真姫「天使の貴方」花陽「悪魔な貴方」
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私は真姫、悪魔よ。
…悪魔っていうのは比喩だとかそういうものじゃなくて、本当に悪魔って種族そのものよ。
この領域は天使と悪魔だけが存在しているの。私はそのうちの悪魔側ってこと。
天使も悪魔もお互い、種族としては全く仲良くないんだけどね…。
_____ 「うーん…今日の予定していた分の勉強はこれで終わりね。魔法医学ってどうしてこんなにややこしいのかしら…」
(あら、もうこんなに夜更けなのね)
「…最近根詰めてたし、久しぶりに空に浮かぶ星でも見に行こうかしら…」
(パパママにバレないようにこっそり、ね…)
…… 「…すぐ戻るし、バレない…わよね?」
(それにしてもいい天気ね…。星もよく見えそう。いつもの見晴らしのいい丘に向かいましょう)
(…そういえば、天使と悪魔ってどうして仲が悪いのかしら。何か大きな理由が…?)
(パパにも天使とは関わってはいけない、なんて言われてるし…今度何故か聞いてみるのもいいかも) (って、頭休める為にお屋敷抜け出したのにこんなに色々考え始めたら意味がないじゃない!)
(……)
「…私だって天使と…」
(…っと、そんなこと考えてるうちに着いたわね。…て、あら?)
「先客…かしら…」 (後ろ姿しか見えないけど、綺麗な栗色の髪…巻かれていて可憐ね…。そして、小振りだけど真っ白で無垢な羽…きめ細やかで繊細…)
「……!?」
(ってあれ、天使じゃない!!?
……どうしましょう。折角ここまで来たけど、普段あれだけ関わってはいけないなんて言われてる天使が居たら…。
…でも、別に私自身は天使と関わりたくないわけじゃ…むしろ…) 「…?あっ…あの…こんばんは」
「…っ、ヴェェッ…!」
(もたもたしてたら目が合っちゃったわ…!)
「あ、もしかして御用があってここに…?そうなると私、お邪魔でしょうか…?」
「…っ!そ、そんなことはないわ。用事があるのは確かだけどそんな大したものではないから 近所の犬が本当に怖い。外飼いで繋がれてはいるけど長いロープである程度は自由に動けるようになっていて、横の道を通行人が通るたびに唾が飛ぶほど吠え威嚇。大型犬だから声も大きい。
一歳半で去勢したけど効果なし、むしろさらに威嚇して凶暴化。
飼い主は50代で甘やかしているよう。
野犬のような見た目だし、早くいなくなればいいのにと思っている。
吠え方もトチ狂ったような鳴き声で、最近はイライラしすぎてその犬の前を通るのがストレスになってきて精神的に辛い。
でもゴミ出しで通らなきゃいけないんだよ…。 力士としての矜持を貫き、もはや角界の伝説となった
平成の大横綱・貴乃花親方が>>8get!!
,r'^⌒⌒ヽ,r''⌒`ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ;;;;;;;;;;;;;;;;ゝ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノノ~~~~`ヽ;;;;;;;;;;;;i
!;;;;;;;;;;;;イ::. /~~~\ ヽ;;;ノ
ゝ;;;;;;;|:::: (●) ,(●) |シ
从从/: \ 、_! / ノ
从从 i 'ー三-' i l
ノ从ヽ._!___!_/
>>1 非常にすがすがしいスレであります。
>>3 >>2getには心の底から納得しております。
>>4 >>2getに不惜身命を貫く所存でございます。
>>5 集英社は昔、ジャンプで連載されていて若花田、貴花田の半生を描いたまさに幻かつ伝説の作品で
小畑健大先生が作画を担当し、あの和月伸宏先生もアシスタント時代に手掛けていた
『力人伝説』を今こそアニメ化、そして完全版で出すべきであります!!
>6 ・・・・・・・・・(マスゴミ共め俺の事を色々嗅ぎ回りやがって・・・!
うぜーんだよマスゴミ共の分際で!!俺様の謎の圧力をかけてぶっ潰すぞテメーら!!)
>7 白鵬の勝つためには平気でラフプレイをするその腐った根性はまるで黒バスの花宮そのもの(笑)なので
今度から奴の事を角界の花宮(笑)と呼ぶべきであります。
>9 この一連の日馬富士暴行事件はどう考えても元はといえば白鵬が一番悪いのであります!! 「そ、そうでしたか…よかった」
「…貴方こそ、どうしてこんなところに?」
「私は…星を見に来たんです。ここ、すごく夜空の眺めが綺麗で」
「あら…その、私も同じ、なんだけど…」 「そうなんですか?」
「えぇ…」
「……」
「…その…一緒しても…いい、かしら…?」 「…!はい、私は全然構わないですよ」
「じゃあ…隣失礼するわね」
「はい…」
「……」
「……」 (…!隣の子に意識を向けてたから気が付かなかったけど…今日の星空、いつもに増してとても…)
「とても…綺麗…!」
「…ふふ、すごく綺麗ですよね、ここから見える星空。今日はいつもに増して綺麗かも」
「えぇ、そうね。私も同じこと考えたわ。…ってことは、貴方もよくここに星を見に?」 「はいっ…ていってもつい最近通い始めたばかりなんですけどね、あはは…」
「そうなのね」
(つい最近…通りで今までは会ったことはないわけね)
「私はね…割と昔からここがお気に入りの場所なの。すごく頻繁に来るってわけじゃないんだけど、それでも何か思い詰めたり悩んだりしたらここに星を眺めにきたり」 「あ、そうなんですね…。ごめんなさい、私生意気に…」
「な、なんで謝るのよ!べ、別にそういうことで言ったわけじゃ…!」
「…えへへ、優しいんですね…。えっと…あ、まだお名前も聞いてなかった…」
「…真姫よ」
「え?」 >>8
その犬は先天性のガイジ確定。ウチの隣にもいる
誰彼吠えたてるってのは遺伝子が壊れてるんだと思う
そういうガイジ犬は保健所行きor甘やかす飼い主が飼うかになる。
そういう近所は配達員とかにも嫌われるから運送会社によっては再配達されないケースもあるよ
飼い主は躾の覚悟無しに飼ってるだろうから保健所から指導して貰えるかも・・・ 「私の名前は真姫。貴方は?」
「…花陽です」
「花陽…天使らしい素敵な名前ね」
「そ、そんな…ま、真姫さんこそ…」 「真姫でいいわよ。それに、敬語も使わなくていいわ。自慢じゃないけど私屋敷暮らしで、普段から御遣いの人達から私はいいっていうのに敬語使ってもらってるから…こういう場でまで改まった言葉遣い聞くのは逆に疲れちゃうわ」
「…そっか…。じゃあ、真姫ちゃん…」
「……///そ、それでいいのよ…//」 「えへへ…ありがとう、真姫ちゃん」
「ど、どういたしまして…?」
「あっ!見て真姫ちゃん、あの星すごく綺麗だよ!」
「…あれはアルタイルね。私も好きよ」 >>17
レスありがとう。あと十数年間生きてその間ずっとゴミ出しの度に唸られ威嚇されるのかと思うとすごくストレスだよ…。
誰でも通れる場所に犬小屋があるから近所の子ども達がからかってサークル内に色々物を投げ込んでいたらしくて、飼い主が最近監視カメラをつけたんだが、それより先に無駄吠えを超えた凶暴な犬のしつけをしろと…。
保健所には夏に一度連絡したが飼育状況を一度確認しますと連絡きたが全く変化なし。
ストレス溜まりすぎてはげそう。 「聞いたことはあったけど、あれがアルタイルなんだぁ…。真姫ちゃん詳しいんだね」
「ふふ、だから言ったでしょ?伊達にここに通ってないわよ」
「ほんとだね。私ももっと勉強しないとなぁ」
「そのうち覚えるわよ」 「そうかな?」
「そうよ」
「…そっか…えへへっ」
「…うふふ」
……
________
_____
___ 気が付いたら星が見えなくなるくらいに明るくなるまで、夜通し彼女と時間を共に過ごしていた私は屋敷に帰ってパパにこっ酷く怒られた。
ママが困り眉作りながら仲裁してくれたから何とかその場は収まったけど…私としたことがうっかりしてたというか…。 彼女…花陽と出会ったのはその夜が初めてだったのに隣合っていてとても心地の良い相手だった。夜が耽るのが一瞬にも感じられた。
思えば私って心を許せる友人とかそれ以上のような関係って築いたことない。
…… 「……」
(昨晩で心がリラックスしたのかしら…。魔法医学の知識がスラスラ頭に入ってくる。…それと同時に…花陽の顔がチラチラ脳裏を過る)
「…今日もキリのいいところまで勉強にカタを付けたし、また星見に行こうかしら…。今日はパパもママももう眠ってるはずだし…御遣いさんも今日はもう出払ってる…はず…」 (…大丈夫よね。昨日みたいにうっかり朝帰りしなければいいだけのことよ)
「そうよ、これはただの…気分転換」
(部屋のドアを出て…。玄関を目指して…、と)
「足音立てちゃ駄目ね…」
(ゆっくりゆっくり…) 「真姫ちゃん?」
「ヴェェッ!?マ、ママ…!!」
「……」
「あの、その、これは…!」 「…素敵なことでも見つけたのかしら?」
「え…?えっと…」
「何処かはわからないけれど、昨日と同じところに向かおうとしているでしょう?」
「ヴェッ…どうして…」 「今日の朝、貴方がパパに叱られている時の反省の表情も勿論見ていたけれど、その前の…帰ってきてすぐのどこか清々しい表情をした貴方も見逃さなかったわ」
「え、そんな顔…っ」
「していたのよ。…うふふ、真姫ちゃんのあんな表情見るの久しぶりでね、ママ嬉しかったの」
「……」 「だから、止めないわ」
「…!」
「真姫ちゃんがお勉強もちゃんとしてること、分かってるものだしね」
「ママ…」 「でも…1つだけ確認させて?真姫ちゃんにとって危険なところじゃないって約束してくれるかしら?」
「え、えぇ、勿論よ!私の…私だけの素敵な場所なの…」
「…ふふっ、いいことね」
「そう、かも…」 「あ、でも流石に今日みたいに遅くなり過ぎちゃ駄目よ?これは真姫ちゃんとママだけの秘密だから、パパに知られちゃいけないんだからね」
「わ、わかってるわ。…じゃあ、いってきます」
「ふふ、行ってらっしゃい」 「あっ…あの…ママ…」
「どうしたの?」
「その…ありがと…」
「…どういたしまして」
…… (玄関から抜け出そうとしてるのをママに気付かれた時は頭真っ白になったけど…よかったわ…。やっぱりママ優しい)
(といっても…今日もあの場所に花陽がいるかはわからないけど)
(まぁ星はそれなりに見えそうな空模様だし、その時はそれだけでもいいわね) 「あ……」
(よかった…花陽、今日もいるのね)
「は、花陽っ」
「…あっ、真姫ちゃん!今日も星見に来たんだね」
「そ、そうね。そんなところよ」 「えへへ、嬉しいな。真姫ちゃんいつもここに来るわけじゃないって言ってたからまた次会えるのはいつになるのかなって思ってたけど…。もう会えちゃった」
「な、何よそれ…//べ、別に星は1人でも見られるでしょ?」
「そうだけど…でも、やっぱり真姫ちゃんと見る星が花陽は好きだな」
「も、もう…//」 「えへへ、照れてくれてるのかな?真姫ちゃんってそういう時とかに髪をいじいじする癖があるよね?」
「ヴェッ…!これは…」
「昨日からちょっと思ってたんだけど、やっぱりそうなんだね」
「…つい出ちゃうのよ」
「ふふ、いいと思うな。それも真姫ちゃんの個性」
「あ、ありがと…//」
…… 「今日も星がよく見えるね」
「そうね。特に…あの星なんか綺麗ね」
「あれは…バテン・カイトスだね」
「ばてん…かいとす…?」 「うん。くじら座っていう星座があるんだけどね…バテン・カイトスはその星のうちの1つなんだ」
「へぇ…それは知らなかったわ。花陽も詳しいのね?」
「えへへ…私最近家で星について書いてある本を読むのが好きなんだ」 「なるほどね、それで知ったわけね」
「うん、たまたま今日読んでた内容にバテン・カイトスが載ってたんだ」
「くじら座っていうのも初めて聞いたわね」
「真姫ちゃんの星座は?」 「私はギリギリ牡羊座ね」
「そうなるとお誕生日は4月の半ばとかかな?」
「ふふ、流石ね。そうよ、私の誕生日は4月19日」
「そうなんだ!覚えておくね」 「それは嬉しいわね。花陽は?星座」
「花陽はね、山羊座だよ」
「てことは誕生日は年の瀬とか?」
「ちょっと離れちゃうけど…1月17日なんだ」
「そうなのね。私も覚えておくわ」
「えへへ、嬉しいな…」
…… 「…!いけない、長居しちゃったわ…!」
「真姫ちゃん?」
(まぁ今から帰ればまだ許容の範囲よね…?)
「真姫ちゃんどうかしたの?」 「ごめんなさい、私もう帰らないと…」
「そっかぁ…仕方ないよね。ちょっと寂しいけど…な、なんてね…えへへ」
「花陽……。私も本当はまだ残っていたいけど…」
「ううん、無理しないで。ごめんね」
「ど、どうして貴方が謝るのよ」 「変なこと言っちゃったかなって…」
「…う、嬉しかったわよ」
「…ほんと?」
「えぇ…」
「…嬉しい」 「…また来るから」
「約束だよ?」
「勿論よ」
「…ありがとう」
「こちらこそ。…じゃあ…」
「うん…気を付けてね」 「えぇ。花陽も風邪とか体調に気を付けるのよ」
「……うん…」
「じゃあ、行くわね」
「…またね」
「えぇ、また」
…… 「…真姫ちゃん行っちゃった…」
(星は今日も綺麗だけど…やっぱり1人になると寂しいな)
「そういえば…真姫ちゃんって天使と悪魔のどっちなのかな?天使さんだとしたら…ちょっと見たことのない姿かな…?」 (かと言って私は悪魔を見たことがないから…そうだとしてもわからないなぁ)
「でも…お父さんもお母さんも…悪魔とは絶対に関わっちゃダメって言ってたし…悪魔さんは怖い存在ってことなのかな」
(もしそうだったら…真姫ちゃんを怖いとは思わないし、むしろ私なんかと仲良くしてくれて優しい…じゃあ真姫ちゃんは私と同じ天使…?) 「…今度会えた時に聞いてみようかな」
「…また会えるのかな…」
「いつまで会えるのかな…」
……
__________
_____
__ すみません、保守ありがとうございます
また夜、書きに来ます (今日も今日とて、勉強が終わったから星の丘へ行くわ。…やっぱり夜は冷えるわね)
(でも魔法医学に関する感覚もなんだか掴めてきたし、これも屋敷から抜け出して開放感に浸りながら花陽と話してリフレッシュしているお陰もあるのかしらね)
(あ…) 「ふふ…今日も星が綺麗ね」
「あ、真姫ちゃん…!えへへ、今日も来てくれたんだね」
「えぇ」
「でもその…真姫ちゃん忙しいと思うのに…ごめんね」 「何言ってるのよ。私の意思で来てるんだから」
「真姫ちゃん…」
「それにその、私も花陽と見る星が好きだから、ね…」
「…嬉しいなぁ」 「…そう言ってくれると私も嬉しいわ」
「えへへ…」
「ふふ…」
「……」
「……」 「…真姫ちゃん、1つ聞きたいことがあるんだけどね…?」
「どうしたの?」
「真姫ちゃんって天使さんなの?」
「…っ!」 「そうだとしたら…見たことのない外見の天使さんだなぁって思ってね?」
「……」
「あっ…ごめんね…失礼な言い方だったかな…」
「…私は…」 「…真姫ちゃん?」
「…あのね、花陽…私は…」
「…うん」
「私は…天使じゃないの」 「それって…」
「…悪魔なの」
「…!」
「私はね…悪魔、なのよ…」 「…そうなんだ」
「ごめんなさい…そんなつもりはなかったけど、今まで騙したような振る舞いをしてたかもしれない…」
「そんなことないよ」
「でも…天使と悪魔は決して親密な関わりを持ってはいけないって…」 「うん、私もずっとそう聞いてたんだ」
「…そうよね」
「だからね、悪魔さんってすごく怖いものなのかなって思ってた。直接見たことはなかったから勝手にそういう想像してたの」
「け、決してそういう悪い種族じゃ…!」 「うん、わかるよ。だって悪魔の真姫ちゃんがこんなに花陽に優しいんだもん」
「花陽…」
「正直に話してくれてありがとう、真姫ちゃん」
「花陽こそ…こんな私なのに、いつもここに来たら一緒にいてくれて…」
「えへへ、私も真姫ちゃんといたいもん」 「…もし花陽がよかったらだけど…これからも毎日、夜だけでもここでこうして天使と悪魔同士で同じ時を過ごせないかしら…」
「…うん、こちらこそお願いしたいくらいだよ、真姫ちゃん」
「…ありがとう、花陽。貴方に会えて本当に…良かったわ」
「私も…初めて会えた悪魔が貴方でよかった…」
……
_____ その夜も更けて、次の日。
私はママに、どうして天使と悪魔という種族同士は特別な関係を持ってはいけないのかを初めて聞いた。
「…ねぇ、ママ」
「どうしたの真姫ちゃん、何か悩み事?」
「悩み事っていうわけじゃないんだけど…その、聞きたいことがあるの」 「どうしたの?」
「昔からずっと、私達悪魔と天使は交わってはいけないって話には聞いてたけど…その理由を聞いたことはなかったなって」
「…確かにそうね…」
「どうしてなの?」
_____
_____ _____
_____
「…どうして天使と悪魔は関わってはだめか、ね…」
「うん…私はその…悪魔を見たことはないけど、だからこそどうしてなのかなって」 「…そうね、花陽…私はこの先、貴方の要求なら出来るだけ叶えたいって考えているから…今なら教えてもいいかもしれないわね」
「うん、聞きたいな」
「…その昔にね……−−」 花陽がお母さんから聞いた話を要約するとね、すごく大昔に悪魔と天使が生まれたばっかりの頃はお互いにとても仲が良かったんだって。
でもね…ある時にひょんなことがきっかけで、天使の羽からしか取れない素材、悪魔の翼からしか取れない素材があるっていうことにお互いに気が付いちゃって…それを無理やり取り合う戦争が起きちゃったの。
それは無意味な殺し合い…みたいな争いにまで発展しちゃって…しばらくしてからその争い自体は段々と沈静化されたんだけど、種族同士のわだかまりは消えなくて…そのまま…。 だから今でも悪魔と天使は、関わりを持つと羽を、翼をもがれる、果てには磔にされて殺されるって言い継がれてきて仲が悪いんだって。
今でも両種族間で争いを続けている領域とかもあって、そうでなくても悪魔と天使が少しでも親密にしてたりする素振りを見せると…その…
両者は殺されちゃうんだって。 「−−…と、こういうことなの。少し…残酷なお話でしょう?」
「…そうだね…悲しい、お話…」
「…花陽は優しい子だものね。この話をすると落ち込んじゃうかもしれないと思って、今まではしまい込んできたけど…」
「…ごめんね。お母さんも優しいもん、気を遣わせちゃったよね」 「そんなことないわよ。貴方が私を頼ってくれて嬉しいわ」
「えへへ…今のうちに私の知らないことも出来るだけ知っておきたいなって思って」
「……」
「花陽も…自分は先が長くないってわかってるから」
_____
_____ 「…天使と悪魔の間にはそんな背景が…」
「ごめんね真姫ちゃん…今まで黙ってて、騙してたみたいよね」
「そんな、ママが謝ることじゃないでしょ…」 「…あんまり残酷すぎる事実を貴方に伝えることにはやっぱり尻込みがあってね…」
「私を思ってくれてのことなんでしょ、だから私は怒ったり悲しんだりなんて…しないわよ…」
「ありがとうね…真姫ちゃん」
「こ、こっちこそ話してくれて…ありがとう、ママ…」
……
__________
_____
__ (あんな話聞いた後の夜だけど…やっぱり足はあの丘に向いてる)
(そりゃそうよ…花陽がそんな危険な存在になんて見えない…絶対に私を脅かしたりなんてしない)
(…でも、会ってるのがバレたら…終わり…) 「……そんなの関係ないわよ!見つからなければいいだけの話でしょ…!」
(それより何よりも…私は…花陽を……)
「……」
(どんな表情をして会えば……)
…… 「…花陽」
「真姫ちゃん…」
「……」
「……隣…座らないの…?」 「…じゃあ、失礼するわね…」
「うんっ、どうぞ」
「……」
「……」
「……」 「…ごほっ、ごほっ…」
「花陽…?体調でも悪いの?」
「う、ううんっ…全然大丈夫だよ」
「それならいいけど…無理はしたら駄目よ?」 「うん…心配してくれてありがとう」
「いいのよ」
「えへへ…」
「……」
「……」 「……その…」
「…真姫ちゃんは、どうして悪魔と天使の仲が悪いのか知ってる…?」
「…!!わ、私は…」
「……」
「…私は知らないわ…」 「…そっか」
「えぇ…」
「…といっても花陽も知らないんだけどね。えへへ」
「そう…なのね」
…… 沈黙が続いた。花陽に嘘を吐いてしまった罪悪感やら天使と悪魔の間の蟠りに対する複雑な思いとか…でも、やっぱり花陽を見ている限りそんな残酷な現実を全く感じないこととかで…何だか自分で自分が上の空になって、何も言い出せなかった。
それに花陽との間の沈黙はちっとも苦痛じゃないこともお互いに何も言い出さないことを手伝っていた。 「……」
「……」
「…こほっこほっ…」
「ちょっと…本当に大丈夫なの?花陽…」
「う、うんっごめんね。私元々ちょっと体が弱くて」 「本当に駄目になる前に医者にかからなきゃ駄目よ?」
「……っ」
「花陽?」
「……うん、そうだよね。ありがとう」 「えぇ。それに見てもらうならちゃんとした病院じゃないと…」
「ねぇ真姫ちゃん」
「…どうしたの?」
「私ね、真姫ちゃんに出会えて本当によかった」 「な、何よ急に…//」
「本当に心の底から思ってるんだ」
「…花陽」
「さっきもちょっと言ったけど、私元々体が弱くてね。それで普通の天使さん達に出来るようなことも花陽には適わなかったりして。お父さんとお母さんはそんな私の側に寄り添ってくれてたけど…」
「…えぇ」 「それでも…1人だった」
「……」
「やっぱりね、寂しかったよ」
「…花陽…」
「…寂しかったの、真姫ちゃん…」
「っ!ちょ、急に抱き着いて…っ///」 「…今だけ」
「……わかったわよ…それに、嫌だなんて言ってないでしょ」
「…ありがとう」
「えぇ」 「……」
「……あのね花陽。私もね、1人だったのよ」
「…そうなの…?」
「えぇ」(抱き着いたままの体勢は変わらないのね…) 「……」
「私はね、ずっと屋敷にこもってたの。人付き合いが苦手っていうのもあったけど…1人で音楽を聞いたり本を読んだりして過ごすのが好きだった」
「…そうなんだ」
「…そしてそのまま、今度は家にいる時はほとんど勉強をしているわ。自分の為でもあるけど、第1にはパパとママの為に」
「偉いね」 「そんなことないわ。あの屋敷に生まれたからには運命みたいなものね」
「…?」
「私の家はね、魔法病院なの」
「……え…?」 「といっても、花陽は天使だから分からないかもしれないわね。魔法病院っていうのはね魔法医学を専門的に扱うものなのよ。これは悪魔側だけの技術みたいなの。だから私がしっかり身に着けてパパの跡を継がないと…」
「魔法…医学…」
「…どうかした?花陽…」 (…魔法医学…って…私の…不治の病って言われてた天使癌を治せる唯一の医療技術って…天使のお医者さんが…)
「花陽?」
「あ…っ、あのね…あのね真姫ちゃん…!」
「ふふっ、今度はどうしたの?何だか今日の花陽は忙しいわね」
「…っ!」 (…ううん、だめだよ…。ここで花陽がわがままを言ったら…真姫ちゃんに…迷惑を…。真姫ちゃんを…巻き込んじゃう…)
「…?花陽?」
(それだけは…だめ…。真姫ちゃんには未来があるんだから…絶対、幸せになって…くれるから…) 「固まってどうしたのよ?」
「…ううん、ごめんね。何でもないよ」
「そ、そう…。あ…!ごめんなさい、私そろそろ帰らないと…!」
「あっ…そ、そうだよね…」 「…また明日も来るから」
「…うん、楽しみにしてるね」
「えぇ、私もよ」
「…ありがとう」
「こちらこそよ。…じゃあ、またね」
「うん、また」
… 「…真姫ちゃん…」
(また明日、か…)
「私に明日は…来るのかな」 「…私はいつまで星を…真姫ちゃんを見ていられるのかな…」
「…っ、ごほ、ごほっ…」
「……っ」
……
__________
_____
__ 次の日の夜、花陽は来なかった。咳き込んでいた様子だったし体調でも崩してしまったのかしらと心配だったけど、また元気な姿を見せてくれるはずだと私は久しぶりに1人で星を眺めていた。
けどやっぱり、ここ数日はずっと花陽とそれをしていたから寂しかった。
私の中で確かに花陽の存在はとても大きいものになっていた。
__________
_____
__ その次の日の夜。花陽は来てくれた。
「花陽…!大丈夫なの?風邪でも引いたのかと心配したわよ」
「うん、大丈夫だよ…!ごめんね…ごほっ、ごほっ…」
「ちょ、ちょっと!やっぱり安静にしてた方が…」 「ううん、いつもより少し調子が悪いだけで…こほっ…私は真姫ちゃんといる時が1番落ち着くから」
「花陽…」
彼女はそう言ってくれたけど、やっぱり咳や悪寒が治まる様子はなくて…。 「ごほごほ…!こほっ…」
「花陽…本当に無理はしないで…?今日はもう家に帰って安静にしていた方が…」
「…真姫ちゃん…」
「これでも私も医者の娘の端くれなんだから…その状態は無理をするべきではないし、花陽が無理を押してここに来てくれてることくらい分かるわよ」 「……」
「とてもありがたいし嬉しいけど…それで花陽がもっと重症になったら元も子もないわよ?」
「…うん」
「だから…今日は帰りなさい…。しっかり治してまた元気な姿を見せてよ」 「……そうだね…。こほっこほっ…」
「えぇ…待ってるから」
「…わかった…。あのね、その…真姫ちゃん…」
「ん?」
「…ごほっ…また会いにくるからね」
「…えぇ。楽しみにしているわ。お大事にね…」 その日、初めて花陽は私より先に家路に着いたわ。
でもそれが彼女の為になると思ったし、私の我侭に付き合わせるのもいけないから最善だと考えたの。
何より昨日会えなかった分、少しの時間でも会えた今日が私は嬉しかった。
……
__________
_____
__ 次の日もその次の日も、花陽は来なかった。私は何だかただ1人で星を見ているだけなのが手持ち無沙汰になって、いつも勉強に使ってる医学書を丘に持ち出してそれに目を通しながら風を感じて、時々星を眺めるようになった。 その次の日に花陽は来てくれた。けど…。
「ごほっ、ごほっ!けほっ…!」
「花陽…!まだ体調良くなってないでしょう!それどころか前より悪化しているような…!」 「だ、大丈夫だよ真姫ちゃん…体調は良くなったんだ。ちょっと咳がまだ止まらないだけで…こほっ…!」
「ほ、本当…?」
(で、でも確かに私の読んでる医学書にこういった症状のものは載ってないし…単なる私の杞憂なのかしら…?) 「ほら見て、真姫ちゃん。今日も星が綺麗」
「…そうね」
「…こほっ…ちゃんとこの光景、目に焼き付けないとな」
「そうでなくても、いつも見てるじゃない」 「…真姫ちゃんのことも絶対に忘れないように、この目と頭に焼き付けて離さないんだ」
「花陽…?」
「…!…なんてね…えへへ…けほっ、こほっ…」
「…わ、私だって花陽のことは忘れることはないわよ。絶対に」
「…嬉しい…!」 「そ、それに…忘れるとか忘れないの前に…こういう時だけでもずっと一緒にいればいいんだから」
「……っ…そう…だね…」
「あ…えっと…嫌、だったかしら…?」
「い、嫌なわけないよ!ごほっ!嫌じゃないけど…その…」 「どうしたの?」
「…花陽は…今だけでも…すごく、幸せ…」
「そう…私も幸せよ」
「……」
(真姫…ちゃん……) 「…ねぇ、本当に咳大丈夫なの?」
「…うん、大丈夫だよ。こほっ…真姫ちゃんは優しいよね」
「そ、そんなこと…//」
「ふふ……」 (…花陽は…今こうして笑っていられるだけでもとてもとても幸せなんだから…) ……その日、花陽と私は同時に帰路についた。
なのに…。
__________
_____
__ それ以降、花陽が丘に来てくれる頻度は少なくなった。
来てくれてもやっぱり体調の悪そうな様子で早めに帰って…。
また暫く日にちを置いて来てくれてもまた、咳の止まらないので早く帰らせて。 また暫く私1人で星を眺めて。
時々花陽が来てくれて。
でもやっぱり繰り返し。 …そこでやっと私は本格的に不審に思った。
どう考えても花陽は正常な状態じゃない。
でもいくら星の丘の元で自分の医学書に目を通し続けても彼女の症状を綴ったものは書き表されてない。 混乱した。焦った。
私の単なる思い過ごしであって欲しかった。
花陽の生まれつき体調の悪いのの、今は波が悪い方向へ起きているだけで、また以前の元気な彼女の姿が現れてくれるのを何の確証も裏付けもないのに待ち続けた。 私の中の花陽の締める部分は絶対的なものになっていた。
心の何かがはち切れそうでたまらなかった。
流れ星も出てないのに、自分が何をどう望んでいるかも自分で把握出来てないのに、願いにならない願いを声にならない声で叫び続けていた。 そして最後に花陽と会ったのが何日前なのか、瞬時に思い出せないほどに独りの時を経ていたある日。
__________ 「真姫…ちゃん…」
「…!花陽…!!もう…来てくれないのかと思ったわよ…」
「…ごめんね…」
「…寂しかった…っ!」 「…えへへ…真姫ちゃんが素直だ…」
「う、うるさいわね…!そうよ…私は花陽がいないと…!」
「…ごめんね…。本当に…ごめん…ね…」
「はな、よ…?」 「…最初にいっぱい謝らなきゃ…。ごめんね…真姫ちゃん…」
「ちょっ…!何よ…?何だって言うの…!」
「今日は…伝えないといけないことがあって…本当はもう外にも…出ちゃいけないはずなのに…来ちゃった…」 「…一体何が…って花陽、貴方…すごく…痩せて……」
「…うん…。あのね…?聞いて、真姫ちゃん…」
「な、何よ…。そんな…悲しい眼で…見ないで…」
「…花陽ね、末期の癌なんだ」 「…!!…え…?な、何を…」
「ずっと黙っててごめんね。本当は…最後まで言わないままで…いられたらよかったんだけど…。寂しがり屋な花陽の…最後のわがままだと思って…許してね」
「嘘よ…!!だって、私の医学書に貴方の様な症状のものは…!!」 「…確かに、私の天使癌は…真姫ちゃんのお勉強してる…魔法医学じゃないと治せないものなんだけど…」
「だったらどうして!?」
「…悪魔さん側には…天使癌の記述は…一切渡ってないんだ…。悪魔さんと天使は…仲が悪いから…」
「そんな…っ、そんな…っ!!」 「…えへへ…本当に、ごめんね…?最後に急に…こんなこと言われても…困るだけだよね…。自分勝手だなぁ、花陽…」
「…っ!そんなことどうでもいいわよ!!」
「真姫…ちゃん…?」
「花陽のその天使癌は私の魔法医学で治せるんでしょう!?だったら私が絶対に、何としてでも治してみせるんだから…!!だから、花陽…!!」 「…だめだよ、真姫ちゃん」
「っ、どうして!?」
「…花陽、嘘ついてたんだ…」
「え…?」 「知ってるんだ…悪魔と天使が…仲良くしちゃいけない理由…」
「…っ!」
「えへへ…もしかして、真姫ちゃんも…本当は知ってたのかな…」
「それ、は…!」 「もちろん、私は真姫ちゃんと…心から仲良く…なりたかった…」
「そんなの、私だって…!」
「うん、分かってるよ…。真姫ちゃんも…心から私と大事に…接してくれてたって…」
「当たり…前よ…!」 「でもね…それでも…いけないことなんだ…」
「…っ」
「…殺されちゃうんだって」
「…それも…知ってる…」 「…そっか…。それなら話は早いね。私は…真姫ちゃんを…巻き込みたくない」
「で、でも…っ」
「お父様の跡を…継ぐんでしょ…?真姫ちゃんには…ちゃんと未来が…あるんだから…」
「は、な…よ…」 「…お願い…生きて…?」
「…………」
「…花陽は…本当に…幸せでした…」
「…………」
「ありがとう…真姫ちゃん…えへへ…」
「…………」 「…最後に笑えたから…良かった…。最後の笑顔を…真姫ちゃんに見せられて…」
「………」
「……じゃあ」
「………ぁ」
「…さよなら、真姫ちゃん……」 −−−「待って花陽、行かないで」
その言葉はとうとう私の口から発せられることはなかった。
花陽は最後の台詞を絞り出すように吐くと私に背中を見せて、それが地平線に沈んで見えなくなるまで振り返ることなくゆっくりと故郷へと帰っていった。 私は自分が自分でないと錯覚させられるくらいに何も動かせず何も言い出せず、ただただ呆然と立ち尽くすのみだった。明らかに脳が現実から剥離していた。
私の本心はどう考えても自分の手で花陽の病を治す為に魔法医学を施すことだった。 だけど、それ以外に余計に色々と考える余りに目の前にあった最後のチャンスをみすみす逃したのだ。
実践経験のない魔法医学を施して、果たして本当に花陽を救えるのか。
そもそも、自分の読んでいた医学書に載っていない天使癌に関する知識など当然持ち合わせていないのだから前提として無謀なのではないか。 何より自分と共にいるところを悪魔、あるいは天使に見つかり殺されてしまうことになれば、本来病没といえど家族に看取られながら古巣の寝床で最期を迎えられるはずなのに、あまりに悲惨で壮絶な思いを花陽にさせてしまうのではないか。
そんな余計で、しかし思い知らされるほど現実的な思い巡りばかり私の頭の中には繰り返されてた。
…… 暫く私は星に照らされながら丘に立ち尽くしていた。
やっとその場から動き出せたのは、空の色が少し明るみがかってからのことだった。 家に帰ったらパパはもう起きていた。久しぶりに何だか色々言われたけれど、私の耳にその説教であろうものは全く入ってこなかった。
その様子を見かねたママが真姫ちゃんは具合でも悪いのでしょうとパパの叱りを、またあの時のように困り眉を作りながら切り上げさせてた。 −−私は薇の切れた玩具のように、自室のベッドの上で虚ろにくるまっていた。
何もする気が起きない。医学書も無造作に床に放って、部屋の照明を付けることもなく、ただただ横になって視界に映る壁の一角を無心で眺め続けていた。 食欲なんかも全く湧かなかった。むしろママがご飯時に私を呼びに来たことで、そういえば何かを摂ることでこの体は成り立っているんだと気付かされるほど何も考えてなかった。それでも結局私はベッドの上から体を起こすことはしなかった。
頭は空っぽだったし、そうであって欲しかった。今の私は空腹を知らなかった。 寝姿勢だけど一睡もないまま気付けばまた夜。1日ずっと無気力で過ごしていた。そしてまだ暫く何かをしようという気は起きない。
何も考えたくないけどこのまま寝る気も起きない。世界を意識から遮断したらそのまま花陽との記憶もどこかへ行ってしまう気がした。 自室のドアがノックされる。その音に気付きはしたけど、反応は示さなかった。
「真姫ちゃん?……入るわね」
ガチャッ…
「……」 「今日はいつもの場所、行かないのね?」
「……えぇ」
「何かあったのかしら…と聞きたいところだけれど、貴方も年頃の女の子だもの。私にもパパにも話せないことなんて幾らでもあるわよね」
「……」 「だけどやっぱり今日1日何も食べてないみたいだし、心配なことは心配だから…はい、これ」
「……!」
「久しぶりにおにぎりを結んでみたの。これくらい軽いものなら食べてもらえるかなって」
「……」
「…遠慮しないで何かあったらママでもいいし、パパでも、ちゃんと頼るのよ?何より貴方に後悔のないことが私達にとって1番なんだから…」 「…っ、ママ……」
「…ふふ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。でも少なくともママはいつでもずっと、絶対に真姫ちゃんの味方でいるからね」
「……うん…」
「…じゃあ、おやすみなさい」
キィ…ガチャ…バタン… (……ごめんなさい…)
「……おにぎり…塩味…」
_____ ママはおやすみなさいだなんて告げてくれたけど…やっぱり私は眠りに就くことが出来なかった。
上半身だけ起こしてママの握ってくれたおにぎりをゆっくり、有り余る無常を噛み締めるように食べた後また姿勢だけ横になっていた。
だけど夜はいつもと違う場所で、いつもと同じ様に刻一刻と更けていった。 事情の知られない屍の様に瞳の紫を殺しながら、時計の秒針の刻む音だけが私の体に響いていた。
…彼女の瞳も、私と同じ色をしていたっけ。
カーテンも締め閉ざしていた為気付かなかったけど、窓の外はほの明るくなり始めていた。
…… ……(目の前の救えるはずの命を救えないだなんて…私はこの…医学の道を歩んできて正しかったのかしら…)
(医学書の内容なんてとうに暗唱出来るほど頭に入っている。それは…パパもママも…そして私もそれを望んできたから。自分で決めた道筋だから)
(…花陽だって最後に…背中を押してくれた…。不甲斐ない私を最後まで肯定してくれた) (だけどね…私は弱いのよ…。こんなにも…。他人に躯を支えてもらわないと地の上に立つことすらままならないのよ…)
(私が支えるべきだった、救うはずだった花陽に…私はむしろ支えられて救われた…。だけどやっぱり……貴方がいないと私は…どうにも……) 『……−−−何より貴方に後悔のないことが私達にとって1番なんだから…』
「……ママ……」 −−ようやく頭の中が回り出して自分なりの懺悔、自己不尊を散々脳内で繰り返した。それはある種の言い訳でもあった。
贖罪の輪廻をひときしり終えたらまた始まりに戻る。暗い室内に何も邪魔をされない私はそれをいとも簡単に受け入れ続けた。
ずっと志していた医療の道という将来。その地盤すらも私の中で揺るぎ始めていた。もう当分はとても医学書と睨めっこする気にはなれない。 急激に脳内を動かし始めた私は、1日ずっと眠っていないのも手伝って不意にとてつもない眠気に襲われた。
全身が脱力し切る。次第に頭の中も真っ白になり始める。外は昼間で世間は晴天に照らされているはずだけど、ずっとカーテンを締め切り外界を遮断していた私にはもう今が昼なのか夜なのかも判断出来なくなっていた。 睡魔が連れてくる特有の自暴自棄に促され、私は微睡む。
小さく果てしない夢中のプレリュードへ、とうとう現実を切り離した。
……
__________
_____
__ 「…っ、あ…私……寝て……」
随分と寝ていた気がする。暗い部屋で寝て暗い部屋で起きたからどれくらい時間が経っていたかは図れないけれど。 身体をゆっくりと糸に引かれるように起こし上げる。ベッドの上から、右足から順に床に体を降ろす。久しぶりに立ち上がった。そんなに急激に姿勢を変えたわけじゃないのに頭はとてもクラクラする。
それは寝る直前に色々と考えを巡らせてたからっていうのもあるけど。 ペタペタと窓際まで歩み寄る。カーテンを一気に開け切る。やっとこの部屋は光の閉鎖から解放された。
だけど外はもうすっかり夜だった。月明かりだけがほのかに景色を照らしていた。 しかし今日1日は私が寝てる間もママが起こしに来た様な記憶もない。きっと、昨日の私の様子を知っているママが気を遣ってくれたのね。やっぱり…流石に私との接し方を知っているわ…。
それにしても、やっぱりいまいちまだ頭が働かない。起きがけだからかしら。
でもただ1つ、心中消えない蟠りがずっと…… (……私はこれから…どうすればいいの……)
とても拭えない不安が広大な荒野に居座り続けていた。 私はふと、窓を開ける。びゅうと入り込む風が冷たい。でも……
(…星が…綺麗…)
夜空を見上げればこれまでにないほど満天の星空。見惚れてしまった。手を伸ばしたくなった。あの空の下へ飛び出してみたくなった。 (そういえば…昔は、何か悩み事があったらあの丘に…星を見に行ってたんだっけ…)
少し昔の頃のことを思い出していた。そしてその童心を久しぶりに感じてみたくなった。私だけの天然のプラネタリウムに目を輝かせていたあの頃を。
上着だけ羽織って静かに玄関へ向かった。パパもママも寝付いているみたい。
……
__________
_____
__ 無心を装いたくて夜空を見上げながら私は星の丘へ向かっていた。今なら…全てをあの星空が吸い上げてくれそう…。
こんなにも綺麗なのに手の届かない星々。こんなにもたくさんあるのにどれ1つとして私を救ってはくれない星々。 夜空はあんなに綺麗に星で敷き詰められてるのに、私の心は、頭は、全ては、からっぽ。
もう、私の内容は何かで敷き詰められることなんてないのかしら。自分で全てを投げ出しておきながら、都合がいいこと言ってるのかしら。 星と対比の睨めっこ。
…ねぇ、そんな高いところから呑気に私を見下ろして、いいご身分ね? 首元も疲れ、果てしなくちっぽけな自分が情けなくも感じ、私は顔を上に向けていたのを視界と共に前方へ戻した。
気付けば丘はすぐそこだった。
それと同時に、向こう側から誰かが私と同じように丘の方へ向かってきているのが見えた。少し遠目だけど、外見の特徴は何となく掴むことが出来た。 巻かれている綺麗な栗色の髪。そして正面からでもチラリと覗くきめ細やかで繊細な、小振りだけど真っ白な無垢な羽。
そして距離が近付くにつれ、見覚えのあるあの顔。
それは……。 「……!!ま、真姫ちゃん…!?っ、ごほっごほっ!はぁ、はぁ…」
「は、な…よ…?」
「はぁ、はぁ…真姫ちゃん…っ、真姫、ちゃん…!」
「…どういう…こと…?」 「真姫ちゃん…っ、真姫ちゃん…っ!会えて…良かった……!ごほっ…はぁ…」
「な、なんで…?どうして……」
「あのね…っ、やっぱり私、怖い…!はぁ、はぁ…1人のまま、ごほっ…死にたく…ない…っ」
「…っ…!」 「…真姫ちゃんの…傍に……はぁ、はぁ…ごほっ…、居たい…っ!」
「…花…陽…っ」
「また、困らせちゃって…ごめんなさい…ごほっ…!わがままで…はぁ…ごめん…なさい…!!」
「…………」
「はぁ、はぁ……あ…わ、私……っ…」
私は花陽の手を取り、来た方向へ踵を返して歩き始める。少し強引に彼女の手を引きながら。 「っ!まっ、き、ちゃ…!」
「行くわよ」
「ごほっ…え、なっ…どうして…!」
「……っ、私だって…!!」 「…?はぁ、はぁ…」
「私も…花陽が…!貴方が居ないと駄目なの…!!」
「はぁっ…ん、え…?」
「はち切れそうでたまらなかった!貴方がいなくなって、自分が自分じゃなくなって怖かった…!」
「……!」 「…わがままなのは私もよ……行きずりでこんなことして…最後まで…自分勝手……」
「…え、へへ…私は…真姫ちゃんの…そういうところが、好き…だよ…」
「…っ、花陽……」
「…ごほっ、ごほっ…!」 「…私が貴方を治す。末期だなんて関係ない。私には…魔法医学がある」
「…!真姫…ちゃん…ごほっ…」
「…酷でしょうけど…走れる?」
「…っ、う、うん…!がんばる、よ…!」 「ごめんなさい…でも、2人でこの領域を出ましょう。悪魔の手も天使の手もかからないどこか…遠くへ…!」
「はぁ、はぁ…うん…っ!」
__________
_____
__ 「夜は街も静まってて、警戒も抜け目が出来るはず…どこか合間を縫って領域外に出られるところは…」
「はぁ、はぁ……」
「…!花陽……」
「んっ…ごほっ…!はぁっ…」 「ちょっと止まるわよ」
「…ん…どう、したの…?」
「…おぶるから、私の背中乗りなさい」
「そ、そんな…!悪いよ…っ!」 「いいのよ。このまま体力を消耗し続けていよいよ貴方が手遅れになるくらいだったらこんなの…!」
「……っ」
「…私じゃ頼りにならないかしら…」
「…ううん…ごほっ…それじゃあ、失礼…するね」 「えぇ、任せなさい」
「…ありがとう」
「…私からした提案なんだから」
「えへへ…こほっ…真姫ちゃん…暖かい…」
「…//…っ、い、行くわよ」
…… 「はっ、はっ……」
「ごめん…ね…?ごほっ、重く…ない…?」
「今の貴方が重いと思う?紙みたいに…軽いわよ」
「…ごめんね……ありがとう…けほっけほっ…」 「謝らなくていいってば」
「……うん」
「…すぐに私が貴方の体調も体重も元通りにしてあげるんだから」
「ごほっ…体重は…そんなに戻らなくても…いいかなぁ」 「何言ってるのよ。私は…その…前の包容力に満ちた花陽も嫌いじゃないし…むしろ、好きなんだから…」
「えへへ…嬉しいね…」
「…気を強く持つのよ」
「ごほ、ごほっ…うん…っ」 「……」
「…ごほっ…私はね…真姫ちゃんさえいれば…何でも…けほっけほっ…乗り越えられる…気がするんだ」
「…私もよ」
「…とっても…心強いな…」 「花陽だけは…絶対に手放してやらないんだから」
「…//…花陽…とっても…幸せ……」
「これからもっと幸せになるのよ」
「…うん…っ、ごほっ…。これって……」
「……?」 「駆け落ちっていうのかな…?」
「なっ…//」
「お家の本で読んだことあるんだ…けほっ…身分の違う…人間さん同士が…こほっ…2人で…逃げちゃうんだ…」
「……」 「でも…こほっ…本の中のその人間さん達は…幸せそうだった…」
「…人間…架空の生き物、ね…」
「う、うん…ごほっ、ごほっ…」
「…私達はそれを現実で成功させるのよ」
「…!そう…だね…っ」 「私は…貴方となら…どこへ行っても寂しくない気がするの…」
「…うん…花陽がずっと…側に、いるからね…」
「…えぇ」
…… 「はっ、はっ……」
「ごほっ、ごほっ…大丈夫…?真姫、ちゃん…」
「全然…平気よ…!」
「……ごほっ…うぅ…」 「…ねぇ、花陽。星が綺麗よ?」
「え…?わぁ…本当…だ…!」
「私、ここまでのを見たのは初めてよ」
「…私も、初めて…こほっ…」 「…これも運命、なのかもしれないわね…」
「…お星様達も…ごほっ…お見送りしてくれてるのかもね…」
「ふふっ…本当に…空から降り出して来そうなほど」
「こほっこほっ…それもそれで…ロマンチックだね…っ」 「私達への…最高の手向け…」
「…今が1番…けほっ…幸せ…」
「そんなこと言ってられないわよ…っ、これからもっと色々見せてあげるんだから…!」
「えへへ…ごほっ…!真姫ちゃんをもっと…見ていたいな…」 「っ、もう…//…!!ほら…っ!」
「え…?」
「街の外れが見えてきたわっ!」
「ほ、本当だ…!こほっ…これ、が……」 「…この先を進めば大きな海が見えて、それを更に越えれば、きっと……!」
「けほっ…真姫ちゃんと…私だけの…新しい行き先が……」
「…飛ぶわ」
「だ、だったら私も…っ!」 「いいのよ、貴方を乗せたままでも行ける。今の私なら幾らでも無茶出来るわ」
「で、でも私が乗ったままだと、ごほっ…!翼の邪魔に…!」
「言ったでしょ?貴方を離したくない。この状態のままの方が私は…頑張れる」
「真姫ちゃん…」 「だから…安心しなさい…」
「…うん…っ、信じるよ…!」
「…ありがとう。じゃあ少し翼を広げて…−−−」
パァン…!! 「…っ!?」
「え…、何…?」
「痛っ…つっ…!!」
「…っ真姫ちゃん肩から血が…!!」
(…っ、こ、れは…銃…痕…!!) 読んでる時ずっと鏡面の波が脳内BGMとして流れてるわ 「真姫ちゃん…!ごほっごほっ…!大丈…夫…!?」
「まだ…何とか…平気よ…っ、でも……見つかった…!?」
「そ、ん…な…!!ごほっ…!どこ…から…!?」 パキュン…!
「う…っ!!」
「真姫ちゃん!!!」
(まずい、わ…!どこから狙ってるのか分からない、けど…私の方に的を絞ってる…!花陽が既に消耗していて…私より機動性のないのが見透かされてる…!!) 「っ!!」
「はな、よ…!?」
「どこにいるかわからないけどやめて!!げほっごほっ!!撃つなら真姫ちゃんじゃなくて…私に…して…!!!」
「やめなさい、花陽…!!私の上から…どきなさい…!!」 「だめだよ、真姫ちゃん…」
「え…?」
「真姫ちゃんにはまだ未来の…希望が…あるんだから…逃げて…生き延びて、ね…?」
「…っ、嫌よ…、そんなの無理よ…!!駄目よ…!!どいて花陽…っ!!!」 「あのね…私ね…?」
「っ、やめて…!お願い…っ!!どいて…!!」
「真姫ちゃんの…こと…」
「どきなさい花陽!!!!」
パンッ… 「うぁっ…」
「…っ!!!!」
「ぁ…ぅっ…ごほっ…げほっ…」
「花陽…っ!!!」 「…あの…ね…まき…ちゃん…」
「花陽…!!…はなよ…っ!!!」
「あ…い……し…………」
「はな、よ…?ねぇ、花陽…!!」
「…………」 「…辞めて……行かないで……」
「…………」
「私1人じゃ駄目なのよ……貴方だってそうなんでしょう…?」
「…………」
「私は1人じゃ……この涙も止められないのよ…!!」
「…………」 「…いいわよ……私を撃ちなさい……。どうせまだこそこそと狙いを定めているんでしょう」
「今更…こんなに疲れ切ってまで…彼女のいない世界なんて…もう嫌よ……」
「私達…一瞬だけでも…肉体だけでも…一緒よ…?花陽……」
「…暖かい……天使は冷たくなんか…ないじゃない……」 パキュッ…!
「んぅっ…!!がはっ、ごほっ…!!」
「…………はな…よ…?き…こ…える…?……」 「……わた…し…も……あ…い……し………て………」
「…………」
「…………」
__________ 「ふむ…近くに寄って見ても、やっぱりまだ若かった天使と悪魔の様ですね」
「私達と同じか、年下さんって感じがするね」
「その割には中々手こずりました。魔弾を何発撃ったか……」
「自分と同じ天使さんの方は私が1発で仕留めちゃったっ」
「あれは横取りですよ…ずるいです…」
「ちゅんちゅんっ♪」
「もう…」 「でも、すごいねこの子達…最期まで手を繋いでるよ」
「…それほど覚悟した上での逃避行だったというわけですか」
「だけど天使と悪魔のカップルは私達だけでいいもんね」
「カ、カップルって…//そ、それに、あまりそういうことを大声では…!」
「えへへ、つい…」 「…それでは…折角なので、この御二方の天使の羽と悪魔の翼だけ頂いていきますか」
「そうだねっ……あ、羽とか翼といえばこんな言い伝え知ってる?」
「一体どういう?」
「あのね、羽を取られた天使さんと翼を取られた悪魔さんは人間さんに生まれ変わるんだって!」 「…人間とはあの人間ですか?」
「うん!あの人間さん」
「…ありえません」
「えぇ〜そうかなぁ?」
「そもそも人間というものは我々が想像で生み出した架空の生き物なんですから…」
「そうだけど…でも、ロマンチックだと思わない?」 「私は浪漫主義ではないので」
「そういう話じゃないよ〜っ」
「さぁ、羽も翼も獲れたので行きますよ」
「も〜待ってよ〜けち〜現実主義さんめ〜」
__
_____
__________
………… __________
_____
__
とある丘。
「あら…?わ、私……」
「あっ…あの…こんにちは」 「…っ、ヴェェ…!」
「あ、もしかして御用があってここに…?そうなると私、お邪魔でしょうか…?」
「…っ!そ、そんなことはないわ。用事があるとかそういうわけではないの…」
「そ、そうでしたか…よかった」
「…貴方こそ、どうしてここに?」 「私は…分からないんです…。自分がどうしてここにいるのかが…」
「えっ…その、私も同じ、なんだけど…」
「え…そうなんですか?」
「え、えぇ…」
「……」 「…その、今だけでも一緒して…いい、かしら…?」
「…!はい、私は全然構わないですよ」
「じゃあ…隣失礼するわね」
「はい…」
「……」
「……」 「青い空…とても綺麗ね」
「はい…雲ひとつなくて…何だか、解放感が…」
「あら、奇遇ね私もよ」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。それに何だか、落ち着く様な感覚も……」 「わ、私もです…!」
「ほ、本当…?」
「はいっ…!」
「……」
「……」
「…ふふっ」
「えへへ…」 「私は真姫、貴方は?」
「…花陽です」
「花陽…何だか…懐かしい響き…素敵な名前ね」
「ま、真姫さんこそ…大好きで懐かしいです!」
「な、何よそれ…//…あと、敬語も使わなくていいわよ。私もそうなんだし、何よりこそばゆいわ」
「…分かった、真姫ちゃんっ」 _____
2人だけの世界、彼女達がようやく真に愛し合えるのはそう遠くない未来。 おしまいです。
長々細々とすみません。
正直締め方にめっちゃ悩みました。
保守して下さった方々、最後までお付き合い下さった方々ありがとうございました。
ちなみに序盤に出てきたアルタイルとバテン・カイトスはそれぞれまきぱなの誕生星なのです ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています