果南「あなたの味」
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ミーン、ミン、ミン、ミン…
せみの声がうるさいくらいに響く中。
日陰、反射する熱。
もういっそずぶ濡れになった方がマシだってくらい、身体じゅうを伝う汗。
高校二年、八月。
私は、初めてキスをした── 果南「ねー、チカ。キスってしたことある?」
きっかけは、何気なく呟いたその一言だった。
本当に、何気なく。
意味なんか、思惑なんか、なにもなく。
ちょっと流れた沈黙を破ろうとして言っただけ。
昨日の晩ごはんの話は、さっき済ませちゃったから。 チカはぽかんと口を開けて、じっと私を見つめた。
千歌「き、キス…?キスって、キス?ちゅーのこと?」
果南「うん、ちゅーのこと。鱚のことじゃないよ」
私のシャレに気づいたのか気づいていないのか、チカは慌てて瞳を伏せた。 千歌「ないよ、ないよ…そんな、キスなんて…したことあるわけないじゃん」
ぼーっと内浦の海を眺めながら、横目でチカの様子を窺う。
視線をふらふらとさまよわせて、両手をこねこね、両足をぱたぱた、なんだか拗ねたように口を尖らせている。
穏やかな海面にも太陽の光はきちんと反射して、世界の色を淡くする。
うぶな反応に、やっぱり可愛い奴だなあ、と内心で頷いてみせる。 千歌「果南ちゃんは、したこと、あるの…?」
もじもじ。
小さな声で、でも、はっきりとそう言った。
上目遣いをよこすチカ。
いじらしいね。
だから私は、もう少しからかってやろうと思ったんだ。
果南「試してみる?」
果南「私がしたことあるのかないのか、してみたらわかるかもよ」 やっと目が合ったかと思うと、チカはほっぺたを真っ赤に染めて、さっと視線をそらす。
うみねこの声、汽船の汽笛。
向こうに見える内浦の町は、昼間だっていうのにひとっこ一人いない。
こんなに暑くちゃ家から出ないよね。
この調子じゃ、今日はお客さん来ないかな。
果南「チカ、お昼にしよっか。そうめんでいい?」
千歌「…………みる」
果南「ん?」 千歌「試して、みる」
あれ?
なんだか、さっきより、暑くなった?
千歌「果南ちゃんがき、キス…したこと、あるのか、確認する」
あ、違うか。
熱くなったんだ、私が。
千歌「チカとキスして」
千歌「果南ちゃんと、キスしたい。」
そうめんはお預けみたいだ。 ミーン、ミン、ミン、ミン…
千歌「こ、ここ、誰も来ない…?」
果南「うん、来ないよ。お客さんいないし、父さんもでかけてるし」
千歌「…うん」
受付小屋の裏。
水族館からも、下の道からも、もちろん本土からだって見えないように、
チカを、小屋の壁に押し付ける。 千歌「し、志満姉がね、言ってた。キスとかそーゆーのは、本当に好きな人とするものなんだって」
サンダルを踏むだけのかかとを草が撫でる。
果南「夏休みになってから、チカ、毎日来るね」
目が合わない。
千歌「だって、よーちゃん飛込の練習で忙しいし、果南ちゃんずっとここにいる、から」 涼しげな肩に、手を乗せる。
果南「夏休みの宿題は進んでるの?」
びく、と小さな肩が跳ねる。
千歌「か、果南ちゃんよりは、やってる」
目は合わない。
果南「チカ」
千歌「な、なに…」
果南「なまいき」
ミーーーン、ミン、ミン、ミン……… 千歌「果南ちゃん」
果南「チカ。おはよう」
千歌「おはよ。今日もこっちいていい?」
果南「私はいいけど、たまには旅館の方を手伝わなくていいの?せっかくの夏休みなのにさ」
千歌「夏休みだからだもん」
果南「まったく」 果南「チカ。ボンベ出して」
千歌「はーい」
よたよたとボンベを運ぶ後ろ姿。
すっかりうちの手伝いさんになってくれた。
いいのかなあ、本人が楽しそうだからいいかなあ。 昼下がりになって、お客さんもはけて。
遅めのお昼ごはんを一緒に食べて、二人でぼんやり海を眺める。
お客さんがいない今のうちに、宿題でも見てあげた方がいいかな。
でも一年前に習ったとこなんて、教えられるかな。
千歌「お客さんいないね」
果南「水族館でショーやってる時間だからね」 果南「ショー観てくる?」
千歌「いい。何回もみたもん」
ちょっといじけたみたいな声。
果南「じゃあ宿題見てあげよっか」
千歌「果南ちゃん、二年生の勉強わかるの?」
果南「お?喧嘩売ってるな?」
なぜか嬉しそうにはにかんで、チカは。
千歌「チカ、今、なまいき言ったかも」
ああ、可愛い。 髪の毛全部取り外して洗っちゃいたいくらい暑い。
チカの肩だけが少しひんやりしていて。
力なく、弱々しく、それでもぎゅっと握られた裾。
果南「そろそろ、私がキスしたことあるかどうか、わかった?」
千歌「…まだわかんない」
果南「そっ、か」
世界で一番熱いのは、交わったこの部分かな。 >>18
×千歌「果南ちゃん、二年生の勉強わかるの?」
○千歌「果南ちゃん、一年生の勉強わかるの?」 夕陽を返す海面に、せみの声が聞こえない。
潮騒が遠くに響くだけの夕方は、もうそろそろ幕を閉じる。
果南「宿題は全部終わった?」
千歌「終わっちゃった」
果南「珍しいじゃん」 果南「毎年、チカの部屋の電気がずっとついてるの見てたのに。今年は見れないのか〜」
千歌「むー…うそつき。ここからチカの家なんか見えないじゃん」
ぶうっとむくれて睨まれる。
暑さは和らいだのに、首がひりひりする。
果南「チカ、今年は焼けたね」
千歌「果南ちゃんもね」 果南「明日、寝坊しないようにね」
千歌「起こしにきてくれないの?」
果南「それは曜の役目でしょ」
千歌「果南ちゃんが来てくれてもいいじゃん」
果南「曜の大切なお仕事は奪えないよ」 千歌「ねえ、果南ちゃん」
果南「んー?」
ひりひりする。
首だけが、真夏の中に取り残されているみたいに。
千歌「チカね、わかんなかった」 千歌「果南ちゃん、キスしたこと、あったの?なかったの?」
それと、もう一つ。
唇が、まるで太陽みたいにじりじりと疼いて仕方がない──けれど。
果南「チカがわかんなかったんなら、教えてあげない」
夕陽はもう、沈む時間だから。
この気持ちは、終わる夏休みに、置いていかなきゃね。
チカは、淋しそうに、嬉しそうに、呟いた。
千歌「果南ちゃんの、なまいき」
終わり ∬( c||^ヮ^|| やっぱりWちかなんWなんだよな〜ん 【速報】クオカード500円分かすかいらーく優待券をすぐ貰える
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