プロジェクトX〜挑戦者たち〜  スバルの挑戦。奇跡のコンセプトカー - 量産車との乖離

広報部長は、頭を悩ませていた。TMSは近づいていた。
発表する新情報がない。TMSまでには新型の情報を出さなければ間に合わない。思案にくれていた時、社長は意外な事を言った。
「WRX STiに限定車を追加して展示してはどうだろう。」 広報部長は戸惑った。 確かに限定と付ければスバオタは騙せる。しかしその反面、一般人には新技術が無いと露呈する。
「無理です。出来ません」広報部長は思わず叫んだ。
「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で成し遂げるんだ!」

社長の熱い思いに、広報部長は心を打たれた。
「やらせてください!」
それから夜を徹してとりあえず新しいネタを模索し、それに合わせるための開発に取り組んだ。
しかし、どうしても目を引く情報が出てこない。開発費をケチってきたツケがこんな所に出てきていた。
話題性を高めるにはどうしても新しい外装が要る。しかもコンセプトカーとして製作しなければならない。広報&開発部長は、来る日も来る日も「訴求力のある商品」という本を読み倒した。TMSの日はすぐそこまで来ていた。追い詰められていた。

そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。コンセプトカーは、実際に販売する車か?」

そうだ。所詮はコンセプトモデルだ。
ハリボテであろうとガワが有ればステージは誤魔化せる。スペックは文字でどうにでもなる。所詮量産車は量産車、デザインの違いなど些末な事だ。
暗闇に光が射した気がした。

開発部長は試しに外装だけ組み立ててみた。
かっこいいコンセプトカーが、そこにあった。
VISIVの看板を置いてみた。
まるでモーターショウのステージだ。
「これだ、これが探してた俺たちだけのモーターショウなんだ!」
社長と広報部長と開発部長は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 広報部長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、TMS始まったら俺真っ先にスバルブース行きますよ!」開発部長は言った。
「ああ、よろしく頼む。ただ、ドアは開けようとするなよ。そもそも開かないからな。」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。