果南「Daydream Warrior」
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視界を埋め尽くすのは無限に広がる真っ白な空間。
この世界に存在するのは、ただ一つの黒い扉だけ。
その扉から私を呼ぶ声が聞こえる。
誰の声かは分からない、でも大切な人の声。
その声に惹かれるように私は扉に手を掛ける。
でも、扉はそれを拒むかのように静止し続ける。
どれだけの力で押しても、引いても、ビクともしない。
だから私は扉を開ける方法を必死に探している。
大切なあの子のところへ行くために。 ◇◇◇
千歌「果南ちゃん、朝だよ」
千歌「早く起きないと遅刻しちゃうよ!」ユサユサ
果南「んー……」モゾ
果南「後5分……」
千歌「もー!果南ちゃんそればっかり!」
千歌「毎回起こす方の身にもなってよー!」
千歌「早く早く!」ユサユサ
果南「分かったってばー……」モゾモゾ 果南「ふぁ……おはよ、千歌」
千歌「おはよう、果南ちゃん」
千歌「全く、果南ちゃんは私がいないとダメダメなんだから」ヤレヤレ
果南「じゃあ千歌がずっと一緒にいてくれれば安心だね」
千歌「…………」
果南「どうしたの?」
千歌「な、なんでもないよ///」
千歌「……どうしてそういうこと平気で言えちゃうのかな」ボソッ 果南「そうだ、今日の朝ごはんは何?」
千歌「…………」
果南「ん……?あれ……?」
果南「私の番……だっけ?」
千歌「うん。覚えててくれたみたいで嬉しいよ」ニコッ
果南「あ、あはは……」タラァ
果南「……パンでいい?」
千歌「今度パフェ奢ってね」ニコッ
果南「はい……」
ーーー
ーー
ー 果南「なんだか最近急に寒くなってきたよね」
千歌「うん。こんなに寒いと風邪ひいちゃうかも」
果南「千歌は大丈夫じゃない?なんとかは風邪ひかないって言うし」
千歌「あ、ひどーい!私がお馬鹿だって言いたいの!?」
果南「あっはは、冗談だよ」
果南「千歌の手はこんなにあったかいんだから風邪なんて引かないよ」ギュッ
千歌「それなら果南ちゃんも風邪ひかないよね」ギュッ
果南「それはどういう意味かなーん?」
千歌「ふーん、教えてあげない」
果南「もー、拗ねないでよ千歌」 千歌「誰のせいだと思ってるのさ」プクー
果南「ごめんって」
千歌「本当に悪いと思ってる?」
果南「思ってる思ってる」
果南「ほら、仲直りのハグしよ?」
千歌「……それ言えばなんでも許されると思ってるでしょ」
果南「そ、そんなことないよ?」
千歌「ふふ、全く、果南ちゃんはもー」ギュッ ダイヤ「……果南さん」
果南「あ、おはようダイヤ」
千歌「ダイヤさん、おはよう!」
ダイヤ「おはようございます。それで、校門前で何をしているんですの?」
果南「あはは……千歌がどうしてもハグして欲しいって言うから……ね?」
千歌「言ってないよ!というか果南ちゃんのせいでしょ!」
ダイヤ「……千歌さんもご一緒でしたか」
ダイヤ「おはようございます、千歌さん」 ダイヤ「授業が始まる前には教室に来るんですわよ」
果南「あれ、ダイヤ行っちゃうの?」
ダイヤ「ええ……朝からイチャイチャしている二人を見かけて暑くなって来てしまったので」
千歌「い、イチャイチャ!?」
果南「っ、そ、そんなことしてないって!」
果南「いつも通りにハグしてただけだし!」チラッ
千歌「っ///」
果南「ぅ……///」カァァ
ダイヤ「はいはい。ご馳走様です」
果南「ま、待ってよダイヤ!私も行くよ!」
果南「じゃあまた後でね、千歌!」
千歌「う、うん!またね、果南ちゃん!」 ーーーー昼休憩
果南「あー、やっと授業終わった」
果南「ダイヤ、ご飯にしよう」
ダイヤ「それくらい勉強にも積極的だといいんですけれどね」
果南「いやいや、体育の授業は積極的だよ?」
ダイヤ「他の科目もそうしてください」ハァ
果南「そういえば鞠莉の姿が見当たらないんだけど何か知ってる?」
果南「朝から見かけないなーとは思ってたんだけど」
ダイヤ「……さぁ。そのうち来るとは思いますが」 果南「そっか、じゃあ先に食べちゃおう」
ダイヤ「おや、今日は弁当ではないのですか?」
果南「うん。寝坊しちゃってさ、途中のコンビニで一緒に買って来たの」
果南「そのせいで千歌のお昼もコンビニになっちゃった」
果南「悪いことしちゃったなー」
ダイヤ「寝坊だなんて、少し腑抜けているのではありませんか?」
果南「耳が痛いなー」アハハ
果南「ま、でも千歌に起こしてもらえるし悪いことじゃないかもね」
ダイヤ「…………」 果南「?ダイヤ?どうかしたの?」
ダイヤ「……いえ、最近、果南さんは千歌さんのことをよく話しますよね」
果南「まあ小さい頃からの幼馴染だもん」
果南「私から見れば可愛い妹だし……話すことも多くなるよ」
ダイヤ「……そうですか」
果南「うん。やっぱり一緒にいて楽しいしね」
ダイヤ「それは私と一緒にいても楽しくないという意味ですの?」
果南「ち、違うって!」
果南「ダイヤや鞠莉といるのもすっごい楽しいよ!」
果南「ただえっと、千歌といるのも楽しいしって意味で……」 ダイヤ「ふふ、少し意地悪なことを言ってしまいましたね」クスクス
果南「……怒ってない?」
ダイヤ「当たり前ですわ。果南さんがそんな意味で言ってるのではないことくらい分かりますもの」
ダイヤ「ただ、私といるのにあんまりにも千歌さんのことを話すから少し妬いてしまったんです」
果南「ごめんって、ダイヤ」
ダイヤ「……私の前でならいいのですが、鞠莉さんの前ではあまり━━」
ガラッ
鞠莉「チャオ〜!お待たせ、果南、ダイヤ!」
果南「鞠莉!」 果南「もうお昼だよ、こんな時間まで何してたの?」
鞠莉「んーごめんごめん、いろいろあってね」
鞠莉「そんなことより早くランチといきましょう?」
果南「まあ話したくないならいいけど……あまんり無理はしないでよ?」
鞠莉「ありがとう。でも深刻なことじゃないから気にしないで」
鞠莉「というか果南、貴女お弁当は?」
果南「あー……実は寝坊しちゃって」
果南「でも明日は大丈夫だよ。なんたって千歌が作ってくれるんだから」
鞠莉「…………」 果南「鞠莉?」
鞠莉「え?ああ、うん、そう」
鞠莉「ちかっちのお弁当ね……楽しみにしてるわ」
果南「……あげないよ?」
鞠莉「いいじゃない、一口くらい!」
ダイヤ「ふふ、私も一口頂きたいですわ」
果南「ダイヤまで!」
鞠莉「それともちかっちの愛妻弁当は自分で食べたいのかしら?」
果南「あ、愛妻!?べ、別にそんのじゃないし……///」
鞠莉「ふふっ」クスクス 果南「もー、からかわないでよ鞠莉!」
鞠莉「ごめんごめん、果南の反応があんまりにもキュートだったから」
果南「全く……。はい、この話題おしまい!」
ダイヤ「それならなんの話題にするんですの?」
果南「んー……今日の練習メニューとかは?」
鞠莉「…………っ」
ダイヤ「…………」
果南「え?」 果南「二人とも……どうかしたの?」
ダイヤ「いえ……今日の練習はありませんよ」
果南「なんで?」
ダイヤ「みなさんの都合が悪いからです」
ダイヤ「鞠莉さんも学校絡みのことでいろいろ忙しいですし」
果南「そうなの?」
鞠莉「うん。ごめんね、果南」
果南「いや、別にいいんだけどさ……残ってるメンバーでできないの?」
ダイヤ「ええ。みんなの忙しい日が重なってしまっているみたいなんです」
ダイヤ「千歌さんも旅館のお手伝いがあるんですよね?」
果南「あー……そういえばそうだったっけ」
果南「それなら仕方ないか」
果南「じゃあ各自、自主練習ってことだね」
ダイヤ「……ええ、そうですわね」 ーーーー果南の部屋
果南「ふー、やっぱり夜のランニングは気持ちいいね」
千歌「もー、それに付き合わされる身にもなってよ」プクー
果南「あはは、いつも付き合ってくれてありがとう、千歌」
果南「千歌のおかげで私は寂しい思いをしなくて済むよー」ギュー
千歌「ちょっ、か、果南ちゃん///」
果南「あーもー可愛いなー千歌は」
千歌「もー!子供扱いしないで!」 果南「あはは、ごめんごめん」
果南「ダイヤとも少し話してたんだけどさ、やっぱり千歌は私の妹みたいだよね」
千歌「…………妹」
果南「あ、あれ?嫌だった?」
千歌「嫌じゃ……ないけど……」
千歌「……はぁ」
千歌「そうだよね、果南ちゃんだもんね」
果南「あれ、もしかして呆れられてる?」
果南「なんで?」 千歌「果南ちゃんももう少し成長したら分かるんじゃないかな」
果南「いやいや、私は千歌より年上だよ?」
千歌「まあいいけど。それで、ダイヤさんはなんて言ってたの?」
果南「特に何も……千歌の話をすると嫉妬しちゃったって」
千歌「ふーん……」
果南「あれ、なんだかご機嫌ななめ?」
千歌「私も嫉妬しちゃったもん」
果南「いやいや……」
千歌「果南ちゃんがもっとぎゅーってしてくれないと許してあげないもん」
果南「あはは、それなら今日はもう離してあげないよ」ギュゥゥゥ
千歌「……んっ」 果南「電気消していい?」
千歌「うん」
パチン
千歌「……果南ちゃん」
果南「なに?」
千歌「寒い……かも」
果南「はいはい」ギュー
千歌「えへへ」ギュー 果南「そういえば、明日は千歌のお弁当だって言ったらダイヤと鞠莉が食べたいって」
千歌「そうなの?それなら頑張って作らないとね」
果南「いや、別に気にしなくていいよ」
果南「千歌のお弁当は全部私が食べるんだからさ」
千歌「それじゃあもっと頑張って作らないと」
千歌「果南ちゃんには美味しいもの食べて欲しいもんね」
果南「ふふ、楽しみにしてるよ」
果南「じゃあ、明日も早いしそろそろ寝ようか」
果南「おやすみ、千歌」
千歌「うん、おやすみなさい、果南ちゃん」 ◆◆◆
真っ黒なキャンバスに散りばめられた光の砂。
お昼のさんさんとした情熱は眉をひそめ、空には満天の星が広がっている。
「綺麗……」
そう言って呟く千歌の横顔は、星よりも私のことを夢中にさせる。
「千歌の方が綺麗だよ」
自然と口から出た言葉に少しだけ恥ずかしくなるけど、それは紛れもない本心だ。
幸いなことに千歌は気付いていないようで、変わらずに空を見上げていた。
……前言撤回。やっぱり聞こえていたのかな。
千歌の耳元が、ほんのりと赤くなっていくのが分かる。 「……あんまり見られると、恥ずかしいんだけど」
ごめんごめん、と誤魔化すように視線を空へと向ける。
せっかく星を見に来たのに千歌に見惚れるなんて、私も少しだけ恥ずかしいかな。
「……本当に、綺麗だね」
今度はきちんと星を見上げながら。
天体観測が趣味じゃ無いとはいえ、有名なものくらいはきちんと分かる。
はくちょう座、わし座、こと座。
星をなぞって星座を見つけるのも結構楽しいかもしれない。
気付けば、私は目の前の光に夢中になっていた。
でも、隣にいる一番大きな光を消すことはできなくて。
「……ずっと一緒にいようね、果南ちゃん」
「……うん。ずっと一緒だよ、千歌」
握り返した温もりに、確かな繋がりを感じた。
◆◆◆ おもんない もう書かないでいいよ
1レスもついてないのが何よりの証拠 >>34
カボスに言われたらもうトドメ刺したようなものやな 果南ちゃんとプレデターウォリアーっていい勝負しそう レスが欲しいからって途中で止める無能SS書き
読んでほしけりゃ最後まで書いてからスレ立てろ 果南「楽しみだなー、千歌のお弁当」
千歌「もー、果南ちゃん朝からそればっかり!」
千歌「というかお弁当作るんだから朝のランニングは一人で行ってよ!」
果南「いやー、やっぱり日課だしさ」
千歌「千歌が行く理由になってないんですけどー?」ジトー
果南「あはは、千歌が一緒にいてくれるおかげでランニングが楽しいよ」
千歌「……昨日寝坊したくせに」ボソッ
果南「うっ……」 千歌「まあいいんだけどさ……これ絶対授業中に寝て怒られるやつだよ……」
果南「その時は曜か梨子ちゃんに起こしてもらいなよ」
千歌「寝たら起こしてねって?」
果南「うんうん」
果南「こういう時こそ友達の力を借りないと」
千歌「……曜ちゃんは一緒になって寝ちゃいそうな気がする」
果南「あはは、私もそれ思った」
果南「じゃあ梨子ちゃんにお願いするしかないね」 果南「お、噂をすればなんとやらじゃないの?」
千歌「え?あ、本当だ!おーい!梨子ちゃーん!」ブンブン
千歌「…………あれー?」
果南「おやー?もしかして千歌、何か梨子ちゃんを怒らせることしたんじゃないの?」
千歌「むー!そんなことしてないよ!」
果南「あはは、冗談だって」
果南「ここからじゃ遠すぎるんだよ」
果南「少し走ろっか」 果南「おーい!梨子ちゃん!」
梨子「?果南さん?」
果南「あはは、背中見かけたから走っちゃった」
果南「梨子ちゃん、千歌が呼んでも気付かなかったからさ」
千歌「そうだよー!もうこれにはかんかんだよ!」
果南「いやあそこで気付いてもらおうとする千歌も悪い」
千歌「ええっ!?」
梨子「……そうだったんだ。ごめんね、千歌ちゃん」
千歌「えっへん!許してあげるのだ!」
果南「なんで偉そうに言ってるのさ」ペシッ
千歌「あてっ」 梨子「……二人とも、相変わらず仲がいいですよね」
果南「まあ幼馴染だからね」
果南「というか、梨子ちゃんも千歌と仲良しでしょ?」
千歌「もちろんだよ!ねー、梨子ちゃん?」
梨子「…………」
千歌「あ、あれ……?」オロオロ
果南「……梨子ちゃんになにしたのさ」ヒソヒソ
千歌「な、何もしてないよぉ……」ヒソヒソ
果南「梨子ちゃん、どうかしたの?千歌が何かしちゃった?」
梨子「え?あ、いえ……すいません、ボーとしちゃって」
梨子「千歌ちゃんとは……ずっと仲良しだよ」
千歌「よ、良かった」ホッ 果南「あはは、ちょっとびっくりしちゃったよ」
梨子「ごめんなさい……最近仲良しのはずの千歌ちゃんを取られちゃってるから意地悪しちゃった」
果南「……あれ、もしかして少し悪者扱いされてる?」
梨子「さあ、どうでしょう」クスッ
梨子「千歌ちゃん、教室だと果南さんの話ばっかりしてるから」
千歌「ちょ、梨子ちゃん!」
千歌「してない!全然してないから!」
果南「そんなにムキになって否定しなくても……」 梨子「本当に……千歌ちゃんはいつも元気だよね」
果南「それだけが取り柄だからね」
千歌「かーなーんーちゃーんー?」
果南「あはは、冗談だって」ポンポン
千歌「むー……」
果南「それより、梨子ちゃんはなんだか元気が無いように見えるけど……どうかしたの?」
梨子「そんなことないですよ」
梨子「私なんて……曜ちゃんに比べ……」ハッ
果南「曜?」 梨子「……すいません、そろそろ教室に行きますね」
果南「え?あ、ちょっと、梨子ちゃん!」
梨子「……果南さん」
梨子「曜ちゃんには、会いに行かないでください」
果南「え、なん──」
千歌「ちょ、梨子ちゃん!?」
千歌「ごめん果南ちゃん!私も行くね!」
果南「う、うん……」
ーーー
ーー
ー 果南「…………」
ダイヤ「どうしたんですの?難しい顔をして」
果南「あ、いや……」
果南「今朝、梨子ちゃんと会ってさ」
ダイヤ「梨子さんと……」
ダイヤ「それで、何を話したんですの?」
果南「別にこれといって……挨拶みたいなものだよ」
果南「でも、その時言われたんだよね」
ダイヤ「なんと?」
果南「曜に会わないで欲しいって」
ダイヤ「……そう、ですの」 果南「どうしてだろう……私、何か曜を怒らせるようなことしたのかな?」
果南「それなら直接会って謝りたいんだけど」
ダイヤ「……いえ、怒らせたりはしていないですわ」
ダイヤ「曜さんは今体調が悪くて学校を休んでいると聞いています」
ダイヤ「果南さんがそのことを知ればお見舞いに行くと思ったんじゃないですか?」
果南「そうだったんだ……でもなんでお見舞いに行ったらダメなの?」
ダイヤ「それは……」
鞠莉「ちょっとダイヤ!そんな言い方じゃ鈍感な果南には伝わらないわよ!」 果南「え?鈍感?何が?」
鞠莉「いい、果南?絶対曜のところに行っちゃダメよ?」
果南「いや、だからなんで?」
鞠莉「最近梨子が放課後すぐに帰るの……なんでだと思う?」
果南「知らないけど……」
鞠莉「曜の家にお見舞いに行ってるの!」
果南「え、そうなの?それなら今日ついて行こうかな」
果南「今ならまだ教室にいるよね?」
鞠莉「…………」
果南「あれ、なんで無言?」 鞠莉「ここまで言ってもわからないなんて果南には失望デース」
果南「いやいや、全然説明されてないから」
鞠莉「もー!本当に鈍いわね!」
鞠莉「梨子は曜と二人きりになりたいってことなの!」
果南「……え?」
果南「ええっ!?そうだったの!?」
果南「知らなかった……まさか梨子ちゃんが曜のことを……」 ダイヤ「一応言っておきますけど、あくまでも鞠莉さんの妄想ですからね」
鞠莉「ひっどーい!的確な推理よ!」
鞠莉「だいたいお見舞いの話は本当じゃない!」
果南「あー……なんだびっくりした」
果南「梨子ちゃんのことだし、みんながわいわい押しかけると曜が休めないって思ってるのかもね」
果南「それなら今日は千歌と一緒にランニングかなー」
果南「じゃあ私も帰るよ、またね」
鞠莉「シ〜ユ〜」ヒラヒラ
ガラガラ
パタン ダイヤ「……鞠莉さん」
鞠莉「どうしたの、ダイヤ?」
ダイヤ「私たちは……このままでいいんでしょうか」
ダイヤ「きっとこのまま行けば……誰も幸せにはなれません」
鞠莉「……そうね」
鞠莉「もう少し、早く動いてたら違ったのかな」
鞠莉「ちかっちよりも先に……私か……ダイヤが……」
ダイヤ「鞠莉さん……」
鞠莉「なんて、過去のことを悔やんでもしょうがないわ」
鞠莉「今は……先のことを考えましょう、ダイヤ」
ダイヤ「……ええ」
ーーー
ーー
ー 果南「今日も一日楽しかったなー」
果南「千歌ー!帰ったよー!」
シーン
果南「……あれ?」
果南「千歌ー?いないのー?」
果南「おっかしいなぁ……」
果南「先に来てるって連絡があったのに」
ガチャ
果南「私の部屋には……と」
果南「…………」
果南「…………」フスマスパン
千歌「あ……」
果南「やっぱりここか」ハァ 千歌「あはは、バレちゃった」
果南「バレるも何も……千歌のいる場所はここしかないでしょ?」
果南「何かある度にいつもここに隠れてたもんね」
千歌「そうだったね……」
果南「一番最初はお姉ちゃんに叱られた時だったっけ」
果南「私が部屋で遊んでたら、押入れからすすり泣きが聞こえてきて凄いびっくりしたんだから」
千歌「あの時はお姉ちゃんに見つかりたくない気持ちで必死だったから」
果南「だからって私の部屋に隠れるかな普通」クスッ
千歌「他に思いつかなかったんだよね」シミジミ 果南「あの時は本当に困ったよ」
果南「恐る恐る襖を開けたら千歌が泣いてて……私に見つかったら更に泣き出したんだもん」
果南「宥めるのに凄い苦労したなぁ」
千歌「えへへ、あの時のことはまだ覚えてるよ」
千歌「泣いてた私をずっと抱き締めててくれたもんね」
果南「他に何をしたらいいかわかんなかっただけだよ」
千歌「そんなことないんだけどなぁ」
千歌「『千歌のことは私が守ってあげるから、泣き止んで』って言ってくれたから私は安心できたんだよ」
果南「い、言ったっけそんなこと……」
千歌「ちゃーんと覚えてるよ」 果南「あー……もしかしてそのせいで毎回?」
千歌「うん。千歌は果南ちゃんの部屋に逃げ込むようになったのだ!」
果南「毎回私の部屋に来るもんだから途中から私が攫ってるんじゃないかって疑われたこともあったよね」
千歌「あはは、あの時の果南ちゃんカッコよかったよ」
千歌「私を庇おうとして『千歌を虐める悪者から助けだしてるだけ!』ってお姉ちゃんに言ってたもん」
果南「あー……言った気がする」
果南「凄い困らせちゃってたよね……うん」
千歌「でも、私は嬉しかったよ」
千歌「果南ちゃんは……何があっても私の味方なんだなって思えて」ギュッ 果南「眠くなってきた?」
千歌「うん、少し」
千歌「やっぱり果南ちゃんといると安心できるな」
果南「褒めてもハグしかでないよ?」
千歌「それがご所望なのである」エッヘン
果南「はいはい」ギュッ
千歌「……あ!明日のこと忘れてないよね?」
果南「覚えてるよ。明日は午後から学校は休みだし……そこからパフェでしょ?」
千歌「……そこはデートって言うところだよ?」プクー
果南「あはは、ごめんごめん」
千歌「ちゃんとエスコートしてね?」
果南「はいはい」クスクス ◆◆◆
「果南ちゃんのことが、好き」
そんな千歌の告白に胸が高鳴るのを感じる。
放課後の教室。夕陽を背にした千歌の表情は太陽にも負けないくらい真っ赤になっていた。
千歌は私のことが好き。
友達やお姉さんとしてではなく、恋人になりたいという意味で。
いきなりの告白に戸惑いはあるけど、それよりも嬉しさの方が優ってるのかな。
千歌にこんなに好きになってもらえたんだから。 「果南……ちゃんは?」
私はどうなんだろう。千歌のことが好きかと言われたら好きだ。
でも、それが恋なのか、それとも幼馴染だからなのか分からない。
……いや、本当に、分からないのかな。
自信なさげに私を見つめる千歌を見てもう一度考え直す。
千歌の告白は嬉しかった。
もし付き合うことになったら、ずっと一緒にいられるのかな。
そう考えただけで……なんでだろう、胸の奥がぽかぽかしてきちゃう。
ああ、なんだ。やっぱりそうだったんだ。
「私も━━━━」
◆◆◆ 果南「……夢かぁ」
果南「ま、そうだよね……ってなんで残念がってるんだろう」
千歌「…………くぅ」スヤスヤ
果南「全く……可愛いなぁ、千歌は」
果南「本当に千歌に告白されたら……どうするんだろう」
果南「……なんて、考えても仕方ないか」
果南「ほら、起きて、千歌!」 千歌「んー……」モゾモゾ
千歌「後5分……」クゥ
果南「だーめ!ほら、ランニングいくよ!」
千歌「やだ!まだ寝るの!」
果南「はいはいわがままいわないの」ガバッ
千歌「ぅぅ……果南ちゃんのケダモノぉ……」
果南「ほら、太陽がおはようって言ってるよ!」
千歌「まだ真っ暗じゃん!!」
千歌「もー!この運動大好きすっぽこぽん!」
ーーー
ーー
ー キーンコーンカーンコーン
果南「午前中で終わるとなんだか得した気分だよね」
鞠莉「ザッツライト!授業よりも遊んでた方が有意義よね!」
ダイヤ「それが理事長の台詞ですか」ハァ
鞠莉「いいじゃない、たまには息抜きしたい時だってあるのよ」
ダイヤ「鞠莉さんの場合はいつもそうでしょう」
果南「確かに鞠莉はもう少し真面目にやらないとね」ウンウン
鞠莉「あー!ひっどーい!」
鞠莉「こう見えてもやるときはちゃんとやるんだからね!」プンプン
果南「分かってるって」アハハ 鞠莉「というか、ダイヤがカッチーンすぎるのよ!」
ダイヤ「なんですかカッチーンって」
鞠莉「ダイヤも高校生らしく遊んだ方がいいってこと!」
鞠莉「あ、そうだ!せっかくだしこの後3人で遊びましょう!」
鞠莉「久し振りにお茶会もいいわよね」
ダイヤ「そうですね。たまには三人で遊びに行くのもいいですわ」
鞠莉「もっちろん果南もいいわよね?」
果南「あーごめん!この後千歌と約束があって」
鞠莉「っ……」
ダイヤ「!」 鞠莉「……果南、別の日にずらせたりしない?」
果南「うん。流石に当日変更は千歌に悪いよ」
ダイヤ「で、では……少しだけでも」
果南「その間千歌に待ってもらわないといけないから駄目」
果南「というか、別に今日に拘る必要ないでしょ?」
果南「また今度やろうよ」
鞠莉「今度って……」
果南「え?」
鞠莉「……ごめん、なんでもないわ」
鞠莉「ま、ちかっちとのデートならしょうがないわね」
果南「デートじゃないって、全く」
果南「じゃあそろそろ行くよ」
鞠莉「ええ、ちかっちによろしくね」
パタン 鞠莉「あはは……振られちゃったわね」
ダイヤ「……鞠莉さん」
鞠莉「どうするダイヤ、せっかくだし私たちもデートする?」
鞠莉「うんと美味しいケーキをご馳走するわよ」
ダイヤ「……でしたらお言葉に甘えますわ」
ダイヤ「こう見えても甘いものは大好きですので」
鞠莉「知ってるわよ、幼馴染なんだから」
鞠莉「……だいたいのことは、ね」
ーーー
ーー
ー 梨子「…………」
ガラッ
果南「ここかなー?」
梨子「果南さん……?どうしたんですか?」
果南「あ、梨子ちゃん」
果南「千歌を探しに来たんだけど……教室にいない?」
梨子「……千歌ちゃんなら、さっき果南さんを探しに出て行きましたよ」
果南「あちゃー……行き違いかー」
果南「ありがとう、探してみるね」 果南「そうだ、梨子ちゃん」
梨子「どうしました?」
果南「曜のことなんだけど」
梨子「……曜ちゃんが、何か?」
果南「いや、梨子ちゃんがお見舞いに行ってるって話を聞いてさ」
果南「どんな様子か気になって」
梨子「……少しずつ元気になってます」
果南「そっか。それなら良かった」
果南「じゃあまた明日……あ、今日は金曜日か」
果南「また来週ね、梨子ちゃん!」
梨子「……はい」 キョロキョロ
果南「何処行っちゃったんだろうな千歌」
果南「屋上にもいないし……あ!」
果南「千歌ー!」
千歌「あ、果南ちゃん!」
果南「結構探したんだよ」
千歌「私も探してたんだよ」
千歌「果南ちゃんがいると思ってみかん畑まで見に行ったし!」
果南「それが原因で見つからなかったんでしょ」ペチッ
千歌「あてっ」 果南「まあいいや。それじゃあ……」
千歌「?どうしたの?」
果南「あ、いや、近くだし少し部室を覗いて行こうかなって」
果南「なんだか最近あんまり行ってない気がして」
千歌「みんないろいろあるからねー」
果南「こういう時こそ自主練が大事なんだよ」
果南「そうすれば休みのブランクも埋められるし」
果南「よーし、千歌!今から私たちも──」
千歌「果南ちゃん?」ニコッ
果南「じ、冗談だよ……あはは……」 千歌「全く……果南ちゃんはもう少し乙女心を理解しないとだめだよ」
果南「……一応私も乙女なんだけど」
千歌「まあ果南ちゃんだから仕方ないか」ウンウン
果南「なんだか失礼なことを言ってない?ねぇ?」
千歌「誰かいるかなー」
果南「ちょっと千歌ー!」
果南「……ん?」
千歌「あ!電気付いてる!」
果南「誰がいるんだろう」 ガラッ
果南「おはよー」
善子「!」
花丸「あっ……」
ルビィ「果南ちゃん……」
千歌「果南ちゃん……今はお昼だよ」
果南「そうだった……朝練の癖でつい」アハハ
花丸「どうかしましたか?」
果南「ああ、近くに来たから寄ってみただけだよ」
果南「三人は自主練?」
善子「うん……まあね」 千歌「善子ちゃん?元気ないけどどうかしたの?」
果南「確かに。何かあったの?虐められたとか?」
善子「別に何もないわよ」
花丸「善子ちゃんは授業中に居眠りがバレて、たーっくさん宿題出されたから落ち込んでるずら」
善子「……してないわよ」
善子「あと、善子じゃなくて……ヨハネ」
果南「あー……」
千歌「果南ちゃん、これは触れてあげない方がいいやつだよ」ヒソヒソ
果南「確かに……多分よっぽど怒られたんだろうね」ヒソヒソ
善子「怒られてないわよ!」 果南「可愛い後輩たちも見られたしそろそろ行こっか、千歌」
千歌「…………」
果南「千歌?」
千歌「果南ちゃんはすーぐそうやって……まあいいけど……」ブツブツ
ルビィ「これから何処かに行くんですか?」
果南「うん。千歌と一緒に遊びに……いたっ!」
千歌「…………」ムスー
果南「あはは……で、デートに行く予定なんだよね」
ルビィ「……そうですか」
果南「……?どうかした?」
ルビィ「いえ……最近、お姉ちゃんと果南さん……一緒にいないなって」 果南「あー……そういえば最近あんまり遊んでないなー」
果南「今日も千歌との約束あったから断っちゃったし」
千歌「……行きたいなら行ってもいいんだよ?」
果南「あはは、とか言って行ったら怒るくせに」
千歌「果南ちゃんは人気者だからしょうがないもん」
果南「はいはい拗ねないの」ツンツン
果南「今日のデート、うんと楽しくするからさ」ニコッ
千歌「……う、うん///」 果南「じゃあまたね、三人とも」
善子「あっ……」
果南「?どうしたの?」
善子「……なんでも、ないわ」
善子「またね」
果南「うん……?」
千歌「じゃあねー!」
花丸「結局惚気に来ただけずら……」
ルビィ「あはは……」
パタン 果南「練習が無いのに自主練か……ふふ、しかも一番下の後輩が」
果南「私たちも負けてられないね、千歌」
千歌「うん!」
千歌「こんなにみんな頑張ってるんだもん……絶対優勝しなくちゃね!」
果南「そうだね。次のラブライブの開催も決まったし」
果南「よーし、今から」
千歌「果南ちゃん、すぐにバスが来るよ?」ニコニコ
果南「う、うん……」 ププー
千歌「あ、来た!」
千歌「果南ちゃん、乗るよ!」
果南「はいはい……」
果南「…………」
千歌「果南ちゃん?」
千歌「おーい?」
果南「え……?」
プシュー
千歌「あ!待って!乗ります!」
ゴゴゴ
千歌「……行っちゃった」
千歌「もー!果南ちゃんどうしたの!」
果南「いや、えっと……あー、自転車で行かない?」 千歌「自転車?」
果南「うん。学校に一台置いてあるんだよね」
千歌「いや……そうじゃなくて、なんで自転車なのかなって?」
千歌「最近ちょっと寒くなってきたし……」
果南「千歌と一緒なら寒くないって」ニコッ
千歌「……もー……すーぐそうやって///」
果南「ほら、行くよ千歌」ギュッ
千歌「……うん」ギュッ
ーーー
ーー
ー 果南「まずは何処いこっか?」
果南「少し遅いけどお昼にする?」
千歌「果南ちゃーん?今日の目的忘れてませんかー」プクー
果南「美味しいデザート食べに行くんでしょ?」
千歌「そうだよ!それなのに今からお腹いっぱいにしたらだめでしょ!」
果南「あーそっか」
果南「じゃあそこのお店行こうか」
千歌「むー……」プクー 果南「あれ?どうしたの千歌?」
千歌「ふーん」
果南「あれ、千歌?おーい?」
千歌「もう果南ちゃんなんて知らない」プイッ
果南「ええっ!?なんで!?」
千歌「乙女なんだから自分で考えてみてよ」
果南「そんなこと言われても……うーん」
千歌「…………」
果南「……は、ハグ……しよ?」
千歌「…………」
果南「…………」ハラハラ
千歌「はぁ……」
ギュッ 千歌「本当に……果南ちゃんはもぅ」ギュー
果南「ご、ごめんね……千歌?」
千歌「怒ってないよ」
千歌「でもさ、せっかくのデートなんだからすぐに終わらせたくないの」
果南「そういうものなの?」
千歌「……果南ちゃんは千歌と一緒にいたくないの?」プクー
果南「そんなことないって!」
果南「私はずっと千歌と一緒にいたいよ!」
千歌「っ……///そ、それならいいんだけどさ……///」 千歌「とにかく……まずはお散歩しながらいろんなところに行くの」
千歌「途中で疲れて来たらお店に入って休憩」
千歌「分かった?」
果南「うん、分かった」
果南「それじゃあ行こうか」テツナギ
千歌「っ……///」
果南「千歌?どうしたの?」
千歌「な、なんでもない……///」
千歌「…………えへへ」ギュゥ ーーーーカフェ
千歌「いっぱい見て回ったね」
果南「そうだね。満足した?」
千歌「うん!お揃いの服も買えたもん!」
千歌「果南ちゃんは?」
果南「私は千歌と一緒にいられるだけで満足だよ」
果南「こうやって何処かに出かけるのは久し振りな気がするし」
果南「千歌とのデート、凄く楽しいよ」ニコッ 千歌「わ、私も……楽しい……もん///」
果南「それなら良かった」
千歌「果南ちゃんは……デートって思ってくれてたんだ?」
果南「あれだけ念を押されたらね」
果南「まあ他の人からみたら姉妹に見えてるかもしれないけど」
千歌「それは千歌が子供っぽいって言いたいの?」プクー
果南「そんなに膨れないでよ、千歌」
千歌「はいはい、果南ちゃんは頼れるお姉さんですよーだ」プクー
果南「もー、今から楽しみにしてたパフェ食べるんでしょ?」
千歌「果南ちゃんがあーんしてくれたら機嫌が直るかもしれませんねー」プクー
果南「はいはい、分かったってば」 果南「すいません、注文いいですか?」
「はい。何になさいますか?」
果南「千歌、どれにするの?」
千歌「これ!」ビシッ
果南「……これかぁ」
千歌「……じー」
果南「はいはい」クスクス
果南「えっと……『恋人パフェセット』を一つお願いします」
果南「飲み物はオレンジジュースで」
「……申し訳ありません、そちらのメニューはカップル限定でして」
千歌「え?」 果南「注文できないんですか?」
「決まりになりますので……申し訳ありません」
果南「でも……」
千歌「果南ちゃん!」
果南「千歌……」
千歌「私は大丈夫だから……ね?」
千歌「えへへ、千歌はこっちのパフェも食べてみたかったのだ!」
千歌「果南ちゃんはこっちで、半分こね!」
果南「……うん」
果南「すいません、じゃあこれと、このパフェをお願いします」
果南「飲み物はオレンジジュースを二つで」
「かしこまりました」
ーーー
ーー
ー 千歌「パフェ美味しかったねー」
千歌「いやー、やっぱり生クリームの美味しさは犯罪だよね」ウンウン
千歌「これで上にみかんが乗ってたら文句なしだったんだけど」
果南「…………」
千歌「果南ちゃん?どうしたの?」
果南「ごめんね、千歌」
千歌「……なんで果南ちゃんが謝るの?」
千歌「仕方ないよ。お店の人は、私たちがカップルじゃないって思ったんだから」 千歌「……ねぇ、果南ちゃん」
千歌「そんなに……恋人に見えないかな?」
千歌「ただの仲のいい姉妹に……見えるのかな?」
千歌「普通の私と果南ちゃんじゃ……釣り合いが取れてないのかな?」
果南「そんなことない!」
果南「私は千歌の良いところをたくさん知ってる」
果南「千歌の魅力をたくさん知ってる」
果南「だから、自分のことを悪く言わないで」
千歌「……ありがとう、果南ちゃん」 千歌「よーし!いつまでも落ち込んでたらだめだよね!」
千歌「まだ果南ちゃんとのデートは終わってないんだし!」
千歌「はい、じゃあ次の目的地は何処ですか車掌さん!」
果南「何そのテンションは」クスッ
果南「それじゃあ……とっておきのところを紹介しちゃおうかな」
千歌「とっておきのところ?どこなの?」
果南「それは行ってからのお楽しみだよ」
果南「ただ夜じゃないとダメだから、一度家に帰らないとね」
千歌「はーい!果南ちゃん号しゅっぱーつ!」
果南「はいはい」
ーーー
ーー
ー 千歌「ここは……砂浜?」
果南「うん。私のとっておきの場所だよ」
千歌「とっておき?」
果南「そう、とっておき。多分そんなに知ってる人はいないはずだし……私が教えるのは、千歌が初めてだよ」
千歌「なんでそんなところに?」
果南「うーん……なんでだろう」
果南「まあパフェを食べさせてあげられなかったお詫び……かな?」
千歌「……それだけ?」
果南「あはは、どうだろうね」 千歌「まあ、そういうことにしておいてあげるのだ」
千歌「それで、どの辺がとっておきなの?」
果南「それは……上を見ればわかるよ」
千歌「上?……わぁっ!」
果南「どう?とっておき、って感じでしょ?」
果南「ここからなら凄く綺麗に星が見えるんだもん」
千歌「……うん。本当に……凄い」
果南「ほら、立ちながらもなんだし座って見よう?」 千歌「…………」
果南「…………」
千歌「綺麗、だね」
果南「…………」
果南「千歌の方が綺麗だよ」
千歌「…………」
果南「…………」
千歌「…………っ///」カァァァ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 果南「ふふっ」
千歌「……あんまり見られると、恥ずかしいんだけど」
果南「ごめんごめん」
千歌「別にいいんだけどさ……なーんでそういうこと言っちゃうかな」ブツブツ
果南「いやー……ふっと出てきたから、かな」
千歌「……そういう不意打ち、禁止」
果南「善処するよ」アハハ
千歌「もー!今は星を見にきてるんだからあっち向いて!」
果南「はいはい」クスクス 千歌「笑ってないでちゃんとお星様の説明して」プクー
果南「いやー全くわかんない」
千歌「かーなーんーちゃーんー?」
果南「あはは、冗談だよ千歌」
果南「こういう時のために……じゃん!」
千歌「星座早見盤?」
果南「うん。これがあると分かりやすいんだよね」
果南「えーと……時間を合わせて……向こうにはくちょう座が……」
果南「あれ?」
千歌「果南ちゃん、今は秋だよ?」
果南「あ、本当だ間違えてた」
千歌「おっちょこちょいなんだから」クスッ 果南「あの辺にあるのがペガスス座だよ」
千歌「あっちの方の……どれ?」
果南「こんな形になってるやつ」
千歌「これかぁ……あ、見つけた!」
果南「後はアンドロメダ座とか……ここなら全部見つけられそうだね」
千歌「えへへ、こんな素敵な場所に連れてきてくれてありがとう」
果南「どういたしまして」
千歌「……鞠莉ちゃんや、ダイヤさんにもここは教えてないの?」
果南「うん、千歌だけだよ」
千歌「……そっか」 千歌「ま、でもどうせ果南ちゃんのことだしデートしたよーとか言って場所まで話しちゃうんでしょ」
果南「流石にそんなことは……ないんじゃないかなぁ」
千歌「ま、いいんだけどね」
千歌「初めてが千歌なだけで嬉しいから」エヘヘ
果南「私も千歌が喜んでくれるなら嬉しいよ」
千歌「もー、果南ちゃんは千歌のことが好きすぎるんじゃないですかー?」
果南「ふふ、かもしれないね」
千歌「…………」
果南「…………」
千歌「……ずっと一緒にいようね、果南ちゃん」
果南「……うん。ずっと一緒だよ、千歌」 ◆◆◆
真っ白な肌に混じった日焼けの跡。
恥ずかしそうに視線を左右へ動かす千歌を安心させるためにそっと肩に手を伸ばす。
「……っ!」
びくり、と千歌の体が小さく跳ねる。
緊張のせいかだろうか、千歌の体は震えていた。
「千歌……怖いなら、止めよう?」
その言葉を否定するかのように千歌は左右へと首を振る。
恐る恐ると視線を合わせ、潤んだ瞳が私を捉える。
「……果南ちゃんと、一つになりたい」 千歌の言葉に体の芯が熱くなるのを感じる。
妹のような存在だと思っていた千歌は、知らないうちに成長していた。
その吐息も、動作も、体つきも、全部が私の脳を甘く揺さぶる。
ぎしり、とベッドを軋ませて千歌をそっと押し倒しす。
熟成したソレは私の手のひらでは収まりきらないほど大きくて、柔らかい。
「んっ……」
千歌の吐息が漏れだす度に徐々に理性が溶かされていく。
ああ、だめだ。もう我慢できない。
きっと、私はすぐに溺れてしまうだろう。
◆◆◆ 果南「…………」パチリ
果南「…………」ムクリ
果南「…………」
果南「い、今の夢って……あれだよね……」
果南「ち、千歌と初めてをしようと……」
千歌「んー……」モゾッ
果南「っ!?」
果南「……外で頭冷やしてこよう」 バタン
果南「あー……まさかあんな夢を見るなんて」
果南「欲求不満じゃないとは思うんだけど」
果南「しかも相手が千歌だなんて……はぁ」
果南「……嫌じゃないから、困るんだよね」
果南「朝どんな顔して千歌を起こせばいいんだろう」
果南「……なんて、悩んでても仕方ないか」
果南「よーし、気持ちを切り替えてランニングに行こっと」
果南「千歌ー!ランニング行くよー!」
ーーー
ーー
ー 千歌「昨日あんだけ動いたのに今日も走るなんて……」
果南「毎日の積み重ねって大事だよね」
千歌「もー!私は果南ちゃんと違って繊細な乙女なの!」
果南「いや、だから私も乙女だって」
千歌「乙女は真夜中に起きて走らないよ!」
果南「真夜中じゃなくて朝だから問題ないって」
千歌「同じじゃん!毎日睡眠不足でくたくだだよ!」
果南「そのうち慣れるって」アハハ 千歌「こうなったら……ん!」
果南「どうしたの?」
千歌「おんぶ!」
果南「え?」
千歌「果南ちゃんのせいで疲れたから歩けない!学校までおんぶ!」
果南「……いや、それはちょっと恥ずかしいかな」
千歌「じゃあずっとここにいる!」プクー
果南「一限目までには学校に来るんだよ」スタスタ
千歌「あー!この薄情者ー!」
果南「あはは、ちょ、ぺしぺししないでよ千歌」 千歌「うー……今のでまた疲れた……」
果南「疲れにくくなるいい方法あるけど聞く?」
千歌「いい。どうせランニングして体力をつけようとか言うんでしょ」
果南「おお、よく分かったね」
千歌「本当にそれが答えだなんて信じたくなかったよ……」
千歌「もう明日からは走らないからね!」
果南「とか言って一緒に走ってくれる千歌が好きだよ」
千歌「そ、そんなこと言っても騙されないんだから……///」 果南「……ん?」
千歌「どうしたの?」
果南「いや、あそこにいるのって」
千歌「あ、梨子ちゃん!それと……」
果南「曜……だよね?」
果南「なんだか梨子ちゃんに支えられてるみたいだけど大丈夫なのかな……」
千歌「……あんまり、大丈夫じゃなさそう」
果南「そうだよね……声掛けてみようか」 梨子「曜ちゃん、辛くない?」
梨子「こんなに歩くのも久しぶりだもんね」
梨子「もう少し私に体重を掛けてもいいよ?」
曜「…………」
梨子「……大丈夫。私がいるから」
梨子「曜ちゃんは一人じゃないんだよ」
曜「…………」
梨子「無理はしなくていいから」
梨子「だから、もし何か━━━━」
果南「梨子ちゃん!曜!おはよう!」
千歌「おはよう、二人とも!」
梨子「っ!?」ビクッ 梨子「か、果南……さん……」
果南「どうしたの、驚いた顔━━」
梨子「来ないで!」
果南「え?」
千歌「り、梨子ちゃん……?」
果南「い、いきなりどうしたの?」
果南「来ないでって……私、何か……」
梨子「お願いだから……こっちに来ないでください……」
果南「……梨子ちゃん」
梨子「……っ、ごめんなさい」
梨子「行こう、曜ちゃん」 果南「……千歌、私何かやっちゃったのかな?」
千歌「……わかんない」
千歌「でも、さっきの梨子ちゃん、凄く必死そうだった」
果南「学校で何かあったとか……知らない?」
千歌「うん……全然、そんな素振りも見てないから」
果南「そっか……」
果南「曜がいたことと、何か関係あるのかな」
果南「前に曜に会わないでって言ってたし」
果南「もしできたら、梨子ちゃんな上手く聞いてくれないかな?」
千歌「うん。できたらやってみるね」
千歌「じゃあまた後でね、果南ちゃん」 鞠莉「学校、連れてきたのね」
梨子「鞠莉さん……」
曜「…………」
鞠莉「さっきの見てたけど……あそこまでする必要があった?」
梨子「ここで話す内容じゃないと思います」
鞠莉「……そうね。ごめんなさい」
鞠莉「じゃあまた後でいろいろ教えてもらえるかしら?」
梨子「わかりました」 鞠莉「……梨子」
梨子「なんですか?」
鞠莉「その道は、絶対辛いわよ」
梨子「鞠莉さんたちほどじゃあまりせん」
鞠莉「……ふふ、これは一本取られたかしら?」
鞠莉「分かってるようならいいわ」
鞠莉「何か力になれることがあるなら協力するから言ってね」
梨子「はい……ありがとうございます」 ーーーー昼休憩
梨子「曜ちゃん、お昼ご飯食べられそう?」
曜「……少しだけなら」
梨子「じゃあ好きなのだけ食べて」
梨子「残しても大丈夫だから」
曜「……うん」
梨子「はい、これ箸」
梨子「お弁当は私が作ったんだよ」
梨子「曜ちゃんの好きなハンバーグも入ってるから」
曜「…………」
梨子「……今日の授業大丈夫だった?」
梨子「分からないところは教えてあげるからいつでも聞いてね」
曜「…………」
曜「……ごめんね、梨子ちゃん」 梨子「謝らなくていいよ」
梨子「私が好きでやってるんだから」
曜「…………」
梨子「こうして学校で一緒にお弁当食べるのも、久しぶりだよね」
梨子「どう?美味しい?」
曜「……うん」
梨子「良かった」
梨子「何か食べたいものがあったら言ってね」
曜「……ありがとう」
梨子「ううん、このくらい……ね」 曜「…………」
梨子「?どうかしたの?」
曜「……ううん。ちょっとトイレに行ってくるね」
梨子「じゃあ私も……」
曜「一人で行けるからいいよ。すぐ戻るからさ」
梨子「……うん」
ガララ
パタン
梨子「……ごめんね、か」
梨子「本当に謝らないといけないのは……私の方なのに」 ーーーー三年生教室
果南「はぁ……」
ダイヤ「朝から溜息が多いですわね」
果南「そりゃあ……ね」
鞠莉「果南たら……もしかして曜に手を出しちゃったんじゃなーい?」
鞠莉「そのせいで梨子が嫉妬ファイア〜!」
果南「出してないって」
果南「最近曜とは全然連絡取ってないし……」
果南「それに……」
鞠莉「それに?」
果南「あの時の梨子ちゃんの表情……凄く怯えてるきがしたんだ」 ダイヤ「……怯えてる、ですか」
果南「一体なんでなんだろう」
鞠莉「うーん……難しい問題ね」
鞠莉「まあでも、そのうち元どおりになるわよ」
果南「だといいんだけど」
ダイヤ「悩んでいても仕方ありませんし、気持ちを入れ替えた方がいいと思いますわ」
果南「……そうだね」
果南「よし、ちょっと頭冷やした屋上行ってくるよ!」
果南「ありがとう、二人とも!」 ーーーー屋上
果南「んー!やっぱりここは風が気持ちいいなー!」
果南「最近練習も無いし……ここに来るのはなんだか久しぶりだね」
果南「こんなにいいところなのにお昼食べてる人がいないんだから驚きだよね」
果南「…………ん?」
果南「あれは……」
曜「…………」
果南「曜……?」 果南「おーい!曜!」
曜「…………」
果南「え?」
果南「曜?どうしたの……?」
果南「凄い瘦せ細ってるし……フラついてるじゃん」
果南「そんな酷い病気に掛かってたの?」
曜「……果南ちゃん」
果南「本当に、大丈夫なの?」
曜「…………」 曜「……元気、そうだね」
果南「え?う、うん……一応は」
果南「曜は……元気が無さそうだよね」
曜「……うん」
曜「やっぱり、まだダメみたい」
曜「みんなは、ちゃんと乗り越えてるはずなのに」
曜「私って……こんなに弱かったんだ」
果南「乗り越えるって……何を?」
曜「…………」 果南「よく分かんないけど、みんなは元気だよ」
果南「梨子ちゃんとは毎日会ってるんでしょ?」
曜「……うん。会ってるよ」
曜「毎日辛そうな顔をしてる」
果南「え?」
果南「学校では普通に見えるけど」
曜「……私がさせちゃってるの」
果南「そう、なんだ……」
果南(もしかして……前に鞠莉が言ってた、梨子が曜のことを好き、って言うのと関係あるのかな?) 果南「あー、一年生のみんなとは会った?」
曜「……ううん」
果南「そっか。あの三人ね、この前自主練習するために部室に集まってたんだ」
果南「練習が無い時に自分たちでするなんて偉いよね」
曜「…………」
果南「……曜、本当に大丈夫?」
果南「気分が悪いなら保健室に行った方が……」
千歌「あれ、果南ちゃん?」 果南「あ、千歌!」
曜「っ!?」ビクッ
千歌「こんなところで何してるのー?」
果南「曜と話してるんだよ!」
千歌「え?あ、本当だ!おーい!よーちゃーん!」
果南「あはは、いいところに千歌が来たね」
果南「……?曜?」
曜「…………」ガタガタガタ
果南「曜!?どうしたの!?」 千歌「よ、曜ちゃん……?」
千歌「顔色悪いよ……何があったの?」
果南「そうだよ、保健室行った方がいいんじゃ」
曜「っ、はぁ、はぁ、」
曜「ち、千歌……ちゃん……」
千歌「う、うん……」
曜「っ、あっ、あぁあっ、っ、あっ、ぅ、!」
千歌「っ!?」ビクッ
果南「曜……?」 曜「ぁ……ははは」
曜「……果南ちゃんは、いいよね」
曜「ずっと、千歌ちゃんが側にいてくれて」
曜「私だって……幼馴染……なのに」
曜「果南ちゃんと……同じくらい、千歌ちゃんのこと、たいせつに、おもって、の、に……」
千歌「…………っ」
曜「なんで、なん、で、」
曜「いつも、かなんちゃ、ばかり、えらばれ、て……!」
曜「たのしそうに、わらっ、て、っ、!」
曜「はあっ、あっ、げほっ、ごほっ、……ぁ、ぁ……」 ーーーー三年生教室
梨子「あの……」
鞠莉「あれ、梨子じゃない、どうしたの?」
梨子「曜ちゃんがトイレに行ったきり戻って来なくて」
梨子「こっちに来ていませんか?」
ダイヤ「来ていませんけど」
梨子「そうですか……」
梨子「あれ、果南さんは?」
鞠莉「果南ならさっき屋上に……」
ダイヤ「まさか……」
梨子「っ!?」 タッタッタッタッ!
バタン!
梨子「曜ちゃん!」
果南「梨子ちゃん!?それに鞠莉とダイヤも……」
曜「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」ガタガタガタ
梨子「っ……!」ドンッ!
果南「いっ!?」ドサッ
梨子「曜ちゃん!曜ちゃん!!」
曜「い、ぁ、ちかちゃん、っ、」
梨子「曜ちゃん!こっちを見て!私を見て!」
曜「っ、は、ぁ……り、こ、ちゃ、」
梨子「うん……私よ」
梨子「落ち着いて……何も考えなくていいから」ギュッ
曜「…………っ」 鞠莉「梨子、先生には言っておくから今日は早退しなさい」
梨子「……分かりました」
梨子「曜ちゃん……行こう」
曜「…………」
梨子「……果南さん、突き飛ばして、ごめんなさい」
梨子「でも……お願いだから、もう曜ちゃんに近付かないで」
果南「…………っ」
パタン 千歌「私のせい……なの?」
千歌「曜ちゃんがああなったのは……」
果南「……違う。千歌のせいじゃない」
千歌「でも、だって、さっき……」
鞠莉「お話はそこまでよ、二人とも」
ダイヤ「……もうすぐ午後の授業が始まります。早く教室に行きましょう」
果南「で、でも……」
ダイヤ「詳しい話は放課後にしましょう」
ダイヤ「……ほら、千歌さんも早く戻りなさい」
千歌「……はい」
ーーー
ーー
ー ーーーー放課後
果南「ねぇ、ダイヤ」
ダイヤ「どうしました?」
果南「……何か、私に隠してない?」
ダイヤ「……どうしてですか?」
果南「そんな気がする……だけ」
果南「今の状況が全く分かんないんだよ」
果南「だから、何か知ってるなら教えてよ」
ダイヤ「…………」 果南「曜はどうしてあんなことを言ってたの?」
果南「選ばれたとか……私と千歌はそういう関係じゃないのに」
果南「私、知らない間に曜に何かやっちゃったのかな」
ダイヤ「…………」
ダイヤ「果南さん」
果南「何?」
ダイヤ「今週の土曜日、私とデートしませんか?」 果南「デート……?」
果南「ダイヤ、今は……」
ダイヤ「このデートは、先ほどの曜さんの件とも関係しているんですよ」
果南「……どういうこと?」
ダイヤ「まだ教えられません。それで、予定はどうですの?」
果南「土曜日は……」
ダイヤ「千歌さんは今週お家のお手伝いで忙しいと言っていましたし、予定は特にないでしょう?」
果南「……うん、そうだね」
ダイヤ「では……決まりですね」
ダイヤ「ふふ、楽しみにしていますわ、果南さん」 コツコツコツ
鞠莉「ダイヤ」
ダイヤ「……鞠莉さん。聞いてらしたんですか」
ダイヤ「ごめんなさい……そろそろ、私は限界みたいですわ」
鞠莉「別にいいわ。私も同じだから」
鞠莉「はぁ……全く世話のかかる幼馴染よね、果南は」
ダイヤ「ええ……そうですわね」
鞠莉「頑張ってね、ダイヤ。期待してるわ」
ダイヤ「任せなさい。私を誰だと思っていますの」
鞠莉「私の大切な幼馴染よ」
ダイヤ「……ありがとうございます、鞠莉さん」 ◆◆◆
「えへへ、今日も楽しかったね」
「うん。千歌がいてくれたからね」
そう言うと千歌ははにかんで頬を赤らめる。
そんな仕草が可愛くて抱き寄せれば「う〜」なんて声を上げて私の胸に顔を埋めた。
千歌のことが愛おしい。
最近ずっとこんな気持ちに支配されてる気がする。
「果南ちゃん……みんなが、来ちゃうよ」
「……じゃあ、続きは家に帰ってからだね」
少しずつ頬が赤く染まっていく千歌を見て、自分が何を言ったのか気付く。
いや、そういう意味じゃないんだけど……でも、するかもしれないし。
って違う違う!
こんなところみんなに見られたらからかわれちゃう! 「あ!おーい!みんなー!はやくー!もうバス来ちゃうよー!」
千歌が手を振るのに合わせてAqoursのみんなも手を振り返す。
みんなコンビニ袋持ってるけど何を買ったんだろう。
そんなに買うものあったのかな。
あれだけ海ではしゃぎまわったせいか、みんなお疲れの様子だ。
「ねぇ、果南ちゃん」
「ん?」
「……ちゅっ」
内緒話かと思って耳を寄せたら、頬っぺたに柔らかい感触が広がる。
ああもう、本当に可愛いな、千歌は。
悪戯成功とばかりにえへへと笑う様子に見惚れてしまうほど、私は千歌のことが好きになっていた。
ずっと、こんな日が続けばいいのに。
◆◆◆ 千歌「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」プクー
果南「いや、あの……どうしたの?」
千歌「果南ちゃんの浮気者」プクー
果南「浮気者って……」
千歌「千歌とデートしたのに……ダイヤさんともするなんて」
果南「ただ一緒に出掛けるだけだって」
千歌「それをデートって言うの!」
果南「だから違うってば……」 千歌「……行ったらずっと拗ねるから」
果南「でももう約束しちゃったし」
千歌「うー……」
果南「本当に何にもないから大丈夫だよ」
千歌「でも一夜の過ちで……」
果南「ちゃんと帰ってくるから」
果南「千歌も旅館のお手伝い頑張ってね」
千歌「……はーい」
ーーー
ーー
ー 果南「待ち合わせはダイヤの家で良かったんだよね」
果南「ちょっと早く着いちゃったかな……って、もういるじゃん」
果南「おーい!ダイヤー!」
ダイヤ「こんにちは、果南さん」
ダイヤ「待ち合わせよりも少し早いですね」
果南「まあ遅れるよりはいいかなって」
果南「ダイヤこそ早いんじゃない?」
ダイヤ「それだけ楽しみだったと言うことですわ」
ダイヤ「せっかくの果南さんとのデートなんですから」
果南「いやいや……」 ダイヤ「では、早速参りましょうか」
果南「何処に行くの?」
ダイヤ「そうですね……駅の方に向かいましょうか」
果南「いいけど……それ、何?」
ダイヤ「自転車ですけど?」
果南「……誰が漕ぐの?」
ダイヤ「ふふ、果南さんに決まっているでしょう」
果南「だよねー……」
果南「ま、いいけどさ」
ーーー
ーー
ー 果南「……ここが、ダイヤの来たいところ?」
ダイヤ「そうですけど、何かありましたか?」
果南「いや……」
ダイヤ「……でしたら入りますわよ」
ダイヤ「たまにはお洋服を買うのもいいでしょう?」
果南「まあ……いいんだけどさ」
果南(このお店……この前千歌と入ったところなんだよね)
果南(私が知らないだけで有名なところなのかな?) ダイヤ「果南さん、この服なんてどうですか?」
果南「え、それスカートじゃん」
ダイヤ「それが何か?」
果南「いや、恥ずかしいからいいよ」
ダイヤ「そうですか。それは果南さんに似合うと思ったのですが残念ですね」
ダイヤ「では今度は果南さんが選んでください」
果南「え、私?」
果南「うーん……そんなこと言われてもなぁ」
果南「あ、このワンピースとかどうかな?」
果南「白とかダイヤにすっごい似合いそう」 ダイヤ「……そうですか。では買うとしましょう」
果南「え?」
ダイヤ「何か?」
果南「いや……そんな簡単に決めちゃっていいの?」
ダイヤ「果南さんが選んでくれたものですから……問題ありませんわ」
果南「おおありだと思うんだけど」
ダイヤ「それとお揃いの服も買いたいのですが」
果南「いや、それは……」
ダイヤ「買いますわよ?」ニコッ
果南「う、うん……」
ーーー
ーー
ー ダイヤ「いろいろ見て回りましたね」
果南「そうだね……」
ダイヤ「どうかしましたか?」
果南「いや、別に……」
ダイヤ「……少し、お腹が空きませんか?」
果南「あー、確かにおやつ時かも」
果南「喫茶店でも入る?」
ダイヤ「そうですね。一度行ってみたいお店がありましたので、そこに行きましょう」
果南「いいよ。ダイヤの行きたいお店って何処なんだろう」 ダイヤ「ここですわ」
果南「え?」
ダイヤ「……何か?」
果南「……いや、なんでも、ないけど」
果南(まただ……ここも、千歌と一緒に来たお店)
果南(今日行ったところは……全部そうだ)
ダイヤ「果南さん、行きますよ」
果南「……うん」
果南(偶然……なんだよね) カランカラン
「何名様ですか?」
ダイヤ「二名です」
「こちらへどうぞ」
ダイヤ「果南さん、食べたいものはありますか?」
果南「……ダイヤの好きなものでいいよ」
ダイヤ「そうですか。でしたら」
ダイヤ「すいません」
「はい、なんでしょうか」
ダイヤ「『恋人パフェセット』を一つお願いします」
ダイヤ「飲み物は……オレンジジュースで」
「かしこまりました」
果南「っ!?」 ダイヤ「カップル専用のメニューなんですよ」
ダイヤ「果南さん、知っていましたか?」
果南「……うん。知ってたよ」
果南「この前、千歌と来たから」
ダイヤ「……そうでしたか」
ダイヤ「だとすると、食べられなかったのでしょう?」
果南「っ……なんで、分かるのさ」
ダイヤ「さぁ、何故でしょうね」 果南「……ダイヤ、いい加減話してよ」
ダイヤ「何をですか?」
果南「曜のことだよ。何か知ってるんでしょ?」
果南「このデートもそれに関係してるって」
ダイヤ「果南さんの口からデートという言葉が出るなんて……ふふ、私にもチャンスがありそうですね」
果南「茶化さないでよ、ダイヤ」
ダイヤ「……まだ、話せません」
果南「じゃあいつなの?」
ダイヤ「分かりません。ですからもう少しお時間をください」
果南「……分かったよ」 「こちら『恋人パフェセット』になります」
ダイヤ「では頂きましょうか」
果南「そうだね」
ダイヤ「果南さん、あーん」
果南「……いや、いいよ。自分で食べられるから」
ダイヤ「せっかくのデートなんだからこれくらいはさせてください」
ダイヤ「あーん」
果南「…………」パクッ
ダイヤ「美味しいですか?」
果南「うん……美味しいよ」
ダイヤ「そうですか、それなら良かった」
ーーー
ーー
ー ダイヤ「話していたらすっかり暗くなってしまいましたわね」
果南「そうだね……そろそろ帰ろうか」
ダイヤ「最後に、もう一箇所だけ行きたいところがあるのですがよろしいでしょうか?」
果南「…………いいけど、何処に?」
ダイヤ「道は覚えていますので、内浦の方に向かってもらえますか?」
果南「……うん」
果南(まさか……)
果南(いや……あの場所は知らないはず)
果南(きっと……違う場所……) ダイヤ「……ここ、ですわ」
果南「…………」
ダイヤ「分かりにくい場所ですけど、ここを通るととてもいい景色の場所があるんですよ」
果南「……そう、なんだ」
ダイヤ「ほら、見てください海の景色を」
ダイヤ「海と言っても……星の海もあるからどちらか迷ってしまいますわね」
ダイヤ「……ほら、果南さんも」
ダイヤ「……綺麗、ですよね」
果南「っ!」 ダイヤ「…………」
果南「綺麗、だね」
ダイヤ「こうして星を見るのも久しぶりな気がしますわ」
ダイヤ「昔は……鞠莉さんも合わせて三人で見たりしましたよね」
果南「……そうだね」
ダイヤ「こうやって、果南さんと一緒に過ごせる日常が私にとっては何よりの宝物なんです」
果南「…………」
ダイヤ「……ずっと一緒にいましょう、果南さん」
果南「…………っ」
果南「もう……やめてよ」 果南「なんで、こんなことするのさ」
果南「今日行った場所……全部千歌と一緒に行ったところじゃん!」
果南「この場所だって!私は千歌にしか教えてない!」
果南「なんでダイヤが知ってるの!?」
ダイヤ「……この場所は、果南さんに教えてもらったんです」
果南「教えてない!」
果南「おかしいよ……絶対おかしいよ!」
果南「ダイヤは何がしたいの!?」 ダイヤ「……私、は」
ダイヤ「ただ、あの時間を取り戻したかっただけなんです」
ダイヤ「元通りにならずとも……せめて、また三人で一緒にいられる日々を」
果南「三人って……ダイヤと鞠莉となんでしょ?」
果南「いつも一緒じゃん……何言ってるの、ダイヤ」
ダイヤ「いつも……ですか」
ダイヤ「いつも果南さんの側にいるのは千歌さんでしょう?」 ダイヤ「果南さんは、千歌さんのことが好きなんですか?」
果南「好きだよ。大切な幼馴染なんだから」
ダイヤ「恋人としてではなく?」
果南「それは……」
ダイヤ「果南さん」
ダイヤ「私は、果南さんのことが好きです」
ダイヤ「だから……お側に置いてください」ギュッ
果南「っ!?」 果南「ダイヤ、何言って……」
果南「そんなこと急に言われても、無理だよ」
ダイヤ「…………っ」
果南「ねぇ、もう帰ろうよ」
果南「ダイヤは疲れてるんだって」
ダイヤ「……いや、です」
果南「……ダイヤ」
ダイヤ「っ、お願いします、果南さん……!」
ダイヤ「私が……千歌さんの代わりになりますから!」 ダイヤ「果南さんがしたいことは全部叶えます」
ダイヤ「体を差し出せと言われるのなら差し出します!」
ダイヤ「毎朝のランニングも、朝ごはんも、お昼も、夜も、全部、全部、やります、」
ダイヤ「なんでも、します、か、ら」
ダイヤ「だから、お願いし、ます、」
ダイヤ「私たちのところに……帰ってきて、ください……」
ダイヤ「もう……限界なんです……」
ダイヤ「私も……鞠莉、さんも……!」 果南「……なん、なの」
果南「なんで、そんなこと言うの」
果南「分かんない……私、ダイヤが分かんないよ」
果南「千歌の代わりとか……本気で言ってるの?」
果南「……ごめん、もう帰るよ」
ダイヤ「まってくだ……!」
果南「……悪いけど、ダイヤの気持ちには応えられない」
果南「……また学校でね、ダイヤ」
ダイヤ「っ、……ぁ、っ、」 ダイヤ「ぅ、……っ、」
鞠莉「……やっぱり、こうなったのね」
ダイヤ「まり……さ、ん」
鞠莉「ごめんね、ダイヤ。辛い役をさせて」
ダイヤ「いいんです……元々、私が、したことですから」
鞠莉「……ダイヤは、強いわよね」ギュッ
ダイヤ「……当たり前……ですわ」
鞠莉「はぁ……でもそっか」
鞠莉「やっぱり、ちかっちは強いわね」 鞠莉「ねぇ、ダイヤ」
ダイヤ「……ええ、そうですわね」
鞠莉「まだなんにも言ってないんだけど?」
ダイヤ「言おうとしてることくらい、分かりますわ」
鞠莉「そっか……まあそれもそうよね」
鞠莉「幼馴染で……同じ人を好きになったんだから」
ダイヤ「……ええ。だから、」
鞠莉「うん」
鞠莉「終わらせましょう……この『悪夢』を」 ◆◆◆
小さい頃はいつも千歌は私の後を付いてきた。
私はそれが嬉しくて、千歌と一緒に何処にでも冒険したっけ。
まあ冒険と言っても千歌の旅館だったり、淡島だったりするんだけど。
小学生になると一年間は千歌と離れ離れになってたから寂しかったな。
まあでもよく遊びに来てくれたし、私も遊びに行ったし。
千歌の将来の夢、今でも覚えてるよ。
「果南ちゃんと結婚します」って言って学校で言っちゃったんだよね。
あの時は私もみんなにからかわれて恥ずかしかったよ。 中学生を卒業するときはちょっどけ焦ったよ。
「果南ちゃんは私を置いてくの?」って涙目の千歌に迫られたんだもん。
あの時は宥めるのに苦労したよ。
高校生になってからはスクールアイドルを始めて会える時間も少なくなったけど……それでも千歌に会えるだけで嬉しかった。
千歌がスクールアイドルを始めるって時はびっくりしたなぁ。
まさか私と同じ道を辿るなんてさ。
うん、やっぱり千歌は普通なんかじゃない。
だって、千歌は私の特別なんだから。
だから━━━━。
◆◆◆ 果南「もしもし?鞠莉、どうしたの?」
果南「今日?千歌も一緒に?」
果南「別にいいけど、何するの?」
果南「秘密って……まあいいけど」
果南「うん。分かった」ピッ
千歌「果南ちゃん、どうかしたの?」
果南「鞠莉から電話があってさ、今日学校に来られないかって」
果南「みんなも来るみたいだし、いいよね?」
千歌「大丈夫だよ!」 千歌「でも、一体何をするんだろう?」
果南「うーん……もしかして新曲の練習とか?」
千歌「歌詞書いてないのに?」
果南「じゃあ違うかー」
果南「まあ行ってみればわかるよね」
千歌「そうだね」
千歌「いつ集合って?」
果南「一時間後だよ」
千歌「了解!」
千歌「えへへ、なんだか楽しみだね」
ーーー
ーー
ー ーーーー部室
果南「あれ、鞠莉?」
果南「どうしたの、部室の前で」
果南「中に入らないの?」
鞠莉「おはよう、果南」
鞠莉「ちかっちも来てくれたわね?」
千歌「うん。おはよう、鞠莉ちゃん」
果南「当たり前でしょ、鞠莉が呼んだんだから」
鞠莉「そう。じゃあ入ってくれる?」
鞠莉「みんなはもう揃ってるわよ」 扉の中に足を踏み入れると、そこにはAqours 全員の姿があった。
不安そうに私たちを見つめる善子ちゃん、花丸ちゃん、ルビィちゃん。
悲しい表情をした曜と、守るように手を重ねる梨子ちゃん。
そして、俯いて視線を合わせてくれないダイヤ。
鞠莉「来てくれてありがとう、みんな」
鞠莉「これで、全員揃ったわね」
果南「みんなで何するの?」
果南「練習……ってわけじゃなさそうだけど」 鞠莉「……大切なものを取り戻すため、かな」
果南「大切なもの?」
鞠莉「ええ、そうよ」
鞠莉「ねぇ、果南に聞きたいことがあるの」
果南「聞きたいことって?」
鞠莉「どうしてダイヤの告白を断ったの?」
ダイヤ「っ……」
千歌「!」 果南「……それは、ここでする話じゃない」
鞠莉「いいえ、答えてもらうわよ」
鞠莉「ダイヤの何がダメだったの?」
果南「別にダメなところなんてない」
鞠莉「じゃあなんで?他に好きな人でもいるの?」
鞠莉「ちかっちとか?昨日も一緒に寝たんでしょ?」
果南「……鞠莉、いい加減にしないと怒るよ」
鞠莉「毎日毎日一緒にいて、デートもして」
鞠莉「なんでそれで付き合ってないのかしらね?」
果南「……っ!鞠莉っ!」
鞠莉「ねぇ、果南」
鞠莉「ちかっちはいつから果南の家にいるの?」 果南「え?」
果南「いつって……それは……」
果南「あれ……」
果南(そういえば……いつからだったっけ)
果南(いるのが当たり前になってたけど……最初は……?)
千歌「果南ちゃん……」
果南「あ、ああ、ごめん千歌」
果南「別にいつからなんてどうでもいいでしょ」 鞠莉「そうね、果南にとってはどうでもいいことよね」
鞠莉「でもおかしいと思わない?どうしてちかっちは毎日果南と一緒にいるの?」
鞠莉「ちかっちには家があるでしょ?なんで?」
果南「そんなの……千歌の勝手でしょ」
鞠莉「そう。それで、着替えは?学校の用意は?」
鞠莉「よく一緒に帰ってるけど、いちいち取りに戻ってるの?」
鞠莉「果南は最近十千万に行ってないでしょ?なんで?」
鞠莉「千歌の家じゃなくてどうしていつも果南の家に集まるの?」 千歌「…………」ガタガタ
果南「千歌、大丈夫!?」
果南「……ごめん、鞠莉。今日はもう帰らせてもらう」
鞠莉「ダメよ。まだ何も終わってないんだから」
果南「っ……!こんな訳の分からない質問して、何をする気なの!」
鞠莉「返してもらうのよ、ちかっちから、果南を」
果南「……!またそれ!?」
果南「もうたくさんだよ!ダイヤも、鞠莉も!」
果南「なんでみんな……」
鞠莉「果南、良く聞きなさい」
鞠莉「千歌は死んだのよ」
鞠莉「果南を庇って」 果南「……は、はは」
果南「何言ってるの、鞠莉」
果南「千歌は……ちゃんとここにいるじゃん」
鞠莉「何処に?」
鞠莉「悪いけど、果南の視線の先には何もないわよ」
果南「……嘘」
果南「変な冗談はやめてよ……みんなには見えてるでしょ?」
鞠莉の言葉から逃げるように、他のみんなへと目を向ける。
でも、そこにあったのは否定だ。
恐怖、不安、忌避、躊躇。
負の感情を込められた視線を投げかけられた私は思わず口を噤んでしまう。 千歌「果南ちゃん……」
怯えるように肩を震わせる千歌を抱き寄せる。
千歌はここにいる。私が絶対に守るんだ。
果南「私は絶対に信じない」
果南「千歌はここにいる!これ以上千歌のことを責めるなら、私はみんなのこと許さない!」
鞠莉「……じゃあ、果南に聞くわ」
鞠莉「果南は今年の夏休みのこと覚えてる?」
果南「覚えてるけど……それが?」
鞠莉「登校日の放課後……何があった?」
果南「何って……それは……」
『果南ちゃんのことが、好き』 果南「……え?」
果南「待って、なんで、だって、あれ、」
千歌「果南ちゃん……?」
そうだ、あの日私は千歌に呼び出された。
そして、千歌に告白されて、付き合うことになった、はず。
でも私と千歌は付き合ってないはず。
なんで?どうして?
鞠莉「……果南、本当は分かってるんでしょ」
鞠莉「千歌はもうこの世界にいない」
鞠莉「果南の隣には、誰もいないのよ!」 鞠莉の言葉と同時に、千歌は部室を飛び出した。
果南「待って!千歌!」
そのまま校舎を出て行く千歌を慌てて追いかける。
後ろから誰かの叫び声が聞こえてくるけど気にしている場合じゃない。
だって、今、千歌を見失ったら二度と会えない予感がするから。
果南「なんで……追いつけないの……!」
全力で走っているはずなのに千歌には全く追いつけない。
千歌の足はこんなに早くないはずなのに、なんで。 目的地もわからず、ただがむしゃらに千歌を追い続けた。
千歌の後に続いて路地へ入ると、その先には長い階段がある。
果南「いや……」
その先にあるものを私は知っている。
本能がそこに行くなと叫ぶ。
そんな私を嘲笑うかのように千歌は軽々と階段を登っていく。
果南「千歌っ!いかないでっ!おねがいっ!」
震える体を無理矢理に動かし一段ずつ階段を上って行く。 嫌だ。この先には行きたくない。
だって……だって!
果南「はぁ……はぁ……」
階段を登りきった先にあったのは古いお寺と、墓地。
果南「千歌……やだよ……早く帰ろう……出てきて……」
ざくり、ざくりと小石を踏み付けながら墓地の中へと足を踏み入れる。
千歌の姿を探しながら、ゆっくりと、探して。
そして、『ソレ』はそこにあった。
私の幻を打ち砕くように、はっきりと。
『高海千歌』
墓に刻まれた、千歌の名前が。 果南「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
喉から溢れ出す悲鳴。それと同時にあの時のことを思い出してしまった。
夏休みの終わり、バス停でバスを待っていた時。
到着すると思っていたバスはスピードを上げて私の方に走ってきた。
恐怖に体が動かなかった。
何をすればいいのかも分からなかった。
そして、気付いた時には私は地面に横たわっていた。
大きく跳ね飛ばされた千歌の姿を見ながら。 果南「なんで……なんであの時私を庇ったの!」
果南「私を庇わなければ……千歌が死ぬ必要なかったのに!」
果南「こんなの、うれしくなんか、ない、」
果南「ちかが、いな、いなんて、わたし……わたし!」
果南「ばか……ちかの、ばかっ、」
果南「ずっと、いっしょ、だって、やくそく、し、た、っ、ぅ、の、に」
果南「ちかぁ……」
ーーー
ーー
ー ダイヤ「鞠莉さん、いましたか!?」
鞠莉「ううん、見つからないわ」
鞠莉「一体何処に行ったのよ……果南!」
善子「ダイヤ、鞠莉!」
善子「さっき果南らしき人が淡島に向かったって!」
鞠莉「本当!?」
ダイヤ「鞠莉さん!すぐに船を!」
鞠莉「わかってる!」 タタタタ
バタン!
鞠莉「果南!」
果南「……鞠莉、ダイヤ」
果南「それに……みんなも」
鞠莉「果南……あのね」
果南「……大丈夫、全部思い出したから」
果南「バカだよね、私」
果南「自分だけ辛さから逃げて……みんなに迷惑かけちゃったんだもん」
果南「千歌がいるように振舞ってくれてたんだよね、みんな」 ダイヤ「私たちは……気にしていません」
鞠莉「そうよ。だって……大切な幼馴染なんだから」
鞠莉「だから果南、こっちに来て」
鞠莉「果南が乗り越えられるまで……ずっと側にいるから」
果南「……本当に、私は幸せだったんだね」
果南「こんなに優しい幼馴染が……ずっと側にいてくれたんだから」
果南「鞠莉、ダイヤ。二人ともありがとう」
果南「こんなバカな私を……ずっと見捨てないでくれて」
鞠莉「果南……」 果南「でも……ごめんね」
果南「やっぱり私、千歌がいないとダメみたいなの」
ダイヤ「っ!果南さん!?」
鞠莉「やめ━━━━」
果南「だから、ごめんね」
果南「さようなら」
ぐちゃり。
灼けるような痛みが喉を貫く。
明滅する視界。包丁の柄へと垂れ流れた血はそのまま雫となり床を濡らす。
あちこちから上がる悲鳴がだんだん小さくなっていく。
ああ、これで、やっと━━━━。 軋んだ音を立てながら扉がゆっくりと開く。
ああ、この方法で良かったんだ。
これで、やっとあの子に会える。
私をみたらなんて言うだろうか。
喜んでくれるかな。それとも怒るかな。
どっちでもいい。もう一度会えるなら。
今も続く声に誘われて、私は扉の中へと進む。
黒い扉の向こう。
それを超えたその先に。 ◇
千歌ちゃんが死んだ。
私たちの目の前で、トラックに轢かれんだ。
救急車で病院に運ばれたけど、すぐに死亡が確認された。
その光景を思い出す度に何度も吐いた。
みんなの悲鳴が耳の中にこびりついている。
これは全部悪い夢。
きっと明日になればいつもみたいに元気な笑顔で出てくるはず。 ◇
夢なんかじゃなかった。
千歌ちゃんは死んだんだ。
黒い棺桶に入れられた千歌ちゃんを見ると涙が零れ落ちてくる。
昨日あれだけ泣いたのに、まだ涙が出てくるんだ。
学校のみんなも集まってきてるけど、その中に果南さんの姿はない。
もしかすると、まだ病院から戻ってきてないのかも。 ◇
今日も学校を休んだ。これで一週間になる。
学校に行くのが怖い。
千歌ちゃんの席に誰もいないのが怖い。
私のやりたいことを見つけてくれた彼女が、いなくなったことに耐えられない。
友達が死ぬのがこんなに辛いなんて思わなかった。
みんなはどうしてるのか、こんな痛みに耐えられてるのかな。
私は……なんて弱いんだろう。 ◇
学校へ来た。
いつも千歌ちゃんと一緒の道を一人で歩くのが苦しかった。
でも、このままずっと家にいると不安に押し潰されて壊れてしまうだろう。
何度も帰りたい気持ちを抑えて来た学校は、暗い雰囲気に包まれていた。
会話が少ない。笑い声が聞こえてこない。
やっぱり、みんな千歌ちゃんのことを気にしてるんだ。
千歌ちゃんの机には誰も座っていない。
溢れて来た涙を拭い、ホームルームを待つ。
ずっと授業をサボっていた私に、先生は何も言わなかった。
……あれ、曜ちゃんは?
なんで、曜ちゃんがいないの? 嫌な予感がしてすぐに学校を早退した。
早く、早く、と自分を急かし曜ちゃんの家に行った。
曜ちゃんのお母さんは私を見ると家に上げてくれた。
曜ちゃん、生きてるよね?
ちゃんとそこにいるんだよね?
恐る恐る曜ちゃんの部屋の扉を開けると、そこには体をだらんとさせた曜ちゃんがいた。
私が来たことに気付いてないのか、ぴくりとも動かない。
まるで死んでもいいというような様子に、体が震えた。 梨子「曜ちゃん……大丈夫?」
大丈夫なはずはないけど、他に言うことがなかった。
曜ちゃんは何も答えない。
ただぼーっと虚空を見つめている。
曜ちゃんのお母さんに呼ばれて部屋の外に行くと、今のことについて聞かされた。
千歌ちゃんが死んでから、ほとんど動かなくなったこと。
そして、ご飯もまともに取っていないこと。
緩やかに、ただ確実に曜ちゃんの体は衰弱している。
このままの状態が続けば、近いうちに……。 それを聞いた時、私は体が芯から凍り付くのを感じた。
私はもう一度あの辛さを味合わないといけないんだろうか。
千歌ちゃんに続いて曜ちゃんまで死んでしまったら、私は絶対に耐えられない。
曜ちゃんを説得するために私は部屋の中へと戻った。
梨子「曜ちゃん、ご飯、食べよ?」
お粥を一掬い曜ちゃんの口元へ運ぶ。
でも曜ちゃんは食べてくれなかった。私なんていないかのように、口を閉ざしたままだ。
梨子「っ……」
涙を隠すように、お粥のお椀を部屋の外へと運び出す。
きっと、曜ちゃんの大切なものに、私は含まれていないんだろう。 曜「…………」
梨子「…………」
辛かった。
千歌ちゃんがいなくなって、曜ちゃんからは無視されて。
きっとここが自分の部屋だったら発狂していただろう。
涙を、声を必死に抑えながら曜ちゃんの部屋に居座り続ける。
口に無理やり飲み物を当てれば少しは飲んでくれるみたい。
口から溢れるのを気にせず、私は曜ちゃんに飲み物を飲ませた。 曜ちゃんのお母さんがご飯を持ってきてくれたけど断った。
お腹が空かない。ううん、多分空いてるんだけも、食べる気にならない。
それよりも、曜ちゃんに食べてもらいたい。
このままだと、多分曜ちゃんは死ぬ。
そして、今度こそ私は一人ぼっちになる。
嫌だ。
そんなの嫌だ。もうこんなに辛いのは嫌だ。
曜ちゃんに無視されるのも嫌だ。
千歌ちゃんがいないのは嫌だ。
もう嫌だ。
死にたい。死んで楽になりたい。
でも心の何処かで死にたくないって叫ぶ自分がいる。 もう無理だ。どうしようもない。
私はこのまま覚めない悪夢を漂い続けるんだろう。
……あれ。
ああ、なんだ、それなら私が曜ちゃんの大切な人になればいいんだ。
そっとベッドに持たれる曜ちゃんの前に腰を下ろす。
曜ちゃんは無反応だ。まるで私がいないものとばかりに。
口に飲み物を含み、ゆっくりと曜ちゃんへと顔を近付ける。
柔らかい感触と同時に、曜ちゃんの瞳が小さく揺れた。 曜「んっ……っ……」
繋いだ唇から、口の中の液体を曜ちゃんに送り込む。
苦しそうに何度も喉を鳴らし飲み込もうとする曜ちゃんの口内に舌をいれ、曜ちゃんのものと絡める。
温かいザラザラとした感触。
それを何度も確認して唇を離すと、曜ちゃんが咳き込んだ。
曜「はぁっ……はぁっ……なに、するの」
小さな、それでもはっきりと私を見据えての言葉。
だから、私ははっきりと告げた。
梨子「私……曜ちゃんのことが好き」 それは最低で最悪な告白だ。
いや、これくらいなら可愛いかもしれない。
だって、私はこの後もっと最低なことをするんだから。
曜「……やめてよ」
梨子「やめないよ。だって……ようちゃんの、ことが、すき、なんだ、もん」
曜「りこちゃ、泣いて……」
曜ちゃんが優しいことは知っている。
正気を取り戻した今、目の前で泣いている子に強く出られないことも知っている。
ほら、なにも言えなくなった。 梨子「ようちゃんが、すき、なの、」
そのまま曜ちゃんを抱きしめるけど、抵抗はない。
梨子「おねがい、いなく、ならない、で」
梨子「ようちゃんまで、いなくなったら、わたし……わたし……」
縋る手ようにゆっくりと曜ちゃんの胸に顔を埋める。
曜ちゃんは何も言わない。
きっと頭の整理が追い付いていないんだろう。
そして、私は最低の言葉を口にした。
梨子「もし、ようちゃんが、しんだら……わたしも、しぬから」 それは呪いの鎖だ。
曜ちゃんをこの世界へと繫ぎ止めるための、最低の告白だ。
私は自分を守るために曜ちゃんの自由を奪った。
私は自分を守るために自分の心を騙した。
いや、もう自分の心なんて分かんない。
なんで涙が流れてるの?
自分が最低なことをしてるから?
曜ちゃんに死んでほしくないから?
それともただの作り物?
私は曜ちゃんが好きなの?
それはどっちの意味で?
分かんない。何にも分かんない。
でも、おかしいな。なんでか今は、曜ちゃんが凄く愛おしい。
だって、この気持ちに従っていれば……辛い想いをしなくて済むんだから。 ◇
梨子「曜ちゃん、あーん」
私の言葉に曜ちゃんは口を開いてくれる。
最初のうちは胃に負担をかけないようにお粥を中心にしてたけど、最近では普通のものも食べられるようになってきてる。
相変わらず口数は少ない。
私の言葉にもたまにしか反応してくれない。
それでも、今の曜ちゃんが生きているのは私がいるからだ。
私は、曜ちゃんの特別なんだ。 梨子「今日はね、学校でバレーをしたの」
梨子「私はあんまり得意じゃなくて上手くできなかったんだけどね」
梨子「曜ちゃんはバレーは得意?」
曜「……普通、だよ」
梨子「そんなこと言って、やってみたら上手なんだよね」
梨子「今度は一緒にやりたいなぁ」
曜「……ごめん」
梨子「あ、違うの、そういう意味じゃなくて……」
梨子「学校へは……曜ちゃんの心の整理ができたら行こう?」
梨子「無理はしなくていいから」 ◇
果南さんが、登校してきた。
下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられたんだ。
千歌ちゃんの死で一番のショックを受けていたはずの果南さんは、笑顔だった。
怖かった。
なんで笑っていられるのか。それを聞きたかった。
でも、それを聞く前に、もっと恐ろしい言葉を耳にした。
果南「あはは、千歌は本当に慌てん坊なんだから」
何もない空間に向かって、まるで千歌ちゃんがいるかのように果南さんはそう話した。 鞠莉さんがやってきて、果南さんを連れて行った。
果南さんは「じゃあね、千歌」と言ってその場から立ち去った。
果南さんと別れた千歌ちゃんは何処にいるの。
私の側に、ここにいるの?
辺りを見回しても誰もいない。
それなのに、背筋に悪寒が走る。
果南さんは壊れた。
それを悲しく思うのと同時に、もう一つの気持ちが湧き上がってくる。
果南さんを、曜ちゃんに会わせたらいけない。 ◇
果南さんは昔の姿そのものだった。
千歌ちゃんの話題を頻繁に出すところを除いては。
それについては鞠莉さんやダイヤさんと話し合い、千歌ちゃんがいるものとして振る舞うことに決めた。
鞠莉さんに心配されたけど大丈夫。
だって、私には曜ちゃんがいてくれるんだから。
曜ちゃんは順調に回復している。
というよりも、体の方はもう大丈夫なんだろう。
後は心の問題だけ。
焦らないように、ゆっくりと心を癒してあげないと。
それで、またいつか、一緒に学校で過ごすんだ。 ◇
曜「……学校、行くよ」
その言葉は突然だった。
いつものように放課後に曜ちゃんの家に行って、ご飯を食べて、お話をしていたらそう告げられた。
梨子「……いいの?」
曜「……うん。いつまでも、こうしてるわけにはいかないから」
それから急遽、私は曜ちゃんの家に泊まることになった。
明日は一緒に家を出て、曜ちゃんを学校まで連れて行く。
私の望んだ世界が、少しずつ現実になってきた。 ◇
失敗した。
全部私のミスだ。
私がもっと曜ちゃんの側にいたら、果南さんと会わずに済んだのに。
あの後すぐに早退して曜ちゃんの家に行った。
曜ちゃんは心が不安定になっていた。
うわ言のように千歌ちゃんと私の名前を呟いている。
だから、その口を塞いだ。
曜ちゃんの苦悩、全部受け止めてあげる。
だから、もっと吐き出して。 口を離すと曜ちゃんは少しだけ落ち着きを取り戻していた。
でも、心の中ではまだいろんな感情が渦巻いているのか、目が虚になっている。
曜ちゃんを助けないといけない。
例え、この体を差し出しても。
衣服を脱ぎ捨て、曜ちゃんにもう一度キスをする。
梨子「曜ちゃん……何も考えなくてもいいんだよ」
梨子「私が、全部忘れさせてあげるから」
そう、辛いことも、思い出も、全部、ぜーんぶ忘れられれば楽になるよ。
だから……早く私に溺れて? ◇
梨子「嫌です」
鞠莉さんからのお願いを、私はすぐに断った。
果南さんを正気に戻すために、全員で集まりたいというお願い。
私だけならいいものの、曜ちゃんを連れて行くのだけは絶対に嫌だ。
鞠莉「お願い。どうしても必要なの」
梨子「答えは変わりません。私だけならいいですけど、曜ちゃんは残します」
それでも鞠莉さんは必死にお願いをしてきた。
果南さんのために、鞠莉さんは必死になって頭を下げている。
それに何にも感じないわけじゃない。
でも……。
曜「……行こうよ、梨子ちゃん」
梨子「え?」 曜「私は……梨子ちゃんのおかげで救われた」
曜「だから、今度は果南ちゃんを助けてあげないと」
曜「それに……私も、乗り越えないといけないから」
曜ちゃんにそう言われると、私は反論が難しかった。
そして、もう一つ心の中で渦巻く感情があった。
もしも千歌ちゃんのことを克服したら、私は必要じゃなくなる。
その考えに気付いた時、酷い吐き気に襲われた。
私は最低だ。この世界で最も心の醜い人間だろう。
自分のことしか考えられない自分が、大嫌いだ。 ◇
果南さんが死んだ。
私たちの目の前で、自殺した。
頭が痛い。吐き気がする。
なんでこの世界はこんなに不条理に満ちているんだろう。
でも、私よりも曜ちゃんのショックが大きかった。
大切な幼馴染が死んだんだ。
不安定な状態で、しかも目の前で。
曜ちゃんの心は、もう壊れる寸前まで追い詰められている。 行かなければ良かったと後悔してももう遅い。
孤独の恐怖に怯えた日々がまた始まった。
これは私への罰なのだろう。
曜ちゃんを利用した、私への。
でも、大丈夫だよ、曜ちゃん。
果南さんのせいで曜ちゃんも私も苦しんでるけど、果南さんはそれから逃げる方法を教えてくれたから。
ねぇ、曜ちゃん、今度は私が曜ちゃんを助ける番だよ。
だから、楽になれる方法、曜ちゃんにも教えてあげるね。 ◇◇◇
ダイヤ「鞠莉さん、いますか?」
鞠莉「……ええ、いるわよ」
ダイヤ「失礼します……あまり、眠れてないようですね」
鞠莉「……あはは、バレちゃったか」
鞠莉「やっぱり、ダイヤに隠し事はできないわね」
鞠莉「寝るとね……果南が来るのよ」
鞠莉「楽しそうに……私に向かって……笑いかけて……!」
鞠莉「こんな……こんな人殺しに……果南は……!」 ダイヤ「あまり自分を責めないでください」
ダイヤ「あれは私も一緒になって決めたことです」
鞠莉「……ダイヤは、強いのね」
ダイヤ「……強くなど、ありません」
ダイヤ「私も……あまり寝られていませんから」
ダイヤ「でも、いつまでも気にしていてはいけません」
鞠莉「……気に、するわよ」
鞠莉「私が……何人殺したか知ってるでしょ?」
ダイヤ「あれは鞠莉さんのせいでは……」
鞠莉「私のせいよ!私が……無理やり呼んだんだから!」 鞠莉「はぁ……はぁ……」
ダイヤ「鞠莉さん、あまりご飯を食べていないと聞きますが」
鞠莉「……喉を通ってくれないのよ」
ダイヤ「無理にでも食べてください」
鞠莉「……優しくしてくれないんだ?」
ダイヤ「そちらの方が良かったですか?」
鞠莉「……ええ、できれば、ね」
ダイヤ「そうですか。では……」ギュッ
鞠莉「……っ!」 ダイヤ「大丈夫ですよ、鞠莉さん」
ダイヤ「私がいますから」
鞠莉「……本当に?」
鞠莉「本当にダイヤは、私の前から、いなくならない?」
ダイヤ「ええ、いなくなりませんわ」
鞠莉「絶対……よ?嘘を付いたら絶交よ?」
ダイヤ「ええ、約束です」
鞠莉「……本当に、よ。ダイヤが死んだら、ルビィも悲しむわ」
鞠莉「ダイヤの家も後継がいなくなるし、それに━━━━」
ダイヤ「鞠莉さん!」
鞠莉「っ!」 ダイヤ「落ち着いてください」
鞠莉「ごめん……なさい……」
鞠莉「ごめんなさい……ごめんなさい!」
鞠莉「お願い……嫌いにならないで!」
鞠莉「なんでもするから……だからいなくならないで!」
ダイヤ「鞠莉さん、待ってくださ━━━━」
鞠莉「もう無理なの!限界なのよ!」
鞠莉「千歌が死んで、私のせいで、果南が死んで、曜と梨子も、私が、私のせいで!」
鞠莉「これで、ダイヤまでいなくなったら……私……もう……!」 ダイヤ「大丈夫ですよ、鞠莉さん」
鞠莉「ダイヤ……」
ダイヤ「鞠莉さんの隣には、ずっと私がいますから」
ダイヤ「だから……」
チュッ
ダイヤ「今日は……これで安心してください」
鞠莉「……ありがとう、ダイヤ」
鞠莉「私のファーストキスは高いけど……大丈夫?」
ダイヤ「ふふ、私のファーストキスも高いですわよ?」
鞠莉「……じゃあ、それでチャラにしてあげるわ」
ダイヤ「ありがとうございます」 鞠莉「ご飯食べてく?」
ダイヤ「いえ、家に用意してありますから」
鞠莉「そっか……それは残念ね」
ダイヤ「またご相伴にあずからせて頂きますわ」
鞠莉「ええ、楽しみにしててね」
鞠莉「そういえば……その左手の包帯はどうしたの?」
ダイヤ「……ああ、道路で転んでしまいまして」
鞠莉「そう、気を付けてよ」
ダイヤ「ええ、そうですわね」
ダイヤ「それではさようなら、鞠莉さん」
鞠莉「さようなら、ダイヤ」 鞠莉「あはは、おかしいな……ただの親友のはずなのに」
鞠莉「……ダイヤの唇、凄く柔らかかった」
鞠莉「……なんで、まだこんなに熱いんだろう」
鞠莉「……梨子のこと、笑えないわね」
鞠莉「頑張って……ご飯食べないと」
鞠莉「……大好きよ、ダイヤ」
鞠莉「ずっと……一緒にいましょう」 ダイヤ「……鞠莉さんはあれで立ち直ってくれたのでしょうか」
ダイヤ「あの不安定な状態なままであったら、きっと鞠莉さんも、耐えきれずに……」
ダイヤ「ルビィも、善子さんも、花丸さんも、もう全員限界ですわ」
ダイヤ「これ以上何か起きれば、もっと酷いことになるに違いありません」
ダイヤ「それだけは、なんとかして阻止しないと」
ダイヤ「…………」 ダイヤ「果南さん」
ダイヤ「どうすれば、貴女に会えるんですか?」
ダイヤ「私の心は……もう限界なんです」
ダイヤ「お願いです……もう一度、貴女に合わせてください」
ダイヤ「この左手だけじゃ、足りませんか?」
ダイヤ「でも、私には……これくらいしかできないんです」ギチチチチ
ズチャッ
ダイヤ「愛しています、果南さん」
ダイヤ「目が覚めたら……もう一度、貴女と会えますように……」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています