福島第一原発の処理水を海洋放出すると日本政府が決定したのを受け、世界で最も強く反発したのは間違い無く韓国だろう。方針決定のわずか3時間後、韓国・ソウルの日本大使館前では、早くも環境団体による抗議集会が行われた。
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防護服に身を包み「放射能汚染水海洋放流反対」と書かれたプラカードを掲げ放出撤回を要求した。「放射能汚染水を薄めて放流しても、海に捨てられる放射性物質の総量は変わらない」などといった主張がこだました。
世界中で排出されるトリチウム
処理水をめぐる問題の争点の一つはトリチウム(三重水素)という放射性物質だ。宇宙線が大気に衝突すると生まれるため自然界に大量に存在しており、世界中の原子力発電所でも発生している。雨水や海水、水道水などにも含まれる、放射性物質だ。
福島第一原発の地下水にも大量に含まれているが、厄介なことに、浄化処理の過程で取り除くことができない。東京電力によると、現時点で処理水に含まれるトリチウムは約860兆ベクレルあるという。
ただトリチウムは毒性が弱い。世界中の原子力施設から日常的に排出されているのもそのためだ。例えばカナダのブルース原発では1年間で1971兆ベクレル、フランスのラ・アーグ再処理施設では年間1京3700兆ベクレルが海中や大気中に放出されている。年間22兆ベクレルと想定される処理水のトリチウムよりも桁違いに多い。
それでも施設周辺で人体や環境への重大な影響は確認されていない。IAEA=国際原子力機関もこうした毒性の低さなどから、処理水の海洋放出について「科学的に妥当」という見解を示している。
しかし韓国では、このトリチウムを危険視する報道が相次いだ。韓国の月城原発からも液体、気体合わせて約136兆ベクレル(2016年)ものトリチウムが排出されているにも関わらずだ。
(出典:2016年度 原発周辺の環境放射能調査と評価報告書, 韓国水力・原子力発電会社)
前出の抗議集会の主催者にトリチウムについて聞いてみたが、「原子力施設の通常稼働時にでる汚染水と、事故で発生したトリチウムでは量と濃度が違う。比較対象ではない。」という返答だった。意味がよく分からないが、日本政府は量も濃度も国際基準以下にコントロールして放出すると発表しているが、彼らはその発表すら聞く耳を持たないようだ。
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