千歌「浦の星農業高校へようこそ!」
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静岡県内浦にある創立百年を越えた伝統ある学校、浦の星農業高校。
緑化科、動物科、園芸科、食品科、デザイン科の5つの学科から成り立つこの学校だが、生徒数が年々減少していることから、来年度からの生徒募集を取り止め、三年後には廃校が決定している。
今年は三学年全員が揃う最後の年。
緑化科の生徒である高海千歌を初めとした9人の奮闘劇が、ここから始まる。 −−−−−−−
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−−−
四月
果南「おはよ、千歌」
千歌「おはよー……果南ちゃん……」ズーン
果南「あらら。新学期早々どうしたの」
千歌「……ねぇ、果南ちゃん」
果南「ん〜?」
千歌「今日の時間割、聞きたい?」
果南「なぁに。言ってみな」 千歌「実習四時間と国語と体育」
果南「あちゃー。嫌な時間割になったね」
農業高校では、割とありがちである。
実習のある専門科目は基本二時間でひとつの授業になっていて、専門科目が並んでしまうと、午前中はずっと実習。ということもある。
千歌「これ国語要らなくない?どう頑張っても寝ちゃうんだけど」
果南「寝たらダイヤに叱られるよ」
千歌「もーっ!どうしてダイヤちゃんったら直ぐに怒るの〜!」ムキーッ 果南「……それより千歌、聞いた?今日千歌のクラスに転入生来るらしいよ」
千歌「え!?この学校に転入生!?しかも緑化科に!?」
千歌「動物科じゃないんだ……って違くて。それ、本当?」
果南「みたいだよ。噂になってるし」
千歌「どうせ嘘だよ〜。だってこの時期に農業高校に転入生なんて有り得ないもん」
果南「まあそうなるよね。実際来てみないと分かんないし」
千歌「だね〜、それじゃあここで」フリフリ
果南「うん。頑張ってね千歌」フリフリ −−−
緑化科 教室
千歌「あ〜、実習だるいよ〜……どうせまたツツジの剪定なんだ……私は知ってるよ……ここ最近ツツジしか刈ってないもん……」ドンヨリ
ダイヤ「千歌さん。しゃんとしなさい。みっともないですわよ」
千歌「……だってぇ、毎日同じことの繰り返しだし……代わり映えしないし……私、農業高校ってもっと自由で楽しいものだと思ってたもん」
ダイヤ「そんなこと言って……ほら、千歌さん今年は造園技能士の資格を取るのでしょ。造園技能士は一応国家資格なのでとても達成感を感じられますわよ」
毎年緑化科の二年生は造園技能士三級の資格を取ることになっている。筆記、実技から成る試験で、そのほとんどは授業で習得する。農業や造園の基礎知識や、基本技術を試される試験で、合格率は70%ほどだと言われている。 千歌「それは皆取るやつだし、大体、私お庭が好きってわけでもないし……」
ダイヤ「だったらどうして緑化科に来たのですか……」ハァ…
千歌「…………む〜……あっ、ダイヤちゃん、今日このクラスに──」
ガラララッ
緑化科担任「おはようございます」
緑化科生徒「おはようございます〜」
緑化科担任「噂になっていて知っている方は居ると思いますが、今日からこのクラスに新しく転入してくる生徒が居ます」
緑化科担任「桜内さん、入っておいで」チョイチョイ
「は、はいっ……」 千歌「──ぁ、」
梨子「初めまして。東京から転校してきました。桜内梨子といいます。よろしくお願いします」ペコリ
千歌「嘘でしょ……本物の転入生じゃん!?しかも美少女じゃん!?東京人じゃん!?!?」ガタッ
ダイヤ「千歌さん、お静かに」
千歌「は、はひ……」ストン…
千歌「(な、なんであんな美少女が農業高校に!?有り得ない、有り得ないよ!?!?)」
何故農業高校に居るのか分からないくらいの美少女が居るのも、割とあるあるである。 千歌「(農業高校は農業をする場所なんだよ!?合コンなんか無いし制服も可愛くないし実習服は世界で一番ダサいし!)」
千歌「(そんな農業高校にどうしてこんな美少女が!?)」
緑化科担任「それじゃあ桜内さんは高海さんの隣の席が空いてるので、そこに座りましょうか」
梨子「は、はい……っ」ストン
千歌「……………………」ジーッ
梨子「えっと……」
千歌「あぁ、えっと、高海千歌。よろしくね」ニッ 千歌「それより、梨子ちゃんって本当可愛いね!どうして浦の星を選んだの?どうして東京からここまで転校してきたの?どうして農業高校に来たの?」ズイッ
ダイヤ「千歌さん」
千歌「ぁあっ!つ、つい……」
ダイヤ「気持ちは分かりますが、質問責めをしていてもいい事はありませんよ」
千歌「それもそっか……あ、桜内さん。実習服はもうある?一時間目から実習だけど……」
梨子「ああ、それなら大丈夫。何が必要か分からなかったから、取り敢えず全部持ってきたの」
千歌「ん、そっか。それならおっけーだね!」グッ 千歌「まず、このHRが終わったら走って緑化棟の更衣室まで行って実習服に着替えるの。そこから階段を登って、9時までに緑化教室の自分の席に着席。おっけー?」
梨子「え、えぇ?走って……?」
ダイヤ「ここの敷地は広いですから、歩いていると更衣や実習に間に合わないんです」
梨子「な、なるほど……」
緑化科担任「はい、それではHRを終わります。起立、礼」
緑化科生徒「ありがとうございました〜」
千歌「さっ、行こ!梨子ちゃん!」タッ
ダイヤ「急がないと怒られますわよ!」タッ
梨子「ま、待って……そんないきなりぃっ……!」アワアワ −−−−−−−
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−−−
緑化棟 緑化教室
梨子「……はぁ……はぁ……」ゼェゼェ
千歌「あっ、やっと来た!もう向こう行くって〜」
ダイヤ「記録用紙は私が書いておきましたから、刈り込みバサミを運搬車に積んでそこからまた校舎の方に戻ってツツジの剪定を行います」
梨子「えっ……ええぇ?……も、戻るの?」
ダイヤ「?……ええ、戻りますが?」
梨子「何がおかしいのか分からないって顔してる……これが農業高校の普通なのね……」
千歌「はやく行こ〜っ!」タッ
ダイヤ「早くしないと怒られますわよ!」タッ
梨子「あぁっ、ま、待ってぇ……」ヘトヘト −−−−−
校舎前
千歌「刈り込みバサミはこの持ち手の先端。真ん中らへんは作業しにくいから持たない方がいいよ。それから、作業する時は危ないから手袋を必ず付けてね。今日は持ってる?」
梨子「ご、ごめんなさい……手袋は持ってきてなくて……」
千歌「なら私の貸してあげるね!」
梨子「高海さんはどうするの……?」
千歌「バレなきゃ素手でも大丈夫だから!梨子ちゃんは今回が初めてなんだし、一応手袋あった方がいいでしょ?」
梨子「本当に大丈夫?手とか切っちゃうんじゃ……」
千歌「大丈夫だいじょーぶっ、そんな簡単に手切らないから。ほら、まずはここの飛び出してるとこがあるでしょ?そこを……」ジャキン ジャキン
千歌「こんな感じで整えていくの。桜内さんもやってみて!」
梨子「わ、分かった……」スッ 梨子「(お、重いっ……刈り込みバサミって意外と腕に負担が掛かるのね……)」ヨロッ
千歌「おっと……大丈夫?」スッ
梨子「ぁ、う、うん。大丈夫」
ブーンッ
梨子「ひゃっ!?な、何!?虫!?」ビクッ
千歌「あ、クマバチだ。かわい〜!」
梨子「か、可愛い!?ハチが!?」
千歌「え?うん。可愛いよ?クマバチは何もしないから優しいんだよ〜♪」
梨子「え、えぇ……」
梨子「(……農業高校の人って、みんなこうなの……?)」 ダイヤ「千歌さん、梨子さん。うるさいですわよ。早く作業しなさいな」
千歌「ちぇ〜……怒られちゃった……だって先週も先々週もずーっとツツジの刈り込みじゃん!楽しくないよ〜」
ダイヤ「楽しいかどうかは関係ありません。これは授業ですから」
千歌「む〜……ダイヤちゃんの鬼……」
梨子「そういえば、黒澤さん……凄い実習服似合いますよね。それにその刈り込みバサミとの相性が……」
千歌「あ!梨子ちゃんもそう思う!?私もずっっと思っててさぁ!」
ダイヤ「……褒められてる気がしませんわね」
千歌「ほら!ダイヤちゃん!強そう!!」
ダイヤ「は?」
千歌「なんて言うか、その実習服と刈り込みバサミで敵を蹴散らして来たんだなって!」
ダイヤ「しょうもないですわ」フンッ −−−−
梨子「………………」ゼェゼェ
梨子「え……刈り込みバサミが重くて腕痛いし……なんか上手く刈り込めないし……」
千歌「あちゃ〜……梨子ちゃんがやってたとこ、見事にハゲちゃってるね」
梨子「うぅ……ごめんなさい……」
千歌「いいのいいの!私もよくするし、案外刈り込みって難しいでしょ?」
梨子「ええ。もっと簡単にできると思っていたけど……こんなに大変だったなんて……」
千歌「私も最初は簡単なことだと思ってたよ〜!難しいよねぇ」ウンウンッ
実習助手「おーい、そろそろ戻るぞー。道具片付けろー!」
千歌「はぁーい!」
梨子「……あの人は?」
千歌「緑化科の実習担当の山崎先生だよ。といってもあの人は実習助手なんだけどね」
梨子「実習助手っていうのは?」
千歌「えー、なんて言うんだろう……正式な先生じゃないんだよね」 ダイヤ「千歌さん、梨子さん。刈り込みバサミ貰いますわよ」スッ
千歌「ありがとうダイヤちゃ〜ん!」スッ
梨子「こ、このくらい自分でするよ、申し訳ないし……」
ダイヤ「大丈夫ですわ。こうした方が早く終わりますし……あ、では梨子さん達はホウキで刈った草を拾い集めてくださいな」
千歌「おっけー。梨子ちゃん、一緒にやろ!」タッ
梨子「わ、ま、待ってよ〜!」アワアワ −−−−
緑化棟 緑化教室
梨子「これは何を記録しているの?」
千歌「今日の日付とか温度、湿度を記録して、今日したことを書くの。人目見て分かるように、かな」
梨子「へぇ……」
梨子「……緑化科はいつも刈り込み作業をしているの?」
千歌「この時期はほとんど刈り込みかな〜?でも去年は野菜も作ったよ。ナスとピーマンとトマト!今年はブドウ栽培するみたい。あとは、造園技能士三級を取るんだって」
梨子「造園技能士?」
ダイヤ「造園……日本庭園などの庭園を作る人ですわ。その為の専門的な知識な技術を試される資格です。国家資格なので持っているといい資格ですわよ」
梨子「へぇ……造園、ねぇ……」 千歌「そうだ!せっかく休み時間なんだし、梨子ちゃんのこと、聞いてもいい?」
梨子「あ、う、うんっ」
千歌「ええ、……こほん。梨子ちゃんはどうして浦の星農業高校に来たの?」
梨子「私はお父さんの仕事の都合で内浦に来たんだけど、……何か新しいことがしたくて、農業高校に転入してみようって思ったの」
梨子「私ね、今まで皆と同じように何となく勉強して、何となく進学して……それでいいんだって思ってたんだけど、……突然つまらなくなったゃって」
梨子「どうしたらいいのかなって思った時に、家の近くに農業高校があるって知って」
ダイヤ「……なるほど、それで、どうして緑化科に?」
梨子「たまたま目に止まったから……って言ったら怒られるかな……」
千歌「ううん!私も何となくこの学科に入ったから!」
ダイヤ「何となくって、あなたねぇ……」ゲッソリ 梨子「黒澤さんは何か理由が?」
ダイヤ「……ええ、昔家族旅行で京都に行きまして、その時見た枯山水式庭園に心を奪われたんです。私もこんな風に人の心を動かせるような庭を作りたい、と思って浦の星農業高校に入学しましたわ」
千歌「色々考えてて凄いねぇダイヤちゃん」
梨子「高海さんは、どうしてこの学校に?」
千歌「………………」ジッ
梨子「な、なぁに?」
千歌「その高海さん、って呼び方。やだ」
梨子「や、やだ!?」
千歌「千歌ちゃんって呼んで!!」ズイッ
ダイヤ「そ、それなら私も是非ダイヤちゃんと呼んでくださいな!」ズイッ
梨子「わ、わかった!呼ぶ!呼ぶからぁ!」アワアワ ガラララッ
おじいちゃん先生「はーい、授業始めるぞ〜」
梨子「あの人は……?」
千歌「白津先生だよ。すっごいんだよ、白津先生!色々な資格持ってるし、結構偉い人らしくて……まあ見た目はただのおじいちゃんなんだけどね」
白津「今年から始まる課題研究の授業なんやけど、全員で同じことは出来んから3つの班に分けないといけないんですね」
課題研究。毎年一月には一年間のまとめを行い、クラスの前で発表し、クラス代表を決めることになっている。クラス代表となった班は学校全体で発表し、更にその中から学校代表の班を決め、県大会へと進めることになっているのだ。 白津「私の班はブドウのツルを使ったグリーンカーテン制作を行います」
ガチャッ
おじいちゃん先生2「すみません、遅れました〜」トテトテ
梨子「おじいちゃんが増えた……」
ダイヤ「薦田先生ですわ。同じく農業の先生ですの」
薦田「先生の班は放置された農場を新しくリニューアルして野菜の栽培を行う予定です」
山崎「俺の班は文化祭や農販会で販売する苔玉制作をします。使用する植物は学校にある余った植物を使う予定です」
白津「今から五分間時間を取るので、入りたい班のところに黒板に名前を書いていってください」 千歌「んー、どうしよっかなぁ」
ダイヤ「迷いますわねこれ……」
千歌「苔玉作るのは楽しそうだけど……後々考えたら白津先生の班かなぁ……でも野菜作るのもいいしなぁ……」ウーン
梨子「…………」アワアワ
千歌「……梨子ちゃんは、どこか興味あるとこある?」
梨子「えっ、わ、私は……」
梨子「……ねぇ、私、……二人と同じ班が良いなって思うんだけど、……ダメかしら?」
千歌「私は全然いいよ!ダイヤちゃんは?」
ダイヤ「仕方ないですわね。それで、どこにするんですの?」 千歌「あ、見て。山崎先生の班、誰も居ないよ。どんだけ人気無いんだろう」
山崎「なんか言ったか?」ヌッ
千歌「ぎゃあああっ!?!?」ドンガラガッシャーン
梨子「だ、大丈夫!?凄い勢いで椅子から落ちたけど……」
千歌「な、何するんですか先生!痛いんですけど!」
山崎「痛いも何も、千歌が変な事言うのが悪いっちゃろ」
千歌「なんだとぉ!」 ダイヤ「どうするんですの?この人の班しか残ってませんが」
山崎「この人言うなこの人」
千歌「えー、じゃあもうここでいいよー。苔玉にしよー」
山崎「雑」
梨子「わ、私は楽しいと思いますよっ、苔玉……」
山崎「ん?……ああ、転入してきた」
梨子「桜内梨子です。よろしくお願いします」ペコリ
山崎「…………なんか千歌達とは大違いやな」
千歌「なんだとぉ!やんのかこらぁ!」
梨子「や、やめなさいよ千歌ちゃん……」 山崎「まあ決まったなら名前書いとき。後でゆっくり話そうな」
千歌「ちぇー……」
梨子「か、変わった人ね……?」
千歌「そうかな?うちの学校にはああいう人しか居ないけど……」
梨子「(農業高校、やっぱり変わってる……)」 ダイヤ「名前は私が書いておきましたよ」スッ
千歌「ダイヤちゃん!ありがとう!」
千歌「課題研究はこの三人で出来るね!良かった〜!」
白津「はい、じゃあ決まったみたいなので担当の先生の近くに座って班ごとに活動してください」
山崎「お前らはここでいいか」
千歌「雑過ぎ!こんにゃろ!!」ドスッドスッ
梨子「ち、千歌ちゃん!叩かないの!」 山崎「えー、さっきも話した通りこの班は農販会や文化祭で販売する用の苔玉制作を行います」
梨子「あの、その農販会っていうのは?」
ダイヤ「農産物販売会のことですわ。学科ごとに作物や食品を生徒主体で売っていたりしています」
梨子「へぇ、それが農販会」
山崎「次の農販会は緑化が担当やろ?」
ダイヤ「はい。うちだったと思いますわ」 千歌「毎回凄い人なんだよー!梨子ちゃん、最初の農販会が次回って、大丈夫かなぁ」
梨子「そ、そんなに人が来るの?」
千歌「うんっ、あのねこの間うちの学校、テレビに出たの!その影響もあって人がいっぱい来るんじゃないか〜って噂になってるよ!」
梨子「テレビに……凄いわね……」
山崎「まあ次回の農販会には間に合わんやろうから取り敢えず文化祭を目標にな」 山崎「それで、苔玉に使用する植物を決めようと思うんやけど、なんか案あるか?」
千歌「オリーブかなぁ。あとはイロハモミジ!」
ダイヤ「私はイチョウがいいですわね。沈丁花とかも余ってましたよね?」
梨子「えっ?えっ?」ポカーン
山崎「そりゃ、梨子は分からんやろうな……」
山崎「ええっと、オリーブ、イロハモミジ、イチョウ、沈丁花……あ、フィカスプミラもあったな」
千歌「フィカスプミラ?」 山崎「こんなやつ。去年の三年生が買ってきたやつ」スッ
千歌「おお!かわいい!」
ダイヤ「これも使うとして……梨子さん、何か案はありますか?」
梨子「え、えっと…………」
梨子「……ぁ、さ、桜!桜が良い、かも……」
山崎「桜……ソメイヨシノなら校舎前に沢山咲いとるし、それ使うか」 山崎「取り敢えず、まず挿し木を行ってからじゃないと苔玉には入れられんけん、挿し木をしないといけんっちゃね」
梨子「挿し木?」
千歌「うん、採取した植物をそのまま使うっていうのは出来ないんだ。枯れちゃうから」
ダイヤ「根付かせてからではないと簡単に枯死してしまいますが、採取したものに植物調整剤を付け、苗に刺しておくことで根が出てくるのですわ」
梨子「な、なるほど……」メモメモ…
山崎「……っふ、」
山崎「メモせんでもええけどな。千歌達も見習っとけ」
千歌「なっ!?なんてこと言うんだ〜!」 −−−−
校舎前
千歌「……よし、これで100本かな」パチン
梨子「これから挿し木、するのよね……」ハァ…
ダイヤ「ええ。戻りましょうか」
梨子「ええっ、またぁ?」
ダイヤ「当たり前です。校舎前は車通りが激しいですから早く退かないと邪魔になってしまうでしょう。行きますよ千歌さん、梨子さん」
千歌「はーい、梨子ちゃんもバケツ持ってくよ〜」
梨子「ええっ、ま、待ってぇ……」ヘトヘト −−
緑化棟 ブドウハウス前
梨子「わっ……このビニールハウスは?」
千歌「これはブドウハウスだよ。その名の通り、ブドウ作ってるの!」
梨子「へぇ、ブドウを……」
梨子「そういえば山崎先生は?」
千歌「ああ、あの人色んなとこ行ったりしてるからずっとここに居るわけじゃないんだ。今はサツマイモ圃場に行ってると思う」
ダイヤ「早速始めますわよ」ストン
千歌「ああ、梨子ちゃんも座って座って」ストン
梨子「えっ……じ、地べたに座るの?」
千歌「他にどこがあるの……?」
梨子「……い、いや、……なんでもないわ」ストン
梨子「(こ、この学校で生きていくためには考えるのを止めないと行けないわね……)」 千歌「まずね、採取してきた植物があるでしょ?これをね、木バサミでこう……」パチンッ
梨子「あっ……ど、どうして葉っぱを半分切っちゃうの!?」
千歌「水分の蒸散を防ぐんだよ。ただでさえ本体から切り離されちゃって弱ってるのに、エネルギーが水分の蒸散に使われてたら中々発根しないんだ」
梨子「な、なるほど……」パチンッ
ダイヤ「育苗ポットに割り箸で植物を挿入する穴を開けておくのですわ。今回、土は赤玉土を使用します。はい、どうぞ」
千歌「ありがとっ。そしたらね、この切り口をこう斜めに切って、割り箸で空けておいた穴に入れるの!」
千歌「どうして斜めに切るかって言うと、普通に真っ直ぐ切るよりもこっちの方が水分を吸収する面積が大きくなるからだよ」 梨子「へぇ……色々考えられてるのね……」
千歌「一応お客さんに出す商品だからね。農業してる身としてそこは一番気を使っていかないと」
ダイヤ「千歌さん、そのまま入れてますけどコレ忘れてますわよ」
千歌「あっ!しまった!!」ガーン
梨子「この白い粉は何?」
ダイヤ「発根剤ですわ。その名の通り、これを切り口に付けておくと発根しやすくなるんですわ」
千歌「それで、その挿した植物にしっかり土を密着させるの!これが一番大事!」ビシッ
梨子「そ、そんなに大事なの?」 千歌「うん!本当に大事!ここが運命を左右するから!」
梨子「ふ、ふぅん……?」
千歌「去年、今と同じようにダイヤちゃんと二人で100本の挿し木に挑戦したんだけどね……55本は枯死しちゃって、結局上手くいかずに終わったんだよね……」
ダイヤ「失敗理由は根と土の密着が甘かったこと。だからこそ、今回は失敗出来ないんです。前回の反省を活かしてリベンジですわ!」
千歌「梨子ちゃんも一緒に頑張ろ!あと99本あるよ!」
梨子「ああっ、そうだったぁ……」ショモ
ダイヤ「急ぎましょう。あと30分で授業が終わりますわよ!」 −−−−
昼休み
緑化科 更衣室
千歌「梨子ちゃん!今からどっかの学科が作ってるみかんをもぎって勝手に食べに行くんだけど梨子ちゃんも行く──って」
梨子「…………」コクン コクン……
千歌「ありゃ、寝ちゃった。さっきまでこんなに汚い更衣室でご飯食べるの嫌〜って言ってたのに」
ダイヤ「転校初日に四時間実習は大変でしょうからね……私達ですら眠くなってしまいますし」
ダイヤ「……って、貴女今みかんを──」
千歌「なっ、何でもないよ!?別に他所の学科からみかんを取って食べようだなんてそんな……」
ダイヤ「はぁ、……全く。今の時期みかんがなっていると思うのですか?」
千歌「まだ青いよねぇ〜」 千歌「あ、時間やば!?掃除始まっちゃうよ!?」
ダイヤ「あ、本当ですわ!梨子さん、起きてください!掃除行きますよ!」ユサユサ
梨子「ん、んん……」ムニャムニャ
千歌「あ。かわい……」ツンツン
千歌「ダイヤちゃ〜ん……私、掃除サボる……」
ダイヤ「良いわけないでしょ!二人とも行きますわよ!」グイグイ
千歌「あ〜ん……掃除も国語も嫌だあああぁっ」
ダイヤ「一時間くらい我慢しなさいな!一時間頑張れば貴女の大好きな体育でしょう!?」
千歌「年度始めは集団行動だよどうせ!ラジオ体操と行進と駆け足!」💢 ダイヤ「文句言わずに立ちなさいな!間に合いませんわよ!」
千歌「どうせまたトイレ掃除なんだよおおおおおぉっ!!!」💢
梨子「ん、んぅ……何の騒ぎ……?」ムニャ…
千歌「り、梨子ちゃん!今から掃除サボ──」
バッチーンッ
ダイヤ「さ、行きますわよ」
千歌「はい」ヒリヒリ
梨子「えっ、何?何!?」 −−−−
体育館 六時間目終了
体育教師「はい、気を付け。礼」
生徒「ありがとうございました〜」
梨子「……はぁ、……やっと終わった……」クタクタ
ダイヤ「梨子さん、お疲れ様でした」
梨子「ありがとう、ダイヤちゃん……農業高校の一日ってこんなに大変なのね……」ゲッソリ
ダイヤ「慣れるまでは大変でしょうけど……慣れたら心地良い疲れですわ。夜もぐっすり眠れますし、農作業は良い運動になりますし」
梨子「そうね、ここまで動いてたら運動と一緒。……私、農業高校を甘く見てたわ……今日自力で帰れるか分からないもの……」 梨子「それに比べて千歌ちゃんは──」チラッ
千歌「善子ちゃーん!!お疲れ様〜!!今度また遊びに行ってもいい〜!?」
善子「ちょっ、来るなぁ!私は堕天使ヨハネだってば!」
梨子「他の学科の子にちょっかい出しに言ってるし……」
ダイヤ「千歌さんは顔が広いですからね」
千歌「善子ちゃん!次はいつ同好会ある!?」
善子「いつもあるに決まってんでしょ!私と鞠莉先輩以外人居ないのよ!」
千歌「はへ〜……動物科ってそんなに人居ないの?」
善子「そりゃ当然よ。動物科だからこそ同好会に入ってまで動物の面倒見たくないんでしょ」 千歌「え〜、私からしたら動物に触れるだけでも幸せなのになぁ」
善子「ただ触るのと世話をするのは違うのよ。私達動物科は動物として、じゃなくて商品として動物と関わってる。勿論大切な命だけど。……ただ、商品を管理する者として責任を伴うか伴わないか。ここは重要なことなの」
千歌「……なるほどねぇ。私、動物科じゃなくて良かったかも」
善子「そうね。あんたは向いてないわ」
善子「能天気に農業してるのがお似合いね。それじゃ私これから畜産棟行かなきゃいけないから」ヒラヒラ
千歌「うんっ、またね〜」フリフリ 梨子「お友達?」
千歌「うん、動物科の。あ、今度梨子ちゃんも一緒に動物同好会行こうよ!」
梨子「動物同好会?」
千歌「うんっ。イヌとかウサギとか、カメも居るよ〜!」
梨子「へぇ、良いわね。学校で飼ってるの?」
千歌「そうそう、だからそのお世話をする部活〜みたいのが動物同好会!」
梨子「なるほど……うん、考えておくね」
千歌「ありがとう!……あっ、やば、バス間に合う?早く着替えて急いでバス停行こ!」ダッ
梨子「あっ、ちょっと待ってよ〜っ!」ダッ −−−−−−
−−−−
−−
翌日 桜内宅
梨子「……………………」ガチゴチ
梨子「あー……なるほど……全身筋肉で起き上がれないわね…………」
梨子「(……今日が入学式で良かった。今日が登校日だったら私死んじゃってたもの)」ゴロッ
梨子「(……ダイヤちゃんは生徒会で出席って言ってたっけ。皆忙しそう……千歌ちゃんは確か──)」
千歌『入学式?そりゃ行くよ!』
千歌『私の幼馴染がこの学校に入学してくるんだ〜!だからそのお祝い!』
梨子「(……千歌ちゃんの幼馴染、か。どんな子なんだろう……)」ウト… −−−−−
−−−
入学式後
曜「千歌ちゃーん!果南ちゃーん!」トテテテ
千歌「よーちゃん!入学おめでと〜っ!」ギューッ
曜「ありがとう!ふたりと同じ学校に入れて良かったよ〜!」ギューッ
果南「まさか私と同じ園芸科でも千歌と同じ緑化科でもないのは驚いたけど……」
曜「えへへぇ、デザイン科も中々楽しそうだな〜って思って!」
曜「それに友達も出来たんだよ!おーいっ!」
果南「にゅ、入学式初日に!?」
千歌「よーちゃんすごーい!」 ルビィ「はっ……はじめ、まして……」ヒョコッ
千歌「わっ、かわいい!」
千歌「はじめまして〜、私は緑化科二年の高海千歌!それでこの人が園芸科の松浦果南ちゃんだよ!」
果南「よろしくね」
ルビィ「は、はひぃ……」
千歌「そんなに怖がらなくてもいいんだよ?ほら、飴!食べる?」スッ…
ルビィ「は、はいっ……」ギュッ…
千歌「くうぅ〜っ、……かわいいっ!」 曜「この子は黒澤ルビィちゃん!裁縫が得意でデザイン科に進学したんだって!それから緑化科にお姉ちゃんが──」
ダイヤ「ルビィ!」ダッ
ダイヤ「こんなところに居たのですね。入学おめでとう」
ルビィ「お、お姉ちゃんっ!」
千歌「あぁ、この子、ダイヤちゃんの妹ちゃんだったんだ!」
ダイヤ「……この方は?」
ルビィ「わ、渡辺曜ちゃん。……ルビィとお友達になってくれたの」
ダイヤ「……そう。曜さん、ルビィをよろしくね」
曜「はいっ、ルビィちゃんを任せてください!」ビシッ ダイヤ「あ、……果南先輩」
果南「久しぶり。相変わらず千歌とは仲良くしてくれてるみたいで良かったよ。私の方こそ千歌を宜しくね」
ダイヤ「はい、勿論ですわ。……それより聞きました?この人、園芸科のみかんを勝手に──」
千歌「ああーっ!!一年生の前でそれはダメー!!!」 ダイヤが果南先輩いう二次創作初めて読んだかも
初期設定いいよね これ書いてるのは農業高校出身の八ツ橋?
農高の文化祭は売ってる食い物がどれも美味いので卒業生でもないのによく行ってた >>65
農業高校出身の八つ橋です。
元生徒としては来てくれるだけでも凄い有難かった! −−−−−−
−−−−
−−
次の日 登校中
曜「えへへ〜♪こうして三人で学校行くのも久しぶりだね〜♪」ルンルン
果南「曜も今日から立派な高校生だね」ウンウンッ
曜「えへへ、早くふたりと同じ学校に通いたくてうずうずしてたんだ」
千歌「よーちゃんは何か部活入るの?」
曜「んー……千歌ちゃん達は何だっけ?」
果南「私は太鼓部。千歌は書道ね」
曜「うーん……でも私、水泳クラブあるし……やっぱりそっちを続けようかな」
千歌「ああ、そっか……うち、プール無いもんね」 曜「農業高校ってプールも音楽室も無いんだねぇ。それに比べて農場の方は止まれ!とかの看板もあるし、こんなに広いし、色々な建物があるし……何だか違う街に来たみたい」
千歌「分かるよ〜、チカも入学した時びっくりしたもんね。学校の中なのに、学校の外に居る気持ちになっちゃうもん」
千歌「あ!そうだ、よーちゃん今日放課後に動物化の畜産棟行こうよ!たくさん動物居るよ!」
曜「えー!いくいくー!果南ちゃんは?」
果南「ごめん、私は今日部活あるから……」
千歌「そっかぁ、残念……」 果南「千歌と曜二人で行って来たら?」
千歌「うんっ……あ、そうだ!梨子ちゃんも一緒に行ってもいい?」
かなよう「「りこちゃん?」」
千歌「うんっ!一昨日転入してきたばっかりの超絶美少女だよ!桜内梨子ちゃん!」
曜「美少女!?」
千歌「そーだよ!東京から来たんだって!梨子ちゃんってば何か良い匂いするし……あれが東京のじぇーけーなんだ!」
千歌「東京のじぇーけーってみんなあんなに良い匂いがするのかな?」
果南「何言ってんのさ……」 −−−−
緑化科 教室
千歌「あ、梨子ちゃんおはよ!」
梨子「おはよう千歌ちゃん、今日も元気ね……」
千歌「梨子ちゃんどうしたの?元気無いけど……ん、湿布の匂い……」スンッ…
梨子「一昨日のやつで全身筋肉痛なのよ……昨日一日じゃ治らなかったし……」
千歌「梨子ちゃんったら弱いなぁ。私を見習ってよこの元気さ!」ムンッ
梨子「それは一年も通ってたらそうなるわよ……私なんか初登校でアレだったんだから……」 ダイヤ「ん……湿布の匂い……あ、千歌さん梨子さん。おはようございます」
梨子「おはよう……ってそんなに湿布の匂いする?」
ダイヤ「ええ、少し」
梨子「嘘……は、剥がしてこようかな……」
ダイヤ「心配無いですわ。特別気になるというわけではないので。……それに、何故かこの学校に来てから鼻が良くなった気がするのです」
梨子「や、野生化してるとか?」
ダイヤ「……………………」
千歌「梨子ちゃん…………酷い………………」
梨子「ご、ごめんなさあぁいっ……」ピエェ… −−−−
昼休み
デザイン科 教室
曜「ルビィちゃーん!一緒にお昼食べよ!」
ルビィ「うんっ、あ、そうだ……お友達、呼んでもいい……?」
曜「友達?全然良いよ!一緒に食べた方がもっと美味しいに決まってるもん!」ビシッ
ルビィ「えへへ、ありがとう。ちょっと呼んでくるね」
曜「私も行く〜!」トテテ −−−
食品科 教室
ルビィ「あれ……マルちゃん居ない……」
曜「マルちゃん」
ルビィ「うん、国木田花丸ちゃんだからマルちゃん。……教室、だぁれもいないね」
曜「実習なのかな?」
ルビィ「たぶん……」
花丸「あ、ルビィちゃん!」
ルビィ「あ!マルちゃん!」パアァッ
花丸「オラ、今教室に戻ってきたばっかだから、ちょっと待ってな」 曜「あの子、すっごい訛ってるね?」
ルビィ「マルちゃんのおじいちゃんが凄い訛ってる人でね、それを聞いてたらマルちゃんもこうなっちゃったんだって」
曜「なるほどねぇ。私の周り、あんなに訛ってる子居ないから何か興味出てきた!」
曜「マルちゃーん!」ブンブン
花丸「あらら、どうしたずら。ルビィのお友達?」
ルビィ「う、うんっ。渡辺曜ちゃんだよ」
花丸「渡辺曜ちゃん。ああ、はじめまして。オラは国木田花丸ずら、よろしくね」
曜「よろしくね、花丸ちゃん!」ビシッ ルビィ「三人でご飯食べようって思ったんだけど……良いかな……?」
花丸「オラはいいよ。曜ちゃんは?」
曜「私はそのつもりで着いてきたから!三人で食べよ〜!」
ルビィ「でも……何処で食べたらいいんだろう……」
花丸「あ、食堂の裏。あそこは景色が良いからあそこで食べるずら!」
曜「良いね!それじゃあ全速全身〜っ、ヨーソロー!」タッ
花丸「行こ、ルビィちゃん!」タッ
ルビィ「ああっ、ま、待ってよ〜っ!」タッ −−−−
放課後
梨子「(今日は一日座学だったから何とかなったけど……明日からはまた実習か……憂鬱だな……)」教科書トントンッ
千歌「あ、梨子ちゃーん!今日用事ある?」
梨子「え?いや、何も無いけど……」
千歌「なら一緒に動物同好会に行こうよ!今日、私の幼馴染の曜ちゃんと一緒に行く予定が──」
曜「千歌ちゃ〜ん!」オーイ
千歌「あっ、よーちゃん!今行くね〜!」 千歌「それでね、梨子ちゃんも一緒にどうかなーって!」
梨子「私は行きたいと思ってたけど……お邪魔じゃない?」
千歌「そんなことないよ!一緒に行こ!」ギュッ
梨子「あ、うんっ」コクリ
千歌「よーちゃん、お待たせっ。この子が桜内梨子ちゃんだよ」
曜「初めまして!デザイン科一年生の渡辺曜です!梨子先輩っ、よろしくお願いします!」ビシッ
梨子「け、敬礼……?」
曜「ほら、梨子先輩も一緒に!」
梨子「よ、よろしくね曜ちゃん」ビシ…
曜「はい!よろしくお願いします!」ニパ
梨子「(な、何だかワンちゃんみたいね……)」
千歌「それじゃあ畜産棟まで、レッツゴー!」
曜「おーっ!」
梨子「お、おおーっ!」 −−−
動物科 畜産棟
千歌「ここが畜産棟だよ。畜産棟にはウシとか、ポニーとかヤギとか……あとはニワトリも居るね。動物同好会の方にはイヌとカメとウサギも居るよ!」
曜「ポニー乗れる!?」
千歌「50キロまでなら大丈夫みたいだよ!」
鞠莉「あら、珍しいお客さんね」ヒョコ
曜「こ、こんにちは!」
千歌「あっ!鞠莉先輩!こっちは転入生の桜内梨子ちゃんと、一年生の渡辺曜ちゃんです」
梨子「よ、よろしくお願いします!」ペコリ
曜「よろしくお願いします!」ビシッ 鞠莉「よろしくね。動物科三年の小原鞠莉よ」
千歌「鞠莉先輩は動物同好会の部長でもあるの。私はよく遊びに来てるから偶にお喋りするんだ〜」
鞠莉「あ、今日は善子も当番だったはずよ」
善子「………………」ドンヨリ
鞠莉「あら、噂をすれば。善子ったら泥だらけの実習服でどうしたの?」
善子「用水路に落ちたんです……って千歌」
千歌「ああ、善子ちゃんも相変わらずだね〜……」
曜「千歌ちゃん、この人は……?」
千歌「こっちは津島善子ちゃん。動物科の二年生だよ」 善子「善子じゃなくてヨハネ!……クックック……このヨハネと出会ってしまったからには貴女も不幸の星か灯るのよ……逃げても無駄、私の不幸の星からは一生逃げられないんだから!」
曜「はい?」ポカーン
曜「先輩、何言ってるんですか?」
善子「〜っ!!」カアァッ
善子「な、なんか調子狂うんだけど……」
鞠莉「善子も立派な二年生になったんだし、メリハリつけないとダメね」
善子「……ん、……ああ。貴女、転入してきた」
梨子「さ、桜内梨子です。よろしくね、善子ちゃん」
善子「……その呼び方辞めて。嫌なの」ムッ
梨子「えっ?あ、……そ、それじゃあ……よっちゃん、とか……?」
千歌「なにそれダサ──」
鞠莉「…………」サッ
千歌「っむぐ!?」 善子「よっちゃん……まあいいわ。それで、貴女は初めて見るけど」
曜「はいっ、デザイン科一年の渡辺曜です!善子先輩っ、よろしくお願いします!」ビシッ
善子「だから善子は……むむ、でもこの子一年生だし……もうそれでいいわ」
千歌「そんなことより早く動物見に行かない!?可愛いよ!?」
曜「そうだった!善子先輩、鞠莉先輩、動物見て行ってもいいですか!?」
鞠莉「ええ、好きにしてくれていいわよ。私達も各自で色々作業してるから、困ったら声掛けて。行くわよ、善子」
善子「はぁい。また後でね」
梨子「うん、またね」
千歌「ウシ見ようウシ!おっきいんだよー!」 梨子「ウシが居るなんて凄いわね……私が前通ってた学校じゃ考えられない……」
千歌「ウチの学校は黒毛和牛を5頭か4頭飼ってるんだって!あ、でもついこの間出荷したばっかだったっけ……まあ覚えてないけどね!」
梨子「出荷ってことは……やっぱりお肉にするのね」
千歌「動物科はそういうのばっかりだからつらいよねぇ。でもでも、出荷したウシはA5ランクだったんだって!1キロ当たり2500円以上!凄いよねぇ!」
曜「…………」ジーッ
梨子「よ、曜ちゃん?……どうかした?」 曜「ほんとだ。梨子先輩……良い匂いする……」スンスン
梨子「え!?」
曜「千歌ちゃん!これが東京のじぇーけーの匂いなんだね!」
千歌「げっ……」
梨子「…………千歌ちゃん、まさか曜ちゃんに変なこと……」
千歌「………………」汗ダラダラダラ
千歌「や、ヤギでも見に行こうかー」メソラシ
梨子「こらー!説明しなさいってば!」
千歌「ぎゃーっ!ごめんなさああぁいっ!」
曜「……私、何か変なこと言っちゃったのかな……?」 −−−
牛舎
曜「……動物園の匂いがする……」
梨子「ええ……ちょっと。……ちょっとね……」
千歌「そんなに臭う?まあ気持ちは分かるけど……」
千歌「ほら見てウシだよウシ!こっちおいで〜!」
🐮「…………」ジョババババ
千歌「あ〜、おしっこしちゃった」
千歌「まあ目の前でうんちされるよりは全然良いよね〜」ゲラゲラ
ようりこ「「……………………」」
梨子「千歌ちゃん……」
曜「……私、ヤギ見たい……」
千歌「えっ」 −−−
畜産棟
千歌「ふたりともウシ嫌いだった?ごめんね……?」
梨子「そういうわけじゃないんだけど……」
曜「わーっ!見て!ヤギにポニー!可愛い〜!」キャッキャ
曜「千歌ちゃん、ポニー触ってもいいかな?」
千歌「良いと思うよ!私もよく撫でるんだ〜!」ヨシヨシ
鞠莉「あら。案外早く戻って来たのね」
千歌「ふたりがウシはもういい〜って。何が嫌だったんだろ〜……」 曜「千歌ちゃん!私、ポニー乗りたい!」
千歌「えっ!?の、乗るの!?」
曜「ダメ?」
千歌「ダメ……じゃないけど……」チラッ
鞠莉「ん?ああ、別に乗ってもいいけど今まで本当に乗ったことある人が居ないから、どうなっても自己責任よ」
曜「ひぇっ……」
千歌「鞠莉先輩は乗ったことないんですか?……馬、好きなんですよね?」
鞠莉「ええ、馬は好きよ。愛馬が居るくらいだもの。……でも私が好きなのはポニーじゃなくて馬。ポニーはお子ちゃま専用って感じがするし」 鞠莉「……まあ、この子も好きよ。スターブライトには勝てないけどね」ナデ…
梨子「……どうして同好会に入ったんですか?」
鞠莉「えっ……?」
梨子「い、いや……深い意味とかは無くって。気になったので」
鞠莉「……実はね……勘違いしていたのよ」
曜「勘違い?」
鞠莉「馬術部があると思い込んでいたのだけど、実際この学校に来てみたら小さくて可愛いポニーしか居なくてね」
鞠莉「最初はかなりショックだったけど、もう慣れたわ」 善子「あっ、ちょっと待ちなさい!」
🐶「わふっ!」トテテテ
梨子「な、何!?犬!?」
🐶「わんっ!」
曜「かわいい〜っ!何の犬種ですか?かわいい!」
善子「雑種よ雑種。ほら、こっち来なさいってば」
🐶「……っふ」プイッ
善子「あっ、こいつ……」
鞠莉「善子は相変わらず舐められてるわね」
善子「何とかしてくださいよ。自分のゲージ戻らなくて……」 鞠莉「簡単よ。見てて」スッ
梨子「ボール?」
鞠莉「てりゃああぁっ!」ブンッ
千歌「な、投げたーっ!!!」
🐶「わん!」トテテテッ
曜「わ、凄い!ボールがぴったりゲージに入って……」
鞠莉「……っよ、っと……」ガシャン
鞠莉「ほら、簡単じゃない」
善子「嘘でしょ……こんなやり方、アリなの……?」
鞠莉「善子のやり方はこの子に合わないのでしょうね。だから舐められるのよ」
善子「ぅぐ……」
千歌「善子ちゃん、年中発情されてるもんね♪」
善子「そういうの後輩の前で言わないでくれる?」 梨子「よっちゃんが出てきた部屋は何?」
善子「ああ。あそこが同好会の活動場所よ。ウサギとかカメとかいるし、見ていく?」
曜「いいんですか!?」パアァッ
善子「ええ。勝手に入ってる人とか居るし。こいつとか」ユビサシ
千歌「やめてよ〜、私はちゃんと鞠莉先輩に許可取ってるもん。ねー、鞠莉先輩」
鞠莉「そんなこと滅多に無いじゃない」
千歌「やーめーてーよーっ!嘘でも頷いてくださいよー!」
曜「見て千歌ちゃん!ウサギだよウサギ!いっぱい居る!」
千歌「って!もう入ってるし!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています