穂乃果「永遠に」
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海未ちゃんが自殺する夢を見た。
夢の中で、海未ちゃんは自分で首を吊って死んだ。
私はその夢を見た朝から、時間を巻き戻す能力を身に付けた。
海未ちゃんは本当に死んだ。 ―一日目―
通夜。
お坊さんが訳の分からないお経を唱えている。
泣いているのは、ことりちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん、絵里ちゃん、真姫ちゃんの五人。
絵里ちゃんと花陽ちゃんはウソ泣きをしているように見える。
私は泣かない。
まだ海未ちゃんの死を認めるわけにはいかない。 ―二日目―
教室へ入ると、海未ちゃんの机の上に花瓶が置かれているのを見つけた。
なぜか無性に腹が立って、花瓶を窓に向かってぶん投げてしまった。
ゴン、という鈍い音が鳴った。窓に大きくひびが入ったが、花瓶は割れなかった。
我に返って振り向くと、クラスメイトが大きな叫び声をあげた。
すぐに先生に変な部屋に連れていかれて尋問された。私は何も答えなかった。
学校を早退させられ、先生も家までついてきた。お母さんと先生が玄関であれこれ話していた。
話の内容はよくわからなかったが、最終的には、私が『親友が亡くなったショックで気が動転している』という結果に落ち着いた。
先生「気持ちの整理がついたら学校に来なさい」
穂乃果「……はい」 ―三日目―
私は一人で学校へ行った。
海未ちゃんの机の花瓶はとっぱらわれていた。
ことりちゃんは元気がなさそうだった。
昼休みになると、私は弁当を食べずに、机に突っ伏して周りを観察した。
私に話しかけようとする人、それを止める人、私のことを気にもかけない人の割合は1:3:6くらいだった。
結局、誰も話しかけてはこなかった。ことりちゃんすらも話しかけてこなかった。 放課後、私はことりちゃんと一緒にアイドル研究部の部室へ向かった。
今後のことを話し合うため、全員で集まることになっていたのだ。
部室のドアを開けると、他のみんなが粛然とした顔をして私たちを迎え入れた。
私たちが席に着くと、にこちゃんが立ち上がった。
にこ「えーっと……それじゃあ、今後のことについて話したいんだけど……」
にこ「……まず……」
にこちゃんは言葉を慎重に選んでいるようだ。
にこ「……海未のことは残念だけど、いつまでも引きずらないようにしましょう」 ことり「……っ!」
ことりちゃんは勢いよく立ち上がった。
ことり「海未ちゃんのことなんかさっさと忘れろって言いたいの!?」
にこ「……違うわよ。海未の死と、アイドル活動のことは、切り離して考えるべきだっていってるの」
ことり「そんな簡単に割り切れるものじゃないの!幼馴染で、十数年一緒にいて、その人が死んじゃったら、どんな気持ちになるかわかる!?」
にこ「落ち着きなさい」
ことり「落ち着いてられないよ!」
にこ「……」
ことり「にこちゃんなんかにわからないよ!一年足らずの付き合いのくせに――」
ことりちゃんがその言葉を言い終わらないうちに、花陽ちゃんが立ち上がった。
そして、ことりちゃんに抱きついた。
花陽「やめてっ!」
ことり「……は、花陽ちゃん……」
花陽ちゃんは泣いていた。 花陽「もうやめよう……やめようよ……」
ことり「……」
ことり「……ごめん」
花陽「ことりちゃん……」
花陽ちゃんはことりちゃんから離れた。
ことりちゃんはカバンを持ち、部室のドアへ手をかけた。
絵里「ちょっと、どこへ行くの?」
ことり「ちょっと、頭を冷やしてくるね」
ことりちゃんはそういって、静かに部室から出て行った。 ことりちゃんが出て行ったあと、私たちはみんな黙ってしまった。
次に口を開いたのは真姫ちゃんだった。
真姫「私はもう帰るわ」
穂乃果「真姫ちゃん?」
真姫「これ以上ここにいても意味ないもの」
凛「ま、真姫ちゃん……」
真姫「じゃあね」
真姫ちゃんは静かに部室から出て行った。
またしばらく沈黙が続いた後、希ちゃんが言った。
希「確かに、真姫ちゃんの言う通りや。このまま何もできないでギスギスするより、みんな落ち着いた方がいいやん?」
にこ「希……」
花陽「じゃ、じゃあ……今日は解散?」
希「そうしよう。にこっちも穂乃果ちゃんも、それでいいやろ?」
にこ「……いいわよ」
穂乃果「……」
希「穂乃果ちゃんは?」
穂乃果「うん……いいんじゃないかな」
私たちは解散した。
初めてリンゴの皮を剥くみたいに、ぎこちない、時間のかかった解散だった。 ―四日目―
待ち合わせ場所に行ったが、ことりちゃんはいなかった。
二十分ほど待ったが、来る気配もなかったので、仕方なくひとりで学校まで行った。
ホームルームで、ことりちゃんは家の都合で少しの間学校に来られない、と先生が告げた。
昼休みになった。
私は屋上で、一人でお弁当を食べた。
いつもの三分の一くらいに味が薄まっているような気がした。 ―五日目―
今日は土曜日だ。
私は十時くらいに目を覚ました。
絵里ちゃんからメールが来ていた。
みんなで集まって、これからについて話をしないか、という内容だった。
私は『もう少し待って』と返信した。 午後、私は海未ちゃんの家に訪れた。
チャイムを鳴らすと、三分くらいたってから海未ちゃんのお母さんが出てきた。
海未母「あら、穂乃果ちゃん。こんにちは」
彼女は疲れきったような顔をしていた。
応接室に通された。
和風の部屋で、畳のにおいがつうんとした。
床の間には力強い字で書かれた掛け軸が飾ってあり、その下には枯れかけたしょうぶの花を生けた花瓶が置かれていた。
海未母「海未は……道場で、首を吊っていました。天井の梁から長い縄を垂らして……」
海未母「朝一番に、掃除をしようとして見つけたんです。鍵が開いているので、おかしいと思いました」 それから彼女は、海未ちゃんが死ぬ前の晩の話をした。
笑顔が少ないのはいつものことだが、とても思い詰めているにようには見えなかった、ということだった。
また、海未ちゃんが最後に食べた食事は、ひじきの煮物だったらしい。
海未母「もっといいものを食べさせてあげればよかった、と悔やんでいます」
話が終わると、私は質問した。
穂乃果「海未ちゃんの遺書には、何が書かれていたんですか?」
海未母「ただひたすら、『申し訳ありません』『すみません』と。海未自身の、あらゆる行いについて謝罪の言葉を述べていました」
穂乃果「そうなんですか……」 海未母「私はとても悔しいのです。あの子に押し付けていた色々なことが、あの子の重荷になっていたかもしれないと……」
穂乃果「……海未ちゃんは、押し付けられたなんて考える人じゃないです。もっと自分のことで悩んでたんだと思います」
海未母「それは、私だってそう信じたいです。でも、全て自分の責任にしてしまうには……あの子は若すぎます」
穂乃果「そうですね……」
海未母「それと、少し疑問なのが……μ'sというすばらしい仲間たちに囲まれながら、なぜ自殺という道を選んでしまったかということです」
海未母「音ノ木坂学院やμ'sの中で、いじめなどはありませんでしたよね?正直に教えてくださいませんか?」
穂乃果「……無かったと思います。私の知る限りじゃ」
海未母「そうですか。ありがとうございます」
穂乃果「……」
海未母「別に問題にするつもりはなかったのです。私はただ本当のことを知りたいだけなのです……」
海未母「……」 穂乃果「……海未ちゃんの部屋、行ってもいいですか?」
海未母「ええ。案内しましょうか?」
穂乃果「いえ、大丈夫です」
海未母「そうですか……」
私は海未ちゃんの部屋に行った。海未ちゃんの匂いがかすかに残っていた。
堅実な海未ちゃんのイメージには似つかない、女の子らしい匂いだ。
その匂いをかいでいると、バラバラになった海未ちゃんがそこら中に散らばっているような気がした。
私は部屋に散在する海未ちゃんの粒子を思いっきり吸い込んで、部屋を後にした。
穂乃果「そろそろ帰ります」
海未母「……そう。気を付けてくださいね」 ―六日目―
この日は、自分が一日何をしたのか、全く覚えていない。 ―七日目―
学校へ行くと、校門のあたりで希ちゃんと絵里ちゃんに出会った。
