Fassetsモデルは「シームレスなブリッジ」たり得るか?― イーサリアムの「融合」との決定的な隔たり

ブロックチェーンにおける相互運用性をめぐる議論において、FlareネットワークのFassetsモデルは、その独自の経済セキュリティモデルから「ブリッジの進化形」として注目されます。しかし、ユーザー体験とアーキテクチャの根本に焦点を当てると、Fassetsモデルは決して「シームレス」ではなく、従来のブリッジが抱える本質的な課題のいくつかを継承していることが明らかになります。これは、イーサリアムがL2ロールアップとAggLayerを介して目指す「チェーン境界の抽象化」との間に、決定的な隔たりがあることを示しています。

1. Fassetsモデルの本質:「意識的な変換」を強いる非シームレスなブリッジ

「シームレス」とは、ユーザーが背後にある複雑な技術を意識することなく、資産やサービスを連続的に利用できる状態を指します。この観点からFassetsモデルを検証すると、その非シームレス性が浮き彫りになります。

・明示的な「資産の変換」プロセス: ユーザーは、XRPやBTCなどの原資産を、Flareネットワーク上で利用可能な「Fassets」という派生資産に意図的に変換(ミント) しなければなりません。この操作は、従来のブリッジで行う「資産のロックとラップド資産の受け取り」と概念的には同一です。ユーザーは自分が「ブリッジを渡っている」ことを強く意識させられます。

・仲介者(エージェント)の存在と選択: この変換プロセスは、ユーザー自身が直接行うのではなく、エージェント という経済的アクターを介して行われます。ユーザーは、利用するエージェントを選び、その手数料や信頼性を考量する必要が生じます。これは、中央集権的な取引所を選ぶ行為に似た、もう一つの「意識的な選択」という摩擦を生み出します。

・「本来の資産」ではないという認識: Flare上で動くのは原資産そのものではなく、あくまでそれに価値を連動させた 「Fassets」という別物 です。ユーザーは、この資産が元のブロックチェーンから「離れて」機能していることを常に認識せざるを得ず、特に市場が混乱してペグがずれれば、その隔たりは深刻な懸念材料となります。

・逆向きのプロセスの存在: Flareでの利用を終えた資産を元のチェーンに戻すには、Fassetsを「バーン(焼却)」し、エージェントを通じて原資産を受け取るという逆の手続きが必要です。この往復のプロセス全体が、ユーザー体験に明らかな摩擦として存在します。

したがって、Fassetsモデルは、その価値保証メカニズムが従来のブリッジから進化していたとしても、ユーザーから見た操作の流れとしては「ブリッジ」の範疇を全く出ておらず、シームレスであるとは言えません。


2. イーサリアムの「融合」が目指す真のシームレス性

この非シームレス性は、イーサリアムエコシステムがL2とAggLayerで目指す方向性と対比することで、一層明確になります。

イーサリアムのビジョンは、複数のL2やチェーンが存在しながらも、ユーザーがそれらの境界を意識する必要をなくす「抽象化」 にあります。AggLayerは、異なるチェーンの状態を統合し、アトミックな跨チェーントランザクションを可能にしようとしています。ユーザーは、自分がArbitrum、Optimism、あるいはPolygon zkEVMのどれを使っているかを意識せず、単一のネットワークのように感じながら、最も効率的なルートで取引を実行できる世界を目指しています。

これは、資産を「変換」するのではなく、資産の「存在場所」そのものを抽象化するアプローチです。Fassetsモデルが「別のものに変換して持ち込む」という「接続(Connection)」 であるのに対し、AggLayerの理想は「初めから一つの領域にある」という 「融合(Unification)」 の状態に近いと言えます。