真姫「希先輩と私の秘密」
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私と希には二人だけの秘密がある。
毎週金曜日の部活終わりの視聴覚室。
真姫「そう言えば…どうしてここの鍵なんて持ってるのよ」
希「生徒会やってる時にスペアの鍵を拾ってね。役得やね」
真姫「それって…いいの?元副会長がそんな事して?」
希「人は良い事も悪い事も経験して大人になって行くんだよ」
真姫「あっ、そう」
今日も二人だけの映画館が開演する。 01
ガチャ
希「遅かったやん」
真姫「まあ…凛と花陽がね」
希「二人も連れてくればええのに」
確かに。希の言う通り凛と花陽も連れて来れば良いのだけど。私はここの事は二人だけの秘密にしたいと思っていた。 希「あまり遅い時間まで学校にいると宿直の先生に見つかったら厄介やからね」
生徒会をやっていた人の台詞じゃないわよ、この不良娘。
真姫「それで?今日は何を観るの?」
希「今日はな…」
毎週金曜日に私と希が何をしているのかと言うと視聴覚室のプロジェクターを使って二人で映画を観る。ただ、それだけの事。 部活終わりにたまにふらっと居なくなる希を不審に思って後をつけたのが始まりだった。
希「さて、そろそろ始めようか?」
真姫「ええ」
カチッ
希が明かりを消す。さっきまで学校の一室だったのが一瞬で映画館に変わる。
希がDVDをセットをする。
そして、私達は視聴覚室の一番後ろの席に座った。 希「おっ!あの映画な、めっちゃ面白いんよ」
真姫「そうなの?」
希「今度借りて来て観ような」
本物の映画館の雰囲気が出るからって予告を飛ばさずに観るのが希の流儀らしい。
希「そろそろ始まる」
真姫「うん」
希は映画が始まるこの瞬間が好きらしい。 希「なんだか特別な感じがしない?凄いワクワクするって言うか…ここから全てが始まる感じが…凄い好き」
そして、映画が始まる。
大画面に映るのは殺し屋の男と少女の切ない愛の物語。
愛を知らなかった男が少女の為に不器用に感情を剥き出しにするシーンに私は思わず鳥肌が立った。
そして、この不器用な男にどこか自分を重ねていた。
私もμ'sに入るまでどこにも根を下ろせずにいたから。
希「ん〜やっぱり名作やなぁ…って真姫ちゃん?」
真姫「な、何よ?グスッ…」
希「いや…ふふっ。どんな評論家の言葉よりも真姫ちゃんのその涙が全てやね」
真姫「…うるさいわよ」
だって仕方ないじゃない。本当に感動したんだから。 02
希「なあ?見つかった?」
真姫「まだ…」
今日はレンタルビデオショップに来ている。
いつもは希が観る映画を用意してくるのだけど…
希「そう言えば、真姫ちゃんってどんな映画が好きなん?」
真姫「私の好きな映画?」 希「うん」
真姫「私の好きな映画は…」
ってな感じで二人で借りに来たんだけど
真姫「ごめん。思い出せない」
昔観た映画のタイトルがなかなか思い出せなかった。
希「そっか。まあ、ゆっくり探そっか」
真姫「うん」
そう言って希の視線は棚の上へと向いた。 希「おっ!真姫ちゃんはこの映画は観たことある?」
真姫「どれ?」
希「これ!」
希が手を伸ばしたDVDのタイトルはゴッドファーザー。
マフィアの重鎮となったヴィトー・コルレオーネと、その息子たちやその周りの人間の栄光と悲劇を描いた名作。
真姫「これってマフィアの抗争のお話でしょ?意外ね。こう言うのが好きなの?」 希「それはちょっと違うなぁ。これは男の生き方を教えてくれる映画なんよ」
真姫「何よそれ。希は女の子じゃない」
希「ふふっ、確かにな」
全く何言ってるのかしらこの人は。
希「おっ!これも名作やなぁ」 真姫「…」
希「ん?何?どうしたん?」
真姫「本当に詳しいのね」
希「まあ、一人の時間が多かったからね」
真姫「そう…」
希「だから楽しいよ。こうやって友達と映画を選ぶの」 そう言えば私も初めてかもしれない。ちょっと前までは考えられかった。友達とこうやってレンタルビデオショップで映画を選ぶのは…私も楽しい。
私もずっと一人だったから。
希「おっ!この映画もなかなかおススメでなぁ…なあ?聞いてる?」
真姫「え?き、聞いてるわよ。どれ?」
希「サウンドオブミュージック!」
真姫「あっ!」
これだ!小さい頃一回だけパパが映画に連れて行ってくれた事があってその時観たのがリバイバル上映されていたこの映画だった。
主演の女優の歌声もとても綺麗だった事を覚えてる。
希「もしかして、真姫ちゃんの好きな映画ってこれ?」 真姫「うん」
希「そっか。歌が好きな真姫ちゃんらしいね。ウチも好きよ。この映画。そっか、じゃあ明日はこの映画を観ような」
真姫「ええ」
私の思い出の映画は希も好きだったみたい。これは偶然なのかな? 03
今日は金曜日。私と希の二人だけの秘密の映画観賞の日。
ガチャ
真姫「ごめん、希。遅くなったわ」
穂乃果「やっ!真姫ちゃん!」
真姫「穂乃果…どうして…」
希「真姫ちゃんと一緒やって」
穂乃果「希ちゃんが視聴覚室に入って行くのを目撃しちゃってさ」
真姫「そう、別にいいけど」
別に良いんだけど…。
真姫「で?何?穂乃果も参加したいの?映画観賞会」
穂乃果「いいの?」 真姫「まあ…」
皆んなで見た方が楽しいし。正直言うと二人だけの秘密じゃなくなっちゃうのは複雑だけど…。
希「穂乃果ちゃんは映画はよく見るの?」
穂乃果「最近は観に行くけどね。昔はよく海未ちゃんとことりちゃんと映画館まで観に行ったものだよ」
そっか。三人は幼馴染だから。
穂乃果「子供の頃はさ、それこそ映画館に行くのも冒険みたいな感じだったんだよね」
真姫「へ〜」
穂乃果「なんかワクワクしたなぁ。三人で計画してさ、お母さんにお小遣い貰って。海未ちゃんなんてしおりまで作っちゃって」
映画館に行くのが冒険か…。 希「海未ちゃんらしいなぁ」
穂乃果「でしょ?」
本当海未らしいわ。でも、そっか。もし、私も穂乃果と幼馴染だったなら
穂乃果「真姫ちゃん。明日の映画楽しみだね」
海未「寝坊しないで下さいよ?」
ことり「お昼はどこで食べようか?」
真姫「デパートのフードコートなんていいんじゃない?」
穂乃果「参戦〜」
なんて事もあったのかな。 希「さっ、お喋りもええけどそろそろ上映開始しようか?」
真姫「そうね」
穂乃果「お〜なんだかワクワクするなぁ」
今日見る映画はスティーブンキング原作のスタンドバイミー。
小さな街に住む4人の少年たちが好奇心から、線路づたいに“死体探し”の旅に出るという、ひと夏の冒険を描いたロードムービーの金字塔だ。
この映画は主人公の幼い頃の親友のクリスが刺殺された記事を発見した事で昔を思い出す所から始まる。 穂乃果「…」
いつもは騒がしい穂乃果も映画を観てる時はやっぱり静か。
穂乃果との出会いは私が音楽室でピアノを弾いて居る所に現れて
穂乃果「一緒にスクールアイドルやらない?」
突然アイドルをやらないかって誘われたのが最初だった。
穂乃果との出会いは劇的でそれこそ私にとって映画のワンシーンの様に運命的だった様に思える。 この映画の最後は一夏の冒険を終え別れた主人公達はその後別々の進路を進みお互い疎遠になって行く。大人になってクリスの死を知り昔を振り返り
「12歳の時のような友人を、私はその後二度と持ったことはない。誰でもそうなのではないだろうか?」
と思い出に言葉を添えて映画は終わる。
穂乃果「いやぁ、面白かったねぇ」
希「そうやろ?」
穂乃果「うん」
いつか私達もこの映画の主人公みたいに今を思い返す時が来るのだろうか。懐かしく切なく、そして愛おしく。
希「さて、明日も早いし。早く帰ろうか」
穂乃果「そうだね〜」
その時私は穂乃果や希、μ'sの皆んなの特別になれているといいな…なんて。
その為にも私は今を精一杯生きようと思う。 私の罪。それは優等生の真姫ちゃんをこんな校則破りまくりの映画観賞会に引きずり込んだ事。
真姫「こんな所でコソコソと何やってるのよ?」
希「げっ…見つかっちゃった?」
誰も知らなかったのに(とは言っても察しの良いえりち辺りは気が付いていたかもしれないけど)私とした事が視聴覚室に入る所を真姫ちゃんに目撃されてしまった。
彼女が私の行動に興味を持ち乗り気だったのは嬉しい誤算だった。 真姫ちゃんは晴れて共犯者となった。
それから毎週金曜日は真姫ちゃんと二人で秘密の映画観賞会を開催する事になったのだ。
その日二人で観た映画はオードリーヘップバーンが主演の映画だったと思う。
画面に映るその世界で一番美しい女性を恍惚な表情で眺める真姫ちゃんの横顔はこの世で一番美しく見えてこの景色をもう少し独り占めしたいと思った。
真姫「…何?」
希「別に?何でもないよ」
私はすぐに嘘を吐いた。
そう言えば真姫ちゃんに見つかったのはわざとだったかも知れないと今更ながらに思う。だとしたら私の罪はさらに重くなりそうだ。 05
凛「でね〜、ミイラがバーンってなるんだけどね…なんだっけ?」
にこ「全然何を言ってるか分からないんだけど」
真姫「それってハムナプトラじゃないの?」
凛「あっ!そうそう!それだよ」
にこ「よく分かったわね。あんた」
真姫「まあ…ね」
こないだたまたま観たからね。
花陽「真姫ちゃんって映画に詳しいんだね」
凛「知らなかったにゃ〜」
真姫「そう?」
私が映画に少し詳しくなったのは毎週金曜日に視聴覚室で希と映画観賞をしているから。 これは二人だけの秘密(例外が一人いるけど)で親友の凛と花陽もこの事は知らない
(もしかしたら金曜日の練習終わりに私と希が二人して居なくなるのを不思議には思ってるかも)
どうして私が皆んなに秘密にしているのか
真姫「なんか…不思議ね」
希「何が?」
真姫「私と希はμ'sの一員で仲間で。でも、この時だけはμ'sもラブライブも関係なくて私と希だけの…なんて言うか」 希「何が言いたの?」
真姫「分かんない」
希「ふふっ、何やそれ」
μ'sやラブライブが繋がりの私達をこの共通の秘密と言う体が友達としての関係をさらに浮き彫りにしてくれる様な気がするから。
希「さあ、先生に見つかる前に早くズラかろう」
真姫「本当…悪い事してるみたいに言うわね」
希「いや…校則破ってる時点で悪い事やからね?」
もう少しこの時間が続けば良いと私は思った。 06
終わりは突然やって来た。
理由は簡単で私達が視聴覚室で映画を観てる所を宿直の先生に見つかったからだ。
当然私達は先生にこっ酷く怒られた。こんな風に先生に怒られたのは人生で初めてかもしれない。
絵里「申し訳ありませんでした。私からもキツく言いますので」 先生「もういいよ。二人も反省してるみたいだし」
次の日に絵里が一緒に謝ってくれた事、普段私と希の生活態度が真面目な事が幸いして大声にはならなかった。
希「ごめん、えりち」
絵里「はあ…まあ、私も二人がコソコソやっているのには気がついてて注意しなかったから」
希「それにしても驚いたわ。まさか真姫ちゃんが泣き出すなんて」 絵里「そりゃそうよ。真姫は滅多に怒られる事なんてないんだから。あれだけ怒られればビックリするわよね」
希「ごめんな、真姫ちゃん。ウチが悪の道に誘ったばっかりに」
真姫「別に…泣き真似だったし…」
希「え?もしかして演技だったの?」
絵里「はあ…全く。まさかμ'sにこんな大女優がいたなんてね」
希「映画観賞会が無駄にならなくて良かったなぁ。ね?」
絵里「言っておくけど褒めてるんじゃないから。ちゃんと反省しなさいよ?」
真姫「…はい」
そう、先生に怒られて泣いたのは演技だった。そして希と絵里に嘘を吐いた。 いいね
しっとりと語り合える空間
真姫にとっても映画の中の人物たちよろしく、
ちょっとした冒険だったのかもしれない こういう時間は呆気なく終わっちゃうもんなんだよな
秘密基地を大人に壊されるみたいに 07
あの部屋の前を通ると思い出す。毎週金曜日にだけ開館される映画館の事を。あれから私は一度もあの部屋に行っていないし希「先輩」とも会っていない。
先生「ありがとう、西木野」
真姫「いえ…これくらいは」
先生「本当助かるよ。西木野みたいな優等生がクラスに居ると」
相変わらず優等生だった私は先生に頼まれて提出物を職員室に運ぶのを頼まれていた。 真姫「失礼しました」
先生「おう!サンキューな!」
職員室の帰りにたまたま視聴覚室の前を通ると部屋の扉がわざとらしく少し開いているのに気がついた。
真姫「何をしてるのよ?」
希「ん?真姫ちゃん?」
部屋の中には彼女が居た。 真姫「久しぶりね」
希「一昨日会ったばかりやん」
真姫「そうじゃなくて」
希「あぁ…この部屋に来るのが?」
真姫「それもそうだけど」
希「それも?」
まあいいや。分からないなら。 真姫「また怒られるわよ?」
希「残念。今日は正式に先生に許可を貰ってるんよ。この時期の三年生はええよ〜。多少の我儘なら先生も許してくれるわ」
真姫「へ〜」
希「なんなら真姫ちゃんも一緒に何か観てく?」
真姫「生憎この後もやる事があるのよ」
希「ふ〜ん。そうなんや」
真姫「ほら?私って優等生だから」
希「お〜真姫ちゃんも言う様になったなぁ」
真姫「でも、少しな付き合うわ」
希「そうこなくっちゃ。待ってた甲斐があったわ」
この人は私が来なかったらどうするつもりだったのかしら…。
私は部屋の扉をゆっくりと閉めた。 08
春の風が乱暴に吹き荒れる今日この頃。まだ、冬の寒さが残っているので私は身を縮めて彼女を待っていた。
ガチャ
「すいません。遅くなりました。雪穂達の話が長くて。えへへ」
乱暴に扉を開けて彼女は言う。
「別に私は待っていた訳じゃないけど」
「とか言っていつも私が来るまで待っててくれますよね?」 彼女は私が視聴覚室に入る所をたまたま目撃したらしく、それから毎週金曜日にここに来るようになった。
「って言うか真姫さんはここの鍵どうやって手に入れたんですか?」
「生徒会やってる頃にスペアを拝借したのよ」
「え?それって良いんですか?下手したら窃盗ですよね?」 「大丈夫よ。いずれ返すから」
「ん〜それならいいのかなぁ」
言い訳ないでしょ。この子は何言ってるのかしら。
「さあ、そんな事より早く映画を観ましょう」
「わ〜今日は何を観るんですか?」
「内緒」
「え〜」
「ねえ」
「なんですか?」
「これ…返しといてよ」
私は彼女に映画館の鍵を渡した。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています