アンパンマンアンチスレ
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全国新幹線駅ランキング(北海道新幹線・新青森〜新函館北斗間開業後の予想)
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J いわて沼宮内、奥津軽いまべつ、安中榛名
ソース:http://peace.2ch.net/test/read.cgi/rail/1405238182/188 MAG速とは
・掃きだめ
・VIP・なんJスレ、オープンスレを転載
・ネガティブな記事やアニメ・声優下げが顕著
・コメント欄の質の悪さは不快極まること請合い
・民度が低い住民の記事内での扇動や対立煽りが特徴
・まとめブログのダメージ0とトップページが酷似している
・特定のアニメや声優ネタの連投ばかりで飽きられている
・偏った内容の記事やコメントが目立ってしまうからアンチ量産
・アニメ・ゲーム・漫画・声優業界の癌細胞でしかないアフィカス
※記事内容を信じないようにしましょう (不快ならブロックリストで非表示に) あんまり出たらめは困るけれども、必しも風格高きを要せず、名文であることを要せず、博識なるを要せず、凝ることを要しない。 素朴に、天真爛漫に、おのおのの素質に依つて、見たり、感じたり、考へたりしたことが書いてあれば、それでよろしい」 しかし問題は中村君の「あんまり出たらめは困るけれども」 なほ次手に枝葉に亙れば、中村君は「近来随筆の流行漸く盛んならんとするに当つて、随筆を論ずる者、必ず一方に永井荷風氏や、近松秋江氏を賞揚し、一方に若い人人のそれを嘲笑する傾向がある。 世間が夙に認めてゐることを、尻馬に乗つて、屋上屋を架して見たつて、何の手柄にもならない」 の中に僕も加へてくれるならば、一層同感することは確かである。 しかし君の「随筆の流行といふことを、人人にはつきり意識させたのは、中戸川吉二氏の始めた、雑誌「随筆」 しかし随筆と云ふものが、芥川氏や、その他の諸氏の定義して居るやうに難かしいものだとすると、(中略) 到底随筆専門の雑誌の発刊なんか、思ひも及ばないことになる」 時には多少の旧潮をも掲載してゐることは事実である。 が、もう一言つけ加へれば、僕の随筆を論じた文も理路整然としてゐた次第ではない。 僕は「清閑を得る前にはまづ金を持たなければならない。 君は僕を憐んだのか、不幸にもこの虚を衝かなかつた。 論敵に憐まれる不愉快は夙に君も知つてゐる筈である。 もし君との論戦の中に少しでも敵意を感じたとすれば、この点だけは実に業腹だつた。 新潮二月号所載藤森淳三氏の文(宇野浩二氏の作と人とに関する) によれば、宇野氏は当初軽蔑してゐた里見氏や芥川龍之介に、色目を使ふやうになつたさうである。 が、里見氏は姑く問はず、事の僕に関する限り、藤森氏の言は当つてゐない。 宇野氏も色目を使つたかも知れぬが、僕も又盛に色目を使つた。 いや、僕自身の感じを云へば、寧ろ色目を使つたのは僕ばかりのやうにも思はれるのである。 藤森氏の文は大家たる宇野氏に何の痛痒も与へぬであらう。 だから僕は宇野氏の為にこの文を艸する必要を見ない。 しかし新らしい観念や人に色目も使はぬと云ふことは退屈そのものの証拠である。 すると色目を使つたと云ふ、常に溌剌たる生活力の証拠は宇野氏の独占に委すべきではない。 然るに偏頗なる藤森氏は宇野氏にのみかう云ふ名誉を与へた。 如何に脱俗した僕と雖も、嫉妬せざるを得ない所以である。 かたがた僕は小閑を幸ひ、色目の辯を艸することとした。 自分の今寝ころんでゐる側に、古い池があつて、そこに蛙が沢山ゐる。 その芦や蒲の向うには、背の高い白楊の並木が、品よく風に戦いでゐる。 その又向うには、静な夏の空があつて、そこには何時も細い、硝子のかけのやうな雲が光つてゐる。 さうしてそれらが皆、実際よりも遙に美しく、池の水に映つてゐる。 蛙はその池の中で、永い一日を飽きず、ころろ、かららと鳴きくらしてゐる。 ちよいと聞くと、それが唯ころろ、かららとしか聞えない。 蛙が口をきくのは、何もイソツプの時代ばかりと限つてゐる訳ではない。 中でも芦の葉の上にゐる蛙は、大学教授のやうな態度でこんなことを云つた。 空と艸木との映つた池の水面が、殆埋る位な蛙だから、賛成の声も勿論大したものである。 丁度その時、白楊の根元に眠つてゐた蛇は、このやかましいころろ、かららの声で眼をさました。 さうして、鎌首をもたげながら、池の方へ眼をやつて、まだ眠むさうに舌なめづりをした。 蛇は、二度目の賛成の声を聞くと、急に体を鞭のやうにぴんとさせた。 それから、そろそろ芦の中へ這ひこみながら、黒い眼をかがやかせて、注意深く池の中の様子を窺つた。 芦の葉の上の蛙は、依然として、大きな口をあけながら、辯じてゐる。 既に水も艸木も、虫も土も空も太陽も、皆我々蛙の為にある。 森羅万象が悉く我々の為にあると云ふ事実は、最早何等の疑をも容れる余地がない。 自分はこの事実を諸君の前に闡明すると共に、併せて全宇宙を我々の為に創造した神に、心からな感謝を捧げたいと思ふ。 蛙は、空を仰いで、眼玉を一つぐるりとまはして、それから又、大きな口をあいて云つた。 さう云ふ語がまだ完らない中に、蛇の頭がぶつけるやうにのびたかと思ふと、この雄辯なる蛙は、見る間にその口に啣へられた。 池中の蛙が驚いてわめいてる中に、蛇は蛙を啣へた儘、芦の中へかくれてしまつた。 後の騒ぎは、恐らくこの池の開闢以来未嘗なかつた事であらう。 自分にはその中で、年の若い蛙が、泣き声を出しながら、かう云つてゐるのが聞えた。 「水も艸木も、虫も土も、空も太陽も、みんな我々蛙の為にある。 食はれた蛙は、多数の幸福の為に捧げられた犠牲だと思ふがいい。 尤も本来の喜劇的精神は人を欺くことがあるかも知れない。 のみならず、又宇野浩二は喜劇的精神を発揮しないにもしろ、あらゆる多感と聡明とを二つとも兼ね具えた人のように滅多にムキにはならない人である。 喜劇的精神を発揮することそのことにもムキにはならない人である。 これは時には宇野浩二に怪物の看を与えるかも知れない。 たとえば精神的カメレオンに対するシャルムの存することも事実である。 殊に三味線を弾いている宇野は浩さん離れのした格さんである。 次手に顔のことを少し書けば、わたしは宇野の顔を見る度に必ず多少の食慾を感じた。 あの顔は頬から耳のあたりをコオルド・ビフのように料理するが好い。 皿に載せた一片の肉はほんのりと赤い所どころに白い脂肪を交えている。 が、ちょっと裏返して見ると、鳥膚になった頬の皮はもじゃもじゃした揉み上げを残している。―― 尤も実際口へ入れて見たら、予期通り一杯やれるかどうか、その辺は頗る疑問である。 多分はいくら香料をかけても、揉み上げにしみこんだ煙草の匂は羊肉の匂のようにぷんと来るであろう。 いざ子ども利鎌とりもち宇野麻呂が揉み上げ草を刈りて馬飼へ 日華洋行の主人陳彩は、机に背広の両肘を凭せて、火の消えた葉巻を啣えたまま、今日も堆い商用書類に、繁忙な眼を曝していた。 更紗の窓掛けを垂れた部屋の内には、不相変残暑の寂寞が、息苦しいくらい支配していた。 その寂寞を破るものは、ニスののする戸の向うから、時々ここへ聞えて来る、かすかなタイプライタアの音だけであった。 書類が一山片づいた後、陳はふと何か思い出したように、卓上電話の受話器を耳へ当てた。 陳の唇を洩れる言葉は、妙に底力のある日本語であった。 陳は受話器を元の位置に戻すと、なぜか顔を曇らせながら、肥った指に燐寸を摺って、啣えていた葉巻を吸い始めた。 煙草の煙、草花の、ナイフやフォオクの皿に触れる音、部屋の隅から湧き上る調子外れのカルメンの音楽、―― 陳はそう云う騒ぎの中に、一杯の麦酒を前にしながら、たった一人茫然と、卓に肘をついている。 彼の周囲にあるものは、客も、給仕も、煽風機も、何一つ目まぐるしく動いていないものはない。 が、ただ、彼の視線だけは、帳場机の後の女の顔へ、さっきからじっと注がれている。 それが壁へ貼った鏡を後に、絶えず鉛筆を動かしながら、忙しそうにビルを書いている。 額の捲き毛、かすかな頬紅、それから地味な青磁色の半襟。―― 陳は麦酒を飲み干すと、徐に大きな体を起して、帳場机の前へ歩み寄った。 女はこう云う間にも、依然として鉛筆を動かしている。 そこにはすでに二年前から、延べの金の両端を抱かせた、約婚の指環が嵌っている。 女は咄嗟に指環を抜くと、ビルと一しょに彼の前へ投げた。 カッフェの外のアスファルトには、涼しい夏の夜風が流れている。 陳は人通りに交りながら、何度も町の空の星を仰いで見た。 誰かの戸を叩く音が、一年後の現実へ陳彩の心を喚び返した。 その声がまだ消えない内に、ニスののする戸がそっと明くと、顔色の蒼白い書記の今西が、無気味なほど静にはいって来た。 黙って頷いた陳の顔には、その上今西に一言も、口を開かせない不機嫌さがあった。 今西は冷かに目礼すると、一通の封書を残したまま、また前のように音もなく、戸の向うの部屋へ帰って行った。 戸が今西の後にしまった後、陳は灰皿に葉巻を捨てて、机の上の封書を取上げた。 それは白い西洋封筒に、タイプライタアで宛名を打った、格別普通の商用書簡と、変る所のない手紙であった。 しかしその手紙を手にすると同時に、陳の顔には云いようのない嫌悪の情が浮んで来た。 陳は太い眉を顰めながら、忌々しそうに舌打ちをした。 が、それにも関らず、靴の踵を机の縁へ当てると、ほとんど輪転椅子の上に仰向けになって、紙切小刀も使わずに封を切った。 「拝啓、貴下の夫人が貞操を守られざるは、再三御忠告…… 貴下が今日に至るまで、何等断乎たる処置に出でられざるは…… 日本人にして且珈琲店の給仕女たりし房子夫人が、…… 支那人たる貴下のために、万斛の同情無き能わず候。…… 陳は卓子に倚りかかりながら、レエスの窓掛けを洩れる夕明りに、女持ちの金時計を眺めている。 が、蓋の裏に彫った文字は、房子のイニシアルではないらしい。 新婚後まだ何日も経たない房子は、西洋箪笥の前に佇んだまま、卓子越しに夫へ笑顔を送った。 白天鵞絨の蓋を明けると、一つには真珠の、他の一つには土耳古玉の指環がはいっている。 何が出て来ても知らないように、陳はただじっと妻の顔を見ながら、考え深そうにこんな事を云った。 すると房子は夕明りの中に、もう一度あでやかに笑って見せた。 陳は身ぶるいを一つすると、机にかけていた両足を下した。 それは卓上電話のベルが、突然彼の耳を驚かしたからであった。 彼は電話に向いながら、苛立たしそうに額の汗を拭った。 受話器を置いた陳彩は、まるで放心したように、しばらくは黙然と坐っていた。 が、やがて置き時計の針を見ると、半ば機械的にベルの鈕を押した。 書記の今西はその響に応じて、心もち明けた戸の後から、痩せた半身をさし延ばした。 今夜はどうか私の代りに、東京へ御出でを願いますと。」 今西はしかし例の通り、冷然と目礼を送ったまま、すぐに戸の向うへ隠れてしまった。 その内に更紗の窓掛けへ、おいおい当って来た薄曇りの西日が、この部屋の中の光線に、どんよりした赤味を加え始めた。 と同時に大きな蠅が一匹、どこからここへ紛れこんだか、鈍い羽音を立てながら、ぼんやり頬杖をついた陳のまわりに、不規則な円を描き始めた。………… 陳彩の家の客間にも、レエスの窓掛けを垂れた窓の内には、晩夏の日の暮が近づいて来た。 しかし日の光は消えたものの、窓掛けの向うに煙っている、まだ花盛りの夾竹桃は、この涼しそうな部屋の空気に、快い明るさを漂わしていた。 壁際の籐椅子に倚った房子は、膝の三毛猫をさすりながら、その窓の外の夾竹桃へ、物憂そうな視線を遊ばせていた。 「旦那様は今晩も御帰りにならないのでございますか?」 これはその側の卓子の上に、紅茶の道具を片づけている召使いの老女の言葉であった。 「せめて奥様が御病気でないと、心丈夫でございますけれども――」 「それでも私の病気はね、ただ神経が疲れているのだって、今日も山内先生がそうおっしゃったわ。 すると子供らしい房子の顔には、なぜか今までにない恐怖の色が、ありありと瞳に漲っていた。 「誰か今あすこの窓から、そっとこの部屋の中を、――」 しかし老女が一瞬の後に、その窓から外を覗いた時には、ただ微風に戦いでいる夾竹桃の植込みが、人気のない庭の芝原を透かして見せただけであった。 きっとまた御隣の別荘の坊ちゃんが、悪戯をなすったのでございますよ。」 そうそう、いつか婆やと長谷へ行った時に、私たちの後をついて来た、あの鳥打帽をかぶっている、若い人のような気がするわ。 房子は何か考えるように、ゆっくり最後の言葉を云った。 何なら爺やでも警察へ、そう申しにやって見ましょうか。」 あの人なんぞ何人来たって、私はちっとも怖くないわ。 「もし私の気のせいだったら、私はこのまま気違になるかも知れないわね。」 老女は安心したように微笑しながら、また紅茶の道具を始末し始めた。 私はこの頃一人でいるとね、きっと誰かが私の後に立っているような気がするのよ。 立って、そうして私の方をじっと見つめているような――」 房子はこう云いかけたまま、彼女自身の言葉に引き入れられたのか、急に憂鬱な眼つきになった。 電燈を消した二階の寝室には、かすかな香水ののする薄暗がりが拡がっている。 ただ窓掛けを引かない窓だけが、ぼんやり明るんで見えるのは、月が出ているからに違いない。 現にその光を浴びた房子は、独り窓の側に佇みながら、眼の下の松林を眺めている。 窓の外に見える庭の月夜も、ひっそりと風を落している。 その中に鈍い物音が、間遠に低く聞えるのは、今でも海が鳴っているらしい。 すると次第に不思議な感覚が、彼女の心に目ざめて来た。 それは誰かが後にいて、じっとその視線を彼女の上に集注しているような心もちである。 が、寝室の中には彼女のほかに、誰も人のいる理由はない。 彼女は薄明い松林を見下しながら、何度もこう考え直そうとした。 しかし誰かが見守っていると云う感じは、いくら一生懸命に打ち消して見ても、だんだん強くなるばかりである。 房子はとうとう思い切って、怖わ怖わ後を振り返って見た。 が、果して寝室の中には、飼い馴れた三毛猫の姿さえ見えない。 やはり人がいるような気がしたのは、病的な神経の仕業であった。―― と思ったのはしかし言葉通り、ほんの一瞬の間だけである。 房子はすぐにまた前の通り、何か眼に見えない物が、この部屋を満たした薄暗がりのどこかに、潜んでいるような心もちがした。 しかし以前よりさらに堪えられない事には、今度はその何物かの眼が、窓を後にした房子の顔へ、まともに視線を焼きつけている。 房子は全身の戦慄と闘いながら、手近の壁へ手をのばすと、咄嗟に電燈のスウィッチを捻った。 と同時に見慣れた寝室は、月明りに交った薄暗がりを払って、頼もしい現実へ飛び移った。 今はすべてが昼のような光の中に、嬉しいほどはっきり浮き上っている。 その上それが何一つ、彼女が陳と結婚した一年以前と変っていない。 こう云う幸福な周囲を見れば、どんなに気味の悪い幻も、―― いや、しかし怪しい何物かは、眩しい電燈の光にも恐れず、寸刻もたゆまない凝視の眼を房子の顔に注いでいる。 彼女は両手に顔を隠すが早いか、無我夢中に叫ぼうとした。 その時彼女の心の上には、あらゆる経験を超越した恐怖が、…… 房子は一週間以前の記憶から、吐息と一しょに解放された。 その拍子に膝の三毛猫は、彼女の膝を飛び下りると、毛並みの美しい背を高くして、快さそうに欠伸をした。 爺やなどはいつぞや御庭の松へ、鋏をかけて居りましたら、まっ昼間空に大勢の子供の笑い声が致したとか、そう申して居りました。 それでもあの通り気が違う所か、御用の暇には私へ小言ばかり申して居るじゃございませんか。」 老女は紅茶の盆を擡げながら、子供を慰めるようにこう云った。 それを聞くと房子の頬には、始めて微笑らしい影がさした。 「それこそ御隣の坊ちゃんが、おいたをなすったのに違いないわ。 そんな事にびっくりするようじゃ、爺やもやっぱり臆病なのね。―― あら、おしゃべりをしている内に、とうとう日が暮れてしまった。 今夜は旦那様が御帰りにならないから、好いようなものだけれど、―― 房子はようやく気軽そうに、壁側の籐椅子から身を起した。 「また今夜も御隣の坊ちゃんたちは、花火を御揚げなさるかしら。」 老女が房子の後から、静に出て行ってしまった跡には、もう夾竹桃も見えなくなった、薄暗い空虚の客間が残った。 すると二人に忘れられた、あの小さな三毛猫は、急に何か見つけたように、一飛びに戸口へ飛んで行った。 そうしてまるで誰かの足に、体を摺りつけるような身ぶりをした。 が、部屋に拡がった暮色の中には、その三毛猫の二つの眼が、無気味な燐光を放つほかに、何もいるようなけはいは見えなかった。…………… 日華洋行の宿直室には、長椅子に寝ころんだ書記の今西が、余り明くない電燈の下に、新刊の雑誌を拡げていた。 が、やがて手近の卓子の上へ、その雑誌をばたりと抛ると、大事そうに上衣の隠しから、一枚の写真をとり出した。 そうしてそれを眺めながら、蒼白い頬にいつまでも、幸福らしい微笑を浮べていた。 写真は陳彩の妻の房子が、桃割れに結った半身であった。 下り終列車の笛が、星月夜の空に上った時、改札口を出た陳彩は、たった一人跡に残って、二つ折の鞄を抱えたまま、寂しい構内を眺めまわした。 すると電燈の薄暗い壁側のベンチに坐っていた、背の高い背広の男が一人、太い籐の杖を引きずりながら、のそのそ陳の側へ歩み寄った。 そうして闊達に鳥打帽を脱ぐと、声だけは低く挨拶をした。 陳の語気には、相手の言葉を弾き除けるような力があった。 奥さんは医者が帰ってしまうと、日暮までは婆やを相手に、何か話して御出ででした。 それから御湯や御食事をすませて、十時頃までは蓄音機を御聞きになっていたようです。」 陳は麦藁帽の庇へ手をやると、吉井が鳥打帽を脱ぐのには眼もかけず、砂利を敷いた構外へ大股に歩み出した。 その容子が余り無遠慮すぎたせいか、吉井は陳の後姿を見送ったなり、ちょいと両肩を聳やかせた。 が、すぐまた気にも止めないように、軽快な口笛を鳴らしながら、停車場前の宿屋の方へ、太い籐の杖を引きずって行った。 一時間の後陳彩は、彼等夫婦の寝室の戸へ、盗賊のように耳を当てながら、じっと容子を窺っている彼自身を発見した。 寝室の外の廊下には、息のつまるような暗闇が、一面にあたりを封じていた。 その中にただ一点、かすかな明りが見えるのは、戸の向うの電燈の光が、鍵穴を洩れるそれであった。 陳はほとんど破裂しそうな心臓の鼓動を抑えながら、ぴったり戸へ当てた耳に、全身の注意を集めていた。 その沈黙がまた陳にとっては、一層堪え難い呵責であった。 彼は目の前の暗闇の底に、停車場からここへ来る途中の、思いがけない出来事が、もう一度はっきり見えるような気がした。 枝を交した松の下には、しっとり砂に露の下りた、細い路が続いている。 大空に澄んだ無数の星も、その松の枝の重なったここへは、滅多に光を落して来ない。 が、海の近い事は、疎な芒に流れて来る潮風が明かに語っている。 陳はさっきからたった一人、夜と共に強くなった松脂のを嗅ぎながら、こう云う寂しい闇の中に、注意深い歩みを運んでいた。 その内に彼はふと足を止めると、不審そうに行く手を透かして見た。 それは彼の家の煉瓦塀が、何歩か先に黒々と、現われて来たからばかりではない、その常春藤に蔽われた、古風な塀の見えるあたりに、忍びやかな靴の音が、突然聞え出したからである。 が、いくら透して見ても、松や芒の闇が深いせいか、肝腎の姿は見る事が出来ない。 ただ、咄嗟に感づいたのは、その足音がこちらへ来ずに、向うへ行くらしいと云う事である。 「莫迦な、この路を歩く資格は、おればかりにある訳じゃあるまいし。」 陳はこう心の中に、早くも疑惑を抱き出した彼自身を叱ろうとした。 が、この路は彼の家の裏門の前へ出るほかには、どこへも通じていない筈である。 と思う刹那に陳の耳には、その裏門の戸の開く音が、折から流れて来た潮風と一しょに、かすかながらも伝わって来た。 あの裏門には今朝見た時も、錠がかかっていた筈だが。」 そう思うと共に陳彩は、獲物を見つけた猟犬のように、油断なくあたりへ気を配りながら、そっとその裏門の前へ歩み寄った。 力一ぱい押して見ても、動きそうな気色も見えないのは、いつの間にか元の通り、錠が下りてしまったらしい。 陳はその戸に倚りかかりながら、膝を埋めた芒の中に、しばらくは茫然と佇んでいた。 「門が明くような音がしたのは、おれの耳の迷だったかしら。」 常春藤の簇った塀の上には、火の光もささない彼の家が、ひっそりと星空に聳えている。 何がそんなに悲しかったか、それは彼自身にもはっきりしない。 ただそこに佇んだまま、乏しい虫の音に聞き入っていると、自然と涙が彼の頬へ、冷やかに流れ始めたのである。 陳はほとんど呻くように、なつかしい妻の名前を呼んだ。 高い二階の室の一つには、意外にも眩しい電燈がともった。 陳は際どい息を呑んで、手近の松の幹を捉えながら、延び上るように二階の窓を見上げた。 二階の寝室の窓は、硝子戸をすっかり明け放った向うに、明るい室内を覗かせている。 そうしてそこから流れる光が、塀の内に茂った松の梢を、ぼんやり暗い空に漂わせている。 やがてその二階の窓際には、こちらへ向いたらしい人影が一つ、朧げな輪廓を浮き上らせた。 生憎電燈の光が後にあるから、顔かたちは誰だか判然しない。 が、ともかくもその姿が、女でない事だけは確かである。 陳は思わず塀の常春藤を掴んで、倒れかかる体を支えながら、苦しそうに切れ切れな声を洩らした。 一瞬間の後陳彩は、安々塀を乗り越えると、庭の松の間をくぐりくぐり、首尾よく二階の真下にある、客間の窓際へ忍び寄った。 そこには花も葉も露に濡れた、水々しい夾竹桃の一むらが、……… 陳はまっ暗な外の廊下に、乾いた唇を噛みながら、一層嫉妬深い聞き耳を立てた。 それはこの時戸の向うに、さっき彼が聞いたような、用心深い靴の音が、二三度床に響いたからであった。 が、興奮した陳の神経には、ほどなく窓をしめる音が、鼓膜を刺すように聞えて来た。 その沈黙はたちまち絞め木のように、色を失った陳の額へ、冷たい脂汗を絞り出した。 が、戸に錠の下りている事は、すぐにそのノッブが教えてくれた。 すると今度は櫛かピンかが、突然ばたりと落ちる音が聞えた。 しかしそれを拾い上げる音は、いくら耳を澄ましていても、なぜか陳には聞えなかった。 こう云う物音は一つ一つ、文字通り陳の心臓を打った。 陳はその度に身を震わせながら、それでも耳だけは剛情にも、じっと寝室の戸へ押しつけていた。 しかし彼の興奮が極度に達している事は、時々彼があたりへ投げる、気違いじみた視線にも明かであった。 苦しい何秒かが過ぎた後、戸の向うからはかすかながら、ため息をつく声が聞えて来た。 と思うとすぐに寝台の上へも、誰かが静に上ったようであった。 もしこんな状態が、もう一分続いたなら、陳は戸の前に立ちすくんだまま、失心してしまったかも知れなかった。 が、この時戸から洩れる蜘蛛の糸ほどの朧げな光が、天啓のように彼の眼を捉えた。 陳は咄嗟に床へ這うと、ノッブの下にある鍵穴から、食い入るような視線を室内へ送った。 その刹那に陳の眼の前には、永久に呪わしい光景が開けた。………… 書記の今西は内隠しへ、房子の写真を還してしまうと、静に長椅子から立ち上った。 そうして例の通り音もなく、まっ暗な次の間へはいって行った。 スウィッチを捻る音と共に、次の間はすぐに明くなった。 その部屋の卓上電燈の光は、いつの間にそこへ坐ったか、タイプライタアに向っている今西の姿を照し出した。 今西の指はたちまちの内に、目まぐるしい運動を続け出した。 と同時にタイプライタアは、休みない響を刻みながら、何行かの文字が断続した一枚の紙を吐き始めた。 「拝啓、貴下の夫人が貞操を守られざるは、この上なおも申上ぐべき必要無き事と存じ候。 今西の顔はこの瞬間、憎悪そのもののマスクであった。 が、その外は寝台も、西洋も、洗面台も、それから明るい電燈の光も、ことごとく一瞬間以前と同じであった。 陳彩は部屋の隅に佇んだまま、寝台の前に伏し重なった、二人の姿を眺めていた。 は、半ば舌を吐いたまま、薄眼に天井を見つめていた。 部屋の隅にいる陳彩と、寸分も変らない陳彩であった。 に重なりながら、爪も見えないほど相手の喉に、両手の指を埋めていた。 そうしてその露わな乳房の上に、生死もわからない頭を凭せていた。 何分かの沈黙が過ぎた後、床の上の陳彩は、まだ苦しそうに喘ぎながら、徐に肥った体を起した。 が、やっと体を起したと思うと、すぐまた側にある椅子の上へ、倒れるように腰を下してしまった。 その時部屋の隅にいる陳彩は、静に壁際を離れながら、房子だった「物」 そうしてその紫に腫上った顔へ、限りなく悲しそうな眼を落した。 椅子の上の陳彩は、彼以外の存在に気がつくが早いか、気違いのように椅子から立ち上った。 が、相手の姿を一目見るとその殺意は見る見る内に、云いようのない恐怖に変って行った。 彼は椅子の前に立ちすくんだまま、息のつまりそうな声を出した。 彼の言葉は一度途絶えてから、また荒々しい嗄れ声になった。 その代りに眼を挙げて、悲しそうに相手の陳彩を眺めた。 すると椅子の前の陳彩は、この視線に射すくまされたように、無気味なほど大きな眼をしながら、だんだん壁際の方へすさり始めた。 それから頸に残っている、無残な指の痕に唇を当てた。 明い電燈の光に満ちた、墓窖よりも静な寝室の中には、やがてかすかな泣き声が、途切れ途切れに聞え出した。 見るとここにいる二人の陳彩は、壁際に立った陳彩も、床に跪いた陳彩のように、両手に顔を埋めながら……… の映画が消えた時、私は一人の女と一しょに、ある活動写真館のボックスの椅子に坐っていた。 女は無言のまま、膝の上のプログラムを私に渡してくれた。 私が話し終った時、女は寂しい眼の底に微笑の色を動かしながら、ほとんど聞えないようにこう返事をした。 (一しょに大学を出た親しい友だちの一人に、ある夏の午後京浜電車の中で遇ったら、こんな話を聞かせられた。) 何しろYの事だから、床の間には石版摺りの乃木大将の掛物がかかっていて、その前に造花の牡丹が生けてあると云う体裁だがね。 夕方から雨がふったのと、人数も割に少かったのとで、思ったよりや感じがよかった。 その上二階にも一組宴会があるらしかったが、これも幸いと土地がらに似ず騒がない。 僕らが昔よく飲みに行ったUの女中に、お徳って女がいた。 鼻の低い、額のつまった、あすこ中での茶目だった奴さ。 お座敷着で、お銚子を持って、ほかの朋輩なみに乙につんとすましてさ。 始は僕も人ちがいかと思ったが、側へ来たのを見ると、お徳にちがいない。 志村の大将、その時分は大真面目で、青木堂へ行っちゃペパミントの小さな罎を買って来て、「甘いから飲んでごらん。」 シカゴにいる志村が聞いたら、どんな心もちがするだろう。 前には日本橋に居りましたくらいな事は、云っていないものじゃない。 が、いくら酔っていても、久しぶりじゃあるし、志村の一件があるもんだから、大に話がもてたろう。 すると君、ほかの連中が気を廻わすのを義理だと心得た顔色で、わいわい騒ぎ立てたんだ。 何しろ主人役が音頭をとって、逐一白状に及ばない中は、席を立たせないと云うんだから、始末が悪い。 そこで、僕は志村のペパミントの話をして、「これは私の親友に臂を食わせた女です。」―― 僕は始から、叔父さんにつれられて、お茶屋へ上ったと云う格だったんだ。 すると、その臂と云うんで、またどっと来たじゃないか。 ほかの芸者まで一しょになって、お徳のやつをひやかしたんだ。 八犬伝の竜の講釈の中に、「優楽自在なるを福竜と名づけたり」 それがこの福竜は、大に優楽不自在なんだから可笑しい。 「志村さんが私にお惚れになったって、私の方でも惚れなければならないと云う義務はござんすまい。」 「それがそうでなかったら、私だって、とうの昔にもっと好い月日があったんです。」 夢の話と色恋の話くらい、聞いていてつまらないものはない。 (そこで自分は、「それは当人以外に、面白さが通じないからだよ。」 「じゃ小説に書くのにも、夢と色恋とはむずかしい訳だね。」 「少くとも夢なんぞは感覚的なだけに、なおそうらしいね。 小説の中に出て来る夢で、ほんとうの夢らしいのはほとんど一つもないくらいだ。」 「それだけまた、後世にのこらなかった愚作の数も、思いやられると云うものさ。」) 何しろお徳の口吻を真似ると、「まあ私の片恋って云うようなもの」 あいつがまだ浅草田原町の親の家にいた時分に、公園で見初めたんだそうだ。 こう云うと、君は宮戸座か常盤座の馬の足だと思うだろう。 その癖、お徳はその男の名前も知らなければ、居所も知らない。 僕たちが若竹へ通った時分だって、よしんば語り物は知らなかろうが、先方は日本人で、芸名昇菊くらいな事は心得ていたもんだ。―― そう云って、僕がからかったら、お徳の奴、むきになって、「そりゃ私だって、知りたかったんです。 だけど、わからないんだから、仕方がないじゃありませんか。 そこでいろいろ聞いて見ると、その恋人なるものは、活動写真に映る西洋の曾我の家なんだそうだ。 が、見たところ、どうもお徳が嘘をついているとも思われない。 「毎日行きたくっても、そうはお小遣いがつづかないでしょう。 だから私、やっと一週に一ぺんずつ行って見たんです。」―― 「一度なんか、阿母さんにねだってやっとやって貰うと、満員で横の隅の所にしか、はいれないんでしょう。 そうすると、折角その人の顔が映っても、妙に平べったくしか見えないんでしょう。 そりゃ恋人の顔が、幕なりにぺちゃんこに見えちゃ、かなしかろうさ。 「何でも、十二三度その人がちがった役をするのを見たんです。 大抵黒い、あなたの着ていらっしゃるような服を着ていましたっけ。」―― さっきで懲りているから、機先を制して、「似ていやしないか。」 向うが生身の人なら、語をかけるとか、眼で心意気を知らせるとか出来るんですが、そんな事をしたって、写真じゃね。」 思われない人だって、思われるようにはしむけられるんでしょう。 志村さんにしたって、私によく青いお酒を持って来ちゃくだすった。 それが私のは、思われるようにしむける事も出来ないんです。 「それから芸者になってからも、お客様をつれ出しちゃよく活動を見に行ったんですが、どうした訳か、ぱったりその人が写真に出てこなくなってしまったんです。 だのって、見たくも無いものばかりやっているじゃありませんか。 しまいには私も、これはもう縁がないもんだとさっぱりあきらめてしまったんです。 ほかの連中が相手にならないもんだから、お徳は僕一人をつかまえて、しゃべっているんだ。 「それがあなた、この土地へ来て始めて活動へ行った晩に、何年ぶりかでその人が写真に出て来たじゃありませんか。―― こう敷石があって、まん中に何だか梧桐みたいな木が立っているんです。 ただ、写真が古いせいか、一体に夕方みたいにうすぼんやり黄いろくって、その家や木がみんな妙にぶるぶるふるえていて―― そこへ、小さな犬を一匹つれて、その人があなた煙草をふかしながら、出て来ました。 やっぱり黒い服を着て、杖をついて、ちっとも私が子供だった時と変っちゃいません……」 向うは写真だから、変らなかろうが、こっちはお徳が福竜になっている。 「そうして、その木の所で、ちょいと立止って、こっちを向いて、帽子をとりながら、笑うんです。 それが私に挨拶をするように見えるじゃありませんか。 いくらYだって、まだ活動写真に惚れた芸者はいなかろう。 「そうすると、向うから、小さな女異人が一人歩いて来て、その人にかじりつくんです。 年をとっている癖に、大きな鳥の羽根なんぞを帽子につけて、いやらしいったらないんでしょう。」 それを知っている友だちは、語り完らない事を虞れるように、時々眼を窓の外へ投げながら、やや慌しい口調で、話しつづけた。) それから、写真はいろいろな事があって、結局その男が巡査につかまる所でおしまいになるんだそうだ。 何をしてつかまるんだか、お徳は詳しく話してくれたんだが、生憎今じゃ覚えていない。 「大ぜいよってたかって、その人を縛ってしまったんです。 お酒の罎がずうっとならんでいて、すみの方には大きな鸚鵡の籠が一つ吊下げてあるんです。 それが夜の所だと見えて、どこもかしこも一面に青くなっていました。 私はその人の泣きそうな顔をその青い中で見たんです。 そうしたら、呼笛が鳴って、写真が消えてしまったんだ。 これだけ聞くと、大に悟っているらしいが、お徳は泣き笑いをしながら、僕にいや味でも云うような調子で、こう云うんだ。 だが、ヒステリイにしても、いやに真剣な所があったっけ。 事によると、写真に惚れたと云うのは作り話で、ほんとうは誰か我々の連中に片恋をした事があるのかも知れない。 (二人の乗っていた電車は、この時、薄暮の新橋停車場へ着いた。) 童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎とは、舌切雀のかすかな羽音を聞きながら、しづかに老人の妻の死をなげいてゐる。 とほくに懶い響を立ててゐるのは、鬼ヶ島へ通ふ夢の海の、永久にくづれる事のない波であらう。 老人の妻の屍骸を埋めた土の上には、花のない桜の木が、ほそい青銅の枝を、細く空にのばしてゐる。 その木の上の空には、あけ方の半透明な光が漂つて、吐息ほどの風さへない。 やがて、兎は老人をいたわりながら、前足をあげて、海辺につないである二艘の舟を指さした。 童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の兎とは、花のない桜の木の下に、互に互をなぐさめながら、力なく別れをつげた。 兎は何度も後をふりむきながら、舟の方へ歩いてゆく。 その空には、舌切雀のかすかな羽音がして、あけ方の半透明な光も、何時か少しづつひろがつて来た。 黒い舟の上には、さつきから、一頭の狸が、ぢつと波の音を聞いてゐる。 或は又、水の中に住む赤魚の恋を妬んででもゐるのであらうか。 彼等が、火の燃える山と砂の流れる河との間にゐて、おごそかに獣の命をまもつてゐた「むかしむかし」 童話時代のうす明りの中に、一頭の兎と一頭の狸とは、それぞれ白い舟と黒い舟とに乗つて、静に夢の海へ漕いで出た。 永久にくづれる事のない波は、善悪の舟をめぐつて、懶い子守唄をうたつてゐる。 花のない桜の木の下にゐた老人は、この時漸頭をあげて、海の上へ眼をやつた。 くもりながら、白く光つてゐる海の上には、二頭の獣が、最後の争ひをつづけてゐる。 除に沈んで行く黒い舟には、狸が乗つてゐるのではなからうか。 さうして、その近くに浮いてゐる、白い舟には、兎が乗つてゐるのではなからうか。 老人は、涙にぬれた眼をかがやかせて、海の上の兎を扶けるやうに、高く両の手をさしあげた。 それと共に、花のない桜の木には、貝殻のやうな花がさいた。 あけ方の半透明な光にあふれた空にも、青ざめた金いろの日輪が、さし昇つた。 獣性の獣性を亡ぼす争ひに、歓喜する人間を象徴しようとするのであらう、日輪は、さうして、その下にさく象嵌のやうな桜の花は。 これは学校友だちのことと言ふも、学校友だちの全部のことにあらず。 只冬夜電燈のもとに原稿紙に向へる時、ふと心に浮かびたる学校友だちのことばかりなり。 人生観上のリアリストなれども、実生活に処する時には必しもさほどリアリストにあらず。 上滝のお父さんの命名なりと言へば、一風変りたる名を好むは遺伝的趣味の一つなるべし。 自宅の門を出る時にも、何か出かたの気に入らざる時にはもう一度家へ引返し、更に出直すと言ふ位なれば、神経質なること想ふべし。 震災の少し前に西洋より帰り、舶来の書を悉焼きたりと言ふ。 リアリストと言ふよりもおのづからセンテイメンタリズムを脱せるならん。 西川に伯仲する秀才なれども、世故には西川よりも通ぜるかも知れず。 東京の法科大学を出、三井物産に入り、今は独立の商売人なり。 実生活上にも適度のリアリズムを加へたる人道主義者。 大金儲したる時には僕に別荘を買つてくれる約束なれど、未だに買つてくれぬ所を見れば、大した収入もなきものと知るべし。 鈴木三重吉、久保田万太郎の愛読者なれども、近頃は余り読まざるべし。 風采瀟洒たるにも関らず、存外喧嘩には負けぬ所あり。 冷静なる感情家と言ふものあらば、恒藤は正にその一人なり。 京都の法科大学を出、其処の助教授か何かになり、今はパリに留学中。 僕の議論好きになりたるは全然この辛辣なる論理的天才の薫陶による。 句も作り、歌も作り、小説も作り、詩も作り、画も作る才人なり。 尤も今はそんなことは知らぬ顔をしてゐるのに相違なし。 僕は大学に在学中、雲州松江の恒藤の家にひと夏居候になりしことあり。 その頃恒藤に煽動せられ、松江紀行一篇を作り、松陽新報と言ふ新聞に寄す。 細君の名は雅子、君子の好逑と称するは斯る細君のことなるべし。 東京の法科大学を出、今はベルリンの三菱に在り、善良なる都会的才人。 永井荷風、ゴンクウル、歌麿等の信者なりしが、この頃はトルストイなどを担ぎ出すことあり。 僕にアストラカンの帽子を呉れる約束あれども、未だに何も送つて呉れず。 僕の友だちも多けれども、藤岡位損をした男はまづ外にあらざるべし。 それも藤岡の祖父に当る人は川ばたに蹲まれる乞食を見、さぞ寒からうと思ひし余り、自分も襦袢一枚になりて厳冬の縁側に坐り込みし為、とうとう風を引いて死にたりと言へば、先祖代々猛烈なる理想主義者と心得べし。 この理想主義を理解せざる世間は藤岡を目して辣腕家と做す。 天下の人は何と言ふとも、藤岡は断じて辣腕家にあらず。 僕の言を疑ふものは、試みにかう考へて見るべし。―― 藤岡蔵六は芥川龍之介の旧友なり、その旧友に十五年来欺されてゐる才人ありや否や。 (藤岡蔵六の先輩知己は大抵哲学者や何かなるべければ、三段論法を用ふること斯くの如し。) その他菊池寛、久米正雄、山本有三、岡栄一郎、成瀬正一、松岡譲、江口渙等も学校友だちなり。 然れども是等の友だちのことは既に一度以上書いてゐるか、少くとも諸公百年の後には何か書かせられる間がら故、此処には書かざることとすべし。 僕も小学時代には頭の大いなる少年なりしも、大島の頭の大いなるには一歩も二歩も遜りしを記憶す。 園芸を好み、文芸をも好みしが、二十にもならざるうちに腸結核に罹りて死せり。 尤も僕は気の毒にも度たび大島を泣かせては、泣虫泣虫とからかひしものなり。 屡僕と見違へられしと言へば、長面痩躯なることは明らかなるべし。 ロマンテイツクなる秀才なりしが、岡山の高等学校へはひりし後、腎臓結核に罹りて死せり。 平塚の父は画家なりしよし、その最後の作とか言ふ大幅の地蔵尊を見しことあり。 病と共に失恋もし、千葉の大原の病院にたつた一人絶命せし故、最も気の毒なる友だちなるべし。 一時中学の書記となり、自炊生活を営みし時、「夕月に鰺買ふ書記の細さかな」 失恋せる相手も見しことあれども、今は如何になりしや知らず。 どう見たつて、あいつがそんな大それた真似をしようなんぞとは思はれないぢやないか。 と云ふよりや、まるで数にはいつてゐない太鼓持なんだ。 そんな事を聞く位ぢや、君はあいつを見た事がないんだらう。 もう今ぢや赤い着物を着てゐるだらうから、見たいつたつて、ちよいとは見られるもんぢやない。 頭でつかちの一寸法師見たいなやつでね、夫がフロツクに緋天鳶絨のチヨツキと云ふ拵へなんだから、ふるつてゐたよ。 おまけにその鉢の開いた頭へちよんと髷をのつけてゐるんだ。 だから君、始めて遇つたお客は誰でもまあ毒気をぬかれる。 すると南瓜のやつは、扇子で一つその鉢の開いた頭をぽんとやつて、「どうでげす。 このスレッドは1000を超えました。
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