アイドル目指して大怪我するよりか、大学を出たほうがよっぽど賢明だ。
あの時、彼女の震える唇を見て、僕はそう答えた。
それ以来、彼女は本当の笑顔を見せなくなった。
結局、普通に大学へ入って、芸能とは無縁の生活をしている。

「あの時、君に聞いたのはね、君が一番客観的な人だったから。友達は絶対に応援してくれただろうし、親は絶対に反対しただろうと思う」
「じゃあやっぱ俺のせいで…」
「それは絶対に違う。結局答えだすのは自分だから…」

あーっ!

多分人生で一番大きな声を出した。
彼女も一瞬驚いた顔をしたが、同じように叫ぶ。
目が合う。

「なれるよ、アイドル」
「そうだよね。よし、もう一回こっから頑張ってみる。そのかわり大怪我したら助けてね」
「もちろん」

再度目前に現るジャンクション、彼女に遠くからのクラクションは届いているだろうか。
震えながらも楽しそうな顔が多分その答えである。

「今度さ、高速道路巡り、一緒に行こうよ」

(完)