【BiBi】深夜の調査隊
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真姫「行くわよ」
絵里「ええ」
にこ「OK」
今日も我々は出発する。
白銀の月光をこの三身に浴びながら。
知的好奇心を満たすべく、新世界を探求する旅が、始まる。 真姫「さて、本日の題目は?」
にこ「紙パックの飲み物はストローで飲むほうが美味しいか、コップに注いで飲む方が美味しいか、よ」
立案者であるにこが答える。
なかなか奥深い議題に思う。
絵里「なかなか興味深いわね。誰もが気にしたことがあるような疑問だけど、基本思うと同時に忘れてしまうような埋もれがちな疑問じゃないかしら」 真姫「同意見。普段の何気ない行動の裏では様々な知らない事実が動いているのに、我々は無視している。ニュートンはりんごが地面に落ちるところに疑問を抱いて研究をしたのよ」
絵里「素晴らしいわ。にこ。誰よりも気遣いができて多くのことから逃げずにこなしてきたにこだからこそ抱けた疑問ね」
にこ「ふふ。私の目から見れば世界とは疑問で構成されていると言っても過言じゃないわ」 真姫「にこちゃんのNとニュートンのN。これはただの偶然なのか、研究のしがいがありそうね」
にこ「はぁ?違うわよ、にこのNは真の回答が私の中でもう出来上がってるから。まずにこという名前はアイドル──」
──と脱線してにこの名前の考察について議論しながら歩いていると、すぐそばのコンビニに到着した。
真姫「ええと、紙パックの飲み物だったかしら」
絵里「ええ。大きさや種類を変えで複数購入するべきね。ストローやコップも調達しないと」
真姫「そうね」
真姫は頷いた。 にこ「んー」
しかしにこは、満足いかない声を漏らした。
絵里「どうしたの?にこ」
にこ「話に夢中で気が付かなかったけど、ここのコンビニは一種類の紙コップ、それからせいぜいアイスコーヒーとセットになってるプラスチックのカップしかないの。というか紙コップがあるだけコンビニではマシな方」
真姫「なるほど」
真姫は納得したようだが、私はその紙やプラスチックのコップではいけない理由が見つからない。 絵里「その紙やプラスチックでは駄目なの?」
にこ「駄目じゃないんだけど、もっと種類が欲しいのよ。というのは、「コップに注いで飲む方が」としか言ってないけど、そのコップによってもにこは味が違うと考えるの。絵里だって飲み物の大きさや種類を変えるべきって言ったでしょ?コップも同じことだと思う」
絵里「ハラショー。さすがにこね」
にこ「立案者なんだから、問題をしっかりと把握していて当たり前よ」
ますます奥深い議題だ。
これは全てが解明できれば、例えば水がありとあらゆる飲み物と化すのではないだろうか。 真姫「…くく。水が万物となるのも時間の問題ね。タレスもあながち間違いではないのよ」
真姫も似たようなことを考えたようだ。
絵里「…世界は私達のものね」
にこ「…目的地変更ね。天下統一の拠点となる場所、なんでも揃って便利なお店。そう、ドン○キホーテへ」
にやりと口を歪めた我々三人はドン○キホーテへの街頭に照らされた道を駆け出した。 飲み物、ストロー、コップを山ほど購入した我々は、そこから五分ほど歩いた場所にある公園のベンチに腰掛けた。
山分けしても半端なく重かった。腕釣りそう。
真姫「はぁ…。はぁ…。タクシー、やっぱり呼べばよかった…げほげほ」
ブルジョアジーである真姫に至っては腕が完全に脱力しきっている。
にこ「死にそうじゃない。黒塗りのリムジン呼ぶくらいならプロテインに金回しなさいよ」 買い物してる途中に真姫が「今のうちに呼んでおくから、重たいでしょ」とスマホを取り出したのだが、真姫から顔を背けて私の方だけ見て怪訝な顔をしたので、
私は「一汗かいたほうが飲み物は気分良く飲めるわ。早計ではないかしら」と提案すると、真姫は「そう…まあ、空腹は最高のスパイスって言うし」と言ってスマホを納めたのだ。
家族の家計に深く携わるにこは無駄遣いなどをあまり好ましく思っていなく、雲の上に乗っているのかと錯覚するようなリムジンのシートがどうも落ち着かないらしい。
私としては残念である。
あれは感動ものだ。 まあ、汗かいたほうが美味しくなるのは本当。わざわざ運んだんだから、早く飲もう。
絵里「ほら、わざわざ苦労したんだから、疲れてるうちに飲みましょ。さ、どうする?」 それから実に様々な組み合わせで味を試した。
なんか甘いだの、なんか変な味するだの、なんか高級感あるだの、なんかいつもと違うだの、色々な感想はあったものの、その回答はてんでばらばらだった。
だから、ストローorパックという二択に対する解答は得られなかった。
それでも、分かったことがある。 真姫「あー口おかしくなってきた。麦茶あったでょ?頂戴」
にこ「はいはい。ほいさ」
絵里「あら?」
液体が入ったグラスが真姫に手渡される。
ほの暗い月の下では、その液体の透明度くらいしか明かされない。
真姫「ありがと。ん…っうわ、甘!これ紅茶じゃない、ちょっとにこちゃん!」
にこ「て、てへ、ごめんにこ」
絵里「…」 ああ、そういうことか。
真姫がぶーぶー言ってにこはそっちに気を取られてる今のうちに、ゴミ入れになってるドン○の袋を漁る。
絵里「まあまあ、二人とも。ほら、真姫、麦茶。これでいいでしょ」
真姫「ん、ありがと」
にこ「さーっすが絵里、気が利くにこー」
真姫には麦茶のパック、にこにはカフェオレのパック。それぞれストローをさして渡した。 真姫「っぅええ、何よこれアクエリエスじゃない!私を虐めて何が楽しいの?!」
にこ「うーん、このカフェオレもいちご牛乳の味がする。なんか裏切られた感じ」
そう、裏切られた感じ。
それこそが、今回の題目の本質。
絵里「真姫、紅茶は嫌い?」
真姫「え?いや、好きだけど」
絵里「にこもいちご牛乳は好きよね」
にこ「好きだけど味覚って直接体内に行くものだから、不意打ちはちょっと…」 真姫「敏感な場所だからこそ、イメージと違って脳が拒否反応を起こすんだと思う」
そう。
絵里「つまり、そういうこと。飲むとき、私たちは自ずとその味を、風味をイメージしてるわ。知っている名前や見た目、商品を象徴するパッケージはイメージさせるの」
二人は私の声に集中する。
きっと、こんなことは誰でも分かっている。 絵里「普段から慣れ親しんでるはずの紅茶、アクエリエス、いちご牛乳。それと知らずに飲んだ真姫とにこの顔は、喜怒哀楽で言えば、怒か哀。正負でいえば負。
つまり不快寄りな顔だった。それは味に対する何らかの反応だから、口に入れた瞬間は「おいしい!」じゃなくて「まずい!」に近い反応を示したことになる」
でも、私は説明する。
私達は追求する。
絵里「自分の思い描いたイメージとの差異を感じた瞬間、そこには「不味さ」が生まれるの。それは飲み方でも同じことで、普段ストローにさして飲むことしかしない牛乳をコップに注いだら何か違うなーみたいな」
真姫「そのイメージって、飲む直前のことでしょ?不意打ちされたらそう感じるのは理解できるけど、ストローとコップは関係ないわよ」
鋭い真姫が突っ込みを入れてきた。 絵里「確かにそうね。うまく言えないけれど、自分の知らない状況っていうのかしら。予想、イメージ、期待を裏切られたときに、一瞬たりとも負の感情が生まれるのよ、特に味とか、五感は」
にこ「食レポで「良い意味で期待を裏切られました」ってよく耳にするけど」
絵里「あくまで決定付ける要素の一つってこと」
にこ「多くある数字の中の負の数ってこと?」
絵里「ええ」
自分だけでは正解が明後日に走ってしまう疑問を、私達は追求しているのだ。
ただただ、知的好奇心を満たすべく。 絵里「だから甘い納豆は醤油しか想像できないから不味い。苦いチョコレートは不味い。同じように、パッケージと違う飲み物には驚くし、ストローでのむコーン缶は美味しくない」
真姫「コーン缶は嫌ね」
絵里「結論。今回の題目の解答は見つけられなかった。それが正解。「解なし」が答えなの。人によって知識も経験も価値観もイメージも違うんだから、十人十色の感想で当たり前なのよ」
分かりきったことを、より深く。分解して。
真姫「そうね」
にこ「解なし。それは無限と同義。奥深いどころか底なしじゃない」
真姫は髪をくるくるいじりながら晴れやかな表情をして、にこは底なしの探究心をその目に光らせて悪役っぽくニタァと笑った。
何気ない疑問を、どこまでも限りなく、分解する。
そうすることで、世界を、宇宙の理の全てを知りたくて、掌握したくて。
純粋なその気持ちを、糧にして。
今日も一つ、我々は世界の真理を解き明かす。
無限の世界を、我々の手をもって広げるのだ。 絵里「飲み物用のコップをタイゾーに買いに行って、幼い私は何を考えてか、おそらくそれの見た目が一番気に入ったんでしょうね、洗面台用のコップを選んでしまったのよ」
にこ「うん」
絵里「買ってきたはいいものの、何とも言えぬ抵抗があって、炭酸飲料を2,3回飲むのに使用したんだけど、ほとんど使うことなく洗面台用に降格してしまったわ」
にこ「牛乳とかアレで飲む気のはキツいなあ」
真姫「歯磨き用のカップと同じのを調達してマグカップに使いたいかと考えると微妙な気分かも、確かに」 絵里「11歳の私の誕生日に亜里沙が私にプレゼントしてくれたガラス製のコップをずっと使ってるんだけど、あれで飲むと水道水が一杯1500円の水と思えるくらい特別に美味しいの」
にこ「シスコン?」
真姫「シスコンよ」
絵里「おかしいわ。ここは共感してくれると思ったのだけど」
下らない話をしながら、真っ暗な空の下、月の光と街頭を頼りに歩く。
延々と続く先の見えない黒い空が、自分の心を見透かしているように思えた。
題目:紙パックの飲み物はストローで飲むほうが美味しいか、コップに注いで飲む方が美味しいか
結論:解なし
考察:各々の持つイメージが味を決定する一要素である。イメージをコントロールすることで世界は無限に広がる。
プロローグ 終 いろはすの見た目水そのものなのにミルクティーのやつは絶許 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています