まず「今だけ」という行動パターンが人びとの間に浸透していったのには、その背景に経済的要因があったからではないか。
世界でも稀にみる連続的な高度成長を続けてきた日本経済が失速したのは、平成3年(1991年)のことだ。
いわゆる「バブル崩壊」である。これを境に日本経済は停滞期に突入する。
しかも、それは予想を超えた長期のものとなり、その後「失われた20年」と呼ばれるようになる。
安倍政権によるアベノミクスも日本経済が低迷から脱出する決定打とならず、
最近では「日本経済は今や“失われた30年”に向かいつつある」と述べる経済学者も現れる始末だ。
 この間、日本経済の沈滞を強烈に印象づける出来事があった。
それまで世界2位の地位を維持してきた日本のGDP(国内総生産)が、中国に抜かれて世界3位になってしまったことだ。
平成23年(2011年)のことである。

 省みると、バブルの崩壊までは、すなわち昭和の時代までは、人びとは「経済は無限に右肩上がりの成長を続ける」と信じ込んでいた。
このため、将来に明るい展望を持つことができた。
ところが、平成時代に入って経済の停滞が長期にわたるようになると、未来に明るい展望を持てなくなった。
むしろ、不安に襲われるようになった。これでは、人びとが「将来のことを考えてあくせくするよりも今の今を大切にしよう」という生き方に傾いていったのも当然というものだろう。