果林「好き」
果林「だから、私の恋人になってほしいの」
歩夢「えっ………ええ…!?」
果林「そんな反応されると傷ついちゃうんだけど」
歩夢「え、や、その、あまりにも突然でびっくりしたっていうか…」
果林「突然じゃないでしょう。私から何度誘ったと思ってるの?」
歩夢「それは、その、仲良くしてくださって嬉しいなって、思ってました…」
果林「そう。ま、できるだけ表に出さないようにはしてたつもりだけど」
歩夢「うぅ……」
果林「返事は待った方がいいかしら?」
歩夢「ぅえっ!?返事!?」
果林「あら。なに?返事を貰うことすらできないまま生殺しにされるの?」
歩夢「そんなつもりじゃ、えと、お返事、そうですよね」
歩夢「そのー……えっとぉぉ………」
歩夢「………よろしく、お願い…しま、す……」//
果林「こちらこそ♡」ニッ
*
*
恋人ができました。
果林さん。
スクールアイドルを始めてから知り合って、夏を越えた辺りからよくお出かけするようになって。
何度目かの二人きりのお出かけの帰り道、別れる間際。
「話しておきたいことがあるんだけど」なんて、まるで遅刻を謝るいつもの調子で言うから、私も身構えずに聞いちゃった。
頷いたのは、嬉しかったから。
私は果林さんと過ごす時間が好きだし、きっと、果林さんのことが好きだから。
よく面倒を見てくれるな、よく付き合ってくれるな。
楽しいな、もっと話したいな、また会いたいな。
そう思ってた。
私は果林さんのことが好きだけど、それがどんな『好き』なのかなんて、でも考えたことがなかった。
仲間?友達?ライバル?
そのどれも、合ってるみたいで違うみたいで。
これまでできたことのない不思議な関係の相手。
親しい先輩、って言ってしまうのは、少し寂しい距離。
明日、来週、その次、その次。
変わらず続いていくと思ってた私達の関係に、他ならぬ果林さんが名前をくれたことが、
──果林「私の恋人になってほしいの」
とってもとっても嬉しかったの。
*
*
恋人になれた。
歩夢と。
言っちゃうかどうかすごく迷ったけど、言わずに別れた日のコーヒーは苦いから。
私、苦いのそんなに得意じゃないのよね。
意外と。
前々回は百回くらいだったかしら。
前回は千回くらいね。
今日は、うん、一億回くらいかな。
言おうとして、やめて、言おうとして、やめて、言おうとして、やめた回数。
おかげさまで、今日交わした言葉なんか一つも覚えてないわよ。
困ったものね。
放っておけない後輩だった。
一生懸命で、危なっかしくて、かと思えばどこか一歩引いていて。
スクールアイドルに熱があるのかないのかよくわからない向き合い方をしてて、いつも物言いたげに後ろから眺めては半笑いでごまかす感じ。
私は割と物事にはっきり白黒をつけたい方だから、その態度がどうにも気持ち悪かった。
だからたくさん話して歩夢のことを知って、言葉や考えを引き出してあげられるようになりたかった。
だけの、つもりだったんだけど。
好きになっちゃうとは思わなかったのよ。
休みの前には歩夢の予定が気になって、ふとしたことで連絡をしたくなって、会えば別れが寂しくなるの。
歩夢のことを知りたいと思う気持ちは、もう私のわがままでしかなくなっていたから。
知らない感情だったけどなんとなく予想がついたのよね。
ああ、これがきっとそうなんだ、って。
それと、私はちょっとだけ負けず嫌いなの。
そういうものじゃないんだとは思うけど、好きになっちゃったことが悔しくて。
絶対に悟られるもんか、って躍起になってポーカーフェイスに努めるようにした。
その甲斐は充分にあったみたいでなによりなんだけど、
──歩夢「………よろしく、お願い…しま、す……」
最後まで保てていたかは、怪しいかもね。
*
*
果林「ほら見て、この間寮の前で寝てたの」っスマホ
歩夢「わ、可愛いですね…!」
果林「周りに誰もいなくてよかったわ」
歩夢「可愛いネコがいたら誰だって写真撮りますよ。恥ずかしがらなくていいのに」
果林「そういうわけにはいかないの。イメージってものがあるんだから」
歩夢「果林さんはパンダが一番好きなんですよね」
果林「い、言わなくていいの!」
歩夢「私も好きですよ、パンダ。次は動物園に行きましょうか」
果林「連呼しなくていいから……動物園は賛成」
歩夢「果林さん、」
果林「ねえ」
歩夢「はい?」
果林「その呼び方、どうにかならない?」
歩夢「え…」
果林「いつまでもそんなよそよそしい呼び方しなくてもいいんじゃない?私達、恋人でしょう」
歩夢「そ、そう…です、ね。そういうもの…ですか…?」
果林「さあ。そういうものかは知らないけど、さん付けで呼ばれるとなんだか距離を感じちゃうわ」
果林「私だけかしら」
歩夢「きょ、距離なんてそんな…でもなんて呼んだら…」
果林「普通に呼び捨てしてくれたらいいけど」
歩夢「呼び捨て!?」
歩夢「か………か、……か…………」
歩夢 パクパク…
──歩夢「果林」
歩夢「………!?…!………!!?」パク…
果林「なにをそんなにためらってるのよ。イヤなの?呼び捨て」
歩夢「い、イヤ、イヤとかじゃなくて、そのっ」
果林 ム…
果林「じゃ、私も歩夢さんって呼ぶわね」
歩夢「!?」
果林「恋人なのに関係性が片寄ってるみたいでイヤなのよ。ああ、なんならついでに私も敬語で話そうかな」
歩夢「!!??」
果林「歩夢さん、動物園はいつ行きたいですか?」
歩夢「や……やです、それ!」
果林「イヤなら、わかるわね?」
歩夢「ぅ…」
果林「歩夢さん」
歩夢「ぅぅぅぅぅぅっ!」ジタバタ
果林 ニコッ
歩夢「〜〜〜………っ、」
歩夢「…………か……果林、の、……いじわる…」///
果林「可愛過ぎて困るわね」
歩夢「も、も〜っ!!」ポコポコ…
*
*
歩夢「あっそうだ果林さん、昨日お母さんから聞いたんですけどね」
果林「名前、間違ってるけど」
歩夢「え?……ああ、ぅ……果林…」
果林「お母さんがどうしたの?」
歩夢「ま、まだ慣れないもん。毎回指摘しないでください!」
果林「そうですね、気をつけます」
歩夢「け…敬語も!」
果林 クスクス…
歩夢「だったら果林も私の呼び方変えてほしい!」バッ
果林「ええ?私が歩夢を、歩夢以外になんて呼ぶのよ」
歩夢「そっ、れは……」
果林「あゆぴょん?」
歩夢「あゆぴょん以外で!」
果林「んー…」
果林「あーちゃん?」
歩夢「!?」
果林「あんまり変わったあだ名つけるのって好きじゃないのよ、これがイヤなら諦めて…」
歩夢「も、もう一回、呼んで?」クイ…
果林「…」
歩夢 ジッ…
果林「あーちゃん」
歩夢 キューーンッ
歩夢「それ!それがいい!そう呼んでほしい!」
果林「あーちゃんって?」
歩夢 キュンッ クラクラ…
果林「こういうのが好きなのねぇ」
果林「ま、私のお願いも聞いてくれたことだしね。これからはそう呼ぶわ」
歩夢「うんっ」
*
*
隣を歩く果林さん。
歩幅は私より広くて、歩調も私より速くて、ふと気がつくと置いていかれそうになっちゃう。
二人でお出かけし始めた頃は、数歩ごとに立ち止まっては振り返って待っててくれた。
少し慣れてきてからは、果林さんが私のペースに合わせてくれるから歩き方がぎこちなくなってた。
でもそれはすぐにやめちゃって、今は、
果林「あーちゃん」スッ
歩夢「うん」ギュ
こうして、手を繋いでくれる。
誰かの隣を歩くことなんてほとんどなかった。
ないことはないけど、人間が違うからペースが違うのなんて当たり前のことで、どれだけ距離がひらこうと気にもしなかった。
信号で、曲がり角で、自販機の傍で、待っていればいつかは追いついてくるから。
初めて、自分と誰かの距離を気にした。
そして、同じペースで歩きたいと思ったの。
果林「あーちゃん」スッ
歩夢「うん」ギュ
自分のものではないペース、隣同士で歩むのも悪くないわね。
果林「行きましょうか」ス…
歩夢「あっねえ、スマホ置きっ放し!」
果林「あら、ごめんなさい」
歩夢「うふふ、果林ってどこかぼーっとしてるよね。可愛い」
果林「からかってるでしょう」
歩夢「からかってないよぉ。そういうところも好きだなって思っただけです」
果林「ま、いいけど」
果林「それで、動物園、いつにする?」
歩夢「早く行きたいんですよね。じゃあ、今週末行っちゃおっか」
果林「ちょっと。私が行きたがってるみたいに言わないで」
歩夢「行きたいんだよね?」
果林「…行きたいけど」
歩夢「ね。楽しみだなぁ」
果林「私もよ」
あなたと一緒に、歩いていく。
明日もね。
終わり
あゆかり読みたかったので書きました
編と言っていますが続くかどうかは未定です、
お付き合いいただきありがとうございました
0028名無しで叶える物語(もんじゃ)2021/01/08(金) 20:02:49.45ID:k/UhwLJm
あゆかりいいぞ
ただスレタイにキャラ名もカプ名も「」もないとあゆかりSSスレだと気づかれにくいかも
0030名無しで叶える物語(もんじゃ)2021/01/08(金) 20:23:16.13ID:QuwewJlO
あゆかりは良いぞ…
0031名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/08(金) 20:24:37.70ID:wRDejs/Y
これは最高じゃないか
はあああ〜〜〜もう最っ高…
極上のあゆかりですよこれは
先輩後輩カプならではの距離感の描写が絶妙で、それを埋めていく過程がね、もうね、最高(語彙の限界)
0034名無しで叶える物語(茸)2021/01/08(金) 21:19:38.01ID:C/VcalNl
あゆかり古傷に効くから助かる