わたくし、実は踊りには自信があるのよ。
あ―――いえ。
スクールアイドルももちろんそうだけど。
本当に自信があるのは舞踊のほう。
優雅なわたくしにピッタリでしょう?フフ―――♡
黒澤家に相応しいのは勝利のみ。
黒澤の娘に、敗北なんて許されないの。
お琴も唄も舞踊も、昔から誰にも負けない自信があった。
絶対にね。
0004名無しで叶える物語(SB-iPhone)2017/10/10(火) 22:33:17.16ID:ZotOv5C0
渡辺で舞うに見えた
けれど。
そんなわたくしが、一度だけ――――
たった一度だけ。
負けを痛感したことがあるの。
わたくしが高校2年生の時―――去年の秋のことよ。
全国から名家の娘を集めた、踊りの発表会があったの。
東京のそこそこ大きな会場でね。
黒澤家よりも名も通っている、大きい家の娘もそこそこ居たけれど―――
負けを感じることは無かったわ。
付け焼刃のような低いレベルの踊りを披露するような子もいれば、
緊張して失敗するような子もいた。
もちろん、レベルの高い子もいるけれど、やっぱりどこか詰めが甘くて。
会場の拍手だって、明らかにわたくしに向けられるものが一番大きくて。
全国って言っても、所詮はこんなものなのかしら―――――なんて。
そう思っていた。
発表会の締めを飾るのは、まだ高校1年生の東京の子。
彼女は蒼い着物に袖を通し、僅かな音も、少しの風も立てずに歩いてくる。
舞台の中央に彼女が立った瞬間、
ぴりっ―――――と、会場の空気が張り詰めた気がしたわ。
彼女の舞は、指の先――――
いいえ。
それどころか――――髪の毛の一本にさえも、寸分の狂いも無い。
とても繊細で儚いのに、でもどこか厳かで。
艶やかだけれど、とても力強くて。
完璧だった―――とでも、言えばいいのかしら。
私は、彼女に魅了された。
発表会の後には、参加者と関係者を含めた夕食会があったのだけれど。
―――これは偶然か、運命か。
わたくしの席の隣に居たのは、あの、"彼女"だった。
「失礼します」
軽く会釈をして、席に着く。
彼女はわたくしに会釈を返し、再び姿勢を正して前を見据える。
こういう場でするべきことではないと思うし、わたくしとしてもあまりしないタイプなんだけれど―――
周りもそこそこ騒がしいし、まあ、いいかと思って。
どうしても話を聞きたくて、声を掛けてみたの。
「……あの、お疲れ様でした」
「――ええ、お疲れ様でした」
相手は歳下の子なのに、柄にもなく緊張してしまう。
「黒澤さん…でしたよね」
「ええ、そうです」
「黒澤さんの舞、素晴らしかったです」
「―――っ」
わたくしは、顔が真っ赤になった。
わたくしを魅了した彼女にそんな事を言われて恥ずかしかったのか、
それとも頭に来たのか、よくわからなかった。
彼女は揺らめく海の波みたいに止まることなく、
つらつらと私への褒め言葉を並べていたのだけれど―――
これっぽっちも耳には入ってこなかったわ。
「黒澤さんは静岡の―――内浦の方ですよね」
「……ええ」
「良い環境は、良い女性を育てるのですね」
「私も伺った事がありますが、海も山も綺麗な、素敵な場所でした」
「……よく、覚えていらっしゃるのね」
「くすくす―――」
「わ―――わたくし、何か可笑しいことを言いましたか?」
「いえ、そういうわけではありません。失礼しました」
「ただ―――」
「ただ?」
「同じ舞台に立たせていただく皆さんの事、ずっと考えていましたから」
「なっ―――――」
わたくしは、後頭部を思い切り殴られたみたいな―――
楽しみにしていたハーゲンダッツを、
ルビィに取られた時のショックなんかとは比べ物にならないくらい―――
はるかに大きな衝撃を、受けたのです。
「……その―――ええと」
どう続けていいのかわからなくなって、言葉を探す。
「わたくし、あなたに負けましたわ」
「……ま、負けた!?」
彼女の表情が、少し崩れる。
あら、こんな顔もするのね。
意外だわ―――クスクス♡
「わたくしは、稽古を始めた6歳の時から一切手を抜かず、何事にも全力で取り組んできたつもりです」
「お琴も、唄も、舞踊も」
「でも、わたくしは今日、あなたには敵わないと―――そう確信しました」
「教えてくださいませんか?あなたの強さの秘密を」
「……私の強さ、ですか」
「正直、よくわかりません」
「……そう、ですか」
「でも―――強いて言えば、ですが」
「?」
「私は大事な舞台に立つとき、色々な事を考えます」
「でも最後はいつも、大切な人の事を想うのです」
そう語る彼女の顔は、舞台に立っていた時の凛々しく艶やかなものでも、
先程わたくしを褒めちぎっていた時の女神のような笑顔でもなく、
恋する乙女のものでした。
「大切な人―――ですか」
「ええ」
「幼いころからお互いに支え合ってきた、本当にかけがえのない存在なんです」
「あの子の事を想うと―――自然と気が引き締まって、勇気が溢れてくるんです」
「それが、私の強さなのかもしれません」
なるほど。
彼女のような素敵な女性なら、意中の方のひとりやふたり、いるというものよね。
――いや、ふたりもいたら、おかしいかしら。
「――――なんて、答えになっているかわかりませんが」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに語る彼女を見て、考える。
大切な人―――――か。
わたくしには、そんな人いたかしら?
ルビィ――――は、無いわね。
あの子の事を考えると逆に落ち着かないわ。
じゃあ、父母?―――も、なにか違う。
いつも遊びに来てくれるマルちゃん―――も違うわね。
友達――果南とか、他のクラスメイト。
―――も、そういうのじゃないかしら。
いつもうるさい千歌ちゃんと曜ちゃんみたいなのは論外。
……ダメだわ。
思いつかない。
「……お、お恥ずかしい話をしてしまいましたね」
「いえ、そんなことはありません」
「わたくしにも―――そんな人が、現れるのでしょうか」
「絶対に現れてくれますよ。黒澤さんのような、素敵な方でしたら―――クスクス♡」
「な―――――っ」
ふいに見せた彼女の柔らかい笑顔に、わたくしのハートが跳ねたのを感じました。
―――ああ、なぜ彼女は女性なのかしら。
いっそ、わたくしが男性ならよかったのかしら?
彼女をお嫁に貰えるお相手が羨ましいわ。
―――なんて、声には出さないけれど。
「ねえ、その――――――」
『えー、本日はお忙しい中、皆様お集まりいただきまして―――』
話を続けようとしたら、スピーカーを通したおじさまの声に掻き消された。
もう、やだわ―――
なんてタイミングが悪いのかしら。
軽く会釈を交わして姿勢を正し、だらだらと喋り続けるマイクのおじさまの方を向く。
夕食会では、お互い他の子や大人たちへの対応に追われて、
結局彼女と話す機会はなかった。
ただ、その会話の中で思い出したことなんだけれど。
彼女の苗字、どこかで聞いたことがあると思ったら―――
日本舞踊の家元だったわ。
―――勝てないわけね。
帰り際、彼女とすれ違った。
会釈をして、隣を通り過ぎようとしたとき―――
「黒澤さん」
今度は彼女の方から、声を掛けてきた。
「はい?」
「また、お会いしましょう」
「――ええ、また。次お目にかかる時は、あなたにも負けないわたくしを、見せて差し上げます」
「では私も、更に精進しますね」
にこりと笑い合って、料亭を後にした。
「スクールアイドルフェスティバルなんだよっ!」
部室に飛び込んできた千歌ちゃんのやかましい声に、思わず耳を塞ぐ。
「すくーるあいどるふぇすてぃばる?」
「なにそれ?」
頭にハテナを浮かべる曜ちゃんと果南に対して、
「スクールアイドルの祭典、通称スクフェス――もしかして、千歌ちゃん!」
大興奮のルビィ。
「そう、そうなんだよルビィちゃん!なんと、Aqoursにもお誘いが来たんだよ!」
「Festivalってことは、オマツリ?」
「いえす、鞠莉ちゃん!」
「ヨハネたちAqoursの名を、さらに轟かせることができるのかしら―――クスクス♡」
「そうだよ、ヨハネちゃん!!」
「千歌ちゃん、ちょっとうるさいわよ」
大興奮の千歌ちゃんをたしなめる。
このままじゃ鼓膜がやぶれちゃうわ。
「ちょっとくらい落ち着きなさい」
「落ち着いていられないよ!!」
「スクールアイドルのお祭りだなんて、マルは落ち着かないずら……」
「わ、私も……」
怯える梨子ちゃんとマルちゃんを無視して、大興奮の千歌ちゃんはドンドン話を進める。
「その中でね、他校のグループと共演する「オールスターズ」って企画があるんだけど―――」
「なんとなんと!私たちは―――あの『μ`s』と共演するんだよっ!!」
「μ`s?なんなの、それ?」
薬用石鹸かしら?
「も、もう!お姉ちゃん〜!」
ルビィはノートパソコンを操作して、画面を見せてくる。
スクールアイドルに関する知識では、この子には勝てないのよね。
残念ながら。
「音ノ木坂学院スクールアイドル……μ`s、ねえ」
「そう!A-RISEと並んで今人気絶頂の、最強のスクールアイドルなんだよ!」
「へえ―――」
海辺の小さな町のわたくしたちが言うのもなんだけれど、
こんな普通っぽい子たちが、今人気絶頂―――――
って。
「えええええ――――――!?」
柄にもなく、大声を出して驚いてしまったわ。
だって。
そこに写っている、黒い長髪の女の子。
着ているのは、フリフリヒラヒラの衣装だけれど―――
見間違えるはずがない。
「……ふ、ふふ――――」
「…ダイヤちゃん?」
「千歌ちゃん!」
「は、はい!」
「―――なおいっそう、負けられなくなったわ」
「へ?」
「さあ!スクールアイドルフェスティバルに向けて、全力で練習するわよ!」
「ワオ!ダイヤってば、ずいぶんやる気だね?」
「その意気だよダイヤちゃん!!さあさあ、梨子ちゃんもマルちゃんも怯えてないで!」
「Aqours、いっくぞー!!」
「「おー!!!」」
思っていたのとは、ちょっと―――いえ、だいぶ違う形にはなりましたが。
黒澤ダイヤとして。
あなたに負けない踊りを、見せて差し上げますわ。
そうしたら―――今度はわたくしが、あなたのことを魅了しちゃうんだから。
――――覚悟していなさいね?
園田海未さん♡
無駄にカップリングさせるカス共のssと違って悪くなかった
おわりです
オールスターズ楽しみです
あと書き溜め終わった後に関連書籍色々読み直したんですけど
GOD版ダイヤさんが舞踊やってたっていう記述とか描写無かったです
ごめんなさい
乙
GODすぎてニヤニヤした
俺もG'sお姉ちゃん舞踊やってると思ってたわ
0027名無しで叶える物語(庭)2017/10/11(水) 00:21:25.12ID:PHv7UW1E
そういえば歳下なんだうみみ
特典SIDで踊りの先生が〜って言ってるから舞踊やってんじゃないかな
むっちゃよかった
少しだけだけど、ダイヤ以外もG's準拠でいいものが見れた
めちゃくちゃ良かった
こういう自然な絡み書けるのすごい、面白かったです
良いものを見させてもらった、乙です
自信満々なダイヤさんほんとすき
0033名無しで叶える物語(庭)2017/10/11(水) 08:30:36.22ID:/KTtnTYM
よかっでなも
最後名前ださないままでも雰囲気よささうでやっぱりよかっでなも
0041名無しで叶える物語(庭)2017/10/16(月) 14:16:26.74ID:DNWGiGI5
みなさん、お忘れではないですよね?
選挙直前で思い出されるのは
11人からの100万円×2回を加計学園の秘書課長から受け取ったとする下村博文氏と
「防衛大臣としてお願い」と応援演説をした稲田朋美氏の件ですよね。
両氏とも、選挙に勝って終了扱いにする気ですかね。
東京都民と福井県民が、まともかどうか試されますね。