穂乃果「あっ、絵里ちゃん希ちゃん。おはよう」
できる限り笑顔を作って挨拶する。
希「おはよう」
絵里「おはよう。なんだか元気がないわね」
穂乃果「そ、そうかな?」
絵里「……希、ちょっと先に行っててくれるかしら?私は穂乃果と話したいことがあるの」
希「……」
希ちゃんは何も言わずに行った。 絵里「ああ見えて、寂しがり屋なのよ」
穂乃果「だよね」
穂乃果「それで、話って何?」
絵里「海未のことよ」
穂乃果「そのことは、あんまり聞きたくないよ……何を言われても、心に響く気がしないから」
絵里「私は、私なりに考えたの。聞いてくれない?」
穂乃果「お説教じゃないならいいよ」
絵里「……『死』の逆は、何だと思う?」
穂乃果「普通に考えたら『生』だよね。でも、そういう話じゃないんでしょ?」
絵里「そうよ」
絵里「……」
絵里「……海未は、死んだの」
絵里「死んだ者に合わせてたら、私たちは一歩も前に進めない。にこが言いたいのはそういうことだと思うの」
穂乃果「うん」
絵里「死者は歩かない。生き返らないわ」
穂乃果「そうだね」
絵里「生きている人間はいつか死ぬ。でも、死んだ人間はもう生きないの」
絵里「『死』は『死』であって、その逆はない。これが私の考え」
穂乃果「何を言いたいの?」
絵里「私たちは、死者に出来ないことをしましょう」
穂乃果「……わかった」
穂乃果「私は、私にしかできないことをするよ」 私は絵里ちゃんと別れ、教室に行った。
二、三人が話しかけてきたが、その声は私に向けられたものではないような気がした。
私の後ろに誰かが立っていて、それに話しかけているような感じだった。
話の内容もよく理解できなかった。
昼休みになると、私はまた屋上でお弁当を食べた。
辺りを見回しながら、次の練習はいつなんだろうと考えたりしたが、意味がないのでやめた。 ―八日目―
学校へ行った。私は孤独だった。
私は感情が六つくらい欠けたんじゃないかと思うくらい表情筋の活動量が減っていた。
ちょっと笑おうとするだけでどっと疲れた。
昼休み。私は例によって屋上へ向かった。
座るのに気持ちよさそうな場所を探していると、人の気配がした。
行ってみると、にこちゃんと凛ちゃんがいた。
二人は、キスをしていた。 穂乃果「……何やってるの、二人とも?」
凛「あっ……」
にこ「……」
穂乃果「二人とも、そういう関係だったんだ。隠してたの?」
凛「い、いや……その……」
しばらくして、にこちゃんが答えた。
にこ「隠してたんじゃないわ。隠れてただけよ」
にこ「見つかったのなら仕方ないわ。言いふらしたいならそうすればいいじゃない」
凛「に、にこちゃん……」
にこ「あんたの行動次第で、私のあんたを見る目は変わるかもしれないけど」
穂乃果「……別に、私は何もしないよ。そういうことならずっと続けてればいいじゃん」
穂乃果「私はお弁当を食べに来ただけだし」
にこ「……」
凛「に、にこちゃん……」
にこ「行きましょう、凛」
二人は屋上から立ち去った。
やっぱり私は孤独だった。 私は二人が立っていたあたりに座ってお弁当を食べた。
しばらくすると、かつかつとやたらうるさい足音が聞こえてきた。私は音のする方へ目をやった。
花陽「はあ、はあ、はあ……」
穂乃果「あっ、花陽ちゃん」
花陽「ほっ、穂乃果ちゃん……いいところに……」
穂乃果「どうしたの?」
花陽「凛ちゃんを見なかった?一緒にお昼食べようと思ってたんだけど……」
穂乃果「……」
穂乃果「知らないよ。全然知らない」
花陽「そ、そっか……じゃあ、またね」
そして、花陽ちゃんは去り際に言った。
花陽「早く、前みたいに戻れるといいね」
穂乃果「……」
前みたいには戻れない。
死んだ者は生き返らないからだ。 ―九日目―
『無かったことにする』ということは、逆説的に『あったことを認める』ということだ。
海未ちゃんが苦しんだという事実も、自殺したという事実も、消えてしまうことはない。
いくら蓋をして遠ざかってみても、起きてしまったことは事実として、その場所、その時間にあり続けるのだ。
そうすると、私は誰のためにそれを行おうとしているのだろう?
時間を巻き戻すことは、とても独りよがりな行為なのかもしれない、と思った。 穂乃果「……にこちゃん、なんで凛ちゃんと付き合ってるの?」
にこ「海未が死んだとき、私はほんの少しも泣けなかったの。『悲しい』って気持ちも、ほとんど浮かんでこなかった」
にこ「そんな自分がイヤだったの」
穂乃果「質問の答えになってないよ」
にこ「凛は……海未が死んだとき、一番純粋に悲しんでいたわ。純粋に悲しんで、純粋に泣いていた」
穂乃果「ことりちゃんの方が、もっと悲しんでいたように見えたけど」
にこ「純粋に悲しむのと、深く悲しむのは違うのよ」
穂乃果「どう違うの?」 にこ「凛は『海未が死んだ』という事実だけに対して悲しみを抱いているわ」
にこ「でも、ことりの場合は、様々な種類の悲しみが絡み合っているの」
にこ「例えば……」
にこ「海未と遊べなくなったこと、海未と歌えなくなったと、海未の成長が終わったこと、海未とあんたの喧嘩を見られなくなったこと……」
にこ「そんなたくさんの悲しみがね」
にこ「ことりのような悲しみ方は、私たちにはできないのよ。他に出来たとすれば、あんたくらいよ」
穂乃果「私の解釈が正しいなら、私はそんな悲しみ方をしてるよ」
にこ「どう見ても、あんたが悲しんでるようには見えないけど。この一週間少しでも泣いたことがある?」
穂乃果「どうでもいいよ。話を戻そう」
にこ「そう……」
にこ「……それで、あの子と一緒になれば、私はその気持ちを少しは共有できるんじゃないかって思ったの」
穂乃果「ふうん。そういうことだったんだ」 にこ「私もう行くわ」
穂乃果「待って。最後に一つ聞かせて」
にこ「何?」
穂乃果「凛ちゃんのこと、好き?」
にこ「……」
長い沈黙があった。
永遠が二回くらい繰り返せるんじゃないかと思うくらい長かった。
にこ「好きよ」
にこちゃんは眠たそうな顔をしていた。 ―十日目―
学校へ行った。
真姫ちゃんが用があるというので、私は少し早く家を出た。
穂乃果「おはよう、真姫ちゃん」
真姫「おはよう」
穂乃果「どうしたの?」
真姫「海未のことなんだけど」
穂乃果「なんでみんな海未ちゃんについて話そうとするの?自由研究の材料と違うんだよ?」
真姫「ふざけないで」
穂乃果「ふざけてなんかないよ。疲れてるからへんなこと言うかもだけど、気にしないで続けて」
真姫「なんで海未は死んだのかしら。彼女にとって、μ'sの活動は人生を救うほどの支えにはならなかったってことでしょ?」
穂乃果「そうなんだろうね」
真姫「生きてたらもっといいことがあったはずじゃない。なんで一時の感情に任せて死んじゃうのよ」
真姫ちゃんは泣いているように見えた。 穂乃果「……真姫ちゃんは、海未ちゃんのこと好き?」
真姫「私は……」
真姫「……もっと、好きになりたかったわ」
穂乃果「なら、もっと好きになればいいよ。海未ちゃんは死んでも海未ちゃんなんだから」
真姫「でも、海未はもうこの世には存在しないのよ」
穂乃果「ヒントを言うとしたら……真姫ちゃんの中には、二種類の海未ちゃんがいるってことかな」
穂乃果「『記憶の中の海未ちゃん』と『想像の中の海未ちゃん』」
真姫「……」
真姫「……わかったわ。ありがとう」
穂乃果「ううん、こちらこそ。じゃあね」
真姫「ええ。またね」 放課後。絵里ちゃんの呼びかけで、集まることになった。
にこちゃんと凛ちゃんはばっくれた。部室には絵里ちゃん、希ちゃん、花陽ちゃん、真姫ちゃん、それに私の五人だけが集合した。
全員が席に着くと、絵里ちゃんが言った。
絵里「……μ'sは、これからどうなるの?」
その言葉は、底なし沼に投げ込まれたみたいに、沈黙へ吸い込まれていった。
そのうち、希ちゃんが絵里ちゃんの言葉をなかったことにしたみたいに喋り始めた。
希「みんな、続けよう?」
希「せっかくみんなでここまで来たのに、こんな形で消えてしまうなんてイヤや」
花陽「希ちゃん……」
希「せめて、もっといい終わりにしようよ……」
希ちゃんは悲しい顔をした。通夜のときより悲しそうだった。 絵里「みんなはどうする?続けるの?」
花陽「私たち、九人全員がそろってμ'sだと思う。だから、μ'sって名前はなくした方がいいんじゃ……」
真姫「海未は、そうやってなんとなくμ'sが消えていくことを望んでたの?私は違うと思うんだけど」
絵里「穂乃果はどう?」
穂乃果「……」
みんなの話を聞いているうちに、なんだか苛立ってきた。
穂乃果「あのさ……」
希「穂乃果ちゃん?」
穂乃果「みんなμ'sのことしか考えてない!海未ちゃんのことをだれか考えてる!?」
穂乃果「海未ちゃんは海未ちゃんなんだよ!μ'sの一員になる前から、ずっと!」
穂乃果「私たちは、アイドル活動をする以前に、ひとりの人間が死んだ事実を悲しんであげるべきなんだよ!」
穂乃果「海未ちゃんの苦しみを考えたことあるの!?海未ちゃんがどんな気持ちで自殺したか、気にもならないの!?」
久しぶりに大声を出した。 絵里「……そう……確かにあなたの言う通りかもしれない……」
穂乃果「私は一番大事な部分をずっと考えてる。でも、なかなか割り切れない」
希「穂乃果ちゃん……」
穂乃果「……私、帰るよ」
私は帰った。 夜。大雨が降っている。
私はベッドに寝転び、女性同士のセックスを想像していた。
想像の中では女性二人が裸で抱き合い、ベッドの上を転げまわっていた。
何回転もしているうちに、二人の女性はどっちがどっちか分からなくなってしまった。考えているうちに馬鹿らしくなってきた。
穂乃果「はあ……」
母「穂乃果ー!」
穂乃果「……?」
穂乃果「お母さん、呼んだー!?」
母「早く来なさい!」
穂乃果「まったく、何があったの……?」 私は部屋を出て、階段を下りた。
玄関には傘を持った女の子が立っていた。
ことり「久しぶりだね、穂乃果ちゃん」
穂乃果「こ、ことりちゃん!?」
私は驚いた。
ことりちゃんがいることより、ことりちゃんがファッション性のかけらもない服を着ていることに驚いた。
母「……私はお邪魔みたいだから失礼するわね」
穂乃果「う、うん……」 お母さんがどこかへ行ってしまうと、ことりちゃんは話し始めた。
口を開けてから声が出るまでに、少しの間があった。
ことり「……」
ことり「……親戚のうちに、いさせてもらってたの」
穂乃果「なんで何も言わずに行っちゃったの?みんな心配してたよ」
ことり「誰にも邪魔されたくなかったの。ごめんね」
穂乃果「何をやってたの?」
ことり「この一週間……私は、ずっと考えてたの。海未ちゃんとの思い出を」
穂乃果「海未ちゃんとの……思い出?」
ことり「一緒に遊んだり、喧嘩したり、学校に行ったり……そんな、海未ちゃんに関する全てを」
穂乃果「……」
ことり「鉛筆を借りたこと、ガムを踏んづけたこと、烏の死骸を見て泣いたこと、七年前の七月三十日に買ったアイスがチョコ味だったこと……」
ことり「どんな些細なことも、できる限り思い出した。海未ちゃんに出会ってから、別れるまでの出来事を」
穂乃果「それで……?」
ことり「私は思い出すたびに、それをノートに書いていったの」
ことり「どんなことも正直に、正確に。海未ちゃんが泣いてたことも、恥ずかしがってたことも、怒ってたことも。全部」
穂乃果「……」
ことりちゃんはうつむいた。 穂乃果「ことりちゃ――」
ことり「一週間だよ!?」
ことりちゃんは私に掴みかかった。
その顔は怒っているようにも、泣いているようにも見えた。あるいはその両方にも見えた。
穂乃果「え?」
ことり「私は記憶が枯れるまで書き続けた!でも、一週間で終わっちゃったの!」
穂乃果「……」
ことり「海未ちゃんは生まれた時から友達で、十数年も一緒に過ごしてきたはずなのに……」
ことり「本当なら、十数年かけて、隅から隅まで思い出してあげたかったのに……」
ことり「……たったの、一週間」
ことり「一週間で、全部終わっちゃった……」
穂乃果「……ことりちゃん……」
ことり「生きている人なら、これからまだまだずっと思い出を作っていける」
ことり「でも……海未ちゃんは、もう……終わっちゃった……」
穂乃果「……」 ことりちゃんは静かに泣いた。
私はことりちゃんを抱きしめた。体はとても軽くて、芯まで冷え切っていた。
穂乃果「大丈夫。終わってなんかいないよ」
ことり「ううっ……うう……」
穂乃果「私が、終わらせない」 ―零日目―
穂乃果「う、海未ちゃん!?何をやってるの!?」
海未「な……」
海未「穂乃果、どうしてここに?」
穂乃果「そんなのどうでもいい!なんで海未ちゃんはそんなことしようとしてるの!?」
海未「……もう決めてしまったことです」
穂乃果「やめてよっ!」
私は海未ちゃんに抱きついた。
海未「……」
穂乃果「ねえ、どうしてこんなことするの……?μ'sのみんなと一緒に、ラブライブ!に出ようって決めたよね……?」
海未「それより前から、こうすると決めていたんです。申し訳ありません」
穂乃果「なんで……ねえ、なんで!?」
海未「……」 海未「眩しすぎるんです。あなたたちが」
穂乃果「眩しい……?」
海未「まっすぐに、前だけを向いて進むことができる……あなたたちが」
穂乃果「そ、そんなことで……」
海未「『そんなこと』ではありません」
海未「私には、絶対に、あなたたちのようにはなれないんです」
海未「例えば……自分の上にも自分がいて、自分はそれを見上げていて……自分が見上げている自分もまた、その上の自分を見上げている……」
海未「そんな感覚です」 海未「そんなことをやっている間に、私は自分を見失ってしまいます」
海未「深い海に沈められたみたいに、もがいてももがいても抜け出せなくて……水圧と寒さで、頭がおかしくなるんです」
穂乃果「そこまで考えられるなら、海未ちゃんは自分のことが見えてるんだよ!大丈夫だよ!」
海未「違います。見えてないから考えるのです」
海未「そして、考えた挙句、気づきました……一生、この海のような地獄から抜け出すことはできないと」
海未「だから死ぬことにしたんです」
海未「もちろん……決心するまでには、随分時間がかかりました。でも、今日でやっと解放されるのです」
海未「だから止めないでください」
穂乃果「ダメだよ……そんなことしたら、みんな悲しんじゃうよ……」
海未「……覚悟の上です」
穂乃果「μ'sのみんなも、海未ちゃんのお父さんやお母さんもだよ……」
穂乃果「そうだ、海未ちゃんのおばあちゃん、この前話したらすごく良い人だったよ。口には出さないけど、海未ちゃんのこと大好きなんだよ?」
穂乃果「海未ちゃんがいなくなったら、絶対泣いちゃうよ……」
穂乃果「それにことりちゃんだって……海未ちゃんのこと……ちっちゃいころからずっと一緒で……」
海未「……本当に、申し訳ないと思っています。そのことについては、遺書にしたためてあります」
穂乃果「なんで……」 海未「私の苦しみは誰にも理解してもらえないのです。誰にも理解されない種類の苦しみなのです」
穂乃果「私は海未ちゃんの言いたいことがわかるよ!」
海未「あなたは全くわかっていません。そもそも、私にわからないことがなんであなたにわかるというのですか?」
穂乃果「……っ!」
海未「もう行ってください。死ぬところを見られるのは恥ずかしいので」
穂乃果「……」
穂乃果「う……」
穂乃果「……海未ちゃんの、馬鹿っ!」
私は海未ちゃんの頬を思いきり打った。
海未ちゃんは少しよろめいて、頬を抑えた。
海未「……」
穂乃果「海未ちゃんの、バカ……」
涙があふれてきた。 穂乃果「なんで……こんな……みんな、海未ちゃんのこと大好きなのに……」
穂乃果「海未ちゃんには、なんにもわかってないんだから……」
海未「ええ……わたしにはわかりません」
穂乃果「戻ってよ……元の海未ちゃんに、戻ってよ……」
海未「無理です……もう無理なんです!」
穂乃果「ううっ……いやだ……」
海未「穂乃果、出ていってください。誰にも、どうすることもできない問題なのです」
穂乃果「いやだ……いかないで……海未ちゃん……」
海未「……」
海未「すみません。少しの間、眠っていてもらいます」
穂乃果「や、やめてよ……なんでそんなもの持ってるの……」
穂乃果「いやっ、やだ……海未ちゃん……!」
海未「……」
穂乃果「海未――」 私は夢を見た。
海未ちゃんが死ぬ夢だった。
夢の中で、海未ちゃんは自分で首を吊って死んだ。
私はその夢を見た朝から、時間を巻き戻す能力を身に付けた。 μ'sと僕たちのキセキ〜60分で振り返る「ラブライブ!」3rd
ラジオNIKKEI第1 2月10日(土)16時〜 なんか原作があってそれに当てはめて作ってる感あるけど、結局なんで海未ちゃん死んだの? 海未ちゃん救うまで無限ループってことか
しかもその海未ちゃん救うことが望み薄じゃないか… 海未ちゃんは何を持っていたのかがこのSSの最大の謎
スタンガンあたりが妥当か 穂乃果が海未を説得するときに穂乃果自身の気持ちを伝えてないような気がするんだが海未の自殺と関係あるのかな… 海未ちゃんが輝いているみんなにコンプレックスを抱いたから自殺したって事? >>54
続編は無いです
>>55
それは直接の要因ではない 無意味
この駄文を読んで無意味という言葉しか浮かばなかった ループは置いといてところどころいい感じの表現があるのが不思議な味わい
海未母が最後に食べさせたのがひじきなのを後悔したりにこが眠そうに答えたり 穂乃果がループしてるなら海未もまたループして疲れしまったのかなと考える 海未ママに対する穂乃果の口調に違和感。あとは家族ぐるみの付き合いだからおばぁちゃんとも面識あるだろうに
>穂乃果「そうだ、海未ちゃんのおばあちゃん、この前話したらすごく良い人だったよ。口には出さないけど、海未ちゃんのこと大好きなんだよ?」
とかいう言い回しも変 作者はなんの説明もしないし
糞だな
ほのかが死を認めたくないからループし続けてきたけど限界がきたってことか
途中のりんにこも意味ないし、なんなんこれ これ海未が最初のこのループ被害者っぽいな
零日目が海未のループ因果の終わり
そして穂乃果ループ因果の始まり
その次の日の海未の通夜でウソ泣きしてるとか言われてる花陽、絵里のどちらかそっからループしてるくさい
だからμ's全員1日ずつズレてこの十日のうちどっからかスタートしてループしてる説
よく分からんが 特に考えてないけどなげっぱなしにすることで勝手に都合良い解釈をしてもらうやつだぞ なんかミステリーものならちゃんと見ようかなとは思うけどそうでないんならさらっと目を通して終わりなんだけど 一日目ににこの記述のみが無いことも注視する必要がありそう まあ、海未ちゃんが自殺なんて有り得ないし考えたくもないからな ネタ詰めて無いから訳わかんないね面白みが無い
邦画ホラー目指したんだろうけど >>64
それぞれ9人がずれてループに巻き込まれてんのかなとは俺も考えたが辻褄が合わないな
キャラの不可解な行動、反応はループしてる前提だと納得いくものも多いが ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています