理亞「ルビィ..絶対助けにいくからね..」chapter3
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カチ..コチ..カチ..コチ..
理亞「.....」
気分を悪くし、トイレで嘔吐してしまった理亞は休息をとるために客室のベッドの上で横になっていた
壁にかかっている振り子時計が時を刻む無機質な音だけが部屋に鳴り響く
理亞(横になっていたら大分気分が良くなってきた..今何時なんだろう..)
壁の振り子時計の針は時刻は20時を回り、窓の外を見ると日が沈み辺りはすっかり暗くなっている..ひんやりとした空気が内浦を包み込み、シトシトと小雨が降っていた
理亞「もうこんな時間..ずいぶん寝ちゃってた..」
(姉さま..まだ来ないのかな..)
聖良から連絡が入っていないか携帯電話を覗き込むも..新着メッセージは入っておらず、また通話の状態は圏外となっていた 理亞「.....」
理亞はベッドの上に大の字になって思案を巡らせる
(私はルビィを探すためにやってきたんだ..こんなところで寝ているわけにはいかない..とにかく行動しなくちゃ..でも..どうすればいいんだろう..)
(内浦や沼津の周辺は黒澤家の人達や、地元の住民が隈なく探したはず..それでも手がかり一つ見つからないんじゃ..私一人がどうこうしたところで..)
理亞「こんな後ろ向きな考えじゃダメだ!とにかく情報を集めないと..」
理亞は頭を振って邪念を振り払った..その時..
コン コン..という木製のドアをノックする音が聞こえた 理亞「誰?」
花丸「遅くにごめんね?花丸だよ..開けてもらえるかな?」
理亞「ちょっと待って..今開ける」
気だるさの残る体に鞭打ち、理亞はベッドから起き上がるとドアの鍵を開けて花丸を室内に迎え入れた
花丸「理亞ちゃん大丈夫?気分は良くなった?」
理亞「ええ..もう大丈夫..迷惑かけたわね」
花丸「気にしないでいいずら..北海道からはるばるやってきてくれたんだもの..疲れが出るのは当たり前だよ」
理亞「花丸一人?ダイヤ達はどうしたの?」
花丸「ダイヤさんは家の人達と何か話し合ってる..善子ちゃんはもう夜遅いから帰ったずら」
理亞「そう..」 理亞が沈黙すると室内には振り子時計のカッチコッチという音だけが響き渡る..
沈黙する理亞を尻目に花丸は屈託のない笑顔を浮かべて、明るく理亞に話しかけた
花丸「ねえ、理亞ちゃん..少し話さない?」
理亞「え?」
花丸「あ..もちろん理亞ちゃんが嫌じゃなかったらだけどね?」
理亞「いいけど..」
なんだろう..改まって..私..花丸のことあんまりよく知らないから..なんだか緊張する..
花丸「理亞ちゃんは..ルビィちゃんのこと..どう思ってるの?」
理亞「どうって..」
花丸は顔を赤らめて..まるで意中の相手の恋敵を見るような目で..理亞の顔を見つめた 理亞「大切な..親友...だわ」
花丸「そう..なんだ..」
花丸は何かを堪えるように..ギュッと口元を噛み締める...
花丸「辛いよね..ルビィちゃんがいなくなってから..マルはずっと寂しくて..心細くて..」
花丸「ルビィちゃん..理亞ちゃんにすごくよく懐いていたから..もしかしたら理亞ちゃんの元に行ったんじゃないかって思って..連絡したんだ」
理亞「ルビィからは..何の連絡も来ていないわ..」
花丸「そう..」
花丸は沈痛な表情を浮かべてカーペットに目を落とした 理亞「花丸も..ルビィのことを親友だと思っているの?」
花丸「当たり前だよ!!ルビィちゃんとはずっと一緒だったんだよ!?マルにとってもルビィちゃんは..大切な親友なんだよ!!」
花丸「うう..ルビィちゃん..一体どこにいってしまったずらぁ..」
花丸の目から涙がポロポロと零れ落ちる..次々と滴り落ちる涙がカーペットの布地へと吸い込まれていった..
理亞「詳しい話を聞かせてよ..ルビィはどこに行っちゃったの?」
花丸「ルビィちゃんは..突然行方不明になっちゃったんだ..目撃情報も全然なくて..地元では神隠しにあったなんて無責任な事を言う人もいるずら」
理亞「どうして..ルビィは行方不明になったのかしら?自分から消えた..?それとも..誰かに..」
誰かにルビィが..その言葉が持つ意味を想像して理亞は体を大きく震わせた.. 理亞の脳裏に羽交い絞めにされて、泣きわめくルビィの顔が浮かぶ..
ルビィの首筋に鋭利なナイフが突きつけられ..その冷たい刃はルビィの首筋を切り裂いて..そして..
理亞(バカバカしい!!そんなことあるわけない!!絶対ルビィは今もどこかで元気でいるに違いない!!どうせ、家出でもしてどこかの街をほっつき歩いているのよ!! ルビィは生きてる..絶対..私はルビィと再会するんだ!!)
焦燥で焦がれる理亞の胸中をよそに花丸は言葉を続けた
花丸「ルビィちゃんの身の回りに特別なトラブルはなかったと思うし..不審者の情報もなかったから..誘拐の線も薄いと思う..」
理亞「それじゃあどこかでケガをして動けなくなったのかも..山で遭難したとか..海で溺れたとか..」
花丸「もちろんその線も踏まえて..地元住民で大規模な山狩りも行われたよ..それでもルビィちゃんは..見つからなかった..」
花丸「海も同じく..果南ちゃんたちを筆頭に地元のダイバーたちが海に潜ってルビィちゃんの手がかりを探したけど..ルビィちゃんの髪の毛一本見つけることもできなかったんだ」 理亞「ルビィが最後に目撃されたのはどこ?」
花丸「学校ずら..」
理亞「学校?」
花丸「浦の星女学院だよ..スクールアイドルの練習が終わった後、ルビィちゃんは用事があるから..って言って一人で校舎に残ったの..それが..ルビィちゃんを見た最後になったずら」
理亞「じゃあ学校になにか手がかりがあるんじゃ..!」
花丸「もちろん学校も隈なく探したよ..でもやっぱりルビィちゃんの手がかりを見つけることはできなかったんだ..ただ..」
理亞「ただ..なによ?」
花丸「ウチの学校..その..いわゆるイワクつきなんだ」 理亞「イワクつき?」
花丸「うん..どこの学校にもよくある..いわゆる怪談話なんだけどね..ウチの学校は孤児院だったんだよ」
理亞「孤児院?」
花丸「そう..太平洋戦争で親を失い家を焼け出された子供たちを保護していたんだって..戦時中の内浦には疎開先として各地からたくさんの子供が疎開してきたずら..ウチのお寺も疎開先として児童の面倒を見ていたことがあるんだよ」」
花丸「親を失い帰る場所もない子供たちを不憫に思い..孤児院を建設して子供たちの面倒を見ていたんだよ..それが浦の星女学院の前身ずら」
理亞「そんな過去が..それで..孤児院だったことと、ルビィの失踪がどう関係あるのよ?」
花丸「孤児院に入所した児童の数と..退所した児童の数が..合わないんだって..」
理亞「え?どういうこと?」
花丸「つまり..行方不明になってどこかに消えてしまった児童がいるということずら」 理亞「なんですって!?それって..」
花丸「今回のルビィちゃんの失踪事件に良く似ているでしょ?」
理亞「行方不明になった子供は..どこに行ってしまったのよ!?」
花丸「わからないずら..施設の厳しい生活が嫌になって、施設を脱走してどこかに消えてしまったんだろうと言われてる..けど」
理亞「けど..何よ?」
花丸「地面の下から..子供が苦しむうめき声が聞こえた..という逸話が残っているずら..」
理亞「ど..どういうこと?」
花丸「失踪した生徒たちの..怨霊が校舎に住みついているんじゃないかって..浦の星女学院の怪談話として..有名なんだ」 理亞「バカバカしい!!そんなオカルトめいた話をあんたは信じるの!?まさかルビィが怨霊に連れてかれて神隠しにあったっていうんじゃないでしょうね!?」
花丸「もちろんマルも..完全に信じているわけじゃないよ..でもね..?もうルビィちゃんがいそうなところは全部探したんだ..それでも手がかり一つ見つからないとなると..こんな怪談話でも..ルビィちゃんの手がかりが見つかる可能性があるのなら縋りたくもなるずら!!」
理亞「そもそも..その子供が失踪した話って..信ぴょう性はあるの?神隠しなんて到底信じられないわ!」
花丸「身寄りのない子供が失踪しても..探す人なんてだれもいないずら..それに時代は戦後の混乱期..どこまでが本当でどこまでがウソなのかもはっきりしないずら..ただ..あの学校に得体の知れない何かがあるのかもしれない..マルはそう思っているずら」」
理亞「浦の星女学院に..ルビィが失踪した何かがあるかもしれない..花丸はそういいたいの?」
花丸「うん..ただ..ルビィちゃんがいなくなってから、マルや他の生徒たちも学校を隈なく探してみたけど..ルビィちゃんの手がかりはなにも見つからなかったんだ」 理亞「まだ探していないところがあるじゃない..」
花丸「え?」
理亞「そのうめき声が聞こえたって言う話よ!もしも噂通り本当にそこから子供のうめき声が聞こえたのなら..その場所に何らかの手がかりがあるかもしれないわ!」
花丸「でも..そのうめき声が聞こえたっていうのも..あくまで噂話で..本当かどうかもわからないし..それが学校のどこかもわからないんだよ..」
理亞「それでも..ルビィの手がかりが見つかる可能性が僅かでもあるのなら..私はソレに賭けるわ!」
理亞「花丸!今から私を学校に案内して!!これから浦の星女学院に行ってルビィの手がかりを探す!」
花丸「今からって..夜になって外も暗いし..雨も降っているし..明るくなってからにしようよ」
理亞「だめよ!!このままジッとしているなんて私にはできない..きっとルビィの手がかりが校舎のどこかに残っているハズ!」
花丸「理亞ちゃん..わかった..ルビィちゃんの手がかりを..探しにいこう!!」
理亞(ルビィ..待っててね..絶対にあんたの手掛りを見つけ出してやるんだから!!) そして..2人は海岸沿いの真っ暗な小道へとやってきた..
古びた街灯と微かな月明かり以外には辺りを照らすモノはなにもない..
理亞(暗い所って..やっぱり苦手..)
花丸「この道をまっすぐ進むと..バスの停留所があるんだ..停留所の側にある階段を上った先が浦の星女学院だよ」
理亞「本当..何にもない場所ね..真っ暗じゃない..」
花丸「フフッ..そうだね..内浦は山と海に囲まれていて..それ以外は本当になにもないところだよ..でも地元の人たちはみんな優しくて心の温かい人ばかりなんだ..マルはそんな内浦が大好きずら!」
理亞「ルビィと花丸は..ずっとここで育って来たのよね?」
花丸「そうだよ..マルとルビちゃんは子供の頃から仲良しで..ずっと2人で一緒に過ごしてきたんだ..」 理亞「学校につくまで聞かせてよ..子供の頃のルビィと花丸はどんなことをして過ごしていたの?」
花丸「そうずらね..小さいころのマルは気が弱くて..いつもルビィちゃんに庇ってもらっていたずら」
理亞「花丸の気が弱い..?意外だわ」
花丸「マルは..ほら、オラとか..マルとか方言がでちゃうから..周りの子達にバカにされることがあって..そのたびにルビィちゃんが相手に言い返してマルを守ってくれたんだ」
理亞「ルビィが..」
そう言えば..私がダイヤのことをバカにした時..ルビィはムキになって言い返してきたっけ..
オドオドして気が小さいくせに..自分の大切な人が傷つけられると怒るのは昔から変わらないのね.. 花丸「マルは聖歌隊に入っているんだけどね?」
理亞「聖歌隊?でも確かあんたの家って..」
花丸「うん..聖歌隊に誘われた時はすごくうれしかったよ?でも..マルの家はお寺だから..その兼ね合いで辞退しようとしたんだ..」
花丸「でも..本心は聖歌隊に入って歌ってみたかった..そんなマルを見かねたのか..ルビィちゃんがマルのおばあちゃんに掛け合ってくれたんだ..マルは歌がうまいから..聖歌隊で歌わせるべきだって..」
花丸「そしたら..お婆ちゃんたちが大賛成してくれて..マルは聖歌隊に入ることになったんだ!」
理亞「そう..昔からそういうところは変わらないのね..ルビィは自分の大切な人の為だったら..ムキになって..相手のために尽くそうとする人..」
花丸「フフッ..そうだね..ルビィちゃんはとっても優しい子だから..マルも..そんなルビィちゃんの事が大好きで..いつまでも一緒にいたいずら..」 理亞「ルビィ..」
会話を続けながら道を歩き..浦の星女学院のふもとのバス停にたどり着いた
花丸「ついたよ..この階段を上るとマルたちの通う学校..浦の星女学院ずら」
理亞と花丸は階段のふもとまでやってきて..山の上にそびえる浦の星女学院を見上げると..シトシトと振っていた小雨がいつしか止んでおり..雲の切れ目から顔を覗かせた月明かりが..校舎を白く..不気味に照らしていた
理亞「花丸..」
花丸「うん?」
理亞「絶対に..ルビィを見つけ出すわよ」
花丸「.....うん!!」
そして..2人は真っ暗な階段を上り..浦の星女学院へと足を進めた 浦の星女学院
理亞「ついた..ここが..」
花丸「そう...マルたちの通う学校..浦の星女学院だよ」
理亞「門は施錠されているみたいね..乗り越えるしかない」
花丸「え?理亞ちゃん?わ!!」
言うやいなや..門の上に両手を置いた理亞は一足飛びにぴょんと門を飛び越えてしまった
花丸「さすが..セイントスノーずら..」
理亞「何やってるの?早く来て」 花丸「ま、待って..マルそんなに身のこなしが軽くないずら..ほっ!うわ!」
花丸も理亞に続いて門を飛び越えようとジャンプするも..足を引っかけてしまい尻餅をついてしまった
理亞「ちょっと!大丈夫!?」
花丸「アイタタ..大丈夫ずら」
理亞「ほら、捕まって..」
花丸「ありがとう..よいしょっと!!」
理亞「私は一通り校舎を回ってみるつもりだけど..案内をお願いできる?」
花丸「任せて!」 理亞「というより..校舎に入れるの?普通施錠されていて入れないんじゃ..」
花丸「大丈夫..廃校寸前の校舎だから..至る所にガタが来ていて鍵のかからない窓があるんだ..そこから出入りすることができるずら」
花丸「警備員さんもいないし..昔みたいに宿直の先生もいないから..夜は本当に無人なんだ」
理亞「え?そうなの?ずいぶん不用心ね..」
花丸「田舎の学校だからね..こんなもんだよ」
理亞「そう..まあ、いいけど..それなら余計な心配をせずにルビィの手がかりを探すことができるわね..」
花丸「こっち!この窓から入れるよ!」
そして二人は..暗闇の支配する夜の校舎へと忍び込んだ
校舎の中はシン..と静まり返っていて物音一つしなかった 理亞(予想はしてたけど..やっぱり夜の学校って不気味ね..)
年季が入っている木製の床は歩くとギシ..ギシ..と1歩ごとに軋む音を発した..
真っ暗な校舎の中にひんやりとした冷気が漂っており、理亞の背筋をブルッと震わせる
花丸「電気はつけないほうがいいよね..懐中電灯を持って来たから..それで探索しよう」
花丸はそう言うとスポーツバッグの中から小さな懐中電灯を2本取り出して一本を理亞に手渡した 理亞「花丸」
花丸「な〜に?理亞ちゃん」
理亞「私から離れるんじゃないわよ」
花丸「え?」
理亞「もしかしたら校舎の中にルビィの失踪に関わる危険な何かがあるのかも..ルビィに続いてアンタまで失いたくないから..私から離れないでって言ってるの..」
花丸「理亞ちゃん..うん!わかった..探索が終わるまでマルは理亞ちゃんから離れないずら!!」
花丸はそういうと理亞の袖をきゅっと掴んだ 理亞「べ、別に袖を掴めとは言ってない..動きづらいから離して頂戴..」
花丸「えへへ〜理亞ちゃん優しいずら..きっとルビィちゃんは理亞ちゃんのこういうところに惹かれたんだろうな..」
理亞「わ..私は..優しくなんか..というより離れてよ..」
花丸「え〜?い〜や〜ず〜ら!!マルが飽きるまでしばらくこうしているずら♡」
理亞「まったく..もういいわ..行きましょう..」
そうして二人は暗闇が支配する廊下を懐中電灯の光だけを頼りに歩き出した
ギシ.. ギシ.. と木製の床が軋む音が鳴り響く.. 理亞(廊下の足音なんて..日中だったら気にも留めないのに..真っ暗でこうも静まりかえった空間だとそれだけで不気味に聞こえるわ..)
花丸「理亞ちゃん..まずはどこを見たい?」
理亞「一階から見て行って..全部見たら上の階へ..最終的には屋上までみたい」
花丸「わかった..案内するよ..そこの教室がマルたち1年生の教室だよ..まずはそこから見てみよう」
理亞「わかった」
花丸に案内された理亞は1年生の教室に足を踏み入れた
花丸「ここがマルたち1年生の教室だよ!」
理亞「ここがルビィの教室..ルビィの机はどれ?」
花丸「あそこ」
花丸は清掃用具入れの側に位置する机を指差すと、そこには主を失った机が寂しげにポツンと存在していた 理亞「これが..ルビィの机..」
理亞はルビィの席に腰かけて教室を見渡した..
理亞(ルビィは..ここに座って学校生活を送っていたのね..これがルビィの見ていた景色..)
理亞は机の中を覗き込むが中には何も入っていなかった
花丸「そこにはなにもないよ..ダイヤさんが片づけちゃったからね」
理亞「机の中には..ルビィの手がかりになりそうな物は入っていなかったの?」
花丸「もともとなにも入っていなかったよ..ルビィちゃんは置き勉もしない真面目な子だったから..いつも机の中はキレイだったずら」
理亞「そう..」 花丸「そろそろ次の場所に行ってみる?」
理亞「そうね..案内をお願い」
そして二人は1階の部屋を隈なく見て回ったが..ルビィの手がかりになりそうなモノは髪の毛一本たりとも発見することができなかった
理亞「1階は見て回ったわね..」
花丸「どうする?次は上の階を探す?」
理亞「上に行く前に..体育館の中を見てみたいんだけど..」
花丸「わかったずら..ついてきて」
花丸の後について理亞は校舎の外に出た。冷たい潮風が理亞の頬を弄り..雨上がりの雲の切れ目から、月の光が降り注ぐ 理亞「さむ..」
理亞が肌寒さに身をブルリと震わせた時..
ワオオオオ〜〜ンンンン
理亞「な..なに?」
獰猛な犬の泣き声が山の中に響き渡った
花丸「時々野犬がでるんだよ..人が噛まれてケガをしたっていう事件がたまに起きるから..関わらない方がいいずら」
理亞「噛まれた?そんな危険な犬がいるのに駆除しないの?」
花丸「保健所の人が捕まえようとしたら..頭を思い切り噛みつかれて10針縫う大けがしたんだって」
理亞「小さい子犬だったらともかく..そんな凶暴な犬は絶対にペットにはしたくないわね..」 花丸「体育館はトイレの窓のカギが壊れているから..そこから入るずら..こっちだよ」
理亞「本当にボロイ校舎ね..メンテナンスはしっかりしなさいよ..」
花丸「よいしょっと..よし..空いたずら!」
ガラッ..と滑る音を立ててトイレの窓は開かれた
理亞「よし..中に入るわよ..ん?どうしたの?」
花丸「マル..一人じゃよじ登れないずら..理亞ちゃん後ろからマルを押し上げてくれる?」
理亞「世話が焼けるわねまったく..ほら!よじ登りなさい!」
花丸「ずら!!」
花丸はピョンと飛び上がると、トイレの窓に右足をかける..腕の力が足りなくて落ちそうになるところを理亞が支えて花丸のお尻を強く押し出し、トイレの中へと押し込んだ 花丸「ずら!!アイタッ!」
花丸は尻からトイレの床に落下し、尻餅を着く音が響き渡る
花丸「痛いずら〜!!理亞ちゃんもっと優しくしてほしいずら!!」
理亞「イヤ..着地までは面倒見切れないって..ハッ!」
理亞は軽快にジャンプし、花丸がやっとよじ登った壁をスタイリッシュに乗り越えた
花丸「おお〜〜!!理亞ちゃんすごいずら〜!!」
花丸は子供のような笑顔で無邪気に拍手を送る
理亞「こんなのなんでもないわよ..さあ、行くわよ..」 トイレの扉を開けると、暗闇に包まれた闇の世界が2人の視界に飛び込んでくる..
体育館の中は暗闇と静寂に包まれており..灯りとなるモノは窓から入ってくる月光のみだった
理亞「とくになんの変哲もない体育館ね」
花丸「あまり珍しいモノを期待されても困るずら..」
理亞「とりあえず一通り見て回るわ..」
理亞は懐中電灯を取り出し、体育館の中を照らし出した
理亞(バスケットコートに...部隊の上にはグランドピアノと表彰台..特に変わったものはなさそうね..)
花丸「真っ暗で不気味ずら..うう..お化けが出そう..」 理亞「バカなこと言ってないでルビィの手がかりがないか探すわよ..」
花丸「ここも探したから..なにもないと思うけど..」
理亞「アンタたちは探してもないって判断したのよね?探しモノっていうのはね..無いと思い込んだ人が探すと見つからないモノなのよ」
花丸「どういうこと?」
理亞「別の人間が探せば視点や考えの違いで見つかることがあるっていう話よ..ん?」
理亞はバスケットコートの真ん中で足を止めた
花丸「どうしたの?」
理亞(ここ..なにかおかしい..今まで足音はコツ..コツ..だったのに..ここだけタン..タン..になってる..まるでここだけ板が薄いような..気のせい?) 花丸「床の上で立ち止まってどうしたの?なにかおかしいところがあった?」
理亞「いや..なんでもない..舞台の上も調べてみよう」
おかしいとは思ったが、とりあえず体育館の全体を調べるべきだと考えた理亞はその場所を後にし、舞台の上へとよじ登った
理亞「ここが舞台の上ね..体育館の様子がよく見えるわね」
理亞はステージの上から真っ暗な体育館を一望する..昼間は活気があふれているのだろうが、夜の静まり返って暗闇に包まれた体育館は
生物としての根源的な恐怖を駆りたてるように思えた
花丸「ここで鞠莉ちゃんやダイヤさんが全校生徒にあいさつをするんだよ」
理亞「ふ〜ん..特に変わった様子はなさそうね..表彰台にグランドピアノ..この胸像は誰?」
理亞はステージの横に置いてある初老の男性の胸像を指差した 剥げた頭にシルクハットを被り、背広に蝶ネクタイを付けた男性の胸像は品格に溢れており
その表情からはかなりやり手であったのだろうと理亞は思った
花丸「ああ..この学院の創設者の胸像だよ..鞠莉ちゃんのお爺ちゃんに当る人だね..」
理亞「創設者..小原鞠莉の祖父がこの学院の創設者なの?」
花丸「うん..鞠莉ちゃんのお爺さんは沼津近郊や内浦を中心にして商売を行う商人だったんだって..沼津近郊で商売を行うウチに、自然豊かなこの土地が好きになって内浦に疎開している身寄りのない孤児を憐れんで、お金を出して孤児院を創設した人でもあるずら」
理亞「え?それじゃあ..鞠莉のお爺さんって..この学園で昔起こった神隠し事件の当事者だったんじゃ..鞠莉に聞けばなにか手がかりが手に入るかもしれないじゃない!」
花丸「マルもそう思って..鞠莉ちゃんに聞いてみたんだけど..なにも知らないって..鞠莉ちゃんのお爺さんはお金を出しただけで、孤児院の運営にはノータッチだったみたい..」 花丸「それに..神隠しについて鞠莉ちゃんに話したら鼻で笑われたずら..大昔に行方不明になった児童は施設での生活が嫌になって逃げだしただけデース☆って..」
理亞「......」
理亞はなにか釈然としないモノを感じたが、花丸の話にとりあえず納得し、創設者の胸像を見上げた
理亞「まあいいわ..でも..なんか珍しいわね..こんなステージの上に胸像があるなんて..」
花丸「そうだね..他の学校でも創設者の胸像はあるみたいだけど..大体校庭の隅とかに置かれているみたいだよね..言われてみるとなんでここに胸像があるんだろう..」
理亞「なんか怪しいわね..ちょっと調べてみようか..」
理亞は胸像を怪訝な目で見つめると、像の周りを調べ始めた 理亞(一見何の変哲もない只の胸像に見えるわね..材質は..銅ね..かなり重い..固定されているみたいだし、女の力では動かせそうにないわ)
理亞(ん?)
理亞は胸像がつけている蝶ネクタイに目を留めた..
理亞「この蝶ネクタイ..結び目の裏にくぼみがある..何か埋め込むことができるのかしら?」
花丸「え?あ!本当だ!!今まで気が付かなかったよ..」
理亞「何かがはまっていたようなくぼみだけど..なんなのかしらこれ..」
花丸「この形は..浦の星女学院の校章ずら」
理亞「なんでこんなくぼみがあるんだろう?」
花丸「う〜んわからないずら..学校の七不思議ずら」
理亞「いや、それは違うと思うんだけど..」 花丸「いつまでも胸像を見ていてもしょうがないずら..そろそろ校舎の探索に戻ろうよ」
理亞「.......そうね」
理亞はもうしばらく胸像を調べてみたかったが..花丸の意見に同意することにし、校舎の探索に戻るために体育館を後にした
花丸「体育館にはルビィちゃんの手がかりになりそうなモノは見つからなかったね..今度は校舎の上の階をって..どうしたの?理亞ちゃん?」
理亞「ごめん..ちょっと気分が悪くて..トイレによっていいかしら?」
花丸「それは別に構わないけど..大丈夫?保健室のベッドで横になった方がいいんじゃ..」
理亞「平気よ..すぐ戻るから花丸はここで待ってて」
花丸「わかったずら」
花丸を廊下に残して理亞は一人で校舎の女子トイレに入った 理亞(やっぱり..食あたりかな..まだ気分が優れないや..)
女子トイレの中には個室が二つと清掃用具入れが一つ..と一般的で簡素な造りとなっていた
理亞「少し個室の中で休んでから行こう..」
理亞は手前の個室のドアノブに手をかけて、ノブを捻り開けようとするが..
理亞「あれ?びくともしないわ?なんでトイレの扉が空かないのよ..つっかえてんのかしら..カギはかかってないみたいだけど..」
理亞「まあ、いっか..奥のトイレはドアが開けっ放しになっているみたいだし..そっちを使おう」
キィ..バタン ジィ〜〜ファサッ 理亞(.......)
理亞は洋式便器の上に腰を下ろし、両手を前に組み頭を垂れた
理亞(まずは状況を整理しよう..私はルビィを探すために内浦にやってきて..ルビィが最後に目撃されたこの浦の星女学院に手がかりを求めて訪れた..)
理亞(まだ、一階と体育館しか見回っていないけど..この学院..なにかおかしい..生徒が一人学校内で行方不明になったというのに..どうして窓のカギが空いていたり..)
理亞(学校を警備している人間がいないのか..普通人が一人失踪したなんてなったら..もっと大事になって施設の点検やセキュリティに気を配るはず..)
理亞(理事長の小原鞠莉がよっぽど能天気でおめでたい性格をしているのか..あるいは..ルビィはこの学校で姿を消したわけじゃないか..ということになるけど..)
理亞(もしも、後者だったら花丸がウソをついていることになる..でも、花丸はルビィの親友..ルビィの失踪に関してウソをつく理由なんてどこにもない..ということは..うう..わからない..どういうことなんだろう..?)
理亞(とにかく..まずはあの体育館の胸像が気になるわね..あの胸像にはなにか大きな秘密が隠されているような気がする..あのくぼみに入れることができる何かを探すことから始めるか..) 理亞(ん?)
トイレの窓ガラスから月明かりが差し込み、理亞が入っている個室の壁を照らし出す..
足もとに映る理亞の影に、もう一人..別の誰かの人影が覆いかぶさるように映っていた
理亞「え?」
理亞は何気なく上を見た..そこには..
??「......」
能で使うおかめのお面を被った何者かが..隣の個室の天井の隙間から身を乗り出し金属の筒のようなモノを理亞に向けていた 理亞「は?」
ドシュッ!という金属音がトイレの中に響き渡り、理亞の背後に立てかけられていた洋式トイレの蓋が粉々に粉砕され、壁に銀色のアンテナのようなモノが突き刺さった
理亞「な..!!」
何が起こったか理解が追いつかない理亞は便座の上に凍り付いたように固まった
??「.....」
襲撃者は理亞を仕留め損ねたことを確認すると、ボウガンの矢を継げ変えるべく、個室の中へと姿を消していった 理亞(な..なななななななに今のは!!?? え?なに?何が起こったの!? 今のアイツはなんなの!?..何かが飛んできてトイレの蓋を..え?え?)
理亞は壁に突き刺さったそれを凝視し、何が飛んできたのかを正しく理解した
理亞(あれ..弓矢じゃない!!あんなので討たれたらひとたまりもないわ!!)
突如危機的状況の中に放り込まれたことを理解した理亞はスカートをはき、個室の扉を思い切り開いて外へと飛び出した
理亞が個室の外に飛び出したと同時に..
ギィィィィ〜〜という耳障りな音を立て、隣の個室の扉がゆっくりと開き..
黒ずくめのローブを頭から爪先まで被り、おかめの面を付けた襲撃者が姿を現した
理亞「な、なによアンタ..何持ってんのよ..それ..ボウガンじゃない!!」 ??「........」
襲撃者は理亞の問いかけには応えず、これが返事だと言わんばかりに矢を装填したボウガンの銃口を理亞の心臓に向けた
理亞「やめて!!」
理亞の悲鳴を無視してトイレの中に2発目のドシュッ!という射撃音が鳴り響いた
理亞「きゃああ!!」
ボウガンの矢は理亞をわずかに逸れて、背後の水道管をぶち破り、ブシャー!という音を立てて水道管から水しぶきがトイレの中に飛び散った
理亞は襲撃者に背を向けてトイレの出口へと駆け出し、体当たりをするような勢いでトイレの扉をぶち破り廊下へと飛び出した 花丸「理亞ちゃん?どうしたの?トイレの中から大きな音が聞こえたけど..」
理亞「花丸!逃げるわよ!!」
花丸「え?どういうこと?」
理亞「いいから!!早く!!」
理亞は花丸の手を掴むと廊下を走りだす..ドン!!という大きな音を立ててトイレの扉が開け放たれて、中からボウガンを構えた襲撃者が現れた
花丸「ずら!?だ、誰あの人!?」
理亞「知るわけないでしょ!?ヤバい奴なのは見れば一発でわかるでしょ!!いいから逃げるわよ早く!!」
花丸「り..理亞ちゃん!!」 戸惑いと怯えの声を出す2人をよそに..矢を携えるカチャンという金属音が鳴り..ダン!という矢を発射する音が再度響き渡り、銀色のアンテナのような弓矢が飛んできた
理亞「うわ!!」
理亞は弾かれるように空き教室の中に身を投げて矢を回避し、理亞に押し倒された机とイスがガラガラガッシャーンというけたたましい音を立てて床に倒れた
理亞「はぁ!..ハァ..!な..なに?一体なんなの!?」
理亞の足が恐怖でガタガタと震え、突然の事でパニックになった頭は状況を飲み込むことができずにいた
花丸「アグッ!!」
廊下から花丸のうめくような悲鳴が聞こえ、その直後に廊下に倒れ落ちるドサッという大きな音が響いた 理亞「花丸!?どうしたの大丈夫!?」
花丸「あ..足が..」
理亞「ヒッ!」
花丸の足にボウガンの矢が突き刺さり、矢が刺さった場所から血液がボタボタと滴り落ち、床の木目に赤い液体が伝うように流れて行った
理亞「は..花丸!!」
花丸「痛い..う..動けない..」
痛みに顔を歪める花丸をあざ笑うかのように..暗闇を切り裂いて銀色の矢が飛来し..
狙いを大きく外れた矢は廊下を風のように飛び去ってゆき..奥の壁にドガッ!!という大きな音を立てて突き刺さった 花丸「理亞ちゃん逃げて!!」
理亞「バカなこと言ってんじゃないわよ!!さあ早くこの手に捕まって!!」
花丸「理亞ちゃ..わッ!」
理亞は花丸の腕を掴むと渾身の力で引っ張り、教室の中へと引き寄せた
??「.......」
カチャン..ドシュッ!!
襲撃者はボウガンを構えると理亞達目がけて矢を撃ち放った
理亞「くっ!!」
花丸を教室の中に引っ張りいれたと同時に、床に銀色のアンテナが生えるように突き刺さった 花丸「理亞ちゃん..」
理亞「大丈夫..今矢を抜いてあげるから..」
理亞は花丸の太ももに突き刺さった矢を掴み、思い切り引き抜いた
花丸「アグッ!!」
アーチを描くように花丸の足から血が飛び散り、理亞の頬に雨水が飛び散るように血が付着した
理亞(よかった..思ったより傷は深くない..早く手当しないと..でも今はそれより..!!)
理亞「花丸逃げるわよ!!私の肩につかまって!!」 花丸「マルに構ってたら理亞ちゃんまで殺されちゃうよ..マルのことはいいから一人で逃げて!!」
理亞「何言ってんの!アンタを置いて逃げられるわけないでしょ!?さあ早く!ヤツが来る前に早く!!」
理亞は花丸の腕を自分の肩に強引に巻きつけ、力づくで花丸を立ち上がらせた
花丸「ウッ!」
理亞「後で手当てするから..逃げるよ!」
花丸に肩を貸した状態で二人はベランダまで歩き、扉を開け放った..
夜風の心地よい冷たさが理亞の頬を弄ったとほぼ同時に..窓ガラスにボウガンの矢が突き刺さった
理亞「ヒッ..!」
ガシャーンという窓ガラスが粉々に砕け散る音が鳴り響き..粉々に砕け散ったガラス片がシャワーのように飛び散った 襲撃者は教室の出入り口にピストルクロスボウと呼ばれる、連射能力に秀でたボウガンを構えて立っており..獲物の様子を伺うように..理亞と花丸を見つめていた
理亞「なんなのよアンタ!!私たちが何をしたって言うのよ!?」
理亞は敵をキッと睨みつけ、腹の底から大声を出して怒鳴りつけた。
襲撃者は理亞の問いに応えることなく、淡々とした手つきでボウガンに矢を装填する作業に取り掛かる
教室の中に矢を継げ変える無機質な金属音が鳴り響いた
花丸「理亞ちゃん逃げよう!!話の通じる相手じゃないずら!」
理亞「クッ!しっかりつかまってなさいよ!!」 理亞は花丸を肩に担ぎ上げると校庭目がけて全力で駆けた。襲撃者は矢をボウガンに装填すると、理亞の背中目がけて矢を射出した
バシッ!という大きな音の後に夜の闇を切り裂くように矢が飛来する..幸いにも矢は理亞達に刺さることはなく、グラウンドの土に生えるように突き刺さった
花丸「ウッ..痛い..」
理亞「我慢しなさい..どこか安全なところに身を隠さないと!!」
理亞は後ろを振り返り襲撃者の様子を伺うも、襲撃者はベランダに立ち尽くし、2人を追うようなそぶりは見せなかった 理亞は花丸を背中におぶってしばらく走り続け..プールサイドの側にやってきた
理亞「はぁ..はぁ..大分走ったけど..どうやら巻いたみたいね..少しだけここで休みましょう..花丸足を見せて」
花丸「うん..」
花丸はおずおずと理亞に足を差し出す..血液から発する鉄の匂いが理亞の鼻を突き、わずかに吐き気が込み上げてくるのを感じた。
理亞「フッ..」
理亞は自分のスカートのすそを僅かに破くと、包帯代わりに花丸の足に巻きつけて止血を施した
理亞(これでよし...でも応急処置にしかなってない..早く医者のところに花丸を連れて行かないと) 理亞はポケットの中の携帯電話を取り出すも..山の中に位置する校舎の中ではアンテナは立たず、圏外とだけ表示されていた
理亞「花丸!アンタの携帯貸して!!」
花丸「ごめん..携帯持ってきてないずら」
理亞「なんですって!クッ..こんなときに..」
苛立ちを発散させるように舌打ちをした後理亞は思考にふける
理亞(どうする..私一人で町まで逃げて助けを呼んでくる?イヤ、ダメだ..私が助けを呼びに行く間に花丸にもしものことがあったら..)
理亞(私たちがいないことに気が付いたダイヤが探しに来てくれるのを待つ..これもダメだ..ダイヤに行先を告げずにここに来ちゃったから..そもそもダイヤは私たちが浦の星女学院に来ていることを知らない..)
理亞(クソッ!どうすれば..どうすればいいんだ!!) 花丸「理..理亞ちゃん!!」
理亞が必死に善後策を練るために頭を働かせていると..花丸の恐怖に上ずった声を上げた
理亞「え?なに?どうしたの?」
ドシュ..ビイイ〜〜ンンン..
理亞「な..!!」
理亞の顔のすぐ横に位置する壁に..ボウガンの矢が深々と突き刺さり、小刻みに震える弓矢の羽が理亞の頬をくすぐった
理亞「あ..あ..」
理亞は恐怖に目を大きく見開き..真横の壁に突き刺さった矢を呆けたように見つめた 花丸「あわわわ..も、もう来たずら!!」
理亞「なんで!?どうして私たちがここに逃げ込んだってわかって..ハッ!!」
月明かりがプールサイドを薄く照らし出し..花丸から流れ出た血痕が道しるべのようにコンクリートの上に点在しているのに理亞は気が付いた
理亞(クッ!花丸の血痕を辿ってきたのか..こんなことに気が付かなかったなんて!!)
襲撃者は矢を取り換えて再び理亞に狙いを定め..ボウガンの引き金を弾いた
ドシュッという音の直後、銀色の弓矢が疾風のごとく理亞目がけて飛来する..
理亞「わああ!!」
理亞は腰を抜かしてしまい、地面にへたり込んでしまう..
ボウガンの矢は理亞の顔面があった場所に突き刺さり、壁の粉末がパラパラと理亞の頭に降り注いだ 襲撃者は矢が外れたことに特に反応を示すこともなく..淡々とボウガンに矢を装填する作業に取り掛かった
理亞(姉さま..姉さま助けて!!)
理亞は想像の中の聖良に縋った..
いつも明るく優しい姉聖良..弱きを助け強きを挫く..どんな相手にも果敢に立ち向かっていく理想の姉..
幼いころ..人見知りが激しくイジメられていた理亞を助けてくれた姉の姿が脳裏に浮かんできた せいら「もう大丈夫よ..あなたを虐めていた子達は私がやっつけてあげたから..」
りあ「ひっぐ..ひっぐ..」
せいら「もう..泣かないの..私の妹なんだからめそめそしないの!」
りあ「姉さま..ありがとう..」
幼き日の理亞がお礼を言うと聖良は苦笑し、肩をすくめた
りあ「ねえ..姉さま..」
せいら「な〜に?りあ?」
りあ「姉さまは..どうしてそんなに強いの?」 せいら「鍛えているからね..そんじょそこらの奴相手になら負けないわ」
りあ「姉さまは..怖くないの?相手はあんなに大勢いたんだよ?」
せいら「怖くないって言ったら..ウソになるわ 私だって人間だもの..傷つくのは怖いし、痛いのはイヤよ」
りあ「じゃあどうして?どうして姉さまはどんな相手にも立ち向かっていけるの?」
せいら「大切な人を守るため..だからね」
りあ「守る?」
せいら「そう..りあは私にとって大切な人だから..たとえ相手が誰であろうと..何人だろうと..りあの為だったら立ち向かっていくことができるの」
りあ「私も..鍛えれば姉さまみたいになれる?」 せいら「あなたは鍛えなくてもいいわよ..いざとなったら私が駆けつけて守ってあげるから」
りあ「...やだ」
弱い自分が嫌だった..いつも泣いてばかりでメソメソして..そんな自分を..変えたかったんだ
せいら「りあ?」
りあ「私も姉さまみたいになりたい!!姉さまは私の憧れ..いつか私も姉さまみたいになって..姉さまを守ってあげられるようになりたい!!」
せいら「りあ..」
りあ「これからは私も姉さまと一緒に特訓する!!」
せいら「わかった..これからは私があなたをみっちりと鍛え抜いてあげる..」
りあ「うん!早く強くなって..私も姉さまや誰かを守ってあげられるようになるの!!」 そうだ..私はあの日誓ったんじゃないか..もうメソメソ泣かない..強くなって姉さまや大切な人を守れるような強い人間になるんだって..
矢の装填を終えた襲撃者は理亞目がけてボウガンの矛先を向けた
理亞(私が殺されたら次は花丸が殺される..守るんだ..私の大切な友達を..守って見せる!!)
ドシュッ!という鈍い音の直後に銀色の弓矢が理亞目がけて高速で飛来する..
アドレナリンが脳内に分泌された理亞にとって、飛んでくる矢はコマ送りのスローモーションのように見えた
心臓目がけて飛来する矢を理亞は紙一重で交わし、矢は壁に突き刺さった 理亞「守る..私は..友達を守って見せる!お前なんかにやられてたまるか!!」
矢を回避されたことで襲撃者に僅かな戸惑いが生じるも、理亞を抹殺すべく次の矢を装填する作業に取り掛かった
花丸「理亞ちゃん逃げて!!」
理亞「逃げない!私は絶対に友達を見捨てない!!」
理亞は壁に突き刺さったボウガンの矢を掴むと思い切り引っこ抜く..
襲撃者も矢の装填作業を終え、再び理亞目がけてボウガンの狙いを定めた
理亞「せいッ!!」
理亞は体を捻ると襲撃者目がけて矢を投げ放つ..それとほぼ同じタイミングでボウガンが撃ちだされるドシュっという鈍い音がプールサイドに響き渡った 理亞「ッ..!」
ボウガンの矢は理亞の頬を掠め、一筋の血液がツッ..と頬を流れた
ガシャン..!という固いコンクリートの上に金属を落とす音が鳴り響く..
理亞の投げた矢は襲撃者の肩に突き刺さり、敵は肩に刺さった矢の痛みでボウガンを取り落した
理亞「ヤッタ..」
黒いローブから赤い血液がコンクリートの上に滴り落ちる..襲撃者はボウガンを拾い上げると走りだし、プールサイドから逃げ去っていった 花丸「理亞ちゃん..すごい..」
理亞「た..助かった..」
敵の撃退に成功し、自分と花丸を守ることができたことに安心した理亞はヘナヘナとその場に崩れ落ちた
花丸「理亞ちゃん!血が出てるずら!」
理亞「あ..本当だ..かすり傷だから大丈夫よ」
花丸「ダメずら!ジッとしてて!」
花丸は足の痛みをこらえて立ち上がると、乾いたハンカチを取り出し理亞の頬にあてがった 理亞「ありがとう..アンタも大丈夫?」
花丸「さっきよりは痛みも軽くなって来たずら..心配かけてごめんね?」
理亞「よかった..ねえ、今の..ボウガンで私たちを襲ってきた奴..何者なの?」
花丸「わからない..あんな恐ろしい人見たことないよ..」
理亞「ルビィの失踪にアイツが関わっていると思う?」
花丸「もしかしたら..そうなのかも..考えたくないけど」
理亞「またアイツが来るかもしれないから..ここを離れよう..立てる?」
花丸「うん..」 理亞「とにかく人がいるところまで非難するわよ..町まで歩けるかしら?」
花丸「大丈夫..心配いらないずら..早くここから逃げよう!」
理亞は花丸に肩を貸して立ち上がらせ、2人は校門を目指して歩き出した
花丸「フウ..フウ..」
理亞「花丸..大丈夫?ペース早かったら言ってね?」
花丸「うん..大丈夫だよ..それにしても..理亞ちゃんさっきはすごかったね..矢を投げてボウガンの人を追い払っちゃうなんて..」
理亞「別に..さっきは夢中だったから..それに..姉さまだったらああするんじゃないかって..」
花丸「聖良さんが?」 理亞「うん..ウチの姉さま..ものすごくケンカが強いんだ..人見知りの激しい私は..昔から意地の悪い奴にからかわれたり..いじめられたりすることがあって..そのたびに姉さまが助けてくれたの」
花丸「聖良さんが..妹思いの良いお姉さんだね」
理亞「ええ..自慢の姉よ..さっきも姉さま助けて!!って思ったら..昔姉さまが私を助けてくれたときのことが頭に浮かんできて..姉さまだったら誰かを守るために戦うんだろうなって..それで..」
花丸「さっきは守ってくれてありがとう..こうしてマルが生きていられるのは理亞ちゃんのおかげだよ」
理亞「べ..別に..私は..//」
人から感謝されたことが少ない理亞は頬を赤らめて顔を背けた 花丸「あ!理亞ちゃん赤くなってる! 暗くてもよくわかるずら!!」
理亞「あ、赤くなんてなってない!!」
花丸「照れちゃってかわいいずら」
理亞「バカにしてんの?ここに置いてくわよ?」
花丸「ずら!?じょ..冗談キツイずら!!謝るから勘弁してほしいずら〜!」
理亞「それより..早くここから逃げて警察をって..待って..校門の前に何かいる..」
花丸「え?」 グルルル..グルルルルルル...バウ!!ワンワン!!
真っ暗な校門の前に..一頭の大型犬が門番のように待機していて..理亞と花丸目がけて大きく吠えまくってきた
花丸「え?ちょ、ちょっとなんずらこの犬!?お願いだからそんなにほえないでずら!!」
ワンワンワンワン!!ワオオオオオオ〜〜ンン!!
大型犬は2人目がけて跳びかかってきて、校門をぶち破らんばかりの勢いで吠えまくった
理亞(クッまずい!こんなに大きな声で吠えられたらさっきのボウガンの奴に居場所を知られちゃうじゃない!!それに私一人だったらともかく..ケガをした花丸を連れてこんな凶暴な犬がいる夜道は危険すぎる!!) ワン!!ワンワン!!ワンワン!!
花丸「やめて!!そんなにほえないで!イイ子だから大人しくして!!」
理亞「花丸!ここは危険だから校舎の中に戻るわよ!!」
花丸「え?ち、ちょっと理亞ちゃん!?」
理亞は花丸を担ぎ上げると校門に背を向けて走り出し、校舎の中へと非難した
理亞「なんなのよあのバカ犬!!どうしてこんなときに限ってあんな変なのが出てくるのよ!」
理亞は次から次へと降りかかる異常事態へのいら立ちを隠すことができずに、教室の壁を蹴り飛ばした
花丸「怖かったずら..まだ心臓がドキドキしてるよ..」
理亞「クソッ!あんな凶暴な犬がいるんじゃここから逃げられないじゃない!」
花丸「落ち着くずら..焦っている時ほど冷静さを保たなくちゃだめだよ..」
理亞「これが落ち着いていられるかっての..どうしよう..このままじゃ..」 花丸「ここにいたらあのボウガンの人に殺されるのも時間の問題ずら..どこか身を隠すことができる安全な場所を探そう」
理亞「安全な場所って..どこよそれ?」
花丸「それは..ト..トイレの中とか?」
理亞「絶対にイヤよ..!!アイツはトイレの中で待ち伏せしていたのよ!?それに何かあったら袋の鼠で逃げられないじゃない!!」
先ほどトイレで襲われたことがトラウマになったのか..理亞は花丸の提案を一蹴した
花丸「あう..ごめん..」
その時..廊下からギシ..ギシ..という木製の床が軋む音が聞こえてきた 理亞(まずい..誰かくる!!)
花丸(き、きっとさっきのボウガンの人がマルたちを探しに来たんだよ!!)
理亞(隠れるわよ!!こっちへ!!)
理亞は花丸を連れて教卓の中へと逃げ込んだ
ギシ..ギシ..という足音は次第に大きくなってゆき..足音は理亞達の隠れる教室へと近づいてきた
花丸(せ..狭いずら..)
理亞(し!静かに..絶対に動くんじゃない!) ギシ..ギシ..ギシ..ギシ..
そして..フードをかぶった何者かが理亞達が隠れる教室の中を覗き込んだ
??「...........」
漆黒のローブをまとった襲撃者はボウガンを手に携え..教室の中を一歩..一歩..と慎重に歩を進めながら見てまわった
花丸(〜〜〜!!)
理亞(絶対に声を出すな!!)
理亞は怯える花丸の口を両手で塞ぎ、見つからないように自分の気配を殺すことに力を注いだ
そして..襲撃者は異常がないと判断し、次の場所を探索すべく、理亞達の教室を去って廊下に出て行った.. 花丸(た..助かったずら..)
理亞(静かに..まだ奴はすぐそこにいるのよ..物音を立てたら気づかれる..)
理亞は廊下を歩き去ってゆく襲撃者の足音に注意深く耳を傾け..足音が聞こえなくなったとき..ホッと安堵の溜息を吐いた
理亞「行ったみたいね..とりあえずは大丈夫よ」
花丸「生きた心地がしなかったずら..」
理亞「ここも安全じゃないわね..奴が去った方とは反対の方に逃げるわよ..」
花丸「反対方面だったら..マルたちの部室があるずら..あそこは内側からカギをかけることができるからここよりは少し安全ずら」
理亞「そう..それじゃあそこに移動するわよ..案内をお願い」
花丸「わかったずら..」
そして二人は部室を目指し廊下を歩き出した ギシ..ギシ..
1歩..1歩と足を踏み出すごとに木製の床が軋む音がする..
理亞「ちょっと..もう少し足音静かにできないの?」
花丸「これが限界ずら..建物が古いから..どうしても床が軋むのは仕方のないことずら..」
理亞「まったく..よくこんなオンボロ校舎で勉強しているわね」
花丸「オンボロでも..ずっと通っていると愛着が沸くものなんだよ..」
理亞「アンタ達って..確かこの学校を守るためにスクールアイドル活動をしているのよね?」
花丸「うん!そうだよ..ルビィちゃんがいなくなっちゃってからは活動は休止してるけど..みんなこの学校を大切に思って活動してるんだ: 理亞「どうしてこんな辺鄙なところに立っている学校を守ろうとしているの?私は学校なんて大嫌いだから..アンタ達がなんでそんなに必死になっているのかがわからないわ」
花丸「学校が..そして..生まれ育ったこの土地が大好きだから..かな..」
理亞「内浦が..?」
花丸「内浦の人達は..みんな心が温かい人達ばかりで..マルは子供の頃から地元の人たちの優しい愛情を感じながら育って来たずら」
花丸「ホントの田舎だけど..マルは生まれ育ったこの町が大好き..内浦の人たちが大好き..」
花丸は両目を瞑り、優しい微笑みを浮かべ..慈しむように地元への愛情を語りだした 花丸「確かに校舎は古いし..海以外は何にもない田舎だけど..この学校には、今まで地元の人がたくさん通ってきて..みんながこの学校を大切にしてきたんだよ..この学校は地元の人たちの思いがいっぱい詰まっているんだ..だから..失くしたくないんだ」
理亞「ごめん..無神経なこと言った」
花丸「ううん..いいの..こんな状況じゃなかったら、理亞ちゃんを色々な場所に案内してあげたいけど..」
理亞「気持ちだけで十分よ..今はそれよりルビィの手がかりと、安全な場所を探さないと」
花丸「もうすぐ部室だよ..話していたらすぐついたね..」
花丸はスクールアイドル部の部室の扉に手をかけて..ドアを開けようとするが.. ガツン
花丸「ずら?」
理亞「ん?」
扉が開くことはなく..カギが掛かった扉が僅かに振動するだけだった
ガツン..ガツン..
2度..3度と引っ張るも結果は同じ..部室にはカギがかかっていて入れなかった
花丸「しまった..部室にはカギが掛かってたんだ..カギは千歌ちゃんが持っているから入れないずら〜〜!!」
理亞「なんですって!?」
花丸はオロオロと頭を抱え、縋るような目で理亞を顔を覗き込んだ 花丸「どうしよう..部室に入れないよぅ..」
理亞「しょうがないわね...他に安全な場所を探しましょう..」
花丸「ずら..ここからだと..図書室がいいと思うずら!」
理亞「図書室?」
花丸「図書室も中からカギが掛けられるし..隠れる場所も多いずら!」
理亞「また鍵がかかってるんじゃないでしょうね?」
花丸「大丈夫ずら!図書委員はマルだから..図書室の鍵はほら..ここにあるずら!」
花丸はポケットから図書室の鍵を取り出して理亞に見せた
理亞「図書室か..もしかしたらルビィの手がかりがあるかもしれないし..わかった..図書室に行ってみよう」 二人は目的地を図書室へと変え、学院の真っ暗な廊下を音を殺してゆっくり歩いて行った
ギシ..ギシ..
1歩..1歩と足を進めるごとに木製の床が軋む音が小さく鳴り響く
理亞「2階の廊下も軋むわね..」
花丸「校舎が全体的に古いからね..ポジティブに考えればそれだけ歴史と伝統があるんだよ..それより..真っ暗で怖いずら..」
理亞「我慢しなさい..懐中電灯で照らしたらあのボウガンの奴に居場所がバレちゃうじゃない..」
花丸「こんな暗い中であの人と遭遇したら..想像するだけで鳥肌が立つずら」 理亞「私これでも耳がいいのよ..私たち以外の足音は聞こえないから..アイツは近くにいないはずよ」
花丸「そ、そうなの?それを聞いて少しだけホッとしたよ..」
理亞「花丸..私この学校について調べたいんだけど..図書室の中にこの学校について詳しく書かれた本とかある?」
花丸「それなら..この学校の会報を読めばいいずら..マルは読んだことないけど..古いモノから新しいモノまで揃っていたと思うよ」
理亞「図書室についたら、その本のところに案内してくれる?」
花丸「わかったずら..っと..話をすれば..ほら、そこが図書室だよ」
理亞「ここが..」 2人は図書室の扉の前へとたどり着いた..灯りのついていない図書室はシン..と静まり返っていて、暗闇の中に何かが潜んでいるのではないか..という恐怖が理亞の背筋を冷たく凍らせた
花丸「開けるよ?ちょっと待ってて..」
花丸はポケットの中から図書室の鍵を取り出して、扉を静かに開けた
花丸「マルの大好きな図書室へようこそ♪」
理亞「待て..図書室の中に異変がないかをまず確認して..イスがいつもと違う場所にあるとか..モノが無くなっているとか..」
花丸「大丈夫だよ..図書室にはカギがかかっていたし、このカギはマルしか持っていないからこの図書室には誰もいないよ」
理亞「そう..」
理亞はホッと安心し、軽く溜息を吐いた 花丸「それより..カギを閉めるから早く中に入って」
理亞「あ、ごめん」
理亞は花丸に促されて図書室の中に入ると、花丸は扉を閉めて内側からカギを閉めた
花丸「これでよし.と言っても相手はボウガンを持っているから..絶対安全とは言えないけど..」
理亞「花丸..私はこの学院の歴史や成り立ちについて調べたいから..本がある場所まで案内して」
花丸「わかった..こっちだよ..」
花丸は理亞を連れて図書室の奥の棚へと案内した
理亞「この棚に..この学院の秘密が書いてある本があるかもしれないのね..」
花丸「本が古すぎて虫食いがある本もあるから..手がかりになるかどうかはわからないけどね..」 理亞は懐中電灯を取り出すと、スイッチを入れた。掌で灯りが外に漏れるのを防ぎ、本棚の背表紙に書かれたタイトルが見える程度の明かりを灯す
内浦の漁業
古代内浦の歴史
内浦の民俗学
理亞「内浦の歴史書ばかりだ..私が知りたいのはこの学校について書かれた本よ」
花丸「あれ?確かここにあったと思うんだけど..マルの記憶違いかもしれないずら..」
理亞「しっかりしてよ..」
花丸「ちょっと待ってて..他の本棚を探してくるずら」
花丸はそう言うと理亞をその場に残してさらに奥の方へと歩いて行った
理亞(それにしても..内浦の歴史や文化について書かれた本か..ちょっと興味があるかも..)
理亞は暇つぶしがてらに、内浦の民族学について書かれた本を取り出し、パラパラとページをめくった この内浦という土地には独特の風習がある..
理亞はあるページのその一文に目を引かれて、ページをめくる手を止めた
理亞(へえ..風習ね..やっぱり古い土地だからそういう習わしもあるのね..)
この内浦という土地は漁業と農業を主として生計を立てていた
かつて大規模な干ばつがこの地を襲い、作物はできず、また漁も不漁で飢饉に襲われたことがあった
理亞(飢饉って..たしか歴史で習ったわね..食べ物が取れなくて人がたくさん飢え死にすることよね..?そんな悲惨な過去が内浦にもあったなんて..)
数百名にも及ぶ餓死者が出て、この飢饉の影響で当時の内浦の人口の2割ほどが死に絶えたという..
内浦の民たちは沼津の者たちに支援を求めるも、当時の沼津も苦しい状況で他の地域を助けられるほどの余力はなかった
飢えで困窮した内浦の民は死んだモノの遺体を解体してその肉を食べた 理亞「え?」
人肉の味を占めた内浦の民たちは、次々と飢餓で死んだモノたちの遺体を解体してその身を食べることで飢饉を凌いだのだった
内浦の民たちの暴挙とも取れるこの行動を沼津の者たちは忌み嫌い、交流を閉じることで、内浦はますます孤立した
飢饉を乗り切り、全滅の危機を免れた内浦だったが、人肉の味を忘れられない内浦の者達はよそから人をさらってきて、生贄としてその身を食すという
暴挙に乗り出した
理亞「は..え?え?」 主に生贄として連れ去られるのは沼津近郊の人間が多かったため..内浦と沼津の中はさらに険悪になり、内浦のモノたちを忌み嫌う沼津の住民たちは兵を起こし、内浦と沼津の間で戦が勃発した
数で勝る沼津だったが..当時の内浦の当主を筆頭とし、結束した内浦の民たちは襲い来る沼津民たちを撃ち破り、殺した者たちの肉を食べたという逸話が残っている
現代ではもう人を食すことはほとんどないが..内浦の人間たちのDNAには食人の遺伝子が刻まれているのだろうか..数十年に1度よそからさらってきた子供を自分たちの好みの味になるように育て上げて、残虐に食い殺す生贄の儀という伝統が残っているのだ..
生贄の体を痛めつければつけるほど、肉は旨みを増すと言われ..生贄の儀に選ばれたものは凄惨な末路を遂げると言う
そして儀式が終了次第、いなかったものと扱われ、その名を2度と口にしてはいけなくなる
だから、儀式を行う際は生贄を弔うために、ひたすら哀れな贄の名前を皆で口ずさむのだ
この土地に拠点を構えられたことを私は幸せに思う..
この風習を研究してこれを....×××××××× 理亞「ここからは虫食いで読めないわ..それにしても..悪趣味だわ!これを書いた奴はとんでもない夢想家ね..現実とフィクションをごっちゃにしてるんじゃないかしら..気持ち悪くて鳥肌が..」
理亞の全身が粟立つように総毛立ち..腕に鳥肌が立つのを感じた..
手がかり一つ残さずに突然失踪したルビィ..
学校に現れて自分たちの命を狙っている謎の襲撃者..
内浦の者たちから理亞に向けられる奇妙な視線..
理亞の中で恐ろしい仮説が組みあがった
理亞(ルビィは..まさか...タ・べ・ラ・レ・タ?) ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..
ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..ルビィちゃん..
内浦の住民たちがルビィを取り囲んで、ルビィの名前をひたすら口ずさんでいる..
泣き叫び、命乞いをするルビィを..バラバラに切り刻み..そして..
ピギャアアアアアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜!!!!!
理亞の頭の中で..ルビィの断末魔の叫びが聞こえた...ような気がした 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 理亞「う...」
突如めまいに襲われた理亞は、膝の力が抜けてその場に崩れ落ちた
理亞の額や背中から冷や汗が噴き出してくる
貧血のような立ちくらみを覚えた理亞は、しばらく床に座ってめまいが通り過ぎるのを待った
理亞(なにをバカなことを考えているのよ私は..そんなバカなことがあるわけないじゃない..ルビィが?食べられた?内浦の住民たちに?)
ナンセンス..そう..まったくもってナンセンスだわ..現代日本にそんな..そんなおぞましい風習があるわけないじゃない..
これを書いた奴は頭がおかしいのよ..それかこれはきっと創作なんだわ..あるいは性質の悪い怪談を作って生徒をからかっているのか..
そうよ!!ここは学校の図書室なのよ?図書室にこんな本が置いてあるのがそもそもおかしいわ
こんなの生徒が読んだら..絶対気分を悪くするし、保護者が知ったらクレームモノよ! でも..もし..もし..ルビィを殺したのが内浦の住民たちで..それをみんなで隠しているんだとしたら..
あのボウガンの奴は..私を殺そうと奴らが差し向けた刺客..だとしたら..辻褄があってしまう..
つまり内浦の住民の仕業じゃない? それとも罠? そもそもあんなトイレの中で待ち伏せしていたのがおかしい..
ここに私が来るように仕向けたのは花丸..そしてあのボウガンの奴が待ち伏せして襲ってきた..
つまり、花丸とボウガンの奴は..グル?
でも、あのボウガンの奴は私と一緒に花丸も殺そうとしている..少なくとも花丸が味方なのは間違いない
でも..もしも花丸がボウガンの奴とグルで..私を殺そうとしているんだとしたら..
何言ってるのよ?殺そうとしているヤツが、わざわざこんな本が書いてあるところに連れてくるわけがないじゃない..
こんな本を私に読ませたら殺そうとしていることがバレバレになるのよ?
それに..花丸はあんなにルビィと仲が良かったのよ?そんな花丸がルビィを殺そうとなんてするわけがない!!
花丸はとっても優しい女の子よ..虫一つ殺せない人畜無害な人.. 理亞(もしかしたら..ルビィの失踪には内浦の人間が関わっているのかもしれない..でも、花丸やダイヤ達が関わっているとは思えない..私はみんなを信じる..)
理亞(ルビィ..絶対あんたを探し出してみせるからね..待ってなさいよ!!)
花丸「理亞ちゃん!!」
そんな理亞の背中に花丸の声がかけられる
花丸「理亞ちゃん!学校について書かれた本がみつか..どうしたの?大丈夫?」
花丸は顔面蒼白になった理亞の顔を見て、心配する声を掛けた
理亞「大丈夫..なんでもない..」
理亞は読んでいた本を本棚に戻し、自分の想像を必死でかき消した 理亞(こんなバカげた妄想を花丸に話すわけにはいかない..心配をかけないように、なんでもないように装わないと..)
花丸「ならいいんだけど..あ、それでね?さっき本を見つけたんだよ!もしかしたら何かの手がかりになるかもしれないずら!!」
そう言うと花丸は理亞に1冊の本を手渡した
理亞「これは..」
花丸「浦の星女学院の会報ずら..」
理亞「ずいぶん古いモノみたいね」
会報は黄色く黄ばんでおり、所々に虫食いの跡があった
花丸「ここなんだけど..」
花丸がページを開くと年月を経たすえた臭いが理亞の鼻を突く.. 浦の星女学院の皆さん!こんにちは!この学院の初代理事長の小原です!
理亞「初代理事長って確か..体育館に置いてあった胸像の..」
花丸「鞠莉ちゃんのお爺ちゃんずら」
我が小原グループが内浦の女子教育を推進するために、この学院が設立してから1年がたちました。
自然豊かな土地で地域の皆様と共に日々を過ごせることを幸せに思います。
花丸「この自然あふれる澄んだ空気の元で皆様がすこやかに成長し、知恵を付けて社会に通用する人材になることを切に願っています..これで終わってるずらね」
花丸「さすがに噂の事までは書いてないずら..」 理亞「あくまでウワサだから..信憑性もないし..それに学校の会報に..この学院で人が行方不明になったことがあるなんて書かないでしょ..あら?」
花丸「どうしたの?」
理亞「この本..表紙の裏になにか挟まっているわ..」
花丸「え?」
理亞はそう言うと本の表紙を外して、本をむき身の状態にした..
すると..カツンという音を立てて固い何かが図書室の床の上に落ちた
理亞「これ..レリーフね..」
理亞は床の上に落ちたレリーフを手に取るとクルクルと角度を変えて、レリーフを観察した 花丸「本当だ..この形は浦の星女学院の校章ずら..なんで本の間にこんなものが..」
理亞「校章を象ったレリーフ..はっ!!」
理亞の頭に体育館にあった創設者の胸像が思い浮かんだ..
理亞「このレリーフ..もしかしてあの胸像の..あの胸像にこのレリーフをハメれば何かが起こるのかも!」
花丸「なにかって..なんずら?」
理亞「わからない..でも..他に手がかりがない以上これに賭けるしかないわ!花丸!今から体育館へ.いくわ..危ない!!」
花丸「へ?わあ!!」
理亞は花丸の体を掴むと地面に押し倒した。床の上に倒れこむドサリという固い音が鳴り響く..
2人が床に倒れた約1.5秒後に銀色のボウガンの矢が、2人が立っていた場所を猛烈な勢いで通過して行った
壁に矢が突き刺さるドガッ!という音の後に、ビイイ〜〜ンと矢が振動する少し間の抜けた音が響き渡った 理亞「アイツだ!!」
花丸「ど..どうして!?」
理亞が指を差した先には..黒衣のローブを纏った襲撃者が貸出カウンターの中からボウガンを構えて立っていた
理亞「カウンター机の中に隠れて待ち伏せしていたのよ!!逃げるわよ花丸!!」
花丸「ま、待って!!」
理亞は立ち上がって逃走の体制を整えるが..足をケガした花丸はもたついてしまう..
襲撃者は矢を継げ変えて狙いを花丸に定めた
理亞「危ない!!」
ドシュッ!!という矢を射出する音が鳴り響く 理亞は花丸の体を抱きしめて自分へと引き寄せた..
理亞の体に花丸の温かくやわらかい触感が伝わってくる
理亞「イタッ!!」
理亞は手の甲に焼け付くような激痛を覚えた
花丸「理亞ちゃん!?」
理亞「イタッ..クソッ!!」
ボウガンの矢は理亞の手の甲を掠め、理亞の手に鋭い切傷を刻み込んだ
図書室の床に理亞の手から滴る血液が零れ落ちる.. 理亞「この!!ヤッタな!!」
理亞は浦の星女学院の歴史について書かれた本を取り上げると、襲撃者目がけて思い切り投げつけた
??「!!」
襲撃者は自分目がけて飛んでくる本に対してとっさに反応することができず、本が真近になってから慌てて回避行動をとろうとするが間に合わず、額にガツンと言う固い音を立てて本が命中した
襲撃者はのけ反り、天井を仰ぐ。フードの隙間から長い髪の毛がファサッという軽やかな音を立てて背中に零れ落ちた 理亞「え?あたった?」
花丸「理亞ちゃん逃げよう!!」
花丸は理亞の手を引いて図書室から脱出を促す..
理亞「あ..うん..そうね..早く逃げましょう!!」
額を抑えて悶絶する襲撃者を尻目に、理亞は花丸に肩を貸し2人は図書室のドアの鍵を開けると廊下へと飛び出した
花丸「ふう..ふう..」
足を引きづりながら、花丸は息を切らしつつも精いっぱいに前へ前へと足を進める..
理亞は花丸を気遣いながらも、早足に廊下を歩き出した 理亞(クソッ..こんなノロノロしていたらすぐに追いつかれちゃう..私一人だったら簡単に逃げ切る自信があるのに..)
その時..理亞の心の中に保身に走る自分の声が聞こえてきた
理亞(花丸を置き去りにすれば...そうだ..私は足が速いから..逃げることができる..花丸を囮にしてしまえば..あのボウガンの奴も花丸を狙うから時間を稼げる..私はその間に山を下りて町へ逃げれば..)
理亞(逃げ..るか?)
理亞は痛みに顔を歪めながら必死に歩く花丸の顔を見つめ..花丸をこのまま見捨てて自分だけ助かってしまおうかどうか..
理亞の心は良心と非常の狭間で揺れ動いた 理亞..
理亞(!! 姉さま..)
追い詰められた理亞の脳裏にいつかの聖良とのやり取りが再生された
理亞『ねえ、姉さま..姉さまはどうして私を助けてくれるの?』
聖良『なによ理亞..急にどうしたの?』
理亞『私が困ったときいつも手を差し伸べてくれるじゃない..いじめっ子たちをやっつけてくれた時だって..相手はあんなにたくさんいたのに..姉さまはちっとも怖がるそぶりをみせずに立ち向かっていって..やっつけちゃった』
理亞『そんな姉さまを凄いと思うし..尊敬もしてる..でもね?姉さまは..怖いとか..イヤだ..とか思わないの?』 聖良『前にも言ったでしょ?私だって人間だもの..痛いのはイヤだし、傷つくのは怖いわ』
理亞『じゃあ、どうして私を助けてくれたの?もしかしたら姉さまが逆にやられちゃってひどい目に合わされるかもしれないのに..』
聖良『確かに..返り討ちにされてしまうかもしれないって..考えたことがないわけじゃないわ..』
理亞『そうなの?』
聖良『理亞..私はアナタのヒーローなんかにはなれない..』
理亞『え?』
理亞は唖然としてしまいポカンと口を開けた..理亞の目に映る聖良の姿は、どんな強大な敵にも猛々しく立ち向かってゆき..悪を挫くその姿はまさしくヒーローだった..
その姉が..憂いを帯びた表情で自分はヒーローではないなんて口にするなんて..この姉は一体何を言っているんだろう.. 聖良『正直に告白するわ..私ね..あの時迷っちゃったの』
理亞『迷ったって..何を?』
聖良『理亞を見捨ててしまって..見て見ぬフリをしてしまおうかって..』
理亞『え?』
聖良は気まずそうな顔を作ると罪悪感から逃れるように、理亞から顔を背けた
聖良『あんな大勢を相手にするのに..怖くないなんて人..いるわけないわよ..理亞がいじめられているのを見て怒りを感じたのは本当よ..助けてあげたいって思った..』
聖良『もしもやられたら..自分があんな目に合わされたら..そんなことを考えちゃったら..怖くて足の震えが止まらなくなった..』
聖良『このまま見て見ぬフリをしてしまおう..そして、事情を知らない風を装って理亞にいつも通りに接すればいい..そんなことを考えて逃げようとしたの..』 聖良『そして..後ろに一歩足を踏み出した時..ふと思ったの..ここで逃げたら..私は一生十字架を背負って生きていくことになるんじゃないかって..ここで理亞を見捨てたらこの先どんな顔をしてあなたに会えばいいのか..わからなかった』
聖良『何も知らない風を装って..素知らぬ顔であなたの良き姉を演じるなんて私には到底無理よ..』
理亞『姉さま..』
いつも強気でなんでもできてしまう完全超人の姉が..こんなに儚げな表情を浮かべて、自分の心の弱さを告白する姿に理亞は打ちのめされたような気がした。
聖良『だから私は立ち向かうことにした..正々堂々といつまでも..アナタの姉でいられるように..ね』
聖良『やられてしまってケガをすることより..アナタの姉でいられなくなることの方が私にはずっとこわか..理亞?』
気が付いたら理亞は聖良の背中を後ろから抱きしめていた..
聖良の頬に理亞の目か流れ落ちる涙がツッ..と伝わり落ちた 理亞『ありがとう姉さま..大好きだよ..』
聖良『理亞..』
聖良はそっと目を閉じて泣きじゃくる妹の頭をあやすように優しく撫でた
理亞(私..今何を考えたんだ..)
花丸を置き去りにして自分だけで逃げてしまおうという考えがチラリとでも頭をよぎったことを理亞は恥じた
理亞(私は絶対に友達を見捨てない..あの時の姉さまのように!! 見捨てたらきっと一生後悔する..それはきっと..ここで殺されるより恐ろしい事に違いない..)
理亞(友達を見捨てるなんて..私は絶対にしない..花丸と一緒に安全な場所まで逃げないと..) ドシュッ!!という矢を射出する鈍い音が廊下に響き渡る..
理亞「クッ!」
花丸「キャアッ!!」
矢は理亞と花丸の頭上を飛んでゆき、廊下の窓ガラスをぶち破って外へと飛び出していった
ガシャーンという窓ガラスが割れる音が鳴り響き、粉々になったガラス片がシャワーのように廊下に降り注ぐ
??「.......チッ」
矢が外れたことにいら立った襲撃者は苛立ちを発散するように舌打ちをし、矢の装填作業に取り掛かる
ボウガンと矢がこすれあうカチャカチャという金属音が鳴り、理亞の焦燥を駆りたてた 花丸「理亞ちゃん!!オラを置いて逃げて!理亞ちゃん一人なら逃げ切れるずら!!」
理亞「何度も同じことを言わせないで!私はアンタを絶対に見捨てないわ!さあ早く立ちなさい!逃げるわよ!!」
花丸「理亞ちゃん..」
理亞は花丸の肩を担ぐと強引に立ち上がらせた。
理亞(考えろ..考えるんだ..きっとなにか方法がある..)
脳みそをフル回転させてこの状況を切り抜ける手段を考える
理亞(このままじゃいい的だ..逃げるか..隠れるか..それとも..)
理亞は矢の継げ変え作業を行っている黒衣の襲撃者を睨みつける..先ほどの頭部へのダメージが効いているのか..襲撃者は矢をボウガンに番える作業に手間取っているようだった 理亞(アイツ..あんまり強くないのかもしれない..やってしまうか..?姉さまみたいに..)
理亞の脳裏に聖良の顔が過る..
猛々しい姉聖良..どんなに不利な状況だろうと諦めず、立ちはだかる敵をその剛腕で粉砕しねじ伏せる..
幼き日の理亞はそんな聖良を見て、ヒーローだと思い憧れた..
理亞(このままじゃヤられてしまう..アイツが矢の装填を終える前に接近して、一撃で倒してしまえばそれで..)
理亞が蛮勇を発揮しようとした時..胸の奥から恐怖が湧き上がり、足を止めた..
理亞はイメージしてしまったのだ..ボウガンの矢に心臓を貫かれて殺される光景を.. 理亞「....ッ」
死を意識した理亞は足を踏み出すのをやめてその場に固まってしまう..
結果的にはその臆病さに身を救われることになった..
襲撃者はボウガンの矢を装填を終えると、ボウガンはカシャンと乾いた金属音を鳴らし、ボウガンを構えた
あのまま真正面から突っ込んでいたら、ボウガンの矢は想像通りに理亞の心臓を貫いていたであろう
襲撃者は理亞に狙いを定めて、ボウガンの銃口を右に左へと微調整している..
理亞「うわあ!!」
理亞は左に飛び退いてドアが開いていた教室の中へと飛び込んだ..
次いでドシュッ!!という大きな金属音の後に、ボウガンの矢が射出され、理亞の胸があった場所を矢は猛スピードで通過してゆき、廊下の奥の壁に深々と突き刺さった ??「.....!!」
またもや獲物に逃げられたことに苛立ちを隠せない襲撃者は、ボウガンで図書室のドアを殴りつけた
理亞「花丸..こっちよ!!」
花丸「理亞ちゃん!!」
矢の装填に追われる襲撃者を尻目に、理亞は花丸の手を引いて空き教室の中に引き入れた
花丸「だ..だだだ大丈夫!?ケガしなかった!?」
理亞「私は大丈夫..それよりカギを閉めて!!早く!!」
花丸「う、うん!!」
花丸は慌てて教室の後ろの扉の鍵をかけた
ガチャリという音がして扉はロックされる 理亞「あっちのドアの鍵も閉めないと!!」
教室の前の扉まで理亞は全力で走り、勢いよく扉を閉めてカギをかけた
ガチャリと言う音がして教室の扉は完全にロックされた
理亞「よし..これで..!」
理亞が一息つこうとした時..
ガシャーンというガラスが割れるけたたましい音が響き、教室の壁にボウガンの矢が突き刺さった
花丸「キャーーー!!!」
花丸の甲高い悲鳴が響いた後..教室の後ろの扉がガンガンと乱暴に蹴り飛ばされた 理亞「クッ..まだ..」
襲撃者はドアの上部に位置する窓ガラスから、ボウガンの矢を教室内に撃ち込んだのだ..
カチャカチャ..という矢を継げ変える音の後に..ドアの上部に位置する窓ガラスの部分からボウガンが顔を突出し、獲物を探すように、右へ左へと銃口を動かした
理亞「花丸!!」
理亞はとっさに清掃用具入れを開けるとその中から箒を取り出し、先端部分を前にしてやり投げのごとく、襲撃者の立っているドア目がけて投げつけた
流れ星のごとく弧を描き、箒の先端はドアにけたたましい音を立てて命中した ドガン!という大きな音と、突然ドアが大きく振動したことに驚いた襲撃者は後ろに後ずさり、ボウガンをガラス窓から引っ込めた
理亞(このままじゃ袋の鼠だ!!どうにかこの教室から脱出する方法を考えないと..でも..)
理亞は窓から外を眺めた..窓の外には暗闇に包まれた駿河湾と煌々と輝く満月が目に飛び込んでくる..
理亞(ここは2階だ..下の地面はコンクリートだし..飛び降りたら大けがは免れない..どうすれば..ん?あれは..)
理亞はベランダの下にあったその物体を目にして、閃きが頭をよぎった
理亞「花丸!!こっちへ来なさい!!この教室から逃げるわよ!!」
花丸「どうやって!?この教室にはベランダがないから、他の教室に逃げることはムリだよ!?」
理亞「いいから..こっちよ..早く!!」
花丸「あ..理亞ちゃん..わあ!!」
理亞は花丸の手を掴むと強引に窓際へと連れてきた 理亞「アレを見なさい!!」
花丸「あれは..え?でも..あれの上に飛び降りるの!?無茶だよ!!」
理亞「ここにいたら殺されるのを待つだけよ!!」
理亞が大声を出した時..ドアのガラス窓から再びボウガンが教室の中に顔を覗かせた
理亞「クソッ!せっかちな奴ね..こっちがためらう時間も与えてくれないみたいね!!花丸!!行くよ!!」
花丸「ええ!?わあああああああ!!!!!」
理亞は花丸の体を掴むと、手すりから外へ放り投げる..闇の中に花丸の悲鳴が響き渡り..数秒後にガシャーンというけたたましい音が階下から響き渡った ??「.......!!」
襲撃者は花丸が下に落ちてゆくのをあっけに取られたように見つめていた..
理亞「今度は私の番!!」
理亞が手すりに足を乗せると襲撃者は慌ててボウガンの引き金を弾いた
ドシュッ!!という音がし、教室内をボウガンの矢が飛行し、理亞めがけて彗星のごとく突っ込んでゆくが..
矢が手すりの上を通過する頃には理亞の姿はすでにそこにはなかった。
理亞「うわあああああああああ!!!!」
暗闇の中を理亞は落下してゆく..
真下は暗闇に包まれており、奈落に落ちてゆくような錯覚を理亞は覚えた 理亞が落下していたのは時間に直すと1秒に満ちるか満ちないかぐらいの短い時間だったが..
暗闇の中に落ちてゆく理亞にとってはその1秒が永遠のように感じた
ズシャーン!!というけたたましい音が闇の中に響き渡り..理亞は足もとに強い衝撃を感じた
理亞「はぁ..はぁ..た..助かった」
花丸「理亞ちゃん!大丈夫ずら!?」
理亞「ええ..なんとかね..あんたはケガしなかった?」
花丸「マルもかろうじて..もう!いきなり手すりから放り投げられるんだもん!びっくりしたよ!!三途の川が見えたずら!!」
理亞「う..ごめん..でもしょうがなかったのよ..迷っている時間はなかったし..」
花丸「ベランダの下にこの車がなかったら..マルたち死んでいたね..」
花丸が視線を理亞の下に向けると..そこにはボンネットがべコリと凹んで、窓ガラスが粉々に粉砕された黒い乗用車が停車してあった 花丸「車の持ち主さんにはひどい事しちゃったね..」
車の中には段ボールなどの荷物が散乱しており、学校の関係者の車にしては妙だと理亞は思った
理亞(警備員も先生もいないはずの無人の学校にどうして車が止まっているのかしら?それにこの車..どこかで見覚えが..)
理亞はべコリと凹んだ車を眺めて記憶の糸を辿り、どこで見たのかを思い出そうとしたが..
理亞(って..今はそんなこと考えている場合じゃないわ..奴がすぐに来るかもしれないわ!急いでここから離れましょう!!)
理亞「花丸!逃げるわよ!」
花丸「う..うん」 理亞が花丸の肩を担いだ時..2人の足もとに銀色のアンテナのようなモノが突き刺さった
花丸「わあ!!」
理亞「クッ!!」
上を見上げると..理亞達がいた教室の一つ隣の教室の手すりから黒衣の襲撃者が身を乗り出して、ボウガンを構えていた
理亞「急ぐわよ!!おぶさりなさい!!」
花丸「う、うん!!」
理亞は花丸を背中におぶるとコンクリートの上を急いで駆け出した ??「!!」
襲撃者は次の矢をボウガンに構えると、走り去る理亞めがけて狙いを定めるが..
??「.......」
結局矢を放つことはなく、暗闇の中に走り去ってゆく理亞の背中を見送った
理亞「はぁ..はぁ..はぁ..はぁ!!」
花丸を背中におぶった理亞は体育館の前へとやってきた 花丸「理亞ちゃん大丈夫?少し休んだ方が..」
疲労困憊の理亞に花丸は労りの声を掛けるが、理亞は無言で首を横に振った
理亞「私は大丈夫..それより..早く体育館の中に入るわよ..」
花丸「でも..あの胸像にレリーフをハメたらなにが起こるって言うの?あんなの只の装飾品ずら」
理亞「わからない..でも..私はこの体育館に何か大きな秘密が隠されていると思うの..きっとそれがルビィの手がかりを探すカギになるはず..」
花丸「......」
理亞「さあ、行くわよ..」
理亞は体育館の正面玄関を大きく開け放った..
ギィィィ..という扉の軋む音が古びた体育館の中に響き渡る 花丸「体育館はさっきと変わりないみたいだね..」
理亞「いいから入って..扉に鍵をかければあのボウガンの奴もすぐには追ってこないわ」
花丸「あ!うん..そうだね!」
理亞に促された花丸は慌てて玄関の鍵を閉め..ガチャリと言う重厚な音が鳴り響く
カギが掛かったことを確認すると、2人は真っ暗なバスケットコートの中を突っ切り、舞台の上へと足を運んだ
理亞「ここね..」
胸像の前までやってくると理亞は、あらためて胸像のことを注意深く観察した 理亞(この胸像..よく見たら..さっき音が違うと感じた床を見つめてる..ひょっとしたら..)
理亞「花丸..レリーフを..」
花丸「はい..これだよ」
花丸から浦の星女学院の校章を象ったレリーフを受け取ると..理亞は蝶ネクタイの結び目に位置するくぼみにレリーフをハメこんだ
カチッ..という金属音がし..ガコン..というなにか大きな仕掛けが作動するような重厚な音聞こえてきた
花丸「な、なに?」
理亞「見て!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ...という地響きを伴った重い音が体育館の中に響き渡る..
バスケットコートの真ん中に位置する床板が動きだし..
地下へと続く階段が姿を現した 花丸「な..なにこれ!!」
理亞「こんな仕掛けがあるなんて..」
花丸と理亞の2人は目を丸くして、階段の出現に驚いた
理亞「ずいぶん..放置されていたみたいね..人が出入りした形跡が感じられないわ」
階段を指でツッ..となぞると理亞の指にホコリがたっぷりと付着した
理亞「降りてみるわよ」
フッと息でホコリを吹き飛ばすと、理亞は決意を込めた硬い表情でそう言った 花丸「え!?なにがあるかわからないし..危ないからやめておこうよ!!」
理亞「私は行くわ..こんな壮大な仕掛けを施してまで隠しておきたいモノなんだもの..重大な何かがあるに違いないわ」
花丸「で..でも..」
理亞「花丸..私たちの目的を思い出して..私たちはルビィの手がかりを探しに来たのよね?その手がかりが今目の前に存在しているのよ?」
花丸「う..うん..それは..そうだけど..」
理亞「虎穴に入らずんば孤児を得ずよ..私は行くわ..あなたは残るのなら..そうね..舞台の下にパイプイスが収納できるスペースがあるでしょ?そこに隠れてて..できるだけすぐに戻るわ」
理亞はそう言うと懐中電灯で階段を照らしながら、一段..一段と注意深く降りて行った..
花丸「あ、待ってよ理亞ちゃん!マルも行くよ!!こんなところで一人でいるのはイヤだよ!!」
理亞に続くように花丸も階段を下り地下へと降りて始める。2人が去った体育館には暗闇と静寂だけが残された 少しの時間が流れた頃..
カラララ..という滑るような音が小さく鳴り響く..
??「........」
トイレの窓から体育館に侵入した襲撃者は、口を開けるように..バスケットコートに現れた地下への階段の前で立ち止まり..
カツン..カツン..カツン..カツン..
地下へ逃げ込んだ獲物を始末するために石段を降り始めた 理亞「真っ暗で何も見えないわね..」
花丸「ううう..真っ暗闇ずら..怖いずら〜!!」
体育館の隠し階段を降りて地下通路へと降りた2人..懐中電灯を手に持ち慎重に通路を進む二人の行く手には、細長い通路が生えるように存在してい
る..灯りは手に持つ懐中電灯の頼りない光だけで..光が当たらない場所は何も見えない闇が立ち込めていた 理亞「ちょっと!しがみつかないでよ!歩きずらいじゃない!!」
花丸「マルは暗い所が嫌いずら〜〜!!」
理亞「パイプイスを収納するスペースに隠れてろって言ったでしょ!?」
花丸「あんな狭い所はイヤだし..一人であんなところに隠れているのは怖すぎるずら!!それに..もし、ボウガンの人に見つかったらと思うと..」
花丸は小刻みに震えだし、理亞の体に花丸の震えが伝わってきた
理亞「わかったわよ..安全なところに着くまでアンタの側から離れないから!だからしがみつくのはやめなさい!」
花丸「本当?」
花丸は潤んだ瞳で理亞の目を覗き込む.. 理亞(う..こうして改めて見ると..花丸ってやっぱりかわいい..ってそんなこと考えてる場合じゃなくて..)
理亞「本当だから..だから離れなさい!」
花丸「うん..」
理亞「まったく..こんなわけのわからないところに紛れ込んで..ボウガンを持った頭のおかしい奴に命を狙われてるってのに..アンタは能天気ね..」
花丸「マル一人だったら..怖くて..震えて泣いていることしかできないよ..でも、理亞ちゃんがいるから..マルはこうしていつものマルでいられるんだよ..」
理亞「花丸...」
花丸「....//」
花丸は顔を僅かに紅潮させて、恥ずかしさから逃れるように話題を反らした 花丸「それにしても..なんなんだろうね..ここ..どうして体育館の下にこんな地下通路が..」
理亞「それはきっと..奥まで行ってみればわかるわ..でも、あんな大がかりな仕掛けを施してまで隠したいモノなんだから..よっぽど重大な何かがあるんでしょうね..」
一歩..一歩と真っ暗な通路を歩くごとに、カツン..カツン..という冷たい石の上を歩く足音が反響する..
真っ暗な通路にはひんやりとした冷たい空気が漂っており、理亞は寒さで体をわずかに震わせた
花丸「あ、通路が終わるずら..広いところに出たみたいだけど..真っ暗でよく見えないずら..」
理亞と花丸は通路の奥までたどり着いた..通路を抜けると開けた広場があり、鉄サビの匂いが2人の鼻をツンと突いた
理亞「う..なにここ..なんか臭い」
花丸「さっきまでの狭い廊下と打って変わってずいぶん広い所に出たね..ここは一体なんなんだろう..?」 懐中電灯で周りを照らしてみると..ソコは石で造られた壁がグルリと四方を囲んでいる広い部屋だった..
壁の隅にいくつかのベッドが放置されるように置かれており、ベッドの上は黒い染みのようなもので汚れていた
理亞「ずいぶん広い部屋ね..なんでこんな部屋があるのよ..」
花丸「わからない..マルにはさっぱりわからないよ..」
理亞「この黒い染み..一体なんなのかしら?」
理亞は一刺し指でベッドの上をツ..となぞった
指に鼻を近づけて匂いを嗅いでみると..つんと鉄さびのようなにおいが鼻を突く..理亞はその染みの正体がわかると、ベッドからのけ反るように
飛び退き、冷たい地面の上に尻餅をついた 花丸「理..理亞ちゃん!?どうしたずら!?」
理亞「こ..これ..血よ!!血が渇いて固まったモノだわ!!」
花丸「えええ!!?」
花丸は仰天すると懐中電灯の光をベッドの上に充てた
花丸「ホ..ホントだ..これ..よく見ると血だよ!!」
理亞「ッ!!」
理亞は手のひらの食感に異変を感じ、懐中電灯の光を手のひらに充てる..
すると..床に手を着いた部分に..乾いた赤黒い血液が付着していた.. 驚いた理亞は慌てて懐中電灯の光を床や壁..天井にも向けてみると..
理亞「ヒッ!」
花丸「こ、こんどはどうしたの!?」
理亞「ベッドの上だけじゃない..なによ..なんなのよこの部屋!!床も..壁も..天井まで血まみれじゃないの!!」
花丸「へ?...い..イヤアアーーーッツ!!!」
花丸の絶叫が広場に響き渡る..悲鳴は壁や天井に跳ね返り、暗闇の広場にガンガンと反響した
理亞「どうして学校の体育館の地下にこんなものがあるのよ..まるでこれじゃ..処刑場の跡地みたいじゃない!!」
花丸「なにこれ..なんなの..どうしてこんなものが!?」 理亞「とにかく..まだ奥があるみたいだから..進みましょう..この地下空間の正体がわかるかもしれないわ」
花丸「そ..そうだね..でも..うう..怖いずら」
2人は暗闇に包まれる空間に懐中電灯のか細い光を当てて歩き出した
理亞「ねえ..ルビィは..こんなところに迷い込んだと思う?」
花丸「それはないと思うけど..ルビィちゃんが体育館の地下にこんな施設があったことを知っていたとは思えないし..」
理亞「私は小原鞠莉がルビィの失踪に関わっていると思うんだけど..」
花丸「鞠..鞠莉ちゃんが?そんな..」 理亞「だって..この浦の星女学院は小原鞠莉のお爺ちゃんが創設したものなんでしょ?その創設者が作った建物の地下にこんなヤバそうな施設が眠っていたのよ?直接的にせよ、間接的にせよ私は小原鞠莉が怪しいと思う」
花丸「マルは鞠莉ちゃんを信じたいよ..仲間を疑いたくないけど..」
花丸「もし..ルビィちゃんの失踪の原因が..鞠莉ちゃんにあるのなら..マルは許さないずら」
花丸は決然とした表情でそう言い放った
理亞「私..この施設の正体を突き止めて、動画を撮ってインターネットの世界に挙げるわ..世界中の人たちが興味を持ってくれてればきっと大問題になるはずよ..それでルビィの失踪の真相が明るみに出るかも」
花丸「そうなったら浦の星女学院もおしまいずら..」
理亞「こんなヤバい施設がある学校なんておしまいになった方がいいと思うけどね..そろそろ次の部屋に着くわよ」
花丸「うん..」 そして、2人は血にまみれたベッドが散乱する広間を抜けて..一番奥の部屋へとやってきた..
理亞「ここは..さっきの部屋に比べると大分狭いわね..」
花丸「なんの部屋だったんだろう..ずいぶん分厚い扉ずら..」
鉄の扉は分厚く..ドアの至る所にチェーンが厳重に巻かれていたような跡が残っていた
理亞「とにかく..中に入ってみるわよ..」
理亞は鉄の扉のドアノブを回すとギィィィ..という不気味な音を立てて扉は開かれた
理亞「う..ここもホコリ臭い..」
花丸「真っ暗で何も見えないずら..ここは一体..ヒッ!」
花丸は短い悲鳴を上げると横に立っていた理亞にしがみついた 理亞「ち、ちょっと..!!急にどうしたのよ!?」
花丸「あ..ああああ...あそこに..何かあるずら..」
花丸が震える指で..小部屋の中の..隅を指差した..
理亞「ナニかって..ナニ..よ...う..うわああああああ!!!!」
理亞は悲鳴を上げると後ずさりをし、部屋の外へと飛び出した..
理亞と花丸が見たモノ..それは..部屋の中に無造作に..ごみのように捨てられている人骨の山だった
部屋の壁には赤黒い文字で..
タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..タスケテ..と..埋め尽くすようにびっしりと..ここで犠牲になった者たちの哀れな叫びが刻まれていた.. 理亞「なんなの..ここは一体なんなのよ!?」
恐怖が限界に来て、理亞は金切り声をあげた
花丸「小さい骨ばかり..ここに積みあがっているのは..ほとんどが子供の骨ずら..」
理亞「なんですって!?それじゃあ..あの怪談は真実だったってことなの!?」
花丸「それはまだわからないけど..浦の星女学院が..子供を殺して何かをしていた..のかもしれないずら」
花丸はそう言うとがっくりとうなだれてしまった
理亞「地面の下から聞こえてきたうめき声っていうのは..ここで殺された人たちの苦悶の叫び声だったわけね..まさか!!」
理亞は人骨の山の中に手を突っ込むと、何かを探すように人骨をかき分けだした 花丸「理亞ちゃん!?ど..どどどうしたの!?どうして人骨の中に手を突っ込んでいるの!?」
理亞「ルビィ..ルビィ!!もしかしたら..この中にルビィがいるのかもしれない!!」
半狂乱になった理亞は人骨の山をかき分けて、ルビィを探す..
人骨の山が崩れると、犠牲になった子供たちの白骨がガチャガチャという音を立てて、乱雑に床の上に散らばった
花丸「ルビィちゃん..そんな..まさか..!」
理亞「ルビィ..どうか..お願い..お願いだから..」
出てきてほしいのか..出てきてほしくないのか..理亞には恐ろしすぎてその先の言葉を口にすることはできなかった どのくらいの時間を理亞は白骨の山を漁ったのだろう..
出てくる骨はどれも子供の人骨ばかりで、ルビィの年ごろと思われる人骨が発見されることはなかった
理亞「ルビィ..ここにはいないのね..」
理亞はほっと胸を撫で下ろし、人骨から手を引っ込めた
花丸「よかった..ルビィちゃんがこんなところにいなくて..」
理亞「とにかく..これでこの学院が恐ろしい何かをしていたことが明らかになった..悪事の尻尾を掴んだわね..」
理亞はスカートのポケットからスマートフォンを取り出した 花丸「動画を撮って..インターネットにアップロードするの?」
理亞「ええ..この人骨の山を動画にとって世間に晒せば、たちまち大問題になるわ..マスコミや世間の目を集めることができれば..」
理亞は白骨の山を撮影しようとスマートフォンを向けるが..
理亞「ダメだ..こんな小さい懐中電灯の光だけじゃ、暗すぎて動画に何が写っているかわからない..もっと大きい明かりが必要だわ」
花丸「もっと大きい明かり..体育館の倉庫に行けばもっと明るく照らせる道具が見つかると思う」
理亞「戻る必要があるわけね..花丸..私が取ってくるからアンタはここで待ってなさい」
花丸「へ!?い、イヤだよ!こんな骨だらけの怖い所にマルを一人にしないで!!」 理亞「さっきのボウガンの奴と出くわしたらどうするの?ケガしたアンタを連れて行くのは危険なのよ..照明器具を見つけてすぐ帰ってくるから..」
花丸「イヤッたらイヤずら!!マルも理亞ちゃんに付いていく!」
理亞「だから..それは危ないってさっきから..」
コツ..コツ..コツ..コツ..
理亞・花丸「!!」
理亞と花丸が言い争っていると..誰かが階段を降りてくる足音が遠くから聞こえてきた 花丸「い..今..遠くから足音が..」
理亞「ボウガンの奴が追って来たのよ!!隠れるわよ花丸!こっちへ!!」
理亞と花丸は懐中電灯の光を消すと、ベッドのある部屋に戻り..血まみれのベッドの下に身を潜めた
息を殺しベッドの下に身を潜めていると..
カツン..カツン..という足音は次第に近づいてきて..
理亞と花丸が身を潜める広場へと入ってきた
襲撃者はランタンを手にぶら下げており、慎重な足取りで少しずつ歩を進めて広場の中に入ってきた 理亞(ランタン..?どうしてあんなもの持ってるのよ..さっきはボウガンしかもっていなかったハズよね?)
花丸(...ッ)
恐怖で目に涙をいっぱいに浮かべながら震える花丸..
理亞(お願い..どうか私たちに気づかないで..!神様..どうか助けて!)
理亞は目をキュッと閉じると普段信じてもいない、神に祈りを捧げた
カツン..カツン..カツン..カツン..
その祈りが通じたのか..足音とランタンの光は徐々に遠ざかってゆき、襲撃者は理亞達に気づくことなく奥の部屋へと行ってしまった 理亞「た..助かった..」
理亞は安堵するとベッドの下からはい出した
理亞「花丸..もう大丈夫よ..出てきなさい」
花丸「イヤずら..怖いからここから出たくないずら」
理亞「アイツはもう行っちゃったわ..今なら逃げられるわ..行きましょう?」
花丸「理亞ちゃん一人で逃げてずら..マルは足手まといになっちゃうから..ここに置いて行っていいずら」
理亞「何言ってるのよ..グズグズしてるとアイツが戻ってきちゃうじゃない..いいから出てきてよ」 花丸「この地下通路..もうそんなに先はないずら..あのボウガンの人もすぐに戻ってくる..ケガをしたマルを連れていたらすぐに追いつかれちゃうし..あんな狭い通路の中じゃ、あっという間に2人とも殺されてしまうずら」
理亞「花丸!!いい加減に!!」
花丸「たぶん..ルビィちゃんもここで殺されちゃったんだよ..」
理亞「なにを言ってんのよ..ルビィは..」
花丸「体育館の下にこんな怖い所があったんだよ?きっとルビィちゃんはこの部屋でさっきのボウガンの人に..」
理亞「ルビィは死んでない!!絶対に探し出して抱きしめてやるんだから!!」
花丸「ルビィちゃんがここで死んだのなら..マルもここで..だから..理亞ちゃんだけでもにげ..わ!?」
理亞は花丸をベッドの下から引きずりだすと力強く胸倉を掴みあげた 花丸「理亞ちゃ..苦し..離して..」
理亞「ルビィが死んだなんて..二度と言うな!!」
理亞は目から涙をポロポロと零し、投げやりな言葉を吐く花丸を叱りつけた
花丸「理亞ちゃん..」
理亞「ルビィは私の親友だし..花丸..あんたも私にとっては大切な人よ!!」
花丸「マルが..理亞ちゃんの大切な人?」
理亞「ルビィを見つけ出したときにアンタがいなかったら..ルビィは絶対に悲しむし..私も絶対にイヤ..だから..死ぬなんて言わないで..」
理亞「また..セイントスノーとAquorsで対決したり..一緒に踊ったりして..う”..う"..」
理亞はそう言うと泣き出してしまった.. 花丸「ごめん..理亞ちゃん..」
花丸は理亞の顔に手を添えると微笑みを浮かべた
理亞「花..丸..」
花丸「ごめん..理亞ちゃんが一生懸命頑張ってくれているのに..マルがこんなこと言ってちゃだめだよね..ごめんね」
花丸「もう死ぬなんて言わない..ルビィちゃんを探すのも諦めない..だから..泣かないで?」
理亞「うん..うん!!」
花丸が優しく微笑みかけると、理亞は迷子になった子供が母親を見つけ出して、安堵するような泣き笑いの表情を浮かべた 花丸「さあ..さっきのボウガンの人が戻ってこない内に..今のうちに学校から逃げ..」
花丸が言葉を言い終えようとした時..暗闇の中を銀色の光が流れ星のごとく横切った..
理亞「危ない!!」
花丸「わ!!」
理亞は花丸の体を掴むと、そのまま地面に押し倒す..その刹那..2人の体が今まさに立っていた場所に銀色の弓矢が飛来し、石壁に深々と突き刺さった
理亞「チッ..モタモタしすぎたみたいね..」
ランタンの明かりを持ち、手にボウガンを携えた黒衣の襲撃者がランタンの薄明りに照らされて、暗闇の中に立っていた 花丸「あ..ああ..」
花丸は恐怖で凍り付いたようにその場から動けなくなってしまう
理亞「花丸!逃げるわよ!立って..」
花丸「腰が..抜けて..ごめん..理亞ちゃん逃げて..」
理亞「花丸!!」
襲撃者はもたつく二人に構うこともなく、ボウガンの矢を継げ変える作業を行い、真っ暗な広場に矢とボウガンの擦れあう金属音が響き渡る 理亞(ク..!このままじゃ花丸が危ない..こうなったら..)
理亞は覚悟を決めたように目を瞑ると静かに立ち上がった
花丸「理亞ちゃん..なにをするつもりなの?」
理亞「私が死んでもアイツを食い止めるから..アンタは地べたを這ってでも逃げなさい..」
花丸「そ..そんな..無茶だよ!!相手はボウガンを持っているんだよ!?殺されちゃうよ!!」
理亞の身を重んじる花丸の悲痛な叫び声が地下室に響き渡る..
理亞「アンタを..死なせはしない..絶対に守ってみせるわ!!さあ、行くぞ!!」
花丸「理亞ちゃん!!」
花丸の叫びを背に理亞はボウガンを構える襲撃者に真正面から立ち向かっていった 襲撃者は慌てたようにボウガンの銃口を理亞に向けると、引き金を弾いた
ドシュッ!という音が暗闇の中に響き渡り、銀色の矢が理亞の心臓目がけて飛来してゆく..
理亞「クッ!!」
理亞は横に飛び退き矢を回避するも..ボウガンの矢は理亞の肩を掠め、暗闇を奥まで進み、石壁に深々と突き刺さり停止した
理亞の肩から血がボタボタと流れ落ち、血痕まみれの床に新たな血痕を刻み込む
理亞「クソッ..!」
理亞肩を抑え痛みでその場に立ち止まってしまう
??「.....ッ!」
襲撃者は仕留め損ねたことを確認すると、新たな矢を取り出し、ボウガンに矢を装填する作業に取り掛かった 理亞(今奴のボウガンに弓は入ってない..あと数秒は奴はボウガンを撃つことができない..今が絶好のチャンスだ!!)
理亞「ハアッ!!」
肩の激痛を無視して、理亞は襲撃者目がけて突進し、思い切り顔面を殴りつけるべく腕を後ろに大きく振りかぶった
??「ッ!!」
まだ矢の装填作業を終えていない襲撃者は慌てたように手に持ったランタンを理亞目がけて投げつける
暗闇の中をオレンジ色の光を放ったランタンが火球のごとく理亞目がけて飛来した
理亞「クッ!!」
飛来するランタンを回避すると、地面に叩きつけられたランタンは電源がオフになって灯りが消えてしまった
ランタンの灯りが消えた影響で鉄さびの匂いが充満する地下室に完全な暗闇が訪れる.. 理亞(真っ暗になって何も見えない..シメタ!それは敵も同じこと..奴はもうボウガンで私を狙うことは困難になったはず..)
??「........!!」
襲撃者は己の愚行を悔い、暗闇に包まれ理亞がどこにいるかわからなくなってしまったことに焦りを隠すことができなかった
灯りが一つもない暗闇の世界で理亞と襲撃者は対峙した..
静寂を破ったのはボウガンに弓を装填する作業が完了したことを示す、ガチャ..という金属音だった..
襲撃者は装填の途中だった矢をボウガンにきちんと装填すると、暗闇の中に向けてボウガンの銃口を構えた 理亞(ヤツのボウガンには矢が一発だけ装填されている..でも、こんな暗闇の中では新しい矢を取り出してボウガンに装填するのは困難なハズ..今装填された矢が最後の矢だと思っていい..なんとか奴に一発食らわせることができれば..)
??「.......」
襲撃者は思案する..暗闇のせいで獲物がどこに隠れているのかわからないこの状況..
今装填されている矢を外せば、灯りのないこの状況で再度矢を装填するのは困難..つまりは残りの一発で確実に理亞を仕留めなければならない..
どうすれば..確実に獲物を仕留めることができるか..
地下の見取り図を頭の中に思い描き、どうすれば理亞を殺すことができるか..を考えていた 闇の中を凝視して、お互いの気配を探る2人..
ジリ..ジリ..という音を殺した微かな足音が真っ暗な空間のなかに微かに響く..
理亞(どうする..思い切って花丸を連れてここから逃げるか..イヤ..ダメだ..2人で移動すれば奴に居場所がバレルし..あの狭い通路の中で襲われたら袋のネズミだ..ん?袋のネズミ?)
僅かな物音と..相手の気配のみでお互いを探り合う時間がしばらく続き..
無音と暗闇の世界は対峙する両者の精神を少しずつ蝕んでいった..
??「....!」
ジリジリと焦がれるような時間が続き、業を煮やした襲撃者は、自分の頭に閃きが走るのを感じた.. 花丸(一体..どうなってるずら..足音も..物音も聞こえないから..なにがどうなっているのか全然わからないよ..)
ベッドの下に身を隠した花丸は闇に怯える小動物のように震えながら、様子を伺っていた..
その時..ベッドのそばを何者かが音を殺して歩き..通路へと去ってゆく気配を感じ取った
花丸(え?誰?..今外に出て行ったのはどっちずら?) ??「........」
襲撃者は地下への出口へと続く、真っ暗な通路を音を殺して静かに歩いていた..
相手がどこにいるのかわからないのなら、出口で待ち伏せをしていればいい..
地下から出る通用口はたった一つしかないのだから、待っていれば必ず奴は出てくる..
自分の気配が消えれば相手は自分が諦めていなくなったのだと思うだろう..
油断してきって体育館の光あふれる世界に顔を出したその瞬間..ボウガンでその顔面を貫いてやればいいのだ..
さあ、待っていろ..狩りの醍醐味は獲物の油断しきったその瞬間に矢を打ちこんで命を奪う事..お前の亡骸をバラバラに切り刻んでその身を.. そんなことを考えながら暗闇を移動していた襲撃者の顔面に..強烈な一撃が突き刺さった
??「ガッ!!」
理亞「ヤアッ!!」
暗闇の中から助走をつけた理亞が、聖良直伝の飛び蹴りを襲撃者の顔面にお見舞いしたのだ
突如の事に受け身を取ることもできなかった襲撃者は勢いよく仰向けに倒れ、石の床に後頭部を強打した
暗闇と静寂の中にドシャリ..という大きな物音が響き渡る 理亞「はあ..はあ..や..やった..」
理亞は肩で息をし、目の前で大の字になって横たわる敵を見て歓喜の声を上げた
後頭部を強打したことで襲撃者は失神し、意識を失った体を力なく地面に横たえていた
理亞「ヤッタッ!!花丸!!やったわよ!!ボウガンの奴を仕留めたわ!!」
理亞の勝利の雄叫びが真っ暗な地下空間の中に響き渡る..
花丸「理亞ちゃん!!」
通路の奥から懐中電灯を手にした花丸が、ケガした足を引きずりながらやってきた 理亞「花丸!!やったわよ..敵を倒したわ!!」
理亞の足もとに横たわる襲撃者の体を花丸は呆然とした面持ちで見下ろした..
花丸「し..死んでるの?」
理亞「いや..どうやら息をしているみたいね..気絶しているだけよ」
花丸「理亞ちゃん!!無茶しないでよ!!」
花丸は理亞に近づくとその体を優しく抱きしめた
理亞「ごめん..」
花丸「理亞ちゃんが殺されちゃうんじゃないかって..怖くて心臓が張り裂けそうだったずら!!」 理亞「心配かけてごめん..でも..もう大丈夫よ..私たちの命を狙ってくる小原家の刺客は私が倒しちゃったから!」
花丸「その人..誰なの?」
理亞「さあ..仮面を引っ剥がして正体を明らかにしてやるわ!どうせこんなことをするような奴なんて..すごく人相の悪い凶悪な男に決まってるわ!」
理亞は手を伸ばして床に倒れている襲撃者の仮面を掴み..そのまま勢いよく仮面を剥ぎ取り、襲撃者の正体を明らかにした.. 理亞「え....?なんで...?ど、どういうこと?」
理亞を執拗に狙ってきた謎の人物の正体..それはもう一人の親友..津島善子だった 理亞「え...え...?」
状況が飲み込めずに呆けたようにその場に凍り付く理亞..そんな理亞の首筋に...焼け付くような激痛が走った
理亞「ギャッ!」
バチチチチチッ!!という音と青白い光が暗闇を照らし出す..
理亞は体の筋肉が急速に弛緩するのを感じ、地面にバタリという音を立てて倒れ伏した..
硬い地面の感触が理亞の前身に伝わり、気絶しそうになる意識を痛みが繋ぎ止める..
理亞「な...ん...で..」
理亞は自分の首筋にスタンガンを押し付けた調本人..国木田花丸の顔を地面から見上げた 花丸は慈愛の籠った眼差しで、地面に倒れ伏す理亞を見下ろしていた
花丸「理亞ちゃん..おめでとう..試験は合格だよ..」
理亞「ど..どういう..ことよ」
花丸「フフッ..♡」
花丸は慈愛の籠った顔を変えることなく地面にひざまずくと..愛情が籠った口づけを理亞の額に施した
理亞「なに..す..」 花丸「理亞ちゃん..これから2人だけの儀式を始めるよ..」
花丸は両腕を理亞の体の下に差し込むと、お姫様だっこの要領で理亞を持ち上げる..
スタンガンを首筋に食らい、体に力が入らない理亞は花丸にされるがままとなった
花丸「クッ..人を持ち上げたことなんて今までなかったから..マルには応えるずら..でも..理亞ちゃんと一つになるための試練だと思えば..全然へっちゃらずら!」
理亞「これはいったい..なんの..マネ..よ」
花丸「ちゃんと説明するから..少し待っててね..」
花丸は足もとに転がる善子には目もくれずに、理亞を血まみれのベッドが並ぶ部屋へと運び入れた 花丸「どっこいしょ〜!!」
理亞「うッ..」
理亞を血まみれのベッドの上に横たえると、花丸は一息入れるように手の甲で額の汗を拭った
花丸「ごめんね理亞ちゃん..スタンガン..痛かったでしょ?」
理亞「これは一体どういうつもりなのよ!?」
体の自由は相変わらず効かないが..花丸に怖がっていることを悟られないために、理亞は精いっぱいの虚勢を張って花丸を怒鳴りつけた
花丸「マルが正面から理亞ちゃんと勝負したら..到底勝ち目がないからさ..ちょっと回りくどかったけど..うまくいったみたいだね」 理亞「さっきから何を言っているのか全然わからないわ!!私にわかるように説明して!!」
花丸「マルは理亞ちゃんの命を狙っていた、ボウガンの人と仲間だったってことだよ」
理亞「え....?」
理亞の声が恐怖で裏返り..体が小刻みに震えだした
恐怖を隠すことのできない自分を恥じる余裕すら理亞にはなかった..それほど花丸の今の一言は理亞にとって衝撃的だったのだ 花丸「ふふ..理亞ちゃんはね?これから頭から爪先まで..全部マルに食べられるんだよ..マルと理亞ちゃんは一つになるの..」
理亞「な..何を言っているのか全然わからないわ!!」
理亞の背筋が恐怖で凍り付く..声が裏返るのも気にせずに、理亞は表面だけの強気を保ち続ける
花丸「わからない..本当に?」
花丸はクスクスと妖気な微笑みを浮かべるとベッドの上に腰を下ろし、体を横たえると、我が子に添い寝をする母親のごとく理亞に寄り添った
理亞「わ..私をからかうのはやめて!!冗談が過ぎるわよ!」
花丸「理亞ちゃん..薄々わかってたんじゃないの?自分は食べられるために命を狙われてるのかもしれないって..」
理亞「....!!」 花丸「理亞ちゃん図書室で内浦の民俗学の本を読んでいたでしょ?内浦の風習について書かれた..理亞ちゃん顔をナスみたいに真っ青にしながら読んでいるんだもん..あんまり真剣に読んでいるから少しだけ笑っちゃったずら」
クスクス笑いを浮かべて花丸は理亞の顔を見つめた
理亞「あ...あんなのデタラメよ!虚構と現実の区別がついていない奴が書いた妄言に決まって..」
花丸「この地下室に眠る大量の人骨の正体は何か?それは小原家の創始者が孤児院の生徒たちを内浦の風習の生贄に提供していたから..
花丸「なぜ小原家は栄えることができたのか?それは戦後の食糧難の時代に孤児になった子供たちの肉を缶詰にして闇市で売りさばいていたから」
花丸「そして..なぜルビィちゃんは突然手がかりも残さずに失踪してしまったのか?それは...」
花丸は一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべるが..何事もなかったかのように先を続けた 花丸「それは..ルビィちゃんは生贄になってみんなに食べられるために存在していた子だったから..ルビィちゃんは..すでにこの世にいないずら..」
理亞「そ..そんな..ル..ルビィ..イヤよ..イヤ..イヤ〜〜〜〜〜!!!!!」
花丸はテストの答えあわせをするかのように次々と残酷な現実を理亞に突きつけてゆく..
ルビィは生きている..そう信じていた理亞の心は粉々に砕かれてしまい..駄々をこね、泣きじゃくる幼児のごとく絶叫を上げて泣き叫んだ
地下室の中に理亞の泣き叫ぶ絶叫が響き渡る..
花丸「理亞ちゃん..ルビィちゃんのために泣いてくれてありがとう..きっとルビィちゃんだったらお礼を言うハズ..だからマルがルビィちゃんに変わってお礼をいうずら..」
花丸「理亞ちゃん..北海道からわざわざルビィを探しに来てくれて..ありがとうね?ルビィ..理亞ちゃんのことがダイスキだよ..」
せいいっぱいルビィに声を似せた花丸はルビィの代わりに、理亞にお礼の言葉を述べる.. そんな花丸に理亞は激昂し、口から唾を吐きながら言葉をまくしたてた
理亞「ふざけるな!!信じてたのに..私..花丸のこと親友だと思ってたのに!!」
花丸「ふざけてなんかいないよ..マルは本気だよ..マルは本気でルビィちゃんのことが好きなんだよ..ルビィちゃんが大好きだからこそ..ルビィちゃんの気持ちを理亞ちゃんに伝えたんだよ」
理亞「どうして..どうしてルビィの親友のアンタがルビィを殺すのよ!どうしてそんなにヒドイことができるの!?」
花丸「ルビィちゃんは生きてるよ..マルの中に..ね..」
花丸は理亞の手を取ると、自分の左胸に理亞の手を置いた..トクン..トクン..という心臓の鼓動が手を通して理亞に伝わってくるのを感じた。 理亞「なにすんのよ..」
花丸「理亞ちゃん感じる?マルの心臓の鼓動が..マルの中にルビィちゃんの存在を感じるでしょ..」
理亞「ヒッ!」
花丸「ルビィちゃんはね?マルと同化したの..ルビィちゃんはマルの血や肉となって..マルの体を巡っているの..」
理亞「狂ってる..アンタは狂ってるわ!」
理亞は精いっぱいの力で花丸の手を跳ね除けた 花丸「理亞ちゃん..マル..今夜の事で理亞ちゃんのことが好きになっちゃった..」
花丸は顔を紅潮させて..恋する乙女のような潤んだ眼差しで、恐怖に引きつる理亞の顔を覗き込む..
理亞「な..何よ..こっちに来ないでよ!」
花丸「理亞ちゃん..//」
花丸は理亞の顎を親指と人差し指..中指の3本の指で軽く持ち上げると..体を動かすことのできない理亞の唇に自分の唇を重ねた
理亞「んむ!?」
花丸「ん....//」
顔を紅潮させ、目を閉じて幸せそうにキスをする花丸..
ファーストキスを同性の女性に奪い取られた理亞は混乱し、花丸のされるがままとなっていた 時間に直すと10秒程度だろうか..唇を重ねただけのキス..
花丸は理亞から唇を離すと陶酔したようにポーとした視線を宙に彷徨わせていた
理亞「な...なな..なにすんのよ!?」
花丸「理亞ちゃん..」
花丸は理亞の体の上に覆いかぶさると..二本の腕を理亞の体に蛇のごとく巻きつけ..恋人のごとく..理亞の唇を再び奪い取った
理亞「んむ...!?」
今度は花丸の舌が理亞の口内に侵入してきて..理亞の舌に絡め、唾液を啜り取り始めた
花丸「ん..」
理亞は舌の中に爬虫類が入ってきたような錯覚を覚え、生理的嫌悪感を感じた理亞は花丸を自分から押しのけた 花丸「理亞ちゃんは..マルのこと嫌い?」
理亞「嫌いも何も..私もアンタも女で..あんた..そういう人だったの!?」
花丸「マルは理亞ちゃんのことが好きなだけだよ..好きだからこそ..理亞ちゃんとそういうことをして..お互いがお互いのことを好きっていう気持ちに包まれながら..スキな人の肉を食べたいんだ」
理亞「ヒッ..」
理亞の本能が花丸に対して恐怖を抱くも..体に力が入らない状況では逃げることは叶わず、小さな悲鳴を上げることが精いっぱいだった
恐怖で歯がガチガチと震えだすが、不思議と頭は冷静でこれから自分がやるべきことが筋道立てて浮かんできた
理亞(とにかく..私が今やるべき行動は時間を稼ぐこと..花丸にひたすら喋らせて、体の力が戻ってくるまでなんとか持ちこたえないと..) 理亞「どうして私を食べたいのよ!?」
花丸「順を追って説明するね?どうしてマルが理亞ちゃんをわざわざ北海道から呼んだのかというと..マル..理亞ちゃんに嫉妬していたんだ」
花丸「マルはルビィちゃんと小さいころからずっと一緒に過ごしてきた..マルはルビィちゃんのことが大好きだったし..ルビィちゃんもマルのことを好きでいてくれた..と思う」
花丸「マルたちはずっと一緒だったんだ..理亞ちゃんが現れるまではね..」
理亞「何言ってんのよ..私は北海道..ルビィは内浦に住んでいるのよ?会う機会なんてほとんどなかったわよ..私よりアンタのほうがルビィと接していた時間は遙かに長いはずでしょ?」
花丸「確かに..物理的な距離感はマルの方が圧倒的に近かったずら..でもね?精神的距離感で言えば..理亞ちゃんの方がマルよりもよっぽど近かったんだよ..」 理亞「そんなにルビィのことが好きなら..どうして殺したのよ!?アンタもルビィの殺害に関わったの!?」
花丸「確かに..マルもルビィちゃんの殺害に携わったよ..でも、それはマルの本位じゃなかったずら..ルビィちゃんは内浦の生贄の儀によって..地元住民に苛烈な拷問を受けて、その後に首を切り落とされて殺されちゃったずら」
理亞「そんな...そんな..!!ウソ..ウソよ!!ルビィが死んだなんて嘘よ!!」
ルビィが死んだという事実を頭ではわかっても心では到底受け止めることのできない理亞は、必死になってルビィが死んだという事実を否定する
花丸「ルビィちゃんは生贄の儀で殺されて、内浦のみんなに食べられてしまった..それはれっきとした事実ずら」
理亞「ウソ..ウソよ..花丸は私を騙そうとしてるんだわ..善子も..他のみんなも..ねえ、ドッキリなんでしょ!?お願いだからドッキリって言ってよ!」 花丸「ドッキリなんかじゃないよ..そんなに言うなら証拠を見せるずら..」
花丸はそう言うと..ベッドの脇に置かれていたスポーツバッグを取り出し、チャックを開けると中をゴソゴソと漁りだした
そして..スポーツバッグの中から..人間の頭蓋骨を取り出し..理亞の目の前に突き付けた
花丸「理亞ちゃん..理亞ちゃんが探し求めていたルビィちゃんはここにいたんだよ..」
頭蓋骨の二つの眼窩が理亞の目を覗き込む..
理亞「い..イヤ..いやよ..こんなの..こんなのって..イヤア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"〜〜〜!!!」
地下室の中に理亞の狂おしい絶叫が響き渡る..ついに再開を果たした親友ルビィは..無残な頭蓋骨と成り果ててしまった.. 花丸「処刑された生贄の頭蓋骨は、神様としてウチのお寺で保管し、祀ることになっているずら..ほんとはいけないことなんだけど..」
花丸「マルはルビィちゃんの側を片時も離れたくないから..ルビィちゃんの頭蓋骨をいつも持ち歩いているんだ」
花丸は理亞に向ける目と同じように..愛おしい恋人を見るような目で頭蓋骨を愛でると..ルビィの前頭骨にキスをした
花丸「ルビィちゃん..」
口から舌を出した花丸は頭蓋骨を丹念に舐め上げる.. あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”
理亞の耳に誰かの叫び声が聞こえてくる..ガンガンと反響する叫び声は誰が上げているのだろうと不思議に思うが..
すぐに、恐怖と不快感に耐えきれなくなった理亞自身が叫んでいるのだという事に気が付いた
花丸「マルはルビィちゃんのことが好きだった..好きだからこそ..ルビィちゃんはマルの手で殺してあげて..ルビィちゃんのすべてを食べてあげたかった..」
花丸はルビィの両手で頭蓋骨を持ち上げると、今は亡きルビィに静かに語りかける
花丸「ねえ..ルビィちゃん..どうしてあの時逃げたの?マルはルビィちゃんのことをこんなに愛しているのに..ルビィちゃんを誰にも渡したくなかったんだよ..?」 >>182 ルビィの毛髪を毟り取って、カツラみたいに頭蓋骨にかぶしておいたと思っといて 理亞「バカ言ってんじゃないわよ!!自分を食べようとしている奴をルビィが受け入れるわけがないでしょう!?」
花丸「ルビィちゃんがいなくなってから..マルは寂しいよ..ダイヤさんも口にはしないけど..とっても寂しがってる」
花丸「北海道から理亞ちゃんがルビィちゃんを助けに来てくれたんだよ?ルビィちゃんが理亞ちゃんと仲良くなって行くのを見てマルは..おもしろくなかったけど、今ならルビィちゃんが理亞ちゃんのことを好きになった理由がわかるよ」
花丸「理亞ちゃんは友達思いで..とっても優しい子ずら..今ではマルも理亞ちゃんのことが大好き..」
花丸「だから..マルはこれから理亞ちゃんを食べるずら..ルビィちゃん..マルたちの儀式をここで見ていてね..」
花丸はルビィの頭蓋骨をベッドの上に置き、頭蓋骨の眼窩が理亞のことをジッと見つめていた 花丸「理亞ちゃんの頭蓋骨はルビィちゃんの隣に祭ってあげるずら..フフッ..ルビィちゃん..理亞ちゃんと仲良くお寺のお堂で神様としてマルや内浦を見守ってね..」
理亞「よくもルビィを..許さない!!絶対に許さないわ!!」
憤怒の叫びを上げて花丸を睨みつける理亞..今すぐ花丸に跳びかかってその首をへし折って殺してやりたい衝動に駆られるも..力が入らず満足に動くことができない自分の体を恨めしく感じた..」
花丸「凛々しい顔ずら..その怒れる瞳で、今日マルを危険から守ってくれたんだよね..」
花丸はうっとりとした表情で怒り狂う理亞の瞳を覗き込んだ 理亞「私を殺すだけなら、ご飯に毒でも混ぜて殺すことができたハズでしょ!?どうしてこんな回りくどい事をしたの!?」
花丸「理亞ちゃんがルビィちゃんの親友にふさわしいかという事と..マルが理亞ちゃんの事を独り占めして食べたいと思うくらいスキになれるか..という試験をしていたんだよ」
理亞「何よそれ!?」
花丸「幼いころからルビィちゃんを見てきたマルとしては、間違った人をルビィちゃんの親友にするわけには行かないから..」
花丸「この浦の星女学院をルビィちゃんを想う理亞ちゃんの気持ちを試すための試験会場にしたんだ」 花丸「目の前にルビィちゃんの手がかりがあるのに、臆して逃げようとすればその時点で失格..ルビィちゃんの親友たる資格はないとして、学院の外に待機していたマルの仲間が理亞ちゃんを殺していたずら」
花丸「マルを見捨てて逃げてもやはり失格..友達を見捨てて逃げるような卑怯者は生贄にふさわしくない..同じく学院の外に待機していた仲間が理亞ちゃんを殺していたずら」
理亞「イ..イカレテル..」
花丸「これを見て..理亞ちゃん..」
理亞「それは..」
花丸は襲撃者の善子が持っていたボウガンを取り出した..ボウガンには矢が装填されており、理亞の恐怖を掻きたてる 理亞(私は..あのボウガンの矢に貫かれて殺されるんだ..)
ダンッ!という矢を発射する金属音が地下室に反響する..
理亞「ヒッ!」
理亞は覚悟を決めてギュッ..と目を瞑ったが..いつまで経っても理亞を貫く矢の感触を感じることはなかった..
理亞「...ッ」
理亞が恐る恐る目を開けると..ボウガンの矢はベッドに突き刺さっていた 花丸「これを見ればわかるでしょ?ボウガンってこんなに威力があるんだよ?もし、これが人間の足に刺さったら貫通しているずら..ホントにボウガンで撃たれたのだったら..マルは痛みできっと死んでしまったずらよ」
理亞「まさか..アンタのケガは自演だったの!?」
花丸「そうだよ..廊下に刺さったボウガンの矢をマルの手で太ももに突き刺したんだ..理亞ちゃんに守ってもらうお姫様役になるためにね..」
理亞「なんでそんなことを..」 花丸「理亞ちゃんの事を好きになるためだよ..マルはスキな人以外の肉は食べたくないんだ..理亞ちゃんがマルの事を守ってくれる王子様..マルは王子様に守ってもらうお姫様..そして、そして悪者を倒して2人は幸せに結ばれたのでしたってね..」
花丸「もしも、途中で理亞ちゃんが殺されるようなことがあったら..そこでゲームオーバー..」
花丸「ゲームオーバーの時は、理亞ちゃんの死体を善子ちゃんに譲るという条件で手伝ってもらったずら」
理亞「いい趣味してるわね..アンタ..」
花丸「なかなかスリリングで楽しめたんじゃない?謎の敵から女の子を守り抜き、学校の謎を解いて脱出を目指すってね..」
花丸「マルが所々ヒントを理亞ちゃんに渡していたのも気が付いた?」 理亞「私はアンタの掌の上でダンスを踊らされていたってわけね..」
思い返せば、おかしなことばかりだった..図書室の鍵は花丸しか持っていないハズなのに..敵が図書室の中で待ち伏せしていたり..胸像の仕掛けを作動させるためのレリーフがあんな本の後ろに挟まっていたり..あれもきっと花丸が仕組んだモノに違いない..
理亞「最初からアンタは..私をここに誘い込むつもりだったのね..」
花丸「理亞ちゃんはマルの出した試験を全部突破したずら..ケガをしたマルを見捨てずに守り抜き..親友のルビィちゃんの探索も諦めず..マルの思惑通りに学校の謎を解き..ついには悪役の善子ちゃんまで倒してしまうなんて..」
花丸はうっとりとした羨望の眼差しを理亞に向けた 理亞「どうして..図書館で私をあの狂った風習が書いてある本棚に案内したの?私があの本を読んだらアンタたちのことを疑いだすと思わなかったの?」
花丸「それも、理亞ちゃんを試すための仕掛けの一つだよ♪」
理亞「どういうことよ?」
花丸「マルに疑念を抱いても..それでも理亞ちゃんはマルのことを信じてくれるか..というテストだったんだよ♪」
花丸「理亞ちゃんはマルの思惑通りの反応を示してくれたずら..真っ青になってワンちゃんみたいに震える理亞ちゃん..いつものキリッとした理亞ちゃんとのギャップがとってもかわいかったずら〜」
花丸「理亞ちゃんは自分の中で葛藤して..それでもマルを信じてくれる道を選んだずら..マルの理亞ちゃんへの好意はもう..爆発しそうなくらいだよ!!」
理亞「反吐が出るわ..」 花丸「これで物語はおしまい..王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ..ってなるんだよ..」
理亞「くたばれ」
理亞は話を一蹴するように、悪態を吐き捨てた
花丸「さあ、お話はそろそろおしまいずら..理亞ちゃん..マルと一つになろう..マルがいっぱい愛してあげるずら♡」
花丸はそう言うと..動けない理亞の服に手をかけると丁寧に脱がし始める..
理亞「な..なにすんのよ!?」
花丸「理亞ちゃん..大好きだよ..」
理亞「や..やめろ!!」
花丸は理亞の叫びを無視し..血や汗にまみれたシャツを優しくはぎ取った 花丸「理亞ちゃん..」
花丸は理亞のスポーツブラをはぎ取ると、地下の外気に理亞の小ぶりな乳房が露わになった
花丸「理亞ちゃん..これが..マルを守ってくれた時にできた傷ずらね..」
理亞の肩に残るボウガンの傷跡を花丸は優しく舌で舐めた
理亞「イタッ!!」
ピチャピチャという水音が響き、理亞の肩に激痛が走る.. 花丸「理亞ちゃん!」
花丸は口を大きく開けると..理亞の傷口に思い切り噛みついた
理亞「グゥ!!や..やめ...!!」
理亞の肩から血が滴り落ちる..
花丸「ン〜〜」
花丸は理亞の肩から流れ出る血液を、樹液にたかる昆虫のごとく..丹念に吸い取ってゆく.. 花丸(理亞ちゃんの血液..おいしいずら..理亞ちゃんの..セイントスノーの力強いエネルギーがマルの体に入ってきて..もう我慢できないずら)
ブチブチッ!という肉が裂ける音が響き..理亞の肩にこれまでとは比にならないくらいの激痛が走った
理亞「アアアアアアアッ!!!」
理亞の絶叫が地下の広場に響き渡る..花丸に噛みつかれた肩に、灼熱の焼きゴテを当てられたような痛みが走った
花丸「理亞ちゃん..とっても..おいしいずら..♡」
花丸は理亞から食いちぎった肩の肉を口で咥え、そのまま口の中へと押し込み、歯で丹念に肉を咀嚼する..
地下室の中にクチャクチャという、理亞の肩の肉と花丸の唾液が絡み合う音が響く.. 理亞(肩が..痛い..肉を噛み千切られた..)
理亞の肩に形容のしがたい傷みが走る..
理亞は自分を見つめるルビィの頭蓋骨を眺めた
理亞(ルビィ..あんたも殺される前にこんなに痛い思いをしたの..こんなに怖い思いをしたの..?)
頭蓋骨に問いかけても当然ルビィは応えてくれない..なぜならルビィはすでに死んでいるからだ 理亞「ルビィ..」
この頭蓋骨が死ぬ前にどれほどの苦痛を味わったのだろうと..想像するだけで、理亞の目からとめどなく涙が溢れ出た
花丸「もう我慢できないずら..」
シュル..ファサッ..という布が擦れる音が地下室に響き..花丸は着ていた服を全て脱ぎ去ると生まれたときの姿になった..
ベッドの脇に置かれた善子のランタンが、花丸の豊満な乳房を照らしだし..健やかな瑞々しい裸体が姿を現した
理亞「なにやってんのよ..なんで裸になってんのアンタ..」
花丸「マルだけじゃないずら..理亞ちゃんも裸になるずら♡」
理亞「やめ..て..」
必死になって抵抗しようとするが..体に力が入らない状態では抵抗一つすることができず、理亞は花丸にスカートとパンツを脱がされ..裸になった ランタンの灯りに理亞の洗練され鍛え抜かれた肉体が映し出される..
花丸「キレイ..」
理亞「やめろ..バカ..」
花丸「しなやかで..シュッとしてて..マルとは大違い..でも..とっても..おいしそうだよ..」
花丸は再び理亞の上に覆いかぶさり..両腕を理亞の体に回し、両足で理亞の足を挟み、理亞の身動きを完璧に封じ抵抗できないようにした
そして..花丸は自分の秘所を理亞の秘所にあてがった 理亞「なにやってんのよ..アンタ..レズビアンだったの?」
花丸「違うずら..マルは理亞ちゃんだからこういうことがしたいんだよ..理亞ちゃんと愛し合う中で、理亞ちゃんを食べたいんだ..動くよ」
花丸は体を動かすと露わになった二人の秘所が擦れあい、性的快感を与え始める..
花丸「ハァ..ハァ..♡」
しばらく衝動に身を任せていると..快楽が花丸の体を突き上げてきて..息使いが獣のように荒々しくなってゆく..
花丸は性的興奮を覚え快楽に身を委ねるが..理亞はまったく気持ち良いとは思わず、生理的嫌悪感で吐き気がした
花丸「理亞ちゃん..理亞ちゃん..!!」
理亞「グッ!」
性的興奮を覚えた花丸は理亞の肩に再度噛みつき、流れ出た血液を啜り始めた 花丸「おいしい..理亞ちゃんの血液..すごくおいしいよ..!」
犬歯を鎖骨の付近に突き立てると、花丸は吸血鬼のごとく理亞の血を啜り取った
理亞「グウウウッ!!」
激痛が肩に走り、理亞は苦悶の悲鳴を上げるも..花丸は理亞の苦しむ顔をみるとさらに興奮し、さらに深く理亞の肩に噛みついた 理亞「痛いわね..このっ!」
花丸「グウッ!」
理亞は自分の上に圧し掛かる花丸の肩に思い切り噛みついた
理亞の歯が肩に食い込み、花丸は激痛にうめき声を上げるが..
花丸「マルも理亞ちゃんの肉をもらうよ!!」
負けじと花丸も理亞の首筋にかじりつく..
理亞「グアッ!」
首筋から血が流れだし、理亞は体から体温が抜け出て行くような錯覚に陥った
理亞と花丸は互いの体を噛む力を強め、ベッドの上は2人から流れ出る血液で赤に染め上げられてゆく.. 理亞「このッ!」
花丸「ウッ!」
理亞は花丸を両腕で強く押すと花丸は後ろに仰向けに倒れ込んだ
理亞「この..よくも..よくもルビィを!」
理亞は花丸の上に圧し掛かり、両手で花丸の首を握りしめ..両手の力を込めると、花丸の首を絞めた 花丸「ギュッ..!?」
理亞「このまま絞め殺してやる!!」
花丸「フーッ!フーッ!」
花丸は痛みと苦しさで目に涙を浮かべながら、必死になって抵抗をする..
爪で理亞の手を思いっきり引っ掻き、理亞の手からは血が流れ始めた
理亞「ッ!!」
手の痛みに顔をしかめつつも理亞は、首を絞める力を弱めることはなかった.. 花丸「理亞..ちゃ..ん..苦..し..い..」
理亞「黙れ!!ルビィが味わった苦しみはこんなもんじゃなかったハズだ!!お前たちは一体ルビィに何をしたんだ!!」
理亞は平手で花丸の頬を何度も何度も張り続けた
花丸「アウッ!!」
パン パン という乾いた音が鳴り響き、花丸は右に左へと顔を大きく
理亞「この!!よくも..よくもルビィを!!」
花丸「痛い..痛いよ!!理亞ちゃんやめてよ!」
何度も頬を張られ続ける花丸の頬は紅くはれ上がり..
目に涙を浮かべた花丸の泣き叫ぶ声が地下室に響き渡る
理亞「ルビィを返せ!!ルビィを元通りにしろ!!」
理亞は握り拳を作ると..渾身の力で花丸の頬を殴りつけた
花丸「あうっ!!」 スタンガンのしびれも取れてきて..理亞の体には元の力が戻りつつあった
力が元に戻った理亞と花丸ではフィジカルに差がありすぎて..マウントを取られてからは戦いというよりは一方的ななぶりものとなっていた
理亞「よくも..よくも!!」
理亞はいつの間にか泣いていた..なぜ?どうして..こんなことになってしまったのか?
どうして自分は泣きながら花丸の顔を拳で殴っているのだろう..
何度も..何度も..花丸の顔を殴り続け..どれほど殴ったかわからなくなるくらい殴った時..
花丸「お願いします..もう..やめて..許して..ください..」
花丸のか細い泣き声が聞こえてきて..理亞は殴る手を止めた 花丸「う..う..」
顔を真っ赤にはらし、血と涙で顔をグシャグシャに汚していた
理亞「なんでよ..どうして..アンタがルビィにそんなひどいことをしたのよ..アンタはルビィの親友だったじゃない..」
理亞の目から流れる涙が花丸の顔に雨粒のようにポタ..ポタ..と零れ落ちてゆく
花丸「だって..ルビィちゃんって..見ているだけで食べたくなるんだもん..」
理亞「ふざけるな!!」
理亞は花丸の胸に拳をドンと叩きつけた 花丸「マルだって..ルビィちゃんを殺したくなかったよ?親友だもん..殺さずに食べることができたのなら..そうしたかったよ..」
理亞「なんでルビィを食べた?」
花丸「それは..ルビィちゃんを食べたかったから..」
理亞「なんでルビィを食べた?」
花丸「だから..それは..」
理亞「なんでルビィを...食べたの!?」
理亞の怒鳴り声が地下室に響き渡った.. 花丸「なんでって..それはもちろんルビィちゃんを食べたかったからだって..さっきから何度も..でも、どうしてマルはルビィちゃんを食べたかったんだろう」
花丸「大好きだったのに..大切な親友だったのに..ずっと一緒にいたいと思っていたのに..どうしてマルは..ルビィちゃんを..」
理亞「え?」
花丸「ひっぐ..ひっぐ..わからない..わからないよ..どうしてマルは..ルビィちゃんを食べたんだろう?」
花丸が嗚咽をもらすように泣きだすのを見て理亞は戸惑いを浮かべた
花丸「あんなに大好きな友達だったのに..どうして?ねえどうしてマルは..」
(うるさいな..食べたいから食べた..それだけだって言っているでしょ?それより..隙だらけだね♡ 理亞ちゃん..おいしそう..)
花丸「理亞ちゃああああああああんんんん♡♡ 隙だらけずらああああああ♡♡」
花丸は情緒不安定を装い..理亞の油断を誘い、隙を突いて理亞に襲い掛かった 理亞「な!!」
完全に油断していた理亞は不意を突かれ、花丸に首筋に噛みつかれてしまった
理亞「ガアアアアアアアッ!!」
花丸「理亞ちゃん..油断しちゃだめずら..う〜ん..理亞ちゃんのお肉..やっぱりおいしいずら♡」
首筋から出血した理亞はベッドの上に倒れ込み、意識が遠のいてゆくのを感じた
花丸「理亞ちゃん..ん〜..おいしい..理亞ちゃんの血液..とっても..おいしいずら〜♡」
花丸は理亞の首筋から出る血液を母に授乳をせがむ、赤子のごとく啜り上げた 理亞(すごい出血..私..死ぬのかな..)
薄れゆく意識の中、走馬灯のようにこれまでの人生の様々な出来事が頭をよぎって行った
聖良と遊んだ幼き日のこと.. 子供の頃友達ができなくて一人で泣いていたこと.. 学校に行ってもやっぱり友達はできず、自分の味方は聖良以外誰もいなかったこと..
理亞(姉さま..ごめんなさい..私..ずっと一人ぼっちだったから..姉さまに心配かけちゃってたよね..)
友達ができない理亞を気遣った聖良は、時間の許す限り常に理亞の側にいてくれた..
聖良はいつも理亞を守ってくれていたのだ
理亞(私..いっつも姉さまに迷惑掛けちゃってたよね..セイントスノーの活動だって..姉さまに任せっきりで..最後の大会では..私のドジのせいで..)
理亞は無意識のウチに涙を流していた.. 花丸「泣かないで理亞ちゃん..これから理亞ちゃんはマルと一つになるの..マルの中のルビィちゃんと一緒に..3人で仲良く過ごそうね..」
理亞(ルビィ..)
ルビィ『じゃあ..最後にしなければいいんじゃないかな?』
ルビィ『一緒に歌いませんか..お姉ちゃんに送る曲を作って..この光の中で..もう一度!』
ルビィ..初めてできた私の友達.. 無愛想で誰にも好かれない私にできた、なんでも打ち明けることができる親友..
そんな友達は..頭蓋骨に変わり果ててしまった..
理亞(姉さま..ルビィ..助けて..)
花丸は理亞とルビィに助けを求めるが..聖良は沼津で別れたきり連絡が取れず、ルビィは生贄にされて頭蓋骨になってしまった 理亞(私を助けてくれる姉さまはいない..ルビィも殺されて骨になってしまった..私もここで花丸に食い殺されて骨にされてしまうの...?)
理亞の脳裏にお寺のお堂がイメージされる..神を祀る祭壇の上にキレイに並べられた二つの頭蓋骨..
ルビィと自分の頭蓋骨が並べられ..内浦の住民たちに祈りを捧げられている光景を..
理亞(イヤだ..そんなの..絶対にイヤだ..)
理亞の目から絶望の涙がポロリ..と零れ落ちたとき.. 諦めないで..
理亞(え?)
聞き違いだろうか..?生贄の儀で頭蓋骨に成り果ててしまった親友..ルビィの励ます声が確かに..聞こえたような気がした
理亞「ルビィ..?」
花丸「まだ気が早いよ!でも、もうすぐ理亞ちゃんをルビィちゃんの元に送ってあげるからね!」
理亞(花丸には聞こえていない..私の幻聴なのかも..でも、幻聴でもかまわない..私にはルビィが..ルビィがついている!)
理亞(私は諦めない..最後の最後まで絶対に..!命が尽きる最後の瞬間まで闘ってやる!!) 花丸「!!! グウウッ!!」
花丸の肩に激痛が走る..理亞は顔の前にあった花丸の肩に力いっぱい噛みついたのだ
花丸は悲鳴を上げ、理亞から離れようとするも..理亞は四肢を使って花丸を拘束し、逃れられないようにした
花丸「理亞ちゃん..まだそんな力が残ってたんだね..さすはマルの王子様ずら」
理亞「誰があんたの王子様になんてなるか..」
(私は..絶対にあきらめない..こんなところで死んでたまるか!!) 花丸「グウウウッ!!アアウ”」
理亞は顎の力を強めて、花丸の肩の肉をそのまま食いちぎってしまった
肉を食いちぎられた箇所から血液が滴り落ち、ベッドの上を新たな血で汚してゆく
花丸「理亞ちゃんが..マルを食べた..うれしいよ..理亞ちゃん..理亞ちゃんの..噛んだ跡がまたマルの体に刻まれたずら」
花丸は肩に新たに刻み込まれた理亞の咬傷を愛おしげな眼差しで見つめた
花丸「もう..お互いに余力がないよね..マルももうふらふらずら..次に相手に一撃を与えたほうが..生きてここを出ることができるずら」
理亞「絶対に..私は生きてここを出るわ..そして姉さまにもう一度会うんだ!!」
花丸「勝負..というわけだね..マルと理亞ちゃんでお互いを食べあって..どっちが生き残れるか..生き残ったほうが相手の命を取り込むことができるんだね..」 理亞・花丸「......」
理亞と花丸は見つめあい、お互いの出方を伺った..
2人の裸体を咬傷から流れ出す血液が滴り落ち、肌を紅く染め上げてゆく..
花丸「理亞ちゃん!!」
先に動いたのは花丸だった..理亞をベッドの上に再び押し倒し、理亞の首筋に思い切り噛みつこうと口を大きく開いた..
理亞「ソコだッ!!」
カウンターを狙っていた理亞は口を大きく開いた花丸の唇に自分の唇を重ねると、花丸の口内に舌を挿入した 花丸「んむ!?」
まさか理亞にキスをされると思わなかった花丸は、身動き一つとれずに理亞のされるがままになり、理亞の舌に口内を蹂躙される..
理亞(アンタとエッチする気なんてさらさらないのよこっちは..食らいなさい!!」
理亞は顎を閉じると花丸の舌に思い切り噛みついた
花丸「ン”ン”ン”〜〜〜〜〜!!!!????」
舌に激痛が走り、びっくりした花丸は歯を閉じて理亞の舌に負けじと噛みつく..
理亞「ウ”ウ”ウ”ウ”!!」
噛み千切らんばかりの強さで、お互いの舌を噛み合う2人の口から多量の血液が溢れ出し..
顎を伝って零れ落ちた血液がベッドの上に滴り落ちてゆく.. 理亞(痛くて顎にこれ以上力が入らない..このまま舌を噛み千切るのはムリね..どうすれば..)
花丸「フーッ!!フーッ!!」
花丸は気が狂わんばかりの痛みから逃れようと、理亞から逃れ距離を取ろうとするが..理亞は口の吸引力を使って花丸を逃さなかった
理亞(逃がさない..苦しい?こんなのルビィが受けた苦しみに比べれば万分の1にも満たないわ..あんたにはもっともっと苦しんでもらう!!)
理亞は舌を喉の奥まで挿しこむと、花丸の気道を舌で塞ぎ..上体を起こすと花丸の胴に両腕を絡め、花丸をベッドの上に押し倒し、指で花丸の鼻を摘まんだ..
花丸「ン”〜〜〜!!」
理亞に鼻を摘ままれ、気道を理亞の舌で塞がれた花丸は呼吸をすることができずに苦悶の声を上げる..
理亞(このまま絞め落としてやる..!ルビィの仇だ!) 血液と唾液の混ざり合った真っ赤な液体が、2人の口内から垂れ..床に小さな水たまりを作るようになった頃..
呼吸困難で脳に酸素が行きわたらなくなった花丸は酸欠で気を失い..ベッドの上に力なく四肢を投げ出した
理亞「はあ..はあ..アンタなんか願い下げよ..」
理亞は倒れた花丸に捨て台詞を吐き残してベッドから床の上に降り立った
理亞「グウ..痛い..痛いわ..」
花丸に噛み千切られた肩や..口の中の裂傷から血が滴り落ち、激痛に理亞の目から涙が零れ落ちる.. 理亞「フウ..フウ..ルビィ..」
ベッドの上に置かれたルビィの頭蓋骨を、理亞は優しく両腕に収め..
理亞「ごめんね..生きてる時に..助けに来てあげることができなくて..本当に..ごめん..」
助けてあげられなかったことを謝る言葉を口にし..理亞の悲しみの涙がルビィの頭蓋骨にポツ..ポツ..と雨水のように滴り落ちた
行方不明になった親友..やっと見つけ出すことができた..しかし..時はすでに遅し..ルビィは悪逆非道な内浦の民たちによって食べられてしまい..
哀れな頭蓋骨と成り果ててしまった..
理亞(許せない..ルビィを殺し..こんなひどいことをした奴ら..絶対に許さない!!) 理亞はランタンの明るさを最大にすると、冷たい床の上に置く..
ランタンの光が血にまみれた部屋を明るく照らし出した
理亞「.....」
理亞はスカートからスマートフォンを取り出すと録画のボタンを押し、部屋の中にピッという電子音が響き渡った
理亞「みなさん..こんにちは..私は北海道でセイントスノーというスクールアイドルをやっている鹿角理亞です..今日は皆さんに見てもらいたいモノがあって動画を撮影しました..」
理亞「まずはこれを見てください..」
理亞はスマートフォンの画面をルビィの頭蓋骨に向けた
理亞「この頭蓋骨は..私の親友..黒澤ルビィです..」 理亞「ルビィは..殺されて頭蓋骨になってしまいました..」
理亞はそう呟くと、スマートフォンの画面をしばらくルビィに向け続けた..
物音一つしない静寂がしばらく流れ続ける..
理亞「ルビィを殺したのは..静岡県沼津市の..内浦の住民たちです..この土地には古くから人肉を食べる風習があって..ルビィはその風習の生贄として..残虐に..ころされ...て..食べられ....ま...した」
あまりに辛い現実に、理亞の目から涙が次々と零れ落ちる..
しかし、理亞は鼻声になっても言葉を紡ぎ続けた 理亞「私も..生贄として命を狙われています..先ほども奴らの手のモノに襲われて肉を食いちぎられました」
理亞は撮影画面をルビィの頭蓋骨から、先ほど花丸に噛み千切られた肩の咬傷を映し出した
理亞「見ての通り..私は傷だらけです..全部人肉を食べたいという狂った風習によってもたらされた傷です..私が今いる場所は浦の星女学院という女子高です..」
理亞「この学校も成り立ちからして狂っています..この後者は戦後間もないころ..小原グループの創設者が開いた孤児院が元になった施設です..」
理亞「その孤児院は..子供を殺して肉にしてしまい..闇市に売りさばくと言う常軌を逸した目的のために作られました..その資金で小原家は巨万の富を得たのです..」
理亞「何をバカなことをと思うかもしれませんね..でも..その悪行の証拠があります..」 理亞はそう呟くと、床の上に置いたランタンを拾い上げて、白骨死体が累々と積み上げられた小部屋へと移動した
理亞「ここに積まれている子供の白骨死体が..証拠です..ここにある人骨はかつて小原家に殺されて..肉にされてしまった哀れなモノたちです..」
ランタンの光が暗闇に包まれていた小部屋の闇を払い、哀れな犠牲者たちの躯をスマートフォンの画面に映し出した
理亞「お判りでしょうか?ここに積まれた白骨の数を..奴らは命を弄び喰らう悪魔です..このままでは私も殺されてしまうかもしれません..」
理亞「この動画を見た人..お願いです..私を助けてください..この血塗られた内浦の風習を..打ち砕いてください!!」
理亞は叫ぶように言い切ると動画を終了し..
カチ..カチ...
動画を一件アップしました
動画サイトに動画をアップロードした 理亞「.....」
動画のアップロードを終えた理亞は、ルビィの頭蓋骨を手に持つと夢遊病者のように、フラフラと出口へ向かって歩き出した
理亞の頭の中は今夜起こった出来事で埋め尽くされ..今まで体験した出来事が映画の巻き戻しのようにグルグルと駆け巡った
失踪したルビィを探しに内浦へやってきたこと..花丸と共に浦の星女学院に探索に来たらボウガンを持った襲撃者に襲われたこと..
体育館の地下にこんな恐ろしい秘密が眠っていたこと.. 自分の命を狙っていた敵の正体が..友達だと思っていた善子だったこと..
守るべき存在だった花丸が..自分の命を狙う側の人間で..花丸と互いの身を喰いあう狂気の殺し合いを演じたこと..
そして..かけがえのない親友ルビィは..無残に殺されて..頭蓋骨になって..自分の手の中に納まっているという現実..
理亞「全部..夢だったらいいのに..私が見ているのは..悪夢で..目が覚めたら北海道の私の部屋で目覚めればいいのに..」 ベッドの上で血まみれで横たわる花丸を素通りし..階段へとつながる細い通路へと理亞はやってきた..
通路の上には善子が大の字になって倒れていた..
理亞「.......」
理亞は善子の首を絞め上げて..どうしてルビィを殺したのか..と問い詰めたかったが..
全身に虚無感がズシリと圧し掛かり..そんなことをする気力も湧き上がってこなかった..
ルビィは死んでしまった..理亞の心を占めているのは..この残酷な現実だけだった 理亞「.....」
カン..カン..カン..カン..
理亞は夢遊病者のようなおぼつかない足取りで、出口へと向かって階段を1歩..1歩と歩を進める..
地下の暗闇とは対照的な..体育館の窓から飛び込んでくる月明かりが理亞の顔を照らし出した..
そして..理亞が最後の階段を上り切った時.. 理亞「え?」
??「.......」
漆黒のローブを身に纏い..おかめの面を付けた襲撃者が現れ..理亞の頭をボウガンで思い切り殴りつけた
理亞「な...ん....で..」
抵抗する気力も残っていたいなかった理亞はあっけなく殴り倒され..体育館のバスケコートにドウッ!という音を立てて倒れた ??「......」
千歌「梨子ちゃん!お疲れ様!」
??「私は..ただ命令どおりに仕事をこなしただけよ..」
襲撃者は面を取ると..感情を失ったような..人形のような顔をした梨子が現れた
千歌「理亞ちゃんが出てきたってことは..花丸ちゃんはやられちゃったんだね」
梨子「もう仕事は終わったでしょ..早く理亞ちゃんを車に連れて行きましょう..」
千歌「そうだね!!校門の前で待っているしいたけも回収しないと!後でご褒美あげなくちゃ!!」
梨子「ごめんね..」
梨子は感情の籠らぬ人形のような目で理亞を一瞥し、謝罪の言葉をポツリとつぶやいた 理亞(そうか..ボウガンの射手は2人..いた..の...か....)
理亞の意識が遠のいてゆき..世界は闇に包まれた
to be continued 注意 この物語はフィクションです 話に登場する設定や歴史は実際の内浦とはまったく関係ありません 俺なら帰り際に伸びている善子をブチ犯してからヤられるわ 俺のこと言っているなら違うからな
ソフトバンク使っている奴何万人いると思ってんだてめえ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています