穂乃果「身近に」
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穂乃果の部屋。
穂乃果は勉強机に向かっている。ことりはベッドに座っている。
穂乃果「……そういえば、海未ちゃん大丈夫なのかなあ?」
ことり「八度二分って言ってたから、ただの風邪かどうかも怪しいけど……」
穂乃果「今朝までは元気だったのにね」
ことり「テストまでに治るといいね」
穂乃果「うん……」 ゴトン
穂乃果「……何、今の音?」
ことり「さあ……」
穂乃果「そっちの方から聞こえたような気がするんだけど」
ことり「気のせいじゃないかな?」
穂乃果「そっか……」
穂乃果「……」カリカリ
穂乃果「……よし、できた!」
ことり「終わったの?」
穂乃果「うん。これで月曜のテストもばっちり!」
ことり「おめでとう」
穂乃果「……もう八時かー」
ことり「結構頑張ったね」
穂乃果「ふうー、ちょっと休憩ー……」ゴロン
ことり「お疲れ様」
穂乃果「……ねえ、のど乾いた?なんか飲み物持ってくるよ」
ことり「あっ、うん」 穂乃果は部屋を出た。
廊下には雪穂がいた。
雪穂「あ、お姉ちゃん。お風呂早めに入ってよ」
穂乃果「うん」
雪穂「……私、ちょっと友達のところに行ってくるから」
穂乃果「こんな時間に?」
雪穂「うん。相談があるって……直接会いたいんだって」
穂乃果「何かあったのかな?」
雪穂「なんか、お姉ちゃんがおかしくなったとか言ってたけど……」
穂乃果「おかしくなった?」
雪穂「まあ、詳しいことはわからない。とりあえず行ってくるね」
穂乃果「うん、わかった。気を付けてね」 台所。
穂乃果「え〜っと……あれ?」
母「どうしたの?」
穂乃果「お母さん、お茶は?」
母「もう無いわよ。今沸かしてる」
穂乃果「あっ、そうなの……」
母「爽健美茶ならあるけど」
穂乃果「じゃあそれでいいや」
母「……あ、それと。お母さんたち今からお通夜に行かなきゃいけないの」
穂乃果「お通夜?今から?」
母「大学の先輩が病気で亡くなったそうなの」
穂乃果「あ、そうなんだ」
母「帰り遅くなるけど、あんまり夜更かししないようにね」
穂乃果「はーい……」 母「じゃあ行ってくるから」
穂乃果「行ってらっしゃい」
母「……」スタスタ
穂乃果「……」
穂乃果はコップを二つと爽健美茶のボトルを持ち、自分の部屋へ戻った。
ガチャ
穂乃果「ことりちゃーん」
ことり「……」
穂乃果「ことりちゃん?」
ことり「あっ、穂乃果ちゃん」
穂乃果「ごめん、爽健美茶しかなかった」
ことり「ううん。大丈夫だよ」
穂乃果「……」
お茶をペットボトルからコップに注ぎ分ける。 穂乃果「お父さんとお母さん今からお通夜だって。雪穂は友達のところに行くって」
ことり「そうなんだ」
ことりはコップのお茶を一口飲んだ。
穂乃果「……何かして遊ぼうか」
ことり「うーん……二人じゃやることあんまりないね」
穂乃果「しりとりでもする?」
ことり「いいよ」
穂乃果「じゃあー……しりとり」
ことり「林檎」 「ごま」
「豆」
「めだか」
「亀」
「明太子」
「コーヒー豆」
「メラネシア」
「アイスクリーム」
「紫式部」
「ブラインドタッチ」
「チョコレート」
「トランペット」
「トースト」
「トワイライト」
「トマト」 穂乃果「と……と……また『と』かー?うーん……」
ことり「時間切れ〜」
穂乃果「ええ?そんなの聞いてないよー!」
ことり「えへへー、ことりの勝ち」
穂乃果「ずるーい」
ことり「もう一回やる?」
穂乃果「いや、うーん……違うことしようよ」
ことり「何する?」
穂乃果「うーん……」
ことり「うーん……あ、それじゃあ――」 ピロリン
穂乃果「あれ、ちょっと待って。メールだ」
穂乃果「海未ちゃんからだ」
ことり「どうしたのかな?」
穂乃果「『穂乃果。頑張って下さいね』だって」
ことり「頑張るって……何を?」
穂乃果「勉強のことじゃないかなあ?」
穂乃果「うーんと……とりあえず、『風邪は大丈夫なの?』」
穂乃果「送信っと」
ことり「……」 ピロリン
ことり「……返ってきたね」
穂乃果「『もう熱は無いです』だって」
ことり「よかったね」
穂乃果「うん」
ことり「……」
穂乃果「あ……それで、さっき何を言いかけたの?」
ことり「ああ、うん。怖い話しない?」
穂乃果「怖い話?」
ことり「そう。知ってる話でも、今考えた話でもいいけど」
穂乃果「いいね、面白そう!」
穂乃果「ことりちゃんは何か持ってるの?」
ことり「あるよ」
穂乃果「いいねー。じゃあいってみよう」
ことり「それじゃあ……」 「エリちゃんという女の子がいました」
「ある日、エリちゃんは学校に忘れ物をしてしまいました」
「もしかしたら友達が学校に残っているかもしれないので電話してみましたが、出ませんでした」
「仕方なく、夜になって学校へ戻ってきました」
「エリちゃんは暗いところが苦手なので、出来るだけ急いでいました」
「急ぎすぎたため、廊下を歩いている途中、何かに躓いてしまいました」
「でも、そんなの気にしている場合ではありません。早く忘れ物をとって帰りたいのです」
「エリちゃんはすぐに立ち上がり、忘れ物があるであろう教室へと急ぎました」
「そして、無事教室へ着きました。エリちゃんの机には、スクールバッグが置いてありました」
「よかった。忘れ物はやっぱりここにあったのね」 穂乃果「ストップ」
ことり「何?」
穂乃果「スクールバッグごと忘れたの?」
ことり「そうよ」
穂乃果「その子ポンコツすぎだよ」
ことり「そうかなあ?」
穂乃果「まあいいや。続けて」 「エリちゃんはバッグを持ってすぐに家へ帰りました」
「幸い、何事もなく家に着きました。エリちゃんは安堵しました」
「寝る前、エリちゃんは次の日の準備をしようとスクールバッグを開けました」
「中には身に覚えのない一枚の紙が入っていました。そこにはこう書いてありました」
「『遅くまで学校に残っている子は、こうなっちゃうよ』と」
「エリちゃんは、たちの悪いいたずらだ、と思いながら、紙を持ち上げました」
「すると、紙の下からは血の付いたシュシュが出てきました。しかもそれは、友達のものとよく似ていました」
「エリちゃんは怖くなってすぐに寝ました」 ことり「次の日、友達の死体が学校で発見されたというニュースを聞きました」
ことり「おわり」
穂乃果「……」
ことり「どう?」
穂乃果「なんか……」
ことり「微妙?」
穂乃果「微妙」
ことり「そっか。頑張って考えたんだけど……」
穂乃果「うーん……いや。そういうのが怖い人はいると思うけど……」
穂乃果「私はそういうのよりも、身近なところで何か起きる方が怖いかなあ」
ことり「身近……?例えば?」
穂乃果「例えば……そうだねえ――」 穂乃果「ことりちゃん!ベッドの下に誰かいる!」
ことり「ええっ!?」
ことりはびっくりしながらベッドの方を見る。
穂乃果「嘘だよー」
ことり「びっくりしたあー……」
穂乃果「ね、怖いでしょう?」
ことり「うん」
穂乃果「あとは……そうだねえ、正体不明の誰かに玄関をドンドンって叩かれる、とか」
ことり「ひゃう!」
穂乃果「あはは」
ことり「穂乃果ちゃ〜ん、怖いよー……」
穂乃果「大丈夫だよ。そんなのあり得ないもん」
ことり「そっか……」 穂乃果「……さてと……そろそろお風呂入る?」
ことり「穂乃果ちゃん、先に入っていいよ」
穂乃果「そう?じゃあお先に」
ことり「……」
穂乃果「ふんふーん」
ことり「あっ、穂乃果ちゃん。私も一つ、さっきの話みたいなの考えてみたんだ」
穂乃果「えー、なになに?」
ことり「浴槽のふたを開けたら……中から死体が!」
穂乃果「……」
ことり「どう?」
穂乃果「あのさあ……今からお風呂入るんだから……」
ことり「あー……ごめんね」 穂乃果「うー、もう怖くなってきちゃったよー……」
ことり「でも……さっき穂乃果ちゃん、そんなのあり得ないから怖くないって……」
穂乃果「それとこれとは別なんだよう」
ことり「それじゃあ穂乃果ちゃん、一緒に入る?」
穂乃果「そうだね。そうしよう!」 お風呂。
ガラッ
穂乃果「うう……やっぱりなんか怖いよ……」
ことり「そうかなあ?」
穂乃果「だって、ふたを開けたら中から死体が出てくるんでしょ?」
ことり「出てこないよ〜」
穂乃果「でも怖いよー!鏡になんか映ってたらどうする?そこの窓に真っ赤な顔した女がいたら?」
穂乃果「シャンプーし終わって目を開けたら目の前にお化けがいるとか怖すぎるよー!」
ことり「穂乃果ちゃん、自分で怖くしてるんじゃ……」
穂乃果「うわーん!」
穂乃果「ねえことりちゃん、私が頭洗ってるあいだ、見張っててよ!」
ことり「見張る?」
穂乃果「何か怖いものが出てこないように、ね?」
ことり「だ、大丈夫だと思うけど……」 穂乃果「だって怖いよー。お願い、ことりちゃん」
ことり「うん……まあ、そこまで言うなら……」
穂乃果「お願いね」
穂乃果は充分に念を押してから、シャワーのレバーをひねった。
シャアアア…
穂乃果「……」ワシャワシャ
穂乃果「ねえ、ことりちゃん。大丈夫だよね?何もいないよね?」
ことり「うん。何もいないよ」
穂乃果「うぅ……」ワシャワシャ
シャアア… できるだけ急いで頭を洗い、シャワーを止めた。
穂乃果「ふうー……ねえ、ことりちゃん」
穂乃果「……あれ?」
振り向くと、ことりがいなくなっていた。
穂乃果「こ、ことりちゃん?」
穂乃果「ちょ、ちょっと……ことりちゃん!」
穂乃果「悪ふざけはやめてよ!」
ガラッ!
穂乃果「いない……!」
穂乃果はすぐに着替え、家の中を探し始めた。 穂乃果「ど、どうなってるの……?」スタスタ
穂乃果「ことりちゃーん!」
ガラッ!
穂乃果「わっ!?」
突然玄関の扉が開いて、雪穂が帰ってきた。 雪穂「はあ、はあ、はあ……!」ドタドタ
ピシャッ!
穂乃果「どうしたの雪穂?そんなに慌てて……」
雪穂「お姉ちゃん!絶対玄関開けないで!」
穂乃果「何があったの?」
雪穂「ヤバいんだよ!」
穂乃果「え?」
雪穂「はあ、はあ……」ダッダッダッ
雪穂は階段を駆け上がって自分の部屋へ戻っていった。 穂乃果「何なの?」
ドンッ!
穂乃果「ひっ!」
玄関の扉が何者かに叩かれている。
ドン!ドンドン!
穂乃果「な、何が起こってるの!?」
穂乃果は慌てて自分の部屋に戻った。 穂乃果「ことりちゃんの荷物が……無くなってる……」
穂乃果「どこに行ったの!?」
穂乃果「……」
ピロリン
穂乃果「わっ!」
穂乃果「……メール?海未ちゃんからだ……」
『にげてください』
穂乃果「えっ?」
穂乃果「どういうこと……!?」
穂乃果「そ、そうだ!電話!」
穂乃果はことりに電話をかけた。 プルルルル…
穂乃果「……」
プルルルルルル
穂乃果「……?」
穂乃果「この部屋で鳴ってる……?」
穂乃果「どこ……?」
プルルルルル プルルルルル
穂乃果「……ベッド……?」
穂乃果は布団をめくってみる。
しかし、何もない。
穂乃果「……まさか……」 穂乃果はベッドの下を覗いた。
穂乃果「――うわあっ!」
そこには、目と口を塞がれ、縄で縛られたまま眠ることりがいた。
穂乃果「どうなってるの……?」
ことりの顔の前に携帯電話が落ちている。
穂乃果はゆっくりそれを拾い上げる。
穂乃果「嘘……どうなってるの……?」
ガチャッ
後ろで、部屋のドアが開いた音がした。
穂乃果はゆっくりと振り返った。
そこには―― 穂乃果「――みたいな、ね?」
ことり「ううー、こわーい!」
穂乃果「でしょ。うふふ」
ことり「私、お化けみたいな扱いだったけど……」
穂乃果「ああ、ごめんごめん。ついつい想像が膨らんじゃって」 ことり「……あながち間違いじゃないよね」
穂乃果「へ?」
ことり「うふふ……」
穂乃果「ちょ、ちょっと……なんでそんなもの持ってるの……?」
ことり「頑張って逃げてね、穂乃果ちゃん」 淡々とした感じが不気味さ出しててよかった
どこからが穂乃果の作り話だったかを考えるのも面白いし >>38
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