そして、M-Pesaが銀行以上の存在となり、裏側でイーサリアム系L2と接続され始めることで、どんどん広がっていくのがいわゆる「チャリンチャリン経済圏」である。

これは、大規模な投資や資本市場の話ではない。日雇い労働の報酬、露店の売上、家族への少額仕送り、隣人への立て替え、数百円未満の支払い。そうした極めて小さな価値移転が、高頻度かつ常時発生する経済圏のことだ。先進国では手数料や制度の都合で切り捨てられてきた領域だが、アフリカではこここそが経済の主戦場になっている。

M-Pesaはもともと、この「チャリン」という小さな価値の移動を、現金よりも速く、確実に、広範囲で成立させてきた。だが、イーサリアム系L2と接続されることで、その射程は国内にとどまらなくなった。国境を越えた少額送金、即時清算、低コストでの価値移転が可能になり、チャリンチャリンが国をまたいで連鎖する構造が生まれつつある。

ここで重要なのは、利用者が国際送金をしているという意識すら持たない点だ。ユーザー体験はあくまでM-Pesaのまま、いつも通り携帯で支払い、受け取るだけ。しかしその裏では、ステーブルコインとブロックチェーンが動き、イーサリアム系L2上で清算が行われていく。国際送金が、日常の小銭の延長線に溶け込んでいく。

このチャリンチャリン経済圏は、強い。回数が圧倒的に多く、参加者が広く、しかも生活に直結している。そのため一度インフラが定着すると、他の仕組みに乗り換える理由がほとんどなくなる。銀行やカードが入り込めなかった領域に、M-Pesaとイーサリアムが組み合わさって根を張り始めていく。

結果として、アフリカでは「大きな金は銀行、小さな金はM-Pesa」という分業すら崩れつつある。小さな金の流れが積み重なり、国境を越え、経済圏として膨張していく。その最前線にあるのが、このチャリンチャリン経済圏だ。

静かで、目立たず、ニュースにもなりにくい。しかし、アフリカの現実の経済を動かしているのは、こうした無数の小さな音の積み重ねである。そして今、その音の裏側で、イーサリアムが基盤として回りはじめるのである。