【SS】花火の間の恋【ちかダイ】
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大学生になって初めての夏。
長いテスト期間を終えて私は高校生の頃よりも遅い夏休みに入りました。
それでも周りの方達よりは、大分早めにテストを終えたのですけれどね。
そんな事もあって少し開放的な帰り道、外は生憎の雨でしたけど行き帰りの大半は電車でしたからそこまで苦でもありません。
急な雨で混雑した電車に揺られながら、駅構内の売店でビニール傘を買い帰路につきます。
私が今住んでるアパートは駅から歩いて10分くらいでしょうか、
立地は良い方で反対方向にスーパーもあります。
本当はアパートと駅の間にあれば帰りに寄れて便利なんですが、まぁ贅沢は言ってられませんわね。 アパートの前には大きな街路樹が数本植えてあって、今は丁度それが見えてくる距離になってきました。
その街路樹の前にアパートの門があり、中に入ると正面と裏側にそれぞれ入り口があります。
裏側は駐車場に続いてるので、車で出掛けられる方用の入り口ですね。
私は歩きなので、ほとんどそちらは使いませんが。
ダイヤ「……あら?」
そこまで来て、アパートの前に見知った人が佇んでいるのに気が付きます。
その方は、この大雨の中傘もささずに街路樹で雨宿りをしながらアパートの出入口を見つめていました。
雨宿りをしてると言っても横殴りの雨に打たれて、
随分びしょ濡れになっていましたが…… 私はその方に近付いて、たぶん人間違いではないでしょうが「まさか」という思いもあったので、恐る恐る声をかけます。
ダイヤ「ち、千歌さん?」
私がそう声をかけると、こちらを振り返りすぐさま笑顔になって、
もし尻尾でもついていようものなら、それが引きちぎれるくらい振りそうな勢いで、彼女はこちらに駆け寄ってきました。
千歌「ダイヤさーん!」
それは思わず抱きついて来そうな勢いでしたが、
自分のずぶ濡れの体に気付いたのか寸前の所で止まり私の前で静止します。
千歌「おっとっと……」
ダイヤ「…………」
千歌「えへへ、お久しぶりです!」
ダイヤ「千歌さん……」
どうしたんですか?と色々と聞きたいところでしたが、衣服を透けさせた状態の彼女を見て、先に濡れた体をどうにかしないといけないと思い立ち、
「風邪を引きますので家へ」とあげることにしました。
話はそれからでもできますからね。
〜〜〜〜〜 自分の部屋に千歌さんを連れてきて、タオルで彼女の体を拭いてあげます。
ダイヤ「まったく、こんなびしょ濡れでどういうつもりですか?」
千歌「ダイヤさんを待ってたの……」
ダイヤ「なら、傘くらいさしなさい!」
千歌「着の身着のままで来ちゃったから……」
そう言いながら彼女は軽く両手広げる。
丸腰で本当に何も持って来てはいないみたいでした。
千歌「今日から夏休みだってダイヤさんが言うから、会いたくて急いで来ちゃった……」
ダイヤ「……それでも雨宿りくらい出来たでしょう?アパートの中で待ってても良かったのに」
千歌「行き違いになっちゃったらやだもん……ここ入り口が2つあったし……」
ダイヤ「たしかにありますけど……」
私が裏口から入る場合だったら、どのみち行き違いになってた思うのですが……
まぁ、このアパートは構造が少し複雑なので勘違いしたのかもしれませんね。
防犯対策なのかは知りませんが裏側の駐車場への道は、入り口も出入り口もパッと見ただけでは気付かない作りになっていましたから。 ダイヤ「しかし……だったら、電話で待ち合わせるとか出来たでしょう……」
千歌「突然来て驚かせたかったの」
千歌さんが顔を伏せ気味にこちらを見つめてくる。
千歌「迷惑だった……?」
ダイヤ「…………」
迷惑かどうかでいえば突然何の連絡もなしに来られる事自体は大変迷惑です。
当たり前ですが。
でも、千歌さんが来たという事自体は迷惑ではなく、むしろ嬉しいと感じていました。
それは顔にも言葉にも出せませんけどね。
千歌「帰ろっか……私?」
そんな風に考え込んで、黙り込んでいると、
それを見て不安になったように彼女は言います。 ダイヤ「べ、別に帰らなくてもいいでしょう、せっかく来たんですから」
そんな事を言い出すので思わず慌てて引き留めてしまいました。
少し取り乱してしまったの軽く咳払いをして誤魔化しながら「今日はもう泊まっていきなさい」と続けます。
すると彼女は伺い立てるように聞いてくる。
千歌「……いても…いいの?」
ダイヤ「えぇ、いいですよ」
千歌「ほんと?えへへ……うれしい」
そう笑うと1歩前に出て私に抱き締めて欲しそうに近付いて来ます。
欲しそうというか、して欲しいんでしょうけどね。
でも…… ダイヤ「ほら、まずはお風呂にでも入ってきなさい」
自分から遠ざけるようにお風呂場を指差しました。
何故ならそれは出来ないから……
ダイヤ「体が冷えてますもの。貴方」
千歌「……うん、そだね」
私が遠ざけようとしたのに気付いて貴方は寂しそうにそちらに足を向ける。
でも、また笑顔に戻って冗談混じりに呟きました。
千歌「一緒に入る?」
ダイヤ「なに馬鹿なこと言ってるんですか」
千歌「ふふっ」
ダイヤ「早く入ってきなさい!それまでに洗濯と着替え用意しておきますからね」
千歌「はーい」
彼女は笑いながらお風呂に向かう。
去り際の少し儚げな顔が脳裏に焼きつきましたが、それを忘れるように私は彼女の衣服を準備しに向かいます。
〜〜〜 ダイヤ「お夕食はどうします?」
千歌「えっ?」
私のワンピースに着替えた千歌さんが首を傾ける。
ワンピースのサイズは千歌さんには少し丈が長かったみたいですが支障はありません。
私が着たら膝まであった丈が、千歌さんだとふくらはぎまである長さに変わっただけですので。
それ以外も特に問題はなさそうで上手く着こなしていました。
青いギンガムチェックにウエストには青いリボンがついていて千歌さんの髪の色によく似合っています。 ダイヤ「今日はあるもので済ませるつもりでしたから、二人分の食料はないんですよね」
千歌「そうなんだ」
ダイヤ「外食でもしますか?美味しい和食店が近くにありますけど」
千歌「外食かぁ」
ダイヤ「デリバリーでも構いませんが」
そう言って近くの飲食店が網羅された雑誌を取り出してみます。
たしかデリバリーしてくれるお店も特集としてまとめられていたはずでしたから。
でも、千歌さんは首を横に振って提案するみたいに告げてきました。
千歌「……一緒に買いに行かない?」
「雨もやんだみたいだし……」と彼女は窓の外を指差しながら。
ダイヤ「あら、本当ですわね」
これなら買い物しても傘がいらないので、手が塞がったり若干濡れたりすることもありません。 ですが、先程まで外食やデリバリーの気分になっていたので作るのが少しだけ億劫になっていました。
千歌さんが来なければ作る予定だったのですけどね。
そんな私の心情を察したのか、千歌さんはこんなことを口にします。
千歌「作るよ」
ダイヤ「はい?」
千歌「晩御飯」
ダイヤ「……千歌さんが?」
千歌「うん」
口に手をやって内緒話でもするかのように、「ダイヤさんのためにね」と告げながら。
そして「行こう?」とその手を差し出してくる。
ダイヤ「……」
まぁ、作ってくださるなら断る理由もありませんし、千歌さんの手料理も食べてみたかったのでそのお誘いには応じてみる事にしました。
ダイヤ「そうですか。では、参りましょうか」
千歌「うん」
ただ、
差し出された手は繋ぎませんでしたが。
〜〜〜〜〜 近所のスーパーに千歌さんとやって来ます。
歩いてこちらも10分くらいでしょうか?
なので大学の帰りに寄ると駅についてから家に帰るまで30分以上かかります。
だから、休日しか基本的に利用しないんですけどね。
入り口に置いてあるカートを押してかごを乗せる。
カートを押すのは私で、千歌さんはその隣を同じ歩幅で歩いていました。
千歌「ねぇダイヤさん」
ダイヤ「なんですか?」
千歌「なんか千歌達、夫婦みたいだね」
ダイヤ「そうでしょうか」
肩が触れそうで触れない。
そんな距離で並んで歩く。
それはお互いの関係性を主張するような距離感で、だから今の一言も冗談として流れていく。 千歌「なに食べたい?ダイヤさん」
ダイヤ「別に希望はありませんけど」
千歌「そっか」
彼女は店頭に並べられたオレンジを軽く撫でながら続けた。
千歌「千歌ね?料理の勉強始めたんだよ」
私の前に出てこちらを振り返る。
千歌「ダイヤさんのために」
ダイヤ「それは部屋にいる時も聞きましたよ」
千歌「そうだね。でも、何度でも言うかも」
私のためという言葉をでしょうか?
そんなに何度も言われても困るのですが、
一先ず「そうですか」と言って軽く流します。
ダイヤ「では、千歌さんの得意料理をいただきましょうかね」
私がそう言うと待ち構えていたみたいに「任せて」といい、
手際よくカートの中に材料を入れていきました。
2、3品入れたあたりで何を作るつもりなのか大体わかりましたが今は何も言わないようにします。
私も今後3日分くらいの食料をまとめ買いして、会計を済ませました。 帰りは二人なのでいつもより荷物を持つ負担が少ないのを感じ、少し新鮮な気持ちになります。
それは普段なら疲れて下を向きがちで帰っていましたが、今は真っ直ぐ前を見て歩いているからでしょうか?
こんな景色でしたっけ?と思わず呟きたくなりますが、
隣で歩いてる人にとってそれは初めて見る景色なので、
そんなことは口には出せず静かに言葉を飲み込みます。
千歌さんの方をチラリと見ると、彼女は後ろからさす夕日で前に伸びている私達の影を見ながら手を動かし、
影同士が手を繋いでるみたいにしていました。
現実の私達は繋いでいないのに、その世界の私達だけはそれを許されたみたいに二人で歩いています。
まるで恋人のように……
私はそれを見ないよう、更に目線を上げて千歌さんと静かに帰路へつきました。
〜〜〜〜〜 家についてから千歌さんに台所を任せて一時間程経ったでしょうか。
その間、私は教授から勧められた本を読んでいたのであっという間の時間でしたが、
「おまたせ〜」という言葉が聞こえて顔をあげます。
テーブルの上に出されたもの。
それを見てようやくわかりきっていた答えを口に出来ました。
ダイヤ「あら、肉じゃがですか」
千歌「うん、嫌いだった?」
ダイヤ「いいえ、好きですよ」
千歌「ほんと?よかった」
そう言って箸を手渡してくる。
渡された物は普段使ってるものではなく来客用に買ってきたものでしたが、
まぁ、ほとんど使ってないので気にせずそれを使う事とします。
受け取る時、彼女の指に浅い切り傷が出来てるのに気付きましたが何も見てないように振る舞いました。
ダイヤ「では、いただきますわ」
千歌「うん、どうぞ」
軽く手を合わせて、お芋を一欠片箸で掴みます。
掴んだ感触はホクホクとしていて、
でも煮崩れはしておらず、味も満遍なく染み渡っているのか綺麗な色に仕上がっていました。 ダイヤ「……あむ」
それを口に運ぶと、思わず唸り声を上げて感激するような……
そんな出来ではありませんでしたが、大変美味しく出来ていて十分合格ラインです。
味付けも私好みの濃すぎない味で、お芋も均一な大きさにカットされているので物によって味が違うこともありません。
千歌「美味しい?」
ダイヤ「はい、とても」
千歌「ほんと?えへへ……」
彼女は笑いながら、側に来てまた伺い立てるように聞いてくる。
千歌「ねぇ……隣座っても良い?」
ダイヤ「…………」
本当は彼女を近くに寄らせてはいけない事に気付いていました、
そうすることでお互い得する事なんてないのに。
ですが…… ダイヤ「……良いですよ」
千歌「ほんと?」
ダイヤ「えぇ……」
千歌「やった……」
ダイヤ「…………」
この笑顔が見たくなって拒めませんでした。
側に彼女を感じたくて……
今日、彼女と出会ってからずっと我慢し続けてきたのに何故でしょう。
今し方食べた、肉じゃがのせいでしょうか?
私のために作ったといっても過言ではない出来でしたから。
千歌「えへへ」
私の隣へ、肩が微かに触れる距離に座り彼女が笑う。
千歌「ねぇ」
ダイヤ「はい」
千歌「こうしてると、恋人みたいだね」
腕を組むみたいに私の手に指をかける。
ダイヤ「千歌さん」
それは拒もうと制止するけど、強引に彼女は腕へと抱きついてきた。 千歌「わかってるの……結ばれないのは」
それは今にも消え入りそうな声で……
千歌「でも、今だけは」
ダイヤ「…………」
潤んだ瞳で見つめられ、私は何も言えなくなってしまう。
千歌「ごめんね……ダイヤさん」
ダイヤ「…………」
その謝罪に適切な答えを用意できなくて、
ただ時計の針の音だけが大きく聞こえる気まずい時間。
それを誤魔化すように、彼女から目を反らして壁に掛けた時計に助けでも求めるみたいに見る。
ダイヤ「……あら」
時計なんて見ても答えは出てきませんでしたが、
その代わりか助け船でも出すような話題を時間が提供してくれていました。 ダイヤ「千歌さん……」
千歌「なに……」
ダイヤ「この部屋、花火が見えるんですよ?」
千歌「……えっ?」
ダイヤ「そろそろ始まりますわ」
照明を落として窓の方を向く、すると彼女も私の目線を追うように体の向きを整えた。
するとさっきまで響いていた、気まずい時計の音をかき消すような音がいくつも鳴り響く。
空に何輪もの花を咲かせながら。
千歌「わぁ……」
ダイヤ「綺麗ですね」
千歌「うん……」
彼女の腕を引いて自分にもたれかかせる。
その姿は先程言っていた恋人のような姿でした。
千歌「ダイヤさん……」
ダイヤ「今だけですよ」
千歌「……うん、ありがとう」
体重を全て預けるように、私の肩に頭を乗せて寄りかかってくる。
しばらくそうして夏のお花見を楽しんでいました。 千歌「……あぁ、この時間が永遠に続けばいいな」
ふいにそんな事を呟き、
彼女は空に浮かぶ花火を掴むように手を伸ばす。
千歌「この部屋だけ切り取られて、それ以外の物は全部消えてしまえばいいのに」
でもそれは掴むことが出来なくて、何もない虚空を掴むだけでした。
千歌「ねぇ……なんで一緒になれないのかな」
ダイヤ「それは……」
お互いの家のせい。
ただそれだけでした。
きっと普通の一般的な家庭に生まれていれば、成人して家を出て自由に好きな人と暮らせたんでしょう。
例え性別が同じでも。
でも、それは……
ダイヤ「私達には許されない事なのです」
千歌「わかってるよ」
千歌さんはさっきまで花火を映していた瞳に、私を映し出す。
そして、その目は潤んでいた。
千歌「でもね……」
花火の音は五月蝿すぎるほど部屋の中に響いているのに、
まるで音がなくなったみたいに千歌さんの声だけが頭に響く。
千歌「それなら、なんでちゃんとふってくれなかったの?」
それは私を糾弾するように。 千歌「そのままの関係でいましょうなんて言って……断るならちゃんと断らなきゃ…ダメだよ…」
彼女の目から静かにこぼれた雫が、夜空に咲いた花火のように私の太股で広がった。
千歌「会えない間、どんだけ寂しかったと思う?たった4ヶ月会えなかっただけでどれだけダイヤさんに焦がれたと思う?」
太股に咲いた花は、夜空に浮かぶ物と違い形を残したままで、それは消えない罪みたいに彼女の報われない悲しい気持ちを感じさせる。
千歌「それはダイヤさんが友達なんて、あやふやな距離を千歌に残したからだよ、あの時ふってくれてたら、こんなに苦しまなくて済んだのに……!」
彼女の瞳は次から次へとその花を咲かせた。
花火とは対称的な花をいくつも。
千歌「千歌が告白してきた時に、やっぱりダイヤさんはちゃんと断るべきだった……!」
一番大きな花火の音と共に彼女の叫び声が響き渡る。
千歌「ちゃんと断るべきだったんだよ!!」
ダイヤ「…………」
言い終えてからは部屋の中も外も静まり返って、まるで時間が止まったみたいな静寂が訪れる。
それは数秒の出来事でしたが、何分にも何時間にも感じられる時間でした。 ダイヤ「……なら」
その静寂を破ったのは私で、
そうすると時が動き出したみたいに外ではまたポツポツと花が咲き乱れ始めます。
ダイヤ「断って欲しかったですか?」
千歌「……っ」
ダイヤ「貴方の事なんて嫌い……そう言えば良かったのですか?」
千歌「それは……」
ダイヤ「考えられない、気持ち悪い、ありえない……そんな言葉が欲しかったんですか?」
千歌「………そうだよ」
ダイヤ「私にそんな残酷な事を言わせたくて、貴方はわざわざ告白してきたのですか?」
千歌「…………」
ダイヤ「たしかにそう答えるべきだったかもしれません。でも……なんでそれが私に言えなかったのか、貴方にはわかるでしょう?」
千歌「……っ」
咄嗟に背けようとした彼女の顔を掴んで、私しか見えないようにする。
ダイヤ「自分だけが苦しいと思ってるんですか?」
千歌「…………う…るさい」
ダイヤ「勝手に自分だけ思いを口にして、私にだけ嘘をつけと?」
千歌「……もういい、黙ってよ」
ダイヤ「貴方がそう言うなら私だって言いますよ、なんで告白なんてしてきたんですか?」
千歌「黙って……」
ダイヤ「貴方があの時、告白なんてしなければ、誰も苦しむこともなかったんです」
千歌「黙ってってば!」
ダイヤ「私も苦しかったんですよ!」 微かに震える彼女の振動を感じながら、私はずっと言わなかった気持ちを吐露する。
ダイヤ「千歌さん……好きです」
千歌「……っ」
ダイヤ「愛してますわ……貴方を」
千歌「やめて……そんな事言わないで」
ダイヤ「出来る事なら一緒になりたかった」
千歌「聞きたくない……やめてよ……」
私から逃れようとする彼女を床に押し倒して、どこにも行けないようにする。
千歌「やっ、やだ……」
そしてずっと言えなかった気持ちを言ってしまった事で、蓋が外れたみたいに次から次へと思いが溢れでてしまった。 ダイヤ「私も貴方と恋人になりたかったです」
千歌「ダイヤさん……やめて……」
ダイヤ「今日みたいに……恋人みたいに一緒に買い物へ出掛けて……」
千歌「やめてよ……」
ダイヤ「お店をまわりながら献立を考えてみて……」
千歌「やめて……」
ダイヤ「そういえば冷蔵庫何が残ってましたっけ?とパズルを埋めるみたいにお互いの記憶を探りあってみたり……」
千歌「やめてってば……」
ダイヤ「ないと思って買ってきた調味料を確認すると予備がまだいくつもあって、またやってしまいましたねと共に笑いあったり……」
千歌「やめてよ」
ダイヤ「一緒に食卓を囲んで今日あったどうでもいいことをお互いの知らない時間を少しでも埋めるみたいに話し合ったり……」
千歌「やめてって言ってるでしょ!」
ダイヤ「そんな普通の幸せを貴方と歩みたかったです」
千歌「でも、そんな普通ないんだもん!!」
ダイヤ「…………」
千歌「千歌達にはないんだもん……そんな未来……」
ダイヤ「千歌さん……」
彼女はついに声を出して泣き出す。
その声が聞こえるのは近くにいる私だけで、
だから慰めるようにキスをする。 そうすると先程まど強張っていた体は身を任せるみたいに力を無くしていき、
潤んだ瞳はもう一度とせがむように私を見上げる。
その目に魅了されて、私は今まで言わなかった言葉を口にして、彼女が求めていた事をするみたいに体に触れた。
ダイヤ「可愛いですわ……千歌さん」
千歌「えっ……」
ダイヤ「綺麗な瞳にずっと私を映し続けてください」
千歌「なに…急に……」
恥ずかしそうに顔を背けるのを阻止して、私を見つめさせる。
千歌「ダ、ダイヤ…さん……?」
頭を撫でながら何度も「可愛い」と囁き続けて、赤らんだ顔を隠そうとした手も押さえつけたままにし、じっと彼女の顔を見つめ続けた。
千歌「やめて……恥ずかしい事言わないでよ……」
体温がどんどん熱くなるのを感じる。
千歌「あっ……」
だから、服を脱がせてあげました。
最初は少し抵抗したけどワンピースを胸元まで捲ると脱ぎやすいように手を上げてくれる。
ダイヤ「千歌さん……」
少し乱れた髪を撫でてあげて、そのまま撫で下ろすように背中に手をやり下着のホックを外す。
脱がせる瞬間、また少しだけ抵抗しましたけど頬にキスするとおとなしくなり、こちらに身を委ねるように両手の力を抜いていく。 脱がした後、何も纏っていない胸にキスして優しくベットの方へと連れていきます。
彼女をベットの上に寝かせて頬を撫でる、渇いた涙の跡をなぞるように。
その次は切り傷を負った指を癒すようにキスをする。
ダイヤ「怪我したんですね」
千歌「たいしたことないよ……」
ダイヤ「ありがとうございます、とても美味しかったですよ」
千歌「なら……明日も食べたい……?」
ダイヤ「えぇ、明日も明後日も……許されるならずっと……」
千歌「ほんと……?」
ダイヤ「本当ですわ。だって私は貴方を愛していますから」
そう告げた瞬間、彼女の瞳がまた潤み始める。
ダイヤ「泣いてるんですか?」
千歌「ごめんね、悲しくないの……」
人指し指で涙を拭う。
千歌「でも、ダイヤさんにそんな事言われるなんて思ってなくて……だから、こんなに幸せなの初めてで……」
でも、その指だけでは拭いきれなくて、私は彼女の目尻にそっと口をつけた。 千歌「ダイヤさん……」
ダイヤ「はい……」
千歌「ねぇ、この夏の間だけは……一緒にいていい?」
ダイヤ「……いいですよ」
そう告げた後、今まで出来なかった埋め合わせをするみたいに二人で愛し合い続けました。
それは長い人生のうちでいえば、ほんの一瞬の出来事ですが、
求め合うみたいに抱き合った彼女の温もりも、
花火の明かりに照らされた彼女の裸体も、
互いに愛撫しながら話した他愛のない会話も、
幸せを感じれば感じるほど満たされなくなる乾いた胸中も、
今後どれだけ時が経ってもそれは鮮明に記憶されたままでしょうね。
〜〜〜 千歌「ねぇ、明日も……こんな幸せな夜にしてくれる?」
3度目の営みの最中に彼女が言う。
互いに一糸纏わぬ姿で彼女を抱き締めながら、私は「えぇ」と頷きました。
千歌「大好き……ダイヤさん……」
そういって3度目の快楽に達した彼女を愛でながら「私もですわ」とキスをする。
その後も何度も愛し合って、許されない行為を犯し続けた。
だって、どれだけ声を出してもそれは花火の音にかき消されて、私達の過ちは誰にも知られることはないのですから。
だから、この夏だけの、花火の間だけの情事を何度も繰り返した。
どれだけ望んでも一緒にはなれないのに、一生を添い遂げるような愛を二人で育み続けました。
それはいつか花火のように、儚く散っていくのに……
それでも私達は、愛し続けたのです。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています