プロジェクトX〜挑戦者たち〜  スバルの錬金術。リコールすらも利益へ

2016年5月、広報部長は、頭を悩ませていた。レガシィのクレームが増えていた。
走行中にフロントストラットのナットが外れる。ボルトが折れることもあるらしい。思案にくれていた時、社長は意外な事を言った。

「もうさ・・・リコール出しちゃったらどうだろう。」 開発部長は戸惑った。 確かにリコールなら該当車を修理出来る。しかしそれではオーナーからの不満が出る。
「無理です。出来ません」開発部長は思わず叫んだ。「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で成し遂げるんだ!」

社長の熱い思いに、広報部長は心を打たれた。「やってみます」
それから夜を徹して文言を考え、リコール届け出の書類を作成した。
しかし、どうしてもコストがかかる。なんとか大ごとに見えない文章は完成したが、費用が捻出できない。
リコールになるとコストカットの限界を超える。コストカットの塊のような車を作ってきた開発陣の中ではその壁は高かった。
開発部長は、来る日も来る日も条件を限定し該当車両を減らそうと頑張った。「11万5787台・・・これ以上は減らせない」追い詰められていた。

そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。リコール発表の前に新しいサスを買わせてはどうだ?」

そうだ。買い換えだ。
リコールが発表される前なら少し安くすればお得感も演出できる。無料で時間を割いて新品と交換するよりははるかにいい。
暗闇に光が射した気がした。

広報部長は「ビルシュタインと共に蘇る、レガシィで走る歓び」と広告を打ってみた。
スペック厨に、サスが、売れた。
通常価格より5,000円〜10,000円ほど安くしてみた。
馬鹿も釣れた。
「これだ、これが探してた俺たちだけの錬金術なんだ!」
社長と開発部長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 開発部長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、レガシィのリコールが発表されたら俺真っ先に持って行きますよ!」若い開発部員は言った。
「ああ、よろしく頼む。ただ、交換するまで無茶するなよ。死ぬかもしれんからな」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。

2017年1月、リコールが発表された