あれは暑い夏の日の夜のことだ。
山奥の県道を流していると、道端に今は使われていないであろう電話ボックスがあった。
なんとなく気になって目を凝らすと、女性が中に居たように見えた。
そのまま通り過ぎたのだが、見間違いだろうと思いながらも引き返すと、やはり電話ボックスには誰もいなかった。
ほっとして元の道に戻り、しばらく進むと後ろから女性の声が聞こえたような気がした。
車を停めて振り返ったが誰もいなかった。
疲れているのかな、と思い先を急ごうと発進しようとしたときに、ふとバックミラーに目をやると蒼白い顔をした髪の長い女がこちらを睨んでいた。
おかしい、だってこの車には後部座席がないのだ。
いったい彼女はどこに乗っていたのだろうか。今考えても不思議な出来事だった。