真姫「ダイヤモンドプリンセスの憂鬱」
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1943年10月、第二次世界大戦末期・米国。
後に日本・広島/長崎への原子爆弾の投下という帰結を迎える「マンハッタン計画」はちょうど中盤に差し掛かっていた。
科学部門責任者、Dr.ニシングストンはマンハッタン計画に自身の優れた頭脳を提供する事と引き換えに、莫大な研究資金は勿論、その他予備費の名目でその年の科学研究予算の2割程度を彼個人が受け取ったとまで囁かれた。
そんな噂を知ってか知らずか、彼はロサンゼルスの一等地に豪奢な屋敷を建てる。
ただ、彼自身は研究の為ロス・アラモスに赴いている今、屋敷では1人のメイドと暇を持て余した令嬢が静かに映画を観るだけである。 ーーーーー1943年11月1日-アメリカ合衆国-カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-高級住宅街の一角
マキ「ヒマよ」
【マキシナ・ニシングストン マンハッタン計画科学部門リーダー:ニシングストン博士長女】
コトリ「お好きでしょうに、この映画」
【ミナ・コートリー ニシキンストン家大邸宅付き使用人:第一息女専属勤務 】
マキ「As Time Goes By(時が経っても)...♪私はここから出してもらえない。いい加減に外の出歩きくらい自由にさせてよ」
コトリ「ごめんなさい、マキお嬢様。でも私は貴女をこの鳥籠から出せません♪」
マキ「ふん、どっちが小鳥よ…過保護メイド」
コトリ「心外ですよ〜。これはお父様の方針なんですから」
マキ「はぁ。私、もう16なんだけど」
コトリ「それが何か?」
マキ「誰と遊んだって、構わないでしょ」
コトリ「うーん、それでもギャングはちょっと。コトリもどうかと思います!」
マキ「ニコちゃん…」
コトリ「もう彼女の事は忘れましょう?そしてコトリと映画を見ましょう…えぇと、この…何でしたっけ」
マキ「忘れてるの貴女じゃない!この映画は…」 ーーーーー同時刻-カリフォルニア州-コンプトン市-ロサンゼルス川沿い
ニコ「ちっ…」
リン「あーあ、またやっちゃったにゃ」
ニコ「私のせい!?こいつが突然襲ってくるからでしょうが!!」
リン「だからって殺す事ないにゃ」
ニコ「はぁ…あんたわかってないわね。こいつみたいのが最近多いの。
立ちんぼだとわかったら金も払わず路上でやり捨てようって輩がね。無許可でやってる子ばっかだから警察にも行けないし…とにかく、こういうのは良いのよ。仕方ないの」
【ニコラ・ヤザーランド “暗黒街の帝王”アル・カポネ一味元幹部 現“NightCafe NikoNie”店長】
リン「別にリンたちお水の娘でも自警団でも無いけどにゃあ〜」
【リンゼイ・ホーシャム・ゾラ “暗黒街の帝王”アル・カポネの元部下 現“NightCafe NikoNie”店員】
ニコ「疲れたわ…久々に映画でも観たいわね…」
リン「ニコちゃん、好きな映画とかあるの?」
ニコ「そうね…最近一番のお気に入りは…」 マキ「“カサブランカ”よ。いいコトリ、ちゃんと覚えなさい」
ニコ「“カサブランカ”ね。ほらリン、店に戻るわよ」
カサブランカ…1942年11月16日日に公開されたこの映画は、マキとニコのみならず米国中の映画好きを唸らせた。
ハリウッド映画黄金期の中でも特に素晴らしい一本とされ、登場スターらの魅力と二次対戦中のアメリカの社会イデオロギーが絡み合った深みのある物語構造となっている。 コトリ「そういえば、突然思い出しましたけどあれって何だったんでしょうね」
マキ「あれって何」
コトリ「ほら、“空飛ぶパンケーキ事件”ですよ」
マキ「あぁ、あれねぇ。さぁ、何だったのかしらね」
マキ「(私は一枚の写真を取り出し、少し眺めた。
斜めから見たり、横から見たりしたが何も変わらない。
光る円盤のような物体が写っているだけだ。私はこれに「空飛ぶパンケーキ(愛称“空パン”)」という名前をつけた。あぁ空パン、果たしてこの正体やいかに)」 「空飛ぶパンケーキ事件」一般には「ロサンゼルスの戦い」と呼ばれる出来事を指す。
1942年2月25日、サンフランシスコ州サンタモニカ市上空にて謎の飛行物体を確認。アメリカ軍は対空射撃を行うが、命中せず、対象はそのまま消滅。
『気象観測気球を日本軍機と見間違え過剰対応した』と結論付けられこの事件は幕を閉じることとなった。
しかし、陸軍のレーダー上でサンタモニカよりはるかに離れた地点から飛来する飛行物体が観察されたうえに、目視においても多数の兵士や民間人が赤く光る飛行物体を確認していることからこの結論を疑問視された。
日本軍機の飛来を主張する者や「未確認飛行物体(UFO)が飛来した」と主張する者など真相を推測する声は様々である。
……ただ、ニシングストン邸では無論「巨大なパンケーキの襲来である」というのが定説だ。 −−−−−カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-NightCafe NikoNie
ホノカ「あーあ、今日も全然人いないねぇ」
【ホノルル・コーサカス 歌手:NightCafe NikoNie バーシンガー 】
ニコ「別にいいじゃない。あんた客が居なくたって歌ってんだから」
ホノカ「あー、そうやって開き直るんだ。良いもん。給料は払ってもらうんだから」
リン「お客さん、どんどん飲んでってね?」
常連1「つっても、ここの酒も飯もそう美味いわけでもないしね」
常連2「ん。安い、早い。それだけ」
ニコ「良いっつーの!NightCafe Nikonieの売りは早い!安い!ニコが可愛い!そこで戦ってくのよ、私は」
常連「旨くないのは致命的だよ、ニコニーニコちゃん」
常連2「しかも容貌は良くても可愛げは無い」
リン「辞めたいにゃー」
ニコ「ふん、言ってなさいよコンプトンに蔓延る貧乏人ども…(ニコちゃんもだにゃ)これから来るのはこういう店なんだから」
ホノカ「夢みたいなこと言ってるよ…現実見ようね、ニコニーニコちゃん」
ニコ「いつまでも売れないシンガーやってるあんたのセリフじゃ無いでしょ!」 奇しくも、このニコの予言めいたセリフは的中したといっていい。
ここから5年後、1948年に同じくこの地、カリフォルニア州でマクドナルド兄弟があるドライブインを開業。その7年後、ドライブインで好評を博したハンバーガーを専門にする店がオープンする。
これが世界初のファーストフード店「マクドナルド」の誕生である。
“夢みたいなこと”と揶揄されたニコの語りは惜しくも他人の手によって“現実”になった。
もし、「NightCafe NikoNie」がこの1943年以降も残っていれば世界一有名なファーストフードのマスコットは赤毛アフロのピエロではなく、黒髪ツインテールの少女だったかもしれない(美少女よ!) ーーーーーアメリカ合衆国-カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-ニシングストン邸
マキ「っていうか、あの件を何で今更蒸し返すのよ…去年、パンケーキの襲来という結論に落ち着いたでしょ」
コトリ「うん、それがね。あの時のことで警察の人がもう一度話を聞きたいって言ってきたの」
マキ「えぇ…いつよ」
コトリ「今」
マキ「ゔぇえ!今から?」
コトリ「うん」
ピンポーン
マキ「イミワカンナイ」
コトリ「(私はその後、「ヴぇえ」と「イミワカンナイ」を繰り返すマキお嬢様を宥め透かし、お行儀よくソファーに座らせた。
お嬢様は「サンタさんが来ないよ」という脅しにはめっぽう弱いのだ。
あと何年使えるだろうか、いつまでも使いたい気もするが、それだと不安な気もするのだ。
これが世に言うマキちゃんサンタ・ジレンマである。)」 −−−−−ニシングストン邸-応接間
コトリ「どうぞ」コトッ
ノゾミ「丁寧にどうも、ウチ、ロス市警のトージェル言いますわ。よろしく」
【ノージー・トージェル アメリカ合衆国カリフォルニア州自治体警察ロサンゼルス市警察:警部補】
マキ「なんか訛ってるわね…」
ノゾミ「あ、訛りのことは言わんといてな。気にしてるから」
マキ「(私の考えてること、わかるの…?)」
ノゾミ「刑事のカンってやつやん?」
マキ「(キモチワルイ…)」
ウミ「同じくロス市警のソノダです。よろしくお願いします」
【ウミ・ラヴアロー・ソノダ アメリカ合衆国カリフォルニア州自治体警察ロサンゼルス市警察:刑事】
マキ「(…日系人ね、2次大戦が始まってから、あまり見ないと思ってたけど…まさか警察の人間として会うとはね。
私が心配することじゃないけど…警察内で大丈夫なのかしら?)」
ノゾミ「大丈夫やで。ウミちゃんは私が守っとる」
マキ「えっ…!そう…(何なのよ、ほんとに…)」
ノゾミ「(ふーん、やっぱりか。この子、優しいんやな。ちょろそうやわ)」
ウミ「さて、早速お話させていただきます。メイドの貴女も、いて頂いて結構ですよ。貴女からもお話聞かせていただきたいので」
コトリ「はい」 ウミ「1942年2月25日、ここカリフォルニア州ロサンゼルス郡サンタモニカ市の上空にて、謎の飛行物体が確認されたとされています。貴女方2人は、それを確認しましたか?」
マキ「えぇ。見てたわ」
コトリ「写真も撮りましたよね?」
ノゾミ「………!」
ウミ「写真!?以前うちの捜査員が伺った時はそんな証言は頂いていないはずですが」
マキ「偶然取れてたのよ。後で気づいたの」
ウミ「見せてください」
マキ「良いわ。コトリ」
コトリ「はい。全てですよね」
海未「えぇ、お願いします」 マキ「この一枚が私のお気に入りよ。巨大パンケーキ」
ノゾミ「…え?」
マキ「巨大なパンケーキに見えるでしょ?ほら。宇宙からの使者、巨大パンケーキよ」
ノゾミ「ふむ。スピリチュアルやね」
ウミ「これが巨大ホットケーキ……?そんな形ですかね?」
マキ「まぁ、この1枚だけかもね。それと、ホットケーキじゃなくてパンケーキよ」
ウミ「いえ、それを言うならホットケーキです」
マキ「違うわ、これは…むぐぐ(コトリ、マキの口を抑える)」
コトリ「今はちゃんとお話を聞くときです。マキお嬢様、サンタサンタ(小声)」
マキ「………!」
ノゾミ「2人から見たそれは、どういう動きをしてた?」
マキ「そうねぇ、とにかく高速で動いてたわよ」
コトリ「いくつか居ましたよね?」
マキ「そうね。でも、一基は途中で落っこちちゃったように見えたわ」
コトリ「え…それは知らなかったです…」
マキ「当時もそうだったわ。誰に話しても同じものを見た人はいなかった」
コトリ「人は自分の信じたいと思ったことすら、それが“常識”から外れていれば否定してしまいます。“秩序”の為に無根拠に作り上げた“常識”…そこから背を向けて尚、信じたい夢を信じる方はマキお嬢様くらいです」
マキ「ふふん」
ノゾミ「確かマキちゃん、この家にはお父様も居たよね?お父様も、一緒に見ていたの?」
コトリ「………!」 マキ「…………!!いえ、お父様はお仕事中だったから」
ノゾミ「ほー………!」
ウミ「…その写真、回収させていただきます」
マキ「だっダメよ!!」
ノゾミ「?何で?」
マキ「とにかくダメなの!!」
ウミ「捜査に必要です。貸してください。必ず返しますので」
コトリ「お嬢様もこう仰っている事ですし、何とかお願いできませんか?」
ノゾミ「うーん、ちょおっと難しいなぁ。この写真は必要やでぇ。他の人たちは、みんな快くくれたんやけど」
マキ「私はダメなの!!」
ウミ「お願いします」
コトリ「こちらこそお願いします。これ以上お嬢様に不躾な振る舞いをするのであれば、今日はお引き取り下さい」
ウミ「…!失礼、少し高圧的でしたね。では、どうしてそこまで拒否されるのでしょう?私たちとしても、理由がないことには納得しかねます」
マキ「………あんたたちこそ何なのよ!!今更去年のことでやって来て!写真寄こせって!もっと何かする事があるでしょ!ギャングに身を落とすような女の子を1人でも減らすとか!!」
ノゾミ「それも重要な事やね。でも、今のウチらの仕事やない。マキちゃん、君…逮捕しちゃおうか?」 マキ「えっ…」
コトリ「辞めて下さい!一体何の罪で!」
ウミ「それが嫌なら早く写真を!!」
マキ「嫌よ!!……パパとの約束なんだからぁ!!!」
ウミ「………」
ノゾミ「………」
ウミ「アメリカ合衆国陸軍工兵司令部マンハッタン工兵管区戦時最高優先等級事項:マンハッタン計画プロジェクトリーダー、Dr.ニシングストンがそこまで守る写真、ですか……」
ノゾミ「あぁ、由々しき事態やね…」
マキ「何…何なの!」
ウミ「状況が変わりました。今すぐ写真を貸しなさい」チャキッ
コトリ「貴女たち、ロス市警じゃないでしょう!!!」
海未「まぁ…いえ…一応ロス市警でもありますけど…籍もありますし…」
【ウミ・ラヴアロー・ソノダ……本名:園田海未 “大日本帝国陸軍”大本営直属対米特務機関:音乃木機関大佐級情報将校】
ノゾミ「偽名やけどね……潜入してるだけやからなぁ」
【ノージー・トージェル……本名:ノゾフィー・トージェンタール “ドイツ国防軍情報部 通称“アプヴェーア”情報課V−C2:アメリカ駐在工作員】
【《以上2名:日独合同対米諜報計画
“カサブランカ作戦”担当工作員》】 海未「貴女はメイドを」
ノゾミ「うぃ」
コトリ「逃げて下さいっ!」
マキ「えっ…」
コトリ「逃げて!」ガチャ パカッ ドンッ
マキ「わっ…うわっ」ガシャン
マキ「(コトリがレバーを引き、ダストシュートの蓋を解放した。
私はその中に突き飛ばされ、またたちまち蓋が閉められた。
真っ暗な中少し落ち、ゴミの上に軟着陸した私は手探りで出口を探し、ゴミの回収口を開けた)」
−−−−−ニシングストン邸-ダストシュート回収口前
マキ「はぁ…一旦、そう…何か戦うもの…」
そう、私は守って貰った訳では無い。直ぐに向こうに参戦する為、武器を取りにいくのだ。そう。その通りだ。 −−−−−
−−−−−−−−−−
−−−−−−−
−−−−
マキ「…あれ?無いわね…」ガサゴソ
「何探してるの?」
マキ「ええっと、パパの銃…この辺にしまってあるはずなの…あれ、貴女は?」
プシュッ ドスッ
マキ「うっ…」バタッ
「私?私はエリ」
エリ「エリーナ・アヤシェニコフよ」
【エリーナ・アヤシェニコフ
“ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国”
内務人民委員部附属国家保安総局(OGPU)外国課:国家保安少佐】
サッ…
ノゾミ「あっそ、じゃ、銃を下ろして」
エリ「あら…迂闊」テヘペロ
ノゾミ「その娘はウチのもんや。露助には渡せん」
エリ「あら、私アメリカ人よ」
ノゾミ「いくら誤魔化してもウチにはわかる。小さい頃から色んなとこ転々として色んな人種をこの目で確認してきたんや。あんたはロシア人。しかも物騒なタイプのな。
(そう、色んな奴を見てきた。だからわかる。こいつはヤバい。危ないとか単純な話じゃない、行動が予測出来ない。理解できない行動原理の人間だ)」
エリ「そう…でも、私マキの友達なの。倒れてる。家に連れて帰るわ(さ…どうしようかしら。仲間は何人…?)」
ノゾミ「そもそも目的はなんなん?ソ連とアメリカは同じ連合国側…ソ連人のあんたがその子を誘拐してどうするの…」 エリ「そうね、まぁ今は仲間でもって話よ。所詮は資本主義と社会主義という相容れないイデオロギー対立を抱えた二大国…裏では敵対してて当然じゃない?
(もちろんそれだけじゃない。
この大戦が終わったら、間違いなく両国は睨み合いになる。
そんなアメリカに、核兵器なんて造らせる訳にはいけないのよ…)」
ノゾミ「ふーん、何となくわかってきたわ。でも、娘が誘拐されたくらいで核研究を止められるとは思わんよ。
(第二戦線設置に際する連合国間…
もとい米ソのいざこざ…そして戦後世界構想の大きな食い違い…
ソ連としても、いずれ敵になるアメリカに核を持たせるわけにはいかないのか…?)」
エリ「察しがいいわね。
ドイツはお勉強と芸術しか能の無い、政治の下手な国だと思ってたけど。
そういう国家の機微もわかるのね?
(貴女の言う通り、娘を人質にとったところで計画は止まらない。ニシングストンを脅し、研究データや理論計算の1部だけでも流させるのが目的よ)」
ノゾミ「いくらDr.ニシングストン主導のプロジェクトとはいえ、彼の一存では中止も何も出来ない。どうするつもりなん?(やっぱりそうか…海未ちゃん…早く…)」
エリ「止められるとは思ってないわよ。そして、私たちにはそれで十分。
(データを出来るだけ奪い、うちが先に核を完成させる…ソ連はウランも出ないし…何としてもアメリカに遅れをとるわけにはいかないのよ)」
マキ「……ぅ……ゔぁ…」
ノゾミ「っ!」
エリ「!(好機!)」プシュッ! プシュッ! プシュッ!
ノゾミ「(危なっ!………近づけない…あの銃…!どんだけ連発できるんよ…!)」 マキ「ぅ……っ!」パァン!
エリ「あっ!(掠った…何よこの子…さっき私が話しかけた時点で、もう銃は手に入れてたの…?その上であんな演技を!!)
エリ「甘く見てたわ!謝るわよ…てっきり非力なお嬢様だと思ってね!」
マキ「私はっ…守ってもらうだけじゃない…!!!」パァン パァン
ノゾミ「(やるやん?)」
エリ「多勢に無勢ね…今日は退散するわ…」タッ
マキ「飛んだ!?」
ノゾミ「…スピリチュアルやね」
マキ「………手を挙げなさい」チャキッ
ノゾミ「………あれ?」
マキ「何で仲間みたいな顔してぼーっとしてんのよ、貴女達が先に私を狙ってきたんでしょ?」
ノゾミ「いやぁ…ウチは頭脳派であって…あんまりドンパチするのは苦手というか…………」
マキ「素人に捕まる頭脳派がどこにいんのよ….」
ノゾミ「…ぁ(今日のウチ、あかんわ…)」
マキ「とにかく来なさい。家の中まで戻るわよ」
ノゾミ「…はい」 −−−−−ニシングストン邸-応接間
海未「……!」
コトリ「…………!!」
海未「……ふぅ」
コトリ「…………!!」
海未「ぁ………!?」
マキ「コトリ!!大丈夫!?!?」
海未「あ」
コトリ「おかえりなさいませ、マキお嬢様」
ノゾミ「二人とも…なんでチェスやってるん……?」
海未「この家には将棋が無かったので」
マキ「そういう問題じゃないわよ!」
海未「マキがいない限り、このメイドには何も用が無いので」
コトリ「ひっどーい、こんなに負けてる癖に」
海未「うるさいです!そもそもこのルールが悪いのです…こんな、捕虜を味方に付けずに放置しておくような…非効率的です!何を考えているのですか!この白のキングという男は!」
コトリ「日本人みたいにすぐ裏切ったりしないの一」
海未「それが闘いでしょう!」
ノゾミ「あはは、仲ええやん」
マキ「何なのよ、もう……」 ノゾミ「じゃあちょっと、一旦落ち着いて話し合おうか。その前にマキちゃん、その銃、下ろせない?」
マキ「無 理。怖いもの」
ノゾミ「そ…じゃあええわ。状況を一旦整理しような。まぁ、まずウチはドイツの人間や。目的はマキちゃんからあるものを貰いたい」
コトリ「何ですか?あるものって…」
ノゾミ「それはその時まで秘密や。で、さっきウチとマキちゃんは妙なソ連人に会った。金髪の女の」
海未「金髪のソ連人…?」
マキ「えぇ…綺麗な人だったわ」
コトリ「でも、ソ連とアメリカって同じ連合国ですよね…どうしてマキお嬢様を狙うんでしょう…?」
ノゾミ「色々あるみたいよ。ま、そもそも資本主義国と社会主義国やしね」
海未「私は日本人です。目的はマキの父親からあるデータを頂くこと」
マキ「何よ…あるものって…」
海未「そうですね…確かに、貴女の協力があれば楽かもしれません。貴女に良心があるのなら」
マキ「何よ……それ?私、自分で言うのもなんだけど、優しいわよ?」
ノゾミ「(海未ちゃん、嘘やない。ここは信じてみようや)」
海未「(賭けるか……!!)」
海未「マキ、貴女のお父さんが今何をしてるかご存知ですか?」
マキ「ロスアラモスでお仕事でしょ?何かは知らないけど……」 海未「核です」
マキ「えっ………」
海未「貴女のお父さんは核兵器を、悪魔の兵器を造っています」
マキ「……核分裂を利用し、中性子を放出。連鎖反応を引き起こし爆発的なエネルギーを放出させる…」
ノゾミ「あら、よく知ってんね」
コトリ「マキお嬢様はネイチャー(英の学術雑誌)の愛読者なので…」
マキ「そうよ、確か何年か前の号でそんな記事を読んだわ…でも、あんなもの兵器にしたら…」
ノゾミ「まさに悪夢や。爆風、熱線による破壊はもちろん言うまでもない。
それ以上の人体の破壊よ。
一瞬で死ぬならまだ救いもある。でもわずかに生き残れたとしてもドロドロになった身体に発熱、炎症、出血…そんなのが十何万、いやもしかしたら何十万人という地獄絵図が展開される」
海未「今年の5月、日本はアメリカによる原爆投下計画の情報を入手しました」
海未「私が知りたいのは、日本のどこに原爆が投下されるのか、そしてどういう現在計画はどう進行しているのか…」
マキ「…考えさせて。パパがやっている事が間違っているのはわかる。でも、貴女たちに協力して、もしその結果貴女たちの国が勝てば、パパはどうなるの?」
ノゾミ「…Dr.ニシングストンはマンハッタン計画以前にも色々な兵器の開発に携わってる。もし敗戦国になれば当然その責任はとることになるかもしれんね」
マキ「そうよね。そうでしょうね………今日は帰って。疲れたわ」 海未「え?」
マキ「何よ。話は終わったじゃない」
ノゾミ「夜逃げされたら困るし」
海未「泊まっていきます」
コトリ「御食事、用意します♪」
マキ「ゔぇえ」 ーーーーーニシングストン邸–バルコニー–深夜3:00時
マキ「……………月」
海未「好きなんですか?月」
マキ「嫌いよ。自分の光を持てない衛星なんて」
海未「……そうですか、でも、部屋の中に戻ってください。狙われたらどうするんです」
マキ「面倒ね……貴女は月、好き?」
海未「悪くないですよ。私は、月が女性でも構わないと考えています。昔はそう思わない時もありましたが…夏は夜、月の頃はさらなり。古来より、月は情趣ある美しさの象徴です。ここではどうか知りませんが…」
マキ「この国では月は見るものじゃないわ。目指すものよ。いつか、月で恋をする日が来るわ」
海未「“地球が綺麗ですね”と言うわけですね……マキには、そういう相手が?」
マキ「………いえ……いない……」
海未「というわけでも、無さそうですね」
マキ「色々あるのよ、お嬢様には」
海未「左様でございましたか、マキちゃん大お嬢様」
マキ「カラカワナイデ!」 −−−−−同時刻-ニシングストン邸-客用寝室
ノゾミ「…………この家、どこなら煙草吸っていいん?」
コトリ「バルコニーなら構いませんよ」
ノゾミ「そう……?あ、辞めとくわ。先客がおる」
コトリ「ほんとだ…そういえば、ノゾミさんの目的って結局何なんですか?」
ノゾミ「敬語じゃなくてええよ」
コトリ「そう?それで、何なの?」
ノゾミ「んー、言わなきゃいかん?」
コトリ「いかん」
ノゾミ「………まぁ、いいか。どっちにしろろ、コトリちゃんたち2人の協力があれば楽だし(2人の事は調査済みで、流してウチらが損になるような知り合いもおらんてわかってるしね)」
コトリ「…お嬢様の協力、でしょ?」
ノゾミ「いやいや、2人の、よ」
コトリ「そう……それで?」
ノゾミ「………さっきの写真、この家で言うパンケーキな、あれウチの国のなんよ」
コトリ「え、じゃああれ……」
ノゾミ「そ、ナチの兵器。原爆投下用のね」
コトリ「え……!?」 ノゾミ「でも、総統閣下は核に全然興味無いんよね…
だから全然お金もかけてくんなくて…まぁ、今のドイツは瀕死やし?
(これは内緒やで)即使えるような兵器以外は造りたくないってのはわかるんやけどねぇ」
ドイツではアメリカより一足先に核分裂のメカニズムを把握、軍需大臣アルベルト・シュペーアなどは核兵器開発に好意的であったものの、ヒトラー含むナチス上層部はこれを「ユダヤ的物理学」として軽視。十分な資金を回さなかった。
ノゾミ「そんでこないだの“ロサンゼルスの戦い”…“空パン”事件の事やね。その時試験的に、爆撃するはずやったんよ……そんな顔せんでよ……ウチら、敵国なんだからそういうこともあるやん」
コトリ「ま、そうだけど…さ…でもまぁ、失敗だったんだよね?」
ノゾミ「そうそ。コトリちゃんも知ってる通り、攻撃は失敗。
安物UFO動かして…動かせただけ。そんでここからはコトリちゃんは知らない話……一機、撃墜されたんよ」
コトリ「え……!?」
ノゾミ「それで回収、解析されてデータも取られた。
…総統閣下はわかっとらんけど、ドイツが起死回生するにはあれしかないんよ。
他に類を見ない高速飛行、世界初の実用化された、滑走路を必要としない垂直離着陸機、そして核……
その全てがアメリカに把握されれば、戦争が終わっても、永遠にドイツはアメリカに、弱みを握られっぱなし………それだけは、避けたいんよ」
コトリ「そう…それで?」 ノゾミ「あのUFO兵器のデータを解析したのはマキちゃんのお父さん、そしてそのデータは研究所の中…でも、もうそのオリジナルのデータは破壊したんよ」
コトリ「じゃあ、まだコピーが?」
ノゾミ「そーゆーこと。でもそのコピーもほとんどは壊してある…最後のデータはマキちゃん、あの子の太腿の中」
コトリ「えっ……!?」
ノゾミ「何ヶ月か前、マキちゃん結構な怪我したでしょ?」
コトリ「うん…病院行って…ちょっと縫ったの」
ノゾミ「その時、太腿ん中に。あの病院、国立病院だったんよね?」
コトリ「そう…だったね」
ノゾミ「それの回収、それがウチの目的」
コトリ「なるほどね…でも、それに協力は出来ない。私、ナチスは怖いし、あれが更に力をつけるのは嫌。それに、お嬢様を傷つけることは出来ない。私はお嬢様のメイド。絶対に守る」
ノゾミ「……そう、でも必ず任務は果たすわ。それに、コトリちゃんも過保護になりすぎんようにな」
コトリ「うん、わかってる……寝ようか。そろそろ」
ノゾミ「そやな。あっちの2人も、戻ってくるわ」
コトリ「それに、明日は………」
ノゾミ「……?」 −−−−−翌日午前12:00-ニシングストン邸-ダイニング・ルーム
コトリ「お嬢様、今日のこと覚えてますよね?」
マキ「え…何よ、何のこと?」
コトリ「知らん振りしてもダメです。ハナヨさんがいらっしゃるんですよね?」
マキ「わーかってるわよ…」
海未「ほぅ……お友達ですか、それとも…」
ノゾミ「お友達、その上の……」
マキ「うるさいわよ…そんなんじゃないわ」
コトリ「結婚する事になってるんですよ」
マキ「なってないわよ……それで、いつ来るんだっけ?それはほんとに覚えてないわ…」
コトリ「今」
マキ「ゔぇえ!今から?」
コトリ「うん」
ピンポーン
マキ「イミワカンナイ」
海未「ピンポーン」
ノゾミ「イラッシャーイ」
ハナヨ「あっ…こんにちは……」
【ハンナ・コイズミールド 米国内有数の大資本家 コイズミールド家:長女】 コトリ「お待ちしておりました」
マキ「……どーも」
コトリ「お昼にしましょう♪さ、皆テーブルについて〜」
ノゾミ「もう着いとるで〜うぉ〜旨い〜アメリカ豪華飯旨いやん〜(海未ちゃん、はしゃぎすぎやろ…)」
海未「このパン!最高です!最高です!(はしたないですよ…ノゾミ…)」
マキ「………」
ハナヨ「………あのぉ、マキちゃん、最近はどう?」
マキ「元気よ」
ハナヨ「そっか、良かった…というか、この人たちは……?」
ノゾミ「ウマイウマイ」パクパク
海未「オイシイデス!!」バクバク
マキ「居候みたいなもんよ(相変わらず…お嬢様ってのはどの子も退屈ね……)」
ハナヨ「あ…そうなんだ………」
マキ「……………」
ハナヨ「……………」
海未「(なんだか空気が悪いですね…)」
ノゾミ「(なんだか空気が悪いわぁ…)」
コトリ「なんか空気悪いよ〜二人とも大丈夫?」
海未「(貴女が言うんですか…)」
ノゾミ「(コトリちゃん…キャラぶれてへんか……?)」 ハナヨ「あの……マキさん、今度、映画でも行きませんか…?“死刑執行人もまた死す”とか、面白いって聞きましたけど…」
ノゾミ「お、ええやんええやん!行けや!行け!」
海未「映画は良いですねぇ…映画は最高です!」
マキ「うるさいわよ貴女たち……それにハナヨ、無理して私の好みに合わせてくれなくてもいいわ。そんな事されても、面白くないでしょ?」
ハナヨ「そんなこと……」
マキ「あるわよ」
ハナヨ「私は、ただ……」
ノゾミ「…これ、美味いなぁ」
海未「………はい」
マキ「ご馳走様、少し出るわ」
ハナヨ「えっ…どこに……」
マキ「どこでも良いでしょ。じゃ」スタスタ
コトリ「あっ……」
コトリ「ごめんね、ハナヨさん」
ハナヨ「いえ………」
ノゾミ「困ったやっちゃなぁ」 −−−−−ニシングストン邸-マキの部屋
マキ「退屈なのよ。せっかく、刺激のある日々になると思ったのに」
マキ「(何か刺激のある事がしたいわ……あ)」
−−−−−ニシングストン邸-ダイニング・ルーム
ハナヨ「マキちゃん、自分の部屋でしょうか……?」
コトリ「おそらくそうですね…でも…あ!」
ノゾミ「えっえっ?どうしたのいきなり走り出したりして…」
−−−−−ニシングストン邸-マキの部屋
コトリ「お嬢様!!」
海未「………いませんね」
ノゾミ「まずいわ、これは」
ハナヨ「………寒い」
コトリ「そっから外出たんだね…」
ノゾミ「あかんやん…あのソ連人なんかに見つかったら…」
ハナヨ「え?何の話?」
コトリ「とにかく、探さないと……」
海未「行きましょう、何か心当たりのあるところは?」
コトリ「うぅ…曖昧にしか…」
ノゾミ「それでもええわ、とにかく教えや」
ハナヨ「私も!一緒に探します!」
コトリ「いえ……コイズミールド家のお嬢様をこの時間、サンタモニカを無闇に歩かせるのは……ハナヨさんはここに…」
海未「いえ、人手は多い方が。コトリと一緒にいれば構わないでしょう」
ハナヨ「お願いします!」
コトリ「……わかりました、では、2時間後にまたここで」
海未「(……2時間か)」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) −−−−−カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-裏路地
マキ「こんな暗いとこ…来たことない…サンタモニカにこんなとこあったの…?(でもちょうどいいわ…私、誰も私を知らないところに来たかったんだから)」
マキ「あ……この店…NightCafe NikoNie…Nikoか…まさかね…」
−−−−−カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-ニシングストン邸前
コソッ
海未「………(皆、散りましたか)」
海未「…………(今のうちだ。マキが協力する気になるのを、待ってはいられない)」
海未「(塀から……いや、ガレージを伝ってバルコニー…からの窓か…)」
海未「よっ……ほっ……んぐぐぐ……っは!」タッ
海未「……………」カチャカチャ ドカッ! パリーン…ガチャ
海未「………(入れましたね。国家機密を保管する大邸宅の、何と警備の緩いことか)」
海未「………Dr.ニシングストン。貴方は、いえ、アメリカはどこに原爆を落とすつもりなのか…確かめさせて頂きますよ」 −−−−−カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-NightCafe NikoNie
リン「いらっしゃーい…あれ?」
ホノカ「こんな掃き溜めみたいなお店に、あんなお嬢様然とした子が……」
常連1「店長ー!お嬢様が来たよーー!」
常連2「聞いてない聞いてない、店長今酔い潰れたバカの介抱で忙しいんだから」
リン「こちらの席にどうぞー」
マキ「え、えぇ(なんかやりにくいわね…失敗だったかしら)」
常連1「ぉーう、お嬢様ァー!何かやれやぁ!」
マキ「はぁ!?何よ何かって!」
リン「あ、この人酔ってるんで気にしないで良いですよ」
マキ「良いわよ、やってやろうじゃない!……そこのピアノ弾かせなさい!」
リン「え…え…あ、別に良いですよ?」
常連2「お、なに引くの?」
マキ「…“As time goes by”よ」
ホノカ「お!良いねぇ…じゃあ私、歌うよ!」
マキ「え…!好きにすれば(どうしよう、私、誰かの歌と一緒になんてやった事ないのに…)」
ホノカ「だーいじょうぶ!私が合わせてあげるから」
マキ「えっあっ……ありがとう///」 マキ「(上手くいくわよね…)」
テテテテ テェテン…テテテンテン…テテテン テテテテ テテテテテ テンテン
テェン テテテン テンテン…
ホノカ「You must remember this…A kiss is still a kiss…A sigh is just a sigh〜♪」
マキ「(凄い…正直バーシンガーなんてと甘く見てたけど、この人は本物だ…)」
リン「いつ聞いてもホノカちゃんの歌は凄いにゃあ〜」
常連2「あの嬢ちゃんもやるね…」
常連1「おぉ!二人とも良いよぉ!」
マキ「(楽しい…!すっごい楽しい……!!)」
ホノカ「Moonlight and love songs…never out of date…Hearts full of passion, jealousy and hate…♪ 」
ニコ「…?誰よ、As time goes by なんて弾いてんの…あたし、色々思い出すから嫌なんだけど……!!!」
リン「あ、ニコちゃん。倒れた人大丈夫?」
ニコ「えぇ…それより何であいつがここに居んのよ!」
リン「あいつ?ニコちゃんあの子と知り合いなの?」
ニコ「…そうね、もう会わないつもりだったんだけど」
リン「えぇ!?ニコちゃんの恋人?」
ニコ「………そんなんじゃないわ」
リン「あ、その反応はあれだにゃーわかるにゃー」
ニコ「…………」
ホノカ「The world will always welcome lovers…As time goes by…♪」 パチパチパチ…
ニコ「…で、マキ」
マキ「………!?」
ホノカ「マキ?」
リン「この子、マキっていうのにゃ」
ニコ「何してんのよ、こんなとこで」
マキ「客よ。悪い?」
ニコ「別に勝手よ。でも、わざわざあんたのパパが交際を禁止した私なんかのとこに来て、困るのはあんたでしょって言ってるの」
ホノカ「(え…なになに?どういう関係)」
リン「(多分ニコちゃんが前言ってた子にゃ…偶然映画館であって、そっから凄く仲良くなったんだけど、その子お嬢様で、ほらニコちゃんもリンも、元はギャングの一味だし…)」
ホノカ「(マキって…もしかしてマキシナ・ニシングストン?あの大っきな家の娘じゃん…そんな別世界の子とニコちゃんが、観る映画なんて被るんだね)」
リン「(なんか色々失礼だにゃ…ま、確かに少し意外だけど。あのね“カサブランカ”って映画なんだって…)」
ホノカ「(あ、それ今の曲がテーマソングなんだよ)」
リン「(へー)」 マキ「別にニコちゃんがいると思ってきたわけじゃないわよ。自意識過剰なんじゃないの?」
ニコ「あ、そ。どうせまたお家が嫌になって出てきたんでしょうけど。これ以上暗くなんないうちに帰りなさい。いつまでも甘ったれてんじゃないわよ」
リン「ニ、ニコちゃん」
ニコ「何よリン、あんたもこの半端者になんか言ってやんなさい。親の事俗物とかなんとか言って…誰のおかげで飯を食えてると思ってんのよ」
リン「マキちゃん、何か飲む?」
マキ「ココア」
リン「はいよ!…ココアなんてあったかにゃ?」
ニコ「……あるわよ。向こうの棚に粉のやつが。5杯プラス、ミルクは少し。砂糖は入れなくていいわ」
マキ「……ニコちゃん、私…」
バタン
常連3「おー!やってるぅ?あのねぇ今からねぇ、向こうから綺麗な金髪の女が来るよぉ」
ホノカ「ありゃりゃ、こりゃ4軒目くらいかな?金髪の女の人だって、ほんとに来るのか来ないのか…」
常連3「来るよォ、ありゃロシア人、うんにゃソ連人だね…赤毛の娘を見なかったかって聞かれてね、知らないって…あれ?」
マキ「……………」ブルブル
ホノカ「マキちゃん……追われてたりする?」
マキ「迷惑はかけられない、出てくわ」
ニコ「……………ダメよ。裏口は壊れてて開かないし、表は一本道。逃げられる立地じゃないの」
ホノカ「誰なの…?その人……」
マキ「ソ連のスパイ…」
ニコ「はぁ!?あんた何したのよ!!」
マキ「なんもしてないわよ!」 ホノカ「ハイハイ、喧嘩は後々…とりあえず、マキちゃんは奥に行こ?私が控え室みたいに使ってる部屋あるから」
ニコ「それ私の部屋のことでしょ!!…もう。リン、準備出来てる?」
リン「ばっちりにゃ!」
【“リボルバー・ワイルドキャット”/リンゼイ・ホーシャム・ゾラ:“暗黒街の帝王”アル・カポネ一味元特攻隊長:使用武器:レ・マット・リボルバー/コルトM1917/コルトM1848】
常連1(ヒデコ)「さーて、行きますか!」
【ヒルダ・“デコイ”・ショー:“暗黒街の帝王”アル・カポネの元部下/偽造品造りのプロ】
常連2(フミ)「たまには暴れたいよね!」
【フランシス・ミルトン:“暗黒街の帝王”アル・カポネの元部下/無敗の喧嘩師・地下格闘王】
常連3(ミカ)「酔いも覚めちゃったしね…」
【ミシェル・カンバーランド:“暗黒街の帝王”アル・カポネの元部下/爆弾魔】
ニコ「あいつじゃない、私らが守るのはこの店よ…とりあえず準備はして、飲んでる振りしてなさい」
【“ドラムマガジン・シンデレラ”ニコラ・ヤザーランド:“暗黒街の帝王”アル・カポネ一味元幹部:使用武器:トンプソン・サブマシンガン】 ギィイ
エリ「どーも、レッドリカー貰える?」
ニコ「はいよ、そこ座ってなさい(こいつか…)」
エリ「私、ドアの側が良いんだけど?」
ニコ「じゃ、それでいいわよ(ヒデコ、反対側に付きなさい…そう、良いわ)」
エリ「変な造りの店ね…喫茶店みたい」
ニコ「禁酒法時代に建てたのよ。だから建前上はバーじゃないの」
エリ「へー、あの時代にわざわざ酒を…?もしかして、ギャングだったりして」
ニコ「下らないこと言わないで…ほら、レッドリカーよ(私たちのこと、どこまで知ってるのかしら)」
エリ「辞めとくわ…睡眠薬とか入ってたら怖いし」
ニコ「あのねぇ…客にそんな事するわけないでしょ(匂いか!?いや…まさか…)」
エリ「しそうだから言ってるんでしょー。マキちゃんのお友達、二コニーニコちゃん?」 ガタガタガタッ!!
リン「そこまでにゃ、手を挙げて背中を壁につけろ!」
エリ「あらあら…“リボルバー・ワイルドキャット”じゃない、ロシアンマフィアから聞いた事あるわ」
リン「えっ…!照れるにゃあ///」
エリ「それに“殺人サーカス”ヒフミシスターズに、何よりあの“ドラムマガジン・シンデレラ”…マキは単なる映画好きのチンピラくらいにしか思ってないわよ…
貴女程のビッグネームなのにね?笑ったわ、お嬢様と極悪ギャングが“カサブランカ”でお近づき…なんてね」
ニコ「帰りなさい。あんたに飲ませる酒は無いわ」
エリ「あら、帰してくれるの?」
ニコ「もう、足を洗ったの」 エリ「随分勝手に禊を終わらせたわね。貴女が殺した敵方ギャングは、それで生き返ったりするのかしら?貴女の捌いた麻薬で人生を壊した人は、突然真人間になるのかしら?」
エリ「ふふ…おかしいわよね。“NightCafe NikoNieの店主”?何を今更、夢みたいな事言ってるのかしら。
貴女が築き上げた死体の山は、覚めれば消える白昼夢?馬鹿、馬鹿。現実を見なさい。
貴女だってわかってるんでしょ?貴女の足は、まだ血塗れよ。
それは他人の血だけじゃない、夢を見る罪悪感が苦しくて、貴女自信が掻きむしったの……貴女は極悪人。今もそうよ、金ならあげる。お嬢様を出しなさい」
ニコ「……………(わかってるわよ、全部、全部。だからあの子と縁を切ったの。あの子の父親に言われたからじゃない、あの子といたら、私がおかしくなりそうだった)」
リン「ニコちゃんを虐めるなぁ!!」シュッ
エリ「おっと、いい蹴りね。カポエイラ?」
リン「そんだけじゃっ…!ないっ…にゃっ!」チャキッ パァン パァン
エリ「っあっぶなっ……は…?(何よ今の…両手片足でリボルバー掴んで、3つをジャグリングしながら撃った!?そんなのどんな軌道でいつ来るか全くわかんないわよ…)……くそっ!」
リン「わっ!(リンの戦法はゼロ距離密着には対応できないのにゃ…!離れてよ……!!)」
ニコ「援護!!」チャキッ バララッ!!
ヒフミ「…….」チャキッ チャキッチャキッ エリ「おっと…待って…ほら見て…お宅の猫ちゃん捕まえちゃった…あはは、この子は奥の赤毛と交換…ね?」
ニコ「……チッ…ホノカ!聞いてた!?」
ホノカ「はいはい、聞いてましたよ…でも、この部屋の鍵外からしかかけらんないでしょ(嘘だけど)ニコちゃん来てよ」
エリ「どーぞ(ほんとかしらね…ま、いいけど)」
ニコ「(マキ、良い?あんたをあいつに引き渡す振りをする。
で、その瞬間にホノカ、あんたが電気を落とすのよ。
リンは夜目が効くし、何より今はあぁだけど逆に言えばあいつを1番やれる位置取り。
野生の勘は冴えてるから、何とかやってくれるわ)」
ホノニコ「りょーかい」
ニコ「はいはい、連れてきたわよ(リン…頼むわよ)」
リン「(瞬き左右左、首を右に傾げて、左のツインテをちょっと触る…ということはあれが来れば…?)」
ニコ「……………(右の中指と薬指を折り、残りの指をピンと張る)」
リン「(あのポーズで締め…“取引・消灯”…??なんとなくわかったにゃ…?多分)」
ヒフミ「(“マキちゃんをあの女に引き渡そうとした瞬間、ホノカさんが電気を落として撹乱、夜目の効くリンさんがその隙に相手を制圧…そういうことですね…ただ心配なのは…”)」
ホノカ「(いい作戦…でも、心配なのは…)」
ニコ「(そう、唯一心配なのは…)」
「「「リン、お前は今の合図を正確に把握したのか!!(してません)」」」
リン「(リン、当時から暗号とかハンドサインとかよくわかってなかったしにゃあ)」 ホノマキ「………………」
エリ「あ、マキちゃんマキちゃんいらっしゃい。お姉さんと一緒に帰ろうねー」
ニコ「……ほら、行きなさい」
スタスタ…スタ
エリ「………………」ニヤッ
マキ「……(そろそろ?)」
ガチャン!……アレ?……ガチャン!……!?!?…ガチャンガチャン!!!
ホノカ「何これ…電気、落ちないよ…!」
ニコ「何よ……どういう事…!?」
ヒフミ「……ホノカさんが、失敗した!?」
マキ「何やってるのよ!ホノカァ!!」
リン「(ふむ。リンが作戦を把握してたかはわからんが、とりあえず先にホノカちゃんが失敗したみたいにゃ。ラッキー)」
エリ「責めないであげて…?電源対策なんて、ここに入る前にしてあるわよ」フフッ
エリ「残念ね…貴女たちは約束を破った…全員、ここで死んでもらいます」
ニコ「(何よこの迫力…この圧倒的人数差で…)」
ニコ「…勝てない……」
バタァーン!!
ハナヨ「エリーナ・アヤシェニコフ!じゅ、銃を捨てて大人しくしなさい!!」
マキ「!?ハナヨ!!」
ニコ「もう…誰よ今度は……」
ハナヨ「うわぁぁぁあ!!」パァン パァン パァン −−−−−同時刻 ニシングストン邸-Dr.ニシングストン書斎
海未「これも違う…これも違いますね……ん……(鍵……この部屋のどの鍵穴とも形状が違う…隠されてるのか、それともこの部屋ではない所に最重要機密を…?)」
海未「(見取り図、そして今までの全ての物の購入記録も手に入れてある。
この邸のことは既にインプット済み。
この邸、この邸にあるものは全て確認した…それでもマンハッタン計画についての資料はない…最初から無かった?)」
海未「(いや、そんなことはない…事前に元研究員を誘拐して自白剤を投与した時にそれは確認済みだ…
こんなことなら、警備が常につくからといってニシングストン本人を避けず、やつを誘拐すべきだったか…?)」
海未「(とにかく考えろ…発想が違う?相手はあくまで科学のプロ…情報のプロではない…
そんなやつはどうする?相手と同じ思考に、同じ精神を…)」
海未「(私はDr.ニシングストン。
国家の最重要機密プロジェクトの責任者であり、責任者である以上そのデータを管理している。
では、どこに管理しようか…やはり、自分の書斎が無難だろうか…
いや、いや、そんな所では誰かに盗み出されてしまうかもしれん…ふーむ、意外なところ、意外なところ……)」 海未「(そういえば、ノゾミが言っていた。ドイツのUFO兵器のデータは、マキちゃんの太腿に埋められていると…その発想は、どこから?他人から?かもしれない…でも、以前の経験を元にしたものだとしたら?)」
海未「(やたら催吐薬が多いと思っていた。このうちの大型犬は馬鹿だからすぐ何か飲み込んでしまうのだろうと。そうじゃない、そうじゃないのか)」
海未「わんちゃーん、ポチ、わんわん!」
海未「ほら、これねぇ、飲んで飲んで」
海未「あぁーいい子いい子、お、吐きたい?吐きたいの?良いよぉー」
犬「オエエエエ」
海未「………………当たり。やりましたね」
海未「……………」ペラペラ
海未「……早すぎましたか」
実はこの1943年11月現在、日本への原爆投下は決定していたものの具体的な投下先の都市はまだ候補地すら決まっていなかった。
日本はアメリカの原爆開発の実態を正確に把握しないまま工作員を派遣したのであった。
その為海未は当初の目的であった具体的な原爆投下先を特定することなく、マンハッタン計画の進行具合・詳細といったデータのみを獲得したのである。
海未「さて……一応私の目的は果たした訳ですが…もう日系ロス市警を演ずる必要も無いのですが…」
海未「どうしますかね…マキでも探しますか。それに、ノゾミの方の用事はまだ終わっていないようですし(落ち目のドイツに、わざわざ構って得るものもないですけど)」
海未「せめて、コトリにチェスで勝ってから帰りましょうか(ふふふ、そう簡単に勝てると思わない方がいいよ?海未ちゃあん)」 −−−−−カリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-NightCafe NikoNie
ハナヨ「うわぁぁぁあ!!!」パァン パァン パァン
ニコ「危ない!マキに当たるわよ!」
ハナヨ「………!」パァン…ピタッ
ホノカ「(最後の1発が…!!)」
ヒフミ「(電球に当たった!!)」
リン「(あれ?なんかチャンス?)」シュイッ!
エリ「ゔっ……!(対応できなかった…でも、平行な蹴りだったのが幸いしたわね、これで間合いから外れた…このまま蹴られた勢いで…!)」
リン「ねぇ!貴女の隣!!!」
ハナヨ「えっ!?私っ!!?(暗くてわかんないよ…)」
エリ「………(扉は空いたまま…逃げられるっ)」シュッ
ニコ「その辺にロウソクがあるわ、着けて」
…ボォッ
ホノカ「いない………」
リン「ちっ……」
ニコ「店に変なの呼び込むんじゃないわよ、当てつけ?」
マキ「子供みたいな難癖つけないでよ。そんなわけないでしょ」
ハナヨ「あの…お二人はどういう御関係で…?」
ニコ「……一年くらい前、仲が良かったのよ。とってもね」
ハナヨ「…!あ…なるほど……」
マキ「私は…まだ」 ニコ「ま、この子はまだ夢見てるみたいだけど。眼を覚まさせるのは、あんたの仕事。“Teenage daydreamer”なのよ」
ニコ「ハイスクールの女の子が、特に今まで大事に大事に、硬い硬い結晶の中で守られて育った“ダイヤモンドプリンセス”はそうなりがち……」
ニコ「“敷かれたレールを走る人生”上等じゃない!あんたの“レール”は、“現実”は、上等じゃないのよ!!誰しも時代と社会が敷いたレールの上を走ってるのよ…?」
ニコ「無理矢理脱線させられて、横転して…!そこで二度と立ち上がれない人だっているのよ…!!
自分で脱線する意気地も無いやつが、わがまま言うんじゃないわ…あんたのことよ、マキ。“ダイヤモンドプリンセス”」
マキ「ニコちゃん…私…」
ニコ「一方私は“ドラムマガジンシンデレラ”、硝煙と灰塵まみれの薄汚れ……あんたの隣は歩けない。あんたの肩が汚れちゃう」
マキ「気にしないわ…そんなの」
ニコ「“私と一緒にどこか遠くに”なんて、“夢みたいなこと”考えてるんじゃないでしょうね」
ニコ「やめときなさい。夢に揺れる美少女なんて、映画だけの出来事で良いわ」
ニコ「そんなこと、本当は誰だってわかるはずでしょ」 ニコ「私たちはどうあがいても、“現実に揺さぶられる”ことくらいしか出来ないし、最後に戻るのも、現実」
ニコ「あんたの“現実”はあの子…良いじゃない、ハナヨ。良家の才媛で、家庭的で、真面目で誠実。
限りなく現実的で、そして求めうる最高の相手よ。あんたみたいなわがまま娘には勿体ないくらいよ」
マキ「それでも、私は……!!」
ニコ「“夢を追いたい”って?馬鹿。いつか覚めるのよ。それが早いか遅いかだわ」
ニコ「もう寝なさい。赤毛。夜ならいくらでも夢を見ていいわ。
だけど、あんたは私みたいに前の見えない夜の世界で生きる必要は無い。
胸を張って昼の世界を生きる資格がある。夜眠って、朝起きて、また違う夢を見ればいい。あんたには戻るべき現実があるわ」
マキ「…マキよ」 ニコ「………そうだったわね。もう帰りなさい…散らかった電球、片付けないと」
ハナヨ「失礼します…おやすみなさい」
マキ「…おやすみなさい」
ホノカ「おやすみー」
リン「おやすみにゃ!」
ヒフミ「おやすみなさーい」
ガチャ…バタン
ニコ「………あの子は“夢”から覚めないと…だから、これで良いのよ」
リン「ニコちゃん、ニコちゃんは自分を、マキちゃんにとって“夢”だと言うけれど、本当にそうなのかな?リンは違うと思う」
リン「2人とも、前は長いこと仲良かったんでしょう?
それって、きっかけは“夢”みたいなものだったとしても、結局覚めなかったと言うことじゃない?」
リン「“覚めない夢”は夢じゃない。
それはもう、現実でしょう?」
ニコ「さっきも言ったはずよ…“いつかは覚める”そのいつかが、まだ来ないだけよ」
ホノカ「昔と今の恋人、その間で揺れる美少女…何だか“カサブランカ”みたいだね?」
ニコ「全っ然違うわよ!良い?あの映画は…」
ホノカ「あぁ、ごめんごめん。
でも、何となくわかったの。
どうして正反対の2人が、同じ映画を大好きになったのか」
ニコ「何よそれ…てか、私その話したっけ?」
ホノカ「だってさっき言ってた、“色々思い出すから嫌なんだけど…!!”って、マキちゃんの事でしょ?」
ホノカ「As time goes by (時が過ぎても)…だね?」 ーーーーーカリフォルニア州-ロサンゼルス郡-サンタモニカ市-ニシングストン邸
マキ「私、どうすれば良いのかしら。ニコちゃんの言うこともわかる。
つい冷たくしちゃうけど、ハナヨは優しいし、私の事を大切にしてくれている。
お金持ちだし、教養だってある。
でも、私は同じくらい、ニコちゃんにも惹かれてしまう」
海未「ニコは、自分のことを“夢”と言ったのですね。夜にしか存在できない儚いものだと」
海未「そうね….そこまでポエミーではないわ」
海未「(園田、紅潮)とにかくまぁ。けれどマキ、夢と現実…これらは容易に2分出来るものでしょうか?」
マキ「当たり前じゃない。」
海未「(園田、失笑)ふふ、浅いですね。マキ」
マキ「……」
海未「わわ、すみません。驕りました」
マキ「(どうやら海未は、自らのインテリジェンスを自慢して楽しむ可愛げを持っているらしかった。可愛い)…いいから、続けて」
海未「えぇ、では…つまり、現実も夢も、きっぱり線引きできるのかという事です。
たとえば、今マキと話している私は、本当に現実の園田海未でしょうか?
もしかしたら、まだマキは夢から覚めていない…いえ、マキそのものが誰かの夢の落とし子なのかもしれません」
マキ「ありえない、私は私。現実にいるマキシナ・ニシングストンよ。夢じゃないわ」
海未「そうでしょうか?“私は夢かもしれない”その懐疑そのもののみが、確実にあるといえると、私は思いますよ」
海未「マキ…貴女は目に見える全てが、現実だと断言できますか?」 マキ「……結局、何が言いたいのよ」
マキ「すみません、脱線しましたね。
私が言いたいのは、現実と夢に大した差はないという事。だから、どちらかを選んでも後悔しないという事です」
マキ「どちらを選ばなくても、後悔するということでは無くて?」
海未「そうとも言いますね」
マキ「あなたはどう思う?私は“夢”と“現実”どちらを選ぶべきかしら」
ノゾミ「うーん。そういえばウチな、一昨日こんな夢みたんよ」 マキ「は?夢?」
ノゾミ「ウチがホットケーキ作ってな…最初めっちゃ不安なんやけど、超上手くできるんよ。美味しかったわぁ」
マキ「え?夢の話よね?」
ノゾミ「うーん、一応ね。その、朝ご飯にホットケーキ作った夢なんよ。
そしたらめっちゃ上手くいったんよねぇ。ウチ、むかーし初めてホットケーキ作ってから、本当に不味いのしか作れたことなかってん。
絶対絶対、今回も上手くいかないと思ってたんよ。だからさっきの夢を見た時も、すごい嬉しいと同時に、寂しくもあった」
マキ「…だから何なのよ」
ノゾミ「現実が非現実的な夢に追いつくこともある、ってこと。
だから現実をつまらないと思っちゃダメ。
そして同時に、夢だからあり得ないなんて思っちゃダメ」
マキ「何よそれ、結局追いつくなら“夢”も“現実”も大差ないじゃない」
ノゾミ「そう、そうなんよ。てか、ウチ、まだ任務達成してないんやで?皆忘れとるかもしれんけど、ウチ、未だにマキちゃんの事狙っとるからな?」
マキ「知ってるわよ…それより、パンケーキ、作ってよ。みんなで食べましょう?…コトリ、明日の朝はパンケーキの用意になさい」
コトリ「はい、お嬢様」
マキ「待って…貴女は、メイドとしてでは無く…コトリはどうすれば良いと思う?」 コトリ「ずっと昔から“マキちゃん”を見てきた私はこう思うんだ…
私は、マキちゃんに沢山の質問や相談をされて、それに答えてきた。
マキちゃんは、大抵その答え通りにきてしまった。そうさせてしまった。
だから、その問いには答えない。マキちゃんが自分で、もしくは“ニシングストン家の外で”考えるべきことだと思うから。
私、メイド失格かな?マキちゃん」
マキ「いいえ、貴女は間違っていないわ。ありがとう」
次の日の朝、私たちは皆を呼んでパンケーキ・パーティをした。
私と海未はあの甘い丸の呼称を『ホットケーキ』と『パンケーキ』のどちらにするかで揉め、ノゾミとニコちゃんは『パーティ』と『パーティー』の違いについての建設的な議論をした。
コトリは嬉しそうにどんどんパンケーキを焼いて、リンちゃんは何だかハナヨと仲良くなっていた。
私と海未の議論は『表をホットケーキと呼び、裏をパンケーキとする』という結論に落ち着いた。
もちろん、ホットケーキ/パンケーキに裏表などはない。
つまり、やはりこの両者も本質的には何も変わらないのだ。“夢と現実”と同じように。 ニコ「あんたたち、よくそんな下らないことで延々と話し合ってられるわね(ニコ、嘆息)」
マキ「小さなニコちゃんには、私たちの高尚な会話がわからないのよ(ニコ、短足)」
ニコ「ちょっと…今馬鹿にしたでしょ。…まぁいいわ。
それに、そんなのわからなくても良いわよ。ホットケーキでもパンケーキでも、変わらないじゃない。表と裏で名前変えたって“それ”に表も裏もないじゃない」
マキ「そうよ。“表と裏”、一見正反対に見えるものでも、そこに本質的違いは無いわ。
表裏一体。バカと天才は紙一重よ」
ニコ「その通りよ。二つの真逆なものの間は決して超えられない何か、例えば一枚の紙によって隔ててあるの。たかが紙一枚、されど紙一枚よ。昼が夕方を挟まずに夜が存在しないように、故に昼と夜が交わることは決してあり得ないの」
マキ「私とニコちゃんの間にも、紙が挟まっているの?」
ニコ「そうよ、1枚の、でも分厚い1枚が」 −−−−−−
−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−−−
コトリ「…あれ?お嬢様は?」
ニコ「どーせまたどっか行っちゃったんじゃないの?」
ハナヨ「大丈夫かなぁ?」
リン「カヨちん!何ならリンと結婚するにゃあ!」
海未「ノゾミもいません。これはひょっとするとまずいですよ……!……車は!?」
コトリ「あ……旦那様の車が……」
海未「おそらくこっそり合鍵を作っていたんでしょう。平和ボケしていました……
(まぁ、一応枢軸国同士同じ作戦に就いた仲間なので、ノゾミが任務を達成するのは別に困らないんですけど。
ここはこういうノリで行くべきですよね?…多少心配ですし)」
ニコ「連れ去られたって事!?なんでよ…!」
コトリ「2人には言っていなかったんだけど、ノゾミちゃんってドイツのスパイなの…」
ニコ「はぁぁぁあ!?海未とノゾミはロス市警って聞いたわよ!?」
海未「それは偽装です。
マキの太腿にはドイツのUFO兵器のデータメモリが埋め込まれています。ノゾミの任務はその回収です。(まぁ、ここまで来たらもう言っても良いでしょ)」
リン「……その話が本当だとして、同じ枢軸国側の海未ちゃんがどうしてそんなに軽々とノゾミちゃんの話をするの?」
海未「鋭いですね。ただもう、日本はドイツに価値を見出していないのですよ。
敗戦色濃厚ですし。戦後の為にはアメリカに媚びを売っておくのが得策というものです」
ニコ「したたかね…まぁいいわ、とりあえず2人を探さないと…」
リン「でも、どこを…」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 海未「ノゾミは任務達成を、帰国を焦っているはずです。それに加えて、マキという大きな荷物を抱えている…………空港でしょう」
ニコ「こっから一番近い空港は…!?」
リン「ここから車で50分、ロサンゼルス国際空港だにゃ!」
コトリ「海未ちゃん!例の写真も無くなってる…!」
海未「間違いないですね、ニコ、車を出して下さい」
ニコ「わーかってるわよ!リン、ほら鍵!」
リン「はいよっ」シュタタタッ
【使用車両:1928年キャデラックタウンセダン (Cadillac townsedan) 防弾装甲仕様】
ハナヨ「あの…私も一緒に…」
海未「…」チラッ
ニコ「……あんたも来るに決まってるでしょ」
ハナヨ「ありがとうございます!」
海未「(でもまぁ素人ですからね…正直来ない方が…)」
コトリ「じゃあ、私は待ってるね?」
海未「え?(読まれた?心読まれた?)」
コトリ「マキちゃんが帰ってくる場所を、守らないといけないし」
海未「……そうですね、それが出来るのは貴女だけです」キリッ
コトリ「海未ちゃんの足でまといになりたくも無いし?」ニヤッ
海未「……………ハナヨやニコには内緒で(軽蔑されます、それはちょっと気まずいです)」
コトリ「はいはい、じゃ、いってらっしゃい」 ニコ「さ、行くわよ。リン!」
リン「久しぶりに飛ばすにゃあ!!!」
ハナヨ「ピャッ…!!まだシートベルトがァ」
海未「(酔ってきましたね、既に)」
−−−ーーカリフォルニア州-ロサンゼルス市-Lincoln Blvd/州道1号線PCH(Pacific Coast Highway)
リン「……?あれ……」
ニコ「ん?どうしたのよ」
リン「……止まる……」
ニコ「……………え」
海未「(やられましたね。ノゾミ、急拵えの計画と思いきや案外周到ですね…)」
ハナヨ「ど、どうしよう………あ、あれ!?」
エリ「あら、何してんのよ」 ニコ「はぁ!?こっちのセリフよ!」
エリ「帰るのよ、ソ連に」
海未「…任務はもう終わったのですか」
エリ「終わったっていうか、まぁ……それで何してるのよ。こんな所で止まってると道の邪魔よ?」
リン「突然止まっちゃったんだにゃ…助けて!エリちゃん!」
ハナヨ「ぇえ、でもこの人…」
エリ「別に良いわよ。乗りなさいよ」
【使用車両:マーキュリークーガー XR-7 コンバーチブル耐火特殊仕様】
ハナヨ「ノセテッテクレルノォ!?」
エリ「なんか勘違いしてるかもしれないけど、任務だから敵対してただけなのよ?それが終わった…っていうかまぁ…うん、とにかく今となっては良いのよ。
別に私、そんな冷たい女でもないし…」
ニコ「なんか腑に落ちないわ…」 −−−−−マーキュリークーガー-車内
リン「暑い……」
ハナヨ「さすがに狭いですね…」
エリ「それで、何であのドイツ人がマキを狙ったのよ」
リン「あのね、ノゾミちゃんはドイツのスパイで…」
エリ「それは知ってるわ。マキにどう狙われる理由があるのかって事よ」
海未「マキの父親は、秘密裏に撃墜されたナチの試作秘密兵器を解析、そのデータを複数のメモリに保存し、1つをマキの太腿に埋めこみました。
ノゾミは残りのメモリを全て回収し、最後の1つをマキから奪おうとしています。マキがその理由まで知っているかはわかりませんが…」
エリ「沈みゆく第三帝国号、最後の希望というわけね。それはアメリカに取られる訳には行かないでしょう。
ただ、ドイツが力を取り戻すのはうちも頂けないわ…やはり、止めた方がいいわね」
海未「まぁ、ノゾミ曰く、総統殿はそれを最後の希望と見ていないようですが」
エリ「…そんなんだから負けるのよ。当然ね」
エリ「貴女は、日本はどうするの?」
海未「負けるでしょうね。大日本帝国も沈みゆく船に同じ。
ですから今のうちにアメリカに媚を売っておこうかと思いまして」
エリ「ふーん」
この協力が功を奏したのか、後の国際軍事裁判において園田海未は一切その咎を責められることは無かった。
これにはアメリカの某研究者からの強い要望があったとか、なかったとか。 −−−−−ロサンゼルス国際空港-空き倉庫
マキ「……………」スゥ……スゥ……
ノゾミ「よく寝てるわ…すまんな、マキちゃん、ちょーっとだけ、脚にメス入れさせてもらうよ…」
ノゾミ「おぉ…スベスベや…わっかいなぁ…」サワサワ
ノゾミ「さて…そんなことはええねん…早速…太腿っちゅうても太腿のどこなのかは把握しきれてへん…適当にザクザク切って起きられても面倒やしな……」
ノゾミ「(上から押して異物感を確認するしかないか…すると…うん……やっぱり起こした方が早いな)」
マキ「……………!?…んー!んー!」モガモガ
ノゾミ「悪いけどマキちゃん、ちょーっとだけ、協力してもらうで?な?ウチがマキちゃんの太腿を圧す。その時異物感があるか教えて欲しいんよ。あったら頷く。無かったら首を振る。ええ?」
マキ「……………」ウン
ノゾミ「偉いな。嘘言ったら痛い目見るのマキちゃんやからな?そこはわかっとくんやで?」 ノゾミ「……………じゃあ、ここ」グイッ ジーッ
マキ「……………」フルフル
ノゾミ「……(本当やね)じゃ、こっち」グイッ ジーッ
マキ「……………」フルフル
ノゾミ「………(さっきより少し…でも嘘ではない。もう少しこっちか?)」グイッ ジーッ
マキ「……………」キッ!
ノゾミ「そんな目で見んでよ…終わったらすぐ帰すから…」 −−−−−ロサンゼルス国際空港ホテル
海未「ロス市警のソノダです。こちらに、先程この人物が部屋を借りませんでした?」
受付嬢「すみません、そういったことは警察の方でも…」
海未「はぁ…(“あのニシングストン家”の令嬢の身の上に関わることです。どうか)」
受付嬢「しかし………ぁ!」
ニコリン「…………」ニヤニヤ
受付嬢「!?……(“ドラムマガジンシンデレラ”と“リボルバー・ワイルドキャット”じゃない!面倒ごとはごめんよ……)いえ、そのようなお客様は…」
海未「…?そうですか、ご協力感謝します。行きますよ」
リン「はーい」
ニコ「この悪名も、捨てたもんじゃないわね」
ハナヨ「……?」
ニコ「なんでもないわ、で、どうするの?」 海未「ホテルにいなければ空港自体でしょう。どこか空き倉庫でも見つけ、中から鍵をかけ短時間稼いで作業を終わらせる。
ドイツらしくない雑なやり口ですが、ノゾミは東欧仕込みのこれを好んでやっていた覚えがあります」
−−−−−−
−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−
−−−−−−
−−−−−ロサンゼルス国際空港-警備部
海未「ロス市警です。この空港に空き倉庫は?」
警備員「3階のf-6番、地下のU-αとにIV-Ωの3つです」
海未「鍵を。…どうも、ニコとハナヨはf-6へ、私とリンはU-α、貴女はIV-Ωへお願いします」 エリ「あら、1人」
海未「1人でも平気な人間だと記憶していますが?」カキカキ
エリ「ふふ…まぁ、そうね」
ニコ「行くわよ」
ハナヨ「う…うん」
海未「リンも」 カキカキ
リン「何書いてるの?」
海未「作戦です。このウミちゃんメモを各自持ってください」
ハナヨ「(ウミちゃんメモ…)」
ニコ「(なによそれ…)」
リン「(怖)」
エリ「だっさ。まぁいいわ」
海未「……………………………」
ハナヨ「(なんとも言えないよ)」
ニコ「(ちょっと可哀想ね…)」
リン「(スパイってどいつもこいつもろくでもないにゃ)」
エリ「あ…ちょっと待って…」
ニコ「こんな時に何よ」
エリ「もしマキに会ったら伝えてくれる…?あのね……」 ーーーーーロサンゼルス国際空港−地下−第8ブロック『II -α倉庫』
リン「マキちゃん!!」
……………………。
海未「外れか…」
ーーーーーロサンゼルス国際空港−地下−第2ブロック『W−Ω格納庫』
エリ「Жалко…(残念…)」
ーーーーーロサンゼルス国際空港−3階−北棟『f−6番倉庫』
ニコ「マキ!!!」
マキ「んーーー!!ぅーー!!!」
ノゾミ「おぉっと、動かんといてな…この子、なかなかポーカーフェイスが上手やのよ…どこにあるのか……ここか?」
マキ「………」フルフル
ニコ「マキっ!!」
ノゾミ「動かんといてって。切るの、太腿だけじゃすまんよ?」
ニコ「そうだ、伝言があるの、マキ」
ハナヨ「エリさんからです…あのソ連の」
マキ「(え?何であの人が?)」
ニコ「いい、マキ………」 −−−−−−−
−−−−−−
−−−−−
エリ『 “夢”と“現実”、確かに選択しづらいわよね。じゃあ、その2つは何が違うのかしら?』
エリ『私は、“時間”だと思うのよ。
“夢”を構成するものは、経験だったり、知識だったり、必ず過去の物よね。ある意味予定調和。自分の内にあるものからしか生まれないわ。
外の世界から堅固なダイヤモンドで守られてきたお姫様が見がちなのよ。彼女たちは、内にあるもので満たされてるから。
幸せ者よね。』
エリ『じゃあ、“現実”は?確かに“現実”も過去の積み重ねよ。
殆どはそう…でも、“現実”には未来があるの。
まだ知らない、既知でなく未知の要素が。だから、“現実”には時々、“夢にも思わないこと”が起こったりするのよ』
エリ『不幸者は大抵それを願っているわ。
あぁ、いつか“夢にも思わないような”奇跡が起これば…ってね。
“夢のような生活”とは、自分の頭の中の理想がただ淡々と消費されていくという事。
“現実”に生きるなら…それはもう、予想外の連続よ。
“プリンセス”には無理かもしれないわね。でも、今までの自分を変えたいなら……まぁ、貴女に任せるわ?』
ニコ「だそうよ?」
マキ「(“夢にも思わないこと”か…)」 ノゾミ「ふーん、(あのソ連人もマキちゃんに相談されたんかな?…まぁ、今はどうでもいいけど…いやてか、なんであいつから伝言が届くんや…)じゃあここは?」グイッ
マキ「…………」フルフル
ノゾミ「(近い…?いや、わからんなぁ…)」
ニコ「…………」チラッ
ハナヨ「…………」マダデス
ノゾミ「…………ここ」グイッ
マキ「…………」フルフル
ノゾミ「(………怪しかった。今のは、嘘の目だった)」グイッ
ノゾミ「ほんとに、ここやない?」
ニコ「…………」チラッ
ハナヨ「…………」ハイ
ニコ「…………そのマキの顔、嘘よ」
マキ「!?」 ノゾミ「ほぅ……根拠は?」
ニコ「信じても信じなくてもいいわ。でも、私はあんたよりマキの事を知ってる。それだけよ」
ノゾミ「(これ以上嬲られるマキちゃんを見たくないんか…?まぁ、ウチもそろそろ飛行機の時間が丁度いい…乗りかかった船やん?賭けよ…)」
スーーーーーッ ジワァァ
マキ「!?っ……………(痛いっ……!こんなに痛いの!?)」
ニコ「(悪いわね…マキ)」
ハナヨ「(ごめんね、ごめんね)」
ノゾミ「(これか………)」グリッ
マキ「ぁっ……ぅわぁっっっ!………」
ノゾミ「はーい、回収完了…マキちゃん、ほんまにごめんな?マキちゃんの事、後は頼むわ…じゃ、御三方とも、お元気で!」タッ
ハナヨ「マキちゃん!」
マキ「ぷはぁ!はぁ…はぁ…やっと息が…」
ニコ「待たせたわね…」
マキ「ほんとよ、でもどうするの?アイツ、あのデータ持ったままドイツ帰っちゃうわよ」
ハナヨ「良いんです。これが“ウミちゃんメモ”の計画通りですから」
マキ「可愛い名前ね?」
ニコ「そ……そうね!」
ハナヨ「そうだね…そうかも」 −−−−−ロサンゼルス国際空港-発着場
ノゾミ「はぁ…はぁ…(この技術…これさえあればドイツはまた…!)」タッタッタ
ノゾミ「やっほーー!気分最高やわぁ!」
ゴオオオオオオオオオ ゴオオオオオオオオオ
ノゾミ「飛行機のおかげでいくら叫んでも聞こえへんし…叫び放題やなぁ」タッタッタ
ゴオオオオオオオオオ“パァン!”ゴオオオオオオオオオ
ノゾミ「っぅぁあっ!!!っつ!(なんや!?撃たれた!?)」バタッ
エリ「……………」
海未「良く来てくれましたね、ノゾミ」
ノゾミ「(エリ…海未ちゃん……何で!?)」
海未「確かに貴女の計画は緻密で、合理的でした。しかし、いささか合理的過ぎましたね」
海未「正直、貴女がどこで作業を進めるかというのがネックでした……そこは完全に不確定。もしかしたら私たちの選んだ3つの空き部屋でない可能性すらあった」
海未「しかし、一度居場所が確定すれば、後の貴女の行動は自ずと決まってくる……
鍵となったのは、“飛行機の出発時刻”それと“逃走経路”です」
ノゾミ「……!!」 海未「わかってきましたか?幸いこの空港は短間隔で飛行機の出る場所ではありません」
海未「その為貴女が何時に発着場に行こうとするかは把握していました…16:00発、15:45分には発着場に着いていたかったはずです」
海未「そして“逃走経路”…几帳面な貴女の事、多数の経路を用意していたはず…私たちに追われる事も想定したルートもあったはずです。撒く事を想定した複雑な…」
海未「だから私達はその可能性を潰すことにした、時間をギリギリまで引き伸ばし、“最短距離で発着場に着くルート”だけを貴女が走るようにしたんです」
ノゾミ「…………………(くそっ…こんな所で)」
エリ「そして、私たちがここに張り込んだ…“外れ”組の私たちがね。ここなら飛行機の発着音で銃声も聞こえない…急拵えの割には良い作戦だったわね」
ニコ「…………残念だったわね。私たちはあんたの計画を阻止しに行った訳じゃない、成功させたかったのよ」 マキ「そのせいで私、すごい足痛いんだけど」
ハナヨ「大丈夫?」
海未「お、無事でしたか」
エリ「良かったわね」
ニコ「悪かったわよ、マキには…じゃあ、ノゾミ、これ貰うわね」サッ
ノゾミ「あっ………(データ…)」
ニコ「ほら。持ってきなさい。データとチケット」
マキ「え………?」
海未「貴女がDr.ニシングストンの娘という事実は変わりません…今回のようなことがまたいくつあるか…わかりません」
エリ「足の療養ついでに、身隠してなさい」 ニコ「ほら行きなさい。これチケット2人分」
マキ「ニコちゃん…」
ハナヨ「いいんですか。貴女はこんな結末が、貴女の…!」
ニコ「私たちには戻るべき現実がある。それがマキにとっては貴女との未来なのよ」
ハナヨ「そう…ですか。そうですね。いえ、そうします」
ニコ「それで良いのよ。時期戦争も終わる。カンザス辺りで平和に暮らしなさい」
マキ「……いつかは帰るわ。私の家は、サンタモニカだもの」
ニコ「そう…ま、良いわ。行きなさい」
マキ「あ…でも、コトリ……」
ニコ「…………」ヒョイッ
マキ「えっ……何これ」キャッチ!!
ニコ「開けなさい…コトリからよ」
マキ「“マキお嬢様へ……”」
『マキお嬢様へお小遣い、10ドルです。ハナヨさんとの飛行機の中でのお菓子でも買って下さい。 p.s お嬢様のすることなら私、何でもわかってるんですよ?』
ニコ「こういうこと。良いメイド…いや、友人に恵まれたわね…え、何?5ドル要らないの?」
マキ「……空港で何か買っておいて。コトリへの置き土産にするわ」
海未「ほぅ……メイド孝行ですね…では、そろそろ……」
ノゾミ「待てぇ!!」
マキ「………ノゾミ」
海未「貴女の麻酔銃、ポンコツですか」
エリ「おかしいわね、日本製かしら」
海未「……………」 ノゾミ「ウチは……!ウチはまだ!!
わかっとる、わかっとるんよ、ドイツは負ける…」
ノゾミ「そして大戦全ての責任を押し付けられ“悪夢の独裁者”アドルフヒトラーを生み出した狂気の国家として語られる…二度と立ち直れないかもしれんのや…」
ノゾミ「だがあれが!UFO兵器のあの技術さえ隠し通し、更に更に進化させれば……!!世界を空から支配する…!ドイツ第四帝国の誕生や!!」 マキ「………ダメよ。貴女には気の毒だけど、ドイツはやり過ぎた。一回頭を冷やすことね。いつかきっと、やり直せる日が来るわ」
戦後ドイツは様々な国に分割管理され、もはや原型を留めないまでになる。
その後一部統合されるも、東西ドイツの二分割という悲運からは逃れられなかった。
しかし、西ドイツはやがて「奇跡の復興」を成し遂げみるみる発展。
著しい経済成長を遂げることとなる。 ノゾミ「っ………!海未ちゃんは、日本はこれで良いの!?」
海未「日本は今後、長い長い戦後を生きることになるでしょう」
海未「おそらく連合国のどこかの統制下で…しかし“下からの改革”によって近代を迎えなかった我々は、市井の人々の本気を未だ見ていません」
海未「例えその力の源泉が奴隷道徳であったとしても、日本はまた前を向けます」 ノゾミ「何なんよ…海未ちゃんまで!!………マキちゃん!動かないで!!!」チャキッ
プシュッ ドスッ
ノゾミ「うっ…」
エリ「…やめなさい。往生際、悪いわよ」
海未「……まだ隠し持っていたんですね」
マキ「というか、貴女はそもそも何で…協力してくれてる意味が良くわかんないんだけど…」 エリ「諦めたの。アメリカの核開発が進むのはもう良いわ。でもドイツの復活は困る」
エリ「(ていうか、うちの核開発結構進んでるみたいなのよね。
アメリカの開発状況も調べたけど…あんまり進んでないし…危険を侵してまで止めるリターンが無いのよ…あぁ、こんだけ調べて「必要ありませんでした」って…なんかドッと疲れたわ。私何しに来たのよ…まぁ、でも…)」 警官隊「「どうかされましたか…!」」
海未「!…ロス市警のソノダです。同じくロスのトージェル警部補が撃たれました(ちょうど良いタイミングですよ、さすが野生の勘)」
海未「彼女が犯人です。連行して下さい」
エリ「ちょっと…海未…辞めてよ…」
海未「…!馴れ馴れしく下の名前で呼ばないでください!!」
警官?「さ!行くにゃー!」
エリ「あ…そういう事…はいはい、面倒ね………」
ニコ「あんたエリと初対面よね…?なんかあったの?」
海未「………何もありませんよ……それより、ほら」 マキ「………」
ハナヨ「………」
マキ「私の事…好きだった?」
ニコ「……えぇ。だけど、ここに引き止めては置けない。私、あんたの為に自分を傷つけられるくらいには大人だけど、あんたの為にあんた自身を傷つけられるほど、大人じゃないわ」
マキ「そ…」
ニコ「“君の瞳に乾杯”(Here’s looking at you.)」
マキ「………///」
ニコ「一度言ってみたかったのよ…いい顔見れたわ。じゃあね、二人とも」 ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ニコ「(プロペラ旅客機・DC –3が、雲に消えてゆく。もう5時半だ。
朱より紅い空の色に、何かを思い出す。夢を見ていたのは私だ。見させてくれたのがあの子だ)」
海未「楽しかったですね」
ニコ「……はぁ?」
海未「場違いなセリフだと思いますか?でも私は楽しかったです。
“夢を見ているような現実”でしたよ…こんなご時世です。少しくらい、そんなものを楽しんでも誰も怒りませんよ」
ニコ「…そうね。でもあの子には、“真っ当な現実”を生きて欲しいわ」
海未「そのつもりですよ。彼女は“夢”と“現実”に揺れ、“現実”を取った。でもそれは“夢”を諦めたわけじゃない。時々、“夢にも思わないこと”が起こる。その“現実”の可能性を信じたんです」
ニコ「あんた、良いやつね」
海未「ええ。しばらくはロス市警としてサンタモニカに居ます。仲良くしましょう」
ニコ「“海未、これが私たちの友情の始まりね”」
海未「“カサブランカ”ですか?」
ニコ「……えぇ。」
ーーーーfinーーーー これに終わりです。「ダイヤモンドプリンセスの憂鬱」の勝手な解釈をしてしまいました。読んでくれた人、ありがとう。 >>83
あ、前も見てくれてましたか。
ありがとう。 乙乙、当分はあんな超大作見れないと思ってたらまさかね
いやはや流石 本格派はもっと評価されてほしいな
こういうの読みたい >>88
次はLoveless worldでやろうと思ってます >>85
>>86
>>87
堅苦しい部分も多いので、受け入れられにくいかと思っていました。
そういって頂けるとありがたいです。 次はベトナム戦争かキューバ危機か、或いは中東戦争か・・・・ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています