押井「ラブライブ? 2」
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押井「また?」
石川「はい。製作委員会からの直々のご指名です…以前の『ライブ!』が非常に好評だったので。ただ、今度は劇場版作品ではありません」
押井「と言うと…」
石川「プロモーションムービーです」 石川「3ヶ月後に発売が予定されている、μ'sとAqoursの全PVと声優によるライブイベントを収録したBlu-rayBOXがありまして。それの宣伝用に、今現在企画されている新曲があるんですがーーー」
押井「なるほど、その新曲のアニメパートを僕にやれってこと」
石川「えぇ。大体7分程度の物で、短編として押井さんに制作全般を任せたいなと思っていまして」
押井「あ、そう」
押井「…」
押井「正直めんどくさいな。引き受けようが断ろうが馬鹿から反感買うし。これ以上、この業界の敵を増やしたくもないんだよね…昔も痛い目くらってるから、しみじみ思うよ、本当」
石川「お気持ちは分かります。ぶっちゃけると自分も、この話はなくてもいいかなって半分思ってましたし……押井さん次第でしたから…」
石川「じゃあ、他に回してよろしいですか?」
押井「いいよ。で、となると何処が作ることになるの?」
石川「スタジオジブリですね」
押井「は?」 石川「監督は宮崎駿さんですね」
押井「はぁっ?」
石川「それじゃあ鈴木さん(ジブリ代表取締役社長)に伝えておきます」
押井「いや、待って」
石川「なんでしょう?」
押井「え、宮さんが作るの?」
石川「何か問題でも」 押井「だって、ラブライブだよ、ラブライブ。宮さんみたいな偏屈家のミリオタ幼児愛者が、ラブライブなんてマニアックだかメジャーなのかよく分かったもんじゃないモノ、今さら作れるわけないじゃない」
石川「押井さん、それは貴方の特徴です」
押井「僕はロリコンじゃないよ」
押井「言っちゃ悪いけどジブリにPVなんて無理だと思う。あそこ、人物画のCG大っ嫌いでしょ。宮さんの2Dアニメじゃラブライブは表現しきれない」
押井「もしも宮さんが断ったら?」
石川「その次はスタジオカラーです。庵野秀明さんが制作統括でーーー」
押井「よし、僕が作ろう。この仕事案件は僕が、プロダクションIGが引き受ける」 石川「急にどうしたんですか、手のひら返しに」
押井「あの2人に回したくないから。今すぐ企画組むぞ、作曲組と連絡は取れる?」
石川「他案件のため、連絡は今は無理ですが……曲の方向性は概ね定まっているそうですよ」
押井「プロモーションムービー作るってのにアニメ制作の僕たちには相談なしか」
石川「本来そういうものですし、今回は時間があまりありませんから…仕方ないかと。それよりも、曲という原作を壊さないように、くれぐれも慎重な制作体制お願いしますよ」
押井「分かってる。それで、作曲家と作詞家はどちら様」
石川「渡辺拓也さんと、畑亜貴さんと伺っていますが…」
押井「なんか聞いたことある名前だなぁ。あれか、HPT(ハッピーパーティートレイン)作ったタッグでしょ」 石川「そんな曲アニメ版でありましたっけ?」
押井「……まぁいいや、時間がないのはいつもの事だし、アニメパートに関しては基本的にいつもと同じメンバーで制作しよう」
石川「サンライズスタッフの方々がまた介入したがっていたら、どうします?」
押井「追い返しといて。あ、でも花田くんは欲しいかな」
石川「え?あんなに嫌ってたのに?」
押井「…脚本は僕が持つけど、原案協力ぐらいにラブライブ的な意見が欲しい。連絡しといて」
石川「はい。意外ですね、あの押井さんが…」
押井「今回ばかりは僕だけの作品じゃないからね。気に入らないけど、ものすごく」
押井「『ラブライブ!』やラブライバーのためにってのを前提条件として作る気だよ」 3日後、静岡県沼津市の某所にて、制作陣主要メンバーが一堂に会していた。
絵コンテ・脚本の押井守。
脚本協力の花田十輝。
曲制作の渡辺拓也、畑亜貴。
作画監督の西尾鉄也。
プロデューサーの石川光久。
制作方針にて、やはり押井と花田がもめていた。 押井「だからさぁ……このPVで語りうるべきはメインたる花丸ちゃんの旅行記であって、青春ドラマ劇じゃないんだって。基本的には古臭く、もっと鬱蒼としていなきゃ」
花田「ですからねぇ、こんなのラブライブじゃないって言ってるんですよ!」
石川「……言わんこっちゃない」
花田「押井監督、これはAqoursの曲なんですよ」
押井「花丸ちゃんセンターの曲だ」 畑「…」
畑は黙って別件の歌詞を制作をしていた。呆れた石川が、仕事に集中してくれと彼女を軽く叱ると、畑は面倒くさそうにため息をこぼす。
畑「私、暇じゃないんです。わざわざ静岡まで来させて…石川さんでしたっけ?プロモーションムービー作るってお話でしたら私は聞いているので。映像は好きにして構いませんから、私もう帰っていいですか?」
石川「押井さんに聞いてください」
畑「押井さん」
押井「駄目に決まってるよ」
畑「なら早く花田さんと話つけて終わらせてください。なんかもう、花田さんと押井さんの討論会になってますし」
西尾「…」
渡辺「…」 絵コンテすら完成していない作品の作画監督を任されて連れてこられた西尾、そして作曲自体を殆ど終えているはずの渡辺は、退屈に襲われている。
暇を持て余した西尾は、コピー紙の束でパラパラ漫画をおもむろに書きだした。
押井「あぁ、それはごめんね。うん、じゃあ花田くんとの話は置いていて、曲の話し合いを進めようか」
畑「前回送ったのじゃダメですか」
押井「うん」
石川「……まぁ、確かに渡辺さんと畑さんの仕事が早くて助かってますよ。この打ち合わせを決めた翌日には、試作品を送ってくれましたし。でも、ちょっと押井さんは不満があるみたいで」 押井「…花丸ちゃんセンターのやつ、聞いたけどさ」
押井「なんだアレは」
畑・渡辺「はい?」
押井「曲調は清々しいのに、付属の歌詞がなんと言うか…不穏なんだけど」
畑「あーそれですか。押井さんは暗い作品が好きだと石川さんからお聞きしたので」
押井「ふーん。書き直して」
畑「はぁ?」
押井「花丸ちゃんは深そうなのに割かしペラッペラの事をよく言うキャラだけど、全然ネガディブ思考ではないよね。だから、もう少し建設的で前向きな歌詞に直してほしい」 畑「今からですか?」
押井「帰りたきゃ帰ってどうぞ。渡辺くんには悪いけど、多少の修正は入るだろうから、畑さんと制作、進めといて」
渡辺「…」
渡辺は小さく舌打ちして立ち上がると、ぶっきらぼうに退室の挨拶を済ませ、畑と共に出ていった。 石川「余計なマネしちゃいましたかね」
押井「別にいいよ」
花田「…あの押井監督が、前向きだなんて」
押井「今回は『ラブライブ!』全般のためにやらないといけないからね」
花田「だったら尚のこと、その支離滅裂な脚本を修正してくれませんか」
押井「いや、大まかな脚本はこれでいい。君を呼んだのは…君なら花丸ちゃんを主に、この世界観でどう活かすかってことを聞きたかったから」
花田「まずその世界観が受け入れられないんですが」
押井「質問の答えになってない」
花田「……最後の目的地ぐらいは、誰かお友達の元がいいと思いますよ」
押井「…そう。お友達、ねぇ。誰がいいかな?」
花田「それは花丸ちゃんに聞いてください。自分はこれで失礼しますよ」
花田はそれだけ言うと、畑たち同様にさっさと出ていった。 取り残されたおっさん3人組は、洒落たカフェ店内で場違い感を周囲の視線から受け取りつつも、まだ仕事の話を終わらせない。
押井「結局帰っちゃった」
石川「押井さんがあんなこと言うからですよ」
西尾「…」
石川「…西尾さん、あれ、あれです。あの子です」
西尾「…?」
石川が指さす先には、店内の壁にかけられたAqoursの特大タペストリー。ここ、沼津市にはまだ『ラブライブ!』を起用した一種の町おこし事業に力を入れている店や施設が僅かながらに残っているようだ。
この子達が、今度のあなたの仕事になると石川が教えると、西尾は狂ったように9人分のデザイン案を引き出し、凄まじい速度で紙にいくつもの顔のラフを描き始めた。
西尾「…!……!!…?…!」
押井「風邪って大変だね。全く喋れないんだもの」
石川「黄瀬さんは参加できそうにありませんが、西尾さんがいてくださるなら安心です」
押井「そうだね、今回もバセットハウンドは出せそうにないし、西尾くんに任せっきりになる」 石川「そう言えば、どうして打ち合わせ場所にここ(沼津市)を?」
押井「できれば主要スタッフ全員で歩こうかなって思ってさ。ま、物の見事に帰られちゃったんだけど……」
石川「今日の押井さんには随分と驚かされます。何かあったんですか?」
押井「驚くって、何を」
石川「いえ、以前よりもずっと『ラブライブ!』がお好きなようでしたから」
押井「これも仕事だよ。それに、静岡の自然は嫌いじゃない。3人だけだけど、曲制作で僕達は今のところ動けそうにないし、ちょっと散歩しよう」 押井「“街を歩く”ってのは、作品のイメージを保つためにはとても重要で価値の高いもの。ロケハンによく行くのもそのためだよ」
押井「ほら、見てみ」
駿河湾。群青色の波に浅く呑まれる砂浜が、3人の目の前に広がっていた。視線の奥には、その姿を誇張する富士山。僅かに目線を下げれば、そこには人々の暮らしぶりが覗ける小さな港町がひっそりと佇んでいるーーー。
石川「…綺麗ですね」
西尾「…」
押井「…数年前まではここもそれなりに賑やかだったらしい。ラブライバーって呼ばれる、気持ち悪いオタクたちの巣窟だった」
石川「これはまた、手痛い言い草ですね」 押井「否定はしてないよ。僕は庵野くんほどオタクは嫌いじゃないし……アニメの舞台にするだけで、その街が発展するのなら、現代アニメっていうメディアの使い方は賢いと思ってる」
押井「“街は文化であり、それを歩行という形で辿る人間もまた、文化の結晶である”」
押井「これは自動掃除機とか、極論すると昆虫のアリにも言えることなんだけど、自力で“歩いてる”モノなんてこの世にいないんだよ」
押井「アリは何故こうも、行ったり来たり、同じところを繰り返し辿ったりしているのだろうと思って、彼等の遥か上から僕らは見てるけど、それって知らない街を歩く人間をドローンで眺めてるのと大差ないんだよね、実際」 >>13
なんか前のはまだ押井に対する拘りあんのかなと少しは思えたけど
今回のは段々お人形遊びになってきてる気がする 押井「旅行先とかで、こう、パンフレットとかを参考に…というか、その手の参考資料だけに沿って、無駄な道を歩かずに超効率的に目的地まで…なんて旅行好きはいないんだよ。まず歩いてみる。手始めにって感じで」
押井「それで、少しずつ周りの建物という障害物、通行人という見知らぬ移動物、要約するに環境に慣れてくる。で、いざ歩き始めると、絶対にそれらは保身のために避けなきゃならなくなる」
押井「つまり、僕らは自由意志によって自力で歩いているのではなく、互いに作用し合って、環境と共存を強制されて歩く……否、生きているってことになるんだ」
押井「だからね、アニメに現実世界をモチーフにした街があるってのは、オタクには凄い重要なんだ」 押井「画面の中に押し込められた筈の、自分が歩けない世界に、共存を強制されない“自由そうで不自由な世界”に…擬似的ではあるけど、入り込めるからね」
押井「多分、『ラブライブ!』が全くの作り物の世界観だったら、ここまで人気はでてないよ」
押井「…『ライブ!』を作って後悔したのは、後にも先にもその一点だけかな。僕はあまりにも、あれを僕の作品にしようという欲が出すぎたみたいだ」
石川「あの押井さんが反省してる…!」
西尾「…!」
押井「しかし、やはりサンシャインの世界線では2038年ぐらいが人口比の推移的には妥当な筈なのには変わりはないから、やっぱり原作アニメは好きになれないね」
石川「あはは…」
西尾「…」 その後、3人は堤防に並んで座って静かな海に目をやっていた。無言で、『ラブライブ!』を肌で、耳で、目で受信するために。
やがて、夕暮れ時になると、押井が呟く。
押井「ーーーサンライズさんの『ラブライブ!』というコンテンツの独占と商業的活動が激化すると、次第に他の連携会社の2社は離れていって、今では僕たちみたいな全くの無関係者がアニメを作るにまで衰退している」
押井「ラブライバーにとってのこの数年は特に激動の時代になってるみたいだよ。作り手たちの阿呆な戦争に巻き込まれて、どこに金を落としていいのか分かったもんじゃない」
石川「それはまぁ、声優さんだったりキャラクターなんじゃないんですか?」 押井「僕も『ライブ!』を作る前まではそう捉えてた。けど、このコンテンツに触れていくうちにね、僕にとっての……」
押井「…ラブライバーにとっての『ラブライブ!』って果たして何なのかって考えるようになっていったんだ」
押井「例えば、アニメ版とG'sマガジンではキャラクターの人物像は若干異なる。すると、とある疑問が生まれるんだ」
石川「疑問?」
押井「“どっちが本物なのか”……という具合に」
石川「……これまた押井さんらしい」 押井「だから、新曲は花丸ちゃんのソロ曲ではないけど、センターは花丸ちゃん。だから、あくまでも9人揃って歌って踊る描写はいるけど、それでも今までのPVとは違ったものにしたい」
押井「自分が何者なのか戸惑う花丸ちゃん。それを描きたい。たとえそれが、僕が描いて生み出した偽物の花丸ちゃんであっても。世界観が『ラブライブ!』ではないと蔑ろにされても、描きたいんだ」
石川「言ってることと行動が矛盾しまくりですね。周りにはラブライブらしく、自分はラブライブらしからぬ作品づくり…」
押井「嘘と本音、建前と言い訳は本質的には全部別物だよ」
石川「……最後はどうなさるんですか?」
押井「……花丸ちゃんはーーー」 2ヵ月後、Blu-rayBOXの発売決定と同時に、ネットの海にアップされた2本の『ラブライブ!』の新規PVに、数少ないラブライバーたちは熱狂した。 ひとつは、京極監督によるμ'sの「Snow halation」のリメイク版PVだ。
サンライズとサブリメイションによるCG最新技術をふんだんに使い、作画を第1スタジオに任せた、人気曲の進化と、サンライズによるアニメ制作の手腕を世間にアピールするものとなっている。 もうひとつは、押井監督によるAqoursの「マル、はじめまして!」の完全新作楽曲と、そのPVだ。
『ライブ!』同様に原作を無視した大胆な設定と世界観に最初は難色を示すラブライバーも決して少なくなかったが、『ラブライブ!』コンテンツにおける「公式二次創作」の筆頭として、コアなファンを集めることに成功した。
また、押井にしては『ラブライブ!』キャラを可愛く捉えていると、ある意味では好評が寄せられる事にもなった。
その人気ぶりに、一時は長編映画化も期待されたがーーーサンライズによる妨害と、同時期のプロダクションIGの経営不振によって、実現には至らなかった。 公開から、約2週間後。プロダクションIG事務所にて。
石川「ネットでは好評でしたよ。『ライブ!』以上に」
押井「…納得の完成度にはなった」
押井「不満が残るとすれば、やっぱり曲かな。歌詞から、畑さんの僕に対する皮肉と、花丸ちゃんに対する嫌悪がどうしても払拭できてなかった」
押井「高齢期障害だよあの人絶対」
石川「はぁ…そうなんですかね、よく分かりません」
押井「ま、僕は映像作る人間だからね、その辺はクソどうでもいいんだけど」 押井「僕はこれ、ラブライバーのためだとか、そういう気持ちもあったけど、心の底では『On Your Mark』へのアンチテーゼとして作った」
石川「あぁ…宮崎駿監督が、押井さんの『天使のたまご』への批判作として作ったって言う短編ですか」
押井「そ。アンチテーゼの、アンチテーゼ。実はそれも、今回のPVと同じで、どっかのグループのためのプロモーションフィルムとして作られたものなんだ」
石川「そうだったんですか」 押井「結局のところ、アニメ監督ってのはことごとく…こき使わるってことだよね」
押井「ただそれでも、良いものを提供する気持ちは変わらない」
押井「僕の屁理屈の押し付けだとしても、作品に変えて、環境って形で僕を塗り固めるファンに与えたい」 石川「ふふ…なんだか、『ラブライブ!』の制作をしてから、ほんの少しだけど変わりましたよね、押井さん」
押井「気持ち悪い事言うなって。僕が、こんな爺さんがこんなキモオタコンテンツなんかに感化される訳がない」
石川「…スクフェス、ランクは今いくつですか?」
押井「412」 石川「えっ」
押井「…もういいだろ、ほら、僕はこれから遠方で雑誌インタビューあるから。もう行く」
石川(ははは…馬鹿にするものに、どっぷりとハマって、アニメを作りあげる。すいませんでした、押井さん)
石川(押井さんは、確かに昔から変わってませんでしたね)
Fin おまけ
千歌「ねーねー花丸ちゃんっ!押井守監督って知ってる!?」
花丸「知ってるずら」
千歌「私ね、あの人の作品見たけど全然分からなかったんだ〜。花丸ちゃん、ちょっとだけでいいから教えてくれないかなっ?」
花丸「嫌。あの人の作品ほど薄っぺらいものはないずら。千歌ちゃんはもっと文学的で素晴らしい作品を知るべきずら!」
千歌「そーなのかなぁー。うん、よく分かんないけど、花丸ちゃんがそう言うならそうなのかも!」
花丸「そうそう、それでいいずら」
花丸「『スカイ・クロラ』は森博嗣の原作の方がずっと面白いずら」 >>12の最後で花丸の特徴をしっかり捉えていて草
おつおつ そういやパトレイバー脚本の伊藤和典は熱海に住んでるんだったな ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています