穂乃果「さいごの日」
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穂乃果「海未ちゃん。コーヒー持ってきたよ」
海未「ありがとうございます」
海未ちゃんは、数時間前のパーティで散らかった紙吹雪の一片一片をちまちま拾い集めていました。
私はテーブルにトレイを置いてから言いました。
穂乃果「休憩しよう」
海未「そうですね」 海未ちゃんは、手のひらに乗ったパーティの残りかすをゴミ箱に払い落し、ソファに座りました。
私も海未ちゃんの隣に座りました。世界で一番ふかふかのソファは、とてもふかふかしています。
海未ちゃんがマグを取って渡してくれました。私は一口飲んだあと、それを両手に持ち替えました。
マグの側面に手のひらがふれると、熱と一緒に、霜を踏みつけたときのような特殊な心地よさが伝わってきました。 穂乃果「ねえ、海未ちゃん」
海未「なんですか?」
穂乃果「寒いね」
海未「……そうですね」
穂乃果「こんなに寒いの、生まれて初めてだよ」
海未「ええ」
穂乃果「……ねえねえ」
海未「はい、なんでしょう」 穂乃果「今日がもし地球最後の日だったら……どう?」
海未「……とても寂しいと思います。私たちが生きてきたこの世界が、私たちもろとも消えてしまうのですから」
穂乃果「そっか……」
海未「……穂乃果――」
穂乃果「じゃあ、地球最後の日に何かやりたいこととか、ある?」
海未「穂乃果、縁起でもない話はやめてください。もっと楽しい話をしましょう」
穂乃果「それもそうだね」 少しだけ腰を上げて、テーブルにマグを置きました。
そして、ゆっくりとソファに沈みながら部屋の中を見回しました。電灯がいつもよりいくらか暗いような気がしました。
穂乃果「何の話する?」
海未「そうですね。寒さを紛らわせるような話はありませんか?」
穂乃果「ええっ、私に丸投げー?」
海未「すみません。特に思い浮かばないんです」
穂乃果「うーん……そうだねえ……あっ、そうだ!あったかい物だけでしりとりしようよ!」
海未「いいですね」 穂乃果「じゃあ、私から行くね。うーん……『ストーブ』」
海未「いきなり難しいですね……ええっと、『ブーツ』」
穂乃果「『つくね』!」
海未「あったかい、の部類に入りますか、それ?」
穂乃果「まあまあ、細かいことはいいよ。ほら、『ね』だよ」
海未「それなら……『熱湯』」
穂乃果「『ウッドデッキ』」
海未「季節によるでしょう!?」
穂乃果「でも、ウッドデッキって聞いて思い浮かべるのは、暖かいシーンじゃない?」
海未「それも人によると思いますが……まあいいでしょう。『き』ですね」
穂乃果「うん」 海未「ええっと……『北風と太陽』」
穂乃果「ズルいよ!」
海未「なぜですか?心温まるお話ですよ」
穂乃果「でも、北風は冷たいでしょ?」
海未「穂乃果、こう考えてください。キツネザルは、キツネですか?それともサルですか?」
穂乃果「サルだよね。後の方にサルがついてるんだから」
海未「そうです。後の方にサルがついていれば、それはサルです」
海未「だから、後の方に太陽がついていれば、それは暖かいものなんです」 穂乃果「ええー……そうかなあ……」
海未「そもそも、あなたのウッドデッキもどうかと思います」
穂乃果「それもそうだけど……北風と太陽かあ……」
窓の外でひゅうっと鋭い音がしました。
カーテン越しで景色は見えないけれど、その風のもたらす力がどれくらいのものか、簡単に想像できます。
海未ちゃんは少しだけ窓の方を気にかけるように、斜め上に目をやりました。
私は、考え事をするときに上を向くのはどうしてだろう、なんて考えながら、海未ちゃんを見ていました。
風がおさまると、海未ちゃんの目は元の位置に戻りました。
その目は何か特定のものを見てはいなくて、まるで丘の上から夜の街をぼんやり眺めているようです。 穂乃果「……関係ないけど、すきま風、寒いね」
海未「そうですね」
穂乃果「すきま風ってどこから入ってくるの?」
海未「すきまからでしょう」
穂乃果「なんで、すきまなんかあるんだろう」
海未「何事にもすきまはあります」
穂乃果「そうなの?」
海未「完璧なものなんてありませんよ」 穂乃果「海未ちゃんにもすきまはあるの?」
海未「わかりません。でも、きっとあります。私が気づいていないだけで」
穂乃果「……」
海未「どうして黙っているんですか?」
穂乃果「あっ、いや。ちょっと考え事してただけだよ」
海未「そうですか」 穂乃果「……ああ……明日は、どのくらい寒くなってるんだろう……」
海未「わかりません」
穂乃果「誰にもわからないもんね、明日のことなんて」
海未「明日になればわかります」
穂乃果「……そうだね」
海未「元気がありませんね。あなたらしくありません」
穂乃果「そうかなあ……?」
海未「はい」
穂乃果「まあ、いいよ」 私は再びマグを手に取って、一口飲みました。
さっきよりも少しだけぬるくて、飲みやすくなっていました。
それでも、コーヒーが食道を通って胃の中に落ちていくときには、その熱さがしっかりと感じられました。 穂乃果「ねえ海未ちゃん、雪の結晶って見たことある?」
海未「どうしたんですか、突然」
穂乃果「そういえば見たことないなあって思って」
海未「そういえば、って……何も言っていませんよ」
穂乃果「まあまあ」
海未「確かに見たことはありませんね。本の資料なんかでは見たことありますが、実物は……」
穂乃果「一度見てみたいよね」
海未「ええ」 穂乃果「なんで自然のものなのに、あんなに規則正しい形になるんだろう」
海未「確か、氷の分子が六角形に並ぶようにくっつくからだったと思います」
穂乃果「へえー。なんで六角形なんだろう。五角形とか七角形とか、五十角形とかじゃダメなのかな?」
海未「さあ……でも、きっとダメなんでしょう」
穂乃果「六角形は選ばれたんだね」
海未「六角形が選ばれたのではなく、他のどんな形でもダメで、最終的に行きついた形なのではないでしょうか」
穂乃果「同じだよ」
海未「そうかもしれませんね」 穂乃果「地球じゃない他の星には、六角形じゃない結晶もあるのかな?」
海未「わかりません」
穂乃果「もし星ごとに結晶の形が違ったら面白くない?652角形だからこの星はメロン星だ!とか」
海未「なんですか、その美味しそうな星は」
穂乃果「でも、面白そうじゃない?表札みたいで」
海未「仮にそのシステムがあったら、星の数のエヌ角形が必要です。数えるのがとても大変でしょう」 穂乃果「宇宙に星っていくつあるの?」
海未「わかりません。でも、何兆とか、何億とか、今から数えても死ぬまでに終わらないくらいの数だと思います」
穂乃果「そっかあ……ウン兆角形なんて、ほとんどマルと変わらなそうだね」
海未「はい」
穂乃果「でも、それだけある中で一桁を引き当てた地球って、すごく運がいいよね」
海未「それはよくわかりません」
穂乃果「だって、ええっと……9/兆の確率だよ?」 海未「ポジティヴに考えたら、なんでも運がいいと思えるものです」
穂乃果「そうかなあ?」
海未「あなたはいつも前向きですから」
穂乃果「そっかあ……前向き……」
海未「……」
穂乃果「ねえ、海未ちゃん」
海未「なんですか?」
穂乃果「前向きって、どういうこと?」 海未「だから、物事の良い側面に目を向けられるという――」
穂乃果「じゃあ、悪い側面から目を背ける人は、前向きなの?」
海未「……」
穂乃果「自分に嘘をついて、現実から逃げようとしてる人は前向きなの?」
海未「それは……違うと思いますが……」
穂乃果「……」
私はテーブルにそっとマグを置きました。 穂乃果「ねえ、海未ちゃん。今、何時何分かわかる?」
海未「11時55分です。明日まであと5分ですね」
穂乃果「……っ」
海未「どうしたんですか?さっきから、様子が……」
穂乃果「ねえ……海未ちゃん」
海未「はい?」 穂乃果「……海未ちゃん……明日があるなんて、まだ信じてるの?」
海未「何のことですか?」
穂乃果「今日で地球は終わるんだよ。明日なんて来ない。地球は氷に埋もれて死の星になるんだよ」
海未「……冗談ですか?それとも――」
穂乃果「ずるいよ!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出ました。 海未「――っ。急に大声を出さないでください……」
穂乃果「みんな悩んで、後悔して、苦しんで!」
穂乃果「それでも最後だけは楽しく生きようって、パーティなんかやって、悲しい思いを押さえつけて、無理に明るく振る舞ってるのに!」
海未「穂乃果……」
穂乃果「海未ちゃんだけ本当に楽しい思いをして……そんなのずるい……!」
海未「……」
穂乃果「夢の中に逃げないでよ!」
海未「――っ!」 穂乃果「怖いよ……」
海未「……穂乃果」
穂乃果「私だって本当は逃げたいよ……」
海未「……」
穂乃果「ううっ……うっ……」
海未「私は――」
そのあとの言葉は聞き取れませんでした。
でも、それを言い終わると、海未ちゃんは私の手をぎゅっと握って――
海未ちゃんの手の熱が伝わってきました。 海未「……穂乃果」
穂乃果「……何?」
海未ちゃんは私の手を握ったまま、言いました。
海未「思い出しました。今、何が起きているのか」
穂乃果「それじゃあ……」
海未「目が覚めました」
穂乃果「うん」 海未ちゃんは、うつむいて言いました。
暗い影を浮かべた顔が、太陽の光の当たってない、水星の裏側のように見えました。
海未「私は……逃げていたみたいです……夢の中に……」
あいかわらず握り続けている海未ちゃんの手は、南極の氷も融かせそうなくらいの熱を発し続けていました。
この熱はきっと、海未ちゃんが夢の中で守ってきた、明日への希望だったのでしょう。 穂乃果「……」
穂乃果「ねえ、海未ちゃん」
海未「……はい」
穂乃果「私たちは、希望を燃料に生きているんだよね」
海未「……そうだと思います」
穂乃果「明日があるって思いたくなるのが、人間として当たり前で、正しいことなのかも……」
海未「……」
穂乃果「だから……海未ちゃんは悪くないよ!」
海未「……わかりました」 海未ちゃんは顔を上げました。その目は、確かに何かを見ていました。
穂乃果「ありがとう」
海未「ありがとうございます」
穂乃果「……はあー……海未ちゃんが元に戻ってよかったよ」
海未「はい。私もそう思います」
穂乃果「うんうん!」 海未「あと、それと……もう一つ思い出したことがあります」
穂乃果「何?」
海未「こんなものを持ってきていたんです」
海未ちゃんはソファの横のバッグを漁り始めました。
私はその様子を見ていましたが、海未ちゃんがバッグから取り出すものの正体が分かった瞬間、そっちに釘付けになりました。 穂乃果「それは……拳銃?」
海未「穂乃果」
名前を呼ばれて顔を上げると、海未ちゃんがじっと私のことを見ていました。
私は海未ちゃんが何をしようとしているのかを理解して、頷きました。
海未「先と後、どっちにしますか?」
穂乃果「そうだなあ……うーん……」
穂乃果「……海未ちゃんがいない世界なんて、一瞬でもイヤだな」
海未「わかりました。でも、私も同じ気持ちです」
穂乃果「ダメだよ。海未ちゃんは今までズルしてきたんだもん」
海未「……そうですね」 穂乃果「じゃあ、お願い」
海未ちゃんは銃口を私の方に向け、引き金に指をかけ、それから春の陽光のような柔らかい声で言いました。
海未「さいごに、私に何か言ってくれませんか?」
穂乃果「……そうだなあ……」 海未「……」
穂乃果「じゃあ……」
海未「……っ」
穂乃果「――『海未ちゃんの手』」
そして、さいごの日になりました。
すっかり冷たくなったコーヒーの表面に、薄暗い部屋の天井が映り続けていました。 要素ガイジじゃないけどこういうラブライブキャラでやる必要のないssってどういう気持ちで書いてんの?
試しに穂乃果と海未を登場人物Aと登場人物Bで置き換えてみろ
普通に成立するから そんなこと言い出したらスクールアイドルやってないSSは大抵そうだろ
他のアニメのキャラに置き換えても成立する >>38
いやだってこれは穂乃果と海未である必要性がマジで皆目ないじゃん
3回見直したけどxくんとyくんで済む話だろこれ >>40
SSにそんなこと言ってもしょうがないでしょってことだよ
というか好きな作品のキャラで好きなシチュエーションを当てはめるのは2次創作のいいところなんじゃね知らんけど >>41
ID変わってるかもしれないけど同一人物です
まあそうですね
私が間違ってました ○○である必要云々は公式作品に対しても二次創作に対しても面白ければいう必要ないわ ストーリーが全然わからん
最後に死んだんだなーしか
賢い可愛い人解説頼む こういう雰囲気の話悲しいけど好き
しりとりの返しを最期の言葉に選ぶセンスも好き >>43
じゃあ面白くないから言われてんじゃないの?
実際意味分からんし すげえいいやん
こういう雰囲気好き
欲を言えば最後の地の文は「さいごの日になった。」「薄暗い部屋の天井が映り続けていた。」だったらもっと良かったかも >希望を燃料に
そうか希を燃料にすればうそですごめんなさいすいません ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています