0001名無しで叶える物語(らっかせい)2023/03/15(水) 22:41:47.25ID:+vbQXdqG
去年落としてしまったSS
最初から始めます
しずく「ミアさん輸送作戦、ですか?」
栞子「はい。最近、ミアさんに対するいたずらが多く観測されています。落書きの頻度は高まるばかりです」
栞子「そこで、動画などの直接の被害を、これ以上広げない為にも、ミアさんを一時三船家で保護しようと思うのです」
エマ「でも、それってミアちゃんの意思じゃないよね?」
栞子「痛い所を突かれてしまえば、そうなのですが....」
栞子「おそらく、ミアさんには多少なりとの意思はある。でも、被害が出ている以上、なりふり構っていられないのです」
果林「...深刻な問題ね。寮からミアが居なくなるのは少し寂しいわ」
栞子「私も、学園からミアさんが去らざるを得ない状況に、少し寂しく思います」
栞子「今、ランジュにトラックの手配を頼んでいます」
栞子「皆さんのスケジュールでは、三日後がフリーでしたので、三日後に作戦を開始します」
栞子「当日の流れは、後で送ります」
栞子「...ミアさんを、よろしく、お願い、します」ぺこり
しずく「任せてください」
エマ「うん、頑張ろうね」
果林「そのほかにも、やる事あったらなんでも言って頂戴。なんでも手伝うから!」
栞子「ありがとうございます...」
🌟🌟🌟三日後🌟🌟🌟
エマ「はじめに、私達だね」
果林「えぇ、寮からトラックの発着場まで、ミアを誘導する」
エマ「ミアちゃん、おはよう」ガチャ
ミア「....」
エマ「ミアちゃん、栞子ちゃんから、お話は聞いた?」
エマ「ミアちゃんを守る為にね、ミアちゃん別の場所に行くんだよ」
エマ「ついて来てくれる、かな?」
ミア「...........」モグモグ
果林「理解しているのか、私達が理解出来ないわね」
果林「ラクダだから、仕方ないわ。でも、ラクダだからって容赦しないわよ」
果林「ちょっと強引だけど、縄をかけて」ふん よいしょ
果林「ミア、来て貰うわよ!」
ミア「すくっ」
ミア「ブルルン、ブルルン」
果林「あら、案外素直なのね」
エマ「素直なのは、いい事だよ。昔も、このぐらい素直であって欲しかった」小声
果林「ミア、ついて来て」
ミア「....のそ、のそ」
果林「いいわ、その調子、その調子」
エマ「もうすぐ、道路に出るね」
ミア「のそのそ」
ミア「....ボエ~」
エマ「日本人は、みんな優しいって言うけど、案外、東京の人は無関心」
エマ「そう言う所、少し不思議に思ってたけど、今日は好都合だね...」
ミア「....」
果林「みんな、そうだったら良かったのにね」
果林「無関係、無関心な振りをしているのに、本当は他人の事を知りたい」
果林「SNSは、初めは人と人を繋ぐツールだったのに、いつのまにか、安全地帯から石を投げるツールへと変化してしまった」
果林「グローバリゼーション、ユビキタス社会って言っていた頃が懐かしいわね」
果林「その頃の予想とは違って、個人の世界は、繋がるどころか、どんどん狭くなっていっている」
果林「自分の見たい物しか、見えない世界になってしまったわ」
果林「そのまま、狭くなって、先細って、途切れてしまえばいいのに....」
エマ「....果林ちゃん」
エマ「ミアちゃんの事、みんな忘れてくれるかなぁ?」
果林「だと、良いわね...」
ミア「....」
果林「こんな暗い話をしてしまって、ごめんなさい」
果林「もうすぐ発着場よ」
エマ「うん。頑張ろうね」
ミア「....のそのそ」
エマ「見えて来たね、おっきなトラックも」
果林「発着場到着よ。これから先はバトンタッチ」
ランジュ「ミア!さあトラックへ」
ミア「....」
しずく「どうしたのでしょう?動きませんね」
ランジュ「ミア、行きたくないかもしれないけど、これは貴方を思ってやってるのよ。少し強引だけど、わかって頂戴」
ミア「....耳ピクピク」
しずく「何かを聴いている様です。ラクダだから、遠くの音も聞こえるのでしょうか?」
しずくがそんな事を言い終えるか否かの刹那、ミアとランジュ達の間に風が吹いた。
ミアの前髪が、風に揺れる。
あら、サラサラね、なんてランジュが思っていた、その瞬間、ミアは駆け出した。
ミア「....!」すたたっ すたたっ
ランジュ「あっ!!」
エマ「ミアちゃん!待って!待って!」
果林「どうしましょ!!どうしましょ!」
しずく「とりあえず、家で待機中の栞子さんにも連絡を」
しずく「至急トラック前に来てもらって」
エマ「私とランジュちゃんはミアちゃんを追いかける」
ランジュ「任せなさい!」
ランジュ「ミア、止まって!」
ランジュ「止まって!!」
前にも述べた様に、ラクダの脚はすこぶる速い。
ランジュとエマはあっという間に距離を離され、小さくなっていくミアの姿を見送るだけだった。
🌟ミアが逃げ出すよりもちょっと前🌟
彼方「お、おぉ...」
彼方「うっ...」
彼方「はぁ...はぁ...」
彼方「彼方ちゃんの、お昼寝スポット」
彼方「ようやく、1人に...あっ」
モブ「クスクス」
モブ「...スッ」
名も知らぬ、学科も知らぬ誰かは、ポケットから、何かを取り出す。
スマホだ。
スマホで、撮られていると理解するには、瞬きの一瞬程でも十分だった。
彼方「はっ!」
彼方「やめ、やめろよ!!」
モブ「クスクス」
彼方「やめろって、言ってんじゃん!」
彼方はスマホを手で遮ろうとする。
名も知らぬ誰かは、不機嫌そうな、それでも面白そうな顔をしながら、ニヤニヤしていた。
モブ「加害者の癖に、それ、言うんですね」
モブ「遂に本性表しましたね!これ!全世界に配信してるんで!!」
モブ「もっと、もーっと面白い事、言ってくださいよ!」
彼方「は?はぁ??」
彼方の肩が、ワナワナと笑う。
虚無が、彼方を襲う。
ふと、視線を感じ、周囲を見渡す。
モブ「あはははは!」
モブ「こっち見ろよ!」
いつのまにか人集りが出来ていた。
あちらにも、スマホ。こちらにも、スマホ、スマホ。
スマホ、スマホ、スマホ。
彼方「わああああああああ!!!」
野獣の様に雄叫びを上げ、彼方は走り出した。
周囲の好奇心の目など、もう気にしていない。
己の計画の遂行のために、彼方は獣の様に走った。
髪を振り回し、スカートなぞ気にせず、息も絶え絶えに、走る。走る。
彼方「はぁ、はぁ」
たどり着いたのは、璃奈のラボの前。
扉に手を掛けようとしたその瞬間。
せつ菜「彼方さん」
意外な人物だな、と彼方は思った。
しばらく顔を合わせてない。私に罰を与える存在は、せつ菜以外が相応しいのでは?なんて思った。
せつ菜「その扉は、どうせ鍵が掛かっているので開きませんよ」
彼方「....」
せつ菜「彼方さんも、あの何処かの自分勝手なラクダに憧れているのですか?」
彼方「........」
せつ菜「配信動画、見ました。他の生徒が彼方さんを見つけるのは、時間の問題ですね」
せつ菜「どうして...」
せつ菜「どうして、私を見てくれなかったのですか!」
彼方「な、なんだよいきなり...」
せつ菜「かすみさんも、しずくさんも、ミアさんも。どうして有象無象ばかりに手を出してしまったんですか!!」
せつ菜「私は!ずっと貴方の事が好きだったのに!」
彼方「し、知らないよ!いきなりそんな事言われたって、知らないに決まってるじゃないか...!」
彼方「私の好きと、せつ菜ちゃんの好きは、別の方向いてただけじゃん」
彼方「逆ギレはよしてよ!」
せつ菜「なんで、なんで」 グッ
せつ菜は地面の石を掴み上げる。
一瞬、何かを思うように、顔の前で握り締め、そして大きく振りかぶった。
せつ菜「なんで貴方は!人の心を逆撫でするのが、なんでそんなに上手なんですか!!」ブン
ドスッ!
鈍い音が響く。
彼方「あう...い、痛い」
せつ菜「私はあなたを愛していたのに、ずっとずっと、あなたの側で支えていたのに!!」
彼方「...わからないよ。ごめん、わからないんだ...」
せつ菜「...んっ!」
怒りと悲しみに支配されたせつ菜は、二つ目の石を握る。
大きく、彼方へ振りかぶった、その瞬間!
彼方「あれ?痛くない」
ミア「ボエー」
なんと、ミアがせつ菜と彼方の間に割って入って座っていた。
ミアの大きな身体に、彼方は守られている。
石に当たってしまった様で、額からは血を流していた。
せつ菜「ちょうど良い所に来ましたね」
せつ菜「私はミアさんの事、大っ嫌いですから、ちょうど良い機会です」
ラボの前はゴロゴロとした砂利で補充されている為、石は無限にある。
せつ菜はまた一つ拾い上げると、ミアを睨んだ。
彼方「ひっ....当たったら、怪我しちゃう」身を屈める
せつ菜「せめて、人語が喋れればよかったのにね!!」
せつ菜「抵抗したら、やめるつもりだったから!」ブン
ドス
今度はミアの首に命中した。
⭐⭐⭐⭐
かすみ「はぁ...はぁ...」
かすみ「確か、この辺りに...」
かすみ「動画が、役に立つなんて。はぁ、はぁ」
「なんで、なんで!!」
「お前なんかに!なんで!」
かすみ「...!!」
かすみ「せつ菜先輩の声...しかもヒステリックな」
かすみ「そろり...そろり...」
かすみ「....っ!!」
血まみれの頭を、地面ぎりぎりに、なんとかもたげようとしているラクダのミア。
その腹部で、体をワナワナ震わせながらかがみ込む彼方。
石を片手に、ミアを睨みつけるせつ菜。
周囲には、ラクダ独特の匂いと、血の混じった不思議な匂いが漂っていた。
せつ菜「このままじゃ埒が開かないですね」ゴト
せつ菜「この石、あなたの頭をかち割るにはちょうどいいぐらいの大きさですね」
せつ菜「今楽にしてあげますよ」
せつ菜「勝手にラクダになって、自分勝手で」
せつ菜「人の復讐を邪魔するラクダには、お似合いの最後です」ザッ
せつ菜「さようなら!」ブン!
かすみ「ちょ、ちょっとなにこれ!!」
かすみ「!!」
かすみ「....ぐぐぐ」
せつ菜「ちょっと、誰ですか?!」
かすみ「せつ菜先輩...それ以上はミア子が!」
かすみ「なんでそんな事するんですか!!」
かすみ「私達、仲間だったじゃないですか!」
せつ菜「こいつは!!このラクダは!!」
せつ菜「私から奪った!全てを奪った!!」
せつ菜「離せ!!」
かすみ「じゃあ、ミア子より先に、私をやればいいじゃないですか!!」
かすみ「私の罪は、ミア子よりも重い!」
せつ菜「...そういえば、そう、でしたね」クルッ
ドスっと、鈍い音が聞こえる。
かすみの頭を、血が赤く染める。
かすみ「....うぅ」
ふらふらしながら、かすみはまだ立っていた。
足元に、ぽつりぽつりと血溜まりが出来る。
せつ菜「私が、私がどれ程、好きだったか、わかりますか?」
せつ菜「ずーっと待っていました。この不埒なラクダを仕留める機会も、かすみさん、あなた達の機会も!!」
せつ菜「これは神様がくれたチャンスなのです!」
せつ菜がまた石を大きく振りかぶった瞬間!
かすみ「なに言ってんだお前~!!」
かすみは重心を低く取り、素早く構えた。
そして、かすみの渾身の右ストレートが、せつ菜の顔面を撃ち抜いた。
せつ菜「ぶはっ!」
せつ菜はよろけて、後ろに倒れる。
その隙を、かすみは逃さない。
素早く馬乗りになり、何度も殴る、殴る、殴る。
かすみ「ずーっと好きだったからってなんだ!」
かすみ「何にも言わなかった癖に!勝手に期待して、勝手に自爆していった癖に!」
かすみ「彼方先輩が好きなら、好きって言えばよかったのに!」
かすみの頭から、血が荒ぶる。
周囲に鮮血を撒き散らしながらも、かすみはまだ止まらない。
かすみ「口が付いてるんだから!私達はラクダじゃないんだから!言いたいことあったら、あらかじめ言え!!」
かすみ「全部知ってるんだから!ミア子に落書きしてたのもせつ菜先輩ってことも!」
かすみ「先輩こそ自分勝手!自分勝手をふり撒いて、権利ばかり主張して!!」
かすみ「臆病者!小心者!ど三品!」ボコボコ
清々しいまでの逆ギレである。
かすみ「めんどくさい、めんどくさい奴め!」ぼこっ
かすみ「後ろのラクダよりも、不器用な奴め!」ぼこっ
かすみ「はぁ...はぁ...」
かすみが手を休める頃には、せつ菜は既に虫の息であった。
せつ菜「...かっ!」
せつ菜「ごほっごほっ」
青あざで顔を膨らませ、鼻血を垂らすせつ菜。
せつ菜の視界は、徐々にぼやけていく。
それと一緒に、瞼も重くなっていく。
ああ、海風が綺麗だなとか、そう思いながら目を閉じた。
かすみ「ミア子、彼方先輩」
かすみは最後の力を振り絞ろうとしたが、途中で力尽きた。
かすむ「バタン」
かすみは電池が切れた様に倒れ込んだ。
彼方「...あっ...ああ」
彼方「みんな、なんなの?大丈夫なの?」
自分を巡って、乱闘が繰り広げられ、そして誰も起き上がらない。
事の大きさに気づいた時から彼方の膝は笑っていた。
彼方「起きて、起きてミアちゃん!」
ミア「.....ボエ」
彼方「今死んだらラクダになっちゃう!!だから死なないで!」
ミア「.....」
ミアはゆっくり目を閉じて、首を地面に伏せた。
彼方「あっ...あっ....」
彼方「こういう時は....」
パシャ
彼方「!?」
モブ「いい所とったぞー!」
彼方「...」
彼方の顔がサーっと青くなっていく。
モブ「これ全部一人でやったんでしょ?傷害沙汰で退学じゃね?」
モブ「退学したくない様に口合わせてやるから、今までの事に対して土下座しろ」
モブ「(まあ本当は隠し撮りして拡散するつもりだけど)」
モブ「どーげーざー!どーげーざー」
彼方「(うぅ...)」
彼方「(自分の蒔いた種だし)」
彼方は両膝を抱え込み、額を道路につけた。
モブ「申し訳ございませんでしたって言え」
彼方「申し訳...」
半分言いかけたその時。
あなた「何してるの!!」
歩夢「ミアちゃんが逃げたってランジュちゃんから聞いて...あっ」
モブ「(変なやつらが来たけど仕方ない。こいつらまとめて配信してやろ)」
あなた「ねえ、今悪いこと考えたでしょ」
あなた「スマホ見せてよ!」
モブ「えっ、ちょっ!」
あなた「やっぱり!カメラ回してた!」
あなた「ダメだよね、悪意のある動画撮ろうとしてたんでしょ」
あなた「こんなの、こんなの!!」
ピッ!削除
モブ「あっ!」
あなた「今のやり取り録音したから。彼方さんが悪いのはそうだけど、行動が行き過ぎてるよね?」
モブ「ちっ」
モブ「後で覚えとけよ!」
あなた「彼方さん、この惨劇は?」
彼方「かすみちゃんと、せつ菜ちゃんが、殴り合ってて、相打ちになって」
彼方「ミアちゃんも...」
あなた「とりあえず、医務室、でいいのかな?救急車は大袈裟かも」
歩夢「ミアちゃん!ミアちゃん!」
歩夢「ミアちゃん、起きて!」
歩夢「血が、止まってるけど...」
ミア「.....」
彼方「ミアちゃん、お願い、まだ死なないで」
彼方「私、ミアちゃんに謝りたい事、いっぱいあるの。だから!!」
パタパタパタパタ
ランジュ「ミア!ミア!」
ランジュ「ミア!しっかり!!」
あなた「ランジュちゃん!ダメ、今揺すったら!」
ランジュ「...っ!!」
彼方「...ぐすっ」
彼方「ミアちゃんは、私を守って...」
ランジュ「何よ、彼方!この機に及んで泣くの!?」
ランジュ「アナタの撒き散らした種なの。泣くんじゃないわよ!泣きたいのはコッチなの!」
ランジュ「彼方には罪をキチンと贖って貰うためにも、無傷で居てもらわなきゃいけないの」
ランジュ「彼方!」べチン!
彼方「いたっ!」
彼方「何するんだよぉ!」
ランジュ「私からの一発。本当は退学にしたいところだけど」
彼方「.....」
ランジュ「もうすぐ璃奈達が来るわ」
ランジュ「それまでに、ミアを動かさないと...」
結局、人間二人は担架で、ラクダ1匹は大きな台車で運ばれていった。
獣医「人間がラクダになったと言うのも初めて聞きますし、その処置と言われましても、私達にもわかりませんので」
璃奈「それは、重々承知しています」
璃奈「あの...」
璃奈「あの後、人間に戻す薬を開発しました。錠剤タイプだから、目が覚めないと、飲ませる事は出来ないんだけど...」
獣医「それまではなんとかしてみます」
璃奈「...」バッ!物凄い速さのお辞儀
璃奈「ミアちゃんの事、お願いします....」
璃奈の声は、蚊の鳴き声の様な、小さな小さな声だった。
くすくすくす
クラスメイト「ざわざわ」
歩夢「ねぇ、あなた」
あなた「歩夢ちゃん....」
あなた「私ね、絶対学校休んだりしない」
あなた「カメラ向けられても、怒ったりしない」
あなた「ミアちゃんの事ね、ラクダになってから、ずっとやだなって思ってた」
あなた「だって、ラクダだもん。異質だもん」
あなた「でもそうやって避けてても、何かがあるわけじゃないんだ」
あなた「逃げた先に、何かある訳じゃないの」
歩夢「.....うん」
歩夢「私も、逃げない」
あなた「......」
あなた「....すぅ」
あなた「見てろよ!虹ヶ咲の全員!」
あなた「私はミアちゃんの事から逃げない!!」
あなた「学校も休まない!」
あなた「そうやって、安全な所から、石を投げて楽しいか!」
あなた「来るなら正々堂々とかかって来い!」
「.......」シーン
ざわざわ ざわざわ
歩夢「ポカーン」
あなた「あははっ、思った事、叫んじゃった」
あなた「らしくないや。ほんと、不器用だね、みんな」
⭐⭐⭐⭐
ラジオ体操~ 第一~
いちにっ さんしっ~
軽やかなメロディと共に、かすみは目を覚ました。
どこか遠くで、体育の授業を行っているらしい。
柔らかな日の光と、優しい風がかすみの肌を撫でる
かすみ「....」パチリ
かすみ「...っ!」ズキズキ
かすみ「いっ、たぁ」
「ようやく、目覚めましたね」
かすみ「!?」
「虹ヶ咲の教員は何を考えているんでしょうね」
「先程まで、殴り合ってた生徒二人を、同じ教室にするなんて」
かすみ「せつ菜、先輩...?」
せつ菜「よくも私の鼻折ってくれましたね。スクールアイドルは顔が命なのに」
かすみ「それを言ったら、先輩こそ」
せつ菜「痛くて口しか動けません」
かすみ「....認めたくないけど、かすみんも」
せつ菜「.....」
かすみ「.....」
せつ菜「私、どこで間違えたんでしょう」
かすみ「.....」
せつ菜「かすみさんが言った通り、口で言えば良かった。私達人間には、言葉を話して理解する能力がある」
せつ菜「私は、人間に生まれたのに、このツールを使えない。人間に生まれたのに、人間じゃなかった」
かすみ「.....」
かすみ「なんなんでしょうね、人間」
かすみ「先輩、私の事殴ってスッキリしました?」
せつ菜「....はい」
かすみ「じゃあ今度は、彼方先輩ビンタしに行きましょう」
せつ菜「....はい」
⭐⭐⭐⭐
四角い小さなはめ殺しの窓を背に、嵐珠が座る。
ランジュの前には、机、椅子、そして彼方。
彼方が逃走しない様に、しずく、果林、エマ、栞子が出口を塞ぐ。
密室となったこの部屋には、息もできない様な空気が流れていた。
彼方「.......」
ランジュ「...今回の件」
ランジュ「...処分は重くつくわ」
彼方「...」
ランジュ「しばらくの間、停学って所ね。あなたの進路も、全て白紙。事情はあなたから説明しなさい」
彼方「....はい」
彼方「....」
ランジュ「やけに塩らしいじゃない。いつもの飄々とした態度はどこ行ったの?」
ランジュ「本当はさっきの一発でも、退学にした所でも済まされない。八つ裂きにしても、済まされないぐらいよ」
ランジュ「あなたの、彼方の人生が、この先どんなに酷くなっても、私は因果応報だと捉えるわ」
ランジュ「詫びて。そして、地を這いつくばって、惨めに生きなさい」
彼方「....うぐっ」
ランジュ「....泣いてるんなら、初めからこんな事するんじゃないわよ」ぼそっ
彼方「ごめんなさい」ズビズビ
ランジュ「私じゃなくて、ミアに言うべきよ!」
ランジュ「本当どこまでも!「彼方さん」」
しずく「彼方さん!」
しずく「最後に、最後に聞かせてください」
しずく「私達を誑かして、どんな気持ちでした?」
彼方「....」
しずく「どんな気持ち、でした?」
彼方「....ごめんなさい。自分でも、よくわからない」
彼方「みんな、私には眩しすぎるんだ。地位も、
頭も、お金も」
彼方「みんな、私より上で、恵まれてて」
彼方「そんな人達を、自分と同じ水準に引き摺り下ろしてるみたいだった」
彼方「だから、楽しんでいたのかもしれない」
しずく「.....」テクテク
しずくは彼方の前に立つ。そして。
しずく「...!」パァン!
彼方「....っ!」じんじん
しずく「最低」
しずく「一生、許しませんから、私も」
彼方「....うん」
⭐⭐⭐⭐
ぴっぴっぴっ
ミア「.....」シュコー
鼻に繋がれたチューブのせいで息がしづらい。
点滴のせいで、身動きも取れない。
様々な管が身体に繋がれ、大怪我をしている様に見える中、ミア・テイラーは目を開くのを拒んでいた。
本当は意識だってあるし、人間の言葉だってわかっている。
砂漠に耐えうる動物のラクダである。ちょっとやそっとではくたばらないし、生命力だって強い。
璃奈「ミアちゃん....」
愛「ミアち...」
璃奈や愛が、ベッドの脇に立っている。実にバツが悪い。
ミア「(結局、自分のわがまま所為で、他人が傷つく)」
ミア「(それは、とっても嫌だ)」
ミア「(そう思って行動したけれど、結局、僕のわがままの所為で、みんなが傷ついてしまった)」
ミア「(あぁ、今度は本当に、人間を辞めて、全部ラクダになってしまいたい)」
ミア「(全部ラクダになって、人間の記憶も、全部消してしまいたい)」
ミア「ボエ~」
璃奈「ミアちゃん!」
ミア「(はっ....!)」
ミア「(もっと病人になり切らないと)」
ミア「.....」耳ピクピク
動物の耳というのは、言葉の様に内面をそのまま現す。
人間が、目は口ほどに~と言うならば、ラクダの耳は人語のほどに~と言った所か。
それを、璃奈が見逃す訳がない。
璃奈「ミアちゃん、もしかして、起きてる?」
ミア「....!」
ミア「....」
璃奈「ミアちゃん、聞いて」
璃奈「起きてないんだったら、私の独り言」
璃奈「あのね、実はね」
璃奈「ラクダから、人間に戻れる薬を作ったの」
璃奈「でも、これ、錠剤だから、昏睡状態のミアちゃんに無理矢理投与も出来ない」
璃奈「ましてや、薬を飲みたいって言う、ミアちゃんの意志もないし...」
璃奈「でもね、ミアちゃん」
璃奈「私ね、ミアちゃんにもう一度人間に戻って欲しいの」
璃奈「ミアちゃん、前に言ってたよね」
璃奈「人間には、内枠と外枠があるって」
璃奈「その枠って、ある意味、自分はそこまでだって決めつけてるんじゃないかな?」
璃奈「別の人から見たら、別の枠組みがあるし、それを模索しないで、ただ喚いてるだけじゃ」
璃奈「ミアちゃん。ミア・テイラーはそんな人じゃないでしょ?」
璃奈「もっと、傲慢で、鼻が、文字通り高くて、そのくせ実力も玄人で」
璃奈「他をコテンパンにやっつけちゃう実力の持ち主だった筈だよ。勇気も持ってる。じゃなきゃ、彼方さんを助けなかった」
璃奈「お願い、ミアちゃん。人間に戻って」
璃奈「戻って、もう一回、好きって言って」
ミア「.....」
ミア「..........」
ミア「.................」
ミア「(ボク、またわがまま言ってる)」
ミア「(わがままの所為で璃奈が悲しんでる)」
ミア「(ラクダって、なんだったんだろう。ラクダになっても、問題が解決された訳でもなかった)」
ミア「(でも、心のどこかで、まだ人間でありたいって気持ちが大きくなってる)」
ミア「(喋れない事、何にもやらないって返って不自由だ)」
ミア「(ラクダを辞めることも、ある意味わがままだ)」
ミア「(わがままは、もうやめにしよう)」
ミア「(ラクダは、もうやめにしよう)」ムクリ
ミア・テイラーはムクリと起き上がる。
そのまま、まっすぐな黒い瞳で、璃奈と愛を見つめて、ボェ~と鳴いた。
そして、璃奈の手から、錠剤を口で器用に舐めとると、ゴクッと全て飲み込んだ。
ピカ~っとミアの身体が光る。
光は、ラクダから、ミアの形にメタモルフォーゼした。
光の後には、ミア・テイラーが残った。
ミア・テイラーは人間になった。
璃奈「おかえり、ミアちゃん」
ミア「ただいま、璃奈」
愛「人間に戻って、何かしたい事はある?」
ミア「ハンバーガー食べたい」
しばらくミアは、質素なベッドに寝かされ毛布がかけられた。
ボーっと待っていると、璃奈が息を切らしながら戻ってきた。
璃奈「これ、コンビニのだけど」
ミア「ありがとう」ぱくっ
ミア「.....うまい」
ラクダ期を経たためか、いつも散々酷評している、コンビニのハンバーガーさえ、とても美味しく感じられた。
⭐⭐⭐⭐
ちびっ子「ねえ、今日もミアちゃんの所いこー」
ちびっ子「あれ~、ミアちゃんいない~?」
ミアは校門を優雅に歩く。ラクダの様に、優雅に歩く。
そこには、かつての弱気なミア・テイラーは居ない。
今のミア・テイラーは、自信にあふれている。
テクテク
テクテク
「あっ」
「あっ」
彼方「あっ」
ミア「あっ、うん」
彼方のほっぺは大きく腫れている。
彼方「あっ、あのーっ!」
ミア「知ってる。しばらく、停学になるんだろ?」
ミア「ボクも、みんなも、彼方の事許さない」
ミア「だけれど、ボクだけは、彼方が戻ってくる事、待ってるから」
彼方「....ありがとう」
ミア「Until the next time we meet, be well」
彼方「.....うん」
ミア「ははっ、次会うときまでお元気で、かぁ」
木漏れ日の下でミア・テイラーは静かに笑った。
ラクダになったミア・テイラー
おしまい
0144名無しで叶える物語(しまむら)2023/03/21(火) 23:27:49.68ID:GVX9wiXW
やっぱり全部理解してたのか…
ぶっ飛んだ世界観なのに話が丁寧で泣ける😭
乙でした