったが、一度みんなの安否確認をした方がいいだろう。
何かあったらあったで連絡が来るはずなので、無事ではあると思うのだが。
まずは穂乃果と連絡を取ってみようか。
────────────────────────────────────── maki:久しぶり穂乃果
maki:元気にしてた?
ほのか:まきちゃんだー!
ほのか:久しぶり!
ほのか:あけましておめでとう!
maki:あけましておめでとう
ほのか:穂乃果は元気だよー
ほのか:まきちゃんこそ元気だった?
maki:私も元気よ
maki:最近仕事で忙しかったけど
ほのか:たいへんだねー
maki:ほかのみんなは?
ほのか:海未ちゃんとことりちゃんはおととい挨拶に来てくれたよ
ほのか:初詣に行ったときに希ちゃんにも会った
ほのか:3人とも元気そうだったよ
maki:絵里とにこちゃんは?
ほのか:直接は会ってないけど
ほのか:ラインで話したときはいつもの感じだったよ
maki:そう
maki:なら良かったわ maki:ねぇ穂乃果
maki:例の終末論って信じる?
ほのか:3月5日に世界が滅びるってやつだよね
ほのか:ほのかはちょっと信じられないかな
maki:そうね
maki:私もそう思うわ
ほのか:でもびっくりするよね
ほのか:いきなり世界が終わっちゃうなんてさ
ほのか:でも
ほのか:もしも本当なら
maki:大丈夫よ
maki:そんなことは絶対起こらない
maki:だから穂乃果達にはいつも通り生活してほしい
ほのか:わかった
ほのか:まきちゃんもお仕事がんばってね!
maki:ありがとう
────────────────────────────────────── μ’sのみんなの安否確認はできた。SCP-3519の影響もまだ受けてないようで安心した。
みんなに影響が出始める前に早く事態を収束させなければ。
────────────────────────────────────── (T-53)■■/01/11
財団が本格的にSCP-3519への対策に乗り出してから、一週間が経過した。
この一週間でかなりの数の感染者を確保してきた。
しかし、それ以上の数の自殺者が出ているのも事実だった。
…正直SCP-3519の感染力を甘く見ていた。
いくら感染者を隔離してもそれを上回る勢いで新たな感染者が増えている。
特別収容プロトコルを見直すべきか。
花陽「真姫ちゃん、ちょっといいかな」
花陽がオフィスに入ってきた。何かの書類を持ってきてくれたようだ。
花陽「これ、ちょっと見てほしいんだけど…」
渡された書類に目を通す。
内容は機動部隊イータ-10の日報だった。
───────────────────────────────────── 01/03
今日は■■■■人の人間を確保した。
終末論者を収容する任務なんて馬鹿げた任務だ。
まったく、世界が滅ぶわけなんかないというのに。 01/04
今日は■■■■人の人間を確保した。
連中が唱えている終末論にもいろいろ種類があるらしい。
ノストラダムスが復活するというのを聞いたときは流石に笑ってしまったが。 01/05
今日は■■■■人の人間を確保した。
なんで連中は3月5日を乗り切ろうとするんじゃなく自殺という手段をとるのだろう。
立ち向かうよりも逃げた方が楽なのか? 01/06
今日は■■■■■人の人間を確保した
同じチームのやつらともし世界が滅ぶならどんな終わり方をするのか話し合ってみた
トカゲやアベルやらが収容違反すると言ってたやつもいたが、甘いな
俺は隕石の落下だと思う。それもとびきりデカいやつ
これこそ世界の終わりにふさわしい
まあ、ただの妄想に過ぎないがな。 01/07
今日は■■■■■人の人間を確保した。
仮に隕石が衝突してくると分かったら財団はどう動くのだろう。
破壊できそうならそうすると思うがそうでなかったら…
暴動が起きないように市民に記憶処理したりしてな。 01/08
今日は■■■■■人の人間を確保した。
もしかしたら俺が考えた通りのことが起きてるのかもしれない。
財団が裏で何考えてるのかなんて分からないからな。 01/10
今日は■■■■■■人の人間を確保した。
案外楽に死ねる方法って結構あるんだな。
───────────────────────────────────── 真姫「……」
間違いない。完全にSCP-3519に感染している。
日報を書いた隊員だけが感染しているとは考えにくい。
下手すれば部隊の大半が既に感染している可能性もある。
真姫「…調査隊を派遣して感染者を除隊、隔離させて」
花陽「わ、分かった…」
機動部隊の隊員達にも対ミーム用の処置は一応施していた。
こうなることはある程度は想定はしていたが、早すぎる。
本格的にミームそのものへの対抗策を練る必要が出てきた。
───────────────────────────────────── (T-49)■■/01/15
任務にあたっていた全機動部隊のミーム感染のチェックが終わった。
幸いなことにSCP-3519の影響を受けていた隊員はごく少数に留まっていた。
これならまだ作戦を続けられる。そう考えていたが、
真姫「…ん?何かしら」
一通のメールが届いた。
機動部隊イータ-11の司令官からだった。 ─────────────────────────────────────
報告書
我々機動部隊イータ-11並びに機動部隊イータ-10、機動部隊プサイ-10は、SCP-3519の感染者の確保と媒介メディアの監視・抑制を実行してきました。
