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曜「千歌ちゃんが記憶喪失になった……」

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1名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2018/12/28(金) 23:38:54.50ID:zcirwKWx
千歌「ええっと……」


千歌「……あなたは、誰ですか?」


千歌「ごめんなさい。私、記憶喪失みたいで……あ、もう知ってますか? えへへ」


千歌「だから、あなたが誰かわからないけど……でも、いい人なんじゃないかって思います」


千歌「どうしてそう思うかって? それは直感です、ふふん……って、あ、あれ?」


千歌「あ、あの……どうして、そんな悲しそうな顔を……私、何かマズいことを……!?」


千歌「よ、よくわからないけど……その、落ち着いてほしいな。あなたがうつむいてるのを見ると、私――どうしたら、いいのか……」
2018/12/28(金) 23:39:43.29ID:zcirwKWx
曜「ヨーソロー! ただいま戻りました!」

梨子「曜ちゃん! おかえり」

「……」

梨子「……びっくりしたでしょう?」

曜「まあ、それは……そうだけど。でも、私は大丈夫だよ!」

梨子「……ふふっ」

曜「ええっ、笑われた!? もしかして、顔に何かついてる?」

梨子「いや……無理してるのが、ひしひしと伝わってくるなって」クスッ

曜「あ、あはは……」

梨子「もうっ、そんなに強がらなくてもいいのに」

曜「強がってるっていうか……受け入れられないっていうか」

梨子「そう……だよね」

曜「……他の子は?」

梨子「うん……えっとね、私たち以外はみんな同じ空き病室にいるの」

梨子「この病院は比較的空いてるし、事情も事情だから……病院の人が特別に貸してくれたみたい」

曜「そっか。まあ、一番最後にここについたのも私みたいだしね」
2018/12/28(金) 23:40:09.34ID:zcirwKWx
曜「でも……梨子ちゃんはどうしてここに? 他の子たちと一緒にいても良かったんじゃ……」

梨子「どうしてって……心配だからよ」

曜「え、あ〜……あはは、そっか。ありがとね、梨子ちゃん」

梨子「鈍いのね……でも、良かった」

曜「良かった? 何が?」

梨子「だって、もしいつもと全く変わらない曜ちゃんだったら……」

曜「だったら……?」

梨子「……逆に反応しづらい、というか……」

曜「ええっ……」

梨子「ふふっ。ねえ、そろそろ……」

曜「……そうだね。みんなのところに行こうか」

梨子「うん。よいしょっ……っと、と、と」ヨロッ

曜「わわっ、大丈夫?」タッ、ガシッ

梨子「急に立ったせいかな、よろけちゃった……ありがとね」

曜「……ぷっ、くく……」

梨子「そ、そんなにおかしかった!?」

曜「いや、梨子ちゃんも無理してるんだなって思ってさ」アハハ
2018/12/28(金) 23:40:36.27ID:zcirwKWx
曜「しつれいしまーす……」ガララッ

果南「……曜ちゃん、梨子ちゃんも」

ダイヤ「扉はしっかり閉めてくださいね。話し声が外に聞こえてしまいますから」

善子「曜……」

花丸「梨子ちゃん……」

ルビィ「……」

鞠莉「……二人とも……」

梨子「曜ちゃん、この椅子を使って」

曜「うん、ありがと。それで……千歌ちゃんは……」ガタッ…トスッ
2018/12/28(金) 23:41:55.34ID:zcirwKWx
鞠莉「改めて言うことになるけど……ちかっちは、記憶喪失を起こした」

曜「……っ」

鞠莉「原因は交通事故。私はその場で見ていたわけじゃないけど、看護師さんから聞いたの」

鞠莉「昨日の夜、ちかっちが一人でジョギングをしていた時……車に、轢かれて……」

鞠莉「……ちかっちは強く体を吹き飛ばされて、地面に激突したわ。出血も酷かったみたい」

曜「……頭に巻いてた包帯は、そういう……」

鞠莉「近くで見ていた人と車の運転手がすぐ対応してくれて、医者の手術もあって……一命は、取り留めたけど……」

鞠莉「……意識が戻った時には、もう記憶がなかった……」

曜「で、でも、なんで……! 千歌ちゃんの不注意が事故を起こしたの!?」

果南「……それは違うよ」

鞠莉「……これは運転手の話だけど……ちかっちはね、車に突っ込むように車道へ飛び出したの」

曜「えっ……?」

鞠莉「運転手は、ちかっちが飛び出す前にブレーキを踏んでた……猫が車道を横切るのが見えたから」

曜「……っ」

鞠莉「……ちかっちは、車に轢かれそうな猫を見てとっさに庇ったのよ」

鞠莉「ブレーキが間に合わなかった車と衝突して、頭をぶつけて、血を流しても……」

鞠莉「……猫を抱きかかえた腕だけは、緩めることはなかった……そう言ってたわ」

曜「……そ、んな……」
2018/12/28(金) 23:42:20.88ID:zcirwKWx
鞠莉「ちかっちは、今は落ち着いてるように見えるけど……最初は酷く錯乱していたらしいわ」

鞠莉「当たり前、だけどね。ここがどこか、自分が誰かすらも忘れちゃったんだから……」

鞠莉「看護師が複数人で、何とか落ち着かせた……って」

曜「……その後は?」

鞠莉「家族の方が、私たちより先に面会したわ。基本的な状況については説明したって話してた」

鞠莉「記憶喪失のことと、自分の住んでいる家、場所、自分の名前や年齢、家族構成……その辺りね」

鞠莉「それと……通ってる学校、私たちAqoursについても話してくれたって」

鞠莉「最後に……ちかっちのお母さんが『千歌をよろしくお願いします』って、私の肩をポンと叩いたの」

鞠莉「呆然と突っ立ってる私に、微笑みかけて……そのまま病院の出口へ向かって行ったわ」
2018/12/28(金) 23:42:46.97ID:zcirwKWx
梨子「私を含めて、みんなは一度千歌ちゃんと面会してるの」

梨子「曜ちゃんが最後の一人……これで千歌ちゃんは、Aqoursのみんなと顔を合わせたってこと」

梨子「ただ……私たちを覚えてる、なんてことはなかった」

梨子「そのままの意味……うっすらと覚えてる、とかもない」

鞠莉「一番最初に会ったのは私だけど……むしろ、ちかっちは怯えていたわ」

鞠莉「過去の事……記憶については、深いことは言ってない。みんなもそれはわかってるはず」

果南「……ただでさえ記憶を失くしてるのに『どうして私のことを覚えてないの?』なんて言ったら、動揺しちゃうからね」

鞠莉「幸い、私と話した後は少しずつ緊張が解けていったみたいだけど……」

曜「そっか。確かに、私が千歌ちゃんと話してた時は結構落ち着いてたように見えたよ」

曜「でも……そう見えるってだけで、心の中は……」

花丸「……千歌ちゃんは」

花丸「――千歌ちゃんは、優しいから……」
2018/12/28(金) 23:43:13.09ID:zcirwKWx
「……」

果南「……なんだか落ち着かないや。ちょっと外を走ってこようかな」

曜「果南ちゃん……」

果南「ここで黙っていても、何も進まないしね。それに……気持ちの整理もつけないと」

果南「私も……みんなもね。それじゃ」ガララッ、タッタッタッ…

鞠莉「……マリーもちょっと外に出てこようかしら♪」

ダイヤ「果南さんに追いつくのは大変そうですわね……無理はなさらない様に」

鞠莉「オ〜ゥ♪ ダイヤってば、私のことは何でもお見通し?」

ダイヤ「はぁ……これだけ一緒にいれば伝わりますわ」

鞠莉「……じゃあね。みんな、思いつめちゃダメよ?」ガラガラ…ガタン

ダイヤ「……『これだけ一緒にいれば』ですか……」

ダイヤ「千歌さんと幼馴染の、果南さんや曜さんは……」

曜「……ううん。辛いのは、みんな同じだよ」

ダイヤ「……そうですわね」
2018/12/28(金) 23:43:25.24ID:rRbuyCem
記憶喪失ネタすき
期待
2018/12/28(金) 23:43:38.26ID:zcirwKWx
花丸「……オラ、学校の図書室に行ってこようかな」

花丸「今は夏休みだけど、今日は学校が開いてたはずだし」

ダイヤ「ここから学校まで?」

花丸「うん。散歩がてら、外の空気を吸って少しリラックスしてくるずら」

花丸「それと……図書室には本がたくさんある」

善子「ずら丸……」

花丸「果南ちゃんはああ言ってたけど……マルは、気持ちの整理なんてできないよ」

花丸「千歌ちゃんの記憶について、諦めたくない。いや……諦めきれない」

花丸「きっと、記憶喪失に関する本だって……っ……」グスッ

花丸「そうじゃないと、そうじゃないと、千歌ちゃんと過ごしてた来た時間も、思い出も……うぅ……」ゴシゴシ
2018/12/28(金) 23:44:04.56ID:zcirwKWx
ルビィ「る、ルビィも行くよっ。本を探す手伝いくらいなら、出来ると思うから……」

花丸「ぐすっ……うん。ありがとう、ルビィちゃん」

ルビィ「ねえ、そ、その……善子ちゃんも、良かったら」

善子「私はここに残るわ。その……ちょっと立ち止まりたいの」

善子「あと、ヨハネよ」

花丸「ふざけてる場合じゃないずら」

善子「立ち直り早っ!?」

花丸「……」

善子「……」
2018/12/28(金) 23:44:31.92ID:zcirwKWx
ルビィ「……行こう、花丸ちゃん」

花丸「……うん、そうだね。善子ちゃん、あとは任せたずら」

善子「はいはい、任されたわ。さっさと行きなさい、しっしっ。あと、ヨハネよ」

ガタッ タッ、タッ…

善子「……ねえ、ルビィ?」

ルビィ「どうしたの?」

善子「……誘ってくれて、ありがとね」

ルビィ「……うんっ!」

ガララ…ピシャッ
2018/12/28(金) 23:44:57.42ID:zcirwKWx
「……」

善子「……ふーっ、とは言ってみたものの……」

善子「千歌の心境も、今何をすべきかも……」

「……」

善子「……さっぱり、ね」ハァ

曜「……そうだよね。鞠莉ちゃんが言ってた通り、思いつめちゃダメなのは間違いないかも」

善子「全く、鞠莉も無茶な要求してくるわ」

善子「ラブライブ!の地方予選が終わって、敗退して……」

善子「それでも『めげずに、残された夏休みも練習頑張ろうっ』って言ってたのに」

梨子「……」

善子「アンタが頑張れなくなって……どうすんのよっ……」グスッ

ガララッ

善子「っ!?」ゴシゴシ

ダイヤ「この病室に、他の方が……っ!?」
2018/12/28(金) 23:45:24.16ID:zcirwKWx
千歌「――……ここで、あってますか……?」…ガタン


ダイヤ「千歌さん!? なぜここに!」

千歌「ひうっ!?」ビクッ

ダイヤ「あっ……し、失礼しました。しかし、病室を勝手に出ては……」

千歌「ダイヤさん……ですよね?」

ダイヤ「へっ……? いや、まあ……」

千歌「そちらが梨子さんで……」

梨子「は、はい……」

千歌「そちらが、曜さん」

曜「そう……だよ……?」

千歌「あなたは……善子さん」

善子「ヨハ……そうよ」
2018/12/28(金) 23:45:55.99ID:zcirwKWx
千歌「……よかったぁ。みんな覚えられた!」

千歌「お母さん?から聞いたんです。ここのみんなは、記憶を失う前の私と友達だったって」

千歌「私と友達になってくれるって、とってもいい人たちですよね! ね!」

善子「……いいから、病室に戻りなさい」

千歌「ほぇ? いや、でもでもっ、ここでみんなと話したら、何か――」

善子「――いいから、出てってっ!」

千歌「っ!?」ビクッ

曜「善子ちゃんっ」

善子「……っ」

「……」

ダイヤ「……千歌さん、お気持ちはありがたいのですが……」

ダイヤ「病室に戻られた方が良いと思います。でないと……怒られますわよ」

千歌「あっ……そ、そうですよね! すみません、突然出てきて……」

千歌「……じゃあ、失礼します。良かったらまた、私の病室に来てくださいね」

ガララ…ガタン
2018/12/28(金) 23:46:23.29ID:zcirwKWx
善子「……最低ね、私」

善子「受け入れられないからって、一番辛いはずの千歌に当たって……」

曜「……そんなことないよ」

善子「……あるわよ」

曜「ないよ」

善子「あるわよっ!」

曜「ないっ!」

善子「……っ」

曜「誰も落ち着いていないこの状況で、千歌ちゃんと話しても……」

曜「……きっと、余計混乱してたと思う。私たちも、千歌ちゃんも」

善子「……でも」

曜「でもも何もないよ」
2018/12/28(金) 23:46:52.50ID:zcirwKWx
梨子「それに……」

善子「……それに?」

梨子「……病室を抜け出すのはホントにマズいわよ」

善子「え、いや、確かにそうだけど……」

ダイヤ「もし善子さんが追い返さなかったら、今頃大騒ぎになってたかもしれませんわね」

善子「いや、でも」

梨子「でもも何もないよ」

曜「そうそう、あれで良かったんだって」

善子「……はぁ〜……わかったわよ、そういうことにしておくわ」

善子「それにしても、勝手に病室を抜け出して私たちに会いに来るなんて……」


善子「――行動だけ見れば、メチャクチャなままね……」
2018/12/28(金) 23:47:21.77ID:zcirwKWx
鞠莉「……あ、いた! かな〜ん♪」タッタッタッ

果南「あ、鞠莉」

鞠莉「はぁ、はぁ……よ、ようやく『ロックオーン!』できたわ……」

果南「……無理してそれ言わないでいいよ?」

鞠莉「ま、全く……はぁ、はぁ……果南ったら……はぁ、ごほっ、ごほっ、冷たいんだから♪」

果南「ちょっと待ってて、酸素缶が確か……」

鞠莉「……む、無理して売り物買わせないでいいから……ぜぇ、ぜぇ……」
2018/12/28(金) 23:47:50.93ID:zcirwKWx
鞠莉「……ふーっ……」

果南「落ち着いた? ほら、これでも食べてクールダウンしておきな」トッ

鞠莉「かき氷!? もう、果南ってば気が利くじゃない!」

果南「あはは、私も食べたかったってだけだけどね」

鞠莉「じゃあ早速……はい果南、あーん♪」

果南「ん〜、ブルーハワイって結構イケるね」シャクシャク

鞠莉「……」

果南「どうしたの? 早く食べないと溶けちゃうよ」パクパク

鞠莉「もういいわ……ぱくっ。ん〜、グレイッ!」シャクシャク
2018/12/28(金) 23:48:16.66ID:zcirwKWx
鞠莉「……いい場所ね、このテラス」

果南「うん。海を眺められて、潮風を感じられて……心地いいよ」

果南「……それにしても、私のいる場所が良くわかったね」

果南「『走ってくる』って言っただけで、ここに戻るなんて一言も言ってないのに」

鞠莉「果南のことなら何でもお見通しよ♪ 『走ってくる』なんてそれっぽい言い方しても無駄デース!」

果南「走ってたのは本当だよ。ここに来るまで、だけどね」

鞠莉「もう、素直じゃないんだから♪」

ザザーン…ザーッ…

鞠莉「……ねえ」

果南「ん?」

鞠莉「……気持ちの整理は、ついた?」
2018/12/28(金) 23:48:50.41ID:zcirwKWx
果南「……ううん、そんなわけない。あの言葉は、苦し紛れに言っただけ」

鞠莉「……そっか」

果南「……最初は、夢か何かだって思ってた。記憶喪失なんて、そう簡単に起こるわけないって」

果南「でも、千歌と面会した時……私を見る千歌の目が、私を現実に引き戻した」

果南「昔から一緒にいたことも、9人でAqoursとして活動したことも、ラブライブ!の地方予選に出たことも……」

鞠莉「……」

果南「ここでみかんと干物を押し付け合って、笑ってたことも――全てが、頭の中で崩れ落ちるようだった」

果南「体を動かして、ここにくれば。少しは落ち着ける……そう思ったよ」

ザザーン…パシャッ…

果南「でも――海を眺めて、潮風に当たってるうちに……」

果南「……『やっぱり現実だった』って、今度こそ思い知らされた」
2018/12/28(金) 23:49:16.46ID:zcirwKWx
果南「まあ、実感は未だにないけどね。面会時間も短かったし」

果南「……鞠莉はどう?」

鞠莉「私も同じ。ただ、ちかっちに会ったのは一番最初だったから……」

鞠莉「あの時の、ちかっちの表情が……未だに頭から離れない」

鞠莉「……そうね。自分でも言葉にし難いけど……」

果南「けど?」

鞠莉「なんて言えばいいのかしら、その――壊れそう、だったの」

果南「……」

鞠莉「あと一歩踏み出すだけで、一つ声をかけるだけで……そう思うと」

鞠莉「……何も声がかけられなかった。踏み出すこともできなかった」

鞠莉「しばらく沈黙が続いたわ。私はどうすればいいのか、必死に考えてた。でも、思考はぐるぐる回るばかり」

鞠莉「そんな時……ちかっちが、恐る恐る口を開いたのが見えた」

鞠莉「……それで、こう言ったの」


鞠莉「『あの……何か、喋っても、いいです……よ?』って」

鞠莉「困惑したような、怯えてるような、そんな声と裏腹に――小さくだけど、笑ってたわ」
2018/12/28(金) 23:49:42.70ID:zcirwKWx
鞠莉「その笑顔を見た時……私の方が壊れそうだった」

鞠莉「大声を出して、泣いて――ちかっちに駆け寄って、抱きしめたかった」

鞠莉「……あ、これ、他のみんなにはナイショよ?♪」

果南「はいはい。それで?」

鞠莉「そうしたいのをこらえた。ごまかすように私も笑って……」

鞠莉「『何を話せばいいのかわからないけど、とりあえず声をかけて』って、そう思ったところで……」

鞠莉「看護師の人に、面会の終了を告げられたわ。何も話さないまま、終わったの」

鞠莉「記憶喪失の人相手にいろいろ話しても、混乱するどころか取り乱す可能性があるし、面会時間が短いのは必然なんだけど……」

鞠莉「終わった後、ふっと緊張がゆるんで……病室を出て、時計を見て……気付いた」

鞠莉「私とちかっちが沈黙していた時間は、実際は感じられていたものより、ずっと長かったんだって――」

「……」

鞠莉「……私は、あれで良かったのかしら。考えても仕方ないってわかってる、けど……」

鞠莉「もっと何か……ちかっちを少しでも、緊張から遠ざけられたんじゃないかって……」
2018/12/28(金) 23:50:09.87ID:zcirwKWx
果南「……ま、正解なんてないんだよ。きっと」

鞠莉「……そうよね。やっぱり、考えても仕方ないわね♪」

ザザーン…

鞠莉「……果南?」

果南「ん〜?」

鞠莉「その……ぶっちゃけトークしてもいいかしら?♪」

果南「うん、いいよ」

鞠莉「……ホントにぶっちゃけるわよ?」

果南「うん」

鞠莉「……ちょっとヘヴィーな話よ?」

果南「うん」

鞠莉「……ドン引きするかも知れないわよ?」

果南「うん、いいからいいから」
2018/12/28(金) 23:50:37.08ID:zcirwKWx
鞠莉「……ちかっちが悪い、なんて絶対に言わない」

鞠莉「だって、轢かれそうになった猫を庇ったのよ?」

鞠莉「私の知ってるちかっちなら、間違いなくそうした。それもわかってる」

鞠莉「マルの言う通り。ちかっちは……優しいの」

果南「……そうだね」

鞠莉「……でもね、ちかっちが起こした事故の話を聞いてる時、ふっと脳裏をかすめた思考が……」

鞠莉「今も……ずっと頭の中にある」


鞠莉「――『なんで?』って……」
2018/12/28(金) 23:51:06.64ID:zcirwKWx
果南「……」

鞠莉「とっさに体が動いた、とか、自分の身を捨ててでも、とか……」

鞠莉「その時、ちかっちが何故そうしたか。今となってはわからないし……」

鞠莉「……さっきも言ったけど、それは何一つ悪いことじゃない」

鞠莉「私は……ちかっちと友達になれて、一緒に活動出来て、本当に幸せ者だわ。胸を張って言える」

鞠莉「でも……」

果南「……でも?」

鞠莉「……なんで……」


鞠莉「――『なんで、自分を大切にしてくれないの?』……って、一瞬だけど、確かにそう思った」


鞠莉「……いや、思ってしまった、って言った方が正確ね」

鞠莉「……いい? 果南。もし不快に思ったら、すぐ――」

果南「最後まで聞くよ」

鞠莉「そう」クスッ

鞠莉「……その後ずっと、その思考を振り払おうとした」

鞠莉「自分の身を挺して、他の命を助けた。それで、自分の命まで落としかけた」

鞠莉「そんなちかっちに追い打ちをかけるような、こんなこと……絶対に考えるべきじゃないって」

鞠莉「そして、振り払おうとすればするほど……」

鞠莉「……その思いが、どんどん強くなっていった」
2018/12/28(金) 23:51:34.05ID:zcirwKWx
鞠莉「……猫なんて」

鞠莉「――猫なんて、どうでもいい! 生死を賭けてまで、助けるものじゃない!」

鞠莉「自分勝手、メチャクチャなのはわかってる! でも……ぐすっ、なんで、なんでよ……!」

鞠莉「なんでちかっちは自分を大切にしてくれなかったの!? うぅ……」ポタッ

鞠莉「自分の身を簡単に投げ出さないでっ! あなたを……あなたを大切に思ってた人はどうなるのよ!」

鞠莉「もっと自分を……自分を、大切にしてよっ……ぐすっ、ひっく……」

果南「……」

鞠莉「……ぐすっ。ふふっ、私……性格、悪いわね」ゴシゴシ

鞠莉「ホント、さいて――!?」ピトッ

鞠莉(人差し指が……くちびる、に……)

果南「やっぱり、最後までは聞かないでおく」ニコッ

鞠莉「……〜〜っ!?」バシッ! ブンブン

果南「そ、そんなに振り払わなくても」

鞠莉「うるさいっ!」
2018/12/28(金) 23:52:00.74ID:zcirwKWx
果南「……ねえ」

鞠莉「……なに」グスッ

果南「……鞠莉もさ、自分を大切にしなよ」

果南「考えることなんて、人それぞれだし……」

果南「私は、今の話を聞いて……自分も似たようなことを考えてたって気付かされた」

鞠莉「え、果南も?」

果南「……ちょっとね」

鞠莉「そっか」クスッ

果南「……やっぱりさ」

ザーッ…ピシャンッ…

果南「……正解なんて、どこにもないと思う」
2018/12/28(金) 23:52:27.99ID:zcirwKWx
花丸「ぐぬぬぬっ」ヨタヨタ

ルビィ「むぐぐぐっ」フラフラ

ドサッ

ルビまる「ふーっ……」

ルビィ「す、すごい量の本だねぇ……」

花丸「まあ、結構適当に見繕ったし……実際に役に立つ情報があるかはわからないずら」

花丸「何より、マルは医療とかの科学系に関してはさっぱりだし……」

ルビィ「そ、そうだよね。ルビィもその、あんまり知識は……」

花丸「……」

ルビィ「……」

花丸「……とりあえず、ページをめくってみようか」

花丸「そうじゃないと……何も始まらないよ」

ルビィ「……そうだね」
2018/12/28(金) 23:52:53.59ID:zcirwKWx
花丸「……」パサッ

ルビィ「……」ペラッ

花丸「……う」

ルビィ「う?」ペラ

花丸「うぐぅ……」ドサッ

ルビィ「ぴ、ピギッ!? は、花丸ちゃあ、しっかりして!」ユサユサ

花丸「だだ、大丈夫。ちょっと疲れただけずら。そ、そ、そんなに揺らさないで」

ルビィ「あっ……ご、ごめん」パッ

花丸「ううん、ありがと。でも……2時間もこうやってると、さすがにちょっと疲れるね」

ルビィ「そうだねぇ。花丸ちゃんもルビィも、あまり触れないような本だし……」
2018/12/28(金) 23:53:19.55ID:zcirwKWx
花丸「……ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「どうしたの?」

花丸「『記憶を失う』って、どんな感覚なんだろうね」

花丸「大切だったはずの思い出も、友達も……何もかもを忘れちゃう」

花丸「今、千歌ちゃんの身に起こってることなのに……まるで、物語みたい」

花丸「きっと、千歌ちゃんは今も苦しんでると思うんだ」

花丸「……マルは、千歌ちゃんの力になりたい」

花丸「それだけじゃない。自分のためにも……みんなのためにも。少しでも、情報を集めないと」

ルビィ「……うんっ! ルビィも同じ気持ちだよっ」

花丸「とはいえ……やっぱり疲れたずら」

ルビィ「ま、鞠莉ちゃんもああ言ってたし……ちょっと休憩してもいいの、かなぁ……」

花丸「よし。じゃあ、ちょっと休憩にしようか」
2018/12/28(金) 23:53:45.67ID:zcirwKWx
花丸「えーっと……」トテトテ

ルビィ(……休憩って言ったのに、本棚の方に……)

花丸「あ、そうだ! せっかくだから、ルビィちゃんもどう?」

ルビィ「え、えっ?」

花丸「本を読む休憩に本を読むずら。ルビィちゃんも、面白そうな本を探してみたらどうかなって」

ルビィ「あ、あはは……花丸ちゃん、ホントに本が好きだねぇ」

花丸「純文学も好きだけど、本はそれだけじゃない。たまには違う本に触れるのも、面白いよ」

ルビィ「よしっ、じゃあルビィも何か探してみる!」

花丸「うんうん。せっかくだし、二人で何か本を探して読んでみようよ」
2018/12/28(金) 23:54:22.76ID:zcirwKWx
ルビィ「あっ! は、花丸ちゃん、この本とかどうかなぁ……?」

花丸「何か見つけた? えーっと、その本は……心理学?の本だね」

ルビィ「うんっ。ほら、ルビィって……その、泣き虫だったり、臆病だったりするから……」

ルビィ「少しでも、それを克服したいなぁって思って。なんとなくだけど、それっぽい本だし……」

花丸「なるほど……ルビィちゃんが選んだ本なら、良いと思うよ」

花丸「それに、心理学についてはオラも触れてみたいし……少しだけ、だけど」

ルビィ「あははっ、そうだね。この本は多分、わかりやすく書いてくれてると思うよ」

花丸「じゃあ、早速机の上で広げてみるずら!」
2018/12/28(金) 23:54:49.11ID:zcirwKWx
花丸「ふむふむ」ペラペラ

ルビィ「うゅ」ペラペラ

花丸「流し読みだけど、結構面白いね」

ルビィ「そうだねぇ。心理学をしっかり学べば、他の人が何を考えてるかとかわかるのかなぁ」

花丸「そ、それはそれで怖いね……」ペラ

ルビィ「あはは、ルビィもそうかも」ペラ

花丸「人間は、いつだって一人……それでこそ、救われてる部分もあると思うから」

花丸「……あ、長くなりそうな話に……」

ルビィ「ううん。花丸ちゃんの話は、いつ聞いても面白いよっ」

ルビィ「ルビィには、ちょっと難しく感じるけどね……えへへ」

花丸「ふふっ……そう言ってくれると嬉しいずら」
2018/12/28(金) 23:55:15.84ID:zcirwKWx
花丸「……あっ、ルビィちゃんが言ってたのはこの辺りかな?」ペラ

ルビィ「あっ、そうかも。このページは……『泣くときの心理』……について書いてある、のかなぁ……?」

花丸「な、なかなか難しいテーマだね。泣くって言っても、色々あるから」

ルビィ「そうだねぇ」

花丸「その……マルも、さっき泣いちゃったし」エヘヘ

ルビィ「……うん」

花丸「……」

ルビィ「……」

花丸「……き、休憩時間なのに暗い話になっちゃったずら……」

ルビィ「ううん。そうかもしれないけど、気にすることじゃないよっ」

花丸「……ありがと。ルビィちゃんは……強いね」
2018/12/28(金) 23:55:43.90ID:zcirwKWx
ルビィ「ル、ルビィが……? ま、まさか……そんなこと……」

花丸「でも、千歌ちゃん以外のみんなが揃った時……ルビィちゃんは、落ち着いてるように見えて」

ルビィ「……あのね。ルビィは……」

花丸「……ん?」

ルビィ「実は、その……花丸ちゃんが来る前に……」

ルビィ「……いっぱい、泣いてちゃって……」

花丸「……そっか」クスッ

ルビィ「お姉ちゃんが、慰めてくれたから……えっと、それで、ね?」

花丸「……どうしたの?」

ルビィ「ずーっと泣いてたら……なんというか、すっきりしたというか……」

ルビィ「その……少し、落ち着けたんだ」エヘヘ
2018/12/28(金) 23:56:09.81ID:zcirwKWx
ルビィ「悲しかったよ? 千歌ちゃんが事故で怪我して、記憶を失って……」

ルビィ「その悲しいって気持ちは、泣く前も、泣いた後も……ずっと残ってた」

ルビィ「でも、それとは別に……冷静にもなれた」

花丸「……そうだったんだ」クスッ


花丸「……泣くことって……――涙って、不思議だね」

ルビィ「……不思議?」

花丸「悲しくて、辛くて、胸がこれ以上ないってくらい締め付けられて……」

花丸「心が、耐えきれなくなって……そのせいで、涙が流れるのに……」

花丸「――……その涙が、心を救ってくれるんだなって」

花丸「泣くことで、冷静になれるし、落ち着ける」

花丸「皮肉なことだけど……でも、切なくて、美しいなって」フフッ
2018/12/28(金) 23:56:36.95ID:zcirwKWx
ルビィ「――そ、そんな話……聞きたく、ないよっ……」

花丸「っ! ご、ごめん、またわかりにくい話だったかな」

ルビィ「そんなことない、そんなことないっ! でも……」

ルビィ「聞いてるだけで……ルビィ、またっ……」

花丸「ルビィちゃん……あ、あれ……マルも、涙が……っ」ゴシゴシ

ルビィ「……ねぇ、花丸ちゃん?」グスッ

花丸「えっ?」

ルビィ「――思いっきり、泣いちゃおう?」

花丸「……ふふっ、そうだね」グスッ

花丸「この本にも、『たまには思いっきり泣くといい』って、書いてあるから……うぅ……」


ルビィ「……うわぁぁぁぁん! うぅ……どうしてっ、どうして……千歌ちゃあが……!」

花丸「んぐっ……うぅ……ルビィ、ちゃん……」ギュッ

花丸「……ぐすっ、ひっぐ……千歌、ちゃん……っ! うぅ……」ポロポロ
2018/12/28(金) 23:57:02.73ID:zcirwKWx
花丸「……ふう、この本はこれで終わりずら」パタン

ルビィ「たくさん泣いたら、その……不思議と、はかどったね」

花丸「ふふっ。やっぱり本に書いてある通り、思いっきり泣くのはいいことなのかも」

ルビィ「そうだねぇ……あっ」 <ハジメータイマーイストーリー♪

花丸「電話?」

ルビィ「お姉ちゃんみたい」ピッ

ルビィ「もしもし? ……うん、うん……わかった。じゃあねっ」ピッ

花丸「ダイヤさん、なんて言ってたの?」

ルビィ「えっと、病室にいたみんなは一旦家に戻るって」

ルビィ「果南ちゃんと鞠莉ちゃんにも伝えたって言ってたよ」

ルビィ「あと、あまり帰りが遅くならない様に……とも言ってた」

花丸「うーん、そうだね。もう夕方だし……少しだけ収穫もあったし」

花丸「ちょうど本も読み終わったから、今日はこれくらいにしておこうか」ニコ
2018/12/28(金) 23:57:49.67ID:zcirwKWx
タッ、タッ…

花丸「まあ、ホントに小さな収穫だけど……ね」トコトコ

ルビィ「た、確かに……その、ルビィも考えてたことだった……かな」トコトコ

ルビィ「でも、『何か得た』ってことは……きっと、大事だと思うっ」

花丸「うん、ありがとう」

「……」トコトコ

ルビィ「……あっ」…タッ

花丸「……どうしたの? 突然立ち止まって……」


ルビィ「……ううん。夕日が――綺麗だなって」

花丸「あっ……き、気づかなかった。本当だね、綺麗……」

ルビィ「……お姉ちゃんが言ってたの。『少し、考える時間が欲しい』って」

花丸「……そっか」クスッ

花丸「善子ちゃんも言ってたけど……きっと、立ち止まることも大事なんだろうね」

ルビィ「……うんっ!」
2018/12/28(金) 23:58:15.79ID:zcirwKWx
花丸「……でも、今は早く歩かないと!」

ルビィ「ピギッ!? も、もうこんな時間!? 花丸ちゃあ、一緒に走ろう!?」

花丸「ええっ!? オ、オラは運動は……でも、ルビィちゃんの頼みなら!」

ルビィ「ありがとっ! じゃあ、早く早くっ!」ダッ

花丸「よ、よ〜し! 全速前進、よーそろー! ……ずら!」ダッ
2018/12/28(金) 23:58:41.18ID:zcirwKWx
曜「……ふうっ、ようやく一息つけた!」

曜「なんだか頭も体もバタバタして、今までずーっと落ち着かなかったけど!」

曜「……みんな、大丈夫かな……」

曜「……いやいやっ! ダイヤさんもああ言ってくれたし、みんな家に戻って少し落ち着いてるはず……」

「……」

曜(……いや……一番落ち着いてないのは、やっぱり自分自身か……)

曜(なんだか、未だにふわふわしてるみたい……)

曜「……記憶喪失、かぁ……」

曜(今まで、ずーっと一緒にいたのに……)

曜(千歌ちゃんの中では……何もかも……)

曜「……あ〜っ! 自分の部屋で自分の椅子に座ってるのに、なんでこんなに落ち着かないんだ〜っ!」クシャクシャ
2018/12/28(金) 23:59:07.54ID:zcirwKWx
曜「はあ……ベランダで夜の風にでも当たろうかな。今なら、星もよく見えると思うし!」スタッ

曜「……あっ」フッ

曜(そうだ、自分の部屋には……千歌ちゃんの写真が、ずーっと飾ってあって……)

曜(あの写真は、本当に小さい頃……二人で写った写真)

曜(あっちには……果南ちゃんと、3人で撮ったやつだ)

曜(梨子ちゃんと3人で写ってるのも……Aqoursのみんなで写ってるのも……)

曜(……ずっと飾ってある写真なのに。なんでだろ……さっきまで、まるで見えてなかったみたい……)

曜「……ふ〜っ……」

曜「やっぱり、夜風に当たった方が良いか」アハハ
2018/12/28(金) 23:59:35.50ID:zcirwKWx
曜「よいしょ……っと」ガラッ

曜「……うん、いい風。何度吹かれても飽きない」

曜「星もきっと、綺麗で……って、曇ってるーっ!?」

曜「はぁ〜、星にまで嫌われちゃったか……あれっ?」<オーモーイーヨヒトツニナレー♪

曜「着信……梨子ちゃんからだ」ピッ


曜「もしもし、梨子ちゃん?」

梨子『曜ちゃん! ごめんね、夜遅くに。大丈夫?』

曜「ううん、全然大丈夫……ふふっ」

梨子『と、突然笑って……本当に大丈夫なの?』

曜「いや、ちょっと前にもこんなことがあったから……」

曜「今みたいに、夜……ちょうどベランダにいる時、梨子ちゃんから電話がかかってきてさ」

梨子『そういえば、そうだったね』フフッ
2018/12/29(土) 00:00:01.62ID:6oQiZxwn
曜「……ありがとう」

梨子『ど、どうしたの? 本当にだいじょう……』

曜「あはは、大丈夫だって。もうちょっとだけ話を聞いてよ!」

梨子『……ふふっ、いくらでも聞くよ』

曜「……あの時、私は――梨子ちゃんの電話と、千歌ちゃんの声に救われた」

梨子『……』

曜「……今もね。落ち着かなくて、心細くて……信じられなくて」

曜「でも……梨子ちゃんの声を聞いただけで、前と同じように……」

曜「不安な気持ちも、心細さも……何もかも、一気に軽くなったよ」

曜「……また、助けてもらっちゃったね」アハハ

梨子『ううん。私も、曜ちゃんの声が聞きたくて電話したの』

梨子『勿論、ちょっと心配なのもあったけど……それ以上に、私も同じように心細かったから』

梨子『……そうじゃなければ、こんな時間に電話かけたりしないよ』クスッ
2018/12/29(土) 00:00:27.79ID:6oQiZxwn
曜「いやいや、気にしなくていいよっ。いくらでも話し相手になるから!」

梨子『……本当に?』

曜「もちろんでありますっ!」

梨子『……言ったわね?』

曜「二言はないよっ!」

梨子『……じゃあ、夜中の2時あたりにかけようかしら』

曜「ええっ!? う〜ん……でも、もし着信があったら頑張って起きるっ!」

梨子『じ、冗談だよ。もうっ』

曜「えっ、そうだったの!? 真に受けちゃった……!」

梨子『……でも、ありがとう。もし、泣きそうなくらい心細くなったら……かけちゃうからね?』

曜「そ・の・か・わ・り……私も深夜に電話しちゃうかもっ!」

梨子『うんっ! もし、曜ちゃんから着信が来たら……どんなに眠くても、頑張って起きるよっ』
2018/12/29(土) 00:00:55.13ID:6oQiZxwn
梨子『……私ね』

曜「ん?」

梨子『明日……千歌ちゃんを学校に連れて行ってみようかなって思って』

梨子『まあ、千歌ちゃんの状態にもよるけれど……病院の人がいいって言ってくれたらの話』

曜「け、結構突然だね」

梨子『ほら、LINEでルビィちゃんが言ってたでしょ?』

梨子『"過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……って』

曜「えっ!? 全然見てなかった……」

梨子『もう……本当に大丈夫?』

曜「あ、あはは……後で確認しておくよ。でも、どうしてルビィちゃんがそれを?」

梨子『今日、花丸ちゃんと二人で本を読んでたら見つけたんだって』

梨子『あの二人も……やっぱり、諦めきれないんだと思う』

曜「……そっか。そうだよね」
2018/12/29(土) 00:01:21.16ID:6oQiZxwn
梨子『……ねえ、その……』

梨子『こんなこと聞かれても、困っちゃうかもしれないけど……曜ちゃんは、どう思う?』

曜「……私は、良いと思うよ」

曜「こんなこと言ったら、無責任かもしれないけど……梨子ちゃんになら、任せられる」

曜「記憶を失う前の千歌ちゃんと、あんなに仲良しだったんだもん! きっと……」

梨子『それで何か勘違いをしていた人もいたけどね』

曜「つ、ツッコミが重すぎる……」

梨子『こ、これも冗談だって……ありがとう』

梨子『曜ちゃんがそう言ってくれるってだけで……やろうって気になれる』

曜「そっか、良かった! 少しでも力になれたなら、私は嬉しい!」

梨子『もう、何言ってるのよっ。また、勘違いばっかりっ……ぐすっ……』

曜「か、勘違い? ごめん、なんか雑音が……」
2018/12/29(土) 00:01:51.79ID:6oQiZxwn
梨子『ご、ごめんなさい。ちょっと風の音が入ったみたい』

曜「ううん、大丈夫だよ。それで、勘違いって……」

梨子『……曜ちゃんと話してる間、私は……ずっと力を貰えてた』

梨子『全然、少しなんかじゃないよ』

曜「……あはは、ありがとっ! ……本当に、梨子ちゃんと話せてよかった」

梨子『……私も』

曜「そういえば、その話は他の子にも?」

梨子『うん、勿論。LINEでは、千歌ちゃんについても色々話してたから……って、本当に全く見てないのね』

曜「あ、あはは……それで、なんて?」

梨子『みんな、曜ちゃんと同じように……応援してくれた。私なら大丈夫、って言ってくれたの』

曜「そっか。みんな、同じことを思ってるんだね」

梨子『ふふっ、そうみたい』
2018/12/29(土) 00:02:22.51ID:6oQiZxwn
曜「あ、ところで……今何時くらい?」

梨子『え? えーっと……わっ、もう11時!?』

曜「う、うそっ!? 早く寝ないと!」

梨子『じゃあ、そろそろ切るね?』

曜「うんっ。梨子ちゃんには明日もあるしね。私も今日は疲れたから、ぐっすり眠らないとっ」

梨子『そうだね。私も曜ちゃんも、ゆっくり休もう。おやすみなさい』ピッ

曜「うん、またねっ」ピッ

曜「さてと、ベットにダイブだっ!」ガララッ

曜「……あっ」

曜(さっきの……千歌ちゃんと梨子ちゃんと、私の3人が映ってる写真……)

曜(なんでだろ、さっきより……ずっと近くに写真があるみたい)

曜(梨子ちゃんも……同じ風に当たってたのかな)

曜「……ありがと、梨子ちゃん」ニコッ

曜「な〜んて! 歯を磨いたら、さっさと寝ようっ!」
2018/12/29(土) 00:04:21.11ID:6oQiZxwn
一旦ここまでで
書き溜めてるので、早いペースで投下できればと考えてます
2018/12/29(土) 00:04:45.60ID:whnRT6pH
期待しております
2018/12/29(土) 00:04:57.34ID:jzCVf1+b
从/*•ヮ•§从‥

从/*•ヮ•§从‥思い出したのだ‥

从/*•ヮ•§从‥私は内浦の‥

从/*^ヮ^§从 エマ・ワトソンなのだ!!

从/*^ヮ^§从 ♪
2018/12/29(土) 00:22:00.65ID:CU+0HoyS
期待
2018/12/29(土) 00:41:52.34ID:LshN5Dzx
やり遂げようね。さいごまで
2018/12/29(土) 01:33:24.44ID:gTrJvrL/
しえん
2018/12/29(土) 01:34:22.54ID:GROv5F7H
テッテレーーー!

終。
2018/12/29(土) 02:26:36.13ID:1fTpTTXZ
【動画】大阪の犬の訓練士がイッヌを虐待し炎上 もがき苦しむイッヌ
http://leia.5ch.net/test/read.cgi/poverty/1545911740/
2018/12/29(土) 05:02:40.05ID:6vDErrFU
現状ようちかよしりこにするために都合よくとかじゃないな、よし
2018/12/29(土) 08:33:49.05ID:wzUdT3g0
>>53
絶対元の記憶残ってるパターンだろこれぇ!
2018/12/29(土) 10:57:05.96ID:igJo3dT5
読んでて苦しいけど、たまにはこういうのを読むのもいいよな…おうえんしてる…
62名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2018/12/29(土) 11:58:07.88ID:6oQiZxwn
梨子(……)ゴシゴシ

チュンチュン、チチ……

梨子(朝……)

梨子「……そうだ。あれ……持って行ってみようかな」

梨子("過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……)

梨子「……まあ、おまじないみたいなものね♪ えーっと、どこにしまったっけ……」

ガサゴソ

梨子「……あ、あれ、ここじゃない……」

ガサガサ

梨子「……た、大切なものだしすぐ見つかるはず……」

ゴソゴソ

梨子「ど、どこ? どこだろ……」ガサゴソ

梨子「……あ、あった! わかりやすい場所なのに、探してなかったよ……もう行かないと、っと」

梨子「お母さん、いってくるね」トントン、ガチャ

<ハーイ、イッテラッシャイ
2018/12/29(土) 11:58:33.62ID:6oQiZxwn
梨子「……ここが千歌ちゃんの病室……だよね」

コンコン…ガララッ

梨子「失礼します」

千歌「あっ、梨子さん! こんにちは」

梨子「こんにちは、千歌ちゃん」フリフリ

梨子「名前……よく覚えてるのね」

千歌「勿論です、頑張って覚えましたっ」

梨子「ふふっ、ありがとう」

梨子(頑張って覚えた……か)

梨子(……裏を返せば……私のことは、やっぱり――)

「……」

梨子(……と、いけないいけないっ)

梨子「……え、えーっと」

千歌「その……」

梨子「えっ?」
2018/12/29(土) 11:58:59.50ID:6oQiZxwn
千歌「――その右手につけているシュシュ、かわいいですね!」

梨子「っ!?」ドキッ

梨子「ま、まさか、千歌ちゃん、覚え……て……」

千歌「……へ?」

梨子「……あっ、いや、なんでもないの、なんでも!」

千歌「な、ならいいんですけど」

梨子「……これは、ね」

千歌「……」

梨子「――……私の、大切なものよ」ニコ

千歌「そうなんですか? ふふっ……いいですね、そういうの」
2018/12/29(土) 11:59:25.31ID:6oQiZxwn
梨子「ちょっと座るね? 椅子椅子……よいしょ、っと」ガタッ、トスッ

千歌「どうぞごゆるりと!」

梨子「……結構元気なのね」

千歌「はい、大分元気です!」

梨子「そっか、良かった。その……動いたりとかは、大丈夫?」

千歌「はい、なんとか。先生からも言われたんですけど……」

千歌「少なくとも、日常的な動作については今のところ問題ないそうです」

千歌「……ただ……記憶については……」

「……」

千歌「……っとと、暗い話になっちゃいましたね」エヘヘ

梨子「もう……そんなの、千歌ちゃんが気にすることじゃないよ」
2018/12/29(土) 11:59:51.32ID:6oQiZxwn
千歌「先生は『今後も検査を続けていく』って言ってました」

千歌「もしかすると、記憶を失う前には何の問題もなかった動作が抜けていたりするかもしれないし……」

梨子「……うん」

千歌「……その逆で」

千歌「――……何か、残っている記憶もあるかもしれない……」

梨子「……っ」

千歌「まあ、そう言われても、私にはさっぱりなんですけど……」エヘヘ

梨子「そう……ね」

梨子「……あ、ちょっと思ったんだけど……今日は、検査じゃないの?」

千歌「え……っと、確か検査があったと思います」

梨子「……あれ、本当に?」

千歌「えっ、そう言われると、なんだか自信が……ち、ちょっと待ってください! 確か予定を書いたノートが……」ペラペラ

千歌「……あ、ありました! 今日は……やっぱり、3時間くらい記憶や動作について検査をするって……」

梨子「……本当に?」

千歌「わ、私、そんなに信用無かったんですか……?」ウルウル

梨子「わあっ、違う違うっ! そういう意味じゃなくて、その……」
2018/12/29(土) 12:00:17.30ID:6oQiZxwn
千歌「……その?」

梨子「……さっきね、受付の人にちょっとお願いをしてきたの」

千歌「お願い?」

梨子「うん……私がね、『千歌ちゃんを、通っていた学校に連れていきたい』って」

千歌「それって……」

梨子「そう。千歌ちゃんが……『記憶を失う前に』通っていた、学校の事」

千歌「ほ、本当ですかっ!?」ガバッ

梨子「わわっ!? 千歌ちゃんっ!?」ビクッ

千歌「行きたい、行きたいですっ! ……あれ、でも今日は検査が……」

梨子「それなんだけど……受付の人は『問題ない』って、言ってた、ような……」

千歌「えっ、そうなんですか?」

梨子「うん。奥に行って誰かと話してたみたいだから、受付の人の独断ってこともないだろうし……」

千歌「……って……もしダメだったら、梨子さんは一体何をするつもりでここまで……!?」


梨子「……そうね。もしダメだったら……おしゃべり、かな」クスッ
2018/12/29(土) 12:00:43.32ID:6oQiZxwn
ウイーン…ピシャンッ

千歌「ん〜っ! ……ふうっ」

梨子「あれから、もう一度受付の人に確認してみたけど……やっぱり、大丈夫みたいだね」

千歌「そうみたいですね。時間も、あまり遅くならなければいいって……」

梨子「千歌ちゃんの先生、本当に大丈夫……?」

千歌「なっ!? も、もう、不安になるようなことを……」トコトコ

梨子「ふふっ、冗談よ。あ、千歌ちゃん、そっちじゃなくて……っ」

梨子(……そっか、学校の場所も……)

千歌「……あっ! すみません、勝手に進んじゃって……」

梨子「……ううん、大丈夫。でも、絶対にはぐれないでね?」

千歌「そう、ですよね……気を付けます! ……あ、そうだっ」

ギュッ

梨子「っ!?」ドキッ

千歌「手を繋いでおけば、流石にはぐれようが……あれ、どうしました?」

梨子「……ううん、なんでもない。でも……繋いだからには、離しちゃダメよ?」ギュッ

千歌「もちろんっ」
2018/12/29(土) 12:01:09.06ID:6oQiZxwn
「……」トコトコ

梨子「……外に出るのは……」

千歌「昨日、一回だけ。夜だったんですけど、先生に付き添ってもらって……」

梨子「私たちが帰った後? 結構急なのね」

千歌「万が一何かあった時に戻ってこれるように、パニックにならない様にって……病院の周りを見て回ったんです」

梨子「……大丈夫、だった?」

千歌「はいっ。勿論、最初は怖かったです。ただでさえ、知らない場所なのに……周りも暗かった」

千歌「でも、先生と話してるうちに……気づいたら、気持ちが軽くなってました。あの時も、こうやって手を――」

梨子(……さっきより、握る力が強――)

千歌「梨子さん?」

梨子「ひゃいっ!?」

千歌「わわっ、だ、大丈夫ですか……?」

梨子(……もう、あなたは――いっつも、周りを見て……)

梨子「……大丈夫、よ」ギュウッ
2018/12/29(土) 12:01:37.54ID:6oQiZxwn
梨子(……千歌ちゃんにとっては、ここはもう……)

梨子(知らない町の、知らない場所……か)

梨子(でも……千歌ちゃんは……)

梨子「……不思議、ね」トコトコ

千歌「……ふし、ぎ?」トコトコ

梨子「記憶を失ってるはずなのに……あなたらしさ」

梨子「千歌ちゃんらしさは――不思議と、あなたの中にあるままなんだなって」フフッ

梨子「こんなこと言ったら、困っちゃうかな」

千歌「え、ま、まあ……私らしさって、良くわからないですし」

千歌「でも……先生が、同じようなことを言ってましたよ」

梨子「そうなんだ?」

千歌「はい。記憶を失っても――その人間らしい振る舞いは、失われない場合が多い……って」

千歌「これも、記憶喪失のパターンによるみたいですけどね」

梨子「……そっか」
2018/12/29(土) 12:02:03.42ID:6oQiZxwn
…タッ

千歌「……ここですか? えーっと……『うらのほしじょがくいん』……?」

梨子「そう。ここが、私の――私たちの、学校よ」

梨子「……ほら、さっき買ったお茶。水分補給はしっかりしないとね」サッ

千歌「はい、ありがとうございますっ」ゴクゴク

千歌「……ぷは〜っ! ふう……結構歩くんですね、ちょっと疲れちゃいました」エヘヘ

梨子「私も疲れちゃったなぁ……あー、それでね。さらに悪いお知らせなんだけど……」

千歌「なっ、わ、悪いお知らせとは……」

梨子「この学校……冷房ないのよ」

千歌「……普通の学校には、冷房があるんですか?」

梨子「……っ」

千歌「……変なこと聞いちゃいました!?」

梨子「あっ、ううん!? そんなことないよ」

梨子「そうね……普通はあるかな」

梨子「こんな暑い中、さらに暑い室内で授業をやるわけだし……都会の学校には、普通冷房が配備されてるわね」

千歌「都会、ですか……」

梨子「そ、私たちがいるここは……田舎、かな」クスッ
2018/12/29(土) 12:02:29.11ID:6oQiZxwn
千歌「……そういえば、今日って……」

梨子「今日は夏休みだけど、学校が開いてる日なの」

梨子「開いてるってだけで、実際に生徒はほとんどいないと思うけど……」

千歌「けど?」

梨子「記憶を失う前の千歌ちゃんを知ってる人が、今の千歌ちゃんに会ったらびっくりしちゃうだろうし……」

梨子「そういう意味では、ゆっくりと校舎を回れるから……今日でよかったよ」

梨子「上履きを……よいしょっと。あ、千歌ちゃんの下駄箱はそこね」

千歌「あ、ありがとうございますっ。よいしょ」

千歌「……私の名前が」

梨子「ん?」

千歌「私の名前が……私の下駄箱があるってことは、私はやっぱり……」

梨子「……そうよ。あなたは、この学校の……大切な生徒で、大切な友達よ」ニコ
2018/12/29(土) 12:02:55.01ID:6oQiZxwn
コツ、コツ…

千歌「校庭にも、この廊下にも……」

梨子「そうね。やっぱり、誰もいないみたい」

千歌「も、もしかして、私たちだけだったりして……」

梨子「そ、それはないわよ。学校が開いてる日は、先生が何人か職員室にいるようになってるから」

千歌「そういうもの、なんですね」

梨子「さすがに、誰もいないようじゃ危ないからね」

梨子「……えっと、まずは私たちの教室に行ってみようか」

千歌「わかりましたっ」

梨子「こっちの階段よ」

タン、タン…
2018/12/29(土) 12:03:21.00ID:6oQiZxwn
梨子「ここね、よいしょ……っと」

ガララッ

千歌「わぁ……日差しが差し込んでて、なんだか綺麗ですね!」

梨子「ふふっ、そうね。ちょっと……いや、結構暑いのは困ったものだけど」

梨子「今は夏休みだけど……普段は、ここで授業が行われてるわ」

千歌「授業……ですか?」

梨子「えっ?」

千歌「あ、いや……その授業で、私はどんなことを学んだのかなって……」

梨子「う、うーん……現代文とか、数学とか……?」

千歌「そう、なんですか……私はここで、1年半くらい……ずっと通っていたんですよね」

梨子「そう、だけど……」

千歌「……現代文とか、数学とか、言葉はわかるけど……」


千歌「――……何を学んだか、何を勉強したかは……私の中には……ない、みたいです」
2018/12/29(土) 12:03:46.93ID:6oQiZxwn
梨子「……っ」

千歌「あはは、困りましたね……私、卒業できるんでしょうか……」

梨子「……させる、わよ」

千歌「へっ?」

梨子「千歌ちゃんが……千歌ちゃんさえ良ければ、必ず卒業させる」

千歌「……」

梨子「今は病院での検査とかもあるし、無理だろうけど……勉強なんて、私がいくらでも教えるよ」

千歌「で、でも……」

梨子「私だけじゃない。曜ちゃんも、他のみんなも……必ず、手伝ってくれるわ」

千歌「……どうして」

梨子「えっ?」


千歌「……どうして、そこまでしてくれるんですか……?」
2018/12/29(土) 12:04:14.24ID:6oQiZxwn
ビュウッ!

千歌「……わっ!? 窓から、風――」

梨子「……言ったでしょ? 大切な友達だ、って」クスッ

千歌「そん、な……」

ヒュー…

千歌「だって、私……記憶を、失ってるんですよ?」

千歌「今だって……あなたは、梨子さんは……こんなに優しくしてくれてるのに……」

千歌「私は、なに、ひと……つっ……うぅ……」グスッ

千歌「ぐすっ……何一つ、思い出せない……っ」ゴシゴシ

梨子「それでも、よ」

千歌「でもっ!」

梨子「でもも何もないの」

千歌「……っ」
2018/12/29(土) 12:04:42.35ID:6oQiZxwn
梨子「……ねえ」

千歌「……」グスッ

梨子「いい風だと思わない?」

ヒュー…パタパタ…

千歌「……そう、ですね……」

梨子「私ね。冷房があったら……この風は、感じられなかったと思うの」

千歌「……」

梨子「この、気まぐれな風に吹かれながら……曜ちゃんや千歌ちゃんと、同じ教室で授業を受けて……」

梨子「休み時間にお話ししたりする時間が、とっても楽しかった」

千歌「思い出せないのは悔しいけど……そう言われると、嬉しいです」エヘヘ

梨子「……ううん。私たちの卒業まで、まだ時間はある」

梨子「流石に、ずっと高校にいるわけにはいかないけど……学校生活が続く間、これからも……」

梨子「千歌ちゃんと曜ちゃんと……みんなと。出来る限り……一緒にいたいなって」
2018/12/29(土) 12:05:07.89ID:6oQiZxwn
梨子「……よいしょ、っと」トコトコ…ガタッ

千歌「……そこは」

梨子「……ええ、私の席」クスッ

梨子「千歌ちゃんも、自分の席に座ってみたらどうかな。そこの椅子よ」

千歌「は、はい……えいっ」ギィ…トスッ

「……」ヒューッ…パタパタ

千歌「私……」

梨子「ん?」

千歌「私、みんなのこと……まだよくわからなくて」

梨子「そ、それは仕方ないよ。面会時間も短かったし……」

千歌「それで、梨子さんのことも……」

梨子「……」
2018/12/29(土) 12:05:35.30ID:6oQiZxwn
千歌「……でも」

千歌「今、話してて……とっても、安らぐんです」

梨子「……っ」

千歌「私のことを想ってくれてるのが、伝わってきて……だから」

梨子「だか、ら?」


千歌「――もし、私が授業に全くついていけなかったら……」

千歌「……その時は勉強、教えてくださいね」ニコッ

梨子「っ!」

梨子「……もちろん」ニコ
2018/12/29(土) 12:06:01.15ID:6oQiZxwn
ガララッ…ガタン

梨子「ふう……じゃあ、次の教室に行こっか」

千歌「はいっ。それにしても……卒業には、統廃合のことも絡んでたんですね」

梨子「え、ええ……勢いで卒業とか言っちゃったけど、統廃合の危機にあったのを忘れてたわ」

千歌「それで、廃校を阻止するために集まったのが……」

梨子「そう、私たち9人。『Aqours』よ」

梨子「千歌ちゃんのお母さんから、話は少し聞いたんだっけ?」

千歌「はい、結成の理由とかは聞かされなかったけど……」

千歌「記憶喪失を起こした直後、面会に来てくれた8人が、Aqoursのメンバーってことは知ってます」

梨子「……うん」

千歌「それで、私たちは……スクールアイドル、だったんですよね」

梨子「そう……ね」

千歌「……私が、アイドルなんて……プロじゃないってことを考えても……」

梨子「想像できない?」

千歌「……はい」
2018/12/29(土) 12:06:27.30ID:6oQiZxwn
梨子「大丈夫よ。千歌ちゃんは立派にリーダーを務めてた」

梨子「それに……かわいかったわよ?」

千歌「なっ……もう、からかわないでくださいっ」カァッ

梨子「ふふっ」

タン、タン…

千歌「……次は、どこに?」

梨子「うーん……千歌ちゃんには、あまりなじみのないところかな?」

千歌「えっ……ちなみに、梨子さんは?」

梨子「まあまあ、かな。いったりいかなかったり……」

梨子「……っと、ここね」

千歌「『図書室』……ですか?」
2018/12/29(土) 12:06:52.74ID:6oQiZxwn
ガララッ

梨子「……ここにも、誰もいないみたいね」

梨子「風に当たる者のいない扇風機が、一人虚しく動いてる……」ブオー…

千歌「……ひと『り』?」

梨子「……こほん。えーっと……ここは見ての通り、図書室よ」

千歌「ご、ごまかした……でも、なんとなくわかります」

梨子「わかる?」

千歌「はい……私はあんまりいかなそうだなって」

千歌「確かに、私にはなじみのない場所かも知れませんね」エヘヘ

千歌「こんなにたくさん本があるのに、そのどれにも触れない……っていうのは、ちょっともったいない気もしますけど」

梨子「そうね……もし気が向いたら、寄ってみてもいいかも」

梨子「色々な本があるし、落ち着けるし……そうだ。学校が始まってからなら、きっと花丸ちゃんも喜ぶよ」

千歌「花丸さん……ですか?」
2018/12/29(土) 12:07:18.73ID:6oQiZxwn
梨子「ええ、花丸ちゃんは図書委員だから」

梨子「普段はこの、扇風機があるカウンター側にいて……本の貸出とか、管理とか……花丸ちゃんが担当してるの」

千歌「へ〜……そんなシステムがあるんですね」

梨子(あっ……『図書委員』って言葉、千歌ちゃんには……)

千歌「……梨子さん?」

梨子「あっ、ううん。なんでもない」

梨子「……あとは、そうね……」

千歌「なんですか?」

梨子「……放課後とか、勉強するにはうってつけかな」クスッ

千歌「な、なるほど……長い付き合いになるかもしれませんね……」ゴクリ
2018/12/29(土) 12:08:09.32ID:6oQiZxwn
千歌「よ……っと」ガララッ ピシャン

梨子「そうそう、出てから言うのもなんだけど……図書室内では静かにね?」

千歌「梨子さんは、たまに行くんでしたっけ?」

梨子「ええ……本を読みにいったり、あとは花丸ちゃんとお話ししにいったりとか」

千歌「……静かにお話し、ですか?」

梨子「……図書室に他の誰もいないときはその限りじゃないかも」

千歌「な、なるほど……さすが、廃校の危機なだけありますね……」

梨子「もう……他人事じゃないんだけど」

千歌「そ、そうだった……」

梨子「ふふっ、大丈夫よ。千歌ちゃんは今、自分の事を考えないとね」

千歌「はい……ありがとうございます」

梨子「次はこっち。階段を使うよ」

タッ、タッ…
2018/12/29(土) 12:08:34.90ID:6oQiZxwn
タン、タン…タッ…

千歌「わあ……!」

梨子「ここが、屋上。風はまだ少しあるみたいね」ヒュー

千歌「学校って、こんな場所があるんですね!」タタッ

梨子「そ、千歌ちゃんがここに来るのも何度目かしら」クスッ

千歌「えっ……記憶を失う前の、私は……」

梨子「……ええ、何度も来てたの」

千歌「……」

梨子「それでね。ここでは……みんなで、歌やダンスの練習をしてた」

千歌「……スクールアイドルだから、ですか?」

梨子「そうね、それは勿論だけど……」

千歌「……」

梨子「『やりたいから』やってた。みんな、そうだと思う」
2018/12/29(土) 12:09:16.74ID:6oQiZxwn
ヒュー…

「……」

千歌「……歌も、ダンスも……」

千歌「……私、は……」

梨子「これからやればいいだけよ」

梨子「千歌ちゃんに、その気があれば……ね」

千歌「……はい」

梨子「……ねえ。最後に一つだけ、行きたい場所があるんだけど……」

千歌「え? あ、勿論大丈夫ですっ」

梨子「ふふっ、よかった。じゃあ、屋上からは降りようか」

千歌「そうですね……」

梨子「……千歌ちゃん?」

千歌「あっ、いえ、なんでも……えへへ」

梨子(……夕日……もう、夕方だったのね……)

梨子「さ、こっちよ」

千歌「はーい」

タッ、タッ…
2018/12/29(土) 12:09:42.59ID:6oQiZxwn
「……」

タン、タン

千歌「……」

梨子「……」

千歌「次は、どこへ……」

梨子「……」タッ、タッ

千歌「……梨子さん?」

梨子「えっ!? あっ、ううん。どうしたの?」

千歌「なんか、上の空だったような……」ジー

梨子「だ、大丈夫。ただ……この後のことを、ちょっと考えてて」

千歌「この後……? どこかに行くんですよね」

梨子「うん。それでね、千歌ちゃんに見せたいものがあるの」

千歌「見せたいもの……ですか?」

梨子「……いや、見せたいものというよりは……『聴かせたいもの』かな」

千歌「……ほぇ?」
2018/12/29(土) 12:10:09.04ID:6oQiZxwn
タン、タン

梨子「……ここだよ」ピタッ

千歌「音楽、室……?」

梨子「そう、中に入ろっか」ガララッ

千歌「……わぁ! すごいっ、おっきなピアノですね!」タタッ

梨子「ええ」

梨子(……初めて見るみたい。でも、そう……だよね……)

千歌「ってことは『聴かせたいもの』って……」

梨子「うん。千歌ちゃんに聴いてほしい曲があるの」

千歌「じゃあ、早く聴かせてくださいっ。楽しみです!」

梨子「も、もう……大丈夫よ。ピアノは逃げたりしないわ」
2018/12/29(土) 12:10:35.92ID:6oQiZxwn
梨子「よいしょ……っと」トスッ

梨子(ふう……こうして椅子に座るのも、鍵盤を前にするのも……やっぱり、少し緊張するな)

梨子(でも、それでも……私は……)

千歌「それで、どんな曲を演奏するんですか?」

梨子「……千歌ちゃんが」

千歌「え?」

梨子「――記憶を失う前に好きだった曲、よ」

千歌「……っ」

梨子「ふふっ、緊張しないで。私は、ただ……千歌ちゃんが心地よく聴いてくれれば、それだけで嬉しいから」

千歌「……そう、ですよね……わかりましたっ」
2018/12/29(土) 12:11:16.85ID:6oQiZxwn
梨子「……でも、千歌ちゃん? その……」

千歌「ほぇ?」

梨子「そうやってピアノの前で凝視されると、さすがに恥ずかしいんだけど……」

千歌「えぇっ!? でも聴くだけじゃなくて、梨子さんの様子も見たいな〜って……」

梨子「ま、まあ、そうしたいならいいけれど……よし。じゃあ、始めるね」

千歌「はいっ!」


…タン…♪


梨子「……ユメ〜ノト〜ビ〜ラ〜♪」

千歌「……わあ!」

梨子「ずっとさ〜が〜し〜つづ〜け〜た〜♪」タン、タラン♪

梨子「きみと〜ぼく〜と〜の〜……」タン、タン♪

千歌「……」

梨子「つな、が……り、をっ……」タン…
2018/12/29(土) 12:11:44.79ID:6oQiZxwn
千歌「っ……梨子、さん……?」

梨子「さが……ぐすっ、し……うぅ……」ポタッ

千歌「梨子、さん……」

梨子「……ごめん、なさい……私、こんな……泣いちゃ、いけないのに……!」グスッ

千歌「謝らないでくださいっ! 私は、全然大丈夫です……」タタッ

パッ…ギュウッ

梨子(っ!? ……私の、手を……)

千歌「……って、わあっ!? すみません! こんな、突然……」パッ

梨子「――ううん、ぐすっ……ありがとう。びっくりしたけど……ちょっと、落ち着けたよ」クスッ

千歌「そう……ですか。それなら、良かったです」

梨子「うん。でも……どうして、私の手を握ったの?」

千歌「えっ……と、どうしてでしょうか。梨子さんが泣いてたから……居ても立ってもいられなくなった、というか……」エヘヘ
2018/12/29(土) 12:12:10.77ID:6oQiZxwn
梨子「……ふふっ、そっか」

千歌「あと、その……」

梨子「……ん?」

千歌「――手が、震えてるように見えたので……」

梨子「っ……あなたは、本当に……」

梨子「――鋭い、のね……」グスッ

千歌「そ、そんな……それより、大丈夫ですか?」

梨子「大丈夫、って?」

千歌「梨子さんの演奏は、すっごく聴きたいです。でも、また……泣いちゃうくらいなら、私は……」

梨子「……大丈夫。ごめんなさい……次は、ちゃんと演奏するわ」
2018/12/29(土) 12:12:36.41ID:6oQiZxwn
千歌「だ、だから、謝らなくても……」

梨子「ううん、謝るの」

千歌「……どうして、そんな……」

梨子「……相手が一人でも、何人でも……聴きにきてくれた人に対しての……」

梨子「――……人に聴かせる演奏を、途中で止めてしまった」

梨子「……それは、簡単に片づけられることじゃないって……私は、そう思ってる」

千歌「……」

梨子「例え相手が、千歌ちゃんみたいに優しくても……ね」

千歌「……真面目、なんですね」

梨子「ふふっ、どうかしら」

千歌「ええっ、肯定も否定もしないんですか……」

梨子「……ふう。もう一回、演奏するね」タン、タン…

千歌「はいっ、お願いします!」
2018/12/29(土) 12:13:02.16ID:6oQiZxwn
タン…♪

梨子「……ユメ〜ノト〜ビ〜ラ〜♪」

梨子「ずっとさ〜が〜し〜つづ〜け〜た〜♪」タン、タラン♪

梨子「きみと〜ぼく〜と〜の〜……♪」タン、タン♪

千歌「……」

梨子「……つながりをさ〜が〜し〜て〜た〜♪」タン、ポロロン♪

〜♪

梨子「……せいしゅんのプロ〜ロ〜〜ォ〜……グ〜♪」タラララ…タン♪

千歌「……す、ごい……」パチパチパチ

梨子「ありがとうございました」スタッ…ペコリ

梨子「どうだった……かな?」

千歌「う〜ん、言葉にするのは難しいけど……感動した、というか……?」

千歌「歌声も綺麗だし、ピアノの演奏も……梨子さんの言う通り、心地よく聴けました」

梨子「そっか……良かった。ありがとう」

千歌「い、いやいや! 私がお礼を言いたいですっ……ありがとう、ございます」
2018/12/29(土) 12:13:30.89ID:6oQiZxwn
千歌「……いい曲、ですね」

梨子「うん、私もそう思う」

梨子「……って、この曲は千歌ちゃんから教えてもらった曲なんだけど」

千歌「え……あ、そういえば! 私が記憶を失う前に好きだった曲、でしたっけ」

梨子「そうよ。すっかり忘れちゃってるのね」クスッ

千歌「もうっ、笑い事じゃないですよっ」

千歌「……この曲、は……」

梨子「……この曲はね、『スクールアイドルの曲』……よ」

千歌「えっ……?」

梨子「それで……私の先輩さんたちが作った曲でもあるの」

千歌「そ、そうなんですか!?」
2018/12/29(土) 12:14:02.16ID:6oQiZxwn
千歌「それじゃあ、この学校には……前にも、スクールアイドルグループがあったんですか?」

梨子「え、ええっと……それもそう、ね」

千歌「それ……『も』?」

梨子「……ううん、なんでもない」

梨子「この曲は、東京にある学校のグループが作った曲」

千歌「え、ええっ!? なんか、こんがらがってきた……!」

千歌「……あれ? ということは、梨子さんは……」

梨子「そ……私、東京からの転校生なのよ?」

千歌「え〜っ!?」

梨子「お、驚いてばっかりね……」

千歌「そりゃ驚きますよっ!」
2018/12/29(土) 12:14:28.06ID:6oQiZxwn
梨子「……さっき、少しだけピアノの話をしたでしょ?」

千歌「はい。『ミスは簡単に片づけられない』って話……ですよね」

梨子「うん。私は……ずっとピアノをやっていたの。勿論、東京の学校にいる時も」

梨子「それでね、コンクールに出たこともあったんだけど……」

千歌「へ〜、すごいですねっ」

梨子「ううん。そのコンクールで……演奏ができなかったの」

千歌「えっ……」

梨子「さっきのとはちょっと違うけど……失敗した、って意味では同じね」

梨子「その後、この内浦にきて……この学校に転入して」

千歌「……」

梨子「それで……千歌ちゃんと出会った」

千歌「……っ」
2018/12/29(土) 12:14:57.89ID:6oQiZxwn
梨子「そういえば……転入した直後は、千歌ちゃんからしつこく勧誘されたっけ」クスッ

千歌「かん、ゆう……?」

梨子「そう。Aqoursは最初、千歌ちゃん一人だけだったのよ?」

千歌「き、記憶を失う前の私は積極的だったんですね」

梨子「うん、随分と苦労したわ」クスッ

千歌「あ、あはは……お恥ずかしい限りです……」

梨子「その時、私は……『ピアノに専念したいから』って、断り続けてきた」

千歌「……」

梨子「それでも、あなたは……諦めなかったの」

梨子「……何をやっても楽しくなくて、変われない……」

梨子「そんな私に……手を差し伸べてくれた」

梨子「……さっきみたいに、ね」フフッ
2018/12/29(土) 12:15:23.96ID:6oQiZxwn
千歌「……」

梨子「……どうしたの?」

千歌「……そんな大切なことを、忘れて……思い出せないのが……」

千歌「ちょっと、悔しくて……」

パッ…ギュッ

千歌「っ!?」

梨子「千歌ちゃんが、どんなに思い出せなくても……私は、絶対忘れない」

梨子「千歌ちゃんのおかげで……Aqoursのみんなに出会えて」

梨子「今までが、ずっと……楽しかった」

梨子「私を……変えてくれた」

ギュウッ

梨子「――……今度は、私が手を差し伸べる番だって思うの」

梨子「私だけじゃない。曜ちゃんも――みんなも」

梨子「きっと、こうやって……手を伸ばして……握ってくれる」
2018/12/29(土) 12:15:50.12ID:6oQiZxwn
千歌「はい……ぐすっ……ありがとう、ございます……っ」

梨子「もう、泣かないの……かわいい顔が台無しよ?」

千歌「っ……ち、茶化さないでくださいっ」ゴシゴシ

梨子(……やっぱり、握る力が……強い)

梨子(そう、よね。記憶喪失を起こして……怖くないわけ、ないよね……)

梨子「……ねえ」

千歌「……はい?」グスッ

梨子「……もう一つ、聴いてほしい曲があるの」

千歌「……聴かせて、ください」

梨子「もちろん……始めるわね」トスッ


梨子「……」スウッ

梨子「――……お〜も〜い〜よひとつになれ〜♪」タン、タタン♪

梨子「こ〜の〜と〜きをま〜っていた〜♪」

タン、タン、タン、タン、タン…タタタン♪
〜♪
2018/12/29(土) 12:16:16.09ID:6oQiZxwn
千歌「うわっ、結構日が沈んでるっ!」タッタッ

梨子「う……すっかり長居しすぎちゃった」タタッ

千歌「もしかして、ドジっ子なんですか?」

梨子「……怒るわよ?」

千歌「ひっ……じ、冗談ですよ〜……あはは……」

梨子「はあ……むしろ、受付の人や千歌ちゃんの先生に怒られないか心配よ」

千歌「大丈夫ですよっ。先生は優しいので……多分」

梨子「多分って……余計不安なんだけど」

千歌「あ、あはは……」

梨子「じゃあ、ちょっと急ごう? でも、はぐれないようにね」

千歌「はいっ」
2018/12/29(土) 12:16:41.72ID:6oQiZxwn
ウイーン…ピシャッ

梨子「ふうっ、着いた」

千歌「やっぱり、結構歩きますね」アハハ

「お〜い、おかえりっ」パッ、ギュウッ

梨子「……曜ちゃん!?」

千歌「曜さんっ!」

曜「……二人とも、生ぬるい手……」

梨子「曜ちゃんの方も生ぬるいわよ……ねえ、千歌ちゃん。言った通りでしょ?」

千歌「本当、ですねっ」ギュッ

曜「え〜、何なにっ? 何のお話し?」

「だーっ! じゃれついてないで、帰ったのを受付の人に話しなさいよっ」

梨子「よ、善子ちゃんもっ」

善子「いいからっ。私たちはこのロビーで待ってるわよ」

梨子「そ、そうだね。千歌ちゃん、帰ってきたって受付の人に伝えよう?」

千歌「は、はいっ」
2018/12/29(土) 12:17:07.44ID:6oQiZxwn
梨子「……ふう、ただいま」

曜「おかえりっ」

善子「おかえり。大丈夫だったの?」

梨子「ええ、まあ……私は……」

曜「私『は』?」

梨子「千歌ちゃんは、この後に検査を受けるらしくて……」

善子「……さっき、奥の病室に連れていかれたのは……」

梨子「ええ……『みんなと話したい〜!』って叫びながら、看護師さんと一緒に奥へ消えていったわ……」

曜「あ、あはは……『千歌ちゃんらしい』って言うのもなんだかおかしいけど、千歌ちゃんらしいね」

善子「っていうか、病院では静かにしなさいよ」

曜「善子ちゃんも、さっきは少し声大きかったよ?」

善子「フッ、堕天使ヨハネにとっては、下界での会話など一時の戯れにすぎな……」

「……」シーン

善子「……ヨハネよっ!」

ようりこ「「静かに」」

善子「……はい」
2018/12/29(土) 12:17:33.77ID:6oQiZxwn
善子「えーっと……」ポチッ ガタンッ

善子「……ほら、二人とも。これでも飲んだら?」タタッ

梨子「善子ちゃん……ありがとう。じゃあ、私はカフェラテを貰おうかな」パッ

曜「私はこの……えーっと……『振って飲むぷるぷる静岡みかんゼリージュース』?……っていうのを貰うね」パッ

善子「私はブラックコーヒーね」カシュッ…ゴクッ

善子「……苦い……ココアにすれば良かった……」

曜「……ぷは〜っ、これ美味しいっ!」

梨子「うん……こうするだけでも、ちょっと落ち着けるね」

梨子「……あっ、そうだ。お金お金……」

善子「み、水臭い……お金はいいわよ」

梨子「え? でも……」

善子「いいの。千歌に学校を案内してくれたんでしょ?」

善子「安すぎるけど……それに対しての感謝としてでも受け取りなさい」

梨子「……安くなんてないよ。よぉ〜く、味わって飲むね」ニコ

善子「大げさすぎよっ!?」
2018/12/29(土) 12:18:19.30ID:6oQiZxwn
善子「あ、曜からはお金をもらうわよ?」

曜「が〜ん……でも、この『振って飲むぷるぷる静岡みかんゼリージュース』に出会えた謝礼としてなら、130円は安い……」

善子「あ、アンタも大げさね……冗談よ。こうして付き合ってくれてるだけで、充分嬉しいわ」

曜「ううん……私だって、こうして善子ちゃんといられて良かった」

「……」

梨子「……二人で、私たちの事……待っててくれたんだよね」

善子「ええ。ほら、梨子ってちょっとドジったりするし……」

梨子「……怒るわよ?」

善子「……へい」

曜「最初は私一人でここに来て、待ってようかなって思ってたんだけどね。こう、家でじっとしていられなかった!」

曜「それで、LINEにそのことを書いたら……善子ちゃんも来てくれるって」

善子「そう。それで、こうして病院のロビーで待ってたの」

梨子「そう、なんだ……いつ戻るかもわからないのに、待っててくれたんだね」

梨子「……本当に、ありがとう」
2018/12/29(土) 12:18:49.07ID:6oQiZxwn
曜「……正直ね。LINEで、ああは言ったけど……一人でここで待っていたら、心細かったと思うんだ」

曜「千歌ちゃんが、記憶喪失になって……梨子ちゃんと、学校に行くって聞いて」

曜「もちろん、梨子ちゃんなら大丈夫って思ってたけど……それでも、心配だった」

曜「……でも、善子ちゃんが来てくれて……一緒に居て、話してるだけで……」

梨子「……だけで?」

曜「……救われた?」

善子「大げさな上に疑問形……」

曜「あ、あはは……とにかく、善子ちゃんと待っていたら……」

曜「こうして、梨子ちゃんが帰ってきてくれて、千歌ちゃんの顔も見られて……」

曜「……安心したよ」ニコッ

善子「……直後に千歌が連行されていったのは少し残念だけどね」

曜「う、確かに……少し話してもいいかも、って思ってたし……」

善子「でも、無理言うわけにもいかないわね。千歌も、検査を受けないとダメでしょう?」

梨子「うん。多分、この後じゃないかな」

梨子「……記憶喪失に関して、ね」
2018/12/29(土) 12:19:15.06ID:6oQiZxwn
「……」

曜「……ねぇ、梨子ちゃん。千歌ちゃんは……どうだった?」

善子「……私も気になるわ」

梨子「うん……私も、自分から言おうって思ってたから」

梨子「まず……記憶喪失っていうのは、一緒に居るとより実感が強くなった……かな」

梨子「今日行ったのは……千歌ちゃんが記憶を失う前に通ってた、浦の星女学院だから」

曜「……」

梨子「私たちの教室も、図書室も……屋上も。全部、初めて見るみたいだった」

善子「……実際、千歌の中では……『初めて見た』んでしょうね」

梨子「うん……それでも、千歌ちゃんは……」

曜「……千歌ちゃん、は……?」

梨子「記憶を失ってても、呼び名や話し方が違っても……千歌ちゃんらしいな、とも思ったの」

善子「……さっき、曜も少し言ってたわね」
2018/12/29(土) 12:19:40.63ID:6oQiZxwn
梨子「千歌ちゃんからも聞いたわ。『記憶を失っても、その人間らしい振る舞いは失われない場合が多い』……って」

梨子「正確には、千歌ちゃんを担当してる先生の言葉だけど」

善子「そう、ね……病室で見た時も、さっきの様子だけでも……私も、そう感じるわ」

善子「……まっ、これに関しては、小さい頃からず〜っと一緒に居る曜が一番実感してるだろうけど」

曜「なっ、私に振るの!? ……でも、そうだね。確かに、その通りだと思う」

曜「善子ちゃんも、花丸ちゃんのことは全部わかってるでしょ?」

善子「フッ、私を誰だと思ってるの? この堕天使ヨハネに、知らぬことなど……」

善子「……って、知らないわよ! ずら丸に話飛んじゃってるじゃない!?」

曜「ぷっ……あははっ」

梨子「……ふふっ」

善子「笑うなっ!」
2018/12/29(土) 12:20:11.84ID:6oQiZxwn
曜「あはは、ごめんごめん」

梨子「でも、こうしていると……やっぱり、楽しいね」フフッ

善子「……何よ、もう……ふふっ」

善子「……今度は、ここに……」

曜「そうだね。千歌ちゃんも……それに、Aqoursのみんなも」

梨子「うん。みんなで話せば……きっと、もっと楽しいよ」

梨子「まあ、ロビーでも、千歌ちゃんの病室で話すにしても……あんまり大きい声は出せないけど」

ようよし「「……確かに」」

梨子「……もっとこうしていたいけど……そろそろ、帰ろっか」

曜「うわっ、こんなに経ってたんだ……そうだね、何かあったらLINEで話そう」

梨子「うん……そうだ、今日の学校案内はしっかりLINEにまとめておくね」

善子「りょーかい、助かるわ……ねえ、ちょっといい?」

梨子「ん?」

曜「どうしたの?」

善子「……ずら丸ってさ。LINE……というか、スマホ使ってないわよね……」

「……」シーン

ようりこ「「善子ちゃん、任せた(よ)!」」

善子「やっぱり!? ……わかったわよ、メールかなんかで送っておくわ」

善子「……アイツも、千歌の事を心配してたしね」

曜「……うん」

梨子「そう……だよね」
2018/12/29(土) 12:20:43.33ID:6oQiZxwn
ウイーン…ピシャン

トコトコ…

曜「……じゃあ、私たちはこっちだから!」

善子「じゃあね、梨子」

梨子「ええ、今日はありがとう」

曜「こちらこそっ! じゃね!」


「……」トコトコ

善子「……」

曜「……」

善子「……はあ〜っ……」

曜「えっ、突然のため息……幸運が逃げちゃうよ?」

善子「神から追放された堕天使である私に、幸運など初めから存在しな……わあっ!?」トテッ

曜「わっ……とと! 大丈夫?」ドサッ

善子「うぅ、危な……曜が支えてくれなかったら、コケてたわね……」
2018/12/29(土) 12:21:08.99ID:6oQiZxwn
善子「もう、こんなところに空き缶ポイ捨てしたのはどいつよ!?」

曜「あはは、むしろ不幸を呼んじゃったね」

善子「全く……あそこにゴミ箱があるから捨ててくる」ヒョイッ タッタッタッ…

曜(だ、堕天使とは一体……)

善子「ただいま……どうしたの? そんな顔して」

曜「あ、ううん、なんでもないっ。善子ちゃんこそどうしたの? ため息ついて……」

善子「いや、今日病院に行く前にゲームしてたんだけど……」

曜「けど?」

善子「全然身が入らなくて、モンスターにボコボコにされたのを思い出して……」

曜「あららー……」

曜「……やっぱり、千歌ちゃんのこと……だよね」

善子「そう、ね。梨子のことも、だけど……心配だったし」
2018/12/29(土) 12:21:34.96ID:6oQiZxwn
善子「結局……梨子に関しては、杞憂だったけど」

善子「……フッ……さすが、私のリトルデーモンなだけあるわね」ギラン

曜「はいはい」

善子「雑っ!?」

トコトコ

善子「……ねえ、曜」

曜「うん?」

善子「前にした話、覚えてる?」

曜「……千歌ちゃんと善子ちゃんがゲームで遊んだ、って話?」

善子「……聞いておいてなんだけど、よくわかったわね」

曜「あははっ。善子ちゃんと一緒に居る時間だって、短くないから」
2018/12/29(土) 12:22:00.59ID:6oQiZxwn
善子「私がAqoursに入って、少し経った頃……かしら」

善子「その時も、私はまだ学校に馴染めてないんじゃないかって……ちょっと思ってた」

善子「それでも、楽しかったわ。ずら丸やルビィ、クラスのみんなと話すのも……」

善子「勿論、Aqoursのみんなでいる時も……ね」

曜「……うん」

善子「それでね。さすがに、正確な日付は覚えてないけど……部室で千歌と二人きりになったことがあるの」

曜「ほうほう、二人きり……」ニヤニヤ

善子「何笑ってんのよ」

曜「なんでもないよ、それで?」

善子「ちょっとだけ部室を整理した後、二人で座って……一息ついて」

善子「千歌はあんな感じだし、別に気まずさがあったわけじゃないけど……『何を話そうかな』ってふっと思った」
2018/12/29(土) 12:22:26.69ID:6oQiZxwn
善子「でも、私が口を開く前に……アイツ、ゲームの話を持ち出してきたのよ」

善子「そうね……『ねえ、善子ちゃんってゲーム得意だったよね〜?』って感じで」

曜「うわ、似てな……」

善子「うるさいっ! これでも頑張って再現したのよっ!」

善子「……それでさ。『それがどうしたの?』って、ちょっとつっけんどんに返しちゃったんだけど」

善子「そしたら『このゲームのここがクリアできなくて〜』……って」

善子「そのゲーム、ちょうど私もハマってたゲームだったのよ」

曜「へえ、すごい偶然……いや、そこそこの偶然……ってくらい?」

善子「し、締まらない言い方だけどそうなるわね……まあまあ人気のゲームだったし」

善子「……同じゲームをやってる人が近くにいたんだ、って喜んだ」

善子「その勢いのまま、私は色々話したわ。攻略法だけじゃなくて、ストーリーとかキャラクターとか……聞かれてないことも」

善子「ネタバレはしない様に気を付けてたけどね。うーん……5分くらいは、一人で喋りまくってたかも」

曜「な、長っ!? 5分って無駄にリアルだよ!」

善子「し、しょうがないでしょ!? ちょっと舞い上がっちゃったの! っていうか、リアルの話よ!」
2018/12/29(土) 12:22:53.50ID:6oQiZxwn
善子「……それで、ひとしきり喋った後に……ハッとなったというか、我に返ったというか」

曜「……」

善子「千歌が、ぽかんと口を開けてるのを見て……」

善子「『またやっちゃった』……って思った。自己紹介の時とか、学校で堕天モードが発現した時みたいにね」

曜(は、発現って……)

善子「こんなことしても、千歌は距離を置いたりしない……っていうのは、それまで一緒に居てわかってたけど」

善子「その頃は、やっぱり学校に不安を抱えていたから……この癖は直さないと、くらいはぼんやり考えてたわ」

曜「……」

善子「……でもね、その後千歌は……」

善子「目をキラキラさせて、食いついてきたの」

善子「『ええっ!? そんな攻略法があったの!?』から始まって……」

善子「『あのキャラにはそんな心情が隠れていたんだ!」とか『ストーリーで曖昧だったところが良くわかったよ!』とか……」

曜「おおっ、さっきよりは千歌ちゃんっぽい……!」

善子「そりゃ、よく覚えてるから……って、そこに反応するの!?」
2018/12/29(土) 12:23:19.28ID:6oQiZxwn
曜「うん、千歌ちゃんの様子が良く伝わってくるなって!」ニコッ

善子「あっそ……」

曜「それで、その後善子ちゃんの家でゲームしたんだっけ?」

善子「そうよ。私も千歌も熱中し過ぎて、時間に気付いた千歌がバタバタ帰って行ったのも覚えてるわ」

曜「あ、あはは……それはそれで、簡単に想像できる……」

トコトコ

善子「……私、ね」…ピタッ

曜「……ん?」タッ…

善子「あの時抱いた感情は、今でも鮮明に覚えてるし……一生忘れないと思う」

曜「……かん、じょう?」

善子「情けない話だけど……」

善子「あの時……泣きそうになっちゃって」

曜「……」
2018/12/29(土) 12:23:44.92ID:6oQiZxwn
善子「自分から一方的に話し始めて、一人で失敗した気になってた……」

善子「それなのに、千歌は……アイツは、そんなことはつゆ知らずで」

善子「表情はああだったけど、実際は私の話を全部聞いていて……」

善子「私と同じくらい、一人で喋って……さ」

善子「その時は『フッ……良くわかってるじゃない。さすが、私のリトルデーモンね』」

善子「……とか言って、泣きそうなのをごまかしたけど」

曜「……」

善子「本当は……嬉しくて」

善子「千歌からすれば、最初からそうだったんだろうけど……」

善子「『私のありのままを受け入れてくれるんだ』って、実感した」

善子「……失敗した、なんて考えてる自分も、バカらしく思えてきちゃった」
2018/12/29(土) 12:24:11.36ID:6oQiZxwn
曜「……いい思い出、だね」

善子「ええ……この話は、堕天使ヨハネが本か何かで後世に伝えなければ……」

曜「うわ、発現した……本か何か、って……」

曜「……千歌ちゃんも、楽しかったんだろうね」トコトコ

善子「……え?」タッ

曜「千歌ちゃんはそんなに深く考えてなかったというか……いや、この言い方はちょっと失礼だけど……」

曜「ただ単に、話したいように話してた。それは、きっと……」

善子「……」

曜「……善子ちゃんと話すのが、楽しかったからだよ」

善子「……そう、ね」

善子「こっちは色々思ってるのに、全く……のんきなんだから」

曜「あはは」
2018/12/29(土) 12:24:38.44ID:6oQiZxwn
善子「……」トコトコ

曜「……」トコトコ

善子「……まあ、今の話も……もう、千歌の中にはないんだろうけど」

曜「……そう、だね」

「……」

善子「……明日、さ」

曜「ん〜?」

善子「千歌と、ゲームでもしようかなって……」

善子「……あの時みたいに」

曜「うん……善子ちゃんなら、そう言うんじゃないかって思ってた」クスッ

善子「クッ、心を読まれた!? こいつ、出来るっ……!」

曜「うわ、また発現しちゃったか〜……」

善子「面倒そうに流さないのっ!」
2018/12/29(土) 12:25:13.02ID:6oQiZxwn
曜「……梨子ちゃんと、同じだね」

善子「えっ?」

曜「千歌ちゃんが、記憶喪失になって……今でもみんな、動揺してると思うんだ」

曜「……少なくとも、私はそう」

善子「私も、よ」

曜「ふふっ、そっか。それでも……千歌ちゃんと一緒に居たいって」

曜「……善子ちゃんも、思うんだね」

善子「……フッ、浅はかね。愚かな人間風情が……」

曜「ひどっ!?」

善子「千歌のことは心配よ。未だに実感はわかないけれど……記憶も取り戻せるんじゃないかって、諦めたわけじゃない」

善子「でも、一番は……」

曜「……」


善子「――……9人がAqoursとして、今までやってきたように……これからも、活動したい」


曜「……っ!」

善子「……そのためには、なんとしてでも千歌に戻ってもらわないと……Aqoursに、ね」

曜「うん……うんっ! 私もそう思うっ」

善子「……あのさ、曜。アンタが良ければ、明日は3人で……」

曜「え、いいのっ!?」

善子「むしろ断るわけないでしょっ!?」

曜「あ……あはは、確かにそうだね……うん、勿論! 善子ちゃん家、だよね?」

善子「ま、そうなるわね……千歌の家に行くわけにもいかないし」

曜「じゃあ、明日を楽しみに……あっ、梨子ちゃんからのLINE……えっ」ポチッ

善子「えっ……あっ」チラッ

ようよし「「バスの時間が〜っ!?」」
2018/12/29(土) 12:25:38.85ID:6oQiZxwn
善子「ただいま……」ガチャッ

<オカエリ…カオイロワルイワヨ?

善子「え、いや、ちょっと疲れて……ぜ、全力でダッシュしたから。ちょっと部屋で休んでる……」

ドサッ…ゴロン

善子「……ふ〜っ……」

善子「結構走ったとはいえ……一応普段から練習して、スタミナもつけてるのにな……」

善子(……いや……)

善子(千歌が記憶喪失になってから……3日は練習してない……)

善子「たった3日でも……結構鈍るものなのね」

善子「夏休みは毎日のように練習してたし、尚更かな……」

「……」

善子「……この部屋暗っ!?」
2018/12/29(土) 12:26:07.48ID:6oQiZxwn
ポチッ

善子「なんで電気つけてないのよ、私っ!」

善子「……そうだ。梨子の書き込みを見ておこっと……それで、ずら丸にメールで送信して……」

善子「それとは別に、明日のことも……千歌と曜に話しておかないと」

善子「……とりあえず、病室に行くことだけ伝えておこうかしら」

善子「無理やり連れだすわけにもいかないし……病院側の都合もあるだろうし」

善子「……曜はともかく……千歌にLINEを送るのは、ちょっと勇気がいるわねっ……!」

善子「くっ……動けっ、闇に染まりし我が右手っ……!」グググッ…

…ポチッ

善子「……はあ、無駄に疲れたわ。息抜きにゲームでも……」

<ゴハンデキタワヨー

善子「……はーい、すぐ行くっ」

善子「まっ……腹が減っては、とも言うしね。ごはんごはん〜♪」

タッタッタッ…
2018/12/29(土) 12:26:33.79ID:6oQiZxwn
千歌「ふふ〜ん♪ ふんふんふ〜ん♪」シャカシャカ

コンコン、ガララッ…ガタン

「……」フリフリ

千歌「……わわっ、先生っ!?」

女医「ごめんなさい、おどかしちゃったかしら」

千歌「いえ、そんなっ……イヤホンしてたから、気づかなくて」

千歌「再生を止めて……っと」ポチッ

女医「……検査の方、お疲れ様。休み休みとはいえ、3時間は続いたし……体調は大丈夫?」

千歌「はい、全然大丈夫ですっ! ふふん!」

女医「そう、頼もしいわ」クスッ

女医「でも……些細なことでも、何か変化があったらすぐ教えてね」

千歌「わかりましたっ」
2018/12/29(土) 12:26:59.43ID:6oQiZxwn
女医「今日は、友達と学校に行った……って聞いたけど」

千歌「はい。梨子さんが、学校を案内してくれて……って、OKを出してくれたのは先生ですよね?」

女医「ええ、まあね。検査はこの時間に回せばいいし……友達と会うのは、大切なことよ」

千歌「……記憶を失っていても……ですよね」

女医「そう、記憶を失っていても……ね。楽しめた?」

千歌「はいっ、とっても! 最初は不安もあったけど……梨子さんが、親切にしてくれたので……」

女医「……ぷっ、くく……」

千歌「えっ、笑うところなんですか!?」

女医「ふふっ……ええ。親切にしてくれない友達なんて、いないわよ」

千歌「へ、へ〜……」
2018/12/29(土) 12:27:25.20ID:6oQiZxwn
千歌「……あっ、そうだ! 梨子さん、ピアノ弾けるんですよっ」

女医「ピアノ? 演奏してもらったの?」

千歌「はい、『音楽室』ってところで……いや〜、他のみんなとか、先生にも聴いてほしかったなぁ……」

女医「ふふっ、そんなに感動したのね」

千歌「はいっ。歌声もピアノも……曲も、とっても感動しました。こう……元気が湧いてくる、というか?」

千歌「帰りに梨子さんに頼んで、曲を送ってもらって……さっきまで、聴いてたんです」

女医「鼻歌まで歌ってたわね」

千歌「う……そう言われると、恥ずかしいような……あっ、先生も聴いてみます?」

千歌「『ユメノトビラ』って曲と『想いよひとつになれ』って曲なんですけど……」
2018/12/29(土) 12:27:53.53ID:6oQiZxwn
女医「う〜ん……気持ちは嬉しいけど、遠慮しておこうかしら」フフッ

千歌「ええっ、そんなぁ……『想いよひとつになれ』の方は、私が歌ってるんですよ?」

千歌「先生に、私の歌を聴いてほしいっ……私は忘れちゃいましたけど。えへへ」

女医「って、笑えないわよっ」

千歌「……はい。でも、どうして……」

女医「……そうね。私はその二曲とも、何度も聴いてるのよ」

千歌「えっ!? そ、そうなんですか……?」

女医「ええ、私も気に入ってる曲だからね」

女医「それに……高海さんのダンスも歌も、何度も見たわ。こうして近くで聞いても……かわいらしい声、ね」クスッ

千歌「えっ……うぅ、からかわないでくださいよぉ〜!」ポカポカ

女医「ちょっ……わ、わかったからっ、大人しく寝てなさいっ」
2018/12/29(土) 12:28:19.47ID:6oQiZxwn
女医「……じゃあ、そろそろ戻るわね。多少ならいいけど、あまり遅くまで起きてちゃダメよ?」

千歌「た、多少ならいいんですね……」

女医「まあね。それじゃ、おやすみなさい」

ガラッ…ピシャン

千歌「……あ、ああした後だとちょっと寂しい……」シーン

千歌「もう1回曲を聴いたら、寝ようかな……っと、LINEも見ておかないと」

千歌「……あ、善子さんからだっ!」

オーモーイーヨヒトツニナレー…♪
2018/12/29(土) 12:29:33.02ID:6oQiZxwn
一旦ここまでで
すぐ投稿を再開できると思います
2018/12/29(土) 12:34:04.35ID:4WgAajue

みんな仲良さそうで余計に千歌ちゃんの記憶喪失が辛く見える
2018/12/29(土) 14:46:31.27ID:LKomA/iq
面白いです
131名無しで叶える物語(新疆ウイグル自治区)
垢版 |
2018/12/29(土) 14:51:34.35ID:/W1Nl8kf
待ってるぞ
132名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2018/12/29(土) 16:13:57.28ID:6oQiZxwn
果南「はぁ、はぁっ……」

タッタッタッ…

果南(……朝のジョギングは、いつもしている事だけど)

果南(特に、今は――止まったら……)

果南「いや……はぁ、はぁ……止まるわけには……」タッタッタッ

「はぁ、はぁ……わぁっ!?」

果南「……わっ!?」

果南(人!? 全然、気づかなか……)

「ひゃあっ!?」ドスッ! ドテッ

果南「うぐっ……」ドスッ

果南「い、いたた……ごめんなさいっ、大丈夫……っ!?」


花丸「えっ……か、果南、ちゃん……!?」

果南「……は、はなま、る、ちゃん……?」
2018/12/29(土) 16:14:23.39ID:6oQiZxwn
花丸「はぁ、はぁ……ふーっ……」トスッ

果南「大丈夫? だいぶ息が上がってたみたいだけど」

花丸「だ、大丈夫……果南ちゃんほどじゃないけど、スタミナは前よりついたから」

花丸「くーりんぐ?って言うのもやったし……こうして座ってれば、すぐ動けるようになると思うよ」

果南「そっか」

果南「……さっきはごめんね。しっかり前を見てなかったかも」

花丸「ううん。マルの方もぼーっとしてたし……お互い様、だよ」

花丸「その……お互い、衝撃も少なかったし」

果南「あはは、確かに」
2018/12/29(土) 16:14:50.05ID:6oQiZxwn
果南「隣、座るね」トスッ

花丸「……うん」

果南「……」

花丸「……」

果南「……花丸ちゃんって、いっつもこうやって走ってたっけ」

花丸「ううん。いつものこの時間は……家で本を読んでるよ」

果南「読書かぁ。私は、この時間だとあんまり頭に入ってこないかも」

花丸「……今度、オススメの本を貸してあげようか?」

果南「えっ、いや……気持ちは嬉しいけど、私のガラじゃないよ」

花丸「そっか」
2018/12/29(土) 16:15:16.46ID:6oQiZxwn
花丸「……果南ちゃんは、いつも走ってるんだよね」

果南「……そうだね、日課だし」

花丸「その上、随分長い距離を……」

果南「あはは。花丸ちゃんも、そのうち毎日走れるようになるって」

花丸「ええっ!? お、オラには無理ずら〜……」

果南「そう? 毎日朝に走るのって、すごく気持ちいいよ?」

花丸「そ、それはそうだけど……たまにでいい、かなぁ……」

果南「そっか〜。毎日一緒に走れたら、楽しいかなって思ったんだけど」

花丸「お、お気持ちだけで充分、ずら……」
2018/12/29(土) 16:15:42.12ID:6oQiZxwn
「……」

果南「……」

花丸「……ねえ、果南ちゃん?」

果南「えっ……と、どうしたの?」

花丸「こ、こうしてると果南ちゃんの方が心配だよ……上の空だし」

果南「大丈夫大丈夫。それで?」

花丸「……ずっと気になってたんだ」

花丸「――……気持ちの整理は、ついたのかなって」

果南「……っ」

花丸「果南ちゃんは、千歌ちゃんの……千歌ちゃんの記憶喪失を、受け入れられたのかな……って」

果南「……鞠莉にも、同じことを聞かれたよ」

花丸「そっか……やっぱり、そうじゃないんだよね?」

果南「っ!」ドキッ
2018/12/29(土) 16:16:08.07ID:6oQiZxwn
「……」

果南「……鋭いんだね……」

果南「でも、どうしてそう思ったの?」

花丸「う〜ん……なんとなく、かな?」

果南「そこは結構曖昧なんだ……」

花丸「うん。あの時の果南ちゃんからは、無理してる感じが伝わってきたずら」

果南「め、面目ない……」

花丸「ええっ!? そんな、落ち込むようなことじゃないよ」

果南「あはは、ありがと。ただ、花丸ちゃんはそういうところに気が付くんだなって思ってさ」

果南「記憶を失う前の千歌に対して何度も抱いた感覚に、ちょっと似てるよ」

果南「……いや。千歌は……今もそうだろうね」

花丸「梨子ちゃんも言ってたしね。『記憶喪失を起こしても、その人らしさは失われないことが多い』って」
2018/12/29(土) 16:16:46.10ID:6oQiZxwn
花丸「……オラはね」スタッ

果南「……ん?」

花丸「小さい頃から本が友達で、こうやって走ったりの運動は苦手で……」

花丸「果南ちゃんがAqoursに入ってきた時……『正反対の人が来た』って思ったんだ」

果南「……うん」

花丸「……ちょっと近寄りがたい、とかも思ってたし……」

果南「えっ、そうなんだ」

花丸「ち、ちょっとだけ……ずら」

花丸「でも……Aqoursのみんなで、いるうちに……」

花丸「ダイヤさんに鞠莉ちゃん、千歌ちゃんや曜ちゃん……ほどじゃないと思うけど」タッタッ

花丸「さっきみたいに、なんとなく果南ちゃんのことがわかってきたのかなって」…クルッ
2018/12/29(土) 16:17:19.37ID:6oQiZxwn
果南「……そっか」

花丸「えへへっ」ニコッ

果南「……そろそろ、ジョギングに戻ろうかな」スタッ

花丸「うん。マルは、もうちょっと休んでからにするよ」トスッ

果南「じゃあ……」

ポンッ

花丸「っ!」

果南「次会う時は、おすすめの本を教えてね。マル」

タッタッタッ…

花丸「……行っちゃった、ずら」
2018/12/29(土) 16:18:08.87ID:6oQiZxwn
ウイーン ピシャッ

善子「はい……津島善子です。高海さんとの、面会に……」

善子「……」タッ、タッ…

ガララッ

善子「失礼しまーす……合ってるわよね?」…ガタン

千歌「はい、おはようございます! 善子さんっ」

善子「おはよ。元気そうで安心したわ」

千歌「善子さんこそっ!」

善子「えっ……そ、そうね」

善子「この堕天使ヨハネには、常に闇のエネルギーが……」

千歌「……だてんし……よはね? って、なんですか?」

善子「……っ」

善子「……いーや、なんでもないっ」
2018/12/29(土) 16:18:34.91ID:6oQiZxwn
千歌「え〜、気になります……」

善子「なんでもないっての! それより、昨日のLINEはちゃんと見た?」

千歌「はい、もちろんですっ。この時間に、善子さんが面会に来てくれるのと……」

千歌「このあと、善子さんの家に行って……ゲーム?っていうのをやるんですよね」

善子「……え……」

千歌「えっ?」

善子「……げ、ゲームって言葉も……覚えて、ないの?」

千歌「あっ! いや、え〜っと……」

千歌「テレビにゲーム機を繋いで、ソフトを入れて、コントローラーを握って……とかは覚えてるんですけど」

千歌「……どんなソフトがあったか、っていうのは……覚えて、ないみたいです……」
2018/12/29(土) 16:19:01.42ID:6oQiZxwn
善子「……そう」

「……」

善子「……じゃあ」

千歌「……じゃあ?」

善子「どんなソフトがあるか、っていうところから教えないとダメね」

千歌「はい、お願いしますっ」

善子「いい? 堕天使である私から教示を受ける事、光栄に思いなさ……」

千歌「善子さんって堕天使なんですか!?」

善子「……もういい……」
2018/12/29(土) 16:19:28.49ID:6oQiZxwn
善子「そうね……ゲームソフトといっても、ホントに色々あるんだけど」

善子「……例えば、人を銃で撃つゲームとか?」

千歌「ひ、ひぃっ!? ダメですよ、そんなのっ!」

善子「わあっ、わ、悪かったわよっ。最初に挙げるようなものじゃなかったわ……」

善子「……ただ、現実世界で出来ないことを体験させてくれるのが、ゲームの良いところでもあり……」

千歌「た、確かに……現実世界で人を銃で撃つのは、難しいですよね」

善子「……『難しい』じゃなくて、さっきアンタが言った通り『ダメ』なんだけど」

千歌「あっ……それもそうでした」エヘヘ

善子(こ、これはこれで調子狂う……)
2018/12/29(土) 16:20:01.98ID:6oQiZxwn
千歌「他には、何か……」

善子「平和的……?なもので行くと、パズルゲームとかかしら」

千歌「パズルはわかりますけど……絵を合わせたり、ですか?」

善子「ええっ……と、そういうのもあるわね」

善子「あと、3個揃えると消えたり4個揃えると消えたりするものもあるし……」

善子「それをたくさん消して、相手に攻撃したりとか」

「……」

千歌「……ほぇ?」

善子「……あ、改めて説明するのって難しいのね……」

千歌「う〜ん、習うより慣れろ……のほうがいいんでしょうか?」

善子「それもそうかも……」
2018/12/29(土) 16:20:41.80ID:6oQiZxwn
善子「あ、そうそう。わかりやすいものに『アクションゲーム』ってジャンルがあるわ」

千歌「あくしょんげーむ?」

善子「これも色々あるけど、リアルタイムでキャラを操作して敵を倒す……ってのが基本かしら」

千歌「へ〜……! 面白そうですねっ」

善子「そうね。うまくキャラを動かせたときとか、敵を倒した時の達成感がすごいわよっ」

千歌「それ、やってみたいです!」

善子「じゃ、決まりね。ま、いきなり対戦ゲームとかやるのも難しいでしょうし……」

千歌「じゃあ早速、善子さんの家にお邪魔しても……」

善子「ええ……光さえも呑み込む我が世界に……」

善子「……えーっと、私の家に来てもらうわよ。時間の方は大丈夫?」

千歌「はい。LINEの内容は先生にも伝えてますし、問題ないって言ってました」

善子「りょーかい。でも、一応受付で確認しておくから、先に準備を済ませておいて」

千歌「わかりましたっ」
2018/12/29(土) 16:21:10.47ID:6oQiZxwn
ウイーン…ピシャン

善子「ま、まぶしっ……しかもあっつい……」

千歌「受付の人には、何か言われました?」タタッ

善子「ううん、問題ないって。遅くなり過ぎないように、とだけ言われたわ」

善子「昨日の梨子と同じ、ね。そうだ、はぐれないようにしなさいよ」

千歌「はいっ」

トコトコ…

千歌「曜さんも、LINEで言ってた通りですか?」

善子「そ。用事があるから私の家には遅れて来る、って」

千歌「そうですか、じゃあそれまでは……」

善子「ええ。私が手取り足取り、みっちり教えてあげるわ……ククク……」

千歌「お、お手柔らかにお願いします……」
2018/12/29(土) 16:21:42.21ID:6oQiZxwn
善子「……そういえば、記憶喪失については……病院で何かわかったりしたの?」

千歌「えっと、先生は『まだ不明瞭な部分が多い』って言ってたと思います」

善子「せ、先生がそう言っちゃうんだ……大丈夫なのかしら」

千歌「これに関しては、問診や検査を進めないとわからないって……」

善子「そう。メッセージアプリ……LINEとか、スマホの使い方は?」

千歌「え〜っと、LINEについては先生に教えてもらいました。少し時間かかったけど……」

千歌「あと、メールの使い方や連絡先の見方についても……ですね」

善子「なるほどね」

千歌「通話に関しては『混乱する可能性があるから、緊急時のみ』って言われてます」

千歌「で、それ以外は……」

善子「以外は?」

千歌「使い方があんまり……いずれ慣れると思うし、先生も手伝ってくれるって言ってましたけど」

善子「そ、そう簡単にはいかないってことね……」

千歌「あ、あはは……」
2018/12/29(土) 16:22:17.14ID:6oQiZxwn
千歌「ただ……」ピタッ

善子「……」…タッ


千歌「――……少なくとも、『思い出』に関しての記憶は完全に失われてる――」


善子「……っ」

千歌「……って、先生は言ってました」

善子「そう……よね」

千歌「……あっ! でも『今のところは』とも言ってましたよっ」

善子「その辺も、検査を受けたり先生と話したり……って感じ?」

千歌「はい。入院生活は、まだ続くみたいです」

善子「その割に、今日は私の家に遊びに……って、なんだか不安になるわね……」

千歌「大丈夫ですよっ、多分!」

善子「どっからその自信が湧いてくるのよっ!」
2018/12/29(土) 16:22:43.98ID:6oQiZxwn
善子「ふうっ……はい、ここが私ん家よ」

千歌「マンション、だったんですね……」

善子「ええ。さ、上がって」ガチャッ

千歌「お、おじゃましま〜……す……」ボソボソ

善子「声ちいさっ……」

<ハーイ ジブンノイエダトオモッテ、ユックリクツロイデイッテネ

善子「変なこと言わないでよ、ママっ!」

千歌「あ、あはは……」

善子「全く……こっちよ。転んだりしないようにね」

千歌「は〜いっ」
2018/12/29(土) 16:23:11.86ID:6oQiZxwn
善子「えーっと、テレビの電源に……ゲーム機の電源も……」ポチポチ

善子「……あ、千歌? その辺に座って大丈夫よ?」

千歌「あ、そうですね……立ってゲームやるわけにもいかないですし。よいしょっと」トスッ

善子「当たり前よ……よし、ちゃんとついたっと」

千歌「あくしょんげーむ?をやるんでしたっけ」

善子「そうね。一人プレイだから、一緒にはプレイできないけど……」

千歌「じゃあ、私は後ろで見てますね!」

善子「ええ。プレイしたくなったら言ってくれれば、すぐ交代するわ」

千歌「そうですねっ。その間に、善子さんのプレイを勉強しておきます」

善子「フッ……私の華麗な戦略、繊細な操作……よく見ておくことねっ!」
2018/12/29(土) 16:23:47.13ID:6oQiZxwn
デデーン

善子「……」

千歌「……死んじゃった、んですか?」

善子「まあ、そうなるわね……やっぱりこのモンスター強すぎない!?」

千歌「善子さんが動かしてたキャラ、大丈夫なんでしょうか……」

善子「大丈夫よ。こんな感じですぐ生き返るし」ピカーン

千歌「あ、ホントだ」

善子「ただ……このモンスターを倒さない限り、先には進めないのは確かね」

千歌「な、なるほど……」

善子「見てなさい、今度こそは私の本当の力を……!」

デデーン

善子「あーっ、もうっ! なんでこんな強いのをゲーム中盤に出したのよっ!」

千歌「あ、あはは……」
2018/12/29(土) 16:24:18.15ID:6oQiZxwn
千歌「……私も、ちょっとやってみてもいいですか?」

善子「えっ? 勿論いいけど……初心者には結構難しいと思うわよ、このゲーム」

千歌「習うより慣れろ、ですっ」

善子「ふふっ、いい心がけね。さぁ、今こそ真の力を解き放つのよ、千歌っ!」

ドーン

千歌「わ、わあっ!」 善子「そこはガード、ガードよっ!」

ドカーン

千歌「うわあっ!?」 善子「そこはローリングで回避っ!」

デデーン

千歌「わあっ、やられたっ!?」

善子「諦めちゃダメ! もう一回よっ」

デデーン
デデーン…
2018/12/29(土) 16:24:48.31ID:6oQiZxwn
デデーン

千歌「や、やられたぁ〜!」

千歌「くうっ、強い……!」

善子「に、20回は死んでるわね……」

善子(でも……私より、上手くなってるような……)

善子「ふーっ……どうする? 一回、休憩でも……」

千歌「いや、まだいけますっ!」

善子「ふっ……それでこそ千歌よ! さぁ、始めましょうっ!」

千歌「はいっ!」
2018/12/29(土) 16:25:36.38ID:6oQiZxwn
千歌「よし、良い感じっ」ポチポチ

善子「そうねっ! あとは、あの最後の攻撃をしのげば……!」

善子(私は……昨日も、今日も。どうしても避けられなかったけど……)

ゴオッ!

善子「……来るわよっ!」

千歌「はいっ……てりゃあっ!」ポチッ、カシャッ!

善子(か、回避じゃない……ガードした!?)

ザシュッ…ドサッ

善子「……た、倒し、た……」
2018/12/29(土) 16:26:06.42ID:6oQiZxwn
「……」

善子「……ふーっ。全く、アンタには敵わな……」

千歌「やった……いやっ、たあぁぁぁ〜!」ギュウッ

善子「えっ!? ちょっ、わあっ!?」ドサッ

善子「あーっ、もう! く、くるし……」

千歌「やったあ! やりましたよっ、善子さんっ!」ギューッ、スリスリ

善子「いいから……はな、れっ……な……」


ギュウッ…

千歌「……っ」


善子「……ぐすっ、ひっぐ……」

善子「……うぅ……ぐすっ、えぐっ……」ポタッ

千歌「……善子、さん……」

ギュッ…
2018/12/29(土) 16:26:34.94ID:6oQiZxwn
千歌「……大丈夫、ですか?」

善子「アンタにだけは心配されたくないっ!」グスッ

千歌「ええっ……」

善子「……けど、ありがと」

千歌「……いえ」

「……」

善子「……前に、ね」

千歌「……」

善子「千歌が記憶喪失になる前にも……ここでこうやって、ゲームをしたの」

千歌「そうなん、ですか……?」
2018/12/29(土) 16:27:19.53ID:6oQiZxwn
善子「ええ……記憶喪失を起こしたんだから、千歌は覚えてなくて当然だけどね」フフッ

千歌「……」

善子「……その時の私、対戦ゲームで千歌をボコボコにしてたのよ」

千歌「えっ、ひど……」

善子「た、確かに酷いけどっ! ただ……」

千歌「ただ……?」

善子「アンタは……千歌は、負けるたびにどんどん強くなっていって」

善子「最終的には……私と互角に戦えるくらい上達してた」

善子「……いや、やっぱり私の方がちょっと強かったわね」

千歌「ええっ……」
2018/12/29(土) 16:28:02.70ID:6oQiZxwn
善子「……千歌に勝つと嬉しくて、負けると悔しかった」

千歌「……」

善子「でも、それ以上に……楽しかったわ」フフッ

千歌「……っ」

善子「どんどん上達していく千歌を見るのも、それに勝つのも負けるのも……ね」

善子「Aqoursで私と互角に戦える人なんて、千歌くらいしかいなかったから……」

善子「だから……」

千歌「……」

善子「アンタには……もう一度、私より……ちょっと下、くらいに……」

ギュッ…

千歌「っ……」

善子「上手くなってもらわないと、困るの、よ……っ!」グスッ
2018/12/29(土) 16:28:29.45ID:6oQiZxwn
千歌「……私……」

善子「……」ギュウッ

千歌「梨子さんの時も……善子さんの時も」

千歌「……なんで、記憶喪失なんかにって……」

千歌「そう思うと……やっぱり、悲しくて……悔しくて……っ」グスッ

善子「……ふふっ。バカ……ぐすっ」…パッ ゴシゴシ

千歌「えっ……」

善子「ゲームなんて、これからでも……いくらでもできるわ」

千歌「で、も……」

善子「私の家に来てくれたら、いくらでも付き合うし……」

善子「私が病室にでも、千歌の家にでも……携帯ゲーム機で、だって……」
2018/12/29(土) 16:28:56.34ID:6oQiZxwn
善子「私だって、千歌が記憶喪失になったのは悲しい……けど」

千歌「……け、ど?」

善子「それでも、今からでも……こうやってゲームをしたり、どこかへ遊びに行ったりはできるでしょ?」

千歌「……」

善子「……そ・れ・と・も……私と遊ぶのはつまらない?」

千歌「なっ!? そ、そんなわけないですよっ!」

善子「まっ、私がダメなら……そうね、例えば」

「私とかならどうかなっ?」

善子「そうそう、曜なら絶対に……え」

千歌「あっ」

曜「……おはヨーソロー……なんちゃって」
2018/12/29(土) 16:29:24.11ID:6oQiZxwn
善子「……はあ、びっくりした。心臓止まるかと思ったわよっ」

曜「い、一応お呼ばれしてるのにっ!?」

千歌「まあまあ、二人ともっ。善子さんのお母さんが淹れてくれた、熱いお茶でも……」ズイッ

善子「そうね、頂くわ」ズッ

曜「喉乾いちゃったし、私もっ」ズズッ

「……」シーン

善子「……なんで私が頂く側なのよっ!? しかも夏なのにあっつあつじゃないっ!」

曜「え〜っ? 暑い夏に飲む熱いお茶も、いいものだよ?」

千歌「ずずっ……わあ! このお茶、美味しいですねっ!」コト

善子「もういい……」

善子「……その、曜はいつから……」

曜「え〜っと……善子ちゃんが『千歌ちゃんに負けると悔しい〜!』って言ってた時からかな?」

善子「そ、そんな前からいたのっ!?」

曜「それで、さ♪ 私だって、善子ちゃんとは互角くらいに戦えてたと思うんだけどな〜?」

善子「いーや。僅差だけど、千歌のほうが上手ね」

曜「え〜っ!?」

千歌「あははっ」
2018/12/29(土) 16:29:53.61ID:6oQiZxwn
善子「……その、自分から呼んでおいたのに……悪かったわね」

曜「ううん……私が声をかけなかった、ってだけだよ」

善子「……いや、そこは声かけなさいよっ!?」

曜「うん……善子ちゃんと千歌ちゃんが話してて、私も駆け寄りたかったよ」

善子「……」

千歌「……」

曜「……でも、それ以上に……私も、泣いちゃいそうだったから……さ」アハハ

善子「なによ、もう……そんなの、気にすることじゃないでしょ」

曜「そこでそのお詫びとして、これを……」ドサッ、ズイッ

千歌「わあっ、お菓子とみかんがたくさん!」

善子「お菓子はともかく、みかん……まっ、半分は許してあげる」
2018/12/29(土) 16:30:20.92ID:6oQiZxwn
曜「……半分?」

善子「もう半分……対戦ゲームでは、ボコボコになってもらうわ!」

曜「望むところだよっ!」

千歌「……じゃあ、私は最初見学で……」

善子「何言ってんのよ! 私と協力して曜を叩くわよ!」

曜「えっ、ズルっ!? 千歌ちゃん、みかんあげるから私側にっ」

千歌「いやでも、操作とか戦い方とか……」

ようよし「「いいのっ!」」

千歌「そ、そんなぁ〜!」

ウワッ、ソノアイテムズルクナイ!?
ワッ、チカチャンコンナニツヨカッタノ!?
ヤッタッ、カチマシタッ!
……
2018/12/29(土) 16:30:49.39ID:6oQiZxwn
善子「ふうっ、危ない危ない……また熱中し過ぎたわね」

曜「結局、千歌ちゃんが一番強かったような……」

千歌「えへへっ」

善子「お、覚えておきなさい……」

曜「そういえば……善子ちゃん、病院までは大丈夫なの?」

善子「何言ってんのよ。曜に丸投げするわけにも、千歌を一人で帰らせるわけにもいかないでしょ」

曜「……そっか」フフッ

善子「……あ〜あ。これじゃあむしろ、私が千歌に教わらないとね」

千歌「はい、いくらでも教えますよっ」

善子「た……頼もしいかぎり、よ」ピクピク

曜「善子ちゃん、顔ひきつってるよ」

善子「うるさいっ!」
2018/12/29(土) 16:31:28.02ID:6oQiZxwn
ウイーン…ピシャッ

善子「じゃあ、私は受付に話を通してくるわ」

曜「わかったっ。千歌ちゃん、ちょっとロビーで座ってようか」

千歌「はーいっ」

トスッ、ポフッ

<ツシマヨシコデス。タカミサントイッショニ…

千歌「……」

曜「……」

曜「……ねぇ、千歌ちゃ――」


千歌「……」


曜「……っ」

善子「……二人とも? 戻ったわよ」

曜「……善子ちゃん」

千歌「あ、おかえりなさいっ」
2018/12/29(土) 16:31:59.52ID:6oQiZxwn
曜「それじゃあ、私たちはここで、だね」

千歌「はい、今日はありがとうございました」

善子「ええ、また誘うわ」

千歌「楽しみにしてますねっ」

曜「じゃね!」

善子「さようなら」

千歌「は〜いっ!」フリフリ

トコトコ…

曜「千歌ちゃん、この後は?」

善子「やっぱり検査だって」

曜「あはは、やっぱりか」
2018/12/29(土) 16:32:26.15ID:6oQiZxwn
曜(……)

曜(……千歌ちゃんの、表情……)

曜(虚空を見つめていて……いや、何も見てなかった、ような)

曜(……あんな表情……私……見たことあったっけ)

曜(――……すごく悲しそう、だった……)

曜(……なんで、声をかけてあげられなかったんだろ)

曜(はっきり、声をかけていれば……少しは……)プニッ

曜「っ!?」

善子「よーう。どうしたの? 険しい顔して」ツンツン、プニプニ

曜「……いや、今日のお菓子とみかん代がちょっとお財布に響いたなって……」

善子「まあ、みかんがやたら多かったわね……その、ね」

曜「ん?」

善子「千歌だけじゃなくて、曜も……困ったら、私や他のみんなを頼ってもいいと思う」

善子「この堕天使ヨハネの黒魔法により、因果すらも歪めて……」

曜「うん、頼りにしてるっ!」

善子「あっそ……ふふっ」
2018/12/29(土) 16:32:56.97ID:6oQiZxwn
曜「それにしても、病室で携帯ゲーム機はダメな気がするんだけどな〜」

善子「確かに……って、ツッコミ遅くない!?」

曜「そんなことより、今日も急がないとバスに遅れちゃうかも」

善子「そうね、軽く走ろうかしら……疲れすぎない程度に、だけど」

曜「うんっ! じゃあ、全速前進……」

曜「よーしこー!」ダッ

善子「善子言うな! 待ちなさーいっ!」

タッタッタッ…
2018/12/29(土) 16:33:23.30ID:6oQiZxwn
ここまでで
夜にまた更新します
2018/12/29(土) 16:33:36.71ID:igJo3dT5
おつ
2018/12/29(土) 16:36:55.31ID:k2LwNTD0
2018/12/30(日) 10:47:14.58ID:ENa/wxJQ
復活したか
173名無しで叶える物語(玉音放送)
垢版 |
2018/12/30(日) 13:26:49.46ID:Yja1//47
ダイヤ「……もう、夜……ですわね」

ダイヤ(千歌さんは、今頃……)

ダイヤ(善子さんや曜さんと別れて……病室で独り、でしょうか)

「お姉ちゃあ?」

ダイヤ("過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……)

ダイヤ(ルビィと花丸さんが、学校の図書室で調べてくれた……)

「お姉ちゃんっ」

ダイヤ「はっ! ……ルビィ?」

ルビィ「お風呂、上がったから……お姉ちゃんもどうぞ、って」

ダイヤ「……ありがとう、ルビィ。ちょっとボーっとしてましたわ」ナデナデ

ルビィ「えへへっ」

ダイヤ「じゃあ、お姉ちゃんもお風呂に入ってくるわね」

ルビィ「うんっ!」
2018/12/30(日) 13:27:46.46ID:Yja1//47
ザパンッ

ダイヤ「ふーっ……」

ダイヤ「過去に記憶を形成したもの、ですか……」

ダイヤ「……千歌さんとの思い出なんて、たくさんありますわね」

ダイヤ「梨子さんも、善子さんも……他の皆さんも……ルビィも、きっと」

ダイヤ(……わたくしが、千歌さんと会うとしたら……)

ダイヤ「う、う〜ん……」

ポタッ…ピシャッ

ダイヤ「アキバ、でしょうか……」

ダイヤ「いや……ここからだと時間も結構かかるし、病院の都合も……」

ダイヤ「あそこは人も多い上、路線図もゴチャゴチャしてて……」

ダイヤ(……でも、やらない理由ばかり探していても……)

「……」

ダイヤ「……仕方ない、ですわね」ザパッ
2018/12/30(日) 13:28:12.56ID:Yja1//47
ダイヤ「ただいま、ルビィ」

ルビィ「あっ、お姉ちゃん。おかえりっ」

ダイヤ「……ねえ、ルビィ? 明日、時間はある?」

ルビィ「明日? 大丈夫だよっ。今日は、花丸ちゃんと一緒に図書室にいたけど……明日は学校が開いてない日だし」

ダイヤ「ふふっ、そう。花丸さんとは……」

ルビィ「うん、千歌ちゃんの……記憶喪失に関しての調べもの。今日は、他のこともしてたけど」

ルビィ「確か『果南ちゃんに貸す本も探さないと〜』って、言ってたような……」

ダイヤ「か、果南さんが読書? 何があったのやら……」

ルビィ「……千歌ちゃんのこと、だよね」

ダイヤ「……ええ。梨子さんや、善子さんがしたように……」

ダイヤ「わたくしとルビィも、千歌さんに会えれば……と」
2018/12/30(日) 13:28:42.44ID:Yja1//47
ルビィ「うん、良いと思うっ。それで、どこかに遊びに行くの?」

ダイヤ「ええ。え〜っと、その……秋葉原、とか?」

ルビィ「ピギッ!? あ、あきはばらっ!?」

ダイヤ「い、いや、勿論話が通れば、ですけどっ! ダメもとですわ、ダメもと!」

ルビィ「そ、そうなんだ」

ルビィ「……でも、お姉ちゃんらしくていいねぇ」ニコッ

ダイヤ「そ、そうかしら?」

ルビィ「うん。ルビィもそうだけど……お姉ちゃんも千歌ちゃんも、μ’sが大好きだったから」

ルビィ「千歌ちゃんと、みんなと一緒に……Aqoursとして居られたのも」

ダイヤ「……千歌さんが、スクールアイドルに……μ’sに触れてくれたから、ですわね」

ルビィ「そうだよっ。だから、あの場所に行くのはいいんじゃないかなって」

ダイヤ「……そうですわね」クスッ

ダイヤ「じゃあ、千歌さんにメールを送っておくわね」

ルビィ「うんっ。ルビィは、電車とか調べておくよっ」
2018/12/30(日) 13:29:08.68ID:Yja1//47
トコトコ

ダイヤ「わ、割とあっさりOKが出ましたわね……」トコトコ

ルビィ「うゅ……ちょっと眠い……」フラフラ

ダイヤ「ルビィ……大丈夫?」

ルビィ「うん。昨日の話の後、忘れ物とかが無いようにってしっかり準備もしたし……」

ルビィ「……ただ……」

ダイヤ「……ただ?」

ルビィ「3人で遊びに行くのが、楽しみで……あんまり、眠れなかったから」エヘヘ

ダイヤ「……そう」フフッ

ダイヤ「行きの電車は結構長いですし、その時に眠るといいかしら」

ダイヤ「それまでは、頑張って起きていないと……ぶっぶー、ですわ」ニコ

ルビィ「うんっ!」
2018/12/30(日) 13:29:35.27ID:Yja1//47
ウイーン…ピシャッ

ダイヤ「まずは受付ね。ルビィ、一緒に」

ルビィ「は〜いっ」

トコトコ…

ダイヤ「……えーっと、千歌さんの病室は……」

ルビィ「……ここかな?」タッ

ガララッ…

ダイヤ「おはようございます、千歌さ……」

ルビィ「あれ……」

千歌「すー……すぅ……」

ダイヤ「寝て……」

ルビィ「る、ビィ……」

ダイヤ「な、なっ!? 確かにこの時間に出発すると、千歌さんにメールを……」

ルビィ「う、うん。ルビィもLINEで千歌ちゃんに確認取ったし、返信もあったし……」

ダイヤ「しかし、起こすのもなんだか……」

ルビィ「そ、そうだねぇ……すっごく気持ちよさそうに寝てるし……」
2018/12/30(日) 13:30:05.37ID:Yja1//47
千歌「……はっ!?」ガバッ

ルビィ「ピギィッ!?」

ダイヤ「起きたっ!?」

千歌「……あ、おはようございますっ。ダイヤさん、ルビィさん」

「……」シーン

千歌「え〜っと、今の時間は……」

チッ、チッ…

千歌「……わああっ!? すみません、すぐ準備しますっ!」

ダイヤ「い、いえ、落ち着いて準備してください……怪我したら大変ですわ」

ルビィ「うゅ」コクコク

ダイヤ「わたくしたちは、ロビーで待ってますわね」

千歌「は、はーいっ!」ドタバタ
2018/12/30(日) 13:30:31.89ID:Yja1//47
千歌「ふうっ。お待たせしましたっ!」

ダイヤ「いえいえ。では、受付の人に話を……」タッタッ…

ルビィ「体調は大丈夫っ?」

千歌「大丈夫ですっ。よく眠れたので!」

ルビィ「そっか、良かったぁ」

ダイヤ「……戻りました。さあ、二人とも……行きましょうか」

ダイヤ「全国の強者が集う迷宮……『東京』へ、いざっ!」

千歌「わあ、善子さんみたいですねっ!」

ルビィ「お姉ちゃあもリトルデーモンに……?」

ダイヤ「……そんなに似てましたの!?」
2018/12/30(日) 13:30:57.71ID:Yja1//47
トコトコ

ダイヤ「メールでも確認しましたけど、電車などの交通機関については……」

千歌「その記憶は失われていないみたいです、先生にも確認しました。道や駅は全く分かりませんけどっ」

ルビィ「あ、あはは……」

千歌「ただ、これもメールやLINEに書いたことですけど……『秋葉原』については、全く……」

ダイヤ「そう……です、か」

千歌「都会については、梨子さんから少しだけ話を聞きました。人がいっぱいいる、とかなんとか……」

ルビィ「……大丈夫だよっ!」

ダイヤ「ルビィ……」

ダイヤ「……そうですわね。わたくしたちも、詳しいわけではありませんけど……」

ダイヤ「……あの街は、ただ歩くだけでも……楽しかったですから」

ルビィ「きっと、千歌ちゃんも気に入ってくれると思うっ」

千歌「……はいっ、楽しみです!」
2018/12/30(日) 13:31:28.79ID:Yja1//47
千歌「え〜っと、切符は……」

ダイヤ「この駅までだから……そのボタン、ですわね」

千歌「ありがとうございます」エヘヘ

プシュー…ガタン、ゴトゴト…

ルビィ「ふわぁっ……んぅ……」

ダイヤ「ルビィは、今のうちに寝ておいた方が良いわね」クスッ

ルビィ「そう、かも……ちょっと肩借りるね。お姉ちゃあ……」コクッ

ダイヤ「ええ……おやすみなさい」ナデナデ

千歌「ふふっ。仲、良いんですね」

ダイヤ「ええ。わたくしの、自慢の妹ですから。ふふん」

ダイヤ「……でも、千歌さんも……姉妹仲は、とても良かったと覚えてます」

千歌「そ、そうなんですか?」

ダイヤ「はい。今は難しいかもしれませんが……」
2018/12/30(日) 13:31:55.31ID:Yja1//47
千歌「……」

ダイヤ「ちゃんと家に戻ったら……必ず、温かく迎えてくれますわ」ニコ

千歌「そう、ですか……それを聞いて、ちょっと安心しました」エヘヘ

ダイヤ「わたくしたちAqours、だけではありません」

ダイヤ「……あなたは、色々な人に愛されていましたから」

千歌「……でも、私は……記憶を……」

ダイヤ「それで冷めるほど、冷酷にはなれませんわよ」クスッ

千歌「……みんな、温かいんですね」

ダイヤ「ええ。そして……それはきっと、変わることはありません」

ダイヤ「ですから、難しいことかもしれませんが……千歌さんは、心配しなくても大丈夫ですわ」フフッ
2018/12/30(日) 13:32:27.23ID:Yja1//47
ダイヤ「……まあ、今から行くところは、むしろ『絶えず変化する街』ですけど」

千歌「ええっ!? この流れで!?」

ダイヤ「ええ。人もたっくさんいますわよ! 恐らく、千歌さんの想像以上に!」

千歌「さ、さっそく少し心配に……」

ダイヤ「全く、もう……わたくしもついてますし、大丈夫ですわ」

ダイヤ「あの街は……次々新しい物を取り入れて、変わっていく……」

千歌「……」

ダイヤ「人がたくさんいるのも、街が変化を受け入れているからこそ……そう考えてます」

ダイヤ「……私たちが住む内浦の、澄んだ空気や、綺麗な景色には……敵いませんけど」クスッ

千歌「はい、私も……病院の外で見る景色も、学校も……大好き、です」ニコ
2018/12/30(日) 13:32:57.79ID:Yja1//47
ダイヤ「……っと、ルビィ。そろそろ起きないと」ポンッ

ルビィ「むにゃ……うん、大丈夫だよっ」

ダイヤ「千歌さんも。この駅で乗り換えなので、降りる準備を……」スタッ

千歌「はいっ」

ルビィ「ほら、千歌ちゃんっ」サッ

千歌「ルビィさん、ありがとうございます」ギュッ

ダイヤ「ふふっ。さあ、こちらですわ」
2018/12/30(日) 13:34:04.42ID:Yja1//47
ルビィ「ついに……」ゴクッ

ダイヤ「ついに、あきは」

千歌「わあっ、人がいっぱいっ!」パァッ

ダイヤ「……」

ルビィ「あ、あはは……」

千歌「……私のいた場所とは、大違い……ですね」

ダイヤ「ええ。お店もたくさんあれば、ゲーセンも……」

千歌「……げーせん?」

ルビィ「ゲームセンター、だよっ」

千歌「げーむせんたー……ゲームがたくさんあるんですか?」

ダイヤ「……行ってみた方が早いですわね」
2018/12/30(日) 13:34:29.94ID:Yja1//47
千歌「……これは?」

ルビィ「このクレーンを動かして、ぬいぐるみを下に落とすゲームっ」

千歌「これは……」

ダイヤ「シューティングゲーム、ですわね。善子さんもやっているかもしれません」

千歌「……しゅーてぃんぐ?」

ダイヤ「え、え〜っと、どう説明すれば……」

ルビィ「デモ映像が流れてるね。この、飛行機みたいな敵がこうやって弾を撃ってくるから……」

千歌「へ〜……うわ、すごい量の弾……」

ルビィ「自分の飛行機をレバーで動かして、弾を避けながら敵を撃つんだよ」

ダイヤ「さっすが我が妹ですわっ!」ナデナデ

ルビィ「えへへっ。前に善子ちゃんがたくさん話してたから、覚えちゃったっ」
2018/12/30(日) 13:34:55.69ID:Yja1//47
千歌「こ、これは……」

ルビィ「中央からまるいのが流れてくるから、音楽に合わせてボタンを押すのっ」

ダイヤ(まるいの……)

千歌「こんなにボタンがあるのに……大丈夫なんでしょうか」

ルビィ「千歌ちゃんなら大丈夫じゃないかなぁ?」

千歌「ええっ!? そうなんですか?」

ダイヤ「ええ、なんたってスクールアイドルですから! リズム感覚だって、ちゃ〜んと鍛えてますわ」

ダイヤ「まっ、わたくしに敵うかどうかはともかく……」

千歌「え〜っと、私……その辺の記憶が……」

「……」

ダイヤ「も、申し訳ありません……」ガクッ

千歌「い、いやいやっ、大丈夫ですっ!」

ルビィ「あ、あはは……」
2018/12/30(日) 13:35:21.96ID:Yja1//47
ダイヤ「……っと、ゲーセンの音は結構耳に……」スタスタ

ルビィ「うゅ……」タタッ

千歌「でも、色々なものが見られて楽しかったですっ」

ダイヤ「それなら何よりですわ。じゃあ、次は神田明神に……」

千歌「かんだ、みょうじん?」

ダイヤ「『神社』は、わかりますよね?」

千歌「はいっ、神様を祀っているところですよね」

ダイヤ「ええ。ここ秋葉原にある神社、そこでお参りをしていこうかと……それに」

千歌「それに?」

ダイヤ「少し見せたいものもありますので」フフッ

ルビィ「なるほど、アレを見せるんだねぇ」ニヤッ

千歌「なっ……き、気になりますっ!」

ダイヤ「まあ、それでも……はぐれない様に、ゆっくり歩きますわよ」

ちかルビ「はーいっ!」
2018/12/30(日) 13:36:05.26ID:Yja1//47
ダイヤ「ふう……ここですわね」

千歌「な、長い階段……!」

ルビィ「『あの階段』だねっ」

ダイヤ「そう、『あの階段』ですわ」

千歌「あの階段?」

ダイヤ「……記憶を失う前の千歌さんも、のぼったことのある階段です」クスッ

ダイヤ「それも、全力で……ですわ」

千歌「そう、なんですか……全力で、こんな長い階段を……」

ルビィ「……そうだっ、千歌ちゃんとお姉ちゃんで競争してみたらっ?」

ダイヤ「なっ!? わ、わたくしは構わないけど……千歌さんに、無理をさせるわけには」

ルビィ「あっ、そ、そうだね……ごめんなさい」

ダイヤ「そんな、謝ることではありませんわ」ポンッ

ダイヤ「気持ちだけで十分……」ナデナデ

千歌「いや……私は、やってみたいです」

ダイヤ「……はぁっ!?」

ルビィ「……千歌、ちゃん……」
2018/12/30(日) 13:36:33.55ID:Yja1//47
千歌「過去に記憶を形成したものに触れれば……そう、ですよね」

ダイヤ「……確かに、そうですけど……」

千歌「やってみて、ダメでも……やってみるだけでも、良いかなって」

ダイヤ「……っ」

ルビィ「……ふふっ。千歌ちゃあらしいね」

ダイヤ「……はあ、仕方ないですわね。ただ……やるからには、全力でいきますわよ」

千歌「はいっ、望むところですっ!」

ルビィ「じゃあ、ルビィは先にのぼってるねっ」

タッタッタッ…

ルビィ「ルビィが『スタート!』って言ったら、スタートだよっ!」

千歌「……ルビィさん……結構な速さでのぼった割に、息一つ切らしてないんですね……」

ダイヤ「わたくしの、自慢の妹ですから」

千歌「あははっ」
2018/12/30(日) 13:36:59.77ID:Yja1//47
ルビィ「よーい……」

ちかダイ「……」ジィッ…

ルビィ「……スタートっ!」

ちかダイ「っ!」ダッ!

ダイヤ(……スタートはほぼ同じ)タッタッタッ

千歌「はぁっ!」タッタッタッ

ダイヤ(走り方も、スピードも……記憶を失う前と、全く……いや、むしろ……っ)

ダイヤ(少し、速いくらい……わたくしが遅れてるっ!?)

ダイヤ「くっ!」タッタッ

ダイヤ(でも、後輩の背中を……追いかけるわけには……っ!)

ダイヤ「……たぁっ!」ダッ

タンッ! ダッダッ…タッ…

千歌「はぁ、はぁっ……」

ダイヤ「はぁ、はぁ……はぁ〜っ……」

ちかダイ「……どっちがっ!?」ガバッ
2018/12/30(日) 13:37:26.25ID:Yja1//47
ルビィ「……一段差で、千歌ちゃあが早かった……」

ルビィ「……と、思うっ!」

ダイヤ「『と、思う』……でも、負けは負けですわね。ふーっ……」

千歌「はぁ、はぁ……か、勝ったとはいえ……さすがに、疲れますね」

ダイヤ「……でも、素晴らしい走りでしたわ」

ルビィ「うんっ。千歌ちゃんもお姉ちゃんも、かっこよかったよっ」

ダイヤ「ふふっ、ありがとう」

千歌「えへへ……ありがとうございます」

ダイヤ「ところで、記憶の方は……」

千歌「えっと、何も思い出しませんでした!」

ダイルビ「……」
2018/12/30(日) 13:38:01.56ID:Yja1//47
千歌「……でも……楽しかったですっ」

ダイヤ「……そうですか」クスッ

ルビィ「……よかったっ」ニコッ

ダイヤ「さっ、お参りの方にも行きますわよ」

ルビィ「は〜いっ、何をお願いするか考えておかないとっ」

千歌「あっ、私もっ!」

ダイヤ(……千歌さんは、何をお願いするのでしょうか……)

ルビィ(……千歌、ちゃあは……記憶のこと、なのかな……)

千歌「……どうしたんですか?」

ダイヤ「あっ、いえ……わたくしも、何をお願いするか悩んでしまって」フフッ

カラン パン、パン…タッ
2018/12/30(日) 13:38:29.50ID:Yja1//47
ダイヤ「ふうっ、お参りも済みましたわね」

千歌「ダイヤさんとルビィさんは、どんなお願い事をしたんですか?」

ルビィ「ルビィは……」

ダイヤ「ちょっ!? ダメですわよ、願い事を言ってしまっては!」

ルビィ「あ……そ、そういえばそうだったっ」

ダイヤ「『願い事を口にしてしまうと叶わなくなる』 元はと言えば、千歌さんがここに来た時……っ」

千歌「……へ?」

ルビィ「……っ」

ダイヤ(『思い出』に関する記憶は、失われている――善子さんが、そう教えてくれて……)

ダイヤ「……いえ、なんでもありませんわ」

千歌「……そう、ですか」

ルビィ「……」

ダイヤ「……さ、次はこちらです」タッ
2018/12/30(日) 13:38:58.58ID:Yja1//47
ルビィ「これが!」サッ

ダイヤ「見せたいもの!」タッ

ダイルビ「ですわ(だよ)っ!」バーン

千歌「……絵馬、ですか?」

ダイヤ「ふっ、ただの絵馬ではありません。よく見てください」

千歌「えーっと……これは……スクールアイドルのグループ名が書かれた、絵馬……?」

ダイヤ「その通りです。ここ、秋葉原は……かつてμ’sとA-RISEが鎬を削った、いわばスクールアイドルの聖地ですから」

千歌「こっちにも、別のグループ名が……メンバーの絵?も描いてありますね」

ルビィ「それだけじゃないよっ。ほら、こっちとかっ!」

千歌「あ、『Aqours』……? 私たちの、グループ名が書いて……」

ダイヤ「ふふっ……数は多くないけれど、やっぱりありましたわね」

千歌「えっ、私の絵も描いてある!? ダイヤさんや、ルビィさんの絵も……」

ダイヤ「そう。わたくしたちAqoursを応援してくれている方が描いた絵馬です」

千歌「ここ、東京ですよね!? なのに、内浦で活動していた私たちのこと、まで……」
2018/12/30(日) 13:39:25.71ID:Yja1//47
ダイヤ「言ったでしょう? 『あなたは色々な人に愛されてる』と……」

千歌「……っ」

ダイヤ「千歌さんを……そして、わたくしたちを応援してくれてる人は……ここ、秋葉原にだっているのです」

千歌「……でも」

ルビィ「千歌ちゃあが、記憶を失くしても……」

千歌「っ!」

ルビィ「記憶が、消えちゃっても……こうやって、誰かが描いてくれた絵馬は」

ルビィ「……消えたりは、しない……から」

千歌「……」

ルビィ「それでねっ。この、色んな絵馬に込められた『気持ち』……も」

ルビィ「同じように……ずっと、ず〜っと……消えないんじゃないか、って……」
2018/12/30(日) 13:39:51.75ID:Yja1//47
ダイヤ「ふふっ。わたくしも、同じ意見ですわ」

千歌「……う〜ん、なんというか……オカルト、っぽいお話ですね」

ダイヤ「この流れでそんなっ!?」

ルビィ「あ、あはは……確かにそうだねぇ」

ルビィ「花丸ちゃんが前に使ってた言葉だと……『ちょうしぜんてき』なお話なのかなぁ」

ダイヤ「スピリチュアル、ですわね」

千歌「ちょうしぜんてき……すぴり、ちゅある……?」

ダイヤ「……いえ、オカルトとほぼ同義です」

ダイヤ「科学、自然界の法則、常識……それらでは説明できない現象のこと、ですわ」
2018/12/30(日) 13:40:17.86ID:Yja1//47
ダイヤ「これらは……絵や文字が描かれた、ただの木の板に過ぎません」

千歌「……」

ダイヤ「でも、わたくしには……」

ダイヤ「描いてくださった人の感情、気持ち……温かさが」カラン…パッ

ダイヤ「一つの絵馬を見る時、こうやって手に取る時……伝わってくるようです」

千歌「はい、私も……」

千歌「スクールアイドルとしての記憶を失っていても……それでも、色々な絵馬から」

千歌「応援してくれている、一人ひとりの気持ちが……伝わってきます」

ダイヤ「……ふふっ」
2018/12/30(日) 13:40:46.72ID:Yja1//47
ダイヤ「この神田明神だって、そうですわ」フッ

千歌「えっ……?」

ダイヤ「古来から在る神様を慕い、敬う気持ち……その基に成り立っていて、毎日たくさんの人が訪れる」

ダイヤ「神様、願掛け……それらは、科学や自然界の法則で説明できるものではありませんが」

ダイヤ「ここを訪れる人たちは、誰もが……真摯に向き合っています」

千歌「……そうですね」

千歌「不思議です。さっきまでいた場所は、にぎやかで……色々な建物があって」

千歌「今いるここは……静かで、心が落ち着く……」

ルビィ「でも……どっちも、良いところでしょっ?」

千歌「……はい! それだけは……同じ、ですねっ」ニコッ
2018/12/30(日) 13:41:13.62ID:Yja1//47
ダイヤ「……さて、と。そろそろ、沼津に戻りましょうか」タッ

千歌「ええっ、もうですか!?」

ダイヤ「もう、です。行きもそうでしたけど、ここから内浦までは大分時間がかかりますし……」

ダイヤ「遅くなったら大事です。何かあった時のためにも、早め早めに行動するのが基本ですわ」

千歌「……そう、ですね。ありがとう、ございます」

ダイヤ「あ、ありがとう? 別に、感謝されるようなことは……」

千歌「いえ……私の事を、大切に思ってくれてるんだなって」

千歌「今まで会ったAqoursの皆さんも……そうでした」

ダイヤ「……ふふっ、当然ですわ」

千歌「でも……」

ダイヤ「どうしました?」

千歌「わがままかも知れないけど……やっぱり、名残惜しいなって」

ルビィ「また、来られるよっ!」

千歌「えっ?」

ダイヤ「ルビィ……」

ルビィ「千歌ちゃんはまだ入院中だし、お姉ちゃんは来年……卒業、しちゃうけど」

ルビィ「それでも……お姉ちゃんが卒業した後でもいいっ。また、こうやって……」

ルビィ「3人ででも、Aqoursのみんなででも……必ず、来ようっ!」

千歌「……はいっ! 絶対、ですよっ」

ダイヤ「……もちろん、です」ニコ
2018/12/30(日) 13:41:52.89ID:Yja1//47
プシュー…ガタン、ゴトン…

ダイヤ「……んぅ……」コクッ、コクッ…ドサッ

千歌「わっ!?」

ルビィ「お、お姉ちゃん?」

ダイヤ「……はっ! 大丈夫ですか、千歌さん!?」ガバッ

千歌「え、はい。肩がぶつかっただけなので……」

ルビィ「……お姉ちゃあこそ、大丈夫?」

ダイヤ「だ、大丈夫……ではありませんね。その、ちょっと疲れてしまったみたいで……」

ルビィ「もう乗り換えもないし、この電車で沼津に着くまで寝てた方が良いんじゃないかなぁ?」

ダイヤ「ですが、寝過ごしてしまったら大変ですし……」

ルビィ「大丈夫、ちゃんと起こすよっ!」

千歌「そうですよ、私たちに任せてくださいっ!」
2018/12/30(日) 13:42:23.89ID:Yja1//47
ダイヤ「ふふっ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

ダイヤ「でも、もし何かあったらすぐ起こしてくださいね」

ルビィ「うんっ」

ダイヤ「では……千歌さん、ちょっと肩をお借りしますわね」トサッ

千歌「はい、私ので良ければ……ゆっくり休んでください」

ダイヤ「ええ。二人とも……おやすみ、なさ……」スー、スー…

千歌「あはは……すぐ寝ちゃいましたね」

ルビィ「うん。ちょっと、じゃなくて……大分、疲れてたんだろうねぇ」
2018/12/30(日) 13:42:55.96ID:Yja1//47
「……」

ガタン、ゴトン…

千歌「……今日は、ありがとうございました」

ルビィ「ううん、こちらこそ。とっても楽しかったよっ」

千歌「はい。そう言ってくれると、嬉しいですっ」

「……」

千歌「……この時間のこの電車には、誰もいないんですね」

ルビィ「うん。都会の電車とは、大違いだね」

千歌「でも、こうしていると……寂しい、とは思いませんね」フフッ

千歌「窓から差し込んでる夕日が……綺麗です」

ルビィ「そうだねぇ」
2018/12/30(日) 13:43:27.32ID:Yja1//47
千歌「……ダイヤさんは、すごいですね」

ルビィ「えっ……と、突然どうしたの?」

千歌「いえ、ただ……今日の電車をしっかり調べてくれたり、何を持っていけばいいかも昨日教えてくれて……」

千歌「秋葉原でも、道案内をしてくれて……ダイヤさんが自分で『詳しくない』って言っていたのに」

ルビィ「……」

千歌「私は、今はこうですけど……それでも『頼りになる先輩だな』って、思っちゃいました」エヘヘ

ルビィ「うんっ。ルビィの大好きな、自慢のお姉ちゃんだもんっ!」

千歌「いいお姉さん、ですね」ニコッ
2018/12/30(日) 13:43:54.58ID:Yja1//47
ルビィ「……お姉ちゃんね。最初は、千歌ちゃんが作ろうとしたスクールアイドル部に反対してたんだよ?」

千歌「えっ、そうなんですか!? その、ダイヤさん相手に……良く通りましたね」

ルビィ「よ、良く通ったって……一応千歌ちゃんがしてたこと、なんだけど……」

千歌「あ、あはは……」

ルビィ「千歌ちゃんは……諦めなかったから」

千歌「……」

ルビィ「曜ちゃんと梨子ちゃんでグループを立ち上げた後……ルビィを、そして花丸ちゃんも……何度も勧誘してくれて」

ルビィ「善子ちゃんも、果南ちゃんも、鞠莉ちゃんも……お姉ちゃんも」

ルビィ「千歌ちゃんのおかげで……今の私が、お姉ちゃんが。Aqoursがあるの」

ルビィ「前にお姉ちゃん、『先輩としても、千歌さんに負けないくらい頑張らないと』って言ってたっけ」クスッ

千歌「……っ」
2018/12/30(日) 13:44:22.87ID:Yja1//47
ルビィ「……ルビィもね。千歌ちゃんのこともお姉ちゃんのことも、みんなのことが大好きで」

千歌「……」

ルビィ「そ、その……泣き虫だし、運動も得意じゃないけど……それでも……」

千歌「それ、でも……?」

ルビィ「好きだからこそ、みんなに負けないくらい……歌やダンスを頑張ろうって思えるんだっ!」

千歌「……ふふっ」

ルビィ「えへへっ!」

「……千歌、さ……」

千歌「わっ……ダイヤ、さん?」

ダイヤ「むにゃ……千歌、さ……ん……」

千歌「私の、名前……?」

ダイヤ「ルビ……ィ……すー、すー……」

ルビィ「ルビィの、名前も……」
2018/12/30(日) 13:44:49.47ID:Yja1//47
ルビィ「……ふふっ」

千歌「……あははっ」

千歌「かわいらしい寝言、ですねっ」

ルビィ「そうだねぇ」

千歌「かっこいいところだけじゃないって……こう言うのもなんですけど、ちょっと安心しました!」

ルビィ「あはは、ルビィもっ。どんな夢、見て……」

ポタッ…

ルビィ(――……え……?)


ダイヤ「千歌、さ……ん……ルビ、ィ……」ポロ…

ダイヤ「……か……な、い……で……すぅ、すぅ……」ポタッ


千歌「……ダイヤ、さ……ん……?」

千歌「――……なんで……泣い、て……」
2018/12/30(日) 13:45:15.85ID:Yja1//47
ルビィ「……お姉、ちゃ……ん……」グスッ

ガバッ

ルビィ「――……うぅ……うわぁぁぁぁん!! わぁぁぁぁん!!」ギュウッ

千歌「……ぐすっ……ルビィ、さん……」ゴシゴシ

千歌「……ダイヤ、さん……ぐすっ、うぅ……」ギュッ…

ダイヤ「すぅ、すぅ……んっ」パチッ…ゴシゴシ

ダイヤ(……手に、涙の……跡……?)

千歌「ぐすっ、ひっく……」

ルビィ「お姉ちゃん……千歌、ちゃん……ぐすっ……」ポロポロ

ダイヤ「……千歌さん、ルビィ……」

ダイヤ(わたくしが、泣いているのを……見て……)

ダイヤ「……ふふっ……ありがとう」ギュッ…ナデナデ
2018/12/30(日) 13:45:41.52ID:Yja1//47
タッタッ…タッ

ダイヤ「……ふう。長かったけど、ちゃんと帰ってこれましたわね」

千歌「……」

ルビィ「お姉、ちゃん……」

ダイヤ「大丈夫です。全く……寝ながら泣くなんて、我ながら器用なことですわ」

ダイヤ「さあ、病院へ戻りましょう? その間にも、話すことはできますから」クスッ

ルビィ「……そう、だねっ」

千歌「……はい」
2018/12/30(日) 13:46:18.18ID:Yja1//47
千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「……はい」

千歌「……泣いていた時、その……」

千歌「何か……夢を見ていたのかな、って思って……寝言も言ってましたし」

ダイヤ「……その通り、ですわ。細かくは覚えてませんけど……あんな夢は、二度と御免……ですわね」

ルビィ「ど、どんな夢を……?」


ダイヤ「――……わたくしのそばにいた、ルビィと千歌さんが……」

ダイヤ「わたくしに背を向けて……遠く遠くに走り去ってしまう夢です」


ルビィ「……っ」

千歌「そん、な……」

ダイヤ「追い付こうといくら走っても、どんどん距離が離れていって……」

ダイヤ「……わたくしが泣いていたのは、きっと……その夢があまりにも辛かったから、かしら」
2018/12/30(日) 13:46:52.85ID:Yja1//47
ダイヤ「でも……夢から覚めた時は、心底安心しました」

千歌「えっ?」

ダイヤ「夢の中では離れていった千歌さんとルビィが、一番近くにいたものですから」クスッ

ダイヤ「それに……」

千歌「……それに?」

ダイヤ「わたくしだって……まだ、千歌さんやルビィの元から離れるわけにはいきません」

ルビィ「……お姉、ちゃん……」

千歌「……」

ダイヤ「千歌さんは……今、記憶喪失で入院中、というのも勿論ですけど」

千歌「けど?」

ダイヤ「元から、放っておけない……というより、危なっかしい人でしたから」クスッ

千歌「え、え〜っ!? 私って、一体……」

ダイヤ「ルビィは言うまでもなく、わたくしの大事なだ〜いじな妹ですしね。ねえ、ルビィ?」ナデナデ

ルビィ「えへへっ、ありがとっ!」

千歌「……ふふっ」

「ふふっ、あはははっ……!」
2018/12/30(日) 13:47:18.31ID:Yja1//47
ウイーン…ピシャン

ダイヤ「お疲れ様でした。早速、受付の方に報告してきますね」タッタッ…

<…キャアッ!? トッ、トッ…フゥ

千歌「つ、つまづいてる……」

ルビィ「あ、あはは……」

ダイヤ「戻りまし……な、何を笑っていますの?」

千歌「いえいえ」ニヤニヤ

ルビィ「なんでもないよぅ」ニヤニヤ

ダイヤ「むぅっ……い、いいから千歌さんはさっさと病室に! 『先生が呼んでいる』って、受付の方が言ってましたわよ」

千歌「うっ……また検査、かぁ」

ダイヤ「医者の指示に従うのは大事なことです。入院中なら、尚更ですわ」

ダイヤ「『医を信ぜざれば病癒えず』……記憶喪失と病は違いますが、これは変わりません」

千歌「ほぇ?」

ダイヤ「……なんでもありませんわ」ハァ…
2018/12/30(日) 13:47:44.86ID:Yja1//47
ルビィ「じゃあね、千歌ちゃんっ!」

ダイヤ「もし話したいことがあれば、メールを送っていただければ返信しますので」

千歌「はい。二人とも、今日はありがとうございましたっ」

ダイヤ「ええ。それでは、失礼しますわね」

ウイーン…ピシャッ

ダイヤ「あら……もう、少し暗くなっているのね」

ルビィ「ねえ、お姉ちゃん」

ダイヤ「どうしたの?」

ルビィ「『医を信ぜざれば病癒えず』って、どういう意味なの?」

ダイヤ「そうね……」

ダイヤ「……『人を信じ想うのは、自らにとっても大事なこと』と言ったところでしょうか」

ルビィ「……そうなんだ」

ダイヤ「ええ、そうですわ」

トコトコ…
2018/12/30(日) 13:48:47.63ID:Yja1//47
ここまでで、夜に再開します
昨日夜は鯖落ちで投稿できませんでした、保守感謝です
2018/12/30(日) 14:16:16.88ID:e6jIsGHS
おつです
217名無しで叶える物語(玉音放送)
垢版 |
2018/12/30(日) 15:47:22.40ID:Eq1cyTHE
>>215
戻ってきてくれてありがとう。完結するまでいつまでもいるぞ
2018/12/30(日) 17:40:45.17ID:fpsnuPX0
お疲れ様です
年の瀬に良いSSが読めて幸せだわ
219名無しで叶える物語(玉音放送)
垢版 |
2018/12/30(日) 19:30:04.60ID:Yja1//47
…ドサッ

ダイルビ「ふ〜っ……」

ダイヤ「歩いたり走ったり……電車で寝たとはいえ、やっぱり疲れましたわね」

ルビィ「そうだねぇ。お姉ちゃんは、その……電車でも、あんまり眠れなかったみたいだし……」

ダイヤ「……いえ。これからお風呂に入って、ご飯を食べて……」

ダイヤ「……今度こそ、ゆっくり寝ればいいだけですわ」ナデナデ

ルビィ「そっか……そうだよねっ」

ルビィ「じゃあ、お風呂はお先にどうぞっ。お姉ちゃんっ」

ダイヤ「ええ、ありがとう。そうさせてもらうわね」

タッ、タッ…

ルビィ(……と、とは言ったけど……ちょっと、心ぼそ……)<ハジメータイマーイストーリー♪

ルビィ「ピギッ!? ち、着信……あっ、曜ちゃんからだっ」

ルビィ「お、お庭に出て……よいしょ、っと」タタッ トスッ…ピッ
2018/12/30(日) 19:30:35.35ID:Yja1//47
曜『もしもし?』

ルビィ「こんばんは、曜ちゃんっ」

曜『こんばんは! ごめんね、突然電話しちゃって……し、しかも疲れてそうなタイミングで……』

ルビィ「だ、大丈夫だよ?」

曜『それならよかった! ダイヤさんは?』

ルビィ「今はお風呂に入ってるっ」

曜『そっか』

ルビィ「……それで、どうしたの?」

曜『うん……やっぱり、千歌ちゃんのことが気になっちゃってさ』

曜『今日、ダイヤさんとルビィちゃんが二人でアキバに行くって聞いた時から……ずっと、ね』
2018/12/30(日) 19:31:02.97ID:Yja1//47
ルビィ「……」

曜『アキバで何かに巻き込まれたら……って心配は、あんまりしてなかったけど。なんたって、ダイヤさんがついてるしっ』

ルビィ「あははっ。うん、お姉ちゃんのおかげで、何事もなく楽しめたよっ」

曜『でも、それとは別に……千歌ちゃんの記憶が』

曜『もしかすると、戻ったりするんじゃないか……って、ちょっと思ったんだ』

ルビィ「……そう、だよね。秋葉原は、あの場所は……」

曜『そう……千歌ちゃんが大好きなμ'sの、始まりの場所』

曜『……ルビィちゃんやダイヤさんには、言うまでもないことだろうけどさ』アハハ

ルビィ「……うん」

曜『それに、梨子ちゃんがこっちに来る前に居た場所でもあるっ』

ルビィ「そうだねぇ。梨子ちゃんは、音ノ木坂に通ってた、から……」
2018/12/30(日) 19:31:28.91ID:Yja1//47
曜『音ノ木坂や神田明神には行ったの?』

ルビィ「神田明神には行ったよっ。音ノ木坂には、いけなかったけど……時間もあんまりなかったし」

ルビィ「それでね、『あの階段』で千歌ちゃんとお姉ちゃんが競争したんだっ!」

曜『へえ〜っ! で、どっちが勝ったのかな〜? お互い、ちょっと鈍ってそうだけど……!』

ルビィ「千歌ちゃんの勝ちでしたっ。小さな差だけど、ねっ」

曜『おおっ、ダイヤさんに勝っちゃうんだ。千歌ちゃん、入院中だからあんまり体動かしてなさそうなのに』

ルビィ「うん……二人のこと、じーっと見てたけど……千歌ちゃんは」

曜『……』

ルビィ「……記憶を失う前と、同じくらい……速かった、と思う」

曜『……っ』

ルビィ「記憶が戻ったりは、しなかった……けど」

曜『……そっか』
2018/12/30(日) 19:31:55.34ID:Yja1//47
ルビィ「……ねえ、曜ちゃあ?」

曜『どうしたの?』

ルビィ「……千歌ちゃんのこと、気になる……んだよ、ね。その……」


ルビィ「――……千歌ちゃんともう一度会ったりは、しないのかなって」


曜『っ!?』

ルビィ「あっ、せ、急かしてるわけじゃないよっ?」

ルビィ「る、ルビィだって、千歌ちゃんと会う前はすごく緊張したし……」

ルビィ「……そうは見えなかったお姉ちゃんも、実際は……多分、だけど」

曜『……』

ルビィ「……ただ、ね」
2018/12/30(日) 19:32:25.77ID:Yja1//47
ルビィ「……善子ちゃんが、LINEで言ってたの」

ルビィ「――……曜ちゃんが、なんだか……思い詰めてるように見えた、って」

曜(っ……よ、善子ちゃん、も……)

曜『……あのエセ堕天使め、ルビィちゃんにまで心配を……』

ルビィ「あ、あはは……」

ルビィ(エセ堕天使って……)

曜『……ま、思い詰めてるのは……そうなんだけど、ね』

曜『善子ちゃんの言う通りだし……ルビィちゃんが今言ったように』

ルビィ「……」

曜『千歌ちゃんにまた会うことも、考えてるし……迷ってもいる、かな』
2018/12/30(日) 19:32:51.50ID:Yja1//47
曜『でも……善子ちゃんもルビィちゃんも、私のことを気にかけてくれてるってだけで……とっても嬉しいっ』

曜『そして、先輩としては面目ないであります……』

ルビィ「ピギッ!? そ、そんなことないよっ!」

ルビィ「ダンスも上手だし、体力もあるし……曜ちゃんが作る衣装も、とっても綺麗で……かわいくて」

ルビィ「だから、その……ルビィの、自慢の先輩だよっ!」

曜『……ありがとっ、ルビィちゃん!』

ルビィ「うんっ! ……だからね、ルビィは……曜ちゃんの力になりたいなって」

ルビィ「善子ちゃんもきっと、そう思ってる……そこには、先輩とか後輩は関係ないよっ」

曜『あははっ。ホントに頼りがいのある後輩……じゃなかった、仲間だねっ!』
2018/12/30(日) 19:33:18.27ID:Yja1//47
曜『……でも、やっぱり私……』

ルビィ「えっ?」

曜『……もうちょっと、自分で考える時間が必要なんじゃないか……って思うんだ』

ルビィ「……そっか。曜ちゃんがそう思うなら、それがいいと思うっ!」

曜『うん、ありがとっ』

「……」

…ガタ、ガタン

ルビィ「……っと、お姉ちゃんが上がったみたい。ルビィもお風呂入らないとっ」

曜『そっか、じゃあここまでにしようっ。話してくれてありがとね!』

ルビィ「こちらこそっ、また話そうねっ」

曜『もちろんっ、じゃあね!』ピッ

ルビィ「はーいっ」ピッ
2018/12/30(日) 19:33:49.09ID:Yja1//47
ダイヤ「ふう、戻りました……あら、誰かと話していたの?」

ルビィ「うん、曜ちゃんとだよっ!」

ダイヤ「ふふっ、そうですか」

ダイヤ「さっ、ルビィもお風呂へどうぞ。今日は汗もかきましたしね」

ルビィ「……そうだねっ。じゃあ入ってくるっ」スタッ

ダイヤ「ええ」

ルビィ(……)トテトテ

ルビィ(……曜ちゃん、声は明るかったけど……)

ルビィ(何度も……言葉に詰まってた、ような……)

ルビィ「……曜、ちゃん……」

タッ、タッ…
2018/12/30(日) 19:34:15.84ID:Yja1//47
プルルルッ

ダイヤ「……今度はわたくしの携帯に? 曜さん、ではないでしょうし……もしもし」ピッ

鞠莉『グッドイブニーング! ダイヤ!』

ダイヤ「……」キーン

ダイヤ「……はあ、もう少し静かにお願いしますわ」

鞠莉『ため息をつくと、幸運が逃げちゃうわよ?♪』

ダイヤ「不幸は善子さんが全部被ってくれるから大丈夫」

鞠莉(お、オゥ……)

ダイヤ「……と、花丸さんが言ってましたから、問題ありません」

鞠莉(マルもなかなか言うわね……)

ダイヤ「それで、やっぱり……」

鞠莉『ええ、ちかっちのこと……よ』
2018/12/30(日) 19:34:41.56ID:Yja1//47
鞠莉『今日は楽しめた?』

ダイヤ「ええ、色々な場所を回ってきましたわ。歩き疲れてしまいましたけど」クスッ

ダイヤ「……前に行ったように、今度は……」

鞠莉『……』

ダイヤ「みんなでまた……来なければいけませんわね」

鞠莉『……その通りね♪』

ダイヤ「でも、今は……」

鞠莉『ん〜?』

ダイヤ「一人一人で千歌さんと向き合う時間も、必要ではないか……そう思ったりもします」

ダイヤ「……今、鞠莉さんが考えている事だと思いますけど」

鞠莉『もう、ダイヤったらクールなんだからっ♪』
2018/12/30(日) 19:35:08.50ID:Yja1//47
ダイヤ「わたくしも、正直……今日、こうやって千歌さんと会うのには勇気がいりました」

鞠莉『……』

ダイヤ「千歌さんが、わたくしやルビィのことを……何も覚えていない」

ダイヤ「そう考えるだけで……会話に詰まったりしないか、とか、不安を煽るようなことを言ってしまうのではないか、とか……」

ダイヤ「会う前に思うことは、不安ばかり……行きの列車でも、そのようなことを考えていたくらいです」

ダイヤ「それでも……ルビィが一緒に居るだけで、その緊張は幾分楽になりましたけど」クスッ

鞠莉『やっぱり、姉妹のパワーは偉大……ってことかしら?』

ダイヤ「ええ、それは間違いありませんわ! ……ですが、それ以上に……」

鞠莉『それ以上、に?』

ダイヤ「千歌さんがあまりにも千歌さんらしかったので、無用な心配だったと実感させられました」フフッ
2018/12/30(日) 19:35:36.48ID:Yja1//47
鞠莉『梨子が言っていた……その通りだった、ってことね』

ダイヤ「そうです。『記憶を失っても、その人間らしい振る舞いは失われない場合が多い』……」

ダイヤ「メールに書いた、病室での出来事は覚えてます?」

鞠莉『ええ。ちかっちが病室を抜け出して、ダイヤやみんなに会いに来た、ってお話しよね』

ダイヤ「あの時は、なんとなく程度にしか感じてませんでしたが……今日会ってみて、確信しました」

ダイヤ「記憶を失っていても、それは変わらないものだ……と」

鞠莉『……』

ダイヤ「千歌さんの個性……人懐っこさに明るさ、そして……輝きを、何かを追いかけていく力……」

ダイヤ「それらが、失われていたら……わたくしは、途方に暮れていたと思います」

鞠莉『……そう、よね』
2018/12/30(日) 19:37:15.11ID:Yja1//47
ダイヤ「ただ、それと同時に……記憶喪失に関しても、実感は強まりました」

鞠莉『……』

ダイヤ「『思い出に関する記憶は、完全に失われている』……これも、善子さんが言っていた通りです」

ダイヤ「わたくしたちが、みんなで秋葉原を訪れた時の記憶……」

ダイヤ「神田明神にある階段をのぼったことも、お参りで自らが言っていたことも……」

鞠莉『願い事を口に出すと叶わない、ってヤツ?』

ダイヤ「……ふふっ、よく覚えているのですね」

鞠莉『ええ♪ あの時のちかっち、とってもキュートだったから♪』

ダイヤ「……それも、思い出の何もかもが。今の千歌さんの中には、存在しない」

ダイヤ「……改めて、目の前に突き付けられたことです」

鞠莉『……っ』

ダイヤ「千歌さんの中に在る性格と、そこに無い記憶。二つの大きな差には……苦心しなかった、とは言えません」
2018/12/30(日) 19:37:44.45ID:Yja1//47
ダイヤ「……でも、鞠莉さんだって……」

鞠莉『な〜に?』

ダイヤ「この話を聞いて……千歌さんと会いたくない、とはならないでしょう?」クスッ

鞠莉『……ふふっ、当たり前じゃない!』

ダイヤ「それなら、早く明日に向けて準備をしたらどうです?」

鞠莉『ええ……ありがとね、ダイヤ。その一言で、今度こそ……決心がついたわ』

ダイヤ「ふふっ、それはなによりです。では、切りますわね」

鞠莉『グッナ〜イッ♪』ピッ

ダイヤ「はい、おやすみなさい」ピッ

ルビィ「うゅ……今度は鞠莉ちゃんから?」トコトコ

ダイヤ「戻ったのね、ルビィ。ええ、今度は鞠莉さんからです」

ダイヤ「ほぼ同じ時間帯で、わたくしとルビィに1回ずつ着信が来るなんて……なかなかの偶然、ね」

ルビィ「……みんな、千歌ちゃんのことを気にかけてるんだねぇ」

ダイヤ「……ふふっ、そうね」
2018/12/30(日) 19:38:18.40ID:Yja1//47
曜(風……)ヒュー…

曜「お昼は、晴れていたけど……」

曜(今、空にあるのは……黒くて厚い雲……)

曜「こんなんじゃ、やっぱり星は見られない……かぁ」

ヒュー…ヒュウッ…

曜(……ルビィちゃんには「自分で考える時間が必要」って言ったけど……)

曜(本当は、ただ……)

「……」

曜(会うのが怖くて、避けてるだけ……逃げてるだけ)

曜(……そう、なのかな)

曜(善子ちゃんと3人でゲームしたときは、とっても楽しかったけど)

曜(その後に見た、千歌ちゃんの表情が……)

曜(……今も、頭から離れない……)
2018/12/30(日) 19:38:45.42ID:Yja1//47
曜「……ずっと、一緒に居たのに……なんでだろう」

曜「こういう時に、近くにいて……声をかけてあげられない、なんて」

曜(あの時も、こうやってベランダにいて……千歌ちゃんは、私のもとに駆け付けてくれて)

曜(私に……手を伸ばしてくれたのに)

ヒュー…

曜(梨子ちゃんも、教えてくれた)

曜(「千歌ちゃんは、ずっと曜ちゃんの誘いを断り続けていたことを気にしていた」)

曜(「だから、曜ちゃんと一緒に始めたスクールアイドルは……絶対やり遂げる」……って)

曜「その決意だけは、絶対に曲げたりしない……そう、言ってたっけ」

曜(でも、それも……千歌ちゃんの中には、もう……)
2018/12/30(日) 19:39:15.51ID:Yja1//47
曜「……違う」

曜(千歌ちゃんの方に踏み出せない……歩み寄れない)

曜(……決意がないのは……私の方、だ……)

ポツ、ポツ…

曜「……雨?」

ポツ…ザザーッ!

曜「って、めちゃくちゃ降りはじめた!? まずっ、今すぐ部屋に退避だっ!」タッ、ピシャン!

曜「はぁ〜、ちょっと濡れちゃったかぁ。とりあえず、服を着替えて……」

曜「……ふわぁっ……ね、寝ようかな……」
2018/12/30(日) 19:39:45.36ID:Yja1//47
コンコン、ガララッ…ガタン

千歌「あっ、先生! こんばんはっ」

女医「ええ、今日もおつかれさま。すごい雨ね」

ザーッ…

千歌「そうですね……明日までには止んでくれないと、困るんですけど……」

女医「あら、出かけるの?」

千歌「はいっ。鞠莉さんが、『明日学校でソフトボールしよう』って言ってくれたので!」

女医「それはまた唐突ね」

千歌「ソフトボールと言っても、ルールを覚えてるだけだったんですけど……鞠莉さんが詳しく説明してくれましたっ!」

女医「そう。まあ、これはただの通り雨よ。すぐ止むわ」

千歌「本当ですか? 良かったですっ」

千歌「……ところで、明日のお昼にやる検査は……」

女医「夜に回すわ」

千歌「い、いっつもそれですね……」

女医「大丈夫よ。高海さんは気にしなくていいの」
2018/12/30(日) 19:40:11.59ID:Yja1//47
女医「そういえば、あなたはソフトボールが得意なんだっけ」

千歌「えっ、そうなんですか……って、どこでそれを!?」

女医「スクールアイドルとしての、あなたのプロフィールに書いてあるわ。ネットで検索すれば一発よ」フフッ

千歌「うぅ、なんだか恥ずかしいなぁ……」

女医「もう……アイドルが恥ずかしがってたら、ステージで歌って踊るライブなんて出来たものじゃないわよ?」

千歌「そ、それはそうですけど……なんだか上から目線のような」ジトー

女医「気のせいじゃない? ……そうだ、伝えておくことがあったわ」

千歌「なんですか?」

女医「高海さんが記憶を失ってから、今までやってきた色々な検査……そのうちの『記憶喪失後の動作』についてね」

千歌「えっ……は、はい……」
2018/12/30(日) 19:40:43.47ID:Yja1//47
女医「単刀直入に言うと、体を動かすこと……動作については、一切の欠落が見られなかった」

女医「検査で試行した動作だけでなく、すべての動作に関しても『抜け落ちている可能性は限りなく低い』……」

女医「今までの検査で判断したこと、よ」

千歌「そう……ですか。はぁ〜……良かったです。まあ、私も薄々感じてはいましたけど」

女医「……軽く流してるけど、スクールアイドルとしてのダンスもその内に含まれるわよ」

千歌「そうなんですか〜……ええっ!?」

千歌「で、でも、私……ダンスを練習した記憶なんて、全く……」

女医「そうね。わかりやすい言葉だと……『体が覚えてる』って言うのかしら」
2018/12/30(日) 19:41:09.57ID:Yja1//47
女医「脳に損傷を受けたのは同じでも……動作が抜け落ちる場合と、そうでない場合があるわ」

女医「日常生活での動作が抜けることは珍しいけど、そこから先はまちまち……脳が損傷を受けた部分にも左右されるわね」

女医「ただ、高海さんは全く問題なかった……そういうことよ」

千歌「ほぇ〜……」

女医「……最後の言葉だけ覚えておけばいいわ」

女医「ただ……例えば私がここで単に『踊ってみて』って言っても、そうはできないわね」

千歌「そうなんですか?」

女医「ええ。体が動作を覚えているだけであって、意図的にそれを引き出すことは……少なくとも、今は不可能よ」

女医「ただ『この曲のこの部分でこうして』とか、お手本を見せてもらったりすれば……」

女医「『ダンスを練習した記憶』が無くても、すんなりこなすことが出来る。そんなところね」
2018/12/30(日) 19:41:36.69ID:Yja1//47
千歌「な、なるほど……」

女医「だから、ダンスの他にも……明日やるソフトボールでも、ちゃんと動けると思うわ」

女医「……あなたのプロフィールに、特技として書くくらいだしね」クスッ

千歌「もう、その話はやめてくださいよぅ……そうだっ」

千歌「こうなったら、そう言う先生の特技も教えてもらいますっ!」

女医「そうね……ピアノ、かしら。あなたの友達、桜内さんと同じ……ね」

千歌「じゃあ、今度聴かせてくださいっ!」

女医「また唐突な……でも、無下にするわけにもいかないか。約束するわ」

女医「でも、ピアノを聴かせるのは……高海さんの退院祝いにしようかしら」クスッ

千歌「わかりました、さっさと退院しますね!」

女医「ず、随分簡単に言ってくれるわね……」
2018/12/30(日) 19:42:10.89ID:Yja1//47
ザーッ…

千歌「……雨、止みませんね」

女医「本当ね。これじゃあ、外にも出られないわ」

千歌「この時間に、病院の外へ出ることもあるんですか?」

女医「ええ。休憩がてら、星を見に……ね。ここから見る星は綺麗だから」

千歌「へぇ〜、なんだか素敵ですねっ」

女医「ふふっ、ありがとう」

ザザーッ…

千歌「……そうだ。えっと、こんなこと言ったら困っちゃうかもしれませんけど……」

女医「困らないわよ、どうしたの?」

千歌「その……」


千歌「……最近、私と会ってくれる……Aqoursの、みんなが……」

千歌「――……流す、涙を見ると……私も……悲しくなって、泣いちゃって」

千歌「でも、そのどれもが……私を想ってくれている、涙でもあって」

千歌「――……こう、『二度と忘れないんじゃないか』ってくらい……心に、残ってるんです」
2018/12/30(日) 19:42:40.14ID:Yja1//47
ザーッ…ザザーッ…

千歌「こうやって、雨を見てると……それを思い出しちゃって」エヘヘ

女医「……そう、ね」

「……」ザーッ…

女医「……涙が出る理由は、他にもあるけど……高海さんが今言ったのは、感情が高ぶりによるもの」タッ…

千歌「……」

コツ、コツ…

女医「嬉しいとか、悲しいとか。大きな感情がトリガーになって、人は泣く……涙を流すの」

女医「……あなたは、よくわかってると思うけど……ね」
2018/12/30(日) 19:43:24.73ID:Yja1//47
女医「医学的には、涙は『涙腺から分泌される水分』に過ぎない」

女医「もちろん含んでいるものは違うけど、水というだけなら……」コツ、コツ…

女医「……今こうやって降っている、雨と同じ」ザーッ…

千歌「……」

ザザーッ…

女医「でも……」

千歌「……でも?」

女医「それはあくまで、医学的な話よ」

女医「――……涙は、人が抱く感情が詰まっている……言うなら『感情の結晶』ね」

千歌「……感情の、結晶……」
2018/12/30(日) 19:43:54.34ID:Yja1//47
ザーッ…


女医「……そして、その涙には――……人を動かす力がある」


千歌「……っ!」

女医「あなたが言ったように……」

女医「人が泣いてるのを見て、つられて泣いてしまったり……居ても立っても居られず、泣いている人に寄り添ったり」

女医「それらは全部、涙が持つ……不思議な力によるもの」

女医「――……感情を、心を……人を動かす力が、確かに宿っている」

女医「友達の涙が、深く印象に残ってるのは……あなたが、それに心を打たれたから」

女医「……私は、そう考えるわ」

ザー…ポツ、ポツ…

千歌「……私も、そう思います」

女医「……なんて、ね」

千歌「……えっ?」

女医「前半はともかく、後半については……出まかせって程じゃないけど、私自身も半信半疑だったりするのよ」クスッ

千歌「え、ええ〜っ!? そ、そんなぁ〜……」
2018/12/30(日) 19:44:23.72ID:Yja1//47
千歌「私、先生の話……すごく良い話だな、って思ったのに……」

女医「そう、良い話でしょ?」コツ、コツ…

千歌「えっ?」

女医「言った通り、根拠もないし自身も疑っている……けど、それだけじゃない」

女医「『こうだったらいいな』って、どこかで思っている……信じている部分だってあるわ」

女医「その思い、信じることだって……自分の力になるはず、よ」

千歌「む、難しい話ですね……わ、わっ!?」ポンッ

女医「大丈夫。高海さんなら絶対にわかることよ、私が保証するわ」ナデナデ

千歌「む、むぅ〜……それこそ、根拠がない話じゃないですかっ!」

女医「ええ。私がそう思ってるだけね」ナデナデ

千歌「な、なっ!? もう、髪がくしゃくしゃになっちゃうからやめてくださいっ」パッ、グイッ

女医「いたっ……ちょっ、強く掴み過ぎよっ! 悪かったから、離しなさいって!」バタバタ
2018/12/30(日) 19:44:54.33ID:Yja1//47
女医「……じゃ、今日もなるべく早く寝るのよ? 明日もあるし、ね」

千歌「はい……こうやって話せて、楽しかったです。ありがとうございました」ニコッ

女医「ええ、こちらこそ」クスッ

女医「じゃあね」

ガララッ…ガタン

千歌「よし、今日は早く寝て……」

千歌「……あっ」

ポツ…ピチャン

千歌「雨、止んでる……先生の言った通り、かぁ」フフッ

千歌「っと、寝ないと寝ないと……」

…スゥ、スゥ…
2018/12/30(日) 19:45:22.34ID:Yja1//47
一旦ここまでで
2018/12/30(日) 20:01:27.85ID:e6jIsGHS
おつですー
2018/12/30(日) 21:28:12.65ID:0Ooz38v5
この女医さんトマト好きそうだな
2018/12/31(月) 02:31:49.40ID:9+8wbJWJ
大作のよかん
252名無しで叶える物語(玉音放送)
垢版 |
2018/12/31(月) 05:05:39.08ID:Fuv8BS51
2018/12/31(月) 10:06:33.38ID:Vw2wLqeF
年内完結するん?
2018/12/31(月) 13:15:17.53ID:JeniGM7Y
千歌「ドッキリって言うタイミングを完全に逃したのだ…ヤバいのだ…」


255名無しで叶える物語(玉音放送)
垢版 |
2018/12/31(月) 14:06:21.77ID:dWPliCK4
鞠莉「シャイニー☆」

千歌「本当に、良く晴れてますね……昨日の大雨が、嘘みたいです」

鞠莉「まさしく『一寸先はシャイニー☆』ね♪」

千歌「なんですか、それ?」

鞠莉「……」

千歌「それにしても、このグラウンド……広い、ですね」タッタッ

鞠莉「そうね、二人で遊ぶにはちょっと広すぎるくらいかも」

千歌「いえ! 伸び伸びと動ける気がするので、いいと思いますっ!」

鞠莉「そう? なら、いいんだけど」クスッ

鞠莉「……それに、この場所は……」

千歌「……なんですか?」

鞠莉「ちかっちがこの学校に通い続ける上で……またお世話になる場所だから、ね♪」

千歌「……そう、ですねっ」ニコッ
2018/12/31(月) 14:06:48.44ID:dWPliCK4
鞠莉「ここまでの道は大丈夫?」

千歌「はい。今日は暑いし、病院からは歩くけど……それでも、まだ全然動けますっ」

千歌「……たぶん!」

鞠莉「期待してるわ♪ でも、まずは準備運動ね」

千歌「準備運動……怪我をしないよう、体を動かしておくんですよね」

千歌「……どんなことをするんでしたっけ?」

鞠莉(……っ)

千歌「鞠莉さん?」

鞠莉「じゃあ、マリーがお手本を見せてあげる♪ ちゃんとついてくるのよ?」

千歌「はいっ!」

鞠莉「……と、その前にこれを……」ドサッ

千歌「ちょっと大きな荷物、ですよね」

鞠莉「昨日説明した通り、ソフトボールに使う道具よ♪」
2018/12/31(月) 14:07:18.70ID:dWPliCK4
千歌「よいしょ……っと。ふう……」

鞠莉「オッケー、パーフェクツ! 昨日、ちかっちが言ってた通りね♪」

千歌「はいっ! 動作に関しては、お手本があったり、やり方を教えてもらったりすれば問題ない……そう、先生から言われたので」

鞠莉「じゃあ、いよいよ本番ね♪ カモン、ちかっち!」

千歌「は〜いっ」トテトテ

鞠莉「まずこれが……ボールね」ガサガサ、ポテッ…コロコロ

千歌「投げたり捕ったり、打ったりするヤツですよね!」

鞠莉「そう、投げたり捕ったり打ったりするヤツね! で、これが……グローブ!」ガサ、ポイッ

千歌「手にはめてボールを捕るヤツですね!」

鞠莉「イェス♪ それで、これが……バットよ!」ガサ、カラン…コロコロ

千歌「打つヤツ!」

鞠莉「そう、打つヤツ!」
2018/12/31(月) 14:07:53.12ID:dWPliCK4
「……」コロコロ…

鞠莉「……まずは基本的な動作からね。キャッチボールから始めるわよっ」

千歌「きゃっち、ぼーる……投げて捕るやつ、ですよね?」

鞠莉「そう! さっきと同じで、マリーが教えてあげればすぐよ♪ 最初は、ボールを投げるところから……」

鞠莉「まず、グローブは利き手と逆……左手につけるの。それで、ボールを右手に持って」

千歌「こう、ですか?」

鞠莉「そうっ! それで次は、マリーのグローブめがけてボールを投げるの! そうね……」タッタッタッ…

鞠莉「……最初はこのくらいの距離ね。さぁ、カモン!」

千歌「投げる体勢とかは……とりあえず、普通に投げてみますね。えいっ!」

シュッ、スパァン!

鞠莉「……」

鞠莉(速っ!?)

千歌「……どうでした?」

鞠莉「えっ……と、ナイスボール!」

千歌「やったっ!」
2018/12/31(月) 14:08:18.91ID:dWPliCK4
鞠莉「ただ、フォームはもう少し変えた方が良いかしら? 今度はマリーが投げるから、ちゃんと捕らなきゃダメよ?♪」

千歌「は、はいっ」

鞠莉「よ〜く見てるのよ? ちかっちのフォームは……こんなかん、じっ!」ブンッ

ビュッ…パシィッ!

千歌「おお〜っ……速い……」

鞠莉(……キャッチも完璧……)

千歌「今のを真似すればいいんですねっ」

鞠莉「オフコース♪ さっ、いつでもいいわよ?」

千歌「こう、やって……こうっ!」ブンッ

ビュウッ、スパァァン!

鞠莉「……オゥ……ぐ、グレイッ! 良くできてるわ♪」

千歌「はいっ、大分投げやすくなりました!」

鞠莉(やるわね、ちかっち……!)
2018/12/31(月) 14:08:45.44ID:dWPliCK4
千歌「……私、記憶喪失になる前も……」

鞠莉「ええ♪ 同じこのグラウンドで……9人みんなで集まってやったことが1回だけ……ね」

鞠莉「言い出しっぺはちかっちだったのよ?」

千歌「えっ? あ、あはは……」

千歌「……鞠莉さんも、私のことをよく覚えてるんですね」

鞠莉「ん〜?」

千歌「今の、投げ方とか……鞠莉さん自身のことじゃない。私のこと、ですよね」

千歌「記憶喪失だから、っていうのは勿論ですけど、それでも……私が覚えてないことを覚えてるんだな、って……」

鞠莉「当然よ♪」

千歌「当然なんですか!?」

鞠莉「イェス♪ なんたって、ちかっちはAqoursのリーダーなんだから!」

千歌「……っ」

鞠莉「リーダーのことをよく見ていないメンバーが……ダンスとか歌とか、歌詞作りに衣装作りとか」

鞠莉「色々なことで息を合わせる必要があるスクールアイドルなんて、出来っこないわよ」フフッ

鞠莉「……『鞠莉さん"も"』ね」クスッ

千歌「えっ?」
2018/12/31(月) 14:09:16.99ID:dWPliCK4
鞠莉「私だけじゃなかったでしょ? ちかっちのことをよく覚えているメンバーは」

千歌「っ!」

鞠莉「ふふっ、ちかっちが自分で言った……そして、自分が思ってる通りよ」

鞠莉「まあ、ちかっちだけじゃないけどっ♪」

千歌「そう、なんですか?」

鞠莉「Aqoursのメンバーは、みんなが他のメンバーのことを理解しようとしてる……私は、そう思うの」

鞠莉「ただ、だからと言って、全てを知ってるわけじゃないわ。それに……」

鞠莉「――……お互いをよく知っていて、想ってるからこそ……踏み込めない部分だってある」

千歌「……踏み込めない、部分……ですか」

鞠莉「湿っぽい話だけど……マリーはそういうの、経験済みだから♪」テヘペロ
2018/12/31(月) 14:09:43.29ID:dWPliCK4
千歌「……鞠莉さんは、経験済みなんですね……」

鞠莉「深刻そうな表情でそこだけ言うのはダメデース」

千歌「……辛いこと、ですよね」

鞠莉「……そうね。本音を言っていれば、気持ちを伝えていれば……」

鞠莉「――……きっと、すれ違わなかったのにって。そう思うと、後悔するし……やるせなくもある」

千歌「……」

鞠莉「でも……」

千歌「えっ?」

鞠莉「それでも、今があれば、ね。すれ違いも、良い思い出……とは、ならないかも知れないけど」

鞠莉「……思い出として笑って話せる日が、来ると思うの♪」

千歌「……そうですね。私も、そう思います」ニコッ
2018/12/31(月) 14:10:12.41ID:dWPliCK4
鞠莉「……それに、ちかっちは……」

千歌「……へ?」

鞠莉「ちかっちには……周りを巻き込んで、周りに踏み込む力があったの。いや……」

鞠莉「……『あった』ではないわね。今だって、きっと……変わってない」

千歌「……っ」

鞠莉「いい? 大事なことよ。ちかっちは……」ザッ…

千歌「っ!」ガバッ

鞠莉「自分を……自分、をっ!」グッ…ビュンッ!


…ズバンッ!


鞠莉「……大切に、ね。ナイスキャッチ♪」

千歌「ふふっ……いい球、ですね」
2018/12/31(月) 14:10:38.98ID:dWPliCK4
鞠莉「じゃ、次はピッチャーとしての投げ方を教えマース♪」

千歌「バッターに向かって球を投げるのは覚えてますけど、さっきみたいに投げるだけじゃ……」

鞠莉「ノンノン。違うわよ、これはソフトボールなんだから♪」

鞠莉「ちかっちには、マリーの言う場所でグローブを構えてもらうわ。さぁ、レッツゴー♪」

千歌「は、はいっ! えーっと……」タッタッタッ…

鞠莉「もうちょっとだけ後ろ……もうちょっと左ね」クイクイ

鞠莉「……オッケー♪ 次は、マリーと同じように屈んでもらえる?」

千歌「こう、ですか?」

鞠莉「そうそう、それで……グローブはこんな感じで構えるの」

千歌「え〜っと、こう……ですよね。な、なんだかちょっとバランスが……」ユラユラ

鞠莉「キャッチャーは特殊なポジションだからね♪ 記憶を失う前のちかっちも、就いたことないだろうし」

鞠莉「私のボールを受けてもらうだけだから、バランスとかフォームはあまり気にしなくていいわよ」
2018/12/31(月) 14:11:10.94ID:dWPliCK4
鞠莉「ただ、キャッチだけはしっかりね。防具もつけてないし」

鞠莉「それに……私のボールは速いわよ?♪」

千歌「いえ、かならず捕ります!」

鞠莉「その意気よ♪ フォームもよく見ていてね、いくわよ……」ザッ…

グッ…グルン、ビュウッ! 

千歌「っ!」バッ

…ズバァン!

千歌「……痛っ!? じ、ジンジンする……」

鞠莉「そういえば、キャッチャーミットじゃないから少し痛いかも」

千歌「なっ……初めに言ってくださいよそれっ!」

鞠莉「ソーリー♪」テヘペロ
2018/12/31(月) 14:11:37.03ID:dWPliCK4
千歌「腕を回して、下手投げするんですね……」

鞠莉「ええ。と言っても、ちかっちはピッチャーもやってたからすぐ出来ると思うわ」

鞠莉「最後はバッターね。今みたいに投げられた球を……」グッ

鞠莉「このバットで、こんな感じで……!」グイッ、ブンッ!

鞠莉「打ち返す……簡単なお話しよ♪」

千歌「ええっ、簡単なんですかそれ……」

鞠莉「ちかっちはバッターとしてもかなり上手かったわよ? 私ほどじゃなかったけど♪」

鞠莉(……後半は嘘だけど)

千歌「むっ……そう言われると、簡単には引き下がれませんね」

鞠莉(……っ! ちかっち、らしい……)

鞠莉「ふぅ〜ん――……その言葉、待っていたわ♪」
2018/12/31(月) 14:12:14.46ID:dWPliCK4
「……」ジィッ…

鞠莉「好きな方を選んで……と言いたいところだけど、マリーはピッチャーをやらせてもらうわね」

千歌「鞠莉さんがピッチャーですか?」

鞠莉「ええ♪ さっき言った……打撃が良かったちかっちを、きりきり舞いにしてあげる♪」

千歌「……わかりました。じゃあ、私がバッターですね」

鞠莉「オッケー♪ じゃあ、ファウルラインは……え〜っと、地面に線を……この辺でいっか♪」ザッザッ

千歌「この辺でいっか、って……」

鞠莉「線の内がフェア、外がファウルね」

千歌「わかりましたっ」

鞠莉「ストライクとボールの判定は……そうね、あの壁はわかる?」

千歌「はい。な、謎の四角い枠?がありますね」

鞠莉「あそこがちょうどいいかしら。四角い枠に入ったらストライク、そうでなかったらボール……それでどう?」

千歌「……はい、良いと思います」

タッ、タッ…ザッ

鞠莉「遅いゴロとフライ、三振は私の勝ち。それ以外、ヒット性の当たりはちかっちの勝ち……いいわね?」

千歌「いいですよ」

「……」

千歌「……始めましょう」

鞠莉「いざっ!」パシッ
2018/12/31(月) 14:12:40.75ID:dWPliCK4
鞠莉(前に集まった時も、こうやって……ちかっちがバッター、私がピッチャーで勝負したことがあったっけ)

鞠莉(あの時は、ちかっちに……レフトを超えるほどの痛打を浴びて、私の負けだった)

鞠莉(それだけじゃない。私の球を打てたのは、ちかっちに……曜と果南だけど)

鞠莉(曜と果南も、ボテボテの内野ゴロ。あの時、打ち取れなかったのは……ちかっちだけ)

鞠莉(記憶喪失、それには関係なく……借りは返させてもらうわよ、ちかっち!)

ザッ…

千歌「っ!」グッ

鞠莉「……」グイッ

鞠莉「……はぁっ!」グルン、ビュッ!

千歌「ふっ!」ブンッ

カキィィン!

鞠莉(……え?)

ビュウッ! …ポテッ、コロコロ…

千歌「ヒット……ですよね?」ニコッ

鞠莉(オゥ……)
2018/12/31(月) 14:13:09.31ID:dWPliCK4
鞠莉「……やるじゃない♪」

千歌「やるというか、私の勝」

鞠莉「第二戦よっ!」

千歌「ええっ……でも、何度やっても同じだと思いますよ?」

鞠莉「さあ、どうかしら♪」

鞠莉(記憶喪失に関係なく……なんて、余計なお世話だったわね)

鞠莉「……いくわよ?」

千歌「はい」

グッ…グルン、ビュッ! …カキィン!

鞠莉「……っ」

鞠莉(三遊間に速いゴロ……今の速さなら、まず抜けていた……)
2018/12/31(月) 14:14:03.35ID:dWPliCK4
鞠莉「も、もう一回よっ!」

ビュッ、カキィン!

鞠莉(れ、レフト方向に速い打球……レフトが居たとしても、取れるわけない……)

鞠莉「せいっ!」

千歌「はっ!」

ビュウッ、カキィン!

鞠莉(今度は、センター前……)

鞠莉「くっ……とりゃっ!」

ドカッ…コロコロ

千歌「ボール球、ですね」

鞠莉「はぁ、はぁ……ていっ!」

千歌「ていっ!」

ビュッ…カァァン!

鞠莉(……三塁線破る、長打コース……)

鞠莉「はぁ、はぁ……たあっ!」

千歌「ふぅっ!」カキィン!

鞠莉「おりゃっ!」

千歌「たあっ!」カキィン!

鞠莉「せいっ!」

千歌「はあっ!」カキィィン!

2018/12/31(月) 14:14:51.17ID:dWPliCK4
鞠莉「……はぁ、はぁ……」

千歌「ま、鞠莉さん……もうそろそろ、やめに……」

鞠莉「……あら? はぁ、はぁ……ちかっち、はっ……もう、限界なの?♪」

千歌「むっ……ち、違いますよっ! ただ、鞠莉さんが……」

千歌「――……この、炎天下の中で……次が50球目です」

千歌「それで、全ての投球がヒット性の当たりと……ボール球」

千歌「ファウルボールもありましたけど……空振りと見逃しは、いままで……」

千歌「……確かに、私だって疲れてます。でも……鞠莉さんは、もっと……」
2018/12/31(月) 14:15:24.56ID:dWPliCK4
鞠莉「いいえ……はぁ、はぁ……ちかっちには、悪いけど……」

鞠莉「もうちょっと……というか、私が勝つまで付き合ってもらうわ……はぁ、はぁっ」

千歌「……でも、それ以上やると」

鞠莉「いいからっ! お願い、打席に」


千歌「さっき『自分を大切にして』って言ってくれたのは……鞠莉さん、ですよ?」ニコ


鞠莉「……っ……」

ガクッ…ドサッ

千歌「ま、鞠莉さん!? 大丈夫ですか!?」

「……」

鞠莉(……私……何、やってるんだろ……)
2018/12/31(月) 14:15:56.00ID:dWPliCK4
鞠莉(勝負を挑んでおいて、全部打たれて……)

鞠莉(ちかっちに負けたくないからって……わがまま言って、こうやって勝負を引き延ばして……)

千歌「……」

鞠莉(――……ちかっちに投げかけた言葉を……自分は破る、なんて)グスッ

千歌「……っ」

グッ、スタッ…

鞠莉「ぐすっ……私の……完敗、ね♪」ゴシゴシ

千歌「そう……なの、かな……」

千歌「……でも、今……」

鞠莉「……えっ?」

千歌「……鞠莉さんの考えてることも……わかる気がします」
2018/12/31(月) 14:16:27.50ID:dWPliCK4
ザッ…

鞠莉(打席、に……?)

千歌「私――今日、こうやって鞠莉さんに会うまでに……他のメンバーにも会ってきて」

千歌「その中で『私を大切に思ってくれてる』って感じたことが……いっぱいありました」

千歌「――鞠莉さんも、同じです」クスッ

鞠莉「……っ」

千歌「だから、私も……その思いを、同じくらい大切に思ってます」

千歌「……けど……その、なんというか……」

鞠莉「……」


千歌「――……それでも、譲れない部分も……きっと、あるんじゃないかって」


鞠莉「……っ」

…ポテッ、コロコロ…
2018/12/31(月) 14:16:58.04ID:dWPliCK4
千歌「……わがまま……なのはわかってます。けど」

鞠莉(……そっか)

千歌「こう、曲げられない部分……自分らしさも、同じように大切……というか」

鞠莉(ちかっちの、譲れない部分って)ダッ…

千歌「……いや、記憶喪失だし自分らしさってあんまりわからな……っ」

タッ…ガバッ!


鞠莉「――……ううん。あなたは……ちかっちは、ちかっちらしいわ」ギュウッ…


千歌「……鞠莉、さん……」

鞠莉「……記憶を、失う前と……本当に、変わって……ぐすっ、な……うぅ……」ポロポロ

千歌「そんな……泣かないでくださ……いっ……」グスッ…ゴシゴシ

鞠莉「でも、私……ぐすっ……安心、して……」

ギュウッ…
2018/12/31(月) 14:18:12.32ID:dWPliCK4
「……」

鞠莉「……でも」パッ

千歌「……鞠莉さん?」

鞠莉「ぐすっ……んっ」ゴシゴシ

鞠莉「……私の譲れない部分が、バレちゃってるなら……」タッ、タッタッ…

タッ…クルッ

鞠莉「――この勝負、続けさせてもらっても……いい?」クスッ

千歌「……はい! ばっち来い、ですっ!」
2018/12/31(月) 14:18:45.90ID:dWPliCK4
ザッ…

鞠莉「……」グイッ

千歌「……っ」グッ

鞠莉「……たあっ!」グルンッ、ビュンッ

千歌「はぁっ!」ブンッ!

カンッ、コロコロ…

千歌「……むぅ」

鞠莉「ファウルボール、ね♪」
2018/12/31(月) 14:19:36.57ID:dWPliCK4
千歌「最初と比べれば、かなり遅い球なのに……」

鞠莉「まあね、疲労がベリーハードだから当然よ♪」

鞠莉(……そうだった。あの時……ちかっちと勝負した時)

鞠莉(私は……ちかっちを、ツーストライクまで追い込んでた)

鞠莉(負けたのが悔しくて、それを……忘れてたけど)

「……」ザッ…

千歌「っ」グッ

鞠莉「……せいっ!」グルン、ビュウッ

千歌「ふっ!」ブンッ、カンッ

千歌「……っとっと、うわぁっ!?」クルッ、ドスッ

…コロコロ…

鞠莉「言ったでしょ? きりきり舞いにさせてあげるって♪」

千歌「く、くぅっ……ば、バットには当たってますよっ!」

鞠莉「ストライクなのは同じじゃない♪」
2018/12/31(月) 14:21:37.28ID:dWPliCK4
鞠莉(今までの、私の球は……7割くらい、内角に投げ込んでたはず)

鞠莉(今気づいたことだけど……思い返すと、あの時もそうだった。私の癖、ね)

千歌「うぅ……ちょっと汚れちゃった」スタッ、パッパッ

鞠莉「転かしちゃったのは悪かったけど、このまま勝たせてもらうわよ?♪」ニヤッ

千歌「ふーっ……勝負はまだ、終わってないですよ」

鞠莉(今までの、ヒット性の当たりは……ほとんどがレフト、引っ張り方向)

鞠莉(センターにもそこそこ飛んでいたけど、ライト方向は……1本だけ)

鞠莉(その上……そのヒットを除いた外角のストライクボールは、全部ファールに逃れられてる)

鞠莉(ちかっちが得意なのは引っ張れる内角で、逆に外角は苦手。冷静になれば、わかることなのに……)

鞠莉「……ふうっ……」

鞠莉(今まで、ちかっちの得意なコースに投げ込んでたなんて……ね)
2018/12/31(月) 14:22:04.49ID:dWPliCK4
千歌「……でも」

鞠莉「ん〜?」

千歌「私は今まで、空振りも見逃しもありません」ザッ、ザッ

千歌「ゴロやフライを打たせるか……空振り、見逃しをとらないと、三振にはなりませんよ」

鞠莉「へぇ〜、結構ギリギリでバットに当ててたのに? 威勢がいいのね♪」

千歌「ふんっ! 打ちとってから言って下さいっ」

鞠莉(けど……ちかっちの言う通り。結局、ここでファウルに逃れ続けられたら……)

鞠莉(今は2球とも外角に投げ込めたけど、それを続けられるわけがない。いつかは、内角に……)

鞠莉(……でも……)

「……」ザッ…
2018/12/31(月) 14:22:30.10ID:dWPliCK4
鞠莉「……これで」グイッ

千歌「っ!」グッ

鞠莉「終わり……よっ!」グルンッ!

ポーン…

千歌「……へ?」

ヒュー…トン、ポテッ…
コロコロ…ピタッ

千歌「え、あれ? 山成りの、超スロー……ボール……」

千歌「……って、こんなの打てるわけないですよ! そもそも、ストライクゾーンに……」

鞠莉「ワッツ? マリーは、確かに言ったはずよ?」

鞠莉「――……『四角い枠に入ったらストライク』って♪」

千歌「え……あっ」

鞠莉「今の球、枠のど真ん中だったけど♪」

千歌「そ……」

「そんなぁ〜〜!」

ソンナァー
ソンナー
2018/12/31(月) 14:23:05.35ID:dWPliCK4
善子「……ま、今日はこんなもんね」パタン

花丸「そうだね、おつかれさま」パタン

花丸「本はオラが片づけておくから、善子ちゃんは先に外で……」

善子「何言ってんのよ。そのくらい一緒にやるわ……ヨハネよっ!」

花丸「図書室内ではお静かに」シー

善子「誰もいないのに……まあいいけど。それじゃ、さっさと片づけちゃいましょ」

ゴソゴソ…

花丸「この本はここで……」

善子「えっと、この棚……じゃない。次の棚……でもない……ここね」ガサッ

善子「……さ、帰りましょうか」

花丸「うん」

タッ、タッ…
2018/12/31(月) 14:23:38.41ID:dWPliCK4
「……」トコトコ

花丸「図書室、いいところだと思わない?」

善子「どうかしら、ね」

「……」

善子「結局、今日は二人っきりね」

花丸「うん。3人でやるつもりだったけど……」

花丸「ルビィちゃんが、今日はダイヤさんと朝から特訓するって言ってたから」

善子「こ、この暑さなのに……でも、あの二人なら大丈夫じゃない?」

花丸「ふふっ、そうだね」

花丸「みんなで集まる練習が無くても、鈍らないように。そして、より良く動けるように……」

善子「……私たちも、負けてられないわねっ」
2018/12/31(月) 14:24:04.67ID:dWPliCK4
善子「……ってことで、今から練習する?」

花丸「ええっ!? む、無理だよ。疲れてるし、場所もどこで……」

善子「冗談よ。私だって、午前中から図書室にいるから……本を読むだけでも、暑くて疲れちゃった」

花丸「それにマル、図書室に来る前にジョギングもしたし……」

善子「あっ、そういえば最近やってるって聞いたわね。ずら丸はスタミナないし、いいんじゃない?」

花丸「むっ。そういう善子ちゃんは、トレーニングしてるの?」ジトー

善子「うっ……い、家で……た、体幹と筋トレを、少々……」

花丸「善子ちゃんだってスタミナ少ないと思うずら」

善子「う、うるさいっ! 明日……いや、明後日……えっと、明々後日から軽く走るようにするわよ!」
2018/12/31(月) 14:24:30.59ID:dWPliCK4
「……」ピタッ…

「明々後日、ね」「明々後日……かぁ」

「……」…タッ

善子「8月の、31日……浦女の、学校の夏休みが……終わる日、ね」トコトコ

花丸「梨子ちゃんがピアノのコンクールに行って、Aqoursが地方予選に出場して……」トコトコ

花丸「……負けちゃって。すぐ後に、千歌ちゃんが……」

善子「あっ」ピタッ

花丸「えっ?」

善子「夏季課題、9割くらいやってないっ!?」

花丸「……派手にやらかしたずらね」

善子「……ずら丸、て」

花丸「無理ずら」

善子「フッ、聞けないというのね。ならば堕天使ヨハネの元に、重ねて命じましょう! 課題をて」

花丸「無理ずら」

善子「……」
2018/12/31(月) 14:24:56.31ID:dWPliCK4
花丸「それに、マルも課題はまだ終わってないし……」

善子「そっか。アンタはルビィと一緒に、今日までにも何度か図書室に行ってたわね」

善子「――……千歌のために、か」

花丸「だから無理ずら」

善子「3回も言わないでいいっ!」

善子「はあ……もういい。私にはリリー……じゃない、梨子がいるし」

花丸「梨子ちゃん? 課題を手伝ってもらうの?」

善子「まあね」

花丸「へぇ〜、何があったのやら……」

善子「そうね……前に、曜と千歌と私で集まってゲームしたって話は覚えてる?」

花丸「うん」
2018/12/31(月) 14:25:22.48ID:dWPliCK4
善子「そしたら、昨日梨子が……LINEで『次は私も参加したいな♪』って言ってたから」

花丸(無駄に梨子ちゃんの声真似した上に、結構似てる……)

善子「ちょっと意外だったけど、『大歓迎よ』って返信した後……」

善子「通話しながら、ネットゲームでボコボコにしたわ」

花丸「血も涙もないずら」

善子「堕天使だもの」

花丸「そう」

善子「それで『次の勝負で勝った方が、適度に軽い要求をできる』って話になって」

花丸(適度に軽い要求って曖昧過ぎるずら)

花丸「それで、善子ちゃんが勝ったってこと?」

善子「そうよ! だから残ってる課題のうち……」

花丸「適度に軽い要求となると……3割辺り?」

善子「……い、いや、せめて4割……できれば5割くらい」

花丸「え〜っ? 3割くらいだと思うけどなぁ、結構量多いし……」
2018/12/31(月) 14:25:48.00ID:dWPliCK4
善子「大丈夫よ、いざとなったら壁ドンからの顎クイで」

花丸「壁……杭……?」

善子「……なんでもない」

花丸「じゃあ、りりー?って言うのは?」

善子「昨日やってたゲームで、梨子のキャラクター名がそれだったから。つい、ね」

花丸「そうなんだ」

「……」トコトコ

善子「……そうだ」

花丸「どうしたの?」

善子「ねえ、梨子ってさ。ゲーム、上手いと思う?」

花丸「えっ、何その質問……」

善子「いいから、さっさと答えなさい」
2018/12/31(月) 14:26:15.30ID:dWPliCK4
花丸「梨子ちゃんには悪いけど……かなり、下手?」

善子「か、かなりって……まあ、正解なんだけど。かなり下手ね」

花丸「善子ちゃんが上手いにしても、梨子ちゃんはあんまりやらなそうだし……」

花丸「さっき、ボコボコにしたとも言ってたし」

善子「ええ。ただ……」

花丸「ただ?」

善子「昨日は、色々なゲームを梨子に勧めたんだけど……『音ゲー』だけはかなり上手かったのよ」

花丸「おと、げー?」

善子「リズムゲーム、音楽に合わせてボタンなりなんなりを押す奴ね」

花丸「ああ、アレ……」
2018/12/31(月) 14:26:41.01ID:dWPliCK4
善子「最初は余裕で勝ってたのに、すぐ互角くらいになっちゃってさ」

善子「『他のゲームはダメダメなのに、なんでこれだけ?』って考えて、すぐ気づいた」

善子「……梨子は」

花丸「ピアノをやってたから?」

善子「そう。多分だけど、ね」

善子「……私だって、Aqoursに入ってからリズム感覚はだいぶ鍛えてるはずなのに。あの調子じゃ……」

花丸「あの調子じゃ?」

善子「……今日の夜には私より上手くなってて、逆に勝負吹っ掛けられるかも……」

花丸「自業自得ずら」

善子「うっ……そうだけど」
2018/12/31(月) 14:27:15.77ID:dWPliCK4
花丸「……そうだ」

善子「何?」

花丸「果南ちゃんが、8月中に学校の図書室で借りた本は何冊でしょう?」

善子「0ね」

花丸「ぶっぶーずら」

善子「じゃあ1」

花丸「正解っ」

善子「1冊、ねぇ。偏見かもしれないけど、果南って本とか全く読まないと思ってたわ」

善子「特に、アンタが真っ先に勧めそうな日本文学なんて……私には難しいわね。果南にだって、合わなそうだけど」

花丸「うっ……た、確かに、10分くらいで返却しにきたけど……」

善子(10分って……)
2018/12/31(月) 14:28:06.12ID:dWPliCK4
花丸「でも、ね」

善子「ん?」

花丸「『次はもう少し読みやすい本を借りるよ』って言ってくれた」ニコッ

善子「……そう、よかったじゃない」クスッ

「……」トコトコ

花丸「……」タッ…ピタッ

善子「……ずら丸?」

花丸「……心の、目で」


花丸「――……『心の目で見なければ、ものごとはよく見ることができない』」


善子「……はな……ま、る……」

花丸「『肝心なことは、いつも目には見えないんだ――』」

花丸「前に、梨子ちゃんと二人で図書室にいた時……好きな言葉だって教えてくれたずら」クスッ
2018/12/31(月) 14:28:36.37ID:dWPliCK4
善子「……ふふっ、梨子もいいこと言うじゃない。さすが私のリトルデー」

花丸「そういうのいいずら」

善子「うるさいっ!」

善子「……でも、梨子のその言葉通りね」

花丸「……うん」

花丸「果南ちゃんが、また本を借りるって言ってくれたように……」

花丸「――……その人に抱くイメージとは違っても、マルたちが好きなものを理解しようとしてくれる……」

善子「……梨子も同じ、ね。大切なのは……目には見えないその気持ち、ってことでしょ?」

花丸「そういうこと」ニコッ
2018/12/31(月) 14:29:05.76ID:dWPliCK4
善子「でも、それなら私たちも歩み寄らないとねっ」

善子「まず……ずら丸なら、果南と一緒にランニングかしら?」

花丸「10分くらいならいけると思う!」

善子(10分って……)

花丸「そういう善子ちゃんは、梨子ちゃんに対してどう歩み寄るの?」

善子「壁ドンと顎クイで……」

花丸「丼……食い……?」

善子「なんでもないわ……」

「……」トコトコ
2018/12/31(月) 14:29:31.19ID:dWPliCK4
善子「……」ピタッ

花丸「……どうしたの?」タッ…

善子「……ううん。図書室にいる時は、窓から赤い夕焼けが見えたのに……もう、少し暗くなってるんだなって」

善子「それと、明々後日が夏休みの最後だってことも……また、思い出しちゃった」

花丸「……」

善子「……私たちが『Aqours』でいられる時間も、夏休みと同じで」


善子「――……いつまでも続く、わけじゃない……」


花丸「……っ」

花丸「……うん。マルも、わかってるよ」

善子「まっ、だから……歩み寄ることも含めて、後悔しないようにしないとね」

花丸「……ふふっ、そうだね」

善子「さっ、いきましょうか」

タッ…タッ、タッ…
2018/12/31(月) 14:30:30.57ID:dWPliCK4
ウィーン…ピシャッ

鞠莉「ふ〜っ……いい汗かいた♪ ちかっちは大丈夫?」

千歌「大丈夫ですよ。むしろ、鞠莉さんの方が投げ込んでましたし」

千歌「それと、次は絶対勝ちますからね!」

鞠莉(最初は私がボロ負けしてたのにこの調子……かわいいからいっか♪)

鞠莉「じゃあ、受付の方に話してくるわね」

千歌「はいっ」

タッ、タッ…

鞠莉(……踏み込めない、部分……)

鞠莉「小原鞠莉です、高海さんを……」

鞠莉(湿っぽい話って言ったのは、私の経験……果南やダイヤと、すれ違ったことだけど)

鞠莉「……はい、ありがとうございました」

鞠莉(それだけじゃない。曜の本音を聞き出した、あの時も……)

「……」タッ、タッ…

鞠莉「オッケー♪ 今日は派手にやったし、ゆっくり休まないとダメよ?」

千歌「はい……今日は、ありがとうございました。また、勝負してくださいね!」

鞠莉「もちろんっ」
2018/12/31(月) 14:31:07.90ID:dWPliCK4
鞠莉「チャオ♪」

千歌「さようならっ」

ウイーン…ピシャッ

鞠莉(善子も、ルビィも……日付は違えど、私に同じようなメッセージを送ってきた。それが……)

鞠莉「……あっ」

鞠莉「夏の課題に全く手つけてない!?」

鞠莉(まぁ、理事長権限で♪)

鞠莉(……って、出来るわけないわね)

「……」タッ…

鞠莉「そっか。終わってない課題に焦る、ってことは――夏休みは、もう……」


鞠莉「――大事なことに気付くのは、意外とギリギリなタイミング……ね」フフッ


鞠莉「……とりあえず、手をつけられるところ……英語から片づけようかしら♪」

タッ、タッ…
2018/12/31(月) 14:32:38.98ID:dWPliCK4
ここまでで
映画公開前には完結する予定です
2018/12/31(月) 15:03:50.59ID:y11a00vo
よしまる・よしりこ要素に加えてりこまるでも話したりしてるのね
みんながバランス良く付き合っているのはいいね
2018/12/31(月) 16:17:46.81ID:mR8nNF87
おつ
あと4日で終わってしまうんか。楽しみな反面、早いな寂しいなぁってなるね
おうえんしてます
301名無しで叶える物語(なっとう)
垢版 |
2019/01/01(火) 00:34:34.26ID:bK63z3GM
2019/01/01(火) 19:48:08.71ID:ZPiavn7W
ブロロ…プシュー、ガタンッ

花丸「じゃ、マルはここまでだから」

善子「ええ。そうだ、もし気が向いたら、課題の解答をメールで送って」

花丸「よいしょっと」ガタン、タッ

善子(もうバスから降りてるし……)

バタンッ

花丸「ばいば〜い」フリフリ

善子「はいはい、じゃあねっと」フリフリ

ブロロロ…

花丸(ふう……)

タッ、タッ…

花丸(……そう、だよね。善子ちゃんが言った通り、夏休みはもう……)

「……」トコトコ
303名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2019/01/01(火) 19:48:36.97ID:ZPiavn7W
花丸「千歌ちゃんは……梨子ちゃんに曜ちゃん、善子ちゃんとも……ダイヤさんに、ルビィちゃんとも」

花丸「Aqoursのメンバーと、たくさん遊んで……」

花丸「そして、今日は……鞠莉ちゃんとソフトボール、だっけ」

花丸「オラは全然ダメだったけど……前にみんなでやった時の、千歌ちゃんと鞠莉ちゃんの対決……」

花丸「……かっこよかったな」フフッ

「……」…ピタッ

花丸「……9月が、始まったら……」

花丸「新学期……当たり前のことだけど、二学期が始まる」

花丸(でも……千歌ちゃんは)タッ…トコトコ

花丸(外に出て、他のメンバーと会ってはいるけど……記憶喪失で、入院中でもある)

花丸「新学期が始まっても、千歌ちゃんがすぐ学校に戻ることは……無理、だよね」
2019/01/01(火) 19:49:04.82ID:ZPiavn7W
花丸「……後悔しない様に、かぁ……」トコトコ

花丸「……うん」

花丸「よしっ、そうと決まったら千歌ちゃんに電話……は、緊急時以外ダメなんだった……」

花丸「メールで明日の予定を聞いて……っと」ポチポチ、ピッ

花丸(……今までのみんなを見ると、予定の方は大丈夫な気がする……)

花丸(検査とか、全部夜に回されてるって言ってたし……)

「……」

花丸「……でも」

花丸「それで千歌ちゃんと会えるなら、感謝すべきでもあるのかな」クスッ

花丸「ただいまっ」ガララッ

花丸(ふふっ、明日が楽しみずら)
2019/01/01(火) 19:49:30.77ID:ZPiavn7W
ブオー

花丸「うぅ、この時期は扇風機あっても暑いずら……」ペラッ

花丸(千歌ちゃんに勧める本に、果南ちゃんに勧める本……)ペラ

花丸(そうだ、善子ちゃんやルビィちゃんにも。何か、面白そうな本を……)

ガララッ…

千歌「……図書室……ここ、ですよね」タッ…

花丸「――……うん、あってるよ」…パタン

花丸「ようこそ――浦の星女学院の図書室へ。図書委員の、国木田花丸ずら」ニコッ

千歌「……『ずら』?」

花丸「あっ、いや……な、なんでもない、ず……っ」

千歌「……」

花丸「……もう気にしなくていいずら……」

千歌「はいっ!」
2019/01/01(火) 19:49:57.00ID:ZPiavn7W
花丸「お迎えに行こうって思ってたんだけど、大丈夫だった?」

千歌「はい。メールで言った通り『一人で学校に行きたい』って言ったら、先生が許可してくれたので」

千歌「……ただ、『少しでも道に迷ったら必ず携帯で連絡しろ』って、何度も釘を刺されましたけど……」

花丸「無理もないよ。千歌ちゃんがもし帰れなくなったりしたら、大事だし」

千歌「でも、こうして学校に来ることも、この図書室に来ることも……2回目なので、迷ったりはしなかったです」

千歌「……それに」

花丸「えっ?」

千歌「放課後に勉強をするとき……何度もお世話になるかも、とも言われましたから!」

千歌「学校に戻れたら、ですけど……」

花丸「……じゃあ、その時が来るまでに……図書室のことをよく知ってもらえるように、頑張るずら!」

千歌「はい、お願いしますっ!」
2019/01/01(火) 19:50:22.66ID:ZPiavn7W
花丸「まず……」

千歌「まず?」

花丸「大きな声は厳禁」

千歌「あっ、それ梨子さんも言ってました!」

花丸「……と、言いたいところだけど」

千歌「へ?」

「……」シーン

花丸「……多分、あんまり気にしなくていいずら……」

千歌「そうですねっ」

花丸「でも、本を読んでる人や勉強してる人がいる時は静かにね?」

千歌「はーいっ」
2019/01/01(火) 19:51:31.69ID:ZPiavn7W
花丸「それで、ここでは本を借りることもできるよ。これも、梨子ちゃんから聞いた?」

千歌「はいっ、花丸さんが『図書委員』なんですよね!」

花丸「そう。だから、オラ……マルに言ってくれれば、ここにある全ての本を借りられるよ」

千歌「へぇ〜、この全部の本を……すごいですね」

花丸「ただ、返却期限は守らないとダメだよ?」

千歌「返却期限?」

花丸「2週間を超えて借り続けることは出来ないんだ。ほら、このボードに日付が書いて……」

「……」

花丸「……ないずら……」

「……」カキカキ

花丸「……ということで、借りる時にはこのボードを確認すれば大丈夫」

千歌「なるほどっ」
2019/01/01(火) 19:51:57.10ID:ZPiavn7W
「……」

花丸「……千歌ちゃんは……」

千歌「はい?」

花丸「今まで読んだ本も……全部、忘れちゃったんだよね」

千歌「……そうですね。漫画とか、雑誌も含めて……全部、記憶の中にありません」

花丸「……そっか」…スタッ

千歌「花丸さん?」

花丸「マルだけカウンターの中にいるより」タッ、タッ…ポフッ

花丸「隣同士で話した方が楽しいかな、って。ほら、千歌ちゃんも」ポンッ

千歌「はいっ……よいしょ、っと」トスッ

「……」

花丸「……暑いずらね……」

千歌「……そ、そうですね……」
2019/01/01(火) 19:52:22.77ID:ZPiavn7W
千歌「そういえば……」

花丸「どうしたの?」

千歌「梨子さんから聞いたんですけど……記憶を失う前の私って、図書室にあんまりこなかったんですか?」

花丸「そうだね。部室に溜まった本を返しに来たことくらいかな」

千歌「ええっ、部室に本溜めてるって……大丈夫なんでしょうか」

花丸「ダメだからここに来たんだと思う……」

千歌「あっ、それもそうでした」エヘヘ

花丸「あと……千歌ちゃんがマルをスクールアイドルに誘ってくれたのも、ここでの話だよ」

千歌「そう、なんですか?」

花丸「うん」

花丸「――あの時『アイドルなんて向いてない』って思ってたマルに、手を伸ばしてくれたのも……千歌ちゃんだった」クスッ

千歌「……っ」
2019/01/01(火) 19:52:52.62ID:ZPiavn7W
花丸「あとは……」

千歌「あとは?」

花丸「千歌ちゃんの国語の点数がマズかったから、ここでマルと一緒に勉強したくらいかな」

千歌「ま、マズかったって……しかも、後輩に教えてもらう側ですか……」

花丸「途中から二人とも脇道に逸れて、全く関係ない本読んでたずら」

千歌「ええっ……どちらにせよ、馴染みがなかったって言うのは本当なんですね」

花丸「そうだね。でも大丈夫っ! そんな千歌ちゃんのために……」スタッ、タッタッ…

ガサゴソ…

千歌「……」

花丸「これで、よ……し……っと」ググッ、ヨロヨロ…ドサッ

花丸「……ふう。オススメしたい本をこれだけ選んでおいたずら!」

千歌「……10冊くらい、あるような……」

花丸「借りれば大丈夫だよ」

千歌「持って帰る途中に潰れちゃいます……」
2019/01/01(火) 19:53:18.75ID:ZPiavn7W
花丸「どれから読んでもらおうか悩むけど……とりあえず、この本とかどうかな?」

千歌「『惑星の王子さま』?」

花丸「うん、マルだけじゃない……梨子ちゃんも大好きな本だよ。気に入ってくれると思う!」

千歌「じゃあ、さっそく開いて……」ペラッ

千歌「……」ペラ

花丸「……」

千歌「むぅ……」ペラ

花丸「……」

千歌「……すー……すー……」ドサッ

花丸(まだ2分しか経ってないよ……)
2019/01/01(火) 19:53:44.61ID:ZPiavn7W
花丸「千歌ちゃん?」ポンポン

千歌「……んぅ」ゴシゴシ

「……」

千歌「私……寝てました?」

花丸「寝てたずら」

千歌「あ、あはは……」

花丸「難しい本、だったかな?」

千歌「い、いえ。そうじゃない……と思いますけど、あんまり頭に入ってきませんでした……」

花丸「そっか。それなら、何か他の本がいいかなぁ」ガタッ、スタスタ…

花丸「……う〜ん、千歌ちゃんはどちらかというと……」

花丸「……これとかどう、かな?」ガサッ
2019/01/01(火) 19:54:13.29ID:ZPiavn7W
…ドサッ

千歌「……しょくぶつ、ずかん……?」

花丸「そう、前に千歌ちゃんと一緒に読んでた本だよ」

千歌「勉強してたのに、ですよね……」

花丸「ま、まぁ……息を抜くことも大切ずら」

千歌「……この、表紙に映ってる花は……」

千歌「――……何て名前、でしたっけ……」

花丸「……ふふっ、本の中を調べればわかるよ」

千歌「そう、ですか……図鑑、ですもんね」

花丸「うん」ペラペラ…

花丸「……あった。表紙に映ってる花は『向日葵』だね」

千歌「ひまわり、かぁ。言葉としては、覚えてたんですけど」

千歌「――……こんな花だっていうのは、今知りました」
2019/01/01(火) 19:54:40.74ID:ZPiavn7W
花丸(……今までに見た、どんな花の記憶も……千歌ちゃんには……)

千歌「……綺麗ですね。私、この花……なんとなく好きです」

花丸「千歌ちゃん、大体どの花も好きって言ってたずら」

千歌「ええっ!? 移り気なんですね、私……」

花丸「ただ、向日葵は特に好きな花だって言ってたよ」

花丸「他には、桜も大好きだって言ってたし……薔薇も綺麗で好きだって言ってたかな?」

千歌「さくら? ……って」

花丸「うん。梨子ちゃんの苗字に使われてる、桜って言うのは……花の名前なんだよ」

花丸「今度は……ほら、これ」ペラッ

千歌「わあっ、すごいっ! こんなにたくさん咲くんですね。ピンク色が一面に広がってて……」
2019/01/01(火) 19:55:07.98ID:ZPiavn7W
花丸「ふふっ。写真じゃなくて、生で見られる日が来るよ」

千歌「えっ、そうなんですか!?」

花丸「うん。必ず……ね」

千歌「必ず?」

花丸「この学校の校門にはね、桜の木が植えてあるんだ。マルも、入学式の時に見たから」

花丸「この図鑑に書いてある通り、咲くのは春。今は夏だから……」

花丸「来年までのお楽しみ、かな」ニコッ

千歌「来年かぁ。早く学校に通えるようにしないと、ですねっ」

花丸「……うん、そうだね」

千歌「それにしても……桜にも、いろいろ種類があるんですね」

花丸「うん。学校の前に植えられているのは『ソメイヨシノ』って品種ずら」
2019/01/01(火) 19:55:34.67ID:ZPiavn7W
花丸「……そうだ。花にはね、その花一つ一つに込められた言葉……『花言葉』っていうのがあるんだよ」

千歌「はなことば……?」

花丸「そう、例えばこの桜……ソメイヨシノの花言葉は『優れた美人』」

花丸「ピアノも曲作りもできて、美人で――……梨子ちゃんのことみたいだね」クスッ

千歌「ふふっ、そうですね」

花丸「他にもたくさんの植物が載ってるから、色々見てみようか」

千歌「はいっ、是非!」

ペラペラ…

花丸「これが薔薇だよ。赤いのが有名だけど、他にもピンクとか白とか色々……」

千歌「わあっ! こんな花が咲いていたら、つい手に取っちゃいそうです」

花丸「でもトゲがあるずら」

千歌「ええっ!? そうなんですか……」

花丸「花言葉は『愛情』とか『美』とか。トゲはあるけど、愛情もある……って考えると、ちょっとロマンチックだね」

千歌「……素敵、ですね」
2019/01/01(火) 19:56:14.11ID:ZPiavn7W
千歌「これは……?」ペラッ

花丸「アゼリア……ツツジ科の一種ずら。やっぱり色は様々みたい。花言葉は……『恋の喜び』だって」

千歌「これも綺麗ですね。今度見てみたいです」

花丸「お花屋さんに行けばあるかなぁ……」

ペラッ

千歌「これは……」

花丸「タンポポ、春になればその辺に生えてくると思う」

千歌「その辺……」

花丸「咲いてからしばらくすると、この写真みたいに白い綿毛になるんだよ」

花丸「ふーっ、って息を吹きかけると、綿毛が遠くに飛んでいって楽しいずら」

千歌「何それっ!? わ、私もやりたいですっ!」

花丸「これも春までの辛抱、だね」クスッ

千歌「うぅ……頑張ります……」
2019/01/01(火) 19:56:42.85ID:ZPiavn7W
ペラペラ

千歌「あっ、この花も好きかもっ」

花丸「これは……『ガーベラ』だって。向日葵やタンポポと同じキク科ずら」

千歌「黄色いのとオレンジ色のが、特に好きですっ」

花丸「き、黄色いの好きだね。花言葉は『前進』『親しみやすさ』……かぁ」

花丸「……」

千歌「……どうしました?」


花丸「――……なんだか、千歌ちゃんみたいだなって」クスッ


千歌「……私……みたい?」

花丸「うん。あの時、マルをスクールアイドルに誘ってくれて……」

花丸「そのおかげで、ルビィちゃんや善子ちゃん……みんなと一緒に、前に進めたことも」

千歌「……」

花丸「何より、Aqoursのみんなで過ごす毎日が楽しかったのは……」

花丸「――みんながすぐ打ち解けられたのは、千歌ちゃんが親しみやすかったから」

千歌「……っ」

花丸「千歌ちゃんが、みんなの距離を縮めてくれたんだって……マルは、そう思ってる」
2019/01/01(火) 19:57:17.73ID:ZPiavn7W
花丸「……前に植物図鑑を見ていた時もね。今みたいに、二人で色々な植物を見て……」

花丸「……今みたいに、たくさん話してた」

千歌「……」

花丸「それは、今の千歌ちゃんは覚えてない。マルには、わかってることだし……悲しいこと」

千歌「……ごめん、なさ……」

花丸「ううん、違うよ」

千歌「……っ」

花丸「それでもこうやって、千歌ちゃんが……目を輝かせて、色々な表情を見せてくれるのが……嬉しくて」

花丸「マルは今まで何冊も本を読んできたし、何度も読み返したこともある」

花丸「でも……読み返してこんなに楽しいって思ったことは、初めてだよ」
2019/01/01(火) 19:58:12.95ID:ZPiavn7W
千歌「……」

花丸「この本は……」

花丸「……今から、ずっと……マルにとっての、大事な大事な一冊の本」

花丸「忘れられない本ができた。図書委員として、こんなに嬉しいことはないよ」

千歌「……そん、な……」

花丸「だから、ね……」

ポタッ…

花丸「……ありがとう、千歌ちゃん」ニコッ


千歌「――……だっ、て……っ!」グスッ

千歌「……だって……ぐすっ、うぅ……私……全部、忘れ……てっ……」ゴシゴシ

…ポンッ

千歌「……っ」

花丸「大丈夫。こうやって……おんなじ本に、おんなじ手を重ねれば……」ギュッ

花丸「……ぜった、い……っ」グスッ

ギュウッ

千歌「うぅ……ぐすっ、ひっぐ……」


花丸「――……絶対……絶対に、忘れたり……しない、よ……」ポタッ
2019/01/01(火) 19:58:38.42ID:ZPiavn7W
千歌「……結局、派手に涙の跡がついちゃいましたね」

花丸「と、図書委員としてはあるまじき事態ずら……」

花丸「でも、これこそきっと……『青春の1ページ』って言うんじゃないかな」クスッ

千歌「おお、お洒落な言い回し……勉強になります」

花丸「勉強は、今度ここでみっちりやるから大丈夫だよ?」

千歌「うっ……」

「……」

花丸「……さて、そろそろ図書室はおしまいかな」

千歌「そうですね、時間も時間ですし……」

花丸「帰りも一人、なんだよね?」

千歌「はい、別れるのは名残惜しいですけど……やっぱり、一人で歩くことにも慣れないとって思ってるので」

花丸「ううん、大丈夫。学校で、図書室で……必ず、また会えるから」
2019/01/01(火) 19:59:10.51ID:ZPiavn7W
花丸「……そうだ。明日は、果南ちゃんと会うんだっけ?」

千歌「そうですよっ。今から楽しみですっ!」

「……」

花丸「……ど、どうしたの?」

千歌「えっ!? ……いや、その……」

千歌「――……小さい頃から、ずっと一緒だって聞いてるので……」

千歌「……忘れてしまった時間の長さを考えると、どうし……」

花丸「大丈夫だよ」

千歌「……っ」

花丸「千歌ちゃんが記憶を失っても……ずっと一緒に居たからこそ、わかることもあると思うから」

花丸「ずっと一緒に居たことを……果南ちゃんを信じれば、絶対応えてくれる」

花丸「それだけは、間違いない。マルが保証するよ」ニコッ

千歌「……それなら、安心です」エヘヘ

千歌「それじゃあ……私は、これで帰りますね」

花丸「うん、マルは片づけを済ませてから帰るずら。じゃあね」

千歌「はいっ、さようなら!」フリフリ
2019/01/01(火) 19:59:37.09ID:ZPiavn7W
ガタ、ガララッ…

花丸「ふう……」

花丸(……図書室って、こんなに広かったっけ)

花丸「……果南ちゃんだけじゃない、曜ちゃんも……3人は、ずっと一緒だったんだよね」

花丸(『辛いのは、みんな同じ』……曜ちゃんが言ってくれた言葉は、その通り)

花丸(でも……小さい頃から今までの、長い長い年月が)

花丸(……千歌ちゃんの中には、残ってない。それも……同じように、確かなことでもある)

「……」

花丸「……でも」

花丸「――……『それでも』……だよね」クスッ

花丸「よしっ! しっかり本を整理してから、オラも帰ろっと」
2019/01/01(火) 20:00:36.20ID:ZPiavn7W
ザザーン…

果南(……)

果南「……うぅ、やっぱり朝は体を動かさないと……なんだかな〜……」

果南(でも……こうやって、波の音を聞いて、朝日を眺めてるのも……)

果南「これはこれで、良い時間……だよね」

タタッ…

「おはよ、果南ちゃん!」

果南「おっ、来たね。おはヨーソローも敬礼もないみたいだけど……」

曜「あっ……やり直すね」タッタッタッ…

果南「あはは、そうきたか」

曜「よしっ……おはヨーソロー、果南ちゃんっ!」ビシッ

果南「うん、おはよ。曜ちゃん」ニコッ
2019/01/01(火) 20:01:04.34ID:ZPiavn7W
ザザーン…

果南「ありがとね、こっちまで来てくれて」

曜「ううん。私も果南ちゃんと話がしたかったから、ちょうど良かったよ」

曜「……果南ちゃんは……」

果南「ん?」

曜「今日、千歌ちゃんに会う……んだよね」

果南「……まあね」

ザーッ…パシャッ…

果南「『会うのは夜にしたい』って頼んだけど、あっさりOKが返ってきてさ」

果南「付き添うことに加えて、時間があんまり遅くならなければ大丈夫……だって」

曜「あの病院、結構自由だよね……」

曜「昨日、花丸ちゃんからメールが来たけど……学校にはもう一人で行けるみたいだね」

果南「そうだね。あの時と比べれば……だいぶ回復してるんだなって。そう思うと、少し安心したよ」

果南「勿論、不安なことも……たくさん、あるけどさ」

曜「……うん」
2019/01/01(火) 20:01:32.12ID:ZPiavn7W
ザザーン…パシャッ…

果南「そもそも、今日会うことについても……」

曜「……」

果南「不安がない、って言ったら……嘘になる」

果南「それ以上に、楽しみでもあるし……記憶が完全に戻らなくても、何か思い出してくれれば……って思いもあるし」

果南「……色々な感情が、気持ちが……混ざりあってる」

ザザーン…

果南「でも、あれこれ考えるよりは……体を動かして、千歌と一緒に遊んで……そう思ったのが、一番だよ」

曜「……」

果南「……昔、二人でいた時と同じ……」

果南「――……あの頃、みたいに……ね」

曜「……っ」
2019/01/01(火) 20:02:00.27ID:ZPiavn7W
果南「それに、曜ちゃんも一緒に……3人で集まる日も。近いうちに、絶対に作るつもり」

果南「その時は、付き合ってもらうからね?」

曜「……うん、もちろんだよ」

ザーッ…ザザーン…

果南「……私、さ」

曜「ん?」

果南「……あの時言ったこと、未だに引っかかってるんだ」

果南「なんで、あんな……ごまかすような、中途半端なこと言っちゃったんだろうって」

曜「まあ、私も追いかけようかなってくらいには思いつめてたように見えたよ」クスッ

曜「鞠莉ちゃんなら大丈夫って思ってたから、そうはしなかったけどね」

果南「あはは、そっか」

果南「……『黙ってても何も進まない』『気持ちの整理をつけよう』……」

果南「みんな、自分の中で考えてるはずなのに……それを、自分は考えていなかった。今でも、そう思う」
2019/01/01(火) 20:02:27.82ID:ZPiavn7W
ザザーン…

果南「まあ、過去のことをグチグチ言ってても仕方ないけどね」

果南「……マルにも『無理してるように見えた』って、前に言われちゃったし」アハハ

曜「ふふっ。やっぱり、お互いのことがわかってきたんじゃないかな」

曜「私は、果南ちゃんと千歌ちゃんとは……昔から、ずっと一緒だったけど」

曜「Aqoursが出来て、梨子ちゃんが入ってきて……ルビィちゃんに花丸ちゃんが。ダイヤさんに、鞠莉ちゃん」

曜「……そして、果南ちゃんも。9人が集まって、一緒に時間を過ごしたからこそ……」

ザーッ…パシャッ…

曜「――千歌ちゃんや果南ちゃんに、私が知らなかった……」

曜「……そして、知りたかった一面があったんだなって。私は、そう思わされた」

果南「……」

曜「果南ちゃんと一緒に、のんびり朝日を眺める……この時間もそうだよ」

果南「うん。私も、この時間があって良かったって思ってるよ」
2019/01/01(火) 20:02:54.43ID:ZPiavn7W
曜「それにね。こうやって、悩んでたことを話してくれるのも……私は嬉しい」

果南「……っ」

ザザーン…

曜「果南ちゃん、いつもはクールだしね……って、どうしたの?」

果南「……ううん、夏休みも明日で終わりだなってさ。唐突に思い出しちゃって」

曜「うわ、そうだった……まだ課題少し残ってるし、終わらせなきゃ……」

曜「でも、善子ちゃんは7割残ってるとか言ってたし、鞠莉ちゃんは8割残ってるって言ってたし……それに比べれば……」

果南「……ねえ、曜ちゃん」

曜「ん?」


果南「――……今、私が見てる曜ちゃんは……前に曜ちゃんが見ていた私と、同じだと思う」


…ピシャッ…
2019/01/01(火) 20:03:20.15ID:ZPiavn7W
…ザーッ、ザザーン…

曜「……え……?」

果南「……私も、曜ちゃんのことはわかってきたって……そう思ってるからさ」

果南「私の思い違いだったら、それで構わない。むしろ、その方が良い」

果南「ただ……もし、本当にそうなら。私の目に見えてる通りなら……」ポンッ

曜「っ!?」ドキッ

曜(肩、を……)


果南「――……絶対に、自分に素直に……自分の思ってることを、千歌にぶつけてほしい」


曜「……っ」

果南「……私はそう思うってだけだけど、ね」パッ

果南「曜ちゃんが、もう一度千歌と会うかどうか。それならいつ会うか」

果南「そして――……会って何を話すか。全部……曜ちゃんが決めることだよ」フフッ

曜「……」
2019/01/01(火) 20:03:48.05ID:ZPiavn7W
果南「……今までのみんなもね。きっと……そうだと思うんだ」

曜「……みん、な?」

果南「千歌が記憶を失って、何もかも忘れちゃって……」

果南「私と同じで……みんな、会う時には少なからず不安を抱いてたと思う。遠慮していたところもあるかも知れない」

果南「そして、楽しみっていう気持ちも……記憶を取り戻すことへの希望も……同じように」

ザザーン…

果南「でも……それでも」

果南「――それでも、みんな……千歌に、自分の気持ちを……自分をぶつけてることだけは、変わらない」

果南「……みんなの話を聞くたびに、それが伝わってきた」

曜「……っ」

果南「だから、私も……ここまで迷い続けていたけど」

果南「みんなと同じように……そうすることに決めたよ」

果南「……それに、もうすれ違いなんてこりごりだからさ」アハハ
2019/01/01(火) 20:04:18.55ID:ZPiavn7W
曜「……果南ちゃん」

果南「ん〜?」

曜「私……みんなのことを考えたり、千歌ちゃんのことを考えたり……」

曜「千歌ちゃんが取り乱すようなことを言っちゃったら、強い言葉を使いすぎちゃったら……」

曜「そしたら、千歌ちゃんだけじゃない。みんなもきっと、混乱しちゃうって」

曜「……その内に、どんどん自分を押し込めて、踏み出せなくなって、遠慮して……」

曜「みんな、私の力になりたいって言ってくれたのに……それ、までも……」

果南「それこそ、責める人なんていないと思うよ」フフッ

曜「うん。だから……私も、いらない気を使うのはもうやめるよ」

ザーッ…ザザーン…

曜「私のこと、みんなは受け入れてくれるって。最初から、分かってたはずなのに……」

曜「……でも……」


曜「――……今……やっと気づけて、良かった」フフッ
2019/01/01(火) 20:04:44.59ID:ZPiavn7W
曜「私……」

曜「みんなを信じて、千歌ちゃんを信じて……」

曜「――……自分が、やりたいことをやるよ」

果南「……うん。曜ちゃんがそう決めたなら、もちろんそれでいいと思うよ」

曜「……」

果南「……不安?」

曜「……ちょっとね」

果南「私もだよ。今だって心の準備ができていない」

果南「――でも……」

曜「えっ?」


果南「――……私たちが知ってる千歌は……そう簡単に、壊れたりしない」


曜「……っ」

果南「そうだよね? 曜ちゃん」ニコ

曜「……うんっ、間違いないよ」

ザザーン…
2019/01/01(火) 20:05:12.05ID:ZPiavn7W
果南「……さて! 私はあっちに戻って、やっぱりジョギングしてこようかな〜」

曜「わかった。私も、もう少ししたら戻るよ」

果南「うん……あ、そうだ。ちょっと待ってて」

曜「えっ?」

タッタッタッ…ガリガリ…

曜(明らかに何かを削ってる音……)

果南「……はい、話に付き合ってくれたお礼。曜ちゃんはブルーハワイだよね?」トン

曜「やった、ありがとっ!」

果南「それじゃ、またね」

曜「うん、バイバ〜イっ」フリフリ

タッタッタッ…

曜「じゃあ、さっそくっ!」パクッ

曜「……なんだか、いつもより……」

ザザーン…パシャッ…

曜「……ちょっと美味しい、かも」クスッ
2019/01/01(火) 20:05:40.70ID:ZPiavn7W
ここまでで、続きの投下は明日になります
2019/01/01(火) 20:21:43.97ID:vi/q7Jrt
りこまる・ちかまる・かなよう
アニメ版ではほぼ描かれなかった関係にも言及あるのがいいね
あと二人になってないのは果南と曜かな?
338名無しで叶える物語(なっとう)
垢版 |
2019/01/01(火) 20:28:10.48ID:bK63z3GM
2019/01/02(水) 11:20:20.98ID:CRlHmclr
(*> ᴗ •*)ゞ
340名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2019/01/02(水) 17:33:47.81ID:U+ixAFtP
タッ…

果南(……結局……)

果南(ここに来るのは、あの日以来……か)

果南(千歌が記憶喪失になって、私が駆けつけて……そして、すぐ……)

ウイーン…ピシャッ

果南「まずは、受付に……」

タッ、タッ…

果南「……ふぅ」

…ガララッ

千歌「……あっ、果南さん! こんにちはっ」

果南「やぁ、千歌。そろそろ、こんばんはの時間だけどね」

千歌「そうですね。でも、出かける準備は出来てますよ!」

果南「なら良かったよ。先にロビーに戻って、話を通しておくね」

千歌「わかりましたっ」
2019/01/02(水) 17:34:13.68ID:U+ixAFtP
ウイーン…ピシャッ

果南(やっぱり、ちょっと曇ってるか。もう少ししたら晴れる……天気予報の通りだといいけど)タッ…

千歌「……果南さん?」

果南「おっと……じゃ、行こうか。ほら、手繋いでおこうっ」パッ

千歌「はいっ」ギュッ

トコトコ

果南「ちょっと歩くけど、大丈夫だよね?」

千歌「もちろんです! 今日は、星を見に行くんですよね」

果南「うん、山に登ってね。ロープウェイを使うけど」

千歌「病院で見るより、綺麗なんでしょうか?」

果南「う〜ん……病院で見る星に、私の家で見る星だって……全部違った良さがあると思う!」

果南「だから、なんとも言えないけど……綺麗なことは確かだよ。山の空気も新鮮だしね」ニコッ

千歌「そうですか。それなら、楽しみですっ」
2019/01/02(水) 17:34:43.81ID:U+ixAFtP
果南「……さ、こっち。これがロープウェイだよ」

千歌「おお、これが……! なんだか、さっきより少し晴れてきましたね」

果南「そうだね。これならきっと、ロープウェイからもいい景色が見られるよ」

千歌「じゃあ、乗りましょうっ」タッ

ガタン…ウイーン

千歌「わあっ、すごい景色っ!」ベタッ

千歌「ほら、果南さんも一緒に……」

果南「わ、私は座って見るだけでいいよ。そ、その……あんまり揺らしちゃダメだよ?」

千歌「はい、わかりましたっ……あっ、あっちにかなり大きな山が!」ガタガタッ

果南「はぐぅ!?」ビクッ

果南(……あれ?)

果南(……千歌が言ってるのって『富士山』のこと……だよね)

果南(そうだ……『いつもの千歌だ』って、あんまり意識してなかったけど……)

千歌「あれ? 果南さん、こういうのダメなんですか?」

果南「えっ……い、いや、大丈夫大丈夫。あはは……」
2019/01/02(水) 17:35:17.88ID:U+ixAFtP
ガタン、タッ…

果南「よし、すっかり晴れてるね。ほら、こっち」タタッ

千歌「はいっ。そういえば、帰りもロープウェイなんですか?」タッ

果南「そうだよ。遅くなりすぎるとなくなっちゃうから、余裕をもって少し早めに戻るつもり」

千歌「わかりましたっ。それじゃあ、星が出てくるまで待機ですね!」

果南「うん……さ、この場所で待とうか。ここが一番、良く見えるよ」

「……」

千歌「……この時期って、日が沈むのが遅いんですね。今もまだ、少し赤い光が見えます」

果南「夏、だからね。と言っても、明日でもう終わりだけど」

果南「……これからは、どんどん日が沈むのが早くなっていくよ」

果南「それと……」

千歌「それと?」


果南「――……私たちの、そして……千歌の夏休みも、明日でおしまい」
2019/01/02(水) 17:35:57.06ID:U+ixAFtP
千歌「……はい、他の人にも言われました」

千歌「それで、やっぱり……学校に戻るのは……」

千歌「――……まだまだ時間がかかる、って……先生に言われてます」

果南「っ……そっか」

果南「……大丈夫。学校が始まっても、必ず会いに行くし……こうやって、外にも連れ出すよ」

果南「……昔と同じように」

千歌「……それなら、良かったです」

果南「それに、私だけじゃないよ。みんなも会いに来てくれる」

果南「そして……まだまだ色々なところに連れ出してくれるはずだよ」

果南「それぞれの違ったやり方で、ね」ニコッ

千歌「……入院生活も、退屈しなさそうですね」クスッ
2019/01/02(水) 17:36:27.77ID:U+ixAFtP
果南「もしかすると、千歌の病室に行列が出来ちゃうかもね?」

千歌「ええっ……アイドルじゃないんですから、そんな……」

果南「アイドルだよ?」

千歌「……はっ!?」

果南「っと、そろそろ星が見えてくる頃だね。夏の空は、冬に比べると疎いんだけど……」ポツ…


果南(……え……?)ポツ、ポツ…


果南「これって……」

千歌「あ、雨……?」ポツポツ…

果南「雲も、突然……さっきまでは見えなかったのに……」

千歌「ホントだ……空、真っ黒ですね……」
2019/01/02(水) 17:37:33.82ID:U+ixAFtP
ポツ、ポツ…ザーッ…

千歌「わっ、雨が強くっ!?」

果南「千歌、こっちに!」ギュッ、タタッ

ザザーッ…

果南「ここなら大丈夫だけど……ちょっと濡れちゃったよね? ほら、このタオルを使って」

千歌「ありがとうございますっ」パッ、フキフキ

「……」ザーッ…ビュウッ…

果南(雨に加えて、風も……なんで、こんな時に……)

果南(……でも)

果南「……千歌、今日は戻ろうか」

千歌「えっ?」

果南「ロープウェイはまだ動いてると思うけど……これ以上、雨が強くなってもおかしくない」

果南「もしそうなったら……ロープウェイが止まっちゃう」

千歌「……っ」
2019/01/02(水) 17:38:08.59ID:U+ixAFtP
果南「……徒歩でも帰れなくはないけど、強い雨が降ってたらどちらにせよ危険だよ」

果南「特に……今の千歌に、そんなことをさせるわけにはいかない」

果南「一応、病院への連絡を入れておくね。え〜っと、千歌は先にこの傘を……」ガサッ


千歌「――……私……戻りたくないです」


果南「……えっ?」

ザー、ザーッ…

果南「……何言ってるの? 戻らないと……」

千歌「……わがままなのはわかってます。危険だってことも、そうした方が良いってことも」

千歌「でも……私、は……」

千歌「……ここで止めたら、絶対……後悔します……」

果南(……っ)

千歌「だから、もうちょっとだけ待ってみませんか?」

果南「それ……本気で言ってるの?」

千歌「……本気です」

果南「……っ!」グッ
2019/01/02(水) 17:38:36.50ID:U+ixAFtP
パァン!


千歌「――……え……?」


果南「……はぁ、はぁ……」

千歌「……い……た……」ジワッ

果南「――千歌! 自分が……自分が何言ってるかわかってるの!?」

千歌「……っ」

果南「ここで待ってて、雨がより強くなったら……帰れない、かもしれない……」

果南「私だって、悔しいよ! ここまで来て、千歌と二人っきりで星を見られれば……」

果南「昔みたいに、あの時みたいに……そうできればどんなに良かっただろうって、今だって思ってる!」

千歌「……果南、さん……」

果南「でも……それでも……」

「……」ザーッ…

果南「……千歌を、無事に帰さないわけにはいかない……」グスッ

果南「ここで、何かあったら……私だけじゃない。千歌を待ってる、みんなだって……」


果南「――……そんなの、後悔しても……しきれないよ……」グッ
2019/01/02(水) 17:39:03.24ID:U+ixAFtP
ザザーッ…

千歌「……そう、ですよね」

果南「……えっ?」

千歌「いえ、私……自分の事しか、見えてなかったんだなって……」

果南「……」

千歌「果南さんの、気持ちのこと……考えて、ませんでした」グスッ

果南「……っ」

千歌「だから……ぐすっ……ごめんなさい」ゴシゴシ

千歌「……今日は、帰りましょう。でも……また誘ってくださいね」

千歌「絶対……絶対、ですよっ。約束、です」

果南「……うん、約束する」ニコ
2019/01/02(水) 17:39:34.15ID:U+ixAFtP
千歌「こういう時って……『ゆびきりげんまん』っていうのをするんでしたっけ?」

果南「う〜ん……それは違うかな」クスッ

千歌「えっ、そうなんですか? じゃあ、何を……」

果南「こういう時は……」スッ


果南「――……ハグ、しよ?」ポタッ

ガバッ

千歌「……果南、さんっ……うぅ……ぐすっ、ひっぐ……」ギュウッ…

果南「ごめんね、千歌。星も見られなくて……それに……」

千歌「謝らないでくださいっ! 私は……」

千歌「私は……果南さんがああしてなかったら、絶対……諦めなかった……」ギュウッ

果南「……っ」

千歌「私が……ぐすっ、一番……よくわかってます……」

ギュウッ

千歌「っ!」

果南「――……私も、だよ」ポタッ

ザーッ…
2019/01/02(水) 17:40:05.67ID:U+ixAFtP
タッタッタッ…

果南「千歌、こっち! 気を付けてね」

千歌「はいっ」タッタッ

タッ…

果南「まだ大丈夫ですか?」

<ハイ、コチラヘ…

ガタン…ウイーン

果南「ふぅ……何とかなったね」

千歌「そうですね」

ザーッ…

千歌「それにしても……果南さんも私も、結構濡れちゃいましたね」エヘヘ

果南「あはは、傘もあんまり意味なかったね。あれだけ降ってるから、仕方ないけどさ」

千歌「私、先生に怒られちゃうかも。『雨の中何やってるんだー!』って……」

果南「大丈夫大丈夫」

千歌「何も大丈夫じゃないです……」

果南「『私が無茶苦茶に引っ張りまわした』ってことにすれば、多分気が逸れるよ」アハハ

千歌「……そういうもの、なんですか?」

果南「うん。そういうものだよ」
2019/01/02(水) 17:40:31.36ID:U+ixAFtP
果南「私ね」

千歌「……はい」

果南「小さい頃も、ここに来たことがあるんだ」

千歌「私と一緒に……ですか?」

果南「ううん。さっき言ったのは、淡島に遊びに来てくれた千歌と一緒に星を見たって話」

果南「Aqoursが出来てからもそうだけど……小さい頃も、同じくらい千歌と会って遊んでたんだよ?」

千歌「……」

果南「ここに来たのは……ダイヤと鞠莉と私。3人でだった」

千歌「へ〜……」

果南「あの時、鞠莉は部屋を抜け出してまで私たちに会いに来てさ」

果南「このロープウェイに乗ってる間、下で鞠莉の捜索が始まってたのは、今でも覚えてる」フフッ

千歌「え〜……まあ、なんとなく想像できちゃいますけど……」
2019/01/02(水) 17:40:56.97ID:U+ixAFtP
果南「3人で、流れ星を探しに行こうって……流れ星に、願い事をしようってね」

千歌「わあっ、素敵ですね!」

果南「それでさっき千歌と一緒にいた所まで、登って行って……」

果南「……でも」

千歌「……でも?」

果南「流れ星は見られなかった。今日と同じように、雨が降ってきてさ」

ザーッ…

果南「……いや、『見られなかった』……は、少し語弊があるか」クスッ

千歌「へ?」

果南「ううん、なんでもない」

「……」ザーッ…

果南「……こうやってまた、雨に阻まれるなんてね」

千歌「……」
2019/01/02(水) 17:41:22.60ID:U+ixAFtP
千歌「……でも、約束は守ってもらいますよ?」ジー

果南「もちろん。私だって……今日はダメでも、いつか必ずって思ってる」

果南「このまま終わりで、いいわけないよ」

千歌「そうですよ。雨だって、降り続けるわけじゃないです!」

果南「その通り。だから、雨がやむ日まで……晴れる日までは」


果南「――千歌と、私と……みんなで遊んでようか」ニコッ


千歌「……楽しみです」クスッ

果南「……さ、そろそろだよ。まだ結構降ってるし、早めに帰らないとね」

千歌「はいっ」

ウイーン、ガタン…タッ パサッ

千歌「……やっぱりちょっと狭いですね、これ」

果南「確かに……でも、たまにはこういうのもいいんじゃない? いつ以来だろ」

千歌「昔も、一緒の傘に入ってたんですか?」

果南「たまに、ね」

タッ、タッ…
2019/01/02(水) 17:41:48.98ID:U+ixAFtP
ウイーン…ピシャンッ

果南「これ、受付でボロボロに言われそうだね」ビショビショ

千歌「私、病室から追い出されちゃうかもしれません……」ビショビショ

果南「それはないと思うけど……」

果南「さ、今のうちにこれで拭いておきな。私は受付に行ってくるから」パサッ

千歌「ありがとうございます」パッ、フキフキ

果南(……結局、予報は大ハズレかぁ。未だに降ってるし)タッ

果南(……明日まで、降り続けたら……)

タッ、タッ

果南「……はい、戻ったよ。とりあえず、お風呂に入ってきた方が良いと思う」

千歌「そ、そうですね……果南さんも、拭いた方が」

果南「そうだね……っと」パッ、ゴシゴシ

千歌「受付の人には、なにか……」

果南「病人でもないのに『お大事に』って言われちゃった」

千歌「あははっ」
2019/01/02(水) 17:42:14.71ID:U+ixAFtP
果南「でも……風邪は引きたくないし、早く帰ることにするよ」

千歌「はい、わかりましたっ。まだ降ってるみたいですし、お気をつけて!」

果南「うん、ありがと……あ、そうだ」

千歌「どうしました?」

果南「この後、LINEはしっかり見ておいてね」

千歌「大丈夫ですっ」

果南「……それじゃ」

千歌「さようならっ」フリフリ

ウイーン…ピシャン …パサッ

果南(空は……)フッ

果南(……雲が覆ったまま、か。雨も、少しだけ強くなってる……)

ザーッ…

果南(明日は……天気予報だと、一日中曇りに時々雨……だっけ)トコトコ
2019/01/02(水) 17:42:40.20ID:U+ixAFtP
果南(……曜、ちゃんは……)ピタッ

ザーッ…

果南「……ううん」

果南「『やりたいことをやる』。曜ちゃんの言葉を……」

果南「私はただ……待つだけ、だよね」

果南「きっと、みんなも同じはず」

果南「それに……千歌の言う通り、雨がいつまでも降り続けるわけないしね」クスッ


果南「――さぁ、帰ろうか!」タッ

ピチャ、ピシャッ…

ザーッ…
2019/01/02(水) 17:43:21.49ID:U+ixAFtP
ここまでで
また夜に投下します
2019/01/02(水) 21:25:50.21ID:YFf1I40f
おつです!わくわく!
360名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2019/01/02(水) 22:07:58.03ID:U+ixAFtP
「……」

チッ、チッ…

曜(……12時……)

曜「……そろそろ出た方が良いかな。早め早めに準備を、っと……」

ガサゴソ…

曜「……よしっ」

バタンッ タッタッ

曜「ママ、いってくるねっ!」

<ハーイ

ガチャッ…バタン

タタッ

曜「……」

タッ、タッ…
2019/01/02(水) 22:08:24.34ID:U+ixAFtP
曜(雨……昨日の夜は、強く降ってたけど……)

タッ、タッ…

曜(……今は、やんでる)

曜「でも……雲は出たまま、かぁ」

曜(昨日、果南ちゃんは……)

タッ、タッ…

曜(結局、星は見られなかった――そう言ってたっけ)

タッ…

曜「……」

トコトコ…
2019/01/02(水) 22:08:49.89ID:U+ixAFtP
タッ、タッ…ピタッ

曜「……」

曜(――……ここだ……)タッ

ザザーン…

曜(……千歌ちゃんの、家の前……)

ザーッ…ザザーン…

パシャッ…

曜(この……海岸、で……)

「……あっ!」

曜「……っ」

タッタッタッ…

…ザッ

「――……こんにちは、曜さんっ」ニコッ

曜「……ふふっ」

曜「――こんにちは、千歌ちゃんっ!」

千歌「えへっ」
2019/01/02(水) 22:09:17.14ID:U+ixAFtP
千歌「さ、こっちへっ!」ギュッ

曜「わわっ!? い、いきなり引っ張られると……」タタッ

…ザッ

千歌「この場所なら、海がよく見えますっ」

曜「……そうだね」

ザザーン…

千歌「よ……っと」ザッ

ザーッ…ピシャッ…

曜「……私より、早く来てたんだね」

千歌「はい。待ってる間は……こうやって、座って海を眺めてました」

ザザーン…
2019/01/02(水) 22:09:42.92ID:U+ixAFtP
曜「ここまでの道は大丈夫だった?」

千歌「大丈夫ですよ。曜さんに言われた道を、何度も確認したので」

曜「そっか」クスッ

ザーッ…ザザーン…

千歌「――……いい場所、ですね」

曜「うん、私もそう思う」

「……」

パシャッ…

曜「……隣、いい?」

千歌「もちろんっ」

曜「ありがと。よいしょ……っと」ザッ

ザーッ…
2019/01/02(水) 22:10:48.77ID:U+ixAFtP
曜「――……寂しかった、かな?」

千歌「……へっ!? ど、どうして、突然……?」

曜「ううん、なんとなく」

千歌「……」

ザザーン…

曜「千歌ちゃんが、そんな表情だったから」

千歌「そう、なんですか?」

曜「そうだよ」

千歌「そう、ですか……」

曜「それと――もし、私もここに一人で座ってたら……ちょっと寂しかったかも、って」クスッ

千歌「……」

ザーッ…ザザーン…
2019/01/02(水) 22:11:16.17ID:U+ixAFtP
曜「……待たせちゃってごめんね」

千歌「いえ、そんなっ。私が早く来ただけですよっ」

「……」

ザザーン…パシャッ…

千歌「……この場所、私の家の前なんですね」

曜「そうだね」

千歌「病院からだと、少し遠いですけど……」

曜「うん。入院が終わって家に戻ったら、すぐ来られるようになるよっ」

千歌「……そうですね」ニコ

ザザーン…

曜「……そうだ。ここ、千歌ちゃんと梨子ちゃんが初めて会った場所なんだよ?」

千歌「えっ、そうなんですか!?」

曜「そ。千歌ちゃんが話してくれたの、よく覚えてる」クスッ
2019/01/02(水) 22:11:53.77ID:U+ixAFtP
曜「あと、梨子ちゃんが海に飛び込もうとした話も……」

千歌「ええっ!? 危ないですよ、それ!」

曜「だから、それを千歌ちゃんが止めたんだよ」

曜「……その後、二人とも海に落っこちたって聞いたけど」

千歌「む、無茶苦茶ですね……」

曜「あははっ、そうだね」

ザザーン…

曜「……私ね」

千歌「えっ?」

曜「ここに来る前……千歌ちゃんと会うって決意した時から、今まで……」

千歌「……」
2019/01/02(水) 22:12:43.33ID:U+ixAFtP
ザーッ…パシャッ…

曜「『何を話そうか』『会話に詰まったらどうしよう』『変なこと言わないようにしないと』とかとか……」

曜「ずっと、ず〜っと……頭の中で考えてた」

千歌「……っ」

曜「――でもね」

千歌「……でも?」

曜「こうして横に並んで、座ってみたら……」


曜「――……不思議と、話したいことが次々思い浮かんできた」クスッ


曜「もしかすると、夜までずっとここ話してるかもね?」

千歌「ええっ!? それじゃあ先生に怒られちゃいますっ、今日は検査にリハビリに……」

曜「あはは、冗談だよ。ごめんごめん」

千歌「でも……そう言ってくれるのは、嬉しいです」
2019/01/02(水) 22:13:24.81ID:U+ixAFtP
ザザーン…

千歌「……いつか、ここで……」

千歌「――……曜さんと、夜まで……星が見えるまで。ずっと、話せたらいいな……って」ニコ

曜「……ふふっ、私もそう思うっ」

曜「そうだっ! どうせなら、Aqoursのみんなを誘ってドンチャンやってもいいかもっ」

千歌「あっ、それも楽しそうですねっ! 9人みんなで、夜まで……」

ザーッ…ザザーン…

千歌「今までのこととか、これからのこととか」

曜「……」

千歌「ずっと、話してるのも……」

曜「……千歌ちゃん」

千歌「きっと、楽しいですよっ」

曜「千歌ちゃんっ」

千歌「だから絶対、みんなで集まっ……」

曜「千歌ちゃんっ!」

千歌「ひうっ!?」
2019/01/02(水) 22:15:08.88ID:U+ixAFtP
パシャッ…

千歌「……えっ? ど、どうしたんですか? 突然……って、わわっ!?」

ガバッ…ドサッ!

ギュウッ…

千歌「よ、曜さん? そんな、抱きしめられると……」


曜「――千歌ちゃん……お願い……っ」グスッ


千歌「お、お願いって〜……一体、何を……」

曜「千歌ちゃん、気付いて……」

千歌「気付いてって……」


曜「――……気付いてよっ!」ポタッ


千歌「……っ」


曜「千歌ちゃんは……」


曜「……千歌ちゃんは、今……」


曜「――……泣いてるんだよ?」ギュウ…
2019/01/02(水) 22:15:45.54ID:U+ixAFtP
千歌「――……ほぇ……?」ゴシゴシ


千歌「――……あれ、ホント……だ……」ポタッ

千歌「私……なんで、だろ……なんで、泣いて……」グスッ

ギュッ

曜「お願い。自分の涙に……心に」

曜「――……気付いて、あげて……っ」ポロポロ

ギュウッ…


千歌「……っ」

千歌「……うぅ……」グスッ

千歌「――……わぁぁぁぁん! ひっぐ……うぅ……うわぁぁぁぁん!!」ポロポロ

ギュッ

曜「……千歌、ちゃん……っ」ギュウッ

千歌「……ぐすっ……わぁぁぁぁん……」ポタ、ポタッ…
2019/01/02(水) 22:16:21.96ID:U+ixAFtP
ザーッ…

「……」

ザザーン…ピシャッ…

曜「……落ち着いた?」

千歌「……はい」グスッ

ザザーン…

千歌「……恥ずかしいところ、見せちゃいましたね」エヘヘ

曜「いいの、もう何度も見てきたし♪」

千歌「そ、そんなぁ〜……」

曜「そして、私も見せてきたっ! なんたって、小さい頃から今の今まで……ずっと一緒だったんだもん」

千歌「……っ」

千歌「……そう、ですよね」

曜「……」
2019/01/02(水) 22:17:25.49ID:U+ixAFtP
ザザーン…

千歌「私……」

曜「ん?」

千歌「……『記憶を失っている』って聞かされた時のこと、今でも覚えてます」

千歌「真っ白な、全く知らない場所で目覚めて……知らない人が何人もいて」

千歌「……その時は、酷く暴れてましたっけ」

ザーッ…ザザーン

千歌「でも……」

曜「……うん」

千歌「梨子さんが、学校に連れて行ってくれて……善子さんと曜さんでゲームをして」

千歌「ダイヤさんにルビィさんと神社にお参りして、鞠莉さんとソフトボールをして」

千歌「花丸さんと本を読んで、果南さんと星を見……られな……えっと、ハグして」

曜(ハグしたんだ果南ちゃん……)

千歌「そして、今ここに居られて……曜さんと話せて」

千歌「――……本当に、とっても、と〜っても……楽しかったっ!」ニコッ
2019/01/02(水) 22:18:16.26ID:U+ixAFtP
曜「……そっか」クスッ

ザザーン…

千歌「それで、みんな……まだまだ、たくさん遊んでくれるって」

千歌「そう言ってくれたのも、嬉しくて……今から、わくわくしてますっ」

千歌「だから、私……」


千歌「――……記憶を失った今でも……今が、楽しいです。未来が、楽しみです」

ザザーン…パシャッ…

千歌「……もちろん、心配事も不安もあるけど……」

曜「……」

千歌「勉強も、歌もダンスも……遊びも。そして……スクールアイドルとしての活動も」

千歌「Aqoursのみんなが、近くにいて……色々なことを教えてくれる」

千歌「――……そうですよね、曜さん?」

曜「ヨーソロー! もちろんでありますっ!」ビシッ

千歌「ふふっ……良かった」ニコ
2019/01/02(水) 22:18:42.53ID:U+ixAFtP
千歌「そう思うと、たくさんある心配事も不安なことも……怖くないんです」

ザザーン…

曜「……」

千歌「……曜さん?」

曜「……ううん。千歌ちゃんがそう思ってくれていることが、私も嬉しくて」

千歌「……えへへ」

ザーッ…ザザーン…

千歌「まあ、卒業した後のこととかは何にも考えてませんけどっ」

曜「あははっ」

千歌「笑えません」

曜「はい……」

ザザーン…
2019/01/02(水) 22:19:25.55ID:U+ixAFtP
千歌「……そうだ」

曜「どうしたの?」

千歌「私たちの学校の夏休みって……今日で終わり、なんですよね」

曜「……そうだね」

千歌「夏休みが終わったら、新学期が始まって……」

千歌「秋が来て、冬が来て……春が来て」

千歌「……そして、卒業式の日も」

ザザーン…

千歌「3年生のみんなとは、離れ離れになって……その次は、私たちも……」

千歌「――……時間は、止められない……」

パシャッ…

曜「……っ」
2019/01/02(水) 22:20:25.66ID:U+ixAFtP
「……」


千歌「――……一つだけ、心残りがあるんです」


曜「……心、残り……?」

千歌「はい。記憶を失って、何にも残ってない私が言うのもなんですけど……」エヘヘ

千歌「今が楽しくて、未来が楽しみで……怖いものも何もない。それは、本当です」

千歌「でも……一つだけ」


千歌「――……『記憶を失ってしまったこと』……」

千歌「それだけが、私の……心残り。辛くて悲しくて……悔しくて」

千歌「そして、きっと……一生忘れられないこと」


曜「――……ちか、ちゃ……ん……」


ザザーン…
2019/01/02(水) 22:21:33.09ID:U+ixAFtP
千歌「みんなと会って、色々なところに行って……」

千歌「楽しいって思ったり、悲しいって思ったり、嬉しいって思う……そのたびに」

千歌「失った今までの時間が、記憶が……思い出が。どれほど大切なものだったか」

千歌「そんな思いが、どんどん強くなっていって……」

ザーッ…

千歌「……さっき……」ポタッ

曜「……っ」

千歌「――さっきは……それを思い出しちゃったから」ゴシゴシ

千歌「ちょっと……感極まった?というか……」エヘヘ

曜「……そっか」
2019/01/02(水) 22:22:05.24ID:U+ixAFtP
曜「……私はね、それでいいと思うっ」

千歌「……へ?」

曜「自分の中にあるもの、それがどんなに辛いものでも……楽しいものでも」

曜「……抱え込んでいいと思う」

千歌「……」

曜「ただ……」

千歌「……ただ?」

曜「もし、それを抱えることに……耐えきれなくなったら」

曜「その時は――さっきみたいに」


曜「――さっきみたいに、我慢しないで……思いっきり泣いてほしい」


千歌「……っ」
2019/01/02(水) 22:22:42.38ID:U+ixAFtP
曜「千歌ちゃんはね、いっつも周りのことをよく見てた」

曜「――でも……その分、自分の事には……あんまり、目を向けてなかったというか」

千歌「……」

曜「小さい頃からずっと一緒に居る私が思うんだから、間違いないっ!」

曜「……だから、きっと抑え込んじゃう部分もあると思うんだ」

千歌「むぅ……人のこと言えるんですか?」ジトー

曜「ううん、言えないっ!」ガバッ

千歌「え……わあっ!?」

ドサッ、ギュッ

曜「っ……だか、ら……」グスッ


曜「――私も、そうする……よ……」ポタ…


千歌「……曜、さん……」

ギュウッ…
2019/01/02(水) 22:23:23.80ID:U+ixAFtP
曜「……私……」

曜「千歌ちゃんが、記憶を失ってから……ずっ、と……」ポタ

曜「ぐすっ……幼馴染の私がしっかりしなきゃ、とか……みんなを動揺させたくない、とか……」

曜「余計なこと、ばっかり……考えてて……っ」ギュウッ

千歌「……っ」

曜「千歌ちゃんと、会うこと……も……うぅ……いっつも、遠ざけてて……」グスッ


曜「……本当は……会って、話をして……」

曜「――……こうやって、抱きしめたかったのに……っ」


千歌「……」

曜「そうしない方が辛い、って……わかってた、のに……」ポタポタ

千歌「……曜、さん……」

…ギュッ

曜「っ……うぅ……わぁぁぁぁん!!」ポロポロ

ギュウッ…
2019/01/02(水) 22:23:51.33ID:U+ixAFtP
曜「ぐすっ……」

千歌「……落ち着き、ましたか?」

曜「んっ……」コシゴシ

曜「……うん、なんとか」ニコ

曜「よっ……と」

ザッ

千歌「よ、曜さん……? どこへ……」

曜「そろそろ、帰ろうかなって思って……私も、すっきりしたし」エヘヘ

ザッ、ザッ…

曜「千歌ちゃん、病院まで一緒に帰ろう?」

千歌「……すみません」

千歌「――……私は……もう少し、ここに残りたいです」

曜「……そっか。じゃあ、病院には私が連絡しておくねっ」

千歌「……はい、ありがとうございます」
2019/01/02(水) 22:24:40.48ID:U+ixAFtP
曜「じゃ……」

ザッ、クルッ

曜「またね、千歌ちゃんっ!」ビシッ

千歌「……はい、また今度」ニコッ

クルッ、ザッザッ…

キラッ…ポタッ

千歌(……っ)

千歌(……今、の……)

…ザザーン…
2019/01/02(水) 22:25:45.00ID:U+ixAFtP
千歌「……」

ザッ…ドサッ

千歌「空……」

千歌(……一面の雲、かぁ……)

千歌「私が記憶を失って、ここまできて……」

千歌「今が楽しくて、未来が楽しみで」

千歌「……」

千歌「……私は、これでいいんだよね」
2019/01/02(水) 22:26:14.70ID:U+ixAFtP
今日はここまでで
続きは明日投下します
386名無しで叶える物語(庭)
垢版 |
2019/01/02(水) 23:11:27.58ID:NO+x5BFA
2019/01/03(木) 01:52:11.39ID:LD+UzmEn
|c||^.- ^||
2019/01/03(木) 10:56:06.69ID:NF19vt+u
おつ、好き
こわいにゃあ
389名無しで叶える物語(なっとう)
垢版 |
2019/01/03(木) 14:31:52.83ID:L3hbqFYx
390名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2019/01/03(木) 19:33:22.16ID:mKDAuNGP
千歌(……)

千歌(……本当に……?)


千歌(――本当に、これでいいのかな……?)


千歌(――……何か、大切なことを……忘れてる、ような……)


千歌「でも……」


千歌「何を忘れてるのか、わからないよ……」


千歌「――……なんでだろ……」


千歌「なんで、なんで――わからないんだろ……」
2019/01/03(木) 19:33:47.92ID:mKDAuNGP
千歌(……私……)

千歌「やっぱり、バカだ……」ギュッ


千歌「――……バカ……ち……」ツー…

ポタッ…


……
2019/01/03(木) 19:34:19.76ID:mKDAuNGP
〜〜

千歌「……んぅ」パチッ

千歌「――……あれ? 私……寝てた?」

千歌「……えーっと……」キョロキョロ

千歌「……ええっ!? こ、ここどこ!?」


??「ここは、私の部屋だよ!」


千歌「……ほぇ?」

千歌「こ、声? どこから? 私の声と似てる……いや、同じだよね!?」

??「いいからいいからっ! さ、こっちに来てっ!」

千歌「こっちって……わっ!? これ……」

キラキラ

千歌「青い……羽根? なんだか、綺麗……って、わあっ!?」

フワッ…

千歌「は、羽根が飛んで……ま、待って〜っ!」ダッ

??「あははっ。最近練習してなかったし、ちょうどいいよっ」

千歌「えっ……むぅ、余計なお世話だよっ」
2019/01/03(木) 19:34:50.03ID:mKDAuNGP
ガタンッ!

「いってらっしゃい」

「バカチカ、また遅刻〜?」

「気を付けてね、千歌ちゃん」

千歌「へ? えっと……い、いってきまーすっ!」

タッタッタッ…

千歌「……はぁ、はぁ……」タッ

千歌「……こ、ここって……」

??「うん。私が通ってる学校、浦の星女学院だよ。じゃ、次はこっちっ」フワッ

千歌「え〜っ!? まだ走るの!?」

タッタッ…

??「はい、ここまでっ」

千歌「はぁ、はぁ……おんがく、しつ?」

??「ふふっ。羽根は、その中にあるよ」

千歌「え、えぇ……じゃあ、失礼しまー……す……」ガララッ
2019/01/03(木) 19:35:35.02ID:mKDAuNGP
「……」

…タン♪

千歌「……っ」

「Aqoursは、千歌ちゃんから始まったものだった」

「曜ちゃんが入って、私が入って……1年生のみんなに、3年生のみんなも」

「学校で初めてのライブをやって、東京に行って……地方予選に出て」

「体育館、屋上、花火大会に……色々な場所で、色々な曲を披露してきた」

「地方予選では、負けちゃったけど……『めげずに、残された夏休みも練習頑張ろうっ』って」

「そう言った千歌ちゃんに、みんながうなずいて……笑ってた」

「『想いは一つ』……その時に改めて感じたこと。私も、笑っちゃった」

「……でも」
2019/01/03(木) 19:36:08.53ID:mKDAuNGP
??「さ、次はこっち」フワッ

千歌「……うん」タッ

タッタッ…

??「ここだよ、図書室!」

ガララッ

「そのすぐ後に、千歌ちゃんが……」

「――事故で、記憶を失った」

「オラと一緒に勉強して、本を読んだことも……」

「私と、たくさんゲームで遊んだことも……」

「何もかもの思い出が、千歌ちゃんの中から消えちゃった……まるで、本の中の出来事みたいに」

「私は、どうすればいいのかわからなかったわ」

「マルは、ここでルビィちゃんと……たくさんの本を開いて、閉じて……」

「何か手掛かりがないかって、ずっと探してた」
2019/01/03(木) 19:37:57.53ID:mKDAuNGP
「みんなが集まって、別れて……9人が、一人ひとりになったその日ね」

「梨子ちゃんから『千歌ちゃんを学校に連れていきたい』っていうメールがあった」

「その時は、私もみんなもショックで動揺してて……梨子だって、そうだった」

「それでも、梨子ちゃんはそう提案した……梨子ちゃんなら」

「梨子なら、大丈夫。私もずら丸も、みんなが思ってたこと」

「そして……次の日、梨子ちゃんと千歌ちゃんは……この学校に来た」
2019/01/03(木) 19:38:32.51ID:mKDAuNGP
??「さ、次はここ。生徒会室!」フワフワ

千歌「……っ」

ガララッ

「梨子さんが千歌さんと会ったこと。様子はどうだったか、記憶はどうだったか……」

「梨子ちゃんは、全部ルビィたちに教えてくれた」

「千歌さんらしさ、千歌さんの個性……それが失われていないように見える。そう聞いたときは、安心して」

「千歌ちゃんの中に、記憶はない――思い出がない。そう聞いた時は……やっぱり、悲しかった」

「でも……その日の夜、善子さんが千歌さんに会うと話していて」

「ルビィも、お姉ちゃんも……おんなじことを思ってたっ」

「どこに連れ出せばいいか、どこで遊べばいいか……」

「それは、正解なんてないこと」

「だから……わたくしは、行きたいところに行こうと決めました」
2019/01/03(木) 19:38:57.89ID:mKDAuNGP
「梨子さんがピアノを弾いて……」

「善子ちゃんが、ゲームで遊んだように」

「結局……わたくしたちも、自分らしい場所で自分らしく……そうありたかった」

「そして、千歌ちゃんと一緒に……楽しみたかったっ」

「もちろん、不安もありましたけど……」

「帰る時は……会えてよかった、遊べてよかった。そんな気持ちで、いっぱいだったよっ」

「……でも、わたくしは……」

「ルビィも……」
2019/01/03(木) 19:40:42.84ID:mKDAuNGP
??「どう? まだ走れるよねっ」フワフワ

タッタッ

千歌(……理事長、室……)

ガチャッ…

「私も、梨子ちゃんも、善子ちゃんも」

「マルも、私も……ね♪」

「みんなが、千歌に会ったその日、千歌の前で泣いていて……」

「……ちかっちも、同じように泣いていた」

「――……けどね、それは悲しいからってだけじゃない」

「私は、ちかっちが変わってなくて良かった……そう思って、安心して」

「私は、星を見れなかった悔しさと……千歌を叩いたこと。でも……千歌を抱きしめられたことも」

「私たちだけじゃないわよ?♪」

「千歌に会ったみんなは……みんなが、それぞれの涙を流してた」

「それはね? みんなが、自分を……自分の感情を……」
2019/01/03(木) 19:41:34.90ID:mKDAuNGP
「――心を……千歌にぶつけてるから」

「そして、それにちかっちが応えてくれたからよ♪」

「記憶を失っていても、なんであっても……千歌は千歌、変わらないことだった」

「それでね、思ったの。ちかっちが変わらない様に……私たちだって変わってない、って」

「ルビィちゃんが、大好きなスクールアイドルを始められた時」

「マルがためらいを振り切って、やりたいって決めた時」

「善子ちゃんが、堕天使キャラを捨てず……そのままでいいって、思い直した時。そして……」

「私に果南にダイヤ、3人が仲直り出来た時だってそうよ♪」

「いつだって、私たちは……千歌に、他のみんなに、自分をぶつけてきた」

「ちかっちが、みんながいて……やりたいようにやってきたのよ♪」
2019/01/03(木) 19:42:51.55ID:mKDAuNGP
タッタッ…

??「最後は……部室、だね」フワフワ

千歌「……ぐすっ……うぅ……」ポタッ

ガララッ

千歌「……っ」ゴシゴシ


「……ねえ、千歌ちゃん」


「私ね、『今が楽しい、未来が楽しみ』……千歌ちゃんが、そう言ってくれたこと」


「本当に、ほんとうに……ほんっとうに、嬉しかったっ」


「私は、この言葉……絶対忘れないよ。忘れたくないっ!」


「みんなが言ってくれたように……千歌ちゃんがいたから、みんながいたから」


「私たちは、自分であり続けて……ぶつかり合って。今まで……過ごしてきた」


「だから……ありがとう」
2019/01/03(木) 19:43:21.89ID:mKDAuNGP
ビュウッ、ゴオッ!

千歌(っ!? か、風……!?)


「――……ありがとう、千歌ちゃん」ニコッ


千歌「い、いかないでっ!」グッ

ゴオオッ!

千歌「――いかないでよっ!」ザッ


ゴオオォッ!


千歌「――……かない、で……っ!」


千歌「――……よう、ちゃ……っ……」

ビュウッ!!

千歌「ぐうっ……! 待っ……わあっ!?」
2019/01/03(木) 19:44:00.29ID:mKDAuNGP
??「……大丈夫?」ポン

千歌「……んっ」パチッ

千歌「……あれ? ……ここ、は……」

千歌(……一面、真っ白……)

??「ほら、起きてっ」ギュッ

千歌「あ、ありがと……よいしょ、っと」タッ

千歌「あなた、は……」

??「私は、記憶を失う前のあなた」タッ…

クルッ

??「――……チカ、だよ?」ニコッ

千歌「……っ」
2019/01/03(木) 19:44:35.66ID:mKDAuNGP
千歌「なんで、あなたが……」

??「そんなの決まってるよ。あなたが……チカが、忘れたくないから」

千歌「……じゃあ、ここは……」

??「あなたが見てる、夢の世界?……っていうか……」

千歌「Aqoursのみんなが出てきたのは……」

??「もちろん、あなたが会いたいって思ってるからっ」

??「……ねえ」

千歌「……」


??「――……あなたは、記憶を取り戻したい?」


千歌「っ!?」

千歌「――そんなの、決まってる。もちろん、取り戻したいよ……」

千歌「取り戻したいよっ! でも……私は、事故で……」
2019/01/03(木) 19:45:34.79ID:mKDAuNGP
??「……ううん」

千歌「えっ?」

??「あなたが記憶を取り戻せなかったのは、思い出せなかったのは……事故のせいじゃない」

千歌「っ……違う! 頭に負った傷で、私は……」

??「記憶は頭の中にだけあるわけじゃない、心にだってあるよ」

千歌「……どうして」

??「……」

千歌「どうして、そんなことが言えるの!? 根拠なんて、どこにも……」

??「え〜……そう言われると、そうだけど。でも、私は――あなたなんだよ?」

千歌「……っ」

??「……今までは、心にある記憶を取り戻すなんて……」

??「誰とも話さず、誰とも同じ時間を過ごしてない」

??「手がかりもない状態では……出来ないことだった」

??「でも……今のチカなら。みんなと会って、話して……ぶつかって」

??「心を通わせて、応えて……共鳴させた。今のチカなら、思い出せるはず」ニコッ

??「頭で、じゃない……心で!」
2019/01/03(木) 19:46:02.46ID:mKDAuNGP
千歌「……」

??「大丈夫」

千歌「……」

??「あなたが、みんなの心に応えてくれたように……」

千歌「……」

??「みんなが、あなたの心に応えてくれた」

千歌「……」

??「8人、みんなが」

千歌「……」
2019/01/03(木) 19:46:28.66ID:mKDAuNGP
??「思い出して」

千歌「……」


??「――みんなが流した、あなたが流した涙を……その意味を」


千歌「……」

??「……怖がらないでいい。あなたなら……」

??「――今のチカなら、絶対に思い出せる!」

パァッ…!

千歌「っ!?」グッ
2019/01/03(木) 19:47:19.27ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(……ここ……は……)タッ

千歌(……どこ、だろ……?)

??「私……ダメだ。何をやっても変われないよ」

千歌(……この、声……)

千歌(だれ、だっ……け……)

??「前の学校でも、千歌ちゃんの前でも……ミスをして」ポタッ…

??「コンクールに来てくれた人も、千歌ちゃんも……きっと、失望させた……」

千歌「……いや……」

千歌「――……いや……違うっ!」

??「……っ」

千歌「――梨子ちゃんの涙は、そんなのじゃない!」

千歌「梨子ちゃんはちゃんとミスを受け入れて、謝って……」

千歌「ピアノに、聴きに来てくれた人に……私に! 真面目に向き合ってた!」

千歌「私の心を動かしてくれたのも、コンクールで入賞できたのも……そうだったからでしょ!?」

千歌「梨子ちゃんは、変われたんだよ! そして、私も変えてくれた!」

??「……ふふっ。ホント、変な人」

ポタッ…

梨子「……大好きだよ」ニコ
2019/01/03(木) 19:48:03.86ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(……ここ、は……)タッ

??「ダメね、私。千歌の気も知らないで、好きなことを一方的に喋って……」

千歌(……もしかして……)

千歌(ここには、前にも……)

??「堕天使とか、黒魔術とか……そんなもの、あるわけないじゃない」ポタッ…

??「さっ、片づけはこれで終わりね。これを捨てたら……今度こそ、明日から普通の高校生に……」

千歌「――……ううん、ダメだよっ!」

??「……っ」

千歌「――私は、善子ちゃんと話すのも、ゲームで遊ぶのも楽しかった!」

千歌「それは、善子ちゃんが好きなものを好きでいてくれたから! それを私に見せて、話してくれたから!」

千歌「好きなものを捨てて、自分の中にしまい込む……善子ちゃんが流したのは、そんな涙じゃなかった!」

千歌「だから……そんな大事なもの、捨てちゃダメだよ!」

??「……じゃあ、リトルデーモンになれとか言うかもよ?」

千歌「ええっ、それはちょっと……でも、嫌だったら嫌って言うよ! だから、そのままで……っ!?」パッ…ギュッ

ポタッ…

善子「ふふっ……ありがと」ニコ
2019/01/03(木) 19:48:46.64ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(……ここは、神社……? でも、私が住んでる場所には、こんな神社……)タッ

??「わたくし、後輩の前で弱いところを……泣いてしまう、なんて。これじゃあ、先輩失格ですわね」

千歌(……ううん、きっと……ここも、前に……!)

??「運動でも同じ。後輩の背中を追いかけるくらいなら、足手まといになるくらいなら……」ポタッ

??「大丈夫ですわ。わたくしがいなくても、千歌さんならちゃんとリーダーを……」

千歌「――……そんなわけない!」

??「……っ」

千歌「ダイヤさんは、すっごく頼りになる……大事な大事な先輩で、友達で、仲間だよ!」

千歌「どんなに弱いところを見せても、どんなに泣いても変わらないこと!」

千歌「内浦から、ここまできて……私が全く知らないこの街を案内して、楽しませてくれたことも!」

千歌「……この階段をのぼるのは、今は私のほうが速いかもしれない。でも!」

千歌「ダイヤさんは、私に負けないくらい頑張るって言ってくれた! いくら遠くに背中があったって、追いつこうとしてくれた!」

千歌「あの涙は……『足手まといになるならやめる』なんて、そんな意味じゃない!」

千歌「ダイヤさんがいてくれないと、ダメなんだよ!」

??「……まったく」

ポタッ…

ダイヤ「それなら、離れるわけにはいきませんわね」クスッ
2019/01/03(木) 19:49:38.27ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(ここもだ……私たちが住んでる場所じゃない。こんな場所、来た事あったっけ……)タッ

??「ルビィ……お姉ちゃんが泣いてて、千歌ちゃんが泣いてて……でも、慰めることもできなかった」

千歌(あれは……窓? 景色が流れて……動いてる、のかな)

千歌(……それだけじゃない、この景色……どこかで見たはず!)

??「それどころか、ルビィも泣いちゃうなんて……いっつも泣き虫で、臆病で……」ポタッ

??「泣いてばっかりじゃ、人を避けてばっかりじゃ……何も進まない、わかりあえないって。わかってるのに……」

千歌「――違うよっ!」

??「……っ」

千歌「ルビィちゃんが泣いたのは……涙を流したのは、泣き虫だからとかじゃない! 気持ちを受け止めてくれたからでしょ!?」

千歌「涙を流す人に寄り添って、一緒に泣くのは……ルビィちゃんがその気持ちを、感情を」

千歌「自分の事のように感じて、汲み取って……その人の心にも寄り添ってるから。わかってるからだよ!」

千歌「慰めようって思うことも大事かもしれない。でも、私はルビィちゃんが泣いてくれただけで……」

千歌「自分と同じ気持ちだって、それが伝わってるって思えた!」

千歌「そうじゃなきゃ、絵馬に込められた気持ちに気付けるわけない! その気持ちを、大切に思うことなんてできないよ!」

??「……うん、ありがとっ」

ポタッ…

ルビィ「また、泣いちゃったけど……それでいいんだよねっ」エヘヘ
2019/01/03(木) 19:50:26.88ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(ここ……)タッ

??「勝負に夢中になって、自分で言ったことを自分で破るなんて……」

千歌(そうだ、ここは……学校のグラウンドだ!)

??「負けるってわかってる勝負……そんなもの、いくら引っ張ったって意味ないのに」ポタッ

??「こんなことで体力を使うなら、初めからやらなければ良かった。自分を大切にしないと……」

千歌「――そんなの、間違ってる!」

??「……っ」

千歌「自分を大切にすることが大事なのはわかる。鞠莉ちゃんが私にそう言ってくれたことだって、嬉しかった」

千歌「でも……譲れない部分を、曲げられないところを曲げちゃダメだよっ!」

千歌「私が、私であるように……鞠莉ちゃんも鞠莉ちゃんであってほしい!」

千歌「二人でやったソフトボールは、鞠莉ちゃんが負ける勝負……私が勝てるってわかってる勝負なんかじゃなかった!」

千歌「鞠莉ちゃんが自分を曲げなかったから……引っ張ったから、私は負けた。鞠莉ちゃんが勝ったんだよ!」

千歌「鞠莉ちゃんは、勝つために挑んでた! 自分が負けるって決めつけたり、やらなきゃ良かったって挑んだことを否定して」

千歌「簡単に自分を曲げるような……鞠莉ちゃんの涙は、そんなのじゃない!」

??「……じゃあ、今から50打席勝負ね♪」

千歌「うえぇっ!?」

ポタッ…

鞠莉「イッツジョーク♪ でも、次の勝負も負ける気はないわよ?♪」フフッ
2019/01/03(木) 19:51:14.12ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(ここだって……私は、あんまり来たことはないけど……)タッ

??「……ここで千歌ちゃんに勉強を教えて、一緒に本を読んでた。でも、千歌ちゃんは図書室なんて……」

千歌(図書室だよ! そして、カウンターにいるのは……はな、ま……)

??「千歌ちゃんに好きな本を押し付けても……一緒に本を読んでも、意味ないよ」ポタッ

??「マルは、ここで……一人で本を読めれば、それでいい。ずっと、自分の世界に居られれば……」

千歌「――違う……違うっ!」

??「……っ」

千歌「私は、図書室に居て楽しかった! 確かに、あまり来ない場所だけど……嫌いなんかじゃない!」

千歌「花丸ちゃんが勉強を教えてくれたことも、一緒に本を読んだのも……隣に座って、話すことだって!」

千歌「……一人で本を読むことも、自分の世界にいることだって大事だと思う」

千歌「でも! あの時、この場所で一緒に居なきゃ……楽しいって気持ちだって、本の感想だって伝わらなかった!」

千歌「二人だけの、大事な一冊の本ができた時。花丸ちゃんが手を握ってくれた時」

千歌「あの時の花丸ちゃんの涙に、意味がないわけないっ!」

千歌「本を読むことの楽しさを……本の世界を教えてくれたのは、花丸ちゃんだよ!」

千歌「……さあ」サッ

??「……ありがとう、千歌ちゃん」パッ…ギュッ

ポタッ…

花丸「この手を握れて……図書委員でいられて、良かったずら」ニコッ
2019/01/03(木) 19:52:02.72ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(この場所は……確か、ロープウェイで登った山)タッ

??「はあ……また雨、かぁ。まただ……こうやって、雲や雨に邪魔されてばかり」

千歌(ここには、星を見に来て……あの場所にいるのは、きっと果南ちゃんだ!)

??「そうだよね。もう、何度ここにきても……絶対、雨が降って雲がかかる」ポタッ

??「千歌を……大事な人を連れて行ってダメだった。千歌を傷つけて諦めさせるくらいなら、私が諦める方が……」

千歌「そんなんじゃないっ!」

??「……っ」

千歌「私が知ってる果南ちゃんは、そんなんじゃない! 一度の失敗で、諦めるような……やめるような性格じゃない!」

千歌「『絶対』なんて……『絶対ダメだ』なんて言わない! 果南ちゃんなら『絶対できるから』、そうでしょ!?」

千歌「私を叩いたことだって……私の知ってる果南ちゃんなら、絶対そうしてた!」

千歌「雨からかばったり、また行こうって約束してくれたり……ハグしてくれたり」

千歌「あの涙は、私を大事に思ってくれてるからだって……私には、わかってるっ!」

??「……ふふっ」

ポタッ…

果南「やっぱり、千歌は鋭いね」ニコッ
2019/01/03(木) 19:52:49.58ID:mKDAuNGP
パッ

千歌(ここは……私の家の前にある海岸だ!)ザッ

??「私、みんなみたいにはできない。千歌ちゃんから逃げて、避けて、離れることしか……」

千歌(あそこに立ってるのは曜ちゃん、間違いないよ!)

??「千歌ちゃんやみんなを動揺させちゃったら、会話に詰まっちゃったら……私と二人でいることが、嫌だったら」ポタッ

??「小さい頃からずっと一緒に居たんだもん、私がしっかりしないと。会いたいって思ってても、我慢しなきゃ……」

千歌「違う、ちがうっ――ちが〜〜うっ!!」

??「……っ」

千歌「ずっと一緒に居て、ず〜っと遊んできた! それなのに、二人でいるのが嫌なんて……そんなわけないっ!」

千歌「自分を抑え込まないでって……我慢しないでって言ってくれたのは、曜ちゃんだよ!」

千歌「これだけ一緒に居れば……すれ違ったり、お互いが本音を言えなかったり。それは、確かにあるかも知れないけど……」

千歌「でも……でも! 何度すれ違っても、何度息が合わなくても、何度ぶつかっても!」

千歌「私は、曜ちゃんといる時間が大好きだよ! 曜ちゃんだって、その気持ちは一緒でしょ!?」

??「……うんっ」

ポタッ…

曜「ヨーソロー! もちろんだよ、千歌ちゃんっ!」ビシッ
2019/01/03(木) 19:53:42.00ID:mKDAuNGP


パッ

千歌(……)

千歌「……んぅ」

千歌(……ここ……)

千歌(――……真っ白な、世界……)

??「――おかえりっ」タッ

千歌「……っ」

??「どうだった?」ニコッ

千歌「……」

千歌「……うん」


千歌「――……私……思い出した……」グスッ


千歌「――……思い出せた、よ……」ポタッ
2019/01/03(木) 19:54:27.77ID:mKDAuNGP
千歌「なんで……気づけなかったんだろ……」

千歌「こんな……大切な、ものに……」

千歌「自分の中に……ぐすっ……心に、最初から……っ」

千歌「――……持ってたもの……だった、のにっ……!」ポロポロ

??「……ううん」

千歌「……えっ?」

??「Aqoursの8人、みんなと……今まで過ごした時間」

??「抱いた感情に、流した涙……心が共鳴し、感応したこと」

??「記憶を失ったあなたが、辿ってきた過去……」


??「――……今までに描いた、軌跡の力」


千歌「……っ」ゴシゴシ

??「心にある記憶を取り戻すのは……この力がないと、出来なかった事なんだよ?」
2019/01/03(木) 19:55:04.42ID:mKDAuNGP
千歌「ぐすっ……で、も……」ポタッ

ギュッ

??「……泣き止んで」

千歌「……っ」

??「あなたには、待っててくれる人が……」

??「会うべき人が、たくさんいるっ。そうでしょ?」

千歌「……」

??「あなたが大切なものを取り戻した。私は、それが嬉しいっ」

千歌「……でも」

??「私は……チカは、それでいい」

千歌「でもっ!」

??「この夢は、これで終わり」パッ

??「……さあ、行って」

千歌「……っ」

??「さあ」ニコッ
2019/01/03(木) 19:55:39.05ID:mKDAuNGP
千歌「……」クルッ

タッ、タッ…

??「……」

タッ、タッ…

千歌「……」

タッ、タッ…


??「――……バイバイっ!」ニコッ


千歌「……っ」グッ


ポタッ…


タッ、タッ…

タッ…

……
2019/01/03(木) 19:56:33.04ID:mKDAuNGP
千歌「……んっ」パチッ

ザザーン…

千歌(……青い空に……太陽……)

ザーッ…ザザーン…

千歌(波の、音……)

ザザーン…

千歌「そっか、私……」

千歌「海岸で、寝ちゃったんだっけ。よっ、と」ザッ

千歌「うぇ〜、砂がベッタリ……」パッパッ

「……」

千歌「……さっ、家にかえ……」クルッ
2019/01/03(木) 19:57:58.92ID:mKDAuNGP
千歌「……い、え……?」

ザザーン…

千歌(……)

千歌「――……違う……」

千歌「……私、夢を……」

「……」

千歌「……記憶……?」

千歌「……そうだ」
2019/01/03(木) 19:58:31.07ID:mKDAuNGP
千歌「――……そうだ、私……!」


千歌「――……記憶、を……っ!」


千歌「っ!」ザッ…ダッ!

タッタッタッ…

千歌「――そうだ、そうだよっ!」

千歌「私は……私はっ!」


千歌「大切な、記憶を……」


千歌「――思い出、を……!」

タッタッタッ…

千歌(家にだって……家にだって、今すぐに帰りたいっ)

千歌(今すぐに、美渡ねえや志満ねえに……お母さんにも……!)グスッ

千歌「……でもっ……!」

千歌「――……私、にはっ……!」ダッ!

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 19:59:27.40ID:mKDAuNGP
タッタッ…

千歌「はぁ、はぁ……ここだ、私の……!」

千歌「――私が通ってた、浦の星女学院……忘れるわけ、ないっ!」ダッ!

タッタッ…


梨子「〜♪」

梨子「お〜な〜じ〜あし〜たを〜……♪」タン♪

梨子「……しんじてる〜♪」タン…♪

…タッタッ、ダン!

ガララッ! ガタンッ!

梨子「ひゃあっ!? だ、誰……」


梨子「――……え……?」


千歌「……はぁ、はぁ……!」


梨子「――……ちか、ちゃん……?」ガタッ
2019/01/03(木) 20:00:00.29ID:mKDAuNGP
梨子「ど、どうしたの? そんなに息を切らして……」タタッ

梨子「ダメだよ、病院に……」


千歌「――梨子ちゃんっ!」


梨子「……っ」

梨子(……りこ『ちゃん』……?)

ダッ、ガバッ!

梨子「きゃあっ!?」ドタッ

千歌「梨子ちゃんっ! 私……わたし……っ!」ギュッ


千歌「――……思い出した、思い出したよっ!」グスッ

千歌「あの海岸で初めて会ったことも……この音楽室で、ピアノを聴かせてくれたことも……!」ポタッ…

千歌「オレンジ色のシュシュを、私にくれたこともっ!」

千歌「――……大切な……大切な、記憶が……全部っ!」ポタポタ


梨子「……っ」

梨子「――……ち、か……ちゃん……」グスッ

梨子「本当、に……ぐすっ……記憶、を……っ! うぅ……」ポタッ

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:00:29.60ID:mKDAuNGP
千歌「――……うぅ……うわぁぁぁぁん!」ポロポロ

梨子「よかった……私のことも、みんなのことも……」ギュッ

梨子「私が案内した……ぐすっ……この学校のことも……思い出して、くれたんだね」ポタポタ

千歌「うん……うんっ! 私も……」ギュウッ

千歌「――梨子ちゃんのこと、絶対に……忘れたくなんか、なかった……っ!」

千歌「こんなに、大切だったのに――……梨子ちゃんのこと、大切に想ってたのに……私っ……!」

梨子「もうっ……いいのよ。私は、今……千歌ちゃんが、私を想ってくれてるのが嬉しい」

梨子「私が、ここで弾いた曲も……歌った歌も……」

梨子「記憶を失った千歌ちゃんに、学校を案内したことも」

梨子「少しでも、千歌ちゃんの力になれたなら……」グスッ

千歌「ううん……少しじゃ、少しなんかじゃないよっ! ぐすっ、えぐっ……」ギュウッ

梨子(……っ)

梨子「……ありがとう」ポタッ

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:00:58.90ID:mKDAuNGP
梨子「……でも……」パッ

千歌「……ほぇ?」

梨子「――……千歌ちゃんには、まだ会わなきゃいけない人がいる」

千歌「……っ」

梨子「そうでしょ?」ニコッ

千歌「……」

梨子「もう……私が知ってる千歌ちゃんは、そんなに悲しそうな顔はしなかったよ?」

千歌「え、ええっ!?」

梨子「……なんて、ね♪ ほら、これ……水分補給もしっかりしないと」タッ…サッ

千歌「……うん、ありがとっ!」パッ ゴクゴク

千歌「……ぷは〜っ! 美味しいっ!」

梨子「ふふっ、良かった」
2019/01/03(木) 20:01:25.79ID:mKDAuNGP
千歌「……じゃあ、私……」

梨子「うん」

千歌「……」

梨子「……大丈夫。また、すぐ会えるよ」ニコッ

千歌「……そうだねっ! ありがとう、梨子ちゃんっ」

タッ!

千歌「いってくるっ!」

梨子「いってらっしゃい、千歌ちゃん」フリフリ

ガララッ…ガタン

梨子「……ぐすっ……」ポタッ

梨子「……っと」ゴシゴシ
2019/01/03(木) 20:02:25.88ID:mKDAuNGP
梨子「ふふっ。私も、いつまでも泣いてないで……」

梨子「千歌ちゃんの病院に、連絡を……」ポツ…

梨子「……あれ?」

ポツポツ…ザーッ

梨子「外は……雨? 雲一つないのに、なんで……」

梨子「こんなこと、あるんだ……千歌ちゃん、大丈夫かな……」

梨子「――ううん。大丈夫、だよね」フフッ

ポチポチ…ピッ

梨子「……もしもし? そちらの病院に入院されてる、高海さんの友人の……」

梨子「はい……高海さんが、記憶を……」

ザーッ…
2019/01/03(木) 20:02:56.97ID:mKDAuNGP
タッタッタッ…

千歌(雨……こんなに、晴れてるのに……)

千歌「でもっ……そんなの、今の私には……!」


千歌「――……私には、関係ないっ!」ダッ!


パシャッ、ピシャッ!

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:03:59.13ID:mKDAuNGP
「わかったわ、報告ありがとう。高海さんの脳や身体の状態、精密検査を行えるようすぐ準備して」

「いや、どうせすぐ帰っては来ないだろうしゆっくりでも……こほん、早急にお願い」

「すぐ病院に戻るよう、携帯に連絡も。下がっていいわよ」

ガララッ…ガタン

(……『高海さんの記憶が戻った』……桜内さんが言うなら、間違いないことだろうけど)

(……記憶喪失を起こした人間が記憶を取り戻す症例は、少なくはない)

(『代償機能』……損傷を受けた脳から失われた機能を、脳の別の部分が補うことがある)

(でも、高海さんが受けた脳の損傷はかなり大きなものだった。『思い出』の記憶を司る部分は、特に……)

(それに、代償機能は長い時間をかけて働く場合がほとんど。この短期間で、記憶が戻るなんて……)

(……頭ではない……『心』が記憶を補ったとでも言うの?)

「……まさか、ね」

(なんにせよ……)

「――月並みな言い方だけど……これが奇跡でなくて、なんなのよ」フフッ
2019/01/03(木) 20:04:41.27ID:mKDAuNGP
ザーッ…

善子「こんなに晴れてるのに、雨なんて……」ポチポチ

善子「フッ、これこそが我が黒魔術! 天候そ……わあっ!?」

デデーン

善子「ま、また負けた……なんでこんな強い敵を終盤に……って、当たり前か」

善子「くっ……こうなったら、千歌に……」

「……」

善子「……いや、私だけでもいけるはずよっ!」ポチポチ

…ピンポーン♪

善子「げっ、ゲームやってるのに誰か来た……」

善子「ママは外に出てるし……待たせるのは悪いけど、キリが良いところまで進めてから……」

ピンポーン♪

善子「……」

ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪

善子「なんなのよコイツっ!?」
2019/01/03(木) 20:05:36.45ID:mKDAuNGP
善子「あ〜っ、もう!」タッ、スタスタ

ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪

善子「何よ、さっきから! うるさ……」ガチャ

ガバッ!


千歌「――善子ちゃんっ!」ギュッ


善子「……っ」


善子「――……千歌……?」

善子「こんな……びしょ濡れじゃない。ほら、上がって。今すぐ拭くものを……」

ギュウッ

善子「……あの、離してくれないと……」

千歌「私……」


千歌「――記憶が……記憶が、戻ったんだよっ!」グスッ


善子「っ!?」

善子(そ、そんな……でも……嘘をついてるようには、全く……)

善子(……違う! 千歌がそんな嘘つくわけ……)
2019/01/03(木) 20:06:18.40ID:mKDAuNGP
千歌「本当だよっ!」

善子「……っ」


千歌「本当に、本当に――……ほんっとうに、思い出した!」

千歌「黒い羽根を持つ私の手を、握ってくれたことも!」

千歌「部室でゲームの話をしたことも……ぐすっ……ひっぐ……善子ちゃんの家で、ゲームをやったことも!」

千歌「善子ちゃんが……対戦で、私をボッコボコにしたのも……時間を忘れて熱中したこと……もっ!」ポタッ

千歌「――……善子ちゃんが、堕天使ヨハネであることもっ!」ポロポロ


善子「――……ち、か……」ポタッ


善子「……っ」

善子「……ぐすっ、うぅ……」ゴシゴシ


善子「フッ――さすが、我がリトルデーモンね……」ポタッ

善子「――人の身でありながら……ぐすっ……刹那のうちに、記憶を……ひっぐ、えぐっ……蘇らせる、とは……」ポロポロ


千歌「善子、ちゃん……」


善子「本当……千歌には……敵わない、わ……」ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:06:45.74ID:mKDAuNGP
千歌「でも……私、ゲームでは……」

善子「……ぐすっ……それは、私の方が上手いわね」

千歌「……記憶喪失の時は、勝ててた……けど」ギュッ

善子「っ……うるさいっ!」ギュウッ

「……」

善子「……っと、ちょうどいいところに来てくれたわ」パッ

千歌「えっ?」

善子「ちょっとゲームで詰まってるところがあるの。今から手伝いなさいっ!」

千歌「……私、は」

善子「……ふふっ、冗談よ」

千歌「……っ」

善子「貴女には、まだ行かなければならない約束の地が……」

千歌「じゃあ、いってくるっ!」

善子「軽く流すなっ!」
2019/01/03(木) 20:07:12.18ID:mKDAuNGP
善子「それに、今の千歌をそのまま行かせるわけにもいかないの。ちょっと待ってなさい」

タタッ…タッ

善子「ほら、このタオル。夏とはいえ、体を冷やすと良くないわよ」サッ

千歌「善子ちゃん……うん、ありがとっ」パッ…フキフキ

善子「……雨」

千歌「えっ?」

ポツ、ポツ…

善子「……もう、ほとんどやんでるのね」

千歌「ホント、だ……」

善子「……さっ、次に行って」

千歌「……っ」
2019/01/03(木) 20:07:54.01ID:mKDAuNGP
「……」

善子「……じゃあ、私と契約しない?」

千歌「えっ?」

善子「千歌がこの時この場所を去り、新たなる地へ向かうかわりに……」

善子「――今度、堕天使ヨハネとこの場所で会うことを約束する」サッ

千歌「……っ」

善子「……それでどう?」ニコッ

パッ…ギュッ

千歌「――契約は絶対、だからね」


善子「ふふっ、破るわけないじゃない」
2019/01/03(木) 20:08:23.65ID:mKDAuNGP
千歌「……じゃあ、行くね」クルッ

善子「……いってきなさい」

…タッ!

タッタッタッ…

善子「……慌てて出てきちゃったけど、放置したゲームの方は今頃……」

「……」

善子「……また挑めばいい話。そうよね」クスッ
2019/01/03(木) 20:08:52.63ID:mKDAuNGP
タッタッタッ…

千歌「……はぁ、はぁ……」

ピシャッ、パシャッ

千歌(さすがに、この距離は……)ハァハァ

千歌「……いや」

ダッ!

千歌「――……こんなところで、止まってなんか……っ!」

パシャッ!

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:10:15.94ID:mKDAuNGP
ルビィ「……お姉ちゃん、濡れちゃったかなぁ……」

ルビィ(さっきまでは雨だったのに……今は、すっかり晴れてる)

ルビィ「変な天気……」

ルビィ「……でも、ちょっと面白いかも」ニコ

ルビィ(きっと、この場所でしか見られなかったもの)

ルビィ(東京では……アキバでは、違う空が広がって……)

「……」

タッタッ…ガチャン! バタンッ!

ルビィ「ピギィッ!?」ビクッ

ルビィ「お、お姉ちゃあ……帰ってきたの、かなぁ? ……で、でも……こんな扉の開け方しないような……」

ルビィ「か、鍵開いてたみたいだし……変な人、だったらどうしよう……」

ダン! タッタッ…

ルビィ「ピギャアッ!? こ、こっちにっ……うぅ……」グスッ

タッタッ…ダンッ


千歌「ルビィちゃ〜〜んっ!」ガバッ!


ルビィ「――え……ち、千歌……ちゃあ……ピギャアァッ!?」ドタッ
2019/01/03(木) 20:11:28.71ID:mKDAuNGP
ルビィ「……千歌、ちゃん……」

ルビィ「汗、びっしょり……」ギュッ

ルビィ「ダメ、だよ……こんな、無理しちゃ……っ!」グスッ

ルビィ「だって……千歌ちゃあは、今っ……」ギュウッ


千歌「――……私……私、思い出したよ!」


ルビィ「……っ」


千歌「ルビィちゃんと入学式の時に初めて会って、今みたいに大声で叫んだ時……」ギュッ

千歌「長い階段を登り切って……ぐすっ……私と同じ景色を、眺めてっ……スクールアイドルを始めるって決めてくれた時っ!」ポタッ

千歌「そして、アキバでも! 一緒に……ひっぐ……階段を、登ったっ! 記憶を失った後だけじゃない……記憶を失う前、も……っ!」ポロポロ

千歌「――……お姉ちゃんを、ダイヤさんを……大事に大事に思ってることもっ!」


ルビィ「――……ちか、ちゃ……」
2019/01/03(木) 20:12:03.07ID:mKDAuNGP
ルビィ「本当に……」グスッ


千歌「うんっ」

ルビィ「ホントの、ホントに……」ポタッ

千歌「うん……うんっ」ギュッ

ルビィ「ホントのホントの、ホントに……」ポロポロ

千歌「ホントの、ホントの――ホントにっ!」グスッ


ルビィ「うぅ……ちか、ちゃあ……」


ルビィ「――……うわぁぁぁぁん!! ちか、ちゃんっ……わぁぁぁぁん!!」ギュッ


千歌「ぐすっ、ひっぐ……ルビィ、ちゃん……うぅ……」

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:12:51.14ID:mKDAuNGP
ルビィ「ルビィ……ルビィ、千歌ちゃんの記憶が戻ったらって……」グスッ

ルビィ「千歌ちゃんの中で、思い出が消えちゃったって思うと……ずっと、ずっと……悲しくてっ」ギュウッ

千歌「ごめんね……こんな、こんな大切な事っ……!」ポタポタ

ルビィ「ううん、ルビィは……ぐすっ……私は、嬉しいよっ……安心した、よ……っ!」ポタッ

ギュウッ…


…ガチャッ

「ただいま……ルビィ? アイスを買ってきたから、一緒に……」

「……なっ!? この足跡はなんですの!? 土足で入り込むなんて、まさか……強盗、じゃ……」

ルビィ「……あ、お姉ちゃんの声」

千歌「ダイヤさんだ……」

「……」

千歌「……ふふっ」

ルビィ「あははっ」

ルビィ「さっ、早く行かないと……お姉ちゃあが通報しちゃうかもっ!」パッ

千歌「……うん、いってくるっ」タッ
2019/01/03(木) 20:13:31.43ID:mKDAuNGP
ダッ!

ダイヤ「ピギャッ!?」ドサッ

タッタッ…

ダイヤ(や、やっぱり家の中にルビィ以外の誰かが!? この際、アイスはどうでも……)

タタッ

ダイヤ(こ、こっちに……もう、こうなったらっ!)

ダイヤ「……」スゥ…

ダイヤ「――……こそこそ隠れてないで、出て来なさ……」


千歌「――……隠れないよっ!」ダンッ!


ダイヤ「なっ……!? ちか、さ……」


千歌「隠れない……隠れるわけないっ! 私は、ダイヤさんに会いに来たんだもんっ!」グスッ

ダッ…ガバッ!

ダイヤ「……っ」

千歌「――……ダイヤ、さん……私……記憶、が……っ!」ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:14:16.63ID:mKDAuNGP
タッ、タッ…タッ

ルビィ「……おかえり、お姉ちゃん」ニコ

ダイヤ「ルビィ……」


ダイヤ「……そう」


ダイヤ「――……本当の事、なのね……」ギュッ


千歌「本当のことだよっ。ダイヤさんが、昔はスクールアイドルに反対していたことも……」

ダイヤ「……ふふっ」

千歌「あと、私たちを砂利扱いしてたこととか」

ダイヤ「えっ」

千歌「明らかに無理な特訓のスケジュール組んでたこととか」

ダイヤ「……」

千歌「記憶喪失後だと、病院でこけそうになってたこととかっ」ギュッ

ダイヤ「……ひっぱたきますわよ」ギュウッ

ルビィ「あはは……」
2019/01/03(木) 20:14:50.12ID:mKDAuNGP
ダイヤ「だいたい、なんでわたくしの思い出がそんなものばかり……」


千歌「……ダイヤさん、いっつもしっかりしてるから……こういうのばっかり思い浮かんで……」

千歌「――……でも……それだけ、頼りになるから……だよっ……」グスッ


ダイヤ「……っ」

ダイヤ「――……いえ、千歌さんも……頼りになるリーダー、ですわ」ギュッ

ダイヤ「事故に遭っても……こうやって、すぐ……記憶を取り戻してしまう、なんて……」ポタッ

ダイヤ「――……本当に……ぐすっ……良かった……」


千歌「……そうだっ。ダイヤさんがルビィちゃんを大事に大事に思ってたことも、ちゃんと思い出したよ」

ダイヤ「ふふっ、わたくしの大事な大事な妹ですから」

ダイヤ「……同じ、ですわ」

千歌「……おな、じ?」

ダイヤ「……いつだって、姉は妹を大事に思うものだと……わたくしは、そう考えてます」

ダイヤ「――……千歌さんのお姉さんと同じように」

千歌「……っ」

ダイヤ「今の千歌さんなら、きっと思い出している事ですわ」クスッ

千歌「ダイヤさん……」
2019/01/03(木) 20:15:26.73ID:mKDAuNGP
ダイヤ「だから、家に戻った時は……羞恥心があっても、お姉さんに今までの感謝を伝えて」

ダイヤ「色々なことを……たくさん話してあげてください」

千歌「……」

ダイヤ「――……姉妹であっても、いつまでも一緒に居られるとは限りませんから」

ルビィ「……お姉、ちゃあ……っ」グスッ

千歌「……うん、絶対にそうする! 約束するよ」

ダイヤ「ふふっ、良かった。さあ、ルビィ?」

ルビィ「……うんっ」タッ

ギュッ

ルビィ「お姉ちゃあ……千歌、ちゃん……っ」グスッ

千歌「ダイヤさん……ルビィ、ちゃん……」ギュッ

ダイヤ「――……こうやって、3人で……あの時以来、ですわね」


ダイヤ(……でも……)

ダイヤ(――あの時より、もっと近くにいるみたい……)ポタッ

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:15:56.48ID:mKDAuNGP
ダイヤ「……千歌さん、そろそろ……」パッ

千歌「……ほぇ?」

ダイヤ「千歌さんには、まだまだ先があるのでしょう?」クスッ

千歌「……っ」

ルビィ「ふふっ、ルビィもそう思ったっ」

千歌「……うん」

ダイヤ「それなら、早く行った方が良いですわ」

千歌「そう、だよね……」

「……」

ダイヤ「……ルビィ?」

ルビィ「……千歌ちゃんっ」ポンッ

千歌「えっ?」


ルビィ「――がんばルビィ!」エヘヘ
2019/01/03(木) 20:16:53.64ID:mKDAuNGP
千歌「ルビィ、ちゃん……」

千歌「……うん、ありがとっ」ギュッ

ルビィ「ピギッ!?」

ダイヤ「……いつまで経っても離れられませんわよ」

ダイヤ「さ、玄関まで一緒に……」

千歌「うんっ」

タッタッ…ガチャッ

ルビィ「……わあっ! しゅごい……」

パァッ キラキラ

ダイヤ「に、虹……? でも、こんな綺麗なものは、初めて……」

千歌「わあ……」

ダイヤ「……見とれてる場合ではありませんわ」

千歌「……あ、そうだった」エヘヘ

ルビィ「まだ地面が濡れてるみたい。気を付けてねっ」

ダイヤ「滑って怪我しないでよ?」

千歌「……うん」タッ…
2019/01/03(木) 20:17:27.19ID:mKDAuNGP
千歌「――……いってくるっ!」ダッ!

ダイヤ「ええ」

ルビィ「いってらっしゃいっ!」フリフリ

タッタッタッ…

ダイヤ「……さて、派手に汚れた床の掃除を……」

ダイヤ「……はっ!?」

ルビィ「ど、どうしたの? お姉ちゃん」

ダイヤ「これ……」パッ

ダイヤ「買ってきたアイス……完全に溶けてますわね……」

ルビィ「あ、ホントだ……」

「……」

ダイヤ「……ふふっ」

ルビィ「……あははっ」

「ふふっ、あはははっ……!」
2019/01/03(木) 20:17:53.68ID:mKDAuNGP
タッタッタッ…

千歌「はぁ、はぁ……」

千歌(私も、だ……)

千歌(こんな綺麗な虹、初めて見た……)

パシャッ

千歌「でも……そろそろ、日が傾いて……」

千歌「……ううん」


千歌「――まだまだいけるっ!」ダッ!

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:18:49.69ID:mKDAuNGP
鞠莉「……はぁ、はぁ……」

鞠莉「……ふっ!」グルッ、ビュンッ!

ダンッ! ポテッ、コロコロ…

鞠莉「よしっ! 球速もコントロールも、だいぶ良くなってきたわね♪」

鞠莉(これなら、ちかっちに一泡も二泡も……)

鞠莉「……ううん。ちかっちは、そう簡単じゃない……か」フフッ

鞠莉「もう少しだけやってから帰ろっと♪」


「……鞠莉ちゃ〜ん!」


鞠莉(……っ!? こ、この声……)

鞠莉(間違いない、ちかっちだよ……でも、呼び方が……)クルッ

ガバッ

鞠莉「きゃっ!?」
2019/01/03(木) 20:19:28.92ID:mKDAuNGP
千歌「――鞠莉、ちゃん……っ!」グスッ


鞠莉「ち、ちかっち……!? なんで、このグラウンドに……」

鞠莉「そんなに息を切らして、だいじょ……」

千歌「鞠莉ちゃんっ!」ギュッ

鞠莉「……っ」


千歌「――……私、思い出したよ……記憶が、戻って……っ」ポタッ


鞠莉「――……ちか、っち……」


千歌「鞠莉ちゃんが理事長としてこの学校に来たことも、部員が足りないのにスクールアイドル部を承認してくれたことも!」ギュッ

千歌「6人でここ内浦のPVを作った時、『努力の量と結果は比例しない』って奮い立たせてくれたのも鞠莉ちゃんだった!」

千歌「ぐすっ……それに、みんなでソフトボールをやった時……」ポタポタ

ギュウッ

千歌「……っ」


鞠莉「――……そっか……思い出した、んだね……」ポタッ

鞠莉「……よかった……ぐすっ、うぅ……」ポロポロ


千歌「――……うん……全部、思い出したよっ……ぐすっ……大切な事、全部……!」ポタッ

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:19:59.74ID:mKDAuNGP
「……」

鞠莉「……ちかっちって、そこそこ大きいよね」ギュウッ

千歌「……やめてください」グスッ

鞠莉「……ふふっ、名残惜しいわ♪」パッ

タッタッ…ポタッ

千歌「……鞠莉ちゃん?」

鞠莉「――……ちかっち、次は?」グスッ

千歌「……っ」

鞠莉「……『ちかっちのことはよく見てる』、前に言ったことだから」

千歌「……」

鞠莉「早くしないと、日が暮れちゃうわよ?」

千歌「……うん」
2019/01/03(木) 20:20:32.76ID:mKDAuNGP
鞠莉「……大丈夫」グスッ

千歌「えっ?」

鞠莉「これから私が卒業するまでの時間なんて、まだまだたくさんあるでしょ?」ゴシゴシ

千歌「……」

鞠莉「また、何度だって勝負できる。9人で集まってやるのも、きっと楽しいわよ♪」タッ…

千歌「……でも」

…クルッ

鞠莉「――……ここにず〜っといたら、次の勝負ができませんよ?」クスッ


千歌「……うん! そうだよねっ」

鞠莉「レッツゴー!」

千歌「いってくるっ!」ダッ!

鞠莉「チャオ〜♪」
2019/01/03(木) 20:21:07.92ID:mKDAuNGP
タッタッ…

鞠莉「……ふふっ」

鞠莉「……じゃあ、私もそろそろ……」

「……鞠莉ちゃ〜ん!」クルッ

鞠莉「……ちかっち? どうしたんだろ……」


「――……あの52球目、次は無しだよ〜!」

「じゃあね〜っ!」フリフリ

クルッ、タッタッタッ…


鞠莉「……ちかっち……」フフッ


鞠莉「――……本当、よく覚えてるのね」ポタッ


鞠莉「さ、今度こそ……私も行かないと。ボールを拾って……」タッ…

鞠莉(……あっ)フッ

鞠莉「……そっか。もう夕焼けが……」


鞠莉「――……夕焼けって、こんなに綺麗だったんだね……」
2019/01/03(木) 20:21:55.49ID:mKDAuNGP
花丸(――……真っ赤な、夕焼け……)

花丸「今まで見たどんな夕焼けよりも……真っ赤で、綺麗……」

花丸(マルがいるこの場所は、現実なのに……空想の世界にいるみたい)

花丸(今まで、色々な本を読んで……色々な空想を巡らせてきた。でも……)

花丸「……ううん。そろそろ、本を読むのも……図書室も、おしま……」パタ…


「――待ってっ!」


花丸「ひゃあっ!?」ビクッ

タッタッ…ガララ、ガタンッ!


千歌「……はぁ、はぁ……!」


花丸「え……」


花丸「……千歌、ちゃん……?」
2019/01/03(木) 20:24:41.97ID:mKDAuNGP
花丸「……来てくれたのは、嬉しいけど……」

花丸「……でも、ダメだよ。連絡もせずに会いに来ちゃ……」

花丸「それに、学校も図書室も……もう、終わり……」

ガバッ! ギュッ

花丸「……っ」


千歌「……もう少し……もう少しだけでいいからっ!」ポタッ


千歌「――……ここに……いさせ、て……っ」グスッ
2019/01/03(木) 20:26:13.05ID:mKDAuNGP
花丸「……わかった」ギュッ

花丸「千歌ちゃんがそう言うなら、マルはそれで……」

千歌「――……私……わたしっ……!」


花丸「……千歌、ちゃん?」


千歌「――……記憶が……記憶が、戻ったんだよ……っ!」ギュウッ


花丸「……え?」


千歌「私が部室の本を返しにここへ来たこと、私が伸ばした手を握ってくれたこと!」

千歌「――……テストの点数が酷かったから、ここで花丸ちゃんと勉強したことも!」ポタッ

千歌「途中から脇道に逸れちゃって……ぐすっ、うぅ……二人で読んだ、植物図鑑のことだって……っ!」


花丸「……本当、に……」


千歌「――……入学式の時に見た桜が、どんなに綺麗だったかもっ!」


花丸「……っ」
2019/01/03(木) 20:26:54.66ID:mKDAuNGP
花丸「……そっ、か……」

花丸「――……うぅ……ぐすっ……ちか、ちゃ……」ギュウッ


千歌「私、あの時の景色……今でも、はっきり覚えてる……」ポタッ

千歌「――……花丸ちゃんと、初めて会ったんだよ? 大事な、大事な……思い出……」

千歌「でも……それを、忘れちゃって……ぐすっ……忘れたく、なかったのに……」ポロポロ

ギュウッ…

千歌「……っ」


花丸「――……ううん。オラは、今思い出してくれたことが……千歌ちゃんの記憶が戻ったことが」

花丸「桜の美しさ、綺麗な景色。今までに千歌ちゃんが見てきた、色々なものが……千歌ちゃんの中にあることも」

花丸「……『マルを忘れないでいたかった』っていう気持ちも」ポタッ

花丸「その全部が、何より嬉しい」

花丸「――……それ以上は……ぐすっ……マルには、思いつかないよ……」ポロポロ


千歌「――……花丸、ちゃん……」


花丸「ふふっ……よかった」ニコ

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:27:32.18ID:mKDAuNGP
花丸「……でも、これ以上図書室にいるのはちょっとマズいずら」パッ

千歌「……花丸、ちゃん」

花丸「図書委員の仕事も、そろそろ終わり」

花丸「……まあ、こうやってずっとカウンターで本読んでただけだけど……」

千歌「あ、あはは……」

花丸「この本も、元の場所にしまってくるね」スタッ、タッタッ…

花丸「……それに」

千歌「それに?」

花丸「――……千歌ちゃんも、そろそろここを出ないと」ニコッ

千歌「……っ」

タッタッ…

花丸「えーっと……この棚、だね。よいしょ……っと」ガサゴソ
2019/01/03(木) 20:28:10.21ID:mKDAuNGP
千歌「……」

花丸「……千歌ちゃん?」タタッ

千歌「……ううん、なんでも……」

…ポンッ

千歌「わっ!? ……花丸、ちゃん……?」


花丸「――ふふっ。こういう時って、背中を押すものなのかなって」ニコッ


千歌「……ありがとっ! いってくるねっ!」

花丸「……うん、気をつけてね」

ダッ! タッタッタッ…

花丸「……記憶が戻った、かぁ」

花丸「『事実は小説よりも奇なり』って……こういうことなのかな」

「……」

花丸「……なんて♪ そろそろ暗くなってきたし、オラも早く……」

…キラッ

花丸(……えっ? 今、外に見えたのって……)

花丸(――……流れ、星……?)
2019/01/03(木) 20:28:45.24ID:mKDAuNGP
キラッ

果南(……また、流れ星……)

ヒュー…キラッ

果南(一つじゃない……さっきから、何回も……)

果南(――……こんな、ことって……)

ザザーン…

果南「……まあ、たまにはこんな夜もあるか」フフッ

キラッ

果南「結局、一人で流れ星を見ることになるなんてね」

果南「これはこれで、いいのかな」
2019/01/03(木) 20:30:16.60ID:mKDAuNGP
果南(……ううん)

果南(私は……ダイヤや鞠莉と山に登った時みたいに、3人で)

果南(昔みたいに、このテラスで……千歌と一緒に、二人で)

果南(――……Aqoursの9人、みんなで)

「……」ザザーン…

果南「……でも、それは今度に取っておけばいいよね」アハハ

果南「そろそろ、部屋に戻ろ……」

…タッタッタッ…

果南(……足、おと……? こんな時間に、誰が……)

タッタッタッ
2019/01/03(木) 20:31:02.02ID:mKDAuNGP
果南(……まさ、か……)クルッ


「――……果南ちゃ〜んっ!」タッタッ…ダンッ!


果南「……ち、か……」

千歌「……はぁ、はぁ……ふ〜っ……疲れた……」

果南「疲れた、って……どうして、ここまで……」


千歌「――……私、思い出した……この場所に何度も来てたってこと!」


果南「……っ」


千歌「小さい頃から一緒に居て、何度もここに遊びに来て……こうやって星を見てたことも覚えてる!」グスッ

千歌「ここでみかんと干物を押し付け合ってたことも、何度も何度もあったし……」

千歌「……はぁ、はぁ……前、海に飛びこ……わあっ!?」フラッ…

果南「千歌っ!?」タッ!

千歌「……っとと、大丈夫大丈夫……あはは……」

果南「千歌……どうして、そこまで……」グスッ
2019/01/03(木) 20:31:32.25ID:mKDAuNGP
…キラッ

千歌「――決まってるよ……今やらないと……絶対に、後悔するもん」ポタッ


果南「……っ」

千歌「記憶が戻った今、この時に……果南ちゃんに会いにいかないと」

千歌「……私は、ずっと……わわっ!?」

ガバッ!

果南「――……よかった……」ギュッ


千歌「果南、ちゃ……」


果南「うぅ……ぐすっ、えぐっ……」ポロポロ

果南「――……千歌……ち、かっ……!」ギュウッ


千歌「……」

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:32:09.27ID:mKDAuNGP
果南「……星」

千歌「……ほし?」

果南「こんな形で、一緒に見られるなんて……思いも、しなかった……」グスッ

千歌「……私も、だよ……」ポタッ

「……」ギュウッ…

果南「……っと」パッ

千歌「……」

果南「……いつまでもハグしてるわけにもいかないよね」ゴシゴシ

千歌「果南ちゃん……」

果南「――……次は、曜ちゃんのところでしょ?」

千歌「……っ」

果南「さあ、行ってきて」
2019/01/03(木) 20:32:44.17ID:mKDAuNGP
千歌「……」

果南「ここまでがどんなに長かったか、千歌が今どんなに疲れてるか。私にはわかる」

果南「……止めたいって気持ちだって、ないわけじゃない」

千歌「……」

果南「でも……今の千歌は、きっと……私が、何をしてもやめない……」

千歌「……」

果南「――……ここに居ても、何も変わらないよ?」

千歌「……ううん」

千歌「ちょっと休んでただけだよ」

千歌「――……止まったり、しないよ」

果南「そっか」フフッ
2019/01/03(木) 20:33:13.53ID:mKDAuNGP
タッ…

千歌「……いってくるね」

果南「いってらっしゃい、千歌」ニコッ

タッタッタッ…

果南「……ぐすっ……」ゴシゴシ

果南「……ううん、私にも行かないといけないところが……」

ヒュー…キラッ

果南「ん? また、流れ星……」

果南(……っ!?)

ヒュー…キラキラ

果南「――……こんな、空……本当、に……」
2019/01/03(木) 20:33:55.05ID:mKDAuNGP
キラッ ヒュー…キラキラ

曜「……すごい……」ガララッ…タッ

曜(流れ星が、いくつもいくつも……)

キラキラ…

曜「お昼は……千歌ちゃんと海岸で会った時は、曇ってたのに」

曜「……こういう時って、願い事をするべきなのかな?」

キラッ キラキラ

曜「……いや、それにしても多すぎるし……それ以上に、願い事なんてキリがないし……」アハハ

曜(私は……)

曜(……梨子ちゃんに、果南ちゃんに、ダイヤさんに、鞠莉ちゃんに……)

曜(ルビィちゃんに、善子ちゃんに、花丸ちゃんに……千歌ちゃん)

曜「みんなが……この綺麗な夜空を、見ていれば。そして、同じ夜空を見上げていたら……」

ヒュー…

曜「――……そう、だったら……」キラッ
2019/01/03(木) 20:34:39.65ID:mKDAuNGP
曜(……千歌ちゃんは病院の中、なのかな……一応、入院中だし……)

曜(……どんなに伝えたくても……この感動は、きっと言葉では伝えられないことだよね)

曜「千歌ちゃん……外に出られてたらいいけど」

「……」

ヒュー…キラキラ

曜「……よしっ。ず〜っと見ていたいけど、そろそろ部屋に戻ろうかな」

曜「明日から学校だし、準備もしないと……あと、課題も……」

キラッ…

「――……よ〜ちゃ〜ん!」
2019/01/03(木) 20:35:08.21ID:mKDAuNGP
曜(……っ)タッ

曜(……誰も、いない……)


曜「……さ、課題を」


「よう……はぁ、はぁ……よう、ちゃ〜〜ん!!」


曜「っ!」タッ


曜「――……ちか、ちゃん……」

キラキラ

千歌「曜ちゃんっ!」

ヒュー…キラッ

曜「――……どうして、ここ……に……」グスッ


曜「……っ」ダッ! ピシャンッ


千歌「曜ちゃんっ!?」
2019/01/03(木) 20:37:03.10ID:mKDAuNGP
曜(千歌ちゃんっ……ちか、ちゃんっ……!)タッタッ


曜「……わあっ!?」トッ…ドタンッ!

曜「う……いったぁ〜……!」サスサス


曜「……で、も……っ!」ダッ

タッタッ…ガチャッ!


曜「――……千歌ちゃんっ! ……って、わっ!?」

ガバッ! ドスッ…


千歌「――……曜ちゃんっ! 曜、ちゃん……よう、ちゃ……っ」ポタッ

ギュウッ…

千歌「うぅ……うわぁぁぁぁん!! ぐすっ……わぁぁぁぁん!!」ポロポロ


曜「ちか、ちゃ……ん……」グスッ

曜「――……うぅ……ちか、ちゃ……ぐすっ……」ギュウッ…

ヒュー…キラキラ
2019/01/03(木) 20:37:56.44ID:mKDAuNGP
曜「千歌ちゃん……ぐすっ……記憶、が……」ギュッ


千歌「――うんっ……ぐすっ、ひっぐ……思い出したよっ! 何も、かもっ!!」ポロポロ


千歌「ずっと、ず〜っと……小さい、頃から……一緒で……」ポタッ

曜「うんっ」ギュッ

千歌「何度も何度も……ぐすっ……何度も一緒に遊んで……」

曜「うん……うんっ!」グスッ

千歌「スクールアイドル部を立ち上げた時、曜ちゃんが一緒にやろうって言ってくれたこと……」

千歌「――……前にも、この場所で会ったことも……曜ちゃんが、抱き着いてきたことも……!」ポタッ

曜「千歌、ちゃんっ……うぅ……」ポタッ

千歌「私の傍に、いつもいてくれて……ぐすっ、えぐっ……」

千歌「――……私も曜ちゃんも、一緒に居る時間が大好きだったこと、も……っ!」ポロポロ

曜「そう……ぐすっ……そう、だよっ……!」ポタポタ

曜「……ぐすっ、うわぁぁぁぁん……」ギュウッ…

キラキラ…
2019/01/03(木) 20:39:14.44ID:mKDAuNGP
千歌「――……私……曜ちゃんのこと……Aqoursのみんなのこと……全部……忘れ、ててっ……」ギュッ

千歌「……みんな、あんなに優しくしてくれたのに……記憶を失う前も、その後も……っ」

曜「いいんだよ……私は、記憶が戻って……ホントに、嬉しい……っ」ギュウッ

曜「――……だから……もう、泣かない……でっ」ポタポタ

千歌「でも、我慢しないでって言ったのは……よう、ちゃ……ぐすっ……」

曜「いいのっ」ポタッ

千歌「……涙、止められなく、て……っ」グスッ

曜「……いい、のっ……!」ギュッ

千歌「無理、だよっ……泣き止め、ないよっ……」ポロポロ

曜「ぐすっ、えぐっ……いい……のっ!」ギュウッ

キラッ


曜「千歌、ちゃん……っ」

千歌「ぐすっ……ひっぐ……」ギュウッ…


キラキラ…
2019/01/03(木) 20:40:30.68ID:mKDAuNGP
ギュウッ…

曜「……ぐすっ……」ゴシゴシ

千歌「んっ……」グスッ

パッ

曜「――……そろそろ、いこっか」スタッ

千歌「……そうだねっ」タッ

曜「……8人みんなと会ったんだよね」

曜「……きっと、みんな待ってるよ」ニコッ

千歌「うんっ」
2019/01/03(木) 20:41:01.52ID:mKDAuNGP
ヒュー…キラキラ

曜「空……」

千歌「……」

曜「すごい、ね……」

キラキラ…

千歌「こんなにたくさんの流れ星が……ずっと、見ていたいくらいだね」

千歌「……でもっ」

曜「うん、いこうっ!」
2019/01/03(木) 20:41:27.98ID:mKDAuNGP
曜「よ〜し、じゃあ……」

千歌「病院に向かって……」

曜「全速前進……ヨーソロー!」ダッ

タッタッタッ…

曜(……あれ、でも……千歌ちゃん、ここまで走ってきたなら疲れてるんじゃ……)

曜「千歌ちゃん? やっぱり歩いて……」クルッ

千歌「……」

キラッ

曜「――……ちか、ちゃん……?」

タッタッ…
2019/01/03(木) 20:42:17.24ID:mKDAuNGP
曜「千歌ちゃん?」タタッ

千歌「曜ちゃん……」

曜「ごめんね、一人で走っちゃって。疲れてるなら、おぶっていっても……」

千歌「えっ、そこまでしなくてもいいよっ!?」

曜「あはは……それで、どうしたの?」

千歌「ううん……」


千歌「――……私……」

千歌「……また……大切なことを、忘れてる気がして……」


曜「……っ」


千歌「あとちょっとで、思い出せそうな気がするんだけど……」

千歌「……でも、みんなを待たせるわけにもいかないよっ! 病院の人も、これだけ待たせ……」


曜「――……じゃあ、やめる?」
2019/01/03(木) 20:43:38.29ID:mKDAuNGP
千歌「……っ」

曜「ふふっ」ニコッ

千歌「……ううん、やめな……あっ!?」

曜「えっ?」

千歌「――……思い出した、思い出したよっ!」ダッ

曜「わっ!? ちょっ、千歌ちゃんっ!?」

千歌「ごめんっ! 曜ちゃんは先に病院に行ってて! 必ず……必ず、すぐ行くから!」

タッタッタッ…

曜「千歌ちゃん、待っ……! ……いっちゃった」

ヒュー…キラキラ

曜「心配だし、一緒に病院まで歩いていきたかったけど……」

曜「……でも、私は先に病院に行って、皆に話しておこうっと」

「……」

曜(……流れ星、本当に……)

ヒュー…キラキラ

曜「綺麗だな……」

曜「……っと、みんな待ってると思うし早く行かないとっ!」ダッ

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:44:11.40ID:mKDAuNGP
千歌「……はぁ、はぁ……はぁっ……」

タッタッタッ…

千歌(記憶を取り戻してから、Aqoursの8人みんなと会ってきたけど……)


千歌(――……まだ、会うべき人が一人だけ残ってる……)


千歌「……で、でも……つ、つかれ……もう、走れ、な……」フラッ…

千歌「……っ!」ダンッ!

千歌「――……それ、でも……はぁ、はぁ……走らない、とっ!」ダッ!

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:44:42.83ID:mKDAuNGP
ダッ…

千歌「……はぁ、はぁ……」フラフラ…

ザーッ…ザザーン…パシャッ…

千歌「……ここ……だ……」

ザッ…

千歌「……やっと……つい、た……」

ザッ、ザッ…

千歌「……はぁ、はぁ……はぁっ……」フラフラ…

ザッ…ザッ…

…ザッ

千歌「……ここで……私、は……」

千歌「……この、海岸で……」ザッ

ヒュー…キラッ

千歌「――……夢……を……」フラフラ…
2019/01/03(木) 20:45:50.99ID:mKDAuNGP
千歌「……はぁ、はぁ……っ……――」フラッ…

キラッ

千歌「――……いや、だ」ザッ

千歌「……はぁ、はぁ……ここで、倒れたら……」

千歌「……今じゃ、ないとっ……!」


千歌「これだけ、流れ星があるなら……」

ヒュー…キラキラ…


千歌「――……願い事の、一つ……くらいっ……!」


キラキラ
2019/01/03(木) 20:46:18.29ID:mKDAuNGP
千歌(……)パチッ…


千歌(――……お願いっ……!)グッ


千歌(……あの時、夢で見た……)


千歌(私を……助けて、くれた……!)ギュッ


千歌(――……私、を……!)ギュウッ


ヒュー…キランッ

パァッ…
2019/01/03(木) 20:47:38.89ID:mKDAuNGP
千歌(……ひか、り……?)

千歌「……」パチッ


千歌「――……っ……」


??「――……まさか、こんなところに呼び出されるなんて……」ザッ

??「……こんなに早く、また会うことになるなんて」クルッ

??「……思いもしなかった」ニコッ
2019/01/03(木) 20:48:22.46ID:mKDAuNGP
千歌「……忘れないよ」

??「……忘れ……ない?」


千歌「――記憶を取り戻せたのは……ぐすっ……今の私が、あるのは……」

千歌「……夢に出てきた、あなたの――過去のチカの、おかげ……なんだよ?」ポタッ

千歌「忘れるわけ、ない……忘れられるわけ、ないっ……!」グッ…ポタポタ


??「え、そ、そんなに泣かれると……」

千歌「……っ」グスッ

??「そ、そもそも、ここに出てきた時私が一番びっくりしてたし……あはは……」

??「――……私は、あなたが……チカが。記憶を取り戻してくれただけで……それで、良かった」

千歌「でもっ!」

??「な〜に?」


千歌「――……あなたが良くても……私は、嫌だよ」


??「……っ」
2019/01/03(木) 20:49:06.62ID:mKDAuNGP
千歌「あのまま……お別れ、なんて。あの時、私は……お礼だって、言ってないのに」グスッ

??「……い、いや〜、お礼を言い忘れることくらい、チカならよくある……いや、あんまりなかったっけ……」

千歌「別れる、時も……私……何も……ぐすっ、うぅ……言えな、くて……っ」ポタッ

??「そ、そんなの気にしてないって〜。ほら、あなただってきっと色々混乱してたと思うし!」


千歌「……ぐすっ、ひっぐ……」ポロポロ

??「大げさすぎだよっ、もう……いや、自分の事だけど……」

??「それに、私は……」


??「――……今、こうやってここに居られて……あなたと話せて、嬉しい」


千歌「……っ」


??「あなたが……私に感謝してくれている事。私を忘れたくなかった……そう思ってくれてること」

??「……私に会おうって思ってくれたのも、そうだよ」エヘヘ


千歌「……」
2019/01/03(木) 20:50:01.33ID:mKDAuNGP
??「……さあ、そろそろ行ってきなよっ」

千歌「……で、も……」グスッ

??「あの時と同じ……みんな、待ってるんだよ?」

??「それに……私だって、いつまでもここに居られるわけじゃないしっ」

千歌「……」
2019/01/03(木) 20:50:41.55ID:mKDAuNGP
ギュッ

千歌「……っ」

??「……大丈夫」

??「私は……過去のチカは、ず〜っとあなたの中にいる」

??「あなたが、忘れたくないって思っていれば……」

??「案外、また夢の中ですぐ会えるかもしれないよ?」

千歌「……」
2019/01/03(木) 20:51:25.63ID:mKDAuNGP
??「ほら、早く行かないと……みんな、探しにきちゃうかもっ」

千歌「……」

??「さあ、行ってきて」

千歌「……っ」ギュッ

??「……さあ」

千歌「……ぐすっ、うぅ……」ギュウッ

「……」

パッ…

千歌「……」クルッ

ザッ、ザッ…

千歌「……」ピタッ…
2019/01/03(木) 20:52:52.14ID:mKDAuNGP
千歌「――……ありがとう」


??「こちらこそっ!」


千歌「――……じゃあね」


??「……うん、バイバイ」


ザッ…ザッ…


千歌「……」


ザッ…


千歌「……ねえ」クル…


??「振り向かないでっ」


千歌「……っ」ザッ…


??「――私が……チカが消えるところなんて、見たくないでしょ?」
2019/01/03(木) 20:53:58.95ID:mKDAuNGP
千歌「……」


??「……顔が見えなくても……」


千歌「……」


??「――……最後くらい、笑ってお別れにしよ?」


千歌「……うん」


千歌「――……ホントのホントに……さようならっ!」


??「ふふっ」


??「――……バイバイっ!」


ポタッ…


ダッ…

タッタッタッ…
2019/01/03(木) 20:55:01.00ID:mKDAuNGP
「……」

曜「千歌、ちゃん……」

ダイヤ「……病院についてから、すぐ奥の病室に……」

鞠莉「記憶喪失が、突然回復したんだから……長引くのは当然なのかも」

梨子「でも……もう、1時間以上経ってるよ……」

果南「うぅ、なんだか落ち着かない……」

花丸「マルも何か食べてないと落ち着かない……」

善子「そういう問題なの……」

ルビィ「大丈夫かなぁ……」

<ガララッ…

曜「っ!」

梨子「奥から、音が……お、終わったのかな?」
2019/01/03(木) 20:55:31.98ID:mKDAuNGP
タッ、タッ…


千歌「ただいまっ」タッ…


ダイヤ「……おかえりなさい」

ルビィ「ち、千歌ちゃん……」

梨子「千歌、ちゃん……」

善子「……おかえり」

鞠莉「ちかっち……」

花丸「おかえり、千歌ちゃん」

果南「それで……千歌」

曜「……記憶は……記憶喪失、は……」
2019/01/03(木) 20:56:56.78ID:mKDAuNGP
千歌「うん……」

千歌「今までずーっと色々な検査をしてたけど……さっき、終わって」


千歌「……先生から、『記憶の欠落は一切見られないし、一時的な回復等でもない――』」

千歌「――……『記憶喪失は、完全に回復している』……そう言われた」


曜「……千歌、ちゃん……」


千歌「――……こういう時……ぐすっ……なんて言えば、いいんだろ……」ゴシゴシ

千歌「……きっと……『ありがとう』だよね?」グスッ


千歌「……みんな……」ポタッ…ゴシゴシ


千歌「――……ありがとっ!」ニコッ
2019/01/03(木) 20:57:23.91ID:mKDAuNGP
ダッ…ガバッ!

千歌「わわっ、曜ちゃん!?」ドサッ

ギュウッ…

曜「――……よかった……本当、に……」ポタッ

曜「……記憶が、戻って……!」

千歌「うん……でも、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

千歌「一応、ここロビーだし……わあっ!?」ドサッ

果南「――……千歌……よかった……」ギュッ

千歌「もう、果南ちゃんも……わっ!?」ドサッ

鞠莉「――……ぐすっ……おかえり、ちかっち……」ギュウッ

千歌「ま、鞠莉ちゃんまで……もう動けないんだけど……」

千歌「だ、ダイヤさ〜ん! 助けて〜!」
2019/01/03(木) 20:57:52.61ID:mKDAuNGP
ダイヤ「全く、もう……仕方ないですわね」ダッ

ガバッ…ギュッ

ダイヤ「――……本当、放っておけない人ですわ……」ポタッ

千歌「……あの……」

ドサッ

ルビィ「――……千歌、ちゃん……うぅ、うわぁぁぁぁん!!」ポロポロ

千歌「……潰れちゃう……」

ガバッ

善子「――……やはり、貴女には……ぐすっ……特別な、力が……」ギュッ

千歌「……ここ、一応病院のロビー……」

ドサッ

花丸「――……千歌ちゃん……今度、また一緒に本を……読ん、で……」ギュウッ

千歌「梨子ちゃ〜ん! 助けて〜っ!」
2019/01/03(木) 20:58:18.96ID:mKDAuNGP
タッ…ガバッ

梨子「……千歌、ちゃん……」グスッ

梨子「――……ありが、とう……」ギュウッ


千歌「――……みん、な……」

千歌「……」

千歌「……ふふっ」

…ポタッ

「……」

ギュウッ…
2019/01/03(木) 20:59:12.53ID:mKDAuNGP
ウイーン…ピシャン

ダイヤ「……さすがに、早く帰った方が良いですわね」

果南「星は綺麗だけど……あれだけあった流れ星は、すっかり無くなっちゃったんだね」

鞠莉「……ううん、また探しに行けばいいだけよ♪」

ダイヤ「ふふっ、その通りですわ」

果南「そうだね。今度は、9人で探しに行こうか!」

花丸「澄んだ空気に澄んだ空……こうやって歩くのも、いいものだね」

ルビィ「そうだねぇ。暗いのはちょっと怖いけど、みんなとならっ」

善子「この闇の力が満ちた今なら、堕天使ヨハネの真の力を解放し……」

ルビィ「……解放、して?」

花丸「どうするの?」

善子「……課題を進めるわ……」

花丸「……じゃあ、わからないところがあったら教えてあげる」フフッ

ルビィ「ルビィもっ! 課題は全部終わってるし、力になれると思うよっ」ニコッ

善子「二人、とも……ふふっ、ありがとう」
2019/01/03(木) 21:00:02.89ID:mKDAuNGP
曜「千歌ちゃんは、夏期課題……」

千歌「全く手をつけてなかったことはよく覚えてる!」

曜「あはは……」

梨子「そっか……今日で夏休みは終わりだもんね」

曜「うん。本当に、色々あった夏休みだねっ」

梨子「そうだね。でも……千歌ちゃんの記憶が戻って良かったよ」ニコッ

千歌「う〜……夏期課題のことは思い出したくなかった……」

梨子「……じゃあ」

曜「やめる?」

千歌「やめないっ! ……一応……」

曜「一応って……」
2019/01/03(木) 21:00:53.53ID:mKDAuNGP
梨子「こうなったら、私たちが一肌脱ごっか」クスッ

曜「ふふっ、そうだね。私と梨子ちゃんに、千歌ちゃん……3人でやれば、きっとすぐ終わるよっ」

千歌「いいの!? やったっ、ありがと!」

梨子「……けど、千歌ちゃんの入院はもう少し続くみたいだね」

千歌「うん……今日は家に帰っていい、って言われたけど……まだ、記憶が戻ったばっかりだし」

千歌「でも、お母さんや美渡ねえ、志満ねえとゆっくりお話ししてくるよっ」

曜「うん、それがいいと思うっ!」

梨子「私も……あ、そうだ。大事なこと忘れてた」

千歌「またドジ?」

梨子「……怒るわよ?」

千歌「……へい」

曜「あはは。それで、どうしたの?」
2019/01/03(木) 21:01:44.80ID:mKDAuNGP
梨子「さっき、受付の人に『先生から高海さんに』って……このCDを渡されて」パッ

曜「CD? 千歌ちゃんを担当していた先生からの贈り物、ってこと?」

梨子「そうみたい……はい、千歌ちゃん」

千歌「ありがとっ! えーっと……『for Chika』?」

梨子「『ピアノの曲が入ってる』って、受付の人が言ってたよ」

千歌「あっ、そういえば……退院したら先生にピアノを聴かせてもらう、って約束してたんだった!」

曜「病院に勤めてて、ピアノも弾けるんだ……」

梨子「前から気になってたんだけど……千歌ちゃんの先生って、どんな人だったの?」

千歌「う〜ん……とっても優しい人だったっ!」

梨子「……普通の答え……」

千歌「……悪い?」ジトー

梨子「えっ!? い、いや、そんなことないよっ」

曜「ふふっ。明日病院に戻ったら、ちゃんとお礼を言わないとね」

千歌「もちろんっ!」
2019/01/03(木) 21:03:01.75ID:mKDAuNGP
曜「でも、今は早く帰らないと!」

梨子「そうだねっ、千歌ちゃんも……」

トコトコ

千歌「……」…ピタッ

曜「……千歌ちゃん?」

千歌「……本当に、ありがとね」
2019/01/03(木) 21:04:33.19ID:mKDAuNGP
「……いいんだよ」

千歌「……果南ちゃん」

果南「私だって、千歌には感謝してるんだから」ニコッ

鞠莉「マリーもよ?♪」フフッ

ダイヤ「わたくしだって」クスッ

ルビィ「ルビィも!」エヘヘ

花丸「マルもそうだよ」ニコッ

善子「私も、ね」フフッ


梨子「もちろん……」ポン

曜「私たちもっ!」ポンッ


千歌「……みん、な……」
2019/01/03(木) 21:05:38.64ID:mKDAuNGP
梨子「ふふっ……さ、千歌ちゃん」

曜「行こうっ?」


千歌「――……うんっ!」タッ


…キラッ
2019/01/03(木) 21:06:04.74ID:mKDAuNGP
〜fin〜
506名無しで叶える物語(家)
垢版 |
2019/01/03(木) 21:06:46.69ID:mKDAuNGP
以上で完結です
読んでくれた方に感謝を、ありがとうございました
2019/01/03(木) 21:08:01.16ID:ciEuf58F

スレタイ曜ちゃんだけどそこまで偏重してた訳でもなかったね
数日間、お疲れ様でした
2019/01/03(木) 21:19:53.19ID:NF19vt+u
おぉ…
おつでした、ありがとう
509名無しで叶える物語(ふく)
垢版 |
2019/01/03(木) 21:20:29.95ID:h63LFAmP

年明け早々良いもの見させてもらいました
2019/01/03(木) 21:50:54.34ID:AU63SAx+
素晴らしかった……
2019/01/03(木) 21:55:19.14ID:NtCVJpLg

よかった
512名無しで叶える物語(プーアル茶)
垢版 |
2019/01/03(木) 23:14:46.95ID:W18u0Y1K
乙。
最後ハッピーエンドにまとめてくれてありがとう。そうじゃなかったら年始早々鬱だったかもしれない(笑)
あとクソどうでもいいけど、記憶の中のメンバーと会話してた時にAsriel戦を思い出したのは俺だけだと思う。
2019/01/04(金) 00:12:29.75ID:x0MfMbG5
えっ何これ
最高すぎるんだけど

きちんと全員描いてて、それぞれエピソードもしっかりしてて、かなりの文量なのに飽きさせなくて……
王道の展開なのにすっごく引き込まれた
何度もホロリときたしクスリときた

間違いなく今年いちばんの作品

お疲れ様です
2019/01/04(金) 03:13:32.33ID:qC6N13Ww
|c||^.- ^|| 素晴らしいですわ
2019/01/04(金) 04:33:26.02ID:EHmAAD1J
大作乙
メンバー同士がしっかり交流してるのがすごくよかった
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