2021年4月19日

インドのハーシュ・ヴァルダン保健相は3月上旬、同国の新型コロナウイルスとの闘いは「終盤」を迎えていると言っていた。だが感染者は再び急増し、今や過去最多を更新するほどに状況は悪化している。
ヴァルダン保健相の「終盤」発言は、根拠がないわけではなかった。インドの1日あたりの新規感染者は昨年9月、9万3000人を超えていた。それが順調に減り続け、2月中旬には1万1000人近くにまで減少。1日あたりの死者(7日間平均)も100人を下回った。
そうした状況を受け、インドの5州が主要選挙の実施に踏み切った。投票は3月27日から1カ月以上続く。その間に繰り広げられる選挙運動では、マスク着用や社会的距離確保などの感染防止対策は取られていない。
3月中旬にはインドの人気スポーツ、クリケットの競技団体が、北西部グジャラートの競技場でインド対イングランドの試合の観戦を許可。13万人超のファンが、ほとんどマスクをしない状態で詰めかけた。
それから1カ月もたたないうちに、インドで恐ろしい第2波が広がり出した。各地でロックダウンが実施される中、4月中旬には1日あたりの新規感染者が10万人を超えた。18日には27万人を上回るまでに急増し、1日の死者も1600人以上に達した。ともに、1日あたりの人数としては過去最多だ。
インドは今、公衆保健衛生の危機を迎えている。
ソーシャルメディアは、混雑した墓地で開かれている、新型ウイルスで亡くなった人たちの葬儀の動画であふれている。病院の外で家族の死を悲しむ人々、息も絶え絶えの患者を運ぶ救急車の長い列、死者を収容しきれなくなった死体安置所、病院の廊下やロビーを埋め尽くしている患者たちの動画も続々とアップされている。
病床が不足し(1つを2人で分け合っている病院もある)、医薬品も酸素も検査も足りていない。薬は闇市場で売られ、検査は結果が出るまで何日もかかる。
大々的に進めてきたワクチン接種も現在、困難な状況に陥っている。先週までに1億回分以上を接種したが、ここに来て不足が指摘されている。世界最大のワクチン製造所であるセラム研究所は、資金不足のため6月までは増産できないと表明。インドでつくられたアストラゼネカ製ワクチンは、国内での不足を理由に、輸出が一時的に停止された。
感染者が驚異的なペースで増えているのが西部マハラシュトラ州だ。同州のシュヤムサンダー・ニカム医師は2月下旬、「急増の原因はわからない。心配なのは、一家で感染していることだ。これはまったく新しい傾向だ」とBBCに話した。
国民のガードが下がっていることが第2波の背景にあるとの指摘が出ている。多くの人が、結婚式や集会に出席している。政府は政治集会や宗教行事を許可しており、それが国民の間に混乱を生んでいるとも言われる。
感染者が減少した時期にワクチンを接種する人が減ったことも、影響しているかもしれない。国内公衆衛生団体のトップは当時の状況について、「闘いに勝利したという感覚が広がっていた」、「集団免疫を獲得したと思った人もいた。誰もが仕事に戻りたいと願っていた。勝利したという話は多くの人に受け入れられ、警戒が必要だという声は無視された」と話した。
専門家からは、1月から新型ウイルスの遺伝子解析に取り組み、変異株の発見に努めるべきだったとの指摘が出ている。インドでの感染者急増は、変異株が原因との見方もある。
「私たちは2月、マハラシュトラ州からの報告で変異株について知った。これは当初、当局によって否定された」と、物理と生物が専門のガウタム・メノン教授は話す。「これは大きな転換点だった」。
インドの状況から学べることは何か? 新型ウイルスとの闘いで早々に勝利を宣言しないことと、期間と場所を限定したロックダウンを受け入れることの重要さかもしれない。
https://www.bbc.com/japanese/56799581