しかしながら、SCP-3519の感染速度は我々の想像以上に速く、感染者の確保やメディアへの情報操作よる減衰効果が全く見られないのが現状です。
よって我々はSCP-3519の感染の検疫が完全に失敗に終わった、と判断しました。
早急にSCP-3519に対する新たな特別収容プロトコルを考案することを提言します。
───────────────────────────────────── 真姫「……」
任務に失敗した、そう書かれていた。
正直なところ予想はついていた。
財団がいくら情報操作を行っても、メディアが終末論について話すことはなくならず、
財団がいくら感染者を収容しても、自殺者は増加し続けた。
SCP-3519の感染を食い止める、という試みは失敗に終わった。
残る対抗手段は、感染による影響を打ち消すことのみ。 真姫「凛。この前頼んでいた研究部隊って用意できてる?」
凛「うん、いつでも準備オーケーだよ」
真姫「じゃあ、今すぐ呼び集めてくれるかしら」
SCP-3519によるミーム汚染は、財団の記憶処理によって取り除くことはできなかった。
よって、対抗策は1から作るしかない。
感染者の確保と情報操作だけで事態を収束できると判断していたため、研究チームは今の今まで編成されていなかった。
真姫の独断で用意だけはしていたが。
SCP-3519の発見の時といい、今回は後手に回ることが多い。
真姫「…早くなんとかしないと」
自殺者の増加は止めることができず、
3月5日は刻一刻と近づいている。
───────────────────────────────────── (T-47)■■/01/17
先日の一件を受けて、SCP-3519の収容プロトコルが改訂された。 ─────────────────────────────────────
特別収容プロトコル:
機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。
機動部隊ウプシロン-4(“糖衣錠”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療の開発に取り組みます。
対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。
1:機動部隊ウプシロン-4の隊員
2:重要ミーム学部門の職員
3:O5評議会
4:世界オカルト連合
5:世界保健機関(WHO)
6:残りの重要な財団職員
7:一般人口
───────────────────────────────────── 真姫「世界オカルト連合、ね」
改定された報告書を眺める。
世界オカルト連合。
国連の下部組織の一つであるが、異常存在の保護を目的とする財団とは異なり、異常存在の破壊を目的とする組織である、
その意見の食い違いから度々財団と衝突してきた、要注意団体の一つだ。
では何故財団の敵ともいえる組織が対抗ミーム治療の優先順位内にいるのか。
答えは単純。
財団はSCP-3519の収容を諦めた。
安全な収容に躍起になり、これ以上の感染を広めるよりは完全に破壊した方がいいという結論に至ったのだ。
この案を提言し、決定させたのも真姫によるものだが、敵対してる組織側に足並みをそろえて協力するというのはあまり気分がいいものではない。 真姫「ま、そんなこと言ってる暇はないわね」
機動部隊による感染者の確保が打ち切りになった以上、これまで以上の速度で感染が広がる可能性がある。
つまらない組織間の確執に囚われている場合ではない。
SCP-3519の無力化が最優先だ。
そのためにも、対抗ミーム治療の開発を急がなくては。
───────────────────────────────────── (T-45)■■/01/19
機動部隊プサイ-10から1つの報告が届いた。
内容には、心当たりがあった。
自殺者の数が、世界人口の1%を超えた。 真姫「……」
1%。数にして、7000万人以上。
最初の自殺者が出てからたった一ヶ月でそれだけの数の人が、死んだ。
WHOも調査していたのか国連からも同様の発表があり、メディアもそれを取り上げていた。
しかし、誰もこれを危機的状況であると認識していなかった。 ―ある評論家は言っていた。世界に終わりが近づいていると。
―ある宗教家は言っていた。彼らは救済されたと。
―ある政治家は言っていた。皆も早く彼らに続くべきだと。
明らかに世界が狂っていた。 凛「穂乃果ちゃん達大丈夫だよね…」
花陽「連絡…つかなくなっちゃったね」
機動部隊が検疫に失敗した辺りから、μ’sのメンバーとは連絡をとろうとしていた。。
しかし、一向に誰からも返事が来ない。
何かあったと考えるのが普通だが、 真姫「大丈夫よ。みんな簡単に自殺するような人間じゃないってことは2人も知ってるでしょ」
2人に、そして自分自身にもそう言い聞かせる。
凛「でも…」
真姫「本当にみんなを心配するなら治療方法をどうにかする方が先でしょ?」
花陽「…そうだよね、肝心の直す方法がなかったら意味ないもんね」
今すぐにでも直接会いに行って無事を確かめたいのは確かだが、会いに行ったところでどうすることもできないのもまた事実。
本当にみんなのことを心配に思うのなら、みんなを信じ、一刻も早く治療法を確立するべきだ。
時間は、あまり残されていないのだから。
───────────────────────────────────── 短いですが今日はここまでです
今週中に何とか完結させたいです (T-36)■■/01/28
テレビは相も変わらず終末論の話ばかりしている。
しかし、その内容が最近変化しつつあった。
宗教色が強くなっているのだ。
例を挙げると、3月5日の世界の滅亡は悪魔の復活によるものであり、その前に自殺すれば天国に行くことができる、といった感じだ。
こんな風に世界の滅亡と自殺に対する考えがそれぞれの宗教の影響を強く受け始めている。
真姫「ま、だからどうしたって話になるんだけど」
ミームの内容がどう変化しようと、人々が世界の滅亡を信じ、自殺に走ることには変わりはない。
だが、宗教が与える影響は想像以上に大きいということを、のちに思い知ることになる。
───────────────────────────────────── (T-35)■■/01/29
真姫「…ッ完成した!」
機動部隊ウプシロン-4から対抗ミーム治療のプロトタイプの完成が報告された。
プロトタイプということもあり効果は気休め程度でしかないらしいが、それでも完成へと一歩進んだのは間違いない。
真姫「これを早くみんなに…」
この治療法を早くμ’sのみんなに施したいところだが、治療の優先順位は収容プロトコルに従うためだいぶ後になってしまう。
処罰を受ける覚悟で隠れて先にみんなに治療することもできなくはないが…
肝心のみんなとの連絡はまだつかない。
───────────────────────────────────── (T-34)■■/01/30
世界オカルト連合のエージェントからある報告が届いた。
内容は、想像を絶するものだった。
───────────────────────────────────── ローマ教皇フランシスコ氏にSCP-3519の感染の疑いあり。
信徒に対してSCP-3519関連の自殺を容認する教皇特免を発布しようとしたため、現地のエージェントが教皇を拘留、監視している。
───────────────────────────────────── 真姫「噓でしょ…そんなことしたら…」
凛「そんなにまずいことなの?ローマ教皇は偉い人なのは知ってるけど…」
花陽「凛ちゃん、キリスト教ではね自殺は悪、認められないものとして扱われてるんだよ。それがもし一番偉い人から許可なんか出されたら…」
真姫「すんでのところで思いとどまってた人達が自殺に走る可能性がある」
凛「!」
それがすべてだった。
もしそのまま教皇によって自殺を許す特免なんか発布されていれば、ただでさえ凄まじい速度で増加していた自殺者の数がさらに増加していたことだろう。
真姫をはじめとする財団職員はそっち方向にはほぼノーマークだったため、向こうのエージェントがいなっかったら止められなかった可能性が高い。 真姫「素直に連中に感謝すべきね…」
花陽「でもこのまま向こうにまかせっきりにしといて大丈夫かな」
真姫「大丈夫でしょ。連中だって進んで事態を深刻化させる気はないだろうし」
凛「でもちょっと心配にゃー…」
その心配は、最悪の方向で的中してしまうことになってしまうが。
───────────────────────────────────── この日はほかにもいくつか報告が届いた。
財団本部からは、O5をはじめとする複数の主要職員にSCP-3519に感染した疑いが持たれていることを。
機動部隊プサイ-10からは、国連の内部組織にも感染者が増加してきたということを。
別の世界オカルト連合のエージェントからは、自分の組織内部にも感染者が増加してきたということを。
以上の報告を受け、SCP-3519の特別収容プロトコルが改訂された。
───────────────────────────────────── 特別収容プロトコル:
機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。
機動部隊ウプシロン-4(“糖衣錠”)に、以下の配布優先度を持つSCP-3519対抗ミームの配備任務が割り当てられます。
1:MTF U-4の隊員
2:残りの重要な財団職員
3:一般人口
───────────────────────────────────── 凛「…?ちょっとしか変わってないよ?」
真姫「そのちょっとに意味があるのよ」
改訂されたのは一ヶ所、治療の優先順位のみ。
この様に改訂されたのには理由がある。
1つは、除外された組織・集団にSCP-3519の感染者が増加したこと。
もう1つは、一刻も早く一般人に治療を施さねばならないほど、自殺者が増加していること。
ミーム治療の優先順位は、一般人に治療させる前に治療の効果があるのかどうか確認させる、という意味合いもあった。
しかし、悠長に効果の確認をしてられるほど時間が残されていないのが現状だ。
完成したらすぐに治療法を交付、それくらいの勢いでいくべきだ。
花陽「…間に合えばいいね」
真姫「そうね。何としてでも間に合わせるのよ」
3月5日まであと一ヶ月と少し。
───────────────────────────────────── (T-33)■■/01/31
朝一番に昨日教皇関連の報告をしてきた世界オカルト連合のエージェントから連絡が届いた。
内容は…
───────────────────────────────────── しくじった。
教皇を拘留していたエージェントの中に感染者がいた。
あろうことかそいつは教皇の特免の件を世界中の報道陣にリークしやがった。
今頃テレビじゃ大騒ぎだろうさ。
こんなこと言って許されるとは思わないが、
本当にすまない。
───────────────────────────────────── 真姫「…ッふざけないでよ!」
本気で、一連の騒動で一番といっていいほど本気で頭を抱えそうになった。
連中を信頼した自分が馬鹿だった。
かといって目の前の彼を責めるわけにもいかない。
彼だって、同じ気持ちだろうから。
花陽「て、テレビ、確認してみる?本当かどうかまだ…」
真姫「…遠慮しとくわ」
確かに花陽の言う通り彼が嘘をついている、またはニセの情報をつかまされている可能性もある。
だが、もし全部本当で想像通りの光景が繰り広げられていたら、
きっと耐えきれないだろうから。 真姫「花陽に見る勇気があるなら、後で確認しといてくれるかしら。私はこのことを凛とほかの職員に伝えてくるから」
花陽「わ、分かった…」
この後実際に花陽はテレビを見て確認したわけだが…
予想道理どの番組も教皇の話で持ち切りだった。
花陽「………」
見てて頭が痛くなる。
キリスト教徒の数は世界中で20億人以上。
それだけの数の人が、今すぐにでも自殺してしまう可能性が生まれてしまったのだから。 花陽「みんな、どんな気持ちでこれを見てるのかな」
まともな精神をしていれば、こんな嬉々として世界中の人間に自殺を進める番組なんか見れるはずもない。
それこそ、SCP-3519に感染でもしていなければ。
みんながそうでなければいいが。
───────────────────────────────────── (T-32)■■/02/01
機動部隊プサイ-10から報告が届いた。
内部は、まあ予想はついていた。
自殺者の数が世界人口の2%を超えた。
2%。数にして、1億4000万人以上。
ついに1億人を超えた。
昨日の一件を考えれば少ないように思えるが、これから一気に増えると考えるべきか。
問題はそれよりも… 真姫「殺人事件の増加にインフラ問題、公衆衛生の悪化…」
SCP-3519による死者は自殺によるものだけではなかった。
自暴自棄になった人…特に若者が関与する殺人事件が増加傾向にあるという報告も届いた。
自殺ばかりに気を取られていたが、こちらも対応策を練るべきか。
また、大量死の影響により水道や電気などのインフラが機能停止に陥り始めたという報告も届いた。
ここみたいな財団のサイトは全てのインフラを自分達で賄えるため特に影響は出ていないが、既にインフラの供給が完全に途絶えた地域もあるらしい。
このまま放っておけば、大事に至る場合もあるだろう。
衛生的な面でも問題が出始めている。
それもそのはず。死体を片付ける人手が足りているわけがないのだから。 真姫「やっぱり対抗ミーム治療の完成が優先ね…」
どの問題も機動部隊の大量投入によって解決できなくはない問題だが、その分のリソースを対抗ミーム開発に注いだ方が事態の根本的解決になるだろう。
なかなか心苦しい判断ではあるが。
───────────────────────────────────── (T-27)■■/02/06
機動部隊のプサイ-10から報告が届いた。
自殺による死者が2億5000万人を超えたらしい。
明らかに自殺者の増加速度が速くなっている。
先日の教皇の一件の影響が出始めたのだろう。
また、1億人以上の人が疾病や必須サービスの喪失で死亡、もしくは瀕死と推定されているらしい。
医者や介護士が死んでしまえば、こういう事態になってしまうのは当然だろう。
財団の本部からも連絡があった。
全世界で職員数が10%低下したらしい。
このサイトでも自殺者が出始めていたためある程度予想はついていたいたが、プロトタイプとはいえ対抗ミーム治療を受けた財団職員がこの有様とは。
正直、状況は最悪である。 真姫「はぁ…」
思わずため息が出る。
どれだけ死人が出ようと、どれだけ瀕死の人がいようと、自分たちにできる事は対抗ミームの開発のみ。
決して見捨てているわけではないが、くるものはある。
真姫「……」
肝心の対抗ミーム開発をしている機動部隊からは、プロトタイプの完成以降連絡がない。
開発に専念しているのか。
それとも。
───────────────────────────────────── 今日の報告を受け、SCP-3519の特別収容プロトコルが改訂された。
───────────────────────────────────── 今日の報告を受け、SCP-3519の特別収容プロトコルが改訂された。
───────────────────────────────────── 特別収容プロトコル:
機動部隊ウプシロン-4(“糖衣錠”)に、SCP-3519対抗ミームの継続的な緊急配備任務が割り当てられます。
グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。
───────────────────────────────────── 凛「カウンセリングって…」
真姫「何もしないよりはマシなはずよ」
機動部隊プサイ-10の任は解いた。
これ以上の観測は無意味だと判断したからだ。
対抗ミーム治療の優先順位も無くした。
そんなことしている暇はないからだ。
カウンセリングもどこまで効果があるのかは分からない。
だが、できる事は何でもするべきだ。
生き残るために。
真姫「早く何とかしないと…」
3月5日まで、一ヶ月を切っていた。
───────────────────────────────────── (T-15)■■/02/18
あれだけ連絡が取れなかった穂乃果から、連絡が来た。
真姫「…ッ穂乃果!」
良かった。穂乃果は無事だった。
早くほかのみんなの安否も聞こうとしたが、予想外の内容が送られてきた。 ほのか:まきちゃん
ほのか:ちょっと聞きたいんだけど
ほのか:ほのかでも楽に死ねる方法ってある?
真姫「…………え?」
頭が真っ白になる。
何故そんなことをわざわざ聞いてくるのか。
そんなの、分かり切っていた。
SCP-3519に感染していた。 真姫「…ッ!」
急いで返信を送る。そんなこと考えるなと。
しかし、またしても予想外の返信がくる。
それは、決して聞きたくはなかったことだった。
ほのか:でも
ほのか:みんなもう死んじゃったし
今度こそ思考が完全に停止する。
死んだ?みんなが? ほのか:直接見たわけじゃないんだけどね
ほのか:でも誰とも連絡つかないし
ほのか:そう考えるのが普通かなって
良かった。まだ確定したわけじゃなかった。
連絡が途絶える理由なんていくらでもある。
まずは目の前の穂乃果を説得するのが先だ
だが、 ほのか:まきちゃんもニュースで見てるよね
ほのか:世界がどうなってるか
ほのか:こんな世界で生きるのなんてもう無理だよ
ほのか:だから
死んだ方がマシ、と。
真姫「ふざけないで!」
必死に説得する。
真姫達が事態の終息に向けて動いてることを、もうすぐその目度が付くことを説明する。
でも、 ほのか:むりだよ
ほのか:そんなのできっこないよ
ほのか:たとえ出来たとしても
ほのか:みんなが死んだ世界で
ほのか:ほのかだけ生きても
ほのか:意味ないよ
どうやら穂乃果の中ではほかのみんなは完全に死んだことになっているみたいだ。
でも、自分はまだ生きている。
凛も、花陽も、まだ生きている。
それなのに、生きていても意味がないなんて言わせない! ほのか:そうだよね
ほのか:まきちゃんも
ほのか:はなよちゃんも
ほのか:りんちゃんも
ほのか:まだ生きてるんだよね
ほのか:じゃあさ
ほのか:ほのかと一緒に死んでくれるよね
それ以上、返信を打つことはできなかった。
穂乃果からも、それ以降連絡が来ることは、二度となかった。
───────────────────────────────────── (T-14)■■/02/19
―ドタドタドタ
廊下から誰かが走ってくる音がする。
時刻はまだ早朝。
それほど重要な件なのか。 花陽「ハァ、ハァ…真姫ちゃん!大変だよ!」
足音の主は花陽だった。
何やら相当大変なことが起きたらしい。
花陽「ハァ、ハァ…イスラエルと、ハァ…イランが…」
花陽「核戦争を始めました!」
真姫「…………は?」
───────────────────────────────────── その報告をしてきたのは世界オカルト連合のエージェントだった。
何でも、イスラエルとイランが核兵器を撃ち合い始めたらしい。
しかも、イスラエルが放った核兵器は他の湾岸諸国も標的としたらしい。
死傷者の数は不明。
文字通り、正真正銘の核戦争だった。
今は世界オカルト連合の関係者が国連に働きかけ、世界規模の核戦争を回避させようとしているとのことだった。
それにしても、核戦争だ。
どうしたらそんな事態になるというのか。
元をたどれば、人を自殺に追いやるミームでしかないはずなのに。
SCP-3519の効果を甘く見ていたのか。
これで何度目だ。 花陽「……ねぇ真姫ちゃん」
何、花陽、と答える前に花陽が答える。
決して聞きたくはなかった言葉を。
花陽「やっぱり、もう死んだ方がいいのかな…」
真姫「……何言ってるのよ、花陽ッ!」
花陽「だって、もう無理だよ、こんなの。真姫ちゃんも聞いたでしょ」
花陽「核戦争だよ?核戦争」
花陽「あの人達がいなければもっとひどいことになってたかもしれないんだよ?」
花陽「もう私達にどうにかできることじゃないんだよ」
花陽「このままきっと世界は終わってくんだよ…」
真姫「それは…」
言い返せなかった。
死者が数億人出ている上に、このざまだ。 真姫「だからって、自殺なんて…」
花陽「このままできっこないことをしようと苦しむよりは」
花陽「いっそのこと、死んだ方が楽になるよ」
真姫「ふざけないで!」
花陽の頬を思いっきりひっぱたく。
花陽は耐え切れず地面へと倒れる。
真姫「できないってまだ決まったわけじゃない!対抗ミームだって開発中だし、それ以外にだってまだやれることはある!」
真姫「勝手にあきらめないでよ!」
花陽「でも…」
花陽「μ’sのみんなはもう死んじゃったんだよ?」
真姫「…ッ!」
昨日の件は花陽と凛にも話した。
まだ死んだと確定したわけではないが…正直に言って厳しいだろう。 花陽「だからもう…」
真姫「でも!まだ私は生きている!凛だって生きてる!」
真姫「それなのに生きてる意味がないっていうの?」
真姫「花陽にとって私たち二人はその程度の存在だったってこと?」
花陽「それは……違う、よ」
真姫「だったら死にたいだなんて言わないで!」
真姫「せめて私が生きている間だけでも、私は花陽に生きていてほしいのよ…」
地面に座りこんでいる花陽へと抱きつく。
胸に顔をうずめ、思わず泣き出してしまう。
花陽「…ごめんね、真姫ちゃん」
真姫「ばかぁ…」
そのまま数十分くらい抱きついたままだった。
花陽は、多分もう大丈夫だろう。
───────────────────────────────────── 夕方ごろ世界オカルト連合から連絡がきた。
どうにか世界規模の核戦争は回避できたらしい。
彼らには助けられてばかりだ。
こちらも頑張らねば。
3月5日まで、あと2週間
───────────────────────────────────── (T-13)■■/02/20
その時間は、いつもなら3人で朝食を食べているはずの時間だった。
真姫はいつも通りの時間に、凛は少し遅れてやってきた。
だが、花陽が一向に来る気配がない。
真姫「……」
嫌な予感がする。
昨日の今日だ。何かあってっからでは遅い。
凛は眠たげだし、1人で確認にいこう。
ただ寝坊しているだけだと思いたいが。 真姫「花陽…?」
花陽の部屋までやってきた。
部屋の鍵は開いていた。
真姫「入るわよ…っと」
部屋に入ると花陽が机に突っ伏していた。
やっぱりただの寝坊だったみたいだ。 真姫「そんなところで寝てたら風邪ひくわ、よ…?」
花陽を起こそうと体を揺さぶる。
だが、
花陽の体はそのまま床へと転げ落ちてしまった。
真姫「……ぇ?」
突然のことに声が出なくなってしまった。
それほど熟睡していたのか? 机の上を見る。
そこには、薬品の瓶とメモが1つずつ置いてあった。
薬品は、花陽の研究で使っていた劇薬だった。
メモには、ただ一言書かれてあった。
ごめんね、と。 真姫「…ッ!」
すぐさま花陽に駆け寄り、脈拍を確認する。
死んでいるはずがない。
だって昨日死なないって約束したばかりじゃないか。
だからこれは何かの間違いで―
脈拍はなかった。
それ以外の生命活動を示す反応も、何一つ確認出来なかった。 真姫「嘘…嘘よこんなの…」
ポロポロと、瞳から涙があふれてくる。
何故、どうして、なんで、なんで、なんで、
真姫「死なないって約束したじゃない…」
自分の説得に応じてくれたんじゃなかったのか。
あの時のごめんね、はそういう意味じゃなかったのか。
それでも死にたい、という意味でのごめんね、だったとでもいうのか。 真姫「どうして…どうしてなのよぉ…」
涙があふれてきて止まらない。
どれほど泣いても、もう花陽は帰ってこないというのに。
真姫「なんで…なんで…」
こうまでしてこの世界で生きたくなかったのだろうか。
自分の説得が足りなかったのか?
それとも、その説得自体が花陽を苦しめてしまったのか。
真姫「花陽ぉ…」
理由は分からない。だが、事実として、
この日、大切な親友を1人喪ってしまった。
───────────────────────────────────── あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
凛が心配してきて来ないあたり、それほど経っていないのだろうか。
真姫「……」
ずっとどうすればよかったのか考えてた。
もっと念入りに説得するべきだったか。
それとも、変な気を起こさないようにずっと一緒に行動しているべきだったか。
それとも、昨日のことを凛にも相談すべきだったか。
それとも、 真姫「……対抗ミーム」
ウプシロン-10が開発しているはずの対抗ミーム。
あれが完成していれば、花陽が死ぬことはなかったのではないか。
だが、肝心の開発チームからは一向に連絡が来ない。
対抗ミームは一体どこで何をしている?
───────────────────────────────────── >>142
すいませんここウプシロン-10じゃなくて-4でした (T-10)■■/02/23
花陽の死以降、凛は塞ぎこんでしまった。
当然だ。一番の親友が突然死んでしまったのだから。
ここ数日まともに会話もできていない。
花陽の遺体はサイト内の遺体安置所に保管してある。
本当はちゃんと埋葬してあげたいのだが、都会のど真ん中ではそうも簡単にいかない。
真姫「…全部終わったら、みんなで弔ってあげるから」
そう心に誓うのであった。
───────────────────────────────────── 真姫「ッ来た!」
対抗ミームを開発していてるウプシロン-4から遂に連絡が来た。
やっとだ。どれだけ待ち望んでいたか。
もっと早く完成していたら花陽は…
なんて考えていてももう取り返しはつかない。一刻も早くこれを世界中に拡散するべきだ。
だが、肝心のメールの内容は、予想外のものだった。
───────────────────────────────────── 報告書
我々機動部隊ウプシロン-4はSCP-3519に対する対抗ミームの開発を行ってきました。
しかし、開発段階で現場で適切な媒介メディアに挿入する事が不可能だと判明しました。
これを受け、SCP-3519の対抗ミームを開発を中止すること提言します。
───────────────────────────────────── 真姫「はぁ⁉」
メディアへの挿入が不可能?開発中止?
なんだそれは。
散々待たせたくせに、この報告書の内容は何だ。
メディアへの挿入が不可能なら普通もっと早く気付くはずだろう。
なのに何でこんなに時間がかかって…
真姫「……あっ」
そこで、ある可能性に気付く。
絶望としか言えない、その可能性に。
ウプシロン-4が感染した。 真姫「……」
それは、SCP-3519への対抗ミーム開発が不可能になってしまったことを示し、
SCP-3519へ対抗する、最後の手段が失われてしまったことを示していた。
真姫「これじゃあ…もう…」
頼みの綱は絶たれた。
もう満足に感染者を治療させることは不可能だろう。
3月5日まで、あと10日。
残された手段は。
───────────────────────────────────── (T-8)■■/02/25
先日の一件を受け、SCP-3519の特別収容プロトコルが改訂された。
───────────────────────────────────── 特別収容プロトコル:
グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。
自殺用カプセルを要請に応じて利用可能にします。可能であれば、全ての生存しているKeterクラス異常存在の無力化命令が実行に移されます。
財団施設は、所属スタッフ数が30%を切った時点で、もしくは施設管理官の裁量で、施設放棄プロトコルに個々に従ってください。
───────────────────────────────────── 内容が明らかに矛盾していた。
全職員にカウンセリングを利用できる状態にしておきながら、自殺用カプセルの利用も認めるのはおかしい。
でも、もしもこれで花陽のような人が救われるのなら。
生きる気力を失ってしまった人を、無理に生き長らえさせるよりは。
───────────────────────────────────── (T-7)■■/02/26
遂にあれほど騒がしかったテレビが何も言わなくなった。
テレビだけじゃない。ラジオやネットニュースなど、ありとあらゆるメディアが沈黙している。
財団本部からの連絡は滅茶苦茶だ。
このサイト内に限らず、数多くの職員が自殺しているらしい。
また、収容下にある知的アノマリーが自殺し始めているという噂も流れてきた。
危険なオブジェクトが勝手に非活性状態になってくれるのはありがたいが、
オブジェクトですら死のうとするこの世界は、一体何なのだろうか。
───────────────────────────────────── (T-6)■■/02/27
真姫達は奥多摩にやってきていた。
ここには財団が保有している緊急時の予備施設がある。
ここに来た理由は1つ。
元居たサイトが使い物にならなくなった。
放置された遺体で衛生状態は悪化しており、これ以上の施設劣化を回避するため、プロジェクトチームを丸々こちらへ移動させたのだ。 凛「かよちん…」
花陽の遺体は遺体安置所に置かれたままだった。
置き去りにしたくはないが、かと言って連れていくこともできない。
真姫「大丈夫よ。また戻ってくれば。その時にちゃんと…」
凛「うん…」
───────────────────────────────────── 人がいなかったこともあって施設の状態は良好だった。
食料も水もたっぷりある。
これなら大丈夫そうだ。
凛「これからどうするの」
凛が心配そうに聞いてくる。
真姫「対抗ミームのプロトタイプのデータはあるわ。だからこれを私達の手で完成させれば…」
凛「凛達2人しかいないのに?」
対SCP-3519のプロジェクトチーム、というより真姫達がいたサイトの生き残りは、真姫達2人しかいなかった。
真姫「…そうよ。これしか方法はないんだから」
凛「そう、だよね」
力無さげに頷く。
不安になる気持ちもわかる。だがもうこれしか方法はないのだ。
真姫「今日はもう疲れてるだろうから凛は先に休んでていいわ。私はまだやることがあるから」
凛「……分かった」
こうして、2人は別れた。
3月5日まで、1週間を切っていた。
───────────────────────────────────── (T-5)■■/02/28
今朝、凛が自殺していた。
花陽と同じ方法だった。
凛の手にはメモが握られていた。
メモにはこう書いてあった。
ただ一言。
ごめんね、と。
それ以降のことはあまり覚えていない。
───────────────────────────────────── (T-4)■■/03/01
財団の自動継承システムからメッセージが届いた。
何でも自分がO5-6に昇進したらしい。
O5は財団の最高責任者だ。
間違っても自分のような一研究員が就けるような立場ではない。
自分にその地位が回ってくるほど、財団に人がいなくなってしまったというのか。
───────────────────────────────────── (T-3)■■/03/02
今日凛の遺体を埋葬した。
施設内に放っておかれるより、こっちの方が安らかに眠れるだろう。
後で花陽も同じところに埋葬してあげようか。
なんて、そんなことは、もう、
───────────────────────────────────── (T-1)■■/03/04
真姫の父親は一連の事件が起こった当初、本部のサイト方にいた。
事件後も現地に残り、向こうでの指揮を執っていた。
真姫とは今日この日までずっと、連絡を取り合っていた。
その連絡が、ついに途絶えた。
財団内で、最後まで連絡を取り合えていたサイトだった。 連絡が途絶える原因なんていくらでもある。
だが、死んでしまったとしか考えられなかった。
財団は崩壊した。
もう、異常存在を収容することはできない。
───────────────────────────────────── SCP-3519の特別収容プロトコルを改訂した。
これが、最後の仕事となるだろう。
───────────────────────────────────── 特別収容プロトコル:
SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。
感染は無力化したと見做されます。
世界的メディアのかなりの割合が感染を媒介すると思われ、その収容は現時点の財団に可能な域を越えています。
しかしながら、感染した記録媒体の ― 全てではないにせよ ― 大部分は更なる伝達が起こる前に劣化してゆくことが予想されます。
───────────────────────────────────── SCP-3519の無力化に成功した。
人類の滅亡によって。
対抗ミームなんて最初からいらなかったのだ。
感染する人間がいなくなれば、あとは勝手に消えていくのだから。
最後の最後で、自分達は勝利したのだ。
犠牲は、あまりにも多すぎたが。
今更自殺する気なんて起きなかった。
だって、明日になれば、世界は、
───────────────────────────────────── (T-0)■■/03/05
───────────────────────────────────── (T+1)■■/03/06
目が開く。
…どうして?
何故自分は今目を開いた。
3月5日はとっくに過ぎたというのに。
───────────────────────────────────── 体を起こす。
自分の意志で体を動かせる。
体の感覚もある。
どうやら自分は生きているらしい
どうして。
───────────────────────────────────── 辺りを見回す。
自分が最後に見た部屋のままだった。
何かが起きた様子はなかった。
どうして。
───────────────────────────────────── 廊下に出る。
他の施設内の設備も最後に見た様子のままだった。
どうやらこの中では何も起こっていないらしい。
どうして。
財団の緊急施設だからか?
───────────────────────────────────── 玄関の前に立つ。
この扉の向こうには今までいた世界がある。
3月5日を迎えた以上、どうなっているのか分からないが。
一面荒れ果てた荒野になっているのか、神話に出てくるような「終末」が繰り広げられているのか、
「何も」存在しないのか。
確かめてみる必要がある。
自分が置かれているこの状況を理解するためにも。
そして
その扉に
手を
伸ばし
───────────────────────────────────── 扉を開ける
そうして見た外の世界には、
何もなかった。
何も起きていなかった。
最後に見た景色のままだった。
何一つ変わらない景色が広がっていた。
どうして?
3月5日はとっくに過ぎたというのに。
───────────────────────────────────── 音が聞こえる。
鳥の鳴き声だ。
どうして?
どうして生き物が生きている。
どうしてさも当然のように生きている。
3月5日はとっくに過ぎたというのに。
───────────────────────────────────── 真姫「………………あっ」
そこで気付く。
やっと気付く。
一つの答えに。 SCP-3519の異常性は何だったのか。
―3月5日に世界が滅びるという情報を信じ、その日が来る前に自殺した方がいいというミーム汚染 そう、
3月5日に何かを起こすものではなかった。
そもそも、
3月5日に何も起こらないことなんて最初から分かっていたじゃないか。 真姫「ははっ…」
いつの間にか自分も感染していたみたいだ。
まったく情けない。
だが、それももう終わり。
Xデーが過ぎた終末論など、ただの妄想に過ぎないのだから。
───────────────────────────────────── 空を見上げる。
雲一つない、快晴だった。
どこまでも青いその空は、まるでこれからの世界を表しているようで。 清々しくも物悲しい、
本家に則った潔い終わり方だと感じました。
お疲れ様です。 読み終わった
壮絶な話だったな……滅亡後の世界で真姫ちゃんはどう生きていくんだろう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています