真姫「ことりと海未の正論」
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「真姫ちゃん」
からり､と扉が開けられた｡
鍵盤を叩く手を止める｡
「やはり､ここにいたのですね｡教室にいないのでどこにいるのかと思いましたが…」
「凛ちゃんと花陽ちゃんから､真姫ちゃんお昼休みはお弁当を食べた後は音楽室にいるって聞いたから､来てみたの」
海未と､その脇に控えたことり｡
凛や花陽はたびたび私のピアノを聴きにきてくれるけれど､この二人がーーというか､あの二人以外の誰かが訪ねてきたのは初めてだ｡
「真姫｡今､少し話をよいですか?」
いつもの､凛々しくも綺麗な笑顔｡
ことりは静かに後ろに続き､後ろ手に扉を閉める｡
いい伴侶ね｡ 「構わないわよ｡珍しいわね､二人が来るなんて」
小さく頷き､傍の手近な椅子を勧める｡
隣同士にちょこんと座る二人｡
「それで､用件はなに?」
「明日の放課後､私達と出掛けませんか?」
「え? 私達って､海未とことりと?」
「それ以外にいるのですか?」
きょとんとした表情で返される｡
この場にはいないけれど…
「構わないけど､どうしてこの三人なの?」
「えっ」
驚いてみせる海未｡ 「嫌ですか?」
「い､嫌とかじゃないわよ｡ただ､なかなか誘われたことのない組み合わせだなと思って」
「それはそうかもしれませんが､同じμ'sのメンバー同士なので不都合はないと思ったのですが…」
「不都合はないけど…」
二人しておろおろしながら会話をしていると､やっとのところでことりが助け船を出してきた｡
「ほら､海未ちゃん｡ちゃんと説明しないと､真姫ちゃんだって分からないよ」
「わ､私はちゃんと説明したつもりなのですが…」
「どういうことなの? ことり」
これでは埒が明かないと思い､会話の相手を切り替える｡
「海未ちゃんはね､次の新曲について一緒に考えようって言いたいんだよ」
「ああ､そういうこと」
やっと得心が行った｡ 遮音性の高い鉄筋コンクリート造に住んでない時点で犬飼いは貧乏
そのうえ無駄吠え放置とくればバカの極み
いい歳して四六時中騒音をまき散らしてるんだから、珍走団をはるかに下回る底辺 「この三人ならばそれしかないと思って､私は…」
「私と海未ちゃんからしてみたらそのつもりで来たから分かってるけど､真姫ちゃんは突然訪ねてこられて話し始められたんだから､困惑して当然でしょ?」
「なるほど､言われてみれば確かにその通りです｡申し訳ありませんでした､真姫」
「い､いいわよ謝らなくたって」
丁寧に頭を下げる海未｡
下級生相手であろうが礼儀の手を抜かない点は､本当に見習うべきものがある｡
と､話の本筋を掴んだところで軌道修正｡
「それで? 出掛けるって､どこかへ行くつもりなの? 放課後ってことは練習と被るんじゃない?」
これまでの物言いでは､いつものように他のメンバーが屋上で練習している間に部室で打ち合わせ…ということではないのだと思うけれど｡
「明日の練習は､私達は休みます」 「あら｡さぼりに厳しい海未にしては珍しい判断ね」
「これは私達がμ'sにおける役割を全うするための正当な行為ですからね｡穂乃果や凛のさぼりとは意味が違うのです」
「そういうことっ｡たまには息抜きもいいでしょ?」
冷ややかな調子で二人の名を出した海未の両肩に甘え､ことりがにっこりと微笑む｡
「レッスンリーダーの決定なら､私に異論はないわ」
「ちなみに明日の練習指導は絵里にお願いしてあります」
思い出したように海未が言う｡
咄嗟の思い付きではないらしく､しっかりフォローまで済ませているということだ｡
この辺の気配りもさすがだと感心する｡
「どこへ出掛けるかについては､ことりと相談しているところです｡真姫の希望はありますか?」
「特に｡二人が決めたところについていくわ」
「助かります」 「ことりはね､刺激的で､普段と違う世界で､癒されて､静かで､可愛い衣装をた〜くさん見られるところがいいなあって思うの!」
「ですから､ことり｡そうも多くの希望があっては､決められないに決まっています｡必要最低限の条件に絞るべきです」
「えー…でも海未ちゃん｡ここを妥協するってことは､次の新曲そのものを妥協するってことにならない?」
「そ､それは確かに…」
上目遣いで訴えることりに､眉根を寄せて視線を泳がせる海未｡
これはなかなか決まらなさそうね｡
二人とも言っていることが間違っていないだけに､折衝案を見付けるのは大変そうだ｡
そこで予鈴が鳴り､三人同時に「あ」と漏らす｡
ピアノの鍵盤をさっと拭いてから､元に戻す｡ 「明日までにはちゃんと決めておくからね､真姫ちゃん」
「そんな様子を見せられた後じゃ､安心していられないけどね」
「だ､大丈夫です｡このくらいのことで躓いてはいられません」
「気張り過ぎはよくないよ､海未ちゃん」
溜め息を吐いて見せた私に､焦ったように取り繕う海未｡
そしてそんな海未を宥めることり｡
何事か言葉を交わす二人を横目に､預かってきたスペアキーで音楽室を施錠する｡
「それじゃ､明日の放課後､教室まで迎えにいくからねっ」
「ええ､分かったわ｡それじゃあ､練習で」
ちらりと時計を見やる｡
スペアキーを返しに職員室に寄ってから教室に戻るとなると､少し急がなくては｡ 「そういえば､真姫」
踏み出し掛けたところに､後ろから呼ばれた｡
「なに?」
「作詞と衣装のことしか考えていなかったのですが､作曲の方はいかがですか?」
「問題ないわ」
力強く頷く｡
今回の曲はかなり自信がある｡
まだ改編するつもりではあるけれど､仮録りしているデモですら上手くまとまっていると思う｡
「そうですか､さすがです｡私達も負けてはいられませんね､ことり」
「うんっ! とびっきり可愛い衣装にするからね」
改めてバイバイと言い合い､二人と別れる｡
今回の曲は､今までの中でも特に良い曲に仕上がる｡
そんな予感がし､私は弾むような気持ちで職員室へと向かった｡ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
