>>385
金融機関がDeFiを避けるという主張は、かつては理にかなっていたが、2023〜2025年にかけての制度・技術・実務の変化を踏まえると、もはや一般化できる主張ではない。まず規制・コンプライアンスの観点からは、パブリックチェーン=無規制・匿名という単純な図式は崩れている。欧州のMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)は既に成立し段階的に適用が進んでおり、ステーブルコインや暗号資産サービスプロバイダーに対するオンチェーンでのコンプライアンス対応が法体系に組み込まれつつある。また中央銀行や国際機関、自律的な決済インフラ運営主体までもがブロックチェーン技術の検証と採用を進めており、BISのProject Mariana のように中央銀行間でDeFi的メカニズム(AMM 等)を用いたクロスボーダー実験が行われ、実務上の可能性が示されている。これらは「規制が整わないから銀行は使えない」という古い論点を弱めるものである。

次にプライバシー問題についても事情は変化した。従来のパブリックチェーンでは全トランザクションが可視化されるため銀行には不利と見られてきたが、zk(ゼロ知識)技術を使った zkEVM やプライバシー機能付きL2、企業向けのハイブリッド設計(公開部分と非公開部分を分離するモデル)などにより、「監査可能だが公開はされない」仕組みが実用化に近づいている。これにより、銀行レベルの機密性と監査性を両立させる技術的手段が現実的になっている。

スケーラビリティとコストに関しては、2024年のEthereumのDencun(EIP-4844 等を含むアップグレード)以降、L2(Rollup)側でのデータ可用性コストが大幅に低下し、実務上のトランザクション処理単価が劇的に改善された。結果として多くのL2が高スループット・低コストを達成しつつあり、既に企業や決済プレイヤーがL2を試験・導入している。これにより「イーサリアムは処理能力が足りない」という主張は、少なくともL2を前提にする限り過去の議論になりつつある。

セキュリティリスクの論点も単純ではない。確かに過去にはスマートコントラクトの脆弱性による損失例が存在するが、金融機関向けにはガバナンス設計・第三者監査・保険・形式検証(formal verification)などの防御手段が整備されつつある。また、歴史的に大口流出事件の多くは中央集権的取引所(CEX)や管理ミスに起因しており、設計と運用を厳格化したオンチェーン実装は逆にリスク管理を向上させる場合もある。銀行が採るべきは「DeFiを一切拒否すること」ではなく、「規制準拠かつ銀行グレードの運用プロセスを組み込んだオンチェーン設計の採用」である。

法的グレーゾーンという批判についても、昨今の規制・監督当局の動きはパブリックチェーンの排除ではなく「統制されたオンチェーン利用の容認と枠組み整備」に向かっている。米国の監督当局やOCCは銀行が一定の暗号資産関連活動を条件付きで行える旨を明確化しており、また日本や欧州でもステーブルコインを含む法整備や実用化プロジェクトが進行している。さらに、SWIFT自身がパブリックネットワーク技術を取り込む方向で共有台帳の構築を公表するなど、国際的決済インフラの主要プレイヤーがブロックチェーン技術を前提として動き始めていることは注目に値する。


金融機関がDeFiを避ける「最悪の理由」は、過去の前提に基づく誤解が大きい。実際の流れはむしろ「規制および監査可能性のフレームを整備し、プライバシーとスケーラビリティの技術を組み合わせ、銀行グレードのガバナンスを付与したオンチェーンインフラに金融機関自らが接続・統合していく」方向である。プライベートチェーンは短期的に管理性を提供するが、国際決済やトークン化資産の相互運用性・大規模スケールを考えれば、最終的には「パブリックネットワーク(特にL2やzk技術を組み合わせた形)+規制準拠の運用モデル」が主流になっていく可能性が高い。これが現在の事実に基づく結論である。